説明

架橋性含フッ素芳香族プレポリマーおよびその硬化物

【課題】キュア温度が低くても高い耐熱性と低い比誘電率を有する硬化物が得られる組成物の提供。
【解決手段】ハロアルキル炭化水素芳香族化合物(A)と、下記式(2)


で示される含フッ素芳香族化合物(B)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを、脱ハロゲン化水素剤存在下に縮合反応させて得られ、数平均分子量が1,000〜500,000であることを特徴とする架橋性含フッ素芳香族プレポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性含フッ素芳香族プレポリマーおよびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスおよび多層配線板等の微細化および高集積化に伴いより低い比誘電率の絶縁膜が要求されている。近年、電子デバイス等の製造工程が簡略化できることから、これらの絶縁膜として有機系の材料を適用することが提案されてきている。特に高いガラス転移温度(Tg)で代表される良好な耐熱性および低い比誘電率の双方を兼ね備えた芳香族系樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−247646号公報
【特許文献2】国際公開第03/008483号パンフレット
【特許文献3】特開2005−105115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし特許文献1の技術では硬化物の耐熱温度が低く、耐薬品性も不充分であった。一方特許文献2、3の技術では、架橋反応を起こさせて硬化物を得るための加熱温度(キュア温度)が高いという問題があった。すなわち充分な物性を有する硬化物を得るために一定温度以上での加熱が必要であった。
【0005】
本発明ではキュア温度が低くても充分バランスの取れた物性を有する硬化物を得ることを目的とする。すなわち製造時の加熱を低い温度で行っても、実用上充分な耐熱性を有し、かつ、比誘電率も充分に低い硬化物が得られる組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の架橋性含フッ素芳香族プレポリマーを提供する。本発明の架橋性含フッ素芳香族プレポリマーは、下記式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、Rは架橋性官能基を有する1価の有機基、Rは炭素数8以下のハロアルキル基を表す。]で示される炭化水素芳香族化合物(A)と、下記式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
[式中、nは0〜3の整数;a、bはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、RfおよびRfはそれぞれ同じであっても異なっていても良い炭素数8以下の含フッ素アルキル基を表し、芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。]で示される含フッ素芳香族化合物(B)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを、脱ハロゲン化水素剤存在下に縮合反応させて得られ、架橋性官能基およびエーテル結合を有し、数平均分子量が1,000〜500,000であることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記Rが−R−X[ただしRは炭素数8以下のアルキレン基、Xは塩素原子または臭素原子を表す。]で表されるハロアルキル基であることが好ましい。さらに前記Rが炭素数4以下のアルキレン基であることが好ましい。また前記Rが、ビニル基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、およびエチニル基からなる群から選ばれる基であることが好ましい。
【0012】
また本発明は、前記架橋性含フッ素芳香族プレポリマーを硬化させることにより形成される硬化物、前記架橋性含フッ素芳香族プレポリマーと溶剤とを含む塗布用組成物、および、前記硬化物を有する電子部品、電気部品または光学部品を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(以下単にプレポリマーと略記することもある。)は、低温でキュア可能である。したがって半導体素子等の電子デバイスを作成する際のプロセス温度を低くすることができる。これにより素子の製造プロセスが簡略化でき、また、素子に与える熱的負荷を下げることにより素子の信頼性が向上できる。
【0014】
本発明のプレポリマーを用いれば、低い比誘電率と高い耐熱性を同時にバランスよく満足する硬化物が得られる。また本発明のプレポリマーは、可とう性に優れた硬化膜を形成できるので、曲げ等の外力に強い膜が得られる。また厚膜も容易に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[プレポリマー]
本発明のプレポリマーは、下記式(1)
【0016】
【化3】

【0017】
[式中、Rは架橋性官能基を有する1価の有機基、Rは炭素数8以下のハロアルキル基を表す。]で示される炭化水素芳香族化合物(A)と、下記式(2)
【0018】
【化4】

【0019】
[式中、nは0〜3の整数;a、bはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、RfおよびRfはそれぞれ同じであっても異なっていても良い炭素数8以下の含フッ素アルキル基を表し、芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。]で示される含フッ素芳香族化合物(B)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを、脱ハロゲン化水素剤存在下に縮合反応させて得られ、架橋性官能基およびエーテル結合を有し、数平均分子量が1,000〜500,000(1×10〜5×10)である。
【0020】
本発明のプレポリマーは、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)を用いて製造され、かつ架橋性官能基を有することにより、低誘電率、低吸水率および高耐熱性を同時に満足する硬化物(含フッ素芳香族ポリマー)が得られる。すなわち、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)を用いることにより、ポリマー鎖に分岐構造を導入し、分子構造を三次元化することにより、ポリマーの自由体積を増大させて低密度化、すなわち低誘電率化が達成される。また一般的に、芳香環を有する直鎖状ポリマーは芳香環のスタッキングによる分子の配向が起き易いが、本発明の硬化物では分岐構造を導入することにより分子の配向が抑えられ、その結果、複屈折が小さくなる。
【0021】
架橋性官能基を有することにより、得られる硬化物において、プレポリマー分子間の架橋または鎖延長反応を進行させることができ、その結果、耐熱性が大きく向上する。同時に硬化物の耐溶剤性、耐薬品性が向上するという効果も有する。
【0022】
さらに、前記式(2)で表される含フッ素芳香族化合物(B)を用いることにより、可とう性が良好な硬化物が得られる。それ自体が分岐構造を有する含フッ素芳香族化合物より製造された含フッ素芳香族ポリマーに比べて、エーテル結合の密度を高めることができ、主鎖の柔軟性が向上し、結果として可とう性が良好な硬化物が得られる。可とう性が良好であることは、硬化物が硬化膜の形状である場合に特に有利である。
【0023】
[炭化水素芳香族化合物(A)]
本発明にかかる炭化水素芳香族化合物(A)は、下記式(1)
【0024】
【化5】

【0025】
[式中、Rは架橋性官能基を有する1価の有機基、Rは炭素数8以下のハロアルキル基を表す。]で示される化合物である。
【0026】
前記架橋性官能基は、プレポリマー製造時には実質上反応を起こさず、膜、フィルムまたは成形体等の硬化物を作製する時点、または作製後の任意の時点で、外部エネルギーを与えることにより反応し、プレポリマー分子間の架橋または鎖延長を引き起こす反応性官能基である。
【0027】
外部エネルギーとしては、電子デバイス、多層配線板または光伝送体の製造および/または実装工程での適用性に優れるので、熱、光、電子線等、およびこれらの併用が好ましい。外部エネルギーとして熱を用いる場合、40〜250℃の温度で反応する反応性官能基が好ましい。好ましい温度範囲は、60〜200℃がより好ましく、70〜200℃が特に好ましい。低すぎると、プレポリマーまたは該プレポリマーを含む塗布用組成物の保存時における安定性が確保しにくい。また高すぎると反応時にプレポリマー自体の熱分解が発生してしまうので、前記範囲にあることが好ましい。外部エネルギーとして光を用いる場合、プレポリマーまたは後述する該プレポリマーを含む塗布用組成物に、光ラジカル発生剤、光酸発生剤、増感剤等を添加することも好ましい。また、極性基を含まない架橋性官能基は硬化膜の比誘電率を上昇させないことから、特に本発明のプレポリマーを絶縁膜の製造に適用する場合には極性基を含まない架橋性官能基を用いることが好ましい。
【0028】
架橋性官能基の具体例としては、ビニル基、アリル基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基(以下合わせてメタクリロイル(オキシ)基と表現し、他の基も同様である。)、アクリロイル(オキシ)基、ビニルオキシ基、トリフルオロビニル(オキシ)基、エチニル基、1−オキソシクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル基、シアノ基、アルコキシシリル基、ジアリールヒドロキシメチル基、ヒドロキシフルオレニル基等が挙げられる。反応性が高く、高い架橋密度が得られるので、ビニル基、メタクリロイル(オキシ)基、アクリロイル(オキシ)基、エチニル基が好ましい。反応性が高く、得られる硬化物が良好な耐熱性を有する点から、ビニル基、エチニル基が最も好ましい。
【0029】
前記Rはこれらの架橋性官能基を有する1価の有機基である。すなわち前記官能基と芳香環との間に単結合、または、2価の有機基(例えばアルキレン基、アリーレン基等)を有していてもよい。本発明においてはRは、ビニル基、メタクリロイル(オキシ)基、アクリロイル(オキシ)基、およびエチニル基からなる群から選ばれる基であることが好ましい。
【0030】
本発明のプレポリマーにおける架橋性官能基の含有量は、プレポリマー1gに対して架橋性官能基が0.1〜4ミリモルが好ましく、0.2〜3ミリモルがより好ましい。この範囲を超えると硬化物の脆性が大きくなり、比誘電率が上昇することがある。また、この範囲より少ないと、硬化物の耐熱性および耐溶剤性が低下することがある。
【0031】
また前記Rは炭素数8以下のハロアルキル基であるが、−R−Xで表されるハロアルキル基であることが好ましい。ただしRは炭素数8以下、好ましくは炭素数4以下のアルキレン基、Xは塩素原子または臭素原子を表す。
【0032】
このような炭化水素芳香族化合物(A)としては、スチレン類が好適に例示できる。すなわちクロロメチルスチレン、クロロエチルスチレン、クロロプロピルスチレン、ブロモメチルスチレン等が好ましく、クロロメチルスチレンが特に好適に例示できる。これらは架橋性官能基の反応性が高く、プレポリマーのキュア温度を低くすることができる点で好ましい。
【0033】
[含フッ素芳香族化合物(B)]
本発明において、含フッ素芳香族化合物(B)は前記式(2)で示される含フッ素芳香族化合物である。この式(2)中、RfおよびRfは炭素数8以下の含フッ素アルキル基である。耐熱性の観点より、ペルフルオロアルキル基が好ましい。具体例としては、ペルフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロヘキシル基、ペルフルオロオクチル基が挙げられる。
【0034】
RfおよびRfが多くなると含フッ素芳香族化合物(B)の製造が困難となるので、これらRfおよびRfの数(aおよびb)はそれぞれ独立に0〜2が好ましく、0が最も好ましい。
【0035】
含フッ素芳香族化合物(B)としては、(n=0の場合)ペルフルオロベンゼン、ペルフルオロトルエン、ペルフルオロキシレン;(n=1の場合)ペルフルオロビフェニル;(n=2の場合)ペルフルオロテルフェニル;(n=3の場合)ペルフルオロ(1,3,5−トリフェニルベンゼン)、ペルフルオロ(1,2,4−トリフェニルベンゼン)が好ましく、特にペルフルオロベンゼン、ペルフルオロビフェニルが好ましい。これらは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。得られる硬化物の誘電率と耐熱性のバランスに優れ、かつ硬化物の可とう性が高くなる点で、含フッ素芳香族化合物(B)としては、ペルフルオロビフェニルが最も好ましい。
【0036】
[フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)]
本発明において、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)としては、多官能フェノール類が好ましい。化合物(C)におけるフェノール性水酸基の数は3個以上であるが、実用的に3〜6個が好ましく、3〜4個が特に好ましい。具体例としては、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシビフェニル、トリヒドロキシナフタレン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、テトラヒドロキシベンゼン、テトラヒドロキシビフェニル、テトラヒドロキシビナフチル、テトラヒドロキシスピロインダン類等が挙げられる。得られる硬化膜の可とう性が高くなることから、化合物(C)としてはフェノール性水酸基を3個有する化合物が好ましい。その中でも、得られる硬化物の誘電率が低くなることから、トリヒドロキシベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが特に好ましい。
【0037】
[プレポリマーの製造方法]
本発明のプレポリマーは、前記炭化水素芳香族化合物(A)と、前記含フッ素芳香族化合物(B)と、前記フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを、脱ハロゲン化水素剤存在下に縮合反応させて得られる。
【0038】
前記縮合反応において、炭化水素芳香族化合物(A)と、含フッ素芳香族化合物(B)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とは、同時に反応させてもよい。しかし反応効率の点から、炭化水素芳香族化合物(A)とフェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを先に反応させて、その反応が終了する前または後に含フッ素芳香族化合物(B)を加えて反応させることが好ましい。例えば炭化水素芳香族化合物(A)とフェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを脱ハロゲン化水素剤存在下で反応させ、その反応系に後から含フッ素芳香族化合物(B)を添加して反応させる方法が好適に例示できる。
【0039】
縮合反応においては、フェノール性水酸基から誘導されるフェノキシ基が、炭化水素芳香族化合物(A)のハロアルキル基におけるハロゲン原子が結合した炭素原子を攻撃し、ついでハロゲン原子が脱離する反応機構等によりエーテル結合が生成する。さらに同じく、フェノール性水酸基から誘導されるフェノキシ基が、含フッ素芳香族化合物(B)のフッ素原子が結合した炭素原子を攻撃し、ついでフッ素原子が脱離する反応機構等により同様にエーテル結合が生成する。縮合反応における芳香環の位置関係により、ジオキシン骨格が生成する可能性もある。
【0040】
前記脱ハロゲン化水素剤としては、塩基性化合物が好ましく、特にアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩または水酸化物が好ましい。具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0041】
脱ハロゲン化水素剤の使用量は、化合物(C)のフェノール性水酸基のモル数に対し、モル比で1倍以上の量が必要であり、1.1〜3倍が好ましい。
【0042】
前記製造方法において、縮合反応は極性溶媒中で行うことが好ましい。極性溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性の極性溶媒を含有する溶媒が好ましい。極性溶媒には、生成するプレポリマーの溶解性を低下せず、縮合反応に悪影響を及ぼさない範囲で、トルエン、キシレン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ベンゾトリフルオライド、キシレンヘキサフルオライド等が含有されてもよい。これらを含有することにより、溶媒の極性(誘電率)が変化し、反応速度をコントロールすることが可能である。
【0043】
縮合反応条件としては、10〜200℃で1〜80時間が好ましい。より好ましくは2
0〜180℃で2〜60時間、最も好ましくは50〜160℃で3〜24時間である。
【0044】
本発明のプレポリマーの数平均分子量は、1,000〜500,000(1×10〜5×10)である。より好ましくは1,500〜100,000の範囲である。この範囲にあると、後述するプレポリマーを含む組成物の塗布特性が良好であり、得られた硬化膜は良好な耐熱性、機械特性、および耐溶剤性等を有する。電子デバイス用絶縁膜用途において、下地の微細スペース間に充分に浸透し、かつ表面を平滑にする特性(いわゆる埋め込み平坦性)が要求される場合には、プレポリマーの数平均分子量は1,500〜50,000の範囲が最も好ましい。
【0045】
プレポリマーの数平均分子量は、炭化水素芳香族化合物(A)と含フッ素芳香族化合物(B)との合計と、化合物(C)との仕込み比率を変化させることによって制御できる。ここで、プレポリマー中に水酸基が残存しない方が、硬化物の比誘電率が低くなるので好ましい。本発明における縮合反応では、含フッ素芳香族化合物(B)は通常二官能性化合物としてはたらく。従って分子量のコントロールは、化合物(C)の水酸基の合計モル数が、含フッ素芳香族化合物(B)のモル数の2倍と炭化水素芳香族化合物(A)のモル数との合計を超えない範囲内で調整することが好ましい。
【0046】
具体的には、化合物(C)の使用量は含フッ素芳香族化合物(B)に対するモル比で0.5〜2倍が好ましく、より好ましくは0.6〜1.5倍である。また炭化水素芳香族化合物(A)の使用量は含フッ素芳香族化合物(B)に対するモル比で0.1〜2倍が好ましく、より好ましくは0.2〜1.5倍である。各値がこの範囲にあると、得られたプレポリマーが低い誘電率値と高い耐熱性を併せ持つので好ましい。
【0047】
本発明において、プレポリマーの硬化物の耐熱性が不充分であったり、該硬化物からなる膜またはフィルムが脆性であったりする場合には、硬化物の耐熱性向上や可とう性を改良するためにプレポリマー製造時に共縮合成分を添加することができる。
【0048】
共縮合成分としては、硬化膜の可とう性向上のためにはフェノール性水酸基を2個有する化合物(Z)、硬化膜の耐熱性向上のためには架橋性官能基を有する芳香族化合物(Y)(炭化水素芳香族化合物(A)は含まれない)が挙げられる。
【0049】
前記フェノール性水酸基を2個有する化合物(Z)としては、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシターフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシアントラセン、ジヒドロキシフェナントラセン、ジヒドロキシ−9,9−ジフェニルフルオレン、ジヒドロキシジベンゾフラン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルチオエーテル、ジヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルプロパン、ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルヘキサフルオロプロパン、ジヒドロキシビナフチル等の2官能フェノール類が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
【0050】
また架橋性官能基を有する芳香族化合物(Y)としては、架橋性官能基およびフェノール性水酸基を有する化合物(Y−1)、および、架橋性官能基およびフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y−2)が挙げられる。
【0051】
化合物(Y−1)としては、4−ヒドロキシスチレン、3−エチニルフェノール、4−フェニルエチニルフェノール、4−(4−フルオロフェニル)エチニルフェノール、2,2’−ビス(フェニルエチニル)−5,5’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ビス(フェニルエチニル)−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシトラン、3,3’−ジヒドロキシトラン等が挙げられる。
【0052】
また化合物(Y−2)としては、ペンタフルオロスチレン、ペンタフルオロベンジルアクリレート、ペンタフルオロベンジルメタクリレート、ペンタフルオロフェニルアクリレート、ペンタフルオロフェニルメタクリレート、ペルフルオロスチレン、ペンタフルオロフェニルトリフルオロビニルエーテル、3−(ペンタフルオロフェニル)ペンタフルオロプロペン−1、ペンタフルオロベンゾニトリル、ペンタフルオロフェニルアセチレン、ノナフルオロビフェニルアセチレン、フェニルエチニルペンタフルオロベンゼン、フェニルエチニルノナフルオロビフェニル、デカフルオロトラン等が挙げられる。
【0053】
本発明のプレポリマーは縮合反応後または溶液化後に、中和、再沈殿、抽出、ろ過等の方法で精製される。精製は、製造時において好ましく使用される極性溶媒が存在する状態または後述する溶剤に溶解もしくは分散された状態で行った方が効率がよいので好ましい。電子デバイス用絶縁膜および多層配線板用絶縁膜としての用途において、縮合反応触媒であるカリウム、ナトリウム等の金属および遊離したハロゲン原子はトランジスタの動作不良や配線の腐食等を引き起こす原因となる可能性があるので充分に精製することが好ましい。
【0054】
[プレポリマーと併用する添加剤]
本発明においては、硬化させるための架橋反応時、反応速度を上げるまたは反応欠陥を低減させる等の目的で各種の触媒または添加剤を、前記プレポリマーと併用できる。
【0055】
プレポリマーが架橋性官能基としてエチニル基を含有する場合には、触媒としてはアニリン、トリエチルアミン、アミノフェニルトリアルコキシシラン、アミノプロピルトリアルコキシシラン等のアミン類や、モリブデン、ニッケル等を含有する有機金属化合物等が例示できる。
【0056】
前記添加剤としては、ビスシクロペンタジエノン誘導体が好ましい。エチニル基とシクロペンタジエノン基(1−オキソシクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル基)は熱によりディールスアルダー反応で付加物を形成した後、脱一酸化炭素反応して芳香環を形成する。したがって、ビスシクロペンタジエノン誘導体を使用すると芳香環が結合部位である架橋または鎖延長ができる。
【0057】
ビスシクロペンタジエノン誘導体の具体例としては、1,4−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)ベンゼン、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)ビフェニル、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)1,1’−オキシビスベンゼン、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)1,1’−チオビスベンゼン、1,4−ビス(1−オキソ−2,5−ジ−[4−フルオロフェニル]−4−フェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)ベンゼン、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)1,1’−(1,2−エタンジイル)ビスベンゼン、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)1,1’−(1,3−プロパンジイル)ビスベンゼン等を挙げることができる。
【0058】
これらのビスシクロペンタジエノン誘導体のうち、耐熱性の観点から全芳香族骨格のビスシクロペンタジエノン誘導体が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
[塗布用組成物]
本発明は前記プレポリマーを硬化させて得られる硬化物を提供する。この硬化物を得るためには、前記プレポリマーと溶剤とを含む塗布用組成物を用いることが好ましい。この塗布用組成物を、基材に塗布した後に溶剤を除去(乾燥)させ、一般的にはプレポリマーの膜(樹脂膜)を得る。このプレポリマーを硬化させて硬化物(硬化膜)が得られる。この硬化は、熱、光、電子線等の外部エネルギーを与えることで行う。すなわち外部エネルギーを与えることにより、プレポリマー分子間の架橋反応または鎖延長反応を起こして硬化反応を進める。
【0060】
外部エネルギーとして熱を用いる場合、硬化物を得るための最終的な加熱温度は、40〜250℃が好ましく、60〜200℃がより好ましい。特に本発明においては特定の炭化水素芳香族化合物(A)をプレポリマーの原料として採用することにより、ラジカル開始剤等を用いなくても低温で硬化させることができる。ラジカル開始剤を用いない場合の好適な加熱温度は、150〜200℃が好ましい。
【0061】
またさらに熱による硬化を充分に進行させるために、また低温で硬化させるために、ラジカル開始剤等を塗布用組成物に添加してもよい。このラジカル開始剤としては、特に限定されず、アゾ系化合物、有機系ペルオキシカーボネート、有機系ペルオキシド等通常のラジカル反応に用いられるラジカル開始剤が挙げられる。
【0062】
ラジカル開始剤の具体例としては、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ系化合物;ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等の有機系ペルオキシカーボネート;ペルフルオロベンゾイルペルオキシド、ペルフルオロベンゾイルペルオキシド、ペルフルオロノナノイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド等の有機系ペルオキシド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0063】
前記ラジカル開始剤を用いる場合の塗布用組成物における量は、前記プレポリマー100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、1〜10質量部がさらに好ましい。
【0064】
[溶剤]
本発明の塗布用組成物に用いる溶剤としては、プレポリマーおよび必要であれば加える触媒または添加剤類を溶解または分散できればよい。さらに、所望の方法で所望の膜厚、均一性、または埋め込み平坦性を有する硬化膜が得られれば溶剤の種類に特に制限は無い。例えば芳香族炭化水素類、双極子非プロトン系溶媒類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類が挙げられる。溶剤としては、前述したプレポリマー製造時の反応溶剤と同じであっても、異なっていても良い。異なる溶剤を使用する場合には、再沈殿法等でプレポリマーを一旦反応溶液より回収し、異なる溶剤に溶解若しくは分散させるか、またはエパポレーション法、限外濾過法等の公知の手法を用いて溶剤置換を行うことができる。
【0065】
芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、キュメン、メシチレン、テトラリン、メチルナフタレン等が挙げられる。双極子非プロトン系溶媒類としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0066】
ケトン類としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、メチルアミルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ピラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジフェニルエーテル、アニソール、フェネトール、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。
【0067】
エステル類としては、乳酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸ベンジル、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0068】
ハロゲン化炭化水素類としては、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。
【0069】
[塗布用組成物の組成等]
前記塗布用組成物において、組成物中のプレポリマーの濃度は1〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。この組成物はプレポリマーおよび溶剤以外に、可塑剤、増粘剤等のコーティング分野で周知の各種添加剤の中から選択される少なくとも1種の添加剤を配合してもよい。また、空孔を有する膜またはフィルムを形成する場合には、後述する中空体および薄膜形成後除去可能な物質等を適宜配合することができる。
【0070】
本発明のプレポリマーが蒸気圧を有する低分子量体を含有する場合には、ベーク時の揮発を防止するために、溶液中で架橋性官能基の一部を反応させておくこともできる。その方法としては加熱が好ましい。加熱条件としては50〜250℃で1〜50時間が好ましく、より好ましくは70〜200℃で1〜20時間である。架橋性官能基の溶液中での反応率は、溶液中でのプレポリマーのゲル化を防止する観点より、50%未満とするのが好ましく、より好ましくは30%未満である。
【0071】
[感光性組成物]
本発明にかかる塗布用組成物に感光剤を加えることにより、感光性組成物とすることができる。この感光性組成物は以下の点で優れている。凹凸形状を有する樹脂膜をフォトリソグラフ法により得る場合において、樹脂組成物自身が感光性を有するため、レジストが不要となる。また得られた樹脂膜は低誘電率、低吸水率および高耐熱性を同時に満足する。このため、素子の電気特性の向上が図れる。さらに水分の影響、熱の影響を受けにくいため、電気特性と同時に信頼性の向上も図れる。
【0072】
この感光性組成物は、前記プレポリマーと、少なくとも一種の感光剤と少なくとも一種の溶剤とを含む。
【0073】
[感光剤]
前記感光性組成物に用いる感光剤とは、光照射により架橋や重合等の反応が進行し、プレポリマーが高分子量化することにより、現像液への溶解性を低下させるものをいう。この場合、感光剤自身に照射光の感度がないまたは小さい場合、光開始助剤や増感剤を併用することができる。感光剤としては、光開始剤(光ラジカル発生剤)、光酸発生剤、光塩基発生剤、光架橋剤等が挙げられる。
【0074】
光開始剤としては、ベンゾインアルキルエーテル誘導体、ベンゾフェノン誘導体、α−アミノアルキルフェノン系、オキシムエステル誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、グリオキシエステル誘導体、有機過酸化物系、トリハロメチルトリアジン誘導体、チタノセン誘導体等が挙げられる。具体的には、IRGACURE 651、IRGACURE 184、DAROCURE 1173、IRGACURE 500、IRGACURE 2959、IRGACURE 754、IRGACURE 907、IRGACURE 369、IRGACURE 1300、IRGACURE 819、IRGACURE 819DW、IRGACURE 1880、IRGACURE 1870、DAROCURE TPO、DAROCURE 4265、IRGACURE 784、IRGACURE OXE01、IRGACURE OXE02、IRGACURE 250(チバスペシャリティーケミカルズ社)、KAYACURE DETX−S、KAYACURE CTX、KAYACURE BMS、KAYACURE 2−EAQ(日本化薬社)、TAZ−101、TAZ−102、TAZ−103、TAZ−104、TAZ−106、TAZ−107、TAZ−108、TAZ−110、TAZ−113、TAZ−114、TAZ−118、TAZ−122、TAZ−123、TAZ−140、TAZ−204(みどり化学社)等が挙げられる。
【0075】
これらの光開始剤は単独で使用しても、二種類以上を併用することも可能である。低い照射エネルギーで硬化できるため高感度開始剤が望ましい。IRGACURE 907(α−アミノアルキルフェノン系)、IRGACURE 369(α−アミノアルキルフェノン系)、DAROCURE TPO(アシルホスフィンオキサイド系)、IRGACURE OXE01(オキシムエステル誘導体)、IRGACURE OXE02(オキシムエステル誘導体)が好ましく、DAROCURE TPO、IRGACURE OXE01、IRGACURE OXE02が特に好ましい。
【0076】
光酸発生剤としては、ジアゾジスルホン系、トリフェニルスルホニウム系、ヨードニウム塩系、ジスルホン系、スルホン系等が挙げられる。具体的には、TPS−105、DPI−102、DPI−105、DPI−106、DPI−109、DPI−201、BI−105、MPI−103、MPI−105、MPI−106、MPI−109、BBI−102、BBI−103、BBI−105、BBI−106、BBI−109、BBI−110、BBI−201、BBI−301、TPS−102、TPS−103、TPS−105、TPS−106、TPS−109、TPS−1000、MDS−103、MDS−105、MDS−109、MDS−205、BDS−109、DTS−102、DTS−103、DTS−105、NDS−103、NDS−105、NDS−155、NDS159、NDS−165、DS−100、DS−101、SI−101、SI−105、SI−106、SI−106、SI−109、PI−105、PI−105、PI−109、NDI−101、NDI−105、NDI−106、NDI−109、PAI−101、PAI−106、PAI−1001、NAI−100、NAI−1002、NAI−1003、NAI−1004、NAI−101、NAI−105、NAI−106、NAI−109、DAM−101、DAM−102、DAM−103、DAM−105、DAM−201、Benzoin tosylate、MBZ−101、MBZ−201、MBZ−301、PYR−100、DNB−101、NB−101、NB−201、TAZ−100、TAZ−101、TAZ−102、TAZ−103、TAZ−104、TAZ−106、TAZ−107、TAZ−108、TAZ−109、TAZ−110、TAZ−113、TAZ−114、TAZ−118、TAZ−122、TAZ−123、TAZ−140、TAZ−201、TAZ−203、TAZ−204、NI−101、NI−1002、NI−1003、NI−1004、NI−101、NI−105、NI−106、NI−109(みどり化学社)、WPAG−145、WPAG−170、WPAG−199、WPAG−281、WPAG−336、WPAG−367(和光純薬工業社)等が挙げられる。
【0077】
光塩基発生剤としては、Coアミン錯体系、オキシムカルボン酸エステル系、カルバミン酸エステル系、四級アンモニウム塩系等が挙げられ、具体的には、TPS−OH、NBC−101、ANC−101(みどり化学社)等が挙げられる。
【0078】
光架橋剤としては、ビスアジド系が挙げられる。ビスアジド系光架橋剤は、光照射によりアジド基が分解して活性なナイトレンを生成し、プレポリマーの二重結合への付加やC−H結合への挿入反応を起こし、架橋反応を起こす。ビスアジド系光架橋剤は、高感度であるため好ましい。具体的には、2,6−ビス[3−(4−アジドフェニル)−2−プロペニリデン]シクロヘキサノン、2,6−ビス[3−(4−アジドフェニル)−2−プロペニリデン]−4−メチルシクロヘキサノン、2,6−ビス[3−(4−アジドフェニル)−2−プロペニリデン]−4−エチルシクロヘキサノン、2,6−ビス[3−(4−アジドフェニル)−2−プロペニリデン]−4−プロピルシクロヘキサノン、p−アジドフェニルスルホン、m−アジドフェニルスルホン、4,4’−ジアジドスチルベン、4,4’−ジアジドベンザルアセトフェノン、2,3’−ジアジド−1,4−ナフトキノン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン等が挙げられる。このうち、2,6−ビス[3−(4−アジドフェニル)−2−プロペニリデン]−4−メチルシクロヘキサノンが特に好ましい。
【0079】
光開始助剤とは光開始剤と併用することにより光開始剤を単独使用したときよりも開始反応が促進されるものをいう。具体的にはアミン類、スルホン類、ホスフィン類等が挙げられる。より具体的にはトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ミヒラーケトン、4,4’−ジエチルアミノフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル等が挙げられる。
【0080】
増感剤とは光開始剤が吸収しない放射スペクトルを吸収して励起し、その吸収エネルギーを光開始剤にエネルギートランスファーして光開始剤から開始反応を起こさせるものである。増感剤の例としてはベンゾフェノン誘導体、アントラキノン誘導体、アセトフェノン誘導体等が挙げられる。
【0081】
感光剤の添加量としては現像時にポリマーが不溶化する量であれば特に限定されない。少なすぎると光照射エネルギーが多く必要となり、また多すぎると硬化膜の電気特性や機械特性への悪影響が現れる。望ましくはプレポリマーの100質量部に対し、0.1〜30質量部であり、より好ましくは1〜10質量部である。
【0082】
[凹凸形状の形成方法]
前記感光性組成物を、基材上に塗工し、感光性組成物膜を形成し、露光し、現像して、凹凸形状を有する樹脂膜が得られる。以下で最終的に得られる樹脂膜を単に硬化膜ともいう。
【0083】
[膜形成]
前記感光性組成物を基材上に塗工し感光性組成物膜を形成する方法は、まず基材上に感光性組成物を塗布し、湿潤膜を形成する。この湿潤膜をプリベークして乾燥することにより感光性組成物膜を形成する。
【0084】
この湿潤膜の形成方法としては、コーティング方法を採用することが好ましい。例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、ダイコート法、バーコート法、ドクターコート法、押し出しコート法、スキャンコート法、はけ塗り法、ポッティング法等の公知のコーティング方法が挙げられる。電子デバイス用絶縁膜として用いる場合には、膜厚の均一性の観点からスピンコート法またはスキャンコート法が好ましい。
【0085】
感光性組成物により形成される湿潤膜の厚さは、製造する目的の硬化膜の形状に合わせて適宜設定できる。例えば絶縁膜やフィルムを製造する目的においては、基板上に0.01〜500μm程度の湿潤膜を成膜することが好ましく、0.1〜300μmがより好ましい。
【0086】
湿潤膜を形成後、溶剤を揮散させるためにプリベークを行う。加熱条件は溶剤が揮散し、プレポリマーの架橋性官能基や感光剤、光開始助剤、増感剤等の添加剤が実質的には反応しない温度が望ましく、50〜250℃で30秒〜10分位が望ましい。
【0087】
[露光]
露光は、所望のパターン形状に化学線を照射する。化学線としてはX線、電子線、紫外線、可視光線等が使用できるが、200〜500nmの波長のものが望ましい。
【0088】
膜の一部を不溶性しパターニングするために照射する化学線としては、感光剤等によって吸収される波長からなるものを含み、適切な光源としてはX線、電子線、紫外線、可視光線等が使用できる。より好ましい光源は、紫外光および可視光であり、もっとも好ましい光源は、超高圧水銀アークである。線量は膜厚および使用される感光剤等の種類に応じて変更する。10μmの厚さの膜の場合、適切な線量は100〜2,000mJ/cmである。アライナーやステッパー等の露光装置を用い、プレッシャーモード、バキュームコンタクトモード、プロキシミティーモード等においてマスクを通して露光することにより、膜組成物に露光部と未露光部のパターンを形成することができる。
【0089】
露光に続いて、必要に応じてベーク工程を適用することができる。この工程は、光化学的に発生した寿命の長い中間体の反応速度を高める。これらの中間体は、この工程の間は移動性を増すので、移動して反応部位との接触確率を高め、反応率を上げることができる。これらの反応性中間体の移動性を増加させる他の方法として、露光中に加熱することができる。このような手法は感光剤等の感度を増す。ベークの温度は中間体の種類により異なるが、50〜180℃が望ましい。
【0090】
[現像]
露光後の膜は溶媒現像される。現像方法としては、スプレー、パドル、浸漬、超音波等の方法が挙げられる。未露光部の樹脂が溶解したら、必要に応じてウエハをリンス液でリンスを行い、膜を乾燥するために高速でスピンさせる。
【0091】
現像溶媒は、露光部の樹脂が不溶または極僅かだけ可溶であり、未露光部の樹脂は可溶な溶媒を使用する。すなわち未露光の樹脂を溶解できるものがよい。芳香族炭化水素類、双極子非プロトン系溶媒類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0092】
芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、キュメン、メシチレン、テトラリン、メチルナフタレン等が挙げられる。双極子非プロトン系溶媒類としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。ケトン類としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、メチルアミルケトン等が挙げられる。
【0093】
エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ピラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジフェニルエーテル、アニソール、フェネトール、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。エステル類としては、乳酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸ベンジル、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素類としては、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。
【0094】
必要に応じてリンスを行うが、リンス液としては現像液ほどはプレポリマーの溶解性が高くなく、また、現像液と相溶性のあるものであれば特に制限がないが、アルコール類や前述のケトン類、エステル類が挙げられる。
【0095】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、tert−アミルアルコール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
【0096】
溶媒現像された膜は、必要に応じ溶媒を除去するためにベークを行う。ベークは、ホットプレート上、またはオーブン中で行うことができ、80〜150℃で0.5〜60分間が望ましい。
【0097】
所望のパターンを形成後、加熱処理により耐熱性の最終パターン(硬化膜)を得る。加熱条件は150〜250℃で1〜120分程度が好ましく、160〜200℃で2〜60分程度がより好ましい。
【0098】
加熱装置としては、ホットプレート、オーブン、ファーネス(炉)が好ましく、加熱雰囲気は、窒素およびアルゴン等の不活性ガス雰囲気、空気、酸素、減圧等が例示でき、不活性ガス雰囲気および減圧が好ましい。薄膜の表面平滑性を確保したり、薄膜の微細スペース埋込性を向上させるために、50〜180℃程度のプリベーク工程を追加したり、加熱工程を何段階かに分けて実施することが好ましい。硬化膜中の架橋性官能基(A)の反応率は、30〜100%が好ましい。反応率を30%以上とすることで硬化膜の耐熱性および耐薬品性が良好となる。この観点から、反応率は50%以上がさらに好ましく、特に70%以上であることが最も好ましい。
【0099】
[デスカム]
露光、現像条件によっては、未露光部に若干の残膜が認められる場合があり、必要に応じてデスカムを行ってもよい。デスカムのエッチングガスとしては酸素ガスやアルゴンガス、フロロカーボン系ガス等が挙げられる。また、エッチング条件としては、残膜を除去でき、かつ露光部の膜への影響を最小限にすることが好ましい。ガス流量は10〜200sccm(単位は規定温度における、1分あたりの体積(cm)流量)、処理圧力1〜50Pa、出力10〜1,000W、処理時間1〜600秒等の条件が挙げられる。
【0100】
[添加剤]
前記塗布用組成物(感光性組成物であっても、非感光性組成物であってもよい)から得られる硬化膜は、基材上に接着したままの状態で絶縁膜等として用いることができる。この場合、硬化膜と基材との接着性の向上のため、接着促進剤を使用することもできる。接着促進剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられ、エポキシシラン類、アミノシラン類、ビニルシラン類等のシラン系カップリング剤がより好ましい。エポキシシランとしては2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが例示される。アミノシラン類としては、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等の脂肪族アミノシラン類、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の含芳香族基アミノシラン類が例示される。ビニルシラン類としてはビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン等が例示される。
【0101】
接着促進剤の適用方法としては、塗布用組成物の塗布前に基材を接着促進剤で処理する方法や塗布用組成物中に接着促進剤を添加する方法が好ましい。基材を接着促進剤で処理する方法としては、アミノシラン類の例では、0.01〜3質量%のアルコール系溶液として基材にスピンコートする方法が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。接着促進剤をプレポリマー溶液中に添加する方法では、接着促進剤の添加量は含有されるプレポリマーに対して0.05〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。接着促進剤の添加量が少ないと接着性向上効果が充分でなく、多すぎると電気特性や耐熱性が低下する。
【0102】
[硬化膜の用途]
本発明のプレポリマーを用いて製造される硬化膜の用途としては、保護膜、燃料電池等の各種電池用膜材料、フォトレジスト、光導波路、非線形光学材料、被覆材、電子用部材、封止剤、オーバーコート剤、透明フィルム材、耐熱・低吸湿フィルム材、耐候性塗料、撥水剤、撥油剤、防湿コート剤、非粘着コート剤等が挙げられる。特に、電子デバイス用または多層配線板用の絶縁膜、フィルム、または光伝送体の用途が好ましい。本発明は前記プレポリマーを含む組成物を用いて製造された硬化膜を有する電子部品、電気部品または光学部品を提供する。
【0103】
本発明にかかる硬化膜を適用可能な電子部品、電気部品、光学部品のうち、電子デバイスとしては、ダイオード、トランジスタ、化合物半導体、サーミスタ、バリスタ、サイリスタ等の個別半導体、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)、SRAM(スタティック・ランダム・アクセス・メモリ)、EPROM(イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリ)、マスクROM(マスク・リード・オンリー・メモリ)、EEPROM(エレクトリカル・イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリ)、フラッシュメモリ等の記憶素子、マイクロプロセッサ、DSP、ASIC等の理論回路素子、MMIC(モノリシック・マイクロウェーブ集積回路)に代表される化合物半導体等の集積回路素子、混成集積回路(ハイブリッドIC)、発光ダイオード、電荷結合素子等の光電変換素子、アモルファスシリコンTFT(薄膜トランジスタ)、ポリシリコンTFT等のディスプレイ用素子等が挙げられる。
【0104】
本発明にかかる硬化膜(主に絶縁膜)を適用可能な電子・電気部品のうち、多層配線板としては、電子デバイス等を実装するための各種基板であり、プリント配線板、ビルドアップ配線板、MCM用基板、インターポーザー等の高密度配線板等が挙げられる。これらの電子・電気部品における絶縁膜としては、バッファコート膜、パッシベーション膜、層間絶縁膜、再配線用絶縁膜、アルファ線遮蔽膜等が挙げられる。
【0105】
前記光伝送体とは、光を通過させて伝送、分岐、増幅、または分波/合波等の機能を有する部材をいう。光伝送体は、例えば、光ファイバ、ロッドレンズ、光導波路、光分岐器、光合波器、光分波器、光減衰器、光スイッチ、光アイソレータ、光送信モジュール、光受信モジュール、カプラ、偏向子、光波長変換素子、光変調素子、光集積回路、光/電気混載回路または基板等のそのものやその光伝送部分をいう。
【0106】
前記光伝送体で使用される光の波長は、600〜1,600nmの範囲内にあることが好ましい。この中でも、レーザ等の部品の入手が容易であるので、650nm帯、850nm帯、1,300nm帯または1,550nm帯が好ましい。
【0107】
前記光伝送体を、光の伝播を外部電場で変調制御し、位相変化、方向性結合、モード変換、導波光の進路変換等を行う、いわゆる電気光学(EO)材料として用いる場合、非線形光学色素をドーピングすることが好ましい。非線形光学色素としては、長いπ電子共役系を有し、電子供与基と電子吸引基とを有したプッシュプル型の電子構造を持つ化合物が好ましい。具体例としては、アゾベンゼン系色素、ポリエン系色素等が挙げられる。
【0108】
[硬化膜の特性改良]
前記硬化膜を用いる電子デバイス用絶縁膜または多層配線板用絶縁膜の用途において、より低い比誘電率の絶縁膜を得るために、絶縁膜中に空孔を設けることが好ましい。空孔の導入方法としては、次の(a)および(b)の方法等が挙げられる。
【0109】
(a)前記塗布用組成物中に、本発明のプレポリマーと熱分解温度の低いポリマー(以下、熱分解性ポリマーという。)とを複合化しておき、硬化膜形成時に熱分解性ポリマー部分を除去する方法。
【0110】
(b)前記塗布用組成物中に微粒子を添加し、硬化膜形成時または形成後に微粒子部分を除去する方法。
【0111】
(a)の方法において、熱分解性ポリマーとしては脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、アクリル系重合体、スチレン系重合体等が挙げられる。熱分解性ポリマーの分子量は1,000〜100,000が好ましく、1,000〜50,000がより好ましい。分子量がこの範囲にあると、塗布用組成物中で本発明のプレポリマーとの相溶性を確保できるので好ましい。本発明のプレポリマーと熱分解性ポリマーとを複合化する手法としては、プレポリマーと熱分解性ポリマーとを含む塗布用組成物を作製し、これを基材上に塗布後、溶剤を揮発させ、加熱処理して複合膜を得る方法、プレポリマーと熱分解性ポリマーとをブロック化またはグラフト化することにより複合化し、この複合体を塗布用組成物に配合する方法等が例示できる。ブロック化またはグラフト化の方法は公知方法を適用できる。例えば、末端に含フッ素芳香環またはフェノール性水酸基を有する熱分解性ポリマーを作製し、プレポリマー合成の縮合反応時に共縮合する手法等が例示できる。プレポリマーの縮合反応は、前記式(2)または(3)の反応機構で進行するため、末端の含フッ素芳香環またはフェノール性水酸基部分がプレポリマー鎖と結合する。ここで、熱分解性ポリマーが片末端に含フッ素芳香環またはフェノール性水酸基を有する場合、熱分解性ポリマーがグラフトしたプレポリマーを得ることができる。熱分解性ポリマーが両末端に含フッ素芳香環またはフェノール性水酸基を有する場合、プレポリマーと熱分解性ポリマーのブロック体を得ることができる。
【0112】
熱分解性ポリマーは熱分解温度が低いため、硬化膜形成中の加熱により選択的に分解除去され、除去された部分が空孔となる。塗布用組成物への熱分解性ポリマーの添加量により空孔率の制御が可能である。熱分解性ポリマーの添加量は、通常プレポリマーに対して5〜80容積%が好ましく、10〜70容積%がさらに好ましい。
【0113】
(b)の方法において、本発明にかかる塗布用組成物中に分散させる微粒子としては無機微粒子が好ましい。無機微粒子としては、シリカ、金属等の微粒子が挙げられる。微粒子は製膜後の酸処理等で溶解除去され、除去された部分が空孔となる。微粒子の添加量により空孔率の制御が可能である。この微粒子の添加量は、通常プレポリマーに対して5〜80容積%が好ましく、10〜70容積%がさらに好ましい。
【0114】
本発明にかかる硬化膜は、他の膜と複合化することも好ましい。例えば、半導体素子パッシベーション膜または半導体素子用層間絶縁膜として適用する場合、硬化膜の下層および/または上層に無機膜を形成することが好ましい。
【0115】
無機膜としては、常圧、減圧またはプラズマ化学気相成長(CVD)法や塗布法で形成され、例えばシリコン酸化膜に必要に応じてリンおよび/またはホウ素をドープしたいわゆるPSG膜またはBPSG膜、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸化窒化膜、SiOC膜、スピン−オン−グラス(SOG)膜等が挙げられる。
【0116】
硬化膜と金属配線との間に無機膜を形成することによって、金属配線の剥がれを防止し、ダマシン形状等のエッチング加工が容易にできる効果が得られる。無機膜は、硬化膜をエッチバック法またはCMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシング)法により部分的に削除した後に硬化膜上層へ形成することが好ましい。
【0117】
硬化膜の上層に無機膜を形成する際に、硬化膜と無機膜との密着性が充分でないか、または無機膜形成時に膜減りする等の場合には、次の(I)または(II)の方法を適用することが好ましい。
【0118】
(I)多層無機膜を形成する方法:シリコン酸化膜をプラズマCVD法により形成する場合、用いるガス組成等により膜減りが発生する場合、まずシリコン窒化膜または常圧CVD−シリコン酸化膜等の膜減りを起こさない無機膜の薄膜を形成する。ついでこの薄膜をバリア層としてシリコン酸化膜を形成する。
【0119】
(II)硬化膜をエネルギー線で処理する方法:エネルギー線による処理によって硬化膜と無機膜との界面の密着性を向上させ得る場合がある。エネルギー線処理としては、光を含む広義の意味での電磁波、すなわちUV光照射、レーザ光照射、マイクロ波照射等、または電子線を利用する処理、すなわち電子線照射、グロー放電処理、コロナ放電処理、プラズマ処理等の処理が例示される。これらのうち半導体素子の量産工程に好適な処理方法としては、UV光照射、レーザ光照射、コロナ放電処理、プラズマ処理が挙げられる。
【0120】
プラズマ処理は半導体素子に与えるダメージが小さくより好ましい。プラズマ処理を行う装置としては装置内に所望のガスを導入でき、電場を印加できるものであれば特に限定されず、市販のバレル型、平行平板型のプラズマ発生装置が適宜使用できる。プラズマ装置へ導入するガスとしては、表面を有効に活性化するものであれば特に限定されず、アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、これらの混合ガス等が挙げられる。また、硬化膜の表面を活性化させ、膜減りもほとんどないガスとしては、窒素と酸素の混合ガスおよび窒素ガスが挙げられる。
【実施例】
【0121】
本発明を以下の実施例および比較例より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお各測定項目は下記方法により測定した。
【0122】
[分子量]
真空乾燥したプレポリマー粉末をゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)によりポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。キャリア溶媒はテトラヒドロフランを使用した。
【0123】
[架橋性官能基の反応率]
ウエハ上の樹脂膜についてラマン分光法(Thermo社製、ALMEGA)により測定し、架橋性官能基(以下の例では二重結合)の量から反応率を算出した。参照サンプルとしては露光前の樹脂膜を用いた。
【0124】
[架橋開始温度]
示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry)(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、DSC6220)を用いて求めた。乾燥した(プレポリマー)試料粉末を用い、測定条件は、昇温速度を10℃/分、窒素気流下とした。発熱ピークが極大となる温度を架橋開始温度とした。
【0125】
[比誘電率]
真空乾燥したプレポリマー粉末をシクロヘキサノンに溶解させて得た20質量%溶液をポア径5.0μmのPTFE製フィルタでろ過した。得られた溶液を用いて4インチシリコンウェハ上にスピンコート法によって厚さ約1μmの湿潤膜を形成した。スピン条件は毎分1,000〜5,000回転で30秒とし、縦型炉を用い190℃で60分、窒素雰囲気下でのファイナルベークを行った。続いて水銀プローバー(SSM社製、SSM−495)によるCV測定を行うことにより1MHzの比誘電率を求めた。硬化膜厚さは分光エリプソメータによって求めた値を使用した。
【0126】
[露光]
露光はUL−7000(Quintel社製)を用い、高圧水銀灯を照射して行った。なお未露光部分については、金属箔またはマスクを用いて遮光部分を形成した。
【0127】
[実施例1]
ジムロートコンデンサ、熱電対温度計、メカニカルスターラの付いた100mLガラス製4つ口フラスコに、パラクロロメチルスチレン(0.58g)、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(1.1g)、ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)(15.2g)を仕込んだ。撹拌しながらオイルバス上で加温し、液温が60℃となった時点で炭酸カリウム(2.3g)を素早く添加した。撹拌を継続しながら60℃で14時間加熱した。次いで、ペルフルオロビフェニル(1.4g)をDMAc(15.2g)に溶かした溶液を添加し、さらに60℃で28時間加熱した。その後、反応液を室温に冷却し、激しく撹拌した0.5N塩酸水約250mLに徐々に滴下し、再沈殿を行った。ろ過後、さらに純水で2回洗浄した後に、50℃で12時間真空乾燥を行って白色粉末状のプレポリマー(2.6g)を得た。
【0128】
得られたプレポリマーはエーテル結合および架橋性官能基であるビニル基を有し、分子量は5,383であった。また該プレポリマーの架橋温度は170℃であった。該プレポリマーを用いて前述した方法により形成した硬化膜の比誘電率は2.7であった。
【0129】
[実施例2]
ジムロートコンデンサ、熱電対温度計、メカニカルスターラの付いた2Lガラス製4つ口フラスコに、クロロメチルスチレン(17.5g)、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(50.7g)、DMAc(612.3g)を仕込んだ。撹拌しながらオイルバス上で加温し、液温が60℃となった時点で炭酸カリウム(102.5g)を素早く添加した。撹拌を継続しながら60℃で17時間加熱した。次いで、ペルフルオロビフェニル(72.0g)をDMAc(648.4g)に溶かした溶液を添加し、さらに60℃で22時間加熱した。その後、反応液を室温に冷却し、激しく撹拌した0.5N塩酸水約5Lに徐々に滴下し、再沈殿を行った。ろ過後、さらに純水で2回洗浄した後に、50℃で12時間真空乾燥を行って白色粉末状のプレポリマー(122.6g)を得た。得られたプレポリマーはエーテル結合および架橋性官能基であるビニル基を有し、分子量は6,494であった。
【0130】
[実施例3]
サンプル瓶に実施例1で合成したプレポリマーの1.35g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAという)の1.66g、感光剤としてDAROCUR TPOの0.0402gを入れ溶解させた。Siウエハに前記プレポリマーの溶液を毎分1,000回転30秒でスピンコートし、100℃90秒ホットプレートで加熱した。これに照射エネルギーが1,530mJ/cmの露光を行った。PGMEAを用いて20秒パドル現像を行い、毎分2,000回転30秒でスピンドライした。その後窒素気流下、190℃で1時間キュアを行った。膜厚は12.53μmであった。この膜厚は、露光後、現像工程を行っていない参照膜厚の58%の厚さであった。また架橋性官能基の反応率は100%であった(架橋性官能基のシグナルは消失していた。)。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の架橋性含フッ素芳香族プレポリマーを用いることにより、低温でキュアが可能となり、半導体素子等の製造が容易になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

[式中、Rは架橋性官能基を有する1価の有機基、Rは炭素数8以下のハロアルキル基を表す。]で示される炭化水素芳香族化合物(A)と、下記式(2)
【化2】

[式中、nは0〜3の整数;a、bはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、RfおよびRfはそれぞれ同じであっても異なっていても良い炭素数8以下の含フッ素アルキル基を表し、芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。]で示される含フッ素芳香族化合物(B)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを、脱ハロゲン化水素剤存在下に縮合反応させて得られ、架橋性官能基およびエーテル結合を有し、数平均分子量が1,000〜500,000である架橋性含フッ素芳香族プレポリマー。
【請求項2】
前記Rが−R−X[ただしRは炭素数8以下のアルキレン基、Xは塩素原子または臭素原子を表す。]で表されるハロアルキル基である請求項1に記載の架橋性含フッ素芳香族プレポリマー。
【請求項3】
前記Rが炭素数4以下のアルキレン基である請求項2に記載の架橋性含フッ素芳香族プレポリマー。
【請求項4】
前記Rが、ビニル基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、およびエチニル基からなる群から選ばれる基である請求項1〜3のいずれかに記載の架橋性含フッ素芳香族プレポリマー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の架橋性含フッ素芳香族プレポリマーを硬化させることにより形成される硬化物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の架橋性含フッ素芳香族プレポリマーと溶剤とを含む塗布用組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の硬化物を有する電子部品、電気部品または光学部品。

【公開番号】特開2008−56809(P2008−56809A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235534(P2006−235534)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】