説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び製造装置

【課題】素子内の発光輝度が均一な有機EL素子を得ることができる有機EL素子の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】有機EL素子の製造に先立って、テスト蒸着により製造した素子の基板内における発光輝度分布を測定し、その結果に基づいて蒸着の際の基板位置を調整して発光層である有機層の膜厚を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイデバイスに用いられる発光素子として、エレクトロルミネッセンス素子(以下、EL素子という。)が知られている。このEL素子は、有機材料を発光層とする有機EL素子と、無機材料を発光層とする無機EL素子とに分けられる。このうち有機EL素子は、有機材料を含有する1層又は複数の層からなる有機層を陰極と陽極で挟んだ構成を有している。陰極と陽極間に電圧を印可すると、陰極からは電子が、陽極からは正孔がそれぞれ有機層に注入されて再結合し、励起子(エキシトン)が生成される。有機EL素子は、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光又は燐光)を利用した発光素子である。
【0003】
無機EL素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要であるのに対し、有機EL素子は数V〜数十V程度の電圧で発光が可能である。さらに、有機EL素子は、自己発光型であり視野角に富むこと、視認性が高いこと、薄膜型の完全固体素子であり省スペース、携帯性を高めやすいことなど、多くの利点を有することから近年特に注目されている。
【0004】
また、有機EL素子は、従来実用に供されてきた主要な光源、例えば発光ダイオードや冷陰極管などと異なり、面発光素子であることも大きな特徴である。この特性を有効に活用できる用途の一つにディスプレイ用バックライトがある。特に近年、需要の増加の著しい液晶フルカラーディスプレイのバックライトとしても好適である。このように有機EL素子をディスプレイ用バックライトとして使用する場合には、発光輝度が面内でできるだけ均一であることが求められる。
【0005】
一方、有機EL素子の製造方法としては、蒸着法、インクジェット塗布法、フレキソ印刷法などが提案されている。その中で、基板上に1層又は複数の層からなる有機層(正孔輸送層、発光層、電子輸送層など)を順次積層することが容易である等の理由により、主に蒸着法が広く用いられている。なかでも、樹脂フィルム等の可撓性の基材を用いた帯状基板をロールから繰り出し、有機層や電極を形成した後ロールに巻き取っていくようないわゆるロールツーロールと呼ばれる方法は非常に生産性が高く、特に注目されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0006】
しかし、蒸着法により有機EL素子を製造する際、発光層である有機層の膜厚が不均一となる場合があった。発光層である有機層の膜厚が不均一となると、有機EL素子の発光輝度が不均一になるため問題となる。そのため、蒸着の際に基板を回転させ基板内の膜厚を一定にする方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。また、複数の蒸着源の配置を最適化することにより基板内の膜厚を一定にするという方法も提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【特許文献1】特開2003−133068号公報
【特許文献2】特開2003−313655号公報
【特許文献3】特開2003−321767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2や特許文献3などで提案されている方法により発光層である有機層の膜厚の均一性が確保できた場合であっても、得られた有機EL素子の発光輝度が均一にならない場合があり問題となっていた。
【0008】
本発明は上記のような技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、素子内の発光輝度が均一な有機EL素子が得られる製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0010】
1. 第1電極が設けられた基板の該第1電極が設けられた面に、発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を蒸着法により形成する蒸着工程を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、前記蒸着工程に先立ち、前記基板の前記第1電極が設けられた面に、蒸着法により前記発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を形成するテスト蒸着工程と、前記テスト蒸着工程により形成された素子を発光させて、発光輝度分布を測定する輝度分布測定工程と、前記輝度分布測定工程における測定結果に基づいて、前記発光層である1層以上の有機層を蒸着するための蒸着源に対する前記有機エレクトロルミネッセンス素子を製造するための基板の相対位置を調整する基板位置調整工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0011】
2. 前記有機エレクトロルミネッセンス素子を製造するための基板は可撓性基板であり、前記基板位置調整工程は該可撓性基板を曲げて保持する工程を含むことを特徴とする1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0012】
3. ロール状に巻き取られた可撓性の帯状基板を繰り出す工程と、繰り出された帯状基板の第1電極が設けられた面に発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を蒸着法により形成する工程とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、前記帯状基板における前記発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層が形成された部分のうち少なくとも一部分を発光させて、発光輝度分布を測定する輝度分布測定工程と、前記輝度分布測定工程における測定結果に基づいて前記発光層である1層以上の有機層を蒸着するための蒸着源と前記帯状基板との相対位置を調整する基板位置調整工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0013】
4. ロール状に巻き取られた可撓性の帯状基板を繰り出す手段と、繰り出された帯状基板の第1電極が設けられた面に発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を蒸着法により形成する手段とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造装置において、前記帯状基板における前記発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層が形成された部分のうち少なくとも一部を発光させて、発光輝度分布を測定する輝度分布測定手段と、前記輝度分布測定手段による測定結果に基づいて、前記発光層である1層以上の有機層を蒸着するための蒸着源と前記帯状基板との相対位置を調整する基板位置調整手段を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、先に製造した素子の基板内における発光輝度分布の測定結果に基づいて、後から製造する素子の発光層である有機層の膜厚を調整し、電極の膜厚分布や形状などによる発光輝度分布を発光層である有機層の膜厚で補正することにより、素子内の発光輝度が均一な有機EL素子を得ることができる有機EL素子の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
上述のように、従来は発光層である有機層の膜厚が均一であっても、得られた有機EL素子の発光輝度が均一にならない場合があり問題となっていた。この原因について本発明者が鋭意検討を行った結果、有機EL素子の発光輝度は発光層である有機層の膜厚だけではなく、電極パターンの形状や電極の膜厚、有機層と電極との界面の状態などに影響されていると推定されるに至った。更に、有機EL素子の製造に先立って、テスト蒸着により製造した素子の基板内における発光輝度分布を測定し、その結果に基づいて蒸着の際の基板位置を調整して発光層である有機層の膜厚を調整することで、前記電極パターンの形状などによる発光輝度分布が有機層の膜厚で補正され、素子内の発光輝度が均一な有機EL素子を得ることができることを見いだした。
【0017】
一般に、有機EL素子の発光輝度は発光層である有機層の膜厚で変化する。一方、有機層の膜厚は蒸着源と基板の距離によって変化する。従って、有機EL素子の製造に先立って、テスト蒸着により製造した素子の発光輝度分布の測定値に基づいて蒸着源に対する基板の位置を調整することで発光輝度の均一化を図ることができる。即ち、電極パターンの形状や電極の膜厚、有機層と電極との界面の状態などにより発生する発光輝度分布を、発光層である有機層の膜厚に分布を設けて打ち消すことで、素子内の発光輝度が均一な有機EL素子を得ることができるのである。
【0018】
また、本発明の方法で製造される有機EL素子は、単一の発光層からなる単色発光素子であっても良いし、複数の発光層を備えた白色発光素子であっても良い。いずれの場合であっても、発光輝度分布の測定値に基づいて蒸着源に対する基板の位置を調整することで発光輝度の均一化を図ることができる
さらに、複数の発光層を備えた有機EL素子の場合には、発光色ごとに発光輝度の分布が異なり色ムラとして現れる場合がある。この場合も、各色ごとの発光輝度分布の測定値に基づいて対応する発光層の膜厚を調整して打ち消すことで、色ムラを解消することができる。
【0019】
以下、本発明の方法により製造される有機EL素子の構成について詳細に説明する。
【0020】
本発明の方法により製造される有機EL素子の構成の代表的な具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0021】
(i)基板/陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(ii)基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)基板/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)基板/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(v)基板/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
ここで、発光層は少なくとも1層の有機層を含み、複数の有機層を含んでいても良い。また、発光層が複数の有機層を含む場合には、非発光性の中間層を有していても良い。
【0022】
基板の材質に特に限定はなく、透明であっても不透明であってもよいが、基板側から光を取り出す場合には基板は透明であることが好ましい。透明な基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムなどを用いることができ、不透明な基板としては、アルミ、ステンレス等の金属や、不透明樹脂フィルム、各種セラミックなどを用いることができる。中でも樹脂フィルムは可撓性があることから、本発明の方法に特に適している。
【0023】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類、アートン(商品名、JSR株式会社製)或いはアペル(商品名、三井化学株式会社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0024】
また、樹脂フィルムの表面に無機材料又は有機材料からなる膜またはその両者の積層構造を有する膜からなるバリア膜が形成されたバリア性フィルムを用いても良い。この場合、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度が0.01g/m2・day・atm以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には、水蒸気透過度が10-5g/m2・day・atm以下で、かつJIS K 7126−1992に準拠した方法で測定された酸素透過度が10-3g/m2・day・atm以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0025】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素など素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素などを用いることができる。更にバリア膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を有していることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させていることが好ましい。
【0026】
バリア膜の形成方法についても特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などを用いることができる。中でも特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0027】
陽極材料は、金属、合金、電気伝導性化合物又はこれらの混合物等から適宜選択することができるが、仕事関数の大きい(4eV以上)材料が好ましい。例えば、Au等の金属や、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IZO(In23ーZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
【0028】
陽極は、これらの陽極材料の薄膜を蒸着やスパッタリング等の方法により基板上に形成した後、フォトリソグラフィー法により所望の形状の陽極パターンを形成することで作製することができる。また、陽極材料の薄膜を蒸着やスパッタリング等の方法により基板上に形成する際に、所望の形状のマスクを介して成膜を行うことで陽極パターンを形成することで作製することもできる。更に、陽極材料として有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式など湿式製膜法により作製することもできる。
【0029】
陽極を通して基板側から光を取り出す場合には、陽極の透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極のシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。陽極の膜厚は、材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で適宜選択することができる。
【0030】
一方、陰極材料は、金属、合金、電気伝導性化合物又はこれらの混合物等から適宜選択することができるが、仕事関数の小さい(4eV未満)材料が好ましい。例えば、アルミニウム、ナトリウム、ナトリウムーカリウム合金、マグネシウム、リチウム、インジウム、希土類金属等が挙げられる。更に、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、仕事関数の小さい金属と、それより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物を電極材料とすることが更に好ましい。例えば、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が挙げられる。
【0031】
陰極はこれらの陰極物質の薄膜を蒸着により形成することにより作製することができる。また、陰極のシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10〜5000nm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0032】
発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層である。発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0033】
発光層には、ホスト化合物と発光ドーパンドであるリン光性化合物が含有されることが好ましい。ホスト化合物及びリン光性化合物としては一般に有機EL素子で用いられている公知のものを使用することができる。また、公知のホスト化合物やリン光性化合物を複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、リン光性化合物を複数種用いることで、波長の異なる光を重ね合わせることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。リン光性化合物の種類、ドープ量を調整することで白色発光が可能であり、照明やバックライトへの応用もできる。
【0034】
公知のホスト化合物の具体例として、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。
【0035】
特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0036】
リン光性化合物は、上述の通り、一般に有機EL素子で用いられている公知のものを使用することができる。例えば、イリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体などを使用することができる。リン光性化合物の具体例として、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。
【0037】
国際公開第00/70655号パンフレット、特開2002−280178号公報、同2001−181616号公報、同2002−280179号公報、同2001−181617号公報、同2002−280180号公報、同2001−247859号公報、同2002−299060号公報、同2001−313178号公報、同2002−302671号公報、同2001−345183号公報、同2002−324679号公報、国際公開第02/15645号パンフレット、特開2002−332291号公報、同2002−50484号公報、同2002−332292号公報、同2002−83684号公報、特表2002−540572号公報、特開2002−117978号公報、同2002−338588号公報、同2002−170684号公報、同2002−352960号公報、国際公開第01/93642号パンフレット、特開2002−50483号公報、同2002−100476号公報、同2002−173674号公報、同2002−359082号公報、同2002−175884号公報、同2002−363552号公報、同2002−184582号公報、同2003−7469号公報、特表2002−525808号公報、特開2003−7471号公報、特表2002−525833号公報、特開2003−31366号公報、同2002−226495号公報、同2002−234894号公報、同2002−235076号公報、同2002−241751号公報、同2001−319779号公報、同2001−319780号公報、同2002−62824号公報、同2002−100474号公報、同2002−203679号公報、同2002−343572号公報、同2002−203678号公報等。
【0038】
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する材料からなる層である。正孔輸送層に用いられる材料は、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであればよく、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、導電性高分子オリゴマー、チオフェンオリゴマー等が挙げられる
正孔輸送層は上記の材料を、蒸着により成膜することにより作製することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5〜5000nm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の2種以上からなる多層構造であってもよい。
【0039】
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなる層である。電子輸送層に用いられる材料は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。また、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体を用いることもできる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0040】
電子輸送層は上記の材料を、蒸着により成膜することにより作製することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5〜5000nm程度、好ましくは5〜200nmである。この電子輸送層は上記材料の2種以上からなる多層構造であってもよい。
【0041】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有している。電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、電子と正孔の再結合確率を向上させる目的で設けられる。正孔阻止層の材料は、上述の電子輸送層に用いられる材料から必要に応じて適宜選択することができる。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報や、「有機EL素子とその工業化最前線」、エヌ・ティー・エス社、1998年11月30日、p.237に記載されている正孔阻止層を用いることができる。
【0042】
注入層とは、駆動に必要な電圧の低電圧化や発光輝度を向上させるために設けられる層のことであり、正孔注入層と電子注入層とに分けられる。注入層はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1〜5000nmの範囲が好ましい。その他、注入層については「有機EL素子とその工業化最前線」、エヌ・ティー・エス社、1998年11月30日、p.123〜166に詳細に記載されている。
【0043】
正孔注入層は、例えば特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0044】
電子注入層は、例えば特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
【0045】
本発明の一つの実施形態である製造方法の工程の概略を図1に示す。この工程は比較的小さい基板を一枚一枚処理する方式(以下、「枚葉方式」という。)による製造方法の工程である。以下、順を追って各工程を説明する。
【0046】
基板セット工程S101は、予め第1電極が設けられた基板を蒸着室に搬入し、蒸着室内の所定位置に該基板を保持する工程である。基板が搬入された後、蒸着室内は真空ポンプにより減圧され、所定の真空度に調整される。
【0047】
テスト蒸着工程S102は、セットされた基板の第1電極が設けられた面に、少なくとも1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を蒸着法により形成する工程である。作製する有機EL素子の構成に応じ、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層、陰極などの層を順次形成する。蒸着法によるこれらの層の形成は、抵抗加熱方式、電子ビーム加熱方式、間接加熱方式等、一般に広く行われている方法から材料に応じて適宜選択することができる。また、形成する全ての層を一つの蒸着室で形成してもよいし、複数の蒸着室に分けて形成してもよい。
【0048】
輝度分布測定工程S103は、テスト蒸着工程S102で形成された有機EL素子を発光させ、発光輝度分布を測定する工程である。測定の方法に特に制限はない。例えば、テスト蒸着工程S102で形成された有機EL素子を輝度分布測定室に搬送し、該輝度分布測定室内で有機EL素子を発光させ、輝度計を用いて発光輝度の測定を行うことができる。輝度計は一般に広く用いられているものを適宜使用できる。また、有機EL素子の劣化を防止するため、輝度分布測定室は不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。不活性ガスとしては、特にアルゴン又は窒素が好ましい。
【0049】
輝度分布測定工程S103において、有機EL素子を発光させるための電源は定電圧電源とすることが好ましい。有機EL素子は電流駆動型の素子であるが、後述するように輝度分布は有機層にかかる電界の強度に差が存在するために生じる。そのため、各素子の有機層にかかる電界強度を一定にする事で、より正確に輝度分布の測定をすることができる。また、電極の膜厚分布や形状などによる発光輝度分布をより正確に補正するため、作製しようとする有機EL素子が実際に使用される場合の輝度と近い輝度に発光させて発光輝度分布を測定することが好ましい。
【0050】
輝度の分布を求めるために、1つの基板につき2カ所以上で発光輝度を測定することが好ましい。1つの基板の複数箇所で発光輝度を測定するためには、輝度計の位置を固定して有機EL素子を移動させてもよいし、有機EL素子の位置を固定して、輝度計を移動させてもよい。また、輝度計と有機EL素子の双方を移動させて測定してもよい。
【0051】
基板位置調整量決定工程S104は、輝度分布測定工程S103における有機EL素子の発光輝度分布の測定結果に基づいて、発光輝度分布を補正するために必要な基板位置の調整量を決定する工程である。
【0052】
予め、発光層の膜厚と発光輝度との関係(以下、「膜厚と輝度との関係」という。)、及び蒸着源から基板までの距離と発光層の膜厚との関係(以下、「距離と膜厚との関係」という。)を調査し、この二つの関係より、蒸着源から基板までの距離と発光輝度との関係(以下、「距離と輝度との関係」という。)を求めておく。
【0053】
先ず、膜厚と輝度との関係について説明する。一定電圧下では発光層の膜厚によって発光層にかかる電界の強度が変化し、電界の強度が変化すると発光輝度が変化する。膜厚と電界の強度は反比例の関係にあるが、電界の強度と発光輝度との関係は有機EL素子の構成や材料によって異なる。そのため、膜厚と輝度との関係は、作製しようとする有機EL素子の構成や材料ごとに求めておく。実際に発光層の膜厚を変化させた複数の有機EL素子を作製し、輝度を測定することで膜厚の輝度との関係を求めておくことが好ましい。一定電圧下での一般的な、膜厚と輝度との関係の一例を図2に示す。
【0054】
次に、距離と膜厚との関係について説明する。蒸着法において、膜厚は、蒸着源と基板の距離の二乗に反比例することが知られている。距離と膜厚との関係の一例を図3に示す。
【0055】
このようにして得られた膜厚と輝度との関係及び距離と膜厚との関係より、距離と輝度との関係を求めることができる。距離と輝度との関係の一例を図4に示す。輝度分布測定工程S103における輝度分布測定の結果を、ここで得られた距離と輝度との関係に当てはめることで、発光輝度分布を補正するために必要な基板位置の調整量を決定することができる。
【0056】
基板位置調整工程S105は、予め第1電極が設けられた有機EL素子を製造するための基板を蒸着室に搬入し、基板位置調整量決定工程S104で決定された位置に該基板を保持する工程である。基板位置の調整は、例えば蒸着源に対して基板を傾けて保持することで行うことができる。また、樹脂フィルム等の可撓性基板を用いる場合には、基板を傾けるだけではなく基板を曲げることによって位置を調整することもできるため、更に高精度に発光輝度分布を補正することができる。
【0057】
蒸着工程S106は、有機EL素子を製造するための基板の第1電極が設けられた面に、少なくとも1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を蒸着法により形成する工程である。前記テスト蒸着工程S102と同様の方法で行うことができる。
【0058】
蒸着工程S106で有機EL素子を構成する全ての層が形成されると、有機EL素子は完成する。製造する有機EL素子の構成によっては、更に引き続いて有機EL素子の劣化を防止するための封止工程等を行うこともできる。また、得られた有機EL素子を用いて、輝度分布測定工程S103から蒸着工程S106までを再度繰り返すことにより、更に高精度に発光輝度分布を補正することもできる。蒸着工程S106で有機EL素子が得られる度に輝度分布測定工程S103から蒸着工程S106までを毎回繰り返してもよい。
【0059】
次に、本発明の別の実施形態であるロールツーロール方式と呼ばれる製造方法について説明する。ロールツーロール方式による工程の概略を図5に示す。
【0060】
ロールツーロール方式とは、予めロール状に巻かれた樹脂フィルム等の可撓性の帯状基板をロールから繰り出し、連続的又は間欠的に搬送しながら蒸着により有機EL素子を形成する方法である。有機EL素子を形成した後は再びロール状に巻き取っても良いし、切断してストックしても良い。このロールツーロール方式では有機EL素子の発光輝度分布の傾向がロール内で一定又は連続して変化することが多いことから、本発明の方法によって特に高い効果を得ることができる。
【0061】
このロールツーロール方式において、基板が繰り出されてから再び巻き取られるまでの間、あるいは、切断されストックされるまでの間に行われる工程をインラインの工程と呼び、有機EL素子が形成されて基板が再び巻き取られた後、あるいは基板が切断されストックされた後に行われる工程をオフラインの工程と呼ぶ。
【0062】
基板繰り出し工程S201は予めロール状に巻かれた帯状基板をロールから繰り出し、蒸着工程S202、S206が行われる領域に搬送する工程である。
【0063】
予め第1電極が設けられた基板をロール状に巻きとったものを用いてもよいし、第1電極が設けられていない基板を用いて、インラインで第1電極を形成してもよい。電極形成時の金属粉の飛散等による有機EL素子の電極間のショートを防ぐという観点からは、予め第1電極が設けられた基板を用いることが好ましい。
【0064】
また、蒸着工程S202の前にインラインで基板の洗浄工程を設けてもよい。洗浄方法に特に制限はなく、プラズマ洗浄等の乾式洗浄、超音波洗浄槽に浸漬させて洗浄した後に乾燥させる等の湿式洗浄、或いはこれら乾式洗浄と湿式洗浄を組み合わせた方法などから適宜選択できる。
【0065】
蒸着工程S202は、搬送された帯状基板の第1電極が設けられた面に、少なくとも1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を蒸着法により形成する工程である。枚葉方式の蒸着工程S107と同様の方法により行うことができる。図6に蒸着源と基板の位置関係の模式図を示す。帯状基板1の幅方向における膜厚を均一化するため、蒸着源2として蒸発材料が線状に分布している線状蒸発源を用いることが好ましい。
【0066】
輝度分布測定工程S203は、帯状基板のうち蒸着工程S202において発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層が形成された部分のうち少なくとも一部分を発光させ、発光輝度分布を測定する工程である。枚葉方式の輝度分布測定工程S103と同様の方法により行うことができる。
【0067】
基板位置調整量決定工程S204は、輝度分布測定工程S203における発光輝度分布の測定結果に基づいて、発光輝度分布を補正するために必要な基板位置の調整量を決定する工程である。枚葉方式の基板位置調整量決定工程S104と同様の方法により行うことができる。
【0068】
基板位置調整工程S205は、基板位置調整量決定工程S204で決定された調整量を基に、蒸着工程S202が行われる領域における帯状基板の基板位置を調整する工程である。図7に基板位置調整方法の模式図を示す。図7は帯状基板1と蒸着源2を帯状基板1の長手方向(搬送方向)から見た図であり、蒸着源2で蒸発した材料が帯状基板1に向かって上昇していく領域を網掛けで示している。図7Aは調整前の状態であり、帯状基板1を蒸着源2に対して水平に保持した状態、図7Bは、帯状基板1を蒸着源2に対して傾けて調整した状態、図7Cは、帯状基板1を曲げて調整した状態をそれぞれ示している。図8に基板を曲げて調整するための保持手段の一例の模式図を示す。基板引張り治具4により帯状基板1を幅方向に引っ張りながら、蒸着範囲5の外側に設けたガイド3により帯状基板1を曲げて位置を調整する。
【0069】
基板位置調整工程S205により帯状基板の基板位置が調整されると、蒸着工程S206による有機EL素子の形成が行われる。帯状基板のうち蒸着工程S206による有機EL素子の形成が完了した部分については、順次基板巻き取り工程S207に送られ再びロール状に巻き取られる。
【0070】
輝度分布測定工程S203から基板位置調整工程S205までの工程については、1本のロール状基板についてすくなくとも1回行う必要があり、ロールから繰り出された基板の先頭付近について行うことが好ましい。また、基板の所定の間隔ごとや、所定の時間ごとに繰り返し行ってもよい。
【0071】
また、蒸着工程の後にインラインで付加的な他の工程を行ってもよい。例えば、有機EL素子の劣化を防止するためのバリア膜の成膜や、保護フィルムの貼り付けなどを行うことができる。この他、インライン又はオフラインにおいて、本発明の目的を妨げない範囲で他の工程を行ってもよい。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
ガラス基板を用い、枚葉方式により有機EL素子を作製した。図9に作製した有機EL素子の構成を示す。基板11の表面に、ITOからなる陽極12、α−NPD(4,4’−bis[N−(naphthyl)−N−phenyl]−amino−biphenyl)からなる正孔輸送層13、CBP(4,4’−Dicarbazolyl−1,1’diphenyl)とIR−1の混合物からなる発光層14、BCP(2,9−dimethy−4,7−diphenyl−1,10−phenanthroline)からなる正孔阻止層15、Alq3(Tris−(8−hydroxyquinoline)aluminum)からなる電子輸送層16、フッ化リチウムからなる電子注入層17、及びアルミニウムからなる陰極18を順次積層した構成である。
【0073】
【化1】

【0074】
本実施例で使用した装置の概略図を図10に示す。基板輸送室100の周りに基板収納室101、第1蒸着室102、第2蒸着室103、受け渡し室104がそれぞれ真空バルブ111、112、113、114を介して接続されている。受け渡し室104はさらに別の真空バルブ115を介して輝度分布測定室105に接続されている。また、基板輸送室100には、基板収納室101に収納された基板を第1蒸着室102、第2蒸着室103、受け渡し室104の各室へ移動させるための基板移動装置106が設けられている。基板輸送室100、基板収納室101、第1蒸着室102、第2蒸着室103、受け渡し室104の各室は、それぞれ図示しない真空ポンプが設けられており、内部はそれぞれ所定の真空状態に保たれている。
【0075】
基板は、予めITOの薄膜(膜厚150nm)が形成されたガラス基板(NHテクノグラス社製:NA−45)を使用した。基板の寸法は75mm×75mmとした。図11に示す形状にITO膜のパターニングを行い、陽極12とした。この基板をiso−プロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥した後、UVオゾン洗浄を行った。洗浄後の基板を基板収納室101に収納した。
【0076】
第1蒸着室102と第2蒸着室103には、それぞれ抵抗加熱方式の蒸着源が設けられている。第1蒸着室102の蒸着源には、正孔輸送層13の材料であるα−NPD、発光層14のホスト化合物であるCBP、発光層14の発光ドーパンドであるIr−1、正孔阻止層15の材料であるBCP、電子輸送層16の材料であるAlq3をそれぞれタンタル製抵抗加熱ボートに入れて取り付けた。第2蒸着室103の蒸着源には、電子注入層17の材料であるフッ化リチウムをタンタル製抵抗加熱ボートに入れたものと、陰極18の材料であるアルミニウムをタングステン製抵抗加熱ボートに入れたものを取り付けた。
【0077】
第1蒸着室102と第2蒸着室103に、成膜領域を規制するステンレス鋼製長方形穴あきマスクを取り付けた。マスクは成膜寸法が50mm×50mmとなるように作製した。
【0078】
基板収納室101に収納した基板を基板移動装置106により第1蒸着室102に搬送した。第1蒸着室102の二つの蒸着源の中心位置から図12に示す基板の測定点Eまでの距離を500mmとし、二つの蒸着源の中心位置から図12に示す基板のA〜Dまでの4つの測定点までの距離が等しくなるように基板を固定した。
【0079】
真空バルブ112を閉じて第1蒸着室102を密閉し、真空ポンプによって4×10ー4Paまで減圧した。その後、α−NPDの入った抵抗加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で膜厚25nmの厚さになるように蒸着し、正孔輸送層13を形成した。
【0080】
次に、CBPを入れた抵抗加熱ボートとIr−1を入れた抵抗加熱ボートに通電して加熱し、CBPの蒸着速度とIr−1の蒸着速度の比が100:7になるように通電量を調整した上で同時に成膜を行い、膜厚30nmの発光層14を形成した。
【0081】
次いで、BCPの入った抵抗加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で厚さ10nmの正孔阻止層15を設けた。更に、Alq3の入った抵抗加熱ボートを通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で膜厚40nmの電子輸送層16を設けた。
【0082】
陽極12の上に正孔輸送層13、発光層14、正孔阻止層15及び電子輸送層16が順に積層された基板を、基板移動装置106により第2蒸着室103に搬送して固定した。搬送は、第1蒸着室102、基板輸送室100、第2蒸着室103をそれぞれ減圧して基板が大気に触れない状態のままで行った。第2蒸着室103を2×10ー4Paまで減圧した状態でフッ化リチウムを入れた抵抗加熱ボートに通電し、蒸着速度0.01nm/秒〜0.02nm/秒で膜厚0.5nmの電子注入層17を形成した。次いで、アルミニウムを入れた抵抗加熱ボートに通電し、蒸着速度1nm/秒〜2nm/秒で膜厚150nmの陰極18を形成して有機EL素子10Aを得た。
【0083】
得られた有機EL素子10Aを、大気に触れない状態のままで輝度分布測定室105に搬送した。輝度分布測定室105は残留酸素濃度1ppm以下の窒素雰囲気に保たれている。ここで有機EL素子10Aに6Vの電圧を印加して発光させ、コニカミノルタセンシング社製の輝度計(CS1000A)を用いて発光輝度分布の測定を行った。測定点は図12に示す測定点A〜Eの5カ所とした。
【0084】
測定点Aの輝度を100とした場合の各測定点の相対輝度を表1に示す(比較例1)。有機EL素子90(a)の輝度均一性は60%であった。
【0085】
輝度均一性[%]=(最小輝度[cd/m2]/最大輝度[cd/m2])×100
【0086】
【表1】

【0087】
表1に示した輝度分布測定の結果と、図13に示す予め求めておいた距離と輝度との関係から発光輝度分布を補正するために必要な基板位置の調整量を計算したところ、第1蒸着室102の二つの蒸着源の中心位置から測定点Eまでの距離は変更せずに、二つの蒸着源の中心位置から測定点C及び測定点Dまでの距離が2mm遠ざかり、測定点A及び測定点Bまでの距離よりが2mm近づくように基板を傾けることで輝度分布を補正できることが分かった。
【0088】
そこで、新たな基板を第1蒸着室102に搬送して、第1蒸着室102の二つの蒸着源の中心位置から測定点Eまでの距離を500mmとし、二つの蒸着源の中心位置から測定点C及び測定点Dまでの距離が2mm遠ざかり、測定点A及び測定点Bまでの距離よりが2mm近づくように基板を傾けて固定した。この状態で発光層13を形成した後、第2蒸着室103に搬送して電子注入層14及び陰極15を形成し、有機EL素子10Bを得た。
【0089】
得られた有機EL素子10Bの輝度分布を測定した結果を表2に示す(実施例1)。輝度均一性は80%にまで改善され、実用上十分な性能を持つ有機EL素子を得ることができた。
【0090】
【表2】

【0091】
(実施例2)
基板として厚さ100μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人・デユポン社製フィルム)(以下、「PENフィルム」という。)を用いた以外は実施例1と同様の構成及び条件で有機EL素子10Cを作製した。得られた有機EL素子10Cを輝度分布測定室105に搬送し、発光輝度分布の測定を行った。測定点Aの輝度を100とした場合の各測定点の相対輝度を表3に示す(比較例2)。有機EL素子10Cの輝度均一性は61%であった。
【0092】
【表3】

【0093】
表3に示した輝度分布測定の結果と、図13に示す予め求めておいた距離と輝度との関係から発光輝度分布を補正するために必要な基板位置の調整量を計算した。蒸着源側が凹形状となるように基板を曲げながら傾けて、第1蒸着室102の二つの蒸着源の中心位置から測定点Eまでの距離は変化させずに、測定点A及び測定点Bまでの距離を8mm近づけ、測定点C及び測定点Dまでの距離を4mm近づけることで輝度分布を補正できることが分かった。
【0094】
そこで、新たな基板を第1蒸着室102に搬送して、蒸着源側が凹形状となるように基板を曲げながら傾け、第1蒸着室102の二つの蒸着源の中心位置から各測定点までの距離を上記の通りに調整した位置で固定した。この状態で発光層13を形成した後、第2蒸着室103に搬送して電子注入層14及び陰極15を形成し、有機EL素子10Dを得た。
【0095】
得られた有機EL素子10Dの輝度分布を測定した結果を表4に示す(実施例2)。輝度均一性は92%にまで改善され、実用上十分な性能を持つ有機EL素子を得ることができた。基板を傾けるだけでなく曲げることによって位置を調整しているため、実施例1に比べても更に高い効果を得ることができた。
【0096】
【表4】

【0097】
(実施例3)
本実施例で使用したロールツーロール方式の製造装置の概略図を図14に示す。幅240mm、長さ20m、厚さ100μmのPENフィルムの表面に、図15に示す形状に陽極12としてのITO膜を形成した後、ロール状に巻き取って基板200とした。作製する有機EL素子の構成は実施例1と同じである。
【0098】
図14の装置には、基板繰り出し装置201、iso−プロピルアルコールによる超音波洗浄装置202、乾燥窒素ガスによる乾燥装置203、ゲートバルブ204、205、蒸着装置206、輝度分布測定装置207、及び基板巻き取り装置208が備わっている。また、蒸着装置206の蒸着源には、α−NPD、CBP、Ir−1、BCP、Alq3、フッ化リチウム、アルミニウムをそれぞれ抵抗加熱ボートに入れて取り付けた。
【0099】
基板繰り出し201により繰り出された基板200は、超音波洗浄装置202及び乾燥装置203により洗浄、乾燥された後、ゲートバルブ204を通って蒸着装置206に搬送される。蒸着装置206に搬送された基板に対して、実施例1と同様の条件で正孔輸送層13(α−NPD)、発光層14(CBP+Ir−1)、正孔阻止層15(BCP)、電子輸送層16(Alq3)、電子注入層17(フッ化リチウム)、陰極18(アルミニウム)を順次形成して有機EL素子20を得た。
【0100】
成膜後の基板を輝度分布測定装置207に搬送し、5列目の3つの素子と10列目の3つの素子について輝度分布を測定した。5列目の3つの素子を基板繰り出し側からみて、右から順に有機EL素子20A、20B、20Cとし、10列目の3つの素子を基板繰り出し側からみて、右から順に有機EL素子20D、20E、20Fとした。
【0101】
実施例1と同様に、各素子についてそれぞれ5カ所の発光輝度を測定し輝度均一性を計算した。また、有機EL素子20Aの5点平均輝度を基準とした各素子の5点平均輝度の相対値(素子相対輝度)を下記のように求めた。表5に結果を示す(比較例3)。
【0102】
素子相対輝度[%]=(各素子5点平均輝度[cd/m2]/素子20Aの5点平均輝度[cd/m2])×100
【0103】
【表5】

【0104】
この測定結果を基に、基板を曲げながら傾けて蒸着装置205内における基板の位置を調整した。基板位置を調整してから形成された5列目の3つの素子と10列目について輝度分布を測定した。5列目の3つの素子を基板繰り出し側からみて、右から順に有機EL素子21A、21B、21Cとし、10列目の3つの素子を基板繰り出し側からみて、右から順に有機EL素子21D、21E、21Fとした。各素子の輝度均一性と素子相対輝度を表6に示す(実施例3)。輝度均一性、素子相対輝度ともに良好な有機EL素子を得ることができた。
【0105】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の一つの実施形態である製造方法の工程の概略図
【図2】膜厚と輝度との関係の模式図
【図3】距離と膜厚との関係の模式図
【図4】距離と輝度との関係の模式図
【図5】本発明の別の実施形態である製造方法の工程の概略図
【図6】蒸着源と基板の位置関係の模式図
【図7】基板位置調整方法の模式図
【図8】基板を曲げて調整するための保持手段の一例の模式図
【図9】実施例で作製した有機EL素子の構成図
【図10】実施例1、2で使用した装置の概略図
【図11】実施例1、2のITO膜のパターニング形状を示す図
【図12】発光輝度の測定点を示す図
【図13】実施例で作製した有機EL素子の距離と輝度との関係を示す図
【図14】実施例3で使用した装置の概略図
【図15】実施例3のITO膜のパターニング形状を示す図
【符号の説明】
【0107】
1 帯状基板
2 蒸発源
3 ガイド
4 基板引張り治具
5 蒸着範囲
11 基板
12 陽極
13 正孔輸送層
14 発光層
15 正孔阻止層
16 電子輸送層
17 電子注入層
18 陰極
100 基板輸送室
101 基板収納室
102 第1蒸着室
103 第2蒸着室
104 受け渡し室
105 輝度分布測定室
106 基板移動装置
200 ロール状基板
201 基板繰り出し装置
202 超音波洗浄装置
203 乾燥装置
206 蒸着装置
207 輝度分布測定装置
208 基板巻き取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極が設けられた基板の該第1電極が設けられた面に、発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を蒸着法により形成する蒸着工程を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記蒸着工程に先立ち、
前記基板の前記第1電極が設けられた面に、蒸着法により前記発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を形成するテスト蒸着工程と、
前記テスト蒸着工程により形成された素子を発光させて、発光輝度分布を測定する輝度分布測定工程と、
前記輝度分布測定工程における測定結果に基づいて、前記発光層である1層以上の有機層を蒸着するための蒸着源に対する前記有機エレクトロルミネッセンス素子を製造するための基板の相対位置を調整する基板位置調整工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を製造するための基板は可撓性基板であり、前記基板位置調整工程は該可撓性基板を曲げて保持する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
ロール状に巻き取られた可撓性の帯状基板を繰り出す工程と、繰り出された帯状基板の第1電極が設けられた面に発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を蒸着法により形成する工程とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記帯状基板における前記発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層が形成された部分のうち少なくとも一部分を発光させて、発光輝度分布を測定する輝度分布測定工程と、
前記輝度分布測定工程における測定結果に基づいて前記発光層である1層以上の有機層を蒸着するための蒸着源と前記帯状基板との相対位置を調整する基板位置調整工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
ロール状に巻き取られた可撓性の帯状基板を繰り出す手段と、繰り出された帯状基板の第1電極が設けられた面に発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層を蒸着法により形成する手段とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造装置において、
前記帯状基板における前記発光層である1層以上の有機層と第2電極とを含む複数の層が形成された部分のうち少なくとも一部を発光させて、発光輝度分布を測定する輝度分布測定手段と、
前記輝度分布測定手段による測定結果に基づいて、前記発光層である1層以上の有機層を蒸着するための蒸着源と前記帯状基板との相対位置を調整する基板位置調整手段を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−265850(P2007−265850A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90575(P2006−90575)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】