説明

棒鋼の熱処理方法および急冷装置

【課題】所定の温度域に加熱され、水平方向に沿って個々の軸方向が並列した複数の棒鋼を、水冷などにより均一に急冷でき、且つ曲がりを低減できる棒鋼の熱処理方法および急冷装置を提供する。
【解決手段】断面が円形の棒鋼Mを所定の温度帯に加熱する加熱工程と、かかる加熱された棒鋼Mを急冷する急冷工程と、を備え、かかる急冷工程は、水平方向に沿って個々の軸方向が並列した複数の棒鋼Mを、これらが載置された架台2と共に、水槽(液槽)10内の水(冷却液)Wが上記棒鋼Mの径方向に沿って流動しつつ循環している水槽10内で複数回にわたり昇降させるものである、棒鋼の熱処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向が長尺で且つ水平方向に沿って個々の軸方向が並列した複数の棒鋼を、径方向への曲がりを抑制しつつ熱処理する方法、および該熱処理に用いる棒鋼の急冷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼などからなり、直径が約30〜50mmで全長が約5〜6m(メートル)の棒鋼は、熱間圧延された後、所要の特性を与えるため、溶体化処理あるいは焼入れなどの熱処理を施される。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼の溶体化処理は、複数の並列した棒鋼を熱処理炉内で約1080℃に加熱・保持した後、水中に浸漬して急冷することで行われている。この水冷において、長尺な棒鋼が均一に冷却されないと、軸方向の中間部が径方向に偏倚する曲がりが発生する。係る曲がりを矯正するには、矯正工程が必要となり、生産性が低下する、という問題があった。
【0003】
長尺な棒鋼を均一に冷却するため、断面が樋形状の載置台を上下左右方向に揺動させ、係る載置台の内側に単数または複数の長尺材を載置して放冷する長尺材の冷却方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この冷却方法では、水冷などの急冷を伴う熱処理には、適用できない、という問題があった。
更に、軸方向に沿って供給される長尺な1本の棒鋼・線材を、雄嵌合要素の誘導孔から隣接する水冷管中に送給し、上記雄嵌合要素の外周側に沿って螺旋状に放水される冷却水を上記棒鋼の外周面に円環状にして噴射する棒鋼・線材の水冷方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この冷却方法では、並列した複数の棒鋼に水冷などの急冷を同時に施せない、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−345235号公報(第1〜8頁、図1〜7)
【特許文献2】特開平5−115914号公報(第1〜8頁、図1〜8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術において説明した問題点を解決し、所定の温度域に加熱され、水平方向に沿って個々の軸方向が並列した複数の棒鋼を、水冷などにより均一に急冷でき、且つ曲がりを低減できる棒鋼の熱処理方法および急冷装置を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、複数の棒鋼を急冷すべき液槽内の流動するする冷却液中で繰り返し昇降する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明による棒鋼の熱処理方法(請求項1)は、断面が円形または角形の棒鋼を所定の温度帯に加熱する加熱工程と、この加熱された棒鋼を急冷する急冷工程と、を備え、かかる急冷工程は、水平方向に沿って個々の軸方向が並列した複数の棒鋼を、槽内の冷却液が流動しつつ循環している液槽内で複数回にわたり昇降させるものである、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、所定の温度帯に加熱された複数の前記棒鋼は、冷却液が流動しつつ循環している液槽内において、複数回にわたり昇降されるため、流動する冷却液と接触することで、高い熱交換効率を伴いつつ全体をほぼ均一にして冷却される。その結果、温度分布のバラツキによる径方向へ偏倚する曲がりを可及的に抑制できる。従って、熱処理後の矯正工程をなくすか、極く僅かに低減できるため、生産性の向上、および生産コストの低減に寄与することが可能となる。
【0008】
尚、前記棒鋼は、ステンレス鋼や各種の合金鋼などからなり、軸方向の長さが約5〜7m(メートル)で、且つ直径が約30〜60mmの円形断面、あるいは一辺が約30〜50mmの角形断面のものである。
また、前記棒鋼の断面における角形には、正方形で且つ各コーナーにアール(R)を付けた断面も含まれる。
更に、前記複数の棒鋼には、個々の軸方向が並列とされた複数の棒鋼を1組の棒鋼群とし、2組以上の棒鋼群を、ぞれらの軸方向が互いに平行となり且つ直列状に配置した形態も含まれる。
また、前記所定温度帯とは、鋼種に応じて選定されるが、850〜1100℃の範囲である。
更に、前記液槽には、例えば、水槽または油槽が含まれ、前記冷却液には、例えば、水または油が含まれる。
また、液槽内における前記冷却液の流動は、次述する横向きの円形状、長円形状、あるいは楕円形状の流れて循環する形態のほか、対向する一方の側壁から他方の側壁に向かって当該液槽内の冷却液がほぼ平行に流れるタイプも含まれる。
加えて、前記熱処理には、溶体化処理のほか、焼入れなども含まれる。
【0009】
また、本発明には、前記液槽内の冷却液は、当該液槽内において、前記複数の棒鋼の軸方向を回転中心とした円形状あるいは楕円形状に流動しつつ循環している、棒鋼の熱処理方法(請求項2)も含まれる。
これによれば、液槽内の前記冷却液は、先ず、複数の棒鋼の下側をそれらの径方向に沿って流動し、次いで、複数の棒鋼の一側方を上向きに流れた後、複数の棒鋼の上側をそれらの径方向に沿って流動・循環する、という横向きの円形状、長円形状、あるいは楕円形状にして流れる。その結果、上記複数の棒鋼は、ほぼ全表面で冷却液と接触することで、高い熱交換率により全表面を一層均一に冷却されるため、温度分布のバラツキによる径方向へ偏倚する曲がりを可及的に抑制することができる。
尚、液槽内において、複数の棒鋼の上側をそれらの径方向に沿って流動した冷却液の一部は、当該液槽における一辺の側壁の上端に形成された溢流部をオーバーフローして外部に送られるため、該オーバーフローする際の冷却液の温度を管理することで、棒鋼の温度管理を容易且つ確実に行うことが可能となる。
また、前記冷却液の循環する方向は、一定とせず、水平方向において時計回りと半時計回りとを交互に行う逆流可能としても良い。
【0010】
一方、本発明による棒鋼の急冷装置(請求項3)は、前記熱処理方法の急冷工程で使用する複数の棒鋼を急冷する装置であって、前記複数の棒鋼を支持し且つこれらとほぼ直交する回転軸を有する複数のローラを取り付けた架台と、かかる架台を液槽の上方とこれらの液槽内との間で昇降させる昇降手段と、上記液槽内における1つの側壁付近に配置したポンプまたはファンと、を含む、ことを特徴とする。
【0011】
これによれば、所定の温度帯に加熱した複数の前記棒鋼を、冷却液が流動・循環する液槽内において、複数回にわたり昇降させるため、流動する冷却液と接触することで、高い熱交換率により全表面をほぼ均一にして冷却できる。そのため、温度分布のバラツキによる径方向へ偏倚する棒鋼の曲がりを可及的に抑制できる。
尚、前記架台および液槽(水槽あるいは油槽など)は、熱処理炉の搬出口に隣接ないし近接して位置する、棒鋼の急冷装置としても良い。
また、前記昇降手段には、チェーンとこれを巻き付け・巻き返すスプロケット(鎖歯車)、ワイヤロープとこれを巻き付け・巻き返すドラム、エアーあるいは油などの流体圧シリンダ、ラックとこれに噛み合うピニオンなどが含まれる。
更に、前記ポンプは、液槽の側壁の外側に配置し、該側壁を吐出管が貫通する形態のほか、冷却液中の側壁付近に配置する水中ポンプのような形態でも良い。
【0012】
また、本発明には、前記昇降手段は、液槽の上方に上昇した前記架台と共に、当該液槽の上方とこれらの側方との間で横行する搬送車に取り付けられている、棒鋼の急冷装置(請求項4)も含まれる。
これによれば、急冷工程を経た複数の棒鋼を前記架台と共に、前記昇降手段によって液槽の上方に上昇させた後、上記搬送車により液槽の横(水平)方向に搬送すると共に、上記昇降手段によって所要のレベルに下降することができる。従って、急冷工程後の検査工程への搬送ラインのローラ上などに、複数の上記棒鋼を迅速且つ確実に送給できるため、熱処理を含む生産性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による棒鋼の急冷装置の概略を示す垂直断面図。
【図2】棒鋼が架台上に搬送された状態の上記急冷装置の概略を示す垂直断面図。
【図3】上記架台を水槽内に下降させた状態の上記急冷装置の概略を示す垂直断面図。
【図4】図3中のX−X線の矢視に沿った視覚で拡大した垂直断面図。
【図5】図4とは異なる状態の水槽内における棒鋼および水流を示す概略図。
【図6】図4,5は異なる状態の水槽内における棒鋼および水流を示す概略図。
【図7】上記水槽内における断面角形の棒鋼および水流を示す概略図。
【図8】急冷工程後の作用を示す前記急冷装置を示す概略図。
【図9】異なる形態の急冷装置の概略を示す垂直断面図。
【図10】更に異なる形態の急冷装置の概略を示す垂直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による一形態の棒鋼の急冷装置1の概略を示す垂直断面図である。
上記棒鋼の急冷装置1は、図1に示すように、熱処理炉Fで所定の温度帯に加熱された複数の棒鋼(M)を支持する水平な架台2と、熱処理炉Fの出口側の扉dに隣接し、且つ上記架台2が浸漬される水槽(液槽)10と、架台2を昇降するチェーンc3,c4およびスプロケット7からなる昇降手段とを備えている。
上記加熱炉Fは、全体がほぼトンネル形状で、水平方向に沿って個々の軸方向が並列した複数の棒鋼(M)を搬送する複数のローラrを炉底の付近に有し、その出口側には、昇降により開閉可能な扉dが取り付けられている。
尚、複数の棒鋼は、互いに隣接し且つ離散しないように、搬送方向と直交する方向の複数本のワイヤ(図示せず)によって縛られている。
【0015】
また、図1に示すように、上記架台2は、平面視がほぼ長方形を呈する枠体で、その上面に複数の棒鋼(M)を支持する互いに平行な複数のローラrを図1の前後方向(棒鋼の軸方向と直交する方向)に沿って有する。該架台2における一方の長辺に沿って、各ローラrの軸端に固定されたスプロケットsに掛け渡したチェーンc1が掛け渡され、その一端(図1で右端)のスプロケットsと、架台2から立設する支持台3の上に取り付けたモータm1の回転軸に固定したスプロケットsとの間には、駆動用のチェーンc2が掛け渡されている。即ち、モータm1を駆動すると、チェーンc2,c1を介して、各ローラrが同様に回転する。
尚、上記支持台3の上端部は、架台2を下降させた際に、水槽10内の水(冷却水)W中に沈み込まない高さに予め設定されている。
更に、水槽10は、平面視がほぼ長方形で、且つ架台2が浸漬可能なサイズの面積を有し、内側に水(冷却水)Wが約1.5〜1.8m(メートル)の深さ充填されており、図1の右側と手前側とには、二つの側壁11が直角に立設し、図1の奥側には、後述する溢流部13を上端に有する側壁12が立設している。
尚、上記架台2と水槽10は、図1の左右方向が長辺となるほぼ長方形である。
【0016】
前記水槽10の周囲には、複数の支柱18が図1の前後方向に沿って立設しており、かかる支柱18と、それらの上端に水平に架設した梁19とからなる鉄骨製の構造体17が構成されている。図1で左右の梁19ごとの上面に沿って敷設したレール20,20上には、搬送車5が走行可能に支持されている。
上記搬送車5の四隅には、モータm2により上記レール20上を転動する車輪(図示せず)を内設する4個の台車6が取り付けられている。該搬送車5も、平面視がほぼ長方形を呈し、その上面には、モータm3と、該モータm3によりギア列を介して回転し、図1中で前後に重複している複数(4個)のスプロケット7と、複数(4個)の中継用スプロケット8,9とが配設されている。
図1に示すように、前記架台2における一対の長辺には、それぞれ2本ずつ合計4本の支持柱4が立設し、それらの上端ごとに一端が固定されたチェーンc3,c4は、中継用のスプロケット8,9を介して、個別に巻き返し・巻き付けるための専用のスプロケット7に他端が固定されている。即ち、モータm3を駆動し、複数のスプロケット7を回転することで、これらの周面の歯列に個別に巻き付けられ、あるいは巻き返されて昇降するチェーンc3,c4を介して、前記架台2を昇降させることができる。
【0017】
ここで、前記急冷装置1を用いた本発明による棒鋼の熱処理方法を説明する。
予め、オーステナイト系ステンレス鋼からなる複数の棒鋼Mを、熱処理炉F内で約1080℃×1時間にわたり加熱・保持する(加熱工程)。該加熱された複数の棒鋼Mは、図2中の水平の矢印で示すように、後端側の扉dを上昇させて、該熱処理炉Fの搬出口を開口し、複数本のワイヤに縛られ且つ水平方向に沿って個々の軸方向が並列した上記複数の棒鋼Mを、上記炉F側のローラrから、所定の高さで待機している架台2側の回転する複数のローラr上に移動する。
尚、複数の棒鋼Mは、その軸方向が図2の左右方向に沿っており、且つ図2の前後方向に沿って並列している。また、上記扉dは、この直後に下降して熱処理炉Fの搬出口を閉鎖し、次の加熱工程に活用される。
次に、搬送車5上のモータm3を駆動し、複数のスプロケット7を回転して、これらに巻き付いていたチェーンc3,c4を巻き返すことにより、該チェーンc3,c4を介して、複数の棒鋼Mと共に架台2を下降させる。その結果、図3に示すように、複数の棒鋼Mは、架台2と共に水槽10の水W中に下降する。
【0018】
図4は、図3中のX−X線の矢視に沿った拡大垂直断面図である。
図4に示すように、水槽10における右側の側壁12の高さは、左側の前記側壁11よりも低く、該側壁12の上端には、斜め外側に傾斜した溢流部13が付設されている。この溢流部13の下方には、樋16が図4の前後方向に沿ってほぼ水平に配置されている。また、側壁12の下方の外側には、該側壁12を貫通する吐出管14と給水源(図示せず)に連通する給水管15との間に接続したポンプPが配置されている。尚、給水管15およびポンプPを経て、吐出管14から水槽10中に吐出される水Wの温度は、予め20℃以下(例えば、約16℃)に冷却されている。
図4中の灰色の矢印で示すように、吐出管14から水槽10中に吐出された水Wは、架台2上に支持された複数の棒鋼Mの下側をそれらの径方向に沿って流動する流動水fwとなり、側壁12と対向する側壁11の直前で上記複数の棒鋼Mの側方を上向きに流れ(fw)た後、当該複数の棒鋼Mの上側をそれらの径方向に沿って流動する流動水fwとなる。即ち、水Wは、複数の棒鋼Mを囲むように、水槽10内を横向きの長円形状あるいは楕円形状に循環して流動(fw)する。
【0019】
図4に示すように、複数の棒鋼Mの上側を流れた流動水fwの一部は、溢流部13からオーパフローする溢流水ofwとなって樋16内に流れ込んだ後、冷却手段を含む前記給水源に送水され、20℃以下に冷却された後、前記給水管15からポンプ15を経て、再び水槽10内に還流する。即ち、水槽10内の水Wは、複数の棒鋼Mを急冷しつつ、水槽10の内外にても循環しており、この間において、昇温と降温とを繰り返している。
次いで、前記モータm3を駆動し、チェーンc3,c4を介して、図5に示すように、水槽10の水W中で架台2と共に複数の棒鋼Mを更に下降させる。この際、架台2上の前記ローラrを回転させる前記モータm1と、これを載せた支持台3の上端部とは、水Wの水面よりも高いに保たれている。
【0020】
引き続いて、前記モータm3を逆方向に駆動し、チェーンc3,c4を介して、図6に示すように、水槽10の水W中で架台2と共に複数の棒鋼Mを水面の直下付近まで上昇させる。該上昇時と前記下降時との垂直方向のストローク(高さ)は、約600〜900mm(例えば、800mm)であり、一回の上昇および下降に要するサイクル時間は、約8〜12秒(例えば、約10秒)である。
更に、前記モータm3の正転および逆転を交互に複数回おこなって、図5に示す下降と図6に示す上昇とを複数回にわたり交互に行う。この間において、架台2ローラr上に位置する複数の棒鋼Mは、それらの下側および上側を径方向に沿って流れる水Wの流動水fwに対し、上下(垂直方向)に沿って移動しつつ接触することで、その全表面において、水Wとの間で高い熱交換を均一に受けている。
【0021】
その結果、複数の上記棒鋼Mは、前記加熱炉Fで加熱された約1080℃の高温状態から数10℃(例えば、10〜40℃)の常温域に急速且つ均一に冷却される(急冷工程)。
因みに、SUS316Lからなり、長さ6m×直径46mmである複数の棒鋼Mを前記急冷工程によって上下動しつつ急冷した場合、径方向へ偏倚する曲がり量は、複数の棒鋼Mを上下動しない場合の曲がり量よりも、10%以上(15〜20%)低減できた。これにより、従来行っていた矯正工程が省略可能となった。
尚、前記のように、棒鋼Mを急速且つ均一に冷却し、且つ曲がり量を低減するためには、ポンプPから水槽10内に給水する水Wの温度を20℃以下に保つと共に、水槽10からオーバーフローする溢流水ofwの温度を30℃以下に保つように、急冷工程における水Wの温度を管理することが肝要である。
【0022】
図7は、断面が角形である複数の棒鋼M′の急冷工程を示す概略図である。
上記棒鋼M′は、一辺が約40mmで且つ断面がほぼ正方形を呈し、各コーナーにアール(R)が付いている。そのため、前記熱処理炉Fおよび架台2のローラr上において、水平方向に沿って個々の軸方向が並列しているが、個々の棒鋼M′は、転動しにくいため、前記のようにワイヤで縛ることなく、互いの間に隙間を置いて並列している。かかる複数の棒鋼M′についても、前記加熱工程および急冷装置1を用いる前記急冷工程を断面が円形の前記棒鋼Mと同様にして行うことができる。
【0023】
前記急冷工程を終えた複数の棒鋼M(M′)は、図8中の矢印で示すように、前記モータm3を駆動し、チェーンc3,c4を介して、架台2と共に、水槽10からその上方に引き上げられ、更に、搬送車5の前記モータm2を駆動し、該搬送車5をレール20上に沿って走行させることで、架台2と共に水槽10の側方に横行する。そして、水槽10の側方に位置し、図8の前後方向に沿った搬送ライン30の真上に達すると、前記モータm3を駆動して、複数の棒鋼M(M′)を搬送ライン30のローラr,r上に移送する。移送された複数の棒鋼M(M′)は、搬送ライン30によって、次の検査工程などに送られる。
一方、空となった架台2は、再び前記加熱炉Fの搬出口側に戻され、次に急冷すべき複数の棒鋼M(M′)を支持するために、待機状態とされる。
【0024】
以上のような前記急冷装置1を用いる棒鋼M(M′)の熱処理方法によれば、加熱炉Fで所定の温度帯に加熱された複数の棒鋼M(M′)は、水平方向に沿って個々の軸方向が並列した姿勢で架台2上に移動し、該架台2と共に、水槽10の水W中で上昇および下降を複数回にわたり繰り返えす。この間において、複数の棒鋼M(M′)は、これらの径方向に沿って下側および上側を循環して流れる水Wの流動水fwに接触するため、高い熱交換率により冷却されるこによって、全表面が均一に急冷される。従って、径方向へ偏倚する曲がり量を確実に低減できるので、従来行われていた曲がりを矯正するための矯正工程をなくすか、極く僅かの矯正量に低減できるため、生産性を向上させることも可能となる。
尚、前記ポンプPに替えて、水槽10における前記側壁12付近の水W中に、水中ポンプを配置したり、あるいは、同様な位置に軸流ファンまたはシロッコファンを配置するようにしても良い。
【0025】
図9は、異なる形態の急冷装置1aの概略を示す垂直断面図である。
上記急冷装置1aは、図9に示すように、前記同様の架台2および搬送車5などを備えている。かかる急冷装置1aが前記急冷装置1と相違する部分は、架台2から立設する4本の支持柱4の上端に、ラック22を垂直に取り付け且つこれらが搬送車5を垂直に貫通すると共に、該搬送車5の上に取り付けた4個のピニオン(ギア)24と個別に噛み合わせようにしたことである。各ピニオン24は、減速ギア列を介してモータ(何れも図示せず)により回転する。これに伴って、各ラック22を昇降を繰り返すことにより、昇降される架台2上に位置する複数の棒鋼M(M′)を前記同様に均一に急冷することが可能である。
【0026】
図10は、更に異なる形態の急冷装置1bの概略を示す垂直断面図である。
上記急冷装置1bも、図10に示すように、前記同様の架台2および搬送車5などを備えており、前記急冷装置1と相違する部分は、架台2から立設する4本の支持柱4の上端と、搬送車5に垂直に貫通して取り付けた4個の油圧シリンダ26のピストンロッド28とを、個別に連結したことである。上記油圧シリンダ26は、搬送車5上に配置した油タンク(図示せず)との間で、高圧油の供給および排出を行って、ピストンロッド28の昇降を繰り返すことにより、架台2上に位置する複数の棒鋼M(M′)を前記同様に均一に急冷することが可能である。
尚、上記油圧シリンダ26に替えて、エアーシリンダや水圧シリンダを用いた形態としても良い。
【0027】
本発明は、以上において説明した各形態に限定されるものではない。
例えば、本発明の対象となる熱処理には、焼き入れや、その他の加熱後に急冷する各種の熱処理も含まれる。
また、急冷工程で用いる液槽を油槽とし、且つ冷却液を油としても良い。
更に、架台を液槽の上方と液槽内との間で昇降させる昇降手段は、架台側に一端を固定した複数のワイヤーロープと、これらの他端側を搬送車上で巻き取り・巻き返す複数のドラムとの組み合わせの形態、あるいは、複数組のパンタグラフ機構からなる形態としても良い。
加えて、液槽内で流動する冷却液を流す方向は、複数の棒鋼が比較的短い場合には、架台上に位置する複数の棒鋼の軸方向にほぼ沿った方向であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、加熱された直後に急冷される長尺な複数の棒鋼を、並列させた姿勢において均一に急冷して、所要の熱処理を施せると共に、曲がりの発生を低減できるため、熱間圧延後の棒鋼に施す熱処理を効率良く行うことに貢献できる。
【符号の説明】
【0029】
1,1a,1b…急冷装置
2…………………架台
5…………………搬送車
7…………………スプロケット(昇降手段)
10………………水槽(液槽)
12………………側壁
r…………………ローラ
M,M′……………棒鋼
W…………………水(冷却液)
c3,c4………チェーン(昇降手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が円形または角形の棒鋼を所定の温度帯に加熱する加熱工程と、
上記加熱された棒鋼を急冷する急冷工程と、を備え、
上記急冷工程は、水平方向に沿って個々の軸方向が並列した複数の棒鋼を、槽内の冷却液が流動しつつ循環している液槽内で複数回にわたり昇降させるものである、
ことを特徴とする棒鋼の熱処理方法。
【請求項2】
前記液槽内の冷却液は、当該液槽内において、前記複数の棒鋼の軸方向を回転中心とした円形状あるいは楕円形状に流動しつつ循環している、
ことを特徴とする請求項1に記載の棒鋼の熱処理方法。
【請求項3】
請求項1,2の熱処理用方法における前記急冷工程に使用する棒鋼の急冷装置であって、
前記複数の棒鋼を支持し且つこれらとほぼ直交する回転軸を有する複数のローラを取り付けた架台と、
上記架台を液槽の上方とこれらの液槽内との間で昇降させる昇降手段と、
上記液槽内における1つの側壁付近に配置したポンプまたはファンと、を含む、
ことを特徴とする棒鋼の急冷装置。
【請求項4】
前記昇降手段は、液槽の上方に上昇した前記架台と共に、当該液槽の上方とこれらの側方との間で横行する搬送車に取り付けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載の棒鋼の急冷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−127187(P2011−127187A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287508(P2009−287508)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】