説明

検査用の平行平板、光記録媒体用の対物レンズの検査方法

【課題】光記録媒体用の対物レンズの検査において、簡易な構成で正しく検査する。
【解決手段】光源から出射された光を光記録媒体の透光性の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光させるように設計された光記録媒体用の対物レンズを検査するにあたり、該対物レンズにより集光された光の光路に光記録媒体の保護層の代わりとなる検査用の平行平板を挿入して検査する光記録媒体用の対物レンズの検査方法であって、平行平板として、保護層と異なる屈折率を有し、平行平板と保護層の屈折率が異なることに起因して発生する球面収差を補正するように厚みが設定された平行平板を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査用の平行平板および光記録媒体用の対物レンズの検査方法に関し、より詳しくは、光源から出射された光を光記録媒体に収束させて情報の記録および再生の少なくとも一方を行う光ピックアップ装置に使用される光記録媒体用の対物レンズを検査するときに光記録媒体の保護層の代わりに用いられる検査用の平行平板と、該平行平板を用いて検査する光記録媒体用の対物レンズの検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、音声情報や映像情報、あるいはコンピュータ用のデータ情報等を記録するためにDVD(ディジタル・バーサタイル・ディスク)やCD(コンパクトディスク)等の光記録媒体が利用されている。この光記録媒体へのデータの記録・再生は、光ピックアップ装置に搭載された対物レンズにより光源からの光を光記録媒体へ集光することにより行われる。
【0003】
近年では、取り扱う情報量の急激な増加に伴い、光記録媒体の高密度化の要望が高まっている。光記録媒体の高密度化には、使用光の波長を短くすること、および光ピックアップ装置に用いられるピックアップ用の対物レンズの開口数(以下、NAともいう)を大きくすることが有効であることは知られている。最近では、出力波長が約405nmの半導体レーザを光源とし、高NAの対物レンズを用いることにより、片面1層に約25GBもの情報が記録可能なBD(ブルーレイディスク)が実用化されるに到っている。このBDは、NAの規格が上述したDVDおよびCDのものとは全く異なり、NAは0.85が現在の規格とされている。
【0004】
一方、光記録媒体において情報が記録される記録層は、所定の厚みを有する透光性の保護層により被覆されている。例えば、BDの保護層の厚みは0.1mmが現在の規格とされている。光記録媒体の保護層の厚みが変わると、収差量が変化するため、光記録媒体用の対物レンズの設計、検査において、この光記録媒体の保護層の存在を無視することはできない。
【0005】
特許文献1には、光記録媒体の保護層(光透過層)と同じ厚み、屈折率を有するカバーガラスを用いて、光ピックアップ装置の球面収差を測定する球面収差測定装置が記載されている。この球面収差測定装置では、光源からの光を球面収差補償素子を介した後に対物レンズに入射させ、対物レンズにより集光された光をカバーガラスに対して収束させる。特許文献1には、カバーガラスの厚み誤差によって発生する球面収差を補正するように、球面収差補償素子を構成する2つのレンズ要素の間隔を変えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−251783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、対物レンズの検査においては、光記録媒体の保護層を考慮する必要があるため、対物レンズにより集光された光の光路に、光記録媒体の保護層の代用となる検査用の平行平板を挿入して検査することになる。上記特許文献1では、この検査用の平行平板としてカバーガラスを用いている。しかしながら、検査用の平行平板として、特許文献1に記載されたような、光記録媒体の保護層と同じ厚み、屈折率のものを用いることは必ずしも現実的ではない。というのは、現在、光記録媒体の保護層として多用されている材質は、吸水性や複屈折等の点から検査用として好適なものとは言えないからである。検査の信頼性を確保するためには、検査用の平行平板の材質として、光記録媒体の保護層と異なる材質を選択することになるが、その場合、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層の屈折率が異なるものとなり、両者の屈折率差に起因した球面収差等の収差が生じてしまうという問題が発生する。
【0008】
上記のように屈折率が異なる部材で代用する場合、光学的光路長が一致するように厚みを調整する方法が一般に知られている。光学的光路長とは、屈折率と幾何学的距離の積である。しかしながら、この方法で厚みを調整した検査用の平行平板を用いると、NAの大きな対物レンズに対しては、対物レンズの光軸と一致する方向の光学的光路長は一致していても、対物レンズの周辺部を透過したNAの大きな光線の平行平板内の光学的光路長は一致しないため、無視できない量の球面収差が発生してしまう。よって、BD用対物レンズのような高NAのレンズに対して、単純に光軸方向の光学的光路長を同一にする方法を用いた場合には、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層との屈折率差に起因した球面収差の影響が大きくなり、正しく検査できないという問題が起こる。
【0009】
検査用の平行平板と光記録媒体の保護層との屈折率差に起因して生じる球面収差を補正するために、特許文献1に記載されたような球面収差補償素子を用いることが考えられるが、その場合は、球面収差補償素子だけでなく、球面収差補償素子を構成するレンズ要素の間隔を変更するための駆動機構や制御機構等が必要になるため、装置構成が複雑化してしまい、装置の大型化やコストアップを招いてしまうという問題が生じる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で適正な検査を可能にする検査用の平行平板および光記録媒体用の対物レンズの検査方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の検査用の平行平板は、光源から出射された光を光記録媒体の透光性の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光させるように設計された対物レンズを検査するために、該対物レンズにより集光された光の光路に光記録媒体の保護層の代わりに挿入される検査用の平行平板であって、保護層と異なる屈折率を有し、保護層と屈折率が異なることに起因して発生する球面収差を補正するように厚みが設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の光記録媒体用の対物レンズの検査方法は、光源から出射された光を光記録媒体の透光性の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光させるように設計された光記録媒体用の対物レンズを検査するにあたり、該対物レンズにより集光された光の光路に光記録媒体の保護層の代わりとなる検査用の平行平板を挿入して検査する光記録媒体用の対物レンズの検査方法であって、平行平板として、保護層と異なる屈折率を有し、平行平板と保護層の屈折率が異なることに起因して発生する球面収差を補正するように厚みが設定された平行平板を使用することを特徴とするものである。
【0013】
上記の本発明の検査用の平行平板および光記録媒体用の対物レンズの検査方法において、保護層の厚み、屈折率をそれぞれDc、Ncとし、平行平板の厚み、屈折率をそれぞれDm、Nmとしたとき、下記条件式(1)を満たすことが好ましい。
−0.05≦0.3141×(Nm/Nc)+0.68701−(Dm/Dc)≦0.05 … (1)
【0014】
上記の本発明の検査用の平行平板および光記録媒体用の対物レンズの検査方法において、対物レンズと平行平板とからなる光学系の球面収差が最小となるように平行平板の厚みが設定されていることが好ましい。
【0015】
上記の本発明の検査用の平行平板および光記録媒体用の対物レンズの検査方法は、光記録媒体側の開口数が0.8以上の対物レンズに適用することが好ましい。
【0016】
上記の本発明の検査用の平行平板および光記録媒体用の対物レンズの検査方法において、平行平板はガラス材質で構成してもよく、あるいはプラスチック材質で構成してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の検査用の平行平板によれば、光記録媒体の保護層と屈折率が異なる平行平板を光記録媒体の保護層の代わりに用いて対物レンズを検査する場合でも、両者の屈折率差に起因して発生する球面収差を補正するように平行平板の厚みが設定されているため、この屈折率差に起因して発生する球面収差の影響を小さくして、適正に検査することができる。また、検査用の平行平板の厚みを設定するだけで、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層との屈折率差に起因して発生する球面収差を補償する手段を別途設ける必要がないため、装置構成を簡易なものにすることができる。
【0018】
本発明の光記録媒体用の対物レンズの検査方法によれば、光記録媒体の保護層と屈折率が異なる平行平板を光記録媒体の保護層の代わりに用いて対物レンズを検査する場合でも、この平行平板として、両者の屈折率差に起因して発生する球面収差を補正するように厚みが設定されたものを用いるため、屈折率差に起因して発生する球面収差の影響を小さくして、適正に検査することができる。また、検査用の平行平板の厚みを設定するだけで、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層との屈折率差に起因して発生する球面収差を補償する手段を別途設ける必要がないため、装置構成を簡易なものにすることができる。
【0019】
本発明の検査用の平行平板または本発明の光記録媒体用の対物レンズの検査方法において、光記録媒体の保護層の厚み、屈折率をそれぞれDc、Ncとし、平行平板の厚み、屈折率をそれぞれDm、Nmとしたとき、上記条件式(1)を満たすように構成されている場合は、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層との屈折率差による球面収差の影響をより小さくでき、より適正に検査することができる。
【0020】
本発明の検査用の平行平板または本発明の光記録媒体用の対物レンズの検査方法において、対物レンズと平行平板とからなる光学系の球面収差が最小となるように平行平板の厚みが設定されている場合は、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層との屈折率差による球面収差の影響を最小限にできるため、より適正に検査することができる。
【0021】
本発明の検査用の平行平板または本発明の光記録媒体用の対物レンズの検査方法を、光記録媒体側の開口数が0.8以上の対物レンズに適用した場合には、上述した対物レンズの光軸と一致する方向の光学的光路長を一致させる方法に比べて、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層との屈折率差に起因して発生する球面収差の影響を小さくできるという本発明の効果がより顕著なものとなり、より適正に検査することができる。
【0022】
本発明の検査用の平行平板または本発明の光記録媒体用の対物レンズの検査方法において、平行平板をガラス材質で構成した場合は、温度変化や湿度変化等の環境による影響を受けにくいため、検査の信頼性を向上させることができ、より適正に検査することができる。
【0023】
本発明の検査用の平行平板または本発明の光記録媒体用の対物レンズの検査方法において、平行平板をプラスチック材質で構成した場合は、ガラス材質と比較して割れにくく、取り扱いが容易であり、ガラス材質を用いたときと同様に簡易な構成で、対物レンズの光軸と一致する方向の光学的光路長を一致させる方法に比べて、より適性に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態にかかる検査装置の概略構成図
【図2】本発明の実施例の数値範囲を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、光記録媒体に光を収束させて情報の記録および再生の少なくとも一方を行う光ピックアップ装置に使用される光記録媒体用の対物レンズを検査する検査方法と、該検査方法で用いられる平行平板に関するものである。図1は、本発明の一実施形態にかかる光記録媒体用の対物レンズを検査するための検査装置の概略構成図である。
【0026】
図1に示す検査装置100は、フィゾー型の干渉計を用いて被検体であるレンズ1を検査するものである。なお、図1では各部材を保持する保持具の図示は省略している。図1に示すように、検査装置100においては、レンズ1と、検査用の平行平板2と、反射ミラー3とが順に配置されており、また、レンズ1の検査用の平行平板2と反対側の光路にはレンズ1に近い方から順に、参照面を有する基準板4と、ビームスプリッタ5と、コリメータレンズ6と、検査用光源7とが配置されている。ビームスプリッタ5により形成される折れ曲がり光路には撮像素子9が配置されており、撮像素子9は演算部10に接続され、演算部10は表示部11に接続されている。
【0027】
例えば、光記録媒体としてブルーレイディスクを用いる場合は、検査用光源7は、波長405nmの光を出射する半導体レーザを用いることができる。検査用光源7を出射した光は、コリメータレンズ6により平行光に変換される。この平行光のうち、ビームスプリッタ5を透過し、基準板4を透過した光は、レンズ1に入射して集光される。
【0028】
レンズ1は、光ピックアップ装置に搭載される光記録媒体用の対物レンズである。レンズ1は、光ピックアップ装置において、光源から出射された光を光記録媒体の情報が記録される記録層に集光するように作用するものである。光記録媒体の記録層は所定の厚みを有する透光性の保護層により被覆されているため、レンズ1は、光源から出射された光を保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光させるように設計されている。したがって、検査の際も光記録媒体の保護層を考慮する必要があり、対物レンズにより集光された光の光路に光記録媒体の保護層の代わりとなる検査用の平行平板2を挿入して検査を行う。なお、検査用の平行平板2の詳細構成については後述する。
【0029】
反射ミラー3は、凹面ミラーであり、レンズ1および検査用の平行平板2を透過した光を反射して同じ光路を逆向きに進行させるためのものである。よって、基準板4を透過してレンズ1で集光されて検査用の平行平板2を透過した光は、最もビーム径が小さくなる集光点を形成した後、発散光となって反射ミラー3に入射するが、反射ミラー3により反射されて逆向きに進行し、同じ集光点を通った後、検査用の平行平板2を透過し、レンズ1を出射して平行光となる。レンズ1を出射した平行光は基準板4を透過し、ビームスプリッタ5に入射し、ビームスプリッタ5で反射された光は撮像素子9に入射する。
【0030】
一方、検査用光源7から出射し、コリメータレンズ6とビームスプリッタ5を経由して基準板4に入射した光の一部は、基準板4の参照面で反射されて、レンズ1を経由することなくビームスプリッタ5に再入射し、ビームスプリッタ5で反射された光は撮像素子9に入射する。
【0031】
レンズ1を経由した光と、基準板4の参照面で反射された光とは干渉して干渉縞を形成し、形成された干渉縞は撮像素子9により観測することができる。撮像素子9は例えばCCD(Charge Coupled Device)等からなり、干渉縞を電気信号に変換して演算部10に出力する。演算部10では、干渉縞の解析を行い、解析結果を表示部11に出力する。演算部10では、レンズ1と検査用の平行平板2からなる光学系の収差、例えば軸上波面収差のRMS等を算出する。表示部11は例えばモニタ等からなり、干渉縞の画像や、演算部10で算出された収差の値等を表示する。
【0032】
なお、図1に示す検査装置100では、集光点とレンズ1の間に検査用の平行平板2を配置するようにしているが、この代わりに、レンズ1により集光された光が集光点を通った後の光路、例えば、集光点と反射ミラー3の間に検査用の平行平板2を配置するようにしてもよい。
【0033】
また、上記実施形態では、フィゾー型の干渉計を用いた検査装置を例にとり説明したが、本発明の検査においては、別のタイプの干渉計を用いてもよく、あるいは、干渉計以外の手段を用いて検査してもよい。
【0034】
次に、検査用の平行平板2について詳細に説明する。本実施形態で用いる検査用の平行平板2は、光記録媒体の保護層とは異なる材質からなり、異なる屈折率を有するものである。検査用の平行平板と光記録媒体の保護層とで屈折率が異なる場合、単純に光記録媒体の保護層と同じ厚みの検査用の平行平板を光記録媒体の保護層の代わりに用いたのでは、両者の屈折率差に起因した収差が発生してしまう。そこで、本発明では、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層の屈折率差に起因して発生する球面収差を補正するように厚みが設定された平行平板を用いて検査する。
【0035】
以下に、検査用の平行平板の厚みを設定する際の手順の一例を説明する。まず、光ピックアップ装置の光源から出射された光を光記録媒体の保護層を介して光記録媒体の所定の位置に集光するように設計された、光記録媒体用の対物レンズと光記録媒体の保護層とからなる光学系(以下、第1の光学系という)のレンズデータを準備する。なお、以下の説明では、この対物レンズを単にレンズともいう。また、光記録媒体の保護層のことを単に保護層ともいう。
【0036】
ここで、「レンズデータを準備する」とは、レンズ設計を行ってレンズデータを取得すること、あるいはすでに設計済みのレンズのレンズデータを入手することのいずれでもよい。「レンズデータ」とは、レンズの形状、屈折率等に関するデータであり、例えば汎用レンズ設計ソフトを用いてレンズ設計をしたときに得られるレンズ面の曲率半径、中心肉厚、屈折率、非球面係数等のデータである。一般に、上記第1の光学系は、対物レンズと光記録媒体の保護層とを組み合わせた光学系を光学シミュレーションソフトを用いて構成し、所望の性能が得られるように対物レンズを最適化設計したものである。
【0037】
次のステップとして、上記第1の光学系のレンズデータの中の保護層の屈折率に対応する値を、検査用の平行平板の屈折率の値で置換した光学系(以下、第2の光学系という)を光学シミュレーションソフトを用いて構成する。このときは、屈折率の値を置換するだけで、厚みは変化させない。この第2の光学系における、検査用の平行平板と同じ屈折率を有し、保護層と同じ厚みを有する平行平板を、以下では便宜的に、計算用平行平板と呼ぶ。すなわち、第2の光学系は、対物レンズと計算用平行平板とからなる光学系である。この第2の光学系では、光記録媒体の保護層と計算用平行平板との屈折率差に起因した収差が発生している。なお、計算用平行平板は、球面収差の補正のためにその厚みを変化しうるものであり、第2の光学系においては保護層と同じ厚みを有するが、後述する第3、第4の光学系においては、第2の光学系のものとは異なる厚みをとりうるものとして扱われる。
【0038】
そのため次のステップとして、第2の光学系のレンズデータの中の計算用平行平板の厚みのみを変数とした光学系(以下、第3の光学系という)を光学シミュレーションソフトを用いて構成する。そして、計算用平行平板の厚みのみを変数として、第3の光学系の球面収差を補正する。この補正では、レンズに関するパラメータや、計算用平行平板の屈折率は変化させない。このような補正計算は公知の光学シミュレーションソフトを用いることにより可能である。
【0039】
なお、球面収差を補正する方法は、特に限定されず、実質的に球面収差を補正できるものであれば、任意の方法を用いることができる。例えば、光学シミュレーションソフト上で、補正の対象として球面収差を指定していなくても、軸上波面収差を小さくするように指定して補正していれば、実質的に球面収差を補正できるため、このような補正は球面収差を補正するものと考えられる。あるいは、球面収差と異なる収差や物理量を補正の対象として指定して補正を行い、その結果、球面収差も補正されていたのであれば、球面収差を補正したものと見なすことができる。
【0040】
計算用平行平板は、その厚みを変化させることにより球面収差を補正するものであるから、球面収差の補正が終了した時点で計算用平行平板の厚みは所定の値をとる。つまり、上記補正の結果、計算用平行平板の厚みが決まり、厚みが確定した計算用平行平板と対物レンズとからなる光学系(以下、第4の光学系という)が光学シミュレーションソフト上で得られる。このときの計算用平行平板の厚みが、球面収差を補正するように設定された厚みである。第4の光学系の球面収差は、第2の光学系の球面収差よりも小さいものとなる。球面収差が小さいか否かは、例えば、軸上波面収差のRMS(Root Mean Square)の値を比較することにより判断してもよい。
【0041】
最後に、第4の光学系の計算用平行平板と同じ厚みの検査用の平行平板を準備し、この検査用の平行平板を用いて、図1に示す検査装置100において、第1の光学系のレンズデータに基づき作製された対物レンズを検査する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態では、光記録媒体の保護層と検査用の平行平板の屈折率差に起因して発生する球面収差を補正するように厚みが調整された検査用の平行平板を用いて検査するため、記録媒体の保護層と検査用の平行平板の屈折率差に起因して発生する球面収差の影響を小さくすることができ、適正に検査を行うことができる。
【0043】
なお、第4の光学系の球面収差が第2の光学系の球面収差よりも小さくなっていれば、球面収差を補正したと見なすことができるが、より好ましい態様としては、第4の光学系の球面収差が最小になるように補正して計算用平行平板の厚みを設定することである。この場合は、記録媒体の保護層と検査用の平行平板の屈折率差に起因して発生する球面収差の影響を最小限にすることができ、より適正に検査を行うことができる。特に、対物レンズの光記録媒体側のNAが0.8以上の高NAの対物レンズを検査する際には、第4の光学系の球面収差が最小になるように補正して計算用平行平板の厚みを設定することが好ましい。
【0044】
なお、屈折率は温度により変化するため、上記第1の光学系を設計するときや、上記第2の光学系を構成するときは、所定の温度を設定し、この所定の温度での屈折率を用いることが好ましく、また、対物レンズを検査するときも、その所定の温度と同じ温度で検査することが好ましい。設定されるべき所定の温度は、例えば、光ピックアップ装置において対物レンズが使用されるときの一般的な対物レンズの周囲の温度に基づいて決めるようにしてもよい。
【0045】
また、好ましい態様としては、光記録媒体の保護層の厚み、屈折率をそれぞれDc、Ncとし、検査用の平行平板の厚み、屈折率をそれぞれDm、Nmとしたとき、下記条件式(1)を満たすように構成することであり、より好ましい態様としては、下記条件式(2)を満たすように構成することである。特に、対物レンズの光記録媒体側のNAが0.8以上の高NAの対物レンズを検査する際には、下記条件式(1)または(2)を満たすように構成することが好ましい。
−0.05≦0.3141×(Nm/Nc)+0.68701−(Dm/Dc)≦0.05 … (1)
−0.01≦0.3141×(Nm/Nc)+0.68701−(Dm/Dc)≦0.01 … (2)
【0046】
上記条件式(1)を満たすことにより、光記録媒体の保護層と検査用の平行平板との屈折率差に起因して生じる球面収差の影響を軽減して適正に検査することができる。また、上記条件式(2)を満たすことにより、光記録媒体の保護層と検査用の平行平板との屈折率差に起因して生じる球面収差の影響をより軽減して適正に検査することができる。
【0047】
検査用の平行平板2の材質としては、ガラス、プラスチックのいずれを用いることもできる。ガラスは、材質選択の自由度が高く、吸水性や複屈折等の特性を考慮すると信頼性が高いという長所がある。プラスチックは、一般にガラスより安価であり、ガラスより割れにくく、扱いやすいという長所がある。
【0048】
検査用の平行平板2をプラスチック製とする場合は、検査の信頼性を確保するために、複屈折が小さい材質、吸水率が低い材質を用いることが好ましい。より詳しくは、検査用の平行平板2の複屈折は、厚み1mmにおいて40nm以下であることが好ましく、さらに厚み1mmにおいて25nm以下であることがより好ましい。また、検査用の平行平板2の吸水率は0.1%以下であることが好ましく、さらに0.01%未満であることがより好ましい。検査用の平行平板2のプラスチック材質としては、例えば、シクロオレフィンポリマーや、シクロオレフィンコポリマーを用いることができ、シクロオレフィンポリマーの具体例としてはゼオネックス(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、シクロオレフィンコポリマーの具体例としてはアペル(登録商標、三井化学株式会社社製)を挙げることができる。
【0049】
次に、本発明の具体的な数値実施例のデータについて説明する。以下に示す実施例1〜10は、上述した第1〜第4の光学系を構成する手順を用いて、球面収差が最小になるように補正して検査用の平行平板の厚みを設定するようにしたものである。実施例1〜4と、実施例5〜9と、実施例10ではそれぞれ異なる第1の光学系を用いている。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に、実施例1〜4で用いた第1の光学系のレンズデータ等を示す。この光学系の設計波長は405nm、対物レンズの光記録媒体側のNAは0.85である。表1の面番号は光源側の面を1として、光源側から光記録媒体側に向かうに従い順次増加するように付しており、第1面および第2面が対物レンズに相当し、第3面および第4面が保護層に相当する。面間隔の単位はmmである。表1の光学系は、光記録媒体として記録層が2層ある2層式のブルーレイディスクを想定したものであるため、表1のレンズデータの保護層の厚みは、2層式のブルーレイディスクに対して好適な性能を発揮するために設定した厚みを用いている。
【0052】
表1に示す対物レンズの両面はともに非球面であり、表1の第1面および第2面の曲率半径の欄には非球面と記載している。表1の非球面係数という見出しの下に、各面の光軸近傍での曲率C、非球面係数K、Ai(i=3〜20)を示す。表1中のCの符号は、レンズ面が光源側に凸形状の場合を正、光記録媒体側に凸形状の場合を負としている。表1の各非球面係数の数値において、「E−n」(n:整数)は「×10−n」を意味し、「E+00」は「×10」を意味する。各非球面係数は下記の非球面式で定義されるものである。
Zd=C・H/{1+(1−K・C・H1/2}+ΣAiH
ただし、
Zd:非球面深さ(高さHの非球面上の点から、非球面頂点が接する光軸に垂直な平面に
下ろした垂線の長さ)
H:高さ(光軸からのレンズ面までの距離)
C:光軸近傍での曲率
K、Ai(i=3〜20):非球面係数
【0053】
また、表1の非球面係数の下方に、波長405nm、NA0.85における対物レンズの焦点距離、バックフォーカス、第1面と第2面の有効径、有効半径を示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に、実施例5〜9で用いた第1の光学系のレンズデータ等を示す。この光学系の設計波長は405nm、対物レンズの光記録媒体側のNAは0.85である。表2の面番号は光源側の面を1として、光源側から光記録媒体側に向かうに従い順次増加するように付しており、第1面および第2面が対物レンズに相当し、第3面および第4面が保護層に相当する。面間隔の単位はmmである。表2の光学系は、光記録媒体として記録層が1層の1層式のブルーレイディスクを想定したものである。
【0056】
表2に示す対物レンズの両面はともに非球面であり、表2の第1面および第2面の曲率半径の欄には非球面と記載している。表2の非球面係数という見出しの下に、各面の光軸近傍での曲率C、非球面係数K、Ai(i=3〜20)を示す。光軸近傍での曲率Cの符号、各非球面係数の定義は、前述の表1で説明したものと同様である。また、表2の非球面係数の下方に、波長405nm、NA0.85における対物レンズの焦点距離、バックフォーカス、第1面と第2面の有効径、有効半径を示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に、実施例10で用いた第1の光学系のレンズデータ等を示す。この光学系の設計波長は404.7nm、対物レンズの光記録媒体側のNAは0.85である。表3の面番号は光源側の面を1として、光源側から光記録媒体側に向かうに従い順次増加するように付しており、第1面および第2面が対物レンズに相当し、第3面および第4面が保護層に相当する。面間隔の単位はmmである。表3の光学系は、光記録媒体として記録層が1層の1層式のブルーレイディスクを想定したものである。
【0059】
表3に示す対物レンズの両面はともに非球面であり、表3の第1面および第2面の曲率半径の欄には非球面と記載している。表3の非球面係数という見出しの下に、各面の光軸近傍での曲率C、非球面係数K、Ai(i=3〜20)を示す。光軸近傍での曲率Cの符号、各非球面係数の定義は、前述の表1で説明したものと同様である。また、表3の非球面係数の下方に、波長404.7nm、NA0.85における対物レンズの焦点距離、バックフォーカス、第1面と第2面の有効径、有効半径を示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4に、実施例1〜10にかかる各種データを示す。表4の「平行平板の材質」は、各実施例で用いた検査用の平行平板の材質(計算用平行平板の材質と同一)であり、実施例1、5のN−SK5、実施例2、8のN−LAK7、実施例3のN−BK7、実施例6のN−SK11、実施例7のN−LAK21、実施例10のN−SK16は全てSCHOTT社製のガラス材質である。実施例4のZeonex330Rは日本ゼオン株式会社製のプラスチック材質であり、実施例9のAPL5514MLは三井化学株式会社社製のプラスチック材質である。
【0062】
表4の「平行平板の屈折率Nm」は、各検査用の平行平板の屈折率であり、「平行平板の厚みDm」は、球面収差が最小になるように補正した結果、設定された第4の光学系の計算用平行平板の厚み、すなわち、検査に用いられる検査用の平行平板の厚みである。表4の「保護層の屈折率Nc」は第1の光学系の保護層の屈折率であり、「保護層の厚みDc」は第1の光学系の保護層の厚みである。厚みの単位は全てmmである。
【0063】
表4の「第1の光学系の収差」、「第2の光学系の収差」、「第4の光学系の収差」は全て軸上波面収差のRMSであり、軸上波面収差の単位は波長(λ)である。なお、本実施例の光学系では、軸上波面収差の値が小さくなっていれば、球面収差が補正されていると考えることができる。表4において、第1の光学系の収差に比べて第2の光学系の収差が大きいことから、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層の屈折率差に起因して球面収差が発生していることがわかる。また、第2の光学系の収差に比べて第4の光学系の収差は小さくなっており、第4の光学系の収差は第1の光学系の収差とほぼ同じか近い値となっていることから、検査用の平行平板の厚みを好適に設定することにより、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層の屈折率差に起因して発生した球面収差が良好に補正されていることがわかる。よって、このように厚みが設定された検査用の平行平板を用いて検査を行えば、検査用の平行平板と光記録媒体の保護層の屈折率差に起因して発生した球面収差の影響を非常に小さくすることができ、適正に検査することができる。
【0064】
表4の「条件式の値」は、実施例1〜10それぞれのNm、Dm、Nc、Dcを用いて0.3141×(Nm/Nc)+0.68701−(Dm/Dc)を算出した値、すなわち、上述した条件式(1)、(2)に対応する値である。また、図2に、実施例1〜10のNm、Dm、Nc、Dcに対応する点を、Nm/Ncを横軸に、Dm/Dcを縦軸にとって示す。図2の2本の一点鎖線で囲まれた範囲が条件式(1)の数値範囲を意味し、図2の2本の破線で囲まれた範囲が条件式(2)の数値範囲を意味する。表4および図2から、実施例1〜10全て、条件式(1)、(2)を満たしていることがわかる。
【0065】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施例は、光記録媒体としてブルーレイディスクを想定したものであるが、光記録媒体として、CD、DVD、LDや他の短波長光用光記録媒体、例えば、いわゆるAOD(HD−DVD)ディスク等を用いる場合も本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 レンズ
2 検査用の平行平板
3 反射ミラー
4 基準板
5 ビームスプリッタ
6 コリメータレンズ
7 検査用光源
9 撮像素子
10 演算部
11 表示部
100 検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射された光を光記録媒体の透光性の保護層を介して前記光記録媒体の所定の位置に集光させるように設計された対物レンズを検査するために、該対物レンズにより集光された光の光路に前記保護層の代わりに挿入される検査用の平行平板であって、
前記保護層と異なる屈折率を有し、前記保護層と屈折率が異なることに起因して発生する球面収差を補正するように厚みが設定されていることを特徴とする検査用の平行平板。
【請求項2】
前記保護層の厚み、屈折率をそれぞれDc、Ncとし、前記平行平板の厚み、屈折率をそれぞれDm、Nmとしたとき、下記条件式(1)を満たすことを特徴とする請求項1記載の検査用の平行平板。
−0.05≦0.3141×(Nm/Nc)+0.68701−(Dm/Dc)≦0.05 … (1)
【請求項3】
前記対物レンズと前記平行平板とからなる光学系の球面収差が最小となるように厚みが設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の検査用の平行平板。
【請求項4】
前記対物レンズの前記光記録媒体側の開口数が0.8以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の検査用の平行平板。
【請求項5】
ガラス材質からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の検査用の平行平板。
【請求項6】
プラスチック材質からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の検査用の平行平板。
【請求項7】
光源から出射された光を光記録媒体の透光性の保護層を介して前記光記録媒体の所定の位置に集光させるように設計された光記録媒体用の対物レンズを検査するにあたり、該対物レンズにより集光された光の光路に前記保護層の代わりとなる検査用の平行平板を挿入して検査する光記録媒体用の対物レンズの検査方法であって、
前記平行平板として、前記保護層と異なる屈折率を有し、前記平行平板と前記保護層の屈折率が異なることに起因して発生する球面収差を補正するように厚みが設定された平行平板を使用することを特徴とする光記録媒体用の対物レンズの検査方法。
【請求項8】
前記保護層の厚み、屈折率をそれぞれDc、Ncとし、前記平行平板の厚み、屈折率をそれぞれDm、Nmとしたとき、下記条件式(1)を満たすことを特徴とする請求項7記載の光記録媒体用の対物レンズの検査方法。
−0.05≦0.3141×(Nm/Nc)+0.68701−(Dm/Dc)≦0.05 … (1)
【請求項9】
前記対物レンズと前記平行平板とからなる光学系の球面収差が最小となるように前記平行平板の厚みが設定されていることを特徴とする請求項7または8記載の光記録媒体用の対物レンズの検査方法。
【請求項10】
前記対物レンズの前記光記録媒体側の開口数が0.8以上であることを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の光記録媒体用の対物レンズの検査方法。
【請求項11】
前記平行平板が、ガラス材質からなることを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の光記録媒体用の対物レンズの検査方法。
【請求項12】
前記平行平板が、プラスチック材質からなることを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の光記録媒体用の対物レンズの検査方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−244648(P2010−244648A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94539(P2009−94539)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】