説明

樹脂コーティング品の製造装置および製造方法

【課題】軸受け部材の加熱乾燥時に発生するピンホール等の塗膜欠陥を防止するもの。
【解決手段】円筒体の金属製基材(10)の内周面に液状の樹脂が塗布された半製品の軸受け部材(2)を加熱して、基材(10)の内周面に樹脂層(11)を形成する軸受け(2)の製造装置(1)を対象とし、軸受け部材(2)より長尺の円筒状に形成され、軸受け部材(2)が内部に設置される加熱炉(14)と、軸受け部材(2)を加熱炉(14)内で転がるように加熱炉(14)の軸心を中心に加熱炉(14)を回転させる回転手段(3)と、回転手段(3)によって回転する加熱炉(14)を加熱する加熱手段(4)とを備えている。軸受け部材(2)は、加熱炉(14)内で転がりつつ加熱されるため、塗布した樹脂層(11)の表面よりも先に樹脂層(11)の下層部を乾燥させることができる。この結果、樹脂層(11)の表面が熱硬化する前に、樹脂層(11)内部の溶剤が蒸発するため、ピンホール等の塗膜欠陥を生じることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の基材に樹脂が塗布された樹脂コーティング品の製造装置および製造方法に関し、特に、加熱における塗膜欠陥の防止対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性の樹脂を基材の表面にコーティングする際には、塗布した液状の樹脂の適切な乾燥と、摺動摩擦低減や耐薬品性等の膜特性を得るために、樹脂の適切な焼成が必要である。このような乾燥及び焼成装置としては、特許文献1に示すような、樹脂を塗布した基材をベルトコンベアで搬送し、ヒータ等で加熱硬化させる装置が知られている。
【特許文献1】特開平2003−314959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の樹脂コーティング品の乾燥及び焼成装置は、基材に塗布した樹脂の表面が直接加熱される構成であるため、樹脂の内部よりも先に表面が乾燥していた。このため、樹脂の表面が硬化した後に内部に熱が伝わると、樹脂の内部に存在する溶剤が蒸発して表面の硬化した樹脂を突き破ることとなるため、樹脂にピンホール等の塗膜欠陥が生じる問題があった。
【0004】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、上記塗膜欠陥を生ずることのないの製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、円筒体の金属製の基材(10)の内周面に液状の樹脂が塗布された半製品(2)を、円筒状の加熱炉(14)内で転がせつつ、基材(10)の外周面側から加熱するようにしたものである。
【0006】
具体的に、第1〜第8の発明は、製造装置の発明に係り、先ず第1の発明は、円筒体の金属製基材(10)の内周面に液状の樹脂が塗布された半製品(2)を加熱して、上記基材(10)の内周面に樹脂層(11)が形成された樹脂コーティング品を製造する樹脂コーティング品の製造装置を対象としている。そして、上記半製品(2)より長尺の円筒状で形成され、上記半製品(2)が内部に設置される加熱炉(14)と、上記半製品(2)を加熱炉(14)内で転がるように上記加熱炉(14)の軸心を中心に該加熱炉(14)を回転させる回転手段(3)と、該回転手段(3)によって回転する上記加熱炉(14)を加熱する加熱手段(4)とを備えている。
【0007】
上記第1の発明では、半製品(2)を円筒形状の加熱炉(14)の内部に設置して、加熱炉(14)内で半製品(2)を転がしつつ、半製品(2)が外周面側から加熱される。
【0008】
つまり、半製品(2)の内周面に塗布した樹脂層(11)の表面が樹脂層(11)の内部よりも先に乾燥してしまうと、塗膜欠陥が生じる恐れがあるため、本発明では、半製品(2)の外周面である基材(10)を加熱することで樹脂層(11)は、基材(10)の接触面、つまり内部から温められて溶剤の揮発が進む。この結果、発泡が樹脂層(11)の内部に閉じ込められ難くなり、塗膜欠陥が防止される。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記加熱炉(14)内の半製品(2)を加熱炉(14)の一端(18)から他端(19)に向かって加熱炉(14)の軸方向に移動させる移動手段(5)を備えている。
【0010】
上記第2の発明では、半製品(2)が、加熱炉(14)内で転がりつつ、加熱されながら移動手段(5)によって、加熱炉(14)の軸方向に移動することとなる。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、上記移動手段(5)は、上記半製品(2)が加熱炉(14)の内部を移動するように、該加熱炉(14)の一端(18)から加熱炉(14)内に上記半製品(2)を順に挿入する挿入機構(16)によって構成されている。
【0012】
上記第3の発明では、加熱炉(14)の内部に設置された半製品(2)が、挿入機構(16)によって推し進められることとなり、加熱炉(14)内を加熱炉(14)の軸方向に移動する。
【0013】
第4の発明は、第1の発明において、上記移動手段(5)は、上記加熱炉(14)の内周面に形成され、半製品(2)の軸方向長さより長いピッチで形成された螺旋状の突条(17)によって構成されている。
【0014】
上記第4の発明では、円筒体の加熱炉(14)の内周面に螺旋状の突条(17)が形成されている。これにより、加熱炉(14)が回転すると、加熱炉(14)の内部に設置された半製品(2)は、転がりながら螺旋形状に沿って加熱炉(14)の軸方向に移動することとなる。
【0015】
第5の発明は、第1の発明において、上記加熱炉(14)の内部に乾燥空気を供給する供給手段(40)を備えている。
【0016】
上記第5の発明では、乾燥空気供給手段(40)から円筒体の加熱炉(14)の一端(18)に乾燥空気が供給され、半製品(2)の内周空間を循環させる。この結果、溶剤の蒸発と排出とが促進される。
【0017】
第6の発明は、第1の発明において、上記半製品(2)の樹脂層(11)の乾燥工程で加熱炉(14)が高回転となり、上記半製品(2)の樹脂層(11)の焼成工程で加熱炉(14)が低回転となるように上記回転手段(3)を制御する回転制御手段(31)を備えている。
【0018】
上記第6の発明では、回転制御手段(31)で設定される乾燥工程での加熱炉(14)の回転は、焼成工程で設定される回転に対して、高回転となる。また、焼成工程で設定される加熱炉(14)の回転は、乾燥工程で設定される回転に対して低回転となる。この結果、樹脂層(11)が垂れることなく、均一な膜厚となる。
【0019】
第7の発明は、第1の発明において、上記半製品(2)の樹脂層(11)の乾燥工程で加熱炉(14)が低温度となり、上記半製品(2)の樹脂層(11)の前焼成工程で加熱炉(14)が乾燥工程より高い中温度となり、上記半製品(2)の樹脂層(11)の後焼成工程で加熱炉(14)が前焼成工程よりも高い高温度となるように上記加熱手段(4)を制御する加熱制御手段(32)を備えている。
【0020】
上記第7の発明では、加熱制御手段(32)で設定される乾燥工程での加熱温度は、前焼成工程に対して低い低温度となり、前焼成工程での加熱温度は乾燥工程に対して高い中温度となり、後焼成工程での加熱温度は前焼成工程に対して高い高温度となる。この結果、乾燥及び焼成が最適化される。
【0021】
第8の発明は、第1の発明において、上記樹脂コーティング品は、軸受け部材(2)としている。
【0022】
上記第8の発明では、摺動摩擦低減及び耐薬品性を有する樹脂層(11)が形成された軸受け部材(2)が製造される。
【0023】
次に、第9〜第14の発明は製造方法の発明に係り、第9の発明は、円筒体の金属製基材(10)の内周面に樹脂層(11)が形成された樹脂コーティング品を製造する樹脂コーティング品の製造方法であって、円筒体の基材(10)の内周面に液状の樹脂を塗布して半製品(2)を作製する塗布工程と、上記半製品(2)より長尺の円筒状に形成され、且つ加熱された加熱炉(14)に上記半製品(2)を設置し、該加熱炉(14)の軸心を中心に該加熱炉(14)を回転して上記半製品(2)を加熱炉(14)内で転がせつつ加熱し、上記樹脂層(11)を硬化させる加熱工程とを備えている。
【0024】
上記第9の発明では、先ず塗布工程において、円筒体の基材(10)の内周面に液状の樹脂を塗布して半製品(2)を作製した後、加熱工程に移り、半製品(2)より長尺の円筒状に形成された加熱炉(14)の内部に設置し、加熱炉(14)の内部で半製品(2)を加熱炉(14)の軸心を中心に回転させ、半製品(2)を加熱炉(14)内で転がせつつ加熱させ、樹脂層(11)を硬化させる。
【0025】
第10の発明は、第9の発明において、上記加熱工程における加熱炉(14)内の半製品(2)は、加熱炉(14)の一端(18)から他端(19)に向かって加熱炉(14)の軸方向に移動するようにしている。
【0026】
上記第10の発明では、半製品(2)は加熱炉(14)の内部で転がるのに加えて、移動手段(5)によって、加熱炉(14)の軸方向に移動する。
【0027】
第11の発明は、第9の発明において、上記加熱工程における加熱炉(14)には、内部に乾燥空気が供給されるようにしている。
【0028】
上記第11の発明では、円筒体の加熱炉(14)の一端(18)から乾燥空気が供給され、半製品(2)の内周空間を循環させる。
【0029】
第12の発明は、第9の発明において、上記加熱工程は、半製品(2)の樹脂層(11)を乾燥させる乾燥工程と、該乾燥工程に続いて半製品(2)の樹脂層(11)を焼成させる焼成工程とにより構成され、上記乾燥工程で加熱炉(14)が高回転で回転し、上記焼成工程で加熱炉(14)が低回転で回転するようにしている。
【0030】
上記第12の発明では、半製品(2)の加熱工程は、第1に半製品(2)に塗布した液状の樹脂を乾燥させる乾燥工程を行い、第2に半製品(2)の樹脂層(11)を焼成させる焼成工程を行う。
【0031】
そして、回転制御手段(31)で設定される乾燥工程での加熱炉(14)の回転は、焼成工程で設定される回転に対して高回転となる。また、焼成工程で設定される加熱炉(14)の回転は、乾燥工程で設定される回転に対して低回転となる。この結果、樹脂層(11)が垂れることなく、均一な膜厚となる。
【0032】
第13の発明は、第9の発明において、上記加熱工程は、半製品(2)の樹脂層(11)を乾燥させる乾燥工程と、該乾燥工程に続いて半製品(2)の樹脂層(11)を焼成させる焼成工程とにより構成され、上記乾燥工程で加熱炉(14)が低温度となり、上記焼成工程における前焼成工程で加熱炉(14)が乾燥工程より高い中温度となり、上記焼成工程における後焼成工程で加熱炉(14)が前焼成工程より高い高温度となるようにしている。
【0033】
上記第13の発明では、加熱制御手段(32)で設定される乾燥工程での加熱温度は低温度となり、前焼成工程での加熱温度は乾燥工程に対して高い中温度となり、後焼成工程での加熱温度は前焼成工程に対して高い高温度になる。この結果、乾燥及び焼成が最適化される。
【0034】
第14の発明は、第9の発明において、上記樹脂コーティング品は、軸受け部材(2)としている。
【0035】
上記第14の発明では、摺動摩擦低減及び耐薬品性を有する樹脂層(11)が形成された軸受け部材(2)が製造される。
【発明の効果】
【0036】
上記本発明によれば、円筒体の基材(10)の内周面に液状の樹脂を塗布した半製品(2)を円筒形状の加熱炉(14)に設置して、加熱炉(14)を回転させながら加熱するように構成したため、半製品(2)は、加熱炉(14)内を転がりつつ加熱されることになり、半製品(2)に塗布した樹脂層(11)の最下層に熱が伝わるため、樹脂層(11)は基材(10)の接触面から温められて樹脂層(11)内の溶剤の蒸発が起こる。その後、樹脂層(11)内の溶剤が十分に蒸発した後、樹脂層(11)の表面に熱が伝わることとなる。この結果、樹脂層(11)の表面が熱硬化する前に樹脂層(11)内の溶剤は蒸発することから、樹脂層(11)の表面が硬化した後に樹脂層(11)内の溶剤が蒸発することで発生するピンホール等の塗膜欠陥を確実に防止することができる。
【0037】
また、半製品(2)を加熱炉(14)内で転がしつつ加熱する構成としたため、塗布した液状の樹脂が加熱硬化する前に流動してしまう、いわゆる液ダレを防止することができるので、均一な膜厚の樹脂層(11)を形成することができる。
【0038】
また、上記第2及び第10の発明によれば、半製品(2)を加熱炉(14)内部で回転させながら、加熱炉(14)の軸方向に移動することができる。これにより、連続して複数個の半製品(2)を加熱することができる。
【0039】
また、上記第3の発明によれば、加熱炉(14)に半製品(2)を順に挿入する挿入機構(16)を設けたため、加熱炉(14)内で半製品(2)は、挿入機構(16)に押し進み、加熱炉(14)内を移動することとなる。これにより、簡易な構成で半製品(2)が加熱炉(14)を移動することができる。
【0040】
また、上記第4の発明によれば、加熱炉(14)の内周面に螺旋形状の突条(17)を設けたため、加熱炉(14)が回転すると、半製品(2)は転がりつつ螺旋形状に沿って加熱炉(14)の軸方向に移動することとなる。これにより、複雑な移動手段を備えることなく、半製品(2)は加熱炉(14)内を加熱されながら移動することができるため、製造装置の設備の簡略化をすることができる。
【0041】
また、上記第5及び第11の発明によれば、円筒状に形成された加熱炉(14)の一端(18)から、乾燥空気を供給して、半製品(2)の内周空間を循環させる構成としたため、半製品(2)に塗布した液状の樹脂(11)の乾燥を促進させることができる。
【0042】
また、上記第6及び第12の発明によれば、乾燥工程での加熱炉(14)の回転を焼成工程での回転よりも高回転に設定したことにより、乾燥工程において半製品(2)の内周面に塗布した液状の樹脂が流動してしまう、いわゆる液ダレの発生を防止することができる。
【0043】
また、上記第7及び第13の発明によれば、乾燥工程での加熱温度は、焼成工程の加熱温度に対して低い低温度に設定する。一方、前焼成工程の加熱温度は、乾燥工程の加熱温度に対して高い中温度に設定し、後焼成工程の加熱温度は、前焼成工程の加熱温度に対して高い高温度に設定する。この結果、乾燥工程時において、樹脂層(11)内部の溶剤が十分に蒸発した後に、樹脂層(11)の表面の乾燥が行われることとなるため、樹脂層(11)にピンホール等の塗膜欠陥が生じない。更に、焼成工程においては、もはやピンホール等の塗膜欠陥は生じないため、焼成温度を高温度に設定することができる。この結果、製造タクト時間の短縮等ができる。
【0044】
また、上記第8及び第14の発明によれば、摺動摩擦低減及び耐薬品性を有する樹脂層(11)が形成された軸受け部材(2)を製造することができる。
【0045】
また、上記第9の発明によれば、金属製の基材(10)の内周面に液状の樹脂を塗布した半製品(2)を、半製品(2)より長尺の円筒形状の加熱炉(14)の内部で転がせつつ、加熱炉(14)を加熱するように構成したため、半製品(2)は加熱炉(14)内を転がりつつ加熱されることとなり、塗布した樹脂層(11)の最下層に熱が伝わるため、樹脂層(11)は、基材(10)の接触面から温められて樹脂層(11)の内部に含まれる溶剤の蒸発が起こり、溶剤が十分に蒸発した後で樹脂層(11)の表面に熱が伝わることとなる。この結果、樹脂層(11)の表面が熱硬化する前に樹脂層(11)内の溶剤は蒸発することから、樹脂層(11)の表面が硬化した後に樹脂層(11)内の溶剤が蒸発することで発生するピンホール等の塗膜欠陥を確実に防止することができる。
【0046】
また、半製品(2)を加熱炉(14)内で転がしつつ加熱する構成としたため、塗布した液状の樹脂が加熱により硬化する前に流動してしまう、いわゆる液ダレの発生を防止することができるので、均一な膜厚の樹脂層(11)を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0048】
〈発明の実施形態1〉
図1に示すように、本実施形態は、軸受け部材(2)の製造装置(1)に本発明を適用したものである。
【0049】
上記製造装置(1)は、円筒体の金属製基材(10)の内周面に液状の樹脂を塗布した半製品の軸受け部材(2)と、軸受け部材(2)よりも長尺の円筒形状に形成された加熱炉(14)と、加熱炉(14)を加熱炉(14)の軸心を中心に回転させる回転手段(3)と、加熱炉(14)を加熱する加熱手段(4)と、加熱炉(14)の内部に設置した軸受け部材(2)を加熱炉(14)の一端(18)から他端(19)に向かって加熱炉(14)の軸方向に搬送する移動手段(5)と、コントローラ(30)とで構成されている。
【0050】
上記軸受け部材(2)は、例えば、冷凍装置の圧縮機におけるクランク軸の軸受けに用いられるものであり、基材(10)の内周面に熱硬化性の樹脂を塗布して樹脂層(11)が形成されたものである。
【0051】
上記加熱炉(14)は、内径が軸受け部材(2)の外径よりもやや大きく形成された円筒体に構成され、軸受け部材(2)の外周面が加熱炉(14)の内周面に接して、該軸受け部材(2)が加熱炉(14)の内部で回転自在な径に形成されている。上記加熱炉(14)の軸方向長さは、複数の軸受け部材(2)が軸方向に収納可能に形成されている。また、上記加熱炉(14)は、図示しないが、軸心を中心に回転時に支持されている。
【0052】
上記加熱手段(4)は、加熱炉(14)の外側に位置する加熱ヒータ(15)を備えている。該加熱ヒータ(15)は、上記加熱炉(14)を過熱して内部の軸受け部材(2)を加熱するように構成されている。上記加熱ヒータ(15)は、加熱炉(14)の外周面と所定間隔を存して該加熱炉(14)を囲繞する円筒体に構成され、加熱炉(14)と同心上に配置されている。更に、上記加熱ヒータ(15)の軸方向長さは、加熱炉(14)の両端部に亘る長さに形成されている。
【0053】
上記回転手段(3)は、電動モータ(13)を備え、該電動モータ(13)の駆動軸は、加熱炉(14)の一端部にベルトなどの連結部材によって連結されている。
【0054】
上記移動手段(5)は、加熱炉(14)内において、軸受け部材(2)を加熱炉(14)の軸方向に移動させる挿入機構(16)によって構成されている。上記挿入機構(16)は、ピストン部材(20)と該ピストン部材(20)を移動させるピストン駆動部(21)とを備えている。該ピストン部材(20)は、円盤状のピストン(22)と該ピストン(22)に連結されたピストンロッド(23)とを備えている。該ピストン(22)は、上記加熱炉(14)の内径よりもやや小さく、且つ軸受け部材(2)の内径よりもやや大きく形成され、加熱炉(14)の内部に挿入自在に形成されている。
【0055】
そして、上記ピストン部材(20)は、加熱炉(14)と同心上に配置され、ピストン駆動部(21)によって加熱炉(14)の軸心上を移動し、軸受け部材(2)を加熱炉(14)の挿入端から該加熱炉(14)内に順次押し込み、軸受け部材(2)が加熱炉(14)内を押し進むように構成されている。
【0056】
上記コントローラ(30)は、回転手段(3)を制御する回転制御部(31)と、加熱ヒータ(15)を制御する加熱制御部(32)とを備えている。該回転制御部(31)は、加熱炉(14)内において、軸受け部材(2)が所定の回転速度でもって回転するように電動モータ(13)の回転数を制御するように構成されている。また、上記加熱制御部(32)は、加熱炉(14)内において、軸受け部材(2)が所定の温度でもって加熱されるように加熱ヒータ(15)の温度を制御するように構成されている。
【0057】
−軸受け部材(2)の製造方法−
次に、上述した軸受け部材(2)の製造装置(1)による製造動作について、軸受け部材(2)の製造方法とともに説明する。
【0058】
先ず、上記軸受け部材(2)を製造するに当たり、塗布工程から開始される。つまり、上記塗布工程は、予め所定長さに形成された基材(10)を準備する一方、該基材(10)の内周面に熱硬化性の液状の樹脂を塗布し、基材(10)の内周面に樹脂層(11)が形成された半製品の軸受け部材(2)を製作する。
【0059】
続いて、上記塗布工程が終了すると、半製品の軸受け部材(2)の加熱工程(1a)に移る。この加熱工程(1a)は、樹脂層(11)の乾燥工程(1b)と焼成工程(1c,1d)とより構成され、更に、上記焼成工程(1c,1d)は、前焼成工程(1c)と後焼成工程(1d)とにより構成されている。つまり、上記樹脂層(11)の乾燥工程(1b)が終了すると、連続して樹脂層(11)の前焼成工程(1c)と後焼成工程(1d)とが行われる。
【0060】
そこで、上記加熱工程(1a)は、回転手段(3)の電動モータ(13)を駆動して加熱炉(14)を回転させるとともに、加熱ヒータ(15)を駆動して加熱炉(14)を外側から加熱した状態で行われる。
【0061】
この状態において、軸受け部材(2)は、加熱炉(14)の入口側(18)からピストン部材(20)を移動させて加熱炉(14)内に挿入する。そして、複数の軸受け部材(2)を所定時間ごとに加熱炉(14)内に挿入する。
【0062】
上記軸受け部材(2)は、加熱炉(14)内において、加熱炉(14)の回転に伴って回転すると同時に、加熱炉(14)の熱が基材(10)に伝わり、樹脂層(11)は、加熱炉(14)の接触面側、つまり、基材側から加熱される。そして、上記軸受け部材(2)は、加熱炉(14)内を順次押し進むことにより、加熱炉(14)の出口側(19)に移動する。
【0063】
上記軸受け部材(2)が、加熱炉(14)内を移動する過程において、先ず乾燥工程が行われ、樹脂層(11)の基材側から乾燥し、樹脂層(11)の溶剤が蒸発する。この乾燥工程の後に樹脂層(11)の前焼成工程(1c)と後焼成工程(1d)とが順に行われて樹脂層(11)が焼成される。
【0064】
その後、上記軸受け部材(2)が加熱炉(14)の出口側から搬出され、軸受け部材(2)の製作が完了する。
【0065】
−実施形態1の効果−
以上のように本実施形態1によれば、円筒体の基材(10)の内周面に液状の樹脂を塗布した半製品の軸受け部材(2)を加熱炉(14)内に入れ、加熱炉(14)内で転がしつつ加熱炉(14)を加熱する構成としたため、塗布した樹脂層(11)の表面よりも先に樹脂層(11)の下層部を乾燥させることができる。この結果、樹脂層(11)の表面が熱硬化する前に、樹脂層(11)内部に含まれる溶剤が蒸発するため、軸受け部材(2)の乾燥時にピンホール等の塗膜欠陥を生じることがない。また、上記軸受け部材(2)の加熱と移動を同時に行うことができるため、連続して複数の軸受け部材(2)を加熱することができる。
【0066】
〈発明の実施形態2〉
次に、本発明の実施形態2について図面に基づき説明する。
【0067】
本発明は、図2に示すように、実施形態1に示した軸受け部材(2)の挿入機構(16)に代えて、加熱炉(14)の内周面に、軸受け部材(2)の軸方向長さよりも長いピッチで形成された螺旋形状の突条(17)を設けるように構成されている。
【0068】
つまり、図2のように、加熱炉(14)内に設置された軸受け部材(2)は、加熱炉(14)内を転がりつつ加熱炉(14)の内周面に形成された螺旋形状の突条(17)によって、加熱炉(14)の軸方向に移動するように構成されている。具体的に、加熱炉(14)が回転すると突条(17)が進む方向に回転するので、軸受け部材(2)は、突条(17)に沿って、加熱炉(14)内を入口側(18)から出口側(19)に移動し、加熱される。その他の構成及び効果は実施形態1と同様である。
【0069】
<発明の実施形態3>
次に、本発明の実施形態3について図面に基づき説明する。
【0070】
本実施形態は、図3に示すように、実施形態1の軸受け部材(2)の製造装置(1)に乾燥空気供給手段(40)を追加したものである。また、加熱炉(14)内には軸受け部材(2)が複数個(図3では7個)設置されている。尚、移動手段は省略している。
【0071】
上記乾燥空気供給装置(40)は、加熱炉(14)の一端(18)から、乾燥空気を流入させる乾燥空気供給部(41)と加熱炉(14)の他端(19)から乾燥空気を排出させる乾燥空気排出部(42)とを備えている。つまり、供給された乾燥空気が、軸受け部材(2)の内周空間を流通するように構成されている。
【0072】
従って、供給された乾燥空気は、軸受け部材(2)の内周空間を流通した後、他端(19)側の乾燥空気排出部(42)で排出される。この結果、軸受け部材(2)が加熱されると同時に、軸受け部材(2)の内周空間に乾燥空気が流通することとなるため、軸受け部材(2)の内周面に塗布した樹脂層(11)の乾燥を促進させることができる。その他の構成及び効果は実施形態1と同様である。
【0073】
<発明の実施形態4>
次に、本発明の実施形態4について図面に基づき説明する。
【0074】
本実施形態は、図4に示すように、実施形態1の軸受け部材(2)の加熱炉(14)を3台連結したものであり、製造工程(1a)において各加熱炉(14)が順に乾燥工程(1b)と前焼成工程(1c)と後焼成工程(1d)とを構成している。
【0075】
また、上記乾燥工程(1b)は、焼成工程(1c,1d)よりも加熱炉(14)の回転が高回転となるように設定し、焼成工程(1c,1d)は、乾燥工程(1b)よりも加熱炉(14)の回転が低回転となるように設定する。この結果、乾燥工程(1b)において半製品の軸受け部材(2)の内周面に塗布した液状の樹脂層(11)が流動してしまう、いわゆる液ダレの発生を防止することができるので、均一な膜厚の樹脂層(11)を形成することができる。
【0076】
また、上記乾燥工程(1b)での加熱温度が前焼成工程(1c)よりも低い低温度となるよう設定し、前焼成工程(1c)での加熱温度は、乾燥工程(1b)よりも高い中温度となるように設定し、更に、後焼成工程(1d)での加熱温度は、前焼成工程(1c)よりも高い高温度となるように設定する。この結果、乾燥工程(1b)において、樹脂層(11)内部の溶剤が十分に蒸発した後に、樹脂層(11)の表面の乾燥が行われることとなるため、樹脂層(11)にピンホール等の塗膜欠陥が生じない。更に、焼成工程(1c,1d)においては、もはやピンホール等の塗膜欠陥は生じないため、焼成温度を高温度に設定することができる。この結果、製造タクト時間の短縮等ができる。その他の構成及び効果は実施形態1と同様である。
【0077】
〈その他の実施形態〉
本発明は、上記実施形態1について、以下のような構成としてもよい。
【0078】
本各実施形態は、軸受け部材(2)の製造装置(1)について説明したが、本発明は、各種の樹脂コーティング品の製造装置及び製造方法等に適用することができる。
【0079】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明は、樹脂コーティング品を製造するための製造装置及び製造方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本実施形態1に係る軸受け部材の製造装置を示した概略構成図(a)と本実施形態1に係る軸受け部材の設置状態を示す加熱炉の断面図(b)である。
【図2】本実施形態2に係る軸受け部材の製造装置を示した概略構成図(a)と本実施形態2に係る軸受け部材の設置状態を示す加熱炉の断面図(b)である。
【図3】本実施形態3に係る軸受け部材の製造装置を示した概略構成図である。
【図4】本実施形態4に係る軸受け部材の製造装置を示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0082】
1 軸受け部材の製造装置
2 軸受け部材
3 回転装置
4 加熱手段
5 移動手段
14 加熱炉
15 加熱ヒータ
16 挿入機構
17 螺旋状の突条
20 ピストン部材
30 コントローラ
31 回転制御部
32 加熱制御部
40 乾燥空気供給手段
41 乾燥空気供給部
42 乾燥空気排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体の金属製基材(10)の内周面に液状の樹脂が塗布された半製品(2)を加熱して上記基材(10)の内周面に樹脂層(11)が形成された樹脂コーティング品を製造する樹脂コーティング品の製造装置であって、
上記半製品(2)より長尺の円筒状に形成され、上記半製品(2)が内部に設置される加熱炉(14)と、
上記半製品(2)を加熱炉(14)内で転がるように上記加熱炉(14)の軸心を中心に該加熱炉(14)を回転させる回転手段(3)と、
該回転手段(3)によって回転する上記加熱炉(14)を加熱する加熱手段(4)とを備えている
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記加熱炉(14)内の半製品(2)を加熱炉(14)の一端(18)から他端(19)に向かって加熱炉(14)の軸方向に移動させる移動手段(5)を備えている
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造装置。
【請求項3】
請求項1において、
上記移動手段(5)は、上記半製品(2)が加熱炉(14)の内部を移動するように該加熱炉(14)の一端(18)から加熱炉(14)内に上記半製品(2)を順に挿入する挿入機構(16)によって構成されている
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造装置。
【請求項4】
請求項1において、
上記移動手段(5)は、上記加熱炉(14)の内周面に形成され、半製品(2)の軸方向長さより長いピッチで形成された螺旋状の突条(17)によって構成されている
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造装置。
【請求項5】
請求項1において、
上記加熱炉(14)の内部に乾燥空気を供給する供給手段(40)を備えている
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造装置。
【請求項6】
請求項1において、
上記半製品(2)の樹脂層(11)の乾燥工程時に加熱炉(14)が高回転となり、上記半製品(2)の樹脂層(11)の焼成工程時に加熱炉(14)が低回転となるように上記回転手段(3)を制御する回転制御手段(31)を備えている
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造装置。
【請求項7】
請求項1において、
上記半製品(2)の樹脂層(11)の乾燥工程時に加熱炉(14)が低温度となり、上記半製品(2)の樹脂層(11)の前焼成工程時に加熱炉(14)が乾燥工程時より高い中温度となり、上記半製品(2)の樹脂層(11)の後焼成工程時に加熱炉(14)が前焼成工程時より高い高温度となるように上記加熱手段(4)を制御する加熱制御手段(32)を備えている
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造装置。
【請求項8】
請求項1において、
上記樹脂コーティング品は、軸受け部材(2)である
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造装置。
【請求項9】
円筒体の金属製基材(10)の内周面に樹脂層(11)が形成された樹脂コーティング品を製造する樹脂コーティング品の製造方法であって、
円筒体の基材(10)の内周面に液状の樹脂を塗布して、樹脂層(11)を有する半製品(2)を作製する塗布工程と、
上記半製品(2)より長尺の円筒状に形成され且つ加熱された加熱炉(14)に上記半製品(2)を設置し、該加熱炉(14)の軸心を中心に該加熱炉(14)を回転して上記半製品(2)を加熱炉(14)内で転がせつつ加熱し、上記樹脂層(11)を硬化させる加熱工程とを備えている
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
上記加熱工程における加熱炉(14)内の半製品(2)は、加熱炉(14)の一端(18)から他端(19)に向かって加熱炉(14)の軸方向に移動する
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造方法。
【請求項11】
請求項9において、
上記加熱工程における加熱炉(14)には、内部に乾燥空気が供給される
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造方法。
【請求項12】
請求項9において、
上記加熱工程は、半製品(2)の樹脂層(11)を乾燥させる乾燥工程と、該乾燥工程に続いて半製品(2)の樹脂層(11)を焼成させる焼成工程とより構成され、
上記乾燥工程で加熱炉(14)が高回転で回転し、上記焼成工程で加熱炉(14)が低回転で回転する
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造方法。
【請求項13】
請求項9において、
上記加熱工程は、半製品(2)の樹脂層(11)を乾燥させる乾燥工程と、該乾燥工程に続いて半製品(2)の樹脂層(11)を焼成させる焼成工程とより構成され、
上記乾燥工程で加熱炉(14)が低温度となり、上記焼成工程における前焼成工程で加熱炉(14)が乾燥工程より高い中温度となり、上記焼成工程における後焼成工程で加熱炉(14)が前焼成工程より高い高温度となる
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造方法。
【請求項14】
請求項9において、
上記樹脂コーティング品は、軸受け部材(2)である
ことを特徴とする樹脂コーティング品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−229411(P2008−229411A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68470(P2007−68470)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】