説明

有機エレクトロルミネッセンス装置及びその製造方法、電子機器

【課題】発光素子の劣化を防止するとともに、発光光の取り出し効率を向上させて高精細及び広視野角を確保可能な有機エレクトロルミネッセンス装置及びその製造方法、電子機器を提供する。
【解決手段】陽極10と陰極11との間に発光層12を挟持した複数の発光素子21と、複数の発光素子21を被覆する封止層と、を有する素子基板20Aと、素子基板20Aに対向配置され、複数の着色層37と、複数の着色層37間を区画するブラックマトリクス層32と、を有する封止基板31と、を備え、素子基板20A及び封止基板31は、素子基板20A及び封止基板31の周辺部に設けられる周辺シール層33と、周辺シール層33より内側の画素領域に設けられるとともに周辺シール層33よりも低い弾性率を有する透光性接着層34と、を介して貼り合わされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置及びその製造方法、電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。この様な平面表示装置の一つとして、有機発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下「有機EL装置」という)が知られている。
【0003】
有機EL装置の発光層、正孔注入層、電子注入層に用いられる材料は、大気中の水分や酸素と反応し、劣化し易いものが多い。これらの層が劣化すると、有機EL装置に、いわゆる「ダークスポット」と呼ばれる非発光領域が形成されてしまい、発光素子としての寿命が短くなってしまう。そのため、例えば、上記発光層等を缶封止する構造(例えば、特許文献1)や、発光層等を防湿性に優れた薄膜で発光素子を封止する構造が提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2006−294534号公報
【特許文献2】特開2001−230086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、有機EL装置が、発光素子及び発光素子を封止する封止層(上記薄膜)を備えた素子基板と、これに対向配置される封止基板とが、例えば封止層上を覆う接着層を介して貼り合わされる場合、接着層を構成する材料液が完全に固化する前に、基板同士を貼り合わせた状態で素子基板と封止基板とのアライメント位置を調整する場合がある。このとき、基板同士を面方向にずらすと、接着層と発光素子を封止している封止層との境界面に掛かる力によって、発光素子を封止している封止層が損傷してしまう虞がある。さらに、このとき、周辺シール剤の土手機能が損なわれて材料液のはみ出し等が発生する恐れがある。
【0005】
また、接着層の弾性によって、調整後の位置から基板が戻ろうとする力が働いてしまい、アライメント精度が低下してしまう虞もあった。これにより、表示の精細が低下するとともに視野角が狭くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、水分等の影響を防止しつつ、発光光の取り出し効率を向上させて高精細及び広視野角を確保可能な有機エレクトロルミネッセンス装置及びその製造方法、電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置は、上記課題を解決するために、一対の電極の間に有機発光層を挟持した複数の発光素子と、前記複数の発光素子を被覆する封止層と、を有する素子基板と、前記素子基板に対向配置され、複数の着色層と、前記複数の着色層間を区画する遮光層と、を有する封止基板と、を備え、前記素子基板及び前記封止基板は、前記素子基板及び前記封止基板の周辺部に設けられる周辺シール層と、前記周辺シール層より内側の画素領域に設けられるとともに前記周辺シール層よりも低い弾性率を有する透光性接着層と、を介して貼り合わされていることを特徴とする。
【0008】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置によれば、周辺シール層よりも透光性接着層の弾性率の方が低いので、例えば素子基板と封止基板とを貼り合わせた後に互いのアライメント位置を調整する際や、外部からの衝撃が加わった際に、接着層と封止層との界面における応力を緩和することができる。これにより、封止層が損傷してしまうのを防止することができ、水分や酸素等の侵入による発光素子の劣化防止が可能となる。また、調整後の位置から基板同士が戻ろうとする力も緩和されるため、例えば素子基板と封止基板とのアライメント位置の調整を良好に行うことができる。これにより、発光素子と着色層との対向位置を精度良く調整することができ、発光光の取り出し効率を向上させることが可能となる。よって、高精細及び広視野角を確保可能な装置が得られる。
【0009】
また、透光性接着層が、エラストマー樹脂を主成分とする材料から構成されていることが好ましい。
このような構成によれば、弾性率の小さいエラストマー樹脂、すなわち伸び率の高いゴム状の弾性体からなるため、アライメント位置調整時に封止層が損傷してしまうのを防止できる。また、透光性接着層が固体状であるため、圧着時の接着層のはみ出しも防ぐことができる。
【0010】
また、透光性接着層を構成するエラストマー樹脂が、アクリル系樹脂あるいはシリコーン系樹脂であることが好ましい。
このような構成によれば、透光性接着層の透光性、耐熱性が高く、周辺シール層を形成する際に行われる紫外線照射によって変色を起こさないため、高輝度発光が可能となり、所望とする発光色を得ることができる。
【0011】
また、透光性接着層には、弾性率調整剤が添加されていることが好ましい。
このような構成によれば、弾性率調整剤を添加することによって、透光性接着層の弾性率を調整することができる。一般的に、弾性率調整材の添加量を増やすことによって弾性率を大きくすることができる。
【0012】
また、透光性接着層の弾性率は、0.01〜1GPaの範囲内であって、周辺シール層の弾性率は、1GPa以上であることが好ましい。
このような構成によれば、透光性接着層の弾性率が、0.01GPaより小さいと耐熱性が不足して剥離を起こす可能性がある。また、1GPaより大きくなると、基板同士のアライメント位置を調整する際に封止層にダメージを与えてしまう虞がある。
また、周辺シール層の弾性率が1GPa以上であるため、土手機能が十分に発揮されて、透光性接着層のはみ出しを防ぐことができる。
【0013】
また、透光性接着層の膜厚が、2〜5μmの範囲内であることが好ましい。
このような構成によれば、遮光層及び着色層の表面上における凹凸を緩和して平坦化することができる。これにより、透光性接着層内に気泡が混入することが防止され、基板同士を良好に接着することができる。透光性接着層の膜厚が2μmよりも薄くなると、上記凹凸を吸収できず気泡が残留しやすくなる。また、透光性接着層の膜厚が5μmよりも厚くなると着色層と発光素子との距離が遠くなり、隣接画素に光漏れが生じる虞がある。
【0014】
また、透光性接着層が、ギャップ材を含まない接着剤を用いて形成されていることが好ましい。
このような構成によれば、従来のように、接着剤中に無機材料及び有機材料からなるギャップ材が含まれていないため、圧着時(基板同士の貼り合わせ時)に、接着剤中の充填物によって封止層がダメージを受けることを防止することができる。
【0015】
また、封止層が、発光素子の電極を被覆する電極保護層と、電極保護層を被覆する有機緩衝層と、有機緩衝層を被覆するガスバリア層と、を有することが好ましい。
このような構成によれば、素子基板と封止基板との間に、発光素子の電極を被覆する電極保護層と、電極保護層を被覆する有機緩衝層と、有機緩衝層を被覆するガスバリア層の少なくとも3層が積層されている封止層が形成されているため、発光素子が形成された素子基板上を平坦化させることでガスバリア層の欠陥を防ぐことができ、発光素子への水分の浸入を防ぐことができる。
また、遮光層が、有機緩衝層及びガスバリア層よりも弾性率の低い材料から構成されているため、基板同士の接合時の荷重を吸収することが可能になり、ガスバリア層が損傷することを防止することができる。
【0016】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、上記課題を解決するために、複数の発光素子及び複数の発光素子を被覆する封止層を有する素子基板と、複数の着色層及び遮光層を有する封止基板とを、素子基板及び封止基板の周辺部に設けられる周辺シール層と、画素領域に設けられ且つ周辺シール層よりも低い弾性率を有する透光性接着層と、を介して貼り合わせる工程と、封止基板と素子基板とのアライメント位置を調整する工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法によれば、素子基板と封止基板とを貼り合わせた後に互いのアライメント位置を調整する際や、外部から何らかの力が加わった際に、接着層と封止層との界面における応力を緩和することができる。これにより、封止層が損傷することを防止することができる。また、調整後の位置から基板同士が戻ろうとする力が働くことが防止され、例えば基板同士のアライメント位置を精度良く行うことができる。これにより、発光光の取り出し効率を向上させることができ、高精細及び広視野角を確保可能な装置が得られる。
【0018】
また、画素領域に透光性接着層を形成した後、素子基板と封止基板との周辺部に周辺シール層を形成することが好ましい。
また、画素領域内に透光性接着層を先に形成することにより、周辺シール層の形成材料中に不純物が混入することを防止することができる。よって、周辺シール層の接着性能が確保される。
【0019】
本発明の電子機器は、先に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、信頼性に優れ、かつ表示品質にも優れた表示部を具備した電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳しく説明する。
なお、この実施の形態は、本発明の一部の態様を示すものであり、本発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下に示す各図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を異ならせてある。
【0021】
(有機EL装置の第1実施形態)
まず、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、「有機EL装置」と言う)の第1実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の有機EL装置の配線構造を示す模式図であり、図1において符号1は有機EL装置である。
【0022】
この有機EL装置1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと称する。)を用いたアクティブマトリクス方式のもので、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とからなる配線構成を有し、走査線101と信号線102との各交点付近に画素領域Xを形成したものである。
【0023】
もちろん本発明の技術的思想に沿えば、TFTなどを用いるアクティブマトリクスは必須ではなく、単純マトリクス向けの素子基板を用いて本発明を実施し、単純マトリクス駆動しても全く同じ効果が低コストで得られる。
【0024】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続されている。
【0025】
さらに、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(スイッチング素子)112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から共有される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT(スイッチング素子)123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む陽極10(電極)と、該陽極10と陰極11(電極)との間に挟み込まれた発光層12(有機発光層)が設けられている。
【0026】
この有機EL装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から陽極10に電流が流れ、さらに発光層12を介して陰極11に電流が流れる。発光層12は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0027】
次に、本実施形態の有機EL装置1の具体的な態様を、図2〜図4を参照して説明する。ここで、図2は有機EL装置1の構成を模式的に示す平面図である。図3は有機EL装置1を模式的に示す断面図である。図4は、図3の要部(A部)を示す図であって、有機EL装置1の周辺部の構成を説明するための拡大断面図である。
【0028】
まず、図2を参照し、有機EL装置1の構成を説明する。
図2は、基板本体20上に形成された前述した各種配線,TFT,各種回路によって、発光層12を発光させるTFT素子基板(以下「素子基板」という。)20Aを示す図である。
有機EL装置の素子基板20Aは、中央部分の実表示領域4(図2中二点鎖線枠内)と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線および二点鎖線の間の領域)とを備えている。
【0029】
図1に示す画素領域Xからは、赤(R)、緑(G)または青(B)のいずれかの光が取り出され、図2に示す表示領域RGBが形成されている。実表示領域4においては、表示領域RGBがマトリクス状に配置されている。また、表示領域RGBの各々は、紙面縦方向において同一色で配列しており、いわゆるストライプ配置を構成している。そして、表示領域RGBが一つのまとまりとなって、表示単位画素が構成されており、該表示単位画素はRGBの発光を混色させてフルカラー表示を行うようになっている。
【0030】
実表示領域4の図2中両側であってダミー領域5の下層側には、走査線駆動回路80が配置されている。また、実表示領域4の図2中上方側であってダミー領域5の下層側には、検査回路90が配置されている。この検査回路90は、有機EL装置1の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(不図示)を備え、製造途中や出荷時における有機EL装置1の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されている。
【0031】
(断面構造)
次に、図3を参照して、有機EL装置1の断面構造を説明する。
本実施形態における有機EL装置1は、いわゆる「トップエミッション構造」の有機EL装置である。トップエミッション構造は、光を素子基板側ではなく封止基板側から取り出すため、素子基板に配置された各種回路の大きさに影響されず、発光面積を広く確保できる効果がある。そのため、電圧及び電流を抑えつつ輝度を確保することが可能であり、発光素子の寿命を長く維持することができる。
この有機EL装置1は、陽極10と陰極11(一対の電極)の間に発光層12(有機発光層)を挟持した複数の発光素子21及び発光素子21を区切る画素隔壁13を有する素子基板20Aと、この素子基板20Aに対向配置された封止基板31と、が設けられている。
【0032】
(素子基板)
図3に示すように、有機EL装置1は、前述した各種配線(例えば、TFT(不図示)等)が形成された素子基板20A上に、窒化珪素等からなる無機絶縁層14が被覆されている。また、無機絶縁層14にはコンタクトホール(不図示)が形成され、前述した陽極10が駆動用TFT123に接続されている。無機絶縁層14上にはアルミ合金等からなる金属反射板15が内装された平坦化層16が形成されている。
この平坦化層16上には、陽極10と陰極11が発光層12を挟持して形成された発光素子21が構成されている。また、この発光素子21を区分するように絶縁性の画素隔壁13が配置されている。
【0033】
本実施形態において、陽極10には、仕事関数が5eV以上の正孔注入層の高いITO(Indium Thin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物導電層が用いられる。
なお、本実施形態においては、トップエミッション構造のため、陽極10は必ずしも光透過性を有する材料を用いる必要はなく、アルミ等からなる金属電極を用いてもよい。この構成を採用した場合は、前述した金属反射板15は設けなくてよい。
【0034】
陰極11を形成するための材料としては、本実施形態はトップエミッション構造であることから光透過性を有する材料である必要があり、したがって透光性導電材料が用いられる。透光性導電材料としては、ITOが好適とされるが、これ以外にも、例えば酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス導電膜(Indium Zinc Oxide:IZO/アイ・ゼット・オー(登録商標))等を用いることができる。なお、本実施形態ではITOを用いるものとする。
【0035】
また、陰極11は、電子注入効果の大きい(仕事関数が4eV以下)材料が好適に用いられる。例えば、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、又はこれらの金属化合物である。金属化合物としては、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が該当する。また、これらの材料だけでは、電気抵抗が大きく電極として機能しないため、発光部分を避けるようにアルミニウムや金、銀、銅などの金属層をパターン形成したり、ITOや酸化錫などの透光性を有する金属酸化物導電層との積層体と組み合わせて用いてもよい。
なお、本実施形態では、フッ化リチウムとマグネシウム−銀合金、ITOの積層体を、透光性が得られる膜厚に調整して用いるものとする。
【0036】
発光層12は、白色に発光する白色発光層を採用している。この白色発光層は、真空蒸着プロセスを用いて素子基板20Aの全面に形成されている。白色発光材料としては、スチリルアミン系発光材料,アントラセン系ドーパント(青色)、及びスチリルアミン系発光材料,ルブレン系ドーパント(黄色)等が用いられる。
なお、発光層12の下層或いは上層に、トリアリールアミン(ATP)多量体正孔注入層、TPD(トリフェニルジアミン)系正孔輸送層、アルミニウムキノリノール(Alq)層(電子輸送層)を成膜することが好ましい。
【0037】
また、素子基板20A上には、電極保護層17(封止層)が形成され発光素子21及び画素隔壁13を被覆している。
この電極保護層17は、透光性や密着性、耐水性、ガスバリア性を考慮して珪素酸窒化物などの珪素化合物で構成することが望ましい。また、電極保護層17の膜厚は100nm以上が好ましく、画素隔壁13を被覆することで発生する応力によるクラック発生を防ぐため、膜厚の上限は200nm以下に設定することが好ましい。
なお、本実施形態においては、電極保護層17を単層で形成しているが、複数層で積層してもよい。例えば、低弾性率の下層と高耐水性の上層とで電極保護層17を構成してもよい。
【0038】
電極保護層17上には、有機緩衝層18(封止層)が形成され電極保護層17を被覆している。この有機緩衝層18は、画素隔壁13の形状の影響により、凹凸状に形成された電極保護層17の凹凸部分を埋めるように配置され、さらに、その上面は略平坦に形成される。
有機緩衝層18は、素子基板20Aの反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、不安定な形状の画素隔壁13からの電極保護層17の剥離を防止する機能を有する。また、有機緩衝層18の上面が略平坦化されるので、有機緩衝層18上に形成される硬い被膜からなる後述するガスバリア層19(封止層)も平坦化される。したがって、応力が集中する部位がなくなり、これにより、ガスバリア層19でのクラックの発生を防止する。
【0039】
有機緩衝層18は、硬化前の原料主成分としては、減圧雰囲気下でスクリーン印刷法により形成するために、流動性に優れ、かつ溶媒や揮発成分の無い、全てが高分子骨格の原料となる有機化合物材料である必要があり、好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000〜3000)。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0040】
また、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤としては、電気絶縁性や接着性に優れ、かつ硬度が高く強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが良く、透光性に優れ、かつ硬化のばらつきの少ない付加重合型がよい。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。さらに、酸無水物の反応(開環)を促進する反応促進剤として1,6−ヘキサンジオールなど分子量が大きく揮発しにくいアルコール類やアミノフェノールなどのアミン化合物を微量添加することで低温硬化しやすくなる。これらの硬化は60〜100℃の範囲の加熱で行われ、その硬化被膜はエステル結合を持つ高分子となる。
また、硬化時間を短縮するためよく用いられるカチオン放出タイプの重合開始剤を用いてもよいが、硬化収縮が急激に進まないよう反応の遅いものが良く、また、塗布後の加熱による粘度低下で平坦化を進めるように最終的には熱硬化を用いて硬化物を形成するものが好ましい。
【0041】
さらに、電極保護層17やガスバリア層19との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物などの捕水剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加物を混入しても良い。また、減圧雰囲気下で印刷形成するため、塗布した際に気泡が発生しにくくするために、含水量は10ppm以下に調整しておく。
【0042】
これらの原料毎の粘度は、1000mPa・s(室温:25℃)以上が好ましい。塗布直後に発光層12へ浸透して、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を発生させないためである。また、これらの原料を混合した緩衝層形成材料の粘度としては、500〜20000mPa・s、特に2000〜10000mPa・s(室温)が好ましい。
【0043】
また、有機緩衝層18の最適な膜厚としては、2〜5μmが好ましい。有機緩衝層18の膜厚が厚いほうが異物混入した場合等にガスバリア層19の欠陥を防ぐが、有機緩衝層18を合わせた層厚が5μmを超えると、後述する着色層37と発光層12の距離が広がり側面に逃げる光が増えるため光を取り出す効率が低下する。
また、硬化後の特性としては、有機緩衝層18の弾性率が1〜10GPaであることが好ましい。10GPa以上では、画素隔壁13上を平坦化した際の応力を吸収することができず、1GPa以下では耐摩耗性や耐熱性等が不足するためである。
【0044】
有機緩衝層18上には、有機緩衝層18を被覆し、かつ電極保護層17の終端部まで覆うような広い範囲で、ガスバリア層19が形成されている。
ガスバリア層19は、酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、これにより酸素や水分による発光素子21の劣化等を抑えることができる。ガスバリア層19は、透光性、ガスバリア性、耐水性を考慮して、好ましくは窒素を含む珪素化合物、すなわち珪素窒化物や珪素酸窒化物などによって形成される。
【0045】
ガスバリア層19の弾性率は、100GPa以上、具体的には200〜250GPa程度が好ましい。また、ガスバリア層19の膜厚は、200〜600nm程度が好ましい。
200nm未満であると、異物に対する被覆性が不足し部分的に貫通孔が形成されてしまい、ガスバリア性が損なわれてしまうおそれがあるからであり、600nmを越えると、応力によるクラックが生じてしまうおそれがあるからである。
【0046】
さらに、ガスバリア層19としては、積層構造としてもよいし、その組成を不均一にして特にその酸素濃度が連続的に、あるいは非連続的に変化するような構成としてもよい。
なお、積層構造とした場合の膜厚は、第一ガスバリア層としては、200〜400nmが好ましく、200nm未満では有機緩衝層18の表面及び側面被覆が不足してしまう。異物等の被覆性を向上させる第二ガスバリア層としては、200〜800nmが好ましい。
総厚1000nm以上を超えるとクラックの発生頻度が上がること及び経済的な面で好ましくない。
【0047】
また、本実施形態では、有機EL装置1をトップエミッション構造としていることから、ガスバリア層19は光透過性を有する必要があり、したがってその材質や膜厚を適宜に調整することにより、本実施形態では可視光領域における光線透過率を例えば80%以上にしている。
【0048】
(封止基板)
さらに、ガスバリア層19が形成された素子基板20Aに封止基板31が対向配置されている。
この封止基板31は、発光光を取り出す表示面を有するため、ガラスまたは透明プラスチック(ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネ―ト、ポリオレフィン等)などの光透過性を有する材料で構成されている。
【0049】
封止基板31の下面には、カラーフィルタを構成する着色層37として、赤色着色層37R、緑色着色層37G、青色着色層37Bがマトリクス状に配列形成されている。着色層37の膜厚は、0.1〜1.5μm程度で各色毎に調整されている。また、その幅は、10〜15μm程度で設定されることが好ましい。
【0050】
着色層37の各々は、陽極10上に形成された白色の発光層12に対向して配置されている。これにより、発光層12の発光光が、着色層37の各々を透過し、赤色光、緑色光、青色光の各色光として観察者側に出射するようになっている。
【0051】
着色層37の周囲には、ブラックマトリクス層32(遮光層)が形成されている。ブラックマトリクス層32は、着色層37と同様かそれ以上の膜厚で形成されている。さらに、後述する有機EL装置1の周辺部の額縁部(非発光部分)D(図4参照)からの光が漏洩しないように、周辺シール層33の幅内がブラックマトリクス層32で覆われている場合もある。
【0052】
このように、有機EL装置1においては、発光層12の発光光を利用し、かつ、複数色の着色層37によってカラー表示を行うようになっている。
なお、封止基板31には、着色層37の他に、紫外線遮断、吸収層や、光反射防止膜、放熱層などの機能層を設けてもよい。
【0053】
素子基板20Aと封止基板31との間の周辺部には、周辺シール層33が設けられている。
この周辺シール層33は、素子基板20Aと封止基板31の貼り合わせの位置精度の向上と後述する透光性接着層34のはみ出しを防止する土手の機能を有し、紫外線によって硬化して粘度が向上するエポキシ材料等で構成されている。好ましくは、エポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000〜3000)。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0054】
また、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤としては、ジアゾニウム塩、ジフェニルヨウドニウム塩、トリフェルスルフォニウム塩、スルホン酸エステル、鉄アレーン錯体、シラノール/アルミニウム錯体などのカチオン重合反応を起こす光反応型開始剤が好ましい。また、塗布時の粘度は、2万〜20万mPa・s(室温)が好ましく、4万〜10万mPa・sがさらに好ましい。紫外線照射後に徐々に粘度が上昇する材料を用いると、1mm以下の細いシール幅でも周辺シール層33の断裂を防ぎ、貼り合わせ後の充填剤のはみ出しを防ぐことができる。また、貼り合わせ時に減圧した際に気泡が発生しにくくするため、含水量は1000ppm以下に調整された材料であることが好ましい。
【0055】
また、周辺シール層33の膜厚としては15μm以下が好ましく、周辺シール層33の弾性率としては1GPa以上が好ましい。
なお、一般的な接着剤に多く含まれる粘土鉱物やシリカボール、樹脂ボールなどのギャップ材(フィラー)は、前述したガスバリア層19が貼り合わせ圧着時に損傷してしまうため、本実施形態ではギャップ材が含有されていない紫外線硬化性樹脂からなる接着剤を用いる。
【0056】
また、素子基板20Aと封止基板31の間における周辺シール層33に囲まれた内部に、熱硬化性樹脂からなる透光性接着層34が形成されている。
この透光性接着層34は、前述した周辺シール層33で囲まれた有機EL装置1の内部に隙間なく充填されており、素子基板20Aに対向配置された封止基板31を固定させ、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有し、発光層12やガスバリア層19の保護をするものである。
【0057】
さらに、透光性接着層34は、着色層37と発光素子21との距離を一定に保つギャップコントロール機能も有する。但し、隣接画素への光漏れを防止するため、着色層37と発光素子21との距離(基板同士のギャップ)は、着色層37に隣接するブラックマトリクス層32の幅よりも短い距離とする。着色層37と発光素子21との距離をこのように設定すれば、隣接画素方向へ出射された光は、着色層37に隣接するブラックマトリクス層32によって遮ることができる。
【0058】
透光性接着層34は、硬化前の原料主成分としては、平坦性及びパターン塗布適性に優れる有機化合物材料であるとともに、硬化後の弾性率が、周辺シール層33の弾性率よりも小さいエラストマー樹脂である必要がある。例えば、2−エチルヘキシルアクリレート−アクリル酸重合物、ポリ−iso−オクチルアクリレート−アクリル酸重合物などのカルボキシル基を部分的に含むアクリル系樹脂、またはジメチルシロキサンポリマーなどのシリコーン樹脂が好ましい。
上記の樹脂が好ましい理由は、透光性及び耐熱性が高く、周辺シール層33の形成時に行われる紫外線照射によって黄変などの着色を起こさない材料であるからである。
【0059】
また、貼り合わせ時の適度な接着性を確保するため、弾性率調整剤などの添加剤が加えられていても良い。代表的な弾性率調整剤としては、テルペン樹脂やエステル化ロジン樹脂、芳香族石油樹脂、クマロン−インデン芳香族樹脂、ジシクロペンタジエン、スチレン、イソプレン、シクロペンテン、トリメチルシラン修飾シリコーン樹脂などが挙げられる。これらを添加することで弾性率を調整でき、一般に添加量を増やすと弾性率が上がる。
また、上記材料は親油性材料であるため、添加することで透光性接着層34の耐水性を向上させることもできる。
【0060】
透光性接着層34の最適な弾性率としては、0.01〜1GPaの範囲内が好ましい。透光性接着層34の弾性率が0.01GPaより小さいと、耐熱性が不足して剥離を起こす危険がある。また、弾性率が1GPaより高くなると、基板20A,31同士を貼り合わせた後、基板20A,31を平行方向に相対的にずらすことで着色層と発光素子21とのアライメント位置を微調整する際、ガスバリア層19が損傷する可能性がある。
【0061】
透光性接着層34の膜厚としては、ブラックマトリクス層32及び着色層37の表面上における凹凸を吸収するため、それらよりも厚い膜厚である必要があり、2〜5μmの範囲内が好ましい。例えば、膜厚が2μmよりも薄くなると凹凸を吸収できずに当該凹凸部分に気泡が残留しやすくなる。また、膜厚が5μmよりも厚くなると隣接する着色層37(画素)に光が漏れるため好ましくない。また、上記したように、ブラックマトリクス層32の幅よりも薄い膜厚で形成する必要がある。
【0062】
さらに、前述した周辺シール層33と同様に、一般的な接着剤に多く含まれる粘土鉱物やシリカボール、樹脂ボールなどのギャップ材(フィラー)が含有されていない接着剤を用い、ガスバリア層19の損傷を防いでいる。
【0063】
また、塗布時の粘度は、500mPa・s(室温)以下が好ましく、30〜300mPa・s程度がより好ましい。理由は、貼り合わせ後の空間への材料充填性を考慮したもので、加熱直後に一度粘度が下がってから硬化が始まる材料が好ましい。また、貼り合わせ時に減圧した際に気泡が発生しにくくするため、含水量は100ppm以下に調整された材料であることが好ましい。
【0064】
(周辺部の断面構造)
次に、図4を参照して有機EL装置1の周辺部の断面構造を説明する。
図4に示すように、この有機EL装置1の周辺部は、前述した素子基板20Aと封止基板31の間に、電極保護層17、有機緩衝層18、ガスバリア層19、周辺シール層33が順次積層される構成となっている。
【0065】
有機緩衝層18の厚さは、中央部から周辺端部35にかけて小さくなっている。これにより、有機緩衝層18を被覆するガスバリア層19の応力集中によるクラックや剥離等の損傷を防ぐことができる。
【0066】
ここで、ガスバリア層19は、有機緩衝層18を完全に被覆するように有機緩衝層18よりも広く形成されており、このガスバリア層19上に周辺シール層33が配置されている。さらに、周辺シール層33の幅d内に有機緩衝層18の周辺端部35の立ち上がり部分36が位置するように形成されている。このように、有機緩衝層18の周辺端部35を覆うガスバリア層19を周辺シール層33により保護するため、ガスバリア層19の応力集中によるクラックや剥離等の損傷を防ぐことができる。これに伴って、水分がガスバリア層19を透過して発光素子21に到達することを防ぎ、ダークスポットの発生を防ぐことができる。
【0067】
なお、本実施形態におけるガスバリア層19は、周辺シール層33の外周より広く形成されているが、必ずしも周辺シール層33より広く形成する必要はない。つまり、ガスバリア層19の周辺端部38が、有機緩衝層18の周辺端部35よりも広く形成されていればよく、有機緩衝層18の周辺端部35と同様に周辺シール層33の幅d内に形成されていてもよい。また、電極保護層17の幅も有機緩衝層18より広く形成されており、通常、ガスバリア層19と同様のマスク材を使用して形成するため、ガスバリア層19と同じ幅で形成されている。
【0068】
また、この有機EL装置1の周辺部は額縁部(非発光部分)Dとなっている。この額縁部Dは、有機EL装置1の非発光部分であり、例えば、素子基板20A上の最端部に設けられた画素隔壁13から素子基板20Aの端部までの幅である。その額縁部Dは、例えば、2mmで形成され、周辺シール層の幅dは、例えば、1mmで形成されている。
【0069】
(有機EL装置の製造方法)
次に、図5,6を参照して本実施形態における有機EL装置1の製造方法を説明する。
ここで、図5は、有機EL装置1の素子基板20A側の工程図であり、図6は、封止基板31側の工程図である。
【0070】
まず、図5(a)に示すように、陰極11までが積層された素子基板20Aに電極保護層17を形成する。
具体的には、例えば、窒素を含む珪素化合物、すなわち珪素窒化物や珪素酸窒化物などを、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法等の高密度プラズマ成膜法により成膜する。
【0071】
次に、図5(b)に示すように、有機緩衝層18を電極保護層17上に形成する。
具体的には、減圧雰囲気下でスクリーン印刷を行った有機緩衝層18を、60〜100℃の範囲で加熱して硬化させる。この時点の問題点として、加熱直後に反応が開始されるまで一時的に粘度が低下する。この時に、有機緩衝層18の形成材料が電極保護層17や陰極11を透過してAlpなどの発光層12に浸透してダークスポットが発生する。
そこで、ある程度硬化が進むまでは低温で放置し、ある程度高粘度化したところで温度を上げて完全硬化させることが好ましい。
【0072】
次に、図5(c)に示すように、ガスバリア層19を有機緩衝層18上に形成する。
具体的には、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法で形成する。また、形成前には、酸素プラズマ処理によって密着性を向上させると信頼性が向上する。
【0073】
一方、図6(a)に示すように、封止基板31上に、着色層37及びブラックマトリクス層32を形成する。着色層37として、赤色着色層37R、緑色着色層37G、青色着色層37Bをマトリクス状に形成するとともに、各着色層37R,37G,37Bの周囲にブラックマトリクス層32を形成する。
具体的には、各着色層37R,37G,37Bを、陽極10上に形成された白色の発光層12に対向するように形成する。着色層37の膜厚は光透過率を考慮して極力薄い方がよく、赤色着色層37R、緑色着色層37G、青色着色層37Bを、上記した0.1〜1.5μm程度でそれぞれ形成する。
ブラックマトリクス層32は、着色層37と同様かそれ以上の膜厚で形成する。
具体的には、フォトリソグラフィ法やインクジェット法などの印刷法でパターン形成し、使用する材料に応じて塗布量を調整しながら膜厚を適宜調整する。
【0074】
次に、図6(b)に示すように、着色層37及びブラックマトリクス層32の表面上を被覆するようにして透光性接着層34を形成する。
具体的には、まず、形成材料自体にべたつきがあるため有機溶媒等で希釈をすることで粘度を下げておく。そして、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、及びスリットコート法などを用いて着色層37及びブラックマトリクス層32の表面上にパターン塗布する。その後、熱オーブン等で溶媒成分を蒸発させることにより透光性接着層34を形成する。
透光性接着層34は、ガスバリア層19を保護する役割もあり、液状体のままであったりすると高温となる場所に放置された場合に、装置内で液状体が対流してガスバリア層19を損傷する虞があるため、透光性接着層34は必ず固体化させておく。
【0075】
なお、着色層37及びブラックマトリクス層32上に直接塗布するとしたが、一旦、別の基板に透光性接着層34を形成した後に着色層37及びブラックマトリクス層32上に貼り付けるようにしてもよい。但し、有機溶媒によってガスバリア層19が溶解する虞があるため、素子基板20A側に形成することは好ましくない。
【0076】
次に、図6(c)に示すように、着色層37、ブラックマトリクス層32、及び透光性接着層34が形成された封止基板31の周辺部に周辺シール層33を形成する。
具体的には、ニードルディスペンス法により前述した紫外線硬化樹脂(材料液)を封止基板31の周囲に塗布していく。
なお、この塗布方法は、スクリーン印刷法を用いてもよい。
【0077】
次に、図6(d)に示すように、周辺シール層33が塗布された封止基板31に紫外線照射を行う。
具体的には、周辺シール層33の反応を開始させる目的で、例えば、光量500mJ/cmの紫外線を封止基板31上に照射する。この時、紫外線硬化性樹脂である周辺シール層33のみで硬化反応が開始され、徐々に粘度が上昇する。
【0078】
次に、図5(c)に示す、ガスバリア層19までが形成された素子基板20A側と、図6(d)に示す、周辺シール層33の硬化反応が始まった封止基板31とを貼り合わせる。
【0079】
この時、貼り合わせた素子基板20Aと封止基板31とのアライメント位置の微調整を行いながら、素子基板20Aと封止基板31の双方を接近させていく。
具体的には、素子基板20Aと封止基板31とを面方向(平行方向)に相対移動させ、発光素子21と着色層37との対向位置を調整する。例えば、発光素子21と着色層37との位置ずれが2μm以下となるように調整する。このようにして、最終的な位置合わせ(補正)を行う。
そして、周辺シール層33が素子基板20A上に形成した有機緩衝層18の周辺端部35の立ち上がり部分36を完全に被覆するように配置して貼りあわせる。
具体的には、この貼り合わせ工程は、真空度が例えば、1Paの真空雰囲気下で行い、加圧600Nで200秒間保持して周辺シール層33の反応を進めて圧着させる。
【0080】
次に、圧着して貼り合わせた有機EL装置1を大気雰囲気中に戻してから60〜100℃の熱硬化により完全硬化を行う。
【0081】
なお、素子基板20Aと封止基板31との間に真空の空間が存在していても、大気中で熱硬化を行うことにより、周辺シール層33がその空間に入り込む。
以上より、前述した本実施形態における所望の有機EL装置1を得ることができる。
【0082】
したがって、上述の装置及び製造方法によれば、透光性接着層34の弾性率が、周辺シール層33の弾性率よりも低いため、素子基板20Aと封止基板31とを貼り合わせた後に双方のアライメント位置を微調整する際、透光性接着層34とガスバリア層19との界面における応力によってガスバリア層19が損傷するのを防止することができる。すなわち、透光性接着層34は伸び率の高いゴム状の弾性体からなるため、透光性接着層34とガスバリア層19との境界部分に掛かる応力を緩和することができる。また、調整後の位置から基板20A,31同士が元に戻ろうとする作用も緩和されるため、ガスバリア層19を傷付けることなく、発光素子21及び着色層37同士の位置合わせを精度良く行うことができる。
【0083】
このように、ガスバリア層19の損傷を防止して水分の浸入を阻止することによって、発光素子21の劣化を防止することができ、高耐熱性及び高信頼性の装置を得ることができる。また、発光素子21及び着色層37の位置決めを精度良く行うことにより、発光光の取り出し効率が向上し、高精細及び広視野角を確保可能な装置とすることができる。
【0084】
また、透光性接着層34を周辺シール層33よりも先に形成することにより、周辺シール層33に不純物が混入することを防止することができる。これにより、周辺シール層33の良好な接着性を確保することができる。つまり、封止基板31上に、周辺シール層33の形成材料を先に塗布してしまうと、溶媒によって希釈された透光性接着層34の形成材料を塗布して乾燥させる際に、硬化反応前の周辺シール層33の形成材料中に透光性接着層34の形成材料などが混入してしまう虞がある。そのため、異物の混入により周辺シール層33の性能低下を阻止する必要がある。
【0085】
また、透光性接着層34の周囲に、当該透光性接着層34よりも弾性率の高い(1GPa以上の)周辺シール層33を設けることにより、耐熱性及び耐久性を確保できるとともに、最終加熱時に、アライメント位置が調整された状態にある素子基板20Aと封止基板31との位置ズレを防止することができる。
【0086】
また、透光性接着層34を、従来よりも弾性率の小さい材料から形成することにより、その充填性が向上し膜厚調整が容易となる。そのため、従来よりも薄い膜厚の接着層とすることができ、発光素子21と着色層37との距離を狭くすることができる。
【0087】
その結果、視野角を拡大するために、より高精細な画素ピッチにするとともに着色層37の面積(画素面積)を拡大して構成した場合にも、隣接画素への発光漏れが生じない。これにより、発光面積を稼ぐことができるため、低消費電力で高輝度発光が得られるようになる。また、装置全体の薄型化が図れる。
【0088】
また、素子基板20Aと封止基板31を貼り合わせる前に、周辺シール層33に紫外線照射し硬化反応を開始させ、周辺シール層33の粘度を上昇させた後に素子基板20Aと封止基板31を貼り合わせる。そのため、塗布時には粘度が低いため高速で描画動作が行える。また、貼り合わせ時には粘度が上昇するため、貼り合わせ位置精度を向上させるとともに透光性接着層34のはみ出しを防ぐことができる。
【0089】
また、素子基板20Aと封止基板31を貼り合わせた後に、周辺シール層33を完全に硬化させるため、基板20A,31同士の位置精度を維持しつつ接着層としての接着性及び耐熱性、耐湿性を向上させることができる。
以上により、ガスバリア層19を保護することで発光素子21の劣化が防止され、高信頼性の有機EL装置1を得ることができる。
【0090】
上記した製造方法は、周辺シール層33の形成材料として紫外線照射してから徐々に硬化反応が進む材料を用いた場合の方法である。一方、紫外線照射中に硬化が急速に進む材料を用いた場合には、素子基板20Aと封止基板31とを貼り合わせた後、周辺シール層33を仮硬化させる紫外線照射を行う。封止基板31と素子基板20Aとを貼り合わせる工程では、上記同様、真空度が、例えば1Paの真空雰囲気下で行い、加圧600Nで60秒間保持して圧着させる。また、圧着中に位置を固定させなければならないため、周辺シール層33を仮硬化させる工程として、上記同様、例えば光量500mJ/cmの紫外線を圧着中に封止基板31上に照射する。この場合、周辺シール層33を完全に硬化させる前に、素子基板20Aと封止基板31との最終的なアライメント位置の調整を行っておく。その後、圧着して貼り合わせた有機EL装置1に対し、大気雰囲気中において熱硬化によって周辺シール層33を完全に硬化させ、有機EL装置1を完成させる。
【0091】
(有機EL装置の第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態における有機EL装置2について説明する。なお、本実施形態においては、第1実施形態と同一構成には同一符号を付して説明を省略する。ここで、図7は有機EL装置2を模式的に示す断面図である。
【0092】
本発明の第2実施形態における、有機EL装置2は、図7に示すように、有機EL装置1の周辺部の額縁部(非発光部分)Dからの光が漏洩しないように、周辺シール層33の幅内(封止基板31の周辺部)がブラックマトリクス層32で覆われている。
【0093】
このように、周辺シール層33の幅内がブラックマトリクス層32で覆われた構成とすることにより、有機EL装置2の周辺部の額縁部(非発光部分)Dからの光の漏洩を防止することが可能となる。さらに、ブラックマトリクス層32を着色層37よりも厚い膜厚で形成することで、隣接画素への光漏れをより効果的に防止することが可能になる。ブラックマトリクス層32の膜厚は、1〜2μm前後の膜厚が好ましい。ブラックマトリクス層32の膜厚を着色層37よりも厚く形成する場合、着色層37を先に形成しておき、後からブラックマトリクス層32を形成する。
【0094】
透光性接着層34は、ブラックマトリクス層32上における周辺シール層33の形成領域(接触部分)を露出させるようにしてパターン形成されている。透光性接着層34の膜厚は、気泡の混入を避けるために、着色層37及びブラックマトリクス層32の表面上における凹凸を緩和して平坦化することが可能な厚さで形成する。但し、隣接画素への光漏れを確実に防止するため、発光素子21と着色層37とのギャップが着色層37と隣接するブラックマトリクス層32の幅よりも短い距離となるように膜厚を設定する。着色層37と発光素子21との距離をこのように設定すれば、隣接画素方向へ出射された光は、着色層37に隣接するブラックマトリクス層32によって遮ることができる。
【0095】
本実施形態によれば、ブラックマトリクス層32が額縁部Dにも形成されており、且つ、その膜厚が着色層37の膜厚よりも厚く形成されていることから、額縁部Dや隣接画素への光漏れを効果的に防止することが可能である。また、周辺シール層33よりも弾性率の低い透光性接着層34によって、素子基板20Aと封止基板31とのアライメント調整時に、ガスバリア層19が損傷することを防止できる。
【0096】
このように、ガスバリア層19の損傷を防止して水分の浸入を阻止することによって、発光素子21の劣化を防止することができ、高耐熱性及び高信頼性の装置を得ることができる。また、発光素子21及び着色層37の位置決めを精度良く行うことにより、発光光の取り出し効率が向上し、高精細及び広視野角を確保可能な装置とすることができる。
【0097】
なお、ブラックマトリクス層32の端部が着色層37の周辺端部上に乗り上げるように形成してもよい。これにより、発光素子21と着色層37との位置ずれに伴う隣接画素への光漏れをより防止することが可能になる。
【0098】
(電子機器)
次に、上記実施形態の有機EL装置を備えた電子機器の例について説明する。
図8(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図8(a)において、符号50は携帯電話本体を示し、符号51は有機EL装置を備えた表示部を示している。
図8(b)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図8(b)において、符号60は情報処理装置、符号61はキーボードなどの入力部、符号63は情報処理本体、符号62は有機EL装置を備えた表示部を示している。
図8(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図8(c)において、符号70は時計本体を示し、符号71は有機EL装置を備えたEL表示部を示している。
図8(a)〜(c)に示す電子機器は、先の実施形態に示した有機EL装置が備えられたものであるので、表示特性が良好な電子機器となる。
【0099】
なお、電子機器としては、上記電子機器に限られることなく、種々の電子機器に適用することができる。例えば、ディスクトップ型コンピュータ、液晶プロジェクタ、マルチメディア対応のパーソナルコンピュータ(PC)及びエンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルを備えた装置等の電子機器に適用することができる。
【0100】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0101】
例えば、着色層37及びブラックマトリクス層32の表面上に、透光性接着層34の形成材料との濡れ性を改善する表面改質層を設けてもよい。これにより、着色層37及びブラックマトリクス層32の表面上における凹凸部分に形成材料が回り込みやすくなり、凹凸部分に気泡が混入することなく形成材料を充填させることができる。このように、上記凹凸部分に透光性接着層34の形成材料が素早く濡れ広がることから、塗布後にすばやく乾燥工程に入ることができる。この構成は、着色層37とブラックマトリクス層32との境界部分における段差が大きい場合に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の本実施形態の有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態における有機EL装置の構成を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態における有機EL装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態における図3に示すA部の拡大断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態における有機EL装置の素子基板側の工程図である。
【図6】本発明の第1実施形態における有機EL装置の封止基板側の工程図である。
【図7】本発明の第2実施形態における有機EL装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態における電子機器を示す図である。
【符号の説明】
【0103】
1…有機EL装置 2…有機EL装置 10…陽極(電極) 11…陰極(電極)
12…発光層(有機発光層) 13…画素隔壁 17…電極保護層 18…有機緩衝層
19…ガスバリア層 20A…素子基板 21…発光素子 31…封止基板 32…ブラックマトリクス層(遮光層) 33…周辺シール層 34…透光性接着層 35…有機緩衝層の周辺端部 38…ガスバリア層の周辺端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極の間に有機発光層を挟持した複数の発光素子と、前記複数の発光素子を被覆する封止層と、を有する素子基板と、
前記素子基板に対向配置され、複数の着色層と、前記複数の着色層間を区画する遮光層と、を有する封止基板と、を備え、
前記素子基板及び前記封止基板は、前記素子基板及び前記封止基板の周辺部に設けられる周辺シール層と、前記周辺シール層より内側の画素領域に設けられるとともに前記周辺シール層よりも低い弾性率を有する透光性接着層と、を介して貼り合わされていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記透光性接着層が、エラストマー樹脂を主成分とする材料から構成されていることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記透光性接着層を構成する前記エラストマー樹脂が、アクリル系樹脂あるいはシリコーン系樹脂であることを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記透光性接着層には、弾性率調整剤が添加されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
前記透光性接着層の弾性率は、0.01〜1GPaの範囲内であって、
前記周辺シール層の弾性率は、1GPa以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
前記透光性接着層の膜厚が、2〜5μmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項7】
前記透光性接着層が、ギャップ材を含まない接着剤を用いて形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項8】
前記封止層が、前記発光素子の電極を被覆する電極保護層と、
前記電極保護層を被覆する有機緩衝層と、
前記有機緩衝層を被覆するガスバリア層と、を有することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項9】
複数の発光素子及び前記複数の発光素子を被覆する封止層を有する素子基板と、複数の着色層及び遮光層を有する封止基板とを、前記素子基板及び前記封止基板の周辺部に設けられる周辺シール層と、画素領域に設けられ且つ前記周辺シール層よりも低い弾性率を有する透光性接着層と、を介して貼り合わせる工程と、を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項10】
前記封止基板と前記素子基板とのアライメント位置を調整する工程を有することを特徴とする請求項9記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項11】
画素領域に透光性接着層を形成した後、前記素子基板と前記封止基板との周辺部に前記周辺シール層を形成することを特徴とする請求項9または10記載の有機エレクトロニクス装置の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−48834(P2009−48834A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212717(P2007−212717)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】