説明

検知装置

【課題】領域内において検知した物体が障害物であるか否かを短時間で精度よく判断でき、かつ設備費用を削減できる検知装置及び検知方法を提供する。
【解決手段】検知装置は、所定の領域を走査するレーザレーダ10と、このレーザレーダ10により検知される距離情報とその走査方向の情報とから3次元レーダ情報を求めるレーダ情報作成手段21と、3次元レーダ情報から所定の領域内に存在する物体を検知する物体検知手段22と、所定の領域を、物体の進行方向に対して複数に分割された分割領域として認識する領域認識手段23と、分割領域の1つに所定時間継続して少なくとも1つの物体が滞留したときに、障害物が滞留していると判断する障害物判断手段24とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の領域、例えば踏切内を横断する物体を検知する検知装置に関し、特にレーザレーダから発信される信号の反射波に基づいて検知された物体が障害物であるか否かを検知する検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の検知装置としては、光学方式、ループコイル方式、カメラ画像処理方式、水中走査レーザ方式のものが知られている。
光学方式の検知装置は、踏切を挟んで投光器と受光器を配置し、物体が遮光すると障害物として検知するものである。
ループコイル方式の検知装置は、踏切内に電磁誘導コイルを敷設しておき、電磁誘導コイルの近くの金属体の有無によってコイルのインピーダンスが変化することにより、共振周波数が変化する現象を利用して障害物として検知するものである。
カメラ画像処理方式の検知装置は、踏切を撮影するカメラを設置し、カメラを用いて撮影された画像を処理することによって障害物を検知するものである。
水中走査レーザ方式は、レーザ光を水平に走査し、物体からの反射光から、その距離を計測して障害物を検知するものである。
このような光学方式、ループコイル方式、カメラ画像処理方式、水中走査レーザ方式の検知装置にあっては、例えば、上記のような障害物が存在すると判断される状態が、例えば6秒以上継続した場合に、「障害物あり」として特殊信号発光機より列車に対して停止信号を送信するようにして、必要以上に検知装置が作動しないよう設定されている。
【0003】
光学方式の検知装置は、投光器と受光器の間の光軸は線状であり、また、ループコイル方式の検知装置は電磁誘導コイルの設置場所が部分的であり、いずれの場合も踏切内全体の障害物を検知することはできない。例えば、光学方式の検知装置は、細い光軸を遮断するものは全て障害物として検知し、ループコイル方式の検知装置は、ループコイル上の金属で発振周波数を所定値以上に変化させるものは全て障害物として検知してしまう。また、光学方式の検知装置の光軸を遮蔽しない位置にある踏切内の物体や、ループコイル方式の検知装置で検知できない非金属などの物体は障害物として検知することができない。つまり、踏切内の物体の大きさや形状や位置などを判別することができないので、踏切で作業をしている人や工事用のバケツなどを障害物として誤検知してしまうことがあるし、逆に、真の障害物を検知できないこともある。そこで、踏切内全体で障害物を漏れなく検知するようにすると、投受光器や電磁誘導コイルを多数設置する必要があり、結果的に、装置の設置価格や工事費が高騰してしまう。さらに、上記従来の検知装置では、複数の投受光機や複数のループコイルを接続するための配管・配線工事、特に、道路や線路をくぐってこのような工事を行うのに多額の費用がかかるという問題がある。
また、カメラ画像処理方式の検知装置にあっては、踏切内全体の障害物を検知することはできるが、夜間あるいは悪天候時においては視界が著しく低下するため、障害物を検知することが困難となる。つまり、カメラ画像処理方式の検知装置は周囲の環境に影響されやすく、常時十分な性能を維持することができないという問題がある。
また、水平走査レーザ方式の検知装置にあっては、設置高さが固定されるため、横臥した歩行者等を検知するためには設置高さを10cm程度まで低くしなければならない。この場合、凹凸の大きい踏切等での適用が困難となる。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するために、空中を伝搬する信号、例えばレーザを踏切内の物体に放射して、反射信号に基づいてその物体の方位情報と距離情報とを収集することによってその物体が踏切内の障害物であるか否かを判定する検知装置が提案されている(特許文献1参照)。
また、特許文献1に記載された検知装置のようにレーザを2次元的に放射して踏切内の物体を検知する検知装置のみならず、踏切内の所定領域にレーザを放射できるように1または複数個のレーザレーダを所定の高さに配置し、そのレーザレーダからレーザを放射して踏切内の物体を検知する検知装置についても提案されている。
【特許文献1】特開2003−11824号公報(第2−3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の検知装置においては、所定の領域内においてレーザレーダによる検知範囲を広く設定する場合、例えば複々線が敷設された線路を横断する道路を有する踏切全体を検知するように検知範囲を設定する場合には、障害物が踏切内に継続して存在することを検知する検知時間を短時間に設定すると、例えば歩行者のように遅い速度で踏切内を移動する物体を障害物と誤って判断してしまうおそれがある。一方、その検知時間を長時間に設定すると、踏切内に存在する物体を障害物と判断するまでに長時間を要するため、踏切内に存在する物体を障害物と判断して特殊信号発光機から列車に対して停止信号を送信するまで、長時間を要することとなる。したがって、その列車の運転者が停止信号に対応する時間を著しく短縮させてしまうおそれがある。
また、これらの問題を解決するために、レーザレーダによる検知範囲を狭く設定して踏切全体の範囲を検知する場合には、レーザレーダを複数設置する必要があるため、設備費用が膨大となってしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、領域内の物体や路面の3次元形状を得ることにより検知した物体が障害物であるか否かを短時間で精度よく判断でき、かつ設備費用を削減できる検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、第1の解決手段として、所定の領域を走査するレーザレーダと、このレーザレーダにより検知される距離情報とその走査方向の情報とから3次元レーダ情報を求めるレーダ情報作成手段と、前記3次元レーダ情報から前記所定の領域内に存在する物体を検知する物体検知手段と、前記所定の領域を、前記物体の進行方向に対して複数に分割された分割領域として認識する領域認識手段と、各々の物体毎に各々の分割領域における滞留時間を計時し、何れかの物体の何れかの分割領域における滞留時間が所定時間継続した場合に、障害物が滞留していると判断する障害物判断手段とを備える、という手段を採用する。
【0008】
また、第2の解決手段として、所定の領域を走査するレーザレーダと、このレーザレーダにより検知される距離情報とその走査方向の情報とから3次元レーダ情報を求めるレーダ情報作成手段と、前記3次元レーダ情報から前記所定の領域内に存在する物体を検知する物体検知手段と、前記所定の領域を、前記物体の進行方向に対して複数に分割された分割領域として認識する領域認識手段と、各々の分割領域毎に物体の個数を判定し、各分割領域における物体の個数が1以上の場合に各分割領域における滞留時間を計時し、何れかの分割領域における物体の滞留時間が所定時間継続した場合に、障害物が滞留していると判断する障害物判断手段とを備える、という手段を採用する。
【0009】
第3の解決手段として、上記第1あるいは第2の解決手段において、前記障害物判断手段は、所定の領域と当該所定の領域に進入する列車との距離が長いときに所定時間を長く設定し、所定の領域と当該所定の領域に進入する列車との距離が短いときには所定時間を短く設定するように、前記所定の領域と前記所定の領域に進入する列車との距離に応じて所定時間を切替える、という手段を採用する。
【0010】
さらに、第4の解決手段として、上記第1〜第2の何れかの解決手段において、前記所定の領域は踏切である、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検知範囲が狭くなるように、所定の領域、例えば踏切を、物体の進行方向に対して複数に分割された分割領域として領域認識手段によって認識するため、所定の領域が広い場合でも、レーザレーダを複数設置することなく、1個のレーザレーダのみを用いて分割領域に対して障害物を検知することが可能となる。このとき、それぞれの分割領域の検知範囲が狭いため、分割領域の1つに所定時間継続して少なくとも1つの物体が滞留したときに障害物判断手段によって障害物が滞留していると判断する際、所定時間が短時間となる。
また、レーザレーダを複数設置することなく、1個のレーザレーダのみを用いて分割領域に対して障害物を検知することが可能となるので、設備費用を削減することができる。
さらに、本発明によれば、例えば所定の領域に進入する列車との距離が長いときに所定時間を長く設定しておき、所定の領域に進入する列車との距離が短いときに所定時間を短く設定するように所定時間を切替えることで、所定の領域に進入する列車との距離が短くなったとき、すなわち所定の領域内に障害物が滞留しているという判断の迅速性を要求されたとき、障害物判断手段によって障害物が滞留していると判断されるまでの時間が短縮されるため、迅速な判断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明を適用した検知装置の概略構成を示す図である。
レーザレーダ10は、所定の筐体に一体に収容されてセンサユニットを構成し、建屋の壁面や電柱等の所定高さに設置されており、例えば図2に示すように所定の領域全体を俯瞰するように配置されている。このレーザレーダ10は、例えば多面体ミラー11を一定速度で回転駆動する主走査モータ12と、この主走査モータ12に対してその回転軸を直交させて設けられて多面体ミラー11の回転軸を所定の角度範囲内で傾動させることで多面体ミラー11の回転面を所定速度で揺動させる副走査モータ13とを備えている。そしてレーザ光源14から発せられたレーザパルス光をハーフミラー15を介して多面体ミラー11に照射することで、レーザパルス光を多面体ミラー11の回転と傾きとに応じて所定の領域に照射し、またレーザパルス光の所定の領域からの反射光を多面体ミラー11から集光レンズ16を介して受光器17により受光検知するように構成される。
【0013】
すなわち、このレーザレーダ10は、多面体ミラー11の回転とその揺動とによってレーザパルス光の照射方向を主走査方向(x方向)に高速に偏向走査しながら、その走査面を副走査方向(y方向)に偏向走査し、これによって図2に例示するように所定の領域全体を走査している。そして所定の領域に存在する種々の物体による反射光をレーザパルス光の照射に同期して受光し、その受光タイミング(レーザパルス光の照射タイミングからその反射光の受光タイミングまでの経過時間)から物体(反射点)までの距離情報を求めるように構成されている。なお、レーザレーダ10による走査範囲は、例えば主走査(水平)方向に60度、副走査(垂直)方向に30度として設定されている。また、レーザレーダ10は、例えばその走査方向が0.1度変化するたびにレーザパルス光を照射し、その反射光を受光することで、反射光の情報を順次検知するように構成される。
【0014】
一方、例えばパーソナルコンピュータからなる検知装置本体20は、前述したレーザレーダ10を用いて検知される反射光情報から、その反射点の空間座標を示す3次元レーダ情報を求めるレーダ情報作成手段21を備えている。具体的には、このレーダ情報作成手段21は、例えば図3に示すようにレーザ光源14を駆動するレーザパルス走査回路21aからの同期信号を受けてレーザパルス光の物体による反射光の受光タイミングを計測する反射光検知部21bと、この計測時間を距離情報に変換する距離情報変換部21cと、この距離情報を濃淡情報に変換する濃淡変換部21dとを備える。
【0015】
なお、計測時間を直接的に濃淡情報に変換することも可能である。またこの実施形態においては上記距離情報を、例えば遠距離ほど濃度が濃くなる濃淡情報に変換する例について示すが、距離に応じて色が段階的に変化する色調変換を施すようにしてもよい。また3次元レーダ情報をレーザレーダ画像として可視化する必要がない場合には、上述した濃淡変換等を行うことなく、反射光検知部21bにて求められる計測時間をそのままレーザパルス光の反射点の情報として用いることも可能である。
【0016】
そして3次元レーダ情報としてのレーザレーダ画像は、上述したようにして求められる濃淡情報(距離情報)をレーザパルス走査回路21aから求められる主走査角度及び副走査角度の情報にしたがって所定の画像メモリ21e上に順次マッピングしていくことにより作成される。すなわち、レーザパルス光の走査方向を示す主走査角度及び副走査角度によって特定される座標(画像メモリ21eのアドレス)に、そのときに求められた濃淡情報(距離情報)を書き込むことで、画像メモリ21e上にレーザパルス光の反射点を前述した所定の領域において3次元的に特定するレーザレーダ画像を作成するものとなっている。
【0017】
検知装置本体20は、上述したレーダ情報作成手段21に加えて、3次元レーダ情報(レーザレーダ画像)から所定の領域内に存在する物体を検知する物体検知手段22と、所定の領域を、所定の領域内に存在する物体の進行方向に対して複数に分割された分割領域として認識する領域認識手段23と、分割領域の1つに所定時間継続して少なくとも1つの物体が滞留したときに、障害物が滞留していると判断する障害物判断手段24とを備えている。さらに検知装置本体20は、これらの基本的な処理機能に加えて後述するように空間座標変換手段25と、動き検知手段26と、補助情報表示手段27とを備えている。
【0018】
これらの機能について説明すると、物体検知手段22は、基本的には3次元レーダ情報からその空間座標が連続する所定数以上の反射点のまとまりを、ある大きさを有する1つの物体として認識し、その重心を物体位置として検知する機能を備える。そして動き検知手段26は、このようにして検知される物体の重心位置の時間的な変化から、その物体が固定物であるか、あるいは移動物体であるかを判定している。特に移動物体であると認識した場合には、上記重心位置の変化の方向を移動方向として認識し、また重心位置の変化量を移動速度として認識している。
【0019】
空間座標変換手段25は、レーダ情報作成手段21による3次元レーダ情報に基づいて物体の形状を簡素化して空間座標に変換するものである。この簡素化された画像は、検知装置本体20に接続されたモニタ30に表示される。
また、補助情報表示手段27は、前述のように認識された物体を囲む枠状の識別マーク(補助情報)をモニタ30に表示された画像に重ねて表示し、これによって物体を強調表示して識別性を高めるものである。
【0020】
なお、このときモニタ30に表示された画像は、検知装置本体20に接続された画像記録装置31を用いて適宜記録される。特に、前述した物体検知によって所定の領域内への物体の異常な進入が検知されたとき、前述したレーザレーダ画像とともに画像記録装置31に記録することで、所定の領域内に進入した物体の特定に利用するようにしてもよい。
【0021】
図4は、上述した検知装置を用いた踏切の平面図である。なお、図4において、所定の領域として踏切41を示し、物体として車両43を示している。
踏切41は、線路40を跨いで設置されており、踏切41の進入口の両側にそれぞれ遮断機42を設置している。また、踏切41は、線路40を横断する方向に車両43が通行する。なお、歩行者あるいは自転車等も車両43と同様に踏切41を横断するが、ここでは説明を簡略化するために、踏切41を横断する物体が車両43のみであることとして説明する。
ここで、踏切41は、その踏切41内を横断する車両43の進行方向を複数例えば3分割して分割領域を設定される。それら分割領域は、それぞれエリア1、エリア2及びエリア3として、領域認識手段23によって認識される。
また、レーザレーダ10は、踏切41の外側かつ所定高さ、すなわち踏切41全体を検知可能となる位置に設置されている。このレーザレーダ10は、踏切41全体を検知可能となるように、踏切41を含み踏切41を囲む周辺領域までレーザパルス光を照射できるようになっている。
【0022】
次に、上記の構成からなる検知装置を用いて踏切41内の車両43を検知する検知方法について説明する。
検知方法としては、ある1つの車両43が分割領域の一つに滞留したことを検知する第1の検知方法と、ある1つの車両43が分割領域の一つに滞留したことを含め少なくとも1つの車両43が分割領域の一つに存在したことを検知する第2の検知方法とがある。
ここで、第1の検知方法のフローチャートを図5及び図6に示し、第2の検知方法のフローチャートを図7及び図8に示し、それぞれについて以下に説明する。
【0023】
(1)第1の検知方法
まず始めに、検知装置を作動させた状態で、領域認識手段23によって認識された分割領域の一つに踏切41を横断する車両43が継続して滞留する時間の上限、すなわち滞留時間のしきい値、例えば6秒を予め設定しておく。そして、踏切41内に車両43が存在することを検知した場合には、車両43の車両番号または記号、例えば障害物A、障害物B、・・・を付与する。このような状態で、以下に説明する第1の検知方法のフローがスタートする。
【0024】
まず、踏切41内に障害物Aを検知したか否かを判断する(ステップS110)。踏切41内に障害物Aを検知したと判断した場合(ステップS110において「Yes」)、障害物Aがどのエリアでどのくらい滞留しているかをエリアごとに調査して認識する。
すなわち第1に、障害物Aがエリア1に存在するか否かを判断し(ステップS111)、障害物Aがエリア1に存在する場合(ステップS111において「Yes」)、障害物Aのエリア1における滞留時間を認識する(ステップS112)。障害物Aがエリア1に存在しない場合(ステップS111において「No」)、障害物Aのエリア1における滞留時間をリセットして0と認識する(ステップS113)。
【0025】
第2に、障害物Aがエリア2に存在するか否かを判断し(ステップS114)、障害物Aがエリア2に存在する場合(ステップS114において「Yes」)、障害物Aのエリア2における滞留時間を認識する(ステップS115)。障害物Aがエリア2に存在しない場合(ステップS114において「No」)、障害物Aのエリア2における滞留時間をリセットして0と認識する(ステップS116)。
【0026】
そして第3に、障害物Aがエリア3に存在するか否かを判断し(ステップS117)、障害物Aがエリア3に存在する場合(ステップS117において「Yes」)、障害物Aのエリア3における滞留時間を認識する(ステップS118)。障害物Aがエリア3に存在しない場合(ステップS117において「No」)、障害物Aのエリア3における滞留時間をリセットして0と認識する(ステップS119)。そして、ステップS120に進む。
なお、ステップS110において踏切41内に障害物Aを検知しなかったと判断した場合(ステップS110において「No」)、ステップS120に進む。
【0027】
次に、踏切41内に障害物A以外の物体として障害物Bを検知したか否かを判断する(ステップS120)。踏切41内に障害物Bを検知したと判断した場合(ステップS120において「Yes」)、障害物Bがどのエリアでどのくらい滞留しているかをエリアごとに調査して認識する。
具体的には、障害物Bがエリア1〜3のいずれかに滞留しているかを認識するために、ステップS121からステップS129までのフローを実行してステップS130に進む。これらフローは、上記ステップS111からステップS119までのフローと同様である。したがってその説明を省略する。
なお、ステップS120において踏切41内に障害物Bを検知しなかったと判断した場合も同様に(ステップS120において「No」)、ステップS130に進む。
ここで、踏切41内に障害物A及び障害物B以外の物体を検知する場合、ステップS110からステップS119までのフローと同様のフローを追加してもよい。ただし、本実施の形態においては、説明の簡略化のため、障害物A及び障害物Bの存在のみを検知するフローとする。
【0028】
その後、障害物A及び障害物Bについて、エリア1〜3におけるそれぞれの滞留時間が、予め設定された滞留時間のしきい値以上であるか否かを判断する(ステップS130)。そして、それら滞留時間がしきい値以上である場合(ステップS130において「Yes」)、踏切41に列車が接近しているか否かを判断する(ステップS131)。踏切41に列車が接近していると判断した場合(ステップS131において「Yes」)、「踏切41内に障害物あり」と判断して、接近する列車に対してその旨を通知する危険状態検知処理を行い(ステップS132)、フローを終了する。なお、それら滞留時間がしきい値以下である場合(ステップS130において「No」)、または踏切41に列車が接近していないと判断した場合(ステップS131において「No」)、危険状態検知処理を行うことなくフローを終了する。
上記フローを常時繰り返し行うことにより、検知装置が踏切41を常に検知することとなり、また、エリア1〜3のいずれかに障害物Aまたは障害物Bが滞留していた場合、その滞留時間が加算されることとなる。
【0029】
図9は、上記(1)のフローチャートにおいて、障害物Aのみが踏切41を横断する場合であって、障害物Aの滞留時間がしきい値以上となることなく障害物Aが踏切41を通過する経過の概略を示している。この場合、障害物Aは、物体検知手段22によって検知された後、エリア1〜3の全てにおいてしきい値以下の滞留時間で通過する。そのため、最終的に障害物判断手段24によって「踏切41内に障害物あり」と判断されず、したがって危険状態検知処理が行われることはない。
【0030】
また、図10は、上記(1)のフローチャートにおいて、障害物Aのみが踏切41を横断する場合であって、障害物Aの滞留時間がしきい値以上となり、障害物Aに関する危険状態検知処理がなされる経過の概略を示している。この場合、障害物Aは、物体検知手段22によって検知された後、エリア1においてしきい値以下の滞留時間で通過してエリア2に移動するが、エリア2においてしきい値以上の滞留時間を要して滞留するため、障害物判断手段24によって「踏切41内に障害物あり」と判断されて危険状態検知処理が行われることとなる。
【0031】
図11は、上記(1)のフローチャートにおいて、踏切41内で車両43を2台検知してそれぞれ障害物A,Bとしたときの概略を示している。この場合、障害物Aは、物体検知手段22によって検知された後、エリア1においてしきい値以下の滞留時間で通過してエリア2に移動するが、エリア2においてしきい値以上の滞留時間を要して滞留するため、障害物判断手段24によってエリア2において「踏切41内に障害物あり」と判断されて危険状態検知処理が行われることとなる。一方、障害物Bは、物体検知手段22によって検知された後、エリア1、エリア2及びエリア3のそれぞれにおいてしきい値以下の滞留時間で通過するため、最終 的に障害物判断手段24によって「踏切41内に障害物あり」と判断されず、したがって危険状態検知処理が行われることはない。
【0032】
なお、上記(1)のフローチャートにおいて、障害物A及び障害物Bの滞留時間はそれぞれ独立に計測される。すなわち、障害物Aまたは障害物Bのいずれか一方がエリア2に存在するという状態が継続した場合であっても、エリア2内における障害物Aの滞留時間と障害物Bの滞留時間との継続した滞留時間を加算して計測し、その滞留時間の合計がしきい値以上であるか否かを判断することはない。
【0033】
(2)第2の検知方法
まず始めに、検知装置を作動させた状態で、領域認識手段23によって認識された分割領域の一つに踏切41を横断する車両43が継続して滞留する時間の上限、すなわち滞留時間のしきい値、例えば6秒を予め設定しておく。そして、踏切41内に車両43が存在する場合には車両43の車両番号または記号、例えば障害物A、障害物B、・・・を付与する。このような状態で、以下に説明する第2の検知方法のフローがスタートする。
なお、第2の検知方法においては、踏切41内に存在する車両43の台数(個数)に関する情報を用い、車両43固有の車両番号または記号に関する情報を用いない。したがって、車両43の車両番号または記号を付与しなくてもよい。
【0034】
まず、エリア1、エリア2及びエリア3に存在する障害物を検知する前に、エリア1、エリア2及びエリア3それぞれに有する障害物の個数をリセットして0とする(ステップS201)。
次に、踏切41内に一つの障害物を検知したか否かを判断する(ステップS210)。
踏切41内に一つの障害物を検知したと判断した場合(ステップS210において「Yes」)、一つの障害物がどのエリアで滞留しているかをエリアごとに調査して認識する。
【0035】
すなわち第1に、一つの障害物がエリア1に存在するか否かを判断し(ステップS211)、一つの障害物がエリア1に存在する場合(ステップS211において「Yes」)、エリア1における障害物個数を1個加算する(ステップS212)。一つの障害物がエリア1に存在しない場合(ステップS211において「No」)、エリア1における障害物個数を加算しない。
【0036】
第2に、一つの障害物がエリア2に存在するか否かを判断し(ステップS213)、障害物がエリア2に存在する場合(ステップS213において「Yes」)、エリア2における障害物個数を1個加算する(ステップS214)。一つの障害物がエリア2に存在しない場合(ステップS213において 「No」)、エリア2における障害物個数を加算しない。
【0037】
第3に、一つの障害物がエリア3に存在するか否かを判断し(ステップS215)、一つの障害物がエリア3に存在する場合(ステップS215において「Yes」)、エリア3における障害物個数を1個加算する(ステップS215)。一つの障害物がエリア3に存在しない場合(ステップS117において「No」)、エリア3における障害物個数を加算しない。そして、ステップS220に進む。
なお、ステップS210において踏切41内に一つの障害物を検知しなかったと判断した場合(ステップS210において「No」)、ステップS220に進む。
【0038】
次に、踏切41内にステップS210において検知した一つの障害物以外に別の障害物を検知したか否かを判断する(ステップS220)。踏切41内に別の障害物を検知したと判断した場合(ステップS220において「Yes」)、別の障害物がどのエリアで滞留しているかをエリアごとに調査して認識する。
具体的には、別の障害物がエリア1〜3のいずれかに滞留しているかを認識するために、ステップS221からステップS226までのフローを実行してステップS231に進む。これらフローは、上記ステップS211からステップS216までのフローと同様である。したがってその説明を省略する。
なお、ステップS220において踏切41内に別の障害物を検知しなかったと判断した場合も同様に(ステップS220において「No」)、ステップS231に進む。
ここで、踏切41内にこれら2つの障害物以外の物体を検知する場合、ステップS210からステップS216までのフローと同様のフローを追加してもよい。ただし、本実施の形態においては、説明の簡略化のため、2つの障害物の存在のみを検知するフローとする。
【0039】
上記ステップS210からステップS226までのフローによりエリア1、エリア2及びエリア3に存在する障害物の個数が得られた後、エリア1、エリア2及びエリア3それぞれにおける障害物の滞留時間をエリアごとに調査して認識する。
すなわち、エリア1内に存在する障害物が1個以上であるか否かを判断し(ステップS231)、エリア1内に存在する障害物が1個以上である場合(ステップS231で「Yes」)、エリア1内に存在する障害物の滞留時間を認識する(ステップS232)。エリア1内に存在する障害物がない場合(ステップS231で「No」)、エリア1内に存在する障害物の滞留時間をリセットして0とする(ステップS233)。エリア2及びエリア3についても、エリア1におけるステップS231〜ステップS233と同様に処理する(ステップS234〜ステップS239)。
【0040】
その後、エリア1〜3のいずれかに滞留した障害物について、エリア1〜3におけるそれぞれの滞留時間が、予め設定された滞留時間のしきい値以上であるか否かを判断する(ステップS240)。そして、それら滞留時間がしきい値以上である場合(ステップS240において「Yes」)、踏切41に列車が接近しているか否かを判断する(ステップS241)。踏切41に列車が接近していると判断した場合(ステップS241において「Yes」)、「踏切41内に障害物あり」と判断して、接近する列車に対してその旨を通知する危険状態検知処理を行い(ステップS242)、フローを終了する。なお、それら滞留時間がしきい値以下である場合(ステップS240において「No」)、または踏切41に列車が接近していないと判断した場合(ステップS241において「No」)、危険状態検知処理を行うことなくフローを終了する。
上記フローを常時繰り返し行うことにより、検知装置が踏切41を常に検知することとなり、また、エリア1〜3のいずれかに少なくとも一つの障害物が滞留していた場合、そのエリアにおける障害物の滞留時間が加算されることとなる。
【0041】
図12は、上記(2)のフローチャートにおいて、踏切41内で車両43を2台検知してそれぞれ障害物A,Bとしたときの概略を示している。この場合、エリア2において、障害物Bがエリア2内に一定時間滞留した後、障害物Bがエリア2からエリア1に移動する前に障害物Aがエリア2内に滞留している。すなわち、障害物Aまたは障害物Bのいずれか一方がエリア2に継続して滞留しているため、障害物Bがエリア2内に存在した時点からエリア2の滞留時間を起算して、少なくとも1個の障害物が継続してエリア2に滞留している時間がしきい値以上となったときに、障害物判断手段24によってエリア2において「踏切41内に障害物あり」と判断されて、危険状態検知処理が行われることとなる。
【0042】
このような検知装置及びこの検知装置を用いた検知方法において、レーザレーダ10による踏切41の検知範囲が狭くなるように、所定の領域としての踏切41を、車両43の進行方向に対して複数、例えば3つのエリアに分割された分割領域(エリア1〜3)として領域認識手段23によって認識するため、レーザレーダ10による踏切41の検知範囲が広い場合であっても、レーザレーダ10を複数設置することなく、1個のレーザレーダ10のみを用いて分割領域に対して車両43を検知することが可能となる。このとき、それぞれの分割領域の検知範囲が狭いため、分割領域の1つ、例えばエリア2に所定時間継続して少なくとも1つの車両43が滞留したときに障害物判断手段24によって障害物が滞留していると判断する際、所定時間が短時間、例えば6秒以下に設定できる。これは、上記(1)及び(2)のいずれについても可能である。
【0043】
上記のような検知装置及び検知方法によれば、レーザレーダ10を複数設置することなく、1個のレーザレーダ10のみを用いて分割領域(エリア1〜3)に対して障害物を検知することが可能となるので、踏切41の周辺に設置する検知装置の設備費用を削減することができる。
また、レーザレーダ10による分割領域の検知範囲が狭いため、分割領域の1つに所定時間継続して少なくとも1つの物体が滞留したときに障害物判断手段24によって障害物が滞留していると判断する際、所定時間が短時間、例えば6秒以下に設定できるので、踏切41内において検知した車両43が障害物であるか否かを短時間で精度よく判断できる。
【0044】
なお、上記実施の形態において、図13に示すように、障害物判断手段24が、踏切41とその踏切41に進入する列車44との距離に応じて、所定時間としてのしきい値を切替えるように設定してもよい。すなわち、図13(a)に示すように、踏切41とその踏切41に進入する列車44との距離が長いときにしきい値を長く、例えば10秒に設定しておき、図13(b)に示すように、踏切41とその踏切41に進入する列車44との距離が短いときにしきい値を短く、例えば6秒に設定するようにしきい値を切替える。これによって、踏切41とその踏切41に進入する列車44との距離が短くなったとき、すなわち踏切41内に障害物が滞留しているという判断の迅速性を要求されたとき、障害物判断手段24によって障害物が滞留していると判断されるまでの時間が短縮されるため、迅速な判断が可能となる。
【0045】
また、上記実施の形態において、領域認識手段23によって認識される分割領域としてのエリア数は3つに限らない。また、物体検知手段22によって検知される車両43の数は2つに限らない。上記(1)または(2)を繰り返すことによって、任意のエリア数及び車両43の数に対応することができる。
【0046】
また、本発明は、上記実施の形態のように、踏切41に限定して適用するものではない。例えば、所定の領域を線路補修工事現場に設定し、作業員及び作業車両を検知してそれらが障害物であるか否かを判断するように検知装置及び検知方法を適用することで、上記実施の形態と同様の作用効果が得られることとなる。
また、上記実施の形態において、検知装置を列車制御システムと連動させて、危険状態検知処理を行う際に列車を停止させる制御を行うように設定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】検知装置の概略構成図である。
【図2】レーザレーダによる検知領域の走査形態を示す図である。
【図3】レーザレーダ画像の概略的な作成処理手段を示すブロック図である。
【図4】検知装置により検知される踏切の概略平面図である。
【図5】本実施の形態における第1の検知方法を示すフローチャートである。
【図6】本実施の形態における第1の検知方法を示すフローチャートである。
【図7】本実施の形態における第2の検知方法を示すフローチャートである。
【図8】本実施の形態における第2の検知方法を示すフローチャートである。
【図9】1つの物体が時間の経過とともに踏切を通過する様子を示す概略図である。
【図10】1つの物体が時間の経過とともに踏切に滞留する様子を示す概略図である。
【図11】2つの物体が時間の経過とともに踏切に滞留する様子を示す概略図である。
【図12】2つの物体が時間の経過とともに踏切に滞留する様子を示す概略図である。
【図13】踏切と列車との位置関係を示す平面図であり、(a)は、踏切と列車との距離が長いときの平面図、(b)は、踏切と列車との距離が短いときの平面図である。
【符号の説明】
【0048】
10 レーザレーダ
20 検知装置本体
21 レーザ情報作成手段
22 物体検知手段
23 領域認識手段
24 障害物判断手段
40 線路
41 踏切
43 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の領域を走査するレーザレーダと、
このレーザレーダにより検知される距離情報とその走査方向の情報とから3次元レーダ情報を求めるレーダ情報作成手段と、
前記3次元レーダ情報から前記所定の領域内に存在する物体を検知する物体検知手段と、
前記所定の領域を、前記物体の進行方向に対して複数に分割された分割領域として認識する領域認識手段と、
各々の物体毎に各々の分割領域における滞留時間を計時し、何れかの物体の何れかの分割領域における滞留時間が所定時間継続した場合に、障害物が滞留していると判断する障害物判断手段と
を備えることを特徴とする検知装置。
【請求項2】
所定の領域を走査するレーザレーダと、
このレーザレーダにより検知される距離情報とその走査方向の情報とから3次元レーダ情報を求めるレーダ情報作成手段と、
前記3次元レーダ情報から前記所定の領域内に存在する物体を検知する物体検知手段と、
前記所定の領域を、前記物体の進行方向に対して複数に分割された分割領域として認識する領域認識手段と、
各々の分割領域毎に物体の個数を判定し、各分割領域における物体の個数が1以上の場合に各分割領域における滞留時間を計時し、何れかの分割領域における物体の滞留時間が所定時間継続した場合に、障害物が滞留していると判断する障害物判断手段と
を備えることを特徴とする検知装置。
【請求項3】
前記障害物判断手段は、所定の領域と当該所定の領域に進入する列車との距離が長いときに所定時間を長く設定し、所定の領域と当該所定の領域に進入する列車との距離が短いときには所定時間を短く設定するように、前記所定の領域と前記所定の領域に進入する列車との距離に応じて所定時間を切替えることを特徴とする請求項1または2記載の検知装置。
【請求項4】
前記所定の領域は踏切であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−10681(P2007−10681A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231025(P2006−231025)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【分割の表示】特願2004−19884(P2004−19884)の分割
【原出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】