説明

有機ケイ素官能性相間移動触媒

有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)及び、有機ケイ素官能性(PTC)を使用するケイ素官能性相への非混和性分子の移動方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)類及び、有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)を使用するケイ素官能性相への非混和性分子の移動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応が効率よく起こるためには、全ての反応物が同一相中に存在することが望ましい。実際には、反応物を単一の溶媒中とすることは、非常に困難となりうる。例えば、塩化ベンジル及びシアン化カリウムは求核置換を経てシアン化ベンジルを形成しうる。残念ながら、塩化ベンジル及びシアン化カリウムは互いに非混和性であり、同一相中に存在しない限りは効率よく反応しない。これが実例である一方で、合成過程には反応物として有機基質及び無機塩があることが一般的である。一握りの極性溶媒のみが有機基質と無機基質との両方を溶解する性能を有し、その中にはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びN-メチルピロリドン(NMP)がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
残念ながら、双極性非プロトン性溶媒は、後に続く分離及び生成物の単離が非常に困難になりうる点で優れた溶媒である。更に、DMSO、DMF等の双極性非プロトン性溶媒は、一般に150℃を超える沸点を有し、このことが蒸留の可能性を制限している。生成物の分離が困難且つ高額であるために、双極性非プロトン性溶媒の使用を回避するために別の合成経路が模索されている。最もよく知られた例は、相間移動触媒(PTC)である。相間移動触媒は、無機塩、特にアニオンを水性相もしくは固相中から有機相、例えばトルエンまたはジクロロメタン中へ移動させるために使用され、この有機相中には有機基質が存在することから、簡便な分離方法が維持される一方で単一相反応が可能になる(図1)。
【0004】
無機/有機分子と同様に、非常に異なる極性を有する分子を単一相中とすることも非常に困難となりうる。現在、研究者にとって、例えば疎水性有機ケイ素化合物と極性の有機もしくは無機反応物、あるいは親水性有機ケイ素化合物と非極性有機分子等の非混和性分子を反応させることは困難である。然るに、シロキサン誘導体とこのシロキサン誘導体と非混和性である試薬との反応を促進しうる、新型相間移動触媒の需要が依然存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施態様は、下式:
【化1】

[式中、各R1は直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル、不飽和アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、水素、または-(OSiR12)p-OSiR13を含み、ここでpは0または0より大であり、Aは置換もしくは無置換の炭化水素であり、Rは置換もしくは無置換の炭化水素であり、yは0または0より大であり、mは1乃至4であり、nは0乃至3であり、m+n=4であり、X-は第四級アミンカチオンと会合したアニオンであり、X-には、クロライド、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミドのいずれかのアニオンが含まれる]
を含む有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)に関する。非混和性基質は、ケイ素官能性相中に移動される。
【0006】
本発明の実施態様は、下式:
【化2】

[式中、Rはメチルもしくはベンジル基を含み、X-はクロライド、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミドを含む]
を含む図4Aに示される有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)メチル-トリス-[3-(l,1,3,3,3-ペンタメチル-ジシロキサニル)-プロピル]-アンモニウム X-アニオンにも関する。
【0007】
本発明の実施態様は、さらに下式:
【化3】

を含む図4Bに示される有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)トリエチル-{4-[2-(l,l,3,3,3-ペンタメチル-ジシロキサニル)-エチル]-ベンジル}-アンモニウム クロライドにも関する。別の実施態様では、前記アニオンは、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミドのアニオンを含んで良い。
【0008】
本発明の実施態様は、さらに下式:
【化4】

[式中、各R1は直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル、不飽和アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、水素、または-(OSiR12)p-OSiR13を含み、ここでpは0または0より大であり、Aは置換もしくは無置換の炭化水素置換基であり、Rは置換もしくは無置換の炭化水素置換基であり、yは0または0より大であり、mは1乃至4であり、nは0乃至3であり、m+n=4であり、X-は第四級ホスホニウムカチオンと会合したアニオンであり、X-には、クロライド、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミド、あるいは別の一般的に使用されるPTCアニオン性種が含まれる]
を含む有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)にも関する。
【0009】
本発明の実施態様は、ケイ素官能性クラウンエーテルを含む有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)にも関する。
【0010】
本発明の実施態様は、ケイ素官能性ポリエチレングリコールを含む有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)にも関する。
【0011】
本発明の実施態様は、有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)と非混和性分子を含む系とを接触させる工程を含む、非混和性分子をケイ素官能性相中に移動させる方法であって、非混和性分子がケイ素官能性相中に移動する方法にも関する。
【0012】
本発明の実施態様がより容易に理解されるため、ここで例示のために添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、従来技術の相間移動触媒反応の例を図示する。
【図2】図2は、4-エチル(1,1,3,3,3-ペンタメチル-ジシロキサン)ベンジルクロライドとシアン化カリウムとの反応を図示する。
【図3】図3は、シロキサン相と非混和性である固相を含む系中において、有機ケイ素官能性相間移動触媒が担う役割の図示である。
【図4A】本発明の有機ケイ素官能性相間移動触媒の付加的実施態様の化学構造を示す。
【図4B】本発明の有機ケイ素官能性相間移動触媒の付加的実施態様の化学構造を示す。
【図5】図5は、KOAcとシロキサン求電子試薬との、様々な濃度でTBAC1 PTCを用いた反応の時間依存挙動の図示である。
【図6】図6は、KCNとシロキサン求電子試薬との溶媒のない条件下での反応について、5種類のPTCでそれぞれの生成物収量を比較したグラフである。
【図7】図7は、2種類の異なる求核試薬(KCN及びKSCN)とTBABとについて(Et)3 (SiBz)NClを用いてそれぞれの生成物収量を比較したグラフである。
【図8】図8は、p-SiBzClとL-リシンとのカップリングについての図示である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)類が計画されるが、これらは非混和性分子をケイ素官能性相中に移動させて非混和性分子間の単一相反応を促進するために使用してよい。有機ケイ素官能性PTC類には、以下に限定されるものではないが、概して(1)ケイ素官能性第四級アミン、(2)ケイ素官能性テトラアルキルホスホニウム塩、(3)ケイ素官能性クラウンエーテル(クリプテート)、及び(4)ケイ素官能性ポリエチレングリコールが含まれる。
【0015】
テトラアルキルホスホニウム塩は、アリールもしくはシロキサン構造を含んで良いが、テトラアルキルアンモニウム塩の直接類似体であって、イオン交換及び/または水素結合の同じ原理で作用する。一実施態様では、有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)には、下式:
【化5】

[式中、各R1は直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル、不飽和アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、水素、または-(OSiR12)p-OSiR13を含み、ここでpは0または0より大であり、Aは置換もしくは無置換の炭化水素置換基であり、Rは置換もしくは無置換の炭化水素置換基であり、yは0または0より大であり、mは1乃至4であり、nは0乃至3であり、m+n=4であり、X-は第四級ホスホニウムカチオンと会合したアニオンであり、X-には、クロライド、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミド、あるいは別の一般的に使用されるPTCアニオン性種が含まれる]
が含まれる。当業者であれば、A及び/またはRの炭化水素を置換しうる様々な置換基を理解するであろうし、本発明においてはそのいずれを使用してもよい。置換基の例には、以下に限定されるものではないが、エーテル-、アルコキシ-、フェニル-、アルケニル、アルキニル、不飽和官能性炭化水素、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0016】
クラウンエーテル、例えば18-クラウン-6は、環状ポリエーテルの類であり、通常はエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドから誘導され、よって各エーテル酸素環に2-3のメチレンユニットを含む。エーテル酸素は、カチオンに水素結合し、よって有機相中に無機塩対を「引き込む」。一実施態様では、有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)には、ケイ素官能性クラウンエーテルが含まれる。一実施態様では、ケイ素官能性クラウンエーテルの式には、下式:
【化6】

[式中、R1及びAはアンモニウム化合物について定義される通りであり、R及びR’は置換もしくは無置換の炭化水素基であり、aは0以上、bは0以上、c=0または1、zは1以上、xは0以上である]
が含まれる。
【0017】
ポリエチレングリコールには、クラウンエーテルの非環状類似体が含まれるが、これはエーテル酸素とカチオン性中心(カチオンまたは双性イオン)との間の水素結合によって作用してイオン対を形成する。一実施態様では、有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)は、ケイ素官能性ポリエチレングリコールを含む。一実施態様では、ケイ素官能性ポリエチレングリコールの式には、下式:
【化7】

[式中、各R1は直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル、不飽和アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、水素、または-(OSiR12)p-OSiR13を含み、ここでpは0または0より大であり、Aは置換もしくは無置換の炭化水素であり、nは0以上であり、さらにR2は水素または置換もしくは無置換の炭化水素である]
が含まれる。別の実施態様では、ケイ素官能性ポリエチレングリコールの式には、下式:
【化8】

[式中、各R1は直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル、不飽和アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、水素、または-(OSiR12)p-OSiR13を含み、ここでpは0または0より大であり、Aは置換もしくは無置換の炭化水素であり、nは0以上であり、mは0以上であり、pは0以上であり、さらにR2は水素または置換もしくは無置換の炭化水素である]
が含まれる。
【0018】
一実施態様では、有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)には、ケイ素官能性第四級アミンが含まれる。一実施態様では、ケイ素官能性第四級アミンの式には、下式:
【化9】

[式中、各R1は直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル、不飽和アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、水素、または-(OSiR12)p-OSiR13を含み、ここでpは0または0より大であり、Aは置換もしくは無置換の炭化水素置換基であり、Rは置換もしくは無置換の炭化水素置換基であり、yは0または0より大であり、mは1乃至4であり、nは0乃至3であり、m+n=4であり、X-は第四級アミンカチオンと会合したアニオンであり、X-には、クロライド、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミド、あるいは別の一般的に使用されるPTCアニオン性種が含まれる]
が含まれる。当業者であれば、A及び/またはRの炭化水素を置換しうる様々な置換基を理解するであろうし、本発明においてはそのいずれを使用してもよい。置換基の例には、以下に限定されるものではないが、エーテル-、アルコキシ-、フェニル-、アルケニル、アルキニル、不飽和官能性炭化水素、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0019】
図4A及び図4Bには、本発明の有機ケイ素官能性相間移動触媒の付加的な実施例が示され、これらはそれぞれ、メチル-トリス-[3-(l,1,3,3,3-ペンタメチル-ジシロキサニル)-プロピル]-アンモニウムクロライド((Si)3MeNCl)及びトリエチル-{4-[2-(l,l,3,3,3-ペンタメチル-ジシロキサニル)-エチル]-ベンジル}-アンモニウムクロライド((Si)3BzNCl)であり、ここでX-には、ブロマイド、スルフェート、ジアセトアミド、あるいは当業者によく知られた別の一般的に使用されるPTCアニオン性種が含まれる。図4Aの有機ケイ素官能性相間移動触媒は、三つのシロキサン鎖で官能化され、且つアルキル及びアリールからなる群より選択されるR基で置換されている。図4Bの有機ケイ素官能性相間移動触媒は、一つのアリールシロキサン鎖で官能化され、且つアルキル及びアリールからなる群より選択される三つのR基で置換されており、図4Aの有機ケイ素官能性相間移動触媒と比較してより有機寄りの触媒を形成している。
【0020】
図4A及び図4Bは、可能な置換パターンの多様性並びに、例えばシロキサンポリマー基の長さ、シロキサン基の数、有機基の数、有機基の官能性等を変更することによって特性を調節する可能性を示すことを企図した実例である。置換パターンを変更することにより、疎水性/親水性バランスを調節することができ、究極的には反応中の非混和性分子に適合するように相間移動触媒を微調整することができる。
【0021】
本明細書中に記載される有機ケイ素官能性相間移動触媒は、非混和性分子をケイ素官能性相中に移動させるために使用してよい。例えば、図2は4-エチル(1,1,3,3,3-ペンタメチル-ジシロキサン)ベンジルクロライドとシアン化カリウムとの反応を示す。反応物(ペンタメチルジシロキサン置換ベンジルクロライド及びシアン化カリウム)は非常に相違し、且つ非混和性の分子である。さらに、これらの非混和性分子を単一相中に溶解させることはほとんど不可能である。本明細書中に記載される有機ケイ素官能性相間移動触媒は、これらの非混和性分子をケイ素官能性相中で互いに接触させ、且つ反応させ、これらの溶解性の相違を乗り越えさせることができる。
【0022】
図3は、シロキサン相12と非混和性である固相10を含む系中での、本明細書中に記載される有機ケイ素官能性相間移動触媒の役割の図示である。有機ケイ素官能性相間移動触媒は、主にケイ素官能性相14を形成するイオン性塩の表面に位置する。この実施例では、ケイ素官能性相14がいずれの反応物質にとっても好適な環境を提供する。系が二つの非混和性液体相を含むならば、有機ケイ素官能性相間移動触媒は、固体/液体相の相互作用について説明される役割と類似に主に二つの相の界面に位置するかまたは、通常の液体―液体相間移動触媒のようにケイ素官能性相中に位置する。当業者であれば非混和性分子が様々な系中に存在可能であり、本発明においてはいかなる系を使用してもよい。系の例には、以下に限定されるものではないが、未希釈の系及び溶媒ベースの系が含まれる。当業者であれば、溶媒ベースの系に使用してよい様々な溶媒を理解するであろう。適当な溶媒の例には、以下に限定されるものではないが、酢酸エチル、アセトニトリル、トルエン、及びクロロホルムが含まれる。
【0023】
当業者はさらに、使用してよい様々な非混和性分子を理解するであろう。非混和性分子には、様々な極性を有する分子、有機分子、無機分子、またはこれらのあらゆる非混和性組み合わせを含む。一実施態様では、非混和性分子は、疎水性有機ケイ素化合物と極性の有機もしくは無機反応物質とを含む。別の実施態様では、非混和性分子は、親水性有機ケイ素化合物と非極性有機分子とを含む。当業者であれば、使用してよい様々な無機分子を理解するであろう。無機分子には、以下に限定されるものではないが、KCN、KSCN、及びKOAcが含まれる。当業者であれば、使用してよい様々な有機分子を理解するであろう。有機分子には、以下に限定されるものではないが、アミノ酸、ポリペプチド、蛋白質、及びポリオールが含まれる。
【0024】
当業者であれば、本発明の実施態様の実践において使用してよい、様々な濃度及び/又は量の非混和性分子及び/又はPTCを理解するであろう。一実施態様では、制限求電子試薬に対して少なくとも1モル%のPTCが使用される。別の実施態様では、制限求電子試薬に対して約1乃至約10モル%のPTCが使用される。当業者であれば、採用してよい様々な反応温度も理解するであろう。一実施態様では、反応温度は約25℃乃至約70℃である。
【0025】
上記のとおり、使用される非混和性分子及びPTCによって、当業者であれば、非混和性分子を一緒にするために使用してよい様々な反応条件、反応試薬の量、及び反応工程を理解するであろう。一実施態様では、反応工程には以下の工程が含まれる。0.0048gのTBAClを25mLのフラスコに加える。0.1204gのKClをフラスコに加える。0.1688gのKOAcをフラスコに加える。3mLのEtOAcをフラスコに加える。0.lmLのデカンをフラスコに加える。約200乃至約1100rpmで一晩に亘り室温にて攪拌する(オーバーヘッド攪拌、蒸発防止のため密閉)。油浴中で70℃に加熱し、3時間に亘り攪拌する。次いで、0.lmLのシロキサン求核試薬を加え、密閉し、サンプルを規定の間隔で取り出しつつ攪拌する。50マイクロリットルのサンプルをピペットで取り出し、1.5mLのEtOAcで希釈し、GC-MSで分析する(市販基準を使用して較正)。
【0026】
その相間移動性能とは別に、これらの化合物は表面活性剤、エマルション、及び/又は抗菌剤としての多くの応用を見出す。有機ケイ素官能性相と水性及び/又は有機相とを含むエマルションは、本明細書中に開示される有機ケイ素官能性相間移動触媒の利益を享受する。例えば、頭部基はイオン性であって良く、ケイ素官能性基は「疎水性」領域を形成してよい。更に、相間移動触媒、表面活性剤、及び/又は抗菌剤としての前記生成物の特性の最適化は、前述のように単に置換パターンを変更することによって実行可能である。
【実施例】
【0027】
(実施例1:有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)の合成)
本実施例は、非混和性の親水性分子と疎水性分子とのカップリング、例えばシロキサンとアミノ酸、ポリペプチド、または蛋白質とのカップリングにおける使用のための、三つの新規なシロキサンベースの相間移動触媒の合成及び特性化を示す。
【0028】
三つの異なる有機ケイ素官能性PTCが合成される:1)トリ(プロピレンペンタメチルジシロキシ)メチルアンモニウムクロライド;2)トリ(プロピレンペンタメチルジシロキシ)ベンジルアンモニウムクロライド;及び3)トリエチル(p-エチレンペンタメチルジシロキシベンジル)アンモニウムクロライド((Et)3(SiBz)NCl) (図4(B))。
有機ケイ素官能性PTC(1)及び(2)は、ペンタメチルジシロキサン、トリアリルアミン、及び塩化メチルまたは塩化ベンジルのいずれかを使用して合成される。有機ケイ素官能性PTC(3)は、トリエチルアミン及びシロキサン求電子試薬、2-ペンタメチルジシロキシ-p-エチルベンジルクロライド(p-SiBzCl)を使用して合成される。全ての構造は、NMR、ESI-MS、及び元素分析を使用して確認される。
【0029】
(実施例2:有機ケイ素官能性相間移動触媒と比較した従来の相間移動触媒の活性)
本実施例は、実施例1で合成した三つの有機ケイ素官能性PTCといくつかの従来の有機PTCとを、シロキサン求電子試薬と様々な無機及び有機のイオン性求核試薬を含むモデル求核置換反応において比較する。この実施例は、有機ケイ素官能性PTC方法が有効であること、並びに、溶媒のない条件下では有機ケイ素官能性PTCが一般的に従来の有機PTCより優れている一方で、前記有機PTCは有機溶媒が使用される場合にはより有効であることを示す。
【0030】
分析を簡単にするため、GC-MSによる分析のために、シロキサン求電子試薬、2-ペンタメチルジシロキシ-p-エチルベンジルクロライド(p-SiBzCl)を様々な無機及び有機求核試薬とカップリングさせる。求核試薬には、シアン化カリウム(KCN)、チオシアン酸カリウム(KSCN)、及び酢酸カリウム(KOAc)が含まれる。この反応の活性を、未希釈で及び80%のトルエンまたは酢酸エチルを溶媒として、さらに様々なPTCを用いて試験する。いずれも市販品を購入可能な、有機ベースのPTC、テトラブチルアンモニウムクロライド(TBACl)、テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)、テトラオクチルアンモニウムクロライド(TOACl)、及びトリオクチルメチルアンモニウムクロライド(Aliquat 336)、並びに新規な三つのシロキサンベースのPTCが使用される。関連するコントロール反応もまた実行される。
【0031】
表1は、溶媒としての酢酸エチル(EtOAc)中でのp-SiBzClと様々な求核塩との反応の結果を示す。疑一次速度定数は過剰の求核試薬に基づいて算出される。結果は、デカンを内部標準として使用してGC-FIDにより分析される。これらのデータから、テトラブチルアンモニウムクロライド(TBACl)がもっとも有効な相間移動触媒であり、シロキサンベースのPTCが最も性能に劣ることが明らかである。この結果は、シロキサンベースの化合物にとっては好ましからぬことだが、溶媒系が極性の性質を有するためにある程度予測通りである。更に、求核試薬の性質は、変換の速度とPTCに関する効果の幅とのいずれにおいても非常に重大な役割を果たす。より強力な求核試薬であるKOAはKCNよりも100倍速く変換し、この求核試薬についてはTBAClがSiBz PTCよりもほぼ70倍有効である。その一方で、より弱い求核試薬であって、KOAcよりも弱い求核試薬であり、またEtOAc中により難溶であるKSCNについては、速度は2.2の係数しか変化しない。これらの結果は、以下に議論される、溶媒を用いない反応とは大幅に相違する。
【0032】
表1:様々なPTCを用い、70℃及び900rpmでの攪拌下での数種の求核試薬とp-シロキサン求電子試薬との反応についての疑一次速度定数
すべての条件において5倍過剰のKOAcを使用し、等モルのKCl塩を添加して確実にイオン性組成物を一定にした。
【表1】

【0033】
表2は、表1に示されるものと同様のEtOAc反応における、出発物質中に見られる第二の異性体であるm-SiBzClの反応の結果を表す。疑一次速度定数は、この異性体についても同様の傾向を示し、一般にこの速度はパラ異性体の場合よりも幾分速い。
【0034】
表2:様々なPTCを用い、70℃及び900rpmでの攪拌下での数種の求核試薬とm-シロキサン求電子試薬との反応についての疑一次速度定数
すべての条件において5倍過剰のKOAcを使用し、等モルのKCl塩を添加して確実にイオン性組成物を一定にした。
【表2】

【0035】
表3は、溶媒無しの条件下でTBAClによって触媒されるシロキサン求電子試薬へのKOAcの置換についてのサンプル結果を示す。10%のPTC(求電子試薬に対して)及び5倍過剰のKOAcを使用し、70℃にて、98%変換が105分間で達成される。反応は、50℃におけるよりも70℃においておよそ2.5倍速い。95.1、114.3、及び112.1kJ/molの活性化エネルギーが、それぞれTBACl、Aliquat 336、及び(Si)3MeNClを用いたEtOAcベースの反応について測定された。コントロール反応では、PTCを使用せず、1100分間で変換は全く見られない。図5では、これらの条件それぞれについて、時間依存性挙動を比較する。
【0036】
表3:様々な量のTBACl PTCを用いる、70℃及び50℃でのKOAcとシロキサン求電子試薬との反応。全ての条件において5倍過剰のKOAcが使用される。
【表3】

【0037】
表4:5%PTCを用いる、70℃、50℃、及び30℃でのKOAcとシロキサン求電子試薬との反応。全ての条件において5倍過剰のKOAcが使用された。
【表4】

【0038】
図6は、溶媒無しの条件下でのKCNとシロキサン求電子試薬との反応について、5種類のPTC(2種類は有機のもの、3種類はシロキサン)を比較する。70℃にて16時間で、より無極性のPTC(Aliquat 336及び(Et)3(SiBz)NCl、図8参照のこと)が最良の結果を示し、変換は8.5%及び9.5%である。
【0039】
図7は二つの異なる求核試薬(KCN及びKSCN)をTBAB及び(Et)3(SiBz)NClを用いて比較する。変換はKSCNについて格段に高率であり、前記有機ケイ素官能性PTCはTBABよりも優れており、16時間に亘り67℃にて、49%に対して100%の変換である。KSCNのコントロールのみがいくらかでも変換を示す(1100分で10%)。さらに。溶媒無しの条件下では、極性のより低いシロキサンベースのPTCが有機PTCよりも優れている。この傾向はEtOAcベースの溶媒系に見られる傾向とは逆である。反応媒質の極性は、どのPTCが最も有効であるかを明示する。反応速度はまた、基質濃度の増大のために溶媒無しの系では7-10倍速い。溶媒無しの場合には、サンプルサイズが限られるために、反応速度論は、正確性を得ることが一層困難になり、ひいては溶媒無しでの速度測定においてより顕著な誤りをもたらす。
【0040】
(実施例3:シロキサンとアミノ酸とのカップリング)
本実施例は、アミノ酸-シロキサンの共役の目的のための有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)の使用を示す。
【0041】
p-SiBzClとのカップリングのためのモデルアミノ酸はL-リシンである。推奨される反応スキームが図8に示される。この反応は、1:1(v:v)のメタノール:アセトニトリル溶媒混合物中で等モルの試薬を用いて行われる。反応により、22時間で70%の変換、42時間後には82%の変換、また66時間後には91%の変換が起こる。溶媒無しでTBAClを使用することにより、100%の変換がわずか16時間で達成される。この実験は、PTC置換と同様に5倍過剰のL-リシン及びp-SiBzClに対して10%のPTCを使用した。生成物分析は、NMR及びESI-MSにより行われ、アルキル化生成物の分布が観察された。
【0042】
5%のTBAClを70℃で使用してEtOAc中で多数回操作を行い、3倍過剰のリシンを使用してこの反応について1.06x10-5s-1の疑一次速度定数を得る。 この速度は、使用される最も速い求核試薬であるKOAcの置換に観察される速度と同等である。このことは、リシンがカップリング反応について非常に活性な求核試薬であることを示すことから、非常に優れた結果である。PTCを全く使用せず、この反応は24時間後にも全く変換を起こさない。
【0043】
p-SiBzClと別の6つのアミノ酸(L-グルタミン酸、D-フェニルグリシン、グリシン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-グルタミン)とのカップリングにより、16時間で様々な程度の変換が起こった。p-SiBzClとポリ(L-リシン)とのカップリングは、16時間でGC-FIDにより10%のシロキサン喪失を示し、72時間後には定量的な変換を示した。
【0044】
上記の特定の実施態様及び実施例は、例示の目的のためのみに示され、特許請求の範囲の制限を意図するものではない。本発明のさらなる実施態様及びこれによってもたらされる利点は、当業者には明らかであり、これらは特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式:
【化1】

[式中、各R1は直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル、不飽和アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、水素、または-(OSiR12)p-OSiR13を含み、ここでpは0または0より大であり、Aは置換もしくは無置換の炭化水素であり、Rは置換もしくは無置換の炭化水素であり、yは0または0より大であり、mは1乃至4であり、nは0乃至3であり、m+n=4であり、X-は第四級アミンカチオンと会合したアニオンであり、X-には、クロライド、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミドのいずれかが含まれる]
を含む有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)。
【請求項2】
メチル-トリス-[3-(l,1,3,3,3-ペンタメチル-ジシロキサニル)-プロピル]-アンモニウムX-アニオンを含み、ここでX-がクロライド、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミドを含む、請求項1に記載の有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)。
【請求項3】
トリエチル-{4-[2-(l,l,3,3,3-ペンタメチル-ジシロキサニル)-エチル]-ベンジル}-アンモニウムクロライドを含む、請求項1に記載の有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)。
【請求項4】
有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)と非混和性分子を含む系とを接触させる工程を含む、非混和性分子をケイ素官能性相中に移動させる方法であって、ここで前記有機ケイ素官能性PTCが、下式:
【化2】

[式中、各R1は直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル、不飽和アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、水素、または-(OSiR12)p-OSiR13を含み、ここでpは0または0より大であり、Aは置換もしくは無置換の炭化水素であり、Rは置換もしくは無置換の炭化水素であり、yは0または0より大であり、mは1乃至4であり、nは0乃至3であり、m+n=4であり、X-は第四級アミンカチオンと会合したアニオンであり、X-には、クロライド、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミドのいずれかが含まれる]
を含み、ここで非混和性基質がケイ素官能性相に移動される方法。
【請求項5】
前記系が未希釈または溶媒ベースの系である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記非混和性分子が、様々な極性を有する分子、有機分子、無機分子、またはこれらのあらゆる非混和性の組み合わせを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記非混和性分子が、疎水性有機ケイ素分子及び極性の有機もしくは無機の分子を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記非混和性分子が、親水性有機ケイ素分子及び非極性有機分子を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記非混和性分子が、アミノ酸、ポリペプチド、または蛋白質からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記非混和性分子が、ケイ素官能性相中で反応する、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の有機ケイ素官能性PTCを含むエマルション。
【請求項12】
請求項1に記載の有機ケイ素官能性PTCを含む抗菌剤。
【請求項13】
下式:
【化3】

[式中、各R1は直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル、不飽和アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、水素、または-(OSiR12)p-OSiR13を含み、ここでpは0または0より大であり、Aは置換もしくは無置換の炭化水素置換基であり、Rは置換もしくは無置換の炭化水素置換基であり、yは0または0より大であり、mは1乃至4であり、nは0乃至3であり、m+n=4であり、X-は第四級ホスホニウムカチオンと会合したアニオンであり、X-には、クロライド、ブロマイド、スルフェート、またはジアセトアミドが含まれる]
を含む有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)。
【請求項14】
下式:
【化4】

を有するケイ素官能性クラウンエーテルを含む有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)。
【請求項15】
下式:
【化5】

を有するケイ素官能性ポリエチレングリコールを含む有機ケイ素官能性相間移動触媒(PTC)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−503528(P2010−503528A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528446(P2009−528446)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/078251
【国際公開番号】WO2008/033908
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【出願人】(509072283)ジョージア・インスティテュート・オブ・テクノロジー (1)
【Fターム(参考)】