説明

標定レーダ装置

【課題】 機動性を損なうことなく全方位を監視し位置標定を行なうことの可能な標定レーダ装置を得る。
【解決手段】 標定レーダ装置の空中線部11を、互いに異なる仰角にペンシルビームを有する2つのアンテナ111及び112で構成するとともに、これら2つのアンテナを、方位方向の指向方位が互いに反対となるように配置する。そして、この空中線部11を駆動部12により方位方向に高速回転駆動することによって、異なる2つの仰角の全周方向に目標を捕捉するためのビーム幕を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速で飛翔する、例えば砲弾等の目標を捕捉し、その発射位置及び着弾位置等を標定する標定レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダビームを走査することによってビーム幕を形成しておき、高速で飛翔する砲弾等の目標がこのビーム幕の中を通過したときの位置情報から目標の弾道経路を推定し、目標の発射された位置または着弾する位置(以下、標定位置と表わす)を算出する標定レーダ装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この特許文献1に開示された標定レーダ装置においては、高低方向に幅の広いレーダビームを所定の速度で方位方向に走査を繰り返すことによってビーム幕を形成しておき、砲弾等の目標がこのビーム幕を通過している間にその目標に対して位置情報や時刻情報を含む複数点の捕捉情報を取得する。そして、これら取得した捕捉情報に基づいて標定位置を算出する。標定位置を算出する際には、まず、複数点の捕捉情報を得た区間における目標の弾道を推定するための弾道計算を行った後、得られた弾道を前後に辿ることによって標定位置を算出している。
【特許文献1】特開平9−101363号公報(第4ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の標定レーダ装置においては、高速なビーム走査によってビーム幕を形成する必要があることから、空中線系には、例えば、アンテナ素子を2次元に配列したフェーズドアレイによる電子走査アンテナを用い、電子的な制御によりビーム走査を行なって監視対象とする所定の方向にビーム幕を形成する。
【0005】
そして、そのときに監視対象とする方位方向の範囲は、空中線系に対する、例えば寸法や質量等の制約がある中で目標を確実に捕捉できるように、アンテナ素子の配列面の正面、すなわち、配列面に垂直な方向を中心とした90度程度の幅とされることが多い。
【0006】
従来の標定レーダ装置の空中線系はこのように構成されているため、監視対象の方位方向の範囲は制限されてしまう。すなわち、側方及び後方に対しては十分に監視することができず、これらの方向に対しては飛翔する目標を捕捉し位置標定することが困難であった。
【0007】
また、監視対象の方位方向の範囲を拡大するには、アンテナ素子の配列面を例えば4面設けるなど多面化したり、あるいは円筒型に配列する等の手法により空中線系を構成することも考えられるが、これら手法を用いた場合には、特に空中線系を中心に装置全体が大規模・大型化するとともに、全方向に所定のビーム幕を形成するためのビーム制御も複雑化し、装置全体の機動性を低下させていた。
【0008】
本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、機動性を損なうことなく全方位を監視し位置標定を行なう標定レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の標定レーダ装置は、高速で弾道飛行する目標を異なる2つの仰角に形成したビーム幕で捕捉し、この捕捉情報に基づき前記目標の位置標定を行なう標定レーダ装置であって、互いに異なる仰角方向にペンシルビームを有する2つのアンテナを、これら2つのペンシルビームの方位方向における指向方位が互いに反対方向となるように配置した空中線部と、この空中線部を方位方向に回転して前記互いに異なる仰角方向にビーム幕を形成させる駆動部と、これらビーム幕を通過した前記目標を捕捉し、その捕捉情報を取得するレーダ送受信部と、これら目標の捕捉情報に基づき前記目標に対する位置標定の演算を行なう演算処理部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機動性を損なうことなく全方位を監視し位置標定を行なうことの可能な標定レーダ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る標定レーダ装置を実施するための最良の形態について、図1及び図2を参照して説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明に係る標定レーダ装置の一実施例を示すブロック図である。図1に示すように、この標定レーダ装置は、空中線部11、駆動部12、第1の送受信部13a、第2の送受信部13b、標定演算部14、及び操作表示部15から構成されている。
【0013】
空中線部11の構成の概念図を図2に示す。図2(a)は、その側面からの、また図2(b)は上面からの概念図を示している。この図2に例示したように、空中線部11は、異なる仰角にペンシルビームを有する2つのアンテナ、すなわちLビームを有するアンテナ111、及びUビームを有するアンテナ112から構成されている。本実施例においては、これら2つのアンテナ111及び112は、例えば複数のアンテナ素子を平面に配列した、簡素な形状のプラナアレイ型としている。
【0014】
それぞれのアンテナの仰角面におけるビーム方向は、図2(a)に示すように、アンテナ111のLビームは比較的低仰角に、また、アンテナ112のUビームはこれよりも高い仰角に指向している。一方、方位面においては、図2(b)に示すように、例えば、これら2つのアンテナ111及び112を背中合わせに配置するなどして、LビームとUビームとを互いに反対方向に指向させている。
【0015】
駆動部12は、これら2つのアンテナ111及び112で構成される空中線部11を方位方向に高速回転駆動させるとともに、空中線部11と後述する送受信部13a及び13bとの間で授受されるレーダ送受信信号を通過させる。
【0016】
第1の送受信部13a及び第2の送受信部13bは、それぞれ空中線部11の2つのアンテナ111及び112に対応して設けられ、パルス状のレーダ送信信号を生成して空中線部11の2つのアンテナ111及び112のそれぞれに供給するとともに、それぞれのアンテナで受信したレーダ受信信号を受信処理する。本実施例においては、第1の送受信部13aはアンテナ111に、また第2の送受信部13bはアンテナ112に、それぞれ接続されているものとしている。
【0017】
これら2つの送受信部13a、及び13bは同一に構成されており、いずれも送信器131、受信器132、及びサーキュレータ133を有している。送信器131は、所定のタイミングでレーダ送信信号を生成し空中線部11に送出する。受信器132は、空中線部11からのレーダ受信信号に対して低雑音増幅、周波数変換、検波等の処理を行ない、レーダ送信信号に対する反射波成分を抽出して目標の捕捉情報を取得する。また、サーキュレータ133は、送信時には送信器131からのレーダ送信信号を空中線部11に向けて通過させるとともに、受信時には空中線部11からのレーダ受信信号を受信器132に向けて通過させる。
【0018】
標定演算部14は、2つの送受信部13a及び13bからの目標の捕捉情報に基づいて、これら目標に対してその発射位置や着弾位置等の位置標定演算を実行する。操作表示部15は、標定演算部14での演算結果を表示するとともに、操作員等が行なう装置に対する各種の指示操作を受けつける。
【0019】
次に、前述の図1及び図2を参照して、上述のように構成された本発明に係る標定レーダ装置の動作を説明する。
【0020】
まず、送受信部13a及び13bのそれぞれの送信器131で生成されたレーダ送信信号は、駆動部12を介して空中線部11の対応するアンテナ111及び112に送られる。これら2つのアンテナ111及び112は、図2に例示したように、互いに異なる仰角に指向性を有するとともに、方位方向における指向性は互いに反対方向となるように配置されている。そして、空中線部11は、駆動部12により方位方向に高速回転駆動されながら、レーダ送信信号が空中線部11から放射される。これによって、方位方向には全周、また仰角方向には互いに異なる2つの仰角に、レーダ送信信号によるビーム幕が形成される。本実施例では、アンテナ111の有するLビームにより比較的低い仰角と、アンテナ112の有するUビームによりこれよりも高い仰角との2つの仰角方向全周にわたってビーム幕を形成している。
【0021】
この後、高速で弾道飛行する砲弾等の目標がこれら2つのビーム幕を通過すると、これら目標からの反射エコーは空中線部11のそれぞれのアンテナ111、及び112で受信され、レーダ受信信号として駆動部12を介して対応する送受信部13a、及び13bに送られる。送受信部13a及び13bでは、これらレーダ受信信号をそれぞれに受信処理して目標を抽出するとともに、捕捉情報としてその方向、距離、時刻情報等を取得する。
【0022】
このときに、送受信部13aでは、Lビームにより形成したビーム幕による目標の捕捉情報が、また、送受信部13bでは、Uビームにより形成したビーム幕による目標の捕捉情報が、それぞれ取得される。取得された捕捉情報は、標定演算部14に送出される。
【0023】
標定演算部14では、これら目標の捕捉情報に基づいて、目標の位置標定演算を行なう。すなわち、仰角の異なる2つのビーム幕によって取得された捕捉情報に基づき弾道計算等の演算を行ない、その軌跡から発射位置及び着弾位置等を標定する。そして、標定結果は操作表示部15に送出され、操作表示部15は、これを表示する。
【0024】
以上説明したように、本実施例の標定レーダ装置においては、空中線部11を、互いに異なる仰角にペンシルビームを有する2つのアンテナ111及び112で構成するとともに、これら2つのアンテナを、方位方向の指向方位が互いに反対となるように配置している。そして、この空中線部11を駆動部12により方位方向に高速回転駆動することによって、異なる2つの仰角の全周方向にビーム幕を形成し、目標を捕捉している。これにより、例えば、電子走査方式のアンテナにより同様のビーム幕を形成する場合等に比べ、空中線系を大規模・大型化することなく簡素に構成できる。
【0025】
また、ビーム形成及びビーム走査のための複雑な制御機能も必要としない。さらに、駆動部12において、空中線部11と2つの送受信部13a、及び13bとの間をインターフェースする、例えばロータリジョイント等の機構は、レーダ送受信信号のみを授受できれば良く、単純な機構とすることができる。加えて、空中線部11も簡素な形状のプラナアレイ型としており、駆動部12全体を複雑化することなく構成することができる。従って、機動性を損なうことなく、全方位を監視し位置標定を行なうことのできる標定レーダ装置を得ることができる。
【0026】
なお、本実施例の標定レーダ装置においては、駆動部12により空中線部11を高速回転駆動しているが、その回転数は、例えば、距離2キロメートル付近から発射された比較的高射角で放物線状の弾道を有する砲弾等に対する場合は、Lビームの仰角を50〜100ミル(1ミル=360度÷6400)、Uビームの仰角を150〜200ミルとして、これら仰角に形成したビーム幕を通過中にそれぞれのビーム幕で少なくとも1点以上の捕捉情報を取得するものとすると、約64rpm程度である。
【0027】
また、アンテナ111及び112は、ペンシルビームを有するアンテナとしてプラナアレイ型の構成としたが、これに限定されるものではない。反射鏡を有する、例えばパラボラアンテナを用いて構成するなど、種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る標定レーダ装置の一実施例を示すブロック図。
【図2】空中線部の構成の一例を示す概念図。
【符号の説明】
【0029】
11 空中線部
12 駆動部
13a、13b 送受信部
14 標定演算部
15 操作表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速で弾道飛行する目標を異なる2つの仰角に形成したビーム幕で捕捉し、この捕捉情報に基づき前記目標の位置標定を行なう標定レーダ装置であって、
互いに異なる仰角方向にペンシルビームを有する2つのアンテナを、これら2つのペンシルビームの方位方向における指向方位が互いに反対方向となるように配置した空中線部と、
この空中線部を方位方向に回転して前記互いに異なる仰角方向にビーム幕を形成させる駆動部と、
これらビーム幕を通過した前記目標を捕捉し、その捕捉情報を取得するレーダ送受信部と、
これら目標の捕捉情報に基づき前記目標に対する位置標定の演算を行なう演算処理部とを備えたことを特徴とする標定レーダ装置。
【請求項2】
前記アンテナをプラナアレイ型としたことを特徴とする請求項1に記載の標定レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−285899(P2007−285899A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113884(P2006−113884)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】