説明

有機発光ダイオードおよび有機発光ダイオードの化学状態評価方法

【課題】アルカリ金属またはアルカリ土類金属としてK,Ca,Rb,Sr,CsまたはBaを含む有機発光ダイオードの電子輸送層の化学的な結合状態をXAFS法で分析するために有機発光ダイオードを分解すると、大気中の酸素や水分により上記した金属が酸化してしまい、電子輸送層に含まれている化学的な結合状態が変化してしまうため、電子輸送層の化学的性質を分析することが困難であるという課題がある。
【解決手段】有機発光ダイオード11およびその周辺の構成を、XAFS法を用いて非破壊で分析できるよう各層の厚さおよび材質を選択した構造を用いる。有機発光ダイオード11およびその周辺の構成を非破壊で測定することで、電子輸送層24の化学的な結合状態を大気中の酸素や水分により変質させることなく分析することを可能とする有機発光ダイオード11の構成元素の化学状態評価方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機発光ダイオードおよび有機発光ダイオードの化学状態評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオードは次世代フラットパネルディスプレイとして有望な技術であり、様々な機関で精力的な開発が進められている。有機発光ダイオードの低閾値化や発光効率を向上させるための方法として、特許文献1に記載されているように、ドナー(電子供与性)ドーパントとして機能するアルカリ金属やアルカリ土類金属を含む電子輸送層を陰極と有機発光層との間に設ける方法が知られている。
【0003】
K,Ca,Rb,Sr,Cs,またはBaが属するアルカリ金属やアルカリ土類金属は、雰囲気中の酸素や水分に対して反応性が強く、酸化されやすい性質を有している。雰囲気中の酸素や水分の侵入を受けると電子輸送層に含まれるアルカリ金属やアルカリ土類金属は酸化され電子輸送層は変質する。変質が生じると電子輸送層の品質が劣化し、有機発光ダイオードの不良が発生する。また、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物や水和物を用いる場合でも、雰囲気中の酸素や水分により過剰な酸化や水和が発生する場合があり、電子輸送層の品質が劣化し、有機発光ダイオードの信頼性を低下させるというおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1に示すように有機発光ダイオードをシールド層で覆い、大気中の酸素や水分の有機発光ダイオード中への侵入を防ぐ方法や、特許文献2に示すように乾燥剤を内部に保有する機密性容器中に有機発光ダイオードを封入する方法を用いて電子輸送層を、酸素や水分を低減した雰囲気中に配置する技術が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−270171号公報
【特許文献2】特開平9−148066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に示すように電子輸送層から、酸素や水分の侵入を抑える構造を用いた場合でも、例えば気密不良などにより雰囲気からの酸素や水分の侵入が生じる場合がある。また、雰囲気からの酸素や水分の侵入が抑えられている場合でも、経時変化や電圧の印加によるストレスなどにより有機発光ダイオードは徐々に劣化する。
【0007】
これらの現象を調査解析する場合、有機発光ダイオードの劣化要因となる電子輸送層の特性変動を調べる必要があるが、電子輸送層に含まれるアルカリ金属やアルカリ土類金属はきわめて酸化されやすい金属である。分析を行うために有機発光ダイオードを含む構造を分解すると同時に、有機発光ダイオードの電子輸送層は酸化され変質する。そのため、有機発光ダイオードの電子輸送層の解析を行うことが実用上困難であるという課題がある。そこで、本発明はこのような課題を解決し、電子輸送層の解析を容易とする有機発光ダイオードおよび有機発光ダイオードの化学状態評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、「上」とは基板の一方の面から、他方の面と反対側に向かう方向を指すものと定義する。また、「上側」とは基板の他方の面から、基板の一方の面に向かう方向と定義する。
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明に係る有機発光ダイオードは、有機発光層と、陰極と、前記有機発光層の一方の面と前記陰極との間に配置され、K,Ca,Rb,Sr,Cs,またはBaのうち少なくとも一種類以上の金属元素を含む電子輸送層と、前記有機発光層の他方の面側に配置された陽極と、前記陰極の少なくとも一部、前記陽極の少なくとも一部、前記有機発光層、および前記電子輸送層、とを囲うシール部と、前記陰極の少なくとも一部、前記陽極の少なくとも一部、前記有機発光層、および前記電子輸送層、とを覆い、かつ前記シール部と共に密閉領域の一部を構成する封止層と、少なくとも前記有機発光層、前記陰極、前記電子輸送層、前記陽極、前記シール部および前記封止層が前記一方の面に配置され、また前記シール部と前記封止層と共に前記密閉領域を構成する基板と、を含み、前記基板の前記一方の面側に向けてX線が照射される場合に、前記電子輸送層に含まれる前記金属元素のK吸収端またはL吸収端から1キロエレクトロンボルトまでの範囲に対応するフォトンエネルギーをEとし、前記基板上に位置し、前記電子輸送層よりも上側の層を構成している、前記電子輸送層から上に向かって数えてi番目に位置する構成層iに対して、前記フォトンエネルギーEに対応する前記X線の質量吸収係数μi(E)とし、前記金属元素に前記X線が照射されることで発生する蛍光X線のうち、前記金属元素によるK吸収またはL吸収に対応して発生する前記金属元素のK線またはL線のフォトンエネルギーをEfxとし、前記構成層iに対して、前記金属元素のK線またはL線のフォトンエネルギーEfxに対応する質量吸収係数をμi(Efx)とし、前記構成層iの密度をρi、前記構成層iの層厚をdiとし、前記X線の、前記一方の面の法線と為す角度をθとし、前記蛍光X線を検出する装置が配置される、前記一方の面の法線と為す角度をΨとした場合に、下記する式を満たす構造を有することを特徴とする。
【0010】
【数1】

【0011】
この構成によれば、入射されたX線の減衰量は数1で示される左辺第1項で記述される。入射されたX線は、入射角θで侵入する。そのため構成層iを通過する場合に入射されたX線は層厚diをcosθで除した距離を通過する。実効的な通過距離[di/cosθ]に密度ρiと質量吸収係数μi(E)を乗ずることで入射されたX線の減衰量を算出することができる。同様に、電子輸送層から出射角Ψで放出された蛍光X線も、構成層iを通過する場合には層厚diをcosΨで除した距離を通過する。実効的な通過距離[di/cosΨ]に密度ρiと質量吸収係数μi(Efx)を乗ずることで蛍光X線の減衰量を算出することができる。入射されたX線の減衰量と、蛍光X線の減衰量の和が1/e2以下に抑えられている場合には、吸収端のエネルギーを判別しうる実用感度を持って電子輸送層の吸収端が検知できるので、蛍光X線の発光強度信号を用いて電子輸送層の化学状態評価を非破壊で行いうる構成を有する有機発光ダイオードを提供することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る有機発光ダイオードの化学状態評価方法は、有機発光ダイオードを非破壊で、X線吸収微細構造(XAFS)法により測定し、前記電子輸送層中の化学状態を評価することを特徴とする。
【0013】
この評価方法によればX線吸収微細構造分析を用いて非破壊で金属元素の化学状態の解析を行うことで有機発光ダイオード内の電子輸送層の化学状態が評価できる。そのため、電子輸送層の評価を行う場合に雰囲気からの酸素や水分の付加は生じない。従って、高い精度を持って電子輸送層の化学状態を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態として、有機発光ダイオードおよびその周辺の構成について図面を用いて説明する。図1(a)は、6個の有機発光ダイオードを有する構造体の平面図、図1(b)は図1(a)のA−A断面図である。
【0015】
基板13と、シール剤30と、封止層40とを含む部材により構成される密閉領域50中に有機発光ダイオード11(点線で囲われた領域)は配置されている。各々の有機発光ダイオード11には、各々独立した電位が供給できるように、一端が密閉領域50の外側に位置する有機発光ダイオード11毎に独立した陽極16が備えられている。そして陽極16及び基板13を覆うように正孔輸送層19が備えられている。正孔輸送層19の上には、正孔輸送層19を覆うように有機発光層21が備えられ、さらにその上には電子輸送層24が備えられている。そして、一端が密閉領域50の外側に位置し、かつ有機発光ダイオード11の構成部材である電子輸送層24を覆うように位置する陰極27が備えられている。
【0016】
次に、各々の構成に用いられる要素について説明する。基板13としては、例えば、ガラス、石英、透光性樹脂などの透明基板や、アルミナなどのセラミック、シリコン板、遮光性樹脂などの不透明基板を用いることができる。
【0017】
有機発光ダイオード11として基板13側から光を取り出すボトムエミッション型の構成を用いる場合には、基板13として透明な基板を用いることで発光した光を透過させることができる。また、有機発光ダイオード11として基板13と反対側から光を取り出すトップエミッション型の構成を用いた場合には、基板13として透明基板、不透明基板のいずれも用いることができる。
【0018】
シール剤30としては、基板13および封止層40との馴染みが良く、かつガスバリア性が高く大気の侵入を阻止しうる熱硬化型、紫外線硬化型または2剤混合型のエポキシ樹脂や、アクリル樹脂などを用いることができる。
【0019】
封止層40を構成する材料としては、大気の侵入を阻止しうるようガスバリア性が高く、かつ入射されたX線と蛍光X線に対する透過能の高い材料を用いることが好適である。トップエミッション型の構成を用いる場合には、例えば、無アルカリガラス,SiON,パラ系アラミド,ポリ塩化ビニリデン,ポリエチレンテレフタレート(PET)など可視光に対して透過性を有する材料を用いることができる。ボトムエミッション型の有機発光ダイオード11を用いる場合には、これに加えて、窒化ホウ素などの不透明材料を用いることができる。
【0020】
有機発光ダイオード11の大きさとしては、例えば4mm×0.2mm以上の寸法を有することが好ましい。この寸法は軌道放射光施設SPring8(スプリング8)のビームラインBL19B2で得られる典型的なX線ビームの寸法であり、有機発光ダイオード11の大きさとしてこの寸法以上の大きさを与えることで、ビームラインから入射されるX線を絞ることなく有機発光ダイオード11に照射することが可能となり、高感度で分析を行うことが可能となる。
【0021】
陽極16としては、ボトムエミッション型の構成を用いる場合に、陽極16の材質として透光性を有する電極材料であるITO(インジウム・錫・酸化物)などを用いることが好適である。トップエミッション型の構成を用いる場合には、陽極16の材質としてITOに加えて、Pt,Ir,Ni,Pdなどの不透明電極を用いることができる。
【0022】
有機発光層21を構成する材料としては、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(ビフェニル)−1,3,4−オキシジアゾ−ルなどのオキサジアゾール誘導体、ペニレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素を用いることができる。
【0023】
さらに、これら高分子にルブレン、ペニレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムなどのイリジウム錯体などをドープして用いることができる。
【0024】
また、有機発光層21への正孔注入の効率を向上させるためには陽極16と有機発光層21との間に正孔輸送層19を設けることが好ましい。正孔輸送層19を形成する材料としては、例えば3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)や、トリフェニルジアミン誘導体などを用いることができる。
【0025】
電子輸送層24は仕事関数が低い、原子番号19以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属に属する金属元素として、K,Ca,Rb,Sr,Cs,Baの少なくともいずれか1つを含んでいる。電子輸送層24を構成する材料としては、前記金属元素、前記金属元素のハロゲン化物、前記金属元素の炭酸塩を用いることができる。また、前記金属元素を添加したバソクプロイン、前記金属元素を添加したオキサジアゾール誘導体、前記金属元素を添加したトリアゾール誘導体、前記金属元素を添加したアルミニウムキノリン錯体などの電子輸送性有機材料を用いることができる。
【0026】
ここで、電子輸送層24をX線吸収微細構造(XAFS)法で分析するための制約条件について説明する。基板13の、有機発光ダイオード11が形成された面側からX線が入射される場合に、電子輸送層24に含まれる前記金属元素のK吸収端またはL吸収端から1キロエレクトロンボルトまでの範囲に対応するフォトンエネルギーをEとし、前記フォトンエネルギーEに対応する前記X線の電子輸送層24での質量吸収係数μ(E)とし、電子輸送層24にX線が照射されることで発生する蛍光X線のうち、K吸収またはL吸収に対応して発生する金属元素のK線またはL線のフォトンエネルギーをEfxとし、電子輸送層24に係る金属元素のK線またはL線のフォトンエネルギーEfxに対応する質量吸収係数をμ(Efx)とし、電子輸送層24の密度をρ、層厚をdとし、入射するX線の、基板13の法線と為す角度をθとし、蛍光X線を検出する装置が配置される、基板13の法線と為す角度をΨとした場合に、以下の関係式Aを満たすことが必要となる。
ρd(μ(E)/cosθ+μ(Efx)/cosΨ)≦0.01・・・(関係式A)
【0027】
関係式Aを満足させることで,電子輸送層24において発生する蛍光X線の自己吸収を無視することができ、XAFSスペクトルに係る歪みの発生を抑えられるので、電子輸送層24に含まれる金属元素であるK,Ca,Rb,Sr,CsまたはBaの化学的な結合状態を分析することが可能となる。
また、XAFS測定においては、K吸収端またはL吸収端から高々1キロエレクトロンボルトまでの範囲測定すれば所望の測定結果を得ることができる。
【0028】
陰極27を構成する材料としては、トップエミッション型の有機発光ダイオード11を用いる場合には、ITOなど光透過性を有する導電体を用いるのが好適である。ボトムエミッション型の有機発光ダイオード11を用いる場合には、これに加えてアルミニウムやマグネシウム銀合金などの不透明金属を導電体として用いることができる。
【0029】
このようにして形成された有機発光ダイオード11を、封止層40とシール剤30とを用いて窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中で密封することで、有機発光ダイオード11とその周辺の構成物と大気との接触を防止することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態として、有機発光ダイオードおよびその周辺の構成を形成する工程および各層の膜厚などについて図2および図3を参照して説明する。図2(a),(c),(e)および図3(g),(i)は各製造工程に対応した平面図、図2(b),(d),(f)および図3(h),(j)は各平面図のA−A断面図である。
【0031】
まず、図2(a),(b)に示すように基板13として、縦25mm、横25mm、厚さ0.5mmの無アルカリガラスを用い、その上にITO膜を用いた陽極16を形成する。ITO膜の成膜には例えばスパッタ法を用い、メタルマスク(図示せず)を、基板13を覆うように設置し、スパッタ工程終了後にメタルマスクを剥がす。陽極16は以上の工程を用いて形成される。そして、陽極16が形成された基板13をイソプロピルアルコールで洗浄した後、窒素ガスを用いて乾燥させる。その後、UVオゾン洗浄器(UDM−08M,マクゾーン社製)にてオゾン洗浄を5分行う。オゾン洗浄後、3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS=1/20)の水溶液をスピンコート法により堆積し、さらに200℃に加熱し、厚さ60nmの正孔輸送層19を基板13の全面に形成する。正孔輸送層19を形成した後、窒素で充満したグローブボックス中で、正孔輸送層19上にポリビニルカルバゾール:2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール:トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムの混合物(混合重量比70:30:3)のシクロヘキサノン溶液をスピンコート法により堆積し、さらに130℃にて加熱し、厚さ70nmの有機発光層21を基板13の上面に形成する。
【0032】
次に、図2(c),(d)に示すように基板周縁部42に堆積された正孔輸送層19と有機発光層21をキシレンを含ませた綿棒を用いて除去する。
【0033】
次に、図2(e),(f)に示すようにメタルマスク(図示せず)を基板13の上部を覆うように設置し、グローブボックスが設置されている真空蒸着装置を用いて、Csとバソクプロインとを共蒸着法により堆積し、30nmの厚さを有する電子輸送層24を形成する。この工程ではCsとバソクプロインとの蒸着速度比を1:2.7程度に制御している。蒸着速度比を上記した値に維持することで、電子輸送層24内での金属Csの重量濃度が約50wt%となる共蒸着を行うことができる。
【0034】
ここで、上記したように、XAFS法での分析で発生するスペクトルの歪みを抑えて解析するための制約条件である、電子輸送層24内での蛍光X線の再吸収量について見積りを行う。電子輸送層24(バソクブレインとCsの共蒸着層)の密度ρ、膜厚d、CsのK吸収端直上のエネルギーEのX線に対する質量吸収係数μ(E)、およびCsのKα1蛍光X線に対する質量吸収係数μ(Efx)はそれぞれ1.435g/cm3,30nm,16.2345cm2/g,および4.0647m2/gである。そして入射角θと出射角Ψをともに45°と仮定し、この値を上記した制約条件である関係式Aに代入する。
すると、0.00013という値が得られる。この値はXAFS法での分析で電子輸送層24での自己吸収に起因するスペクトル形状の歪みを十分に抑えられると予想される値であり、スペクトル形状の補正などを行う必要はないものと考えることができる。
【0035】
続けて図3(g),(h)に示すようにメタルマスク(図示せず)を基板13の上部を覆うように設置し、アルミニウムを厚さ200nm程度となるよう蒸着し、メタルマスクを剥がすことで陰極27を形成する。
【0036】
次に、図3(i),(j)に示すように基板13をグローブボックス内に移し、シール剤前駆体となる紫外線硬化型アクリル樹脂(スリーボンド社製3157B)を、正孔輸送層19と有機発光層21が除去された基板周縁部42上のシール部31に塗布する。そして、縦18mm、横18mm、厚さ0.17mmの無アルカリガラスを用いた封止層40をシール部31と重ねるように乗せ、例えばこの状態で紫外線ランプを用いてシール剤前駆体を硬化させてシール剤30を形成する。
【0037】
上記した工程で得られた有機発光ダイオード11の1画素の大きさは縦8mm、横5mmであり、軌道放射光施設SPring8(スプリング8)のビームラインBL19B2で照射可能な硬X線のビームサイズである縦4mm、横0.2mmと比べ十分大きな試料寸法を有している。そのため有機発光ダイオード11の1画素のみに全量のX線を照射することができる。従って蛍光X線を多量に発生させることができ、S/N比の高い蛍光測定を行うことが可能となる。
【0038】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態として、XAFS法を用いて有機発光ダイオードおよびその周辺の構成を含めて分析する実施形態について説明する。
【0039】
封止層40を介して有機発光ダイオード11に、入射角θを45°でスプリング8のビームラインBL19B2からX線の供給を受け、出射角Ψを45°として蛍光X線を検出してスペクトル分析した結果を図4に示す。図4に示されるスペクトルから、入射されたX線のエネルギーが35970eV近傍で吸収強度が急峻に変化していることが分かる。このエネルギーでの吸収強度の変動はCsによる吸収であり、有機発光ダイオード11での電子輸送層24に含まれているCsからの信号を検出できている。
【0040】
また、この測定方法は、有機発光ダイオード11及びその周辺の構成を破壊することなく測定することが可能であり、同一の試料を例えば有機発光ダイオード11を発光させ続ける状態にし、適当な時間間隔でこの測定を行うことで、発光に伴う経時変化を追跡することが可能となる。さらに、この試料のうち1つは発光させ、もう1つは発光させずに保持し、有機発光ダイオード11の経時変化を追跡することで、発光による特性の変動と、経時変化を要因とする特性の変動とを区別して追跡することが可能となる。
【0041】
ここで、XAFS分析を用いる場合に試料が満たすべき条件について考察する。陰極27を構成するアルミニウムの密度ρ1、膜厚d1、Cs単体でのK吸収端直上のエネルギーEのX線に対するアルミニウム(陰極27)の質量吸収係数μ1(Efx)は、それぞれ2.7g/cm3、200nm、0.5784cm2/g、および0.9029cm2/gである。また、封止層40を構成する無アルカリガラスの密度ρ2、膜厚d2、CsKα1蛍光X線に対する無アルカリガラス(封止層40)の質量吸収係数μ2(Efx)は、それぞれ2.2g/cm3、0.17mm、0.4096cm2/g、および0.6394cm2/gである。
【0042】
これらを数1の左辺に代入すると、0.028となる。この条件では入射されたX線の損失および蛍光X線の損失和が1/e2(≒0.135)よりも小さくなるため、図4に示されるCsの吸収に対応する35970eV近傍での吸収が高いSN比を持って検出されている。この状態で、入射されたX線の損失および蛍光X線の損失和が1/e2になった場合、信号強度は約1/5(≒0.028/(1/e2))に低下する。図4に示すグラフで信号強度が約1/5となり、雑音成分の強度が変わらないと仮定してシミュレーションを行うと、XAFS法で得られるスペクトル形状は図5に示す形状に変わるものと予想される。この条件を用いた場合では信号強度と雑音との比率が概ね等しく、Csの吸収強度を実用的な状態で検出できる。このことから示されるように、入射されたX線の損失および蛍光X線の損失和が数1を満たす場合には、XAFS法によりCsの測定を行うことが可能である。
【0043】
また、Cs以外の元素としてK,Ca,Rb,Sr,またはBaを用いた場合、これらの金属はアルカリ金属またはアルカリ土類金属でありCsと類似した特性を示す特徴がある。そのため吸収端のエネルギーが異なる以外には本質的な差が生じる要因は無く、同様にXAFS法で分析可能である。また、上記した元素を複数種混合して用いても良い。
【0044】
(第1の変形例)
上記した実施形態では、基板13上に陽極16を配置する構造について説明したが、上記した有機発光ダイオード11の層構成を反転させて、陽極16が最上部に位置するよう配置しても良い。この場合でも、電子輸送層24の分析にXAFS法を用いる際に、電子輸送層24の上部に位置する層での損失の合計が数1を満たす範囲であれば測定可能である。
【0045】
(第2の変形例)
上記した実施形態では、ボトムエミッション型の有機発光ダイオード11を用いた例について説明したが、これはトップエミッション型の有機発光ダイオードを用いても良い。トップエミッション型の有機発光ダイオードを用いた場合でも、有機発光ダイオードが位置する方向から入射されるX線を導入することが好ましく、基板13による吸収損失を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)は有機発光ダイオードを有する構造体の平面図、(b)は(a)のA−A断面図。
【図2】(a)、(c)、(e)は各製造工程に対応した平面図、(b)、(d)、(f)は各平面図のA−A断面図。
【図3】(g)、(i)は各製造工程に対応した平面図、(h)、(j)は各平面図のA−A断面図。
【図4】XAFS法を用いて得られたスペクトル分布図。
【図5】入射されたX線と蛍光X線の損失和を増やした場合のXAFS法でのスペクトル分布シミュレーション結果を示すスペクトル分布図。
【符号の説明】
【0047】
11…有機発光ダイオード、13…基板、16…陽極、19…正孔輸送層、21…有機発光層、24…電子輸送層、27…陰極、30…シール剤、31…シール部、40…封止層、42…基板周縁部、50…密閉領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光層と、
陰極と、
前記有機発光層の一方の面と前記陰極との間に配置され、K,Ca,Rb,Sr,Cs,またはBaのうち少なくとも一種類以上の金属元素を含む電子輸送層と、
前記有機発光層の他方の面側に配置された陽極と、
前記陰極の少なくとも一部、前記陽極の少なくとも一部、前記有機発光層、および前記電子輸送層、とを囲うシール部と、
前記陰極の少なくとも一部、前記陽極の少なくとも一部、前記有機発光層、および前記電子輸送層、とを覆い、かつ前記シール部と共に密閉領域の一部を構成する封止層と、
少なくとも前記有機発光層、前記陰極、前記電子輸送層、前記陽極、前記シール部および前記封止層が前記一方の面に配置され、また前記シール部と前記封止層と共に前記密閉領域を構成する基板と、を含み、
前記基板の前記一方の面側に向けてX線が照射される場合に、前記電子輸送層に含まれる前記金属元素のK吸収端またはL吸収端から1キロエレクトロンボルトまでの範囲のフォトンエネルギーをEとし、
前記基板上に位置し、前記電子輸送層よりも上側の層を構成している、前記電子輸送層から上に向かって数えてi番目に位置する構成層iに対して、前記フォトンエネルギーEに対応する前記X線の質量吸収係数μi(E)とし、
前記金属元素に前記X線が照射されることで発生する蛍光X線のうち、前記金属元素によるK吸収またはL吸収に対応して発生する前記金属元素のK線またはL線のフォトンエネルギーをEfxとし、
前記構成層iに対して、前記金属元素のK線またはL線のフォトンエネルギーEfxに対応する質量吸収係数をμi(Efx)とし、
前記構成層iの密度をρi、前記構成層iの層厚をdiとし、
前記X線の、前記一方の面の法線と為す角度をθとし、
前記蛍光X線を検出する装置が配置される、前記一方の面の法線と為す角度をΨとした場合に、下記する式を満たす構造を有することを特徴とする有機発光ダイオード。
【数1】

【請求項2】
請求項1に記載の有機発光ダイオードを非破壊で、X線吸収微細構造(XAFS)法により測定し、前記電子輸送層の化学状態を評価することを特徴とする有機発光ダイオードの化学状態評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−124235(P2008−124235A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306262(P2006−306262)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】