説明

樹脂組成物、樹脂成形体、筐体及び樹脂成形体の製造方法

【課題】 リサイクル材を含む場合であっても、難燃性、機械的特性及び熱的特性に優れる樹脂組成物を提供すること
【解決手段】 上記課題を解決する樹脂組成物は、(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、(B)当該(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂と、(C)リン系難燃剤とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂成形体、筐体及び樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
事務機器分野、電気・電子機器分野、自動車分野などの分野では、樹脂成形体が広く使用されている。特に近年は、耐衝撃強度などの機械的特性に優れたポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂とのアロイ樹脂(以下、「PC/ABSアロイ」という場合もある)やポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂(以下、「PC/PSアロイ」という場合もある)などのポリカーボネート系樹脂を配合した樹脂組成物からなる樹脂成形体が、事務機器、電子電気機器の筐体などの部品に多く使用されるようになっている。
【0003】
また、事務機器、家電製品の成形品には高度の難燃性が要求されることから、樹脂成形体には、通常、難燃性を付与するための難燃剤が配合される。最近では、加工時の腐食や燃焼時の有毒ガスの発生を避けるために非ハロゲン系難燃剤としてリン系難燃剤の開発が盛んになされている。また、樹脂成形体の耐熱性、耐衝撃性及び難燃性を満足させる目的で、例えば、芳香族ポリカーボネート及びスチレン系樹脂を含む樹脂組成物に特定のリン化合物を含有させる技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
一方、資源の再利用、環境保護の観点から、特にコンピューター、プリンタ、複写機などの事務機器の分野では、市場から回収された製品を再利用するリサイクルへの要請が一層高まっている。しかし、事務機器の筐体などに使用される樹脂成形体には、衝撃強度などの機械的特性や耐熱性などの熱的特性において高度な要求がある。そのため、リサイクルされた材料(以下、「リサイクル材」という場合もある。)を用いた樹脂成形体であっても上記の特性を満足させることが、リサイクル材の利用率向上の鍵となる。
【0005】
また、樹脂成形体の製造においては、各部品に対応した金型を用いて樹脂組成物を成形するが、新品の材料のみを用いる場合とリサイクル材を含む場合とで同様の金型を使用できることが製造コストの点で望ましい。そのため、リサイクル材を含む樹脂組成物には熱収縮が小さいなどの熱的特性に優れていることが求められる。
【0006】
【特許文献1】特許3432069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リサイクル材を含む場合であっても、難燃性、機械的特性及び熱的特性に優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような樹脂組成物からなる樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法並びに筐体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、(B)当該(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂と、(C)リン系難燃剤と、を含む樹脂組成物を提供する。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂とのアロイ樹脂及び/又は(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂と、リン系難燃剤とを含んでなる樹脂成形体のリサイクル材が含まれる樹脂組成物を提供する。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、(B)当該(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂と、(C)リン系難燃剤と、を含む樹脂成形体を提供する。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、(B)当該(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂と、(C)リン系難燃剤と、を含む樹脂組成物、を成形する工程を備える樹脂成形体の製造方法を提供する。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、樹脂組成物が、(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂とのアロイ樹脂及び/又は(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂並びにリン系難燃剤、を含んでなる樹脂成形体のリサイクル材を含むことを特徴とする樹脂成形体の製造方法を提供する。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、樹脂組成物が、リサイクル材を樹脂組成物全量基準で1質量%以上50質量%以下含むことを特徴とする樹脂成形体の製造方法を提供する。
【0014】
また、請求項7に記載の本発明は、請求項3に記載の樹脂成形体が一部又は全部に用いられたことを特徴とする筐体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明は、リサイクル材を含む場合であっても、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイを含む樹脂組成物に比べて機械的特性に優れ、且つ、難燃性及び熱的特性が十分であるという効果を有する。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、リサイクル材を含有しつつ、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイを含む樹脂組成物に比べて機械的特性に優れ、且つ、難燃性及び熱的特性が十分であるという効果を有する。また、請求項2に記載の発明は、本構成を有していないポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に比べて、耐溶剤性及び熱的特性に優れるという効果を有する。請求項2に記載の発明が有する耐溶剤性に優れる効果は、ポリカーボネート系樹脂が化学的な刺激に対して弱く、割れが発生しやすいこと、及び、シリコーンは溶剤を吸収する性質があり割れの発生する確率が更に高まる虞があることを鑑みると、予想外の効果であるといえる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、リサイクル材を含む場合であっても、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイを含んでなる樹脂成形体に比べて機械的特性に優れ、且つ、難燃性及び熱的特性が十分であるという効果を有する。更に、請求項3に記載の発明において、請求項2に記載の樹脂組成物を用いる場合は、リサイクル材を含有しつつ、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイを含んでなる樹脂成形体に比べて機械的特性に優れ、且つ、難燃性及び熱的特性が十分であるという効果、並びに、本構成を有していないポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂を含んでなる樹脂成形体に比べて、耐溶剤性及び熱的特性に優れるという効果を有する。
【0018】
また、請求項4に記載の発明は、リサイクル材を用いる場合であっても、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイを用いて樹脂成形体を製造する方法に比べて、機械的特性に優れ、且つ、難燃性及び熱的特性が十分である樹脂成形体が得られるという効果を有する。
【0019】
また、請求項5に記載の発明は、リサイクル材を用いつつ、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイを用いて樹脂成形体を製造する方法に比べて、機械的特性に優れ、且つ、難燃性及び熱的特性が十分である樹脂成形体が得られるという効果を有する。また、請求項5に記載の発明は、本構成を有していないポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて樹脂成形体を製造する方法に比べて、耐溶剤性及び熱的特性に優れるという効果を有する。請求項5に記載の発明が有する耐溶剤性に優れる効果は、ポリカーボネート系樹脂が化学的な刺激に対して弱く、割れが発生しやすいこと、及び、シリコーンは溶剤を吸収する性質があり割れの発生する確率が更に高まる虞があることを鑑みると、予想外の効果であるといえる。
【0020】
また、請求項6に記載の発明は、リサイクル材を高い含有率(1質量%以上)で用いつつ、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイを用いて樹脂成形体を製造する方法に比べて、機械的特性に優れ、且つ、難燃性及び熱的特性が十分である樹脂成形体が得られるという効果、並びに、本構成を有していないポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて樹脂成形体を製造する方法に比べて、耐溶剤性及び熱的特性に優れるという効果を有する。
【0021】
また、請求項7に記載の発明は、リサイクル材を含む場合であっても、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイからなる筐体に比べて機械的特性に優れ、且つ、難燃性及び熱的特性が十分であるという効果を有する。更に、請求項7に記載の発明において、請求項2に記載の樹脂組成物からなる樹脂成形体が用いられる場合は、リサイクル材を含有しつつ、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイを含んでなる筐体に比べて機械的特性に優れ、且つ、難燃性及び熱的特性が十分であるという効果、並びに、本構成を有していないポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂を含んでなる筐体に比べて、耐溶剤性に優れ、且つ熱的特性に優れるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の樹脂組成物、樹脂成形体、樹脂成形体の製造方法及び筐体の好適な実施形態を説明する。
【0023】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、(B)当該(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂と、(C)リン系難燃剤とを含む。
【0024】
(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート部とポリオルガノシロキサン部からなるものであり、例えば、ポリカーボネートオリゴマーとポリオルガノシロキサン部を構成する末端に反応性基を有するポリオルガノシロキサンとを、塩化メチレン等の溶媒に溶解させ、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を加え、トリエチルアミン等の触媒を用い、界面重縮合反応することにより製造することができる。ポリカーボネート部については、後述する(B)成分としての芳香族ポリカーボネート樹脂を得る場合と同様にして調製することができる。また、ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば、特開平3−292359号公報、特開平4−202465号公報、特開平8−81620号公報、特開平8−302178号公報及び特開平10−7897号公報等に開示のものが使用できる。
【0025】
また、商業的に入手可能なポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂としては、例えば、「FC1700」(出光石油化学社製、商品名)などが挙げられる。
【0026】
本実施形態で用いられるポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂において、ポリオルガノシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等が好ましく、ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0027】
ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂のポリカーボネート部の重合度は、3以上100以下、ポリオルガノシロキサン部の重合度は2以上500以下程度のものが好ましく用いられる。また、ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂のポリオルガノシロキサンの含有量としては、通常0.1質量%以上2質量%以下、好ましくは0.3質量%以上1.5質量%以下の範囲である。
【0028】
本実施形態に用いられるポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常5,000以上100,000以下、好ましくは10,000以上30,000以下、特に好ましくは12,000以上30,000以下である。この粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式にて算出するものを意味する。
[η]=1.23×10−5Mv0.83
【0029】
本実施形態の樹脂組成物における(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量は、流動性の点で、樹脂組成物全量基準で1質量%以上80質量%以下が好ましく、3質量%以上75質量%以下がより好ましく、5質量%以上70質量%以下がさらにより好ましい。
【0030】
(B)(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂としては、特に制限はなく種々のものを挙げることができる。通常、二価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネートを用いることができる。二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法、すなわち、二価フェノールとホスゲンの反応、二価フェノールとジフェニルカーボネート等とのエステル交換法により反応させて製造されたものを用いることができる。
【0031】
二価フェノールとしては、様々なものを挙げることができるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル及びビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等を挙げることができる。
【0032】
特に、好ましい二価フェノールとしては、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特に、ビスフェノールAを主原料としたものである。
【0033】
カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、又はハロホルメート等であり、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等である。この他、二価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン及びカテコール等を挙げることができる。これらの二価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
なお、ポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α’’−トリス(4−ビドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸及びイサチンビス(o−クレゾール)等がある。また、分子量の調節のためには、フェノール、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール及びp−クミルフェノール等が用いられる。
【0035】
本実施形態の樹脂組成物は、(B)(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂を含んでなる樹脂成形体のリサイクル材、後述する芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂若しくはポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂、又は、このアロイ樹脂を含んでなる樹脂成形体のリサイクル材を含むものであってもよい。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物における(B)(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量は、流動性の点で、樹脂組成物全量基準で1質量%以上80質量%以下が好ましく、3質量%以上75質量%以下がより好ましく、5質量%以上70質量%以下がさらにより好ましい。
【0037】
また、本実施形態の樹脂組成物は、(B)(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂の重合時に二価フェノールの一部をジヒドロキシビフェニルに変えることにより得られるものを含むことが好ましい。
【0038】
ジヒドロキシビフェニルとしては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】



式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜12の置換又は無置換のアリール基及びハロゲン原子から選ばれる基を示す。また、m及びnは1〜4の整数である。
【0039】
具体的には、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジフェニル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル及び2,3,5,6,2’,3’,5’,6’−ヘキサフルオロ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどが挙げられる。これらのジヒドロキシビフェニルは、芳香族ポリカーボネート重合時に二価フェノールと併用して使用されるが、その使用量は、二価フェノールの全量に基づき、通常5モル%以上50モル%以下程度、好ましくは5モル%以上30モル%以下である。ジヒドロキシビフェニルの含有率が5モル%以上であると、難燃性効果が得られやすくなり、また50モル%以下であると、良好な耐衝撃性が得られやすくなる。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物における上記の二価フェノールの一部にジヒドロキシビフェニルを用いた芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量は、流動性の点で、樹脂組成物中の(B)(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対して1質量部以上80質量部以下が好ましく、5質量部以上70質量部以下がより好ましい。
【0041】
本実施形態に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂(ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂及びそれ以外の芳香族ポリカーボネート樹脂)は、分子末端が炭素数10〜35のアルキル基を有するものも用いることができる。
【0042】
ここで分子末端が炭素数10〜35のアルキル基を有するポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂の製造において、末端停止剤として、炭素数10〜35のアルキル基を有するアルキルフェノールを用いることにより得ることができる。これらのアルキルフェノールとしては、デシルフェノール、ウンデシルフェノール、ドデシルフェノール、トリデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ペンタデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、ヘプタデシルフェノール、オクタデシルフェノール、ノナデシルフェノール、イコシルフェノール、ドコシルフェノール、テトラコシルフェノール、ヘキサコシルフェノール、オクタコシルフェノール、トリアコンチルフェノール、ドトリアコンチルフェノール及びペンタトリアコンチルフェノール等が挙げられる。これらのアルキルフェノールのアルキル基は、水酸基に対して、o−、m−、p−のいずれの位置であってもよいが、p−の位置が好ましい。アルキル基は、直鎖状、分岐状又はこれらの混合物であってもよい。この置換基としては、少なくとも1個が前記の炭素数10〜35のアルキル基であればよく、他の4個は特に制限はなく、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜20アリール基、ハロゲン原子又は無置換であってもよい。
【0043】
この分子末端が炭素数10〜35のアルキル基を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば、二価フェノールとホスゲン又は炭酸エステル化合物との反応において、分子量を調節するために、これらのアルキルフェノールを末端封止剤として用いることにより得られるものである。
【0044】
例えば、塩化メチレン溶媒中において、トリエチルアミン触媒、上記炭素数が10〜35のアルキル基を有するフェノールの存在下、二価フェノールとホスゲン、あるいはポリカーボネートオリゴマーとの反応により得られる。ここで、炭素数が10〜35のアルキル基を有するフェノールは、ポリカーボネート樹脂の片末端又は両末端を封止し、末端が変性される。この場合の末端変性は、全末端に対して20%以上、好ましくは50%以上とされる。すなわち、他の末端は、水酸基末端、又は下記の他の末端封止剤を用いて封止された末端である。
【0045】
他の末端封止剤として、ポリカーボネート樹脂の製造で常用されているフェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、p−tert−アミルフェノール、ブロモフェノール及びトリブロモフェノール、ペンタブロモフェノール等を挙げることができる。中でも、環境問題からハロゲンを含まない化合物が好ましい。
【0046】
また、高流動化のためには、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子末端は、炭素数10〜35のアルキル基であるものが好ましい。分子末端が炭素数10以下のアルキル基であると、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性向上効果が得られにくく、一方、分子末端が炭素数36以上のアルキル基では、耐熱性及び耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物における(A)成分と(B)成分との含有割合は、相溶性と流動性の点で、(A)成分100質量部に対して(B)成分が5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0048】
(C)リン系難燃剤としては、例えば、縮合リン酸エステル、トリフェニルフォスフェート(TPP)などが挙げられる。本実施形態においては、金型等の汚染が少ない点で、縮合リン酸エステルを用いることが好ましい。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物における(C)リン系難燃剤の含有量は、樹脂の機械的強度が低下しにくい点で、樹脂組成物全量基準で1質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上25質量%以下がより好ましく、5質量%以上20質量%以下がさらにより好ましい。
【0050】
また、本実施形態の樹脂組成物は、リン系難燃剤とその加水分解物とを含有するものであってもよい。これらの含有割合は、蛍光エックス線の分析によって、リン系難燃剤のりん元素の含有量と、リン系難燃剤の加水分解物のりん元素の含有量とが同じ程度であれば差し支えない。ここでいう「同じ程度」とは、含有量の差がリン系難燃剤のリン元素の含有量を基準として10%以内であることをいう。また、本実施形態の樹脂組成物においては、リン系難燃剤及びその加水分解物が、リン系難燃剤を含む樹脂成形体のリサイクル材から上記の割合で供給されることが好ましい。このような樹脂組成物によれば、リサイクル材の含有率を高くした場合(特には、樹脂組成物全量基準で30質量%以上50質量%以下)であっても、難燃性、機械的強度を高水準で満足する樹脂成形体を得ることができる。
【0051】
本実施形態の樹脂組成物は、スチレン系樹脂を更に含有することが好ましい。スチレン系樹脂としては、スチレン単量体以外に他の単量体として、アクリロニトリル又はメタクリル酸メチルを併用することにより得られるゴム変性スチレン共重合体又はゴム未変性スチレン共重合体が芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性を向上させる点から好ましい。また、樹脂組成物がスチレン系樹脂を更に含有することにより、耐溶剤性及び機械的強度をより向上させることができる。耐溶剤性が向上する理由としては、スチレン系樹脂を上記(A)成分及び(C)成分と組み合わせることで、形成時に粘度の低いスチレン系樹脂が(C)成分とともに流動先端に押し出され、主に金型壁面を流動して成形体表面に出ることで、ある種の保護層が形成されたためと本発明者らは推察する。また、機械的強度が向上する理由としては、流動しやすい材料と、流動しにくい材料と、(C)成分とが存在することで、材料の濃度勾配、いわゆる傾斜が生じ、異種の材料が強固に混合し、中心部に向かうにしたがって強度が増す構造になり、さらには弾性を有するようになったためと本発明者らは推察する。
【0052】
スチレン系樹脂の具体例としては、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体)、MBS樹脂(メタクリ酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、MS樹脂(メタクリ酸メチル−スチレン共重合体)などを挙げることができる。
【0053】
本実施形態の樹脂組成物におけるスチレン系樹脂の含有量は、流動性、耐熱性、耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)をバランスよく向上させる点から、樹脂組成物全量基準で1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0054】
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成形体のリサイクル材を含有することが好ましい。
【0055】
上記樹脂成形体としては、例えば、ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂とのアロイ樹脂(以下、「PC/ABSアロイ」という場合もある)又はポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂(以下、「PC/PSアロイ」という場合もある)を含んでなるものが挙げられる。
【0056】
本実施形態においては、(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂とのアロイ樹脂及び/又は前記(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂、並びに、上述したリン系難燃剤を含んでなる樹脂成形体のリサイクル材を用いることが好ましい。このようなリサイクル材を用いることにより、リサイクル材の含有割合を高めつつ、本構成を有していない従来のPC/ABSアロイやPC/PSアロイを含む樹脂組成物に比べて、機械的特性に優れ、且つ、難燃性が十分であり、熱的特性が十分である(具体的には、成形温度が十分低くなり且つ熱収縮率が十分小さくなる)効果、並びに、本構成を有していないポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に比べて、耐溶剤性に優れ、且つ熱的特性に優れる(具体的には、成形温度がより低くなり、熱収縮率がより小さくなる)という効果が奏される。
【0057】
耐溶剤性が向上する理由としては、上記リサイクル材を上記(A)成分と組み合わせることで、形成時に粘度の低いABS樹脂又はPS樹脂がリン系難燃剤とともに流動先端に押し出され、主に金型壁面を流動して成形体表面に出ることで、ある種の保護層が形成されたためと本発明者らは推察する。また、機械的強度が向上する理由としては、流動しやすい材料と、流動しにくい材料と、リン系難燃剤とが存在することで、材料の濃度勾配、いわゆる傾斜が生じ、異種の材料が強固に混合し、中心部に向かうにしたがって強度が増す構造になり、さらには弾性を有するようになったためと本発明者らは推察する。また、熱的特性が向上する理由としては、上記の構造によって表面の熱伝導性が高まるためと本発明者らは推察する。
【0058】
上記樹脂成形体におけるリン系難燃剤の含有量は、樹脂の衝撃強さが低下しにくい点で、樹脂成形体全量基準で1質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上25質量%以下がより好ましく、5質量%以上20質量%以下がさらにより好ましい。
【0059】
また、本実施形態の樹脂組成物においては、リサイクル材として加水分解が進みすぎた樹脂成形体が含有されると、樹脂の流動性を制御することが困難なため、加水分解による劣化度合いの指標としてのメルトフローインデックス(MI)が4倍以下であるものを用いることが好ましく、2倍以下であるものを用いることがより好ましい。ここで、MIは、ASTM D1238に準拠して、シリンダ温度260℃、荷重2.16kgの条件にて測定した値が用いられる。
【0060】
本実施形態の樹脂組成物における上記リサイクル材の含有量は、リサイクル材を有効利用しつつ、機械的特性、熱的特性、難燃性及び耐溶剤性のすべてを高水準で満足させる観点から、樹脂組成物全量基準で1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上50質量%以下がより好ましく、10質量%以上40質量%以下がさらにより好ましい。
【0061】
本実施形態の樹脂組成物には、剛性や難燃性を向上させるために、必要に応じて無機充填剤を配合することができる。無機充填剤としては、タルク、マイカ、カオリン、ケイソウ土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムなどが用いられる。これら無機充填剤の中でも、その形態が板状であるタルクやマイカが特に好ましい。タルクは、マグネシウムの含水ケイ酸塩であり、一般に市販されているものを用いることができる。また、タルクは、通常、その平均粒径が0.1〜50μm程度であるものが用いられるが、平均粒径0.2〜20μmであるものが特に好適に用いられる。
【0062】
本実施形態の樹脂組成物における無機充填剤の含有量は、樹脂組成物全量を100質量部とすると、通常1質量部以上20質量部以下程度であり、好ましくは2質量部以上15質量部以下である。
【0063】
また、本実施形態の樹脂組成物には、耐衝撃性を向上させる目的で、必要に応じて耐衝撃向上剤を配合することができる。耐衝撃向上剤としては、コア−シェル型のエラストマーが好ましい。コア−シェル型のエラストマーは、コア(芯)とシェル(殻)から構成される二層構造を有しており、コア部分は軟質なゴム状態であって、その表面のシェル部分は硬質な樹脂状態であり、エラストマー自体は粉末状(粒子状態)である弾性体である。このコア−シェル型のエラストマーは、ポリカーボネート樹脂と溶融ブレンドした後も、その粒子状態は、大部分がもとの形態を保っている。配合されたエラストマーの大部分がもとの形態を保っていることにより、均一に分散し表層剥離を起こさない効果が得られる。
【0064】
コア−シェル型のエラストマーとしては、商業的に入手可能なものとして、例えば、「EXL2603」(呉羽化学工業社製、商品名)、「ハイブレンB621」(日本ゼオン社製、商品名)、「KM−330」(ローム&ハース社製、商品名)、「メタブレンW529」、「メタブレンS2001」、「メタブレンC223」、「メタブレンB621」(いずれも三菱レイヨン社製、商品名)、「MR01」、「MR02」(いずれもカネカ社製、商品名)等が挙げられる。
【0065】
本実施形態の樹脂組成物における耐衝撃向上剤の含有量は、樹脂組成物全量を100質量部とすると、通常1質量部以上20質量部以下程度であり、好ましくは2質量部以上15質量部以下である。耐衝撃向上剤の含有量を1質量部以上とすることにより、耐衝撃性の改良効果が得られやすく、20質量部以下とすることにより、難燃性、耐熱性及び剛性を維持することが容易にできる。
【0066】
また、本実施形態の樹脂組成物には、難燃性を更に向上させる目的で、必要に応じて有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一種を配合することができる。有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩としては、例えば、少なくとも一つの炭素原子を有する有機酸又は有機酸エステルのアルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩が挙げられる。有機酸又は有機酸エステルとしては、有機スルホン酸,有機カルボン酸などが挙げられる。一方、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなど、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられ、これらの中で、ナトリウム、カリウムの塩が好ましく用いられる。また、その有機酸の塩は、フッ素、塩素,臭素のようなハロゲンが置換されていてもよい。アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
本実施形態において、有機スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を用いる場合、下記一般式(2)で表されるパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましく用いられる。
(CaF2a+1SOM …(2)
式(2)中、aは1〜10の整数を示し、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアリカリ金属、又は、マグネシウム、カルシウム、ストロナチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属を示し、bはMの原子価を示す。
【0068】
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、特公昭47−40445号公報に記載されているものを用いることができる。
【0069】
上記一般式(2)におけるパーフルオロアルカンスルホン酸としては、例えば、パーフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロメチルブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸などを挙げることができる。特に、これらのカリウム塩が好ましく用いられる。
【0070】
また、上記以外の有機スルホン酸のアルカリ金属塩としては、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸などを用いることができる。
【0071】
また、有機カルボン酸としては、例えば、パーフルオロギ酸、パーフルオロメタンカルボン酸、パーフルオロエタンカルボン酸、パーフルオロプロパンカルボン酸、パーフルオロブタンカルボン酸、パーフルオロメチルブタンカルボン酸、パーフルオロヘキサンカルボン酸、パーフルオロヘプタンカルボン酸、パーフルオロオクタンカルボン酸などを挙げることができ、これら有機カルボン酸のアルカリ金属塩が用いられる。
【0072】
また、本実施形態の樹脂組成物には、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又アルカリ土類金属塩を配合することができ、具体的には、下記一般式(3)で表されるスルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂を配合することができる。
【化2】



式(3)中、Xはスルホン酸塩基、Yは水素又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。cは1〜5の整数である。また、式(3)中、dはモル分率を表し、0<d≦1の関係を満たす。すなわち、スルホン酸塩基(X)は、芳香環に対して、全置換したものであっても、部分置換したものであってもよい。
【0073】
ここで、スルホン酸塩基はスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩であり、金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0074】
難燃性を効果的に向上させるために、スルホン酸塩基の置換比率は、スルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂の含有量等を考慮して決定することが好ましく、一般的には10〜100%置換のものを用いることが好ましい。
【0075】
なお、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又アルカリ土類金属塩としてのスルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂は、上記一般式(3)で表されるポリスチレン樹脂に限定されるものではなく、スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0076】
上記スルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂の製造方法としては、(i)上記のスルホン酸基等を有する芳香族ビニル系単量体、又はこれらと共重合可能な他の単量体とを重合又は共重合する方法、(ii)芳香族ビニル系重合体、又は芳香族ビニル系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体、又はこれらの混合重合体をスルホン化し、アルカリ金属化合物及び/又アルカリ土類金属化合物で中和する方法がある。
【0077】
上記(ii)の方法の具体例としては、ポリスチレン樹脂の1,2−ジクロロエタン溶液に濃硫酸と無水酢酸の混合液を加えて加熱し、数時間反応することにより、ポリスチレンスルホン酸化物を製造し、次いで、スルホン酸基と当モル量の水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムで中和することによりポリスチレンスルホン酸カリウム塩又はナトリウム塩を得る方法が挙げられる。
【0078】
本実施形態で用いるスルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂の重量平均分子量としては、1,000〜300,000が好ましく、2,000〜200,000程度がより好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC法で測定することができる。
【0079】
本実施形態の樹脂組成物における、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の含有量は、樹脂組成物を100質量部とすると、通常0.01質量部以上1質量部以下程度であり、好ましくは0.03質量部以上0.9質量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以上0.8質量部以下である。アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の含有量を上記範囲とすることにより、配合量に見合った難燃性の向上効果が得られる。
【0080】
本実施形態の樹脂組成物には、さらなる難燃性向上のために、必要に応じて反応基含有シリコーン化合物を配合することができる。反応基含有シリコーン化合物は、反応基を有する(ポリ)オルガノシロキサン類であり、その骨格としては、下記一般式(4)で表される基本構造を有する重合体、共重合体である。
SiO(4−e−f)/2 …(4)
式(4)中、Rは反応基を示し、Rは炭素数1〜12の炭化水素基を示し、e及びfは、0<e≦3、0≦f<3及び0<e+f≦3の関係を満たす。
【0081】
上記反応基としては、アルコキシ基、アリールオキシ、ポリオキシアルキレン基、水素基、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、ビニル基などを含有するものである。中でも、アルコキシ基、水素基、水酸基、エポキシ基が好ましく、メトキシ基、ビニル基が特に好ましい。
【0082】
反応基含有シリコーン化合物は、複数の反応基を有するシリコーン化合物、異なる反応基を有するシリコーン化合物を併用することもできる。この反応基含有シリコーン化合物は、その反応基(R)/炭化水素基(R)が、通常0.1〜3、好ましくは0.3〜2程度のものである。これらシリコーン化合物は液状物、ハウダーなどであるが、溶融混練において分散性の良好なものが好ましい。例えば、室温での動粘度が10〜500,000mm/s程度の液状のものを例示できる。
【0083】
本実施形態の樹脂組成物における、反応基含有シリコーン化合物の含有量は、樹脂組成物全量を100質量部とすると、通常1質量部以上30質量部以下程度であり、好ましくは3質量部以上25質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上20質量部以下である。反応基含有シリコーン化合物の含有量を上記範囲とすることにより、配合量に見合った難燃性の向上効果が得られる。
【0084】
また、本実施形態の樹脂組成物には、さらなる難燃性向上(例えば、UL94におけるV−0、5V)のために、必要に応じてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を配合することができる。PTFEの平均分子量は、500,000以上であることが好ましく、特に好ましくは500,000〜10,000,000である。
【0085】
PTFEのうち、小繊維構造の形成能を有するものを用いると、さらに高い溶融滴下防止性を付与することができる。小繊維構造の形成能を有するPTFEには特に制限はないが、例えば、ASTM規格において、タイプ3に分類されるものが挙げられる。その具体例としては、例えば、「テフロン(登録商標)6−J」(三井・デュポンフロロケミカル社製、商品名)、「ポリフロンD−1」、「ポリフロンF−103」、「ポリフロンF201」(以上、ダイキン工業社製、商品名)、「CD076」(旭硝子フロロポリマーズ社製、商品名)等が挙げられる。
【0086】
また、上記タイプ3に分類されるもの以外では、例えば、「アルゴフロンF5」(モンテフルオス社製、商品名)、「ポリフロンMPA」、「ポリフロンFA−100」(以上、ダイキン工業社製、商品名)等が挙げられる。これらのPTFEは、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0087】
なお、上記のような小繊維構造の形成能を有するPTFEは、例えばテトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウム、アンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、6.9〜690kPa(1〜100psi)の圧力下、温度0〜200℃、好ましくは20〜100℃で重合させることによって得られる。
【0088】
本実施形態の樹脂組成物におけるポリテトラフルオロエチレンの含有量は、樹脂の合計100質量部に対して、通常0.1質量部以上1質量部以下程度であり、好ましくは0.15質量部以上0.5質量部以下であり、より好ましくは0.16質量部以上0.45質量部以下である。ポリテトラフルオロエチレンの含有量を上記範囲とすることにより、配合量に見合った難燃性の向上効果が得られるとともに、耐衝撃性、成形品外観への悪影響を十分小さくすることができる。
【0089】
本実施形態の樹脂組成物には、上記の各成分の他に、樹脂成形品に要求される特性に応じて、一般の熱可塑性樹脂やその組成物に用いられている添加剤の適宜量を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤(耐候剤)、可塑剤、抗菌剤、相溶化剤、着色剤(染料、顔料)などが挙げられる。
【0090】
本実施形態の樹脂組成物の特に好ましい態様としては、
(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、
(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂(B−1)と、
(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂とのアロイ樹脂及び/又は(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂、並びに、リン系難燃剤を含んでなる樹脂成形体のリサイクル材(B−2/C−1)と、
ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、MBS樹脂、AS樹脂及びMS樹脂からなる群より選択される1種以上のスチレン系樹脂(D)と、
を含有するものが挙げられる。
【0091】
この場合の樹脂組成物は、リサイクル材を含有しつつ、機械的特性、難燃性、熱的特性、及び、耐溶剤性を高水準で満足することができる。
【0092】
上記の樹脂組成物における(A)成分、(B−1)成分、(B−2/C−1)成分及び(D)成分の好ましい含有量はそれぞれ、すでに上述した各成分の好ましい含有量と同様である。
【0093】
本実施形態の樹脂組成物は、上述した各成分を配合し、混練することにより得られる。このときの配合及び混練は、通常用いられている機器、例えばリボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常240〜300℃の範囲で適宜選択される。また、各成分は予め作成されたマスターバッチとして添加されてもよい。
【0094】
<樹脂成形体の製造方法>
次に、本発明の樹脂成形体の製造方法の好適な実施形態を説明する。
【0095】
本実施形態の樹脂成形体の製造方法は、(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、(B)(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂と、(C)リン系難燃剤とを含む樹脂組成物を成形する工程を備える。
【0096】
樹脂組成物には、(A)、(B)及び(C)成分以外に上述した各成分を含有させることができる。また、樹脂組成物は、例えば、各成分を配合し、混練することにより得られたものを使用できる。このときの配合及び混練は、通常用いられている機器、例えばリボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常240〜300℃の範囲で適宜選択される。また、樹脂組成物は、各成分が予め作成されたマスターバッチとして添加されたものであってもよい。
【0097】
樹脂組成物の成形は、例えば、射出成形、射出圧縮成形、プレス成形、押出成形、ブロー成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形などの公知の成形方法によって行うことができる。
【0098】
また、本実施形態の樹脂成形体の製造方法においては、上記樹脂組成物が(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂とのアロイ樹脂及び/又は(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂、並びに、リン系難燃剤を含んでなる樹脂成形体のリサイクル材を含むことが好ましい。
【0099】
更に、上記樹脂組成物には、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、MBS樹脂、AS樹脂及びMS樹脂からなる群より選択される1種以上のスチレン系樹脂が更に含まれていることが好ましい。
【0100】
この場合の具体的な樹脂成形体の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。先ず、(A)成分、(B)成分、及び、必要に応じてその他の成分(例えば、スチレン系樹脂、、無機充填剤、耐衝撃向上剤、難燃剤、その他添加剤など)を配合し、混練することにより第1の樹脂組成物を調製し、一方で、市場に出て使用された製品から回収されたPC/ABSアロイまたはPC/PSアロイ製でありリン系難燃剤を含む樹脂成形体を、粉砕機を用いて1〜12mm程度の大きさまで粉砕したリサイクル材を用意する。
【0101】
次に、第1の樹脂組成物とリサイクル材とを質量比で、好ましくは99:1〜50:50、より好ましくは95:5〜60:40の割合で混合する。混合は、単純にタンブラーで混ぜるだけの乾式の混合、或いは、粒子化を行い、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常240〜300℃の範囲で適宜選択される。
【0102】
本実施形態においては、加水分解が進みすぎた樹脂成形体をリサイクル材として使うと、樹脂の流動性を制御することが困難なため、加水分解による劣化度合いの指標としてのメルトフローインデックス(MI)が4倍以下であるものを用いることが好ましく、2倍以下であるものを用いることがより好ましい。ここで、MIは、ASTM D1238に準拠して、シリンダ温度260℃、荷重2.16kgの条件にて測定した値が用いられる。
【0103】
次に、第1の樹脂組成物及びリサイクル材からなる乾式の混合物又は粒子化されたものを、例えば、シリンダ温度220℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上280℃以下の条件で射出成形することにより、樹脂成形体を得ることができる。なお、上記各成分すべてを溶融混練して粒状の成形原料を製造し、次いで、この粒状の成形原料を用いて射出成形又は射出圧縮成形してもよい。また、射出成形法として、ガス注入成形法を採用すると、引けがなく外観に優れると共に、軽量化された樹脂成形品を得ることができる。
【0104】
また、本実施形態の樹脂成形体の製造方法によれば、本実施形態の樹脂組成物を用いることにより、樹脂成形体の表面近傍におけるリン系難燃剤の濃度を、樹脂成形体の内部におけるリン系難燃剤の濃度よりも高くすることができる。なお、樹脂成形体におけるリン系難燃剤の濃度は、例えば、機械的に切断した成形体の表面を、蛍光X線装置(サイマルティックス12、リガク社製)などを用いて求めることができる。
【0105】
例えば、本実施形態の樹脂成形体の製造方法を適用して、リン系難燃剤を2.6質量%含有するリサイクル材と、リン系難燃剤を含有しない材料とから樹脂成形体を製造すると、得られる樹脂成形体の表面におけるリン系難燃剤の含有量を2.6質量%とすることができる。
【0106】
<筐体>
図1は、本発明の樹脂成形体の一実施形態に係る筐体及び事務機器部品を備える画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作できるよう開閉可能となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりすることができる。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0107】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、及び、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を自動的に搬送することができる自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置及び制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱可能なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって可能となる。
【0108】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーを補充することができる。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0109】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙トレイ136が備えられており、ここからも用紙を供給することができる。
【0110】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に当接する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙トレイ136が設けられている側と反対側に排出トレイ138が複数備えられており、これらのトレイに画像形成後の用紙が排出される。
【0111】
上述した本実施形態の樹脂組成物から形成されてなる本実施形態の樹脂成形体は、リサイクル材を含有する場合(特には、リサイクル材の含有量が1質量%以上50質量%以下、好ましくは5質量%以上50質量%以下)であっても、優れた機械特性、耐熱性及び難燃性を十分保持することが可能であることから、上述したような電子写真装置の外装筐体(ハウジング)、筐体を構成する部材(フロントカバー、リアカバーなど)、トナーカートリッジ、及び、給紙トレイとして好適である。この場合、電子写真装置におけるリサイクル材の使用量をより一層高めることが可能となる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
<樹脂組成物の原料>
樹脂組成物を調製するための成分として、以下の原料を準備した。
【0114】
ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂:「FC1700」(出光石油化学社製、粘度平均分子量17500、PDMS(ポリジメチルシロキサン)含有量3質量%、PDMS鎖長(n)30のPC−PDMS含有ビスフェノールAポリカーボネート)(以下、「PC−A」と称す)。
【0115】
芳香族ポリカーボネート樹脂:「FN1700A」(出光石油化学社製、粘度平均分子量17500のビスフェノールAポリカーボネート)(以下、「PC−B1」と称す)。
【0116】
芳香族ポリカーボネート樹脂:下記製造例1により得られた、粘度平均分子量17500、ビフェノール含有量15.9mol%のポリカーボネートビフェノール共重合体(以下、「PC−B2」と称す)。
【0117】
(製造例1)
(1)ポリカーボネートオリゴマー合成工程
濃度5.6質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、後に溶解するビスフェノールA(BPA)に対して0.2質量%の亜二チオン酸ナトリウムを加え、ここにBPA濃度が13.5質量%になるようにBPAを溶解し、BPAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。内径6mm、管長30mの管型反応器に、上記BPAの水酸化ナトリウム水溶液を40L/hr及び塩化メチレンを15L/hrの流量で連続的に通すと共に、ホスゲンを4.0kg/hrの流量で連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
【0118】
次に、管型反応器から送出された反応液は、後退翼を備えた内容積40Lのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入され、ここにさらにBPAの水酸化ナトリウム水溶液を2.8L/hr、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を0.07L/hr、水を17L/hr、1質量%トリエチルアミン水溶液を0.64L/hrの流量で供給し、29〜32℃で反応を行った。槽型反応器から反応液を連続的に抜き出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。このようにして得られたポリカーボネートオリゴマー溶液は、オリゴマー濃度338g/L、クロロホーメート基濃度0.71mol/Lであった。
【0119】
(2)ポリカーボネート−ビフェノール共重合体の重合工程
邪魔板、パドル型攪拌翼を備えた内容積50Lの槽型反応器に上記オリゴマー溶液15.0L、塩化メチレン10.5L、PTBP(p−tert−ブチルフェノール)132.7g、トリエチルアミン1.4mLを仕込み、ここにビフェノールの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH640gと亜ニチオン酸ナトリウムNa 1.8gを水9.3Lに溶解した水溶液に、4,4’−ビフェノール890gを溶解させたもの)を添加し、1時間重合反応を行った。希釈のため塩化メチレン10.0Lを加えた後、静置することにより、ポリカーボネートを含む有機相と過剰の4,4’−ビフェノール及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
【0120】
(3)洗浄工程
上記(2)の工程で得られたポリカーボネート−ビフェノール共重合体の塩化メチレン溶液を、その溶液に対して15体積%の0.03mol/L水酸化ナトリウム水溶液、0.2mol/L塩酸で順次洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.05μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。
【0121】
(4)粉砕工程
上記(3)の工程で得られたポリカーボネート−ビフェノール共重合体の塩化メチレン溶液を濃縮、粉砕することでポリカーボネート−ビフェノール共重合体の粉砕物を得た。得られたフレークは減圧下120℃で12時間乾燥した。NMRによりビフェニル含有量を測定したところ、15.9mol%であった。
【0122】
ABS樹脂:「B600N」(宇部サイコン社製、ゴム含有量60質量%のアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)(以下、「ABS−1」と称す)。
【0123】
コア−シェル型のエラストマー:「EXL2603」(呉羽化学社製、コアシェル型のグラフトゴム状弾性体)(以下、「エラストマ−1」と称す)。
【0124】
無機充填剤:「TP−A25」(富士タルク工業社製、タルク、平均粒径4.9μm)(以下、「無機充填剤−1」と称す)。
【0125】
金属塩:「メガファックF−114」(大日本インキ社製、パーフルオロアルカンスルホン酸カリウム)(以下、「金属塩−1」と称す)。
【0126】
シリコーン化合物:「X40−2664A」(信越化学工業社製、メチル水素シリコーン)(以下、「シリコーン−1」と称す)。
【0127】
ポリテトラフルオロエチレン:「CD076」(旭ICIフルオロポリマーズ社製)(以下、「PTFE−1」と称す)。
【0128】
リサイクル材:PC/ABSアロイである「TN7300」(帝人化成社製)製の複写機カバー(約2年使用)を回収し、金属部品を取り除き、粉砕機を用いて8mm程度の大きさまで粉砕した、粉砕物(ASTM D1238 に準拠して、シリンダ温度260℃、荷重2.16kgの条件にて測定されたMI:1.5倍未満、芳香環を有する縮合リン酸エステルの含有量:13%、加水分解率:5%)(以下、「リサイクル材−1」と称す)。
【0129】
なお、縮合リン酸エステルの定量は、ガスクロマトグラフ(GC:HP6890、Agilent社製)と質量分析計(MS:JMS−Q1000GC K9、日本電子社製)とを連結させ(GC−MS)て行った。キャピラリーカラムはHP−5(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、温度条件は100℃から320℃まで10℃/minで昇温させた。イオン化電圧は70eV、スキャン範囲はm/z=29から900とした。また、縮合リン酸エステルは加水分解により酸性リン酸エステルを生成するため、これを中和滴定することで、縮合リン酸エステルの加水分解率を測定した。具体的には、MIL規格のH−19457に準拠し、粉砕物/蒸留水(質量比:75/25)を密栓ガラス瓶に入れ、93℃で48時間加熱し、有機相と水相の酸価をアルカリ溶液(水酸化カリウム溶液)で測定し、合算して全酸価とした。
【0130】
リサイクル材:PC/PSアロイである「NN2710AS」(出光興産社製)製の複写機カバー(約3年使用)を回収し、金属部品を取り除き、粉砕機を用いて8mm程度の大きさまで粉砕した、粉砕物(ASTM D1238 に準拠して、シリンダ温度260℃、荷重2.16kgの条件にて測定されたMI:1.5倍未満、芳香環を有する縮合リン酸エステルの含有量:13%、加水分解率:5%)(以下、「リサイクル材−2」と称す)。
【0131】
<樹脂成形体の製造>
(実施例1〜12、比較例1、2)
表1及び表2に示す配合割合(質量部)で各原料を混合し、ベント式二軸押出成形機(東芝機械社製、TEM35)に供給し、260℃で溶融混練して粒状化した。なお、溶融混練に先だち、すべての組成において、酸化防止剤としてイルガノックス1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1質量部及びアデカスタブC(旭電化工業社製)0.1質量部を添加した。
【0132】
次に、得られた粒状の成形原料を、120℃で5時間乾燥した後、表1及び2に示す所定の成形温度(シリンダ温度)、金型温度60℃の条件で射出成形して、実施例1〜12、比較例1、2の試験片をそれぞれ得た。
【0133】
実施例1〜12、比較例1、2で得られた粒状の成形原料又は実施例1〜12、比較例1、2で得られた試験片について、機械的特性(シャルピー衝撃強度)、熱的特性(熱変形温度(HDT)、スパイラルフロー長さ(SFL)、収縮率)、難燃性及び耐溶剤性を下記の各種試験により評価した。その結果を表1及び表2に示す。
【0134】
(1)シャルピー衝撃強度
ISO多目的ダンベル試験片を作成し、これをノッチ加工したものを用い、JIS K7111に準拠して、デジタル衝撃試験機(東洋精機製作所製)により、持上げ角度150度、使用ハンマー2.0J、測定数n=10の条件で、シャルピー耐衝撃強度(kJ/m)を測定した。
【0135】
(2)HDT(熱変形温度)
ASTM D648に準拠し、荷重1.83MPaで測定した。この値は耐熱性の目安となるものであり、樹脂組成物の使用目的にもよるが、通常90℃以上が実用上好ましい範囲である。
【0136】
(3)SFL(スパイラルフロー長さ)
各粒状の成形原料を用いて、成形温度280℃、金型温度80℃、肉厚2mm、幅1cm、射出圧力7.84MPa(80kg/cm)で試験を行った。数値が大きいほど流動性が良好であることを示し、35cm以上が好ましい。なお、外装カバーの厚みは、通常2.4mm程度であるが、近年の軽量化に伴って2mm或いはそれ未満の薄肉化の方向にあるため、肉厚2mmでの評価を実施した。
【0137】
(4)収縮率
直方体の金型(150mm×150mm×3mm)で成形した際に、縦と横の長さが金型寸法に対してどの程度短くなったかをノギスで測定して、その収縮率を算出した。収縮率は、通常0.6%程度が好ましく、0.7%以上であると収縮分を考慮しなければならず、材料固有の金型が必要になる。
【0138】
(5)難燃性試験
外形寸法が127mm×12.7mmで、肉厚が1.5mmの試験片を作成し、アンダーライターズラボラトリー・サブジェクト94(UL94規格)に準拠して、垂直燃焼試験を行った。
【0139】
(6)耐溶剤性
ISO多目的ダンベル試験片を作成し、これをノッチ加工した。次に、この試験片の表面に溶剤を塗布し、1%の歪みを与えたまま23℃の環境下に72時間放置し、その後、目視で割れの発生の有無を確認した。溶剤は、信越化学製のシリコーンオイルを使用した。結果は、割れが発生した場合を「C」、割れが発生しなかった場合を「N」で表わし、表中に示す。
【0140】
【表1】



【0141】
【表2】



【0142】
また、実施例1〜12で得られた試験片について、成形体各所におけるポリカーボネート樹脂の含有比率をFT−IR(赤外線吸収)分析により算出したところ、成形体の表面部におけるポリカーボネート樹脂の含有量は、成形体の中心部におけるポリカーボネート樹脂の含有量の70%であることが確認された。なお、FT−IRスペクトルにおいて、1200cm−1及び1780cm−1にポリカーボネート樹脂の固有の吸収が見られることから、このピークの大きさによって上記の比率を求めた。

【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明の樹脂成形体の一実施形態に係る筐体及び事務機器部品を備える画像形成装置の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0144】
100…画像形成装置、110…本体装置、120a,b…フロントカバー、136…用紙トレイ、138…排出トレイ、142…プロセスカートリッジ、150,152…筐体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、
(B)前記(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂と、
(C)リン系難燃剤と、
を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂とのアロイ樹脂及び/又は前記(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂と、リン系難燃剤と、を含んでなる樹脂成形体のリサイクル材を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、
(B)前記(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂と、
(C)リン系難燃剤と、
を含む、樹脂成形体。
【請求項4】
(A)ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂と、
(B)前記(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂と、
(C)リン系難燃剤と、を含む樹脂組成物、
を成形する工程を備える、樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、
前記(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂とのアロイ樹脂及び/又は前記(A)成分以外の芳香族ポリカーボネート樹脂とポリスチレン樹脂とのアロイ樹脂並びにリン系難燃剤、を含んでなる樹脂成形体のリサイクル材、
を含む、請求項4に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、前記リサイクル材を樹脂組成物全量基準で1質量%以上50質量%以下含む、請求項5に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の樹脂成形体が一部又は全部に用いられた、筐体。


【図1】
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【公開番号】特開2008−189766(P2008−189766A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24484(P2007−24484)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】