説明

木造建物の制震化工法

【課題】軸組と壁の両方を制震化することにより、古民家の耐震性を向上させることができる木造建物の制震化工法を提供する。
【解決手段】軸組を構成する各柱2と足固め5の仕口部に制震ダンパー6を取り付ける。軸組の構面に構造用合板10を取り付ける。構造用合板10は軸組を構成する柱2,2、桁3、足固め5および間柱7の各側面部にテープ状に成形した粘弾性体11によって取り付ける。粘弾性体11は建物の小変形に対して作用し、制震ダンパー6は建物の大変形に対して作用するように取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木造建物の制震化工法に関し、主として古民家の耐震補強に適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
一般に古民家は、明治から昭和初期までに建てられた和小屋架構の住宅で、柱と柱をつなぐ桁と、桁の下、開口部の上に差し鴨居という部材を配置することにより構築され、差し鴨居の働きにより柱と桁がほぼ剛に近い状態に接合された一種のラーメン構造のようなものとして構築されている。
【0003】
また、柱や桁などの軸組材には一般に径の太い構造材が用いられ、かつ伝統的な仕口構造により地震に対して粘り強い特性を備え、さらに、すじかいや耐力壁がなく、柱は玉石の上に直に建て付けられ、かつ壁は小舞を下地とした塗壁で、耐力は劣るが変形しても急激に耐力が落ちない特性を有している。
【0004】
ところで従来、こうした構造の古民家の耐震補強は、一般に仕口部を金物で補強したり、あるいは軸組の構面に構造用合板を取り付けて軸組全体を補強する方法によって行なわれていた。
【0005】
【特許文献1】特許第3667123号
【特許文献2】特開2002−61316号公報
【特許文献3】特開2004−124605号公報
【特許文献4】特開2002−061316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、古民家は、径の太い柱と梁とからなる軸組と伝統的な仕口構造により地震に対して粘り強い構造を備えているにもかかわらず、建物全体を硬くして耐震性を強化する方法は、必ずしも適していない。
【0007】
特に、軸組の構面に構造用合板を取り付けて建物全体を補強する耐震補強は、変形量が一定レベルに達すると、急激な耐力低下を起こし、建物全体の倒壊をもたらすおそれがあった。
【0008】
また、近年、制震装置を利用した耐震補強も行なわれているが、従来の制震装置は軸組や壁の変形量を粘弾性体に伝達するための機構にコストの大半が費やされており、高コスト化が免れないものであった。
【0009】
さらに、耐震壁と制震壁は全く別のものであったため、必要な耐力壁を設置した上で、さらに制震壁を設置する必要があり、コストが嵩むという課題があった。
【0010】
本発明は、以上の課題を解決すべくなされたもので、軸組と壁を同時に制震化することにより、木造建物の耐震性を向上させるようにした木造建物の制震化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の木造建物の制震化工法は、軸組を構成する軸組材どうしの仕口部に制震ダンパーを、前記軸組の構面に構造用面材を、さらに当該構造用面材と前記軸組との間にテープ状に成形した粘弾性体をそれぞれ取り付け、前記テープ状に成形した粘弾性体を主として建物の小変形に対して作用させ、前記制震ダンパーを主として建物の大変形に対して作用させるように取り付けることを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、軸組と壁の両方を同時に制震化することにより、木造建物全体の耐震性を向上させたものであり、地震による建物の小変形に対しては、主としてテープ状に成形した粘弾性体がずれ変形を起すことにより抵抗し、地震による建物の大変形に対しては、主として制震ダンパーが抵抗することにより、建物全体では地震時の小変形から大変形の全変形に対して効果的に抵抗することができる。したがって、一定レベル以上の地震によっても建物全体が脆性的に破壊するようなことはなく、建物の安全性が確保される。
【0013】
この場合の構造用面材には、構造用合板や石膏ボード等の市販のものを用いることができ、これらは軸組材にビスによって容易に止め付けることができる。
【0014】
また、テープ状に成形した粘弾性体としては、例えば、特許文献4(特開2002−061316号公報)などに記載されたものがあり、市販のものとしてはアイディールブレーン社製の商品名「制震テープ」などがある。
【0015】
当該テープ状に成形した粘弾性体は、構造用合板を止め付ける前に、軸組材の表面に貼り、その上からビスで構造用合板を止め付けることで、地震の際にエネルギー吸収効果が発揮され、特に小変形を抑止する効果が大きい。
【0016】
また、制震ダンパーには金属の塑性変形を利用した塑性ダンパー、粘性材の粘性を利用した粘性ダンパー、さらには油圧を利用したオイルダンパー等を用いることができ、いずれも軸組材にビス止めやボルト止めによって容易に取り付けことができるものであり、木造建物の規模に応じて市販のものの中から任意に選択すればよい。
【0017】
請求項2記載の木造建物の制震化工法は、請求項1記載の木造建物の制震化工法において、制震ダンパーは、床下側に取り付けることを特徴とするものである。古民家は、一般の木造建物より床が高く床下空間が広いので、柱と足固めとの仕口部といった軸組材どうしの仕口部の床下側に容易に取り付けることができる。
【0018】
請求項3記載の木造建物の制震化工法は、請項1または2記載の木造建物の制震化工法において、制震ダンパーは、仕口部の一方の軸組材に固定して突設された変位板と、他方の軸組材に固定して前記変位板の側方に突設された変位板と、前記変位板の間隙に充填された粘弾性体とから構成されてなることを特徴とするものである。
【0019】
本発明は特に、地震時に生じる仕口部の回転変形により変位板が変位板面内の相反する方向に回転変位し、その際粘弾性体がせん断変形することにより建物の大変形に抵抗するようにしたものであり、簡単な構成で建物の大変形を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軸組材どうしの仕口部に制震ダンパーを取り付けることにより軸組を制震化し、前記軸組の構面に構造用合板などの構造用面材をテープ状に成形した粘弾性体によって取り付けることにより耐力壁を制震化することにより軸組と耐力壁の両方を同時に制震化することで、木造建物全体の耐震性を容易にかつ低コストで制震化することができる。
【0021】
また、耐力壁をそのまま制震化することで、耐力壁を設けたことによる開放性の低下を最少限にとどめることができる等の効果も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、制震化された古民家の軸組を示し、図において、玉石基礎1の上に柱2が建て付けられ、当該柱2,2間の上端部に桁3、その下側、開口部aの上側に差し鴨居4、開口部aの下側に足固め5がそれぞれ架け渡されている。
【0023】
また、各柱2と足固め5との仕口部bに制震ダンパー6がそれぞれ取り付けられている。制震ダンパー6は、床下の広い空間を利用して足固め5の床下側に取り付けられている。なお、制震ダンパー6は、柱2と足固め5の側面部などにビス止めまたはボルト止めすることにより取り付けられている。こうして古民家の軸組が制震化されている。
【0024】
なお、図2(a),(b)は、粘弾性体を利用した制震ダンパーの一例を示し、図において、制震ダンパー6は、柱2の側面部に固定して突設された変位板6aと、足固め5の下面部に固定して変位板6aの側方に突設された変位板6bと、変位板6aと変位板6bとの間隙に充填された粘弾性体6cとから構成されている。
【0025】
そして、地震時に生じる柱2と足固め5との仕口部の回転変形により、変位板6aと変位板6bが変位板面内の相反する方向に回転変位し、その際粘弾性体6cがせん断変形することにより地震力を吸収する。
【0026】
図4〜図6は古民家の耐力壁を示し、いずれの例においても、柱2,2間の上端部に桁3、床部に足固め5がそれぞれ位置されている。
【0027】
また特に、図3(a),(b)に図示する例においては、足固め5と桁3との間に1または複数の間柱7が配置され、また、図4(a),(b)に図示する例においては、足固め5と桁3との間の中央に間柱7が配置され、さらに柱2,2、桁3および足固め5の各軸組材の内周部に受け部材8がこれらの部材の軸方向に沿ってそれぞれ配置されている。また、図5(a),(b)に図示する例においては、柱2,2間に複数の貫材9が所定間隔おきに水平に配置されている。
【0028】
そして、こうして構成された壁軸組の一側面側に構造用合板10がテープ状に成形した粘弾性体11で接着することにより配置されている。このうち、図3(a),(b)に図示する例においては、構造用合板10は柱2,2、桁3、足固め5および間柱7の各部材の側面部に粘弾性体11によって接着することにより大壁構造を構成している。
【0029】
また、図4(a),(b)に図示する例においては、構造用合板10は中央の間柱7と各受け部材8に粘弾性体11によってそれぞれ接着することにより真壁構造を構成している。そして、図5(a),(b)に図示する例においては、構造用合板10は複数の貫き材9に接着することにより真壁構造を構成している。
【0030】
このような構成により、図3、図4および図5に図示する古民家の耐力壁はそれぞれ制震化され、そして古民家の建物全体が図1に図示する制震化された軸組と、図3、図4および図5に図示する制震化された耐力壁によって制震化されている。
【0031】
そして、地震による建物の小変形に対しては、テープ状に成形した粘弾性体11がずれ変形することにより抵抗し、地震による建物の大変形に対しては制震ダンパー6が抵抗することにより、建物全体では地震時の小変形から大変形の全変形に対してきわめて効果的に抵抗する。したがって、一定レベル以上の地震荷重によって建物全体が脆性的に破壊するようなことはなく、建物の安全性が充分に確保される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、軸組と壁の両方を制震化することで、古民家の耐震性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】制震化された古民家の軸組を示す一部側面図である。
【図2】制震ダンパーの一例を示し、(a)は側面図、(b)は縦断面図である。
【図3】制震化された古民家の大壁構造の耐力壁を示し、(a)は正面図,(b)は横断面図である。
【図4】制震化された古民家の真壁構造の耐力壁を示し、(a)は正面図,(b)は横断面図である。
【図5】制震化された古民家の真壁構造の耐力壁を示し、(a)は正面図,(b)は横断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 玉石基礎
2 柱
3 桁
4 差し鴨居
5 足固め
6 制震ダンパー
7 間柱
8 受け部材
9 貫き材
10 構造用合板(構造用面材)
11 テープ状に成形した粘弾性体
a 開口部
b 仕口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建物の制震化工法において、軸組を構成する軸組材どうしの仕口部に制震ダンパーを、前記軸組の構面に構造用面材を、さらに当該構造用面材と前記軸組との間にテープ状に成形した粘弾性体をそれぞれ取り付け、前記テープ状に成形した粘弾性体を主として建物の小変形に対して作用させ、前記制震ダンパーを主として建物の大変形に対して作用させるように取り付けることを特徴とする木造建物の制震化工法。
【請求項2】
制震ダンパーは、建物の床下側に取り付けることを特徴とする請求項1記載の木造建物の制震化工法。
【請求項3】
制震ダンパーは、仕口部の一方の軸組材に固定して突設された変位板と、他方の軸組材に固定して前記変位板の側方に突設された変位板と、前記変位板の間隙に充填された粘弾性体とから構成されてなることを特徴とする請項1または2記載の木造建物の制震化工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−308906(P2008−308906A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158682(P2007−158682)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(592040826)住友不動産株式会社 (94)
【Fターム(参考)】