説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 輝度と発光効率が高いだけでなく、素子の寿命が長い上、材料の毒性が小さい有機エレクトロルミネッセンス素子を提供すること。
【解決手段】 基体、基体の上に形成された陽極、陽極の上に形成された発光層、発光層の上に形成された電子注入層、及び電子注入層の上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子。特に、前記電子注入層がアルカリ金属窒化物を含有する層である点に特徴がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、特に、電子注入層を向上させた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンスを応用した平面ディスプレー装置は、自発発光、軽量、薄型、良好なコントラスト、視野角無依存性、低いエネルギー消費量等の著しい利点がある。1963年、Popeらはアントラセン単結晶を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。しかしながら、初めて真空蒸着による成膜技術を用いて製造された高効率なOLEDsは、1987年C.W.Tangらによって開発された有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED素子:有機発光ダイオードともいう。)である。この有機発光ダイオードは、アニリン-TPDを正孔輸送層(HTL)、アルミニウム及び8-オキシキノリンの錯体-ALQを発光層(EML)とするものであり、その駆動電圧は10V未満で、輝度は1000cd/m2に達した。その後、開発された有機エレクトロルミネッセンス材料の発光波長が全体の可視光範囲に行き渡る。この飛躍的な進展によって、本分野が最近の研究の注目を集めるようになった。1990年代に入ってから、有機高分子の光電機能材料は新しい発展段階に入った。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子において、駆動電圧を低下させると共に電子と正孔との間の電荷平衡を改善するためには、電子の注入効率を高める必要がある。
【0004】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、低仕事関数の金属を陰極とすることにより、効率的に電子の注入能力を改善することができる。しかしながら、低仕事関数の金属はあまりにも活発で、水や酸素と反応しやすい。
【0005】
また、電子の注入能力を高める他の方法として、陰極と有機層との間に、無機化合物からなる電子注入層が配置する方法がある。実際、LiF/Alが電子注入能力に優れた陰極構成であることが証明され、OLED製品に広く応用されている(特許文献1)。しかしながら、上記LiF/Alはハロゲン原子を有するため、素子の発光に対して消光効果をもたらす畏れがあるのみならず、比較的大きな毒性を有する材料であり、且つ成膜温度の高い材料である。更に、形成された電子注入層の厚みに対する要求が厳しい。また、Li2O、LiAlO2、Li2CO3を電子注入層の材料とすると、寿命が短く効率が低い。
【特許文献1】米国特許第5,776,622号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた電子注入能力、低毒性、長寿命、低成膜温度、及び、膜厚に対する許容度が大きいという利点を有する電子注入層材料、及びその電子注入材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の目的を達成するために、特にアルカリ金属酸化物、アルカリ金属過酸化物、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属窒化物及びアルカリ金属の塩のようなアルカリ金属化合物を電子注入層とすることについて鋭意検討した。大量の試験を行った結果、本発明者らは上述アルカリ金属化合物の中でも、アルカリ金属窒化物、特に窒化リチウムが優れた電子注入能力を有するうえ成膜温度が低く、且つ許容される膜厚の範囲も広いこと、及びそれを用いた素子の寿命が長くなることを見出した。更に発明者らは、アルカリ金属窒化物を電子注入層とし、該層の膜厚が0.1〜10nmの範囲について研究を行なった結果、Li3N電子注入層の膜厚が0.2〜5.0nm、特に0.2〜0.9nmである場合に、素子の電流効率が、他の膜厚のLi3N電子注入層を採用した素子の電流効率より著しく高いこと、及び、発光層に染料を混合した場合には、素子の寿命が25000時間に達することを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち本発明は、基板と、基板の上に形成された陽極と、陽極の上に形成された発光層と、発光層の上に形成された電子注入層と、電子注入層の上に形成された陰極とを含むと共に、前記電子注入層がアルカリ金属窒化物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子、及び該素子の製造方法である。
【0009】
本発明においては、前記アルカリ金属窒化物がLi3N、Na3N、K3N、Rb3N、又はCs3Nから選択された何れか一つであることが好ましい。また、電子注入層の厚さは0.2〜10nmであることが好ましく、特に0.2〜2.0nmであることが好ましいが、最も好ましい厚さは0.2〜0.9nmである。
【0010】
また、本発明における前記電子注入層には、Alが20〜80重量%含有されていても良く、前記陽極と発光層との間に、正孔注入層を設けても良い。更に、上記正孔注入層と発光層との間に正孔輸送層を設けても良いし、前記発光層と電子注入層との間に電子輸送層を設けても良い。また、前記発光層には染料を含有させることが好ましい。
【0011】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、(1)基体と陽極とからなる基板を洗浄し乾燥した後、真空チャンバー内に置いて、有機発光層を蒸着するか、或いは、基板と陽極とからなる基板を洗浄し乾燥した後、真空チャンバー内に置いて、正孔注入層及び/又は正孔輸送層を順次蒸着し、次いで有機発光層を蒸着する工程、(2)前記有機発光層の上に電子注入層を蒸着する、或いは、前記有機発光層の上に電子輸送層と電子注入層を順次蒸着する工程であって、前記電子注入層の蒸着速度が0.08〜2.50Å/秒であり、厚さが0.2〜10nmとなるように、350〜500℃で蒸着する工程、及び、(3)前記電子注入層の上に陰極材料を蒸着する工程を含む方法によって製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明における電子注入層は、毒性が小さい上製膜温度が低く、許容される膜厚の範囲も広いという利点があるだけでなく、電子注入効率が高いので、輝度と発光効率が高く、寿命も長い有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。例えば、電子注入層材料としてLiNを用いた場合、真空度が1×10-3Paであれば、蒸着速度が0.02nm/秒に達する温度は400℃であるが、LiFの場合には、同じ真空度条件で同じ蒸着速度に達する温度は650℃である。特に、電子注入層Li3Nの厚さが0.2〜0.9nmである場合には、素子の電流効率が他の膜厚のLi3N電子注入層の場合より著しく高い。更に、発光層に染料を混合した場合には、素子の寿命が25000時間に達する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図を参照しながら本発明について詳述する。図1は、本発明の、有機発行ダイオードに代表される有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED素子)の層構成の例を示す図である。図1中の符合(101)は基体であり、OLED素子の全ての層を支持する。符合(102)は陽極、(103)は正孔注入層、(104)は正孔輸送層、(105)は発光層、(106)は電子輸送層、(107)は電子注入層、(108)は陰極である。
【0014】
陽極(102)と陰極(108)の間に電圧を印加すると、陽極(102)から正孔が発生する。正孔注入層(103)は、陽極から発生した正孔を有機層に注入する効率を高める役割を持ち、正孔輸送層(104)は、正孔を発光層(105)に輸送する役割を持つ。発光層(105)は、正孔と電子が再結合する場所を提供し、正孔と電子が再結合する際に発光する。電子輸送層(106)は、電子を有機層に輸送する役割を持つ。また、有機EL素子に電圧を印加した時、陰極(108)からは電子が発生する。尚、OLED素子の上述の各層の機能、材料と製作プロセスについては、当業者に周知であるので、これ以上は述べない。
【0015】
本発明における電子注入層(107)は、図1に示すように陰極と有機層との間に設けられる。その材料はアルカリ金属窒化物であるが、必要に応じてアルミニウムを20〜80重量%含有しても良い。前記アルカリ金属窒化物はLi3N、Na3N、K3N、Rb3N、またはCs3Nから選択された何れか一つであることが好ましい。このような材料から構成された電子注入層は、発光層(105)又は電子輸送層(106)の上に蒸着される。その膜厚は0.2〜10nmであることが好ましく、特に好ましくは0.2〜2.0nmであり、0.2〜0.9nmであることが最も好ましい。厚さが0.2nm未満であると、電子注入層薄膜を形成することが困難である。一方、厚さが2.0nmを超えると、電子を注入する効果が低下するが、使用することができないというわけではない。
【0016】
本発明においては、図1に示された層構造を有するOLEDの実施態様が好ましいが、正孔注入層(103)と正孔輸送層(104)、及び電子輸送層(106)を採用せずに、素子を製造することもできる。本発明の特徴は陰極と有機層との間にアルカリ金属窒化物を含む電子注入層を配置することにある。本発明を好ましい実施態様によって説明したが、本発明はこれらの実施態様及び図面に限定されるものではない。例えば、基板の上側から光を放出する有機発光素子の構成でも良い。本発明の概念及び説明に基づいて、当業者が行う事のできる各種の変更及び改良も本発明に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって明確にされている。
【0017】
特に記載された場合を除き、本発明の実施例におけるITO(インジウム錫酸化物)膜と基体とからなるガラス基板は、下記の常法に従って前処理された。
【0018】
ガラス基板を、熱い洗浄剤又は脱イオン水を用いて超音波法により洗浄し、次いで赤外線ランプを用いて乾かした。次に、乾燥したガラス基板に対し、紫外線とオゾンによる洗浄及び低エネルギー酸素イオンビームを照射する前処理を行い、基体上のITO膜を素子の陽極層とした。
【0019】
本発明における電子輸送層(106)と発光層(105)に用いられた材料はAlq3であり、C545T及びDMQAが緑色光の染料として発光層に用いられた。正孔注入層に用いられた材料はDNTPD又はMTDATAであり、正孔輸送層に用いられた材料はNPBである。下記表1は、これら実施例に係る材料の略語及びその分子式対照表である。
【0020】
【表1】

【実施例1】
【0021】
1)素子の構成:
ITO/MTDATA(30nm)/NPB(30nm)/Alq3(55nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)有機発光層の製作
前処理後のガラス基板を真空チャンバー内に置いて、真空度を1×10-3Paに設定し、0.1nm/秒の蒸着速度でMTDATAを蒸着させ、30nmの正孔注入層とした。次に、前記正孔注入層薄膜の上に、0.1nm/秒の蒸着速度で正孔輸送材料であるNPBを蒸着させ、膜厚30nmの正孔輸送層を設けた。その後、発光層及び電子輸送層として、上記正孔輸送層の上にAlq3を蒸着させ、厚さ55nmの薄膜層を設けた。尚、前記ガラス基板はITO(インジウム錫酸化物)膜と基体とからなり、該ITO膜の抵抗値は50Ω、膜厚は150nmである。
3)電子注入層の製作:
電子輸送層を蒸着した後、蒸着温度350℃、蒸着速度0.008nm/秒で、電子注入層としてLi3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着した。
4)陰極の製作:
本発明の有機発光素子の陰極を、1.0nm/秒の蒸着速度でアルミニウムを蒸着させて設けた、150nmの膜厚のAl薄膜で構成した。
5)ガラス封止板で封止した。
【実施例2】
【0022】
1)素子の構成:
ITO/MTDATA(30nm)/NPB(30nm)/Alq3(55nm)/K3N(1.5nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてK3Nを1.5nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例1と同様にして素子を製造した。
【実施例3】
【0023】
1)素子の構成:
ITO/MTDATA(30nm)/NPB(30nm)/Alq3(55nm)/Cs3N(2.0nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてCs3Nを2.0nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例1と同様にして素子を製造した。
【0024】
比較例1.
1)素子の構成:
ITO/MTDATA(30nm)/NPB(30nm)/Alq3(55nm)/LiAlO2(6.0nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてLiAlO2を6.0nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例1と同様にして素子を製造した。
【0025】
比較例2.
1)素子の構成:
ITO/MTDATA(30nm)/NPB(30nm)/Alq3(55nm)/Li2O(0.8nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてLi2Oを0.8nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例1と同様にして素子を製造した。
【0026】
比較例3.
1)素子の構成:
ITO/MTDATA(30nm)/NPB(30nm)/Alq3(55nm)/Li2CO3(1.0nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてLi2CO3を1.0nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例1と同様にして素子を製造した。
【0027】
上記実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた素子について性能を比較した結果を表2に示す。
【表2】

表2の結果から明らかなように、アルカリ金属の窒化物を用いた本発明の素子のルーメン効率が、Li2O、LiAlO2とLi2CO3等の他のリチウム化物を用いた素子の場合より、著しく高いことが実証された。
【実施例4】
【0028】
1)素子の構成:
ITO/DNTPD(100nm)/NPB(20nm)/Alq3(30nm):C545T[0.7%]/Alq3(20nm)/Li3N(0.1nm)/Al(150nm)
但し、Alq3(30nm):C545T[0.7%]は、発光層の厚さが30nmであり、発光層に0.7重量%の緑色光染料C545Tが含有されていることを意味する。以下も同様である。
2)有機発光層の製作
前処理後のガラス基板を真空チャンバー内に置いて、真空度を1×10-3Paに設定し、0.09nm/秒の蒸着速度で、DNTPDを100nmの薄膜となるように蒸着した。次いで上記薄膜の上に、0.1nm/秒の蒸着速度で正孔輸送材料であるNPBを、膜厚が20nmとなるように蒸着させた。更に、上記のようにして形成させた正孔輸送層の上に、発光層としてAlq3を30nmの膜厚となるように蒸着させ、形成された発光層中に、緑色光染料C545Tを7重量%となるように混合した。次いで、電子輸送層としてAlq3を20nmの膜厚となるように蒸着させた。尚、前記のガラス基板はITO(インジウム錫酸化物)膜と基体とからなり、該ITO膜の抵抗値は50Ω、膜厚は150nmである。
3)電子注入層の製作:
電子輸送層を蒸着した後、0.0013nm/秒の蒸着速度、400℃の蒸着温度で、電子注入層としてLi3Nを0.1nmの膜厚となるように蒸着させた。
4)陰極の製作:
発光素子の陰極を、1.0nm/s秒の蒸着速度で形成させた、150nmの膜厚のAl薄膜で構成した。
5)ガラス封止板で封止した。
【0029】
比較例4.
1)素子の構成:
ITO/DNTPD(100nm)/NPB(20nm)/Alq3(30nm):C545T[0.7%]/Alq3(20nm)/LiF(0.7nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてLiFを0.7nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例4と同様にして素子を製造した。
【実施例5】
【0030】
1)素子の構成:
ITO/DNTPD(100nm)/NPB(20nm)/Alq3(30nm):C545T[0.7%]/Alq3(20nm)/Li3N(0.2nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてLi3Nを0.2nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例4と同様にして素子を製造した。
【実施例6】
【0031】
1)素子の構成:
ITO/DNTPD(100nm)/NPB(20nm)/Alq3(30nm):C545T[0.7%]/Alq3(20nm)/Li3N(0.5nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層として、Li3Nを0.5nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例4と同様にして素子を製造した。
本実施例6及び比較例4で得られた素子の電流効率−電流密度の対照図を図2に、パワー効率−電流密度の対照図を図3に示す。図2から明らかなように、電子注入層としてLi3N材料を使用した本発明の場合には、Li3N材料の代わりにLiF材料を使用した素子の場合より、電流効率が明らかに向上することが確認された。同様に、図3からは、電子注入層としてLi3N材料を使用した本発明の場合には、Li3N材料の代わりにLiF材料を使用した素子の場合より、パワー効率が明らかに高いことが確認された。
【実施例7】
【0032】
1)素子の構成:
ITO/DNTPD(100nm)/NPB(20nm)/Alq3(30nm):C545T[0.7%]/Alq3(20nm)/Li3N(0.9nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてLi3Nを0.9nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例4と同様にして素子を製造した。
【実施例8】
【0033】
1)素子の構成:
ITO/DNTPD(100nm)/NPB(20nm)/Alq3(30nm):C545T[0.7%]/Alq3(20nm)/Li3N(2.0nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてLi3Nを2.0nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例4と同様にして素子を製造した。
【実施例9】
【0034】
1)素子の構成:
ITO/DNTPD(100nm)/NPB(20nm)/Alq3(30nm):C545T[0.7%]/Alq3(20nm)/Li3N(5.0nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてLi3Nを5.0nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例4と同様にして素子を製造した。
【実施例10】
【0035】
1)素子の構成:
ITO/DNTPD(100nm)/NPB(20nm)/Alq3(30nm):C545T[0.7%]/Alq3(20nm)/Li3N(10.0nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層としてLi3Nを10.0nmとなるように蒸着したこと以外は、実施例4と同様にして素子を製造した。
【0036】
実施例4〜10及び比較例4で得られた素子の性能を下記表3に示す。特に、寿命についての対照図を図4に、Li3N電子注入層の厚さが異なった素子に対する電流効率−電流密度の対照図を図5に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3及び図4の結果から明らかなように、電子注入層Li3Nの厚さが0.2〜5.0nmである場合に、本発明の素子の寿命が何れも、最適厚さである0.70nmのLiFを電子注入層とする素子(比較例4)の寿命の12000時間より長いことが分かる。また、図5の結果から、Li3N電子注入層の厚さが0.2〜2.0nmである場合の本発明の素子の電流効率は、Li3N電子注入層の厚さが2.0nmを超える場合や0.2nm未満である場合の素子より著しく高いこと、及び表3の結果から、電子注入層Li3Nの厚さが0.2〜5.0nmである場合に、本発明の発光効率も比較例4の素子より高いことが確認された。
【実施例11】
【0039】
1)素子の構成:
ITO/NPB(40nm)/Alq3(60nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)有機発光層の製作
前処理後のガラス基板を真空チャンバー内に置いて真空度を1×10-3Paに設定し、前記ITO薄膜の上に正孔輸送材料であるNPBを、0.1nm/秒の蒸着速度で膜厚が40nmとなるように蒸着させた。このようにして形成させた正孔輸送層の上に、発光層及び電子輸送層とするAlq3を60nmの膜厚となるように蒸着させた。尚、前記のガラス基板はITO(インジウム錫酸化物)膜と基体とからなり、そのITO膜の抵抗値は50Ω、膜厚は150nmであった。
3)電子注入層の製作:
電子輸送層を蒸着した後、電子注入層として、蒸着速度が0.0006nm/秒で蒸着温度が250℃の条件で、Li3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着させた。
4)陰極の製作:
本発明の有機発光素子の陰極を、1.0nm/秒の蒸着速度で形成した、150nmの膜厚のAl薄膜で構成した。
5)ガラス封止板で封止した。
【実施例12】
【0040】
1)素子の構成:
ITO/NPB(40nm)/Alq3(60nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、蒸着速度が0.002nm/秒、蒸着温度が300℃の条件で、電子注入層としてLi3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着させたこと以外は、実施例11と同様にして素子を製造した。
【実施例13】
【0041】
1)素子の構成:
ITO/NPB(40nm)/Alq3(60nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、蒸着速度が0.008nm/秒、蒸着温度が350℃の条件で、電子注入層としてLi3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着させたこと以外は、実施例11と同様にして素子を製造した。
【実施例14】
【0042】
1)素子の構成:
ITO/NPB(40nm)/Alq3(60nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、蒸着速度が0.020nm/秒、蒸着温度が400℃の条件で、電子注入層としてLi3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着させたこと以外は、実施例11と同様にして素子を製造した。
【実施例15】
【0043】
1)素子の構成:
ITO/NPB(40nm)/Alq3(60nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、蒸着速度が0.125nm/秒、蒸着温度が450℃の条件で、電子注入層としてLi3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着させたこと以外は、実施例11と同様にして素子を製造した。
【実施例16】
【0044】
1)素子の構成:
ITO/NPB(40nm)/Alq3(60nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)電子輸送層を蒸着した後、蒸着速度が0.250nm/秒、蒸着温度が500℃の条件で、電子注入層としてLi3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着させたこと以外は、実施例11と同様にして素子を製造した。
【0045】
Li3Nの蒸着条件が異なった、実施例11〜16で得られた各素子の性能は、下記表4に示した通りである。
【表4】

【0046】
表4の結果から、Li3Nの蒸着温度が350〜500℃、蒸着速度が0.008〜0.250nm/秒の条件で得られる素子の発光効率は、蒸着温度が350℃未満や500℃を超える条件で得られる素子の発光効率より著しく高いことが確認された。また、素子の寿命も、Li3Nの蒸着温度が350〜500℃、蒸着速度が0.008〜0.250nm/秒である場合に、他の条件で得た素子の寿命より著しく長いことが分かる。更に、表3と表4の比較から、発光層に染料を混合した素子の寿命が、染料を含んでいない素子の寿命より著しく長いことが確認された。
【実施例17】
【0047】
1)素子の構成:
ITO/NPB(40nm)/Alq3(60nm):DMQA[0.7%]/Al(5nm):Li3N[50%]/Al(150nm)
但し、Alq3(60nm):DMQA[0.7%]は、発光層の厚さが60nmであり、発光層に緑色光染料DMQAを0.7重量%含有することを意味する。以下も同様である。また、Al(5nm):Li3N[50%]は発光層の厚さが5nmであり、電子注入層にAlを50重量%含有することを意味する。
2)有機発光層の製作
前処理後のガラス基板を真空チャンバー内に置いて、真空度を1×10-3Paに設定した。前記ITO薄膜の上に、0.1nm/秒の蒸着速度で正孔輸送材料であるNPBを蒸着し、膜厚40nmの正孔輸送層を設けた。このようにして形成された正孔輸送層の上に、発光層及び電子輸送層としてAlq3を60nmの膜厚となるように蒸着し、更に、該層中に緑色光染料DMQAを0.7重量%混合した。尚、前記したガラス基板はITO(インジウム錫酸化物)膜と基板とからなり、該ITO膜の抵抗値は50Ω、膜厚は150nmであった。
3)電子注入層の製作:
電子輸送層を蒸着した後、蒸着速度0.025nm/秒、蒸着温度450℃の条件で、Alを50重量%混合したLi3Nを電子注入層として5nmの膜厚となるように蒸着した。
4)陰極の製作:
本発明の有機発光素子の陰極を、1.0nm/秒の蒸着速度で形成した、膜厚150nmのAl薄膜で構成した。
5)ガラス封止板で封止した。
6)素子の発光効率は7.5cd/Aであり、素子の寿命は10000時間であった。
【実施例18】
【0048】
1)素子の構成:
ITO/NPB(40nm)/Alq3(60nm):DMQA[0.7%]/Al(0.8nm):Li3N[20%]/Al(150nm)
但し、Al(0.8nm):Li3N[20%]は、電子注入層の厚さが0.8nmであり、電子注入層にAlを80重量%含有することを意味する。
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層として、蒸着速度が0.02nm/秒、蒸着温度が400℃の条件で、Alを80重量%混合したLi3N層を0.8nmの膜厚となるように蒸着させたこと以外は、実施例17と同様にして素子を得た。得られた素子の発光効率は7.2cd/Aであり、素子の寿命は9800時間であった。
【実施例19】
【0049】
1)素子の構成:
ITO/NPB(40nm)/Alq3(60nm):DMQA[0.7%]/Al(0.9nm):Li3N[80%]/Al(150nm)
但し、Al(0.9nm):Li3N[80%]は、電子注入層の厚さが0.9nmであり、該電子注入層にAlが20重量%含有されることを意味する。
2)電子輸送層を蒸着した後、電子注入層として、蒸着速度が0.008nm/秒、蒸着温度が350℃の条件で、Alを20重量%混合したLi3N層を、0.9nmの膜厚となるように蒸着させたこと以外は、実施例17と同様にして素子を製造した。得られた素子の発光効率は7.0cd/Aであり、寿命は9500時間であった。
【実施例20】
【0050】
1)素子の構成:
ITO/Alq3(30nm):DMQA[0.7%]/Li3N(0.9nm)/Al(150nm)
2)有機発光層の製作
前処理後のガラス基板を真空チャンバー内に置いて、真空度を1×10-3Paに設定した。前記ITO薄膜の上に、発光層としてAlq3を30nmの膜厚となるように蒸着し、形成された膜中に、緑色光染料DMQAを0.7重量%混合した。
尚、前記したガラス基板はITO(インジウム錫酸化物)膜と基体とからなり、そのITO膜の抵抗値は50Ω、膜厚は150nmであった。
3)電子注入層の製作:
電子輸送層を蒸着した後、蒸着速度0.025nm/秒、蒸着温度450℃の条件で、電子注入層としてLi3Nを0.9nmの膜厚となるように蒸着した。
4)陰極の製作:
本発明の有機発光素子の陰極を、1.0nm/秒の蒸着速度で形成した、150nmの膜厚のAl薄膜で構成した。
5)ガラス封止板で封止した。
6)素子の発光効率は6.5cd/Aであり、寿命は7000時間であった。
【実施例21】
【0051】
1)素子の構成:
ITO/DNTPD(100nm)/NPB(20nm)/Alq3(30nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)有機発光層の製作
前処理後のガラス基板を真空チャンバー内に置いて、真空度を1×10-3Paに設定した。前記したITO薄膜上に、0.09nm/秒の蒸着速度で、正孔注入層となるDNTPD薄膜を100nmの厚みとなるように蒸着した。次に、形成した薄膜の上に正孔輸送材料であるNPBを0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着し、膜厚が20nmの正孔輸送層を形成した。その後、該正孔輸送層の上に、発光層としてAlq3を30nmの膜厚となるように蒸着した。尚、前記したガラス基板は、ITO(インジウム錫酸化物)膜と基体とからなり、そのITO膜の抵抗値は50Ω、膜厚は150nmであった。
3)電子注入層の製作:
電子輸送層を蒸着した後、蒸着速度0.008nm/秒、蒸着温度350℃の条件で、電子注入層としてLi3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着させた。
4)陰極の製作:
本発明の有機発光素子の陰極を、1.0nm/秒の蒸着速度で形成した、膜厚150nmのAl薄膜で構成した。
5)ガラス封止板で封止した。
6)素子の発光効率は7.0cd/Aであり、寿命は9500時間であった。
【実施例22】
【0052】
1)素子の構成:
ITO/MTDATA(30nm)/Alq3(30nm)/Alq3(20nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)有機発光層の製作
前処理後のガラス基板を真空チャンバー内に置いて、真空度を1×10-3Paに設定した。0.1nm/秒の蒸着速度でMTDATA薄膜を30nmとなるように蒸着し、正孔輸送層とした。次に、得られた正孔輸送層の上に、発光層としてAlq3を30nmの膜厚となるように蒸着し、続いて、電子輸送層として、Alq3を20nmとなるように蒸着した。尚、前記したガラス基板は、ITO(インジウム錫酸化物)膜と基体とからなり、そのITO膜の抵抗値は50Ω、膜厚は150nmであった。
3)電子注入層の製作:
電子輸送層を蒸着した後、電子注入層として、蒸着速度が0.008nm/秒、蒸着温度が350℃の条件で、Li3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着させた。
4)陰極の製作:
本発明の有機発光素子の陰極を、1.0nm/秒の蒸着速度で形成した、膜厚150nmのAl薄膜で構成した。
5)ガラス封止板で封止した。
6)素子の発光効率は7.0cd/Aであり、寿命は9500時間であった。
【実施例23】
【0053】
1)素子の構成:
ITO/MTDATA(30nm)/Alq3(30nm)/Li3N(0.8nm)/Al(150nm)
2)有機発光層の製作
前処理後のガラス基板を真空チャンバー内に置いて、真空度を1×10-3Paに設定した。0.1nm/秒の蒸着速度でMTDATA薄膜を30nmとなるように蒸着し、正孔輸送層とした。次に、このようにして形成した薄膜の上に、発光層としてAlq3を30nmの膜厚となるように蒸着した。尚、前記したガラス基板は、ITO(インジウム錫酸化物)膜と基体とからなり、そのITO膜の抵抗値は50Ω、膜厚は150nmであった。
3)電子注入層の製作:
電子輸送層を蒸着した後、蒸着速度が0.008nm/秒、蒸着温度が350℃の条件で、電子注入層としてLi3Nを0.8nmの膜厚となるように蒸着させた。
4)陰極の製作:
本発明の有機発光素子の陰極を、1.0nm/秒の蒸着速度で形成した、膜厚150nmのAl薄膜で構成した。
5)ガラス封止板で封止した。
6)素子の発光効率は7.0cd/Aであり、寿命は9500時間であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、輝度と発光効率が高いだけでなく、素子の寿命が長い上、材料の毒性が小さいので極めて有用である。更に、従来厳しく膜厚を管理しなければならなかった電子注入層の膜厚に対する許容度が広い上その成膜温度が従来より低いので、製造適正にも優れており、本発明は産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1はOLEDの層の構成を示す図。
【図2】図2は、実施例6及び比較例4の素子の電流効率−電流密度の対照図。
【図3】図3は、実施例6及び比較例4の素子のパワー効率−電流密度の対照図。
【図4】図4は、実施例6及び比較例4の素子の寿命の対照図。
【図5】図5は本発明における、異なった厚さのLi3N電子注入層を含む素子の電流効率−電流密度の対照図。
【符号の説明】
【0056】
101 基体
102 陽極
103 正孔注入層
104 正孔輸送層
105 発光層
106 電子輸送層
107 電子注入層
108 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体(101)、基体の上に形成された陽極(102)、陽極の上に形成された発光層(105)、発光層の上に形成された電子注入層(107)、及び電子注入層の上に形成された陰極(108)とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記電子注入層(107)がアルカリ金属窒化物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記アルカリ金属窒化物が、Li3N、Na3N、K3N、Rb3N、Cs3Nの何れか一つであると共に、前記電子注入層(107)の厚さが0.2〜10nmである、請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電子注入層(107)の厚さが0.2〜2.0nmである、請求項1または2に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電子注入層(107)の厚さが0.2〜0.9nmである、請求項3に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記電子注入層(107)が更にAlを20〜80重量%含む、請求項1又は2に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記陽極(102)と発光層(105)との間に、更に正孔注入層(103)及び/又は正孔輸送層(104)が配置されたことを特徴とする、請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記発光層(105)と電子注入層(107)との間に、更に電子輸送層(106)が配置されたことを特徴とする、請求項1又は6に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光層(105)が染料を含むことを特徴とする、請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
(1)陽極と基材とからなる基板を、洗浄し乾燥した後、真空チャンバーに置いて、有機発光層を蒸着する、或いは、
陽極と基材とからなる基板を、洗浄し乾燥した後、真空チャンバーに置いて、正孔注入層及び/又は正孔輸送層を順次蒸着し、次いで更に有機発光層を蒸着する工程、
(2)前記有機発光層の上に、0.08〜2.50Å/秒の蒸着速度、350〜500℃の蒸着温度で、0.2〜10nmの厚さの電子注入層を蒸着する、或いは、前記有機発光層の上に前記電子輸送層と電子注入層を順次蒸着する工程、及び、
(3)前記電子注入層の上に陰極材料を蒸着する工程を含むことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−352072(P2006−352072A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22504(P2006−22504)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【出願人】(504337718)北京維信諾科技有限公司 (7)
【Fターム(参考)】