説明

樹脂被覆鋼管用補修部材及び樹脂被覆鋼管の補修方法

【課題】 樹脂被覆鋼管との密着性が大で、しかも補修時間を短縮できる樹脂被覆鋼管用補修部材を提供する。
【解決手段】 樹脂被覆鋼管用補修部材100は、樹脂被覆鋼管10の円周長よりも大なる全長を有する熱可塑性樹脂シート1と、熱可塑性樹脂シート1の両方の長辺側と一方の短辺側に、少なくとも1条のレーザ光吸収部2a、2b、2cを有し、レーザ光吸収部2a、2bは、前記熱可塑性樹脂シートの長辺側端縁から内側よりに形成されるとともに、レーザ光吸収部2cは、熱可塑性樹脂シート1の一方の短辺側端縁に沿って形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管の防食被覆層の破損箇所や現地で溶接された樹脂被覆鋼管の溶接箇所などに被着される樹脂被覆鋼管用補修部材及びそれを用いた樹脂被覆鋼管の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
埋設ガス配管において、地中に埋設された後の配管の腐食を防止するために、表面をポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のオレフィン系樹脂などで被覆した鋼管が使用されている。特に樹脂被覆鋼管の内径が大きい場合には、取扱いの容易さの点から防食層の表面を例えばポリエチレンなどからなる保護層で被覆した樹脂被覆鋼管が使用されている。この樹脂被覆鋼管同士を接続する場合、鋼管の端部を覆う防食層ならびに保護層を所定の長さだけ剥離して鋼管を剥き出しにしてから溶接される。溶接後は、溶接部が剥き出しにされた鋼管の表面に防食機能を備えた部材を被覆することが行われている。例えば、特許文献1には、熱収縮可能な防食保護層とガス配管の外周面に接着可能な接着層からなり、ガス配管の周囲に巻き付けた時に、重ね代部を確保できるような長さを有し、防食保護層のみによって形成した重ね代部に電熱線を埋設した防食シュリンクシートが記載されている。この防食シュリンクシートは、電熱線に通電することにより、重ね代部において防食保護層同士を融着して一体化し、その後ガスバーナ等を用いて防食保護層の全体を加熱することにより、防食保護層を熱収縮させ、可塑化した接着層を防食保護層とガス配管との間に充填させることにより、優れた防食効果を得ようとするものである。しかるに特許文献1に記載された防食シュリンクシートによれば、防食シュリンクシートをガス配管に巻き付けてから、電熱線へ通電し、その後全体を加熱するので、施工時間が長くなるという問題がある。また、電熱線が埋設されていないシュリンクシートの端部では、隙間が生じて、この隙間から水分が浸透し、さらにこの隙間を起点とする剥がれが発生するという問題がある。
【0003】
樹脂部材同士を接合する手法としては、上記の電熱線を埋め込んだ樹脂シートを使用する代わりに、積層された複数個の樹脂部材(例えば樹脂板)同士を重ね合せ、その上からレーザ光を照射することが検討されている。例えば、特許文献2には、レーザ光透過性材料で形成された3枚以上の樹脂板を積層し、重なり合う樹脂部材の間にレーザ光吸収材を、樹脂部材積層体の一方の最外層からの一方向のレーザ光により照射されるように部分的に配設し、樹脂部材積層体の一方の最外層からの一方向のレーザ光を各レーザ光吸収材に照射することが記載されている。
【特許文献1】特開平11−207822号公報(第3〜5頁、図1、図2)
【特許文献2】特開2003−136599号公報(第3〜5頁、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載されたレーザ多層接合方法は、原理的には優れたものであるが、樹脂被覆鋼管の補修に適用するためには、いくつかの改良すべき点がある。すなわち、樹脂シートに設けるレーザ光吸収材の位置が適切でないと、施工時間が長くなり、しかも所定の接合強度が得られないという問題がある。またレーザ光吸収材の配列位置が適切でないと、レーザ光で溶着された部分の間に隙間が生じ、接合強度が低下するという問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、樹脂被覆鋼管との密着性が大で、しかも補修時間を短縮することができる樹脂被覆鋼管用補修部材を提供することである。
【0006】
従って、本発明の他の目的は、被補修箇所を速やかに使用可能な状態に修復することができる樹脂被覆鋼管の補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の樹脂被覆鋼管用補修部材は、樹脂被覆鋼管の円周長よりも大なる全長を有する熱可塑性樹脂シートと、前記矩形の熱可塑性樹脂シートの3辺に、少なくとも1条のレーザ光吸収部を有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明において、前記熱可塑性樹脂シートの巻回方向に設けられた前記レーザ光吸収部は、前記熱可塑性樹脂シートの端縁から内側よりに形成されているとともに、前記熱可塑性樹脂シートの軸線方向に設けられた前記レーザ光吸収部は、前記熱可塑性樹脂シートの端縁に沿って形成されていることが好ましい。
【0009】
本発明において、前記各レーザ光吸収部は、0.05〜1mmの幅と0.01〜0.4mmの厚さを有する複数の帯状体であり、かつ前記熱可塑性樹脂シートの各端縁から0.05〜0.4mmの間隔で形成されていてもよい。
【0010】
本発明において、前記熱可塑性樹脂シートは、重ね代部を形成する部分の厚さが端部に向って減少していることが好ましい。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の樹脂被覆鋼管の補修方法は、レーザ光が透過可能な熱可塑性樹脂シートを樹脂被覆鋼管に巻き付けて前記熱可塑性樹脂シートの端部同士を重ね合わせるとともに、前記矩形の熱可塑性樹脂シートの3辺側と前記樹脂被覆鋼管との間、及び/または前記樹脂被覆鋼管の被覆樹脂にレーザ光吸収部を形成し、前記熱可塑性樹脂シートを加圧しながら前記レーザ光吸収部に半導体レーザ光を照射することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の補修部材によれば、熱可塑性樹脂シートの巻き付け方向に沿った両端部においてこの樹脂シートと樹脂被覆鋼管とが密着し、さらに重ね合わせ部においても、熱可塑性樹脂シートの端部同士と樹脂被覆鋼管が相互に密着するので、補修部の水密性を確保することができる。
【0013】
本発明の補修方法によれば、レーザ光が透過可能な熱可塑性樹脂シートを樹脂被覆鋼管に巻き付け、かつ熱可塑性樹脂シートと樹脂被覆鋼管との間にレーザ光吸収部を介在させる。そして、熱可塑性樹脂シートを加圧しながらレーザ光を照射する簡便な作業を行うだけでよい。また、照射後の特別な作業は不要となり、被補修箇所を速やかに使用可能な状態(元の状態)に修復することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の詳細を添付図面により説明する。図1は本発明の第1実施の形態に係わる補修シートの平面図、図9は本発明の第2実施の形態に係わる補修シートの平面図、
図2は図1、図9のA−A線断面を拡大した図、図3は図1、図9の補修部材が巻回された樹脂被覆鋼管の一部を破断した正面図、図4は図3のB−B線断面図、図5は図1、図9の補修部材にレーザ光を照射した状態を模式的に示す断面図、図6は本発明の他の実施の形態に係わる補修部材の平面図、図7は図6のC−C線断面を拡大した図、図8は図6の補修部材にレーザ光を照射した状態を模式的に示す断面図である。また、図1の補修シートは、巻回方向が長辺側、軸線方向が短辺側に設けられている。図9の補修シートは、巻回方向が短辺側、軸線方向が長辺側に設けられている。鋼管の口径が小さい場合には、図9に示す巻回方向が短辺側の補修シートを使用する。鋼管の口径が大きい場合には、図1に示す巻回方向が長辺側の補修シートを使用する。
【0015】
本発明の補修部材100は、図1、図9に示すように、レーザ光を透過し得る材料からなる矩形状(例えば長方形)の熱可塑性樹脂シート1とその長辺方向及び一方の短辺方向に沿って伸びるレーザ光吸収部2a、2b、2cを有する。レーザ光吸収部2a、2bは、各々幅Wa1、Wa2(=Wa1)を有し、長辺側端縁から距離Wb1、Wb2(=Wb1)だけ内側に形成され、またレーザ光吸収部2cは、幅Wを有し、短辺側端縁に沿って形成されている。この熱可塑性樹脂シート1は、図2に示すように、樹脂被覆鋼管(不図示)に巻回された時に、重ね代部(長さL=L−樹脂被覆鋼管の円周長)が形成されるような円周方向の長さLを有すると共に、重ね代部の厚さが連続的(又は段階的)に減少するように形成されている。なお、熱可塑性樹脂シート1の管軸方向の長さ(=幅W)は、補修部(樹脂被覆鋼管の保護層が剥離される部分)の幅よりもやや短く設定される。図1、図9では、Wa2=Wa1、Wb2=Wb1に設定されているが、Wa2とWa1、Wb2とWb1は異なっていてもよい。
【0016】
上記の熱可塑性樹脂シート1は、赤外領域(好ましくは近赤外領域)乃至可視領域にある波長を有するレーザ光が透過し得る材料であればよく、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂などの公知の樹脂で形成することができる。また、熱可塑性樹脂シート1は、例えば弾性率と厚さを適宜選定し、樹脂被覆鋼管に速やかに巻き付け可能なように形成され、特に鋼管を被覆する樹脂と同一または同系統の熱可塑性樹脂で形成することが好ましい。
【0017】
レーザ光吸収部2a、2b、2cは、レーザ光が吸収されるようにするために、可視領域(波長:380〜780nm)に波長をもつ光を選択的に吸収し得る化合物(染料及び顔料)、あるいは近赤外領域(波長:780〜30000nm)に波長をもつ光を吸収する性質の機能性色素が含有される。
【0018】
具体的には、レーザ光吸収部2a、2b、2cを形成するために、熱可塑性樹脂中に以下の顔料、あるいは色素を添加することにより、レーザ光を吸収することが可能である。例えば、セラミックブラック、酸化鉄(無機顔料)、カーボンブラック、ボーンブラック(有機顔料)等の黒色顔料、クロムエロー、セラミックエロー、ジンククロメートエロー(無機顔料)、ニッケルアゾグリーンエロー(有機顔料)等の黄色顔料、ハイドロクロムオキサイドグリーン、クロムグリーン(無機顔料)、クロミウムオキサイドダルグリーン、フタロシアニングリーン(有機顔料)等の緑色顔料、色素としては黒色顔料、シアニン系色素、フタロシアニン系、チオールニッケル錯体系、インドフェノール金属錯体系、ナフトキノン系、アゾ系、トリアゾールメタン系、分子間型CT色素等の色素を使用することができる。
【0019】
上記の補修部材は、種々の手法で作成することができる。例えば、熱可塑性樹脂シートに、レーザ光吸収材料を含む熱可塑性樹脂からなるテープ(フィルム)を加熱圧着(ヒートプレス)することにより作成される。テープの寸法は、その厚さが0.01〜0.4mmで、その幅(Wa1、Wa2、W)が5〜20mm程度の範囲に収まるようにすればよい。あるいは、テープの代わりにレーザ光を吸収し得る着色剤を含む塗料をテープと同様の厚さ及び幅になるように熱可塑性樹脂シート1の表面にスプレー又は刷毛塗り等の手法により塗布するかあるいはスクリーン印刷などにより形成すればよい。この他、押出機で溶融した状態の熱可塑性樹脂(第1樹脂)をダイにより冷却ロールの上に押出する、溶融押出法により熱可塑性樹脂シートを形成する場合、第1樹脂に対して接着性のある第2樹脂(例えば第1樹脂と同一又は同系統の熱可塑性樹脂)に上記着色剤を配合した熱可塑性樹脂を別の押出機で溶融してから上記ダイの内部(又は出口)で合流する、共押出しの手法によりレーザ光吸収部2a、2b、2cを形成することが可能である。
【0020】
上記の補修部材100による樹脂被覆鋼管10の補修方法を図3〜図5により説明する。図3に示すように、一対の樹脂被覆鋼管10は、例えばポリエチレン被覆鋼管(PLP)の場合は、JIS G 3469で規定された通り、素管(鋼管)11の外周にポリエチレンからなる防食層12が被覆され、その外周に例えばポリエチレンからなる保護層13が被覆された2層被覆構造を有する。防食層12にはレーザ光吸収部2a、2b、2cと同様にレーザ光を吸収する能力を有するレーザ光吸収材料が含まれている。まず樹脂被覆鋼管10の非補修部において、防食層12を所定幅Wだけ剥離し、次いで保護層13を所定幅Wだけ剥離し(但し2W>W>2Wとする)、突き合せ溶接などの手法により素管(鋼管)11の端面同士が溶接部14で接続される。次いでこの溶接部14を覆いかつレーザ光吸収部2a、2b、2cが内側になるように樹脂被覆鋼管10に補修部材100を巻き付けることにより、図4に2点鎖線で示す補修部材100の自由端は他の端部の上に重ねられて、所定長さ(L:図2参照)の重ね合せ部が形成される。
【0021】
補修部材100の周囲に配置されたレーザトーチ3を、そのスポット径をWa2と同等の大きさになるように設定して、その対応する部分にレーザ光を照射しながら円周方向に走査することにより、熱可塑性樹脂シート1を透過したレーザ光が熱可塑性樹脂シート1と防食層12との界面に到達すると、防食層12にレーザ光が吸収されて溶着部が形成される。次いで、レーザトーチ3を熱可塑性樹脂シート1の内側に移動させる。そして、レーザトーチ3を、そのスポット径がWa2と同等の大きさになるように設定して、レーザ光吸収部2aに対応する部分にレーザ光を照射しながら円周方向に走査することにより、熱可塑性樹脂シート1を透過したレーザ光がレーザ光吸収部2aに到達すると、そこにレーザ光が吸収されて溶着部が形成される。
次いで、熱可塑性樹脂シート1の他方の長辺側(レーザ光吸収部2b側)も同様の操作により熱可塑性樹脂シート1と防食層12との溶着部が形成される。
なお、熱可塑性樹脂シート1の長辺側(2a、2b側)の重ね代部においては、図5に示すように、上層の熱可塑性樹脂シート1の内部を透過したレーザ光が下層の熱可塑性樹脂シート1に設けられたレーザ光吸収部2a(2b)(図1、図9参照)に到達することにより、熱可塑性樹脂シート1と防食層12との界面に溶着部20が形成され、さらに上層の熱可塑性樹脂シート1の内部を透過したレーザ光がその熱可塑性樹脂シート1に設けられたレーザ光吸収部2a(2b)(図1、図9参照)に到達することにより、熱可塑性樹脂シート1同士の界面に溶着部20が形成される。この時、重ね代部Lの長さにわたってその部分の厚さが先端になるほど薄くしているため、上層の熱可塑性樹脂シート1に照射されたレーザ光は、下層の熱可塑性樹脂シート2を通してレーザ光吸収部に容易に吸収され、被覆樹脂12と補修部材100及び補修部材100同士が溶着される。
【0022】
次いで、熱可塑性樹脂シート1の重ね代部においては、レーザトーチ3を、そのスポット径がWと同等の大きさになるように設定し、レーザ光吸収部2cに対応する部分にレーザ光を照射しながら軸方向に走査する。その結果として、上層の熱可塑性樹脂シート1を透過したレーザ光がレーザ吸収部2cに到達すると、レーザ光がレーザ光吸収部2cに吸収されて発熱し、上層と下層の熱可塑性樹脂シート1が溶着される。
【0023】
上述したようにレーザ光照射により、熱可塑性樹脂シート1同士及び熱可塑性樹脂シート1と樹脂被覆鋼管10の防食層12とが溶着され、溶接部14に巻き付けられた補修部材100は、その両端部と重ね合せ部とが樹脂被覆鋼管10に融着・一体化されるので、補修部の水密性を確保することができる。
【0024】
上記のレーザ光照射過程では、補修部材100に、レーザ光がしきい値以上の照射強度で照射されることにより、次のような現象が生じて熱可塑性樹脂シート1同士の融着及び最下層にある熱可塑性樹脂シート1と鋼管10の防食層12との融着が行われると推察される。すなわち、樹脂の分子は熱可塑性樹脂シート1同士の界面及びその近傍、また、最下層にある熱可塑性樹脂シート1と鋼管10の防食層12との界面及びその近傍で、レーザ光のエネルギーを吸収して熱に変わり、防食層並びに熱可塑性樹脂が溶融して上記界面の融着(溶融加工)が行われると推察される。
【0025】
上記のレーザとしては、He−Neレーザ及びCu蒸気レーザなどの中性原子の電子エネルギー振動準位を用い、近赤外領域〜可視光領域に発振波長をもつ気体レーザ、例えばルビー(発振波長:0.694μm)、YAG(発振波長:1.064μm)またはガラス(発振波長:1.06μm)などを主体とする母体中の遷移金属または希土類イオンを活性イオンとして、光励起することでレーザ光を発振する固体レーザ、あるいは半導体結晶中の伝導帯と等価電子帯の間の電子遷移に伴う発光を利用する半導体レーザなどを使用することが可能である。これらのレーザの中では、小型でまた駆動電流の制御が高速で光出力の制御が可能な、また発振に必要な電流や電圧を小さくできる半導体レーザが好ましい。
【0026】
半導体レーザには、InCa1−xN、CdCe、InGa1−xAs、InGe1−xAs、GeAl1−xAs、InAs、InSb、PbSn1−xTe等の化合物半導体材料が使用される。そして、組成を変えることにより可視光全域から遠赤外領域(30〜100μm)まで及ぶ発振波長をもつ半導体材料が得られる。現用の半導体レーザは、電流注入により発振されるので、レーザ発振を生じさせるための電流密度を低減させるために、活性層の両側がバンドギャップの大きなクラッド層でサンドイッチされた、ダブルヘテロ構造を備えている。この種の半導体レーザとしては、赤外高出力タイプ(波長:808nmあるいは940nm、出力:〜2kW)、高出力タイプ(波長:780nm、出力:30mWからさらにWオーダーのもの)、また接合寸法が小さい組合せの場合など、数種類の可視光タイプ(波長:635nm、出力:5mWからさらにWオーダーのもの)、(波長:650nm、出力:3mWからさらにWオーダーのもの)、(波長:670nm、出力:10mWからさらにWオーダーのもの)が市販されているので、これらの内から使用条件に適した装置を選定することが可能である。尚、半導体レーザの高出力化は例えば単一素子そのものの出力を高める方法や単一素子を複数スタックして必要な出力にして高める方法などがあり、被接合材料に最適な波長と出力の装置を選定することが可能である。
【0027】
レーザ光を補修シートに照射する場合、補修シート及び樹脂被覆鋼管の防食層のレーザ光吸収係数、表面状態などに応じて、レーザ光の性質(波長、出力、ビームモードなど)や照射条件(加工レンズの焦点距離、焦点スポットのサイズや深度、ノズルの径及び位置、アシストガスの種類や圧力など)を適宜設定すればよい。例えば、照射パワー密度は10〜10(W/m)で、レーザトーチの走査速度は2〜30(mm/s)となるように設定することが好ましい。ビームモードは、シングルモード、低次マルチモード、高次マルチモード、リングモードあるいはピュアモードの中から選択することが好ましい。またビームの形状も、レーザ光の種類によって異なり、直径1〜50mm程度の円形及び楕円形、数十mm角の長方形など多岐にわたっているが、凹凸レンズやプリズムなどを使用して、ビームの拡大あるいは絞込みを行うことにより、実用的な大きさに整えればよい。
【0028】
本発明の補修部材100は、図6及び図7に示す構成にすることができる。例えば、鋼管を被覆する樹脂と同一または同系統の熱可塑性樹脂からなる矩形状(例えば長方形)の熱可塑性樹脂シート1と、その長辺側端縁に沿って形成された幅Wd1、Wd2(=Wd1)を有するレーザ光吸収部2a、2bと、その一方の短辺側端縁に沿って形成された幅Wを有するレーザ光吸収部2cを有する。図7に示すように、各レーザ光吸収部2a、2b、2cは、幅Pを有するバンド状のレーザ光吸収部21、21、…21が所定間隔Pで形成され、平面からみてレーザ光吸収部21、21、…21とレーザ光透過部22、22、…22が交互に並ぶように配置されている。レーザ光吸収部21、21、…21は、例えば0.05〜1mmの幅と0.01〜0.4mmの厚さを有する複数の帯状体である。
【0029】
この熱可塑性樹脂シート1も、樹脂被覆鋼管(不図示)に巻回された時に、重ね代部(長さL=L−鋼管の全長)が形成されるような円周方向の長さLと補修部の幅に応じて定められる幅(管軸方向の長さ)Wを有すると共に、図3に示すように、重ね代部の厚さが連続的(又は段階的)に減少するように形成することが可能である。この熱可塑性樹脂シート2も、図1及び図2に示すものと同様の材料及び手法で形成することができる。さらにレーザ光吸収部21、21、…21の幅Pは、例えば0.05〜1mmで、その間隔P(レーザ光透過部22、22、…22の幅)は、例えば0.05〜0.4mmとなるように設定することが好ましい。図6では、Wd2=Wd1に設定されているが、Wd2とWd1は異なっていてもよい。
【0030】
上記の補修部材100によれば、図3及び図4に示すと同様に樹脂被覆鋼管10に補修部材100を巻き付けた後に、図8に示すようにレーザ光吸収部の全幅(Wd1、Wd2、W)にわたってレーザ光線が照射されるようにスポット径を設定することにより、レーザトーチ3を円周方向に1回ずつ走査を行い、かつ補修部材1の幅方向に走査を行うことで、補修部材1の両端部全周と重ね代部の全幅にわたって2段の融着部20、20を形成することができる。
【0031】
また、本発明によれば、レーザ光を透過し得る材料のみからなる樹脂シートと樹脂被覆鋼管との間にレーザ光吸収性を有するテープを介在させた状態で樹脂被覆鋼管に巻き付け、次いで加圧しながらレーザ光吸収部にレーザ光線が到達するように、レーザ光を照射することによっても補修部材と樹脂被覆鋼管との融着を行うことができる。
さらに、レーザ光吸収部を被覆樹脂の表面、又は内部に設けた樹脂被覆鋼管を使用して補修部材と樹脂被覆鋼管との融着を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係わる補修部材の平面図である。
【図2】図1、図9のA−A線断面を拡大した模式図である。
【図3】図1、図9の補修部材が巻回された樹脂被覆鋼管の一部を模式的に示す断面図である
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】図1、図9の補修部材が巻回された樹脂被覆鋼管にレーザ光を照射した状態を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係わる補修部材の平面図である。
【図7】図1のC−C線断面を拡大した模式図である。
【図8】図6の補修部材が巻回された樹脂被覆鋼管にレーザ光を照射した状態を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の第2実施の形態に係わる補修部材の平面図である。
【符号の説明】
【0033】
100:補修部材、1:熱可塑性樹脂シート、2a、2b、2c、21〜21:レーザ光吸収部、22、22、…22:レーザ光透過部、3:レーザトーチ、10:樹脂被覆鋼管、11:鋼管、12:防食層、13:保護層、14:溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂被覆鋼管の円周長よりも大なる全長を有する熱可塑性樹脂シートと、前記矩形の熱可塑性樹脂シートの3辺に、少なくとも1条のレーザ光吸収部を有することを特徴とする防食鋼管用補修部材。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂シートの巻回方向に設けられた前記レーザ光吸収部は、前記熱可塑性樹脂シートの端縁から内側よりに形成されているとともに、前記熱可塑性樹脂シートの軸線方向に設けられた前記レーザ光吸収部は、前記熱可塑性樹脂シートの端縁に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の防食鋼管用補修部材。
【請求項3】
前記各レーザ光吸収部は、0.05〜1mmの幅と0.01〜0.4mmの厚さを有する複数の帯状体であり、かつ前記熱可塑性樹脂シートの各端縁から0.05〜0.4mmの間隔で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の防食鋼管用補修部材。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂シートは、重ね代部が形成される部分の厚さが端部に向って減少していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防食鋼管用補修部材。
【請求項5】
レーザ光が透過可能な熱可塑性樹脂シートを樹脂被覆鋼管に巻き付けて前記熱可塑性樹脂シートの端部同士を重ね合わせるとともに、前記矩形の熱可塑性樹脂シートの3辺側と前記樹脂被覆鋼管との間、及び/または前記樹脂被覆鋼管の被覆樹脂にレーザ光吸収部を形成し、前記熱可塑性樹脂シートを加圧しながら前記レーザ光吸収部に半導体レーザ光を照射することを特徴とする樹脂被覆鋼管の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−7760(P2006−7760A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152257(P2005−152257)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】