説明

有機半導体材料、有機半導体膜、有機半導体素子及び有機薄膜トランジスタ

【課題】 移動度の高い新規な有機半導体材料を提供し、該有機半導体材料を用いた有機薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】 分子中に、無置換の芳香族環が連続して5環以上連結した部分構造と、アルキル基又はアルキル基が置換した基を置換基として有する有機基と、を有することを特徴とする有機半導体材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機半導体材料、特に簡単なプロセスで薄膜を形成することが可能な有機半導体材料および、該有機半導体材料で形成された薄膜を用いた電界効果型の有機薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報端末の普及に伴い、コンピュータ用のディスプレイとしてフラットパネルディスプレイに対するニーズが高まっている。またさらに情報化の進展に伴い、従来紙媒体で提供されていた情報が電子化されて提供される機会が増え、薄くて軽い、手軽に持ち運びが可能なモバイル用表示媒体として、電子ペーパーあるいはデジタルペーパーへのニーズも高まりつつある。
【0003】
一般に平板型のディスプレイ装置においては液晶、有機EL、電気泳動などを利用した素子を用いて表示媒体を形成している。またこうした表示媒体では画面輝度の均一性や画面書き換え速度などを確保するために、画像駆動素子としてアクティブ駆動方式の薄膜トランジスタ(TFT)素子を用いる技術が主流になっている。例えば通常のコンピュータディスプレイではガラス基板上にこれらTFT素子を形成し、液晶、有機EL素子等が封止されている。
【0004】
ここでTFT素子には主にa−Si(アモルファスシリコン)、p−Si(ポリシリコン)などの半導体を用いることができ、これらのSi半導体(必要に応じて金属膜も)を多層化し、ソース、ドレイン、ゲート電極を基板上に順次形成していくことでTFT素子が製造される。こうしたTFT素子の製造には通常、スパッタリング、その他の真空系の製造プロセスが必要とされる。
【0005】
しかしながら、このようなTFT素子の製造では真空チャンバーを含む真空系の製造プロセスを何度も繰り返して各層を形成せざるを得ず、装置コスト、ランニングコストが非常に膨大なものとなっていた。例えばTFT素子では通常、それぞれの層の形成のために、真空蒸着、ドープ、フォトリソグラフ、現像等の工程を何度も繰り返す必要があり、何十もの工程を経て素子を基板上に形成している。スイッチング動作の要となる半導体部分に関してもp型、n型等、複数種類の半導体層を積層している。こうした従来のSi半導体による製造方法ではディスプレイ画面の大型化のニーズに対し、真空チャンバー等の製造装置の大幅な設計変更が必要とされるなど、設備の変更が容易ではない。
【0006】
また、このような従来からのSi材料を用いたTFT素子の形成には高い温度の工程が含まれるため、基板材料には工程温度に耐える材料であるという制限が加わることになる。このため実際上はガラスを用いざるをえず、先に述べた電子ペーパーあるいはデジタルペーパーといった薄型ディスプレイを、こうした従来知られたTFT素子を利用して構成した場合、そのディスプレイは重く、柔軟性に欠け、落下の衝撃で割れる可能性のある製品となってしまう。ガラス基板上にTFT素子を形成することに起因するこれらの特徴は、情報化の進展に伴う手軽な携行用薄型ディスプレイへのニーズを満たすにあたり望ましくないものである。
【0007】
一方、近年において高い電荷輸送性を有する有機化合物として、有機半導体材料の研究が精力的に進められている。これらの化合物は有機EL素子用の電荷輸送性材料のほか、例えば非特許文献1等において論じられているような有機レーザー発振素子や、例えば非特許文献2等、多数の論文にて報告されている有機TFTへの応用が期待されている。これら有機半導体デバイスを実現できれば、比較的低い温度での真空ないし低圧蒸着による製造プロセスの簡易化や、さらにはその分子構造を適切に改良することによって、溶液化できる半導体を得る可能性があると考えられ、有機半導体溶液をインク化することによりインクジェット方式を含む印刷法による製造も考えられる。これらの低温プロセスによる製造は、従来のSi系半導体材料については不可能と考えられてきたが、有機半導体を用いたデバイスにはその可能性があり、したがって前述の基板耐熱性に関する制限が緩和され、透明樹脂基板上にも例えばTFT素子を形成できる可能性がある。透明樹脂基板上にTFT素子を形成し、そのTFT素子により表示材料を駆動させることができれば、ディスプレイを従来のものよりも軽く、柔軟性に富み、落しても割れない(もしくは非常に割れにくい)ディスプレイとすることができるであろう。
【0008】
しかしながら、こうしたTFT素子を実現するための有機半導体としてこれまでに検討されてきたのは、特許文献1にて開示されているペンタセンやテトラセンといったアセン類、同じく特許文献2に開示されている鉛フタロシアニンを含むフタロシアニン類、ペリレンやそのテトラカルボン酸誘導体といった低分子化合物や、特許文献3に開示されているα−チエニールもしくはセクシチオフェンと呼ばれるチオフェン6量体を代表例とする芳香族オリゴマー、さらにはポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリ−p−フェニレンビニレンといった共役高分子など限られた種類の化合物(これらの多くは非特許文献3に記載されている)でしかなく、高いキャリア移動度を示す新規な電荷輸送性材料を用いた半導体性組成物の開発が待望されていた。
【0009】
特許文献4、5、6、7では、従来知られている半導体ポリチオフェン類に比べて周囲の酸素による影響を受けにくく、より高移動度を達成できる材料の提案がなされているが、前述したようなTFT素子などへの実用化を考えた場合、まだ十分とは言えず、更に安定性の高い、高移動度の有機半導体材料の開発が望まれている。本発明では、より安定性に優れ、より高移動度を可能とした有機半導体材料を提供することができる。
【特許文献1】特開平5−55568号公報
【特許文献2】特開平4−167561号公報
【特許文献3】特開平8−264805号公報
【特許文献4】特開2003−268083号公報
【特許文献5】特開2003−292588号公報
【特許文献6】特開2003−221434号公報
【特許文献7】特開2003−261655号公報
【非特許文献1】サイエンス(Science)誌289巻599ページ(2000)
【非特許文献2】ネイチャー(Nature)誌403巻521ページ(2000)
【非特許文献3】アドバンスド・マテリアル(Advanced Materi−al)誌2002年第2号99ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、移動度の高い新規な有機半導体材料を提供することであり、また、該有機半導体材料を用いた有機TFTを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の構成により解決することができた。
【0012】
(請求項1)
分子中に、無置換の芳香族環が連続して5環以上連結した部分構造と、アルキル基又はアルキル基が置換した基を置換基として有する有機基と、を有することを特徴とする有機半導体材料。
【0013】
(請求項2)
前記無置換の芳香族環が連続して5〜20環連結した部分構造を有することを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料。
【0014】
(請求項3)
前記無置換の芳香族環が芳香族複素環であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機半導体材料。
【0015】
(請求項4)
前記芳香族複素環が芳香族複素5員環であることを特徴とする請求項3に記載の有機半導体材料。
【0016】
(請求項5)
前記芳香族複素5員環がチオフェン環であることを特徴とする請求項4に記載の有機半導体材料。
【0017】
(請求項6)
前記有機基に置換する基がアルキル基であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の有機半導体材料。
【0018】
(請求項7)
前記有機基がチエニレン基であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の有機半導体材料。
【0019】
(請求項8)
下記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を、少なくとも化合物の一方の末端に有することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の有機半導体材料。
【0020】
【化1】

【0021】
〔式中、Xはヘテロ原子を表し、Yは芳香族炭化水素基を表し、Rはアルキル基又はアルキル基が置換した基を表す。〕
(請求項9)
前記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を、化合物の両方の末端に有することを特徴とする請求項8に記載の有機半導体材料。
【0022】
(請求項10)
前記一般式(1)又は一般式(2)において、Yで表される芳香族炭化水素基がフェニル基であることを特徴とする請求項8又は9に記載の有機半導体材料。
【0023】
(請求項11)
請求項1〜10の何れか1項に記載の有機半導体材料を含有することを特徴とする有機半導体膜。
【0024】
(請求項12)
請求項1〜10の何れか1項に記載の有機半導体材料を含有することを特徴とする有機半導体素子。
【0025】
(請求項13)
請求項1〜10の何れか1項に記載の有機半導体材料を、半導体層に含むことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【発明の効果】
【0026】
有機TFTを簡単なプロセスで形成可能な半導体性組成物が得られ、該半導体性薄膜組成物を用いた有機TFTはゲート電圧を変化させた際の最大電流値と最小電流値の比、即ちON/OFF比が大きく、耐久性に優れるものであった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
【0028】
本発明における、無置換の芳香族環の例としては、ベンゼン環、ピラン環、ピリジン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環などが挙げられ、好ましくは無置換の芳香族複素5員環であり、より好ましくは、チオフェン環、フラン環、ピロール環等であり、特に好ましくは、チオフェン環である。
【0029】
本発明におけるアルキル基又はアルキル基が置換した基を置換基として有する有機基としては、アルキル基又はアルキル基が置換した基を置換基として有しているものであれば、特に構造は限定されないが、以下に示した構造例等をより好適に用いることができる。
【0030】
【化2】

【0031】
上記有機基中のR′は、アルキル基又はアルキル基が置換した基を表す。有機基中における複数のR′は、同じでも、また異なっていてもよい。
【0032】
前記アルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、アルキル基が置換した基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、フェニルジエチルシリル基等、あるいは、前述したようなアルキル基が置換したアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アルキル基が置換したヘテロアリール基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、キナゾリル基、フタラジル基等)、アルキル基が置換したヘテロ環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルキル基が置換したアリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルキル基が置換したアリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、アルキル基が置換したアリールアミノスルホニル基(例えば、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アルキル基が置換したアリールアシル基(例えば、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アルキル基が置換したアリールアシルオキシ基(例えば、フェニルカルボニルオキシ基等)、アルキル基が置換したアリールアミド基(例えば、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、アルキル基が置換したアリールカルバモイル基(例えば、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、アルキル基が置換したアリールウレイド基(例えば、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、アルキル基が置換したアリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、等)、アルキル基が置換したアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アルキル基が置換したアリールアミノ基(例えば、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、アルキル基が置換したアリールシリル基(例えば、トリフェニルシリル基等)等が挙げられる。置換基を有する有機基に置換する基はアルキル基であることが好ましく、より好ましくは直鎖のアルキル基、更に好ましくは炭素数3〜18の直鎖のアルキル基である。
【0033】
また、アルキル基又はアルキル基が置換した基を置換基として有する有機基は、化合物の有機溶媒への溶解性を向上させる目的で、化合物中に複数個含まれることがより好ましい。
【0034】
なかでも、アルキル基又はアルキル基が置換した基を置換基として有する有機基として、特に好ましいのはチエニレン基である。更に、前記チエニレン基に置換する基がアルキル基であることがより好ましく、アルキル基が置換したチエニレン基が2環以上連続して結合し、ヘッド ツー テイル(head to tail)構造(HT構造)を有することが、半導体材料を配列させる上でより好ましい。
【0035】
本発明の化合物は、分子中に無置換の芳香族環が連続して5環以上連結した部分構造と、アルキル基又はアルキル基が置換した基と、を置換基として有する有機基以外に、更に二価の連結基を有していてもよく、二価の連結基の例としては、アルキレン(メチレン、エチレン、ジアルキルメチレン、プロピレン、等)、アリーレン(フェニレン、ビフェニレン、フェナントレニレン、ジヒドロフェナントレニレン、フルオレニレン、オリゴアリーレン、等)、ジオキシアルキレン、ジチオアルキレン、ジオキシアリーレン、ジチオアリーレン、オリゴエチレンオキシド等を好ましい例として挙げることができる。
【0036】
本発明における前記一般式(1)又は一般式(2)において、Xはヘテロ原子を表す。好ましいXはO又はSであり、より好ましいXはSである。また、前記一般式(1)又は一般式(2)において、Yは芳香族炭化水素基を表し、より詳しくは、芳香族炭化水素基又は芳香族縮合炭化水素基を表す。Yで表される芳香族炭化水素基又は芳香族縮合炭化水素基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ペンタセニル等が挙げられ、置換可能な基が1又は複数個置換していても構わない。最も好ましいYはフェニル基である。Rはアルキル基又はアルキル基が置換した基を表し、前記有機基におけるR′で示したアルキル基又はアルキル基が置換した基と同様の基を挙げることができる。
【0037】
以下に、本発明の具体的化合物例を示すが、本発明における化合物がこれらに限定されるものではない。
【0038】
下記化合物例中のnは、ポリマー中の繰り返しモノマーセグメントの数または重合度を表す。
【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
【化5】

【0042】
【化6】

【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
本発明の有機半導体材料は有機TFT素子の活性層に設置することにより、良好に駆動するトランジスタ装置を提供することができる。
【0047】
有機TFTは、支持体上に有機半導体チャネル(活性層)で連結されたソース電極とドレイン電極を有し、その上にゲート絶縁層を介してゲート電極を有するトップゲート型と、支持体上にまずゲート電極を有し、ゲート絶縁層を介して有機半導体チャネルで連結されたソース電極とドレイン電極を有するボトムゲート型に大別される。
【0048】
本発明の化合物を有機TFT素子の活性層に設置するには、真空蒸着により基板上に設置することもできるが、適切な溶剤に溶解し必要に応じ添加剤を加えて調製した溶液をキャストコート、スピンコート、印刷、インクジェット法、アブレーション法等によって基板上に設置するのが好ましい。この場合、本発明の有機半導体材料を溶解する溶剤は、該有機半導体材料を溶解して適切な濃度の溶液が調製できるものであれば格別の制限はないが、具体的にはジエチルエーテルやジイソプロピルエーテル等の鎖状エーテル系溶媒、テトラヒドロフランやジオキサンなどの環状エーテル系溶媒、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン系溶媒、クロロホルムや1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、トルエン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、m−クレゾール等の芳香族系溶媒、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、N−メチルピロリドン、2硫化炭素等を挙げることができる。
【0049】
本発明おいて、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を形成する材料は導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペーストおよびカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられるが、特に、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITOおよび炭素が好ましい。あるいはドーピング等で導電率を向上させた公知の導電性ポリマー、例えば導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体なども好適に用いられる。中でも半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0050】
電極の形成方法としては、上記を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅などの金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成してもよい。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペーストなどを凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0051】
ゲート絶縁層としては種々の絶縁膜を用いることができるが、特に、比誘電率の高い無機酸化物皮膜が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウムなどが挙げられる。それらのうち好ましいのは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。
【0052】
上記皮膜の形成方法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法などのドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの塗布による方法、印刷やインクジェットなどのパターニングによる方法などのウェットプロセスが挙げられ、材料に応じて使用できる。
【0053】
ウェットプロセスは、無機酸化物の微粒子を、任意の有機溶剤あるいは水に必要に応じて界面活性剤などの分散補助剤を用いて分散した液を塗布、乾燥する方法や、酸化物前駆体、例えばアルコキシド体の溶液を塗布、乾燥する、いわゆるゾルゲル法が用いられる。
【0054】
これらのうち好ましいのは、大気圧プラズマ法とゾルゲル法である。
【0055】
大気圧下でのプラズマ製膜処理による絶縁膜の形成方法は、大気圧または大気圧近傍の圧力下で放電し、反応性ガスをプラズマ励起し、基材上に薄膜を形成する処理で、その方法については特開平11−61406、同11−133205、特開2000−121804、同2000−147209、同2000−185362等に記載されている(以下、大気圧プラズマ法とも称する)。これによって高機能性の薄膜を、生産性高く形成することができる。
【0056】
また有機化合物皮膜としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることもできる。
【0057】
有機化合物皮膜の形成法としては、前記ウェットプロセスが好ましい。
【0058】
無機酸化物皮膜と有機酸化物皮膜は積層して併用することができる。またこれら絶縁膜の膜厚としては、一般に50nm〜3μm、好ましくは、100nm〜1μmである。
【0059】
また支持体はガラスやフレキシブルな樹脂製シートで構成され、例えばプラスチックフィルムをシートとして用いることができる。前記プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。このように、プラスチックフィルムを用いることで、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量化を図ることができ、可搬性を高めることができるとともに、衝撃に対する耐性を向上できる。
【0060】
以下に、本発明に係わる半導体材料からなる有機薄膜を用いた電界効果トランジスタについて説明する。
【0061】
図1は、本発明の有機半導体材料を用いた電界効果トランジスタの概略構成例を示す。同図(a)は、支持体6上に金属箔等によりソース電極2、ドレイン電極3を形成し、両電極間に本発明の半導体材料からなる活性層1を形成し、その上に絶縁層5を形成し、更にその上にゲート電極4を形成して電界効果トランジスタを形成したものである。同図(b)は、有機半導体を用いた活性層1を、(a)では電極間に形成したものを、コート法等を用いて電極及び支持体表面全体を覆うように形成したものを表す。(c)は、支持体6上に先ずコート法等を用いて、有機半導体を用いた活性層1を形成し、その後ソース電極2、ドレイン電極3、絶縁層5、ゲート電極4を形成したものを表す。
【0062】
同図(d)は、支持体6上にゲート電極4を金属箔等で形成した後、絶縁層5を形成し、その上に金属箔等で、ソース電極2及びドレイン電極3を形成し、該電極間に本発明の半導体材料により形成された活性層1を形成する。その他同図(e)、(f)に示すような構成を取ることもできる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0064】
実施例1
ゲート電極としての比抵抗0.01Ω・cmのSiウェハーに、厚さ200nmの熱酸化膜を形成してゲート絶縁層とした後、オクチルトリクロロシランによる表面処理を行った。比較化合物〈1〉(ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(regioregular、アルドリッチ社製、PHT、平均分子量89000))のクロロホルム溶液をアプリケーターを用いて塗布し、自然乾燥することによりキャスト膜(厚さ50nm)を形成して、窒素雰囲気下で50℃、30分間の熱処理を施した。更に、この膜の表面にマスクを用いて金を蒸着してソースおよびドレイン電極を形成した。ソースおよびドレイン電極は幅100μm、厚さ200nmで、チャネル幅W=3mm、チャネル長L=20μmの有機TFT素子1を作製した。
【0065】
比較化合物〈1〉を比較化合物〈2〉(ペンタセン、アルドリッチ社製市販試薬を昇華精製して用いた)に代えた他は、有機TFT素子1と同様の方法で、有機TFT素子2を作製した。
【0066】
同様に、比較化合物〈1〉を比較化合物〈3〉(米国特許出願公開第2003/0164495号明細書例示化合物(3))に代えた他は、有機TFT素子1と同様の方法で、有機TFT素子3を作製した。
【0067】
【化10】

【0068】
更に、比較化合物〈1〉を表1に示した本発明の例示化合物に代えた他は有機TFT素子1と同様の方法で、有機TFT素子4〜11を作製した。
【0069】
以上のように作製した有機TFT素子1及び3〜11は、pチャネルのエンハンスメント型FETの良好な動作特性を示した。さらに、有機TFT素子1〜11について、I−V特性の飽和領域から、キャリア移動度とON/OFF比(ドレインバイアス−50Vとし、ゲートバイアス−50Vおよび0Vにしたときのドレイン電流値の比率)を求めた。
【0070】
また得られた素子を大気中で1ヶ月放置し、再度キャリア移動度とON/OFF比を求めた。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の結果より本発明の有機TFT素子は、トランジスタとしての特性が良好であり、さらに、経時劣化が抑えられていることが分かった。
【0073】
また、比較化合物〈2〉(ペンタセン)を用いた有機TFT素子2の結果は、塗布による薄膜形成によっては活性層として機能するペンタセン薄膜を得がたいことが明確に示されているが、本発明の有機TFT素子は、塗布による薄膜形成で良好なトランジスタとしての特性を示すことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】有機半導体材料を用いた電界効果トランジスタの構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 活性層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 絶縁層
6 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に、無置換の芳香族環が連続して5環以上連結した部分構造と、アルキル基又はアルキル基が置換した基を置換基として有する有機基と、を有することを特徴とする有機半導体材料。
【請求項2】
前記無置換の芳香族環が連続して5〜20環連結した部分構造を有することを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料。
【請求項3】
前記無置換の芳香族環が芳香族複素環であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機半導体材料。
【請求項4】
前記芳香族複素環が芳香族複素5員環であることを特徴とする請求項3に記載の有機半導体材料。
【請求項5】
前記芳香族複素5員環がチオフェン環であることを特徴とする請求項4に記載の有機半導体材料。
【請求項6】
前記有機基に置換する基がアルキル基であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の有機半導体材料。
【請求項7】
前記有機基がチエニレン基であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の有機半導体材料。
【請求項8】
下記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を、少なくとも化合物の一方の末端に有することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の有機半導体材料。
【化1】

〔式中、Xはヘテロ原子を表し、Yは芳香族炭化水素基を表し、Rはアルキル基又はアルキル基が置換した基を表す。〕
【請求項9】
前記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を、化合物の両方の末端に有することを特徴とする請求項8に記載の有機半導体材料。
【請求項10】
前記一般式(1)又は一般式(2)において、Yで表される芳香族炭化水素基がフェニル基であることを特徴とする請求項8又は9に記載の有機半導体材料。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の有機半導体材料を含有することを特徴とする有機半導体膜。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項に記載の有機半導体材料を含有することを特徴とする有機半導体素子。
【請求項13】
請求項1〜10の何れか1項に記載の有機半導体材料を、半導体層に含むことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−24904(P2006−24904A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163684(P2005−163684)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】