説明

有機バインダの製造方法および有機バインダ

【課題】焼結体製品における気泡及びクラックの発生を防止することができる有機バインダおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ビカット軟化点80℃未満の水溶性高分子である成分a、ビカット軟化点が90℃以上の非水溶性熱可塑性高分子である成分b、150℃の溶融粘度が200mPa・s以下の非水溶性有機化合物である成分c、及びビカット軟化点が100℃未満の非水溶性熱可塑性高分子である成分dがそれぞれ記載順に50〜80vol%、5〜35vol%、10〜40vol%、及び5〜20vol%の割合で含まれる混合物を成分a〜dの全てが溶融する温度まで加熱して溶融する。次に、溶融した混合物を、成分cの融点未満の温度に調整され撹拌された水の中に投入して粒状中間体を生成させる。最後に生成した粒状中間体を乾燥して粉体化することにより粉末射出成形法に用いられる有機バインダを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末射出成形法(MIM)に用いられる有機バインダおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な形状のセラミックスおよび金属製品を成形するために、粉末射出成形法が利用されている。この粉末射出成形法は、焼結可能な粉末に流動性を持たせるために種々の有機化合物および熱可塑性樹脂を添加し、加熱混練の後、これを成形用原料として射出成形し、得られた成形体を脱脂、焼結することにより、焼結体製品を製造する。
そして、従来用いられている流動性を有する成形用原料は、例えば金属粉末に、比較的融点の高い熱可塑性樹脂およびこれよりも低い融点を有するワックス等の有機バインダが加えられたものである。そして、成形用原料は、焼結用粉末および有機バインダを有機バインダの融点以上に加温しながら混練機により均一に混練することにより得られる。
【0003】
しかしながら、有機バインダとして用いられる熱可塑性樹脂は、一般に5mm程度の円筒形状のペレットとして供給されるため、平均粒径が10μm以下の金属粉末等と大きさが極端に異なる。また、熱可塑性樹脂は、同時に使用されるワックス等に比べて混練時の粘度が高い。これらのことから、金属粉末等を、混練機によって熱可塑性樹脂およびワックス等に均一に分散させることが容易でなく、混練作業に長時間を要するという問題があった。
【0004】
そこの問題を解決するために、特許文献1には、ペレットで入手された熱可塑性樹脂を事前に粉砕した後に、金属粉末と混練する技術が提案されている。
しかし、特許文献1に提案された熱可塑性樹脂を事前に粉砕する方法では、混練後の分散物が塊状になり、後工程の取り扱いの便宜のために粉砕工程が必要となることが特許文献2に指摘されている(特許文献2)。また、特許文献2には、有機バインダとして、熱可塑性樹脂等の有機化合物の粉末とフタル酸系の可塑剤等の液体状有機化合物との混合物を使用し、これらを焼結可能な粉体とともに加熱混合する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−269504号
【特許文献2】特開2001−303103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機化合物の粉末と液体状有機化合物とを有機バインダとする特許文献2に開示された技術は、金属粉末等と混合有機バインダとの加熱混合の際に、未溶融の粉末有機化合物がブロック化し易く、ブロック化した粉末有機化合物の周りを金属粉末等が取り囲むことによって、脱脂後の成形体内に数十ミクロンの気泡および気泡に起因するクラックが含まれるおそれがある。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、焼結体製品における気泡およびクラックの発生を防止することができる有機バインダおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る製造方法は、粉末射出成形法に用いられる有機バインダの製造方法であって、ビカット軟化点が80℃未満の水溶性高分子である成分a、ビカット軟化点が90℃以上の非水溶性熱可塑性高分子である成分b、150℃における溶融粘度が200mPa・s以下の非水溶性有機化合物である成分c、およびビカット軟化点が100℃未満の非水溶性熱可塑性高分子である成分dがそれぞれ記載順に50vol%以上80vol%以下、5vol%以上35vol%以下、10vol%以上40vol%以下、および5vol%以上20vol%以下の割合で含まれる混合物を前記成分a〜dの全てが溶融する温度まで加熱して溶融し、溶融した前記混合物を前記成分cの融点未満の温度に調整され撹拌された水の中に投入して粒状中間体を生成させ、前記粒状中間体を乾燥して粉体とするものである。
【0009】
前記製造方法では、溶融した前記混合物を投入する水の撹拌条件を乱流とすることにより生成させる前記粒状中間体の平均粒径を100μm以下とする。
前記成分bは、ポリアセタール、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブテン1、シクロオレフィン系共重合体およびスチレン−メタクリレート共重合体より選ばれる一種以上からなる。
【0010】
前記成分cは、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、フタル酸エステル、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、モンタン系ワックス、ウレタン化ワックスおよび無水マレイン酸変性ワックスより選ばれる一種以上からなる。
前記成分dは、アモルファスポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、グリシジルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート樹脂、エチルメタクリレート樹脂、ブチルメタクリレート樹脂、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレン・アクリル酸・無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン樹脂、エチレン・ビニルアセテート・無水マレイン酸共重合体およびエチレン・エチルアクリレート共重合体より選ばれる一種以上からなる。
【0011】
本発明に係る有機バインダは、粉末射出成形法に用いられる有機バインダであって、ビカット軟化点が80℃未満の水溶性高分子である成分a、ビカット軟化点が90℃以上の非水溶性熱可塑性高分子である成分b、150℃における溶融粘度が200mPa・s以下の非水溶性有機化合物である成分c、およびビカット軟化点が100℃未満の非水溶性熱可塑性高分子である成分dがそれぞれ記載順に50vol%以上80vol%以下、5vol%以上35vol%以下、10vol%以上40vol%以下、および5vol%以上20vol%以下の割合で含まれる混合物が前記成分a〜dの全てが溶融する温度まで加熱溶融され、前記成分cの融点未満の温度に調整され撹拌された水の中に加熱溶融された前記混合物が投入されて生成された粒状中間体が乾燥されて形成された平均粒径が100μm以下の粉体である。
【0012】
上記「撹拌された水」における水には、超純水、蒸留水等以外の水溶性成分を含有する水も含まれる。
上記「乱流」とは、撹拌レイノルズ数が4000以上の場合をいう。
上記「平均粒径」は、レーザー回折・散乱法を使用した粒度分布測定装置により測定した長さ平均径である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、焼結体製品における気泡およびクラックの発生を防止することができる有機バインダおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は有機バインダの製造工程の概略図である。
【図2】図2は焼結体製品の製造工程のフローチャートである。
【図3】図3は実施例1により調整された有機バインダの拡大画像である。
【図4】図4は実施例2により調整された有機バインダの拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は有機バインダの製造工程の概略図である。
本発明に係る「有機バインダ」とは、粉末射出成形法(MIM:Metal Injection Molding)において金属、セラミックスまたはサーメットの粉末に混合されてこれらの粉末を射出成形可能とするものである。
有機バインダは、成分a、成分b、成分cおよび成分dを原料として得られる。
【0016】
以下に、成分a、成分b、成分cおよび成分dについて説明する。
成分aは、ビカット軟化点が80℃未満の熱可塑性の水溶性高分子が使用される。
成分aとして、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコールおよびポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテルのうち1種以上が使用され、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイドが好適である。
【0017】
成分bは、ビカット軟化点が90℃以上の非水溶性の熱可塑性高分子が使用される。成分bとして、具体的にはポリアセタール、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリブテン1(1−ブテン重合体)、ポリスチレン、スチレン−メタクリレート共重合体、シクロオレフィン系共重合体から選ばれる1種以上を用いることができる。金属粉末等と混合した成形用原料の射出成形時の流動性、剛性および射出成形後の脱脂時の分解性を考慮するとポリプロピレンポリオキシメチレン、スチレン−メタクリレート、ポリスチレンから選ばれる1種以上の樹脂が好適である。
【0018】
成分cは、150℃における溶融粘度が200mPa・s以下である非水溶性有機化合物が用いられる。具体的には脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、高級脂肪酸、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、モンタン系ワックス、ウレタン化ワックス、無水マレイン酸変性ワックスから選ばれる1種以上を用いることができる。
【0019】
成分dは、ビカット軟化点が100℃未満の非水溶性高分子が用いられる。具体的には低密度ポリエチレン、アモルファスポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、グリシジルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート樹脂、エチルメタクリレート樹脂、ブチルメタクリレート樹脂、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレン・アクリル酸・無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン樹脂、エチレン・ビニルアセテート・無水マレイン酸共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体から選ばれる1種以上からなる樹脂を用いることができる。
【0020】
有機バインダは、次のようにして製造される。
図1を参照して、初めに、成分a、成分b、成分cおよび成分dのそれぞれ所定量が混合機1内に投入される。所定量とは、成分aが50〜80vol%、成分bが5〜35vol%、成分cが10〜40vol%および成分dが5〜20vol%の範囲であることをいう。
【0021】
混合機1には、例えばV型混合機等の粉体混合用の装置が使用される。混合機1による混合操作は、成分a〜dのいずれかが偏在することなく栓体に略均一になるまで行われる(図1(a)、混合工程)。
混合機1により混合された成分a〜dの混合物(以下「混合中間体」という)は、100℃以上の温度に制御された2軸押出機2に供給され、2軸押出機2により溶融した混合中間体は、ストランドダイ(ノズルヘッド)11からひも状に押し出される(図1(b)、溶融工程)。
【0022】
ひも状に押し出された混合中間体は、所定の温度に制御され撹拌翼12により撹拌された撹拌槽3中の水(温水)に投入される。撹拌槽3内では、投入された混合中間体から水溶性の成分aが水中に溶出する。成分a〜dは均一に溶融(分散)しているので、成分aの水への溶出にともなって水に不溶な成分b〜cの混合物は、細かい粒子(以下「粒状中間体」という)となって温水中に分散する(図1(c)、粒状化工程)。
【0023】
制御温度である「所定の温度」は、成分cの融点よりも低い温度である。
なお、撹拌槽3内の水の量は、例えば2軸押出機2により押し出される混合中間体50kgに対して200Lが使用される。
混合中間体の全量が撹拌槽3内に投入された後にも、撹拌翼12による撹拌が継続され、粒状中間体は水に分散した状態で加圧濾過装置(フィルタープレス)4に供給され、脱水される(図1(d)、脱水工程)。
【0024】
脱水された粒状中間体は、トレイ13に移された後真空乾燥機5内に入れられ、乾燥されて、微細な粒子の有機バインダとなる(図1(e)、乾燥工程)。
次に、上記のようにして得られた有機バインダを用いた焼結体製品の製造工程について説明する。
図2は焼結体製品の製造工程のフローチャートである。
【0025】
初めに、有機バインダおよび粉末の焼結材料(以下「焼結用粉末」という)が混合機に投入され均一に混合される(#1)。混合機には、V型混合機等の粉体混合用の装置が使用される。有機バインダおよび焼結材料を均一に混合するのに要する時間は、混合機の大きさ、有機バインダおよび焼結材料の投入量等により異なるので、事前に混合時間と混合の程度との関係を求めて混合時間が決定される。
【0026】
均一に混合された有機バインダと焼結用粉末との混合物は、例えば100℃以上の一定温度に制御されたバッチ式の混練機または押出機のような連続式の混練機によって、射出成形に便利な粒状(ペレット状)に造粒される(#2)。造粒された有機バインダと焼結材料との混合物を「成形用原料(またはフィードストック)」という。混練および造粒を一連に行なう押出機を使用しない場合には、バッチ式の混練機で均一に混練された有機バインダと焼結用粉末との混合物は、造粒専用機で造粒される。
【0027】
造粒により一定の大きさに揃えられた粒状(ペレット状)の成形用原料は、射出成形機によって成形体に成形される(#3)。
成形体は、密閉された脱脂炉内に収容され、窒素雰囲気下で常温から徐々に温度を上げて脱脂される(#4)。脱脂の処理温度は、例えば50〜600℃である。昇温しての脱脂の前に、溶剤により成分cを抽出除去してもよい。
【0028】
脱脂された成形体は、自然冷却または強制冷却され、焼結炉に移される。成形体は、アルゴン雰囲気下で常温から1000℃以上まで昇温される焼結炉内おいて焼結され(#5)、自然冷却または強制冷却された後に焼結体製品として焼結炉から取り出される。
焼結処理は、粉末の焼結特性に併せて800〜1500℃またはこれ以上の温度で行われる。
【0029】
なお、脱脂処理と焼結処理とを1つの加熱炉で行うことができ、成形体を自動搬送できるプッシャー式、ウォーキングビーム式搬送機を備えた脱脂炉、焼結炉を用いることで、連続的に成形体の脱脂、焼成を行うことができる。
次に、焼結体製品に与える有機バインダ調整時における成分a〜dの影響について説明する。表1は有機バインダ製造時の種々の成分a〜dの使用割合を、表2は種々の成分a〜dの使用割合で製造された有機バインダの形状およびこれを用いた焼結体製品製造過程等の評価を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1に示される成分a〜dの組合せによる有機バインダの製造は、以下のように行った。
成分a〜dのいずれかに属する個別原料を総重量が50kgとなるようにV型混合機に投入して略均一に混合する。
ここで、表1の成分bにおけるポリオキシメチレン(ポリプラスチックス株式会社、ジュラコン(登録商標))のビカット軟化点は155℃、ポリスチレン(DIC株式会社、ディックスチレン(登録商標)、CR−3500)のビカット軟化点は92℃、およびポリプロピレン(住友化学株式会社、住友ノーブレン(登録商標)、Z144)のビカット軟化点は125℃である。
【0033】
成分cにおけるパラフィンワックス(日本製鑞(株)、F140の粘度は150℃で100mPa・s以下、ポリプロピレンワックス(三洋化成工業(株)、ビスコール(登録商標)、660−P)の粘度は150℃で100mPa・s以下、フタル酸エステル(試薬、ジブチルフタレート)の粘度は150℃で100mPa・s以下、ステアリン酸(試薬)の粘度は150℃で100mPa・s以下、およびカルナバワックス(東亞合成株式会社、精製カルナバワックス)の粘度は150℃で100mPa・s以下である。
【0034】
成分dにおけるエチレングリシジルメタクリレート共重合体(住友化学株式会社、ボンドファースト(登録商標))のビカット軟化点は90℃未満、ポリビニルブチラール(試薬)のビカット軟化点は100℃未満、アモルファスポリオレフィン(商品名APAO Rextac)のビカット軟化点は80℃未満、ポリブチルメタクリレート(共栄社化学株式会社、1700)のビカット軟化点は90℃未満、低密度ポリエチレン(住友化学株式会社、スミカセン(登録商標)、G806)のビカット軟化点は100℃未満、およびエチレン・ビニルアセテート(東ソー株式会社、ウルトラセン(登録商標)、633)のビカット軟化点は70℃未満である。
【0035】
続いて、混合された混合中間体を140℃に温度制御された2軸押出機により溶融し、ストランドダイから押し出された混合中間体を40℃に温度調節され撹拌される温水200Lを収容する撹拌槽内に直接投入する。撹拌槽における撹拌翼および回転数は、混合中間体の全量(40kg)が温水中に投入され分散されたときにも分散液の流動が層流と乱流との遷移域以上とするのが好ましく、乱流であることがより好ましい。なお、層流および乱流は、撹拌翼の形態、回転数、および流体の密度、粘度から計算される撹拌レイノルズ数により求められる。ここでは、乱流を撹拌レイノルズ数が4000以上の場合と規定する。
【0036】
温水(水)に分散された粒状中間体をフィルタープレスによって脱水し、真空乾燥機で乾燥して有機バインダを得た。
表2に示された有機バインダの形状は、フィルタープレスによる脱水前の水に分散された状態を顕微鏡で拡大しイメージセンサ(CCD)で検出してディスプレイに表示させた画像を観察したものである(図3,4参照)。
【0037】
表2に示された有機バインダの平均粒径は、レーザー回折・散乱法を使用した粒度分布測定装置により測定した長さ平均径である。以下、有機バインダについての「平均粒径」は、レーザー回折・散乱法を使用した粒度分布測定装置により測定した長さ平均径をいう。
また、表2に示された焼結体製品を得るまでの処理は、次のように行った。
【0038】
焼結用粉末として平均粒径10μmのSUS316L粉末または比表面積11.2m2/gのジルコニア粉末を使用し、V型混合機により表1に示された有機バインダと混合した。
このような焼結用粉末と有機バインダとの混合物を、成分bのビカット軟化点に応じて一定温度(例えば実施例1では170℃、実施例2では150℃)に制御されたバッチ式の混練機により混練し、造粒機により直径略3mmおよび長さ略3mmのペレット化された成形用原料を得た。
【0039】
得られた成形用原料は、厚さ5mm、長さ50mmおよび幅10mmの矩形状の成形体金型を用いて射出成形され、成形体を窒素雰囲気下で常温から500℃まで12時間かけて昇温し、500℃で2時間保持の後常温まで冷却して脱脂を行った。
焼結は、SUS316L粉末を使用した場合には、脱脂した成形体を焼結炉内でアルゴン雰囲気下常温から1350℃までを8時間で昇温し、2時間保持した後に常温まで冷却して行った。また、ジルコニア粉末を使用した場合には、焼結は、脱脂した成形体を焼結炉内で空気雰囲気下常温から1600℃までを12時間で昇温し、2時間保持した後に常温まで冷却して行った。
【0040】
表2における成形体の内部欠陥、脱脂品の内部欠陥および焼結体製品の内部欠陥は、それぞれ成形体を2分割等することにより目視で判断した。焼結体製品の密度は、乾式自動密度計(アキュピック、島津製作所製)を用いてヘリウムガス置換により測定した。焼結体製品の密度は、94%以上の場合を適切と判断した。
表1および表2から、成分aが55vol%以上75vol%以下、成分bが6vol%以上13vol%以下、成分cが13vol%以上23vol%以下、および成分dが6vol%以上13vol%以下で製造した有機バインダを使用して焼結した焼結体製品が、気泡およびクラック等の内部欠陥を有しないことが判る。
【0041】
これまで、粉末射出成形法は、有機バインダの凝集により発生する膨れ、マイクロポア(気泡)等の欠陥が問題となっていた。しかし、上記の割合で成分a〜dを混合して調整した有機バインダは、粒径が100μm以下となる(表2参照)ことから、脱脂工程および焼結工程において欠陥を生じることがなく、健全な焼結体製品を製造することができる。
【0042】
図3は実施例1により調整された有機バインダの拡大画像、図4は実施例2により調整された有機バインダの拡大画像である。図3および図4からは、得られた有機バインダが球形であることが観察される。
なお、実施例1の有機バインダに残留するポリエチレングリコールの量は、0.7重量%、実施例2の有機バインダに残留するポリエチレングリコールの量は、0.8重量%であった。有機バインダに残留するポリエチレングリコールの量の測定は、TG−DTA(島津製作所製)および乾式自動密度計(島津製作所製、アキュピック)を用いた。
【0043】
有機バインダは、成分aを50vol%以上80vol%以下、成分bを5vol%以上35vol%以下、成分cを10vol%以上40vol%以下、および成分dを5vol%以上20vol%以下の割合で混合して製造するのが好ましい。
成分aを80vol%よりも多く使用した場合には、脱水が不完全となり、乾燥時間が長くなる。80vol%を超える成分aの使用は、成分b、成分cおよび成分dからなる分散粒子が再凝集して粒径が100μmを超えるのものが多くなり、所望する平均粒径100μm以下の有機バインダを安定して得ることが困難になる。
【0044】
また、成分aが50vol%未満の場合、粒状化工程において成分aが温水に溶出することによる生ずる成分b〜dの混合物の分散が円滑に行われず、微細な粒子(粒状中間体)を得ることができない。
上述したように、成分aの使用量は55vol%以上75vol%以下が好適であり、さらに成分aの使用量が60vol%以上70vol%以下の条件において、粒径が100μm以下の有機バインダを得るために最適である。
【0045】
成分bを5vol%未満使用して製造した有機バインダは、これを使用して得られた射出成形体(成形体)の強度が低くなる。成分bを35vol%よりも多く使用した場合には、射出成形体(成形体)の脱脂がスムーズに行われず、脱脂不完全に起因する割れおよび膨れが成形体内部に発生しやすくなる。
混合工程で使用される成分cが10vol%未満の場合には、得られた有機バインダが混合された成形用原料の射出成形時の流動性が悪くなり、成形体に割れおよびクラックが生じやすくなる。また成分cの使用量が40vol%よりも多い場合には、射出成形時において成形体にバリが発生しやすくなり、成形体の強度が低下する恐れがある。また、脱脂処理の際に変形が生じやすい。
【0046】
使用される成分dが5vol%未満の場合には、得られた有機バインダが混合された成形用原料の射出成形時の流動性が悪くなり、成形体の柔軟性が損なわれ、成形体に割れおよびクラックが生じやすくなる。また成分dの使用量が20vol%よりも多い場合には、射出成形時において成形体にバリが発生しやすくなり、成形体の強度が低下する恐れがある。また、脱脂処理の際に変形が生じやすい。
【0047】
平均粒径が100μm以下の実施例1〜8における有機バインダは、以下のような効果も奏する。例えば、従来の有機バインダでは、バッチ式の混練機で10kg程度の焼結用粉末との混練物を得るために2時間程度の混練時間を要していた。これに対して、平均粒径が100μm以下の有機バインダを使用した場合には、混練時間を30分以下に短縮することができる。
【0048】
有機バインダと混合される焼結用粉末の材料は、金属、セラミックス、サーメットである。
金属には、ステンレス、鉄系材料、チタン、銅、ニッケル合金、クロム合金およびタングステン合金等が使用される。金属の粉末の平均粒径は1〜30μmが好ましい。金属の粉末の平均粒径が1μm以下になると、成形に必要な有機バインダの量が多くなるため、脱脂時に変形、割れおよび膨れ等の欠陥が生じやすい。また、金属の粉末の平均粒径が30μm以上になると、成形時に粉末と有機バインダとが分離しやすく、焼結後の密度が低くなり、得られた焼結体製品の強度も低下する。なお、焼結用粉末の平均粒径は、レーザー回折・散乱法を使用した粒度分布測定装置を用いて測定した重量累積50%の平均径である。
【0049】
焼結可能なセラミックス粉末としては、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、炭化物セラミックスが挙げられる。
酸化物セラミックスとしてアルミナ粉末、ジルコニア粉末が挙げられ、窒化物セラミックスとして窒化珪素、窒化アルミが挙げられる。
炭化物セラミックスとしては炭化珪素が挙げられる。
【0050】
上記したセラミックス以外にもサイアロン、または上記セラミックスの1種以上の複合材料が挙げられる。また、これら粉末を用いた際の焼結密度、焼結後の強度等を向上させる目的で、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化セリウム等の粉末を適宜添加しても良い。
焼結体製品の製造に用いられるセラミックス粉末の平均粒径は、1μm以下が焼結密度を向上させるために最適である。
【0051】
焼結可能なサーメット粉末としては、炭化タングステン粉末にコバルト、ニッケル等を添加した材料、または窒化チタン、炭化チタン粉末にコバルト、ニッケル等を添加した材料が用いられる。コバルト、ニッケル等の使用量は、目的とする焼結体製品の強度、焼結密度によって適宜調節することができる。炭化タングステン、窒化チタン、炭化チタン粉末の平均粒径は、5μm以下が焼結体製品の強度および焼結密度を向上させるために最適である。添加するコバルト、ニッケル等の材料の平均粒径は焼結体製品の焼結密度向上のために10μm以下が最適である。
【0052】
上述の実施形態において、混合工程1、溶融工程、粒状化工程、脱水工程および乾燥工程に使用される装置を、同様の機能を有する他の方式によるものとしてもよい。
その他、成分a〜dとして使用される原料等は、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、粉末射出成形法(MIM)に用いられる有機バインダおよびその製造方法に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末射出成形法に用いられる有機バインダの製造方法であって、
ビカット軟化点が80℃未満の水溶性高分子である成分a、ビカット軟化点が90℃以上の非水溶性熱可塑性高分子である成分b、150℃における溶融粘度が200mPa・s以下の非水溶性有機化合物である成分c、およびビカット軟化点が100℃未満の非水溶性熱可塑性高分子である成分dがそれぞれ記載順に50vol%以上80vol%以下、5vol%以上35vol%以下、10vol%以上40vol%以下、および5vol%以上20vol%以下の割合で含まれる混合物を前記成分a〜dの全てが溶融する温度まで加熱して溶融し、
溶融した前記混合物を前記成分cの融点未満の温度に調整され撹拌された水の中に投入して粒状中間体を生成させ、
前記粒状中間体を乾燥して粉体とする
ことを特徴とする有機バインダの製造方法。
【請求項2】
溶融した前記混合物を投入する水の撹拌条件を乱流とすることにより生成させる前記粒状中間体の平均粒径を100μm以下とする
請求項1に記載の有機バインダの製造方法。
【請求項3】
前記成分bは、
ポリアセタール、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブテン1、シクロオレフィン系共重合体およびスチレン−メタクリレート共重合体より選ばれる一種以上からなる
請求項1または請求項2に記載の有機バインダの製造方法。
【請求項4】
前記成分cは、
脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、フタル酸エステル、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、モンタン系ワックス、ウレタン化ワックスおよび無水マレイン酸変性ワックスより選ばれる一種以上からなる
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の有機バインダの製造方法。
【請求項5】
前記成分dは、
アモルファスポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、グリシジルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート樹脂、エチルメタクリレート樹脂、ブチルメタクリレート樹脂、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレン・アクリル酸・無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン樹脂、エチレン・ビニルアセテート・無水マレイン酸共重合体およびエチレン・エチルアクリレート共重合体より選ばれる一種以上からなる
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機バインダの製造方法。
【請求項6】
粉末射出成形法に用いられる有機バインダであって、
ビカット軟化点が80℃未満の水溶性高分子である成分a、ビカット軟化点が90℃以上の非水溶性熱可塑性高分子である成分b、150℃における溶融粘度が200mPa・s以下の非水溶性有機化合物である成分c、およびビカット軟化点が100℃未満の非水溶性熱可塑性高分子である成分dがそれぞれ記載順に50vol%以上80vol%以下、5vol%以上35vol%以下、10vol%以上40vol%以下、および5vol%以上20vol%以下の割合で含まれる混合物が前記成分a〜dの全てが溶融する温度まで加熱溶融され、
前記成分cの融点未満の温度に調整され撹拌された水の中に加熱溶融された前記混合物が投入されて生成された粒状中間体が乾燥されて形成された平均粒径が100μm以下の粉体である
ことを特徴とする有機バインダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−140535(P2011−140535A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−755(P2010−755)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(503174969)株式会社アテクト (14)
【Fターム(参考)】