説明

樹脂組成物とその製造方法

【課題】ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂を混合した樹脂組成物において、衝撃強度等の機械的強度が十分で、大気中での自己消火性等の難燃性を有し、溶融状態における流動性もよく十分な混合成形性を有する樹脂組成物とその製造方法を提供する。
【解決手段】(A1)5質量%を超え40質量%未満のポリエステル樹脂、(A2)40質量%を超え70質量%未満のポリカーボネート樹脂、(B)5質量%またはそれ以上15質量%またはそれ以下のポリエチレン、(C)5質量%またはそれ以上15質量%またはそれ以下の芳香環を有するリン化合物、および(D)1.0質量%またはそれ以上10質量%またはそれ以下のポリフェニレンスルフィド(PPS)、フェノール樹脂、ポリアミド(PA)から選ばれる高分子化合物を含有する混合組成物を、溶融状態で面間距離が5mmまたはそれ以下の平行な2つの面の間隙を通過させる樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物およびその製造方法に関する。本発明はまた、廃棄物となった熱可塑性樹脂の成形加工製品の再利用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂又はその樹脂組成物は、優れた成形加工性、機械物性、耐熱性、耐候性、外観性、衛生性及び経済性等から、容器、包装用フィルム、家庭用雑貨、事務機器、AV機器、電気・電子部品、自動車部品などの成形材料として幅広い分野で使用されている。
【0003】
このような熱可塑性樹脂又はその樹脂組成物の成形加工品の使用量は多く、現在もなお年々増加の一途を辿っている。しかし、一方では使用済みで不要となって廃棄される成形加工品の量も、益々増大して深刻な社会問題となっている。
【0004】
前述のような背景の中、近年、容器包装リサイクル法や国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(通称、グリーン購入法)などが相次いで施行され、熱可塑性樹脂又はその樹脂組成物の成形加工製品のマテリアルリサイクルに対する関心が高まってきている。中でも、使用量が急速に伸びているポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある)を材料とするPETボトルのマテリアルリサイクル技術の確立は急務となっている。また、CD,CD−R,DVD,MD等のようなポリカーボネート(以下、PCということがある)を材料とする光学記録媒体製品(光ディスク)の普及に伴い、これらの成形加工時に出る端材の再利用方法や、廃棄物となった光ディスクから反射層、記録層等を剥離した後に得られる透明なPC素材を再利用するための方法の検討が進められている。
【0005】
しかしながら、市場から回収された使用済みのPETボトル等のポリエステル樹脂や光ディスク等のポリカーボネート樹脂の成形加工製品は、加水分解や熱分解等により劣化している場合が多い。例えばこれらの成形加工製品を粉砕したものを再度成形しようとしても溶融粘度の低下が著しいため、まったく成形できないか、またはたとえ成形が出来たとしても、機械的強度が脆弱で容易に破損するため、実用に耐える成形加工品への再生利用は極めて困難なのが実情である。
【0006】
廃棄された成形加工製品からリサイクル用樹脂を回収する方法として、例えば、PETやPC等の熱可塑性樹脂又はその樹脂組成物の成形加工製品の粉砕片に、エポキシ基含有エチレン共重合体を溶融混練する方法(特許文献1,2など)やエポキシ化ジエン系共重合体を溶融混練する方法(特許文献3)などが提案されている。また、特許文献4〜7では、R−PET(リサイクルしたPET)の衝撃強度を改善するためにゴム状重合体を組み合わせた材料技術を提案している。しかし、これらの技術では、高い防火性能を得るためにハロゲン原子を含有する難燃剤を使用するが、ハロゲン原子を含有する難燃剤の添加により衝撃強度は改善されていないことが判明した。ハロゲン原子を含有する難燃剤の添加量を抑制すると、難燃性能の不良などを生じ用途拡大の障害になっている。しかも、ハロゲン原子を含有する難燃剤はハロゲン原子のために環境や人体に対する安全性に問題があった。
【0007】
更に、最近になりハロゲン原子含有難燃剤を用いなくても、難燃性に優れ、弾性率、曲げ強度および衝撃強度に優れた高分子混合組成物に係わる発明が公開されている(特許文献8)。しかし、開示されている難燃性の樹脂組成物は、内装材としての使用は可能であっても外装材として用いることは困難である。外装材は機械的強度、特に強靱性、衝撃強度がより高く、自己消火性等の難燃性の極めて高いものが要求される。該難燃性の樹脂組成物は、これらの要求を満たしうるものではないことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−247328号公報
【特許文献2】特開平6−298991号公報
【特許文献3】特開平8−245756号公報
【特許文献4】特開2003−183486号公報
【特許文献5】特開2003−213112号公報
【特許文献6】特開2003−221498号公報
【特許文献7】特開2003−231796号公報
【特許文献8】特開2011−52096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂を混合した樹脂組成物において、衝撃強度等の機械的強度が十分で、大気中で自己消火するなどの難燃性を有し、しかも溶融状態における流動性もよく十分な混合成形性を有する樹脂組成物、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、下記により達成される。
【0011】
(1)(A1)5質量%を超え40質量%未満のポリエステル樹脂、(A2)40質量%を超え70質量%未満のポリカーボネート樹脂、(B)5質量%またはそれ以上15質量%またはそれ以下のポリエチレン、(C)5質量%またはそれ以上15質量%またはそれ以下の芳香環を有するリン化合物、および(D)1.0質量%またはそれ以上10質量%またはそれ以下のポリフェニレンスルフィド(PPS)、フェノール樹脂、ポリアミド(PA)から選ばれる高分子化合物を含有する混合組成物を、溶融状態で面間距離が5mmまたはそれ以下の平行な2つの面の間隙を通過させる樹脂組成物の製造方法。
【0012】
(2)前記ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートの少なくとも何れかである(1)に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0013】
(3)前記ポリエステル樹脂が、廃棄されたポリエチレンテレフタレート樹脂製品を粉砕して得られる樹脂片である(1)または(2)に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0014】
(4)前記ポリカーボネート樹脂が、廃棄されたポリカーボネート樹脂製品を粉砕して得られる樹脂片である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0015】
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法によって造られた樹脂組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂を混合した樹脂組成物において、衝撃強度等の機械的強度が十分で、大気中での自己消火性等高い難燃性を有し、しかも溶融状態における流動性がよく、混合成形性が高い樹脂組成物とその製造方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)は、本発明の樹脂組成物の製造方法を採用した製造装置の一例について、上面から装置内部を透視したときの概略透視図、(B)は、(A)の装置のP−Q断面における概略断面図。
【図2】(A)は、本発明の樹脂組成物の製造方法を採用した製造装置の一例について、上面から装置内部を透視したときの概略透視図、(B)は、(A)の装置のP−Q断面における概略断面図。
【図3】(A)は、本発明の樹脂組成物の製造方法を採用した製造装置の一例について、上面から装置内部を透視したときの概略透視図、(B)は、(A)の装置のP−Q断面における概略断面図。
【図4】(A)は、本発明の樹脂組成物の製造方法を採用した製造装置の一例の概略見取り図、(B)は、(A)の装置の軸を通るP−Q断面における概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
樹脂組成物の構造を推測すると、本発明の樹脂組成物はポリカーボネート樹脂(A2)を主要な成分として、海島構造の海を形成し、ポリエステル樹脂(A1)を初めとしB、C、D成分が海島構造の島として点在する構造になっているであろう。これに対し、特許文献8の樹脂組成物を考えると、ポリカーボネート樹脂(A2)よりポリエステル樹脂(A1)の比率が高いため、ポリエステル樹脂(A1)が海島構造の海を形成し、その他の構成成分が島として点在する構造になっているであろう。本発明と特許文献8のこの違いが、衝撃強度や難燃性の特性の差を生じさせる理由であると推測される。
【0019】
本発明について更に説明する。
【0020】
〔A1成分〕
本発明の樹脂組成物に配合されるA1成分としてのポリエステル樹脂は特に限定されるものではなく、ジカルボン酸単位又はエステル形成能を持つそれらの誘導体と、ジオール単位又はエステル形成能を持つそれらの誘導体とを従来知られる方法で重縮合して得られるポリエステル樹脂である。
【0021】
ジカルボン酸単位の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,2′−ビフェニルジカルボン酸、3,3′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、こはく酸、アゼライン酸、マロン酸、蓚酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸及びそれらのエステル形成性誘導体(例えばメチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル等)などから誘導されるジカルボン酸単位を挙げることができる。
【0022】
ジオール単位の具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタジオール等の炭素数2〜10の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の分子量6000以下のポリアルキレングリコールなどから誘導されるジオール成分単位を挙げることができる。
【0023】
これらジカルボン酸単位及びジオール単位は共に上記化合物を各々単独で使用しても2種又はそれ以上組み合わせて使用してもよい。更に、本発明のポリエステル樹脂は、全構造単位に基づいて1モル%以下であれば、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能またはそれ以上のモノマーから誘導される構造成分単位を有していてもよい。
【0024】
ポリエステル樹脂は、難燃性および機械的性能のさらなる向上の観点から、芳香族ジカルボン酸又はエステル形成能を持つそれらの誘導体と、脂肪族ジオール又はエステル形成能を持つそれらの誘導体とを重縮合して得られる芳香族ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0025】
ポリエステル樹脂の具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレート(以下、これをPETということがある)、ポリブチレンテレフタレート(以下、これをPBTということがある)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(以下、これをPENということがある)、ポリブチレンナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン、p−ヒドロキシ安息香酸系ポリエステル、ポリアリレート系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、ジオール成分として、エチレングリコールを使用したPETおよびPENがその結晶化挙動、熱的性質、機械的性質等の物性バランスの面から特に好ましい。またジオール成分として、ブチレングリコールを使用したPBTも成形性、機械的性質等のバランスがとれ好ましい。PETとPBTとの混合物も好適に使用できる。更には、ポリエチレンナフタレート又はこれとポリエチレンテレフタレートとの混合物(好ましくはPETが50質量%またはそれ以上の混合物)も好ましい。
【0026】
ポリエステル樹脂の固有粘度に特に制限はないが、本発明においては、好ましくは0.50〜1.50dl/g、更に好ましくは0.65〜1.30dl/gの範囲である。ポリエステル樹脂の固有粘度を前述の範囲とすることにより、形成される樹脂組成物が良好な耐衝撃性と耐薬品性を有するものになる。また、混錬温度を高めに設定することなく適度な流動性が得られるので、共に使用される添加剤等に熱による影響を与えずに成形が行えるものになる。
【0027】
本明細書中、固有粘度は、フェノール/テトラクロロエタン(質量比:1/1)混合溶媒を用いて30℃で測定したときの値である。
【0028】
ポリエステル樹脂は通常、融点が180〜300℃、好ましくは220〜290℃であり、ガラス転移温度が50〜180℃、好ましくは60〜150℃である。
【0029】
本明細書中、融点は、示差走査熱量計(DSC)による昇温測定時に発現する結晶融解吸熱ピークの終点温度をいうものとする。
【0030】
ガラス転移温度は、融点と同様の測定において、ベースラインが階段状に変化した部分の温度のことをいう。詳しくは、ガラス転移温度は、融点と同様の測定において、階段状に変化している部分の前後の各ベースラインから延長した直線から縦方向に等距離にある直線と、階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度のことをいう。
【0031】
ポリエステル樹脂として、廃棄されたポリエステル樹脂製品を粉砕して得られる樹脂片を用いることができる。特に、固有粘度が上記範囲にあるPETとして、使用済みの廃棄PETボトル等のPET製品の粉砕品も好適に用いることができる。廃棄物として回収されたPET製品であるボトル、シート、衣類、およびこれら成形品を成形した時に出た成形屑や繊維屑などを、適当な大きさに粉砕した樹脂片を使用することができる。中でも、量的に多い飲料用ボトルの粉砕品を好適に使用することができる。PETボトルは一般に、分別回収後、異材質除去、粉砕、洗浄工程を経て大きさ5〜10mmの透明なクリアフレークに再生される。通常、かかるクリアフレークの固有粘度の範囲は概ね0.60〜0.80dl/gである。
【0032】
廃棄されたポリエステル樹脂製品のポリエステル樹脂片は、粉砕して洗浄後、一旦、180℃またはそれ以上260℃未満の温度で混練し、冷却・粉砕して得ることもできる。
【0033】
バージンのポリエステル樹脂はペレット状の形態で市販されているが、これらをガラス転移温度以上の温度でプレスしたり、または押出機等で一旦溶融させ、溶融ストランドを冷却水中でローラーに通して押し潰し、通常のペレタイザーでカッティングしたりすることで、樹脂片として用いることができる。
【0034】
ポリエステル樹脂を樹脂片として用いることにより、樹脂組成物の製造時において混練機への供給を容易にし、また溶融までの混練において、混練装置への負荷が少なくなる。ポリエステル樹脂片の形状としては、例えばフレーク状、ブロック状、粉状及びペレット状などが好ましく、特に好ましい形状はフレーク状である。樹脂片の好ましい最大長は30mm以下であり、より好ましくは20mm以下、さらに好ましくは10mm以下である。最大長が30mmを超える樹脂片が入っていても混練は可能であるが、供給過程で詰まることがあり好ましくない。しかし、供給装置を改善すれば防止できるので本発明の目的を損なわない限り特に制限をしない。
【0035】
A1成分の配合量は、樹脂組成物全量に対して5質量%を超えるが40質量%未満であり、難燃性および機械的性能のさらなる向上の観点から、好ましくは10〜30質量%である。A1成分の配合量が少なすぎると、他の成分の比率が多くなり、流動性が低下し、大型金型への対応ができない。当該配合量が多すぎると、難燃性が低下し、自己消火性がなくなるので本発明の目的を達成できない。また機械的特性、特に衝撃強度が低下する。ポリエステル樹脂は構成単位および/または固有粘度が異なる2種類またはそれ以上のポリエステル樹脂の混合物であってよく、例えばPETとPENの混合物、あるいはPETの一次結合にPEN成分が入っているPETとPENのコポリマーなどがあるが、その場合、それらの合計配合量が上記範囲内であればよい。
【0036】
〔A2成分〕
A2成分としてのポリカーボネート樹脂(以下、PCということがある)は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネートである。その製造方法は、例えば、二価フェノールにホスゲン等のカーボネート前駆体を直接反応させる方法(界面重合法)、又は二価フェノールとジフェニルカーボネート等のカーボネート前駆体とを溶融状態でエステル交換反応させる方法(溶液法)などが知られている。
【0037】
二価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び核にアルキル基やハロゲン原子などが置換しているこれらの誘導体などが挙げられる。特に好適な二価フェノールの代表例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス{(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ)フェニル}スルホンなどが挙げられ、これらは単独又はそれ以上を混合して使用できる。これらの中で、特にビスフェノールAの使用が好ましい。
【0038】
カーボネート前駆体としては、ジフェニルカーボネート、ジトルイルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、ホスゲン等のカルボニルハライド、二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ジフェニルカーボネートを使用する。これらカーボネート前駆体もまた、単独でもよく、また2種またはそれ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ポリカーボネート樹脂は、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンや1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンのような三官能またはそれ以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族又は脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種又はそれ以上を混合した混合物であってもよい。
【0040】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、通常、粘度平均分子量で1×104 〜1×105 程度であるが、本発明で用いるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は10,000〜40,000程度が好ましく、12,000〜35,000が更に好ましい。
【0041】
本明細書中、粘度平均分子量はCBM−20AliteシステムとGPCソフトウェアー(島津製作所社製)によって測定された値である。
【0042】
ポリカーボネート樹脂は通常、ガラス転移温度が120〜290℃、好ましくは140〜270℃である。
【0043】
ポリカーボネート樹脂として、廃棄されたポリカーボネート樹脂製品を粉砕して得られる樹脂片を用いることができる。特に、上記分子量の範囲にあるポリカーボネートとして、廃棄された光ディスク等の粉砕品も好適に用いることができる。CD,CD−R,DVD,MD等の光ディスクや光学レンズを成形加工した時に出る端材や廃棄物となった光ディスクから反射層、記録層等を剥離したものなどを10mm以下の適当な大きさに粉砕した樹脂片であれば特に限定なく、本発明において使用できる。一般に、これら光ディスク用のポリカーボネート樹脂は高流動タイプで、分子量が13,000〜18,000の低分子量のものが用いられている。
【0044】
廃棄されたポリカーボネート樹脂製品のポリカーボネート樹脂片は、粉砕洗浄後、一旦、180℃またはそれ以上260℃未満の温度で混練し、冷却・粉砕して得ることもできる。
【0045】
バージンのポリカーボネート樹脂はペレット状の形態で市販されているが、これらをガラス転移温度以上の温度でプレスしたり、または押出機等で一旦溶融させ、溶融ストランドを冷却水中でローラーに通して押し潰し、通常のペレタイザーでカッティングしたりすることで、樹脂片として用いることができる。
【0046】
ポリカーボネート樹脂を樹脂片として用いることにより、樹脂組成物の製造時において混練機への供給を容易にし、また溶融までの混練において、混練装置への負荷が少なくなる。ポリカーボネート樹脂片の形状としては、例えばフレーク状、ブロック状、粉状及びペレット状などが好ましく、特に好ましい形状はフレーク状である。樹脂片の好ましい最大長は30mm以下であり、より好ましくは20mm以下、さらに好ましくは10mm以下である。最大長が30mmを超える樹脂片が入っていても混練は可能であるが、供給過程で詰まることがあり好ましくない。しかし、供給装置を改善すれば防止できるので本発明の目的を損なわない限り特に制限をしない。
【0047】
A2成分の配合量は、樹脂組成物全量に対して40質量%を超えるが70質量%未満であり、弾性率と難燃性のさらなる向上の観点から、好ましくは50〜60質量%である。A2成分の配合量が少なすぎると、難燃性が低下し、自己消火性がなくなる。また機械的特性、特に衝撃強度、曲げ強度が低下する。当該配合量が多すぎると、流動性が低下し、大型金型への対応ができなくなる。2種またはそれ以上のポリカーボネート樹脂を組み合わせて用いてもよいが、そのときにはA2成分として合計配合量を上記範囲内とする。
【0048】
〔B成分〕
ポリエチレン(PE)の例としては下記を挙げることができる。
(1)低密度ポリエチレン(LDPE)
(2)直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)
(3)高密度ポリエチレン(HDPE)
いずれのポリエチレンでもよいが、好ましくは高密度のHDPEがよい。
【0049】
B成分の配合量は、組成物全量に対して5質量%またはそれ以上15質量%またはそれ以下であり、難燃性および機械的性能のさらなる向上の観点から、好ましくは6質量%またはそれ以上12質量%以下である。B成分の配合量が少なすぎると、機械的特性、特に衝撃強度が低下する。当該配合量が多すぎると、自己消火性が低下するとともに、クラック点が増えるため、衝撃強度が低下する。
【0050】
〔C成分〕
芳香環を有するリン化合物(C成分)としてリン酸エステル化合物を用いる。
【0051】
リン酸エステル化合物は、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、およびホスホン酸のエステル化物等が使用される。
【0052】
亜リン酸エステルの具体例として、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0053】
リン酸エステルの具体例として、例えば、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、トリブチルホスフェート、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0054】
亜ホスホン酸エステルの具体例として、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスホナイト等が挙げられる。
【0055】
ホスホン酸エステルの具体例として、例えば、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸エステル等が挙げられる。
【0056】
リン酸エステル化合物は、亜リン酸、リン酸およびホスホン酸のエステル化物が好ましく、特にリン酸エステルが好ましい。
【0057】
C成分の配合量は、樹脂組成物全量に対して5.0質量%またはそれ以上15質量%またはそれ以下であり、難燃性のさらなる向上の観点から、好ましくは6.0質量%またはそれ以上12質量%またはそれ以下である。C成分の配合量が少なすぎると、難燃性が著しく低下し、樹脂組成物に着火後、空気中で燃焼し続けるので、自己消火性が得られない。また機械的特性、特に曲げ強度、弾性率が低下する。当該配合量が多すぎると、自己消火性が低下し、機械的特性、特に衝撃強度、曲げ強度が低下する。リン酸エステル化合物それぞれは種類および/または相対粘度が異なる2種類またはそれ以上の物質の混合物であってよく、またリン酸エステル化合物を単独でまたは組み合わせて使用してもよい。その場合、それらの合計配合量が上記範囲内であればよい。
【0058】
〔D成分]
D成分として、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、フェノール樹脂、ポリアミド(PA)から選ばれる高分子化合物を用いる。
【0059】
PPSは、いわゆるエンジニアリングプラスチックとして有用なポリフェニレンスルフィドである。PPSは軟化点Tspが240〜300℃、好ましくは240〜290℃のものが使用される。
【0060】
本明細書中、軟化点はDSC7020(セイコーインスツル社製)によって測定された値である。
【0061】
PPSは、知られている通常の方法によって製造したものを用いてもよいし、または市販品として入手したものを用いてもよい。PPSの市販品として、例えば、トレリナ(東レ社製)、PPS(DIC社製)等が入手可能である。
【0062】
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との付加・縮合で得られる高分子物質である。フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、p−アルキルフェノール、p−フェニルフェノール、クロルフェノール、ビスフェノールA、フェノールスルホン酸、レゾルシン等が挙げられる。アルデヒド類としては、例えば、ホルマリン、フルフラール等が挙げられる。
【0063】
フェノール樹脂は、その原料に基づいて、例えば、フェノール・ホルマリン樹脂、クレゾール・ホルマリン樹脂、変性フェノール樹脂、フェノール・フルフラール樹脂、レゾルシン樹脂等が知られている。
【0064】
フェノール・ホルマリン樹脂としては、さらに製造方法に基づき、酸性触媒で前駆物質を製造し、アルカリ触媒で硬化反応を行うノボラック型、アルカリ触媒で前駆物質を製造し、酸触媒で硬化反応を行うレゾール型のものが挙げられる。
【0065】
フェノール樹脂は、フェノール・ホルマリン樹脂、特にノボラック型のフェノール・ホルマリン樹脂が好ましく使用される。
【0066】
フェノール樹脂は、粉末のものでも液状のものでも本発明の目的を達成可能である。好ましいフェノールは、室温で粉末のフェノール樹脂である。秤量時に取り扱い性が優れているためである。そのようなフェノール樹脂の融点は、30℃またはそれ以上150℃またはそれ以下がゴム状重合体の架橋剤として使用可能なので好ましい。さらに好ましくは60℃またはそれ以上、120℃またはそれ以下である。
【0067】
フェノール樹脂は、知られている通常の方法によって製造したものを用いてもよいし、または市販品として入手したものを用いてもよい。フェノール樹脂の市販品として、例えば、PR−HF−3(住友ベークライト社製)、フェノール樹脂SP90(旭有機材工業社製)等が入手可能である。
【0068】
ポリアミド(PA)は、ナイロン樹脂とも呼ばれている樹脂である。PAは、特に制限されず、各種ポリアミドが使用可能である。具体例として、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ドデカラクタムなどラクタム類の開環重合によって得られるポリアミド;6−アミノカプロン酸、1,1−アミノウンデカン酸、1,2−アミノドデカン酸などのアミノ酸から導かれるポリアミド;エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−および1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、メタおよびパラキシリレンジアミンなどの脂肪族、脂環族または芳香族ジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびダイマー酸などの脂肪族、脂環族または芳香族ジカルボン酸、またはそれらの酸ハロゲン化物(例えば酸クロリド)などの酸誘導体とから導かれるポリアミドおよびこれらの共重合ポリアミド;ならびにそれらの混合ポリアミド等が挙げられる。本発明においてはこれらのうち、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とのポリアミド、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)およびこれらのポリアミド原料を主成分とする共重合ポリアミドが有用である。
【0069】
PAは、経済性の観点から一般的なナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン12が好ましい。
【0070】
PAの重合度は特に制限されず、例えば、相対粘度(ポリマー1gを98%濃硫酸100mlに溶解し、25℃で測定)が2.0〜5.0の範囲内にあるポリアミドが使用される。
【0071】
PAの重合方法は特に制限されず、通常は溶融重合法、溶液重合法およびこれらを組合せた方法を採用することができる。
【0072】
PAの市販品として、ナイロン6(東レ社製)、MXD6(三菱ガス化学社製)、ナイロン46(DSMジャパンエンプラ社製)、ザイテル(デュポン社製)等が入手可能である。
【0073】
PPS、フェノール樹脂、PAは単独で使用、もしくは併用しても、いずれでも構わない。
【0074】
D成分の配合量は、組成物全量に対して1.0質量%またはそれ以上10質量%またはそれ以下であり、難燃性および機械的性能のさらなる向上の観点から、好ましくは2.0〜8.0質量%である。D成分の配合量は、特に2質量%またはそれ以上であると、得られる樹脂組成物で製造された成形体は自己消火性となるまた7.0質量%またはそれ以上ではマッチで火をつけても燃えなくなりさらなる難燃性を示す。しかし、含有量が10質量%を超えると、剛性度が低下してくることがある。
【0075】
D成分は、PPSおよびフェノール樹脂それぞれは種類および/または軟化点・融点が異なる2種類またはそれ以上のポリマーの混合物であってよく、またPPSまたはフェノール樹脂を単独でまたは組み合わせて使用してもよい。その場合、それらの合計配合量が上記範囲内であればよい。
【0076】
その他の添加剤
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的が達成される範囲内で、慣用の他の添加剤、例えば、架橋剤、顔料、染料、補強材(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、粘土鉱物、チタン酸カリウム繊維など)、充填剤(酸化チタン、金属粉、木粉、籾殻など)、熱安定剤、酸化劣化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤等を配合することができる。これらの中でも、本発明の樹脂組成物においては、ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂のエステル交換反応や熱分解を抑える観点からも、架橋剤、熱安定剤や酸化劣化防止剤などの安定剤の添加が好適である。
【0077】
架橋剤の配合量は樹脂組成物全量に対して、好ましくは0.01〜0.1質量%であり、更に好ましくは0.01〜0.05質量%である。
【0078】
熱安定剤としては、リン系、ヒンダードフェノール系、アミン系、チオエーテル系等の化合物が使用できる。この中でチオエーテル系が好ましく、チオエーテル系等の化合物としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート〕メタンなどが挙げられる。
【0079】
熱安定剤の配合量は樹脂組成物全量に対して、好ましくは0.001〜1質量%であり、更に好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0080】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本発明の樹脂組成物の製造方法は、少なくとも上記した(A1/A2)〜(D)成分を含む混合組成物(以下、高分子混合物ともいう。)を溶融状態で間隙通過処理することを特徴とする。
【0081】
間隙通過処理とは、高分子混合物を溶融状態で、面間距離xが5mmまたはそれ以下の平行な2つの面の間隙に通過させる処理であり、本発明において当該間隙通過処理を1回またはそれ以上、好ましくは2回またはそれ以上、より好ましくは3回またはそれ以上行う。これによって、高分子混合物に含まれる各成分の十分に均一な混合・分散が達成され、その結果、ハロゲン原子含有難燃剤を含有しなくとも優れた難燃性、特に自己消火性を示し、しかも弾性率、曲げ強度および衝撃強度等の機械的性能が十分に向上した樹脂組成物が得られる。そのような効果は、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体においても得られる。当該間隙通過処理の回数を増やすほど、自己消火性および機械的性能は顕著に向上する。例えば、当該間隙通過処理の回数を1回から2回に増やすと、自己消火性および機械的性能は顕著に向上する。当該間隙通過処理の回数を2回から3回に増やすと、自己消火性および機械的性能はより一層、顕著に向上する。当該間隙通過処理の回数の上限は通常、1000回、特に100回である。高分子混合物を面間距離xが5mmを超える間隙に通過させても、均一な混合・分散は十分に達成できないので、難燃性ならびに弾性率、曲げ強度および衝撃強度等の機械的性能は低下する。たとえ、そのような間隙における高分子混合物の移動方向の距離を長くしても、均一な混合・分散は十分に達成できない。間隙通過処理は、一軸あるいは二軸混練機で混練後に行うことによりその回数を減らすことが可能で、例えば二軸混練機の吐出口に取り付けた装置で間隙通過処理を連続的に行う場合には、3回から10回まで回数を減らすことができる。
【0082】
本発明の効果が得られるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のメカニズムに基づくものと考えられる。溶融状態の高分子混合物が間隙に入るとき、高分子混合物が受ける圧力および高分子混合物の移動速度が大きく変化する。このとき、溶融物に対して剪断作用、伸長作用および折りたたみ作用が有効に働くものと考えられる。そのため、そのような変化を高分子混合物が受けることにより、結果として各成分の十分に均一な混合・分散が有効に達成され、本発明の効果が得られるものと考えられる。
【0083】
間隙通過処理を2回またはそれ以上行う場合、間隙通過処理は、間隙を2ヶ所以上で有する装置において当該間隙を1回ずつ通過させることによって達成されてもよいし、または間隙を1ヶ所だけ有する装置を用いて2回またはそれ以上処理を繰り返すことによって達成されてもよい。連続運転の効率性の観点からは、間隙通過処理は、間隙を2ヶ所以上で有する装置において当該間隙を1回ずつ通過させることによって達成されることが好ましい。
【0084】
1以上の間隙における平行な2つの面間距離xはそれぞれ独立して5mmまたはそれ以下、特に0.05〜5mmであり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点からは、0.5〜5mmが好ましく、より好ましくは0.5〜3mmである。
【0085】
1以上の間隙における高分子混合物の移動方向MDの距離yはそれぞれ独立して2mmまたはそれ以上であればよく、処理の効果のさらなる向上の観点からは、3mmまたはそれ以上が好ましく、より好ましくは5mmまたはそれ以上、さらに好ましくは10mmまたはそれ以上である。距離yの上限値は特に制限されるものではないが、長すぎると、効率が悪いだけでなく、高分子混合物を移動方向MDで移動させるための圧力を大きくする必要があり経済的ではない。よって距離yはそれぞれ独立して2〜100mmが好ましく、より好ましくは3〜50mm、さらに好ましくは5〜30mmである。
【0086】
1以上の間隙における幅方向WDの距離zは特に制限されず、例えば、20mmまたはそれ以上であり、通常は100〜1000mmである。
【0087】
高分子混合物が溶融状態で間隙を通過するときの流速は間隙の断面積1cm2 あたりの値で1g/分以上であればよく、本発明の効果において上限は特に制限はないが、あまり大きくなると装置の設置面積が大きくなり経済的ではない。好ましくは10〜5000g/分、より好ましくは10〜500g/分である。
【0088】
本明細書中、断面積とは、移動方向MDに対する垂直断面における面積を意味するものとする。流速は吐出口から吐出される高分子混合物の吐出量(g/分)を間隙の断面積(cm2 )で除することによって測定できる。
【0089】
間隙通過処理時の高分子混合物の粘度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されず、加熱温度によって制御できる。当該粘度は例えば、1〜10000Pa・sであり、好ましくは10〜8000Pa・sである。高分子混合物の粘度は粘弾性測定装置MARS(ハーケー社製)によって測定された値を用いている。
【0090】
溶融状態の高分子混合物を移動方向MDに移動させるための圧力は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されず、大気圧力との差圧で示される樹脂圧力で0.1MPa以上が好ましい。樹脂圧力は間隙における樹脂の吐出口から1mmまたはそれ以上内側で計測した高分子混合物の圧力であり、圧力計で直接計測することによって測定できる。圧力は高いほど効果的であるが樹脂圧力が高すぎると著しい剪断発熱が生じ、高分子の分解に至る場合があるので、樹脂圧力は500MPaまたはそれ以下が好ましく、より好ましくは50MPaまたはそれ以下である。この樹脂圧力については、良好な物性を示す樹脂組成物(以下、高分子組成物ともいう。)を製造するための目安を示したもので、記載した樹脂圧力以外で本発明の目的を達成できるならばこれに制限を加えるものではない。
【0091】
間隙通過処理時の高分子混合物の温度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されないが、400℃を超える高温度では高分子の分解が生じるので400℃以下が推奨される。また当該高分子混合物温度は、高分子のTg以上の温度であると樹脂圧力が著しく高くならないので好ましい。2種類またはそれ以上の高分子を使用する場合、それらの割合と各Tgから加重平均により算出される値をTgとする。例えば、高分子AのTgがTg(℃)、使用割合がR(%)であり、高分子BのTgがTg(℃)、使用割合がR(%)であるとき(R+R=100)、「(Tg×R/100)+(Tg×R00)」をTgとする。
【0092】
間隙通過処理時の高分子混合物の温度は、当該処理を行う装置の加熱温度を調整することによって制御できる。
【0093】
本発明において通常は、間隙通過処理の直前に、高分子混合物を押出混練機により溶融・混練し、混練後に押し出された溶融状態の高分子混合物に対して間隙通過処理を所定回数で行う。溶融・混練方法は特に制限されず、例えば、剪断力を利用した押出混練機が使用できる。具体的には、例えば、二軸押出混練機KTX30、KTX46(神戸製鋼社製)等のような押出混練機を用いることができる。
【0094】
溶融・混練条件は、特に制限されず、例えばスクリュー回転数は50〜1000rpmが採用可能であり、溶融混練温度は上記した間隙通過処理時の高分子混合物の温度と同様の温度が採用可能である。
【0095】
以下、間隙通過処理を行う高分子組成物の製造装置を示す図面を用いて、間隙通過処理方法について具体的に説明する。そのような高分子組成物の製造装置は、被処理物を流入させるための流入口および処理された物を吐出させるための吐出口を備え、当該流入口と吐出口との間の被処理物の流路において、平行な2つの面の間隙を1ヶ所またはそれ以上で有するものである。
【0096】
例えば、間隙通過処理を1回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)は、間隙2aを有さないこと、および溜まり部1aと溜まり部1bとがそれらの溜まり部の最大高さと同様の高さで連通していること以外、後述する図1に示す装置と同様であるため、当該装置の説明は省略する。
【0097】
例えば、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)の一例を図1に示す。図1(A)は、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置について上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、図1(B)は、図1(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。図1の装置は全体として略直方体形状を有するものである。図1の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2bを通過させることができる。このように図1の装置は押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶこともできる。
【0098】
図1の装置は、具体的には、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの平面からなる間隙を2ヶ所(2a、2b)で有する。通常はさらに、間隙2a、2bそれぞれの直前に断面積が当該間隙の断面積よりも大きい溜まり部1a、1bを有する。処理時において押出混練機から押し出された高分子混合物は溶融状態で、当該押出混練機の押出力に基づいて、図1の装置10Aにおける流入口5から溜まり部1aに流入し、幅方向WDに広がる。次いで、高分子混合物は移動方向MDおよび幅方向WDで連続的に、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらに間隙2bを通過し、吐出口6から吐出される。
【0099】
本明細書中、溜まり部の断面積は、移動方向MDに対する垂直断面における当該溜まり部の最大の断面積を意味する。
【0100】
図1において間隙2a、2bにおける平行な2つの面間距離x、xは前記距離xに相当し、それぞれ独立して前記距離xと同様の範囲内であればよい。
【0101】
図1において間隙2aにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2bにおける移動方向MDの距離yは前記距離yに相当し、それぞれ独立して前記距離yと同様の範囲内であればよい。
【0102】
図1において間隙2a、2bにおける幅方向WDの距離zは前記距離zに相当し、それぞれ独立して前記距離zと同様の範囲内であればよく、通常は共通の値である。
【0103】
図1において溜まり部1a、1bにおける最大高さh、hはそれぞれ、直後の間隙2a、2bの面間距離x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して3〜100mm、好ましくは3〜50mmである。
【0104】
本明細書中、溜まり部の最大高さは、直方体形状の装置の場合、幅方向WDに対する垂直断面における最大高さを意味するものとする。
【0105】
図1において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2aおよび間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bはそれぞれ独立して1.1またはそれ以上、特に1.1〜1000であり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点からは2〜100が好ましく、より好ましくは3〜15である。
【0106】
図1において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mはそれぞれ独立して1mmまたはそれ以上であればよく、連続運転の効率の観点からは、2mmまたはそれ以上が好ましく、より好ましくは5mmまたはそれ以上、さらに好ましくは10mmまたはそれ以上である。距離mおよび距離mの上限値は特に制限されるものではないが、長すぎると、効率が悪いだけでなく、流入口5に連結される押出混練機の押出力を大きくする必要があり経済的ではない。よって距離mおよび距離mはそれぞれ独立して1〜300mmが好ましく、より好ましくは2〜100mm、さらに好ましくは5〜50mmである。
【0107】
また例えば、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)の一例を図2に示す。図2(A)は、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置について上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、図2(B)は、図2(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。図2の装置は全体として略直方体形状を有するものである。図2の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2b、2cを通過させることができる。このように図2の装置もまた押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶことができる。
【0108】
図2の装置は、具体的には、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの平面からなる間隙を3ヶ所(2a、2b、2c)で有する。通常はさらに、間隙2a、2b、2cそれぞれの直前に、断面積が直後の間隙の断面積よりも大きい溜まり部1a、1b、1cを有する。処理時において押出混練機から押し出された高分子混合物は溶融状態で、当該押出混練機の押出力に基づいて、図2の装置10Bにおける流入口5から溜まり部1aに流入し、幅方向WDに広がる。次いで、高分子混合物は移動方向MDおよび幅方向WDで連続的に、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらに間隙2bを通過して溜まり部1cに移動し、最後に間隙2cを通過し、吐出口6から吐出される。
【0109】
図2において間隙2a、2b、2cにおける平行な2つの面間距離x、x、xは前記距離xに相当し、それぞれ独立して前記距離xと同様の範囲内であればよい。図2において間隙2aにおける移動方向MDの距離y、間隙2bにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2cにおける移動方向MDの距離yは前記距離yに相当し、それぞれ独立して前記距離yと同様の範囲内であればよい。
【0110】
図2において間隙2a、2b、2cにおける幅方向WDの距離zは前記距離zに相当し、それぞれ独立して前記距離zと同様の範囲内であればよく、通常は共通の値である。
【0111】
図2において溜まり部1a、1b、1cにおける最大高さh、h、hはそれぞれ、直後の間隙2a、2b、2cの面間距離x、x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して、図1における最大高さh、hと同様の範囲内である。
【0112】
図2において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2a、間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bおよび間隙2cの断面積S2cとその直前の溜まり部1cの最大断面積S1cとの比率S1c/S2cはそれぞれ独立して、図1における比率S1a/S2aおよび比率S1b/S2bと同様の範囲内である。
【0113】
図2において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離m、溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1cにおける移動方向MDの距離mはそれぞれ独立して、図1における距離mおよび距離mと同様の範囲内である。
【0114】
本明細書中、「平行」は、2つの平面の間で達成される平行関係だけでなく、2つの曲面の間で達成される平行関係も含む概念で用いるものとする。すなわち、図1および図2において間隙2a、2b、2cは平行な2つの平面からなっているが、これに制限されるものではなく、例えば、図3に示す間隙2aや図4に示す間隙2a、2b、2cのように、平行な2つの曲面からなっていてもよい。「平行」は、2つの面の関係において、それらの間の距離が一定であることを意味し、装置製造時の精度を考慮して、厳密に「一定」であることを要さず、実質的に「一定」であればよい。従って、「平行」は本発明の目的が達成される範囲内で「略平行」であってよい。略直方体形状の装置において、幅方向WDに対する垂直断面における間隙の形状および位置は幅方向において変わらないものとする。略円柱体形状の装置において、軸を通る断面における間隙の形状および位置は装置の軸を軸とした周方向において変わらないものとする。
【0115】
図3は、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)の一例を示す。図3(A)は、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置について上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、図3(B)は、図3(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。図3の装置は全体として略直方体形状を有するものである。図3の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2bを通過させることができる。このように図3の装置もまた押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶことができる。
【0116】
図3の装置10Cは、間隙2aが平行な2つの曲面からなること以外、図1の装置と同様であるため、図3の装置の詳しい説明を省略する。
【0117】
図4は、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)の一例を示す。図4(A)は、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置の概略見取り図であり、図4(B)は、図4(A)の装置の軸を通るP−Q断面における概略断面図である。図4の装置は全体として略円柱体形状を有し、装置の小型化を可能にする。図4の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2b、2cを通過させることができる。このように図4の装置もまた押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶことができる。
【0118】
図4の装置は、具体的には、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの曲面からなる間隙を3箇所(2a、2b、2c)で有する。通常はさらに、間隙2a、2b、2cそれぞれの直前に、断面積が直後の間隙の断面積よりも大きい溜まり部1a、1b、1cを有する。処理時において押出混練機から押し出された高分子混合物は溶融状態で、当該押出混練機の押出力に基づいて、図4の装置10Dにおける流入口5から溜まり部1aに流入し、半径方向に広がる。次いで、高分子混合物は移動方向MDおよび周方向PDで連続的に、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらに間隙2bを通過して溜まり部1cに移動し、最後に間隙2cを通過し、吐出口6から吐出される。
【0119】
図4において間隙2a、2b、2cにおける平行な2つの面間距離x、x、xは前記距離xに相当し、それぞれ独立して前記距離xと同様の範囲内であればよい。
【0120】
図4において間隙2aにおける移動方向MDの距離y、間隙2bにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2cにおける移動方向MDの距離yは前記距離yに相当し、それぞれ独立して前記距離yと同様の範囲内であればよい。
【0121】
図4において溜まり部1aにおける最大高さhは特に制限されるものではなく、通常は1〜100mm、好ましくは1〜50mmである。
【0122】
図4において溜まり部1b、1cにおける最大高さh、hはそれぞれ、直後の間隙2b、2cの面間距離x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して、図1における最大高さh、hと同様の範囲内である。
【0123】
本明細書中、溜まり部の最大高さは、略円柱体形状の装置の場合、装置の軸を通る断面における直径方向の最大高さを意味するものとする。
【0124】
図4において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2aは1.2またはそれ以上、特に1.2〜10であり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点からは1.2〜7が好ましく、より好ましくは1.2〜5である。
【0125】
図4において間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bおよび間隙2cの断面積S2cとその直前の溜まり部1cの最大断面積S1cとの比率S1c/S2cはそれぞれ独立して、図1における比率S1a/S2aおよび比率S1b/S2bと同様の範囲内である。
【0126】
図4において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離m、溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1cにおける移動方向MDの距離mはそれぞれ独立して、図1における距離mおよび距離mと同様の範囲内である。
【0127】
図1〜図4に記載の装置は、通常、樹脂の混練装置および押出装置の分野で従来から吐出口に取り付けて使用されるダイの製造に使用される材料から製造される。
【0128】
間隙通過処理後は、間隙通過処理された高分子組成物を急冷する。間隙通過処理によって達成された各種成分の十分に均一な混合・分散形態が急冷によって、有効に維持される。
【0129】
急冷は、間隙通過処理によって得られた溶融状態の高分子組成物をそのまま0〜60℃の水に浸漬することによって達成できる。−40℃〜60℃の気体で冷却するか、−40℃〜60℃の金属に接触させることによって、急冷を達成してもよい。急冷は必ずしも行わなければならないというわけではなく、例えば放置冷却するだけでも、各種成分の十分に均一な混合・分散形態は維持できる。冷却された高分子組成物は、次工程での処理を容易にするために、通常、粉砕によってペレットにされる。
【0130】
本発明においては、高分子混合物を間隙通過処理する直前に行われる溶融・混練処理のさらに前に、高分子混合物を構成する全成分を予め混合処理してもよい。例えば、全成分を予め混合処理した後で、間隙通過処理直前の溶融・混練処理を行い、さらにその後で間隙通過処理を所定回数で行う。そのような混合処理の後、溶融・混練処理の直前においては、ポリエステル樹脂の加水分解反応及びポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂のエステル交換反応を抑制させる観点から、高分子混合物を十分に乾燥させることが好ましい。
【0131】
混合方法としては、所定の成分を単に乾式で混合するドライブレンド法を採用してもよいし、または所定の成分を従来の溶融混練方法によって溶融混練、冷却および粉砕する溶融混練法を採用してもよい。溶融混練法を採用する場合、前記と同様の押出混練機が使用可能で、このとき押出混練機は吐出口に従来から知られているダイが取り付けられて使用されてよい。
【0132】
〔樹脂組成物の用途〕
以上の方法で製造された本発明の樹脂組成物は通常、冷却・粉砕されてペレットの形態を有しているので、当該ペレットを、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、吹込成形法、射出圧縮成形法などの各種成形法に適用することによって、任意の形状が付与された成形体を製造できる。ポリエステル樹脂の加水分解反応及びポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂のエステル交換反応を抑制させる観点から、成形前において、樹脂組成物は十分に乾燥させることが好ましい。
【0133】
別法として、間隙通過処理された溶融状態の本発明の樹脂組成物を冷却・粉砕することなく、上記の各種成形法に連続的に適用することによって、任意の形状の成形体を製造することができる。
【0134】
本発明の樹脂組成物は、優れた難燃性、特に自己消火性、ならびに優れた弾性率、曲げ強度および衝撃強度等の機械的性能が活かされる用途の成形材料または構成材料として有用である。そのような用途として、例えば、容器、包装用フィルム、家庭用雑貨、事務機器、AV機器、電気・電子部品、自動車部品などが挙げられる。
【実施例】
【0135】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて説明する。
【0136】
先ず、以下の実施例及び比較例で用いた原材料及び混練装置について説明する。
【0137】
(A1)成分;ポリエステル樹脂
R−PET(回収ポリエチレンテレフタレート);
固有粘度0.68dl/gの使用済みの廃棄PETボトルの大きさ2〜8mmのフレーク状粉砕品(洗浄品)。なお、このPETフレークの昇温速度20℃/分におけるDSC法(セイコーインスツルメント社製DSC7000使用)による結晶融解ピークの終点の温度(融点)は263℃であった。また、同DSC法によるガラス転移温度は69℃であった。
PET;固有粘度0.78dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット。前記同様のDSC法による融点は267℃で、ガラス転移温度は73℃であった。
【0138】
PEN;固有粘度1.1dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂ペレット。前記同様のDSC法による融点は269℃で、ガラス転移温度は113℃であった。
【0139】
(A2)成分;ポリカーボネート樹脂
PC;タフロンA2500(出光石油化学(株)製、分子量約23,500)。前記同様のDSC法によるガラス転移温度は168℃であった。
R−PC(回収ポリカーボネート);分子量約15,000の使用済みの廃棄PCボトルの大きさ2〜8mmのフレーク状粉砕品(洗浄品)。
【0140】
(B)成分;ポリエチレン樹脂
LLDPE;直鎖状低密度ポリエチレン(モアテック;プライムポリマー社製)。MFR 6g/10min、前記同様のDSC法による融点は119℃であった。
【0141】
HDPE;高密度ポリエチレン(ハイゼックス;プライムポリマー社製)。MFR 8g/10min、前記同様のDSC法による融点は134℃であった。
【0142】
(C)成分;芳香族環を有するリン化合物
化合物1;レゾルシノールビスジ2.6キシレニルホスフェート(PX200;大八化学社製)
【0143】
【化1】

【0144】
化合物2;ビスフェノールビスジフェニルホスフェート(CR−741;大八化学社製)
【0145】
【化2】

【0146】
化合物3:レゾルシノールビスフェニルホスフェート(CR−733S;大八化学社製)
【0147】
【化3】

【0148】
(D)成分;
PPS;ポリフェニレンスルフィド(トレリナA900;東レ社製、Tm 278℃)
【0149】
フェノール樹脂(住友ベークライト、PR―717;住友ベークライト、融点95℃、粉末)
【0150】
ナイロン6。アミランCM1017(東レ社製)。融点225℃、溶融粘度1200Pa/s(230℃)
【0151】
〔混練装置〕
混練装置は(株)神戸製鋼所製の減圧ベント付き二軸押出機KTX30を用いた。この装置のシリンダ部は温調ブロックごとにC1〜C9の9ブロックから成り、C1部に原材料供給口を、C3部及びC7部にローターとニーダーのスクリューの組み合わせを配置し、C8にベントを設置した。また、吐出口には所定のダイを取り付けて用いた。いずれのダイを用いる場合においても、以下の条件で混練装置を用いた。
【0152】
シリンダ設定温度:C1〜C2/C3〜C9/ダイ=120/220/250℃。
【0153】
スクリュー回転数:250rpm
ダイA;間隙部を3ヶ所で有する図2に示すダイ
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=10cm2 、移動方向距離m=20mm;
間隙2a;面間距離x=1mm、断面積S2a=6cm2 、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm2 、移動方向距離m=20mm;
間隙2b;面間距離x=1mm、断面積S2b=6cm2 、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1c;最大高さh=10mm、最大断面積S1c=30cm2 、移動方向距離m=20mm;
間隙2c;面間距離x=1mm、断面積S2c=6cm2 、移動方向距離y=30mm
ダイB;間隙部を2ヶ所で有する図1に示すダイ
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=30cm2 、移動方向距離m=50mm;
間隙2a;面間距離x=1mm、断面積S2a=6cm2 、移動方向距離y=10mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm2 、移動方向距離m=50mm;
間隙2b;面間距離x=1mm、断面積S2b=6cm2 、移動方向距離y=10mm、幅方向距離z=300mm
ダイC;間隙部(面間距離=1mm)を1ヶ所で有するダイ。当該ダイは、間隙2aを有しておらず、溜まり部1aと溜まり部1bとが間隙2aの代わりに高さ10mmおよび幅方向距離300mmの連絡路で連通していること以外、図1に示すダイと同様である。
【0154】
ダイD(比較例);間隙部(面間距離=8mm)を1ヶ所で有するダイ。当該ダイは、間隙2aを有しておらず、溜まり部1aと溜まり部1bとが間隙2aの代わりに高さ10mmおよび幅方向距離300mmの連絡路で連通していること、および間隙2bの面間距離xが8mm、断面積S2bが24cm2 であること以外、図1に示すダイと同様である。
【0155】
〔実施例/比較例〕
表1に示す成分を所定の質量分率でV型混合器を用いてドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で100℃、4時間乾燥させた。乾燥させた混合物を二軸混練機の原材料供給口から投入し、吐出量30kg/時および樹脂圧力4MPaの条件にて溶融混練した。詳しくは二軸混練機から吐出された樹脂組成物は溶融状態で、所定のダイに流入口から流入した後、所定の間隙部を通過し、吐出口から吐出した。ダイから吐出した混練物を30℃の水に浸漬することによって急冷し、ペレタイザーによりペレット状に粉砕して、樹脂組成物を得た。
【0156】
得られた樹脂組成物の組成を表1に示す。
【0157】
【表1】

【0158】
〔性能評価〕
(1)樹脂組成物の機械物性
ペレット状樹脂組成物を100℃で4時間乾燥させた後、射出成形機((株)日本製鋼所製、J55ELII)を用いて、シリンダ設定温度280℃、金型温度40℃で、100mm×10mm×4mmの短冊型試験片を成形した。試験片について、ASTM−D256に準拠してIZOD衝撃試験(Uノッチ、R=1mm)を行った。衝撃強度が150(J/m)以上であると本発明において合格レベルと判断される。
【0159】
(2)難燃性試験
ペレット状樹脂組成物を100℃で4時間乾燥させた後、射出成形機((株)日本製鋼所製、J55ELII)を用いて、シリンダ設定温度280℃、金型温度40℃で、UL94V試験に従い、厚さ0.8mmの短冊型試験片を成形した。試験片について、UL94V試験に準拠して難燃性試験を行い、ULの難燃性基準に従ってランクを付けた。ランクがV0であると本発明において合格レベルと判断される。
【0160】
V0:外装筐体に使用可能
V1:一部外装筐体に使用可能
V2:内装材に使用可能
HB:一部内装材に使用可能
【0161】
(3)成形流動性
樹脂組成物を80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機「J55ELII」(日本製鋼所製)を用い、棒流動試験片(流路厚さ1mm、流路幅8mm)にて流動長を評価した。条件は、シリンダ温度280℃、金型温度40℃、射出圧力40MPaとした。流動長が大きいほど流動性が良い。流動長が80(mm)以上であると本発明において合格レベルと判断される。
【0162】
【表2】

【0163】
本発明の実施例1〜15はいずれの特性も優れているが、本発明外の比較例1〜11は少なくとも何れかの特性に問題があることが認められる。
【符号の説明】
【0164】
1a、1b、1c 溜まり部
2a、2b、2c 間隙
5 流入口
6 吐出口
10A、10B、10C、10D 本発明の樹脂組成物の製造装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)5質量%を超え40質量%未満のポリエステル樹脂、(A2)40質量%を超え70質量%未満のポリカーボネート樹脂、(B)5質量%またはそれ以上15質量%またはそれ以下のポリエチレン、(C)5質量%またはそれ以上15質量%またはそれ以下の芳香環を有するリン化合物、および(D)1.0質量%またはそれ以上10質量%またはそれ以下のポリフェニレンスルフィド(PPS)、フェノール樹脂、ポリアミド(PA)から選ばれる高分子化合物を含有する混合組成物を、溶融状態で面間距離が5mm以下の平行な2つの面の間隙を通過させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートの少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂が、廃棄されたポリエチレンテレフタレート樹脂製品を粉砕して得られる樹脂片であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂が、廃棄されたポリカーボネート樹脂製品を粉砕して得られる樹脂片であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法によって造られたことを特徴とする樹脂組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−28795(P2013−28795A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134810(P2012−134810)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】