説明

樹脂組成物、樹脂ワニス、プリプレグ、金属張積層板、及びプリント配線板

【課題】硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】分子中にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物と、分子中にリン原子を含むフェノール樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物を用いる。また、前記樹脂組成物において、前記ベンゾオキサジン化合物及び前記フェノール樹脂の合計含有量が、前記ベンゾオキサジン化合物と前記フェノール樹脂とを含む熱硬化性化合物100質量部に対して、70〜100質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の絶縁材料等に好適に用いられる樹脂組成物、前記樹脂組成物を含有する樹脂ワニス、前記樹脂ワニスを用いて得られたプリプレグ、前記プリプレグを用いて得られた金属張積層板、及び前記プリプレグを用いて製造されたプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器は、情報処理量の増大に伴い、搭載される半導体デバイス等の電子部品の高集積化、配線の高密度化、及び多層化等の実装技術が急速に進展している。各種電子機器に用いられるプリント配線板の基板等の絶縁材料には、回路間の絶縁を確保するために、絶縁性が高いことが求められる。すなわち、電子部品の高集積化や配線の高密度化されたプリント配線板において、回路間の絶縁を確保するためには、プリント配線板の基板を構成する絶縁材料には、電気絶縁性が高いことが求められる。電気絶縁性に優れている樹脂としては、例えば、フェノール樹脂等が挙げられる。このことから、フェノール樹脂は、電子部品の高集積化や配線の高密度化されたプリント配線板等の絶縁材料に好ましく用いられる。
【0003】
また、プリント配線板等の絶縁材料としては、高温等の環境下においても、搭載した半導体デバイス等の電子部品を好適に支持することができるように、耐熱性や難燃性等に優れていることも求められる。このことから、プリント配線板等の絶縁材料として用いられる樹脂組成物には、一般的に、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等のハロゲン含有エポキシ樹脂等のハロゲンを含有する化合物、及び鉛を含む難燃剤等が配合されていることが多かった。しかしながら、このようなハロゲンや鉛を含有する樹脂組成物の硬化物は、燃焼時にハロゲン化水素等の有害物質を生成するおそれ等があり、人体や自然環境に対し悪影響を及ぼすという欠点を有している。このような背景のもと、プリント配線板等の絶縁材料としても、ハロゲンや鉛を含まない、いわゆるハロゲンフリー化や鉛フリー化が求められている。
【0004】
そこで、ハロゲンフリー化を目的とした樹脂組成物としては、具体的には、例えば、特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、難燃性付与のためのハロゲン元素を実質的に含まず、ハロゲン非含有エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂、リン化合物、無機充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−302879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によれば、シート状の有機繊維基材に保持させて絶縁層を構成したときに、ハロゲン元素を実質的に含まずに良好な難燃性を付与できることが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物を用いた場合、耐熱性等が充分に高いものではなかった。このことは、難燃性を高める等のために、フェノール樹脂以外の成分、例えば、リン化合物や無機充填材を含有していることによると考えられる。具体的には、エポキシ樹脂等の他の成分に反応しないリン化合物を添加すると、Tgが低下すると考えられる。また、エポキシ樹脂等の他の成分に反応しないリン化合物として、一般的なリン酸エステル型難燃剤を用いた場合、この難燃剤の加水分解性が高いため、得られた樹脂組成物を用いた場合の絶縁信頼性が低下するおそれがある。また、水酸化アルミニウム等の無機充填材を添加すると、耐熱性が低下すると考えられる。
【0009】
また、フェノール樹脂と、フェノール樹脂を硬化させるための硬化剤とを単に含む樹脂組成物の場合、その樹脂組成物の硬化物の耐熱性や難燃性等が不充分になる場合がある。このことは、フェノール樹脂の硬化が不充分であったり、フェノール樹脂を単に硬化させた硬化物では難燃性を充分に高めることができないことによると考えられる。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。また、前記樹脂組成物を用いたプリプレグ、前記プリプレグを用いた金属張積層板、及び前記プリプレグを用いて製造されたプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、分子中にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物と、分子中にリン原子を含むフェノール樹脂とを含有することを特徴とするものである。
【0012】
また、前記樹脂組成物において、前記ベンゾオキサジン化合物及び前記フェノール樹脂の合計含有量が、前記ベンゾオキサジン化合物と前記フェノール樹脂とを含む熱硬化性化合物100質量部に対して、70〜100質量部であることが好ましい。
【0013】
また、前記樹脂組成物において、前記ベンゾオキサジン化合物及び前記フェノール樹脂と反応可能なエポキシ化合物をさらに含有することが好ましい。
【0014】
また、前記樹脂組成物において、前記ベンゾオキサジン化合物が、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0015】
【化1】


式(1)中、R及びRは、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基、又はフェニル基を示す。
【0016】
また、前記樹脂組成物において、前記フェノール樹脂に含まれるリン原子の含有量が、前記樹脂組成物100質量部に対して、0.5〜5質量部であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の他の一態様に係る樹脂ワニスは、前記樹脂組成物と溶媒とを含有する樹脂ワニスである。
【0018】
また、本発明の他の一態様に係るプリプレグは、前記樹脂ワニスを繊維質基材に含浸させて得られたことを特徴とするプリプレグである。
【0019】
また、本発明の他の一態様に係る金属張積層板は、前記プリプレグに金属箔を積層して、加熱加圧成形して得られたことを特徴とする金属張積層板である。
【0020】
また、本発明の他の一態様に係るプリント配線板は、前記プリプレグを用いて製造されたことを特徴とするプリント配線板である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた樹脂組成物を提供することができる。また、前記樹脂組成物を用いたプリプレグ、前記プリプレグを用いた金属張積層板、及び前記プリプレグを用いて製造されたプリント配線板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係る樹脂組成物は、分子中にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物と、分子中にリン原子を含むフェノール樹脂とを含有するものである。
【0023】
このような樹脂組成物は、その硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた樹脂組成物である。
【0024】
このことは、以下のことによると考えられる。
【0025】
まず、電気絶縁性に優れたフェノール樹脂を含有するので、硬化物の電気絶縁性を高めることができると考えられる。また、本実施形態で用いるフェノール樹脂には、分子中に、難燃成分になりうるリン原子を含むので、難燃性を高めることができると考えられる。また、本実施形態で用いるフェノール樹脂には、分子中にリン原子を含むので、ベンゾオキサジン化合物と反応しないリン化合物を別途添加すると発生しうるTgの低下等を抑制することができる。また、一般的なリン酸エステル型難燃剤を用いた場合に発生しうる、絶縁信頼性の低下の発生も抑制することができる。
【0026】
また、分子中にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物を用いて、フェノール樹脂を硬化させると、フェノール樹脂とベンゾオキサジン化合物とを硬化反応させることにより、好適な架橋が形成され、硬化物の耐熱性を高めることができると考えられる。これらのことから、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた樹脂組成物になると考えられる。
【0027】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の各成分について説明する。
【0028】
本実施形態で用いるベンゾオキサジン化合物は、分子中にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物であれば、特に限定されない。すなわち、分子中に、ベンゾオキサジン環を有し、さらに、にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物(フェノールフタレイン型ベンゾオキサジン化合物)であればよい。具体的には、例えば、式(1)で表される化合物が好ましい。
【0029】
式(1)中、R及びRは、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基、又はフェニル基を示し、R及びRは、ともにフェニル基であることが好ましい。
【0030】
ベンゾオキサジン化合物として、このような式(1)で表される化合物を用いることによって、硬化物の耐熱性をより高めることができる。
【0031】
本実施形態で用いるフェノール樹脂は、分子中にリン原子を含むフェノール樹脂であれば、特に限定されない。例えば、フェノール樹脂を、有機リン化合物で変性したもの等が挙げられる。ここで、有機リン化合物は、フェノール樹脂と反応して、分子中にリン原子を含むフェノール樹脂を合成できるものであれば、特に限定されない。例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスフォフェナントレン−10−オキシド(DOPO)等が挙げられる。また、分子中にリン原子を含むフェノール樹脂としては、フェノール樹脂を、DOPOを用いて変性したもの(DOPO変性フェノール樹脂)等が挙げられる。
【0032】
また、本実施形態で用いるフェノール樹脂は、そのフェノール樹脂中のリン濃度が、0.5〜5質量%であるフェノール樹脂が好ましく、0.5〜4質量%であるフェノール樹脂がより好ましく、0.5〜3質量%であるフェノール樹脂がさらに好ましい。リン濃度が、このような範囲内のフェノール樹脂を用いることによって、得られた樹脂組成物が、フェノール樹脂の有する優れた電気絶縁性だけではなく、より優れた難燃性をも発揮できる。
【0033】
また、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂の合計含有量、すなわち、ベンゾオキサジン化合物の含有量とフェノール樹脂の含有量との合計が、ベンゾオキサジン化合物とフェノール樹脂とを含む熱硬化性化合物100質量部に対して、70〜100質量部であることが好ましく、75〜100質量部であることがより好ましく、80〜100質量部であることがより好ましい。この含有量が低すぎると、フェノール樹脂の有する優れた電気絶縁性を充分に発揮できず、さらに、耐熱性及び難燃性を充分に高めることができない傾向がある。このことから、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂の含有量が、このような範囲内であれば、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた樹脂組成物になる。なお、本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、分子中にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物及び分子中にリン原子を含むフェノール樹脂を含んでいればよく、エポキシ化合物等の、他の熱硬化性化合物を含んでいてもよい。すなわち、本実施形態に係る樹脂組成物は、熱硬化性化合物として、分子中にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物と分子中にリン原子を含むフェノール樹脂とからなるものを用いたものであってもよいし、これらに、他の熱硬化性化合物を含む熱硬化性化合物を用いたものであってもよい。
【0034】
また、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂の各含有量は、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂の含有量が、上記範囲内であればよいが、以下の範囲であることが好ましい。ベンゾオキサジン化合物の含有量が、ベンゾオキサジン化合物とフェノール樹脂とを含む熱硬化性化合物100質量部に対して、40〜95質量部であることが好ましく、45〜90質量部であることがより好ましく、50〜90質量部であることがさらに好ましい。また、フェノール樹脂の含有量が、ベンゾオキサジン化合物とフェノール樹脂とを含む熱硬化性化合物100質量部に対して、5〜60質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがより好ましく、10〜40質量部であることがさらに好ましい。また、ベンゾオキサジン化合物とフェノール樹脂との含有比は、質量比で、9.5:0.5〜4:6であることが好ましく、9:1〜5:5であることがより好ましく、8:2〜6:4であることがさらに好ましい。
【0035】
また、フェノール樹脂に含まれるリン原子の含有量が、前記樹脂組成物100質量部に対して、0.5〜5質量部であることが好ましく、0.5〜4質量部であればより好ましく、0.5〜3質量部であればさらに好ましい。樹脂組成物中の、フェノール樹脂由来のリン原子の含有割合が、このような範囲であれば、優れた、電気絶縁性及び耐熱性を維持しつつ、難燃性を充分に高めることができる。また、本実施形態に係る樹脂組成物中に、フェノール樹脂に含まれるリン原子以外のリン原子を含む場合であっても、リン原子の含有量が、前記樹脂組成物100質量部に対して、0.5〜5質量部であることが好ましく、0.5〜4質量部であればより好ましく、0.5〜3質量部であればさらに好ましい。
【0036】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂の含有量が、このような範囲内であればよく、ベンゾオキサジン化合物とフェノール樹脂とからなる樹脂組成物であっても、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂以外の成分を含む樹脂組成物であってもよい。また、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂以外の成分とは、上述した、他の熱硬化性化合物であってもよいし、無機充填材、難燃剤、及び添加剤等であってもよい。
【0037】
他の熱硬化性化合物は、ベンゾオキサジン化合物とフェノール樹脂との硬化反応を阻害するものでなでなれば、特に限定されない。具体的には、例えば、エポキシ樹脂等のエポキシ化合物等が挙げられる。また、他の熱硬化性化合物としては、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂と反応可能なエポキシ化合物であることが好ましい。そうすることによって、硬化物の耐熱性のより高いものが得られる。このことは、ベンゾオキサジン化合物とフェノール樹脂との硬化反応だけではなく、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂とエポキシ化合物との硬化反応も作用することによると考えられる。
【0038】
また、他の熱硬化性化合物、例えば、エポキシ化合物の含有量は、含有していなくてもよいが、含有するのであれば、樹脂組成物100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましい。すなわち、樹脂組成物100質量部に対して、0〜30質量部であることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、無機充填材を含有してもよい。無機充填材は、樹脂組成物の硬化物の、耐熱性や難燃性を高めるために添加するもの等が挙げられ、特に限定されない。無機充填材を含有させることによって、耐熱性や難燃性等を高めることができる。また、無機充填材を含有させることによって、誘電特性及び硬化物の耐熱性や難燃性に優れ、ワニス状にしたときの粘度が低いまま、硬化物の熱膨張係数、特に、ガラス転移温度を超えた温度での熱膨張係数α2の低減、及び硬化物の強靭化を図ることができる。無機充填材としては、具体的には、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、マイカ、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。また、無機充填材としては、そのまま用いてもよいが、エポキシシランタイプ、又はアミノシランタイプのシランカップリング剤で表面処理されたものが、特に好ましい。このようなシランカップリング剤で表面処理された無機充填材が配合された樹脂組成物を用いて得られる金属張積層板は、吸湿時における耐熱性が高く、また、層間ピール強度も高くなる傾向がある。
【0040】
また、本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、難燃剤を含有してもよい。そうすることによって、樹脂組成物の硬化物の難燃性をさらに高めることができる。難燃剤としては、特に限定されない。具体的には、例えば、リン系難燃剤やハロゲン系難燃剤等が挙げられる。リン系難燃剤の具体例としては、例えば、縮合リン酸エステル、環状リン酸エステル等のリン酸エステル、環状ホスファゼン化合物等のホスファゼン化合物、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩等のホスフィン酸金属塩等のホスフィン酸塩系難燃剤、リン酸メラミン、及びポリリン酸メラミン等のメラミン系難燃剤等が挙げられる。また、ハロゲン系難燃剤としては、臭素系難燃剤等が挙げられる。また、ハロゲンフリーの観点から、リン系難燃剤が好ましく用いられる。難燃剤としては、例示した各難燃剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
また、本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、及びアクリル酸エステル系消泡剤等の消泡剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤、湿潤分散剤等の分散剤等が挙げられる。
【0042】
本実施形態に係る樹脂組成物は、プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材(繊維質基材)に含浸する目的でワニス状に調製して用いられることが多い。すなわち、本実施形態に係る樹脂組成物は、通常、ワニス状に調製されたもの(樹脂ワニス)であることが多い。このような樹脂ワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
【0043】
まず、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂等の、有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて用いられ、有機溶媒に溶解しない成分、例えば、無機充填材等を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
【0044】
得られた樹脂ワニスを用いてプリプレグを製造する方法としては、例えば、得られた樹脂ワニスを繊維質基材に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。
【0045】
プリプレグを製造する際に用いられる繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙等が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。偏平処理加工としては、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮することにより行うことができる。なお、繊維質基材の厚みとしては、例えば、0.04〜0.3mmのものを一般的に使用できる。
【0046】
樹脂ワニスの繊維質基材への含浸は、浸漬及び塗布等によって行われる。この含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂ワニスを用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【0047】
樹脂ワニスが含浸された繊維質基材は、所望の加熱条件、例えば、80〜170℃で1〜10分間加熱されることにより半硬化状態(Bステージ)のプリプレグが得られる。
【0048】
このようにして得られたプリプレグを用いて金属張積層板を作製する方法としては、プリプレグを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔を重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層体を作製することができるものである。加熱加圧条件は、製造する積層板の厚みやプリプレグの樹脂組成物の種類等により適宜設定することができるが、例えば、温度を170〜210℃、圧力を1.5〜4.0MPa、時間を60〜150分間とすることができる。
【0049】
本実施形態に係る樹脂組成物は、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた樹脂組成物である。このため、前記樹脂組成物を用いて得られたプリプレグを用いた金属張積層板は、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性が優れたプリント配線板を製造することができる。
【0050】
そして、作製された積層体の表面の金属箔をエッチング加工等して回路形成をすることによって、積層体の表面に回路として導体パターンを設けたプリント配線板を得ることができるものである。このように得られるプリント配線板は、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れたものである。
【0051】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
<実施例1〜11、比較例1〜5>
[樹脂組成物の調製]
本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる各成分について説明する。
【0053】
(ベンゾオキサジン化合物)
フェノールフタレイン型ベンゾオキサジン化合物:式(1)で表され、R及びRは、ともにフェニル基である化合物(ハンツマン社製)
ビスフェノールF型ベンゾオキサジン化合物:式(2)で表される化合物(ハンツマン社製)
【0054】
【化2】


DDM型ベンゾオキサジン化合物:式(3)で表される化合物(四国化成工業株式会社製)
【0055】
【化3】


(フェノール樹脂)
リン含有フェノール樹脂1:分子中にリン原子を含むフェノール樹脂(DIC株式会社製のEXB9000typeA、リン濃度4.5質量%)
リン含有フェノール樹脂2:分子中にリン原子を含むフェノール樹脂(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスフォフェナントレン−10−オキシド(DOPO)を用いて変性したフェノール樹脂(DOPO変性フェノール樹脂)、リン濃度10.2質量%)
リン不含有フェノール樹脂:分子中にリン原子を含まないフェノール樹脂(DIC株式会社製のTD−2090)
(熱硬化性化合物)
エポキシ樹脂:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製のエピクロンN690)
(難燃剤)
難燃剤:芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製のPX200)
[調製方法]
まず、各成分を表1及び表2に記載の配合割合で、固形分濃度が60質量%となるように、メチルエチルケトン(MEK)に添加し、混合させた。その混合物を、80℃になるまで加熱し、80℃のままで30分間攪拌することによって、ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)が得られた。
【0056】
次に、得られた樹脂ワニスをガラスクロス(日東紡績株式会社製の♯2116タイプ、WEA116E、Eガラス)に含浸させた後、150℃で約3〜8分間加熱乾燥することによりプリプレグを得た。その際、ベンゾオキサジン化合物、及びフェノール樹脂等の樹脂成分の含有量(レジンコンテント)が約50質量%となるように調整した。
【0057】
そして、得られた各プリプレグを所定枚数重ねて積層し、温度200℃、2時間、圧力3MPaの条件で加熱加圧することにより、所定の厚みの評価基板を得た。
【0058】
具体的には、例えば、得られた各プリプレグを6枚重ねて積層することによって、厚み約0.8mmの評価基板を得た。
【0059】
上記のように調製された各プリプレグ及び評価基板を、以下に示す方法により評価を行った。
【0060】
[ガラス転移温度(Tg)]
セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータ「DMS100」を用いて、プリプレグのTgを測定した。このとき、曲げモジュールで周波数を10Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から280℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。
【0061】
[半田耐熱性]
半田耐熱性は、JIS C 6481に準拠の方法で測定した。具体的には、評価基板を、121℃、2気圧(0.2MPa)、2時間のプレッシャークッカーテスト(PCT)を行い、各サンプルで行い、サンプル数5個で、260℃の半田槽中に20秒間浸漬し、ミーズリングや膨れ等の発生の有無を目視で観察した。ミーズリングや膨れ等の発生が確認できなければ、「○」と評価し、発生が確認できれば、「×」と評価した。また、別途、260℃の半田槽の代わりに、288℃の半田槽を用いて、同様の評価を行った。
【0062】
[難燃性]
評価基板から、長さ125mm、幅12.5mmのテストピースを切り出した。そして、このテストピースについてUnderwriters Laboratoriesの”Test for Flammability of Plastic Materials−UL 94”に準じて行い、評価した。
【0063】
上記各評価における結果は、表1及び表2に示す。
【0064】
[絶縁信頼性]
まず、評価基板に、直径300μmのスルーホールの壁間間隔が300μmとなるようなスルーホール対を、50対形成させた。その際、スルーホール対は、対をなす方向に垂直な方向に、それぞれのスルーホール対が離間して並ぶように50対形成させた。
【0065】
次に、厚さ25μmのスルーホールめっきを施した。そして、スルーホール対を構成する一方のスルーホールがそれぞれ電気的に連結されるように第1電気回路を形成し、他方のスルーホールがそれぞれ電気的に連結されるように第2電気回路を形成した。その際、前記第1電気回路と前記第2電気回路とは、電気的に連結されないように形成させた。
【0066】
そして、各電気回路に電線を半田付けして、電線を介して電気回路を電源に接続し、121℃、85%RHの恒温恒湿槽内で、スルーホールの壁間に、50Vの直流電圧を300時間連続して印加した。その際、絶縁抵抗値を測定することによって、スルーホールの壁間に短絡が発生したか否かを判断した。短絡が発生していなければ、「○」と評価し、短絡が発生していれば、「×」と評価した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】


表1及び表2からわかるように、フェノールフタレイン型ベンゾオキサジン化合物と、リン含有フェノール樹脂とを含有する樹脂組成物を用いた場合(実施例1〜11)は、フェノールフタレイン型ベンゾオキサジン化合物及びリン含有フェノール樹脂のいずれかを含まない樹脂組成物を用いた場合(比較例1〜5)と比較して、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた硬化物が得られる。よって、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた金属張積層板やプリント配線板が得られる。
【0069】
また、実施例1と実施例2〜4との比較によって、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂と反応可能なエポキシ化合物として、上記エポキシ樹脂をさらに含有することによって、硬化物の耐熱性のより高い樹脂組成物が得られることがわかる。
【0070】
また、実施例2〜4と実施例5との比較によって、熱硬化性化合物100質量部に対する、ベンゾオキサジン化合物及びフェノール樹脂の合計含有量が70質量部以上であることが、Tgが高い点から好ましいことがわかる。
【0071】
また、実施例8と実施例7〜10との比較によって、樹脂組成物100質量部に対するリンの含有量が、0.5質量部以上であることが、難燃性の点で好ましいことがわかる。また、実施例10と実施例11との比較によって、樹脂組成物100質量部に対するリンの含有量が、5質量部以下であることが、Tgが高い点から好ましいことがわかる。さらに、実施例9と実施例10との比較によって、樹脂組成物100質量部に対するリンの含有量が、4質量部以下であることが、Tgが高い点だけでなく、耐熱性が高い点からより好ましいことがわかる。
【0072】
本明細書は、上述したように、様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0073】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、分子中にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物と、分子中にリン原子を含むフェノール樹脂とを含有することを特徴とするものである。
【0074】
このような構成によれば、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【0075】
また、前記樹脂組成物において、前記ベンゾオキサジン化合物及び前記フェノール樹脂の合計含有量が、前記ベンゾオキサジン化合物と前記フェノール樹脂とを含む熱硬化性化合物100質量部に対して、70〜100質量部であることが好ましい。
【0076】
このような構成によれば、硬化物の耐熱性のより高めることができ、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性により優れた樹脂組成物が得られる。
【0077】
また、前記樹脂組成物において、前記ベンゾオキサジン化合物及び前記フェノール樹脂と反応可能なエポキシ化合物をさらに含有することが好ましい。
【0078】
このような構成によれば、硬化物の耐熱性のより高めることができ、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性により優れた樹脂組成物が得られる。
【0079】
また、前記樹脂組成物において、前記ベンゾオキサジン化合物が、式(1)で表される化合物であることが好ましい。なお、式(1)中、R及びRは、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基、又はフェニル基を示す。
【0080】
このような構成によれば、硬化物の耐熱性のより高めることができ、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性により優れた樹脂組成物が得られる。
【0081】
また、前記樹脂組成物において、前記フェノール樹脂に含まれるリン原子の含有量が、前記樹脂組成物100質量部に対して、0.5〜5質量部であることが好ましい。
【0082】
このような構成によれば、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性により優れた樹脂組成物が得られる。
【0083】
また、本発明の他の一態様に係る樹脂ワニスは、前記樹脂組成物と溶媒とを含有する樹脂ワニスである。
【0084】
このような構成によれば、硬化物の、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた樹脂ワニスが得られる。
【0085】
また、本発明の他の一態様に係るプリプレグは、前記樹脂ワニスを繊維質基材に含浸させて得られたことを特徴とするプリプレグである。
【0086】
このような構成によれば、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた金属張積層板やプリント配線板を製造するのに好適なプリプレグが得られる。
【0087】
また、本発明の他の一態様に係る金属張積層板は、前記プリプレグに金属箔を積層して、加熱加圧成形して得られたことを特徴とする金属張積層板である。
【0088】
このような構成によれば、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れた金属張積層板が得られる。また、得られた金属張積層板は、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れたプリント配線板を好適に製造することができる。
【0089】
また、本発明の他の一態様に係るプリント配線板は、前記プリプレグを用いて製造されたことを特徴とするプリント配線板である。
【0090】
このような構成によれば、電気絶縁性、耐熱性、及び難燃性に優れたプリント配線板が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にフェノールフタレイン構造を有するベンゾオキサジン化合物と、
分子中にリン原子を含むフェノール樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ベンゾオキサジン化合物及び前記フェノール樹脂の合計含有量が、前記ベンゾオキサジン化合物と前記フェノール樹脂とを含む熱硬化性化合物100質量部に対して、70〜100質量部である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ベンゾオキサジン化合物及び前記フェノール樹脂と反応可能なエポキシ化合物をさらに含有する請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ベンゾオキサジン化合物が、下記式(1)で表される化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化1】


(式(1)中、R及びRは、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基、又はフェニル基を示す。)
【請求項5】
前記フェノール樹脂に含まれるリン原子の含有量が、前記樹脂組成物100質量部に対して、0.5〜5質量部である請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物と溶媒とを含有する樹脂ワニス。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂ワニスを繊維質基材に含浸させて得られたことを特徴とするプリプレグ。
【請求項8】
請求項7に記載のプリプレグに金属箔を積層して、加熱加圧成形して得られたことを特徴とする金属張積層板。
【請求項9】
請求項7に記載のプリプレグを用いて製造されたことを特徴とするプリント配線板。

【公開番号】特開2013−87236(P2013−87236A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230512(P2011−230512)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】