説明

樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体

【課題】 耐久性および混練操業性に優れた環境配慮型樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 脂肪族ポリエステル樹脂(A)5〜95質量%と、脂肪族ポリアミド樹脂(B)95〜5質量%と、1分子中に1〜10個のカルボジイミド基、グリシジル基、イソシアネート基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の反応基を有する有機化合物(C)0.01〜5質量%とを含有することを特徴とする樹脂組成物。脂肪族ポリエステル樹脂(A)が生分解性ポリエステル樹脂であることを特徴とする前記樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪族ポリエステル樹脂と脂肪族ポリアミド樹脂を含んでなる樹脂組成物であって、溶融混練時の操業性に加え、機械物性や耐熱性、耐久性に優れた樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、生分解性を有する合成高分子の研究開発が盛んに進められ、医療分野をはじめ、昨今の環境保全および廃プラスチック処理問題とも関連して、農林業用分野および一般包装用等の幅広い分野で応用されつつある。
生分解性を有する高分子として脂肪族ポリエステル樹脂が一般に知られおり、中でもガラス転移点が高く、結晶性を有し、さらに機械的強度に優れたポリ乳酸樹脂が注目されている。ポリ乳酸樹脂は生分解性を有することに加え、植物由来原料から合成可能な樹脂でもあり、植物由来原料から合成されたポリ乳酸樹脂は焼却する際にも大気中の二酸化炭素の総量を増加させないために、その注目度はさらに高くなっている。しかしながら、ポリ乳酸樹脂を一定割合以上配合した樹脂組成物は、耐久性や耐衝撃性、柔軟性などが不充分となる問題があった。
【0003】
一方、エンジニアリングプラスチックの一つであるポリアミド樹脂は、成形加工の容易さ、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、その他の物理的、化学的特性に優れていることから、自動車、電気・電子機器、精密機器などの分野における各種部品の材料として汎用されている。そこで、上記脂肪族ポリエステル樹脂の問題に対して、優れた物性を有する各種エンジニアリングプラスチックを溶融混合し、耐熱性、機械物性および生分解性に優れたポリマーを得ようとする試みがなされている(特許文献1)。また特許文献2には、ポリアミド樹脂を脂肪族ポリエステル樹脂にブレンドすることで、靭性や耐衝撃性を更に向上させた樹脂組成物が提案されており、脂肪族ポリエステル樹脂の用途分野が広げられている。
【0004】
脂肪族ポリエステル樹脂を電気製品、電子機器等の筐体へ適用してさらなる用途拡大を行なう場合、この用途には数年から10年程度の長期信頼性が要求されるため、かかる期間において、機械的な物性、例えば引張強度、曲げ強度、耐衝撃性等を実用上充分なレベルに維持しなければならない。しかしながら、脂肪族ポリエステル樹脂は耐加水分解性が低く、耐久性を要する分野への応用は困難であった。そこで、カルボジイミド基含有化合物を反応させて脂肪族ポリエステル樹脂を末端封鎖して、脂肪族ポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させる方法が提案されている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、ポリアミド樹脂をブレンドした脂肪族ポリエステル樹脂において、その耐加水分解性を向上させるために、カルボジイミド基含有化合物を溶融混練により反応させた場合、その操業性が著しく悪く、生産性に劣るという問題があった。特に樹脂の補強を目的にガラス繊維等を配合した組成物においては、まったく生産条件を見出すことができなかった。
【特許文献1】特開平4−234458号公報
【特許文献2】特開2003−238775号公報
【特許文献3】特開2005−307157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、脂肪族ポリエステル樹脂と脂肪族ポリアミド樹脂とを含み、耐久性や混練操業性に優れた、環境負荷が低い樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、脂肪族ポリエステル樹脂と脂肪族ポリアミド樹脂とに、特定の反応基を有する有機化合物を組み合わせることによって前記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)脂肪族ポリエステル樹脂(A)5〜95質量%と、脂肪族ポリアミド樹脂(B)95〜5質量%と、1分子中に1〜10個のカルボジイミド基、グリシジル基、イソシアネート基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の反応基を有する有機化合物(C)0.01〜5質量%とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(2)脂肪族ポリエステル樹脂(A)が生分解性ポリエステル樹脂であることを特徴とする(1)記載の樹脂組成物。
(3)生分解性ポリエステル樹脂がポリ乳酸樹脂であることを特徴とする(2)記載の樹脂組成物。
(4)脂肪族ポリアミド樹脂(B)がポリアミド11樹脂および/またはポリアミド1010樹脂であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)上記(1)記載の樹脂組成物100質量部に対して充填材(D)を0.1〜100質量部含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(6)充填材(D)が、ガラス繊維、炭素繊維、植物由来繊維から選ばれる1種以上の繊維状充填材であることを特徴とする(5)記載の樹脂組成物。
(7)植物由来繊維が、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維から選ばれる1種以上の繊維であることを特徴とする(6)記載の樹脂組成物。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境負荷の低い樹脂組成物で、耐久性、機械特性に優れ、さらに混練操業性に優れた樹脂組成物を提供することができる。この樹脂組成物を電気製品の部品などに用いることで、低環境負荷材料である脂肪族ポリエステル樹脂の使用範囲を生産性を低下させることなく大きく広げることができ、産業上の利用価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)および特定の反応基を有する有機化合物(C)を含有する。
【0010】
本発明において、脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結されたポリマーであり、オキシ酸の重合体でもよいし、グリコールと脂肪族ジカルボン酸を主成分とするポリエステルでもよく、これらの混合物あるいは共重合体あってもよい。
オキシ酸成分としては、乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン等が挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ならびにこれらの無水物等が挙げられる。さらに上記したオキシ酸、グリコール、脂肪族ジカルボン酸は任意の組み合わせで用いることができる。
脂肪族ポリエステル樹脂(A)としては、例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等の生分解性ポリエステル樹脂が、環境負荷の点で好ましい。
中でも、ポリ乳酸樹脂は融点や機械的強度が高く物性面で優れており、さらにポリ乳酸樹脂は種々の植物を原料とするものを用いることができ、その際には樹脂組成物中の植物由来度を上げることができるのでより環境負荷の低い材料となるため特に好ましい。ポリ乳酸樹脂としては、耐熱性、成形性の面から、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることができる。
【0011】
本発明の樹脂組成物において、脂肪族ポリエステル(A)の含有量は5〜95質量%であることが必要である。含有量が5質量%未満では生分解性を活かすことができず、また成形時の流動性が低くなる。また、95質量%を超えると耐熱性、耐衝撃性、破断歪等に劣るため好ましくない。
【0012】
本発明において、脂肪族ポリアミド樹脂(B)は、脂肪族アルキル鎖がアミド結合で連結されたポリマーである。脂肪族ポリエステル樹脂(A)は一般的には融点が高くなく、耐熱性を要する材料には適用が困難である。しかし、脂肪族ポリアミド樹脂(B)をブレンドすることでその耐熱性を向上することができる。
本発明で用いられる脂肪族ポリアミド樹脂(B)としては、例えば、ポリカプラミド、ポリテトラメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリデカメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカミド、ポリウンデカメチレンアジパミド、ポリウンデカミド、ポリドデカミド、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリメタキシリレンアジパミド又はこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミド等が挙げられる。
中でも、ポリウンデカミド(ポリアミド11樹脂)は、11−アミノウンデカン酸を重縮合したポリマーである。ポリアミド11樹脂は、天然ひまし油中のリシノール酸を原料として製造でき、ポリ乳酸樹脂と同様、植物由来原料からなるため、環境負荷の面で優れている。ポリアミド11樹脂の製造方法は、特に制限されず、公知の方法に従って行なうことが出来る。また、製造の際に各種の触媒、熱安定剤等の添加剤を使用してもよい。市販のポリアミド11樹脂としては、例えばアルケマ製『リルサン BMN O』が挙げられる。また、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010樹脂)も、天然ひまし油を原料とし、セバシン酸とデカンジアミンとを重縮合して製造でき、上記ポリアミド11樹脂と同様に、植物由来原料からなるため、環境負荷の面で優れている。本発明に用いられるポリアミド1010樹脂は、環境負荷を考慮すると、ASTM(D6866)に準拠して測定したバイオマス炭素含有率が50%以上であることが望ましい。
【0013】
本発明の樹脂組成物において、脂肪族ポリアミド樹脂(B)の含有量は5〜95質量%であることが必要である。含有量が5質量%未満では脂肪族ポリエステル樹脂(A)を改質するのに不十分であり、また95質量%を超えると脂肪族ポリエステル樹脂(A)の生分解性を活かすことができず、またポリアミド11樹脂は高価であるためにコスト面で不利である。
【0014】
本発明において、有機化合物(C)は、カルボジイミド基、グリシジル基、イソシアネート基、オキサゾリン基から選ばれる一種以上の反応基を有することが必要である。これらの反応基は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の分子鎖末端カルボン酸と反応し酸価を低下させることで耐加水分解性を向上させる。さらに、有機化合物(C)中の反応基と脂肪族ポリエステル樹脂の分子鎖末端カルボン酸との反応生成物が脂肪族ポリアミド樹脂(B)の分子鎖末端と反応することで、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端封鎖と脂肪族ポリアミド樹脂(B)との相溶化を同時に成すことができる。A、B両成分との反応性から、カルボジイミド基を有する有機化合物(C)が特に好ましい。
【0015】
これら反応基を有する有機化合物(C)の1分子鎖中に含まれる反応基数は、1〜10個であることが必要である。反応基数が10個より多い場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)とを溶融混練する際に樹脂のゲル化が起こってしまい、操業性が著しく低下してしまうため好ましくない。
【0016】
本発明に用いることのできる有機化合物(C)のうち、カルボジイミド基を有するものとしては、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−トリルカルボジイミド、N,N′−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N′−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N′−フェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド,N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミド(例えば、住化バイエルウレタン社製スタバクゾールIなど)が挙げられる。これらカルボジイミド化合物は単独で使用してもよいが2種以上を組み合わせて使用してもよく、またこれらの重合体を用いてもよい。本発明では加水分解抑制効果の高いN,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが特に好ましい。
【0017】
また、グリシジル基を有するものとしては、例えば、グリシジルエーテル化合物としては、ブチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、o−フェニルフェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、エチレンオキシドフェノールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
また、グリシジルエステル化合物としては、安息香酸グリシジルエステル、p−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレン酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
また、グリシジルアミン化合物としては、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−パラアミノフェノール、トリグリシジル−メタアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロモアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、トリグリシジルシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
これらグリシジル化合物は単独で使用してもよいが2種以上を組み合わせて使用してもよく、またこれらの重合体を用いてもよい。
【0018】
また、イソシアネート基を有するものとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、3,3′−ジクロロ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらイソシアネート化合物は単独で使用してもよいが2種以上を組み合わせて使用してもよく、またこれらの重合体を用いてもよい。
【0019】
また、オキサゾリン基を有するものとしては、例えば、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2−オクチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ノニルオキシ−2−オキサゾリン、2−デシルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリンなどが挙げられ、さらには、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)などが挙げられる。これらオキサゾリン化合物は単独で使用してもよいが2種以上を組み合わせて使用してもよく、またこれらの重合体を用いてもよい。
【0020】
有機化合物(C)の含有量は、分子中に含まれる反応基数によって異なるが、総じて樹脂組成物の0.01〜5質量%であることが必要であり、好ましくは0.05〜3質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。含有量が0.01質量%未満であると末端封鎖による耐加水分解性向上効果が不十分となり、また5質量%を超えるとブリードアウトや樹脂の可塑化、またはゲル化等が起こり、物性へ悪影響を及ぼす場合がある。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、補強材として充填材(D)を含有してもよい。充填材(D)を含有することにより、樹脂組成物の機械物性および耐熱性を向上させることができる。
本発明に用いる充填材(D)としては、板状や粒子状の有機および無機フィラーを用いることができる。
また、補強効果を高めるために、無機および有機化合物からなる繊維状充填材がより適している。具体的には、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラストナイト、セピオライト等の無機繊維状充填材や、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維などの有機繊維状充填材が挙げられる。
【0022】
上記繊維状充填材のうち、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維は植物を原料とした植物由来繊維であるため、これらを配合した際には樹脂組成物の植物由来度を高く保ったまま物性を向上させることが可能となるため、好ましい。なお、植物由来繊維は、脱リグニン処理されているものを用いることが好ましい。脱リグニン処理されていないもの用いた場合は、外観、あるいは、耐久性の点で、悪影響を及ぼす場合がある。脱リグニン処理としては、公知の方法を適宜用いればよいが、水酸化ナトリウム溶液または水酸化カリウム溶液等の強アルカリ溶液による方法、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを用いて加熱する方法、酸性条件下で、モリブデン酸塩と過酸化水素によって処理する方法などが挙げられる。なお、脱リグニン処理に加えてさらに漂白を施すことによりリグニンの発色を抑えることもできる。
【0023】
本発明の樹脂組成物において、充填材(D)の含有量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、脂肪族ポリアミド樹脂(B)と、有機化合物(C)との合計100質量部に対して、0.1〜100質量部であることが好ましい。含有量が0.1質量部未満では充分な耐熱性改善効果が得られない場合があり、100質量部を超えて配合した場合は、混練操業性が大幅に低下する場合があるので好ましくない。
【0024】
本発明の樹脂組成物にはその特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤等を添加することができる。熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが例示される。
【0025】
本発明の樹脂組成物を製造する方法は特に限定されるものではなく、各成分を通常の加熱溶融後、例えば、従来より知られている一軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等を用いる混練法によって混練するとよい。また、スタティックミキサーやダイナミックミキサーを併用することも効果的である。混練状態をよくする意味で特に二軸の押出機を使用することが好ましい。混練温度は(主要樹脂の融点)〜(主要樹脂の融点+100℃)の範囲が好ましい。混練温度がそれ以下では押出機が過負荷となり、ベントアップなどの不具合が生じる場合がある。また混練温度が高すぎると、樹脂の分解、黄変が起こったり、低分子量の(C)成分が揮発してしまう場合がある。樹脂組成物の採取方法は特に限定されるものではないが、その後の成形を考慮すると、ストランドを作製し、ペレット化することが好ましい。
【0026】
各成分の供給方法は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)、有機化合物(C)をすべて一括でドライブレンドし、またはそれぞれを個別のフィーダーを用いて溶融混練してもよい。
また、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機化合物(C)との反応効率を高めるために、予め脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機化合物(C)を反応させて末端封鎖ポリエステル樹脂を調製し、これと脂肪族ポリアミド樹脂(B)と溶融混練する2段混練を行ってもよい。2段混練を行うことで、有機化合物(C)の分散性が向上し、物性が向上するため、より好ましい。
充填材(D)の供給方法は、その他の成分と同様トップフィードでもよいが、繊維状充填材を用いる場合は、繊維に過度の負荷がかかり繊維の断裂が起こる可能性があるため、押出機の途中からサイドフィードすることが好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。とりわけ、射出成形法を採ることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。本発明の樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは190〜250℃とし、また、金型温度は樹脂組成物の(融点−20℃)以下とするのが適当である。成形温度が低すぎると成形品にショートが発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に、成形温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生しやすく、ともに好ましくない場合がある。
【0028】
本発明の成形体の具体例としては、パソコン周辺の各種部品および筐体、携帯電話部品および筐体、その他OA機器部品等の電化製品用樹脂部品、バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、実施例ならびに比較例での使用材料および評価方法料は次の通りである。
(1)材料
脂肪族ポリエステル樹脂(A)
・ポリ乳酸樹脂(A1):ユニチカ製 テラマックTE−2000
・ポリ乳酸樹脂(A2):
二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)を用い、ポリ乳酸樹脂(A1)100質量部と芳香族モノカルボジイミド(松本油脂製 EN−160、カルボジイミド(C1))4質量部を押出機の根元供給口から供給し、バレル温度180℃、スクリュー回転数280rpm、吐出15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを70℃×24時間真空乾燥して、ポリ乳酸樹脂(A2)を得た。
・ポリブチレンサクシネート(A3):三菱化学社製 GSPla
・ポリカプロラクトン(A4):ダイセル化学製 セルグリーン PH7
【0030】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)
・ポリアミド11樹脂(B1):アルケマ製 リルサンBMN O
・ポリアミド1010樹脂(B2):
セバシン酸(豊国製油製)100質量部を熱メタノールに撹拌しながら溶かした。次にデカメチレンジアミン(小倉合成工業製)85質量部をメタノールに溶かし、先のセバシン酸メタノール溶液にゆっくり加えた。すべて加えた後、15分程度撹拌し、析出物をろ過、メタノール洗浄することにより、デカメチレンジアンモニウムセバケートを得た。
次にデカメチレンジアンモニウムセバケート100質量部と水33質量部をオートクレーブに仕込み、窒素置換後、設定温度240℃、25rpmで撹拌しながら加熱を開始した。2MPaの圧力で2時間保持した後、水蒸気を排気して圧力を常圧まで下げた。常圧〜0.02MPaで2〜3時間撹拌した後、1時間静置し、払出した。その後、減圧乾燥しポリアミド1010樹脂を得た。
・ポリアミド6樹脂(B3):ユニチカ製 ユニチカナイロン A1030JR
・ポリアミド66樹脂(B4):ユニチカ製 マラニールA125J
【0031】
有機化合物(C)
・カルボジイミド(C1):松本油脂製 EN−160 (芳香族系モノカルボジイミド、分子内カルボジイミド基数=1個)
・カルボジイミド(C2):松本油脂製 EN−180 (芳香族系ポリカルボジイミド、分子内カルボジイミド基数=6.4個)
・カルボジイミド(C3):日清紡製 LA−1 (脂肪族系ポリカルボジイミド、分子内カルボジイミド基数=14.4個)
・グルシジル化合物(C4):ナガセケムテックス製 デナコールEX−711 (分子内グリシジル基数=2個)
・イソシアネート化合物(C5):日本ポリウレタン製 コロネート 分子内イソシアネート基数=2個)
・オキサゾリン化合物(C6):武田薬品社製 2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)
【0032】
充填材(D)
・ガラス繊維(D1):日東紡績製 CSG3PA820S (長径28μm、短径7μm)
・ケナフ繊維(D2):
5mm程度の一定長に切断したケナフをターボミル(マツボー社製T−250)にて粉砕・ほぐして、直径20〜50μm、繊維長1〜5mmとした。
・ケナフ繊維(D2′):
ケナフ繊維(D2)を水酸化ナトリウム溶液を用いて加圧・加熱処理を施すことによりリグニンを除去した。
【0033】
(2)評価方法
(A)曲げ強度、曲げ弾性率:
ASTM D790に準拠して測定した。また、試験片は23℃、50%RH雰囲気下で2週間静置したものを用いた。
(B)アイゾット衝撃値:
ASTM D256−56に準拠して測定した。
(C)耐熱性:
ASTM D648に準拠し、荷重0.45MPaで熱変形温度を測定した。
(D)耐久性:
127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を作製し、60℃、95%RH雰囲気下に250時間保存する試験を行った。試験後23℃、50%RH雰囲気下で2週間静置した試験片について、初期の曲げ強度に対し90%以上の曲げ強度を保持していた場合は◎、70%以上90%未満の場合は○、50%以上70%未満の場合は△、50%未満の場合は×で評価した。なお、曲げ強度は、評価方法(A)項と同様にして測定した。
(E)操業安定性:
二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)を用い、各成分を所定の割合でトップフィードもしくはサイドフィードして、バレル温度180〜280℃、スクリュー回転数230rpm、吐出15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。溶融樹脂を15m/秒の速度でストランド状に引き取り、溶融樹脂が押出機から吐出されてから5分間にストランドが切れる回数を計数した。5分間での切断回数が0回の場合は◎、1回の場合は○、2〜5回の場合は△、6回以上の場合は×で評価した。なお、バレル温度に関してはその都度最適な温度に設定して評価を実施した。
【0034】
実施例1〜20、比較例1〜5
二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)を用い、脂肪族ポリエステル樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)、有機化合物(C)、充填材(D)を表1および表2に示した割合で(A)〜(C)に関しては押出機の根元供給口からトップフィードして、また(D)に関しては途中の供給口からサイドフィードし、バレル温度180〜280℃、スクリュー回転数100〜250rpm、吐出15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水で満たしたバットを通過させて冷却固化した後、ペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを90℃×24時間真空乾燥したのち、東芝機械社製IS−80G型射出成形機を用いて、金型表面温度を60℃に調整しながら、一般物性測定用試験片(ASTM型)を作製し、各種測定に供した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
表1および表2から明らかなように、実施例1〜20において、耐久性および混練操業性に優れた樹脂組成物が得られた。
なかでも、脂肪族ポリエステル樹脂(A)としてポリ乳酸樹脂(A1)または(A2)を用い、また脂肪族ポリアミド樹脂(B)としてポリアミド11樹脂(B1)またはポリアミド1010樹脂(B2)を用いることで、植物由来度の高い樹脂組成物を得ることができた。
また、実施例10に示すように、予め末端封鎖したポリ乳酸樹脂(A2)を用いることで、操業安定性、耐久性を維持しながら、物性を有効なレベルで向上させることが可能となった。
さらに、実施例16〜20に示すように、充填材(D)を用いることで耐熱性にも非常に優れた樹脂組成物が得られた。特に、実施例20では植物由来充填材としてリグニンを除去したケナフ繊維(D′)を用いることで、除去していないケナフ繊維(D)を用いた実施例19に比べて耐久性が向上した。
【0038】
上記実施例に対し、比較例1においては、有機化合物(C)を用いなかったために脂肪族ポリエステル樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)とが良好に相溶せず、操業安定性に非常に劣る結果となった。加えて、脂肪族ポリエステル分子鎖の末端封鎖が行われていないために耐久性にも劣る結果となった。
また、比較例2では、有機化合物(C)として、1分子中の反応基数が10個を超えるカルボジイミド(C3)を使用したため、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)とが過度に反応し、溶融樹脂がゲル化し、その結果ストランドが引けない状態であった。また、物性面でもカルボジイミド(C1)や(C2)を使用した場合と比べて劣っていた。
比較例3、4ではカルボジイミド(C)の添加量が多すぎたために、比較例3では樹脂の可塑化による軟質化が起き、実施例4では樹脂成分の過度の反応によるゲル化が起きた。
さらに、比較例5で、充填材(D)を配合した系において、1分子中の反応基数が10個を超えるカルボジイミド(C3)を用いたところ、充填材のガラス繊維(D1)がストランド表面から剥離し、またストランド自体も引きにくい結果となった。一方、実施例16に示したように、ガラス繊維(D1)が配合されていても、本発明で規定するカルボジイミド(C1)を用いると、混練操業性は明らかに改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)5〜95質量%と、脂肪族ポリアミド樹脂(B)95〜5質量%と、1分子中に1〜10個のカルボジイミド基、グリシジル基、イソシアネート基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の反応基を有する有機化合物(C)0.01〜5質量%とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)が生分解性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
生分解性ポリエステル樹脂がポリ乳酸樹脂であることを特徴とする請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)がポリアミド11樹脂および/またはポリアミド1010樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1記載の樹脂組成物100質量部に対して充填材(D)を0.1〜100質量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
充填材(D)が、ガラス繊維、炭素繊維、植物由来繊維から選ばれる1種以上の繊維状充填材であることを特徴とする請求項5記載の樹脂組成物。
【請求項7】
植物由来繊維が、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維から選ばれる1種以上の繊維であることを特徴とする請求項6記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2009−203458(P2009−203458A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322437(P2008−322437)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】