説明

樹脂製ナットおよびすべりねじ装置

【課題】広い温度範囲において耐摩耗性に優れ、トルクが低く、かつコスト的に安価な樹脂製ナットおよびすべりねじ装置の提供を目的とする。
【解決手段】金属製ねじ軸の軸上を無潤滑で摺動しながら相対的に移動する樹脂製ナットにおいて、金属製ねじ軸に螺合するねじ溝部が、ポリフェニレンサルファイド樹脂に少なくとも四フッ化エチレン樹脂と280℃で非溶融の有機樹脂粉末とを配合してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物から形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂製ナットおよび該樹脂製ナットを用いたすべりねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転運動を直線運動に変換するすべりねじ装置は、産業機械の送り装置や位置決め装置などに多用されている。そのなかで樹脂製ナットを用いたすべりねじ装置は、近年光学測定機器、半導体製造装置、医療機器など用途が拡大するとともに、それぞれの装置に応じた仕様や特性が要求されるようになってきている。
【0003】
従来、すべりねじ装置の樹脂製ナットとしては、ポリアセタール樹脂に四フッ化エチレン樹脂(以下、PTFEと略称する)の粉末を分散させて形成された例(特許文献1)、ガラス繊維強化プラスチックで形成された例(特許文献2)、ポリイミド樹脂や縮合多環芳香族樹脂等の潤滑性に優れた熱硬化性樹脂で形成された例(特許文献3)、熱可塑性ポリイミド樹脂に黒鉛等を添加した樹脂組成物で形成された例(特許文献4)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPSと略称する)にウィスカを配合した樹脂組成物で形成された例(特許文献5)等が知られている。
【特許文献1】特公昭54−33347号公報
【特許文献2】特開昭64−26059号公報
【特許文献3】特開平4−203650号公報
【特許文献4】特開平6−193701号公報
【特許文献5】特開2001−116102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂製ナットの用途が拡大するとともに、それぞれの装置に応じた仕様や要求特性および価格に対して従来の樹脂製ナットでは次のような問題がある。
(1)ポリアセタール樹脂にPTFEの粉末や潤滑油を配合した場合、価格的には満足するが、雰囲気温度または摺動部の温度が 100℃をこえるとクリープ変形が発生し、摩耗も著しく大きくなり、使用ができなくなる場合がある。
(2)耐熱性に優れた芳香族ポリイミド樹脂に黒鉛、PTFE等を配合した樹脂組成物では、樹脂が高価であるため、樹脂製ナットの価格が高くなるという問題がある。また、黒鉛が摺動相手のねじ軸に移着し堆積するために、長期間使用した場合には振動・摺動音が発生する場合がある。
(3)芳香族ポリイミド樹脂や縮合多環芳香族樹脂等の潤滑性に優れた熱硬化性樹脂を主成分としても、潤滑性が不十分であり、すべりねじ装置に必要とされる低摩擦、低摩耗、低騒音を満足できないという場合がある。
(4)耐摩耗性を向上させるために、ガラス繊維、炭素繊維などを配合した繊維強化樹脂をナット材とした場合、摩擦せん断力が繊維に集中するため、樹脂表面だけでなく内部にも大きな力が加わる。そのため、往復運動により繊維物が起点となった大きな単位での疲労摩耗が発生する。特にねじ軸をナットが往復運動するすべりねじ装置においては早期に発生する。また、繊維物を配合すると相手のねじ軸を損傷する場合がある。
(5)比較的安価なPPSにウィスカを配合した樹脂組成物によるナットもウィスカが繊維であるため、往復運動により上記疲労摩耗を起こす。また、潤滑性も乏しく、低摩耗性、低騒音のすべりねじ装置が得られないという場合がある。
【0005】
上記問題に加えて、従来から高速化が求められているすべりねじ装置は、省エネルギー、低コストの観点からモータの容量アップを避けてリードを大きくする必要がある。すべり材には速度依存性があるので、高速で摺動することにより摩擦係数が大きくなる。そのため、高速化するためにねじ軸の呼び径の2倍以上のリードにすると、すべり速度が高くなりトルクが増加するため、従来のモータ容量では対応できないという問題がある。さらに、仕様が厳しくなっているためナット材の摩耗量が増加するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、広い温度範囲において耐摩耗性に優れ、トルクが低く、かつコスト的に安価な樹脂製ナットおよびすべりねじ装置の提供を目的とする。
また、ねじ軸の呼び径の2倍以上のリードのような高速タイプとなった場合であっても、低トルクであり、十分な耐摩耗性を有するすべりねじ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る樹脂製ナットは、金属製ねじ軸の軸上を無潤滑で摺動しながら相対的に移動する樹脂製ナットにおいて、前記金属製ねじ軸に螺合するねじ溝部が、ポリフェニレンサルファイド樹脂に少なくとも四フッ化エチレン樹脂と280℃で非溶融の有機樹脂粉末とを配合してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物から形成されてなることを特徴とする。
【0008】
上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物が、さらに該有機樹脂粉末の平均粒径よりも短い繊維長を有するウィスカを配合してなることを特徴とする。
また、上記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、該組成物全体に対して、上記有機樹脂粉末を 3〜30体積%、上記四フッ化エチレン樹脂を 10〜40 体積%配合してなることを特徴とする。
【0009】
また、上記樹脂製ナットに用いられる有機樹脂粉末が熱硬化性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂およびポリエーテルエーテルケトン樹脂の中から選ばれる少なくとも一つの有機樹脂の粉末であることを特徴とする。
また、上記PTFEがモールディングパウダーまたはファインパウダーの少なくとも1種類であることを特徴とする。
また、上記ねじ溝部の凸形状は、軸方向断面が半円形であることを特徴とする。
【0010】
本発明のすべりねじ装置は、金属製ねじ軸と、この金属製ねじ軸の回転に伴い、該金属製ねじ軸の軸上を無潤滑で摺動しながら移動する樹脂製ナットとを備えてなるすべりねじ装置において、上記樹脂製ナットを用いることを特徴とする。
また、すべりねじ装置のリードは、金属製ねじ軸の呼び径の2倍以上を有することを特徴とする。ここでリードとは、ねじ軸1回転あたりのナットの直線運動距離をいう。
また、上記金属製ねじ軸のねじ谷の軸方向断面は、円の中心が異なる二つの円弧の傾斜面で形成されることを特徴とする。
【0011】
樹脂製ナットを形成する樹脂組成物の主成分をPPSとすることにより、十分実用的で使用温度範囲(摺動部温度が−5℃〜150℃)が広く、かつ安価な樹脂製ナットおよびすべりねじ装置が得られる。また、PPSは耐薬品性に優れているため、水中、薬液中などの環境下でも使用可能となる。
PPS組成物に、PTFEを配合することにより、安定した低摩擦特性が得られ、騒音がなく、起動摩擦係数も低くなり、耐摩耗性も向上する。また、γ線照射や焼成などを行なっていないモールディングパウダーやファインパウダーを用いることにより、PPSの溶融混練において繊維化し3次元の網目構造となるため、耐摩耗性が著しく向上する。また、微細化するために摺動面での存在確率も高くなり、極めて安定した低摩擦となる。PTFEは軟質であるため、繊維状となってもガラス繊維、炭素繊維などの硬質な繊維物のように疲労摩耗の原因とはならない。なお、モールディングパウダーはファインパウダーより摺動面での潤滑効果に優れるため特に好ましく使用できる。
【0012】
280℃で非溶融の有機樹脂粉末を配合することにより、樹脂成形体内で粉末状の形態を維持できるので、摺動面において荷重を受け持ち支え、広範囲の温度域において真実接触面積を増加させることがなく低摩擦・低摩耗となる。また、有機樹脂粉末は金属より柔らかいため、相手材を摩耗損傷させることがない。特に熱硬化性ボリイミド樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂の粉末は、熱可塑性樹脂と比較して、物性の温度依存性が小さく、全く溶融することがなく高耐熱性であるため、摺動面温度が高くなっても、荷重分担能力が高く、トルク増加が極めて少ない。また、摺動面で荷重分担の役割を果たす際には局部発熱が生じてしまうが、そのときにも溶融したり、軟化したりすることがない。
【0013】
また、280℃で非溶融の有機樹脂粉末の平均粒径よりも短い繊維長を有するウィスカをさらに配合することにより、摺動面での荷重分担を有機樹脂粉末が行なうため、ウィスカの荷重分担がないため疲労摩耗することなく、ウィスカが有機樹脂紛末の間をミクロ補強する。そのため、樹脂組成物の温度依存性が小さくなり、摺動面温度が高くなっても、トルク増加が極めて少ない。また、摩耗単位も極端に小さくなるため、耐摩耗性が著しく向上する。さらに、射出成形によりナットねじ部を形成する場合は、寸法精度が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る樹脂製ナットは、ねじ軸と螺合する溝部が少なくともPPSにPTFEと280℃で非溶融の有機樹脂粉末とを配合してなるPPS組成物から形成されてなるので、広い温度範囲において低摩擦、低騒音、耐摩耗性に優れ、かつ安価な樹脂製ナットが得られる。
さらに、有機樹脂粉末の平均粒径よりも短い繊維長を有するウィスカを配合してなるので、上記特性に加えてねじ精度の優れた樹脂製ナットが得られる。
【0015】
本発明に係るすべりねじ装置は、上記樹脂製ナットを用いるので、また、ねじ溝部の軸方向断面が半円形であるので、ねじ軸の呼び径の2倍以上のリードであっても低トルクであり、十分な耐摩耗性を有する。また、耐環境性にも優れているため、水中、薬液中などでの使用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のすべりねじ装置を図1により説明する。図1はすべりねじ装置の斜視図である。すべりねじ装置2はねじ軸1と、このねじ軸1のねじ溝に螺合し、このねじ軸上を摺動しながら移動する樹脂製ナット3とから構成され、ねじ軸1の回転運動が樹脂製ナット3の直線運動に変換される。その他に、樹脂製ナット3を同じ位置で回転させることによりねじ軸1に直線運動を付与する使い方もできる。そして、この樹脂製ナット3は、ねじ軸に螺合するねじ溝部が、前記したPPS組成物から形成されている。この場合、金属製のナット本体を射出成形金型に配置した後ねじ溝部を前記PPS組成物でインサート成形しても良く、また、ねじ溝部とナット本体との区別のない射出成形金型を用いて前記PPS組成物で樹脂製ナットを一体に射出成形しても良い。
【0017】
ねじ部形状は、たとえば、ミニチュアねじ、メートル並目ねじ、メートル細目ねじ、ユニファイ並目ねじ、ユニファイ細目ねじ等の三角ねじや、29度台形ねじ、メートル台形ねじ等の台形ねじ、丸ねじであってもよく、あらゆるねじ形状が適用できる。
また、一条ねじ、二条ねじ、もしくは多条ねじであってもよい。
特に、ねじの特性としてねじ軸の呼び径の2倍以上のリードを有するすべりねじ装置2が送りねじの高速化に対応できるため好ましい。
【0018】
本発明にあっては、樹脂製ナットのねじ溝部の凸形状は、軸方向断面が半円形であることがねじ軸との接触面積が少なくなるため好ましい。また、前記樹脂製ナットのねじ溝部の形状と相成ってねじ軸のねじ溝にゴシックアーク形式を採用すれば、寸法精度を確保でき好ましい。
ゴシックアーク形式の軸方向部分拡大断面を図2に示す。ねじ軸1のねじ谷の断面は円の中心が異なる二つの円弧1aおよび1bの傾斜面で形成され、樹脂製ナット3のねじ山の断面は半円形3aで形成される。ねじ谷とねじ山とは相互にC点において線接触となる。
【0019】
ねじ軸1としては、ステンレス鋼、炭素鋼等もしくはこれらに亜鉛メッキ、ニッケルメッキ、鋼質クロムメッキ等を施した鉄系金属、アルミニウム合金などの金属軸やポリイミド、フェノール樹脂などの樹脂軸を用いることができる。ステンレス鋼やアルミニウム合金等の合金類などの耐蝕性金属類または樹脂類は、錆が発生しないので好ましく、防錆処理を省略できる点からも好適である。本発明においては、寸法精度を確保でき、耐久性に優れている耐蝕性金属類が最も好ましい。ねじ軸1は無潤滑での使用が可能であるが、更なる長寿命、低トルクを得るためにグリース・オイルなどの潤滑剤を塗布してもよい。
【0020】
本発明に係る樹脂製ナットを形成するPPSは、化1で示される繰り返し単位からなる周知の重合体であり、分子鎖の状態により架橋型、半架橋型、直鎖型、分岐型等のタイプに分けられる。
【化1】

PPSは、架橋型、半架橋型、直鎖型、分岐型等のいずれも使用することができ、これらをブレンドしたものであってもよい。市販されているPPSとしては、ディーアイシー・イーピー社製T4、T4AG、LN2等、東ソー社製B063、B042、#160などが挙げられる。
【0021】
本発明に使用できる280℃で非溶融の有機樹脂粉末は、PPS成形温度において非溶融の樹脂粉末である。PPSの成形温度は280〜330℃であるので、少なくとも 280℃、好ましくは330℃の温度で溶融しなければ使用できる。
好適な有機樹脂粉末としては、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が挙げられる。好適な有機樹脂の市販品を例示すると、熱硬化性ポリイミド樹脂としては宇部興産社製UIP−R、UIP−S、レンジング社製P84−HT、東レ社製TI3000、熱可塑性ポリイミド樹脂としては三井化学社製オーラム#400、#500が挙げられる。全芳香族ポリエステル樹脂としては住友化学社製スミカスーパーE101S、E101M等が、芳香族ポリアミド樹脂としては日本アラミド社製5010、5011等が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂としてはビクトレックス社製PEEK−150PF、450PF等がそれぞれ挙げられる。なお、これらの有機樹脂粉末は、2種類以上を混合して用いても良い。
これらの中でより好ましい有機樹脂粉末は熱硬化性ポリイミド樹脂粉末および全芳香族ポリエステル樹脂である。
【0022】
有機樹脂粉末の平均粒径は 3〜100μm、好ましくは 5〜50μm である。なぜなら、100μm をこえるまたは 3μm 未満では、荷重分担能力に乏しく、充分な耐摩耗性、低摩擦特性が得られない。
【0023】
本発明に使用できるPTFEとしては、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー等の生のPTFE、あるいは再生PTFEが挙げられる。再生PTFEには熱履歴が加わった熱処理品、γ線または電子線などを照射した照射品がある。これらの中でモールディングパウダーおよびファインパウダーが好ましく、特にモールディングパウダーが最も好ましい。次いで熱処理品の再生PTFEである。その理由は、PPS溶融混練時のせん断によりPTFEが繊維化しやすい順が、ファインパウダー、モールディングパウダー、熱処理品の再生PTFE、照射品の再生PTFEとなるためである。ファインパウダーは微細に繊維化するため、逆に摺動面での潤滑効果が乏しくなる場合がある。一方、再生PTFEは繊維化しない。しかし、内部潤滑効果があり、溶融流動性に優れる利点もある。
【0024】
PPS組成物の配合割合としては、PPS組成物全体に対して、有機樹脂粉末が 3〜30 体積%、好ましくは 5〜20 体積%であり、PTFEが 10〜40 体積%、好ましくは 20〜30 体積%であり、残部がPPSである。なおPPSは 40 体積%以上含まれていることが好ましい。
PPSは 40 体積%以上含まれていることにより、PPS組成物の成形性、強度が向上する。
また、有機樹脂粉末が 3 体積%未満では所要の荷重支持分担能力が得られず、30 体積%をこえると真実接触面積が増加し摩擦係数が高くなる。
また、PTFEが 10 体積%未満では所要の潤滑性、耐摩耗性が得られず、40 体積%をこえると耐摩耗性が低下するとともに、溶融粘度が高く射出成形できない場合もある。
【0025】
PPS組成物には、更に上記有機樹脂粉末の平均粒径よりも短い繊維長を有するウィスカを配合できる。
ウィスカとしては、チタン酸カリウムウィスカ、酸化チタンウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、硫酸マグネシウムウィスカ、ウォラストナイト、ゾノトライト、酸化マグネシウムウィスカなどが挙げられる。これらウィスカの中で有機樹脂粉末の平均粒径よりも短い平均繊維長を有するウィスカが使用できる。ウィスカの繊維長が、有機樹脂粉末の粒径よりも長いと、摺動面においてせん断を受け、添加することにより逆に耐摩耗性が低下する。
【0026】
ウィスカの配合割合は、PPS組成物全体に対して、1〜10 体積%であり、1 体積%未満では耐摩耗性が向上せず、10 体積%をこえると摺動面の露出割合が高くなりせん断を受けるため、耐摩耗性が低下する。
【0027】
なお、この発明の効果を阻害しない程度に、PPS組成物に対して、炭素粉末、酸化鉄、酸化チタン等の着色剤、黒鉛、金属酸化物粉末等の熱伝導性向上剤などの樹脂用添加剤が配合できる。
【0028】
以上の諸原材料を混合し、混練する手段は、特に限定するものではなく、粉末原料のみをヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダー、レディゲミキサー、ウルトラヘンシェルミキサーなどにて乾式混合し、さらに二軸押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレット(顆粒)を得ることができる。また、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。そして、成形方法としては、押出し成形、射出成形、加熱圧縮成形などを採用することができるが、製造効率などの点で射出成形が特に好ましい。また、内径ねじ部はコスト的に成形によって形状を出すことが好ましいが、特に精度を有する場合等は機械加工によるものであってもよい。さらに、成形品に対して物性改善のためにアニール処理等の処理を採用してもよい。
【実施例】
【0029】
実施例および比較例に用いる原材料を一括して以下に示した。なお、原材料に括弧書きした通し番号は、表中の原材料番号と一致させている。
(1)PPS[PPS]:東ソー社製;B−054
(2)熱硬化性ポリイミド樹脂粉末[PI−1]:宇部興産社製;UIP−R(平均粒径 10μm )
(3)熱可塑性ポリイミド樹脂粉末[PI−2]:三井化学社製;オーラム#500(平均粒径 30μm )
(4)全芳香族ポリエステル[OBP]:住友化学社製;スミカスーパーE101S(平均粒径 15μm )
(5)PTFE[PTFE−1]:三井・デュポンフロロケミカル社製;テフロン(登録商標)7J(モールディングパウダー)
(6)PTFE[PTFE−2]:喜多村社製;KT−400H(熱処理再生PTFE)
(7)PTFE[PTFE−3]:喜多村社製:KTL−610(γ線または電子線などの照射再生PTFE)
(8)酸化チタンウィスカ[酸化チタンウィスカ]:石原産業社製;FTL−100(平均繊維長 3〜6μm、繊維径 0.05〜0.1mm )
(9)チタン酸カリウムウィスカ[チタン酸カリウムウィスカ]:大塚化学社製;ティスモN(平均繊維長 10〜20μm、繊維径 0.3〜0.6μm )
(10)炭酸カルシウムウィスカ[炭酸カルシウムウィスカ]:丸尾カルシウム;炭酸カルシウムウィスカ(平均繊維長 20〜30μm、繊維径 0.5〜1μm )
(11)ガラス繊維[GF]:旭ファイバーグラス社製;MF−KAC
【0030】
実施例1〜10、比較例1〜4
原材料を表1および表2に示す配合割合(体積%)でヘンシェル乾式混合機を用いてドライブレンドし、二軸押出し機を用いて溶融混練しペレットを作製した。このペレットから、シリンダー温度270〜310℃、ノズル温度 320℃、金型温度 140℃の条件でナットを射出成形にて作製した。
すべりねじ装置は、下記の仕様とした。リードはねじ軸の呼び径の 3 倍である。
(1)ねじ軸仕様−軸径:φ8mm、リード:24mm、条数:6、ピッチ:4、材質:SUS304
(2)ナット仕様−外径:φ14mm、全長:18mm
【0031】
得られたすべりねじ装置を以下の機能試験により評価した。
機能試験
アキシアル荷重 100N、ねじ軸回転数 8.3s-1( 500rpm )、ストローク 250mm、無潤滑、移動距離 100km で往復運転し、試験前後のアキシアルすきま増加量( mm )、試験後の摩擦トルク(材料間の比較)を測定した。結果を表1および表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1から明らかなように、280℃で非溶融の有機樹脂粉末と、PTFEとをそれぞれ単独にPPSに配合してなる比較例1〜4では、トルクが高く、アキシアルすきま増加量も大きかった。特に繊維状のウィスカ、ガラス繊維を配合してなる比較例3,4は、著しく疲労摩耗した。
これに対して、280℃で非溶融の有機樹脂粉末およびPTFEを所定量配合した実施例1〜7は、低トルクで、耐摩耗性に優れていた。さらに、不溶融の有機樹脂粉末の粒径よりも短繊維長のウィスカを所定量配合した実施例8,9では、アキシアルすきま増加量が小さくなった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】すべりねじ装置の斜視図である。
【図2】ゴシックアーク形式の軸方向部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ねじ軸
2 すべりねじ装置
3 樹脂製ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製ねじ軸の軸上を無潤滑で摺動しながら相対的に移動する樹脂製ナットにおいて、前記金属製ねじ軸に螺合するねじ溝部が、ポリフェニレンサルファイド樹脂に、四フッ化エチレン樹脂と280℃で非溶融の有機樹脂粉末とを配合してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物から形成されてなる樹脂製ナットであって、
前記四フッ化エチレン樹脂がモールディングパウダーまたはファインパウダーの少なくとも1種類であり、
前記有機樹脂粉末が熱硬化性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂およびポリエーテルエーテルケトン樹脂の中から選ばれる少なくとも一つの有機樹脂の粉末であることを特徴とする樹脂製ナット。
【請求項2】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、該組成物全体に対して、前記有機樹脂粉末を 3〜30体積%、前記四フッ化エチレン樹脂を 10〜40 体積%配合してなることを特徴とする請求項1記載の樹脂製ナット。
【請求項3】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物が、さらに該有機樹脂粉末の平均粒径よりも短い繊維長を有するウィスカを配合してなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の樹脂製ナット。
【請求項4】
前記ねじ溝部の凸形状は、軸方向断面が半円形であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項記載の樹脂製ナット。
【請求項5】
金属製ねじ軸と、この金属製ねじ軸の回転に伴い、該金属製ねじ軸の軸上を無潤滑で摺動しながら相対的に移動する樹脂製ナットとを備えてなるすべりねじ装置において、前記樹脂製ナットが請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の樹脂製ナットであることを特徴とするすべりねじ装置。
【請求項6】
前記すべりねじ装置のリードは、金属製ねじ軸の呼び径の2倍以上を有することを特徴とする請求項5記載のすべりねじ装置。
【請求項7】
前記金属製ねじ軸のねじ谷の軸方向断面は、円の中心が異なる二つの円弧の傾斜面で形成されることを特徴とする請求項5または請求項6記載のすべりねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−248247(P2008−248247A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99391(P2008−99391)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【分割の表示】特願2002−35014(P2002−35014)の分割
【原出願日】平成14年2月13日(2002.2.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】