説明

樹脂凸版印刷版およびその製造方法

【課題】1mm未満の版厚の樹脂凸版印刷版でも印刷時の耐刷力、耐圧力が大きく、画像形成性およびその再現性に優れた軽量な樹脂凸版印刷版およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂凸版印刷版17は、フィルムベース15上に層厚450μm〜780μmの感光性樹脂層を形成した感光性樹脂凸版の版材10を備え、版材10の表側に密着固定されたネガフィルム18を通して入射される紫外線のレリーフ露光と、版材10の裏側に密着されたポジフィルムを通して入射されるバック露光とにより、感光性樹脂層13にレリーフ像22とバック析出層23とを凝固させ、感光性樹脂層の非凝固部を水洗浄で除去して乾燥・後露光を行ない、版厚1mm未満の可撓性の樹脂凸版印刷版17が形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可撓性の樹脂凸版印刷版を用いた樹脂凸版印刷技術に係り、長尺の無端帯状の樹脂凸版印刷版の製造が可能で、175線以上の写真印刷とマイクロ文字の印刷を可能にした樹脂凸版印刷版およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂層を備えた版材に紫外線を用いて可撓性の樹脂凸版印刷版を製造する技術に、特許文献1〜3に記載されたものがある。
【0003】
引用文献1に記載された感光性樹脂凸版印刷版は、ベースフィルム(支持体)上の液状感光性樹脂を一定の版材の厚みに整える成型・露光工程にてネガフィルムを介して感光性樹脂に紫外線を照射してレリーフ露光を行なって画像形成した後、バック露光にてベースフィルム側全面に均一な薄い硬化樹脂層(バック析出層)を析出させ、高圧水現象工程での洗い出し、後露光工程を得て製造するものである。
【0004】
この感光性樹脂凸版印刷版は、液状感光性樹脂で版厚3mm以上の版材に、500mj/cm〜900mj/cmのレリーフ露光と100mj/cm〜200mj/cmのバック露光を施して、レリーフ深度約1.5mmの樹脂凸版を製造した例と、同じく版厚7mmの版材に、580mj/cm〜740mj/cmのレリーフ露光と520mj/cm〜580mj/cmのバック露光を施して、レリーフ深度約2.0mmの樹脂凸版を製造した例が開示されている。
【0005】
また、引用文献2には、版厚が4mm以上の版材に、版全面にレリーフ部分の基部を形成するバック露光を行ない、次に画像のレリーフ部分を形成するレリーフ露光を行ない、バック露光とレリーフ露光の間に露光中の熱変形を回復させるレリーフ露光待機時間を設けた感光性樹脂凸版印刷版が開示されている。
【0006】
この感光性樹脂凸版印刷版では、版厚7mmの樹脂凸版印刷版を製造した実施例が記載されている。
【0007】
さらに、引用文献3には、工業製品、特に電子部品の印刷に適した感光性樹脂凸版印刷版を製造する技術が開示されている。
【0008】
この感光性樹脂凸版印刷版は、感光性樹脂組成物に導電性物質や界面活性剤などの帯電防止剤を配合した凸版印刷用の版材を用いて、この版厚1mm以上の版材の支持体全面にバック露光で均一なバック析出層を形成する。このバック析出層を形成した版材にネガフィルムを介してレリーフ露光を行なってレリーフ画像を形成し、レリーフ震度が0.3mm〜1.5mmの樹脂凸版印刷版を作成する。この樹脂凸版印刷版は、ショアA硬度が40度〜65度で、微細な文字を電子物品に印刷可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−252093号公報
【特許文献2】特開平8−305006号公報
【特許文献3】特開平10−250252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1および2に記載された可撓性の樹脂凸版印刷版は、樹脂凸版の版厚(製版の肉厚)が3mm〜7mmで、レリーフ深度が約1.5mm〜2mmに形成され、深いレリーフ深度を設けた樹脂凸版印刷版である。
【0011】
レリーフ深度が深いと、樹脂凸版印刷版は耐刷力が小さく、印刷時の印圧に負けてしまい、画像形成性やその再現性が悪く、印刷画像が歪む虞があった。
【0012】
また、樹脂凸版印刷版の版厚が3mm〜7mmと厚いので、この樹脂凸版印刷版を長尺な無端帯状のエンドレス凸版印刷版に適用すると、可撓性の樹脂凸版印刷版の重量が大きくなって、印刷精度や安定性が低下したり、印刷版製造時における成型・露光工程での表裏の露光量が多いため、レリーフ深度が深くなり、水現象工程での洗い出し量が多く、洗い出し時間に多大の時間を要している。
【0013】
また、引用文献3に記載の可撓性の樹脂凸版印刷版は、電子物品に微細な文字を印刷するものであるため、凸版印刷用版材に、帯電防止剤が配合されており、印刷版の画像再現性を低下させないで維持することが困難である。さらに、この印刷版はショアA硬度が40度〜65度と硬く、感光性樹脂の層厚も1mm以上もあるため、版厚の精度が出ず、柔軟な可撓性を必要とする帯状の樹脂凸版印刷版には適さない。
【0014】
加えて、引用文献3に記載の樹脂凸版印刷版は、版厚が1mm以上でショアA硬度も50度程度以上の印刷版であるため、柔軟性や可撓性が劣り、長尺な無端帯状凸版印刷版には不向きであり、さらに、版厚も1mm以上の印刷版でレリーフ深度が浅いと画像の鮮明性が劣るため、レリーフ深度も1.0mm〜1.5mm程度までと比較的深いため、画像に歪みが生じ、画像再現性や形成性が不充分で品質が安定しない等の問題があった。
【0015】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、1mm未満の版厚の樹脂凸版印刷版でも印刷時の耐刷力、耐圧力が大きく、画像形成性およびその再現性に優れた軽量な樹脂凸版印刷版およびその製造方法を提供することを主な目的とする。
【0016】
本発明の他の目的は、175線〜300線の写真印刷と、0.5ptあるいは0.4ptまでのマイクロ印刷を可能とした樹脂凸版印刷版およびその製造方法を提供するにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、版厚1mm未満の樹脂凸版印刷版で、長尺でエンドレスな無端帯状樹脂凸版印刷版を製作可能な感光性樹脂凸版印刷版およびその製造方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る樹脂凸版印刷版は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、フィルムベース上に層厚450μm〜780μmの感光性樹脂層を形成した感光性樹脂凸版の版材を備え、前記版材の表側に密着固定されたネガフィルムを通して入射される紫外線のレリーフ露光と、前記版材の裏側に密着されたポジフィルムを通して入射されるバック露光とにより、前記感光性樹脂層に凝固されたレリーフ像とこのレリーフ像を補強するバック析出層とを設け、前記感光性樹脂層の非凝固部を水洗浄で除去して乾燥・後露光を行ない、版厚1mm未満の可撓性の樹脂凸版印刷版が形成されたことを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明に係る樹脂凸版印刷版は、上述した課題を解決するために、請求項2に記載したように、フィルムベース上に層厚450μm〜780μmの感光性樹脂層を形成した版厚1mm未満の感光性樹脂凸版のCTP版材を備え、前記CTP版材の表側に一体のアブレーションマスクの製版パターンを通して入射される紫外線のレリーフ露光と、前記CTP版材の裏側に密着されたポジフィルムを通して入射されるバック露光とにより、前記感光性樹脂に凝固されたレリーフ像と、このレリーフ像を補強するバック析出層とを設け、非凝固の感光性樹脂層を水洗浄で除去して乾燥・後露光を行ない、版厚1mm未満の可撓性の樹脂凸版印刷版が形成されたことを特徴とするものである。
【0020】
一方、本発明に係る樹脂凸版印刷版の製造方法は、上述した課題を解決するために、請求項7に記載したように、フィルムベース上に層厚450μm〜780μmの感光性樹脂層を形成した版厚1mm未満の感光性樹脂凸版の版材を備え、前記版材の表側にネガフィルムを密着固定してこのネガフィルム側から紫外線を入射させるレリーフ露光を行なって、前記感光性樹脂層にレリーフ像を形成し、レリーフ露光後の前記版材の裏側にポジフィルムを密着固定してこのポジフィルム側から紫外線を入射させるバック露光を行なって、前記感光性樹脂層全面にバック析出層を形成し、続いて、前記版材からネガフィルムおよびポジフィルムを除去し、その後、前記レリーフ像およびバック析出層が形成された前記感光性樹脂層の非凝固部を水洗浄で除去して乾燥・後露光を行ない、版厚1mm未満の可撓性の樹脂凸版印刷版を製作することを特徴とする製造方法である。
【0021】
さらに、本発明に係る樹脂凸版印刷版の製造方法は、上述した課題を解決するために、請求項8に記載したように、フィルムベース上に層厚450μm〜780μmの感光性樹脂層を形成した版厚1mm未満の感光性樹脂凸版のCTP版材を備え、前記CTP版材の表側に一体のアブレーションマスクに形成された製版パターンから紫外線を入射させるレリーフ露光を行なって、前記感光性樹脂層にレリーフ像を形成し、レリーフ露光後の前記CTP版材の裏側にポジフィルムを密着固定してこのポジフィルム側から紫外線を入射させるバック露光を行なって、前記感光性樹脂層全面にバック析出層を形成し、続いて、前記CTP版材からアブレーションマスクおよびポジフィルムを除去し、その後、前記レリーフ像およびバック析出層が形成された前記感光性樹脂層の非凝固部を水洗浄で除去して乾燥・後露光を行ない、版厚1mm未満の可撓性の樹脂凸版印刷版を製作することを特徴とする製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る樹脂凸版印刷版およびその製造方法では、1mm未満の樹脂凸版印刷版を製作でき、この樹脂凸版印刷版でも、印刷時の耐刷力、耐圧力が大きく、汚れがなく、画像形成性および印刷鮮明性や再現性に優れた軽量な製版を製作することができる。
【0023】
また、本発明に係る樹脂凸版印刷版およびその製造方法では、175線〜300線の写真印刷と0.5ptあるいは0.4ptまでの微細なマイクロ印刷を行なうことができ、長尺でエンドレスな無端帯状樹脂印刷凸版を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る樹脂凸版印刷版に用いられる版材を示す簡略的な斜視図。
【図2】本発明に係る樹脂凸版印刷版およびその製造方法の第1実施形態を示すもので、(A)〜(F)は感光性樹脂凸版印刷版の製造工程をそれぞれ示す図。
【図3】本発明の第1実施形態で製造された樹脂凸版印刷版の両端部の接続関係あるいは複数の樹脂凸版印刷版の列状接続関係を示す図。
【図4】本発明の樹脂凸版印刷版からエンドレスな無端帯状樹脂凸版印刷版を製作し、この無端帯状樹脂凸版印刷版を掛け渡したロータリプレス式印刷装置を示す簡略図。
【図5】感光性樹脂凸版印刷版の版材に、バック露光量を種々変化させて得られる実験データをそれぞれ示す図。
【図6】図5に示される実験データを整理して得られる樹脂凸版印刷版(製版)の版厚曲線、バック析出層の厚さ曲線、レリーフ深度開度をそれぞれ示す図。
【図7】本発明の第2実施形態に係る感光性樹脂凸版印刷版に用いられるCTP版材を示す簡略的な斜視図。
【図8】本発明に係る感光性樹脂凸版印刷版およびその製造方法の第2実施形態を示すもので、(A)〜(F)は感光性樹脂凸版印刷版の製造工程をそれぞれ示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る可撓性の樹脂凸版印刷版およびその製造方法の好ましい実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0026】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の可撓性の樹脂凸版印刷版に用いられる感光性樹脂凸版の版材を示す。この版材10としては、富士フイルムグラフィックシステムズ株式会社製の製品名(以下、富士トレリーフという。)WF95BII,WF95BSII,WF95EBSII,WF70BII,WF70BSII等のアナログ版あるいはデジタル版が適する。
【0027】
可撓性の樹脂凸版印刷版の版材10は、ショアA硬度が30〜40度の柔かい可撓性の版材であり、さらに例えば、天地方向(長手方向)が数m〜9m、幅方向が約45cm〜51cm(17in〜21in)で、全体の版厚が1mm未満で、例えば0.60mm〜0.95mmのアナログ版が用いられる。好ましい版材10の一例として、天地方向に8m50cm、幅方向に48.26cmで、版厚が0.95mmのアナログ版が、凸版印刷分野の環境適性、求められる緻密な品質精度上適している。
【0028】
感光性樹脂凸版の版材10では、図1に示すように、基板としてのポリエステル(PET)フィルムのベースフィルム11に接着剤層12を介して感光性樹脂層13が一体に積層され、感光性樹脂層13上にカバーフィルム14を被着したものが成型される。
【0029】
好ましい版材10の一例として版厚が950μmの場合、ベースフィルム11のフィルム厚は188μm、ハレーション防止用の接着剤層12は32μm、感光性樹脂層13の層厚は730μmに形成され、フィルム支持体としてのフィルムベース15(ベースフィルム11+接着剤層12)は、220μmのベース厚を有する。
【0030】
ベースフィルム11には、ポリエステルフィルムの他に、ポリエチレン−テレフタレートフィルム(PETフィルム)等を用いてもよく、接着剤層12には、ゴム系、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系、シラン系の市販の接着のコーティング処理、カップリング剤によるアンカー処理、アクリル系ハードコート等の各種コーティング材が用いられる。また、感光性樹脂層13には、例えば重合性化合物と光重合性開始剤とを含有した紫外線に反応して光硬化する光硬化性樹脂が用いられる。重合性化合物としては、例えば、エポキシアクリレートおよびウレタンアクリレート等のオリゴマー、多官能アクリレート等の重合性モノマー、またはそれらの混合物を使用することができる。光重合性開始剤としては、例えば、ベンゾイン系またはアセトフェノン系の光重合性開始剤を使用することができる。この光硬化性樹脂には、溶剤および添加剤の少なくとも一方を添加して使用してもよい。
【0031】
また、感光性樹脂層13には、不飽和ポリエステル樹脂やポリブタジエンあるいはアクリルやウレタン等に不飽和基を導入した不飽和樹脂等に光増感剤や熱安定剤を添加した光硬化性樹脂を用いてもよい。
【0032】
次に、感光性樹脂凸版の版材10を用いて可撓性の樹脂凸版印刷版17の製造について説明する。
【0033】
可撓性の樹脂凸版印刷版17の製作の際には、初めに、版材10と製版フィルムとしてのネガフィルム18およびポジフィルム19を用意する(図2(A)参照)。カバーフィルム14を取り外した版材10に表側からネガフィルム(製版フィルム)18を真空密着させてバキューム固定し、版材10とネガフィルム18との間の密着ムラの発生を防止する。ネガフィルム18上には、必要に応じて塩ビシート等のカバーフィルム(図示せず)が真空密着等で被着される。
【0034】
[露光工程]
版材10にネガフィルム18を位置合せしてバキューム固定させた後、露光装置16のランプハウスに導かれ、このランプハウス内を所要の速度で走行が案内される。ランプハウス内では、エネルギ光源、例えば走行方向に直交する並行配置の複数本(2本)の紫外線光源20から315nm〜400nmの紫外線(UV)を照射する露光工程で、レリーフ露光が行なわれる。レリーフ露光では、紫外線に代えて水銀灯、キャノンランプ等の活性光源を用いてもよい。
【0035】
レリーフ露光では、図2(C)に示すように、所要速度で走行中に版材10にネガフィルム18を通して、例えば500mj/cm程度の紫外線を紫外線管20から照射させる。この紫外線をネガフィルム18を介して柔かい感光性樹脂層13に入射させると、感光性樹脂層13は照射部が全層厚分光硬化され、版材10の感光性樹脂層13に、文字や画像のレリーフ像(レリーフ部)22が、ベースフィルム11に向って末広がりのテーパ状に形成される。
【0036】
紫外線のレリーフ露光量は、後述するように、490mj/cm〜530mj/cm、好ましくは500mj/cm〜520mj/cmの光量が使用されて、焼付き、露光される。レリーフ露光では、500mj/cm程度の光量があれば、感光性樹脂層13の照射部(レリーフ部)にレリーフ深度730μmのレリーフ像を形成することができる。
【0037】
続いて、ネガフィルム18を真空密着させて焼付き露光させた後、版材10を反転させ、版材10の裏側からポジフィルム19をネガフィルム18と位置合せさせた整合状態で真空密着させてバキューム固定させる。裏側からポジフィルムを用いることが好ましいが、必ずしもポジフィルムを用いなくてもよい。このバキューム固定により、版材10とポジフィルム19との間でも密着ムラの発生を防止する。ポジフィルム19にも、塩ビシート等のカバーフィルム(図示せず)を必要に応じて真空密着等で被着させる。
【0038】
このように、感光性樹脂凸版の版材10をレリーフ露光で焼付き露光を行なった後、ランプハウスから取り出し、取り出された版材10を反転させ、版材10の裏面側にポジフィルム19を位置合せしてバキューム固定させる。その後、再びランプハウスに送り込んでバック露光を行なう。バック露光では紫外線を、ポジフィルム19側からフィルムベース15を通して版材10に30mj/cm〜60mj/cmの光量を入れて凝固させ、版材10のフィルムベース15側に、感光性樹脂層13の全面にバック析出層(バック固化層)23を形成する(図2(D)参照)。
【0039】
バック析出層23の厚さは、後述するように、フィルムベース15側全面に130μm以上〜600μm迄の範囲、好ましくは、200μm〜550μmの範囲で感光性樹脂層13を凝固させて光硬化させる。バック析出層23は、フィルム支持体であるフィルムベース15と一体に成形され、感光性樹脂凸版印刷版17の機械的、物理的強度を向上させている。バック析出層23は層厚が厚ければ厚いほど、版材10の機械的、物理的強度を向上させることができる。
【0040】
図2(C)および(D)では、感光性樹脂凸版の版材10にレリーフ露光を行なった後にバック露光させる例を示したが、版材10の表裏側からレリーフ露光とバック露光と同時に行なうようにしても、あるいは、バック露光をレリーフ露光に先立って行なうようにしてもよい。
【0041】
[水現象工程]
露光工程でレリーフ露光およびバック露光により光硬化作用を受けた版材10は、ネガフィルム18およびポジフィルム19を剥がして除去した後、水洗浄工程に送られる。水洗浄工程では、図示しない洗浄装置に平型洗浄ブラシ25がスライド自在に備えられており、この洗浄ブラシ25により、図2(E)に示すように、常温、例えば20℃〜25℃の洗浄水を用いてブラッシングされ、水洗いが行なわれる。水洗いでは、版材10を数十mm/分〜数百mm/分の搬送速度で送り込みつつ、少量の洗浄水を連続供給して、平型洗浄ブラシ25にてブラッシングし、水洗いされる。
【0042】
水洗浄時には、常温の洗浄水中で平型洗浄ブラシ25を数分間、例えば3分間往復動させてブラッシング作用により、感光性樹脂層13の未硬化部の材料樹脂が、光硬化されたレリーフ像22やバック析出層23の硬化樹脂表面から分離して取り除かれ、洗い流される。この未硬化部の材料樹脂量は、レリーフ深度に対応する未硬化樹脂分であるため、従来に比べて遥かに少ない。このため、洗浄水の汚れ除去回数が抑えられ、製版スピードが速くなり、洗浄水の取替回数を減少させることができ、洗浄廃液の処理コストを著しく低減させることができる。この水洗浄時には、常温の洗浄水を少量、例えば3〜6L/分、連続供給することにより、版材10の水洗いを行なうことができ、水現像タイプならではの優れた環境性を得ることができる。
【0043】
感光性樹脂層13の未硬化樹脂は硬化材料樹脂(レリーフ部)表面から分離除去され、取り除いた後、必要に応じて水性現像液を所要の水圧で版表面全体に均一スプレー噴霧され、水現像工程が終了する。水性現像液は、未反応の未硬化樹脂の分離除去を促進するために、未硬化樹脂を溶解あるいは膨潤させる性能を持つ液体を現像液として使用する。光照射された感光性樹脂が凝固されて硬化することで、光硬化した材料樹脂は、現像液に対する溶解性あるいは膨潤性がなくなり、現像液に対する化学的耐性が与えられることを
利用してフィルムベース15上に機械的、物理的特性(強度)に優れたレリーフ像22およびバック析出層23が一体成形され、版厚1mm未満、好ましくは、820μm〜460μmである可撓性の感光性樹脂凸版印刷版17が成型される。
【0044】
[乾燥・後露光工程]
感光性樹脂凸版印刷版17の水洗いが終了したら、続いて図2(F)に示すように、乾燥ヒータ26にて加熱・乾燥され、樹脂凸版印刷版17に付着した水滴が除去される。乾燥工程にて水滴が除去された感光性樹脂凸版印刷版17は、紫外線蛍光灯や高圧水銀灯、等の活性光源からの照射により、後露光が行なわれる。後露光工程では、300nm以上の波長領域の活性光源からの照射により、感光性樹脂凸版印刷版17の機械的、物理的強度の促進や表面粘着性除去を主目的とした現像後光硬化樹脂物への活性光照射である。後露光は、空中露光方式で行なわれる。
【0045】
樹脂凸版印刷版17の製造では、水現像工程の水洗い出しや水洗い、さらには乾燥・後露光工程は、環境配慮型プロセッサー(図示せず)、例えば富士フイルムグラフィックシステムズ株式会社製の製品名FTP640IIやFTW350LIIを用いて実施される。このようにして、可撓性の樹脂凸版印刷版17が製造され、製作される。
【0046】
[無端帯状の樹脂凸版印刷版の製造]
可撓性の樹脂凸版印刷版17は、感光性樹脂凹版印刷版の版材10から、図2の(A)〜(F)に示された製造工程を得て製作される。製作された可撓性の樹脂凸版印刷版17は、天地方向が5〜9m、幅方向が45〜51cmの細長い帯状の感光性樹脂凸版の版材10の中から適宜選択されて長尺の細長い無端帯状に製作される。
【0047】
製作された樹脂凸版印刷版17は、図3に示すように、天地方向両端部に幅方向に沿って凹凸形状に切断される。可撓性の樹脂凸版印刷版17の両端の凹凸形状は、印刷版幅方向に交互に噛み合うように凹凸結合する形状であれば、ノコギリ歯形状、歯車歯形状、ジグザグ形状等種々の形状が考えられる。樹脂凸版印刷版17の両端の凹凸形状は、噛み合された状態で凹凸結合部の外面(レリーフ部片面)側だけ、あるいは場合によって表裏両面を、接着(接合)テープ29で接着し、無端帯状印刷プレートとしてのエンドレスな樹脂凸版印刷版30を製造する。可撓性の樹脂凸版印刷版17の両端部を突き合せ係合(接合)させて凹凸結合させることにより、凹凸結合部の相対的な幅方向、軸方向の滑りや変位を確実に規制し、防止することができる。
【0048】
無端帯状樹脂凸版印刷版30の凹凸接合部31の内面(内周面)側は、フィルムベース15が露出しており、接着テープ29が貼着されずに段差面のない状態で面一に形成される。無端帯状樹脂凸版印刷版30の外面(外周面)側には、レリーフ像22からなる印刷面としての凹凸画線(レリーフ)部の版面32が形成される。
【0049】
可撓性の樹脂凸版印刷版17の天地方向両端の凹凸形状を突き合せて係合させ、レリーフ像22の凹凸画線部の版面32側の凹凸係合部31を接着テープ29を用いて幅方向に貼着させると、エンドレスな長尺印刷プレートとしての無端帯状樹脂凸版印刷版30が成形される。この無端帯状樹脂凸版印刷版30は、図4に示すように、凸式印刷機としてのロータリプレスタイプの印刷装置の版胴(あるいは本体胴)を形成するドライブ側のプレートシリンダ38とドリブン側のガイドシリンダ39との間に掛け渡される。
【0050】
無端帯状樹脂凸版印刷版(印刷プレート)30の1廻りの長手方向長さは、数m〜数十mの間で適宜選択される。無端帯状樹脂凸版印刷版30の長手方向長さが、数十mと長い場合には複数枚の可撓性の樹脂凸版印刷版17を直(縦)列状に順次並べて接続して帯状列を構成する。構成された帯状列の樹脂凸版印刷版17の両端部を凹凸接合させて結合することで、エンドレスな無端帯状樹脂凸版印刷版30が製作される。
【0051】
無端帯状樹脂凸版印刷版30の送りは、プレートシリンダ28とガイドシリンダ29に形成された送りピン(図示せず)が、無端帯状樹脂凸版印刷版30の左右の送り孔35に順次着脱自在に係合することにより、案内され、プレートシリンダ38に対する天地方向および周方向の滑りや変位が規制され、防止される。
【0052】
なお、図4において、符号40は、プレートシリンダ(版胴)38に対向する圧力胴(受胴)であり、符号41は、給紙ローラ42からガイドローラ43を経て供給される連続フォーム(ビジネスフォーム)であり、符号45は、連続フォーム41を巻き取る巻取りロールであり、符号46は、無端帯状樹脂凸版印刷版30の凹凸画線部の版面(印刷面)32にインキを塗布するインクローラ(付けローラ)である。符号47は、必要に応じて設けられる切断装置である。
【0053】
[樹脂凸版印刷版の試験]
感光性樹脂凸版印刷版の版材10に、富士トレリーフのWF95BIIを用いて可撓性の樹脂凸版印刷版17を製作して試験を行なった。
【0054】
この版材10は、版厚が950μmで、版材10を構成するベースフィルム11、接着剤層12および感光性樹脂層13の各厚さは、それぞれ188μm、32μmおよび730μmである。感光性樹脂凸版印刷版の版材10は、図2に示される製造工程により、315nm〜400nmの紫外線(UV)を照射して可撓性の樹脂凸版印刷版17が製作される。
【0055】
図2(C)に示される露光工程では、露光装置のランプハウス内で版材10の表側から、520mj/cmの紫外線を製版フィルムであるネガフィルム18を介して露光させ、数回、例えば5回の焼付けを行なう。版材10の感光性樹脂層13は、ある一定以上の光量に達しないと、例えば25mj/cm以下の光量では凝固しない性質を有し、面積の小さな網点では、感光性樹脂層の厚さ730μm分だけ紫外線を透過させて凝固させるには、多光量必要となる。
【0056】
通常は、露光装置のランプハウス内で、露光量1500mj/cm〜2000mj/cm(ステップガイド15〜16段)の紫外線を照射して製版させている。このとき、版材10のハイライト部の小さな網点、例えばスクリーン線で175L以上の網点は露光量不足のため形成されなかったり、形成されても、製版(樹脂凸版印刷版)の洗い出し途中で壊れて破損し、無くなる。また、ハイライト部の網点の露光量不足を補うために、光量を多くすると、シャドウ部が露光量過多になり、ベタ版になってしまう。
【0057】
一方、版材10のシャドウ部は、例えば500mj/cm程度と少ない光量の紫外線を照射することによって、ネガフィルムと同等の大きさの非画線部が深く感光性樹脂層13に形成されるが、光量が多くなるに従って、非画線部は小さく浅くなる。ネガフィルム18に忠実な印刷を行ない、最適な樹脂凸版印刷版(製版)17を作ろうとすると、ハイライト部とシャドウ部は露光量に対してそれぞれ相反する性格を備える。製版のハイライト部は、多い光量を必要とし、シャドウ部は、多い光量が入ると、カブリ気味になってベタ版に近づき、両立は不可能であると考えられていた。
【0058】
本発明に係る樹脂凸版印刷版17は、製版フィルムであるネガフィルム18に忠実な軽量な製版を製作することができる新たな製造方法を開発して製作したものである。
【0059】
本発明の樹脂凸版印刷版17は、製版のシャドウ部が光量過多にならないように、図2(C)に示すように、ネガフィルム18への露光量を版材10の表側から500mj/cm程度と少ない光量で焼き込み、焼付け露光(レリーフ露光)を行なった後、版材10を反転させ、その裏側(フィルムベース15側)からポジフィルム19を通して版材10の全面に35mj/cm〜70mj/cm、好ましくは35mj/cm〜50mj/cmの紫外線を入射させ、バック露光させることにより、版材10は、実施例1〜13に示すようにベースフィルム11から180μm〜600μm、好ましくは180μm〜400μm程度の厚みで感光して凝固され、バック析出層(バック固化層)が形成される。
【0060】
図5は、版材10のポジフィルム19側から版厚950μmの版材10に紫外線の光量を種々変えてバック露光させたときの、バック露光の光量(3回の平均光量)と、製版の版厚、樹脂残量(バック析出層の厚さ)、レリーフ深度(レリーフ高さ)との関係を示す試験データであり、図6は、図5の試験データをグラフ化したものである。図6において、実線Aは、製作された製版(樹脂凸版印刷版17)全体の版厚を示す版厚曲線、破線(点線)Bは、製版のバック析出層の厚さを示す樹脂残量曲線、また、(一点)鎖線Cは、レリーフ深度(レリーフ高さ)を示す曲線である。
【0061】
図5に示す試験例では、比較例1〜6に示すように、バック露光の光量が約30mj/cm以下では、凝固される感光性樹脂残量は少なく、バック析出層23は100μm以下の厚さと薄膜となり、破れて破損を受け易い。また、バック析出層23が100μm以下であると、レリーフ像のブリッジ架橋が充分でなく、レリーフ像の機械的、物理量補強強度が弱く、さらに、バック析出層23が130μm未満であるとレリーフ深度が600μm以上となって、レリーフ像はレリーフ深度が比較的深くなり、印刷時に曲ったり、折れたりし、画像が歪んだり、鮮明な画像が得られない虞がある。また、レリーフ深度が深ければ深いほど、微細なマイクロ文字を印刷する場合には、文字の印刷再現性が良好でなく、画像(文字)形成性が好ましくなく、バランスが良くない。さらに、バック析出層23が100μm以下では、凝固されたバック固化層が壊れて破れ易く、反復再現性が劣る。
【0062】
一方、バック露光の光量が72mj/cm以上になると、図5の比較例7〜9に示すように、レリーフ深度は約130μm未満となるが、バック析出層23の厚さが600μm以上となり、印刷時の耐圧力は充分に取れる。しかし、通常の凸式印刷機では、レリーフ深度が100μm以下となって鮮明で綺麗な印刷が困難となる。この場合には、製版の凹凸画線の無い凹の部分が、レリーフ深度100μm程度以下と浅いために、インクローラ(付けローラ)46(図4参照)からのインキが印刷物に付着して印刷物に汚れが発生する。
【0063】
ところが、図5の実施例1〜13に示すように、バック露光の光量を約35mj/cm〜約72mj/cmの範囲で露光量を加えると、版材10のバック析出層23はフィルムベース面から240μm〜600μmの範囲で感光して凝固される。
【0064】
特に、図2(C)に示すように、版材10の表のネガフィルム18を露光量を500mj/cmの程度の少量で焼き込んだ後、版材10を裏のポジフィルム19側から図2(D)に示すように、全面に35mj/cm〜72mj/cm程度の露光量を加えると、版材10はフィルムベース面から180μm〜600μmの厚みで露光し、凝固してフィルムベース15側に180μm以上のバック析出層23が形成される。析出して固化されたバック析出層23は、レリーフ像22をブリッジ架橋して強度的に補強し、レリーフ深度500μm〜130μmのレリーフ像22が補強される。しかも、レリーフ像22は、フィルムベース15と一体で、かつバック析出層23で補強されて、フィルムベース15に向って拡開するようにテーパ状に形成される(図2(C)〜(F)参照)。
【0065】
このように、版材10の表側からネガフィルム18を介して500mj/cm程度のレリーフ露光を行ない、その後、版材10の裏側から所要の光量でポジフィルム19を介してバック露光を行なうと、レリーフ像22は180μm〜600μmのバック析出層23で補強され、レリーフ像22はレリーフ深度500μm〜130μmの範囲で残る。残るレリーフ像22は500μm〜130μmと浅いので、小さな独立点も殆ど残り、シャドウ部もネガフィルム18にほぼ忠実な印刷版(樹脂凸版印刷版17)の製作ができる。
【0066】
その際、版材10の表側の焼付け光量は、通常(1500mj/cm〜2000mj/cm)の1/3〜1/4に減らすことができ、洗浄工程の水洗い出し時間や洗浄量も、従来の1/3以下となり、環境に優しい樹脂凸版印刷版17を製作することができ、エコーの負荷が軽減される。
【0067】
版材10の表側からネガフィルム18を介してレリーフ露光し、その裏側からポジフィルム19を介してバック露光を行なうことにより、樹脂凸版印刷版17は、従来の樹脂印刷版では不可能であったハイライト部とシャドウ部を両立させることが可能となる。
【0068】
また、可撓性の樹脂凸版印刷版17では、ネガフィルム18で版材10の裏側から光量500mj/cm程度で焼付け、裏からポジフィルム19で35mj/cm〜72mj/cmの光量で焼付けることによって、独立点など表側の光量の弱いハイライト部分には裏側から多くの光量が入り、バック析出層23を形成して補強され、逆にシャドウ部には光量が少ない。図5の実施例5〜13に示すように、バック露光の光量は35mj/cm〜72mj/cm程度が好ましい。
【0069】
したがって、版材10のシャドウ部は、ポジフィルム19を通してバック露光させることにより、感光性樹脂が凝固して必要な小さな網点が潰れることなく形成される。この網点は、バック露光によるブリッジ架橋により機械的、物理的に補強され、シャドウ部は網点が潰れることなく、ネガフィルム18通りの明るいものとなる。
【0070】
しかも、バック露光の光量を50mj/cm〜68mj/cmとすると、網点の独立点は、約400μm〜500μm程度の厚さでフィルムベース15側から凝固してくるバック析出層23でブリッジ架橋され、レリーフ像22のレリーフ深度が200μm〜330μm程度となり、高さが浅く(低く)、印刷時の耐圧力が増し、微細なマイクロ文字でも印刷再現性よく、鮮明な画像が得られる。
【0071】
本発明の樹脂凸版印刷版17は、ショアA硬度30〜40程度の柔かい版材10を用いて製作され、バック露光を35mj/cm〜68mj/cm、好ましくは50mj/cm〜68mj/cmの光量を加えることにより、図2(C)で示すように、バック析出層23はフィルムベース15側から底上げされて形成されるので、レリーフ像22のレリーフ深度が浅くなり、テーパ状のレリーフ像22はブリッジ架橋されて機械的、物理的強度が向上する。網点の独立点は、独立点でなくなり、ブリッジ架橋で強度が補強されて一体化される。このため、印刷時の耐刷力、耐圧力が増大し、可撓性の樹脂凸版印刷版17は、大きな耐圧力を有し、網点や微細なマイクロ文字、写真印刷の汚れが皆無となり、しかも、印圧に非常に強く、網点の汚れがなくなり、網点が壊れることなく長時間使用でき、耐久性を向上させることができる。
【0072】
この樹脂凸版印刷版17では、写真印刷する場合にも、樹脂凸版印刷版17の凹凸画線部の版面(印刷面)に、1%〜99%の網点と、100%のベタを組み合せた印刷を、ロータリプレス式の印刷装置37を用いて印刷することができた。この樹脂凸版印刷版17では、スクリーン線175L網点と微細なマイクロ文字の印刷が可能となり、網点の汚れを生じさせることなく、1%の網点から100%のベタ印刷まで可能になった。
【0073】
本発明の樹脂凸版印刷版17から製作された無端帯状樹脂凸版印刷版30をロータリプレス式の印刷装置37に装着して印刷すると、300L網点の印刷と0.5ptの文字は、0.18mm大の微細なマイクロ文字であり、この樹脂凸版印刷版17とロータリプレス式印刷装置37とを組み合せることで、スクリーン線175L〜300Lの写真印刷が可能となった。
【0074】
また、樹脂凸版印刷版17はショアA硬度30〜40度程度の柔かい製版(刷版)であり、製作された柔かい樹脂凸版印刷版17を通常の輪転機に装着したり、また、製作された無端帯状樹脂凸版印刷版30をロータリプレス式印刷装置37に巻き掛けて印刷するとき、従来の印刷版では、刷力により最初の印刷部(版面)が斜めに押し込まれて、網点部が汚れる傾向があったが、この汚れ傾向も解消することができる。
【0075】
この実施形態の可撓性樹脂凸版印刷版17では、露光時に、版材10の裏面側に印刷方向直前部分に印刷直線部に50mj/cm〜72mj/cmのバック露光を入れると、感光性樹脂は400μm〜600μmの厚さ分凝固してバック析出層23が形成される。このため、レリーフ像22のレリーフ深度は、高さ330μm〜130μm、と低く(浅く)なると同時に非印刷部のレリーフ像は、バック析出層23のレリーフ架橋が形成されて補強されるので、印刷画線部に汚れが生じるのを未然に防止できることを知見した。
【0076】
しかし、レリーフ像22のレリーフ深度が100μm以下と浅くなると、非画線部に地汚れが発生することを知見したので、版材10の印刷部は、バック露光の光量を調節し、レリーフ深度を130μm以上の高さ、より好ましくは180μm〜330μm程度の高さとすることで、すなわち、バック析出層23を400μm程度以上としていくことで、樹脂凸版印刷版17が1mm未満の版厚、具体的には、620μm〜820μm程度の版厚となり、地汚れの発生を防止できる軽量な製版を提供することを知見した。
【0077】
この可撓性樹脂凸版印刷版17では、網点グラデーションでバック露光量を調節してバック析出層23の厚さを550μm以下にコントロールすることで、刷力に強い製版と、地汚れのない印刷が可能となった。
【0078】
[第2の実施形態]
図7および図8は、本発明に係る可撓性の樹脂凸版印刷版およびその製造方法の第2の実施形態を示すものである。
【0079】
第2実施形態に示された可撓性の樹脂凸版印刷版17Aは、第1実施形態に示された樹脂凸版印刷版17とは、版材10Aを異にし、他の構成および作用は、実質的に異ならないので、同じ構成には同一符号を付し、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0080】
第2実施形態の樹脂凸版印刷版17Aは、製版フィルムを不要としたCTP方式の版材10Aが用いられる。このCTP版材10Aとして、例えば富士トレリーフのDWF95DT,DWF95DII等が用意される。
【0081】
この感光性樹脂凸版印刷版のCTP版材10Aでは、図7に示すように、基板としてのポリエステル(PET)フィルムのベースフィルム11に接着剤層12を介して感光性樹脂層13が一体に積層され、この感光性樹脂層13の上に赤外線レーザに反応するアブレーションマスク50が積層される。アブレーションマスク50は、感光性樹脂層13上に赤外線レーザと反応するブラックマスク層を構成しており、このアブレーションマスク50上にカバーフィルム14を被着して成型される。なお、感光性樹脂層13は赤外線レーザには反応しない。
【0082】
好ましいCTP版材10Aの一例として、版厚が950μmの場合、第1実施形態の版材10と同様に、ベースフィルム11のフィルム厚は188μm、ハレーション防止層を形成する接着剤層12は32μm、赤外線には反応しない感光性樹脂層13の層厚は730μmである。ベースフィルム11と接着剤層12はフィルム支持体としてのフィルムベース15を構成しており、このベース厚は220μmである。
【0083】
この感光性樹脂凸版のCTP版材10Aを用いて、可撓性の印刷製版(印刷プレート)樹脂凸版印刷版17Aが製作される。
【0084】
この可撓性の樹脂凸版印刷版17Aの製作の際には、版材10Aとポジフィルム19が用意される(図8(A)参照)。初めにカバーフィルム14を取り外したCTP版材10Aに表側から赤外線レーザLをパターン照射し、図8(B)に示すように、アブレーションマスク50に製版パターンが形成される。CTP版材10Aでは、製版フィルムであるネガフィルムが不要となる。
【0085】
CTP版材10Aのアブレーションマスク50上に製版パターンが形成された後、図示しない露光装置のランプハウスに搬送される(図8(C)参照)。
【0086】
[露光工程]
ランプハウスに搬送されたCTP版材10Aは、ランプハウス内を所要の速度で走行させつつ、第1実施形態と同様に、ランプハウス内の紫外線光源から315nm〜400nmの紫外線(UV)が照射され、レリーフ露光が行なわれる。
【0087】
レリーフ露光では、CTP版材10Aのアブレーションマスク50の製版パターンを
通して、感光性樹脂層13に例えば500mj/cm程度の光量の紫外線が入射される。感光性樹脂層13は、紫外線の照射により、照射部が凝固されて光硬化する。この光硬化によりCTP版材10Aは、感光性樹脂層13に文字・画像のレリーフ像22が形成され、このレリーフ像22はベースフィルム11に向って末広がりのテーパ状に形成される。
【0088】
赤外線のレリーフ露光量は、500mj/cm程度の光量、好ましくは、490mj/cm〜530mj/cm、より好ましくは、500mj/cm〜520mj/cmの紫外線が使用されて、焼付き、露光される。500mj/cm程度の光量で紫外線が照射されると、感光性樹脂層13は照射部にレリーフ深度730μm分のレリーフ像22が形成される。
【0089】
感光性樹脂層13にレリーフ像22が形成された後、版材10Aはランプハウスから取り出されて反転され、CTP版材10Aの裏側からポジフィルム19がアブレーションマスク50と位置合せされて真空密着され、バキューム固定される。このバキューム固定により、CTP版材10Aとポジフィルム19との間に、位置ずれや密着ムラが発生するのが防止される。ポジフィルム19には、必要に応じて塩ビシート等のカバーフィルムが被着される。
【0090】
このように、感光性樹脂凸版のCTP版材10Aをレリーフ露光で焼付き露光を行なった後、ランプハウスから取り出し、取り出されたCTP版材10Aを反転させ、CTP版材10Aの裏面側にポジフィルム19をバキューム固定させ、その後、再びランプハウスに送り込んでバック露光を行なう。バック露光では紫外線を、ポジフィルム19側からフィルムベース15を通してCTP版材10Aに35mj/cm〜72mj/cmの光量を入れて凝固させ、CTP版材10Aのフィルムベース15側に、感光性樹脂層13の全面にバック析出層(バック固化層)23を形成する(図8(D)参照)。
【0091】
バック析出層23の厚さは、フィルムベース15側全面に130μm以上〜600μm迄の範囲、好ましくは、200μm〜550μmの範囲で感光性樹脂層13を凝固させて光硬化させる。バック析出量23は、フィルム支持体であるフィルムベース15と一体に成形され、感光性樹脂凸版印刷版17の機械的、物理的強度を向上させている。バック析出量23は層厚が厚ければ厚いほど、版材10の機械的、物理的強度を向上させることができる。
【0092】
図8(C)および(D)では、感光性樹脂凸版のCTP版材10Aに空中露光(レリーフ露光)を行なった後にバック露光させる例を示したが、CTP版材10Aの表裏側からレリーフ露光とバック露光と同時に行なうようにしても、あるいは、バック露光をレリーフ露光に先立って行なうようにしてもよい。
【0093】
[水現象工程]
露光工程でレリーフ露光およびバック露光により光硬化作用を受けたCTP版材10Aは、アブレーションマスク50およびポジフィルム19を剥がして除去した後、水洗浄工程に送られる。水洗浄工程では、図示しない洗浄装置に平型洗浄ブラシ25がスライド自在に備えられており、この洗浄ブラシ25により、図8(E)に示すように、常温の洗浄水を用いて水洗いが行なわれる。水洗いでは、CTP版材10Aを数十mm/分〜数百mm/分の搬送速度で送り込みつつ、少量の洗浄水を連続供給して、平型洗浄ブラシ25にてブラッシングし、水洗いされる。
【0094】
水洗浄時には、常温の洗浄水中で平型洗浄ブラシ25を数分間、例えば3分間往復動させてブラッシング作用により、感光性樹脂層13の未硬化部の材料樹脂が、光硬化されたレリーフ像22やバック析出層23の硬化樹脂表面から分離して剥がされ、洗い流される。この未硬化部の材料樹脂量は、レリーフ深度に対応する未硬化樹脂分であるため、従来に比べて遥かに少ない。このため、洗浄水の汚れ除去回数が抑えられ、洗浄水の取替回数を減少させることができ、洗浄廃液の処理コストを著しく低減させることができる。この水洗浄時には、常温の洗浄水を少量、例えば3〜6l/分、連続供給することにより、CTP版材10Aの水洗いを行なうことができ、水現像タイプならではの優れた環境性を得ることができる。
【0095】
感光性樹脂層13の未硬化樹脂は硬化材料樹脂(レリーフ部)表面から分離除去され、取り除いた後、必要に応じて水性現像液を所要の水圧で版表面全体に均一スプレー噴霧され、水現像工程が終了する。水性現像液は、未反応の未硬化樹脂の分離除去を促進するために、未硬化樹脂を溶解あるいは膨潤させる性能を持つ液体を現像液として使用する。光照射された感光性樹脂が凝固されて硬化することで、光硬化した材料樹脂は、現像液に対する溶解性あるいは膨潤性がなくなり、現像液に対する化学的耐性が与えられることを
利用してフィルムベース15上に機械的、物理的特性(強度)に優れたレリーフ像22およびバック析出層23が一体成形され、可撓性の感光性樹脂凸版印刷版17Aが成型される。
【0096】
[乾燥・後露光工程]
感光性樹脂凸版印刷版17Aの水洗いが終了したら、続いて図8(F)に示すように、乾燥ヒータ26にて加熱・乾燥され、樹脂凸版印刷版17Aに付着した水滴が除去される。乾燥工程にて水滴が除去された感光性樹脂凸版印刷版17Aは、紫外線蛍光灯や高圧水銀灯、等の活性光源からの照射により、後露光が行なわれる。後露光工程では、300nm以上の波長領域の活性光源からの照射により、感光性樹脂凸版印刷版17Aの機械的、物理的強度の促進や表面粘着性除去を主目的とした現像後光硬化樹脂物への活性光照射である。後露光は、空中露光方式で行なわれる。
【0097】
樹脂凸版印刷版17Aの製作では、水現像工程の水洗い出しや水洗い、さらには乾燥・後露光工程は、環境配慮型プロセッサー(図示せず)、例えば富士フイルムグラフィックシステムズ株式会社製の製品名FTP640IIやFTW350LIIを用いて実施される。このようにして、可撓性の樹脂凸版印刷版17Aが製造され、製作される。
【0098】
製作された可撓性の樹脂凸版印刷版17Aから、エンドレスな無端帯状の樹脂凸版印刷版が製造されるが、この無端帯状の樹脂凸版印刷版の製造は、樹脂凸版印刷版(印刷プレート)17Aの第1実施形態に示されたものと異ならないので、説明を省略する。
【0099】
第2の実施形態に示された樹脂凸版印刷版17Aにおいても、凸版印刷の分野で、耐環境適性、緻密な品質精度の高機能感光性樹脂が得られる。特に、この樹脂凸版印刷版17Aは製版フィルムであるネガフィルムが不要であるために、露光工程での焼付き露光精度が向上し、生産性の向上を図ることができる。また、製版フィルムを使用しないために、環境負荷が低く、優れた樹脂凸版印刷版17Aを提供できる。
【符号の説明】
【0100】
10 版材
11 ベースフィルム(基板)
12 接着剤層
13 感光性樹脂層
14 カバーフィルム
15 フィルムベース(フィルム支持体)
17 感光性樹脂凸版印刷版
18 ネガフィルム(製版フィルム)
19 ポジフィルム
20 紫外線管
22 レリーフ像
23 バック析出層(バック固化層)
25 洗浄ブラシ
26 乾燥ヒータ
29 接着テープ
30 無端帯状樹脂凸版印刷版(印刷プレート)
31 凹凸係合部
32 凹凸画線部の版面(印刷面)
33 マージナルゾーン
34 送り溝
35 送り孔
37 印刷装置
38 プレートシリンダ(版胴)
39 ガイドシリンダ
40 圧力胴(受胴)
41 連続フォーム(ビジネスフォーム)
42 給紙ローラ
43 ガイドローラ
45 巻取りロール
46 インキローラ
47 切断装置
50 アブレーションマスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムベース上に層厚450μm〜780μmの感光性樹脂層を形成した感光性樹脂凸版の版材を備え、
前記版材の表側に密着固定されたネガフィルムを通して入射される紫外線のレリーフ露光と、前記版材の裏側に密着されたポジフィルムを通して入射されるバック露光とにより、前記感光性樹脂層に凝固されたレリーフ像とこのレリーフ像を補強するバック析出層とを設け、
前記感光性樹脂層の非凝固部を水洗浄で除去して乾燥・後露光を行ない、版厚1mm未満の可撓性の樹脂凸版印刷版が形成されたことを特徴とする樹脂凸版印刷版。
【請求項2】
フィルムベース上に層厚450μm〜780μmの感光性樹脂層を形成した版厚1mm未満の感光性樹脂凸版のCTP版材を備え、
前記CTP版材の表側に一体のアブレーションマスクの製版パターンを通して入射される紫外線のレリーフ露光と、前記CTP版材の裏側に密着されたポジフィルムを通して入射されるバック露光とにより、前記感光性樹脂に凝固されたレリーフ像と、このレリーフ像を補強するバック析出層とを設け、
非凝固の感光性樹脂層を水洗浄で除去して乾燥・後露光を行ない、版厚1mm未満の可撓性の樹脂凸版印刷版が形成されたことを特徴とする樹脂凸版印刷版。
【請求項3】
前記樹脂凸版印刷版は、全体の版厚が460μm〜820μmで、ショアA硬度が30〜40度の柔かい可撓性を有し、所要の層厚のフィルムベースに対し、そのベース側全面に凝固されたバック析出層の層厚が230μm〜600μmで、レリーフ像のレリーフ深度が500μm〜130μmである請求項1または2に記載の樹脂凸版印刷版。
【請求項4】
前記樹脂凸版印刷版は、版厚1mm未満で、天地方向の長さが数m〜9mの版材で製作された請求項1または2に記載の樹脂凸版印刷版。
【請求項5】
前記樹脂凸版印刷版は、感光性樹脂層のレリーフ像が、フィルムベースに向って末広がりとなるテーパ形状に凝固されて形成された請求項1または2に記載の樹脂凸版印刷版。
【請求項6】
前記樹脂凸版印刷版は、1つあるいは複数の印刷版が列状に接続され、かつ天地方向の両端部が接続されてエンドレスな無端帯状に成型された請求項1または2に記載の樹脂凸版印刷版。
【請求項7】
フィルムベース上に層厚450μm〜780μmの感光性樹脂層を形成した版厚1mm未満の感光性樹脂凸版の版材を備え、
前記版材の表側にネガフィルムを密着固定してこのネガフィルム側から紫外線を入射させるレリーフ露光を行なって、前記感光性樹脂層にレリーフ像を形成し、
レリーフ露光後の前記版材の裏側にポジフィルムを密着固定してこのポジフィルム側から紫外線を入射させるバック露光を行なって、前記感光性樹脂層全面にバック析出層を形成し、
続いて、前記版材からネガフィルムおよびポジフィルムを除去し、
その後、前記レリーフ像およびバック析出層が形成された前記感光性樹脂層の非凝固部を水洗浄で除去して乾燥・後露光を行ない、版厚1mm未満の可撓性の樹脂凸版印刷版を製作することを特徴とする樹脂凸版印刷版の製造方法。
【請求項8】
フィルムベース上に層厚450μm〜780μmの感光性樹脂層を形成した版厚1mm未満の感光性樹脂凸版のCTP版材を備え、
前記CTP版材の表側に一体のアブレーションマスクに形成された製版パターンから紫外線を入射させるレリーフ露光を行なって、前記感光性樹脂層にレリーフ像を形成し、
レリーフ露光後の前記CTP版材の裏側にポジフィルムを密着固定してこのポジフィルム側から紫外線を入射させるバック露光を行なって、前記感光性樹脂層全面にバック析出層を形成し、
続いて、前記CTP版材からアブレーションマスクおよびポジフィルムを除去し、
その後、前記レリーフ像およびバック析出層が形成された前記感光性樹脂層の非凝固部を水洗浄で除去して乾燥・後露光を行ない、版厚1mm未満の可撓性の樹脂凸版印刷版を製作することを特徴とする樹脂凸版印刷版の製造方法。
【請求項9】
前記版材あるいはCTP版材の感光性樹脂層へのレリーフ露光は、490mj/cm〜530mj/cmの紫外線を入射させて、感光性樹脂層の層厚分のレリーフ深度の500μm〜130μmのレリーフ像を形成し、
前記感光性樹脂層へのバック露光は、35mj/cm〜70mj/cmの紫外線を入射させて、感光性樹脂層のベースフィルム側に230μm〜600μmのバック析出層を形成し、
前記樹脂凸版印刷版は、全体の版厚が460μm〜820μmで、ショアA硬度が30〜40度の柔かい可撓性に成形する請求項7または8に記載の樹脂凸版印刷版の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂凸版印刷版は、版材あるいはCTP版材のレリーフ露光時に、紫外線が感光性樹脂層のフィルムベース側に向って拡がるようにテーパ状に入射される請求項7または8に記載の樹脂凸版印刷版の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂凸版印刷版は、ショアA硬度が30〜40度で柔かい可撓性を有し、全体の版厚が460μm〜820μmに成形される請求項7または8に記載の樹脂凸版印刷版の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂凸版印刷版は、数m〜9mの天地方向長さを有し、前記樹脂凸版印刷版の両端部を接続し、あるいは、前記複数の樹脂凸版印刷版を列状に接続した後、両端部を接続してエンドレスな無端帯状樹脂凸版印刷版を製作する請求項7または8に記載の樹脂凸版印刷版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−53424(P2011−53424A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201945(P2009−201945)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(309011675)有限会社 みさとみらい二十一 (2)
【Fターム(参考)】