説明

未塗着塗料回収装置及び回収方法

【課題】 水性塗料を塗装する塗装設備の場合でもワークに塗着しない未塗着塗料を捕集液中で効率的に凝集させて回収できるようにし、また、装置の大型化等を招かないようにする。
【解決手段】 塗装ブース4で発生する未塗着塗料を捕集水によって捕集して第1分離槽12に送り込み、この第1分離槽12で、第1分離剤供給配管21から供給される分離剤で塗料スラッジを凝集浮上させ、これをフロート式ポンプ13で第2分離槽14に移送し、第2分離剤供給配管33から供給される分離剤で再度凝集浮上させ、捕集室35で捕集して回収槽37で回収する。フロート式ポンプ13には、移送路16内の捕集液に微細な気泡を発生させるための吸気管30を接続する。また、第1分離剤供給配管21から供給する分離剤には、高分子凝集剤と荷電中和剤が含まれるようにし、第2分離剤供給配管33から供給する分離剤には、高分子凝集剤が含まれるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装設備で発生する塗料ミストを回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装ブースでスプレーガンや、静電塗装等によりワークに塗装を施す際、ワーク表面に塗着しない未塗着塗料が塗装ブース内に滞留し、再びワーク表面に付着し、肌荒れ等の塗装不良を引き起こすことがある。このため、従来より、塗装ブース内を上方から下方に流れるエア流を作り出し、未塗着塗料を塗装ブース下方の捕集室に流下させ、捕集室内壁面に沿って流す捕集水によってこれを捕集するとともに、分離装置により捕集水から未塗着塗料を分離捕捉し、廃棄するような技術が知られている。
【0003】
この際、特許文献1で提案される「塗装設備の塗料ミスト除去装置」においては、排気空間入口の洗浄器に供給されるミスと捕捉用液により捕捉された未塗着塗料を給液路により第1分離槽に流下させ、給液路の途中でアルカリ剤と凝集剤を添加することにより、第1分離槽内のミスト捕捉用液に捕捉された未塗着塗料を液面に浮上凝集させて浮上スラッジとし、第1分離槽の集積ピットに集めた後、ミスト捕捉用液とともにスラッジポンプで第2分離槽に送り込むようにしている。そして、この第2分離槽で更に凝集を進行させ、大きくなった浮上スラッジを、第2分離槽に配設した掻きだし装置により下方のスラッジ貯留槽に排出し、更に、脱水機により塗料スラッジとミスト捕捉用液に分離し、塗料スラッジを可搬型のスラッジ容器に、ミスト捕捉用液を第1分離槽にそれぞれ送り込むような機構を採用している。
【特許文献1】特開平7−148451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来技術では、有機溶剤型塗料の処理に関しては対応可能であるものの、環境問題等で最近使用されることが多くなっている水性塗料の場合は、元来水に溶けやすい性質を有しているため、上記のような分離装置で分離しようとすると、第1分離槽で液面に浮上凝集した浮上スラッジがスラッジポンプにより攪拌され、再びミスト捕捉用液中に再溶解して第2分離槽に送られるようになり、第2分離槽で再度スラッジを凝集させて浮上させ、成長させる必要が生じる等、塗料スラッジの凝集浮上に時間を要し、また、第2分離槽の大型化を招く等の不具合があった。
【0005】
そこで本発明は、水性塗料を塗装する場合でも塗料スラッジを効率的に凝集させて回収できるようにし、また、装置の大型化等を招かないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、塗装設備の塗装ブースから排出される未塗着塗料を捕集液により捕集して第1分離槽に送り込み、第1分離槽で凝集浮上した未塗着塗料を移送ポンプにより移送路を通して第2分離槽に送り込み、第2分離槽で凝集した未塗着塗料を回収槽で回収するようにした未塗着塗料回収装置において、前記第1分離槽に、槽内に分離剤を供給するための第1分離剤供給配管を設けるとともに、前記第2分離槽に、槽内に分離剤を供給するための第2分離剤供給配管を設けた。
【0007】
そして、第1分離剤供給配管から第1分離槽の捕集液中に分離剤を供給して塗料スラッジを浮上凝集させ、移送ポンプにより凝集浮上した塗料スラッジを第2分離槽に送り込んだ後、更に、第2分離剤供給配管から第2分離槽の捕集液中に分離剤を供給して塗料スラッジを凝集浮上させ、この塗料スラッジを回収槽で回収するが、第1分離槽から第2分離槽に塗料スラッジを送り込む際、移送ポンプによって攪拌され塗料スラッジが捕集液中に再溶解しても、第2分離槽で再度分離剤を供給するため、第2分離槽内で効率的に塗料スラッジを凝集浮上させることができ、また、第2分離槽の大型化を避けることができる。
【0008】
この際、各分離槽における分離剤としては、例えば請求項3のように、第1分離槽では、高分子凝集剤と荷電中和剤が含まれる分離剤を槽内に供給するようにし、第2分離槽では、高分子凝集剤と荷電中和剤のうち高分子凝集剤だけが含まれる分離剤を槽内に供給すれば、凝集効果の点や、コストの面から好ましい。
【0009】
また本発明では、前記移送ポンプを、吸引開口部が液面下のほぼ一定の位置を保つようなフロート式に構成し、また、該移送ポンプの近傍に、上端部が常時液面上に突出して開口し、下端部がポンプの吸入部内に開口する吸気管を配設するようにした。
そして、請求項4のように、移送ポンプの駆動により、前記移送路の捕集液中に微細な気泡が混入されるようにすれば、移送路内の塗料スラッジの濃度が濃い場合でも、途中で詰まったり、移送路の内壁に塗料スラッジが付着したりするような不具合が防止される。
また、移送ポンプの吸引開口部を液面下のほぼ一定の位置を保つようなフロート式に構成することで、塗料スラッジを効率的に第2分離槽に送り込むことができる。
【発明の効果】
【0010】
捕集液により捕集した未塗着塗料を第1分離槽に送り込み、第1分離剤供給配管を通して供給した分離剤により塗料スラッジを凝集浮上させ、これを移送ポンプで第2分離槽に送り込んだ後、第2分離槽で第2分離剤供給配管を通して新たな分離剤を供給することで、塗料スラッジが再溶解する場合でも効率的に回収することができる。この際、第1分離槽に供給する分離剤として、高分子凝集剤と荷電中和剤が含まれるようにし、第2分離槽に供給する分離剤として、高分子凝集剤だけが含まれるようにすれば、塗料スラッジの効率的な分離回収が図られる。
また、移送ポンプをフロート式に構成するとともに、移送ポンプの近傍に、上端部が液面上に突出して開口し、下端部がポンプの吸入部内に開口する吸気管を設けることにより、移送路の捕集液中に微細な気泡を混入させることができ、移送路が詰まったり、内壁に塗料スラッジが付着するような不具合が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで図1は本発明に係る回収装置の構成概要全体を示す説明図、図2は本装置に使用されるフロート式ポンプの正面図、図3は同フロート式ポンプの平面図である。
【0012】
本発明に係る未塗着塗料回収装置は、塗装ブースで発生する未塗着塗料を効率的に回収できるようにされ、水性塗料の場合でも効果的に且つ装置の大型化を招かないで回収できるようにされている。
【0013】
すなわち、図1に示すように、本未塗着塗料回収装置が適用される塗装設備1は、車体Wに塗料を噴霧する塗装装置2と、車体に塗着しなかった未塗着塗料を含む捕集液を一時的に滞留させ、その中から未塗着塗料を分離回収する分離装置3を備えており、塗装装置2は、車体Wが搬送コンベアの搬送台車Dによって搬入出される塗装ブース4と、塗装ブース4内に配設される塗装ロボット5を備えるとともに、塗装ロボット5には、車体Wに塗料を噴霧するための塗装ガン5aが設けられている。
【0014】
そして、塗装ブース4の上面部には、上方のエア噴出孔6から下向きに送気されるエアを整流化するためのパンチングメタル4pが配設され、また、塗装ブース4の下方部には、塗装ガン5aから噴霧された塗料のうち、車体Wに塗着しなかった未塗着塗料を捕集するための捕集室4hが設けられている。そして、捕集室4hの下面は傾斜床7とされ、この傾斜床7の上部には、床面に沿って捕集水をカーテン状に流下させることのできる捕集水供給槽8が設けられ、エア流によって流下した未塗着塗料を傾斜床7下方の排水口10や排水路11を通して、第1分離槽12に送り込むことができるようにされている。
【0015】
前記分離装置3は、捕集した未塗着塗料や捕集液を貯留する前記第1分離槽12と、第1分離槽12からフロート式ポンプ13で送られる捕集液を貯留する第2分離槽14と、第2分離槽14から排出される塗料スラッジを工業用水とともに回収する回収槽15を備えており、第1分離槽12から第2分離槽14に向けて一部の捕集液を送り込むため、前記フロート式ポンプ13の出力部には移送路16が接続されており、また、第1分離槽12の下方には、捕集液の一部を前記捕集水供給槽8に供給するための捕集水供給路17が接続されており、この捕集水供給路17の途中には、送給ポンプ18が配設されている。そして、捕集水が送給された捕集水供給槽8では、前述のように、傾斜床7に向けて捕集水をカーテン状に吐出する。
【0016】
なお、第1分離槽12のうち、前記排水路11から未塗着塗料が送り込まれる一端側を便宜上、上流端側12aとした場合、前記捕集水供給路17は、上流端側12aとは反対の他端側である下流端側12bの下方に接続されている。また、前記フロート式ポンプ13も、下流端側12bに配設されている。
【0017】
前記第2分離槽14には、第2分離槽14の捕集液の一部を第1分離槽12に還流させることのできる帰還路20が接続されており、この帰還路20の出口部分は、第1分離槽12の上流端側12aで且つ液面より一定距離離間した上方位置になるようにされている。また、前記排水路11の出口部分も、液面より一定距離離間した上方位置になるようにされている。
【0018】
前記第1分離槽12の上流端側12aには、第1分離槽12内に高分子凝集剤と荷電中和剤が含まれる分離剤を希釈した分離剤希釈液を供給するための第1分離剤供給配管21が配設されており、塗装ブース4が作動している間、常時一定量の分離剤希釈液を供給するようにされている。そして、この分離剤希釈液を添加することにより、塗料スラッジの凝集浮上が促進されるようにしている。
【0019】
この第1分離槽12の容量は、塗装ブース4における塗料の噴霧量や、塗着効率や、塗装ブース4の床面の面積や、塗装ブース4の傾斜床7を流れる捕集水の量や、塗料スラッジと捕集水の分離に要する時間などにより変化するが、本実施例の場合、第1分離槽12の容積は、後述するフロート式ポンプ13を採用したこと、および、第2分離槽14でも塗料スラッジを効率的に凝集浮上させることができる構成にしたこと(後述)から、第1分離槽12内における捕集液の滞留時間を短縮することが可能となり、従来より小型化が図れるようになった。
なお、本実施例の第1分離槽12の容量は約300トンである。
【0020】
前記フロート式ポンプ13は、図2、図3に示すように、4つのフロート22と、このフロート22に接続される架台支持部23と、この架台支持部23に架台24を介して取付けられるモータ25を備えており、このモータ25は、ケーシング26内に内装されるとともに、このケーシング26の一端側には、吸入部27を介してカップ28が接続されている。そして、このカップ28の上面開口部28aは、塗料スラッジを含む捕集液を吸引できるようにされ、常に一定の深さeの液面(仮想線で示す)下に位置するようにされている。
【0021】
ちなみに、この液面からの深さeは、液面に凝集浮上した塗料スラッジを効率的に第2分離槽14に送り込むため、本実施例では10〜30mmに設定している。10mmより少ないと、第2分離槽14への供給量を適正に確保することが困難になるとともに、カップ28の開口部付近に凝集浮上する塗料スラッジがカップ28の開口部に付着堆積しやすくなって、吸引を妨げる恐れを生じるようになり、30mmを超えると、第2分離槽14に送られる工業用水の塗料スラッジ濃度が低下し、第2分離槽14における塗料スラッジの分離が効率的に行われなくなる恐れが生じる。
【0022】
また、前記吸入部27には、ケーシング26内にエアを吸引するための吸気管30が接続されており、この吸気管30は、上端のエア吸引口が液面より上方に位置するような長さにされている。
【0023】
そして、前記モータ25の出力軸には、回転体31が設けられ、この回転体31のフィン31fによって、吸引した捕集液を吐出管32に送り込むことができるようにされるとともに、この吐出管32に前記移送路16が接続されている。
また、フィン31fの先端部からケーシング26との間には、本実施例では5mm程度の隙間dを持たせるようにしており、回転体31とケーシング26の間に塗料スラッジが詰まりにくいようにしている。この隙間dが小さすぎると、回転体31とケーシング26の間に塗料スラッジが詰まって、ポンプ13の吐出不良を招くからである。
【0024】
以上のようなフロート式ポンプ13は、カップ28により塗料スラッジを含む捕集液を吸引する際、吸気管30から同時にエアを吸引し、吸引されたエアはケーシング26内でフィン31fを有する回転体31の回転によって捕集液中で攪拌されることにより、微細なバブルとなり、移送路16内で塗料スラッジが凝集したり、移送路16の内壁に付着堆積したりするのを防止する効果を発揮する。
また、特に、第1分離槽12を小型化したような場合、容積が少なくなるため水位が上下に変動しやくなるが、フロート式ポンプ13を採用することにより、液面からほぼ一定の箇所の塗料スラッジを含む捕集液を吸引することができる。
【0025】
前記第2分離槽14は、第1分離槽12から送られた捕集液から再度塗料スラッジを凝集浮上させ、濃度の濃い塗料スラッジを分離回収して廃棄するために設けられ、容積は第1分離槽12の容積に較べて1/10から1/100程度に形成されている。そして本実施例では約4トンである。
【0026】
この第2分離槽14は、図1に示すように、前記移送路16から捕集液が供給される一端側を便宜上、上流端側14aとし、その反対の他端側を下流端側14bとした場合、上流端側14aの液面より上方の位置に移送路16の出口が位置するようにされ、また、移送路16の終端部付近に、第2分離剤供給配管33が連結されている。また、前記帰還路20は、下流端側14bの下方に接続されている。
【0027】
そして、第2分離剤供給配管33からは、常時、移送路16に向けて高分子凝集剤が含まれる分離剤を希釈した分離剤希釈液が塗装ブース4の作動中、常時供給されるようになっている。
【0028】
また、第2分離槽14の下流端側14bには、液面より若干下方に堰34が設けられており、この堰34を越えて入り込んだ塗料スラッジを捕集するため、堰34に隣接して捕集室35が設けられるとともに、この捕集室35には、排出管36が接続され、排出管36の下流側には回収槽37が設けられている。そしてこの回収槽37の上部にはメッシュ状の金網が配設されている。
【0029】
そして、第2分離槽14に送り込まれる捕集液は、移送路16の出口から所定の高さ分だけ高い位置から液面上に投下され、ここでも捕集液とエアが攪拌されて塗料スラッジの凝集・成長が促進される。
【0030】
以上のような塗装設備1において、稼動させる前の前提として、工業用水供給配管より工業用水を分離装置3の第1分離槽12に供給するとともに、第1分離剤供給配管21から、高分子凝集剤と荷電中和剤を主成分とする分離剤を供給し、第1分離槽12内の分離剤濃度が2.5ppm(工業用水300トンに対し、分離剤750グラム)になるように調整する。このときの分離剤中の高分子凝集剤の含有量(固形分量)は0.8〜1.0%が好ましく、荷電中和剤の含有量(固形分量)は3.5〜5.5%が好ましい。
【0031】
すなわち、高分子凝集剤の含有量が0.8%未満だと、短時間での十分な凝集効果が得られず、1.0%を超えても、凝集効果は殆ど変化なく、コストアップとなる。
また、荷電中和剤の含有量(固形分量)が3.5%以下の場合、未塗着塗料の除電が不完全となって凝集ができにくくなり、含有量(固形分量)が5.5%より多くなると、高分子凝集剤の凝集効果を阻害するようになる。
なお、高分子凝集剤の分子量は、2万以上10万未満が望ましい。分子量が2万以下であると、塗料スラッジの凝集・成長に時間がかかり、分離槽が大型化する。また、分子量が10万以上であると、塗料スラッジの凝集が巨大化し、フロート式ポンプ13が詰まったり、堰34が詰まったりする。
【0032】
この状態で、車体Wが搬送コンベアにより塗装ブース4に搬送されてくると、塗装ロボット5が作動して車体Wに向けて塗料を噴霧する。このとき、車体Wに塗着しなかった未塗着塗料は、上方から吹き出されるエア流によって捕集室4hに集められ、傾斜床7をカーテン状に流下する捕集水に捕集されて排水口10、排水路11を通して第1分離槽12に送られる。
【0033】
第1分離槽12では、第1分離剤供給配管21から高分子凝集剤と荷電中和剤を主成分とする分離剤が供給される。このときの分離剤中の高分子凝集剤の含有量(固形分量)は、0.8〜1.0%であり、荷電中和剤の含有量(固形分量)は、3.5〜5.5%である。
そして、分離剤の毎分の供給量は、塗装ブース4における車体Wへの塗着効率から算出される。例えば、1分あたりの未塗着塗料の0.2%程度となる量の分離剤を更に希釈して連続供給する。
【0034】
すると、第1分離槽12では、捕集液は上流端側12aから下流端側12bに向けて流動し、捕集液中に分散している塗料が分離剤の作用により塗料スラッジとして凝集し、浮上する。これにより、第1分離槽12の底部付近、特に、下流端側12b付近の底部には塗料がほとんど含まれない状態となり、液面付近は塗料が凝集して形成された塗料スラッジを多く含む捕集液が集まった状態になる。
【0035】
液面付近の塗料スラッジを多く含む捕集液は、フロート式ポンプ13により吸引され、吸気管30から吸引されるエアと混合され、微細なバルブを含有した状態で第2分離槽14に送られる。このため、第2分離槽14には、高濃度の塗料スラッジを含む捕集液が送給されることになる。
【0036】
移送路16内では、捕集液中でエアが微細なバブルに攪拌されながら送給されるため、移送路16内で詰まったり、内壁に凝集物が堆積しるような事態が抑制される。そして、移送路16の終端付近に連結される第2分離剤供給配管33から、高分子凝集剤だけを含んだ分離剤は供給され、液面より上方に開口する移送路16の出口から、塗料スラッジの凝集が促進された捕集液が第2分離槽14内に流下する。
【0037】
ここで、移送路16の終端付近に連結される第2分離剤供給配管33から供給される分離剤中の高分子凝集剤の含有量(固形分量)は0.2〜0.4%であり、分離剤の毎分の供給量は、塗装ブース4における車体Wへの塗着効率から算出される。例えば、1分あたりの未塗着塗料の0.2%程度となる量の分離剤を更に希釈して連続供給する。
【0038】
この際、高分子凝集剤の含有量(固形分量)が0.2%以下であると、短時間での十分な凝集効果が得られず、また、0.4%を超える量であっても、凝集効果は殆ど変化なく、コストアップを招く。
【0039】
そして第2分離剤供給配管33から分離剤を供給することによって、フロート式ポンプ13のフィン31fの攪拌によって塗料スラッジが捕集液中に再溶解したような場合でも、第2分離槽14では、短時間に塗料スラッジの凝集浮上が始まり、液面付近には粒径の大きい塗料スラッジが成長して浮上する。そしてこのような塗料スラッジは第2分離槽14の下流端側14bの堰34をオーバーフローして捕集室35で捕集され、回収槽37のメッシュ状の金網上に排出され、塗料スラッジが除去される。
【0040】
一方、塗料スラッジが浮上することにより、第2分離槽14の底部付近の捕集液の塗料含有量は低下する。この塗料含有量が低下した捕集液は、第2分離槽14の底部付近から取り出して、帰還路20を通して第1分離槽12の上流端側12aに戻される。また、この捕集液に分離しきれなかった塗料が多少含まれていても、下流端側12bに流動するまでの間に凝集して浮上し、再び第2分離槽14に導入されるので、結果的に捕集液に含まれる塗料は、殆どがフロート式ポンプ13や移送路16を経て第2分離槽14に送られ排出される。
【0041】
また、殆ど塗料成分を含まない第1分離槽12の下流端側12bの底部付近の捕集液は、捕集水供給路17を経て捕集水供給槽8に送られ、捕集室4hの傾斜床7を流下して未塗着塗料の捕集に使用される。
【0042】
以上のように本発明の未塗着塗料回収装置によれば、第1分離槽12の上流端側12aに、排水路11や、帰還路20や、第1分離剤供給配管21を配設すると同時に、下流端側12bに、フロート式ポンプ13や捕集水供給路17の接続部を設けたため、下流側側12bに向けた流れが発生し、この流れに沿って凝集浮上した塗料スラッジを多く含む捕集液を下流端側12bに集めることができ、これらを効率的に第2分離槽14に送り込むことができる。
【0043】
また、フロート式ポンプ13は、吸気管30からエアを吸い込んで捕集液中に混入させ、そのエアをフィン31fの回転によって微細なバブルに変換させることから、移送路16が詰まったり、内壁に塗料スラッジが付着堆積するような不具合を防止できる。この際、フィン31fとケーシング26の間の隙間dによって、ポンプ13が詰まるような不具合も防止される。
【0044】
更に、移送路16内の高濃度の塗料スラッジを含有する捕集水に、第2分離剤供給配管から分離剤を供給することにより、フロート式ポンプ13のフィン31fの攪拌によって塗料スラッジが捕集液中に再溶解したような場合でも、第2分離槽14では塗料スラッジの凝集浮上が促進され、短時間のうちに捕集水から塗料スラッジを確実に分離できるようになり、第1、第2分離槽12、14の底部に沈殿して固着する塗料も殆どなくなり、各槽12、14の清掃の頻度を少なくすることができる。
【0045】
次に、本発明に係る未塗着塗料の回収技術の効果を試すための実験結果について説明する。
第1分離槽12に、300トンの捕集水を、第2分離槽14に4トンの工業用水を供給し、第1分離槽12の捕集水中の分離剤濃度を2.5ppm(工業用水300トンに対して分離剤750グラム)とした。このときの分離剤中の高分子凝集剤(ジエチレンアミンエピクロルヒドリン:分子量約10万)の含有量(固形分量)は1%、荷電中和剤(尿素メラミン樹脂)の含有量(固形分量)は5%とした。
【0046】
そして、比較例として、第1分離剤供給配管21を作動させ、高分子凝集剤(ジエチレンアミンエピクロルヒドリン:分子量約10万)の含有量(固形分量)1%、荷電中和剤(尿素メラミン樹脂)の含有量(固形分量)5%の分離剤を1分あたりの未塗着塗料量の0.2%となる量をさらに工業用水により希釈して毎分供給した。また、吸気管30を閉止し、更に、第2分離剤供給配管33の作動を停止した状態で塗装設備1を稼動した。
この結果、回収槽37により回収された塗料スラッジは極少量で、しかも、回収された塗料スラッジの含水率は90%であった。
【0047】
これに対して、実施例として、第1分離剤供給配管21を作動させ、高分子凝集剤(ジエチレンアミンエピクロルヒドリン:分子量約10万)の含有量(固形分量)0.8%、荷電中和剤(尿素メラミン樹脂)の含有量(固形分量)5%の分離剤を1分あたりの未塗着塗料の0.2%となる量をさらに工業用水により希釈して毎分供給した。また、吸気管30を開放し、更に、第2分離剤供給配管33を作動させ、高分子凝集剤(ジエチレンアミンエピクロルヒドリン:分子量約10万)の含有量(固形分量)0.2%の分離剤を1分あたりの未塗着塗料の0.2%となる量をさらに工業用水により希釈して毎分供給した。この際、フロート式ポンプ13の吐出量は300リットル/分で行った。
この結果、塗料スラッジを確実に回収することができ、また、回収された塗料スラッジの含水量は60%であった。
この結果から本発明の有効性が確認された。
【0048】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば被塗物の種類等は任意である。また、塗料は水性塗料に限られるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
特に水性塗料を塗布する塗装設備での未塗着塗料を短時間に且つ効率的に回収することができ、しかも設備の大型化を招くことがなく、分離槽の清掃の手間を削減することができるので、特に使用頻度の高い塗装設備に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る回収装置の構成概要全体を示す説明図
【図2】本装置に使用されるフロート式ポンプの正面図
【図3】同フロート式ポンプの平面図
【符号の説明】
【0051】
1…塗装設備、4…塗装ブース、8…捕集水供給槽、12…第1分離槽、13…フロート式ポンプ、14…第2分離槽、15…回収槽、16…移送路、21…第1分離剤供給配管、27…吸入部、28…カップ、28a…上面開口部、30…吸気管、33…第2分離剤供給配管、37…回収槽、W…車体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装設備の塗装ブースから排出される未塗着塗料を捕集液により捕集して第1分離槽に送り込み、第1分離槽で凝集浮上した未塗着塗料を移送ポンプにより移送路を通して第2分離槽に送り込み、第2分離槽で凝集した未塗着塗料を回収槽で回収するようにした未塗着塗料回収装置であって、前記第1分離槽には、槽内に分離剤を供給するための第1分離剤供給配管が設けられるとともに、前記第2分離槽には、槽内に分離剤を供給するための第2分離剤供給配管が設けられることを特徴とする未塗着塗料回収装置。
【請求項2】
前記移送ポンプは、吸引開口部が液面下のほぼ一定の位置を保つようなフロート式に構成され、また、該移送ポンプの近傍には、上端部が常時液面上に突出して開口し、下端部がポンプの吸入部内に開口する吸気管が配設されることを特徴とする請求項1に記載の未塗着塗料回収装置。
【請求項3】
塗装設備の塗装ブースから排出される未塗着塗料を捕集液により捕集して第1分離槽に送り込み、第1分離槽で凝集浮上した未塗着塗料を移送ポンプにより移送路を通して第2分離槽に送り込み、第2分離槽で凝集した未塗着塗料を回収槽で回収するようにした未塗着塗料回収方法であって、前記第1分離槽では、高分子凝集剤と荷電中和剤が含まれる分離剤を槽内に供給するようにされ、前記第2分離槽では、高分子凝集剤と荷電中和剤のうち高分子凝集剤だけが含まれる分離剤を槽内に供給するようにされることを特徴とする未塗着塗料回収方法。
【請求項4】
前記移送ポンプは、吸引開口部が液面下のほぼ一定の位置を保つようなフロート式に構成され、また該移送ポンプの近傍には、上端部が常時液面上に突出して開口し、下端部がポンプの吸入部内に開口する吸気管が配設され、該移送ポンプの駆動により、前記移送路の捕集液中に微細な気泡が混入されることを特徴とする請求項3に記載の未塗着塗料回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−260594(P2007−260594A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90704(P2006−90704)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】