説明

板状成形物の製造方法

【課題】ステンレス鋼板製の鋳型からの剥離性が良好な板状成形物の製造方法を提供する。
【解決手段】燐酸エステル、陰イオン界面活性剤及び水を含有する処理液と接触させた後、乾燥させた成形面を有するステンレス鋼板製の鋳型を使用し、鋳型の成形面と接触するようにビニル単量体層を形成するビニル単量体層形成工程、ビニル単量体層を重合して板状成形物層を形成する成形工程及び鋳型から板状成形物層を剥離する剥離工程を有する板状成形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板状成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板状成形物の製造方法としては、2枚の無機ガラス又は金属板を対向させ、形成される空間部の四辺をポリ塩化ビニル等のガスケットでシールして得られる鋳型の中にビニル単量体を注入した後に重合させて板状成形物を得るセルキャスト法や、1枚の鏡面研磨されたステンレス鋼板のエンドレスベルトの上又は上下に相対するように配置された2枚のステンレス鋼板のエンドレスベルトの間の空間部の両側辺部をガスケットでシールして形成される鋳型に、ビニル単量体の部分重合溶液又は熱可塑性樹脂を溶解したビニル単量体溶液を連続的に供給して重合させて板状成形物を得る連続製板法が挙げられる。
【0003】
上記の製造方法では、得られた板状成形物を鋳型から剥離させる際に、板状成形物が鋳型と強固に密着して容易に剥離できないという問題がある。更に表面に耐擦傷性等に優れた硬化被膜を積層させた板状成形物を製造する場合には硬化被膜と鋳型との密着性が上記のビニル重合体と鋳型との密着性より高くなることから、板状成形物と鋳型の剥離は更に困難となる。
【0004】
この問題を解決するために、例えば特許文献1、及び特許文献2には、硬化被膜を形成させるための単量体原料中に剥離剤を添加する方法が開示されているが、十分な剥離性が確保できにくいことや、重合後に剥離剤がステンレス鋼板の表面に残り、ステンレス鋼板の表面を汚染することがあり、更なる改良が求められていた。
【特許文献1】特開2001−172462号公報
【特許文献2】特開2006−297736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ステンレス鋼板製の鋳型からの剥離性が良好な板状成形物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、燐酸エステル(以下、「本燐酸エステル」という)、陰イオン界面活性剤(以下、「本陰イオン界面活性剤」という)及び水を含有する処理液(以下、「本処理液」という)と接触させた後、乾燥させた成形面を有するステンレス鋼板製の鋳型を使用し、鋳型の成形面と接触するようにビニル単量体層を形成するビニル単量体層形成工程、ビニル単量体層を重合して板状成形物層を形成する成形工程及び鋳型から板状成形物層を剥離する剥離工程を有する板状成形物の製造方法を第1の発明とする。
【0007】
また、本発明では、本処理液と接触させた後、乾燥させた成形面を有するステンレス鋼板製の鋳型を使用し、鋳型の成形面と接触するように分子中に少なくとも2個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する単量体(以下、「本硬化被膜層用単量体」という)を含有する塗膜層を形成する塗膜層形成工程、塗膜層を硬化させて硬化被膜層を形成する硬化被膜層形成工程、形成された硬化被膜層の表面にビニル単量体層を形成するビニル単量体層形成工程、ビニル単量体層を重合して板状成形物層を形成する成形工程及び鋳型から硬化被膜層を有する板状成形物層を剥離する剥離工程を有する板状成形物の製造方法を第2の発明とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の板状成形物の製造方法は、鋳型を使用して板状成形物を製造する際に鋳型との剥離不良トラブルを回避することができることから、生産性が格段に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本第1の発明の板状成形物の製造方法は、水及びビニル単量体に可溶な燐酸エステル、水及びビニル単量体に可溶な陰イオン界面活性剤を含有する水と接触させた後、乾燥させた成形面を有するステンレス鋼板製の鋳型を使用し、鋳型の成形面と接触するようにビニル単量体層を形成するビニル単量体層形成工程、ビニル単量体層を重合して板状成形物層を形成する成形工程及び鋳型から板状成形物層を剥離する剥離工程を有する。
【0010】
また本第2の発明の板状成形物の製造方法は、本処理液と接触させた後乾燥させた成形面を有するステンレス鋼板製の鋳型を使用し、鋳型の成形面と接触するように本硬化被膜層用単量体を含有する塗膜層を形成する塗膜層形成工程、塗膜層を硬化させて硬化被膜層を形成する硬化被膜層形成工程、形成された硬化被膜層の表面にビニル単量体層を形成するビニル単量体層形成工程、ビニル単量体層を重合して板状成形物層を形成する成形工程及び鋳型から硬化被膜層を有する板状成形物層を剥離する剥離工程を有する。
【0011】
本燐酸エステル
本発明で使用される本燐酸エステルは水及びビニル単量体に可溶または均一分散可能であることが好ましい。なおここで「均一分散」とは、本発明で使用する間に沈殿物が生じない状態を保持することをいう。
【0012】
本燐酸エステルは燐酸中の3個の水素の全て又は一部がエステル化されたものであり、例えば、エチルホスフェート、ジエチルホスフェート、トリエチルホスフェート、ブチルホスフェート及びオクチルホスフェートが挙げられるが、これらの中では水への溶解性の点でエチルホスフェートが好ましい。
【0013】
本陰イオン界面活性剤
本発明で使用される本陰イオン界面活性剤は水及びビニル単量体に可溶であることが好ましい。
【0014】
本陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、N−アシルアミノ酸とその塩、N−アシルメチルタウリン塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、スルホコハク酸モノエステルジナトリウム、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルスルホカルボン酸塩及びα−オレフィンスルホン酸塩が挙げられる。
【0015】
これらの中で、ビニル単量体としてメチルメタクリレートを用いた場合には、メチルメタクリレートへの溶解性の点でジアルキルスルホコハク酸塩類が好ましく、中でもジブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム及びジオクチルスルホコハク酸ナトリウムがより好ましい。
【0016】

本発明で使用される水は不純物が少ない水が好ましく、例えば、イオン交換水あるいは蒸留水を使用することが好ましい。
【0017】
本処理液
本発明で使用される本処理液は本燐酸エステル、本陰イオン界面活性剤及び水を混合して得られる溶液または分散液である。
【0018】
本処理液を調整する方法としては特に限定されるものではなく、本燐酸エステル、本陰イオン界面活性剤及び水が均一に混合されればよい。
【0019】
本処理液を調整する方法の具体例として例えば、本燐酸エステル又は本陰イオン界面活性剤の一方の水溶液または分散液にもう一方の水溶液、分散液、または単体を添加する方法、水中に本燐酸エステル及び本陰イオン界面活性剤を同時に添加する方法あるいは本燐酸エステル及び本陰イオン界面活性剤を混合したものに水を加える方法等が挙げられる。
【0020】
本処理液中の本燐酸エステル及び本陰イオン界面活性剤の合計含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、本処理液中の本燐酸エステル及び本陰イオン界面活性剤の合計含有量は、ステンレス鋼板の表面の耐汚染性や洗浄性の点で20質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0021】
本発明においては、本燐酸エステルと本陰イオン界面活性剤の質量比は板状成形物層または硬化被膜層とステンレス鋼板との剥離性の点で、燐酸エステル1に対して陰イオン界面活性剤0.5〜2が好ましい。
【0022】
本発明においては、本処理液は、ステンレス鋼板の表面のうち、少なくとも鋳型として用いる面が上記処理液と接するように処理される。
【0023】
ステンレス鋼板の表面と処理液を接触させる方法としては、例えば、本処理液をステンレス鋼板の表面に吹き付ける方法、本処理液を含浸させた布をステンレス鋼板の表面に乗せる方法、あるいは本処理液中にステンレス鋼板を浸漬する方法が挙げられる。
【0024】
これらの方法の中で、ステンレス鋼板に確実な処理液を接触させる処理(以下、単に「処理」ともいう。)を行うことができる点で本処理液中にステンレス鋼板を浸漬させる方法が好ましい。その際、本処理液の温度は室温以上であれば特に問題ないが、加温すると効率的であり、40〜60℃が好ましい。また、本処理液中にステンレス鋼板を浸漬させる時間としては1分〜1時間が好ましい。
【0025】
乾燥処理
本発明においては、ステンレス鋼板の表面に本処理液を接触させた後にステンレス鋼板の表面を乾燥処理により乾燥させ、水分を除去させる。
【0026】
乾燥処理の方法としては、例えば、本処理液を接触させた後のステンレス鋼板の表面を室温で風乾させる方法が挙げられるが、目的に応じて、速く乾燥させるために加熱乾燥させることができる。加熱乾燥させる場合、加熱温度としては本処理液中の本燐酸エステルや本陰イオン界面界面活性剤の変質を防止するために80℃以下とすることが好ましい。
【0027】
尚、本処理液による処理の後にステンレス鋼板の表面に本燐酸エステルや本陰イオン界面界面活性剤の残渣が目視確認できる状態にあると鋳型と板状成形物との剥離性や樹脂の物性に悪影響を及ぼすので、乾燥処理の前に、後述するビニル単量体をしみ込ませた布で本燐酸エステルや本陰イオン界面界面活性剤の残渣が目視確認できなくなるまで拭き取ることが好ましい。
【0028】
ステンレス鋼板
本発明で使用されるステンレス鋼板の材質としては、例えば、オーステナイト系(SUS304、SUS316等)、フェライト系(SUS430等)及びマルテンサイト系(SUS403等)が挙げられる。これらの中で、オーステナイト系が耐食性の点で好ましい。
【0029】
本発明においては、ステンレス鋼板の表面のうち、板状成形物層と接触する面の表面状態としては、得られる板状成形物の表面の平滑性の点で鏡面研磨処理されていることが好ましい。
【0030】
鋳型
本発明で使用される鋳型は前記ステンレス鋼板を用いて形成されたものである。
【0031】
本発明で使用される鋳型の具体例としては、本処理液で処理されたステンレス鋼板と他の本処理液で処理されたステンレス鋼板又はガラス板を、ステンレス鋼板の本処理液が処理された面が成形面となるように配置し、形成される空間部のステンレス鋼板の成形面の4辺の端部にポリ塩化ビニル等のガスケットでシールすることにより得られるセルキャスト用鋳型、表面が本処理液で処理された成形面を有する1枚のステンレス鋼板製のエンドレスベルトの成形面の両側面端部に上記と同様のガスケットでシールされて形成される連続製板用鋳型及び表面が本処理液で処理された成形面を有する2枚のステンレス鋼板製のエンドレスベルトを成形面が対向するように上下に設置し、エンドレスベルト間に形成された空間部のステンレス鋼板の成形面の両側面端部に上記と同様のガスケットでシールされて形成される連続製板用鋳型が挙げられる。
【0032】
尚、上記のセルキャスト用鋳型において、ガラス板を使用する際は、必要に応じてガラス板の表面をポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、「PETフィルム」)等のフィルムで被覆したものを使用することができる。
【0033】
ビニル単量体層
本発明においては、上述の本処理液で処理された成形面を有するステンレス鋼板製の鋳型の成形面と接触するようにビニル単量体層が形成される。
【0034】
ビニル単量体層の原料としては、例えば、ビニル単量体、またはビニル単量体の部分重合溶液もしくはビニル単量体に熱可塑性樹脂を溶解させたビニル単量体溶液(以下、前記部分重合溶液及び前記単量体溶液を「シラップ」という)が挙げられる。
【0035】
本発明で使用されるビニル単量体としては、例えば、メチルメタクリレート及び共重合可能な他のビニル単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体又は単量体混合物が挙げられる
共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、イソプロペニルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体が挙げられる。これらは1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
尚、本発明において、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル」及び「(メタ)アクリレート」は、夫々「アクリロイル」及び「メタクリロイル」から選ばれる少なくとも1種、「アクリル」及び「メタクリル」から選ばれる少なくとも1種、及び「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0037】
本発明で使用されるシラップにおいて、ビニル単量体の部分重合溶液とは、ビニル単量体の一部が重合されて得られるビニル重合体が未重合のビニル単量体中に溶解しているものをいう。
【0038】
本発明において前述のシラップを形成させるために使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート及びメチルメタクリレートとその他の共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。熱可塑性樹脂の分子量としては目的に応じて任意のものを使用することができる。
【0039】
上記のその他の共重合可能な単量体としては前記の共重合可能な他のビニル単量体と同様のものが挙げられる。これらは1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明においては、ビニル単量体層中には重合開始剤及び必要に応じて分子量調整剤を含有することができる。
【0041】
重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ系重合開始剤及びベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物が挙げられる。
【0042】
重合開始剤の添加量としては、目的とする重合体の分子量にもよるが、少なすぎると重合が進行しにくいことや多すぎると分子量が低下し、得られる板状成形物の耐熱性が低下することなどから、ビニル単量体100質量部に対して0.001〜1.0質量部が好ましい。
【0043】
分子量調整剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタンが挙げられる。
【0044】
分子量調整剤の添加量としては、少なすぎると効果が得られにくく、多すぎると分子量が小さくなりすぎたり着色などの影響があるため、ビニル単量体100質量部に対して0.1〜0.5質量部が好ましい。
【0045】
本発明においては、必要に応じてビニル単量体層中に染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、難燃剤、可塑剤、後述する板状成形物を鋳型から剥離するのを容易にするための剥離剤、連鎖移動剤、架橋剤等の各種添加剤を含有することができる。
【0046】
ビニル単量体層形成工程
ビニル単量体層形成工程は、本処理液で処理された成形面を有するステンレス鋼板製の鋳型を使用し、鋳型の成形面と接触するようにビニル単量体層を形成させる工程である。
【0047】
本発明において、鋳型として前述のセルキャスト用鋳型を使用する場合は、鋳型の空間部にビニル単量体層用の原料を注入することにより鋳型内にビニル単量体層が形成される。また、鋳型として前述の1枚のステンレス鋼板製のエンドレスベルトを使用した連続製板用鋳型を使用する場合は、エンドレスベルトの成形面の上にビニル単量体層用の原料を流延することにより鋳型上にビニル単量体層が形成される。この場合、形成されたビニル単量体層の表面にフィルムを被覆してビニル単量体層の表面をシールすることができる。更に、鋳型として前述の2枚のステンレス鋼板製のエンドレスベルトを使用した連続製板用鋳型を使用する場合は、2枚のエンドレスベルトの間に形成される空間部にビニル単量体層用の原料を供給することにより鋳型内にビニル単量体層が形成される。
【0048】
また、ビニル単量体層の表面をシールするために使用されるフィルムとしては特に限定されないが、例えば、PETフィルムやポリオレフィンフィルムが挙げられる。
【0049】
板状成形物層
板状成形物層は前述のビニル単量体層の単量体が重合して得られるものである。
【0050】
成形工程
成形工程はビニル単量体形成工程で形成されたビニル単量体層を重合して板状成形物層を形成するための工程である。
【0051】
ビニル単量体層を重合させるための重合温度は使用する重合開始剤の種類により異なるが、重合反応の制御のし易さ、生産時間等の点で40〜140℃が好ましい。また、重合を2段階で実施し、第1段目の重合の重合温度を40〜90℃とし、第2段目の重合の重合温度を100〜140℃とすることがより好ましい。
【0052】
剥離工程
剥離工程は上記で得られた板状成形物層を鋳型から剥離する工程である。
【0053】
板状成形物
本発明において、板状成形物は板状成形物層から鋳型を剥離することにより得られる。尚、ビニル単量体層の表面をフィルムでシールして板状成形物層を形成する方法においてはシールしたフィルムを最終的に剥がすことが必要である。また、板状成形物からフィルムを剥がす時期については特に限定されず、剥離工程の直後でも板状成形物を使用する直前でもよい。
【0054】
本発明においては、板状成形物の表面に耐擦傷性を付与させるために、例えば、以下の方法により板状成形物の表面に硬化被膜層を積層させることができる。
【0055】
まず、塗膜層形成工程で、ステンレス鋼板の表面が本処理液で処理された、鋳型の成形面の上に本硬化被膜層用単量体を含有する塗膜層を形成させる。次いで、硬化被膜層形成工程で塗膜層を硬化させて硬化被膜層を形成させ、硬化被膜層を表面に有するステンレス鋼板製の鋳型を作製する。
【0056】
得られた硬化被膜を表面に有するステンレス鋼板製の鋳型を使用し、前述したビニル単量体層形成工程、成形工程及び剥離工程を経ることにより、表面に硬化被膜層を有する板状成形体が得られる。
【0057】
本硬化被膜層用単量体
本硬化被膜層用単量体としては、例えば、1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とを反応させて得られるエステル化物、多価アルコールと多価カルボン酸又はその無水物とを反応させて得られる水酸基含有反応物に(メタ)アクリル酸又はその誘導体を反応させて得られるエステル化物並びにその他の多官能性単量体が挙げられる。
【0058】
1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とを反応させて得られるエステル化物としては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート及びトリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0059】
多価アルコールと多価カルボン酸又はその無水物とを反応させて得られる水酸基含有反応物に(メタ)アクリル酸又はその誘導体を反応させて得られるエステル化物としては、例えば、以下に示す多価アルコール/多価カルボン酸又はその無水物/(メタ)アクリル酸の組み合わせから得られるものが挙げられる。
【0060】
多価アルコール/多価カルボン酸又はその無水物/(メタ)アクリル酸の組み合わせの具体例としては、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸及び無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸の組み合わせが挙げられる。
【0061】
その他の多官能性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートの3量化により得られるポリイソシアネート1モルに、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の活性水素を有するアクリル系単量体3モル以上を反応させて得られるウレタンポリ(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート及びエポキシポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0062】
これらの本硬化被膜層用単量体は1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
塗膜層
本発明においては、塗膜層を形成するための原料として、上記の本硬化被膜層用単量体以外に、必要に応じて硬化剤や分子中に1つのビニル基を有する単量体を含有させることができる。
【0064】
硬化剤としては、例えば、熱硬化剤及び光活性エネルギー線硬化剤が挙げられるが、硬化時間及び硬化温度の点で活性エネルギー線硬化剤が好ましい。
【0065】
活性エネルギー線硬化剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド及びベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイドが挙げられる。これらは1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
活性エネルギー線硬化剤の添加量は、塗膜層の硬化性の点で、本硬化被膜層用単量体及び分子中に1つのビニル基を有する単量体の合計量100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、得られる硬化被膜層の色調を良好とする点で、10質量部以下が好ましい。
【0067】
分子中に1つのビニル基を有する単量体としては、前述のビニル単量体の中の分子中に1つのビニル基を有する単量体と同様のものが挙げられる。
【0068】
分子中に1つのビニル基を有する単量体の添加量は、得られる硬化皮膜の硬度の点から、塗膜層中に10質量%以下が好ましい。
【0069】
本発明においては、必要に応じて、塗膜層中にレベリング剤、導電性無機微粒子、非導電性無機微粒子、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を含有することができる。これら添加剤の添加量は塗膜層中に10質量%以下が好ましい。
【0070】
塗膜層形成工程
塗膜層形成工程は、ステンレス鋼板の表面が本処理液で処理された、鋳型の成形面の上に本硬化被膜層用単量体を含有する塗膜層が形成される工程である。
【0071】
鋳型の成形面の上に塗膜層を形成させる方法としては、例えば、塗膜層を形成するための原料を鋳型表面に塗付した後にゴムロールで圧着する方法が挙げられる。
【0072】
上記の方法において、塗膜層を形成するための原料を鋳型表面に塗付する際に空気の巻き込みを防ぐために、鋳型の成形面の上に過剰量の塗膜層を形成するための原料を塗付し、フィルムを介してゴムロールでしごきながら塗付する方法が好ましい。このときに使用するフィルムとしては、前記ビニル単量体層形成工程で使用するフィルム、例えば、PETフィルムが挙げられる。
【0073】
硬化被膜層
硬化被膜層は、ステンレス鋼板の表面が本処理液で処理されて得られる成形面の上に形成された塗膜層を硬化させることにより得られる。
【0074】
硬化被膜層の厚みは5〜100μmが好ましい。硬化被膜層の厚みが5μm以上で硬化被膜層の表面硬度が充分となる傾向にあり、また、100μm以下で硬化被膜層の着色が抑制される傾向にある。
【0075】
硬化被膜層形成工程
硬化被膜層形成工程において、活性エネルギー線により塗膜層を硬化させる場合に使用される活性エネルギー線源としては、例えば、紫外線ランプが挙げられる。
【0076】
紫外線ランプとしては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ及び蛍光紫外線ランプが挙げられる。
【0077】
本発明においては、フィルムを介してゴムロールでしごきながら塗付して塗膜層を形成させた場合には、フィルムを剥離してから活性エネルギー線を照射する方法及びフィルムを介して活性エネルギー線を照射する方法のいずれの方法を使用してもよい。また、上記の方法で塗膜層を形成させた場合、目的に応じて、フィルムを介して活性エネルギー線を照射して前硬化した後にフィルムを剥離し、その後、更に活性エネルギー線を照射して後硬化する方法等の複数段階に分けた硬化方法を採用することができる。
【0078】
硬化塗膜層を有する板状成形物
本発明の硬化塗膜層を有する板状成形物は、前記のようにして板状成形物層を得た後に鋳型から硬化被膜層を剥離することにより、本発明の板状成形物の表面に前述の硬化被膜層が積層された状態で得ることができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明について実施例を用いて説明する。尚、以下において、「部」及び「%」は夫々「質量部」及び「質量%」を示す。
[実施例1]
ジオクチルスルホコハク酸のナトリウム塩(日本サイテックインダストリーズ(株)製、商品名:AEROSOL OT−100)及びエチルホスフェート(城北化学(株)製、商品名:JP502)を夫々1%となるように蒸留水に加え、1時間攪拌して均一分散液とし、処理液を調整した。
【0080】
次いで、上記で得られた処理液を50℃に保持した後に、処理液中に鏡面研磨処理されたステンレス鋼板(材質;SUS304、大きさ;縦160mm、横160mm及び厚み1mm)を1時間浸漬させた。その後、ステンレス鋼板を取り出し、1時間放置してその表面を乾燥させ、メチルメタクリレートをしみ込ませたガーゼで表面を5回拭き取り洗浄し、表面が処理液で処理されたステンレス鋼板を得た。
【0081】
別途用意した、上記ステンレス鋼板と同じ大きさの強化ガラスの片面に、厚み250μmのPETフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、商品名:テイジン(R)テトロン(R)フィルムSを被覆し、PETフィルムが被覆された強化ガラスを調整した。
【0082】
PETフィルムが被覆された強化ガラスのPETフィルムが被覆された面が、処理液で処理されたステンレス鋼板と向き合うように配置し、それらの間に形成された空間部の四辺の端部に厚み2.8mmのポリ塩化ビニル製ガスケットを配置し、ステンレス鋼板と強化ガラスをクリップで固定してセルキャスト用鋳型を作製した。
【0083】
このセルキャスト用鋳型内に、質量平均分子量220,000のポリメチルメタクリレート20部をメチルメタクリレート80部に溶解したシラップ100部にt−ヘキシルパーオキシピバレート(日油(株)製、商品名:パーヘキシルPV)0.05部を混合溶解して得られるビニル単量体層の原料を注入した。次いで、ビニル単量体層の原料が注入されたセルキャスト用鋳型を80℃の水浴中に30分間浸漬し、その後130℃の空気炉中に30分間放置して重合を完了させた。次いで、空気炉からセルキャスト用鋳型を取り出し、ステンレス鋼板の温度が110℃になった後に板状成形物層から強化ガラスとPETフィルムを取り除き、更にステンレス鋼板を剥離して板状成形物を得た。このとき板状成形物層はステンレス鋼板から容易に剥離することができた。
[実施例2]
実施例1と同様にして、表面が処理液で処理されたステンレス鋼板を得た。次いで、このステンレス鋼板の片面に、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸(モル比:1/2/4)の縮合混合物(大阪有機化学工業(株)製、商品名:TAS)50部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、商品名:C6DA)50部及びベンゾインエチルエーテル(精工化学(株)製、商品名:BEE)1.5部を混合溶解して得られる塗膜層の原料約0.2mlを滴下した後、厚み100μmのPETフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、商品名:テイジンテトロンフィルムG2)を介してゴムローラーで約80mm四方にしごきながら塗付し、厚み約20μmの塗膜層を形成させた。この後、PETフィルムを剥がし、紫外線ランプ(アイグラフィックス(株)製、商品名:EYE INVERTOR GRANDANGE ECS−401GX)用いて、照射エネルギーが1,000mJ/cmになるように塗膜層の面に紫外線を照射し、表面が処理液で処理されたステンレス鋼板の上に硬化被膜が形成されたステンレス鋼板を得た。
【0084】
実施例1のステンレス鋼板の代わりに、上記で得られたステンレス鋼板の硬化被膜が形成された面が成形面となるようにして実施例1と同様のセルキャスト用鋳型を作製した。このセルキャスト用鋳型を使用して実施例1と同様にしてビニル単量体層の重合を完了させて板状成形物層を作製し、硬化被膜が積層された板状成形物を得た。このとき硬化被膜の面はステンレス鋼板から容易に剥離することができた。
[比較例1]
処理液としてジオクチルスルフォサクシネートのナトリウム塩(日本サイテックインダストリーズ(株)製、商品名:AEROSOL OT−100)のみを1%となるように蒸留水に溶解させた処理液を用いた。それ以外は実施例2と同様にして硬化被膜が積層された板状成形物層を得た。次いで、硬化被膜の面をステンレス鋼板から剥離しようとしたところ、剥がすことができなかった。
[比較例2]
処理液としてエチルホスフェート(城北化学(株)製、商品名:JP502)のみを1%となるように蒸留水に溶解させた処理液を用いた。それ以外は実施例2と同様にして硬化被膜が積層された板状成形物層を得た。次いで、硬化被膜の面をステンレス鋼板から剥離しようとしたところ、剥がすことができなかった。
[比較例3]
鏡面研磨処理されたステンレス鋼板を用いた。それ以外は実施例2と同様にして硬化被膜が積層された板状成形物層を得た。次いで、硬化被膜の面をステンレス鋼板から剥離しようとしたところ、剥がすことができなかった。
[比較例4]
鏡面研磨処理されたステンレス鋼板を用いた。それ以外は実施例1と同様にして板状成形物層を得た。このとき板状成形物層はステンレス鋼板から剥離することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燐酸エステル、陰イオン界面活性剤及び水を含有する処理液と接触させた後、乾燥させた成形面を有するステンレス鋼板製の鋳型を使用し、鋳型の成形面と接触するようにビニル単量体層を形成するビニル単量体層形成工程、ビニル単量体層を重合して板状成形物層を形成する成形工程及び鋳型から板状成形物層を剥離する剥離工程を有する板状成形物の製造方法。
【請求項2】
燐酸エステル、陰イオン界面活性剤及び水を含有する処理液と接触させた後、乾燥させた成形面を有するステンレス鋼板製の鋳型を使用し、鋳型の成形面と接触するように分子中に少なくとも2個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する単量体を含有する塗膜層を形成する塗膜層形成工程、塗膜層を硬化させて硬化被膜層を形成する硬化被膜層形成工程、形成された硬化被膜層の表面にビニル単量体層を形成するビニル単量体層形成工程、ビニル単量体層を重合して板状成形物層を形成する成形工程及び鋳型から硬化被膜層を有する板状成形物層を剥離する剥離工程を有する板状成形物の製造方法。
【請求項3】
燐酸エステル、及び陰イオン界面活性剤が、水及びビニル単量体に可溶または均一分散可能である請求項1または請求項2に記載の板状成形物の製造方法。

【公開番号】特開2010−137365(P2010−137365A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313053(P2008−313053)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】