説明

梁構造デバイスの製造方法

【課題】加熱接合法を利用しても、梁構造体に歪みや変形が生じることを防ぐことができる、梁構造デバイスの製造方法の提供を図る。
【解決手段】犠牲層17を介して支持基板11に梁構造体16を積層して底面側積層体10を形成する。そして、予熱処理によって梁構造体16の結晶構造を安定化させる。その後、犠牲層17を除去して梁構造体16を支持基板11からリリースする。そして、天面側積層体20を底面側積層体10に対して加熱接合法により接合し、梁構造体16を底面側積層体10と天面側積層体20とによるパッケージ構造に内装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、梁構造デバイスの製造方法に関し、特には熱処理を含む梁構造デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、梁構造の可動部をパッケージ内部空間に設けたMEMSデバイスが開発されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図1は、MEMSデバイスの構成とその製造方法を簡単に説明する図である。
MEMSデバイスは、複数のデバイスを混載するウェハから切り出して製造される。MEMSデバイスの製造のため、まずウェハ状の支持基板111が用意される。そして、支持基板111に上下面間を貫通するビア電極112が設けられる。次に、支持基板111の上面にパターン導体113および犠牲層114が形成される。そして、犠牲層114の上面に可動板115が設けられ、犠牲層114の上面から外れた位置にアンカー部116が設けられる。アンカー部116は可動板115を支持基板111に支持させるものである。また支持基板111の外周部には封止枠117が設けられ、封止枠117の上面にウェハレベル接合のための接合部118が設けられる。次に、犠牲層114がエッチングされて、可動板115が支持基板111からリリースされる。これにより、可動板115がアンカー部116によって支持基板111から浮き上がる状態で支持される。これにより底面側積層体110が形成される。
【0004】
また上記した底面側積層体110の形成と平行してウェハ状の蓋基板121が用意される。そして、蓋基板121に上下面間を貫通するビア電極122が設けられる。そして、蓋基板121の底面側にパターン導体123が形成される。そして、パターン導体123の底面側に絶縁保護部124が形成される。また、蓋基板121の外周に沿って封止枠125と、ウェハレベル接合のための接合部126とが設けられる。これにより天面側積層体120が形成される。
【0005】
その後、天面側積層体120と底面側積層体110とをウェハレベル接合によって一体化され、そこから個別のMEMSデバイス101が切り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−218418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ウェハレベル接合の手法として、共晶接合や直接接合、陽極接合などが利用できる。それらは一般に200℃以上での熱処理を要する加熱接合法であるため、それらの手法の利用に伴い梁構造デバイス全体には熱負荷が作用することになる。
【0008】
梁構造体を金属材で構成する場合、加熱接合法による熱負荷が金属材の結晶粒の成長を促進することがある。特に、金属の梁構造体を常温環境下での成膜プロセスなどを利用して形成した場合には、その梁構造体は結晶構造の熱的な安定性が欠けるため、接合時の熱負荷により結晶粒が大幅に成長すると梁構造体の歪みや変形が引き起こされることになる。
【0009】
そこで本発明は加熱接合法を利用しても、梁構造体に歪みや変形が生じることを防ぐことができる、梁構造デバイスの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、犠牲層を介して基板に梁構造体を積層して底面側積層体を形成する工程と、前記犠牲層を除去して前記梁構造体を前記基板からリリースするリリース工程と、前記底面側積層体とともに前記梁構造体を内装するパッケージ構造を構成する天面側積層体を、前記底面側積層体に対して加熱接合法により接合する接合工程と、を実施する梁構造デバイスの製造方法であって、前記リリース工程よりも前に、予熱により前記梁構造体の結晶構造を安定化させる予熱工程を実施することを特徴とする。
この製造方法では、予熱工程で梁構造体の結晶構造を安定化させてから、リリース工程で梁構造体をリリースさせるので、その後の接合工程で梁構造体に熱負荷が作用しても、梁構造体の結晶構造が変化することを防ぐことができる。したがって、接合工程で加熱接合法を用いても、梁構造体の変形を抑制できる。
【0011】
上述の梁構造デバイスの製造方法において、前記予熱工程での熱処理温度は前記接合工程での加熱温度よりも高温であると好適である。これにより接合工程で梁構造体の結晶粒が成長することをより確実に防ぐことができる。
【0012】
上述の梁構造デバイスの製造方法において、前記梁構造体の構成材料を銅または銅合金とすれば前記予熱工程での熱処理温度は100℃以上、500℃以下であると好適である。また、より望ましくは、200℃以上であると好適である。100℃以上での予熱によって銅または銅合金の結晶粒を成長させることができ、200℃以上であれば結晶粒を最大限に成長させることができる。また、500℃以下であれば、梁構造体と他部材との間で構成原子の拡散などの反応が生じることを防ぐことができる。
【0013】
上述の梁構造デバイスの製造方法において、前記犠牲層は金属あるいは誘電膜で構成されていると、予熱工程で熱負荷を受けても除去性が劣化することが少なく好適である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、接合工程よりも前に予熱工程を実施して梁構造体の結晶構造を安定化させてから、リリース工程で梁構造体をリリースさせることで、その後の接合工程で加熱接合法を用いて梁構造体に熱負荷が作用しても、梁構造体で結晶構造が変化することを防ぐことができる。したがって、梁構造体の変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来のMEMSデバイスの製造段階での模式構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るMEMSデバイスの模式構成を示す断面図である。
【図3】MEMSデバイスの製造段階を示す断面図である。
【図4】予熱温度と結晶構造との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《第1の実施形態》
本発明の実施形態に係る梁構造デバイスの製造方法を、MEMS可変容量デバイスの製造方法を例に説明する。
図2は、MEMS可変容量デバイスの模式構成を説明するための断面図である。MEMS可変容量デバイス1は支持基板11、蓋基板21、封止枠12,22、接合部13,23、絶縁保護膜14,24、固定電極15A〜15C,25A〜25C、および梁構造体16を備える。
【0017】
封止枠12は支持基板11の上面側外周に沿って設けられる。封止枠22は蓋基板21の下面側外周に沿って設けられる。接合部13,23はそれぞれ金電極であり、接合部13は封止枠12の上面に設けられ、接合部23は封止枠22の下面に設けられ互いに接合される。支持基板11、蓋基板21、封止枠12,22、および接合部13,23は内部空間を備えるパッケージ構造を構成する。
【0018】
固定電極15A〜15Cは、パッケージ内部空間の支持基板11の上面側に設けられる。固定電極25A〜25Cは、パッケージ内部空間の蓋基板21の下面側に設けられる。絶縁保護膜14,24は、固定電極15A〜15C,25A〜25Cを覆うように設けられる。
【0019】
梁構造体16は、銅Cuを構成材料として一体形成された片持ち梁である。なお、梁構造体16は、銅合金であってもよく、その他の金属であってもよい。この梁構造体16は、アンカー部16A、ビーム部16B、質量部16C、ビーム部16D、質量部16E、ビーム部16F、および質量部16Gを備えて構成される。アンカー部16Aは上下端が支持基板11と蓋基板21とに固定支持される。ビーム部16Bはアンカー部16Aから支持基板11および蓋基板21に平行な所定方向に延設される。質量部16Cはビーム部16Bに支持され、固定電極15A,25Aに対して間隔を隔てて対向する。ビーム部16Dは質量部16Cからビーム部16Bと同方向に延設される。質量部16Eはビーム部16Dに支持され、固定電極15B,25Bに対して間隔を隔てて対向する。ビーム部16Fは質量部16Eからビーム部16B,16Dと同方向に延設される。質量部16Gはビーム部16Fに支持され、固定電極15C,25Cに対して間隔を隔てて対向する。
【0020】
そして、支持基板11側の中央の固定電極15Bと梁構造体16とは、それぞれ信号入出力端子に接続される。また固定電極15A,15Cは第1の駆動電圧端子に接続され、固定電極25A〜25Cは第2の駆動電圧端子に接続される。
【0021】
このような構成で、第1の駆動電圧端子または第2の駆動電圧端子にDC電圧が印加されることで、梁構造体16は支持基板11側または蓋基板21側に引きつけられることになる。梁構造体16が支持基板11側に引きつけられた状態では、信号入出力端子に接続される固定電極15Bと梁構造体16とは微小間隔で対向して比較的大きな容量のキャパシタとして機能し、梁構造体16が蓋基板21側に引きつけられた状態では、信号入出力端子に接続される固定電極15Bと梁構造体16とはより広い間隔で対向して、極めて小さな容量のキャパシタとして機能することになる。
【0022】
図3は、MEMS可変容量デバイスの製造段階での模式構成を例示する断面図である。なお、同断面図は、図2中で矢示する破線部の断面を示している。
【0023】
本実施形態では、複数のデバイスを混載したウェハ状態の積層体から、個別にMEMS可変容量デバイスを切り出して製造するため、まずウェハ状の支持基板11を用意する。ここでは支持基板11としてガラス基板を用いる。支持基板11はガラス基板の他の材質でも良く、必要に応じて上下面間を貫通するビア電極を設けてもよい。
【0024】
次に、支持基板11の上面に固定電極(15A〜15C)を含む電極パターン15を形成する。ここでは、電極パターン15としてPt電極とCr電極とを、各層約0.1μmで積層して設ける。また、電極パターン15の上面には、少なくとも固定電極(15A〜15C;不図示)を覆うように絶縁保護膜14を設け、固定電極が梁構造体16と接触してショートすることを防ぐ。
【0025】
次に、電極パターン15および絶縁保護膜14の上面に犠牲層17を形成する。ここでは、犠牲層17としてSiO2を形成するが、犠牲層17にはその他の金属や誘電体、あるいはそれらの積層構造を採用することができる。
【0026】
次に、犠牲層17の上面を含む電極パターン15および絶縁保護膜14の上面に、梁構造体16や封止枠12を約5.0μm厚で形成する。ここでは、銅電極を選択メッキ法などを用いてパターン形成し、銅電極から梁構造体16や封止枠12を形成する。なお、この場合、銅電極の表面はCMP法などを用いて平坦化すると好適である。
【0027】
次に、封止枠12の上面にウェハレベル接合のための接合部13を設ける。ここでは、接合部13には約0.5μm厚の金電極を用いる。
【0028】
そして、この状態で予熱処理を施し、梁構造体16の結晶構造を安定化させる。ここでは熱処理温度を約300℃とし、熱処理時間は約1時間とする。なお、熱処理時間は結晶粒の十分な成長が得られるような時間であれば好適であり、少なくとも30分程度を確保しておけばよい。
【0029】
次に、エッチャントとしてフッ化水素を用いて犠牲層17をエッチングし、間隙18を形成する。これにより、支持基板11から梁構造体16をリリースし、梁構造体16を支持基板11から浮き上がらせ、アンカー部16Aによって梁構造体16を支持基板11に支持させる。これにより底面側積層体10が形成される。
【0030】
また上記した底面側積層体10の形成と平行してウェハ状の蓋基板21が用意される。そして、蓋基板21の下面側に電極パターン25および封止枠22が形成される。そして、封止枠22の下面側に約0.5μm厚の金電極で接合部23が形成される。また、電極パターン25の下面側に絶縁保護膜24が設けられる。これにより天面側積層体20が形成される。
【0031】
その後、天面側積層体20と底面側積層体10とはウェハレベル接合によって一体化される。ここでは、接合部13,23は、約300℃以下の温度で金電極同士の拡散接合により接合される。その後、パッケージ構造の外面に蓋部電極が形成され、個別のMEMS可変容量デバイスが切り出される。
【0032】
以上のような製造方法でMEMS可変容量デバイスを製造すると、梁構造体16のリリース前に予熱処理を施すため、梁構造体16で金属粒径が成長し、その後の接合工程で熱負荷を受けても梁構造体16が変形することがほぼ無くなる。また、予熱処理を実施しても犠牲層17の除去性が劣化することがなく、犠牲層17のエッチングが容易である。
したがって、MEMS可変容量デバイスの梁構造体を精度良く薄型に形成でき、MEMS可変容量デバイスの容量制御精度などデバイス性能を高めることが容易になる。
【0033】
次に、本実施形態のMEMS可変容量デバイスを構成する梁構造体の、熱による金属粒径の変化の確認実験について説明する。ここでは犠牲層を除去する前の状態の複数の底面側積層体を用意し、それぞれに対して異なる予熱温度で1時間の予熱処理を行い、各底面側積層体を切断してその断面結晶構造を顕微鏡で観察した。
【0034】
図4は予熱温度毎の断面結晶構造を示す顕微鏡図である。
【0035】
図4(A)に示す梁構造体の結晶構造は、常温下での予熱処理、則ち予熱処理を施していない例を示している。この場合、結晶構造は梁構造体の成膜直後から殆ど変化なく粒径1μm未満の結晶粒で占められていて、極めて微細度が高い。
【0036】
図4(B)に示す梁構造体の結晶構造は、100℃で予熱処理を施した例を示している。この場合、結晶構造の殆どが粒径1μm以上、4μm未満の結晶粒で占められていて、予熱処理を施さない例に比べて、結晶構造の微細度が低下している。
【0037】
図4(C)に示す梁構造体の結晶構造は、200℃で予熱処理を施した例を示している。この場合、結晶構造に占める粒径4μm以上の結晶粒の割合が高くなり、100℃で予熱処理を施した例に比べて、さらに微細度が低下している。
【0038】
図4(D)〜図4(F)に示す梁構造体の結晶構造はそれぞれ、300℃、400℃、500℃で予熱処理を施した例を示している。これらの場合、結晶構造の殆どが粒径4μm前後の結晶粒で占められた状態を維持し、粒径の変化が殆ど起こらず、熱的な安定性が極めて高くなっている。
【0039】
これらの実験結果が示すことからも、梁構造体に100℃以上での予熱処理、より好ましくは200℃以上での予熱処理を施しておくことにより、結晶構造の熱的な安定性が高まり、その後の熱負荷による結晶構造の変化が少なくできることがわかる。そして、結晶構造の変化が少なくなることで、熱負荷による梁構造体の変形が抑制できることがわかる。
【0040】
以上の実施形態で示したように本発明は実施できるが、梁構造デバイスは可変容量MEMSデバイスの構成に限られない。少なくとも金属製の梁構造体を備え、犠牲層の除去によって梁構造体を支持基板からリリースするような製造方法を採用できるデバイスであれば、その他のデバイス構成を採用する事もできる。
また、梁構造体の形成方法や構成材料についても、上述の実施形態で示した例に限られず、その他の形成方法や構成材料を採用する事もできる。
【符号の説明】
【0041】
1…MEMS可変容量デバイス
10…底面側積層体
20…天面側積層体
11,21…基板
12,22…封止枠
13,23…接合部
14,24…絶縁保護膜
15,25…電極パターン
16…梁構造体
17…犠牲層
18…間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
犠牲層を介して基板に梁構造体を積層して底面側積層体を形成する工程と、
前記犠牲層を除去して前記梁構造体を前記基板からリリースするリリース工程と、
前記底面側積層体とともに前記梁構造体を内装する天面側積層体を、前記底面側積層体に対して加熱接合法により接合する接合工程と、
を実施する梁構造デバイスの製造方法であって、
前記リリース工程よりも前に、前記底面側積層体を予熱し、前記梁構造体の結晶構造を安定化させる予熱工程を実施することを特徴とする梁構造デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記予熱工程での熱処理温度は前記接合工程での加熱温度よりも高温である、請求項1に記載の梁構造デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記梁構造体の構成材料が銅または銅合金であり、
前記予熱工程での熱処理温度は100℃以上、500℃以下である、請求項1または2に記載の梁構造デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記予熱工程での熱処理温度は200℃以上である、請求項3に記載の梁構造デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記犠牲層は金属あるいは誘電膜で構成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の梁構造デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−152839(P2012−152839A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12766(P2011−12766)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】