説明

植物性繊維含有ボード部材

【課題】基材を折り曲げる際に基材にヒビ割れや破断が発生することを防止ないし抑制できる植物性繊維含有ボード部材を提供する。
【解決手段】ラッゲージマット4は、ケナフ繊維とポリプロピレンを含む基材12と、当該基材12の一部が薄肉化されて構成されるヒンジ6とを備えている。ヒンジ6は、スジ状の厚肉部6aと、その厚肉部6aよりも相対的に薄肉であって、当該厚肉部6aによって隔てられた2つのスジ状の薄肉部6bとを有しており、その2つの薄肉部6bに沿って折り曲げ可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性繊維と熱可塑性樹脂を含む基材と、当該基材の少なくとも一部が薄肉化されて構成されるヒンジと、を備える植物性繊維含有ボード部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を含む基材と、その基材の一部が薄肉化されて構成されるヒンジとを備えるボード部材が知られている。このようなボード部材は、ヒンジに沿って基材が折り曲げられ、例えば車両のトランク内に載置されるラッゲージマットとして利用される。このようなボード部材の従来例として、例えば特許文献1、2に記載のものが知られている。
【0003】
また、近年では、熱可塑性樹脂に加え植物性繊維を含む基材を備える植物性繊維含有ボード部材が知られている。植物性繊維とは、植物由来の繊維材料のことであり、植物性繊維としては、ケナフ繊維、ジュート繊維等が使用される。このような植物性繊維含有ボード部材は、天然繊維を使用することにより地球環境にとって有効なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−162192号公報
【特許文献2】特開2009−39967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の植物性繊維含有ボード部材において基材に薄肉化によるヒンジを設けた場合、植物性繊維は柔軟性に乏しいため、ヒンジに沿って基材を折り曲げる際にヒンジに加わる応力に基材が耐えることができず、基材にヒビ割れや破断が発生することがある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みて創作されたものである。本発明は、基材を折り曲げる際に基材にヒビ割れや破断が発生することを防止ないし抑制できる植物性繊維含有ボード部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示される技術は、植物性繊維と熱可塑性樹脂を含む基材と、当該基材の少なくとも一部が薄肉化されて構成されるヒンジと、を備える植物性繊維含有ボード部材であって、前記ヒンジは、スジ状の厚肉部と、その厚肉部よりも相対的に薄肉であって、当該厚肉部によって隔てられた複数のスジ状の薄肉部とを有し、その複数の薄肉部に沿って折り曲げ可能となっている植物性繊維含有ボード部材に関する。
【0008】
上記の植物性繊維含有ボード部材によると、基材を折り曲げる際に複数の薄肉部に沿って当該基材が折り曲げ可能であるため、ヒンジに加わる応力が複数の薄肉部に分散され得る。このため、基材を折り曲げる際に特定の箇所に応力が集中することを抑制することができ、基材を折り曲げる際に当該基材にヒビ割れや破断が発生することを防止ないし抑制することができる。
【0009】
上記の植物性繊維含有ボード部材では、前記植物性繊維がケナフ繊維であってもよい。
ケナフ繊維は、植物性繊維のなかでも特に柔軟性に乏しいため、当該ケナフ繊維からなる基材において、薄肉部を基点として折り曲げると、丈夫であっても当該基材にヒビ割れや破断が発生し易い。しかしながら、本発明では、厚肉部を挟んで形成された複数の薄肉部に沿って折り曲げ可能としているため、ケナフ繊維を用いた場合であっても、そのようなヒビ割れや破断が発生し難いものとなっている。また、ケナフ繊維は成長が早くしかも光合成により多くのCOを吸収する。このため、植物性繊維としてケナフ繊維を使用することにより、植物性繊維含有ボード部材を地球環境保全にとって有効なものとすることができる。さらに、ケナフの靭皮からは比較的長くて丈夫な繊維を採取することが可能であるため、植物性繊維含有ボード部材を丈夫なものとすることができる。
【0010】
上記の植物性繊維含有ボード部材は、前記基材に対し、その一方の面に表皮材が貼り合わされ、他方の面に裏基布が貼り合わされた状態で、ラッゲージマットとして利用されてもよい。
この構成によると、本発明の植物性繊維含有ボード部材をラッゲージマットとして好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本明細書で開示される技術によると、基材を折り曲げる際に基材にヒビ割れや破断が発生することを防止ないし抑制できる植物性繊維含有ボード部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】車両2の後方の概略図を示す。
【図2】実施形態1に係るラッゲージマット4の全体を表した概略図を示す。
【図3】折り曲げ前の状態における、ラッゲージマット4のヒンジ6の断面図を示す。
【図4】折り曲げ前の状態における、ラッゲージマット4のヒンジ6の斜視図を示す。
【図5】折り曲げ後の状態における、ラッゲージマット4のヒンジ6の断面図を示す。
【図6】折り曲げ前の状態における、実施形態2に係るラッゲージマット54のヒンジ56の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
図面を参照して実施形態を説明する。図1は、車両2の後方の概略図を示している。図1に示すように、車両2の後方にはトランク2aが設けられている。トランク2a内には、ラッゲージマット4が載置されている。ラッゲージマット4は、その上に荷物等を載置する際に床材としての役割を果たすと共に、トランク2a内の美観を整えるための役割を果たしている。なお、トランク2aは、その開口部2bの面積(開口面積)が収容内部のトランク床部2cの面積よりも小さく構成されている。
【0014】
図2は、ラッゲージマット4の全体を表した概略図を示している。図2に示すように、ラッゲージマット4には、主床部8aと、側方床部8bと、前方床部8cと、ヒンジ6とが設けられている。主床部8aは、側方床部8bと前方床部8cにそれぞれ隣接している。ヒンジ6は、ラッゲージマット4の一部が厚さ方向に圧縮されることにより薄肉化された部位であり、隣接する床部8a,8b(及び8a,8c)の間に設けられている。ラッゲージマット4は、トランク2aに対して出し入れする際に、トランク2aの開口部2bの面積が床部2cの面積よりも小さく構成されているため、そのヒンジ6に沿って表面側(図2の紙面手前側)に折り曲げた状態で出し入れされる。具体的には、主床部8aに対し、側方床部8bが主床部8a側に(例えば車幅方向に略垂直となるように)折り曲げられ、前方床部8cが同じく主床部8a側に(例えば車両前後方向に略垂直となるように)折り曲げられる。そして、トランク2a内にラッゲージマット4が収容されると、折り曲げられた部位が元に戻され、ラッゲージマット4が広げられた状態でトランク床部2cの表面に載置される。
【0015】
図3は、ヒンジ6近傍の断面図であり、図2のA−A断面の断面構成を示している。また、図4は、ヒンジ6近傍の斜視図を示している。
【0016】
ラッゲージマット4は、図3に示すように、基材12と、表皮材14と、裏基布10とにより構成されている。表皮材14は、基材12の表面に貼り付けられている。裏基布10は、基材12の裏面に貼り付けられている。表皮材14及び裏基布10は、例えば不織布によって形成されている。基材12は、熱可塑性樹脂と、植物性繊維とが混合されて形成されている。具体的には、ポリプロピレン(PP)と、ケナフ繊維とが約1:1の割合で含まれている。ポリプロピレン以外の熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)を用いることができる。ケナフ繊維以外の植物性繊維としては例えば、綿、麻、サイザル、ジュートなどから採取した植物性繊維を用いることができる。
【0017】
ラッゲージマット4のヒンジ6には、図3及び図4に示すように、相対的に厚肉で構成されるスジ状の厚肉部6aと、相対的に薄肉で構成されるスジ状の2つの薄肉部6bとが設けられている。厚肉部6aはヒンジ6の幅方向略中央に設けられており、ヒンジ6の幅方向(厚肉部6aと薄肉部6bとが並ぶ方向)に緩やかな斜面を有する土手状となっている。薄肉部6bは厚肉部6aによって隔てられており、その表面は略平面状となっている。
【0018】
厚肉部6aにおける基材12と裏基布10との厚みH2は、薄肉部6bにおける基材12と裏基布10との厚みH3より大きく、床部8a(8b)における基材12と裏基布10との厚みH1より小さくなっている。具体的には、厚肉部6aにおける基材12と裏基布10との厚みH2は、1mm〜1.2mmである。薄肉部6bにおける基材12と裏基布10との厚みH3は、0.3mm〜0.8mmである。床部8a(8b)における基材12と裏基布10との厚みH1は、2.5mm〜3.0mmである。
【0019】
続いてラッゲージマット4を製造する方法について簡単に説明する。まず、ポリプロピレンとケナフ繊維を混合した材料からなる板状体を加熱する。次いで、加熱した板状体をさらに加熱し、成形する。これにより、基材12が形成される。さらに、基材12の表面及び裏面に、表皮材14と裏基布10とをそれぞれ貼り合わせる。そして、ヒンジ6となる部分において、基材12に対し、その表面側(表皮材14が貼り付けられた側)からスジ状に複数個所を圧縮して複数の薄肉部6bを形成する。これにより、少なくとも2つの薄肉部6bを挟んで厚肉部6aを有した形状のヒンジ6を備えるラッゲージマット4を得ることができる。なお、ヒンジ6を形成する際、基材12が圧縮されることによりポリプロピレンがケナフ繊維の間に入り込み、その圧縮された部分において基材12全体に対するポリプロピレンの充填率が高くなるものと考えられる。ポリプロピレンは柔軟性に優れることから、その圧縮された部分(ポリプロピレンの充填率が高い部分)における基材2の柔軟性が向上し、該ポリプロピレンが基材12のヒビ割れや破断の発生防止に寄与するものと考えられる。
【0020】
図5は、ラッゲージマット4をヒンジ6に沿って表面側に約90度折り曲げた際のヒンジ6近傍の断面図を示している。ラッゲージマット4をヒンジ6に沿って表面側に折り曲げると、図5に示すように、2つの薄肉部6bにおける厚肉部6aと隣り合う部分、あるいは側方床部8b及び主床部8aと隣り合う部分をそれぞれ基点としてラッゲージマット4が折り曲げられる。このとき、基材12を折り曲げることによりヒンジ6に加わる応力は、2つの薄肉部6bに分散される。応力が2箇所に分散されるため、応力が一箇所に集中する場合(すなわち単一の薄肉部6bにてヒンジ6を構成する場合)に比して一つの箇所に加わる応力を小さくすることができる。このため、柔軟性に乏しい植物性繊維を含む基材12であっても、ヒンジ6に沿って基材12を折り曲げる際に、基材12をヒンジ6に加わる応力に耐え得るようにすることができる。
【0021】
以上のように本実施形態に係るラッゲージマット4では、ラッゲージマット4を折り曲げる際に2つの薄肉部6bに沿ってラッゲージマット4が折り曲げ可能であるため、ヒンジ6に加わる応力が2つの薄肉部に分散され得る。このため、ラッゲージマット4を折り曲げる際に特定の箇所に応力が集中することを抑制することができ、ラッゲージマット4を折り曲げる際に基材12にヒビ割れや破断が発生することを防止ないし抑制することができる。
【0022】
また、本実施形態では、基材12にケナフ繊維が含まれている。ケナフ繊維は、植物性繊維のなかでも特に柔軟性に乏しいが、本実施形態では、ケナフ繊維を用いた場合であっても、基材12のヒビ割れや破断が発生し難いものとなっている。また、植物性繊維としてケナフ繊維を使用することにより、ラッゲージマット4を地球環境保全にとって有効なものとすることができる。さらに、ケナフの靭皮からは比較的長くて丈夫な繊維を採取することが可能であるため、ラッゲージマット4を丈夫なものとすることができる。
【0023】
また、本実施形態では、基材12が、その表裏面に表皮材14と裏基布10がそれぞれ貼り合わされた状態でラッゲージマット4として利用されるため、ケナフ繊維とポリプロピレンを含む基材12を好適に利用することができる。
【0024】
また、本実施形態では、ヒンジ6となる部分を基材12の表面側(表皮材14が貼り付けられた側)から圧縮してヒンジ6を形成し、そのヒンジ6に沿って表面側にラッゲージマット4を折り曲げる。このため、表皮材14の白化を抑制することができ、ラッゲージマット4の意匠性を向上させることができる。
【0025】
<実施形態2>
図面を参照して実施形態2を説明する。図6は、実施形態1における図3に対応する図であり、実施形態2は、厚肉部56a及び薄肉部56bの設けられている数が、実施形態1のものと異なっている。その他の構成については実施形態1と同じであるため、構造、作用、および効果の説明は省略する。なお、図6において、図3の参照符号に数字50を加えた部位は、実施形態1で説明した部位と同一である。
【0026】
実施形態2に係るラッゲージマット54では、図6に示すように、ヒンジ56に、2つの厚肉部56aと、3つの薄肉部56bとが設けられている。薄肉部56bは、厚肉部56aによってそれぞれ隔てられている。厚肉部56a及び薄肉部56bの形状は、実施形態1のものと同じである。
【0027】
ラッゲージマット54をヒンジ56に沿って表面側に折り曲げると、3つの薄肉部56bの厚肉部56a(あるいは主床部58a,側方床部58b)と隣り合う部分を基点としてラッゲージマット54がそれぞれ折り曲がる。このとき、基材62を折り曲げることによりヒンジ56に加わる応力は、3つの薄肉部56bに分散される。応力が3箇所に分散されるため、応力が一箇所に集中する場合に比して一つの箇所に加わる応力を一層小さくすることができる。このため、植物性繊維を含む基材62であっても、ヒンジ56に沿って基材62を折り曲げる際に、基材62をヒンジ56に加わる応力に一層耐え得るようにすることができる。
【0028】
実施形態の構成と本発明の構成との対応関係を記載しておく。ポリプロピレンが「熱可塑性樹脂」の一例である。ケナフ繊維が「植物性繊維」の一例である。ラッゲージマット4、54が「植物性繊維含有ボード部材」の一例である。
【0029】
上記の実施形態の変形例を以下に列挙する。
(1)上記の各実施形態では、植物性繊維としてケナフ繊維を含む基材を採用しているが、例えば、綿、麻、サイザル、ジュートなどから採取した植物性繊維を含む基材を採用してもよい。
【0030】
(2)上記の各実施形態では、ラッゲージマットを構成する部材として基材を利用した構成を示したが、基材の用途は限定されない。例えば、車両のスペアタイヤ用ボードを構成する部材として基材を利用した構成を採用していもよい。
【0031】
(3)上記の各実施形態以外にも厚肉部及び薄肉部の数、形状等については適宜に変更可能である。
【0032】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0033】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0034】
2:車体、2a:トランク、2b:開口部、2c:トランク床部、4、54:ラッゲージマット、6、56:ヒンジ、6a、56a:厚肉部、6b、56b:薄肉部、8a、58a:主床部、8b、58b:側方床部、8c:前方床部、10、60:裏基布、12、62:基材、14、64:表皮材、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性繊維と熱可塑性樹脂を含む基材と、当該基材の少なくとも一部が薄肉化されて構成されるヒンジと、を備える植物性繊維含有ボード部材であって、
前記ヒンジは、スジ状の厚肉部と、その厚肉部よりも相対的に薄肉であって、当該厚肉部によって隔てられた複数のスジ状の薄肉部とを有し、その複数の薄肉部に沿って折り曲げ可能となっていることを特徴とする植物性繊維含有ボード部材。
【請求項2】
前記植物性繊維がケナフ繊維であることを特徴とする請求項1に記載の植物性繊維含有ボード部材。
【請求項3】
前記基材に対し、その一方の面に表皮材が貼り合わされ、他方の面に裏基布が貼り合わされた状態で、ラッゲージマットとして利用されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の植物性繊維含有ボード部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207135(P2011−207135A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78600(P2010−78600)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】