説明

検査装置及び欠陥検査方法

【課題】マスク基板に形成された光学歪みによる不具合が解消され、欠陥検出の感度を高くできる検査装置を提供する。
【解決手段】光源装置1から出射した照明光をフォトマスク8に向けて透過検査用として投射する第1の照明光学系(4〜7)と、前記フォトマスク支持すると共に第1の方向及び第1の方向と直交する第2の方向に移動可能なステージ9と、フォトマスクを透過した透過光を対物レンズ11及び偏光分離手段13を介して受光する光検出手段(17,18)と、光検出手段から出力される輝度信号を受け取り、フォトマスクに存在する欠陥を検出する信号処理装置19とを具える。信号処理装置は、マスクパターンが形成される前のマスク基板の透過光の輝度分布データを記憶したメモリと、前記輝度分布データに基づいて前記光検出手段から出力される輝度信号又は光源装置から放出される照明光の強度を補正する補正手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクに存在する欠陥を検出する検査装置、特にフォトマスクをステージ上に保持する際に発生する光学歪みの影響が軽減された検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化に伴い、フォトマスクの検査においても微細な欠陥を検出できることが要請されている。微細な欠陥を光学的に検出するマスク検査装置として、フォトマスクの透過画像と反射画像との合成画像並びに透過画像を同時に撮像し、撮像された合成画像と透過画像とに基づいて欠陥を検出する欠陥検査装置が既知である(例えば、特許文献1参照)。この欠陥検査装置では、照明光源として直線偏光したレーザ光を放出するレーザ光源が用いられ、フォトマスクの裏面側から透過検査用の照明光が投射され、パターン形成面側から反射検査用の照明光が投射されている。反射検査用の照明光は、偏光ビームスプリッタを介して対物レンズの光路に結合されている。また、フォトマスクを透過した透過光は、対物レンズで集光され、偏光ビームスプリッタを透過して光検出器に入射し、フォトマスクの透過像が撮像されている。
【0003】
上述した欠陥検査装置は、フォトマスクの反射画像と透過画像とが結合された合成画像が撮像されているため、パターンのエッジ付近に形成された欠陥を高精度に検出できる利点がある。また、偏光ビームスプリッタを用いてレーザ光源から出射した反射検査用の照明光とフォトマスクから出射した反射光及び透過光とが分離されているので、照明光を有効に利用できる利点も達成されている。
【特許文献1】特開2008−190938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォトマスクから出射した透過光を用いて欠陥検査を行うことにより、フォトマスクのパターン以外の部位に存在する欠陥を検出することが可能であり、フォトマスクの欠陥検査において極めて重要である。一方、フォトマスクは、石英基板とその表面上に形成されたクロム膜等の遮光パターンとで構成されている。そのため、透過検査用の照明光がフォトマスクのマスク基板を透過する際、石英基板(マスク基板)の内部に局所的な複屈折性の変化が発生すると、照明光がマスク基板を透過する際、その偏光状態が変化してしまう。透過光の偏光状態が変化すると、偏光ビームスプリッタを通過する際、透過光の一部が偏光ビームスプリッタによりカットされ、所定の光量値よりも少ない光量の透過光が光検出器に入射することになる。この結果、光検出器から出力される画像信号の輝度値が変化し、欠陥の検出感度が低下する不具合が発生する。すなわち、例えばダイ対ダイ比較検査により欠陥を検出する場合、2つのダイの対応する部分同士の輝度値が比較され、その差分が形成され、差分値が閾値を超える場合、欠陥と判定される。従って、フォトマスクから出射する透過光の光量が局所的に低下した場合、対応部分同士に輝度差が形成され、疑似欠陥が発生してしまう。一方、疑似欠陥の発生を抑制するためるは、閾値を高く設定する必要がある。しかしながら、閾値を高く設定すると、微細な欠陥が検出されない不具合が発生する。
【0005】
本発明の目的は、マスク基板に存在する複屈折性の変化による影響が軽減された検査装置及び欠陥検査方法を実現することにある。
さらに、本発明の目的は、マスク基板に形成された複屈折性の変化による不具合が解消され、欠陥検出の感度を高くできる検査装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による検査装置は、照明光を発生する光源装置と、光源装置から出射した照明光を検査すべきフォトマスクに向けて透過検査用の照明光として投射する第1の照明光学系と、前記フォトマスク保持するステージと、フォトマスクを透過した透過光を集光する対物レンズと、対物レンズから出射した透過光を偏光分離手段を介して受光する光検出手段と、光検出手段から出力される輝度信号を受け取り、フォトマスクに存在する欠陥を検出する信号処理装置とを具え、
前記信号処理装置は、マスクパターンが形成される前のマスク基板を前記透過検査用の照明光によって、前記マスク基板表面と平行な方向へ相対的に走査することにより前記光検出手段から出力される輝度信号の輝度分布データを記憶したメモリと、前記輝度分布データを用いて前記光検出手段から出力される輝度信号の輝度値又は光源装置から放出される照明光の強度を補正する補正手段を有することを特徴とする。
【0007】
本発明者が種々のフォトマスクの複屈折性について解析した結果、フォトマスクをステージ上に保持する際にフォトマスクの4隅のエリアの複屈折性に変化が生じることが判明した。フォトマスクの4つの隅部は、ステージに固定するため把持部材が存在し、その外部応力によりマスク基板の複屈折性に変化が発生したものと解される。一方、マスク基板に局所的な複屈折率の大きさや方向が変化すると、偏光した照明光がマスク基板を透過する際、複屈折率の大きさや方向に応じて透過光の偏光状態が変化し、偏光ビームスプリッタを透過する際に一部の透過光がカットされてしまう。さらに、フォトマスクに作用する応力は局所的に作用するため、複屈折性の変化も局所的に発生する。従って、フォトマスクを透過し、偏光ビームスプリッタを透過して光検出器に入射する光量が局所的に変化し、光検出器から出力される輝度信号の輝度値が不均一な分布状態となってしまう。そこで、本発明では、欠陥検査に先立って、同一ロット中のマスクパターンの形成されていないマスク基板(石英基板)をステージ上に装着し、実際の欠陥検査と同様に照明光により走査し、透過光を光検出器により検出する。そして、光検出器から出力される輝度信号の輝度値から、輝度分布データを作成する。そして、実際の欠陥検査に際し、輝度分布データを用いて光検出器から出力される輝度信号の輝度値を補正する。このように輝度分布データに基づいて画像信号の輝度値を補正すれば、マスク基板に形成された複屈折率の変化による影響が軽減され、欠陥検出処理において閾値を低く設定でき、欠陥の検出感度を増大させることができる。尚、マスク基板(石英基板)に存在する複屈折性ないし複屈折率の分布は、固有の複屈折性と、重力による撓みに起因する複屈折性と、外部応力による複屈折性とが含まれる。これらのうち、マスク基板固有の複屈折率分布は、同一ロット及び同一形式のマスク基板はほぼ同様な複屈折分布を有している。また、外部応力に起因する複屈折性の変化及び重力に起因する複屈折性の変化も、同一ロット及び同一の形式ないしサイズのマスク基板においてほぼ同一であることが判明した。よって、同一形式又は同一ロットの1つのマスク基板について輝度分布データを取得すれば、同一形式の他のフォトマスクの補正に利用することが可能である。
【0008】
尚、光検出器から出力される輝度値を補正する場合だけでなく、照明光源側においても補正することが可能である。すなわち、例えば照明光源とコンデンサレンズとの間の光路中に光変調器を配置し、輝度分布データに基づきステージの走査と同期して照明光の強度を時間変調し、フォトマスクのほぼ全体にわたってほぼ均一な輝度値の透過光を出射させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、欠陥検査に先立って、透過検査用の照明光によりパターンが形成される前のマスク基板について走査を行い、光検出器から出力される輝度信号から輝度分布データを形成し、輝度分布データに基づいて光検出器から出力される画像信号の輝度値又は照明光の強度を補正しているので、たとえフォトマスクに局所的な応力が作用しても、光検出器から出力される輝度値に不均一な分布が形成される不具合が解消される。この結果、欠陥検出プロセスにおける閾値を低く設定できるので、疑似欠陥の発生を抑制しつつ、欠陥の検出感度を高くすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるマスク検査装置の一例を示す図である。
【図2】フォトマスク上に形成される照明エリアを示す図である。
【図3】光検出器に入射する入射光量分布の測定結果を示す図である。
【図4】本発明による欠陥検査方法の一連の工程を示す図である。
【図5】本発明による検査装置の回路構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明によるマスク検査装置の一例を示す図である。本例では、欠陥検査されるべきフォトマスクに対して透過検査用の第1の照明ビーム及び反射検査用の第2の照明ビームを投射し、フォトマスクの反射透過合成画像及び透過画像を同時に撮像し、撮像された合成画像と透過画像を用いて欠陥を検出するマスク検査装置について説明する。照明光源1として、213nmのレーザビームを放出するレーザを用いる。発生するレーザビームは、第1の方向に直線偏光した光、例えばP偏光した光とする。レーザから出射したレーザビームは、スペックルパターン低減装置(図示せず)を介して全反射ミラーで反射し、第1のビームスプリッタ3に入射する。第1のビームスプリッタ3は、入射光の一部を透過し一部を反射するハーフプリズムとする。第1のビームスプリッタで反射したレーザビームは透過検査用の第1の照明ビームとなり、透過したレーザビームは反射検査用の第2の照明ビームを形成する。
【0012】
第1の照明ビームは、減衰器4を通過し、1/4波長板5を経て円偏光に変換される。1/4波長板5から出射した照明ビームは、全反射ミラー6で反射し、コンデンサレンズ7に入射する。そして、コンデンサレンズにより集光され、フォトマスク8の裏面に入射し、第1の照明エリアを形成する。フォトマスク8はステージ9上に配置される。ステージ9は、X方向及びX方向と直交するY方向に移動可能なXYステージにより構成される。ステージ9はX方向及びY方向にジグザグ状に移動し、ステージの2次元移動によりフォトマスクは円偏光した照明ビームにより2次元的に走査される。ステージ9には、ステージのX及びY方向の位置を検出する位置センサ10が連結され、ステージ9の位置が検出される。検出されたステージの位置情報は、後述する信号処理装置に供給する。尚、検査の対象となるフォトマスクとして、バイナリー型のフォトマスクやハーフトーン型及びレベンソン型の位相シフトマスクが対象となる。
【0013】
フォトマスクを透過した透過光は、対物レンズに11より集光され、1/4波長板12を透過し、直線偏光(S偏光)に変換され、偏光ビームスプリッタ13に入射する。そして、偏光ビームスプリッタ13を透過し、全反射ミラー14に入射する。全反射ミラー14で反射した透過光は、結像レンズ15を経て視野分割ミラー16に入射する。この視野分割ミラーは、対物レンズ10の視野を分割する作用を果たし、対物レンズの視野の片側半分の視野を通過した光をそのまま通過させ、残りの半分の視野から出射した光は反射する。視野分割ミラー16をそのまま通過した光は第1の光検出器17に入射し、視野分割ミラーで反射した光は第2の光検出器18に入射する。第1及び第2の光検出器は、例えばTDIセンサで構成することができる。TDIセンサ17及び18から出力される輝度信号(画像信号)は信号処理装置19に供給される。
【0014】
第1のビームスプリッタ3を透過した反射検査用の第2の照明ビームは、全反射ミラー19で反射し、視野絞りとして作用するNDフィルタ20に入射する。このNDフィルタは、反射検査用の第2の照明ビームの片側半分のビームを遮光し、残りの半分のビーム部分だけ出射させる。NDフィルタ21から出射した第2の照明ビームは、偏光ビームスプリッタ13で反射し、対物レンズの光路上を進行する。そして、1/4波長板12を透過し、円偏光に変換される。さらに、第2の照明ビームは対物レンズ11を介してフォトマスク8に入射し、円偏光した照明光により第2の照明エリアを形成する。
【0015】
第2の照明エリアの面積は、透過検査用の第1の照明ビームにより形成される第1の照明エリアの面積の半分に設定され、第1の照明エリアと重なり合うように形成される。この状態を図2に示す。図2に示すように、フォトマスク8の表面の表面に形成された第2の照明エリア30から、フォトマスクを透過した透過光とフォトマスクの表面で反射した反射光との合成光が出射する。また、第1の照明エリアの第2の照明エリアと重ならない第3の照明エリア31からフォトマスクを透過した透過光が出射する。
【0016】
フォトマスクの第2の照明エリアから出射した反射光は、透過光と共に対物レンズにより集光され、1/4波長板12により直線偏光(S偏光)に変換され、偏光ビームスプリッタ13に入射する。さらに、偏光ビームスプリッタ13を透過し、全反射ミラー14に入射する。第2の照明エリアから出射した反射光及び透過光は、全反射ミラーで反射し、結像レンズ及び視野分割ミラーをそのまま通過し、第1の光検出器17に入射する。従って、第1の光検出器は、フォトマスクを透過した透過光と反射した反射光との合成光を受光し、フォトマスクの透過像と反射像とが合成された透過反射合成画像を形成する。また、フォトマスクの第3の照明エリアから出射した透過光は、視野分割ミラー16で反射し、第2の光検出器18に入射する。従って、第2の光検出器18は、フォトマスクの透過像を形成する。第1及び第2の光検出器17及び18から出力される画像信号は、信号処理装置19に供給される。信号処理装置は、入力した画像信号についてゲイン調整を行い、フィルタリング処理、2値化処理、閾値比較処理等の画像処理を行って欠陥を検出する。
【0017】
フォトマスクは石英基板を有し、石英基板の表面に種々の遮光パターンが形成されている。一方、ステージ9によりフォトマスク8を保持する際、石英基板に応力が作用する。この応力により石英基板の内部に光学的な歪みが発生し、基板内部に光学的異方性が形成される。この場合、石英基板に作用する応力は基板の全面にわたって均一作用せず局所的に作用するため、石英基板に形成される光学的異方性は局所的に発生する。このため、偏光した透過検査用の照明光がフォトマスクに入射すると、石英基板の光学的異方性が発生する箇所によって、フォトマスクから出射する透過光の偏光状態が変化し、後段に配置された偏光ビームスプリッタ等の偏光素子を透過する際にその透過光量が変化する。すなわち、偏光ビームスプリッタは、所定の方向に沿って振動する偏光成分だけを通過させるため、基板内部に発生した光学的異方性により偏光状態が変化した場合、作用する応力に応じて基板を透過する透過光の光量が変化し、その結果光検出器に入射する入射光に光量分布が生じてしまう。
【0018】
図3(A)は、図1に示す検査装置のステージ上にパターンが形成される前の石英基板(マスク基板)32を配置し、実際の欠陥検査と同様に石英基板32の裏面側から透過検査用の照明光により走査し、石英基板から出射し光検出器16により検出された透過光量の入射光量分布の測定結果、すなわち光検出器から出力される輝度信号の輝度分布を示す。斜線等が付されていない領域は平均的な輝度を示す。一方、符号33及び34により示すエリア1及び2は輝度値(入射光量)が一番低い領域を示す。符号35及び36で示すエリア3及び4は、2番目に輝度値が低い領域を示す。一方、符号37及び38で示すエリアは輝度値が一番高い領域を示す。さらに、符号39及び40で示す領域は2番目に輝度値が高い領域を示す。
【0019】
図3(A)に示すように、本発明者による実験結果によれば、石英基板の四隅のうち、対角に位置する2個の隅部33及び34から光検出器に入射する入射光量(輝度値)は一番小さく、別の対角に位置する2個の隅部37及び38の入射光量は一番多い。そして、隅部から基板の中心に向かうにしたがって入射光量は徐々に増加し又は減少する。一方、フォトマスクをステージ上に保持する際、フォトマスクの4個の隅部が固定装置に固定されるため、4個の隅部に固定のための応力が作用する。従って、上記実験結果によれば、石英基板をステージに保持する際に基板に作用する応力に起因して、石英基板の内部に光学的異方性が局所的に発生し、基板に作用する応力に応じて偏光状態が変化し、偏光ビームスプリッタ12を透過する光量が変化したものと考えられる。
【0020】
図3(B)は、図3(A)に示す光検出器から出力される輝度信号の輝度分布を有する石英基板に対して、その後形成される予定のチップ区域を重ねて示す。本例では、3×3個の9個のチップが形成されるものとする。符号41a〜41iで示す9個の四角の区域が形成される予定のチップ区域(ダイ)を示す。第1のチップ区域41aは輝度値が低いエリアを含む。よって、マスク検査において、当該第1のチップ区域を走査する際光検出器から出力される輝度信号の輝度値は局所的に低くなる。これに対して、隣接する第2のチップ区域41bは全体にわたって平均的な輝度値を有する。よって、マスクパターンの検査の際、第2のチップ区域41bを走査する間の輝度信号の輝度値は比較的高いものとなる。このため、隣接する2個のチップ区域41aと41bとについてダイ対ダイ比較検査により欠陥を検出する場合、これら2個のチップ区域の画像信号の輝度レベルに差異が形成されるため、欠陥の検出感度が低下する不具合が発生する。すなわち、ダイ対ダイ比較検査により欠陥を検出する場合、相対比される2つのチップの対応する部分同士の輝度差を検出し、検出された輝度差が所定の閾値を超える場合欠陥が存在すると判定される。従って、相対比される一方のチップが均一な輝度分布ではなく、比較的大きな輝度分布を有する場合、正常な部位の画像信号であっても画像比較により輝度差が発生する。そのため、疑似欠陥の検出を回避する必要性より、欠陥と判定する際の閾値を大きく設定せざるを得ず、この結果欠陥の検出感度が低下する不具合が発生する。すなわち、欠陥判定を行う際の閾値を高く設定する必要があるため、微細な欠陥が存在する場合2つの画像間の輝度差が小さいので、閾値以下の輝度差と判定され、欠陥と判定されないことになる。一方、閾値を小さく設定して欠陥の検出感度を高く設定すると、チップ間に輝度差が存在するため、正常な部位についても輝度差が存在し、正常な部位について欠陥であると判定する疑似欠陥が増大する不具合が発生する。このような問題は、ダイ対ダイ比較検査により欠陥を検出する場合だけでなく、ダイ対データベース比較検査により欠陥を検出する場合も同様に発生する。従って、フォトマスクの検査における欠陥検出感度を改善するためには、石英基板に生ずる応力歪みを解消する必要がある。
【0021】
上述した課題を解決するため、本発明では、欠陥検査に先立って、パターンが形成される前の石英基板を検査装置に装着し、透過検査用の照明光を用いて検査エリア全体について走査し、光検出器から出力される輝度信号の輝度分布を測定する。続いて、光検出器から出力される画像信号の輝度が石英基板全体にわたって均一な輝度となるように補正因子を算出する。そして、実際の欠陥検査においては、光検出器から出力される輝度信号について補正因子を乗算して補正処理を行い、補正後の輝度信号を用いて欠陥検出処理を行う。このように、パターンが形成される前の石英基板を用いて補正因子を作成し、光検出器からの出力信号について補正処理を行えば、基板内部に発生する光学歪みに起因する輝度分布がほぼ消滅した画像信号が得られるので、欠陥検出判定における閾値を小さく設定することが可能になる。この結果、疑似欠陥の発生が低減され、欠陥の検出感度を一層高くすることが可能になる。
【0022】
図4は本発明による欠陥検査方法の一例を示すフローチャートである。本発明では、欠陥検査に先立ってマスクパターンが形成される前の石英基板単体を透過検査用の照明光で走査し、光検出器により検出される輝度分布を測定する。ステップ1において、フォトマスクを構成するマスクパターンが形成される前の石英基板を検査装置のステージ上に配置し、ステージに固定する。
【0023】
続いて、実際の欠陥検査において用いられる透過検査用の照明光を用いて、実際の欠陥検査と同様に石英基板のほぼ全面を2次元的に走査する。そして、石英基板を透過し、偏光分離手段を介して光検出手段に入射する透過光を検出し、光検出器から出力される輝度信号の輝度分布を測定する(ステップ2)。光検出手段から出力される輝度信号はA/D変換され、順次メモリに蓄積する。
【0024】
続いて、メモリに記憶されている入射光量分布を用いて、補正値を算出する(ステップ3)。すなわち、光検出手段から出力される輝度信号の輝度値が石英基板全体にわたって一定値となるように補正値を算出する。算出された補正因子は、メモリに記憶される。尚、A/D変換器から出力される輝度信号を補正値算出手段に直接供給して補正値を作成することも可能である。
【0025】
石英基板についての入射光量分布の測定が終了すると、石英基板をステージから取り外し、欠陥検査されるべきフォトマスクをステージ上に配置し、実際の欠陥検査を開始する(ステップ4)。
【0026】
検査中、光検出手段から出力される輝度信号について、メモリに記憶されている補正値を用いて補正する(ステップ5)。
【0027】
続いて、補正された輝度信号を用い、ダイ対ダイ比較検査又はダイ対データベース比較検査を行い、フォトマスクに存在する欠陥を検出する。欠陥が検出された場合、そのアドレスを欠陥メモリに記憶する。
【0028】
図5は本発明による検査装置の信号処理装置の一例を示す図である。本発明による検査装置は、フォトマスクの光学歪みに起因する輝度分布を測定する輝度分布測定モードと、フォトマスクに存在する欠陥を検出する欠陥検査モードとの2つの動作モードを有する。また、本例では、フォトマスクの透過画像を撮像する第2の光検出器18から出力される画像信号の輝度値を用いてフォトマスクに形成される光学歪みに起因する輝度分布を補正する補正値を形成する。
【0029】
第2の光検出器18から出力される画像信号は、増幅器(図示せず)を経てA/D変換器40に入力し、デジタル信号に変換される。A/D変換器40から出力される画像信号はスィチング手段41のコモン端子に入力する。スィチング手段41は2つの出力端子を有し、第1の出力端子は欠陥検査モードで動作する輝度分布補正手段42に接続され、第2の出力端子は輝度布測定モードで動作する輝度分布メモリ43に接続する。
【0030】
初めに、輝度分布測定モードについて説明する。石英基板をステージ上に配置し、ステージの2次元移動により石英基板の裏面が透過検査用の照明光で2次元的に走査される。光検出器18から出力される画像信号の輝度値は、順次A/D変換され、スィチング手段41を介して輝度分布メモリ43に蓄積される。輝度分布メモリに記憶された輝度分布データは、補正値演算手段44に供給され、光検出器18から出力される輝度信号の輝度値が石英基板全体にわたって一定値となるように補正値を算出する。算出された補正値は、補正値メモリ45に記憶される。補正値メモリ45に記憶された補正値は、フォトマスクの実際の検査において光量分布補正手段42に順次供給される。石英基板全体についての補正値が算出され、光量分布測定モードは終了する。
【0031】
続いて、欠陥検査されるフォトマスクについての検査が開始する。この際、スィチング手段41は、A/D変換器40と光量分布補正手段42とが接続されるように切り換わる。ステージから石英基板が外され、検査すべきフォトマスクが装着される。ステージの2次元移動によりフォトマスクが透過検査用照明光及び反射検査用の照明光により走査される。光検出器18から出力される画像信号は、A/D変換器40及びスィチング手段41を介して輝度分布補正手段42に順次供給される。輝度分布補正手段42は、補正メモリ45から供給される補正値及びステージ位置信号を用いて、順次入力する画像信号の輝度値を補正し、補正された画像信号を後段の2次元画像形成手段46に供給する。
【0032】
本例では、ダイ対ダイ比較検査により欠陥を検出する。先に形成された第1のダイの2次元画像は遅延メモリ47に蓄積される。続いて、次に形成された第2のダイの画像信号は、画像比較手段48に順次供給されると共に遅延メモリ47にも順次供給される。遅延メモリに蓄積されている第1のダイの2次元画像は2次元画像形成手段46から出力される第2のダイの画像信号と同期して画像比較手段48に供給される。画像比較手段48は、入力する2つの画像信号を比較し、その差分値を出力する。形成された差分値は、閾値比較手段49に供給する。閾値比較手段49は、入力した差分値と設定されている閾値とを比較し、差分値が閾値を超える場合、欠陥と判定する。その判定出力は欠陥アドレス判定手段50に供給する。アドレス判定手段50は、閾値比較手段49からの出力信号とステージ位置信号とを用いて欠陥と判定された部位のアドレスを特定し、その結果を欠陥アドレスメモリ51に供給する。
【0033】
本発明では、フォトマスクをステージ上に保持する際に発生する光学歪みの影響が除去ないし軽減されているので、閾値比較手段49において設定される閾値が低く設定できるので、欠陥の検出感度が一層高くなる。
【0034】
本発明は上述した実施例だけに限定されず種々の変形や変更が可能である。例えば、上述した実施例では、光検出器に入射する入射光の光量分布はソフトウエァにより補正する構成としたが、ハードウエァにより補正することも可能である。この場合、例えばシェーディング補正を行うシェーディング補正回路において、補正データを用いて輝度分布補正を行うことも可能である。
【0035】
さらに、上述した実施例では、光検出器から出力される画像信号の輝度値を補正する構成としたが、照明側において照明光の強度(光量)を補正することも可能である。例えば、光源装置とコンデンサレンズとの間の光路中に、E/O変調器のような光変調器を配置し、補正データを用いて照明光の強度を時間的に強度変調することも可能である。この場合、E/O変調器に印加する印加電圧を補正データに基づいて制御することにより、照明光の強度を容易に補正することができる。
【0036】
さらに、検査対象として、パターンが形成されているフォトマスクだけでなく、パターンが形成される前のマスクブランクスの検査にも適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 照明光源
2,6,20 全反射ミラー
3 第1のビームスプリッタ
4 減衰器
5,12 1/4波長板
7 コンデンサレンズ
8 フォトマスク
9 ステージ
10 位置センサ
11 対物レンズ
13 偏光ビームスプリッタ
15 結像レンズ
16 視野分割ミラー
17 第1光検出器
18 第2の光検出器
19 信号処理装置
40 A/D変換器
41 スィチング手段
42 輝度分布補正手段
43 輝度分布データメモリ
44 補正値演算手段
45 補正値メモリ
46 2次元画像形成手段
47 遅延メモリ
48 画像比較手段
49 閾値比較手段
50 欠陥アドレス判定手段
51 欠陥アドレスメモリ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光を発生する光源装置と、光源装置から出射した照明光を検査すべきフォトマスクに向けて透過検査用の照明光として投射する第1の照明光学系と、前記フォトマスク保持するステージと、フォトマスクを透過した透過光を集光する対物レンズと、対物レンズから出射した透過光を偏光分離手段を介して受光する光検出手段と、光検出手段から出力される輝度信号を受け取り、フォトマスクに存在する欠陥を検出する信号処理装置とを具え、
前記信号処理装置は、マスクパターンが形成される前のマスク基板を前記透過検査用の照明光によって、前記マスク基板表面と平行な方向へ相対的に走査することにより前記光検出手段から出力される輝度信号の輝度分布データを記憶したメモリと、前記輝度分布データを用いて前記光検出手段から出力される輝度信号の輝度値又は光源装置から放出される照明光の強度を補正する補正手段を有することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査装置において、前記補正手段は、前記メモリに記憶されている輝度分布データを用いて、前記光検出器から出力される輝度信号の輝度値がマスク基板のほぼ全面にわたって均一になるように補正する補正値を算出する手段を含み、当該補正値を用いて光検出手段から出力される輝度信号の輝度値又は光源装置から放出される照明光の強度を補正することを特徴とする検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の検査装置において、前記偏光分離手段として、1/4波長板と偏光ビームスプリッタとを含むことを特徴とする検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載の検査装置において、前記光源装置は、特定の方向に振動する直線偏光した照明光を発生し、当該照明光は、円偏光に変換されて前記フォトマスクに入射し、フォトマスクを透過した後前記1/4波長板により直線偏光に変換され、直線偏光した透過光が前記偏光ビームスプリッタを透過して光検出手段に入射することを特徴とする検査装置。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4に記載の検査装置において、当該検査装置は、さらに、前記フォトマスクのパターンが形成されているパターン形成面に向けて前記対物レンズを介して反射検査用の照明光を投射する第2の照明光学系を有し、反射検査用の照明光は前記偏光ビームスプリッタを介して対物レンズに入射することを特徴とする検査装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の検査装置において、前記光源装置から放出される照明光の強度を補正する補正手段として、光源装置とフォトマスクとの間の光路中に配置した光変調器を用い、光変調器の制御電圧を前記輝度分布データ又は補正値に基づいて制御することを特徴とする検査装置。
【請求項7】
照明光を発生する光源と、検査されるべきフォトマスクを保持するステージと、ステージ上に配置されたフォトマスクに向けて前記光源から出射した照明光を透過検査用の照明光として投射する手段と、フォトマスクを透過した透過光を偏光分離手段を介して受光する光検出手段と、光検出手段から出力される輝度信号に基づいてフォトマスクに存在する欠陥を検出する信号処理装置とを有する検査装置を用いて、フォトマスクに存在する欠陥を検出する欠陥検査方法であって、
マスクパターンが形成される前のマスク基板を、検査装置のステージ上に配置する工程と、
前記マスク基板を前記透過検査用の照明光により走査し、マスク基板から出射した透過光を前記偏光分離手段を介して光検出手段により受光し、光検出手段から出力される輝度信号の輝度分布データを形成する工程と、
形成された輝度分布データをメモリに記憶する工程と、
前記ステージからマスク基板を取り外し、欠陥検査されるべきフォトマスクをステージ上に配置して欠陥検査を開始する工程と、
前記光検出手段から出力される輝度信号を、前記輝度分布データを用いて補正する工程と、
補正された輝度信号を用いて欠陥を検出する工程とを含むことを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項8】
照明光を発生する光源と、検査されるべきフォトマスクを支持するステージと、ステージ上に配置されたフォトマスクに向けて前記光源から出射した透過検査用の照明光を投射する手段と、フォトマスクを透過した透過光を偏光分離手段を介して受光する光検出手段と、光検出手段から出力される輝度信号に基づいてフォトマスクに存在する欠陥を検出する信号処理装置とを有する検査装置を用いて、フォトマスクに存在する欠陥を検出する欠陥検査方法であって、
マスクパターンが形成される前のマスク基板を、検査装置のステージ上に配置する工程と、
前記マスク基板を前記透過検査用の照明光により走査し、マスク基板から出射した透過光を前記偏光分離手段を介して光検出手段により受光し、光検出手段から出力される輝度信号の輝度分布データを形成する工程と、
形成された輝度分布データをメモリに記憶する工程と、
前記ステージからマスク基板を取り外し、欠陥検査されるべきフォトマスクをステージ上に配置して欠陥検査を開始する工程と、
前記光源から出射する照明光の強度を、前記輝度分布データを用いて補正する工程と、
補正された透過検査用の照明光を用いてフォトマスクを走査する工程と、
フォトマスクを透過した透過光を偏光分離手段を介して光検出手段により受光する工程と、
前記光検出手段から出力される輝度信号に基づいてフォトマスクに存在する欠陥を検出する工程とを含むことを特徴とする欠陥検査方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−220388(P2012−220388A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87897(P2011−87897)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000115902)レーザーテック株式会社 (184)
【Fターム(参考)】