機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法
【課題】回転軸を用いた機上計測において、各種演算により算出された機上計測装置の取り付けられた回転軸の回転中心軸とプローブの先端との距離を基準球計測の結果を基に補正を行う機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法を提供する。
【解決手段】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)の精度を向上させる準備段階において、(X0,Z0)のX,Z値を各々―1nmずつずらし、ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標を求め所定の条件内であるか否か判断し、条件を満たす場合には、(X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了し、条件を満たさない場合には、ずらす度に一定角θ1,θ2での座標から離れるか否か判断し、離れない場合には準備段階の最初へ移行し、離れる場合には異なる方向へずらす第2の準備段階へ移行する。
【解決手段】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)の精度を向上させる準備段階において、(X0,Z0)のX,Z値を各々―1nmずつずらし、ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標を求め所定の条件内であるか否か判断し、条件を満たす場合には、(X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了し、条件を満たさない場合には、ずらす度に一定角θ1,θ2での座標から離れるか否か判断し、離れない場合には準備段階の最初へ移行し、離れる場合には異なる方向へずらす第2の準備段階へ移行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に取り付けられた機上計測装置を用いてワークの形状測定を行う際の機上計測における該機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超精密加工において、ナノメートルオーダーの形状精度を実現するためには、機上計測による補正加工が必要不可欠である。また、最近の機上計測による補正加工を必要とする加工形状は次第に複雑になっており、60度以上の急な傾斜角をもつ形状に対しても、正確にナノ単位の形状精度を実現しなければならない。さらに、同時5軸加工の需要が増えることにより、5軸加工による3次元立体形状の機上計測もこれから必要になると予想される。
【0003】
特許文献1には、従来の直動軸のみによる機上計測に、回転軸を追加して同時5軸加工計測を行うことにより、60度以上の急な傾斜角を持つ形状はもちろん、同時5軸加工による3次元立体形状の機上計測を実現することを特徴とした機上計測装置にて計測対象物の形状を計測するシステムが開示されている。
【0004】
従来は、機上計測装置のプローブが回転軸上に取り付けられ、プローブ先端部が回転軸に直交する平面上で極力回転軸の回転中心に一致するように取り付けて、ノギス、マイクロメータ等の寸法測定装置で再度調整を行う。その後、基準となる対象物(球など)を測定し、プローブ先端部を回転軸の回転中心に近づけるように、ステージ、送りねじ、ハンマー等で微調整を行う。また、回転中心からオフセットしてプローブを取り付ける場合にも同様に調整あるいは微調整を行う。
【0005】
回転軸を追加した機上計測において最も重要であることは、機上計測装置が取り付けられた回転軸の回転中心軸とプローブの先端位置との位置関係を正確に算出することである。その算出のために平面板を用いたプローブ位置取り付け位置算出方法(特願2009−295501号)などの方法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−32373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プローブの取り付け位置の位置関係に誤りがあると、回転計測時のプローブの位置決めができなくなり、ナノメートルオーダーの正確な計測を行うことができない。
しかしながら、従来はプローブの正確な取り付け位置を把握するために、手動で繰り返し調整を行う必要があることから、調整の手間と時間が非常にかかってしまうとともに、調整作業を行なう作業者の調整作業の熟練度に大きく依存する。
【0008】
また、機上計測装置のプローブ取り付け位置の算出方法は演算式により求めることで、計測時のノイズ、誤差などが増幅される恐れがあり、それにより、算出精度が悪化する可能性がある。従って、より高精度の超精密計測のためにはその算出精度を補正する必要がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、回転軸を用いた機上計測において、各種演算により算出された機上計測装置の取り付けられた回転軸の回転中心軸とプローブの先端との距離を基準球計測の結果を基に補正を行う機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る発明は、少なくとも3軸の直動軸と1軸の回転軸を有する工作機械の前記回転軸上に取り付けられた機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法であって、前記3軸の直動軸はそれぞれ直交し、前記直動軸の1つの軸を前記回転軸の方向に合わせ、前記プローブは、前記プローブの移動変位を検出するプローブ位置検出器を有し、前記回転軸の方向と直交する方向に動き、前記プローブの先端に取付けられた測定子の先端を、前記工作機械に設置された基準球にあてて、前記回転軸の回転中心と前記測定子の先端との距離を算出する前記プローブ取り付け位置算出方法において、前記直動軸のうち前記回転軸と直交する方向に動く前記直動軸をそれぞれ第1、第2の直動軸とし、前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置を前記第1および第2の直動軸の座標として予め定義しておく第1のステップと、所定の異なる2つの前記回転軸の角度に対して、基準球の表面に対してプローブの中心軸が垂直になるように前記第1および第2の直動軸を動かして計測する計測プログラムを作成する第2のステップと、作成した前記計測プログラムに従って前記2つの角度にて測定した前記プローブの移動変位データと前記プローブの本来の移動変位データとの誤差を前記2つの角度に対する各々の測定誤差として求める第3のステップと、前記測定誤差が各々0となるような前記第1および第2の直動軸の変位量を前記2つの角度に対する各々の第1の補正量として求める第4のステップと、前記第1の補正量で補正した前記計測プログラムの前記2つの角度に対する前記第1および第2の直動軸の座標を基準座標として、前記直動軸の位置検出分解能を最小単位として所定の範囲内でそれぞれ独立して増減したときの増減量を第2の補正量として前記第1のステップで定義した前記位置を補正した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第5のステップと、前記第5のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が最小となる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第6のステップと、からなる機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法である。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記第5のステップは、前記第1の補正量で補正した前記計測プログラムの前記2つの角度に対する前記第1および第2の直動軸の座標を基準座標として、前記直動軸の位置検出分解能に所定の範囲内の正の整数をかけた値を第2の補正量として前記第1のステップで定義した前記位置から前記第2の補正量を引いた位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第51のステップと、前記第51のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第52のステップと、からなり、さらに、第51および第52のステップにおいて前記誤差が前記所定の誤差以下になることがなかったとき、前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標から前記第2の補正量を引いて前記第1のステップで定義した前記位置の前記第2の直動軸の座標に前記第2の補正量を足した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第53のステップと、前記53のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第54のステップと、からなり、さらに、第51から第54のステップにおいて前記誤差が前記所定の誤差以下になることがなかったとき、前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標に前記第2の補正量を足して前記第1のステップで定義した前記位置の前記第2の直動軸の座標から前記第2の補正量を引いた位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第55のステップと、前記55のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第56のステップと、からなり、さらに、第51から第56のステップにおいて前記測定誤差が前記所定の測定誤差以下になることがなかったとき、前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標に前記第2の補正量を足した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第57のステップと、前記57のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第58のステップと、からなる請求項1に記載の機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法である。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記基準球は、100nm以下の形状精度を有する球であることを特徴とする、請求項1あるいは請求項2に記載の機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、回転軸を用いた機上計測において、各種演算により算出された機上計測装置の取り付けられた回転軸の回転中心軸とプローブの先端との距離を基準球計測の結果を基に補正を行う機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】X軸,Y軸,Z軸の直動軸を有し、X軸上に回転軸であるB軸と、Y軸上に回転軸であるC軸を配置した工作機械の要部を説明する図である。
【図2】機上計測装置の可動部であるプローブの移動変位検出の手段として、リニアスケールとレーザヘッドを有し、プローブを計測対象面に沿って相対的に移動させ、プローブの変位により計測対象物の形状計測を行うことを示す図である。
【図3】機上計測装置を備えた工作機械と該工作機械を制御する数値制御装置を有するシステムを説明する図である。
【図4】機上計測装置が回転軸に取付けられ、曲面を有するワーク面の計測のため、球型測定子であるルビー球を曲面に接触させ、各軸の同時制御により機上計測装置を走査して、機上計測装置の可動軸であるプローブの変位により、機上計測を行うことを説明する図である。
【図5】加工装置が回転軸に取付けられ、球面と工具軸が垂直になるように工作機械の各軸が同時制御されながら加工を行うことを説明する図である。
【図6】加工装置と同じ回転軸上に取付けられた機上計測装置において、図5による加工の後、加工プログラムを元に作成された計測プログラムにより球面とプローブの中心軸が垂直となるように工作機械の各軸が同時制御されながら計測を行うことを説明する図である。
【図7】回転軸であるB軸の面盤上に機上計測装置が取り付けられていて、請求項1においての距離の一例として、B軸回転中心と機上計測装置のプローブの先端との距離に関する定義を説明する図である。
【図8】平面板などの計測により算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)により回転軸を追加した機上計測を行った際の正常軌跡と異常軌跡とを示している。
【図9】図8に示される異常軌跡を正常軌跡にするための理論式とそれにより真のプローブ取り付け位置(X0,Z0)を求めることを示している。
【図10】基準球を計測することにより、平面板計測により算出されたプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる計測の準備段階(第0段階)を説明するアルゴリズムのフローチャートである。
【図11】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第1段階)を説明する図である。
【図12】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第2段階)を説明する図である。
【図13】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第3段階)を説明する図である。
【図14】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第4段階)を説明する図である。
【図15】図7で説明された回転軸中心と機上計測装置のプローブの先端との距離および各種パラメータを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
まず、本発明の概略を説明する。本発明は、回転軸を用いた機上計測において、各種演算により算出された機上計測装置の取り付けられた回転軸の回転中心軸とプローブ先端との距離を基準球計測結果を基に補正し、ナノ単位の超精密回転計測を実現することを特徴とする。
【0016】
具体的には、予めプローブの取り付けられた回転軸の中心に対するプローブの先端の位置をX軸,Z軸の座標として予め定義し、基準球の表面に対してプローブの中心軸が垂直となるようにX軸,Z軸を動かして計測する中心輪郭(基準球)計測プログラムを作成し、作成した中心輪郭(基準球)計測プログラムに従って異なる2つの回転軸の角度θ1、θ2にて測定して得られた基準球計測結果であるプローブの位置データと本来のプローブ位置データとの誤差を測定誤差として求め、前記測定誤差が0(ゼロ)となるように、異なる2つの回転軸の角度θ1、θ2においての前記プローブの先端の各々の位置座標を補正し、次に直線軸の検出分解能の単位でX軸,Z軸の座標をプラスまたはマイナス(図11のステップSB103、図12のステップSB108、図13のステップSB113、または図14のステップSB118の総ずらし量を参照)で補正し、計算により測定誤差を求めて、求めた測定誤差が所望の測定誤差精度以下の内最小の測定誤差となる補正量(総ずらし量)で補正したX軸,Z軸の座標を実際のプローブ先端位置とする。
【0017】
図1は、数値制御装置により制御され、3軸以上の直動軸と1軸以上の回転軸で構成されている工作機械を説明する図である。この工作機械は、X軸,Y軸,Z軸の直動軸を有し、X軸上に回転軸であるB軸と、Y軸上に回転軸であるC軸を有し、5軸同時制御が可能である。各可動軸をナノメートルオーダーで制御することで、ワークの加工をナノメートルオーダーの精度で行うことができる。
【0018】
図2は、機上計測装置の一例を説明する要部断面図である。この機上計測装置1は、可動部であるプローブ1bをケース1aに内蔵して備えている。プローブ1bは図示省略した軸受けによりプローブの中心軸方向に移動可能である。軸受けとしては例えば空気軸受けなどが用いられる。プローブ1bの一端には、球型測定子1fを備えた測定子の棒1eが取り付けられている。測定子の棒1eは細い棒状の部材である。そして、測定子の棒1eの一端はプローブ1bに固定され、他端には球型測定子1fが取り付けられている。球型測定子1fは、計測対象物100の計測対象面100aに接触し、形状計測を行う。プローブ1bを計測対象面100aに沿って移動させ、プローブ1bの変位を計測することによって、計測対象物100の計測対象面100aの表面形状を測定する。
【0019】
機上計測装置1は、ケース1a内にプローブ1bの移動変位検出の手段として、リニアスケール1dとレーザヘッド1cを備える。なお、レーザヘッド1cとリニアスケール1dを用いる変位検出手段は周知である。図2に示されるように、機上計測装置1を計測対象物100の計測対象面100aに沿って移動させ、プローブ1bの変位を移動変位検出手段により検出する。前記移動変位検出手段はプローブ1bの変位を示す移動変位検出信号を出力する(図3参照)。この移動変位検出信号は、機上計測装置1からの計測信号ipfとして、後述するパーソナルコンピュータ11に入力し、機上計測装置1からのプローブ1bの位置情報として格納される。
【0020】
図3は、機上計測装置と工作機械とを連結した一例を説明する図である。工作機械のX,Y,Z,B,C軸の各軸と、回転軸であるB軸に取り付けられた機上計測装置が同じインタフェースを有する。つまり、X,Y,Z,B,C軸はそれぞれ各軸を制御するためのインタフェースを備えている。機上計測装置1は工作機械の可動軸を構成するものではないものの、機上計測装置1を工作機械の可動軸とみなすことによって、工作機械の各可動軸X,Y,Z,B,Cと同様に機上計測装置1から得られる信号が数値制御装置8のサーボ制御部8bを介してパーソナルコンピュータ11に格納される。
【0021】
同じインタフェースを有することによって、各軸からの位置検出信号と機上計測装置からの位置検出信号が、数値制御装置の送り軸駆動制御部に簡単に同期しながら入力され、数値制御装置8とパーソナルコンピュータ11がイーサネット(登録商標)12経由でLAN通信を行ない、外部記憶装置であるパーソナルコンピュータ11に各軸の位置情報と機上計測装置1のプローブの変位が同時に入力され、入力された各軸の位置情報とプローブの変位の保存に計測用ソフトが利用され、計測が行われることについて示している。
【0022】
図3は、機上計測装置からの計測信号を数値制御装置を介してパソコン入力する例を示している。この例では、工作機械の各軸と、回転軸であるB軸に取り付けられた機上計測装置1が同じインタフェースを持つことにより、各軸の位置検出信号と機上計測装置1の計測信号が数値制御装置8の送り軸駆動制御部であるサーボ制御部8bに簡単に同期しながら入力する。
【0023】
機上計測装置1については図2を用いてその一例を説明した。数値制御装置8のサーボ制御部8bには、工作機械の各軸(X軸3、Y軸4、Z軸5、B軸6、C軸7)を駆動するサーボモータに内蔵される位置検出装置(図示を省略)から出力される位置検出信号ipx,ipy,ipz,ipb,ipcがフィードバックされて入力する。同様に、サーボ制御部8bには、被加工物Wの表面形状を測定する機上計測装置1からプローブ1bの移動変位に関する計測信号である位置検出信号ipfがインタフェース2を介して入力する。
【0024】
工作機械の各可動軸の位置検出装置から出力される位置検出信号も図示を省略したインタフェースを介してサーボ制御部8bに入力する。このインタフェースは、サーボモータに内蔵される位置検出装置から出力される位置検出信号と機上計測装置1から出力される計測信号とが、数値制御装置8のサーボ制御部8bに同期して入力するように構成される。
【0025】
また、数値制御装置8は、工作機械の各可動軸の位置情報と機上計測装置1からの計測情報(位置情報)を格納する記憶手段(図示せず)と、この記憶手段に格納された位置情報を外部装置のパーソナルコンピュータ11に送り出すインタフェースを備えている。数値制御装置8が有する記憶手段に格納された計測情報(位置情報)をもとに本発明にかかる機上計測におけるプローブ取り付け位置算出を行える。
【0026】
工作機械の各可動軸からのフィードバック信号である位置検出信号と機上計測装置からの計測信号とが同じ回路構成のインタフェース2を介して数値制御装置8のサーボ制御部8bに取得されることから、各軸の位置検出装置と機上計測装置とからの計測信号(つまり、各軸の軸位置検出信号と機上計測装置の位置検出信号)が、数値制御装置8に簡単に同期して入力される。そして、読み込まれた計測信号は、位置情報として数値制御装置8の記憶手段(図示省略)に格納される。
【0027】
また、数値制御装置8は、外部装置である例えばパーソナルコンピュータ11に、イーサネット(登録商標)12経由でLAN通信を行い、パーソナルコンピュータ11に接続あるいは内蔵される記憶装置11aに、各軸からの位置情報と機上計測装置1からの計測情報とをパーソナルコンピュータ11に送る。パーソナルコンピュータ11は、サンプリング周期毎に各軸からの位置情報と機上計測装置1からの位置情報を記憶装置11aに同期して格納する。
【0028】
パーソナルコンピュータ11内には計測用ソフトウェアが格納されており、数値制御装置8を介して読み込まれた前記位置情報に基づき、被加工物の形状計測など所用の演算処理を実行する。この形状計測などの所要の演算処理は従来技術と同様である。また、パーソナルコンピュータ11には、計測用ソフトウェアが格納されている。
【0029】
図4は、曲面を有するワーク面の計測を説明する図である。機上計測装置1が回転軸に取り付けられ、曲面を有するワーク面の計測のため、球型測定子1fを先端側に備えたプローブ1bの変位により、機上計測を行うことについて示している。なお、測定子の棒1eは記載を省略している。曲面を有するワーク表面の計測のため、球型測定子1fであるルビー球をワーク表面である曲面に接触させ倣いながら移動するように(計測方向:(1)→(2)→(3)→(4)→(5))、各軸の同時制御により機上計測装置1を走査する。そして、機上計測装置1の可動軸であるプローブ1bの変位を検出することにより、ワーク表面の形状を機上計測する。この場合は、プローブ1bの中心軸とワーク面が常に垂直になるように工作機械の各軸が同時制御されるため、理想的にはプローブ1bの中心軸と球型測定子1fの先端とが交わる点のみがワークWの表面に接触するため、従来では不可能であった90度以上の角度に対しても計測が可能である。また、常に一点で計測を行うため、球型測定子1fの形状誤差の影響を最小化することができる。
【0030】
次に、図5と図6を用いて、機上計測装置1と加工工具とが同じ回転軸に搭載された場合の加工および計測の様子を説明する。
図5は、機上計測装置1とスピンドルのような加工装置20とを回転軸に備えた場合の、加工工具による加工を説明する図である。図5は、加工装置20が回転軸に取り付けられ、ワークの球面と工具軸とが垂直になるように工作機械の各軸が同時制御されながら((1)→(2)→(3))加工を行うことを説明している。ワークの加工面に対して工具軸が垂直となるように指令して工作機械に加工させることは従来から行われており、この加工を実行する加工プログラムそれ自体も従来から用いられている加工プログラムである。
【0031】
そして、機上計測装置1を工作機械に搭載することにより、加工用NCプログラムを利用して機上計測装置1を工具の1つとして扱い各軸を同時制御することにより、機上測定装置1が有するプローブ1bの中心軸の方向および球型測定子の位置を制御し、球型測定子1fをワーク表面に接触させて倣い動作させることができる。
【0032】
図6は、機上計測装置1と加工装置20とを回転軸に備えた場合の、機上計測装置1による計測を説明する図である。図6は、加工装置20と同じ回転軸上に取り付けられた機上計測装置1において、図5に示された加工後、加工プログラムを元に作成された計測プログラムにより、ワークの球面とプローブ1bの中心軸とが垂直になるように工作機械の各軸(図1参照)が同時制御されながら((1)→(2)→(3))計測を行うことを説明している。なお、加工プログラムを利用して、機上計測装置1による機上計測を行う際には、工具刃先に対するプローブ1bの中心軸が球型測定子1fと交わる点のオフセット量を加工プログラムに反映して、計測プログラムを作成する。加工プログラムを活用できることから、計測プログラムを最初から作成する手間がなくなる。
【0033】
以上、本発明を適用できる機上計測装置を備えた5軸加工機の一例を説明した。次に、本発明に係る機上計測におけるプローブ取り付け位置算出方法を説明する。
図7は、回転軸中心と機上計測装置のプローブの先端との距離に関する定義を説明する図である。図7では、回転軸であるB軸の面盤上に機上計測装置1が取り付けられていて、B軸回転中心と機上計測装置1のプローブ1bの先端の球型測定子1fとの距離に関する定義を示している。
本発明の回転軸を用いた機上計測は、機上計測装置1が取り付けられた回転軸の回転中心軸と機上計測装置1のプローブ1bの先端に取り付けられている球型測定子1fの各直動軸の距離X0,Z0を簡単にかつ正確に算出することで、機上計測装置1の取り付けおよび取り外しを繰り返してもナノメートルオーダーの超精密計測を実現できる。各直動軸の距離X0,Z0を基に、算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)を得る。
【0034】
図8は、平面板計測などにより算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)により回転軸を追加した機上計測を行った際の正常軌跡と異常軌跡とを示している。平面板計測などにより求めたプローブの取り付け位置(X0,Z0)を基に、所定の半径を有する基準球300に対して回転軸を追加した機上計測を行うと、正常な軌跡の場合図8(a)のようになる。
【0035】
しかし、平面板計測などの時のノイズ、温度ドリフトの発生を避けることが難しく0(ゼロ)にはならず、それらの影響によって測定誤差は算出したプローブの取り付け位置(X0,Z0)を求める演算の中で増幅する。これによって、真のプローブ取り付け位置とは異なる算出結果になる。この真のプローブ取り付け位置と異なる算出したプローブ取り付け位置を基に、基準球300に対して回転軸を追加した機上計測を行うと、図8(b)のように異常な軌跡を描くことになる。
【0036】
図9は、図8に示される異常軌跡を正常軌跡にするための理論式とそれにより真のプローブ取り付け位置(X0,Z0)を求めることを示している。図9(a)は、図8(b)の一点鎖線で示される箇所を拡大した図であり、プローブ1fの中心軸が基準とする位置からθ回転した時の図である。図8(b)に示される異常軌跡の測定誤差ΔZPは、機上計測装置が取り付けられた回転軸の回転角に応じてX,Z軸方向の誤差成分に分離することができる。測定誤差のX成分はΔZP*sinθで表され、測定誤差のZ成分はΔZP*cosθで表される。
【0037】
この誤差成分を計測座標に反映して誤差を相殺すると、正常な軌跡の位置にすることができる。換言すれば、一定回転角において、基準球300の測定誤差分を相殺したプローブ1bの先端に取り付けられた球型測定子1fの先端の空間座標(X,Z,θ)を算出して、その空間座標(X,Z,θ)が得られる算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)を求めれば、それがすなわち真のプローブ取り付け位置になる。なお、基準球300の精度がΔZPの算出に絶対的な影響を及ぼすから、100nm以下の絶対精度のため、基準球300の真円度は100nm以下であるとするとよい。
【0038】
次に、図10〜図14を用いて、基準球300を計測することにより、プローブ取り付け位置の精度を向上させるアルゴリズムを説明する。
図10は、基準球を計測することにより、平面板計測により算出されたプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる計測の準備段階(第0段階)を説明するアルゴリズムのフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA100]算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)で基準球回転計測プログラムを作成する。
●[ステップSA101]基準球の計測を行う。
●[ステップSA102]一定角度θ1,θ2での測定誤差、ΔZP1,ΔZP2を実測する。
●[ステップSA103]誤差補正のための移動距離(ΔX1,ΔZ1),(ΔX2,ΔZ2)を求める。
●[ステップSA104]基準球回転計測プログラムの一定角θ1,θ2での座標(X1,Z1,θ1),(X2,Z2,θ2)をΔZP1,ΔZP2が0になるように、誤差補正のための移動距離で補正する。補正後の座標を(X1’,Z1’,θ1),(X2’,Z2’,θ2)とし、終了する。
【0039】
図11は、基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(Z0,Z0)(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第1段階)を説明する図である。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSB100](X0,Z0)のX,Z値を各々―1nmずつずらす。
●[ステップSB101]ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標(XS1,ZS1,θ1),(XS2,ZS2,θ2)を求める。
●[ステップSB102](X1’,Z1’,θ1)=(XS1,ZS1,θ1)かつ(X2’,Z2’,θ2)=(XS2,ZS2,θ2)であるか否か判断し、条件を満たす場合(YES)にはステップSB103に移行し、条件を満たさない場合(NO)にはステップSB104へ移行する。
●[ステップSB103](X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了する。
●[ステップSB104]ずらす度に、(XS1,ZS1,θ1)は(X1’,Z1’,θ1)から離れ、かつ、(XS2,ZS2,θ2)は(X2’,Z2’,θ2)から離れるか否か判断し、離れない場合にはステップSB100へ移行し、離れる場合にはステップSB105へ移行する(図12参照)。
【0040】
図12は、基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第2段階)を説明する図である。
●[ステップSB105](X0,Z0)のX,Z値を各々―1nm,+1nmずつずらす。
●[ステップSB106]ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標(XS1,ZS1,θ1),(XS2,ZS2,θ2)を求める。
●[ステップSB107](X1’,Z1’,θ1)=(XS1,ZS1,θ1)かつ(X2’,Z2’,θ2)=(XS2,ZS2,θ2)であるか否か判断し、条件を満たす場合(YES)にはステップSB108に移行し、条件を満たさない場合(NO)にはステップSB109へ移行する。
●[ステップSB108](X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了する。
●[ステップSB109]ずらす度に、(XS1,ZS1,θ1)は(X1’,Z1’,θ1)から離れ、かつ、(XS2,ZS2,θ2)は(X2’,Z2’,θ2)から離れるか否か判断し、離れない場合にはステップSB105へ移行し、離れる場合にはステップSB110へ移行する(図13参照)。ここで離れるか離れないかの判断は、(XS1,ZS1,θ1)と(X1’,Z1’,θ1)との距離、および、(XS2,ZS2,θ2)と(X2’,Z2’,θ2)の距離が、ずらし量を変化させた場合に増加するか減少するかで判断できる。
【0041】
図13は、基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第3段階)を説明する図である。
●[ステップSB110](X0,Z0)のX,Z値を各々+1nm,―1nmずつずらす。
●[ステップSB111]ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標(XS1,ZS1,θ1),(XS2,ZS2,θ2)を求める。
●[ステップSB112](X1’,Z1’,θ1)=(XS1,ZS1,θ1)かつ(X2’,Z2’,θ2)=(XS2,ZS2,θ2)であるか否か判断し、条件を満たす場合(YES)にはステップSB113に移行し、条件を満たさない場合(NO)にはステップSB114へ移行する。
●[ステップSB113](X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了する。
●[ステップSB114]ずらす度に、(XS1,ZS1,θ1)は(X1’,Z1’,θ1)から離れ、かつ、(XS2,ZS2,θ2)は(X2’,Z2’,θ2)から離れるか否か判断し、離れない場合にはステップSB110へ移行し、離れる場合にはステップSB115へ移行する(図14参照)。
【0042】
図14は、基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第4段階)を説明する図である。
●[ステップSB115](X0,Z0)のX,Z値を各々+1nm,+1nmずつずらす。
●[ステップSB116]ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標(XS1,ZS1,θ1),(XS2,ZS2,θ2)を求める。
●[ステップSB117](X1’,Z1’,θ1)=(Xs1,ZS1,θ1)かつ(X2’,Z2’,θ2)=(XS2,ZS2,θ2)であるか否か判断し、条件を満たす場合(YES)にはステップSB118に移行し、条件を満たさない場合(NO)にはステップSB119へ移行する。
●[ステップSB118](X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了する。
●[ステップSB119]ずらす度に、(Xs1,ZS1,θ1)は(X1’,Z1’,θ1)から離れ、かつ、(XS2,ZS2,θ2)は(X2’,Z2’,θ2)から離れるか否か判断し、離れない場合にはステップSB115へ移行し、離れる場合にはステップSB120へ移行する。
●[ステップSB120]異常処理を行い、処理を終了する。異常処理としては、プローブの取り付け位置特定不能などの表示をパーソナルコンピュータの表示画面などに表示する。この場合、オペレターは、第0段階の処理から再度行ない、再度、第1〜第4の処理を実行する。
【0043】
上述したフローチャートを補足して説明する。準備段階(第0段階)で行う測定を毎回行ない、毎回、測定誤差を求めると膨大な時間がかかってしまう。そこで、本発明では、実際の誤差の測定は第0段階の準備段階で行う。比較を行うのは計測プログラムの角度θ1とθ2の時の直動軸の座標である。第1段階〜第4段階のおける総ずらし量は、各段階において、各軸方向のずらし量の和である。そして、総ずらし量は、他の段階に移る時に0(ゼロ)にリセットされる。
【0044】
図11のステップSB100、図12のステップSB105、図13のステップSB110、または、図14のステップSB115のずらし量は、超精密計測を想定していることから、機上計測装置1の分解能とした。または、分解能*整数分をずらし量としてもよい。なお、分解能*整数を足すのは、前記回転軸の中心軸に対する測定子の先端の位置(図7参照)、比較を行うのは、2つの角度θ1,θ2に対するX,Yの座標になる。
【0045】
図11のステップSB102、図12のステップSB107、図13のステップSB112、または、図14のステップSB117の判断では、実際には完全に同じにならなくてもよく、許容値(例えば10nm)を設定して、その値以内であれば同じと見なすようにしてもよい。
【0046】
2つの角度θ1,θ2に対するX,Zの座標(Xs1,ZS1,θ1)、(XS2,ZS2,θ2)は、算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)に分解能*整数を足したプローブ取り付け位置を新たな算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)とし、この位置を基に基準球計測プログラムを作成してから求める。基準球計測プログラムは要求されるトレランスを満足するピッチ(角度に関する)間隔で作られた点群計測プログラムである。ここで、θ1,θ2の場合のX,Z座標を各々抽出する。
また、第1段階から第4段階は、どのような順番で行ってもよく、上述した順番に限定されるものではない。
【0047】
ここで、平面板を用いたX0,Z0の求め方を補足して説明する。
図15は、図7で説明された回転軸中心と機上計測装置のプローブの先端との各直動軸方向の距離(X0,Z0)および各種パラメータを説明する図である。プローブ1bの先端に取り付けられた球型測定子1fの半径Rは無視し、プローブ1bの先端の球型測定子1fを半径Rを有しない点として仮定する。B面盤上の回転角が0(プローブ1bがZ軸に平行な場合)のX−Z平面上(図1を参照)でのプローブ1bの先端点である球型測定子1fの位置を推定する。なお、図15では、図2に示される測定子の棒1eや球型測定子1fを省略して全体をプローブ1bとして記載している。
【0048】
なお、球型測定子1fの半径Rを無視する理由を説明すると、球型測定子1fの半径Rがあると回転軸の回転中心からの距離を推定する時に数学的に複雑になるからである。ここで求められる各直動軸方向の距離X0,Z0は球型測定子1fの半径Rを無視することにより、球形状である球型測定子1fの中心とB軸回転中心との距離になる。
次に、B軸回転中心Oと機上計測装置1のプローブ1bの球型測定子1fとの各直動軸方向の距離を求める算出式を説明する。ここでは上述したように、球型測定子1fの半径Rを無視する。B軸の回転角0度(プローブ1bがZ軸に平行な場合)のX−Z平面上でのプローブ1bの先端点の位置を推定する。この時のプローブ1bの先端点のB軸回転中心OからのX軸方向とZ軸方向の距離およびZ軸方向とプローブ1bの先端点のなす角度をX0,Z0,θ0とする。角度θ0から角度θRだけさらに回転すると、θ1とθRとθ0との関係は数1式により表される。また、θ1は数2式により算出できる。なお、数1式から数10式は図15を参照すると理解し易い。
【0049】
【数1】
【0050】
【数2】
【0051】
θ0は数1式と数2式を用いて数3式により表される。
【0052】
【数3】
【0053】
また、数4式と数5式が成り立つ。
【0054】
【数4】
【0055】
【数5】
【0056】
数4式と数5式により数6式が成り立つ。
【0057】
【数6】
【0058】
また、θ0は数7式と数8式の関係が成り立つ。
【0059】
【数7】
【0060】
【数8】
【0061】
数3式〜数8式から数9式および数10式が成り立つ。数9式および数10式から、前記各直動軸方向の距離(X0,Z0)は、X1,Z1,θ0,θRの関数であることがわかる。つまり、X1,Z1,θ0,θRを求めることにより、機上計測におけるプローブ取り付け位置を算出できる。
【0062】
【数9】
【0063】
【数10】
【0064】
そして、プローブの先端に取り付けられた測定子を当てる平面板を前記3軸の直動軸から前記回転軸の方向に合わせた前記直動軸の1つの軸を除いた軸と少なくも交叉するように配置し、直動軸、回転軸を制御することによって、X1,Z1,θ0,θRを求めることができ、数1式〜数10式によって算出されたプローブ取り付け位置(X0,Z0)を求めることができる。
【0065】
なお、X0,Z0は平面板を用いる以外にも、3次元測定装置を用いてプローブの先端位置を測定することによっても求めてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 機上計測装置
1a ケース
1b プローブ
1c レーザヘッド
1d リニアスケール
1e 測定子の棒
1f 球型測定子
2 インタフェース
3 X軸
4 Y軸
5 Z軸
6 B軸
7 C軸
8 数値制御装置
8b サーボ制御部
10 基台
11 パーソナルコンピュータ(パソコン)
11a 記憶装置
12 イーサネット(登録商標)
100 計測対象物
100a 計測対象面
300 基準球
W 被加工物(ワーク)
ipx,ipy,ipz,ipb,ipc 位置検出信号
ipf 計測信号(位置検出信号)
ΔZP 測定誤差
ΔX 測定誤差のX成分
ΔZ 測定誤差のZ成分
(X0,Z0) 算出したプローブ取り付け位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に取り付けられた機上計測装置を用いてワークの形状測定を行う際の機上計測における該機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超精密加工において、ナノメートルオーダーの形状精度を実現するためには、機上計測による補正加工が必要不可欠である。また、最近の機上計測による補正加工を必要とする加工形状は次第に複雑になっており、60度以上の急な傾斜角をもつ形状に対しても、正確にナノ単位の形状精度を実現しなければならない。さらに、同時5軸加工の需要が増えることにより、5軸加工による3次元立体形状の機上計測もこれから必要になると予想される。
【0003】
特許文献1には、従来の直動軸のみによる機上計測に、回転軸を追加して同時5軸加工計測を行うことにより、60度以上の急な傾斜角を持つ形状はもちろん、同時5軸加工による3次元立体形状の機上計測を実現することを特徴とした機上計測装置にて計測対象物の形状を計測するシステムが開示されている。
【0004】
従来は、機上計測装置のプローブが回転軸上に取り付けられ、プローブ先端部が回転軸に直交する平面上で極力回転軸の回転中心に一致するように取り付けて、ノギス、マイクロメータ等の寸法測定装置で再度調整を行う。その後、基準となる対象物(球など)を測定し、プローブ先端部を回転軸の回転中心に近づけるように、ステージ、送りねじ、ハンマー等で微調整を行う。また、回転中心からオフセットしてプローブを取り付ける場合にも同様に調整あるいは微調整を行う。
【0005】
回転軸を追加した機上計測において最も重要であることは、機上計測装置が取り付けられた回転軸の回転中心軸とプローブの先端位置との位置関係を正確に算出することである。その算出のために平面板を用いたプローブ位置取り付け位置算出方法(特願2009−295501号)などの方法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−32373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プローブの取り付け位置の位置関係に誤りがあると、回転計測時のプローブの位置決めができなくなり、ナノメートルオーダーの正確な計測を行うことができない。
しかしながら、従来はプローブの正確な取り付け位置を把握するために、手動で繰り返し調整を行う必要があることから、調整の手間と時間が非常にかかってしまうとともに、調整作業を行なう作業者の調整作業の熟練度に大きく依存する。
【0008】
また、機上計測装置のプローブ取り付け位置の算出方法は演算式により求めることで、計測時のノイズ、誤差などが増幅される恐れがあり、それにより、算出精度が悪化する可能性がある。従って、より高精度の超精密計測のためにはその算出精度を補正する必要がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、回転軸を用いた機上計測において、各種演算により算出された機上計測装置の取り付けられた回転軸の回転中心軸とプローブの先端との距離を基準球計測の結果を基に補正を行う機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る発明は、少なくとも3軸の直動軸と1軸の回転軸を有する工作機械の前記回転軸上に取り付けられた機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法であって、前記3軸の直動軸はそれぞれ直交し、前記直動軸の1つの軸を前記回転軸の方向に合わせ、前記プローブは、前記プローブの移動変位を検出するプローブ位置検出器を有し、前記回転軸の方向と直交する方向に動き、前記プローブの先端に取付けられた測定子の先端を、前記工作機械に設置された基準球にあてて、前記回転軸の回転中心と前記測定子の先端との距離を算出する前記プローブ取り付け位置算出方法において、前記直動軸のうち前記回転軸と直交する方向に動く前記直動軸をそれぞれ第1、第2の直動軸とし、前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置を前記第1および第2の直動軸の座標として予め定義しておく第1のステップと、所定の異なる2つの前記回転軸の角度に対して、基準球の表面に対してプローブの中心軸が垂直になるように前記第1および第2の直動軸を動かして計測する計測プログラムを作成する第2のステップと、作成した前記計測プログラムに従って前記2つの角度にて測定した前記プローブの移動変位データと前記プローブの本来の移動変位データとの誤差を前記2つの角度に対する各々の測定誤差として求める第3のステップと、前記測定誤差が各々0となるような前記第1および第2の直動軸の変位量を前記2つの角度に対する各々の第1の補正量として求める第4のステップと、前記第1の補正量で補正した前記計測プログラムの前記2つの角度に対する前記第1および第2の直動軸の座標を基準座標として、前記直動軸の位置検出分解能を最小単位として所定の範囲内でそれぞれ独立して増減したときの増減量を第2の補正量として前記第1のステップで定義した前記位置を補正した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第5のステップと、前記第5のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が最小となる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第6のステップと、からなる機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法である。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記第5のステップは、前記第1の補正量で補正した前記計測プログラムの前記2つの角度に対する前記第1および第2の直動軸の座標を基準座標として、前記直動軸の位置検出分解能に所定の範囲内の正の整数をかけた値を第2の補正量として前記第1のステップで定義した前記位置から前記第2の補正量を引いた位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第51のステップと、前記第51のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第52のステップと、からなり、さらに、第51および第52のステップにおいて前記誤差が前記所定の誤差以下になることがなかったとき、前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標から前記第2の補正量を引いて前記第1のステップで定義した前記位置の前記第2の直動軸の座標に前記第2の補正量を足した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第53のステップと、前記53のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第54のステップと、からなり、さらに、第51から第54のステップにおいて前記誤差が前記所定の誤差以下になることがなかったとき、前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標に前記第2の補正量を足して前記第1のステップで定義した前記位置の前記第2の直動軸の座標から前記第2の補正量を引いた位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第55のステップと、前記55のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第56のステップと、からなり、さらに、第51から第56のステップにおいて前記測定誤差が前記所定の測定誤差以下になることがなかったとき、前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標に前記第2の補正量を足した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第57のステップと、前記57のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第58のステップと、からなる請求項1に記載の機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法である。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記基準球は、100nm以下の形状精度を有する球であることを特徴とする、請求項1あるいは請求項2に記載の機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、回転軸を用いた機上計測において、各種演算により算出された機上計測装置の取り付けられた回転軸の回転中心軸とプローブの先端との距離を基準球計測の結果を基に補正を行う機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】X軸,Y軸,Z軸の直動軸を有し、X軸上に回転軸であるB軸と、Y軸上に回転軸であるC軸を配置した工作機械の要部を説明する図である。
【図2】機上計測装置の可動部であるプローブの移動変位検出の手段として、リニアスケールとレーザヘッドを有し、プローブを計測対象面に沿って相対的に移動させ、プローブの変位により計測対象物の形状計測を行うことを示す図である。
【図3】機上計測装置を備えた工作機械と該工作機械を制御する数値制御装置を有するシステムを説明する図である。
【図4】機上計測装置が回転軸に取付けられ、曲面を有するワーク面の計測のため、球型測定子であるルビー球を曲面に接触させ、各軸の同時制御により機上計測装置を走査して、機上計測装置の可動軸であるプローブの変位により、機上計測を行うことを説明する図である。
【図5】加工装置が回転軸に取付けられ、球面と工具軸が垂直になるように工作機械の各軸が同時制御されながら加工を行うことを説明する図である。
【図6】加工装置と同じ回転軸上に取付けられた機上計測装置において、図5による加工の後、加工プログラムを元に作成された計測プログラムにより球面とプローブの中心軸が垂直となるように工作機械の各軸が同時制御されながら計測を行うことを説明する図である。
【図7】回転軸であるB軸の面盤上に機上計測装置が取り付けられていて、請求項1においての距離の一例として、B軸回転中心と機上計測装置のプローブの先端との距離に関する定義を説明する図である。
【図8】平面板などの計測により算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)により回転軸を追加した機上計測を行った際の正常軌跡と異常軌跡とを示している。
【図9】図8に示される異常軌跡を正常軌跡にするための理論式とそれにより真のプローブ取り付け位置(X0,Z0)を求めることを示している。
【図10】基準球を計測することにより、平面板計測により算出されたプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる計測の準備段階(第0段階)を説明するアルゴリズムのフローチャートである。
【図11】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第1段階)を説明する図である。
【図12】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第2段階)を説明する図である。
【図13】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第3段階)を説明する図である。
【図14】基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第4段階)を説明する図である。
【図15】図7で説明された回転軸中心と機上計測装置のプローブの先端との距離および各種パラメータを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
まず、本発明の概略を説明する。本発明は、回転軸を用いた機上計測において、各種演算により算出された機上計測装置の取り付けられた回転軸の回転中心軸とプローブ先端との距離を基準球計測結果を基に補正し、ナノ単位の超精密回転計測を実現することを特徴とする。
【0016】
具体的には、予めプローブの取り付けられた回転軸の中心に対するプローブの先端の位置をX軸,Z軸の座標として予め定義し、基準球の表面に対してプローブの中心軸が垂直となるようにX軸,Z軸を動かして計測する中心輪郭(基準球)計測プログラムを作成し、作成した中心輪郭(基準球)計測プログラムに従って異なる2つの回転軸の角度θ1、θ2にて測定して得られた基準球計測結果であるプローブの位置データと本来のプローブ位置データとの誤差を測定誤差として求め、前記測定誤差が0(ゼロ)となるように、異なる2つの回転軸の角度θ1、θ2においての前記プローブの先端の各々の位置座標を補正し、次に直線軸の検出分解能の単位でX軸,Z軸の座標をプラスまたはマイナス(図11のステップSB103、図12のステップSB108、図13のステップSB113、または図14のステップSB118の総ずらし量を参照)で補正し、計算により測定誤差を求めて、求めた測定誤差が所望の測定誤差精度以下の内最小の測定誤差となる補正量(総ずらし量)で補正したX軸,Z軸の座標を実際のプローブ先端位置とする。
【0017】
図1は、数値制御装置により制御され、3軸以上の直動軸と1軸以上の回転軸で構成されている工作機械を説明する図である。この工作機械は、X軸,Y軸,Z軸の直動軸を有し、X軸上に回転軸であるB軸と、Y軸上に回転軸であるC軸を有し、5軸同時制御が可能である。各可動軸をナノメートルオーダーで制御することで、ワークの加工をナノメートルオーダーの精度で行うことができる。
【0018】
図2は、機上計測装置の一例を説明する要部断面図である。この機上計測装置1は、可動部であるプローブ1bをケース1aに内蔵して備えている。プローブ1bは図示省略した軸受けによりプローブの中心軸方向に移動可能である。軸受けとしては例えば空気軸受けなどが用いられる。プローブ1bの一端には、球型測定子1fを備えた測定子の棒1eが取り付けられている。測定子の棒1eは細い棒状の部材である。そして、測定子の棒1eの一端はプローブ1bに固定され、他端には球型測定子1fが取り付けられている。球型測定子1fは、計測対象物100の計測対象面100aに接触し、形状計測を行う。プローブ1bを計測対象面100aに沿って移動させ、プローブ1bの変位を計測することによって、計測対象物100の計測対象面100aの表面形状を測定する。
【0019】
機上計測装置1は、ケース1a内にプローブ1bの移動変位検出の手段として、リニアスケール1dとレーザヘッド1cを備える。なお、レーザヘッド1cとリニアスケール1dを用いる変位検出手段は周知である。図2に示されるように、機上計測装置1を計測対象物100の計測対象面100aに沿って移動させ、プローブ1bの変位を移動変位検出手段により検出する。前記移動変位検出手段はプローブ1bの変位を示す移動変位検出信号を出力する(図3参照)。この移動変位検出信号は、機上計測装置1からの計測信号ipfとして、後述するパーソナルコンピュータ11に入力し、機上計測装置1からのプローブ1bの位置情報として格納される。
【0020】
図3は、機上計測装置と工作機械とを連結した一例を説明する図である。工作機械のX,Y,Z,B,C軸の各軸と、回転軸であるB軸に取り付けられた機上計測装置が同じインタフェースを有する。つまり、X,Y,Z,B,C軸はそれぞれ各軸を制御するためのインタフェースを備えている。機上計測装置1は工作機械の可動軸を構成するものではないものの、機上計測装置1を工作機械の可動軸とみなすことによって、工作機械の各可動軸X,Y,Z,B,Cと同様に機上計測装置1から得られる信号が数値制御装置8のサーボ制御部8bを介してパーソナルコンピュータ11に格納される。
【0021】
同じインタフェースを有することによって、各軸からの位置検出信号と機上計測装置からの位置検出信号が、数値制御装置の送り軸駆動制御部に簡単に同期しながら入力され、数値制御装置8とパーソナルコンピュータ11がイーサネット(登録商標)12経由でLAN通信を行ない、外部記憶装置であるパーソナルコンピュータ11に各軸の位置情報と機上計測装置1のプローブの変位が同時に入力され、入力された各軸の位置情報とプローブの変位の保存に計測用ソフトが利用され、計測が行われることについて示している。
【0022】
図3は、機上計測装置からの計測信号を数値制御装置を介してパソコン入力する例を示している。この例では、工作機械の各軸と、回転軸であるB軸に取り付けられた機上計測装置1が同じインタフェースを持つことにより、各軸の位置検出信号と機上計測装置1の計測信号が数値制御装置8の送り軸駆動制御部であるサーボ制御部8bに簡単に同期しながら入力する。
【0023】
機上計測装置1については図2を用いてその一例を説明した。数値制御装置8のサーボ制御部8bには、工作機械の各軸(X軸3、Y軸4、Z軸5、B軸6、C軸7)を駆動するサーボモータに内蔵される位置検出装置(図示を省略)から出力される位置検出信号ipx,ipy,ipz,ipb,ipcがフィードバックされて入力する。同様に、サーボ制御部8bには、被加工物Wの表面形状を測定する機上計測装置1からプローブ1bの移動変位に関する計測信号である位置検出信号ipfがインタフェース2を介して入力する。
【0024】
工作機械の各可動軸の位置検出装置から出力される位置検出信号も図示を省略したインタフェースを介してサーボ制御部8bに入力する。このインタフェースは、サーボモータに内蔵される位置検出装置から出力される位置検出信号と機上計測装置1から出力される計測信号とが、数値制御装置8のサーボ制御部8bに同期して入力するように構成される。
【0025】
また、数値制御装置8は、工作機械の各可動軸の位置情報と機上計測装置1からの計測情報(位置情報)を格納する記憶手段(図示せず)と、この記憶手段に格納された位置情報を外部装置のパーソナルコンピュータ11に送り出すインタフェースを備えている。数値制御装置8が有する記憶手段に格納された計測情報(位置情報)をもとに本発明にかかる機上計測におけるプローブ取り付け位置算出を行える。
【0026】
工作機械の各可動軸からのフィードバック信号である位置検出信号と機上計測装置からの計測信号とが同じ回路構成のインタフェース2を介して数値制御装置8のサーボ制御部8bに取得されることから、各軸の位置検出装置と機上計測装置とからの計測信号(つまり、各軸の軸位置検出信号と機上計測装置の位置検出信号)が、数値制御装置8に簡単に同期して入力される。そして、読み込まれた計測信号は、位置情報として数値制御装置8の記憶手段(図示省略)に格納される。
【0027】
また、数値制御装置8は、外部装置である例えばパーソナルコンピュータ11に、イーサネット(登録商標)12経由でLAN通信を行い、パーソナルコンピュータ11に接続あるいは内蔵される記憶装置11aに、各軸からの位置情報と機上計測装置1からの計測情報とをパーソナルコンピュータ11に送る。パーソナルコンピュータ11は、サンプリング周期毎に各軸からの位置情報と機上計測装置1からの位置情報を記憶装置11aに同期して格納する。
【0028】
パーソナルコンピュータ11内には計測用ソフトウェアが格納されており、数値制御装置8を介して読み込まれた前記位置情報に基づき、被加工物の形状計測など所用の演算処理を実行する。この形状計測などの所要の演算処理は従来技術と同様である。また、パーソナルコンピュータ11には、計測用ソフトウェアが格納されている。
【0029】
図4は、曲面を有するワーク面の計測を説明する図である。機上計測装置1が回転軸に取り付けられ、曲面を有するワーク面の計測のため、球型測定子1fを先端側に備えたプローブ1bの変位により、機上計測を行うことについて示している。なお、測定子の棒1eは記載を省略している。曲面を有するワーク表面の計測のため、球型測定子1fであるルビー球をワーク表面である曲面に接触させ倣いながら移動するように(計測方向:(1)→(2)→(3)→(4)→(5))、各軸の同時制御により機上計測装置1を走査する。そして、機上計測装置1の可動軸であるプローブ1bの変位を検出することにより、ワーク表面の形状を機上計測する。この場合は、プローブ1bの中心軸とワーク面が常に垂直になるように工作機械の各軸が同時制御されるため、理想的にはプローブ1bの中心軸と球型測定子1fの先端とが交わる点のみがワークWの表面に接触するため、従来では不可能であった90度以上の角度に対しても計測が可能である。また、常に一点で計測を行うため、球型測定子1fの形状誤差の影響を最小化することができる。
【0030】
次に、図5と図6を用いて、機上計測装置1と加工工具とが同じ回転軸に搭載された場合の加工および計測の様子を説明する。
図5は、機上計測装置1とスピンドルのような加工装置20とを回転軸に備えた場合の、加工工具による加工を説明する図である。図5は、加工装置20が回転軸に取り付けられ、ワークの球面と工具軸とが垂直になるように工作機械の各軸が同時制御されながら((1)→(2)→(3))加工を行うことを説明している。ワークの加工面に対して工具軸が垂直となるように指令して工作機械に加工させることは従来から行われており、この加工を実行する加工プログラムそれ自体も従来から用いられている加工プログラムである。
【0031】
そして、機上計測装置1を工作機械に搭載することにより、加工用NCプログラムを利用して機上計測装置1を工具の1つとして扱い各軸を同時制御することにより、機上測定装置1が有するプローブ1bの中心軸の方向および球型測定子の位置を制御し、球型測定子1fをワーク表面に接触させて倣い動作させることができる。
【0032】
図6は、機上計測装置1と加工装置20とを回転軸に備えた場合の、機上計測装置1による計測を説明する図である。図6は、加工装置20と同じ回転軸上に取り付けられた機上計測装置1において、図5に示された加工後、加工プログラムを元に作成された計測プログラムにより、ワークの球面とプローブ1bの中心軸とが垂直になるように工作機械の各軸(図1参照)が同時制御されながら((1)→(2)→(3))計測を行うことを説明している。なお、加工プログラムを利用して、機上計測装置1による機上計測を行う際には、工具刃先に対するプローブ1bの中心軸が球型測定子1fと交わる点のオフセット量を加工プログラムに反映して、計測プログラムを作成する。加工プログラムを活用できることから、計測プログラムを最初から作成する手間がなくなる。
【0033】
以上、本発明を適用できる機上計測装置を備えた5軸加工機の一例を説明した。次に、本発明に係る機上計測におけるプローブ取り付け位置算出方法を説明する。
図7は、回転軸中心と機上計測装置のプローブの先端との距離に関する定義を説明する図である。図7では、回転軸であるB軸の面盤上に機上計測装置1が取り付けられていて、B軸回転中心と機上計測装置1のプローブ1bの先端の球型測定子1fとの距離に関する定義を示している。
本発明の回転軸を用いた機上計測は、機上計測装置1が取り付けられた回転軸の回転中心軸と機上計測装置1のプローブ1bの先端に取り付けられている球型測定子1fの各直動軸の距離X0,Z0を簡単にかつ正確に算出することで、機上計測装置1の取り付けおよび取り外しを繰り返してもナノメートルオーダーの超精密計測を実現できる。各直動軸の距離X0,Z0を基に、算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)を得る。
【0034】
図8は、平面板計測などにより算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)により回転軸を追加した機上計測を行った際の正常軌跡と異常軌跡とを示している。平面板計測などにより求めたプローブの取り付け位置(X0,Z0)を基に、所定の半径を有する基準球300に対して回転軸を追加した機上計測を行うと、正常な軌跡の場合図8(a)のようになる。
【0035】
しかし、平面板計測などの時のノイズ、温度ドリフトの発生を避けることが難しく0(ゼロ)にはならず、それらの影響によって測定誤差は算出したプローブの取り付け位置(X0,Z0)を求める演算の中で増幅する。これによって、真のプローブ取り付け位置とは異なる算出結果になる。この真のプローブ取り付け位置と異なる算出したプローブ取り付け位置を基に、基準球300に対して回転軸を追加した機上計測を行うと、図8(b)のように異常な軌跡を描くことになる。
【0036】
図9は、図8に示される異常軌跡を正常軌跡にするための理論式とそれにより真のプローブ取り付け位置(X0,Z0)を求めることを示している。図9(a)は、図8(b)の一点鎖線で示される箇所を拡大した図であり、プローブ1fの中心軸が基準とする位置からθ回転した時の図である。図8(b)に示される異常軌跡の測定誤差ΔZPは、機上計測装置が取り付けられた回転軸の回転角に応じてX,Z軸方向の誤差成分に分離することができる。測定誤差のX成分はΔZP*sinθで表され、測定誤差のZ成分はΔZP*cosθで表される。
【0037】
この誤差成分を計測座標に反映して誤差を相殺すると、正常な軌跡の位置にすることができる。換言すれば、一定回転角において、基準球300の測定誤差分を相殺したプローブ1bの先端に取り付けられた球型測定子1fの先端の空間座標(X,Z,θ)を算出して、その空間座標(X,Z,θ)が得られる算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)を求めれば、それがすなわち真のプローブ取り付け位置になる。なお、基準球300の精度がΔZPの算出に絶対的な影響を及ぼすから、100nm以下の絶対精度のため、基準球300の真円度は100nm以下であるとするとよい。
【0038】
次に、図10〜図14を用いて、基準球300を計測することにより、プローブ取り付け位置の精度を向上させるアルゴリズムを説明する。
図10は、基準球を計測することにより、平面板計測により算出されたプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる計測の準備段階(第0段階)を説明するアルゴリズムのフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA100]算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)で基準球回転計測プログラムを作成する。
●[ステップSA101]基準球の計測を行う。
●[ステップSA102]一定角度θ1,θ2での測定誤差、ΔZP1,ΔZP2を実測する。
●[ステップSA103]誤差補正のための移動距離(ΔX1,ΔZ1),(ΔX2,ΔZ2)を求める。
●[ステップSA104]基準球回転計測プログラムの一定角θ1,θ2での座標(X1,Z1,θ1),(X2,Z2,θ2)をΔZP1,ΔZP2が0になるように、誤差補正のための移動距離で補正する。補正後の座標を(X1’,Z1’,θ1),(X2’,Z2’,θ2)とし、終了する。
【0039】
図11は、基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(Z0,Z0)(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第1段階)を説明する図である。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSB100](X0,Z0)のX,Z値を各々―1nmずつずらす。
●[ステップSB101]ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標(XS1,ZS1,θ1),(XS2,ZS2,θ2)を求める。
●[ステップSB102](X1’,Z1’,θ1)=(XS1,ZS1,θ1)かつ(X2’,Z2’,θ2)=(XS2,ZS2,θ2)であるか否か判断し、条件を満たす場合(YES)にはステップSB103に移行し、条件を満たさない場合(NO)にはステップSB104へ移行する。
●[ステップSB103](X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了する。
●[ステップSB104]ずらす度に、(XS1,ZS1,θ1)は(X1’,Z1’,θ1)から離れ、かつ、(XS2,ZS2,θ2)は(X2’,Z2’,θ2)から離れるか否か判断し、離れない場合にはステップSB100へ移行し、離れる場合にはステップSB105へ移行する(図12参照)。
【0040】
図12は、基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第2段階)を説明する図である。
●[ステップSB105](X0,Z0)のX,Z値を各々―1nm,+1nmずつずらす。
●[ステップSB106]ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標(XS1,ZS1,θ1),(XS2,ZS2,θ2)を求める。
●[ステップSB107](X1’,Z1’,θ1)=(XS1,ZS1,θ1)かつ(X2’,Z2’,θ2)=(XS2,ZS2,θ2)であるか否か判断し、条件を満たす場合(YES)にはステップSB108に移行し、条件を満たさない場合(NO)にはステップSB109へ移行する。
●[ステップSB108](X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了する。
●[ステップSB109]ずらす度に、(XS1,ZS1,θ1)は(X1’,Z1’,θ1)から離れ、かつ、(XS2,ZS2,θ2)は(X2’,Z2’,θ2)から離れるか否か判断し、離れない場合にはステップSB105へ移行し、離れる場合にはステップSB110へ移行する(図13参照)。ここで離れるか離れないかの判断は、(XS1,ZS1,θ1)と(X1’,Z1’,θ1)との距離、および、(XS2,ZS2,θ2)と(X2’,Z2’,θ2)の距離が、ずらし量を変化させた場合に増加するか減少するかで判断できる。
【0041】
図13は、基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第3段階)を説明する図である。
●[ステップSB110](X0,Z0)のX,Z値を各々+1nm,―1nmずつずらす。
●[ステップSB111]ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標(XS1,ZS1,θ1),(XS2,ZS2,θ2)を求める。
●[ステップSB112](X1’,Z1’,θ1)=(XS1,ZS1,θ1)かつ(X2’,Z2’,θ2)=(XS2,ZS2,θ2)であるか否か判断し、条件を満たす場合(YES)にはステップSB113に移行し、条件を満たさない場合(NO)にはステップSB114へ移行する。
●[ステップSB113](X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了する。
●[ステップSB114]ずらす度に、(XS1,ZS1,θ1)は(X1’,Z1’,θ1)から離れ、かつ、(XS2,ZS2,θ2)は(X2’,Z2’,θ2)から離れるか否か判断し、離れない場合にはステップSB110へ移行し、離れる場合にはステップSB115へ移行する(図14参照)。
【0042】
図14は、基準球を計測することにより、算出したプローブ取り付け位置(B軸回転中心と機上計測装置のプローブの測定子との距離)の精度を向上させる準備段階(第4段階)を説明する図である。
●[ステップSB115](X0,Z0)のX,Z値を各々+1nm,+1nmずつずらす。
●[ステップSB116]ずらした座標を基に基準球計測プログラムを作成して一定角θ1,θ2での座標(XS1,ZS1,θ1),(XS2,ZS2,θ2)を求める。
●[ステップSB117](X1’,Z1’,θ1)=(Xs1,ZS1,θ1)かつ(X2’,Z2’,θ2)=(XS2,ZS2,θ2)であるか否か判断し、条件を満たす場合(YES)にはステップSB118に移行し、条件を満たさない場合(NO)にはステップSB119へ移行する。
●[ステップSB118](X0,Z0)に総ずらし量を加えたものを真のプローブ取り付け位置とし、処理を終了する。
●[ステップSB119]ずらす度に、(Xs1,ZS1,θ1)は(X1’,Z1’,θ1)から離れ、かつ、(XS2,ZS2,θ2)は(X2’,Z2’,θ2)から離れるか否か判断し、離れない場合にはステップSB115へ移行し、離れる場合にはステップSB120へ移行する。
●[ステップSB120]異常処理を行い、処理を終了する。異常処理としては、プローブの取り付け位置特定不能などの表示をパーソナルコンピュータの表示画面などに表示する。この場合、オペレターは、第0段階の処理から再度行ない、再度、第1〜第4の処理を実行する。
【0043】
上述したフローチャートを補足して説明する。準備段階(第0段階)で行う測定を毎回行ない、毎回、測定誤差を求めると膨大な時間がかかってしまう。そこで、本発明では、実際の誤差の測定は第0段階の準備段階で行う。比較を行うのは計測プログラムの角度θ1とθ2の時の直動軸の座標である。第1段階〜第4段階のおける総ずらし量は、各段階において、各軸方向のずらし量の和である。そして、総ずらし量は、他の段階に移る時に0(ゼロ)にリセットされる。
【0044】
図11のステップSB100、図12のステップSB105、図13のステップSB110、または、図14のステップSB115のずらし量は、超精密計測を想定していることから、機上計測装置1の分解能とした。または、分解能*整数分をずらし量としてもよい。なお、分解能*整数を足すのは、前記回転軸の中心軸に対する測定子の先端の位置(図7参照)、比較を行うのは、2つの角度θ1,θ2に対するX,Yの座標になる。
【0045】
図11のステップSB102、図12のステップSB107、図13のステップSB112、または、図14のステップSB117の判断では、実際には完全に同じにならなくてもよく、許容値(例えば10nm)を設定して、その値以内であれば同じと見なすようにしてもよい。
【0046】
2つの角度θ1,θ2に対するX,Zの座標(Xs1,ZS1,θ1)、(XS2,ZS2,θ2)は、算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)に分解能*整数を足したプローブ取り付け位置を新たな算出したプローブ取り付け位置(X0,Z0)とし、この位置を基に基準球計測プログラムを作成してから求める。基準球計測プログラムは要求されるトレランスを満足するピッチ(角度に関する)間隔で作られた点群計測プログラムである。ここで、θ1,θ2の場合のX,Z座標を各々抽出する。
また、第1段階から第4段階は、どのような順番で行ってもよく、上述した順番に限定されるものではない。
【0047】
ここで、平面板を用いたX0,Z0の求め方を補足して説明する。
図15は、図7で説明された回転軸中心と機上計測装置のプローブの先端との各直動軸方向の距離(X0,Z0)および各種パラメータを説明する図である。プローブ1bの先端に取り付けられた球型測定子1fの半径Rは無視し、プローブ1bの先端の球型測定子1fを半径Rを有しない点として仮定する。B面盤上の回転角が0(プローブ1bがZ軸に平行な場合)のX−Z平面上(図1を参照)でのプローブ1bの先端点である球型測定子1fの位置を推定する。なお、図15では、図2に示される測定子の棒1eや球型測定子1fを省略して全体をプローブ1bとして記載している。
【0048】
なお、球型測定子1fの半径Rを無視する理由を説明すると、球型測定子1fの半径Rがあると回転軸の回転中心からの距離を推定する時に数学的に複雑になるからである。ここで求められる各直動軸方向の距離X0,Z0は球型測定子1fの半径Rを無視することにより、球形状である球型測定子1fの中心とB軸回転中心との距離になる。
次に、B軸回転中心Oと機上計測装置1のプローブ1bの球型測定子1fとの各直動軸方向の距離を求める算出式を説明する。ここでは上述したように、球型測定子1fの半径Rを無視する。B軸の回転角0度(プローブ1bがZ軸に平行な場合)のX−Z平面上でのプローブ1bの先端点の位置を推定する。この時のプローブ1bの先端点のB軸回転中心OからのX軸方向とZ軸方向の距離およびZ軸方向とプローブ1bの先端点のなす角度をX0,Z0,θ0とする。角度θ0から角度θRだけさらに回転すると、θ1とθRとθ0との関係は数1式により表される。また、θ1は数2式により算出できる。なお、数1式から数10式は図15を参照すると理解し易い。
【0049】
【数1】
【0050】
【数2】
【0051】
θ0は数1式と数2式を用いて数3式により表される。
【0052】
【数3】
【0053】
また、数4式と数5式が成り立つ。
【0054】
【数4】
【0055】
【数5】
【0056】
数4式と数5式により数6式が成り立つ。
【0057】
【数6】
【0058】
また、θ0は数7式と数8式の関係が成り立つ。
【0059】
【数7】
【0060】
【数8】
【0061】
数3式〜数8式から数9式および数10式が成り立つ。数9式および数10式から、前記各直動軸方向の距離(X0,Z0)は、X1,Z1,θ0,θRの関数であることがわかる。つまり、X1,Z1,θ0,θRを求めることにより、機上計測におけるプローブ取り付け位置を算出できる。
【0062】
【数9】
【0063】
【数10】
【0064】
そして、プローブの先端に取り付けられた測定子を当てる平面板を前記3軸の直動軸から前記回転軸の方向に合わせた前記直動軸の1つの軸を除いた軸と少なくも交叉するように配置し、直動軸、回転軸を制御することによって、X1,Z1,θ0,θRを求めることができ、数1式〜数10式によって算出されたプローブ取り付け位置(X0,Z0)を求めることができる。
【0065】
なお、X0,Z0は平面板を用いる以外にも、3次元測定装置を用いてプローブの先端位置を測定することによっても求めてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 機上計測装置
1a ケース
1b プローブ
1c レーザヘッド
1d リニアスケール
1e 測定子の棒
1f 球型測定子
2 インタフェース
3 X軸
4 Y軸
5 Z軸
6 B軸
7 C軸
8 数値制御装置
8b サーボ制御部
10 基台
11 パーソナルコンピュータ(パソコン)
11a 記憶装置
12 イーサネット(登録商標)
100 計測対象物
100a 計測対象面
300 基準球
W 被加工物(ワーク)
ipx,ipy,ipz,ipb,ipc 位置検出信号
ipf 計測信号(位置検出信号)
ΔZP 測定誤差
ΔX 測定誤差のX成分
ΔZ 測定誤差のZ成分
(X0,Z0) 算出したプローブ取り付け位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3軸の直動軸と1軸の回転軸を有する工作機械の前記回転軸上に取り付けられた機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法であって、前記3軸の直動軸はそれぞれ直交し、前記直動軸の1つの軸を前記回転軸の方向に合わせ、前記プローブは、前記プローブの移動変位を検出するプローブ位置検出器を有し、前記回転軸の方向と直交する方向に動き、前記プローブの先端に取付けられた測定子の先端を、前記工作機械に設置された基準球にあてて、前記回転軸の回転中心と前記測定子の先端との距離を算出する前記プローブ取り付け位置算出方法において、
前記直動軸のうち前記回転軸と直交する方向に動く前記直動軸をそれぞれ第1、第2の直動軸とし、前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置を前記第1および第2の直動軸の座標として予め定義しておく第1のステップと、
所定の異なる2つの前記回転軸の角度に対して、基準球の表面に対してプローブの中心軸が垂直になるように前記第1および第2の直動軸を動かして計測する計測プログラムを作成する第2のステップと、
作成した前記計測プログラムに従って前記2つの角度にて測定した前記プローブの移動変位データと前記プローブの本来の移動変位データとの誤差を前記2つの角度に対する各々の測定誤差として求める第3のステップと、
前記測定誤差が各々0となるような前記第1および第2の直動軸の変位量を前記2つの角度に対する各々の第1の補正量として求める第4のステップと、
前記第1の補正量で補正した前記計測プログラムの前記2つの角度に対する前記第1および第2の直動軸の座標を基準座標として、前記直動軸の位置検出分解能を最小単位として所定の範囲内でそれぞれ独立して増減したときの増減量を第2の補正量として前記第1のステップで定義した前記位置を補正した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第5のステップと、
前記第5のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が最小となる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第6のステップと、
からなる機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法。
【請求項2】
前記第5のステップは、
前記第1の補正量で補正した前記計測プログラムの前記2つの角度に対する前記第1および第2の直動軸の座標を基準座標として、前記直動軸の位置検出分解能に所定の範囲内の正の整数をかけた値を第2の補正量として前記第1のステップで定義した前記位置から前記第2の補正量を引いた位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第51のステップと、
前記第51のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第52のステップと、からなり、
さらに、第51および第52のステップにおいて前記誤差が前記所定の誤差以下になることがなかったとき、
前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標から前記第2の補正量を引いて前記第1のステップで定義した前記位置の前記第2の直動軸の座標に前記第2の補正量を足した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第53のステップと、
前記53のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第54のステップと、からなり、
さらに、第51から第54のステップにおいて前記誤差が前記所定の誤差以下になることがなかったとき、
前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標に前記第2の補正量を足して前記第1のステップで定義した前記位置の前記第2の直動軸の座標から前記第2の補正量を引いた位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第55のステップと、
前記55のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第56のステップと、からなり、
さらに、第51から第56のステップにおいて前記測定誤差が前記所定の測定誤差以下になることがなかったとき、
前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標に前記第2の補正量を足した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第57のステップと、
前記57のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第58のステップと、
からなる請求項1に記載の機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法。
【請求項3】
前記基準球は、100nm以下の形状精度を有する球であることを特徴とする、請求項1あるいは請求項2に記載の機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法。
【請求項1】
少なくとも3軸の直動軸と1軸の回転軸を有する工作機械の前記回転軸上に取り付けられた機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法であって、前記3軸の直動軸はそれぞれ直交し、前記直動軸の1つの軸を前記回転軸の方向に合わせ、前記プローブは、前記プローブの移動変位を検出するプローブ位置検出器を有し、前記回転軸の方向と直交する方向に動き、前記プローブの先端に取付けられた測定子の先端を、前記工作機械に設置された基準球にあてて、前記回転軸の回転中心と前記測定子の先端との距離を算出する前記プローブ取り付け位置算出方法において、
前記直動軸のうち前記回転軸と直交する方向に動く前記直動軸をそれぞれ第1、第2の直動軸とし、前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置を前記第1および第2の直動軸の座標として予め定義しておく第1のステップと、
所定の異なる2つの前記回転軸の角度に対して、基準球の表面に対してプローブの中心軸が垂直になるように前記第1および第2の直動軸を動かして計測する計測プログラムを作成する第2のステップと、
作成した前記計測プログラムに従って前記2つの角度にて測定した前記プローブの移動変位データと前記プローブの本来の移動変位データとの誤差を前記2つの角度に対する各々の測定誤差として求める第3のステップと、
前記測定誤差が各々0となるような前記第1および第2の直動軸の変位量を前記2つの角度に対する各々の第1の補正量として求める第4のステップと、
前記第1の補正量で補正した前記計測プログラムの前記2つの角度に対する前記第1および第2の直動軸の座標を基準座標として、前記直動軸の位置検出分解能を最小単位として所定の範囲内でそれぞれ独立して増減したときの増減量を第2の補正量として前記第1のステップで定義した前記位置を補正した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第5のステップと、
前記第5のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が最小となる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第6のステップと、
からなる機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法。
【請求項2】
前記第5のステップは、
前記第1の補正量で補正した前記計測プログラムの前記2つの角度に対する前記第1および第2の直動軸の座標を基準座標として、前記直動軸の位置検出分解能に所定の範囲内の正の整数をかけた値を第2の補正量として前記第1のステップで定義した前記位置から前記第2の補正量を引いた位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第51のステップと、
前記第51のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第52のステップと、からなり、
さらに、第51および第52のステップにおいて前記誤差が前記所定の誤差以下になることがなかったとき、
前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標から前記第2の補正量を引いて前記第1のステップで定義した前記位置の前記第2の直動軸の座標に前記第2の補正量を足した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第53のステップと、
前記53のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第54のステップと、からなり、
さらに、第51から第54のステップにおいて前記誤差が前記所定の誤差以下になることがなかったとき、
前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標に前記第2の補正量を足して前記第1のステップで定義した前記位置の前記第2の直動軸の座標から前記第2の補正量を引いた位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第55のステップと、
前記55のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第56のステップと、からなり、
さらに、第51から第56のステップにおいて前記測定誤差が前記所定の測定誤差以下になることがなかったとき、
前記第1のステップで定義した前記位置の前記第1の直動軸の座標に前記第2の補正量を足した位置に対して前記第2のステップより求まる計測プログラムから前記2つの角に対する前記第1および第2の直動軸の座標を補正座標として求める第57のステップと、
前記57のステップで求めた前記基準座標と前記補正座標の差が所定の誤差以下になる前記第2の補正量の中で最小の誤差になる前記第2の補正量で、前記第1のステップで定義した前記第1および第2の直動軸の座標を補正したものを最終的な前記回転軸の中心に対する前記測定子の先端の位置の前記第1および第2の直動軸の座標とする第58のステップと、
からなる請求項1に記載の機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法。
【請求項3】
前記基準球は、100nm以下の形状精度を有する球であることを特徴とする、請求項1あるいは請求項2に記載の機上計測装置のプローブ取り付け位置算出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−214931(P2011−214931A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82095(P2010−82095)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
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