説明

機械式継手のグラウト充填方法、PC部材の接合方法、柱梁接合部の構築方法、柱梁仕口部の構築方法、床部材とPC壁部材の接合方法、PC部材の接合構造、柱梁接合構造、柱梁仕口部構造、床と壁の接合構造

【課題】PC部材に分配ホースや塩ビ管などを埋設することなく、上方に鉄筋挿入口が開口する機械式継手内にグラウトを充填できるようにする。
【解決手段】グラウト14をコンクリート部材10の上面を伝わせ、鉄筋挿入口12Aより機械式継手12内部へ流しこむ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄筋挿入孔が上方に開口する機械式継手にグラウトを充填する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、施工期間短縮のため、PC部材を用いて鉄筋コンクリート造構造物を構築することが行われている。このようなPC部材を用いた工法として、図19に示すように、仕口部38及び梁部39を一体成形し、柱主筋を貫通させるための鉄筋貫通孔31が設けられたPC梁・仕口部材30を、頭部に機械式継手42が設けられたPC柱部材40の上部に建込み、さらに、下面に柱主筋21が突出したPC柱部材20を、その柱主筋21がPC梁・仕口部材30の貫通孔31を貫通し、PC柱部材40の機械式継手42内に挿入されるように建込むことにより、PC柱梁構造を構築する工法が記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、上記の工法において、機械式継手42内へのグラウトの充填は、予め、機械式継手42の側面に設けられたグラウト注入口42Bと下方のPC柱部材40の表面とを結ぶように塩ビ管などにより注入孔を設けておき、この注入孔を通して行っていた。しかしながら、機械式継手42は柱筋の本数に対応して多数あるため、夫々にグラウトの注入作業を行うと非常に手間がかかるという問題があった。そこで、発明者らは、図20に示すような、各機械式継手のグラウト注入口42Bより延びる分配ホース91が接続され、注入されたグラウトをこれら分配ホース91に分配するグラウト分配装置90を下方のPC柱部材40に埋設しておき、グラウト分配装置90によりグラウトを各機械式継手42Bに分配しながら充填する方法を提案している(特願2006−81970号)。
【特許文献1】特許3837390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、この工法を改善するべくされたものであり、PC部材に分配ホースや塩ビ管などを埋設することなく、上方に鉄筋挿入口が開口する機械式継手内にグラウトを充填できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の機械式継手のグラウト充填方法は、コンクリート部材の上面に鉄筋挿入口が開口するように前記コンクリート部材に埋設された機械式継手へグラウトを充填する方法であって、グラウトを前記コンクリート部材の上面を伝わせて前記鉄筋挿入口より前記機械式継手内部へ流しこむことを特徴とする。
【0006】
また、本発明のPC部材の接合方法は、上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された下方のPC部材と、下面より鉄筋が突出した上方のPC部材と、を接合する方法であって、前記上方のPC部材を、下面より突出した前記鉄筋が前記機械式継手内に挿入されるように、前記下方のPC部材の上方に建て込み、グラウトを、上方のPC部材と下方のPC部材の間の目地を通して、前記下方のPC部材の上面を伝うように流し込み、前記目地及び前記機械式継手に連続してグラウトを充填することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の柱梁接合部の構築方法は、上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された下方のPC柱部材と、上下方向に延びる鉄筋貫通孔が形成されたPC仕口部材と、下面より下方に突出するように設けられた柱主筋を備えた上方のPC柱部材と、を接合して柱梁接合部を構築する方法であって、前記下方のPC柱部材の上部に、前記PC仕口部材を建て込む仕口部材建込工程と、前記上方のPC柱部材を、前記PC仕口部材の上部に、前記柱主筋が前記鉄筋貫通孔を貫通するとともに、前記柱主筋の先端が前記下方のPC柱部材の機械式継手内に挿入されるように建て込む上方柱部材建込工程と、グラウトを、前記下方のPC柱部材と前記PC仕口部材との間の目地を通して、前記下方のPC柱部材の上面を伝うように流し込み、前記目地及び前記機械式継手に連続してグラウトを充填するグラウト充填工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記の柱梁接合部の構築方法において、前記グラウト充填工程では、前記機械式継手及び前記目地に連続して、前記鉄筋貫通孔及び前記PC仕口部材と前記上方のPC柱部材との間の目地にもグラウトを充填してもよい。
【0009】
また、本発明の柱梁架構の柱梁仕口部の構築方法は、上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された下方のPC柱部材を建て込み、下面より柱主筋が突出した上方のPC柱部材を、前記柱主筋の先端が前記機械式継手内に挿入されるとともに、前記上方のPC柱部材及び下方のPC柱部材の間に柱梁仕口部に相当する空間が形成されるように建て込み、グラウトを前記下方のPC柱部材の上面を伝うように流し込み、前記機械式継手内にグラウトを流し込み、前記空間に前記柱梁仕口部を構成するコンクリートを打設することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のPC壁部材の接合方法は、上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された床部材と、下面より鉄筋が突出したPC壁部材と、を接合する方法であって、前記PC壁部材を、前記下面より突出した鉄筋が前記機械式継手内に挿入されるように、前記床部材の上方に建て込み、グラウトを、前記床部材とPC壁部材との間の目地を通して、前記床部材の上面を伝うように流し込み、前記目地及び前記機械式継手に連続してグラウトを充填することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一対の壁部材の接合方法は、上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された下方の壁部材と、下面より鉄筋が突出した上方のPC壁部材と、を接合する方法であって、前記上方のPC壁部材を、前記下面より突出した鉄筋が前記機械式継手内に挿入されるように、前記下方の壁部材の上方に建て込み、グラウトを、前記壁部材と上方のPC壁部材との間の目地を通して、前記床部材の上面を伝うように流し込み、前記目地及び前記機械式継手に連続してグラウトを充填することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のPC部材の接合構造は、上記のPC部材の接合方法により接合されたことを特徴とする。
また、本発明の柱梁接合構造は、上記の柱梁接合部の構築方法により構築されたことを特徴とする。
また、本発明の柱梁仕口部構造は、上記の柱梁仕口部の構築方法により構築されたことを特徴とする。
また、本発明の床と梁の接合構造は、上記のPC壁部材の接合方法により接合されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上面に開口する鉄筋挿入口より機械式継手内にグラウトの充填が可能となるため、PC部材内に分配ホースや塩ビ管などを埋設する必要がなくなり、PC部材を作製する手間を削減することができ、必要となるグラウトの量を削減することができ、さらに、分配ホースや塩ビ管が残置することがなく、構造上の断面欠損の恐れがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の機械式継手のグラウトの充填方法の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1〜図3は、本実施形態の機械式継手のグラウトの充填方法を説明するための図である。図1に示すように、コンクリート部材10には鉄筋11が上下方向に延びるように埋設され、この鉄筋11の先端には機械式継手12が接続され、この機械式継手12の鉄筋挿入口12Aはコンクリート部材10の上面に開口している。機械式継手12の鉄筋挿入口12Aには、上下方向に延びる鉄筋13が挿入されている。本実施形態のグラウトの充填方法は、これらの鉄筋11、13を継手するために、機械式継手12にグラウトを充填する際に用いられるものである。
【0015】
本実施形態では、図2に示すように、コンクリート部材10の上面に機械式継手12の鉄筋挿入口12Aに向けてグラウト14を流しこむ。グラウト14は、コンクリート部材10の上面を伝って機械式継手12の鉄筋挿入口12Aまで到達し、重力により鉄筋挿入口12Aより機械式継手12内に流れこむ。このグラウト14の注入は、図3に示すように、グラウト14が機械式継手12の鉄筋挿入口12Aの縁まで到達し、鉄筋挿入口12Aよりグラウト14が溢れ出すまで続ける。グラウト14が鉄筋挿入口12Aから溢れだし、機械式継手12内にグラウト14が完全に充填されたことが確認されたら、グラウト14の注入をやめる。このようにして機械式継手12内に注入したグラウト14が硬化することにより、機械式継手12による継手構造15が形成され、鉄筋11、13が継手される。
【0016】
ここで、発明者らは、上記の方法により継手された継手構造15が所定の性能を有することを実験により確認したので以下説明する。
本実験では、図4に示すような上方に鉄筋挿入口12Aが開口するように設けられた機械式継手12により一対の鉄筋11、13を継手する際に、機械式継手12の側部の設けられたグラウト注入口16からグラウト14を充填して一対の鉄筋11、13を接合した場合(以下、従来方式という)と、グラウト注入口16から機械式継手12の半分までグラウト14を充填後、鉄筋挿入口12Aからグラウト14を流し込んだ場合(以下、流れ込み方式という)と、上方に開口する鉄筋挿入口12Aからグラウト14を流し込んだ場合とについて、夫々試験体15を作製し、各試験体15について継手性能試験及びグラウトの充填状態の確認を行った。
【0017】
図5は、本実験で用いた試験体15に使用した材料を示す表である。同図に示すように、鉄筋11、13には、JISS規格(SD490 D41)の鉄筋を、継手には、モルタル充填式スリーブ継手を、グラウト14には、スリーブ継手用モルタルを、練り混ぜ水には水道水を用いた。
継手性能試験は、建設省告示第1463号 鉄筋の継手の構造方法を定める件(7) 鉄筋継手性能判定基準 第4 性能試験に定められている弾・塑性域正負繰り返し試験に準じて行った。
【0018】
図6は判定基準を示す表であり、図7は各試験体15の試験結果を示す表である。同図に示すように、全ての試験体15について、上記の基準におけるA級性能が確保されていることが確認された。また、各試験体15について機械式継手12を切断してグラウト14の充填状態を確認したところ、各試験体15ともに確実にグラウト14が充填されていることが確認された。
【0019】
以上のように、上記の試験により、上方に鉄筋挿入口12Aが開口するように設けられた機械式継手12により一対の鉄筋11、13を継手する際に、鉄筋挿入口12Aからグラウト14を充填して一対の鉄筋11、13を接合した場合であっても、十分な継手性能が確保されることが確認された。
【0020】
以上説明したように、本実施形態の機械式継手のグラウト充填方法によれば、グラウト14をコンクリート部材10上面を伝わせ、上面に開口する機械式継手12の鉄筋挿入口12Aより重力により流し込むことができるため、コンクリート部材10に部材表面と機械式継手12のグラウト注入口とを結ぶようにホースや塩ビ管を配置して注入孔を設ける必要がなくなる。このため、コンクリート部材10内にホースや塩ビ管が残置して断面欠損となることを防ぐことができる。また、コンクリート部材10に注入孔を設けてグラウトを充填する場合には、注入孔内にもグラウトを充填する必要があるが、このように注入孔を設ける必要がなくなることにより、孔の分だけ必要となるグラウトの容積を削減することができる。
【0021】
以下、本発明のグラウトの充填方法を、柱を構成するPC柱部材と、梁と仕口を構成するPC梁・仕口部材とを接合することにより鉄筋コンクリート造の柱梁架構の柱梁接合部を構築する際に、適用した場合について説明する。
図8は、上方及び下方のPC柱部材20、40と、PC梁・仕口部材30とを接合することにより構築される柱梁架構の柱梁接合部の近傍を示す図であり、接合前の状態を示す。
同図に示すように、下方のPC柱部材40は、部材内部に上下方向に延びるように埋設された複数の柱主筋41と、柱主筋41の上端に接続されるとともに上面に鉄筋挿入口42Aが開口するように設けられた機械式継手42と、側面と上面との間を結ぶように形成されたグラウト注入孔43とを備える。
【0022】
PC梁・仕口部材30は、柱梁架構における仕口部38及び梁部39を構成するPC部材が一体に構築されてなる部材であり、仕口部38の柱筋にあたる位置に上下方向に延びるように形成された鉄筋貫通孔31を備える。なお、鉄筋貫通孔31は、例えば、PC梁・仕口部材30を作製する際に柱筋に当たる位置にシース管を配置しておくことにより容易に形成することができる。
【0023】
上方のPC柱部材20は、その部材内部に上下方向に延びるように埋設され、端部が下面より突出するように設けられた柱主筋21と、部材側面より下面に通じる孔22を備える。なお、柱主筋21の下面より突出する部分は、後述するように、上方のPC柱部材20を建て込んだ際に、PC梁・仕口部材30の鉄筋貫通孔31を貫通し、下方のPC柱部材40の機械式継手42内に先端が到達する長さを有する。また、孔22は、後述するように、グラウトを充填する際の空気抜き、上方の目地までグラウトが充填されたことを確認するために設けられている。
【0024】
柱梁架構を構築する際には、まず、図9に示すように、下方のPC柱部材40の上部にPC梁・仕口部材30を建て込み、さらに、上方のPC柱部材20の柱主筋21が、PC梁・仕口部材30の鉄筋貫通孔31を貫通し、下方のPC柱部材40の機械式継手42内に挿入されるように、PC梁・仕口部材30の上部に上方のPC柱部材20を建て込む。
【0025】
このようにして建て込まれた、下方のPC柱部材40、PC梁・仕口部材30、及び上方のPC柱部材20を一体化するためには、下方のPC柱部材40に埋設された機械式継手42内と、下方のPC柱部材40及びPC梁・仕口部材30間の目地50(以下、下方の目地という)と、PC梁・仕口部材30の鉄筋貫通孔31内と、上方のPC柱部材20及びPC梁・仕口部材30間の目地60(以下、上方の目地という)とにグラウトを充填しなければならない。
【0026】
本実施形態では、以下のようにしてこれらの部位にグラウトを充填することとした。
図9〜図13はグラウトを充填する流れを説明するための図である。
まず、グラウトを充填するにあたり、下方の目地50及び上方の目地60の外周に型枠を施す。
次に、図10に示すように、下方のPC柱部材40に設けられたグラウト注入孔43にグラウト70を注入する。グラウト注入孔43に注入されたグラウト70は、下方の目地50内に流れ出る。そして、下方の目地50内に流れ出たグラウト70は、下方のPC柱部材40の上面を伝わり、上面に開口する鉄筋挿入口42Aより重力により機械式継手42内に流れこむ。さらに、グラウト70をグラウト注入孔43に注入し続けることにより、図1を参照して説明したのと同様に機械式継手42内にグラウト70が充填することができる。
【0027】
全ての機械式継手42内にグラウト70が充填された後、さらに、グラウト70の注入を続けると、下方の目地50内にグラウト70が充填される。このようにして、図11に示すように、機械式継手42と連続して下方の目地50内のグラウト70の充填を行うことができる。
【0028】
さらに、注入孔43からグラウト70の注入を続けると、図12に示すように、グラウト70は下方の目地50より鉄筋貫通孔31内に流れこむ。このようにして、下方の目地50内に連続して鉄筋貫通孔31内へグラウト70を充填することができる。
【0029】
さらに、注入孔43からグラウト70の注入を続け、鉄筋貫通孔31の上部までグラウト70が到達すると、グラウト70は鉄筋貫通孔31の上部より上方の目地60内に流れ出る。このようにして、鉄筋貫通孔31に連続して、上方の目地60内へグラウト70の充填を行うことができる。
【0030】
さらに、グラウト70の注入を続けると、図13に示すように、上方の目地60がグラウト70で満たされる。上方の目地60がグラウト70で満たされると、上方のPC柱部材20に設けられた孔22よりグラウト70が溢れでる。これにより、上方の目地60までのグラウト70の充填が完了したことを確認することができ、孔22よりグラウト70が溢れ出た時点でグラウト70の注入を終了する。
【0031】
このように、本実施形態のグラウトの充填方法をPC部材を用いた柱梁架構の構築に適用することにより、上記の効果に加えて、機械式継手42内と、下方の目地50と、鉄筋貫通孔31内と、上方の目地60と、に連続してグラウト70を充填することができる。
【0032】
また、下方のPC柱部材に設けられたグラウト注入孔43及び下方の目地50内を解して全ての機械式継手42内にグラウト70を充填することができるため、従来のようにグラウト分配装置を設ける必要がなくなり、コストを削減できる。
【0033】
なお、上記の実施形態では、下方のPC柱部材40に部材側面から上面まで延びるようなグラウト注入孔43を設け、このグラウト注入孔43を通して、下方の目地50にグラウト70を注入するものとしたが、これに限らず、例えば、図14に示すように、下方の目地50に直接グラウト70を注入するものとしてもよい。また、PC梁・仕口部材30の側面から下面へ通じるグラウト注入孔を設け、このグラウト注入孔を通してグラウトを注入するものとしてもよい。
【0034】
さらに、上方の目地60にグラウトを注入することとしてもよい。この場合、上方の目地60に注入したグラウト70は鉄筋貫通孔31内を通じて、下方の目地50内に注入されることとなり、上記の実施形態と同様に機械式継手42、下方の目地50、鉄筋貫通孔31、及び上方の目地60に連続してグラウトを注入することができる。なお、上方の目地60にグラウトを注入する場合にも、上方の目地60に直接グラウトを注入してもよいし、上方のPC柱部材20又はPC梁・仕口部材30に側面より上方の目地60まで到達するようなグラウト注入孔を設け、このグラウト注入孔を通して、グラウトの注入を行うことができる。
【0035】
また、本実施形態では、上方のPC柱部材20の下面から側面に通じるようにグラウト排出孔22を設け、このグラウト排出孔22を通して空気抜き及びグラウト充填の確認を行うこととしたが、これに限らず、PC梁・仕口部材30の側面から上面に通じるようにグラウト排出孔を設け、このグラウト排出孔を通して空気抜き及びグラウト充填の確認を行ってもよいし、上方の目地60の側部より直接空気抜き及びグラウト充填の確認を行ってもよい。
【0036】
また、本実施形態では、下方のPC柱部材40、PC梁・仕口部材30、及び上方のPC柱部材20を接合する場合について説明したが、これに限らず、例えば、図15に示すように、上面に鉄筋挿入口142Aが開口するように機械式継手142が埋設された下方のPC柱部材140と、下面より柱主筋121が突出するように設けられた上方のPC部材120とを接合する場合にも、本発明のグラウトの充填方法を適用することができる。この場合、上方のPC柱部材120の柱主筋121の先端が機械式継手142内に到達するように、上方のPC柱部材120を建て込み、上方のPC柱部材120と下方のPC柱部材140との間の目地150にグラウト70を流し込む。目地150に流し込まれたグラウト70は上方のPC柱部材120の上面を伝わり、機械式継手142内に重力により流れこむ。このようにして機械式継手142内にグラウト70を充填することができ、さらに、目地150へのグラウト70の注入を続けることにより、機械式継手142へのグラウト70の充填に続けて、目地150内へのグラウト70の注入を行うことができる。グラウト70が硬化することにより、柱主筋121、141が継手され、上方及び下方のPC柱部材120、140が接合される。
【0037】
なお、図15に示す実施形態では、目地150へ直接グラウト70を注入することとしたが、これに限らず、上方のPC柱部材120又は下方のPC柱部材140に側面から目地150に通じるグラウト注入孔を設け、このグラウト注入孔を通してグラウト70の注入を行うものとしてもよい。
【0038】
また、図15に示す実施形態では、グラウト充填の際の空気抜きについて記載を省略しているが、上記の実施形態と同様に、上方のPC柱部材120又は下方のPC柱部材140の側面より目地150に通じるようにグラウト排出孔を設け、このグラウト排出孔を通して空気抜きを行ってもよいし、目地150の側部より直接空気抜きを行ってもよい。
【0039】
また、図8〜図13を参照して説明した実施形態では、下方のPC柱部材40と、PC梁・仕口部材30と、上方のPC柱部材20とを接合することにより、柱梁架構を構築するものとしたが、これに限らず、図16に示すように、下方のPC柱部材240及びPC梁・仕口部材230が一体となったPC部材280と、上方のPC柱部材220とを接合することにより、柱梁架構を構築してもよい。この場合、PC部材280には、上面に鉄筋挿入口232Aが開口するように機械式継手232を埋設しておき、上方のPC柱部材220には下面より突出するように柱主筋221を埋設しておく。そして、鉄筋挿入口232Aに柱主筋221が挿入されるように上方のPC柱部材220を建て込んだ後、目地260に直接グラウト70を流し込む。なお、グラウト充填の際の空気抜きは、グラウト排出孔223を通して行う。
【0040】
目地260に流れ込んだグラウト70は下方のPC柱部材240の上面を伝って、機械式継手232内に流れこむ。さらに、グラウトの注入を続けることにより、機械式継手232に連続して目地260内にもグラウト70を充填することができる。グラウト70が硬化することにより、柱主筋221、241が継手され、PC部材280に上方のPC柱部材220を接合することができる。
【0041】
なお、図16に示す実施形態では、グラウト充填の際の空気抜きについて記載を省略しているが、上記の実施形態と同様に、上方のPC柱部材220又はPC柱部材280の仕口部に、側面より目地150に通じるようにグラウト排出孔を設け、このグラウト排出孔を通して空気抜きを行ってもよいし、目地150の側部より直接空気抜きを行ってもよい。
【0042】
また、図16に示す実施形態では、目地260に直接グラウト70を注入することとしたが、これに限らず、PC部材280の仕口部又は上方のPC柱部材240に側面から上面に通じるグラウト注入孔を設け、このグラウト注入孔を通してグラウト70の注入を行うものとしてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、柱梁架構の梁部及び仕口部にあたる部位をPC部材を用いて構築するものとしたが、これに限らず、梁部及び仕口部を現場においてコンクリートを打設して構築する場合であっても、本実施形態の機械式継手のグラウト注入方法を適用することができる。図17は、このような場合の柱梁架構の構築方法を説明するための図である。
【0044】
同図に示すように、上方のPC柱部材320は下面より突出する柱主筋321を備え、また、下方のPC柱部材340は上面に鉄筋挿入口342Aが開口するように埋設された機械式継手342を備える。なお、下方のPC柱部材340の上面には、グラウトを注入する際に注入したグラウトが溢れ出ない様に、外周に沿って凸部を設けてもよい。柱梁架構を構築する場合には、まず、上方のPC柱部材320を、柱主筋321の先端が下方のPC柱部材240の機械式継手242に到達するとともに、上方のPC柱部材220と下方のPC柱部材240との間に、仕口部330に相当する空間が確保されるように建て込む。次に、下方のPC柱部材240の上面にグラウト70を流しこむ。下方のPC柱部材240の上面に流しこまれたグラウト70は、上面を伝わり、鉄筋挿入口342Aより機械式継手342内に流れこむ。グラウト70の注入は、全ての機械式継手342の上部よりグラウト70が溢れ出るまで行う。そして、仕口部330及び梁部339にあたる部分に梁筋の配筋を行い、型枠を設置し、コンクリートを打設する。これにより、柱梁架構を構築することができる。
【0045】
なお、図17に示す実施形態では、下方のPC柱部材340の上面に直接グラウト70を流し込むこととしたが、これに限らず、下方のPC柱部材340に側面から上面に通じるグラウト注入孔を設け、このグラウト注入孔を通してグラウト70の注入を行うものとしてもよい。
【0046】
なお、上記の各実施形態では、柱梁架構を構築する場合について説明したが、本実施形態の機械式継手のグラウト充填方法は図18に示すようなPC壁部材420を床440に接合する場合にも適用することができる。同図に示すように、PC壁部材420は下面より突出する複数の鉄筋421を備える。また、床440には、複数の接合鉄筋441が上下方向に延びるように埋設されており、この接合鉄筋441の上端には、上面に鉄筋挿入口442Aが開口する機械式継手442が接続されている。PC壁部材420を床440に接合する場合には、まず、PC壁部材420を鉄筋421が機械式継手422内に挿入されるようにPC壁部材420を建て込む。そして、目地460の周囲に型枠を施した後、目地460にグラウト70を流しこむ。目地460に流し込まれたグラウト70は床440の上面を伝って機械式継手442内に流れこむ。さらにグラウトの注入を続けることにより、機械式継手442に連続して、目地460内のグラウト70の充填を行うことができる。そして、注入したグラウト70が硬化することにより、鉄筋421と接合鉄筋442とが機械式継手442により継手され、PC壁部材420と床440とが接合される。
【0047】
また、これと同様に、鉛直方向に延びる壁筋の上端に機械式継手が接続され、この機械式継手の鉄筋挿入口が上面に開口する下方の壁部材と、下面より接合鉄筋が突出する上方のPC壁部材と、を接続するような場合にも本発明を適用することができる。この場合には、まず、上方のPC壁部材を、下面より突出する接合鉄筋が下方の壁部材の機械式継手内に挿入されるように上方のPC壁部材を建て込む。そして、上方PC壁部材と下方の壁部材との間の目地の周囲に型枠を施した後、この目地にグラウトを流しこむ。目地に流し込まれたグラウトは下方の壁部材の上面を伝って機械式継手内に流れこむ。さらにグラウトの注入を続けることにより、機械式継手に連続して、目地内のグラウトの充填を行うことができる。そして、注入したグラウトが硬化することにより、下方の壁部材の壁筋と上方のPC壁部材の接合鉄筋とが機械式継手により継手され、上方のPC壁部材と下方の壁部材が接合される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態の機械式継手のグラウトの充填方法を説明するための図(その1)である。
【図2】本実施形態の機械式継手のグラウトの充填方法を説明するための図(その2)である。
【図3】本実施形態の機械式継手のグラウトの充填方法を説明するための図(その3)である。
【図4】継手性能試験に用いた試験体を示す図である。
【図5】試験体に用いた材料を示す図である。
【図6】継手性能試験の判定基準を示す表である。
【図7】各試験体の試験結果を示す表である。
【図8】本発明を柱梁接合部の構築に適用した実施形態における接合前の柱梁架構の柱梁接合部の近傍を示す図である。
【図9】本発明を適用した柱梁架構の柱梁接合部を構築する方法を説明するための図(その1)である。
【図10】本発明を適用した柱梁架構の柱梁接合部を構築する方法を説明するための図(その2)である。
【図11】本発明を適用した柱梁架構の柱梁接合部を構築する方法を説明するための図(その3)である。
【図12】本発明を適用した柱梁架構の柱梁接合部を構築する方法を説明するための図(その4)である。
【図13】本発明を適用した柱梁架構の柱梁接合部を構築する方法を説明するための図(その5)である。
【図14】本発明を適用した柱梁架構の柱梁接合部を構築する方法を説明するための図(その6)である。
【図15】本発明を適用したPC柱部材の接合構造を説明するための図である。
【図16】下方のPC柱部材とPC梁・仕口部材とを一体化したPC部材を用いた場合に本発明を適用した柱梁架構の柱梁接合部を構築する方法を説明するための図である。
【図17】仕口部を現場において構築する場合に本発明を適用した柱梁架構の柱梁接合部を構築する方法を説明するための図である。
【図18】本発明を適用したフルPC壁部材を接合する方法を説明するための図である。
【図19】フルPC部材を用いて柱梁架構の柱梁接合部を構築する方法を説明するための図である。
【図20】グラウト分配装置を説明するための図であり、(A)は水平断面図、(B)は鉛直断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 コンクリート部材
11、13 鉄筋
12 機械式継手
14 グラウト
15 試験体
20、120、220、320 上方のPC柱部材
21、121、221、321 柱主筋
22 孔
30、230 PC梁・仕口部材
31 鉄筋貫通孔
38、238、338 仕口部
39、239 梁部
40、140、240、340 下方のPC柱部材
41、141、241、341 柱主筋
42、142、342、442 機械式継手
42A、142A、342A 鉄筋挿入口
43、223 注入孔
50 下方の目地
60 上方の目地
70 グラウト
150 目地
232 機械式継手
260、460 目地
280 PC部材
420 PC壁部材
421 鉄筋
440 床
441 接合鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材の上面に鉄筋挿入口が開口するように前記コンクリート部材に埋設された機械式継手へグラウトを充填する方法であって、
グラウトを前記コンクリート部材の上面を伝わせて前記鉄筋挿入口より前記機械式継手内部へ流しこむことを特徴とする機械式継手のグラウト充填方法。
【請求項2】
上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された下方のPC部材と、下面より鉄筋が突出した上方のPC部材と、を接合する方法であって、
前記上方のPC部材を、下面より突出した前記鉄筋が前記機械式継手内に挿入されるように、前記下方のPC部材の上方に建て込み、
グラウトを、上方のPC部材と下方のPC部材の間の目地を通して、前記下方のPC部材の上面を伝うように流し込み、前記目地及び前記機械式継手に連続してグラウトを充填することを特徴とするPC部材の接合方法。
【請求項3】
上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された下方のPC柱部材と、上下方向に延びる鉄筋貫通孔が形成されたPC仕口部材と、下面より下方に突出するように設けられた柱主筋を備えた上方のPC柱部材と、を接合して柱梁接合部を構築する方法であって、
前記下方のPC柱部材の上部に、前記PC仕口部材を建て込む仕口部材建込工程と、
前記上方のPC柱部材を、前記PC仕口部材の上部に、前記柱主筋が前記鉄筋貫通孔を貫通するとともに、前記柱主筋の先端が前記下方のPC柱部材の機械式継手内に挿入されるように建て込む上方柱部材建込工程と、
グラウトを、前記下方のPC柱部材と前記PC仕口部材との間の目地を通して、前記下方のPC柱部材の上面を伝うように流し込み、前記目地及び前記機械式継手に連続してグラウトを充填するグラウト充填工程と、を備えることを特徴とする柱梁接合部の構築方法。
【請求項4】
請求項3記載の柱梁接合部の構築方法であって、
前記グラウト充填工程では、
前記機械式継手及び前記目地に連続して、前記鉄筋貫通孔及び前記PC仕口部材と前記上方のPC柱部材との間の目地にもグラウトを充填することを特徴とする柱梁接合部の構築方法。
【請求項5】
柱梁架構の柱梁仕口部の構築方法であって、
上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された下方のPC柱部材を建て込み、
下面より柱主筋が突出した上方のPC柱部材を、前記柱主筋の先端が前記機械式継手内に挿入されるとともに、前記上方のPC柱部材及び下方のPC柱部材の間に柱梁仕口部に相当する空間が形成されるように建て込み、
グラウトを前記下方のPC柱部材の上面を伝わせて、前記機械式継手へ流し込み、
前記空間に前記柱梁仕口部を構成するコンクリートを打設することを特徴とする柱梁仕口部の構築方法。
【請求項6】
上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された床部材と、下面より鉄筋が突出したPC壁部材と、を接合する方法であって、
前記PC壁部材を、前記下面より突出した鉄筋が前記機械式継手内に挿入されるように、前記床部材の上方に建て込み、
グラウトを、前記床部材とPC壁部材との間の目地を通して、前記床部材の上面を伝うように流し込み、前記目地及び前記機械式継手に連続してグラウトを充填することを特徴とする床部材とPC壁部材の接合方法。
【請求項7】
上面に鉄筋挿入口が開口するように機械式継手が埋設された下方の壁部材と、下面より鉄筋が突出した上方のPC壁部材と、を接合する方法であって、
前記上方のPC壁部材を、前記下面より突出した鉄筋が前記機械式継手内に挿入されるように、前記下方の壁部材の上方に建て込み、
グラウトを、前記壁部材と上方のPC壁部材との間の目地を通して、前記床部材の上面を伝うように流し込み、前記目地及び前記機械式継手に連続してグラウトを充填することを特徴とする一対の壁部材の接合方法。
【請求項8】
請求項2記載の方法により接合されたことを特徴とするPC部材の接合構造。
【請求項9】
請求項3又は4記載の方法により構築されたことを特徴とする柱梁接合構造。
【請求項10】
請求項5記載の方法により構築されたことを特徴とする柱梁仕口部構造。
【請求項11】
請求項6記載の方法により接合されたことを特徴とする床と壁の接合構造。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図19】
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【図20】
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【図2】
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【図3】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−97223(P2009−97223A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269431(P2007−269431)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】