説明

構造体の欠陥を検知するための方法及びシステム

【課題】構造体の欠陥の有無を、構造体を破壊することなく簡便且つ正確に検知することができる欠陥検知方法及びシステムを提供する。
【解決手段】本発明に係る欠陥検知システム10は、検知対象である構造体2の表面に形成した発光膜1の発光を検出することによって、欠陥の有無を検知する。発光膜1は、発光粒子1aを含有している。欠陥が在る構造体2に歪みの変化が生じると、欠陥周辺に応力集中が起きて歪み、該表面の発光膜も歪む。その歪みエネルギーが発光粒子に伝播して発光するので、目視できない欠陥を、発光という形で構造体外部に示すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体に発生した減肉及びクラックといった欠陥を、構造体を破壊することなく検知することができる、構造体の欠陥検知方法及び欠陥検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造体の欠陥が発生すると、物体に応力がかかることによって欠陥周辺は異常歪みを生じ、破壊に繋がる場合がある。例えば、高架橋、橋梁、トンネル等の大型構造体のみならず、圧力容器、住宅の支柱、パイプライン等の様々な構造体にとって、欠陥は安全性を妨げる原因となる。そこで、従前より、構造体の欠陥や歪みを測定(検知)する技術が多数開発されている。
【0003】
例えば、構造体の表面に歪みゲージを貼り付けたものが広く知られている。この歪みゲージにより歪み量を直接的に検出することができ、更に、応力−歪み線図から対応する応力を求めることもできる。このようにして歪みを算出することにより、構造体の力学的な構造解析ができ、崩壊等の災害を未然に防止することが可能である。上記歪みゲージの場合は、橋梁等の貼付け面に密着するようにして貼り付けなければならず、しかも貼った箇所の計測しかできないため、計測点を多数設けなければならず、貼付け作業に手間がかかるという問題がある。当然、計測箇所が多くなるにつれ、計測システムは高価になる難点がある。また、長期に渡って歪みゲージを用いた測定を行う間に歪みゲージが貼付け面から剥がれてしまう虞があるため、信頼性を十分に確保することができない。更に、歪みゲージ自体を常時通電による計測状態にしておかなければならず、消費電力の点で効率が悪く、大型構造体の常時モニタリングに実用することは困難である。
【0004】
また、歪みゲージの他に圧電素子を用いたものも広く知られている。例えば、特許文献1、2にある技術では、圧電素子に圧力が加わり圧電体の分極が変化すると、電圧が発生するため、この性質を利用して構造体の発生応力変化を算出することができる。しかしながら、圧電素子の場合では、圧電体層のインピーダンスが高いため、ノイズが発生し易い傾向がある。また、構造体と圧電素子とが一体的になって歪む必要があるため、圧電素子を組み込んだ荷重測定装置を構造体にアンカーを用いて確実に固定する必要があり、手間がかかるという問題がある。
【0005】
構造体の安全性を妨げるものとして、クラックや減肉などの構造欠陥(異常)がある。クラックとは、物体に生じた割れ目のことである。減肉とは、何らかの原因で構造体の厚さ(肉厚)の異常が発生し、正常の肉厚より薄くなっていることである。
【0006】
既存の欠陥を検出するために、放射線や超音波を利用する方法がある。前者はX線やγ線などの放射線の透過作用を利用して構造体中の欠陥を検出する方法であるが、これは割れや空洞等の欠陥があると健全部に比べ透過放射線の吸収が少なく、その分、透過放射線強度が強くなり、結果的に透過放射線の強度変化によって欠陥の存在を検出する方法である。このため体積を持った欠陥ではあれば感度は得られるが、融合不良、割れ等の面状あるいは線状欠陥では放射線と欠陥との位置関係が重要となり、検知できないことがある。また検査に時間とコストがかかる。一方、後者は超音波の反射作用を利用して欠陥を検出する方法であるが、構造体の表面から超音波パルスを入射させ、その底面や欠陥などにより反射し、再び戻ってきた超音波パルスを受信することによって、超音波の伝播時間から反射源の位置を求め、受信した超音波パルスの強度から反射源の大きさ等を推定する方法である。
【0007】
構造体のクラック発生を検知するには、浸透検査液を用いた目視による検知方法や、アコースティック・エミッション法が用いられている。アコースティック・エミッション(acoustic emission、AE)とは、物体が変形や破壊するとき、内部の微小な動きに伴って超音波を含む弾性波が発生する現象(またその波)のことである。アコースティクエミッション法は、このアコースティック・エミッションを検出することによって、クラックの発生を特定することができる。しかしながら、アコースティック・エミッション法及び浸透検査液を用いた方法の場合、複雑な形状のクラックや、微小なクラックの検知は困難である。
【0008】
また、アコースティック・エミッション法に関しては、センサーをセットするだけの空間がない場合には、クラックの発生を知ることはできず、崩壊の危険性を測定するには、定期的に破壊検査を行う必要がある。
【0009】
更に、歪みゲージが貼り付けられたところにクラックが発生すると、歪みゲージが断線して検知不能になる。既に存在しているクラックについては、歪みゲージを用いることによって検知することが可能であるが、貼り付けられた場所の制限が大きい。
【特許文献1】特開2002−122574号公報(2002年4月26日公開)
【特許文献2】特開平10−227700公報(1998年8月25日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
すなわち、従前では、減肉やクラックといった欠陥を十分な信頼性のもとで検知する技術は存在していない。
【0011】
今日、世界各地で橋梁の崩落や配管の破裂といった事故が起きており、構造体の安全性に対する関心が高くなっており、構造体の欠陥を網羅的に解析・検知することができる技術が必要である。
【0012】
特に、圧力容器、橋梁の内部や配管の内面といった目視(視認)できない位置に在る欠陥や、視認できない程度に微小、複雑な形状の欠陥を、信頼性のもとで検知する技術が渇望されている。
【0013】
そこで、本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、構造体の欠陥の有無を、構造体を破壊することなく簡便且つ正確に検知し、構造体の変形及びクラック双方を良好に検知することができる欠陥検知方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは、発光粒子を含有する発光膜を用いることによって、減肉またはクラックといった構造体の欠陥を検知できることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、上述した問題を解決するために、構造体の表面側からは視認できない該構造体の内部及び/または裏面にある欠陥を、該表面側から検知する方法であって、歪みエネルギーを受けて発光するとともに、該歪みエネルギー密度の変化の大きさに比例した発光強度で発光する発光粒子を含有した発光膜を、上記構造体の上記表面の少なくとも一部分に形成し、上記構造体に歪みの変化を生じさせた状態で、上記発光膜の光に基づいて、上記裏面及び上記内部に在る欠陥を検知することを特徴としている。
【0016】
上述したように、構造体に欠陥があると、構造体に歪みの変化が生じたときに、欠陥の周辺に応力集中が起き、異常歪みが生じる。そこで、本発明に係る方法は、歪みエネルギーを受け取って発光する上記発光粒子を含有する発光膜を構造体の表面に設けたことによって、構造体と同じく発光膜を歪ませ、その歪みエネルギーを発光粒子に伝播することによって、発光粒子を発光させ、これを測光することによって、発光膜に対向する側(構造体の表面側)からは視認できない構造体の裏面及び内部の欠陥を検知することができる。
【0017】
ここで、上記表面とは目視できる面であり、上記裏面とは、該表面側からみたときに目視できない面のことである。面は曲面であってもよい。すなわち、構造体としては円柱のものも該当する。
【0018】
パイプを上記構造体とした場合、表面とは目視できる面のことである。また、裏面とは、水道管であれば水と接触するパイプ内面であってもよく、パイプの外面をある位置から目視した場合に、該外面における目視できない部分であってもよい。また、内部とは、上記表面から上記裏面までの間の部分をいい、パイプであれば、その厚み部分に相当する。
【0019】
上記の構成によれば、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、例えば構造体に荷重が加わったときに、構造体に安全性を妨げる異常な歪みを生じさせるタイプのあらゆる欠陥、具体的には、特定の領域(または特定の点)に安全性を妨げる異常な応力集中が起きて異常な歪みが生じるタイプのあらゆる欠陥を、発光膜を構造体の表面に設けるという簡易な構成によって検知することができる。
【0020】
また上記の構成によれば、本発明に係る方法は、上記発光粒子を用いることから、クラックが発生した場合であっても、歪みゲージのように断線する虞はなく、信頼性がある。すなわち、歪みケージは、金属線が多数配線されており、各金属線の抵抗の変化によって歪み変化の有無を検知する。そのため、クラックが発生したことによって、金属線が断線すると、全く検知機能を失ってしまう。これに対して、本発明の構成によれば、発光粒子を用いたことによって、断線という虞がなく、また、クラックなどによる発光は強くなるため、本発明に係る方法は、十分な信頼性のもとで欠陥検知を実行することができる。
【0021】
また、本発明の方法によれば、発光膜(発光粒子)が、受け取った歪みエネルギーの大きさに比例した発光強度で発光することから、欠陥の規模を判断することができる。
【0022】
尚、上記構造体に歪みの変化を生じさせた状態とは、何らかの手段によって構造体に荷重の変化をかけたり、上記構造体に超音波や衝撃波を与えて振動させることによって歪みの変化をもたらしたりするものであってもよい。また、構造体が後述するようなパイプ形状で、内部をガスや水が流れるような配管であれば、そのガス圧や水圧によって構造体に荷重をかけ、構造体に歪みの変化を生じさせてもよい。
【0023】
また、欠陥とは、上述したように、異常歪みを構造体に生じさせるタイプのあらゆる欠陥が該当する。具体的には、点状傷、線状傷(たとえばクラック)、面状傷(たとえば減肉)のほか、組成が不均一である箇所、例えばコンクリートを上記構造体とした場合に、或る部分において密度が他の部分よりも低くなっている(もしくは高くなっている)箇所や、金属構造体の溶接した部分の融合不良箇所も、欠陥に該当する。
【0024】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、上記発光膜を、樹脂材料と上記発光粒子との混合物を上記一部分に塗着させて形成する。
【0025】
これにより、塗着するという簡易な構成でありながら、剥がれる虞がなく、信頼性のある検知を実現することができる。
【0026】
また、上記と異なり、上記発光膜を、樹脂材料と上記発光粒子との混合物からなるフィルムを予め作成し、該フィルムを、上記一部分に貼り付けて形成してもよい。
【0027】
この構成によれば、フィルムを貼り付けるという簡易な構成でありながら、剥がれる虞がなく、信頼性のある検知を実現することができる。
【0028】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、上記発光膜の光を、受光手段によって受光することができる。
【0029】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、上記発光膜の光を、光電変換手段によって受光することができる。
【0030】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、上記発光膜の表面を動画撮影する撮像手段によって、上記発光膜の光を検出することができる。
【0031】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、上記構造体が中空構造体であってもよい。
【0032】
上記中空構造体の一例としてパイプを挙げると、欠陥を検知する際、例えばクラックが、パイプの内壁にある場合は、パイプの外面からはその有無や位置を検知することは困難である。しかしながら、本発明の方法を用いれば、クラックによって生じる歪みエネルギーを、パイプの外面に形成した発光膜を通じて目視することができる。上記中空構造体としては、パイプ以外にも圧力容器などのタンクを挙げることができる。
【0033】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、上記構造体として、金属、セラミック、プラスチック、ガラスまたはコンクリートを用いることができる。
【0034】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、上記発光膜を、上記発光粒子として発光に比例する歪みエネルギー密度が2000J/m以上である発光粒子を用い、上記樹脂材料として引張せん断接着強度が20Mpa以上である樹脂を用いて、両者を混合した混合物を、上記一部分に塗着させて形成することができる。
【0035】
本願発明者らは、例えば荷重をかけることによって構造体に歪みの変化を生じさせた際、減肉やクラックが存在する箇所の周辺に起きた応力集中によって生じた異常な歪みを、上記した混合物からなる発光膜を用いることによって、正確に検知することができることを見出した。
【0036】
通常、塑性変形が発生する時、歪みエネルギーの変化がないため、発光は増強すると考えていなかった。そこで、本発明の方法によれば、上記した構成を具備することによって、発光膜が強く発光し、構造体の欠陥周囲、あるいは構造体自体は塑性変形が発生したことを検知することができた。
【0037】
具体的には、上記の構成を具備することによって、発光膜と構造体表面との密着強度が強いので、構造体が塑性変形によって大きな歪みが発生しても、発光膜に伝播できるので、発光粒子周辺に大きな歪みエネルギーが生じる。また、発光に比例する歪みエネルギー密度が高い発光粒子を用いているので、大きなひずみエネルギーに対しても、発光強度が比例して増強することになる。そのため、正確な検知を実現することができる。
【0038】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、上記構造体に衝撃を与えて衝撃波を発生させることによって、当該構造体に歪みの変化を生じさせた状態を実現することができる。
【0039】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するためのシステムは、上述した問題を解決するために、表裏面を有する構造体の該表面の少なくとも一部分に形成した、歪みエネルギーを受けて発光するとともに、歪みエネルギー密度の変化の大きさに比例した発光強度で発光する発光粒子を含有した発光膜を用いた、構造体内部及び該裏面に在る欠陥を検知するシステムであることを特徴としている。
【0040】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための別のシステムは、上述した問題を解決するために、表裏面を有する構造体の該表面の少なくとも一部分に形成した、歪みエネルギーを受けて発光するとともに、歪みエネルギー密度の変化の大きさに比例した発光強度で発光する発光粒子を含有した発光膜を用いて、構造体内部及び該裏面に在る欠陥を検知するシステムであって、上記発光膜の光を受光して光電変換する光電変換手段と、上記光電変換手段によって生成される電気信号に基づいて、上記発光膜の発光強度を表示する表示手段とを備えていることを特徴としている。
【0041】
上述したように、構造体に欠陥があると、構造体に歪みの変化が生じたときに、欠陥箇所に異常歪みが生じる。そこで、本発明に係るシステムは、歪みエネルギーを受け取って発光する上記発光粒子を含有する発光膜を構造体の表面に設けたことによって、発光膜に対向する側(構造体の表面側)からは視認できない構造体の裏面及び内部の欠陥を検知することができる。
【0042】
ここで、上記表面とは目視できる面であり、上記裏面とは、該表面側からみたときに目視できない面のことである。面は曲面であってもよい。すなわち、構造体としては円柱のものも該当する。
【0043】
パイプを上記構造体とした場合、表面とは目視できる面のことである。また、裏面とは、水道管であれば水と接触するパイプ内面であってもよく、パイプの外面をある位置から目視した場合に、該外面における目視できない部分であってもよい。また、内部とは、上記表面から上記裏面までの間の部分をいい、パイプであれば、その厚み部分に相当する。
【0044】
上記の構成によれば、本発明に係るシステムは、例えば構造体に荷重が加わったときに、構造体に安全性を妨げる異常な歪みを生じさせるタイプのあらゆる欠陥、具体的には、特定の領域(または特定の点)に安全性を妨げる応力集中が起きて異常な歪みが生じるタイプのあらゆる欠陥を、発光膜を構造体の表面に設けるという簡易な構成によって検知することができる。
【0045】
また上記の構成によれば、本発明に係るシステムは、上記発光粒子を用いることから、クラックが発生した場合であっても、歪みゲージのように断線する虞はなく、信頼性がある。すなわち、歪みケージは、金属線が多数配線されており、各金属線の抵抗の変化によって歪みの有無を検知する。そのため、クラックが発生したことによって、金属線が断線すると、全く検知機能を失ってしまう。これに対して、本発明の構成によれば、発光粒子を用いたことによって、断線という虞がなく、また、クラックなどによる発光は強くなるため、本発明は、信頼性のある欠陥検知を実行するシステムを提供することができる。
【0046】
また、本発明のシステムによれば、発光膜(発光粒子)が、受け取った歪みエネルギーの大きさに比例した発光強度で発光することから、欠陥の規模を判断することができる。
【0047】
尚、上記構造体に歪みの変化を生じさせた状態とは、何らかの手段によって構造体に荷重の変化をかけたり、上記構造体に超音波や衝撃波を与えて振動させることによって歪みの変化をもたらしたりするものであってもよい。また、構造体が後述するようなパイプ形状で、内部をガスや水が流れるような配管であれば、そのガス圧や水圧によって構造体に荷重をかけ、構造体に歪みの変化を生じさせてもよい。
【0048】
また、欠陥とは、構造体の構造上の安全性を揺るがすものをいい、上述したように、歪みエネルギーを生じるタイプのあらゆる欠陥が該当する。具体的には、点状傷、線状傷(たとえばクラック)、面状傷(たとえば減肉)のほか、組成が不均一である箇所、例えばコンクリートを上記構造体とした場合には、或る部分において密度が他の部分よりも低くなっている(もしくは高くなっている)箇所や、金属構造体の溶接した部分の融合不良箇所も、欠陥に該当する。
【0049】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するためのシステムは、上記光電変換手段が、上記発光膜の表面を動画撮影する動画撮影手段であり、上記システムは、さらに、上記動画撮影手段によって動画撮影された画像データを画像処理する画像処理手段を備えていることが好ましい。
【0050】
上記の構成によれば、上記動画撮影手段によって、上記発光膜の表面を動画撮影することができるので、時間的に漏れ無く、発光膜表面の状態を観察することができる。また、上記画像処理手段を備えていることによって、動画撮像された画像データから、検知に最適な画像を取り出すことができるので、欠陥の位置や大きさなどを解析することができる。
【0051】
また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するためのシステムは、上記構造体に衝撃を与えて衝撃波を発生させる手段を、更に備えていることが好ましい。また、具体的には、上記構造体に衝撃を与えて衝撃波を発生させる手段は、上記構造体を衝打する衝打手段であることが好ましい。
【0052】
上記の構成によれば、上記構造体を衝打するという簡易な手法によって、上記発光膜を発光させるための歪みエネルギーを生じさせることができる。
【発明の効果】
【0053】
以上のように、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための方法は、以上のように、構造体の表面側からは視認できない該構造体の内部及び/または裏面にある欠陥を、該表面側から検知する方法であって、歪みエネルギーを受けて発光するとともに、該歪みエネルギーの変化の大きさに比例した発光強度で発光する発光粒子を含有した発光膜を、上記構造体の上記表面の少なくとも一部分に形成し、上記構造体に歪みの変化を生じさせた状態で、上記発光膜の光に基づいて、上記裏面及び上記内部の欠陥を検知することを特徴としている。また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するためのシステムは、以上のように、表裏面を有する構造体の該表面の少なくとも一部分に形成した、歪みエネルギーを受けて発光するとともに、歪みエネルギー密度の変化の大きさに比例した発光強度で発光する発光粒子を含有した発光膜を用いた、構造体内部及び該裏面に在る欠陥を検知するシステムであることを特徴としている。また、本発明に係る、構造体の欠陥を検知するための別のシステムは、以上のように、表裏面を有する構造体の該表面の少なくとも一部分に形成した、歪みエネルギーを受けて発光するとともに、歪みエネルギー密度の変化の大きさに比例した発光強度で発光する発光粒子を含有した発光膜を用いて、構造体内部及び該裏面の欠陥を検知するシステムであって、上記発光膜の光を受光して光電変換する光電変換手段と、上記光電変換手段によって生成される電気信号に基づいて、上記発光膜の発光強度を表示する表示手段とを備えていることを特徴としている。
【0054】
上記の構成によれば、構造体に異常歪みを生じるタイプのあらゆる欠陥を、構造体の表面に発光膜を設けるという簡易な構成によって検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下に、本発明に係る欠陥検知方法及び欠陥検知システムの一実施形態を説明する。
【0056】
本発明に係る欠陥検知方法及び欠陥検知システムは、任意の形状や材質の物体であり、被検知対象である構造体の欠陥の検知を行うために、該構造体の表面の少なくとも一部に、発光粒子を含有する発光層を形成することにより、欠陥の有無を発光層の光によって検知するものである。
【0057】
本願発明者らは、上述したように、構造体の欠陥に由来した歪みエネルギーを受けて発光する発光粒子を含有する発光膜を用いて、該欠陥を発光膜の光によって検知できることを見出した。具体的には、被検知対象である構造体にクラックのような欠陥があると、構造体に荷重をかけたときに、クラックの周辺に応力集中が起きて、歪みが生じる。構造体の歪みの変化は、構造体の表面に形成した発光膜に伝播し、発光膜内の発光粒子に歪みエネルギーが生じる(伝播)することで、発光粒子が発光する。このように、本発明によれば、構造体の欠陥を、発光という形で構造体外部に示すことができるため、構造体の内部及び/または構造体の裏側に生じた欠陥を外部から容易に検知することができる。
【0058】
(構造体)
構造体としては、欠陥検知を行う対象となるものであれば種々のものが採用できるが、本発明に係る欠陥検知方法及び欠陥検知システムは、後述するように、構造体から得られる歪みエネルギーが僅かな場合であっても、これを感度の高い発光粒子によって受け取って発光することができることから、歪みが小さい構造体、例えば、金属、セラミック、プラスチック、ガラス、繊維強化炭素材料といったものに対して好適に用いることができる。
【0059】
構造体の具体例としては、建物、高架橋、橋梁、道路、トンネル、線路、ダム、風力発電装置、円柱状の柱、ガス、石油等の貯蔵タンク、油田や原子力発電所等でのパイプライン、船舶、航空機及び車両等、人工関節、各種模型等の試験研究用器材を挙げることができる。本発明に係る欠陥検知方法及び欠陥検知システムは、システムの施工性の観点から、上記した構造体の中でも強度試験する構造物に好適に用いることができる。
【0060】
また、このように硬い構造体に限られず、紙やカードなどの柔らかい構造体にも好適に用いることができる。柔らかい構造体の場合、欠陥による歪みの変化は大きいため、発光膜(発光粒子)に伝播する歪みエネルギーは高い。柔らかい構造体に上記発光膜1を塗布する場合も、発光膜1は可能な限り薄く塗布することが好ましく、その厚さは1μm〜95μmが好ましい。上記のように薄く塗布することで、当該発光膜1に加わる曲げ応力が減少し、発光膜1の耐久性が向上するからである。
【0061】
(発光膜)
図1は、本実施形態におけるシステムの一部を示した図である。本システムは、欠陥検知対象である構造体2の表面(図中の2A)に発光膜1が形成されている。
【0062】
発光膜1は、発光粒子1aを少なくとも含有し、発光粒子1aが樹脂材料1b内に分散した形態である。尚、以下では、発光膜1が、発光粒子1aと樹脂材料1bとから構成されているものとして説明する。
【0063】
上記発光粒子1aの混入量は、発光膜1をその表面2Aに形成する構造体の用途に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは、上記樹脂材料1bの量を100重量部としたとき、発光粒子1aの量は10〜90重量部であり、より好ましくは20〜80重量部であり、さらに好ましくは30〜75重量部である。発光粒子1aの量を10〜80重量部とすることで、十分な発光総量が確保されるため、より良好な発光を得ることができ、また、得られる発光膜1の機械特性が向上する。
【0064】
発光膜1は、構造体2の表面に一定の厚みの層として形成され、その厚みは、構造体2の態様によって異なるが、5μm〜95μmが好ましく、さらに好ましくは10μm〜80μmである。厚みが、5μm以上であれば、発光膜1中に発光粒子1aの量を十分に含むため、十分な発光強度を得ることができ、95μm以下であれば、応力緩和が抑制され、十分な発光強度を得ることができる。さらに、10μm以上であれば、より多くの発光粒子を含むため、より良好な発光強度を得ることができ、80μm以下であれば、さらに応力緩和を抑制し、より良好な発光強度を得ることができる。なお、上記範囲内において、発光膜1の厚みが厚いほうが、再現性及び耐久性が向上する。例えば、ステンレス上に発光膜1を形成する試験を、繰り返して行えば、その効果を容易に確認できる。
【0065】
発光膜1の樹脂材料1bとして使用されるものとしては、構造体2の表面2Aに固着できるものであれば採用可能であり、また、後述するような発光粒子1aを強く保持固定できるものであれば、特に限定されない。
【0066】
樹脂材料1bとしては例えば、一液硬化型や二液硬化型の塗料や接着剤が採用されるが、構造体2との接着強度を考慮して、樹脂材料1bは、引張せん断接着強度が20Mpa以上である樹脂を用いることが好ましい。具体的にはエポキシ系樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。
【0067】
発光粒子1aは、母体材料に発光中心を添加させたものである。本発明に係る方法に用いられる発光膜は、発光粒子として、発光に比例する歪みエネルギー密度が20000J/m以上である発光粒子が用いられる。構造体に歪みをかけていくと、発光膜は同時に歪み、発光膜の発光強度は発光粒子の歪みエネルギー密度の増大と共に増大するが、ある時点から、歪みエネルギー密度は増大しても発光強度はそれ以上増大せず、低下していく現状がある。この「ある時点」は、発光に比例する歪みエネルギーをという。本発明に係る方法に用いられる発光膜の発光粒子は、大きな歪みが構造体にかかっても、発光強度は歪みエネルギー密度の増大に比例して増大する特性を有していることが好ましいため、この歪みエネルギー値が高いほうが好ましい。そこで、発光粒子として、発光に比例する歪みエネルギー密度が2000J/m以上である発光粒子を用いる。これにより、クラックのような比較的大きな歪みエネルギーを生じるものであっても、発光強度の低下は見えず、高感度を保持することができる。より好ましくは、2500J/m以上である。尚、歪みエネルギー密度は、発光粒子を受けた応力と歪みの積によって算出できる。
【0068】
具体的には、発光粒子1aは次のメカニズムで発光する。すなわち、荷重がかかることによって構造体2が歪むと、構造体2の表面2Aに形成された発光膜1も同時に歪む。その際、歪みエネルギーが発光膜1の発光粒子1aに伝播し、発光中心元素の周囲に電界を発生させる。発生した電界によって、発光中心元素中にある電子は励起されるが、励起された電子は瞬時に基底状態に戻り、その位置エネルギーの差分に相当する光エネルギーが放出される。これが発光のメカニズムである。
【0069】
上記母体材料としては、例えば、スタフドトリジマイト構造、三次元ネットワーク構造、長石構造、格子欠陥制御をした結晶構造、ウルツ構造、スピネル構造、コランダム構造又はβ−アルミナ構造を有する酸化物、硫化物、リン酸塩、ケイ酸塩、炭化物又は窒化物を用いることができる。
【0070】
上記発光中心としては、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの希土類イオン、及び、Ti,Zr,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Nb,Mo,Ta,Wの遷移金属イオンを用いることができる。
【0071】
母体材料として、例えばストロンチウム及びアルミニウム含有複合酸化物を用いる場合、発光粒子として、xSrO・yAl・zMO(Mは二価金属、Mg,Ca,Ba,x,y,zは整数である。即ち、Mは二価金属であれば限定されるものではないが、Mg、Ca、Baが好ましい。またx,y,zは1以上の整数を表す。)、xSrO・yAl・zSiO(x,y,zは整数である)を用いると良い。
【0072】
中でも、SrMgAl1017:Eu、(SrBa1−x)Al:Eu(0<x<1)、BaAlSi:Eu等が挙げられる。
【0073】
上述したように、本発明に有効な発光粒子は、降伏歪みエネルギーの大きい発光粒子であることが好ましい。そのため、α―SrAl構造で、発光中心をEuとしたものがよい。
【0074】
また、感度を高めるために、格子欠陥を賦与したほうが有用であるが、歪みエネルギーを高めるためには、Sr2+より小さな遷移金属Ti4+イオンの共添加したものは、発光に比例する歪みエネルギー密度が1000J/m未満であるため、望ましくない。
【0075】
具体的には、本発明では、ホルミウム(Ho)共添加が最も有効である。Ho共添加を行うことによって、深い格子欠陥を導入できることによって、大きいひずみエネルギーに対する感度を向上させることができる。
【0076】
しかしながら、共添加物質としては、Hoに限定されるものではない。例えば、Nd、Erであってもよい。
【0077】
発光粒子1aの粒子径については、高い分解能を得るべく、粒子径は可能な限り小さい方がよい。具体的には、平均粒子径が20μm以下であることが好ましい。また、より好ましくは、10μm以下であることが好ましい。粒子径が20μmを超えると、均一な発光膜を得るために、100μm以上の膜厚が必要になり、応力緩和が生じやすくなり、高感度に欠陥を検出することができない。
【0078】
次に、裏面2Bに欠陥2Cのある構造体2の表面2Aへの発光膜の形成方法について説明する。
【0079】
発光膜1を形成するためには、まず、樹脂材料1b内に発光粒子1aが均一に分散された発光膜材料を準備する。そして、この発光膜材料を塗布液として、構造体2に塗布することによって作成される。
【0080】
塗布液は、発光膜1を構成するエポキシ樹脂やウレタン樹脂、樹脂の架橋・硬化反応を制御するための硬化剤と溶剤、発光粒子及び発光粒子を均一分散させるための分散剤・補助剤、を均一に混合して作成する。分散(混合)方法は、特に限定されない。
【0081】
塗布方法としては、スプレー法、スクリーン印刷などを用いることができる。スプレー法は、曲面や複雑の表面に非常に平滑な膜を得ることができ、大面積の塗膜を得ることができる。塗布液の樹脂としてエポキシ系を用いれば、20Mpa以上の引っ張り接着強度が得られ、特に好ましい。
【0082】
また、構造体2の表面2Aに所定の厚さの発光膜1を形成するためには、塗膜プロセスを制御する必要がある。スプレーを用いる場合、塗布液の粘度と塗膜速度で膜厚を制御できる。所定の厚さは必ずしも均一にならない場合があるが、この場合はバックグランドとの差を取ることによって、膜厚の不均一性の影響を除去すればよい。
【0083】
塗布液を塗布した後、樹脂材料1bの硬化・架橋反応を行う。
【0084】
以上の方法によって、図1に示したように、構造体2の表面2Aに所定の厚さの発光膜1を形成することができる。
【0085】
(欠陥検知システム)
図2は、本実施形態における欠陥検知システムの構成を示した図である。
【0086】
本システム10においては、発光膜1の発光強度を検出するカメラ3(光電変換手段、動画撮影手段)と、発光強度と撮像情報を処理する画像処理装置4(画像処理手段)と、表示装置5と、記録装置6とを備えている。
【0087】
構造体2の表面2Aに発光粒子1aを含む発光膜1が形成されており、構造体2に荷重を加えて変形させる(歪ませる)と、その変形と対応するように発光膜1も変形し、その歪みエネルギーにより発光粒子が発光する。そこで、本システム10は、この発光量を測光する。
【0088】
発光粒子1aから放射された光は、発光膜1の発光強度を検出するために配置されたカメラ3によって検知され測光される。
【0089】
このカメラ3内には集光レンズ及び撮像素子が設けられ、発光膜1からの光は集光レンズで集光され、撮像素子で受光される。
【0090】
撮像素子では光電変換が行われ、その出力信号は、同じくカメラ3内に設けられたA/D変換器によってデジタル信号に変換されて発光強度を検出する。
【0091】
本発明のシステムでは、高速な撮影にも適用できる。たとえば、高速(シャッタースピードが最高1秒間に2万枚)連続的に発光過程を撮影する場合、カメラ3には、光電子倍増管で光を電気に変換し、電気信号の増幅はCMOSなどの高性能の電子回路を用いることが好ましい。その理由は、高速になると、露光時間が短くなり、発光膜1からの光は微弱になるためである。また、静止画として発光を検出する場合は、露光時間が長く取ることができ、光量が増えるため、一般的なデジタルカメラや銀塩反応を利用したフィルム写真などを利用することができる。
【0092】
このデジタル信号は、例えばケーブルを介して画像処理装置4に入力される。
【0093】
画像処理装置4では、続く表示装置5において発光状態を表示できるように、表示信号を表示装置5に向けて出力する。
【0094】
表示装置5は、従来公知の表示手段が用いられており、画像処理装置4から受けた表示信号に基づいて、表示画面に発光状態を表示する。
【0095】
尚、図2では、カメラ3を1台のみ用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、図3のような構成としてもよい。
【0096】
図3は、本実施形態のシステムの他の形態である。
【0097】
図3に示すシステム10´は、2台のカメラ3を備えている点で、図2に示したシステム10と異なっている。図3に示すシステム10´は、2台のカメラ3によって構造体2の表面形状を撮影した撮影情報が画像処理装置4に入力され、画像処理装置4では、撮像された情報に基づき構造体2の三次元形状が算出される。
【0098】
三次元形状が分かれば、各カメラ3から測定点までの距離も算出でき、光源からの距離が長くなると照度が低下する点を考慮した発光強度の補正処理を行うことができる。
【0099】
すなわち、撮像素子から得た受光強度の分布を補正処理することにより、実際の構造体の歪み分布をリアルタイムに算出決定できる。
【0100】
なお、構造体2の三次元形状は、例えば、ステレオ法、視体積交差法、エッジ法、等輝度線法などの手法を用いて算出される。
【0101】
画像処理装置4により得られた構造体2の三次元応力分布は、表示装置5に表示され、三次元応力分布データは記録装置6に記録される。
【0102】
記録装置6には、例えばハードディスクが内蔵され、このハードディスクに記録されたり、或いはフレキシブルディスクやフラッシュメモリ等の運搬可能な記録媒体に記録される。
【0103】
以上のように、本実施形態に係る欠陥検知方法及び欠陥検知システムは、歪みエネルギーを受け取って発光する上記発光粒子を含有する発光膜を構造体の表面に設けたことによって、構造体と同じく発光膜を歪ませ、その歪みエネルギーを発光粒子に伝播することによって、発光粒子を発光させ、これを測光することによって、発光膜に対向する側(構造体の表面側)からは視認できない構造体の裏面及び内部の欠陥を検知することができる。
【0104】
そのため、荷重が加わったときに周辺に応力集中を起こし、異常歪みを生じさせるタイプのあらゆる欠陥を、発光膜を構造体の表面に設けるという簡易な構成によって検知することができる。具体的な欠陥としては、クラック(線状傷)以外にも点状傷、面状傷(減肉)、更には、組成が不均一である箇所、例えばコンクリートを上記構造体とした場合に、或る部分において密度が他の部分よりも低くなっている(もしくは高くなっている)箇所や、金属構造体の溶接した部分の融合不良箇所も該当する。
【0105】
また、本発明によれば、発光粒子1aを用いることから、クラックが発生した場合であっても、歪みゲージのように断線する虞はなく、信頼性がある。すなわち、歪みケージは、金属線が多数配線されており、各金属線の抵抗の変化によって歪みの有無を検知する。そのため、クラックが発生したことによって、金属線が断線すると、全く検知機能を失ってしまう。これに対して、本発明の構成によれば、発光粒子を用いたことによって、断線という虞がなく、また、クラックなどによる発光強度は強いため、本発明によれば、十分な信頼性のもとで欠陥検知を実行することができる。
【0106】
また、本発明によれば、発光膜(発光粒子)が、受け取った歪みエネルギー密度の変化の大きさに比例した発光強度で発光することから、欠陥の規模を判断することができる。
【0107】
尚、本実施形態のシステムは、構造体2に歪みの変化をもたらすための手段(荷重をかける手段)は設けていない。例えば、構造体が、ガス管や水道管のような配管であれば、そのガス圧や水圧によって構造体に荷重をかけた状態を実現することができるため、システムとして上記のような手段は設ける必要はない。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、上記構造体にこのような手段を備えていても良い。
【0108】
また、荷重とは、圧縮、引っ張り、捻り、衝撃などの荷重も含まれる。
【0109】
荷重量は、構造体の形態、構造体の材質、厚さ等によって、適宜設定することができるが、たとえば、圧力容器の品質検査には、塑性変形を引き起こすような荷重量(圧力)を加えて、歪ませながら、欠陥の有無の検査をする。
【0110】
具体的な手法の一つとして、構造体を衝打することによって、構造体に衝撃波を発生させる手法がある。詳細は、後述する実施例にて説明するが、例えば、ハンマーのような衝打手段を用いて、衝打する。これにより、構造体に衝撃波を生じさせ、構造体に歪みの変化をもたらすことができる。衝打の場所は、発光膜が貼り付けられた領域であってもよいが、当該領域以外の領域(例えば、発光膜が貼り付けられた面の裏面)でも有効である。また、上述した衝打手段に限らず、構造体に衝撃波を発生させる手段は、圧電体を使ってパルス状の力を発生させる手段を利用することができる。また、パルス状のレーザーで熱的に衝撃波を表面に発生させることもできる。少量な炸薬によって振動パルスを発生させる手段も利用できる。
【0111】
以下、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【実施例】
【0112】
〔実施例1:発光膜を用いた点状傷の検知〕
図1の構造体2に相当するものとして、縦100mm×横25mm×厚さ3mmのステンレス板(以下、構造体2と記載する)を用いた。
【0113】
図4の(a)で示した図面は、構造体2の裏面2B(図1)の構造を示した模式図で、裏面2Bに、矢印で示した位置に点状の傷を設けている。点状傷は、ドリルによって形成したものである。
【0114】
図4の(b)は、構造体2の裏面2Bの撮像画像である。この撮像は、高速カメラ(フォトロン社製、型式FASTCAM-512PCI model 2K)で、レコードレート(fps)が60、シャッタースピードが1/60sという条件で行った。図4中、矢印Aで示したものが3mm幅、矢印Bが1mm幅、矢印Cが0.5mm幅の大きさの点状傷である。点状傷の深さ、すなわち、裏面Bからの深さは、何れも0.5mmとした。
【0115】
図4に示した点状傷は微小であり、目視が容易ではなく、もし、このような傷が目視できない位置にあれば、当然、目視では検出できない。そこで、本実施例では、この構造体2の表面2Aに次のような発光膜を形成した。
【0116】
まず、下記の方法によって上記塗布液を調製した。
【0117】
具体的には、発光粒子は平均粒子径1μmのSrAl:Eu,Hoを用いた。発光粒子の合成は、純度99.9%以上の原料を用いて(高純度化学製SrCO,Al,Eu, Ho)、モル比で0.95:1:0.001:0.001秤量、エタノール中に均一に混合し、空気中で800℃4時間を焼成した後、5%H還元雰囲気中に1300℃4時間焼成することにより純相の結晶構造が得られた。得られた試料をボールミル粉砕し、微粉体が得られた。樹脂は引っ張り接着強度30MPaの2液型のエポキシ樹脂を用いた。先に発光粒子と樹脂と重量比50:50の比率で秤量・混合し、1時間ボールミルで分散させた後、所定量の硬化剤、溶剤を加えさらに均一に分散させ、スプレー塗布液とした。
【0118】
得られた塗布液を、スプレー法によって構造体2の表面2Aに塗布し、厚さ20μmの発光膜1を形成した。構造体2の表面2Aは、発光膜を平坦に形成しただけであり、裏面2Bの点状傷の影響を受けず、均一な表面であった(データ不図示)。
【0119】
次に、発光膜1を形成した構造体2に対して、図4の(a)の矢印で示した方向に、0から最大20kNの荷重を加えた。20kN時点での発光膜1の発光粒子の歪みエネルギー密度は、10000J/m程度と推定されている。尚、発光膜1の発光粒子の歪みエネルギー密度は、200000J/mを優に超えている。結果の一例を、図5に示す。
【0120】
図5の(a)は、8kNの時点での構造体2の表面2Aの撮像画像である。撮像は、図4の(b)と同じくカメラ(型式FASTCAM-512PCI model 2K)で、レコードレート(fps)が60、シャッタースピードが1/60sという条件で行った。図5の(a)に示すように、構造体2の表面2Aであるにもかかわらず、図4の(a)及び(b)に示した点状傷に相当する位置に、発光が認められた。また、その発光強度は、図4の(a)及び(b)に示した点状傷の大きさに応じて、矢印A、矢印B、矢印Cの順で小さくなっていることが示された。
【0121】
発光強度をより明確に示すために、図5の(a)で得られた画像データを、図3で示した画像処理装置4にて処理したものを図5の(b)に示す。図5の(b)では、発光強度は発光画像からバックグランドを引いたものにすることにより、膜厚の不均一性の影響を除去することができる。発光強度に応じて、擬似カラーを適応している。擬似カラーを適用した結果、発光強度の大小は一目瞭然となり、点状傷の有無、位置、その大きさが目視し易くなっていることがわかる。また、画像処理装置4を用いれば、例えば、図5の(c)に示すように、3次元画像を得ることができ、多角度で構造体を視認することができる。
【0122】
さらに、図6には、カメラ3で撮像した画像データの形式を適宜設定することによって、様々な解析ができることを示している。図6の(a)において四角で囲んでいるエリアの発光強度の分布を2次元的に解析したものが図6の(b)である。また、同じく図6の(a)において四角で囲んでいるエリアを、3次元的に解析したものが図6の(c)である。このような多面的な解析を実行することによって、欠陥を詳細に分析することができる。
【0123】
以上のことから、本発明によれば、構造体の裏面にある点状傷を、構造体の表面に設けた発光膜によって簡易に検知することができる。詳細には、本発明によれば、裏面にある小さな傷であっても、表面の発光膜の発光の広がりによって大きく拡大されて、容易に検出することができる。
【0124】
〔実施例2:発光膜を用いた線・面状傷の検知〕
図1の構造体2に相当するものとして、縦125mm×横25mm×厚さ3mmのアルミニウム板(以下、構造体2と記載する)を用いた。
【0125】
図7の(a)は、構造体2の裏面2Bの撮像画像である。この撮像は、FASTCAM-512PCI model 2K(フォトロン製高速カメラ)で、レコードレート(fps)が500、シャッタースピードが1/500sという条件で行った。図7の(b)で示した図面は、構造体2の裏面2Bの構造を示した構造体2の斜視図である。図7に示すように、裏面2Bには、線状傷及び面状傷9を設けた。線状傷及び面状傷9の大きさは1.7mm×7mm×裏面Bからの深さ0.5mmとした。線状傷及び面状傷9は、ヤスリによって形成したものである。
【0126】
本実施例では、この構造体2の表面2Aに発光膜1を形成した。発光膜1は、実施例1と同じ材料の塗布液を用いて、実施例1と同じ方法によって、裏面2Bに厚さ10μmの発光膜1を形成した。塗布液の作製方法、及び塗布方法は、実施例1と同じである。
【0127】
尚、本実施例では、構造体2の裏面Bに図7に示すように、歪みゲージ100(共和電業製、型式KFG-5-120-C1-23L1M2R)を設置した。
歪みゲージ100は、線状傷及び面状傷9から3mm離れた位置に貼り付けた。歪みゲージ100は、欠陥の周辺のひずみ状態を検証するために設けた。
【0128】
次に、表面2Aに発光膜1を形成し、裏面2Bに歪みゲージを貼り付けた構造体2に対して、図7の(a)の矢印で示した方向に、12kN(160MPa)の引っ張り荷重を与えた。具体的には、毎秒6kNの荷重速度で、構造体2に対して引っ張り荷重を与えた。
【0129】
その結果を、図8に示す。
【0130】
図8の(a)は、横軸に時間(単位:秒)をとって、荷重と、歪みゲージにより計測された歪み(単位:μst)との関係を示している。図8の(a)からわかるように、荷重は、荷重負荷を開始してから2秒後に最大荷重12kNが負荷され、そこから2秒後に荷重負荷をゼロにした。歪みゲージの計測結果から、最大荷重12kNが負荷された時点で歪み量が最大となることがわかる。
【0131】
一方、図2に示したカメラ3は、構造体2に対して荷重が負荷されている間、構造体2の表面2Aの発光膜1形成部分を撮像した。具体的には、カメラ3は、絞り1.2、ゲイン6.25、500fps、シャッタースピード1/500秒の条件で撮像した。
【0132】
図8の(b)は、上記の条件にて撮像された画像のうち、最大荷重12kNが負荷された時点の撮像画像の例である。
【0133】
図8の(b)をみると、線状傷及び面状傷9周辺に異常発光が見られる。図8の(b)中の四角で囲んだ領域Aと領域Bについて、発光強度をグラフに示したものが図8の(c)である。図8の(c)には、荷重をかけていない時点での、領域A,Bの発光強度を示している。図8の(c)から、荷重がかかった状態の構造体2の表面に形成された発光膜1の一部が、異常発光することがわかる。尚、線状傷及び面状傷がない構造体では、図8の(a)のように荷重をかけても、発光膜1は発光の分布を示さない(データ不図示)。
【0134】
このように、本発明によれば、構造体の裏面にある線状傷及び面状傷を、構造体の表面に設けた発光膜によって簡易に検知することができる。すなわち、線状傷及び面状傷のある位置から離れたところでも発光分布の均一性から欠陥があることを推定できる。
【0135】
〔実施例3:発光膜を用いた、塑性変形が伴う欠陥検知〕
本実施例では、実施例2と同じ構造体及び発光膜を用いて、最大荷重を13.5kN(180MPa)とした。荷重速度は、毎秒6.75kNとした。そのデータを、図9に示す。
【0136】
図9の(a)は、横軸に時間(単位:秒)をとって、荷重と、歪みゲージにより計測された歪み(単位:μst)との関係を示している。ここで、荷重負荷を終了した時点(荷重ゼロの時点)をみると、歪みが500μst余りあることが判る。すなわち、本実施例で用いた構造体2の歪みゲージを貼ったところは、13.5kNが負荷された時点で塑性変形している。
【0137】
このように塑性変形に伴う欠陥検出について、実施例2と同じ条件で撮像し、上記の条件にて撮像された画像のうち、最大荷重13.5kNが負荷された時点の撮像画像を図9の(b)に示す。
【0138】
図9の(b)をみると、異常発光が見られる。図9の(b)中の四角で囲んだ領域Aと領域Bについて、発光強度をグラフに示したものが図9の(c)である。図9の(c)には、荷重をかけていない時点での、領域A,Bの発光強度も示している。図9の(c)から、荷重がかかった状態の構造体2の表面に形成された発光膜1が、異常発光していることがわかる。
【0139】
このように、本発明によれば、構造体の裏面にある欠陥が、塑性変形を伴うと、鮮明に観察でき、構造体の表面に設けた発光膜によって簡易に検知することができる。
【0140】
〔実施例4:衝撃波の発生による欠陥検知〕
(1)点状欠陥
上述した衝撃波の発生による欠陥検知を以下の通り行なった。
【0141】
図10(a)及び(b)は、本実施例に用いた欠陥検知システムの構成を示した図である。図10に示すように、支持台11に支持された構造体2の一方の面には、発光膜が貼り付けられており、当該発光膜の対向側に撮像手段として動画撮影できるカメラ3が備えられている。構造体2の他方の面側には、衝撃波を発生させる手段として衝打手段であるハンマー12が、他方の面の一部分を衝打できるように配置されている。ハンマー12は、図10(b)に示すように、柄12aと本体部12bとを有しており、柄12aにおける本体部12bとは反対側の端部を支点13として、90°の角度範囲で可変し、図10(b)において破線で示すように構造体2の他方の面を衝打することができる。
【0142】
本実施例では、構造体2は、縦225mm×横25mm×厚さ2mmのアルミ(以下、構造体2と記載する)であり、ハンマー12の本体部12bは、ステンレス製である。また、本実施例で用いた発光膜は、実施例1と同じ材料の塗布液を用いて、実施例1と同じ方法によって、構造体2の他方の面に厚さ10μmの発光膜を形成した。塗布液の作製方法、及び塗布方法は、実施例1と同じである。
【0143】
図11(a)に、支持台11(図10(a))に支持された構造体2の一方の面(表面)と他方の面(裏面)とを示す。構造体2の表面の一部には、上記の手法で形成された発光膜1が付着している。一方、構造体2の裏面には、直径1.3mmで、深さ1.225mmの孔(点状欠陥)14が形成されており、孔14の位置は、表面の発光膜1のちょうど裏面となるようにした。そして、構造体2の裏面に示した衝打位置を、ハンマー12を用いて衝打した。衝打位置は、構造体2の表面の発光膜1から外れた位置であって、孔14から直線距離で2.2cmあった。
【0144】
尚、構造体2の表面には、衝打位置のちょうど反対側の位置に、歪ゲージを取り付けた。これにより、構造体2に生じる歪みを測定した。
【0145】
歪ゲージが計測した構造体2の歪みの変化については図示しないが、図11(b)に、構造体2の表面の発光膜1の発光状態をカメラ3(図10(a))で撮影したものを示す。尚、本実施例では、衝打前から衝打後までの間の発光膜1の状態を動画撮影しており、図11(b)に示す画像は、動画画像の或る時点のフレームである。
【0146】
図11(b)に示すように、衝打直後に発光が確認できた。この発光位置は、図11(a)に示した孔14の周囲に相当している。
【0147】
この実施例から、発光膜1を用いれば、孔14の存在を、孔14とは異なる位置を衝打することによって検知することができることが示された。尚、本実施例では、構造体2の裏面を衝打しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、発光膜1が形成されている構造体2の表面を衝打することによっても、同様の結果を得ることができる(データ不図示)。
【0148】
(2)線状欠陥
上記では、点状欠陥の検知を実証したが、以下では、線状欠陥の検知を実証する。
【0149】
上記した点状欠陥との違いは、構造体2に形成したノッチ(線状欠陥)15である。図12(a)は、構造体2の表面と裏面とを示している。図12(a)に示すように、表面の紙面右側に、幅0.3mmで、深さ3mmのノッチ15が形成されている。上記ノッチ15以外は、上記した点状欠陥の構造体2と同じであり、図12(a)の裏面に示した衝打位置を、ハンマー12を用いて衝打した。衝打位置は、ノッチ15から直線距離にして4.3cm離れた位置に設定した。また、構造体2の表面には、衝打位置のちょうど反対側の位置に、歪ゲージを取り付け、構造体2に生じる歪みを測定した。
【0150】
図12(b)に、構造体2が衝撃を受けたときの歪みの変化を示す。本実施例では、計測を開始して約0.6秒、約1.0秒、約1.4秒後に、ハンマー12(図10(a))で衝打して歪みパルスを生じさせた。図12(c)に、計測を開始して約1.0秒後に衝打したときのの、構造体2表面の発光膜1の発光状態をカメラ3(図10(a))で撮影したものを示す。尚、本実施例では、衝打前から衝打後までの間の発光膜1の状態を動画撮影しており、図12(c)に示す画像は、動画画像の或る時点のフレームである。
【0151】
図12(c)は、左側の画像がブランクであり、右側の画像が7.7μstの歪みを生じた構造体2の発光状態を示したものである。図12(c)の右側の画像が示すように発光が確認できた。この発光位置は、図12(a)に示したノッチ15の周辺に相当している。
【0152】
すなわち、本実施例によって、構造体に衝撃波の生じさせるという簡易な手法によっても発光を確認し、欠陥を検知することができることが証明された。また、構造体の歪みが、10μst以下という非常に小さな歪みであっても、発光を確認することができ、性能の高い欠陥検知を実現することを実証することができた。
【0153】
また、従来のように欠陥検知を歪ゲージによって行なう場合は、検出可能位置は、歪ゲージが設けられた位置に限定されるが、本発明は、発光膜1という比較的広い範囲内を検知可能領域とすることができる。
【0154】
尚、本実施例では、構造体としてアルミ板を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、点状欠陥あるいは線状欠陥を形成したアクリル板を用いた場合であっても、上記と同様に発光を確認することができ、欠陥を検知することができた(データ不図示)。
【0155】
〔実施例5:コンクリートの欠陥検知〕
図13(a)は、構造体2としてコンクリート片を用いた場合の欠陥検知システムの概要を示した図である。直方体のコンクリート片16を、図13(a)に示すように、4点曲げのように両端を支えて上から力をかけて歪ませた。図13(a)に見えるコンクリート片16の面に、発光膜を付着させた。本実施例で用いた発光膜も、実施例1と同じ材料の塗布液を用いて、実施例1と同じ方法によって、コンクリート片16の他方の面に厚さ10μmの発光膜を形成した。塗布液の作製方法、及び塗布方法は、実施例1と同じである。また、当該発光膜の対向側に撮像手段として動画撮影できるカメラが備えられている(不図示)。本実施例では、長さ5cm、幅1cm、高さ0.5cmのコンクリート片16を用いた。コンクリート片16は、長年、外部環境に曝されていたものであり、橋梁構造の一部であったものである。また、本実施例の場合も、図13(a)のコンクリート片16の下面に歪みゲージを取り付けた。図13(b)は、コンクリート片16に加えられた荷重と、歪みゲージで計測した歪みとを時間を追って表したグラフである。図13(b)から、歪みの変化傾向は荷重のそれと一致していることがわかる。
【0156】
次に、時間の経過とともに、荷重の大きさを変化させ、コンクリート片16に形成した発光膜の発光状態を観察した結果を、図14に示す。図14の紙面右側が荷重の大きさと時間の経過との関係を示したグラフであり、図14の紙面左側に、当該グラフに示したように、複数の時点での発光膜の発光状態をカメラで撮影したものを示す。尚、本実施例では発光膜の状態を動画撮影しており、図14の紙面左側の画像は、動画画像から複数の時点のフレームを取り出した状態を示している。
【0157】
図14の紙面左側の画像中の丸で囲んだ位置をみると、或る時点で発光が確認できた。この発光は、発光していない他の領域と比較して歪みエネルギーが集中している箇所であり、構造体として劣化していることを示している。すなわち、欠陥があることを示している。
【0158】
また、図15には、画像中に四角で囲んだ箇所の発光強度を、時間を追って示したグラフを示した。尚、グラフの横軸の65000の位置で強度が一定になっているのは、カメラのレンジを超えてしまったためである。このように、発光強度の大きさをみることにより、欠陥のレベルの大きさを把握することができる。すなわち、劣化の大きさを把握することができる。
【0159】
以上に示したように、本発明のシステムを用いれば、コンクリートに生じた欠陥を検知することを実証できたことから、建造物の欠陥を検知する手法として有用であることが示された。
【0160】
以上の種々の実施例から、本発明によれば、異常歪みを生じさせるタイプのあらゆる欠陥を、発光膜を構造体の表面に設けるという簡易な構成によって検知することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明に係る欠陥検知方法及び欠陥検知システムは、構造体に荷重が加わったときに欠陥周辺に応力集中を起こし、異常歪みを生じさせるタイプの欠陥であれば、目視できない大きさであったり、目視できない位置にあっても、発光膜を構造体の表面に設けるという簡易な構成によって検知することができる。
【0162】
従って、建物、高架橋、橋梁、道路、トンネルといった大型構造物、圧力容器など中型構造製品、各種構造部品の安全管理のために好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】本発明に係る欠陥検知方法に用いる発光膜と、検知対象である構造体との関係を示した図である。
【図2】本発明に係る欠陥検知システムの一実施形態の構成を示した図であり、発光膜と、検知対象である構造体との関係を示した図である。
【図3】本発明に係る欠陥検知システムの他の形態の構成を示した図である。
【図4】(a)は、構造体の裏面の構造を示した模式図であり、(b)は、該裏面の撮像画像である。
【図5】(a)は、図4に示した構造体の表面の撮像画像であり、(b)及び(c)は、(a)の画像データを画像処理したものである。
【図6】(a)は、図4に示した構造体の表面の撮像画像であり、(b)及び(c)は、(a)で示した表面の部分領域の発光強度を示したグラフである。
【図7】構造体の線状傷及び面状傷部分の模式図である。
【図8】(a)は、実施例2で用いた構造体に関して、荷重と、歪みゲージにより計測された歪みとの関係を示したグラフであり、(b)は、該構造体に対して最大荷重12kNが負荷された時点の撮像画像であり、(c)は、(b)中の四角で囲んだ領域Aと領域Bについて、発光強度を示したグラフである。
【図9】(a)は、実施例3で用いた構造体に関して、荷重と、歪みゲージにより計測された歪みとの関係を示したグラフであり、(b)は、該構造体に対して最大荷重12kNが負荷された時点の撮像画像であり、(c)は、(b)中の四角で囲んだ領域Aと領域Bについて、発光強度を示したグラフである。
【図10】(a)は、実施例4に用いた欠陥検知システムの構成を示した図であり、(b)は、当該欠陥検知システムの一部の構成を示した図である。
【図11】(a)は、実施例4に用いた構造体を示した図であり、(b)は、上記(a)の構造体に形成した発光膜の発光の様子を示した図である。
【図12】(a)は、実施例4に用いた別の構造体を示した図であり、(b)は、歪みケージで計測した歪みの大きさを示したグラフであり、(c)は、上記(a)の構造体に形成した発光膜の発光の様子を示した図である。
【図13】(a)は、実施例5に用いた欠陥検知システムの構成の一部を示した図であり、(b)は、荷重と歪みとの関係を示したグラフである。
【図14】(a)は、実施例5に用いた欠陥検知システムを用いて、時間を追って荷重を変化させたときの時間と荷重との関係を示したグラフであり、(b)は、上記(a)で示した荷重の大きさによって、構造体に形成した発光膜の発光の違いを示した図である
【図15】実施例5に用いた欠陥検知システムを用いて、構造体に形成した発光膜の発光強度をみた図である。
【符号の説明】
【0164】
1 発光膜
1a 発光粒子
1b 樹脂材料
2 構造体
2A 構造体の表面
2B 構造体の裏面
2C 欠陥
3 カメラ(光電変換手段、動画撮像手段)
4 画像処理装置
5 表示装置
6 記録装置
9 線状傷及び面状傷(欠陥)
10 システム
10´ システム
11 支持台
12 ハンマー(衝撃手段)
12a 柄
12b 本体部
13 支点
14 孔(点状欠陥)
15 ノッチ(線状欠陥)
16 コンクリート片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体の表面側からは視認できない該構造体の内部及び/または裏面にある欠陥を、該表面側から検知する方法であって、
歪みエネルギーを受けて発光するとともに、該歪みエネルギー密度の変化の大きさに比例した発光強度で発光する発光粒子を含有した発光膜を、上記構造体の上記表面の少なくとも一部分に形成し、
上記構造体に歪みの変化を生じさせた状態で、上記発光膜の光に基づいて、上記裏面及び上記内部に在る欠陥を検知することを特徴とする欠陥検知方法。
【請求項2】
上記発光膜を、樹脂材料と上記発光粒子との混合物を上記一部分に塗着させて形成することを特徴とする請求項1に記載の欠陥検知方法。
【請求項3】
上記発光膜を、樹脂材料と上記発光粒子との混合物からなるフィルムを予め作成し、該フィルムを、上記一部分に貼り付けて形成することを特徴とする請求項1に記載の欠陥検知方法。
【請求項4】
上記発光膜の光を、受光手段によって受光することを特徴とする請求項1から3までの何れか1項に記載の欠陥検知方法。
【請求項5】
上記発光膜の光を、光電変換手段によって受光することを特徴とする請求項1から4までの何れか1項に記載の欠陥検知方法。
【請求項6】
上記発光膜の表面を動画撮影する撮像手段によって、上記発光膜の光を検出することを特徴とする請求項1から5までの何れか1項に記載の欠陥検知方法。
【請求項7】
上記構造体は、中空構造体であることを特徴とする請求項1から6までの何れか1項に記載の欠陥検知方法。
【請求項8】
上記構造体は、金属、セラミック、プラスチック、ガラスまたはコンクリートであることを特徴とする請求項1から7までの何れか1項に記載の欠陥検知方法。
【請求項9】
上記発光粒子として発光に比例する歪みエネルギー密度が2000J/m以上である発光粒子を用い、上記樹脂材料として引張せん断接着強度が20Mpa以上である樹脂を用いることを特徴とする請求項2または3に記載の欠陥検知方法。
【請求項10】
上記構造体に衝撃を与えて衝撃波を発生させることによって、当該構造体に歪みの変化を生じさせた状態を実現することを特徴とする請求項1から9までの何れか1項に記載の欠陥検知方法。
【請求項11】
表裏面を有する構造体の該表面の少なくとも一部分に形成した、歪みエネルギーを受けて発光するとともに、歪みエネルギー密度の変化の大きさに比例した発光強度で発光する発光粒子を含有した発光膜を用いた、構造体内部及び該裏面に在る欠陥を検知するシステム。
【請求項12】
表裏面を有する構造体の該表面の少なくとも一部分に形成した、歪みエネルギーを受けて発光するとともに、歪みエネルギー密度の変化の大きさに比例した発光強度で発光する発光粒子を含有した発光膜を用いて、構造体内部及び該裏面に在る欠陥を検知するシステムであって、
上記発光膜の光を受光して光電変換する光電変換手段と、
上記光電変換手段によって生成される電気信号に基づいて、上記発光膜の発光強度を表示する表示手段とを備えていることを特徴とするシステム。
【請求項13】
上記光電変換手段は、上記発光膜の表面を動画撮影する動画撮影手段であり、
上記システムは、さらに、上記動画撮影手段によって動画撮影された画像データを画像処理する画像処理手段を備えていることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
上記歪みエネルギーを生じさせるために上記構造体に衝撃を与えて衝撃波を発生させる手段を、更に備えていることを特徴とする請求項12または13に記載のシステム。
【請求項15】
上記構造体に衝撃を与えて衝撃波を発生させる手段は、上記構造体を衝打する衝打手段であることを特徴とする請求項14に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−92644(P2009−92644A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72068(P2008−72068)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構「応力発光体を用いた安全管理ネットワークシステム」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】