説明

機器の固定装置

【課題】 振動に対する確実な緩み止め効果が得られ、しかも構造が簡素で、安価に得られる。
【解決手段】 受け部材31の上に機器32を取り外し可能に固定する装置1は、ねじ棒2と、回転グリップ3と、ねじ棒2と回転グリップ3との間に介在するばね4と、押さえ部材5とを具備する。ねじ棒2は、鍔部6と、ねじ部7と、トルク伝達部8とを有する。ねじ部7は、支持部材34に螺挿される。回転グリップ3は、ラチェット係合部11を有し、ねじ棒2のトルク伝達部8に軸方向移動自在に外挿される。ばね4は、回転グリップ3をねじ棒2の一端側へ付勢する。押さえ部材5は、長孔20を貫通するねじ棒2に対して相対上下動自在である。押さえ部材5を機器32および支持部材34の正面に当接させて、押さえ部材5にねじ棒2の鍔部6を当接させると共に、ラチェット係合部22をラチェット係合部11に弾性的に係合させることにより、機器32を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車載のラックやトレイのような受け部材上に着脱自在に装着されるコンピュータのような電子機器等を、当該受け部材に対して振動により緩むことなく確実に固定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機などにプラグイン式に着脱自在に搭載される電子機器をラックやトレイ上に固定するための装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。この装置は、一端がラックに枢支されたねじ付きのスピンドルと、これに螺合されるスリーブと、このスリーブに制限付きで回転トルクを伝える回転グリップとを有する。スリーブと回転グリップとの間は、ディテント溝と、これに落ち込むボールと、付勢ばねとによって結合される。回転グリップをスリーブと一体に回転させることによってスリーブをフランジと共にスピンドル上で螺進させ、フランジによって電子機器をラックに押さえつけて固定する。フランジの押圧力が一定に達すると、回転グリップが空転してトルクを制限する。スリーブは、固定位置において、ばねで軸方向に常時押圧されているから、振動によってスピンドル上を後退することがなく、確実に電子機器をラック上に固定することができる。
【特許文献1】米国特許第4,506,439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の固定装置は構造が複雑で高価である。緩み止め効果は、ディテント溝とボールの軸方向の係合とばね力のみによって得られるものであり、確実性に欠ける難点がある。
したがって、この出願に係る発明は、振動に対するより確実な緩み止め効果が得られ、しかも構造が簡素で、安価に得られる機器の固定装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するためのこの出願に係る発明は、ラックやトレイのような受け部材31上に着脱自在に装着される機器32を、当該受け部材31に対して取り外し可能に固定するための装置である。この固定装置1は、ねじ棒2と、回転グリップ3と、ねじ棒2と回転グリップ3との間に介在するばね4と、押さえ部材5とを具備する。ねじ棒2は、中間に鍔部6を有し、この鍔部6を境にして一端側にねじ部7を有し、他端側にトルク伝達部8を有する。ねじ棒2のねじ部7は、受け部材31の一部として形成され又は受け部材31に取り付けられた支持部材34にほぼ水平に螺挿され、ねじ棒2は、支持部材34に対して締め付け位置と非締め付け位置との間で軸方向に進退自在である。回転グリップ3は、ねじ棒2のトルク伝達部8に、軸周り回転トルクを伝達可能に、かつ軸方向移動自在に外挿され、一端面に軸方向に向いた環状のラチェット係合部11を有する。ばね4は、一端が回転グリップ3に係止され、他端がねじ棒2に係止され、常時回転グリップ3をねじ棒2の一端側へ付勢し、その一端側を鍔部6に当接させる。押さえ部材5は、受け部材31上の機器32および支持部材34の正面に対向する第1の面18とその反対の第2の面19と、両面間を貫通する長孔20と、第2の面19上にあってねじ棒の鍔部6に当接する押圧面21と、長孔20の下端部付近の第2の面19上に形成された対応ラチェット係合部22とを備える。長孔20は、押さえ部材5を、支持部材34に螺挿されたねじ棒2に対して上位の固定位置と下位の解放位置との間で相対上下動自在に支持するように、ねじ棒2を挿通させる。押圧面21は、押さえ部材5が固定位置にあって、ねじ棒2が締め付け位置にあるとき、ねじ棒の鍔部6に当接する。ラチェット係合部22は、ねじ棒が締め付け位置にあるときに、回転グリップ3のラチェット係合部11に弾性的に係合し、ねじ棒2のねじ込み方向の相対回転を許容するが、その反対方向の回転を阻止する。固定位置に配置された押さえ部材5の第1の面18を受け部材31上の機器32および支持部材34の正面に当接させた状態で、押さえ部材5の第2の面19にねじ棒2の鍔部6を当接させると共に、押さえ部材5のラチェット係合部22を回転グリップのラチェット係合部11に弾性的に係合させることにより、機器32を受け部材31上に保持する。
また、上記構成を前提に、鍔部6が回転グリップ3の一端側に当接した状態で、他端側が回転グリップ3の他端から延出する長さにねじ棒2を構成し、かつ他端側に半径方向外側に広がるストッパ10を具備させ、ストッパ10と回転グリップ3との間にロック部材23を着脱自在に介在させる構成とすることができる。ロック部材23は、ねじ棒2が締め付け位置にある時に、ストッパ10と回転グリップ3の他端との間に介在し、施錠可能とする。ロック部材23の装着時に、ねじ棒2に対する回転グリップ3の反付勢方向への移動を制限し、ラチェット係合部11,22の係合を解除不可能とすることにより、ねじ棒2の非締め付け位置への移動操作を不可能とすることができる。以上、添付図面の符号を参照して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0005】
この出願に係る発明の装置によれば、振動に対するより確実な緩み止め効果が得られ、しかも構造が簡素で、安価に得られる機器の固定装置を提供することができる。
上記固定装置に、ロック部材を装着可能な構成にすれば、固定装置を施錠することができ、いっそう高度なセキュリティ効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は装着状態の固定装置の断面図、図2は図1におけるII−II断面図、図3は固定装置の分解斜視図、図4は装着前の固定装置の断面図、図5は固定解除操作過程の固定装置の断面図、図6は固定解除状態の固定装置の断面図、図7はロック部材の正面図で、(a)は閉鎖状態、(b)は開放状態を示す。
【0007】
図において、ラックやトレイのような受け部材31上に、コンピュータのような電子機器32が、プラグイン式に着脱自在に装着される。受け部材31は、航空機や車両上のような振動が激しい環境に設けられる。受け部材31の後部には、機器32を後方から前方に向かって弾圧するリアリテーナ33が設けられる。固定装置1は、機器32を受け部材31上の所定位置に装着した後、これを前方から押圧して受け部材31に固定するためのものである。
【0008】
固定装置1は、ねじ棒2と、回転グリップ3と、ねじ棒2と回転グリップ3との間に介在するばね4と、機器32を押圧する押さえ部材5とを具備する。
【0009】
ねじ棒2は、中間に鍔部6を有し、この鍔部6を境にして一端側にねじ部7を有し、他端側にトルク伝達部8を有する。ねじ部7は、受け部材31の一部として形成され又は受け部材31に別体で取り付けられた支持部材34にほぼ水平に螺挿される。トルク伝達部8は、円柱体の一部に平面部9を形成してなる。ねじ棒2は、支持部材34に所定位置までねじ込まれた締め付け位置(図1の位置)と支持部材34から所定位置までねじ戻された非締め付け位置(図5の位置)との間で軸方向に進退自在である。ねじ棒2の他端には、半径方向外側に広がるストッパ10が設けられる。
【0010】
回転グリップ3は、ねじ棒2のトルク伝達部8に、軸周り回転トルクを伝達可能に、かつ軸方向移動自在に外挿され、一端面に軸方向に向いた環状のラチェット係合部11を有する。回転グリップ3は、円筒部12と、円筒部12から半径方向外側へ突出した一対の翼部13を具備する。円筒部12の内側には、一端側付近に形成される内周フランジ14を境に一端側に鍔受け部15、他端側にばね受け部16が設けられる。フランジ14の内周孔17は、ねじ棒2のトルク伝達部8を軸方向には相対移動自在に、相対回転は不可能に貫通させる断面形状である。
【0011】
ばね4は、ばね受け部16内のねじ棒2のトルク伝達部8の外周に挿入され、一端が回転グリップ3のフランジ14に係止され、他端がねじ棒2のストッパ10に係止される。このばね4により、回転グリップ3は、ねじ棒2の一端側へ軸方向に付勢され、その一端側のフランジ14を鍔部6に当接させる。
【0012】
押さえ部材5は、受け部材31上の機器32および支持部材34の正面に対向する第1の面18とその反対の第2の面19と、両面間に貫通する上下方向の長孔20と、第2の面19上にあってねじ棒2の鍔部6に当接する押圧面21と、長孔20の下端部付近の第2の面19上に突出するように環状に形成された対応ラチェット係合部22とを備える。
【0013】
長孔20は、押さえ部材5を、支持部材34に螺挿されたねじ棒2に対して上位の固定位置(図1)と、下位の解放位置(図6)との間で相対上下動自在に支持するようにねじ棒2を挿通させる。
【0014】
押圧面21は、押さえ部材5が固定位置にあって、ねじ棒2が締め付け位置にあるとき鍔部6に当接する。ラチェット係合部22は、ねじ棒2が締め付け位置にあるときに、回転グリップ3のラチェット係合部11に弾性的に係合し、ねじ棒2のねじ込み方向の相対回転を許容するが、その反対方向の回転を阻止する。
【0015】
図1に示すように、固定位置に配置された押さえ部材5の第1の面18を受け部材31上の機器32および支持部材34の正面に当接させた状態で、押さえ部材5の第2の面19にねじ棒2の鍔部6を当接させると共に、押さえ部材5のラチェット係合部22を回転グリップ3のラチェット係合部11に弾性的に係合させることにより、機器32を受け部材31上に保持する。
【0016】
機器32を保持した状態におけるねじ棒2のストッパ10と回転グリップ3との間には、ロック部材23を着脱自在に介在させることができる。ロック部材23は、ばね4の外周から、ねじ棒2を包囲したり解放したりできるように、互いに開閉自在に枢着された一対の開閉片24,25からなる。一対の開閉片24,25間は、環を閉じた状態で錠26(図1)で施錠可能である。したがって、ロック部材23は、ストッパ10と回転グリップ3との間に介在することで、ねじ棒2に対する回転グリップ3の反付勢方向への移動を制限し、ラチェット係合部11,22の係合を解除不可能とすることにより、ねじ棒の非締め付け位置へのねじ戻し操作を不可能とする。
【0017】
この固定装置を使用する場合には、図3に示す状態から、機器32を所定位置へ押し込んで設置した後、押さえ部材5を上位の固定位置に配置した状態で、回転グリップ3を掴んでねじ棒2を支持部材34へねじ込んでいくと、ラチェット係合部11,22が相互に接触し始めるが、そのままねじ込み操作を継続すると、鍔部6が押さえ部材5の押圧面21に圧接されてねじ棒2の回転が回転グリップ3と一体に停止する。この間、両係合部11,22は、回転グリップ3のねじ込み方向の回転を阻止することなく、ばね4を圧縮させつつ、ねじ棒2に対して回転グリップ3を他端側へ所定距離相対移動させる。したがって、図1に示すように、押さえ部材5がねじ棒2によって押さえられた状態で、回転グリップ3がばね4によって押さえ部材5へ弾性的に押しつけられ、ラチェット係合部11,22が相互に係合することになる。このため、回転グリップ3をばね力に抗して人為的にねじ棒2の他端側へ移動させない限り、ねじ棒2がねじ戻し方向へ回転することはなく、振動等の外力により緩むことがない。
【0018】
この状態で、図1に示すように、ねじ棒2のストッパ10と回転グリップ3との間にロック部材23を装着して施錠すれば、解錠しない限り機器32を取り外すことができなくなる。
【0019】
機器32を受け部材31から取り外す場合には、ロック部材23を外した状態で、回転グリップ3を握り、図5に示すように、ばね4を圧縮して、回転グリップ3をねじ棒4の他端側へ引くことにより、ラチェット係合部11,22を引き離しつつ、これをねじ棒と一体にねじ戻し方向へ回転させる。これにより、鍔部6が押さえ部材5の押圧面21から離れると同時に、押さえ部材5が非固定位置へ下降するから、機器32を受け部材31上から引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】装着状態の固定装置の断面図である。
【図2】図1におけるII−II断面図である。
【図3】固定装置の分解斜視図である。
【図4】装着前の固定装置の断面図である。
【図5】固定解除操作過程の固定装置の断面図である。
【図6】固定解除状態の固定装置の断面図である。
【図7】ロック部材の正面図で、(a)は閉鎖状態、(b)は開放状態を示す。
【符号の説明】
【0021】
1 固定装置
2 ねじ棒
3 回転グリップ
4 ばね
5 押さえ部材
6 鍔部
7 ねじ部
8 トルク伝達部
9 平面部
10 ストッパ
11 ラチェット係合部
12 円筒部
13 翼部
14 内周フランジ
15 鍔受け部
16 ばね受け部
17 内周孔
18 第1の面
19 第2の面
20 長孔
21 押圧面
22 ラチェット係合部
23 ロック部材
24 開閉片
25 開閉片
26 錠
31 受け部材
32 機器
33 リアリテーナ
34 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックやトレイのような受け部材上に着脱自在に装着される機器を、当該受け部材に対して取り外し可能に固定するための装置であって、
中間に鍔部を有し、この鍔部を境にして一端側にねじ部を有し、他端側にトルク伝達部を有し、前記受け部材の一部として形成され又は受け部材に取り付けられた支持部材にねじ部がほぼ水平に螺挿され、支持部材に対して締め付け位置と非締め付け位置との間で軸方向に進退自在のねじ棒と、
前記ねじ棒のトルク伝達部に、軸周り回転トルクを伝達可能に、かつ軸方向移動自在に外挿され、一端面に軸方向に向いた環状のラチェット係合部を有する回転グリップと、
一端が前記回転グリップに係止され、他端が前記ねじ棒に係止され、常時回転グリップをねじ棒の一端側へ付勢して、一端側を前記鍔部に当接させるばねと、
前記受け部材上の機器および前記支持部材の正面に対向する第1の面とその反対の第2の面と、前記支持部材に螺挿されたねじ棒に対して上位の固定位置と下位の解放位置との間で相対上下動自在にねじ棒を第1、第2の面間に挿通させる長孔と、第2の面上にあって固定位置において締め付け位置にある前記ねじ棒の鍔部に当接する押圧面と、ねじ棒が締め付け位置にあるときに前記回転グリップのラチェット係合部に弾性的に係合しねじ棒のねじ込み方向の相対回転を許容するがその反対方向の回転を阻止するように長孔の下端部付近の第2の面上に形成された対応ラチェット係合部とを備える押さえ部材とを具備し、
固定位置に配置された前記押さえ部材の第1の面を前記受け部材上の機器および前記支持部材の正面に当接させた状態で、押さえ部材の第2の面に前記ねじ棒の鍔を当接させると共に、押さえ部材のラチェット係合部を前記回転グリップのラチェット係合部に弾性的に係合させることにより、機器を受け部材上に保持することを特徴とする機器の固定装置。
【請求項2】
前記ねじ棒は、前記鍔部が前記回転グリップの一端側に当接した状態で、他端側が回転グリップの他端から延出する長さを有し、かつ他端側に半径方向外側に広がるストッパを具備し、
さらに、前記ねじ棒が締め付け位置にある時に、前記ストッパと前記回転グリップの他端との間に着脱自在に介在し、装着状態で施錠可能であり、装着時に前記ねじ棒に対する回転グリップの反付勢方向への移動を制限し、前記ラチェット係合部の係合を解除不可能とすることにより、ねじ棒の非締め付け位置への移動操作を不可能とするロック部材を具備することを特徴とする請求項1に記載の機器の固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−270600(P2009−270600A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119810(P2008−119810)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000108708)タキゲン製造株式会社 (256)
【Fターム(参考)】