説明

構造物表面の剥落防止構造

【課題】コンクリート仕上またはモルタル仕上された構造物の表面の剥落を防止するための剥落防止構造であって、施工性に優れ且つ温度環境に影響されることなく十分な強度を発揮し得る構造物表面の剥落防止構造を提供する。
【解決手段】構造物表面の剥落防止構造は、構造物(1)の表面に少なくともプライマー層(2)及び補強層(4)を設けて成り、補強層(4)は、ウレタン硬化物によって形成された第1の補強層(41)と第2の補強層(42)とから構成される。そして、第1の補強層(41)と第2の補強層(42)の組み合わせが、ガラス転移点−35〜−12℃のウレタン硬化物とガラス転移点25〜45℃のウレタン硬化物の組み合わせである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物表面の剥落防止構造に関するものであり、詳しくは、コンクリート仕上またはモルタル仕上された構造物の表面の剥落を防止するための構造物表面の剥落防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばコンクリート仕上された構造物においては、各種の要因による表面の剥離、具体的には、施工の際のひび割れから発生する剥落、地震や交通振動による剥落、劣化(中性化)による剥落などを防止するため、コンクリート表面に樹脂を塗布して補強する方法が種々検討されている。
【0003】
コンクリート構造物表面の補強技術としては、例えば、コンクリート押抜き試験(押抜き剪断耐力の測定)における破断エネルギーが1J以上の強度を備えた高強度塗膜(補強層)をコンクリート表面に形成することにより、構造物の表面形状に依存することなくコンクリート表面を補強できる様にした「コンクリート剥落防止方法」が挙げられる。そして、斯かるコンクリート剥落防止方法では、ガラス繊維、カーボン繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、あるいは、ステンレス繊維などの金属繊維を混入したウレタン樹脂、エポキシ樹脂などで上記の塗膜を形成している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−15329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の様な樹脂塗膜の補強層によって構造物表面を補強する方法においては、樹脂に対する合成繊維や金属繊維の混合工程を必要とするため、現場での施工性に欠けると言う問題がある。また、樹脂の特性からすると、エポキシ樹脂は、高い硬度が得られる反面、粘度が高いために塗布性に欠け、しかも、低温脆化により割れ易いと言う問題がある。一方、ウレタン樹脂は、塗布性に優れている反面、化合物の選択により低温域と高温域での特性が大きく相違するため、地域や季節で相違する温度環境に追従できず、所期の強度を十分に発揮できないことがある。
【0005】
すなわち、補強層を形成するウレタン樹脂は、そのガラス転移点が低い場合、低温環境下では伸び特性に優れており、各種振動などによる構造物表面の微小変位に追従できるが、高温環境下では硬度が不足し、十分な強度を発揮することが出来ない。一方、ガラス転移点が高い場合は、高温環境下では十分な硬度を有しているが、低温環境下では伸び特性に欠けるため、構造物表面の変位に追従できない。
【0006】
本発明は、ウレタン樹脂の施工性に着目し且つウレタン樹脂で補強層を形成した場合の上記の問題点を改善すべくなされたものであり、その目的は、コンクリート仕上またはモルタル仕上された構造物の表面の剥落を防止するための剥落防止構造であって、施工性に優れ且つ温度変化に影響されることなく十分な強度を発揮し得る構造物表面の剥落防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明においては、構造物の表面に少なくともプライマー層および補強層を設けると共に、ウレタン硬化物から成る第1の補強層と第2の補強層の2層で前記の補強層を構成し、かつ、第1の補強層と第2の補強層をガラス転移点の互いに異なるウレタン硬化物で形成することにより、ガラス転移点が低いウレタンの高温環境下での硬度不足、ならびに、ガラス転移点が高いウレタンの低温環境下での伸び特性の低さをそれぞれ補完する様にした。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、コンクリート仕上またはモルタル仕上された構造物の表面の剥落を防止するための剥落防止構造であって、構造物の表面に少なくともプライマー層および補強層を設けて成り、前記補強層は、ウレタン硬化物によって形成された第1の補強層と第2の補強層とから構成され、かつ、前記第1の補強層と前記第2の補強層の組み合わせが、ガラス転移点−35〜−12℃のウレタン硬化物とガラス転移点25〜45℃のウレタン硬化物の組み合わせであることを特徴とする構造物表面の剥落防止構造に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る構造物表面の剥落防止構造によれば、補強層がウレタン硬化物によって形成されているため、施工性に優れており、しかも、補強層が第1の補強層と第2の補強層とから構成され且つこれらの組み合わせがガラス転移点の低いウレタン硬化物とガラス転移点の高いウレタン硬化物の組み合わとされ、ガラス転移点が低いウレタンの高温環境下での硬度不足、ガラス転移点が高いウレタンの低温環境下での伸び特性の低さをそれぞれ補完できるため、温度変化に影響されることなく、常に十分な強度を発揮することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る構造物表面の剥落防止構造の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る構造物表面の剥落防止構造の一例を部分的に示した模式的な縦断面図である。なお、以下の説明は本発明の一実施形態の説明であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、以下の説明においては、構造物表面の剥落防止構造を「剥落防止構造」と略記する。
【0011】
本発明の剥落防止構造は、コンクリート仕上またはモルタル仕上された構造物の表面の剥落を防止するための剥落防止構造であり、鉄筋コンクリート造、鉄骨コンクリート造などの表面がコンクリート仕上された建物の外壁、梁、床スラブ、柱、橋脚、道路床版、あるいは、モルタル仕上された建物の外壁などの各種の構造物に適用される。本発明の剥落防止構造は、図1に示す様に、構造物(1)の表面に少なくともプライマー層(2)及び補強層(4)を設けて構成される。
【0012】
プライマー層(2)は、構造物(1)の表面のコンクリートやモルタルと後述する樹脂層(平坦化層または補強層)との結合力を高めるための樹脂下地層である。プライマー層(2)を構成する樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。中でも、コンクリート(又はモルタル)表面からコンクリート(又はモルタル)内部への浸透性の良さの観点から、エポキシ樹脂が好ましい。プライマー層(2)は、上記の樹脂を構造物(1)の表面に塗布して形成される。塗布方法は、スプレー塗布、刷毛、ローラー又はレーキによる塗布の何れでもよい。プライマー層(2)の厚さは、通常は0.05〜1.0mm、好ましくは0.1〜0.8mm、更に好ましくは0.2〜0.5mmである。
【0013】
プライマー層(2)の表面(以下、構築物(1)の表面から離間する側の面を表面と言う。)には、平坦化層(3)が設けられているのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様において、上記の補強層(4)は、プライマー層(2)の表面側に平坦化層(3)を介して設けられる。
【0014】
平坦化層(3)は、プライマー層(2)の表面に現れる構築物(1)の表面の凹凸を修正するいわゆる不陸調整層である。平坦化層(3)を構成する材料としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。中でも、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂が好ましい。平坦化層(3)は、刷毛、ローラー又はレーキによる塗布によりプライマー層(2)の表面に形成され、平坦化層(3)の表面は、平滑に仕上げられる。平坦化層(3)の厚さは、通常は0.05〜1.5mm、好ましくは0.1〜1.0mm、更に好ましくは0.2〜0.5mmである。上記の様な平坦化層(3)を設けることにより、補強層(4)を形成する際の施工性を向上でき、補強層(4)の固着力を高めることが出来る。
【0015】
本発明においては、実質的に構築物(1)の表面を補強する補強層(4)の幅広い温度環境下での強度を高めるため、補強層(4)は、ウレタン硬化物によって形成された第1の補強層(41)と第2の補強層(42)とから構成される。しかも、第1の補強層(41)と第2の補強層(42)の組み合わせは、ガラス転移点(以下、「Tg」と記す。)が−35〜−12℃のウレタン硬化物と、Tgが25〜45℃のウレタン硬化物の組み合わせとされる。
【0016】
第1の補強層(41)と第2の補強層(42)は、何れかがTgの低いウレタン硬化物で形成され、他の何れかがTgの高いウレタン硬化物で形成される。第1の補強層(41)又は第2の補強層(42)を形成するウレタン硬化物の低温域のTgの下限値は、好ましくは−35℃、更に好ましくは−30℃であり、低温域のTgの上限値は、好ましくは−15℃、更に好ましくは−20℃である。また、高温域のTgの下限値は、好ましくは25℃、更に好ましくは35℃であり、高温域のTgの上限値は、好ましくは45℃、更に好ましくは40℃である。
【0017】
上記の補強層(4)のウレタン硬化物を構成する化合物としては、イソシアネート及びポリオールが挙げられる。イソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)等のプレポリマー又は変性物が挙げられる。ポリオールとしては、グリコール系、エステル系、エーテル系、ヒマシ油系などが挙げられる。中でも、Tgの低いウレタンを得るにはヒマシ油系が好ましい。更に、上記のウレタン硬化物には、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、ゼオライト、シリカ等のフィラーが添加されていてもよい。特に、Tgの低いウレタンの場合は、ケトン、フェノール等が添加されていてもよい。また、耐熱性の観点から、補強層(4)を構成するウレタン硬化物は、ウレア結合を有しているのが好ましい。
【0018】
ウレタン硬化物(ウレタン樹脂)のTgは、化合物の選択により調整でき、TMA法、DSC法またはDMA法によって測定できる。これらのTgの測定方法は周知であり、TMA法は、試料の温度変化に伴う力学的物性の変化を測定してTgを求める方法であり、DSC法は、試料の温度に伴う吸熱や発熱を測定してTgを求める方法であり、また、DMA法は、試料に加える周期的な力の周波数を変化させてその応答を測定してTgを求める方法である。
【0019】
上記の様なTgの低いウレタン硬化物およびTgの高いウレタン硬化物によって第1の補強層(41)と第2の補強層(42)が構成されていることにより、Tgが低いウレタン樹脂の高温環境下(例えば構造物(1)の表面温度が50℃)での硬度不足をTgの高いウレタン樹脂で補完でき、また、Tgが高いウレタン樹脂の低温環境下(例えば構造物(1)の表面温度が−10℃)での伸び特性の不足をTgの低いウレタン樹脂で補完できる。なお、補強層(4)の強度は、例えば−10℃の低温環境下および50℃の高温環境下において、例えば、後述する旧日本道路公団試験研究所規格の「連続繊維シート接着の押抜き試験方法」に準拠した押抜き剪断耐力の測定を行うことによって確認できる。
【0020】
第1の補強層(41)は、ポリオールとイソシアネートをミキサーで混合し、混合物をその硬化前に刷毛、ローラー又はレーキにより平坦化層(3)の表面に塗布して形成され、更に、第2の補強層(42)は、第1の補強層(41)と同様にミキサーで混合して得られたポリオールとイソシアネートの混合物をその硬化前に刷毛、ローラー又はレーキにより第1の補強層(41)の表面に塗布して形成される。第1の補強層(41)及び第2の補強層(42)の厚さは、各々、通常は0.5〜2.5mm、好ましくは0.7〜2.0mm、更に好ましくは1.0〜1.8mmとされる。
【0021】
また、図1に示す様に、補強層(4)の表面(第2の補強層(42)の表面)には、日射透過率が通常は10%以下、好ましくは8%以下、更に好ましくは5%以下の表面保護層(5)が設けられていてもよい。表面保護層(5)を構成する材料としては、ハードコート剤として知られている公知の材料を適宜使用することが出来、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。中でも、耐候性の観点から、ウレタン樹脂が好ましい。表面保護層(5)は、上記の樹脂を補強層(4)の表面に塗布して形成される。塗布方法は、スプレー塗布、刷毛、ローラー又はレーキによる塗布の何れでもよい。表面保護層(5)の厚さは、通常は0.05〜1.0mm、好ましくは0.05〜0.5mm、更に好ましくは0.05〜0.2mmである。上記の様に、日射透過率が10%以下の表面保護層(5)を設けることにより、紫外線の透過量を制限でき、補強層(4)の耐候性を高めることが出来る。
【0022】
本発明の剥落防止構造は、構造物(1)の表面に上記のプライマー層(2)、平坦化層(3)、補強層(4)及び表面保護層(5)を順次に設けて構成される。具体的には、先ず、構造物(1)の表面に対し、ブラスティング処理、ブラッシング処理を施すことにより、構造物(1)表面の塵埃や異物を除去し、また、脆弱部分を除去する。次いで、プライマーである前述の樹脂を構造物(1)の表面に塗布し、十分に乾燥させ、プライマー層(2)を形成する。
【0023】
プライマー層(2)を設けた後は、パテ等をプライマー層(2)の表面に塗布し、その表面を平滑にならして十分に乾燥させ、平坦化層(3)を形成する。次いで、平坦化層(3)の表面に対し、前述のウレタン樹脂(ポリオールとイソシアネートの混合物)を塗布し、これを十分に乾燥させ、第1の補強層(41)を形成する。そして、Tgの異なるウレタン樹脂(ポリオールとイソシアネートの混合物)を塗布し、これを十分に乾燥させ、第2の補強層(42)を形成する。
【0024】
なお、構造物(1)の表面が略平滑な場合は、平坦化層(3)を設けることなく、プライマー層(2)の表面に補強層(4)、すなわち、第1の補強層(41)及び第2の補強層(42)を直接設けてもよい。更に、補強層(4)を設けた後は、前述のハードコート剤を塗布し、表面保護層(5)を形成する。
【0025】
上記の様に、本発明の剥落防止構造においては、構造物(1)の表面に少なくともプライマー層(2)及び補強層(4)が設けられ、補強層(4)がウレタン硬化物によって形成されているため、施工性に優れている。しかも、本発明の剥落防止構造においては、ウレタン硬化物から成る第1の補強層(41)と第2の補強層(42)の2層で前記の補強層(4)が構成され、かつ、第1の補強層(41)と第2の補強層(42)がTgの互いに異なるウレタン硬化物で形成されていることにより、すなわち、第1の補強層(41)と第2の補強層(42)の組み合わせがTgの低いウレタン硬化物とTgの高いウレタン硬化物の組み合わとされていることにより、Tgが低いウレタンの高温環境下での硬度不足を補完でき、同時に、Tgが高いウレタンの低温環境下での伸び特性の低さを補完できるため、温度変化に影響されることなく、補強層(4)において常に十分な強度を発揮することが出来、剥落防止効果を一層高めることが出来る。
【実施例】
【0026】
実施例1:
コンクリート板に図1に示す剥落防止構造を設けた試験体を作製し、押抜き剪断耐力の測定を行った。試験体は、後述する押抜き剪断耐力の測定方法に適用される所定寸法のコンクリート板を使用し、低温特性測定用および高温特性測定用の2個を作製した。
【0027】
各試験体の作製においては、上記のコンクリート板の表面の汚れおよび脆弱部を除去した後、コンクリート表面(コア接着側の面)に対し、当該コンクリート表面と平坦化層(3)と補強層(4)との結合力を高めるために厚さ0.2mmのエポキシ樹脂から成るプライマー層(2)を設け、次いで、プライマー層(2)の表面に現れるコンクリート表面の凹凸を修正するために厚さ0.5mmのエポキシ樹脂から成る平坦化層(3)を設け、更に、補強層(4)として、Tgの高いウレタン硬化物から成る厚さ0.8mmの第1の補強層(41)、および、Tgの低いウレタン硬化物から成る厚さ0.8mmの第2の補強層(42)を設けた後、厚さ0.1mmのウレタン樹脂から成る表面保護層(5)を順次設けた。
【0028】
第1の補強層(41)を構成するTgの高いウレタン樹脂(混合物)は以下の様に調製した。先ず、OH価160のヒマシ油系のポリオール100重量部、炭酸カルシウム(フィラー)50重量部を5Lのプラネタリーミキサーに投入し、25℃の温度を保持して回転数120rpmで5分間攪拌混合し、混合物(A)を得た。次いで、NCO%が23%のMDI系のイソシアネート(B)を混合物(A)に添加し、更にハンドミキサーで混合した。混合物(A)とイソシアネート(B)の混合比率は重量比で4:1であった。
【0029】
第2の補強層(42)を構成するTgの低いウレタン樹脂(混合物)は以下の様に調製した。先ず、OH価230のヒマシ油系のポリオール100重量部、炭酸カルシウム(フィラー)80重量部を5Lのプラネタリーミキサーに投入し、25℃の温度を保持して回転数120rpmで5分間攪拌混合し、混合物(A)を得た。次いで、NCO%が23%のMDI系のイソシアネート(B)を混合物(A)に添加し、更にハンドミキサーで混合した。混合物(A)とイソシアネート(B)の混合比率は重量比で3:1であった。
【0030】
一方、上記の第1の補強層(41)及び第2の補強層(42)を形成するウレタン樹脂だけをそれぞれ硬化させた成形体をTg測定用の試料として別途作製し、これらの各TgをDMA法により測定した。その結果、第1の補強層(41)を形成するウレタン硬化物のTgは−15℃であり、第2の補強層(42)を形成するウレタン硬化物のTgは30℃であった。なお、Tgを測定するDMA法においては、室温から2℃/minの割合で試料を昇温させ、粘弾性測定装置により試験片の動的粘弾性および損失正接を測定し、温度と弾性率との関係を表すグラフを作成し、損失正接のピーク温度からTgを求める。
【0031】
次いで、上記の低温特性測定用および高温特性測定用の2個の試料を使用し、−10℃の低温環境下および50℃の高温環境下において、旧日本道路公団試験研究所規格の「連続繊維シート接着の押抜き試験方法」に準拠して押抜き剪断耐力の測定を行ったところ、表1に示す結果が得られた。なお、上記の押抜き剪断耐力の測定においては、コンクリート板として、厚さ60mm、平面寸法600mm×400mmの方形の板であって、その中心部から直径100mm、厚さ(高さ)60mmの円柱体をくりぬき、その穴に前記の円柱体をコアとして挿入し、板の一面側からコンクリートモルタルでコアを接着したものを使用した。そして、板の他面側からコアに荷重を掛け、コア接着部の押抜き力およびその際のコアの変位量を測定した。
【0032】
実施例2:
補強層(4)を構成する第1の補強層(41)と第2の補強層(42)の配置を逆転させた点を除き、実施例1と同様の試験体を作製した。そして、実施例1と同様に、低温環境下および高温環境下において押抜き剪断耐力の測定を行ったところ、表1に示す結果が得られた。
【0033】
比較例1:
補強層として、低いTg(=−15℃)のウレタン硬化物から成る層を1層設けた点を除き、実施例1と同様の試験体を作製した。そして、実施例1と同様に、低温環境下および高温環境下において押抜き剪断耐力の測定を行ったところ、表1に示す結果が得られた。なお、高温環境下においては、0.5kN未満の荷重で補強層が大きく伸びてコアが移動した。
【0034】
比較例2:
補強層として、高いTg(=30℃)のウレタン硬化物から成る層を1層設けた点を除き、実施例1と同様の試験体を作製した。そして、実施例1と同様に、低温環境下および高温環境下において押抜き剪断耐力の測定を行ったところ、表1に示す結果が得られた。
【0035】
【表1】

【0036】
上記の実施例、比較例からすると、本願発明の剥離防止構造における補強層(4)は、Tgの異なる第1の補強層(41)及び第2の補強層(42)で構成されているため、低温環境下および高温環境下とも、コンクリート(構造物)の変位に追従でき、かつ、十分な強度を発揮できることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る構造物表面の剥落防止構造の一例を部分的に示した模式的な縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 :構造物
2 :プライマー層
3 :平坦化層
4 :補強層
41:第1の補強層
42:第2の補強層
5 :表面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート仕上またはモルタル仕上された構造物の表面の剥落を防止するための剥落防止構造であって、構造物の表面に少なくともプライマー層および補強層を設けて成り、前記補強層は、ウレタン硬化物によって形成された第1の補強層と第2の補強層とから構成され、かつ、前記第1の補強層と前記第2の補強層の組み合わせが、ガラス転移点−35〜−12℃のウレタン硬化物とガラス転移点25〜45℃のウレタン硬化物の組み合わせであることを特徴とする構造物表面の剥落防止構造。
【請求項2】
補強層のウレタン硬化物がウレア結合を有している請求項1に記載の剥落防止構造。
【請求項3】
補強層は、プライマー層の表側に平坦化層を介して設けられている請求項1又は2に記載の剥落防止構造。
【請求項4】
日射透過率が10%以下の表面保護層が補強層の表面に設けられている請求項1〜3の何れかに記載の剥落防止構造。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−285972(P2008−285972A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134597(P2007−134597)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】