説明

樹脂セラミック複合材料およびその製造方法、ならびに複合材料シート、フィルムコンデンサおよび積層コンデンサ

【課題】誘電率が比較的高く、積層コンデンサの誘電体層を形成するのに適した、樹脂セラミック複合材料を提供する。
【解決手段】60〜70%の体積割合でセラミック粒子が樹脂の中に分散している、樹脂セラミック複合材料であって、隣り合う第1および第2のセラミック粒子1,2が互いに接触する部分での径を2aとし、第1のセラミック粒子1の径を2Rとしたとき、a/Rが0.3以上である状態を、ネッキングしていると定義した場合、セラミック粒子が他のセラミック粒子とネッキングしている個数割合が40%以上となるようにし、かつ、任意の断面上での1μm角の面素において、セラミック粒子の占める面積割合が40%以上である面素の個数割合が90%以上となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂セラミック複合材料およびその製造方法、樹脂セラミック複合材料を用いて構成される複合材料シート、ならびに、複合材料シートを用いて構成される、フィルムコンデンサおよび積層コンデンサに関するもので、特に、樹脂セラミック複合材料の誘電率を向上させるための改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、そこで用いられる電子部品、たとえばコンデンサに対して、小型化かつ大容量化の要求が高まっている。たとえばBaTiO系等の誘電体セラミックを誘電体層に用いた積層セラミックコンデンサについて言えば、誘電体セラミックが有する高い誘電率により、上述の小型化かつ大容量化の要求を実現している。また、積層セラミックコンデンサは、信頼性にも優れるという長所を持っている。
【0003】
他方、車載用の電子機器に搭載される電子回路に用いるコンデンサに対しては、万が一、故障してもショートにならないという、フェイルセーフ機能が求められている。上述した積層セラミックコンデンサの場合、層間ショートが1箇所でも起こると、全ショートとなる。したがって、積層セラミックコンデンサが故障発生時にショートモードで故障するのを避け、フェイルセーフ機能を持たせるためには、積層セラミックコンデンサの外部にヒューズを取り付ける必要があり、コスト的に不利である。
【0004】
上述したようなフェイルセーフ機能が求められる用途に対しては、フィルムコンデンサが有利に用いられている。フィルムコンデンサによれば、容量形成のための電極が蒸着のような薄膜形成技術により形成されたものであるため、ショートが生じたとき、その部分の電極が消失し、その結果、オープン状態となり、深刻な全ショート状態を招かないからである。しかしながら、フィルムコンデンサでは、誘電率が3程度の樹脂を誘電体部に用いているため、その静電容量は、積層セラミックコンデンサに比べると格段に低く、大容量化の要求を満足できるものではない。
【0005】
そこで、フィルムコンデンサの誘電体部の誘電率を高めるため、セラミック粉末を樹脂の中に分散させた樹脂セラミック複合材料を誘電体部において用いることが提案されている。樹脂セラミック複合材料においては、セラミック粉末の充填率を高めると、誘電率を高くすることができる。しかしながら、誘電率を高めようとして、セラミック粉末の充填率を高めると、誘電体部を薄層化しにくくなる。そして、このことは、結局、高い静電容量を得ることを妨げる。このような樹脂セラミック複合材料の問題を解決しようとして、次のような技術が提案されている。
【0006】
まず、特許文献1では、誘電体粉末が添加されることによって、高誘電率でかつ誘電正接等の電気的特性に優れたものとされたエポキシ樹脂組成物において、誘電体粉末が大量に添加されることによって、エポキシ樹脂組成物の粘度が上昇し、塗工性が低下するという問題を解消するための技術が記載されている。より具体的には、アルミニウム系カップリング剤で表面処理したチタン酸バリウム粉末30〜70体積%と、エポキシ樹脂(硬化剤、硬化促進剤を含む)70〜30体積%とからなる高誘電率エポキシ樹脂組成物としながら、アルミニウム系カップリング剤として、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートを用いることによって、高誘電率と塗工性とを両立させることが記載されている。得られたエポキシ樹脂組成物は、15以上の誘電率を有している。
【0007】
次に、特許文献2では、基板内蔵コンデンサ等の電子部品の材料として好適な高誘電率の樹脂混合物が記載されている。より具体的には、平均粒子径が異なる2種類の高誘電率粉末を、樹脂中に混合した高誘電率樹脂混合物であって、一次粒子の平均粒子径をrμmとし、これに二次粒子として、平均粒子径が0.5rμm以下の高誘電率粉末を含有させることにより、誘電率が40以上とされた高誘電率樹脂混合物が記載されている。
【0008】
次に、特許文献3では、樹脂材料への分散に適した粒径を有し、樹脂に対する分散性および充填性に優れた球状セラミック粉末を用いて作製した、セラミック粉末と樹脂材料との複合材料が記載されている。より具体的には、磁性体または誘電体からなる酸化物球状粉末と、酸化物球状粉末を分散、保持する樹脂とからなる、電子部品のための複合材料であって、酸化物球状粉末は、平均粒径が1〜10μmであり、0.9以上の球形度を有し、30〜80重量%の範囲で含有されることが記載されている。この複合材料の誘電率は、10程度である。
【0009】
以上の特許文献1ないし3に記載された技術は、いずれも、樹脂セラミック複合材料の誘電率を高めるため、セラミック粉末の充填率を上げることに着目しているが、達成した誘電率は、最高で特許文献2に記載のものの40程度であり、近年のコンデンサへの小型化かつ大容量化の要求を考慮したとき、この誘電率は十分に高いとは言えない。セラミック粉末の充填率をさらに上げることにより、誘電率を高めることも考えられる。しかしながら、誘電体部の薄層化は、静電容量を高めるための有効な手段であるにもかかわらず、セラミック粉末の充填率をさらに高めると、たとえば厚み10μm以下といった薄層化に適応できないと考えられる。
【特許文献1】特開2005−8665号公報
【特許文献2】特開2004−285105号公報
【特許文献3】特開2004−256821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、より具体的には、セラミック粉末の充填率を上げずに誘電率を高めることができる、樹脂セラミック複合材料およびその製造方法を提供しようとすることである。
【0011】
この発明の他の目的は、上述した樹脂セラミック複合材料を用いて構成される複合材料シート、ならびに、複合材料シートを用いて構成される、フィルムコンデンサおよび積層コンデンサを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、セラミック粒子が樹脂の中に、セラミック粒子の体積割合が60〜70%になるように、分散している、樹脂セラミック複合材料にまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0013】
すなわち、隣り合う第1および第2のセラミック粒子間において、第1および第2のセラミック粒子が互いに接触している状態であって、この接触部分での径を2aとし、第1のセラミック粒子の径を2Rとしたとき、a/Rが0.3以上である状態を、ネッキングしていると定義した場合、当該複合材料の任意の断面上で任意のセラミック粒子を観察したとき、当該セラミック粒子が少なくとも1個の他のセラミック粒子とネッキングしている、そのようなセラミック粒子の個数割合が40%以上であり、かつ、当該複合材料の任意の断面上での任意の1μm角の面素において、セラミック粒子の占める面積割合が40%以上である面素の個数割合が90%以上であることを特徴としている。
【0014】
この発明に係る樹脂セラミック複合材料において、セラミック粒子の主成分は、(Ba,Sr,Ca)(Ti,Zr,Hf)Oであることが好ましい。
【0015】
この発明は、また、上述した樹脂セラミック複合材料からなる、厚み10μm以下の複合材料シートに向けられる。
【0016】
さらに、この発明は、上述した複合材料シートと、この複合材料シートの両主面上に互いに対向するように形成された金属薄膜からなる電極とを備える、フィルムコンデンサにも向けられる。
【0017】
この発明は、また、次のような構成を備える積層コンデンサにも向けられる。すなわち、この発明に係る積層コンデンサは、上述の複合材料シートによって与えられる、積層された複数の誘電体層と、誘電体層を介して互いに対向しかつ金属薄膜によって与えられる、第1および第2の内部電極とをもって構成される、積層体と、積層体の外表面上の互いに異なる位置に形成される第1および第2の外部電極とを備え、第1および第2の内部電極は、積層体において、その積層方向に関して交互に配置されながら、それぞれ、第1および第2の外部電極に電気的に接続される。
【0018】
この発明は、さらに、前述したこの発明に係る樹脂セラミック複合材料を製造する方法にも向けられる。この発明に係る樹脂セラミック複合材料の製造方法は、第1のセラミック粉末を用意する工程と、第1のセラミック粉末を加圧することによって、圧粉体を形成する工程と、圧粉体を700℃以上の温度にて熱処理する工程と、熱処理された圧粉体を、分散媒とともに、高圧ホモジナイザーにて処理することによって、スラリーとする工程と、スラリーから分散媒を除去することによって、処理後の第1のセラミック粉末に相当する第2のセラミック粉末を取り出す工程と、第2のセラミック粉末を樹脂の中に投入し、攪拌することによって、樹脂の中に第2のセラミック粉末を分散させたペーストを得る工程と、ペーストを成形し、乾燥する工程とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係る樹脂セラミック複合材料によれば、ネッキングしているセラミック粒子の個数割合が40%以上と高くされているので、誘電率の比較的高いセラミック粒子の間に、誘電率の比較的低い樹脂が介在しにくくなり、樹脂セラミック複合材料全体としての誘電率を高めることができる。すなわち、誘電率の比較的高いセラミック粒子の間に、誘電率の比較的低い樹脂が、電界がかかる方向に直列に配置されると、誘電率の比較的高い部分と比較的低い部分との直列接続状態となり、誘電率が大幅に低下してしまう。これに対して、セラミック粒子がつながった状態であれば、誘電率の比較的低い樹脂が介在しにくいので、高い誘電率が得られるのである。
【0020】
また、この発明に係る樹脂セラミック複合材料によれば、セラミック粒子の占める面積割合が40%以上である面素の個数割合が90%以上とされるので、樹脂セラミック複合材料全体に、フィラーであるセラミック粒子が均一に分散していることになる。仮に、上述のようにネッキングしているセラミック粒子の個数割合が高くても、セラミック粒子の分散性が悪いと、その効果を発揮できないが、この発明によれば、セラミック粒子が均一に分散しているので、上述したネッキングしているセラミック粒子の個数割合が高いことによる効果を十分に発揮させることができる。
【0021】
このようなことから、この発明に係る樹脂セラミック複合材料によれば、後述する実験例から明らかなように、誘電率をたとえば200以上と高くすることができる。
【0022】
この発明に係る樹脂セラミック複合材料において、セラミック粒子の主成分が、(Ba,Sr,Ca)(Ti,Zr,Hf)Oであるとき、セラミック粒子自身の誘電率を高めることができるので、その分、樹脂セラミック複合材料の誘電率も高めることができる。
【0023】
また、この発明に係る樹脂セラミック複合材料は、厚み10μm以下と薄層化された複合材料シートをそこから容易に成形することができる。そして、この複合材料シートの両主面上に、たとえば蒸着により金属薄膜からなる電極を互いに対向するように形成することによって、フィルムコンデンサが得られ、また、複合材料シートを積層された複数の誘電体層として用いれば、積層コンデンサを能率的に製造することができる。
【0024】
この発明に係る積層コンデンサによれば、誘電率が200以上と高く、また、厚みが10μm以下とされた、複合材料シートによって与えられる誘電体層を備えているので、取得される静電容量を高めることができる。また、複合材料シートによって与えられる誘電体層は、一般的な積層セラミックコンデンサにおける誘電体層の場合とは異なり、焼成工程を必要としないため、内部電極として、たとえばアルミニウム薄膜のような金属薄膜を問題なく用いることができる。そして、内部電極が、たとえば厚さ30nm程度に薄くされた金属薄膜によって構成されると、ショートが生じたとき、そのショートが生じた部分の内部電極が消失し、その結果、オープン状態となるため、積層コンデンサを、フェイルセーフ機能を備えるものとすることができる。
【0025】
この発明に係る樹脂セラミック複合材料の製造方法によれば、前述したように、ネッキングしているセラミック粒子の個数割合が40%以上と高く、かつセラミック粒子が均一に分散している、樹脂セラミック複合材料を容易かつ確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
この発明に係る樹脂セラミック複合材料は、セラミック粒子が樹脂の中に分散しているものであって、セラミック粒子の体積割合が60〜70%とされている。セラミック粒子の体積割合の上限を70%としたのは、これを超えると薄層化が困難になるためである。また、セラミック粒子の平均粒径(粒度分布でいうD50値)は、この樹脂セラミック複合材料によって得ようとする誘電体層の厚みの1/4以下であることが好ましい。セラミック粒子の粒径が大きすぎると、薄層化が困難になるためである。
【0027】
この発明に係る樹脂セラミック複合材料において、樹脂として、シアノレジン(シアノエチル基を有する樹脂)を用いることが、高い誘電率を発現させるのに適している。このシアノレジンとしては、たとえば、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルサッカロースなどが挙げられる。
【0028】
なお、樹脂の種類としては、上述のシアノレジンに限定されるものではない。シアノレジン以外の樹脂としては、たとえば、ポリイミド(PI)、エポキシ樹脂、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルフォン(PS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フェノール樹脂、フッ素樹脂等を使用できる。
【0029】
この発明に係る樹脂セラミック複合材料に含まれるセラミック粒子は、フィラーとして添加されるものである。このセラミック粒子を与えるセラミック粉末としては、最も好ましくは、誘電率が高いBaTiO粉末が用いられる。ただし、BaTiOのBaサイトの一部をSrやCaで置き換えたものや、Tiサイトの一部をZrやHfで置き換えたものであっても、高い誘電率を発現させることができるので、これらを用いてもよい。なお、上述のHfはZrと実質分離不可能な元素であり、Zrとともにセラミック粉末中に含まれている。
【0030】
上述したセラミック粒子に関して、この発明では、次のような条件を満たすようにされる。
【0031】
図1は、樹脂セラミック複合材料に含まれる多数のセラミック粒子のうち、典型的な2個のセラミック粒子、すなわち、隣り合う第1および第2のセラミック粒子1および2を図解的に示す図である。
【0032】
図1を参照して、隣り合う第1および第2のセラミック粒子1および2間において、第1および第2のセラミック粒子1および2が互いに接触している状態であって、この接触部分での径を2aとし、第1のセラミック粒子1の径を2Rとしたとき、a/Rが0.3以上である状態を、ネッキングしていると定義する。
【0033】
すなわち、第1および第2のセラミック粒子1および2が互いに接触していない場合、あるいは、接触しているが、a/Rが0.3未満である場合には、ネッキングしているとは言わない。また、第1のセラミック粒子1が、第2のセラミック粒子2を含む複数個のセラミック粒子と接触している場合、どれか1個のセラミック粒子について、a/Rが0.3以上であれば、ネッキングしているとする。
【0034】
上述のようにネッキングを定義した場合、樹脂セラミック複合材料の任意の断面上での任意のセラミック粒子を観察したとき、当該セラミック粒子が少なくとも1個の他のセラミック粒子とネッキングしている、そのようなセラミック粒子の個数割合(以下、単に「ネッキング割合」と言うこともある。)が40%以上であるという条件を満たすようにされる。
【0035】
このように、ネッキング割合を高めることにより、誘電率の比較的高いセラミック粒子の間に、誘電率の比較的低い樹脂が介在しにくくなり、樹脂セラミック複合材料全体としての誘電率を高めることができる。
【0036】
なお、上述のように、ネッキング割合がたとえ高くても、セラミック粒子の分散性が悪いと、上述のような効果を十分に発揮できない。そのため、樹脂セラミック複合材料の任意の断面上での任意の1μm角の面素において、セラミック粒子の占める面積割合が40%以上である面素の個数割合が90%以上であるという条件を満たすようにされ、セラミック粒子が良好に分散していること、言い換えると、セラミック粒子の分布に偏りが少ないことが必要とされる。
【0037】
このような面素の個数割合を求めるため、具体的には、樹脂セラミック複合材料の任意の断面を反射電子顕微鏡(SEM)で観察し、このSEM像を1μm角の面素に分割し、各面素におけるセラミック粒子の占める面積(占有面積)を、WDX(波長分散型X線マイクロアナライザ)のマッピング画像解析で求め、その占有面積が40%以上である面素の個数割合が求められる。一例として、500個の面素について評価されるが、たとえば500個の面素の取り方は、任意であり、SEM像において、分散していても、集中していてもよい。
【0038】
このようなネッキング割合が40%以上と高く、良好に分散したセラミック粒子を含む樹脂セラミック複合材料は、たとえば、次のようにして製造される。
【0039】
まず、第1のセラミック粒子としてのBaTiO粉末が用意され、このBaTiO粉末を、加圧機を用いて、20MPa程度の圧力で加圧し、それによって、圧粉体を形成する。
【0040】
次に、圧粉体を、700℃以上の温度、たとえば800℃程度の温度で熱処理し、それによって、BaTiO粒子間にネッキングを生じさせる。次に、熱処理後の圧粉体を、乾式粉砕機を用いて粉砕して、粉体にする。
【0041】
次に、この粉体を、pHを5.5〜6に調整した水を分散媒として用い、高圧ホモジナイザーにて分散処理し、スラリーとする。次に、このスラリーを乾燥させ、すなわち、スラリーから分散媒としての水を除去し、それによって、処理後の第1のセラミック粒子に相当する第2のセラミック粒子としてのネッキング割合の高いBaTiO粉末を取り出す。
【0042】
以上の工程において、圧粉体としてから熱処理するのは、BaTiO粒子の粒径を極度に大きくしないで、ネッキングさせることができるからである。仮に、圧粉体としないで熱処理した場合、ネッキングはするが、粒径が大きくなりやすいので、結果的に、ネッキングしている粒子の割合が低くなってしまう。
【0043】
また、分散に高圧ホモジナイザーを用いるのは、ネッキングをできるだけ残したまま、良好な分散状態を有する第2のセラミック粒子としてのBaTiO粉末を得るためである。分散のため、仮にボールミルを使ったりすると、第2のセラミック粒子を小さくできるが、ネッキングを壊してしまう。
【0044】
また、分散時のpHを5.5〜6に調整するのは、これが低すぎると、ネッキングが溶解により解きほぐされてしまい、他方、高すぎると、圧粉体が解きほぐされにくいためである。
【0045】
次に、上述のようにして得られた第2のセラミック粒子としての高いネッキング割合を有するセラミック粉末と樹脂とが混合される。
【0046】
より具体的には、まず、樹脂粉末を溶剤に溶解し、流動性のある樹脂溶液にする。続いて、この樹脂溶液の中に、所望量のセラミック粉末を投入し、攪拌棒などで攪拌した上で、密閉容器に入れ、遠心脱泡機でさらに攪拌し、セラミック粒子を樹脂中に分散させるとともに、樹脂中の気泡を取り除く。
【0047】
このようにして得られたペーストを、PETフィルムやアルミニウムシート等のキャリア上でシート状に成形し、乾燥させることによって、図2に示すように、この発明に係る樹脂セラミック複合材料からなる複合材料シート11および12が得られる。
【0048】
図2に示した複合材料シート11および12を用いて、図3に示すような積層コンデンサ21を製造する場合、複合材料シート11および12は、その厚みが10μm以下とされることが好ましい。また、複合材料シート11および12の各々の主面上には、金属薄膜、好ましくは、アルミニウム薄膜13および14がそれぞれ、たとえば蒸着により形成される。ここで、複合材料シート11および12は、積層コンデンサ21において、誘電体層を与え、アルミニウム薄膜13および14は、内部電極を与えるものである。
【0049】
他方、フィルムコンデンサを得ようとする場合には、複合材料シート11または12の両主面上に、アルミニウム薄膜13または14のような金属薄膜からなる電極が互いに対向するように形成される。
【0050】
なお、積層コンデンサ21にフェイルセーフ機能を持たせるためには、内部電極をアルミニウム薄膜13および14で形成することが望ましいが、アルミニウム薄膜13および14に代えて、たとえば銅薄膜のような他の金属薄膜が形成されてもよい。
【0051】
図2に示した、複合材料シート11および12とアルミニウム薄膜13および14とを備える、シート状構造物15および16は、図3に示すように、交互に積層され、さらにその上下に、アルミニウム薄膜を形成していない適当数の複合材料シート17および18が積層され、加熱圧着されることにより、積層コンデンサ21の部品本体となる積層体22が得られる。
【0052】
以上の工程が、複数個の積層コンデンサ21を同時に製造するため、複合材料シート11および12、アルミニウム薄膜13および14ならびに積層体22がマザーの状態で実施される場合には、次いで、マザー状態の積層体をカットする工程が実施され、個々の積層コンデンサ21のための積層体22が取り出される。
【0053】
次に、積層体22の外表面上の互いに異なる位置、図示した実施形態では、積層体22の互いに対向する各端部に、外部電極23および24がそれぞれ形成される。外部電極23および24は、たとえば、銅のスパッタリングにより形成される。なお、外部電極23および24の形成には、蒸着が適用されても、導電性樹脂が適用されてもよく、また、外部電極23および24を構成する金属としては、銅以外のものが用いられてもよい。
【0054】
このようにして得られた積層コンデンサ21は、図2に示したシート状構造物15および16を複数積層してなるもので、複合材料シート11および12によって誘電体層が与えられ、アルミニウム薄膜13および14によって誘電体層を介して互いに対向する第1および第2の内部電極が与えられている、積層体22と、積層体22の各端部に形成される第1および第2の外部電極23および24とを備えている。そして、アルミニウム薄膜13および14によってそれぞれ与えられる第1および第2の内部電極は、積層体22において、その積層方向に関して交互に配置されながら、それぞれ、第1および第2の外部電極23および24に電気的に接続される。
【0055】
この積層コンデンサ21において、アルミニウム薄膜13および14間に介在する複合材料シート12および13の誘電率を、たとえば200以上と高くすることができ、しかも、複合材料シート12および13の厚みを10μm以下と薄くすることができるので、大きな静電容量を得ることができる。
【0056】
また、アルミニウム薄膜13および14は、厚み30nm程度というように薄くすることができるので、ショートが生じたとき、その部分に位置するアルミニウム薄膜13または14が消失し、オープン状態となるため、積層コンデンサ21に対してフェイルセーフ機能を持たせることができる。
【0057】
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すようなセラミック粉末C1〜C17を作製した。より詳細には、水熱合成法によって合成することによって、「組成」の欄に示す組成を有し、かつ「熱処理前平均粒径」の欄に示した平均粒径を有する、BaTiO系粉末を用意した。なお、この段階で、電子顕微鏡(SEM)で確認したところ、いずれの粉末にも、ネッキングがほとんど認められなかった。
【0060】
次に、上記BaTiO系粉末の各々を、加圧機を用いて、「熱処理前加圧」の欄に記載される圧力で加圧し、圧粉体を得た。なお、「熱処理前加圧」の欄に「加圧せず」と記載されているものについては、加圧機による加圧を行なわなかった。
【0061】
次に、「熱処理温度」の欄に記載される温度にて熱処理を施した。なお、「熱処理温度」の欄に「なし」と記載されているものについては、熱処理を施さなかった。次に、上記のように熱処理された圧粉体については、乾式粉砕機を用いて簡易粉砕処理した。
【0062】
次に、「分散時pH」の欄に記載されるpHに調整された水を分散媒に用い、「分散方法」の欄に記載される方法によって、「分散条件」の欄に記載される条件で分散処理を施し、スラリーを得た上で、これを乾燥させて、各試料に係るセラミック粉末C1〜C17を得た。
【0063】
「分散時pH」、「分散方法」および「分散条件」の3つの欄にわたって「分散処理なし」と記載されているものについては、分散処理を施さなかった。また、「分散方法」の欄に「高圧」と記載されているものについては、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理したことを示し、この場合において、「分散条件」の欄には、付与された圧力およびパス数が記載されている。「分散方法」の欄に「ボールミル」と記載されているのは、ボールミルを用いて分散処理したことを示し、この場合において、「分散条件」の欄には、ボールミルにおいて用いた粉砕媒体としてのボールの直径および分散処理時間が示されている。
【0064】
「分散後平均粒径」の欄には、得られたセラミック粉末C1〜C17の各々の平均粒径が示されているが、これは、後の工程で求められたものである。
【0065】
他方、シアノエチルポリビニルアルコール25gを、アセトン65gに混合攪拌して溶解させた、樹脂溶液を用意した。
【0066】
次に、表2に示した試料1〜18の各々に係る積層コンデンサを得るため、まず、表2の「セラミック記号」の欄に示した表1のセラミック粉末C1〜C17のいずれかを、「セラミック粒子の体積充填率」の欄に示した体積比率となるように、上記樹脂溶液に投入し、混合攪拌し、密閉容器に入れ、さらに遠心脱泡機を用いて、毎分10000回転で回転させ、樹脂セラミック複合材料ペーストを得た。なお、試料18では、セラミック粉末C11とセラミック粉末C12とをそれぞれ50%ずつ樹脂溶液に投入した。
【0067】
次に、メッシュを用いた印刷法により、上記樹脂セラミック複合材料ペーストをPETフィルム上でシート状に成形し、乾燥させ、複合材料シートを得た。この複合材料シートの目標厚みは3μmとした。
【0068】
次に、複合材料シート上に、厚みが30nmとなるように、アルミニウムを蒸着し、内部電極となるべきアルミニウム薄膜を形成した。
【0069】
次に、複合材料シートおよびアルミニウム薄膜を備える複数のシート状構造物を、上記アルミニウム薄膜が積層コンデンサにおける互いに対向する複数組の第1および第2の内部電極を形成するように積層し、次いで、200℃の温度を付与しながら、200MPaの圧力で5分間圧着した後、アルミニウム薄膜のパターンに合わせてカットし、積層コンデンサのための積層体を得、さらに、銅のスパッタリングにより外部電極を形成し、試料1〜18の各々に係る積層コンデンサを得た。
【0070】
【表2】

【0071】
以上のようにして得られた試料1〜18の各々に係る積層コンデンサを樹脂埋めした上で、研磨し、反射電子顕微鏡(SEM)を用いて、誘電体層中のセラミック粒子の平均粒径、ネッキング割合および分布の均一性を評価した。
【0072】
平均粒径については、単純な個数平均ではなく、300個のセラミック粒子について粒度分布をとり、そのD50値を平均粒径とした。前掲の表1の「分散後平均粒径」の欄に記載されるものが、ここで求められたものである。また、表2に示される「平均粒径/誘電体層厚み比」は、この平均粒径と誘電体層の厚みに相当する前述した複合材料シートの目標厚みであった「3μm」とから算出したものである。したがって、「3μm」の目標厚みが得られなかった試料についても、あくまでも、平均粒径と「3μm」とから、この「平均粒径/誘電体層厚み比」が計算により求められている。
【0073】
ネッキング割合については、任意に300個のセラミック粒子を選び、図1に示した2個のセラミック粒子1および2の接触部分での径2aと一方のセラミック粒子1の径2Rとの間で、a/R≧0.3の条件を満足するセラミック粒子の個数割合を求めたものであり、その結果が、表2の「ネッキング割合」の欄に示されている。なお、1個のセラミック粒子が複数個のセラミック粒子とネッキングしている場合には、接触部分での径2aについては、最も長いものを採用した。
【0074】
分布の均一性については、断面の反射電子顕微鏡(SEM)像を、一辺1μmの正方形の面素に分割し、各面素におけるセラミック粒子の占める面積を、WDXのマッピング画像解析で求め、占有面積が40%以上である面素の個数割合を求めたものであり、その結果が、表2の「均一性」の欄に示されている。なお、評価した面素の数は500とした。
【0075】
また、試料1〜18の各々に係る積層コンデンサについて、電気的特性の測定を行なった。まず、静電容量(C)および誘電損失(tanδ)を、温度25℃において、自動ブリッジ式測定器を用い、誘電体厚み1μm当たり0.5Vの電界強度の交流電圧下で測定して求めるとともに、求められた静電容量(C)から誘電率(ε)を算出した。表2に、「誘電率」および「tanδ」が示されている。
【0076】
なお、表2において、「ネッキング割合」、「均一性」、「誘電率」および「tanδ」の各欄にわたって、「シート厚み10μm以下に加工できず」と記載されているものは、前述した樹脂セラミック複合材料ペーストをシート状に成形する工程において、シートの厚みを10μm以下にできなかったことを示し、これらの試料については「ネッキング割合」、「均一性」、「誘電率」および「tanδ」を評価しなかった。なお、前述したように、「平均粒径/誘電体層厚み比」を求めるに当たって、「誘電体層厚み」については、あくまでも、目標値である「3μm」の数値を採用した。
【0077】
表2に示した評価結果から、試料12〜18によれば、「ネッキング割合」が40%以上の値を示し、かつ「均一性」が90%以上の値を示しており、誘電体層の厚みを3μmと問題なく薄くすることができ、200以上の「誘電率」を実現することができた。
【0078】
これらに対して、試料1〜5および9では、「ネッキング割合」が40%未満であるので、「誘電率」が低かった。
【0079】
また、試料6および7では、それぞれ、表1に示したセラミック粉末C6およびC7が用いられ、これらは「分散時pH」が6を超えて高かった。そのため、圧粉体が解きほぐされにくく、厚み10μm以下の複合材料シートを成形することが困難であった。ただし、この「分散時pH」の適切な範囲は絶対的なものではなく、セラミック粉末の組成や特性などにより適宜調整されるべきものである。
【0080】
試料8では、表1に示すように、分散処理を施していないセラミック粉末C8を用いていたため、厚み10μm以下の複合材料シートを成形できなかった。
【0081】
試料10では、「均一性」が90%未満であったため、「誘電率」が低かった。
【0082】
試料11では、「平均粒径/誘電体層厚み比」が0.25を超えるので、複合材料シートの厚みを10μm以下に薄く成形できなかった。なお、試料11において、「平均粒径/誘電体層厚み比」が0.25を超えたのは、表1に示すように、「熱処理温度」が高く、「分散後平均粒径」が大きくなった、セラミック粉末C11を用いたためである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】この発明に係る樹脂セラミック複合材料における隣り合う第1および第2のセラミック粒子1および2のネッキング状態を説明するための図である。
【図2】この発明に係る積層コンデンサを製造するために用意されるシート状構造物15および16を示す断面図である。
【図3】この発明の一実施形態による積層コンデンサ21を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 第1のセラミック粒子
2 第2のセラミック粒子
11,12 複合材料シート
13,14 アルミニウム薄膜
15,16 シート状構造物
21 積層コンデンサ
22 積層体
23,24 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粒子が樹脂の中に、セラミック粒子の体積割合が60〜70%になるように、分散している、樹脂セラミック複合材料であって、
隣り合う第1および第2のセラミック粒子間において、第1および第2のセラミック粒子が互いに接触している状態であって、この接触部分での径を2aとし、第1のセラミック粒子の径を2Rとしたとき、a/Rが0.3以上である状態を、ネッキングしていると定義した場合、当該複合材料の任意の断面上で任意のセラミック粒子を観察したとき、当該セラミック粒子が少なくとも1個の他のセラミック粒子とネッキングしている、そのようなセラミック粒子の個数割合が40%以上であり、かつ、
当該複合材料の任意の断面上での任意の1μm角の面素において、セラミック粒子の占める面積割合が40%以上である面素の個数割合が90%以上である、
樹脂セラミック複合材料。
【請求項2】
セラミック粒子の主成分が、(Ba,Sr,Ca)(Ti,Zr,Hf)Oである、請求項1に記載の樹脂セラミック複合材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂セラミック複合材料からなる、厚み10μm以下の複合材料シート。
【請求項4】
請求項3に記載の複合材料シートと、
前記複合材料シートの両主面上に互いに対向するように形成された金属薄膜からなる電極と
を備える、フィルムコンデンサ。
【請求項5】
請求項3に記載の複合材料シートによって与えられる、積層された複数の誘電体層と、前記誘電体層を介して互いに対向しかつ金属薄膜によって与えられる、第1および第2の内部電極とをもって構成される、積層体と、
前記積層体の外表面上の互いに異なる位置に形成される第1および第2の外部電極と
を備え、
前記第1および第2の内部電極は、前記積層体において、その積層方向に関して交互に配置されながら、それぞれ、前記第1および第2の外部電極に電気的に接続される、
積層コンデンサ。
【請求項6】
請求項1または2に記載の樹脂セラミック複合材料の製造方法であって、
第1のセラミック粉末を用意する工程と、
前記第1のセラミック粉末を加圧することによって、圧粉体を形成する工程と、
前記圧粉体を700℃以上の温度にて熱処理する工程と、
熱処理された前記圧粉体を、分散媒とともに、高圧ホモジナイザーにて処理することによって、スラリーとする工程と、
前記スラリーから前記分散媒を除去することによって、処理後の前記第1のセラミック粉末に相当する第2のセラミック粉末を取り出す工程と、
前記第2のセラミック粉末を樹脂の中に投入し、攪拌することによって、前記樹脂の中に前記第2のセラミック粉末を分散させたペーストを得る工程と、
前記ペーストを成形し、乾燥する工程と
を備える、樹脂セラミック複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−13694(P2008−13694A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187444(P2006−187444)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】