樹脂封止金型
【課題】キュアタイムを短縮すると同時に、樹脂流動時においては樹脂の流動性を高く維持する。
【解決手段】対向する上下金型102、104で半導体チップ132が搭載された基板130をクランプし、金型内に充填した樹脂160を用いて基板130を封止する樹脂封止金型100であって、下型104を構成する圧縮金型108に、金型内に充填される樹脂160の対向方向の厚みよりも圧縮金型108の表面に近い位置に、シートヒータ140Bを埋設する。
【解決手段】対向する上下金型102、104で半導体チップ132が搭載された基板130をクランプし、金型内に充填した樹脂160を用いて基板130を封止する樹脂封止金型100であって、下型104を構成する圧縮金型108に、金型内に充填される樹脂160の対向方向の厚みよりも圧縮金型108の表面に近い位置に、シートヒータ140Bを埋設する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップ等が搭載された被成形品を樹脂にて封止する樹脂封止の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の電子部品の実装分野では、露光等のパターンニング技術によって回路設計されたベアチップをウェハから切り出し、これをダイ上にマウントし、さらにワイヤボンディング等によって外部端子と結線し、その後、樹脂封止する工程がある。
【0003】
この樹脂封止工程では、熱を与えることによって硬化を促進するいわゆる熱硬化性樹脂が用いられるが、樹脂をキャビティ内に充填した後、数分間を樹脂の硬化時間(キュアタイム)に費やしており、生産性が低い(サイクルタイムが長い)という問題があった。
【0004】
この硬化時間の短縮を図るものとして図10に示した樹脂パッケージ装置が公知である(特許文献1参照)。この樹脂パッケージ装置は所謂トランスファ型の装置であり、対向して配置される上下金型内部に設けられた通常のヒータ10のほかに、カル部12およびキャビティ14の近傍に吸発熱体16、17を設けるように構成されている。また、吸発熱体16、17は、断熱体18、19に取り囲まれている。
【0005】
このような構成の樹脂パッケージ装置を用いることで、樹脂封止の押し出し時(樹脂流動時)においては、吸発熱体16、17の吸熱作用により、カル部12やキャビティ14が封止樹脂の溶融温度に保持されることから、該封止樹脂の粘度が適切な値に保持され、キャビティ14内の樹脂の押し出し速度を適切な値に維持することができるとされている。更に、押し出し工程を完了した時点においては、吸発熱体16、17の放熱作用によって、カル部12やキャビティ14の内部が、封止樹脂の硬化温度にまで加熱され、樹脂の硬化が促進されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−91367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、封止材料としての熱硬化性樹脂は、エポキシにガラスフィラーを混入させたもの等が利用される。この封止材料は、ある一定の温度域内で流動性を増し(粘度が低下し)、それ以上の温度で硬化が促進する(粘度が増加する)という性質を有している。単純に、樹脂の硬化時間(キュアタイム)の短縮化のみを実現するのであれば、予め金型の温度を高め(樹脂の流動性を確保するために樹脂が低粘度となる温度域よりも高め)に設定しておいたり、より早い段階から金型の温度を高い状態に切り替えることで、より素早く樹脂を硬化させることが可能である。しかしながら、予め金型の温度を高く設定したり、より早い段階から金型の温度を切り替えるということは流動時の段階で樹脂の硬化を促すことを意味するため、樹脂の流動性悪化による他の問題点(例えば、樹脂が均一に広がらない、粘度の増加によってボンディングワイヤ等を切断・短絡させてしまう、ボイドが発生する等)が顕在化してしまう。
【0008】
即ち、図11に示したように、例えば金型の温度を予め高めに設定していた場合等には、「樹脂の硬化が完了するまでの時間」を短くすることができるものの、圧縮工程において樹脂の流動性が高く維持されている時間が短く、上手く樹脂を充填できないという問題が生じる。また、金型内部に設置されたヒータをコントロールしても、金型自体の熱容量が大きいためレスポンスが悪く、細かく温度を変化させることが困難である。
【0009】
特に近年における携帯電話等に使用される半導体製品は、超薄型化・微細化が進行しており、精度のよい樹脂封止を行なうべく樹脂を低粘度化して流動性を確保している。このように低粘度の樹脂の使用が前提となれば、硬化完了までの時間がより必要とされると同時に、予め金型の温度を高く設定する等の手法は、流動性を確保するという観点から問題がある。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するべくなされたものであって、樹脂の硬化が完了するまでの時間(キュアタイム)を短縮すると同時に、樹脂流動時においては樹脂の流動性を高く維持することが可能な樹脂封止金型を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、対向する第1、第2の金型で半導体チップが搭載された被成形品をクランプし、前記金型内に充填した樹脂を用いて前記被成形品を封止する樹脂封止金型であって、前記第1、第2の金型の少なくとも一方には、前記金型内に充填される前記樹脂の前記金型の対向方向の厚みよりも前記金型の表面に近い位置に、第1のヒータを配置することにより、上記課題を解決するものである。
【0012】
このように、金型の相手金型側表面の近傍(金型内に充填される樹脂の対向方向の厚みよりも金型の表面に近い位置)にヒータを配置することによって、金型に接触している樹脂の温度を細かく制御することが可能となった。即ち、例えば、樹脂の流動性を高く維持したい場合には、当該第1のヒータを「流動性を高く維持できる温度域」に設定し、流動が完了した後は直ちに硬化を促進する温度域にまで切り替える。ここで本発明では、金型の表面近傍にヒータが敷設されている。近年では、樹脂の金型の対向方向の厚み(例えばキャビティの厚み)は1mmに満たないものも多いことを考慮すると、実質的に、金型の殆ど表面に相当する位置となるが、このような位置であるからこそ、金型の熱容量の影響を回避して、よりリアルタイムに樹脂の温度を制御することが可能となっている。
【0013】
なお、本発明は、特許文献1に記載された技術のように、カル部12やキャビティ14の近傍に吸発熱体16、17を設ける技術と異なり、蓄積された熱を放出するというものではないため、加熱を能動的に制御することが可能である。
【0014】
また、前記第1のヒータを、相手金型側表面に露出するように構成すれば、最も樹脂の温度を細かく制御することが可能である。
【0015】
一方で、前記第1のヒータの相手金型側に保護層を形成すれば、繰り返される樹脂封止作業によっても、金型に配置された第1のヒータが損傷等することを防止することができる。
【0016】
例えばこの保護層の対向方向の厚みを、前記金型内に充填される前記樹脂の対向方向の厚みの0.1〜1倍とすることで、本発明の趣旨(目的)を損なうことなく、優れた保護性能を発揮することが可能となる。
【0017】
このとき、例えば、前記第1のヒータの反相手金型側に、断熱層を形成するような構成とすれば、第1のヒータによって発生した熱をより効率的に樹脂側(例えばキャビティ、カル、ランナ側)へと導くことができる。
【0018】
例えばこの断熱層の対向方向の厚みを、前記金型内に充填される前記樹脂の対向方向の厚みの1〜10倍とすることで、構造的な強度を保ちつつ、優れた断熱性を確保することが可能となる。断熱層を構成する材料の特性等にもよるが、1倍に満たない場合は十分な断熱効果を発揮することができず、10倍を超える場合には、金型全体の構造的な強度が十分に確保できない。
【0019】
勿論、金型表面の近傍(または表面)に配置した前記第1のヒータのみによる制御ではなく、前記第1のヒータが配置されている金型の内部に、第2のヒータを埋設するような構成とすれば、熱容量の大きな金型を所定の温度に維持する役割を内蔵された第2のヒータに委ねることができるため、第1のヒータは、樹脂の硬化を促進することだけを考慮した設計が可能となる。
【0020】
また、前記第1、第2の金型の少なくとも一方が、貫通孔を有する枠状金型と、該貫通孔に嵌合して相手金型側に摺動可能な圧縮金型とからなり、前記第1のヒータを、前記圧縮金型の表面に敷設すれば、施行上有利である。即ち、第1又は第2の金型を構成する圧縮金型は、同様に金型を構成する枠状金型とは別部品として取り扱うことが可能であり、当該圧縮金型のみを必要により加工等すれば足り、枠状金型部分は従来の金型をそのまま利用することが可能となる。また場合によっては、圧縮金型においてもその表面に第1のヒータを敷設するのみで足り、圧縮金型自体の加工をも不要である。
【0021】
このとき、前記第1のヒータが配置される面積が、前記圧縮金型の表面積と同一であるように構成すれば、キャビティ内の樹脂を均一に温度管理することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明を適用することにより、高品質な樹脂封止を短いサイクルタイムで完了することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の一例である樹脂封止金型の概略構成図
【図2】ヒータユニットを中心とした拡大図
【図3】ヒータユニットを中心とした拡大図であって、キャビティ厚みとの関係性を示した図
【図4】本発明の実施形態の一例である樹脂封止金型の概略封止工程図
【図5】本発明にかかる樹脂封止金型を用いた場合の樹脂の硬化度(粘度)と時間との関係を示した図
【図6】本発明の第2の実施形態を示した図
【図7】本発明の第3の実施形態を示した図
【図8】本発明の第4の実施形態を示した図
【図9】本発明の第5の実施形態を示した図
【図10】特許文献1に記載される樹脂パッケージ装置
【図11】樹脂の硬化度(粘度)と時間との関係を示した図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態の一例である樹脂封止金型100の概略構成図である。図2は、ヒータユニット140を中心とした拡大図である。図3は、ヒータユニット140を中心とした拡大図であって、キャビティ厚みH1との関係性を示した図である。図4は、樹脂封止金型100の概略封止工程図である。図5は、本発明にかかる樹脂封止金型100を用いた場合の樹脂の硬化度(粘度)と時間との関係を示した図である。なお、説明および理解容易のため、図面の縮尺等は部分的に誇張した表現を採用しており、必ずしも実際の金型を構成する各部の比率と同一ではない。
【0026】
<樹脂封止金型の構成>
樹脂封止金型100は、上下に対向して配置された上型102と下型104とで構成される。また当該上型102と下型104とは、図示せぬプレス機構と接続されており、所定のタイミングで当接・離間することが可能とされている。
【0027】
下型104は、対向方向に貫通した貫通孔106Aを有する枠状金型106と、この貫通孔106Aに嵌合して上下に進退動可能な圧縮金型108とで構成されている。またこの枠状金型106は、圧縮金型108の鍔部からバネ110を介して支持されている。また、圧縮金型108の表面、即ち、上型102側の表面にはヒータユニット140が配置されている(ヒータユニット140についての詳細は後述する。)。更にこの圧縮金型108の内部には、内部ヒータ(カートリッジヒータ)108が埋設されており、圧縮金型108全体の温度を所定の温度に維持管理することが可能とされている。
【0028】
なお、本実施形態では、圧縮金型108の表面の一部にのみヒータユニット140が配置されているが、圧縮金型108の表面の面積全てにヒータユニット140を配置するような構成を採用することも可能である。そのような構成とすれば、キャビティ170内の樹脂160をより均一に温度管理することが可能となる。
【0029】
一方、上型102の表面(下型104側表面)には、図示せぬ吸着機構が設けられており、搬送機構(図示しない)によって金型内に搬送されてきた基板(被成形品)130を吸着して保持することが可能とされている。
【0030】
なお、図1における符号150は、封止材料としての樹脂160が金型表面に付着することを防止したり、樹脂封止後の成形品の離型性を向上させるためのリリースフィルム(離型フィルム)である。また、上型102と下型104とで基板130をクランプすることによって形成される空間がキャビティ170である。
【0031】
<ヒータユニットの構成>
次に、ヒータユニット140の構成について説明する。ヒータユニット140は、例えば電熱ヒータ等によって構成されたシート状のシートヒータ(第1のヒータ)140Bと、このシートヒータ140Bの上面、即ち、キャビティ170側に配置される保護プレート(保護層)140Aと、シートヒータ140Bと圧縮金型108との間(反上型102側)に形成される断熱層140Cとから構成されている。
【0032】
保護プレート140Aは、例えば圧縮金型108を構成する材料と同様の材質によって構成され、樹脂封止の際の圧力等からシートヒータ140Bを充分に保護することが可能な強度が保たれている。即ち、ここでの保護プレート140Aは、ヒータユニット140を構成すると同時に、圧縮金型108自身を構成する部材である。換言すると、シートヒータ140Bが、保護プレート140Aの厚み分だけ金型内に埋められるように配置されている。また、断熱層140Cは、シートヒータ140Bによって発生した熱を、効率的に保護プレート140Aを介してキャビティ170側へと導くために、シートヒータ140Bから圧縮金型108側へと熱が伝導するのを防止する目的で設けられている。この断熱層は、例えばセラミック等の材料によって形成されている。勿論この断熱層の材料が、セラミックに限定されるわけではなく、シートヒータ140Bによって発生した熱を効率的に遮断できる限りにおいて、様々な材料および構造の断熱層を用いることが可能である。また、本実施形態における断熱層140Cはシートヒータ140Bと隣接するような配置構成とされているが、離れていてもよい。
【0033】
また、図3に示すように、本実施形態においては、保護プレート140Aの厚み(上型102と下型104との対向方向の厚み)H2は、圧縮工程完了時におけるキャビティ170の厚み(上型102と下型104との間に充填されている樹脂160の対向方向の厚み)H1の1倍以下である必要がある。即ち、シートヒータ140Bが、金型内に充填される樹脂160の金型の対向方向の厚みよりも金型の表面に近い位置に配置されている。また、断熱層140Cの厚み(上型102と下型104との対向方向の厚み)H3は、同様に、圧縮工程完了時におけるキャビティ170の厚みH1との比較において1〜10倍が望ましい。これは、断熱層を構成する材料の特性等にもよるが、1倍に満たない場合は十分な断熱効果を発揮することができず、10倍を超える場合には、金型全体の構造的な強度が十分に確保できないことに起因している。
【0034】
なお、本発明においては、これらの保護プレート(保護層)140Aや断熱層140Cは必ずしも必須の構成要素とはならない。例えばシートヒータ140B自体が繰り返される樹脂封止作業に十分に耐えうる構造である場合には不用であり、シートヒータ140Bが金型表面に露出していてもよい。また、断熱層140Cにおいても同様であり、例えば、金型を構成する材料自体の熱伝導率が低い場合には、断熱層を省略した構成も可能である。
【0035】
また、本実施形態では、シートヒータ140Bが、圧縮金型108の表面に敷設されており、施行上有利である。即ち、下型104を構成する圧縮金型108は、同様に下型104を構成する枠状金型106とは別部品として取り扱うことが可能であり、当該圧縮金型108のみを必要により加工等すれば足り、枠状金型106の部分は従来の金型をそのまま利用することが可能となる。また場合によっては、圧縮金型108においてもその表面にシートヒータ104Bを敷設するのみで足り、圧縮金型108自体の加工をも不要である。
【0036】
<樹脂封止金型の作用>
続いて図4を参照しつつ、この樹脂封止金型100を用いた樹脂封止の工程について簡単に説明する。
【0037】
図4(A)に示すように、当初、上型102と下型104とは離間している。この状態で、図示せぬ搬送機構によって、上型102の表面に半導体チップ132が搭載された基板130が搬送され吸着保持される。一方、下型104のキャビティ170(枠状金型106と圧縮金型108との段差が形成されている部分)には、図示せぬ搬送機構によって封止材料としての樹脂160が投入される(より正確には、下型104の表面にはリリースフィルム150が吸着保持されているため、当該リリースフィルム150上に投入される。)。本実施形態においては、この樹脂160は、予め所定の形状に予備的に成形されたプリフォーム樹脂が用いられている。勿論、このようにプリフォーム樹脂に限定されるものではなく、粉状、粒状、ペレット状等の様々な形態の樹脂であっても差し支えない。
【0038】
またこの時点においては、圧縮金型108の内部に設けられた内部ヒータ108Aによって、この圧縮金型108全体の温度が所定の温度域(投入された樹脂160の流動性が高い温度域)に維持されている。その結果、キャビティ170内に樹脂160が投入されると同時に、樹脂は溶融し始め、流動性が向上する。一方で、圧縮金型108に配置されたシートヒータ140B(ヒータユニット140)は動作していない。
【0039】
次に、図4(B)に示すように、上型102と下型104とが当接する。この動作によって、キャビティ170内に投入された樹脂160が圧縮されつつ、キャビティ170内に均一に充填する作業が行なわれる(圧縮工程)。この時点においても圧縮金型108に配置されたシートヒータ140B(ヒータユニット140)は動作しておらず、専ら、圧縮金型108の内部に設けられた内部ヒータ108Aによって、樹脂160の流動性が高い温度域に金型の温度が維持されている。その結果、当該樹脂160の流動によって半導体チップ等に設けられているボンディングワイヤ等の短絡・切断を誘発することもなく、更に、流動性の高さから、キャビティ170内に均一に樹脂160を充填させることが可能となっている。
【0040】
続いて、図4(C)に示したように、圧縮金型108による圧縮工程が完了すると同時に(またはその前後に)、圧縮金型108に配置されたシートヒータ140B(ヒータユニット140)が動作し、キャビティ170内に充填された樹脂160の温度を一気に硬化温度域にまで加熱する。本実施形態におけるシートヒータ140B(ヒータユニット140)は、前述した通り、圧縮金型108の表面に保護プレート140Aのみを介して配置されており、素早く樹脂160の温度を変化させることが可能である。また、シートヒータ140Bの下には断熱層140Cが設けられているため、当該シートヒータ140B(ヒータユニット140)で発生した熱が、圧縮金型108全体へと逃げることなく効率的にキャビティ170内に充填されている樹脂160側へと導かれる。
【0041】
なお、シートヒータ140Bの動作が開始される時点は、必ずしも圧縮工程が完了すると同時である必要はない。例えば、圧縮工程が終了する以前からある程度の温度域(例えば樹脂の流動性が高い温度域)で動作させておき、圧縮工程終了と同時に(またはその前後に)温度を切り替えるような制御を行ってもよい。
【0042】
このようなプロセスにより樹脂封止が行われる際の、樹脂の硬化度(粘度)と時間との関係を示したものが図5である。この図5に示しているように、本発明を適用した樹脂封止金型100を使用して樹脂封止を行なった場合には、圧縮工程が終わると同時に急速に樹脂の硬化度が上昇している。即ち、圧縮工程が完了するまでの間は、樹脂材料としての樹脂の流動性を高く維持すると同時に、樹脂の流動が終った段階で速やかに樹脂を硬化させ、樹脂の硬化が完了するまでの時間(キュアタイム)を短縮している。その結果、樹脂の流動性が高い状態でキャビティ内に均一に樹脂を充填させることによって高い樹脂封止品質を保つと同時に、短いサイクルタイムで樹脂封止を完了することが可能となっている。
【0043】
また、次回の封止作業に移行する場合には、キャビティ170周辺の温度を樹脂の流動性が高い温度域にまで下げておく必要がある。本実施形態では、金型の表面に保護プレート140Aのみを介してシートヒータ140Bが配置されているため、例えば、金型表面にブロワ等によって空気を当てること等により、簡易且つ迅速に温度を低下させることができる。
【0044】
<本発明の他の実施形態について>
また、上記実施形態においては下型104を構成する圧縮金型側108にのみヒータユニット140が設けられていたが、上型102側に設けるような構成を採用しても良い。例えば図6に示すように、圧縮金型208の表面にヒータユニット240Aを敷設すると同時に、基板230を吸着固定する上型202側の表面にも、同様にヒータユニット240Bを敷設するような構成を採用してもよい。このようにすれば、上下方向から被成形品である基板230をより均一な状態で温度管理することが可能となり、封止後の基板230の「反り」等を防止すること可能となる。なお係る場合、上型202側に敷設されるヒータユニット240Bは、圧縮金型208側に設けるヒータユニット240Aと同様の構成である必要は無い。即ち、本実施形態のように、上型202が直接封止材料としての樹脂に接するのではなく基板230を介して接しているような場合には、ヒータユニット240Bの大きさや設定温度に関しては適宜に変更・調整可能である。
【0045】
また、図7に示すように、圧縮金型408に配置されるヒータユニット440を、例えばインサート408Aを介して着脱可能に構成しても良い。このような構成とすれば、性能の異なるヒータユニットを適宜取り替えることが容易となる。
【0046】
<トランスファ方式への適用例>
なお、上記では全て所謂「圧縮金型」を例に説明しているが、トランスファ方式の樹脂封止金型にも幅広く適用することが可能である。図8および図9に、トランスファ方式の金型への適用例を示している。
【0047】
トランスファ方式の金型に適用する場合には、キャビティのみならず、カル部やランナ部に対応する位置に第1のヒータ(例えばシートヒータ)を配置することによって、カル部やランナ部を流動する樹脂や滞留する樹脂の温度を積極的に管理することができる。図8および図9に示した例では、カル部36、536の表面や近傍に、第1のヒータ(局部ヒータ)46、546が配置されている。このような構成とすれば、硬化工程において、樹脂に厚み(A2)があるカル部36、536に存在する樹脂をより積極的に硬化させることによって、ランナ部50等との硬化タイミングを揃えることが可能となる。かかる場合の第1のヒータ(局部ヒータ)46、546の金型表面からの位置は、当該第1のヒータ(局部ヒータ)46、546に対応する位置に充填されている樹脂の厚み(即ち、カル部36、536厚みA2)よりも金型表面に近い位置に配置すればよい(図9の例で説明すると、A3≦A2という関係が成り立つ)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形金型に広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
100…樹脂封止金型
102…上型
104…下型
106…枠状金型
106A…貫通孔
108…圧縮金型
108A…内部ヒータ
110…バネ
130…基板(被成形品)
132…半導体チップ
140…ヒータユニット
140A…保護プレート(保護層)
140B…ヒータ
140C…断熱層
150…リリースフィルム
160…樹脂(封止樹脂)
170…キャビティ
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップ等が搭載された被成形品を樹脂にて封止する樹脂封止の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の電子部品の実装分野では、露光等のパターンニング技術によって回路設計されたベアチップをウェハから切り出し、これをダイ上にマウントし、さらにワイヤボンディング等によって外部端子と結線し、その後、樹脂封止する工程がある。
【0003】
この樹脂封止工程では、熱を与えることによって硬化を促進するいわゆる熱硬化性樹脂が用いられるが、樹脂をキャビティ内に充填した後、数分間を樹脂の硬化時間(キュアタイム)に費やしており、生産性が低い(サイクルタイムが長い)という問題があった。
【0004】
この硬化時間の短縮を図るものとして図10に示した樹脂パッケージ装置が公知である(特許文献1参照)。この樹脂パッケージ装置は所謂トランスファ型の装置であり、対向して配置される上下金型内部に設けられた通常のヒータ10のほかに、カル部12およびキャビティ14の近傍に吸発熱体16、17を設けるように構成されている。また、吸発熱体16、17は、断熱体18、19に取り囲まれている。
【0005】
このような構成の樹脂パッケージ装置を用いることで、樹脂封止の押し出し時(樹脂流動時)においては、吸発熱体16、17の吸熱作用により、カル部12やキャビティ14が封止樹脂の溶融温度に保持されることから、該封止樹脂の粘度が適切な値に保持され、キャビティ14内の樹脂の押し出し速度を適切な値に維持することができるとされている。更に、押し出し工程を完了した時点においては、吸発熱体16、17の放熱作用によって、カル部12やキャビティ14の内部が、封止樹脂の硬化温度にまで加熱され、樹脂の硬化が促進されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−91367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、封止材料としての熱硬化性樹脂は、エポキシにガラスフィラーを混入させたもの等が利用される。この封止材料は、ある一定の温度域内で流動性を増し(粘度が低下し)、それ以上の温度で硬化が促進する(粘度が増加する)という性質を有している。単純に、樹脂の硬化時間(キュアタイム)の短縮化のみを実現するのであれば、予め金型の温度を高め(樹脂の流動性を確保するために樹脂が低粘度となる温度域よりも高め)に設定しておいたり、より早い段階から金型の温度を高い状態に切り替えることで、より素早く樹脂を硬化させることが可能である。しかしながら、予め金型の温度を高く設定したり、より早い段階から金型の温度を切り替えるということは流動時の段階で樹脂の硬化を促すことを意味するため、樹脂の流動性悪化による他の問題点(例えば、樹脂が均一に広がらない、粘度の増加によってボンディングワイヤ等を切断・短絡させてしまう、ボイドが発生する等)が顕在化してしまう。
【0008】
即ち、図11に示したように、例えば金型の温度を予め高めに設定していた場合等には、「樹脂の硬化が完了するまでの時間」を短くすることができるものの、圧縮工程において樹脂の流動性が高く維持されている時間が短く、上手く樹脂を充填できないという問題が生じる。また、金型内部に設置されたヒータをコントロールしても、金型自体の熱容量が大きいためレスポンスが悪く、細かく温度を変化させることが困難である。
【0009】
特に近年における携帯電話等に使用される半導体製品は、超薄型化・微細化が進行しており、精度のよい樹脂封止を行なうべく樹脂を低粘度化して流動性を確保している。このように低粘度の樹脂の使用が前提となれば、硬化完了までの時間がより必要とされると同時に、予め金型の温度を高く設定する等の手法は、流動性を確保するという観点から問題がある。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するべくなされたものであって、樹脂の硬化が完了するまでの時間(キュアタイム)を短縮すると同時に、樹脂流動時においては樹脂の流動性を高く維持することが可能な樹脂封止金型を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、対向する第1、第2の金型で半導体チップが搭載された被成形品をクランプし、前記金型内に充填した樹脂を用いて前記被成形品を封止する樹脂封止金型であって、前記第1、第2の金型の少なくとも一方には、前記金型内に充填される前記樹脂の前記金型の対向方向の厚みよりも前記金型の表面に近い位置に、第1のヒータを配置することにより、上記課題を解決するものである。
【0012】
このように、金型の相手金型側表面の近傍(金型内に充填される樹脂の対向方向の厚みよりも金型の表面に近い位置)にヒータを配置することによって、金型に接触している樹脂の温度を細かく制御することが可能となった。即ち、例えば、樹脂の流動性を高く維持したい場合には、当該第1のヒータを「流動性を高く維持できる温度域」に設定し、流動が完了した後は直ちに硬化を促進する温度域にまで切り替える。ここで本発明では、金型の表面近傍にヒータが敷設されている。近年では、樹脂の金型の対向方向の厚み(例えばキャビティの厚み)は1mmに満たないものも多いことを考慮すると、実質的に、金型の殆ど表面に相当する位置となるが、このような位置であるからこそ、金型の熱容量の影響を回避して、よりリアルタイムに樹脂の温度を制御することが可能となっている。
【0013】
なお、本発明は、特許文献1に記載された技術のように、カル部12やキャビティ14の近傍に吸発熱体16、17を設ける技術と異なり、蓄積された熱を放出するというものではないため、加熱を能動的に制御することが可能である。
【0014】
また、前記第1のヒータを、相手金型側表面に露出するように構成すれば、最も樹脂の温度を細かく制御することが可能である。
【0015】
一方で、前記第1のヒータの相手金型側に保護層を形成すれば、繰り返される樹脂封止作業によっても、金型に配置された第1のヒータが損傷等することを防止することができる。
【0016】
例えばこの保護層の対向方向の厚みを、前記金型内に充填される前記樹脂の対向方向の厚みの0.1〜1倍とすることで、本発明の趣旨(目的)を損なうことなく、優れた保護性能を発揮することが可能となる。
【0017】
このとき、例えば、前記第1のヒータの反相手金型側に、断熱層を形成するような構成とすれば、第1のヒータによって発生した熱をより効率的に樹脂側(例えばキャビティ、カル、ランナ側)へと導くことができる。
【0018】
例えばこの断熱層の対向方向の厚みを、前記金型内に充填される前記樹脂の対向方向の厚みの1〜10倍とすることで、構造的な強度を保ちつつ、優れた断熱性を確保することが可能となる。断熱層を構成する材料の特性等にもよるが、1倍に満たない場合は十分な断熱効果を発揮することができず、10倍を超える場合には、金型全体の構造的な強度が十分に確保できない。
【0019】
勿論、金型表面の近傍(または表面)に配置した前記第1のヒータのみによる制御ではなく、前記第1のヒータが配置されている金型の内部に、第2のヒータを埋設するような構成とすれば、熱容量の大きな金型を所定の温度に維持する役割を内蔵された第2のヒータに委ねることができるため、第1のヒータは、樹脂の硬化を促進することだけを考慮した設計が可能となる。
【0020】
また、前記第1、第2の金型の少なくとも一方が、貫通孔を有する枠状金型と、該貫通孔に嵌合して相手金型側に摺動可能な圧縮金型とからなり、前記第1のヒータを、前記圧縮金型の表面に敷設すれば、施行上有利である。即ち、第1又は第2の金型を構成する圧縮金型は、同様に金型を構成する枠状金型とは別部品として取り扱うことが可能であり、当該圧縮金型のみを必要により加工等すれば足り、枠状金型部分は従来の金型をそのまま利用することが可能となる。また場合によっては、圧縮金型においてもその表面に第1のヒータを敷設するのみで足り、圧縮金型自体の加工をも不要である。
【0021】
このとき、前記第1のヒータが配置される面積が、前記圧縮金型の表面積と同一であるように構成すれば、キャビティ内の樹脂を均一に温度管理することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明を適用することにより、高品質な樹脂封止を短いサイクルタイムで完了することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の一例である樹脂封止金型の概略構成図
【図2】ヒータユニットを中心とした拡大図
【図3】ヒータユニットを中心とした拡大図であって、キャビティ厚みとの関係性を示した図
【図4】本発明の実施形態の一例である樹脂封止金型の概略封止工程図
【図5】本発明にかかる樹脂封止金型を用いた場合の樹脂の硬化度(粘度)と時間との関係を示した図
【図6】本発明の第2の実施形態を示した図
【図7】本発明の第3の実施形態を示した図
【図8】本発明の第4の実施形態を示した図
【図9】本発明の第5の実施形態を示した図
【図10】特許文献1に記載される樹脂パッケージ装置
【図11】樹脂の硬化度(粘度)と時間との関係を示した図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態の一例である樹脂封止金型100の概略構成図である。図2は、ヒータユニット140を中心とした拡大図である。図3は、ヒータユニット140を中心とした拡大図であって、キャビティ厚みH1との関係性を示した図である。図4は、樹脂封止金型100の概略封止工程図である。図5は、本発明にかかる樹脂封止金型100を用いた場合の樹脂の硬化度(粘度)と時間との関係を示した図である。なお、説明および理解容易のため、図面の縮尺等は部分的に誇張した表現を採用しており、必ずしも実際の金型を構成する各部の比率と同一ではない。
【0026】
<樹脂封止金型の構成>
樹脂封止金型100は、上下に対向して配置された上型102と下型104とで構成される。また当該上型102と下型104とは、図示せぬプレス機構と接続されており、所定のタイミングで当接・離間することが可能とされている。
【0027】
下型104は、対向方向に貫通した貫通孔106Aを有する枠状金型106と、この貫通孔106Aに嵌合して上下に進退動可能な圧縮金型108とで構成されている。またこの枠状金型106は、圧縮金型108の鍔部からバネ110を介して支持されている。また、圧縮金型108の表面、即ち、上型102側の表面にはヒータユニット140が配置されている(ヒータユニット140についての詳細は後述する。)。更にこの圧縮金型108の内部には、内部ヒータ(カートリッジヒータ)108が埋設されており、圧縮金型108全体の温度を所定の温度に維持管理することが可能とされている。
【0028】
なお、本実施形態では、圧縮金型108の表面の一部にのみヒータユニット140が配置されているが、圧縮金型108の表面の面積全てにヒータユニット140を配置するような構成を採用することも可能である。そのような構成とすれば、キャビティ170内の樹脂160をより均一に温度管理することが可能となる。
【0029】
一方、上型102の表面(下型104側表面)には、図示せぬ吸着機構が設けられており、搬送機構(図示しない)によって金型内に搬送されてきた基板(被成形品)130を吸着して保持することが可能とされている。
【0030】
なお、図1における符号150は、封止材料としての樹脂160が金型表面に付着することを防止したり、樹脂封止後の成形品の離型性を向上させるためのリリースフィルム(離型フィルム)である。また、上型102と下型104とで基板130をクランプすることによって形成される空間がキャビティ170である。
【0031】
<ヒータユニットの構成>
次に、ヒータユニット140の構成について説明する。ヒータユニット140は、例えば電熱ヒータ等によって構成されたシート状のシートヒータ(第1のヒータ)140Bと、このシートヒータ140Bの上面、即ち、キャビティ170側に配置される保護プレート(保護層)140Aと、シートヒータ140Bと圧縮金型108との間(反上型102側)に形成される断熱層140Cとから構成されている。
【0032】
保護プレート140Aは、例えば圧縮金型108を構成する材料と同様の材質によって構成され、樹脂封止の際の圧力等からシートヒータ140Bを充分に保護することが可能な強度が保たれている。即ち、ここでの保護プレート140Aは、ヒータユニット140を構成すると同時に、圧縮金型108自身を構成する部材である。換言すると、シートヒータ140Bが、保護プレート140Aの厚み分だけ金型内に埋められるように配置されている。また、断熱層140Cは、シートヒータ140Bによって発生した熱を、効率的に保護プレート140Aを介してキャビティ170側へと導くために、シートヒータ140Bから圧縮金型108側へと熱が伝導するのを防止する目的で設けられている。この断熱層は、例えばセラミック等の材料によって形成されている。勿論この断熱層の材料が、セラミックに限定されるわけではなく、シートヒータ140Bによって発生した熱を効率的に遮断できる限りにおいて、様々な材料および構造の断熱層を用いることが可能である。また、本実施形態における断熱層140Cはシートヒータ140Bと隣接するような配置構成とされているが、離れていてもよい。
【0033】
また、図3に示すように、本実施形態においては、保護プレート140Aの厚み(上型102と下型104との対向方向の厚み)H2は、圧縮工程完了時におけるキャビティ170の厚み(上型102と下型104との間に充填されている樹脂160の対向方向の厚み)H1の1倍以下である必要がある。即ち、シートヒータ140Bが、金型内に充填される樹脂160の金型の対向方向の厚みよりも金型の表面に近い位置に配置されている。また、断熱層140Cの厚み(上型102と下型104との対向方向の厚み)H3は、同様に、圧縮工程完了時におけるキャビティ170の厚みH1との比較において1〜10倍が望ましい。これは、断熱層を構成する材料の特性等にもよるが、1倍に満たない場合は十分な断熱効果を発揮することができず、10倍を超える場合には、金型全体の構造的な強度が十分に確保できないことに起因している。
【0034】
なお、本発明においては、これらの保護プレート(保護層)140Aや断熱層140Cは必ずしも必須の構成要素とはならない。例えばシートヒータ140B自体が繰り返される樹脂封止作業に十分に耐えうる構造である場合には不用であり、シートヒータ140Bが金型表面に露出していてもよい。また、断熱層140Cにおいても同様であり、例えば、金型を構成する材料自体の熱伝導率が低い場合には、断熱層を省略した構成も可能である。
【0035】
また、本実施形態では、シートヒータ140Bが、圧縮金型108の表面に敷設されており、施行上有利である。即ち、下型104を構成する圧縮金型108は、同様に下型104を構成する枠状金型106とは別部品として取り扱うことが可能であり、当該圧縮金型108のみを必要により加工等すれば足り、枠状金型106の部分は従来の金型をそのまま利用することが可能となる。また場合によっては、圧縮金型108においてもその表面にシートヒータ104Bを敷設するのみで足り、圧縮金型108自体の加工をも不要である。
【0036】
<樹脂封止金型の作用>
続いて図4を参照しつつ、この樹脂封止金型100を用いた樹脂封止の工程について簡単に説明する。
【0037】
図4(A)に示すように、当初、上型102と下型104とは離間している。この状態で、図示せぬ搬送機構によって、上型102の表面に半導体チップ132が搭載された基板130が搬送され吸着保持される。一方、下型104のキャビティ170(枠状金型106と圧縮金型108との段差が形成されている部分)には、図示せぬ搬送機構によって封止材料としての樹脂160が投入される(より正確には、下型104の表面にはリリースフィルム150が吸着保持されているため、当該リリースフィルム150上に投入される。)。本実施形態においては、この樹脂160は、予め所定の形状に予備的に成形されたプリフォーム樹脂が用いられている。勿論、このようにプリフォーム樹脂に限定されるものではなく、粉状、粒状、ペレット状等の様々な形態の樹脂であっても差し支えない。
【0038】
またこの時点においては、圧縮金型108の内部に設けられた内部ヒータ108Aによって、この圧縮金型108全体の温度が所定の温度域(投入された樹脂160の流動性が高い温度域)に維持されている。その結果、キャビティ170内に樹脂160が投入されると同時に、樹脂は溶融し始め、流動性が向上する。一方で、圧縮金型108に配置されたシートヒータ140B(ヒータユニット140)は動作していない。
【0039】
次に、図4(B)に示すように、上型102と下型104とが当接する。この動作によって、キャビティ170内に投入された樹脂160が圧縮されつつ、キャビティ170内に均一に充填する作業が行なわれる(圧縮工程)。この時点においても圧縮金型108に配置されたシートヒータ140B(ヒータユニット140)は動作しておらず、専ら、圧縮金型108の内部に設けられた内部ヒータ108Aによって、樹脂160の流動性が高い温度域に金型の温度が維持されている。その結果、当該樹脂160の流動によって半導体チップ等に設けられているボンディングワイヤ等の短絡・切断を誘発することもなく、更に、流動性の高さから、キャビティ170内に均一に樹脂160を充填させることが可能となっている。
【0040】
続いて、図4(C)に示したように、圧縮金型108による圧縮工程が完了すると同時に(またはその前後に)、圧縮金型108に配置されたシートヒータ140B(ヒータユニット140)が動作し、キャビティ170内に充填された樹脂160の温度を一気に硬化温度域にまで加熱する。本実施形態におけるシートヒータ140B(ヒータユニット140)は、前述した通り、圧縮金型108の表面に保護プレート140Aのみを介して配置されており、素早く樹脂160の温度を変化させることが可能である。また、シートヒータ140Bの下には断熱層140Cが設けられているため、当該シートヒータ140B(ヒータユニット140)で発生した熱が、圧縮金型108全体へと逃げることなく効率的にキャビティ170内に充填されている樹脂160側へと導かれる。
【0041】
なお、シートヒータ140Bの動作が開始される時点は、必ずしも圧縮工程が完了すると同時である必要はない。例えば、圧縮工程が終了する以前からある程度の温度域(例えば樹脂の流動性が高い温度域)で動作させておき、圧縮工程終了と同時に(またはその前後に)温度を切り替えるような制御を行ってもよい。
【0042】
このようなプロセスにより樹脂封止が行われる際の、樹脂の硬化度(粘度)と時間との関係を示したものが図5である。この図5に示しているように、本発明を適用した樹脂封止金型100を使用して樹脂封止を行なった場合には、圧縮工程が終わると同時に急速に樹脂の硬化度が上昇している。即ち、圧縮工程が完了するまでの間は、樹脂材料としての樹脂の流動性を高く維持すると同時に、樹脂の流動が終った段階で速やかに樹脂を硬化させ、樹脂の硬化が完了するまでの時間(キュアタイム)を短縮している。その結果、樹脂の流動性が高い状態でキャビティ内に均一に樹脂を充填させることによって高い樹脂封止品質を保つと同時に、短いサイクルタイムで樹脂封止を完了することが可能となっている。
【0043】
また、次回の封止作業に移行する場合には、キャビティ170周辺の温度を樹脂の流動性が高い温度域にまで下げておく必要がある。本実施形態では、金型の表面に保護プレート140Aのみを介してシートヒータ140Bが配置されているため、例えば、金型表面にブロワ等によって空気を当てること等により、簡易且つ迅速に温度を低下させることができる。
【0044】
<本発明の他の実施形態について>
また、上記実施形態においては下型104を構成する圧縮金型側108にのみヒータユニット140が設けられていたが、上型102側に設けるような構成を採用しても良い。例えば図6に示すように、圧縮金型208の表面にヒータユニット240Aを敷設すると同時に、基板230を吸着固定する上型202側の表面にも、同様にヒータユニット240Bを敷設するような構成を採用してもよい。このようにすれば、上下方向から被成形品である基板230をより均一な状態で温度管理することが可能となり、封止後の基板230の「反り」等を防止すること可能となる。なお係る場合、上型202側に敷設されるヒータユニット240Bは、圧縮金型208側に設けるヒータユニット240Aと同様の構成である必要は無い。即ち、本実施形態のように、上型202が直接封止材料としての樹脂に接するのではなく基板230を介して接しているような場合には、ヒータユニット240Bの大きさや設定温度に関しては適宜に変更・調整可能である。
【0045】
また、図7に示すように、圧縮金型408に配置されるヒータユニット440を、例えばインサート408Aを介して着脱可能に構成しても良い。このような構成とすれば、性能の異なるヒータユニットを適宜取り替えることが容易となる。
【0046】
<トランスファ方式への適用例>
なお、上記では全て所謂「圧縮金型」を例に説明しているが、トランスファ方式の樹脂封止金型にも幅広く適用することが可能である。図8および図9に、トランスファ方式の金型への適用例を示している。
【0047】
トランスファ方式の金型に適用する場合には、キャビティのみならず、カル部やランナ部に対応する位置に第1のヒータ(例えばシートヒータ)を配置することによって、カル部やランナ部を流動する樹脂や滞留する樹脂の温度を積極的に管理することができる。図8および図9に示した例では、カル部36、536の表面や近傍に、第1のヒータ(局部ヒータ)46、546が配置されている。このような構成とすれば、硬化工程において、樹脂に厚み(A2)があるカル部36、536に存在する樹脂をより積極的に硬化させることによって、ランナ部50等との硬化タイミングを揃えることが可能となる。かかる場合の第1のヒータ(局部ヒータ)46、546の金型表面からの位置は、当該第1のヒータ(局部ヒータ)46、546に対応する位置に充填されている樹脂の厚み(即ち、カル部36、536厚みA2)よりも金型表面に近い位置に配置すればよい(図9の例で説明すると、A3≦A2という関係が成り立つ)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形金型に広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
100…樹脂封止金型
102…上型
104…下型
106…枠状金型
106A…貫通孔
108…圧縮金型
108A…内部ヒータ
110…バネ
130…基板(被成形品)
132…半導体チップ
140…ヒータユニット
140A…保護プレート(保護層)
140B…ヒータ
140C…断熱層
150…リリースフィルム
160…樹脂(封止樹脂)
170…キャビティ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第1、第2の金型で半導体チップが搭載された被成形品をクランプし、前記金型内に充填した樹脂を用いて前記被成形品を封止する樹脂封止金型であって、
前記第1、第2の金型の少なくとも一方には、前記金型内に充填される前記樹脂の前記金型の対向方向の厚みよりも前記金型の表面に近い位置に、第1のヒータが配置されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のヒータが、相手金型側表面に露出している
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1のヒータの相手金型側には保護層が形成されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項4】
請求項3において、
前記保護層の対向方向の厚みが、前記金型内に充填される前記樹脂の対向方向の厚みの0.1〜1倍である
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記第1のヒータの反相手金型側に、断熱層が形成されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項6】
請求項5において、
前記断熱層の対向方向の厚みが、前記金型内に充填される前記樹脂の対向方向の厚みの1〜10倍である
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて
前記第1のヒータが配置されている金型の内部に、第2のヒータが埋設されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記第1、第2の金型の少なくとも一方が、貫通孔を有する枠状金型と、該貫通孔に嵌合して相手金型側に摺動可能な圧縮金型とからなり、
前記第1のヒータが、前記圧縮金型に配置されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項9】
請求項8において、
前記第1のヒータが配置される面積が、前記圧縮金型の表面積と同一である
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項1】
対向する第1、第2の金型で半導体チップが搭載された被成形品をクランプし、前記金型内に充填した樹脂を用いて前記被成形品を封止する樹脂封止金型であって、
前記第1、第2の金型の少なくとも一方には、前記金型内に充填される前記樹脂の前記金型の対向方向の厚みよりも前記金型の表面に近い位置に、第1のヒータが配置されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のヒータが、相手金型側表面に露出している
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1のヒータの相手金型側には保護層が形成されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項4】
請求項3において、
前記保護層の対向方向の厚みが、前記金型内に充填される前記樹脂の対向方向の厚みの0.1〜1倍である
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記第1のヒータの反相手金型側に、断熱層が形成されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項6】
請求項5において、
前記断熱層の対向方向の厚みが、前記金型内に充填される前記樹脂の対向方向の厚みの1〜10倍である
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて
前記第1のヒータが配置されている金型の内部に、第2のヒータが埋設されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記第1、第2の金型の少なくとも一方が、貫通孔を有する枠状金型と、該貫通孔に嵌合して相手金型側に摺動可能な圧縮金型とからなり、
前記第1のヒータが、前記圧縮金型に配置されている
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【請求項9】
請求項8において、
前記第1のヒータが配置される面積が、前記圧縮金型の表面積と同一である
ことを特徴とする樹脂封止金型。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−256925(P2012−256925A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−178960(P2012−178960)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【分割の表示】特願2007−276539(P2007−276539)の分割
【原出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【分割の表示】特願2007−276539(P2007−276539)の分割
【原出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
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