説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】より信頼性の高い有機EL素子を提供する。
【解決手段】陽極20を備える基板10に、金属ドープMo酸化物層30を設け、表面を露出させる開口が、画素領域に相当する隔壁41を、金属ドープMo酸化物層が形成された基板上に配置する隔壁配置工程と、金属ドープMo酸化物層および隔壁の表面を親液化処理する第1の親液化工程と、金属ドープMo酸化物層および隔壁の表面上に撥液層を形成し、撥液層のうちの金属ドープMo酸化物層の表面上に形成された部位を親液化処理する第2の親液化工程と、有機層形成材料を含むインクを画素領域に供給し有機層を形成し、陰極を設ける陰極形成工程とを含み、隔壁41を、金属ドープMo酸化物層30とは異なる材料により形成し、撥液層を、隔壁の表面上に形成された部位よりも、金属ドープMo酸化物層の表面上に形成された部位のほうが、第2の親液化工程によって、より親液化される材料により形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という場合がある)の製造方法および有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、一対の電極(陽極および陰極)と、該電極間に配置された発光層とを含んで構成され、通常、基板上に所定の層を順次積層することにより形成される。有機EL素子は、電圧を印加すると陽極および陰極からそれぞれ電子および正孔が注入され、両電極から注入された電子および正孔が発光層で再結合することによって発光する。このような有機EL素子は、照明装置や表示装置に用いることができる。
【0003】
例えば表示装置では、通常、格子状の隔壁(バンクとも呼ばれる)が基板に設けられ、該隔壁により囲まれた各画素領域に各有機EL素子がそれぞれ形成されている。有機EL素子は、その特性を向上させるために、発光層とは異なる1または複数の有機層や無機層を備える。例えば発光層などの有機層は、工程の容易さから、塗布法により形成されることが通常である。具体的には有機層は、有機層を形成する材料を含むインキを各画素領域にそれぞれ供給し、さらに乾燥させることによって形成される。
【0004】
また素子特性を向上させることを目的として酸化モリブデンから成る層(以下、酸化モリブデン層という場合がある)を備える有機EL素子がある(例えば特許文献1参照)。しかしながら酸化モリブデン層は塗布法のようなウェットプロセスに対して耐性が低いので、酸化モリブデン層上に有機層などをウェットプロセスで形成すると、酸化モリブデン層が損傷を受けることになり、場合によっては酸化モリブデン層がインキに溶解してしまうことがある。このように酸化モリブデン層を構成要素の1つに備える有機EL素子では、工程が容易なウェットプロセスを行うことが困難であり、また得られる有機EL素子の発光特性および寿命特性を向上させ難いという問題がある。
【0005】
また有機層を形成する際に前述したインキが塗布される層(以下、下層という場合がある)が撥液性を示す場合、下層に塗布された塗布液が凝集し易いので、下層の表面において塗布液を均一に塗布することが困難な場合がある。また隔壁が親液性を示す場合、塗布液が隔壁内に収まらずに隔壁外にまではみ出した状態で乾燥することがあり、隔壁内において膜厚が均一な層を形成することが出来ない場合がある。そこで従来では親液性を示す下層と撥液性を示す隔壁とが設けられた基板を用いて、膜厚が均一な有機EL素子を形成している。
【0006】
下層を親液化するとともに、隔壁を撥液化する方法の1つとして、例えばCF4プラズマ処理が用いられている。無機材料から成る部材と有機材料から成る部材との両方にCF4プラズマ処理を行うと、無機材料から成る部材に比べて有機材料から成る部材の方が容易にフッ化するので、有機材料から成る部材が選択的に撥液化される。この性質を利用することによって、親液性を示す電極と撥液性を示す隔壁とが設けられた基板を実現している。具体的には、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)などの無機材料で構成される電極と、有機樹脂で構成される隔壁とが形成された基板にCF4プラズマ処理を行うことにより、電極を親液化し、隔壁を撥液化した基板を用意している(例えば特許文献2および3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−367784号公報
【特許文献2】特開2002−222695号公報
【特許文献3】特開2000−323276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような状況の下、本発明は、従来の技術とは異なる新たな方法で層形成する方法を提供し、より信頼性の高い有機EL素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、下記構成を有する有機EL素子の製造方法およびこの製造方法で作製される有機EL素子を提供する。
〔1〕基板上に形成される隔壁により囲まれた画素領域に、陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置される1または複数の有機層と、前記陽極および前記有機層との間に金属ドープモリブデン酸化物層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する方法であって、
前記陽極を備える基板を用意する工程と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層を設ける工程と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層の表面を露出させる開口が、前記画素領域に相当する領域に穿設されて成る前記隔壁を、前記金属ドープモリブデン酸化物層が形成された基板上に配置する隔壁配置工程と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層および前記隔壁の表面を親液化処理する第1の親液化工程と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層および前記隔壁の表面上に撥液層を形成する撥液層形成工程と、
前記撥液層のうちの、前記金属ドープモリブデン酸化物層の表面上に形成された部位を親液化処理する第2の親液化工程と、
前記有機層を形成する材料を含むインクを前記隔壁に囲まれた画素領域に供給し、該インクを乾燥させて前記有機層を形成する有機層形成工程と、
前記陰極を設ける陰極形成工程とを含み、
前記隔壁を、前記金属ドープモリブデン酸化物層とは異なる材料により形成し、
前記撥液層を、前記隔壁の表面上に形成された部位よりも、前記金属ドープモリブデン酸化物層の表面上に形成された部位のほうが、前記第2の親液化工程によって、より親液化される材料により形成する、
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔2〕前記隔壁の少なくとも表面部を有機材料により形成する、上記〔1〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔3〕撥液層形成工程において形成される撥液層を、フルオロアルキル基を有するシランカップリング材料を含む材料により形成する、上記〔1〕または〔2〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔4〕前記撥液層形成工程において、撥液層を形成する材料を含む塗布液を用いる塗布法により撥液層を形成する、上記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔5〕前記第1および第2の親液化工程において、紫外線オゾン処理によって親液化する、上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔6〕前記第2の親液化工程の後に、プラズマ処理を施す、上記〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔7〕前記第1および第2の親液化工程のうちの少なくとも一方の工程では、酸素プラズマ処理によって親液化し、
前記第2の親液化工程の後にプラズマ処理を施す、
上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔8〕前記プラズマ処理を、フッ素含有ガスを含む雰囲気で行う、上記〔6〕または〔7〕記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔9〕前記有機層形成工程において、前記有機層を形成する材料を含むインクをインクジェット法で画素領域に吐出し、着弾したインクを固化させて前記有機層を形成する、上記〔1〕から〔8〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔10〕前記金属ドープモリブデン酸化物層を設ける工程において、前記陽極に直接接するように金属ドープモリブデン酸化物層を設ける、上記〔1〕から〔9〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔11〕前記金属ドープモリブデン酸化物層を設ける工程において、酸化モリブデンおよびドーパント金属を同時に堆積する工程を含む、上記〔1〕から〔10〕いずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔12〕酸化モリブデンおよびドーパント金属を同時に堆積する工程の後に、当該堆積する工程により形成された層を加熱する工程をさらに含む、上記〔11〕に記載の有機エレクトロルミネッセンスの製造方法。
〔13〕基板上に設けられた隔壁により囲まれた画素領域に、
陽極と、
陰極と、
前記陽極および前記陰極の間に配置された有機層と、
前記有機層と前記陽極の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層と前記有機層との間に配置され、フルオロアルキル基を含むシランカップリング材料を用いて形成された層と、
を備える、有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔14〕前記金属ドープモリブデン酸化物層が正孔注入層である、上記〔13〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔15〕前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率が50%以上である、上記〔13〕または〔14〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔16〕前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属が、遷移金属、周期表第13族金属およびこれらの混合物からなる群より選択される、上記〔13〕から〔15〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔17〕前記金属ドープモリブデン酸化物層におけるドーパント金属がアルミニウムである、上記〔13〕から〔16〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔18〕前記金属ドープモリブデン酸化物層におけるドーパント金属の割合が、0.1〜20.0mol%である、上記〔13〕から〔17〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔19〕上記〔13〕から〔18〕のいずれか一項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子が実装された光源装置。
〔20〕上記〔13〕から〔18〕のいずれか一項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子が実装された表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属ドープモリブデン酸化物層の表面については親液性を示し、隔壁の表面については撥液性を示すように、親液性を示す領域と撥液性を示す領域とを選択的かつ簡便に形成することができる。さらに、このような手段を採用することにより、均一な膜厚の有機層を形成するとともに、金属ドープモリブデン酸化物層を備えることにより、塗布法によっても信頼性の高い有機EL素子を形成することができる。また、本発明の有機EL素子は、構造的に、無機酸化物層およびさらにその上に積層される層を塗布法により容易且つ高品質に設けることが可能であり、発光特性および寿命特性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。有機EL装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしもこの配置で製造または使用等がなされるわけではない。なお以下の説明において基板の厚み方向の一方を上または上方といい、厚み方向の他方を下または下方という場合がある。
【0012】
1.本発明の有機EL素子の製造方法
本発明の製造方法は、基板上に形成される隔壁により囲まれた画素領域に、陽極と、陰極と、陽極および陰極の間に配置される1または複数の有機層と、陽極および有機層との間に金属ドープモリブデン酸化物層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する方法である。本発明の製造方法では、少なくとも次の工程を含む。
(1)陽極を備える基板を用意する工程
(2)金属ドープモリブデン酸化物層を設ける工程
(3)金属ドープモリブデン酸化物層の表面を露出させる開口が、画素領域に相当する領域に穿設されて成る前記隔壁を、前記金属ドープモリブデン酸化物層が形成された基板上に配置する隔壁配置工程
(4)金属ドープモリブデン酸化物層および隔壁の表面を親液化処理する第1の親液化工程
(5)金属ドープモリブデン酸化物層および隔壁の表面上に撥液層を形成する撥液層形成工程
(6)撥液層のうちの、金属ドープモリブデン酸化物層の表面上に形成された部位を親液化処理する第2の親液化工程
(7)有機層を形成する材料を含むインクを隔壁に囲まれた画素領域に供給し、インクを乾燥させて有機層を形成する有機層形成工程
(8)陰極を設ける陰極形成工程
【0013】
上記(3)の工程においては、金属ドープモリブデン酸化物層とは異なる材料によって隔壁を形成する。さらに、上記(5)の工程においては、撥液層を、隔壁の表面上に形成された部位よりも、金属ドープモリブデン酸化物層の表面上に形成された部位のほうが、後に続く第2の親液化工程によって、より親液化される材料により形成する。
【0014】
下記に詳述されるように、有機EL素子は、様々な層構成、付属部材を設け得る。本発明の製造方法は、少なくとも上記(1)〜(8)の工程を含むが、さらに他の工程を付加してもよい。他の工程は、上記(1)〜(8)の工程の前後に設けてもよいし、また上記(1)〜(8)の各工程の間に介在してもよい。
【0015】
有機EL素子を構成する薄膜の層を、設計通りに形成することは必ずしも容易ではない。しかし、本発明の製造方法では、金属ドープモリブデン酸化物層を設けることにより、その後のウェットプロセスによる層形成を容易に進行させることができる。
【0016】
また、本発明の製造方法では、隔壁を、金属ドープモリブデン酸化物層とは異なる材料で形成し、上記(5)で設ける撥液層を、隔壁の表面上に形成された部位よりも、金属ドープモリブデン酸化物層の表面に形成された部位のほうが、後に続く第2の親液化工程によって、より親液化される材料で形成する。そして、上記(6)の第2の親液化工程において、第1電極と前記隔壁の材料の相異により撥液層表面の親液化の程度に差異を生じさせる親液化処理を施す。このように、金属ドープモリブデン酸化物層と隔壁の双方に同材料で撥液層を設けながらも、接触している層の材料の相異により、撥液性を変化させる。このようにして、撥液性の異なる複数の材料を別々に塗り分けることなく、所望の領域ごとに親液性または撥液性を調整し得る。
【0017】
以上にように簡便な手段により、歩留まり良く信頼性の高い有機EL素子を製造し得る。
【0018】
1.1.製造方法の第1の実施形態
図1−1から図1−3は、本発明の一実施形態の有機EL素子の製造方法の各工程ステップS(a)からステップS(l)を模式的に示す図である。
まず図1−1のステップS(a)に示すように、基板10の上に、第1の電極として陽極20が設けられた基板を用意する。基板10としては、後述する有機EL素子を製造する各工程において変化しないものが好適に用いられ、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、およびシリコン基板、並びにこれらを積層したものなどを用い得る。
【0019】
陽極20を構成する材料については後に詳説するが、陽極20は、例えばインジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)などの透明導電性材料、金属材料、金属酸化物材料などによって構成される。このような無機材料を用いる場合、陽極20は、例えばスパッタリング法、蒸着法などによって基板の表面上において所定の形状に形成し得る。なお、陽極20が付設された基板10を購入してきてもよい。
【0020】
次にステップS(b)において、陽極20が設けられた基板10に金属ドープモリブデン酸化物層30を設ける。図1−1においては、金属ドープモリブデン酸化物層30は、陽極20が設けられた基板10の全体を覆って設けられているが、少なくとも陽極20の表面全体を覆うよう設けられてもよい。
【0021】
金属ドープモリブデン酸化物層30を成膜する方法は特に限定されないが、陽極20が設けられた基板10上に、酸化モリブデンおよびドーパント金属を同時に堆積することにより金属ドープモリブデン酸化物層30を成膜する方法が好ましい。なお、陽極20と金属ドープモリブデン酸化物層30との間に、他の層を介在させてもよく、その場合には、前記他の層を覆うように金属ドープモリブデン酸化物層30を形成する。
【0022】
金属ドープモリブデン酸化物層30を形成する材料の堆積は、真空蒸着、分子線蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティング、イオンビーム蒸着等の方法により行うことができる。成膜チャンバー内にプラズマを導入することによって、反応性や成膜性を向上させたプラズマアシスト真空蒸着法なども採用し得る。真空蒸着法の蒸発源としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザビーム加熱などが挙げられる。より簡便な方法として、好ましくは、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱などが挙げられる。スパッタ法にはDCスパッタ法、RFスパッタ法、ECRスパッタ法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロンスパッタ法、イオンビーム・スパッタ法、対向ターゲットスパッタ法などがありいずれの方式を採用してもよい。金属ドープモリブデン酸化物層30する際に、既に形成されている層にダメージを与えないようにする観点からも、マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法、対向ターゲットスパッタ法を用いることが好適である。なお、成膜時において、雰囲気中に酸素や酸素元素を含むガスを導入して蒸着を行ってもよい。
【0023】
上記のようにして堆積して形成された層は、そのままで完成した金属ドープモリブデン酸化物層30として機能し得る。しかし、上記のようにして酸化物モリブデンおよびドーパント金属材料を同時に堆積させた後、さらに任意の工程として、加熱処理、UV−O処理、大気曝露処理等を施すことが好ましい。これらの処理、好ましくは加熱処理を施すことにより、金属ドープモリブデン酸化物層30のウェットプロセスに対する耐性をより強化することができる。
【0024】
加熱処理を行う場合は、50〜350℃で1〜120分間の条件で行うことができる。前記UV−O処理は、紫外線を1〜100mW/cmの強度で5秒〜30分間照射し、オゾン濃度0.001〜99%の雰囲気下で処理することにより行うことができる。大気曝露処理は、湿度40〜95%、温度20〜50℃の大気中に、1〜20日間放置することにより行うことができる。
【0025】
金属ドープモリブデン酸化物層30を設けた後にフォトリソグラフィ法および塗布法などのウェットプロセスを含む方法で後述する隔壁41および有機層などを設ける場合、例えば従来のように金属をドープしていないモリブデン酸化物層上に隔壁41および有機層を形成すると、モリブデン酸化物層が損傷を受けるが、金属ドープモリブデン酸化物層30はウェットプロセスに対する耐性が強いため、ウェットプロセスを用いても金属ドープモリブデン酸化物層30が備える機能を損なうことが抑制される。
【0026】
次に、図1−1のステップS(c)〜S(e)に示すようにして隔壁41を形成する。本実施形態では、先に金属ドープモリブデン酸化物層30が形成されており、これに対して隔壁41は有機材料で形成される。まず、ステップS(c)に示すように、感光性樹脂を含む塗布液を、金属ドープモリブデン酸化物層30上に塗布し、感光性樹脂層40を金属ドープモリブデン酸化物層30全面に設ける。なお本実施の形態ではポジ型の感光性樹脂を用いた場合について説明する。次に、ステップS(d)に示すように、フォトマスク90を介して所定の領域に光Ir1を照射する。画素領域に対応する開口の形成される領域に光Ir1を照射する。次に、ステップS(e)に示すように現像処理を行うことで、光Ir1を照射した画素領域に相当する領域に、感光性樹脂層40を厚み方向に貫通し、金属ドープモリブデン酸化物層30の表面の一部が露出される開口を形成する。また光Ir1が照射されず残存した部分が隔壁41として形成される。
【0027】
上記のようにして、金属ドープモリブデン酸化物層30の表面を露出させる開口が、画素領域に相当する画素領域に穿設されて成る隔壁41が基板上に配置される。隔壁41を設けることにより、金属ドープモリブデン酸化物層30の表面にまで達する開口が形成され、隔壁41で囲まれた画素領域が規定される。
【0028】
本実施の形態では、隔壁41は、少なくとも表面部が有機材料から成る。隔壁41は、有機材料から構成されていれば特に限定されるものではないが、フォトレジストなどの感光性材料を用いて形成するのが製造上簡単で好ましい。該材料としては例えばノボラック系のポジ型レジスト、アクリル系のネガ型レジストおよび感光性ポリイミドなどが挙げられる。なお、本実施の形態ではポジ型レジストを用いた場合について説明したが、ネガ型レジストを用いた場合には、ステップS(d)において、開口が形成される領域を除く残余の領域に光Ir1を照射すればよい。
【0029】
次に図1−2のステップS(f)に示すように、金属ドープモリブデン酸化物層30と、隔壁41との表面を親液化する第1の親液化工程を行う。第1の親液化工程としては、紫外線オゾン処理、および酸素プラズマ処理などを挙げることができ、本実施の形態では紫外線オゾン処理を施す例を示し、基板10全面を紫外線オゾンIr2に曝露する。この第1の親液化工程を施すことによって、金属ドープモリブデン酸化物層30および隔壁41の表面に親液化処理が施される。
【0030】
次にステップS(g)に示すように、金属ドープモリブデン酸化物層30および隔壁41の表面上に撥液層50を形成する撥液層形成工程を行う。本工程で成膜される撥液層50は、隔壁41の表面上に形成された部位よりも、金属ドープモリブデン酸化物層30の表面上に形成された部位の方が、後述の第2の親液化工程によって、より親液化される材料を含んで構成される。撥液層50は、好ましくは有機材料で形成され、より好ましくは、例えば、フルオロアルキル基を有するシランカップリング材料が挙げられる。シランカップリング材としては、例えば、ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、ノナフルオロヘキシルジメチルクロロシラン、ノナフルオロヘキシトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロキシルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロキシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルメチルジクロロシランおよびヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルジメチルクロロシランなどを挙げることができる。
【0031】
撥液層50を形成する方法としては、撥液層50となる材料を含む溶液を塗布液として用いるスピンコート法、印刷法、スリットコート法、バーコート法などの塗布法を挙げることができる。これらの中でも成膜の容易さから、スピンコート法を用いることが好ましい。
【0032】
撥液層50を形成するための塗布液の溶媒としては、例えば、水、メタノール、およびこれらの混合液などを挙げることができる。撥液層50の膜厚は、例えば、0.1nm〜100nmであり、好ましくは0.1nm〜20nmである。
【0033】
次に、ステップS(h)に示すように、撥液層50を選択的に親液化する第2の親液化工程を行う。第2の親液化工程としては、例えば、紫外線オゾン処理、および酸素プラズマ処理などを挙げられる。また、プラズマ処理としては、真空下でのプラズマ処理および大気圧下でのプラズマ処理などが挙げられる。本実施の形態では、第1の親液化工程と同様に、基板10およびこれの上に形成された積層物全面を、紫外線オゾンIr3に曝露している。
【0034】
前述したように、撥液層50は、隔壁41の表面上に形成された部位よりも、金属ドープモリブデン酸化物層30の表面上に形成された部位の方が、第2の親液化工程においてより親液化される材料を含んで構成されている。第2の親液化工程を行うことで、図1−2ステップS(i)として示すように、撥液層50のうちの、金属ドープモリブデン酸化物層30に接する部位が親液化し、その表面の領域R1が親液性を有する部位51(親液部51という場合がある)が形成される。他方、撥液層50のうちの、隔壁41に接する部位は、その表面の領域R2が略そのまま撥液性を維持する部位52(撥液部52という場合がある)が形成される。このように下地の材料の相異によって、元々撥液性を有していた領域の一部が選択的に親液化される。なお、図1−2などにおいて、第2の親液化工程後の領域51と領域52の領域との境界43は便宜上線引きにより区分しているが、実際には両者の領域は渾然一体とした状態となり、必ずしも境界43は明瞭ではないものと推測される。
【0035】
以上、図1−2に示すステップS(f)からステップS(i)に示すような親液撥液パターンの形成方法によれば、第1および第2の親液化工程を、紫外線オゾン処理で行うので、プラズマ処理を用いて親液撥液パターンを形成する場合に比べて簡易に親液撥液パターンを形成することができる。さらに後述するように、金属ドープモリブデン酸化物層30上に形成される親液部51が有機EL素子の正孔輸送層などとして機能し得る。
【0036】
このように、金属ドープモリブデン酸化物層を設けると共に、上記のような親液撥液パターンの形成方法を採用することにより、有機EL素子を構成する各層の形成を良好に実施し得るのみならず、結果として、親液部51が後述する正孔注入層および正孔輸送層などとして機能し得る層を形成できるので、本実施形態の製造方法は、有機EL素子を作製する方法として優れている。
【0037】
次に、有機層として、有機材料で形成される発光層61(以下、有機発光層61という場合がある)を形成する。なお前述したように、陽極と陰極との間には、1または複数の有機層が設け得るが、本実施の形態では該有機層として1層の有機発光層61を備える有機EL素子について説明する。図1−3のステップS(j)に、上記のようにして選択的に親液化された画素領域R1に、隔壁41で囲われる領域の容量よりも多い量の有機発光材料を含む塗布液60を供給した状態を示す。凹部の底面(親液部51の表面)が親液性を示すので、塗布液が凹部の底面において広がるとともに、隔壁41に形成された撥液部52が撥液性を示すので、塗布液が隔壁41上の撥液部52には広がらずに凹部を中心にして膨らむ。この状態で塗布液を乾燥させると、乾燥過程において、隔壁41に形成された撥液部52にはじかれながら塗布液が徐々に収縮していくので、全ての塗布液が穴に収まり、結果として均一な膜厚の発光層61を形成することができる(図1−3(ステップS(k))。
【0038】
次に、図1−3のS(l)に示すように、発光層61の上に陰極70を設ける。この後さらに、陽極20および陰極70とその間に挟持された各層からなる積層体を、外気から遮断すると共に、積層体を物理的な衝撃等から保護するために、封止部材(不図示)を陰極上に設けてもよい。封止部材は、例えば、積層体が設けられた基板10の外周縁部と封止部材を貼り合わせて設け得る。
【0039】
このようにして形成された有機EL素子の金属ドープモリブデン酸化物層30は、上記のように、正孔注入層として機能し、また親液部51は、正孔輸送層として機能し得る。塗布法で正孔注入層および正孔輸送層を形成する場合、従来の技術では隔壁で囲まれた画素領域内に正孔注入層および正孔輸送層となる材料を含む塗布液を滴下することで正孔注入層および正孔輸送層を形成している。これに対し、本実施形態では、スピンコート法という簡易な方法で正孔注入層および正孔輸送層を形成する。例えば、複数の画素を形成する場合には、インクジェット装置を用いて正孔注入層および正孔輸送層となる材料を含む塗布液を各画素毎に滴下する必要があったが、スピンコート法を用いることで、一度に全ての画素に正孔注入層および正孔輸送層を形成することができ、簡易に正孔注入層および正孔輸送層を形成することができる。さらに、複数の画素からなる表示パネルでは、親液撥液パターンを形成する工程を設ける必要があるが、本発明ではこの親液撥液パターンを形成する工程を経ることで必然的に正孔輸送層となり得る層が形成されるので、親液撥液パターンを形成する工程とは別に正孔輸送層を形成する工程を設ける必要はなく、製造工程を簡略化することができる。
【0040】
1.2.製造方法の第2の実施形態
製造方法の第2の実施形態は、上記第1の実施形態における親液撥液パターンの形成方法に、さらにプラズマ処理を施す処理を加えたものである。すなわち、第2の実施形態では、第2の親液化工程の後に、プラズマ処理を施す処理工程が含まれる。
【0041】
第2の親液化工程の後、撥液層にプラズマ処理を施す。プラズマ処理は、フッ素含有ガスを含む雰囲気で行うことが好ましい。フッ素含有ガスとしては、SF6およびCF4などが挙げられる。これらのなかでもプラズマ処理としては反応性ガスにCF4を用いるCF4プラズマ処理であることが好ましい。
【0042】
このように第2の親液化工程の後に、撥液層にプラズマ処理を施すことによって、撥液層はより撥液性が強まる。本実施の形態においては、撥液層は、第1電極の表面上に形成された部位と、隔壁に形成された部位とで撥液化される度合いが異なり、隔壁に形成された部位がプラズマ処理によって、より撥液化される材料によって構成される。このようなプラズマ処理を加えることで、撥液層のうちで金属ドープモリブデン酸化物層の表面上に形成された部位の所定のインクに対する接触角と、撥液層のうちで隔壁上に形成された部位の所定のインクに対する接触角との差が大きくなる。プラズマ処理を加えた基板を用いて開口部に塗布液を塗布すると、より均一な膜厚の膜を形成し得る。
【0043】
なお前記第1および第2の親液化工程のうちの少なくとも一方の工程で、酸素プラズマ処理によって親液化する場合には、本実施形態のように、第2の親液化工程の後に、撥液層にプラズマ処理を施すことが好ましい。
【0044】
2.本発明の有機EL素子
本発明の有機EL素子は、基板上に設けられた隔壁に囲まれた画素領域に、陽極と、陰極と、陽極および陰極の間に配置された1または複数の有機層と、有機層と陽極の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層と、金属ドープモリブデン酸化物層と有機層との間に配置され、フルオロアルキル基を含むシランカップリング材料を用いて形成された層とを備える。なお、以下、フルオロアルキル基を含むシランカップリング材料を用いて形成された層のことを、シランカップリング層という場合がある。
【0045】
本発明の有機EL素子は、既に説明した本発明の有機EL素子の製造方法にて製造し得る。製造方法の一実施形態は上記の通りである。有機EL素子の一実施形態としては、図1−3のS(l)に示す素子が挙げられる。以下、本発明の有機EL素子の層構造に係る実施形態についてさらに詳述し、後に各層の材料および各層の形成方法の実施形態について説明する。
【0046】
2.1.各層の材料、形成方法、構造等
次に、有機EL素子を構成する各層の材料および各層の形成方法について、さらに説明する。
【0047】
本実施形態では、基板の一方の主面上に陽極が設けられる。陰極は、陽極との間に有機層を挟んで配置され、一対の電極を成す。
【0048】
陰極と有機発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などが挙げられる(なお、これらのうち、有機材料で形成されるものは有機層の一層を構成する)。陰極と有機発光層との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に近い層を電子注入層といい、発光層に近い層を電子輸送層という。
【0049】
電子注入層は、陰極に接して設けられ、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0050】
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0051】
陽極と有機発光層との間に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる(なお、これらのうち、有機材料で形成されるものは有機層の一層を構成する)。正孔注入層と正孔輸送層との両方の層が設けられる場合、陽極に近い層を正孔注入層といい、発光層に近い層を正孔輸送層という。なお前述したように第1電極に接して設けられる親液層は、例えば正孔注入層または正孔輸送層として機能する。
【0052】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層、および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0053】
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0054】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層と言う場合があり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層と言う場合がある。
【0055】
<陽極>
陽極は、陽極を通して発光層からの光を取出す構成の有機EL素子の場合、光透過性の電極が用いられる。陽極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜を用いることができ、これらのうち光透過率の高い、すなわち透明性の高い材料が好適に用いられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、および銅などから成る薄膜が用いられ、これらの中でもITO、IZO、または酸化スズから成る薄膜が好適に用いられる。陽極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などを挙げることができる。
【0056】
陽極には、光を反射する材料を用いてもよく、該材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0057】
陽極の膜厚は、光透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜調整してよい。陽極の膜厚は、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0058】
<金属ドープモリブデン酸化物層>
金属ドープモリブデン酸化物層は、モリブデン酸化物およびドーパント金属を含むものであり、好ましくはモリブデン酸化物およびドーパント金属から実質的になる。金属ドープモリブデン酸化物層を単層で成膜した場合、層を構成する物質全量中における、モリブデン酸化物およびドーパント金属の合計が占める割合は、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上である。
【0059】
金属ドープモリブデン酸化物層は、陽極と有機層の間に設けられる。金属ドープモリブデン酸化物層は、正孔注入層として配置してもよい。また、金属ドープモリブデン酸化物層は、他の材料で形成された正孔注入層と有機層との間に設けてもよく、この場合、金属ドープモリブデン酸化物層を正孔輸送層として配置してもよい。いくつかの層構成の具体例として、以下の(i)から(iv)が挙げられる。
【0060】
(i)陽極および正孔輸送層としてのシランカップリング層に接して設けられる。
(ii)陽極および電子ブロック層に接して設けられる。
(iii)金属ドープ酸化物層以外の材料で形成された正孔注入層およびシランカップリング層に接して設けられる。
(iv)金属ドープ酸化物層以外の材料で形成された正孔注入層および電子ブロック層に接して設けられる。
【0061】
ボトムエミッション構造の場合は、(i)または(ii)がより好ましく、前記金属ドープモリブデン酸化物層は通常正孔注入層として機能する。トップエミッション構造の場合は、(iii)または(iv)がより好ましい。
【0062】
金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率は、50%以上であることが好ましい。50%以上の可視光透過率を有することにより、金属ドープモリブデン酸化物層を透過して発光する形式の有機EL素子に好適に用いることができる。
【0063】
金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属の例としては、好ましくは遷移金属、周期表第13族金属およびこれらの混合物などが挙げられ、より好ましくはアルミニウム、ニッケル、銅、クロム、チタン、銀、ガリウム、亜鉛、ネオジム、ユーロピウム、ホルミウム、セリウムが挙げられ、さらに好ましくはアルミニウムが挙げられる。こらのドーパント金属は、上記の単金属、これらの酸化物、これらのドーパント金属とMoの合金などを用い得る。合金の形態は特に限定されず、固溶体合金、共晶合金、包晶合金、偏晶合金、化合物合金、混合物合金などの形態をとり得る。他方、モリブデン酸化物としては、MoO2、およびMoOなどを用いることができ、好ましくはMoOを採用し得る。これらのドーパント金属と酸化モリブデンを適宜組み合わせて、金属ドープモリブデン酸化物層を形成することができ、好ましくは、MoOと単金属のドーパント金属との組合せを採用し得る。なお、酸化モリブデンとしてMoOを採用し、真空蒸着等の蒸着法により成膜する場合、蒸着された膜においてMoとOの組成比が保たれない場合もありうるが、その場合でも本発明に好ましく用いることができる。
【0064】
金属ドープモリブデン酸化物中におけるモリブデン酸化物に対するドーパント金属の含有割合は、0.1〜20.0mol%であることが好ましい。ドーパント金属の含有割合が上記範囲内であることにより、良好な耐プロセス性を得ることができる。
【0065】
金属ドープモリブデン酸化物層の厚さは、特に限定されないが10〜1000Åであることが好ましい。
【0066】
<シランカップリング層(撥液親液層)>
シランカップリング層は、有機EL素子の製造過程において、元々、撥水層として設けられ、その後所定の親液化処理が施される。親液化工程を経ることにより、隔壁と陰極の間において撥液部が形成され、金属ドープモリブデン酸化物層と有機層との間において親液部が形成される。したがって、撥液部および親液部は、上記本発明の製造方法において説明したとおり、隔壁および金属ドープモリブデン酸化物層の双方上に一連の層として設けられる。そして、第2の親液化工程によって、隔壁および金属ドープモリブデン酸化物層のそれぞれの材質の相異に依拠して、隔壁上の撥液層はそのまま撥液性を維持し、他方、金属モリブデン酸化物層上の撥液層は、親液部に変性されて設けられ、撥液部および親液部を有する層(以下、撥液親液層という場合がある)が形成されることを発見した。撥液親液層のうち画素領域に備わる親液部は、有機EL素子を構成する積層体の一層を成す。
【0067】
撥液親液層は、製造方法の実施形態において既に説明した通り、例えば、図1−2のステップS(g)からステップS(i)に示すようにして形成される。その結果として、ステップS(i)に示すような撥液親液層(51、52)が形成される。撥液親液層は、好ましくは、フルオロアルキル基を有するシランカップリング材料などによって形成し得る。フルオロアルキル基を有するシランカップリング材料で形成された撥液親液層は、フルオロアルキル基を有するシランカップリング材がカップリング反応して硬化した層として形成される。シランカップリング材としては、例えば、ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、ノナフルオロヘキシルジメチルクロロシラン、ノナフルオロヘキシトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロキシルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロキシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルメチルジクロロシランおよびヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルジメチルクロロシランなどを挙げることができる。
【0068】
<正孔注入層および正孔輸送層>
正孔注入層としては、前述のように、金属ドープモリブデン酸化物層にその機能を担わせてもよい。また、正孔輸送層としては、前述のように、金属ドープモリブデン酸化物層または撥液親液層の親液部にその機能を担わせてもよい。
【0069】
金属ドープモリブデン酸化物以外の材料を用いて正孔注入層または正孔輸送層を設ける場合の他の材料としては、例えば、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリンなどを挙げることができる。
【0070】
これらの中で正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などの高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0071】
また、撥液親液層と基板上の電極との間に、撥液親液層の他に別の正孔輸送層が形成されていてもよい。この場合、別の正孔輸送層の材料としては、例えば、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウムおよび酸化アルミニウムなどの無機材料も挙げられる。これらの無機材料を、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などの手法を用いて層形成し、正孔輸送層とし得る。
【0072】
また、溶液を用いる塗布法を採用して層形成を行う場合、溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料、または正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。なお、上記の親液、撥液とは、これらの溶媒に対する親液、撥液である。
【0073】
溶液からの成膜方法としては、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法、ノズルコート法などの塗布法を挙げることができる。
【0074】
正孔注入層および正孔輸送層の膜圧は、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要である。正孔注入層および正孔輸送層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なるため、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定することが好ましい。あまり厚すぎると、素子の駆動電圧が高くなってしまう。従って、正孔注入層および正孔輸送層の膜厚は、それぞれ、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0075】
<有機層>
有機層は、陽極と陰極の間に介在し、有機材料で形成された層である。層構成の区別の便宜上、ここでいう有機層には、上記撥液親液層は含まないこととする。
有機EL素子は、1または複数の有機層を備え、有機層として少なくとも1層の有機発光層を備える。なお有機層と陽極との間には、金属ドープモリブデン酸化物層およびシランカップリング層が設けられるが、複数の有機層を備える構成の有機EL素子では、金属ドープモリブデン酸化物層およびシランカップリング層は、複数の有機層のうちの最も陽極側に配置される有機層と陽極との間に設けられる。
<有機発光層>
有機発光層は、通常、主として蛍光および/またはりん光を発光する有機材料、または該有機材料とこれを補助するドーパントとから形成される。ドーパントは、発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で加えられる。なお、有機材料は、低分子化合物でも高分子化合物でもよい。有機発光層を構成する発光材料としては、例えば以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、ドーパント材料を挙げることができる。なお本明細書において、高分子とは、ポリスチレン換算の数平均分子量が、10以上であり、通常ポリスチレン換算の数平均分子量が10以下である。
【0076】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などを挙げることができる。
【0077】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えば中心金属に、Al、Zn、Beなど、またはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体を挙げることができ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体などを挙げることができる。
【0078】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、上記色素系材料や金属錯体系発光材料などを高分子化したものなどを挙げることができる。
【0079】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0080】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0081】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0082】
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜200nmである。
【0083】
有機発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に用いられる溶媒と同様の溶媒を挙げることができる。
【0084】
発光材料を含む溶液を塗布する方法としては、グラビアコート法、スプレーコート法およびノズルコート法などのコート法、並びにグラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。パターン形成や多色の塗分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法、ノズルコート法などの印刷法が好ましい。また、昇華性を示す低分子化合物の場合には、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0085】
<電子輸送層>
電子輸送材料としては、公知のものを使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体などを挙げることができる。
【0086】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0087】
電子輸送層の成膜法としては溶液若しくは溶融状態からの成膜を挙げることができ、高分子の電子輸送材料では溶液または溶融状態からの成膜を挙げることができる。溶液または溶融状態から成膜する場合には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法を挙げることができる。
【0088】
電子輸送層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0089】
<電子注入層>
電子注入層を構成する材料としては、有機発光層の種類などに応じて最適な材料が適宜選択され、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種類以上含む合金、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物、またはこれらの物質の混合物などを挙げることができる。アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、ハロゲン化物、および炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウムなどを挙げることができる。また、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。電子注入層は、2層以上を積層した積層体で構成されてもよく、例えばLiF/Caなどを挙げることができる。
【0090】
電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0091】
<陰極>
陰極の材料としては、仕事関数の小さく、発光層への電子注入が容易で、電気伝導度の高い材料が好ましい。また陽極側から光を取出す有機EL素子では、発光層からの光を陰極で陽極側に反射するために、陰極の材料としては可視光反射率の高い材料が好ましい。
陰極としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属および周期表第13族金属などを用い得る。より具体的な陰極の材料の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属;これらの金属のうちの2種以上の合金;これらの金属のうちの1種以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうちの1種以上との合金;並びに、グラファイト若しくはグラファイト層間化合物などが挙げられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などを挙げることができる。また、陰極としては導電性金属酸化物および導電性有機物などから成る透明導電性電極を用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、およびIZOを挙げることができ、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などを挙げることができる。なお、陰極は、2層以上を積層した積層体で構成されていてもよい。なお、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0092】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して適宜設定され、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0093】
陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法などを挙げることができる。
【0094】
2.2.有機EL素子の積層構成
次に、有機EL素子の層構成について説明する。上記製造方法の実施形態では、有機層として、1層の有機発光層を備える有機EL素子について例示したが、有機EL素子は、複数の有機層で構成されていてもよい。また、有機発光層もまた1層または複数の層で構成し得る。さらに、陽極と陰極の間、または、有機層間に、必要に応じて無機層を設けてもよい。
【0095】
本実施の形態の有機EL素子のとり得る層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
c)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
d)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0096】
本実施の形態の有機EL素子は、2層以上の発光層を有していてもよく、2層の発光層を有する有機EL素子としては、上記a)〜d)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「繰り返し単位A」とすると、以下のe)に示す層構成を挙げることができる。
e)陽極/(繰り返し単位A)/電荷注入層/(繰り返し単位A)/陰極陰極
また、3層以上の発光層を有する有機EL素子としては、「(繰り返し単位A)/電荷注入層」を「繰り返し単位B」とすると、以下のf)に示す層構成を挙げることができる。
f)陽極/(繰り返し単位B)x/(繰り返し単位A)/陰極
なお記号「x」は、2以上の整数を表し、(繰り返し単位B)xは、繰り返し単位Bがx段積層された積層体を表す。
上記層構成f)およびg)において、陽極、電極、陰極、発光層以外の各層は必要に応じて削除することができる。
【0097】
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0098】
本実施の形態の有機EL素子1は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷注入性の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。また界面での密着性向上や混合の防止などのために、前述した各層間に薄いバッファー層を挿入してもよい。絶縁層の材料としては、金属フッ化物、金属酸化物、有機絶縁材料などを挙げることができる。膜厚2nm以下の絶縁層を設けた有機EL素子としては、陰極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けたもの、陽極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けたものを挙げることができる。
【0099】
本発明の有機EL素子の一実施形態としては、発光層からの光を有機EL素子から外に放出するために、通常、発光層を基準にして光が取出される側に配置される全ての層を透明なものとする。一例として基板/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極/封止部材という層構成を有する有機EL素子について説明すると、発光層からの光を基板側から取出す所謂ボトムエミッション型の有機EL素子の場合には、基板、陽極、正孔注入層および正孔輸送層の全てを透明なものとし、発光層からの光を封止部材側から取出す所謂トップエミッション型の有機EL素子の場合には、電子輸送層、電子注入層、陰極および封止部材の全てを透明なものとする。また一例として基板/陰極/電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/電子注入層/陽極/封止部材という層構成を有する有機EL素子について説明すると、ボトムエミッション型の素子の場合には、基板、陰極、電子注入層および電子輸送層の全てを透明なものとし、トップエミッション型の有機EL素子の場合には、正孔輸送層、正孔注入層、陽極および封止部材の全てを透明なものとする。ここで透明の程度としては、光が有機EL素子の外に放出される再表面と、発光層までの可視光透過率が40%以上のものが好ましい。紫外領域または赤外領域の発光が求められる有機EL素子の場合には、当該領域において40%以上の光透過率を有するものが好ましい。
【0100】
積層する層の順序、層数、および各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜設定することができる。
【0101】
2.3.有機EL素子を実装した有機EL装置
本発明の有機EL装置は、上記本発明の有機EL素子を実装した装置であり、光源装置、表示装置等として好適な装置である。有機EL装置における有機EL素子の実施形態としては、例えば、面状光源、セグメント表示装置およびドットマトリックス表示装置の光源、並びに液晶表示装置のバックライトなどとして好適に用いることができる。
【0102】
本実施の形態の有機EL素子を面状光源装置として用いる場合には、例えば面状の陽極と陰極とを積層方向の一方から見て重なり合うように配置すればよい。またセグメント表示装置の光源としてパターン状に発光する有機EL素子を構成するには、光を通す窓がパターン状に形成されたマスクを前記面状光源の表面に設置する方法、消光すべき部位の有機物層を極端に厚く形成して実質的に非発光とする方法、陽極および陰極のうちの少なくともいずれか一方の電極をパターン状に形成する方法がある。これらの方法でパターン状に発光する有機EL素子を形成するとともに、いくつかの電極に対して選択的に電圧を印加できるように配線を施すことによって、数字や文字、簡単な記号などを表示可能なセグメントタイプ表示装置を実現することができる。ドットマトリックス表示装置の光源とするためには、陽極と陰極とをそれぞれストライプ状に形成して、積層方向の一方からみて互いに直交するように配置すればよい。部分カラー表示、マルチカラー表示が可能なドットマトリックス表示装置を実現するためには、発光色の異なる複数の種類の発光材料を塗り分ける方法、並びにカラーフィルターおよび蛍光変換フィルターなどを用いる方法を用いればよい。ドットマトリックス表示装置は、パッシブ駆動してもよく、TFTなどと組み合わせてアクティブ駆動してもよい。これらの表示装置は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。
【0103】
さらに、面状光源装置は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【実施例】
【0104】
以下、実際の有機EL素子の作製工程に基づく、作製例、比較例およびこれらの検証試験を示しつつ、本発明についてより詳細に説明するが、本発明は下記作製例等に限定されるものではない。
【0105】
<作製例1:撥液層を介在させた有機EL素子の製造方法1>
基板上に、ITO薄膜(陽極)/撥液層(正孔注入層)/中間層/発光層/陰極(Ba層/Al層)の層構成を有する有機EL素子を作製した。なお本作成例では金属ドープモリブデン酸化物層を形成していないので、撥液層が定義上、正孔注入層として機能する。
【0106】
透明ガラス基板上にITO薄膜(陽極)がパターニングされた基板を準備した。
次に、感光性ポリイミド(PI)をスピンコーティング法により全面に塗布し、乾燥させて膜厚1μmのフォトレジスト層を形成した。次にフォトマスクを用いたアライメント露光機により、紫外線を所定の領域に照射し、レジスト現像液(長瀬産業社製:NPD−18)を用いて露光領域を除去した。これによってフォトレジスト層に幅100μm、長さ300μmの矩形状の開口を形成した。なお隔壁は、ITO薄膜の周縁部を覆って形成されている。
【0107】
次に、クリーンオーブンで230℃、1時間加熱処理を行い、ポリイミドを完全に加熱硬化させ有機絶縁層(隔壁)を形成した。このようにして幅100μm、長手方向長さ300μmの矩形状に画素領域を規定する隔壁と、隔壁で規定される開口にITO薄膜の表面が露出する第1電極とが設けられたパターニング評価用基板を作製した。
【0108】
次に、メタノールと水とを重量比で5:95の割合で混合した溶媒に、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランを1重量%混合し、室温で15時間攪拌し、撥液層用溶液を作製した。次に、前記パターニング評価用基板を紫外線オゾン洗浄装置(テクノビジョン社製:UV312)を用いて、基板表面に紫外線オゾン処理を20分間行い、パターニング評価用基板の全面に親液化処理を施した(第1の親液化工程)。
【0109】
次に、前記パターニング評価用基板上に前記撥液層用溶液をスピンコート法により塗布し、ホットプレート上で110℃、30分間加熱処理を行い、撥液層を形成した。
【0110】
次に、撥液層が形成されたパターニング評価用基板を紫外線オゾン洗浄装置(テクノビジョン社製:UV312)を用いて、撥液層が形成された表面に紫外線オゾン処理を20分間行い、撥液層の画素領域に対応する部分が親液部を形成するように親液化処理を施した(第2の親液化工程)。
【0111】
次に、下記手法で高分子化合物1を合成した。次に、アニソールとテトラリンとを重量比で1:1に混合した溶媒に、0.5重量%の高分子化合物1を溶解させて中間層用溶液を作製した。インクジェット装置を用いて、中間層用溶液を隔壁に形成された開口内に塗布した。次にホットプレート上で10分間乾燥し、さらに窒素中で200℃のホットプレート上で20分間加熱処理を行うことで、膜厚が20nmの中間層を形成した。
【0112】
(高分子化合物1の合成例)
まず攪拌翼、バッフル、長さ調整可能な窒素導入管、冷却管、および温度計を備えるセパラブルフラスコに2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン158.29重量部と、ビス−(4−ブロモフェニル)−4−(1−メチルプロピル)−ベンゼンアミン136.11重量部と、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド(ヘンケル社製 Aliquat 336)27重量部と、トルエン1800重量部とを仕込み、窒素導入管から窒素を導入しながら、攪拌下90℃まで昇温した。酢酸パラジウム(II)0.066重量部と、トリ(o−トルイル)ホスフィン0.45重量部とを加えた後、17.5%炭酸ナトリウム水溶液573重量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、窒素導入管を液面より引き上げ、還流下7時間保温した後、フェニルホウ酸3.6重量部を加え、14時間還流下保温し、室温まで冷却した。反応液水層を除いた後、反応液油層をトルエンで希釈し、3%酢酸水溶液、イオン交換水で洗浄した。
分液油層にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物13重量部を加え4時間攪拌した後、活性アルミナとシリカゲルとの混合カラムに通液し、トルエンを通液してカラムを洗浄した。濾液および洗液を混合した後、メタノールに滴下して、ポリマーを沈殿させた。得られたポリマー沈殿を濾別し、メタノールで沈殿を洗浄した後、真空乾燥機でポリマーを乾燥させ、ポリマー192重量部を得た。得られたポリマーを高分子化合物1とよぶ。高分子化合物1のポリスチレン換算重量平均分子量は、3.7×105であり、数平均分子量は8.9×104であった。
【0113】
(GPC分析法)
ポリスチレン換算重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。GPCの検量線の作成にはポリマーラボラトリーズ社製標準ポリスチレンを使用した。測定する重合体は、約0.02重量%の濃度になるようテトラヒドロフランに溶解させ、GPCに10μL注入した。GPC装置は島津製作所製LC−10ADvpを用いた。カラムは、ポリマーラボラトリーズ社製PLgel 10μm MIXED−Bカラム(300×7.5mm)を2本直列に接続して用い、移動相としてテトラヒドロフランを25℃、1.0mL/minの流速で流した。検出器にUV検出器を用い、228nmの吸光度を測定した。
【0114】
次に、中間層上に有機発光層を形成した。まずアニソールとテトラリンとを重量比で1:1の割合で混合した溶媒に、1重量%の高分子発光有機材料(BP361:サメイション社製)を溶解させて発光層用溶液を作製した。発光層用溶液を隔壁によって形成された開口内に塗布した。さらに塗布後100℃のホットプレート上で10分間乾燥して発光層を作製した。
【0115】
次に、基板を真空中(真空度は1×10-4Pa以下)で基板を基板温度約100℃で60分間加熱した。その後、基板を大気に曝露することなく陰極を蒸着して形成した。具体的には、まず抵抗加熱法にてBa金属を加熱し、蒸着速度約0.1nm/secで膜厚が5nmのBa層を形成し、さらに電子ビーム蒸着法を用いて蒸着速度約0.2nm/secで膜厚が150nmのAl層を形成した。次に、陰極作製後、蒸着室から大気には曝露することなく不活性雰囲気下のグローブボックスに基板を移し、真空に保った状態で、UV硬化樹脂が周縁に塗布された封止ガラスを貼り合わせ、その後大気圧に戻し、UVを照射することで固定し、高分子有機EL素子を作製した。
【0116】
<作製例2:撥液層を介在させた有機EL素子の製造方法2>
作製例1において撥液層形成後の紫外線・オゾン処理(第2の親液化工程)を施した後に、プラズマ処理を行ったことを除いて、作製例1と同様にして有機EL素子を作製した。プラズマ処理は、反応性ガスにCF4ガスを用い、真空ドライエッチング装置(サムコ社製リアクティブイオンエッチング装置 Model RIE-200NL)を用いて、CF4流量:10sccm、ガス圧力:40Pa、電力:40Wの条件で120秒間行った(以下、CF4プラズマ処理という)。
【0117】
<作製例3:撥液層を介在させた有機EL素子の製造方法3>
作製例1において、撥液層形成後の第2の親液化工程を酸素プラズマ処理で行い、さらにCF4プラズマ処理を行ったことを除いて、作製例1と同様にして有機EL素子を作製した。酸素プラズマ処理は、反応性ガスに酸素ガスを用いて行った。酸素プラズマ処理は、真空ドライエッチング装置(サムコ社製リアクティブイオンエッチング装置 Model RIE-200NL)を用いて、O2流量:40sccm、ガス圧力:10Pa、電力:40Wの条件で120秒間行った。CF4プラズマ処理は、作製例2と同じ条件で行った。
【0118】
<作製例4:撥液層を介在させた有機EL素子の製造方法4>
作製例1において、第1の親液化工程を酸素プラズマ処理で行い、第2の親液化工程の後にCF4プラズマ処理を施したことを除いて、作製例1と同様にして有機EL素子を作製した。酸素プラズマ処理、およびCF4プラズマ処理は、それぞれ作製例3と同じ条件で行った。
【0119】
<作製例5:撥液層を介在させた有機EL素子の製造方法5>
作製例1において、第1および第2の親液化工程を酸素プラズマ処理で行い、第2の親液化工程の後にCF4プラズマ処理を施したことを除いて、作製例1と同様にして有機EL素子を作製した。酸素プラズマ処理、およびCF4プラズマ処理は、それぞれ作製例3と同じ条件で行った。
【0120】
(評価1)
作製例1については第2の親液化工程後、作製例2〜5についてはCF4プラズマ処理後に、第1電極(ITO薄膜)上に形成された撥液層とアニソール(表面張力35dyn/cm)との接触角、および隔壁(PI)上に形成された撥液層とアニソールとの接触角を測定した。接触角の測定には、自動接触角測定装置(英弘精機社製:OCA20)を用いた。
(評価2)
作製例1〜5において、発光層用溶液を塗布し、さらに100℃のホットプレート上で10分間乾燥した後に、光学顕微鏡を用いて発光層を観察し、矩形の開口内において一面に発光層が成膜され、矩形の開口外に発光層が形成されていないことを確認した。
(評価3)
作製例1〜5において作製した各有機EL素子のITO薄膜および陰極をソースメーターの正極および負極にそれぞれ接続し、ソースメーターから直流電流を注入して、発光部の状態を観察したところ、良好な発光状態が得られている事を確認した。
【0121】
作製例1〜5について行った評価1〜評価3の評価結果を表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
表1に示すように、本発明の親液撥液パターンの形成方法を行うことで、ITO上の撥液層の接触角と、PI上の撥液層の接触角とに有意な差をつけることができた。またこのような基板を用いることで、均一な膜厚の発光層を形成することができ、さらには発光状態の良好な有機EL素子を作製することができた。
【0124】
<作製例6>
(6−1:真空蒸着法による、ガラス基板へのAlドープMoOの蒸着)
複数のガラス基板を用意し、その片面を蒸着マスクを用いて部分的に被覆し、蒸着チャンバー内に基板ホルダーを用い取り付けた。
【0125】
MoO粉末(アルドリッチ社製、純度99.99%)を、ボックスタイプの昇華物質用のタングステンボードに詰め、材料が飛び散らないように穴の開いたカバーで覆い、蒸着チャンバー内にセットした。Al(高純度化学社製、純度99.999%)は坩堝に入れ、蒸着チャンバー内にセットした。
【0126】
蒸着チャンバー内の真空度を3×10−5Pa以下とし、MoOは抵抗加熱法により徐々に加熱し十分に脱ガスを行い、Alは電子ビームにより坩堝内で溶かし込みを行い十分に脱ガスを行なってから蒸着に供した。蒸着中の真空度は9×10−5Pa以下とした。膜厚および蒸着速度は水晶振動子で常時モニターした。MoOの蒸着速度が約2.8Å/秒、Alの蒸着速度が約0.1Å/秒となった時点でメインシャッターを開き、基板への成膜を開始した。蒸着中は基板を回転させ、膜厚が均一になるようにした。蒸着速度を上記速度に制御して約36秒間成膜を行ない、膜厚約100Åの共蒸着膜が設けられた基板を得た。膜中のMoOおよびAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。
【0127】
(6−2:耐久性試験)
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められずアモルファス状態であることが確認された。
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ変化は無く、表面は溶けていなかった。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、または純水を含ませた不織布(商品名「ベンコット」、小津産業株式会社製)で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
【0128】
別の得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ変化は無く、表面が溶けていなかった。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、またはアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
【0129】
(6−3:透過率の測定)
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、透過率・反射率測定装置FilmTek 3000(商品名、Scientific Computing International社製)を用いて測定した。結果を表2に示す。光の波長約300nmぐらいから透過スペクトルが立ち上がり、波長320nmにおける透過率が21.6%、360nmにおける透過率が56.6%であった。後述する比較例1と比較して、320nmにおいて3.6倍、360nmにおいて1.6倍の透過率を有していた。
【0130】
<作製例7>
蒸着中に、チャンバーに酸素を導入した他は作製例6の(6−1)と同様に操作し、共蒸着膜が設けられた基板を得た。酸素量はマスフローコントローラーにより15sccmに制御した。蒸着中の真空度は約2.3×10−3Paであった。得られた共蒸着膜の膜厚は約100Åであり、膜中のMoOおよびAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。
【0131】
成膜後、得られた基板の耐久性を作製例6の(6−2)と同様に評価した。純水およびアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0132】
<作製例8>
蒸着速度を、MoOについては約3.7Å/秒、Alについては約0.01Å/秒に制御した他は作製例6の(6−1)と同様に操作し、共蒸着膜が設けられた基板を得た。得られた共蒸着膜の膜厚は約100Åであり、膜中のMoOおよびAlの合計に対するAlの組成比は約1.3mol%であった。
【0133】
成膜後、得られた基板の耐久性を作製例6の(6−2)と同様に評価した。純水およびアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0134】
<作製例9>
作製例6の(6−1)で得られた基板を、大気雰囲気のクリーンオーブンに入れ、250℃で60分間加熱処理した。冷却後、蒸着膜の透過率を作製例6の(6−3)と同様に測定した。結果を表2に示す。波長320nmにおける透過率が28.9%、360nmにおける透過率が76.2%であった。後述する比較例1と比較して、320nmにおいて4.7倍、360nmにおいて2.2倍の透過率を有していた。
【0135】
<比較例1>
Alを蒸着せず、MoOのみを約2.8Å/秒で蒸着した他は作製例6と同様に操作し、膜厚約100Åの蒸着膜が設けられた基板を得た。
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められずアモルファス状態であることが確認された。
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、または純水を含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜が消失していた。
別の得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、またはアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は消失していた。
【0136】
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、作製例6の(6−3)と同様に測定した。結果を表2に示す。波長320nmにおける透過率が6.1%、360nmにおける透過率が35.4%であり、透過率が低いことが認められた。
【0137】
【表2】

【0138】
<作製例10:金属ドープモリブデン酸化物層を備えた有機EL素子1>
(有機EL素子の作製)
基板としてITOの薄膜が表面にパターニングされたガラス基板を用い、このITO薄膜上に、作製例7と同様の手順で、膜厚100ÅのAlドープMoO層を真空蒸着法により蒸着した。
【0139】
成膜後、基板を大気中に取り出し、その蒸着膜上にスピンコート法により、合成例1で得た高分子化合物1を成膜し、膜厚20nmのインターレイヤー層を形成した。取り出し電極部および封止エリアに成膜されたインターレイヤー層を除去し、ホットプレートで200℃、20分間ベイクを行った。
【0140】
その後、インターレイヤー層上に、高分子発光有機材料(RP158 サメイション社製)をスピンコート法により成膜し、膜厚90nmの発光層を形成した。取り出し電極部分および封止エリアに成膜された発光層を除去した。
【0141】
これ以降封止までのプロセスは、真空中あるいは窒素中で行い、プロセス中の素子が大気に曝されないようにした。
真空の加熱室において、基板を基板温度約100℃で60分間加熱した。その後蒸着チャンバーに基板を移し、発光部および取り出し電極部に陰極が成膜されるように、発光層面上に陰極マスクをアライメントした。さらにマスクと基板を回転させながら陰極を蒸着した。陰極として、金属Baを抵抗加熱法にて加熱し蒸着速度約2Å/秒、膜厚50Åにて蒸着し、その上に電子ビーム蒸着法を用いてAlを蒸着速度約2Å/秒、膜厚150nmにて蒸着した。
【0142】
その後、基板を、予め用意しておいた、UV硬化樹脂が周辺に塗布されている封止ガラスと貼り合わせ、真空に保ち、その後大気圧に戻し、UVを照射することで固定し、発光領域が2×2mmの有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子は、ガラス基板/ITO膜/AlドープMoO層/インターレイヤー層/発光層/Ba層/Al層/封止ガラスの層構成を有していた。
【0143】
(有機EL素子の評価)
作製した素子に、輝度が1000cd/mとなるよう通電し、電流−電圧特性を測定した。また、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させ、発光寿命を測定した。結果を表3および表4に示す。後述する比較例2と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約1.6倍延長している。
【0144】
<作製例11:金属ドープモリブデン酸化物層を備えた有機EL素子2>
AlドープMoO層を、作製例2ではなく作製例3と同様の手順で成膜した他は、作製例5と同様に操作し、有機EL素子を作製し、電流−電圧特性および発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させて測定した。結果を表3および表4に示す。後述する比較例2と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約2.4倍延長している。
【0145】
<比較例2>
AlドープMoO層を成膜する代わりに、比較例1と同様の手順でMoO層を成膜した他は、作製例5と同様に操作し、有機EL素子を作製し、電流−電圧特性および発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させて測定した。結果を表3および表4に示す。
【0146】
【表3】

【0147】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1−1】本発明の一実施形態の工程の一部を模式的に示す図である。
【図1−2】本発明の一実施形態の工程の一部を模式的に示す図である。
【図1−3】本発明の一実施形態の工程の一部を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0149】
10 基板
20 陽極
30 金属ドープモリブデン酸化物層
40 感光性樹脂層
41 隔壁
50 撥液層
51 親液部
52 撥液部
53 (親液部と撥液部の)境界
60 塗布液
61 有機発光層
70 陰極
90 フォトマスク
R1 親液部
R2 撥液部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される隔壁により囲まれた画素領域に、陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置される1または複数の有機層と、前記陽極および前記有機層との間に金属ドープモリブデン酸化物層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する方法であって、
前記陽極を備える基板を用意する工程と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層を設ける工程と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層の表面を露出させる開口が、前記画素領域に相当する領域に穿設されて成る前記隔壁を、前記金属ドープモリブデン酸化物層が形成された基板上に配置する隔壁配置工程と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層および前記隔壁の表面を親液化処理する第1の親液化工程と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層および前記隔壁の表面上に撥液層を形成する撥液層形成工程と、
前記撥液層のうちの、前記金属ドープモリブデン酸化物層の表面上に形成された部位を親液化処理する第2の親液化工程と、
前記有機層を形成する材料を含むインクを前記隔壁に囲まれた画素領域に供給し、該インクを乾燥させて前記有機層を形成する有機層形成工程と、
前記陰極を設ける陰極形成工程とを含み、
前記隔壁を、前記金属ドープモリブデン酸化物層とは異なる材料により形成し、
前記撥液層を、前記隔壁の表面上に形成された部位よりも、前記金属ドープモリブデン酸化物層の表面上に形成された部位のほうが、前記第2の親液化工程によって、より親液化される材料により形成する、
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記隔壁の少なくとも表面部を有機材料により形成する、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
撥液層形成工程において形成される撥液層を、フルオロアルキル基を有するシランカップリング材料を含む材料により形成する、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記撥液層形成工程において、撥液層を形成する材料を含む塗布液を用いる塗布法により撥液層を形成する、請求項1から3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1および第2の親液化工程において、紫外線オゾン処理によって親液化する、請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2の親液化工程の後に、プラズマ処理を施す、請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1および第2の親液化工程のうちの少なくとも一方の工程では、酸素プラズマ処理によって親液化し、
前記第2の親液化工程の後にプラズマ処理を施す、
請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記プラズマ処理を、フッ素含有ガスを含む雰囲気で行う、請求項6または7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記有機層形成工程において、前記有機層を形成する材料を含むインクをインクジェット法で画素領域に吐出し、着弾したインクを固化させて前記有機層を形成する、請求項1から8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を設ける工程において、前記陽極に直接接するように金属ドープモリブデン酸化物層を設ける、請求項1から9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を設ける工程において、酸化モリブデンおよびドーパント金属を同時に堆積する工程を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項12】
酸化モリブデンおよびドーパント金属を同時に堆積する工程の後に、当該堆積する工程により形成された層を加熱する工程をさらに含む、請求項11に記載の有機エレクトロルミネッセンスの製造方法。
【請求項13】
基板上に設けられた隔壁により囲まれた画素領域に、
陽極と、
陰極と、
前記陽極および前記陰極の間に配置された有機層と、
前記有機層と前記陽極の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層と、
前記金属ドープモリブデン酸化物層と前記有機層との間に配置され、フルオロアルキル基を含むシランカップリング材料を用いて形成された層と、
を備える、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記金属ドープモリブデン酸化物層が正孔注入層である、請求項13に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率が50%以上である、請求項13または14に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属が、遷移金属、周期表第13族金属およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項13から15のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項17】
前記金属ドープモリブデン酸化物層におけるドーパント金属がアルミニウムである、請求項13から16のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項18】
前記金属ドープモリブデン酸化物層におけるドーパント金属の割合が、0.1〜20.0mol%である、請求項13から17のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項19】
請求項13から18のいずれか一項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子が実装された光源装置。
【請求項20】
請求項13から18のいずれか一項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子が実装された表示装置。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【公開番号】特開2010−56012(P2010−56012A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221753(P2008−221753)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】