説明

機械構造部品及びその製造方法

【課題】シリコン単結晶材料を用いる機械構造部品は、強度を補うために結晶方位の異なる単結晶材料を積層した、複合基板が用いられるが、積層面の接合部にシリコン酸化膜を用いるため、高精度の加工が困難であるという課題があった。
【解決手段】本発明の機械構造部品は、積層するシリコン単結晶の接合面に、高融点金属シリサイド膜を用いる。高融点金属シリサイド膜は、従来用いられるシリコン単結晶のエッチング加工と同様のドライエッチングによって、シリコン単結晶と共に連続的に加工することができ、部品の加工精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板を加工してなる機械構造部品に関するもので、特に、シリコン半導体基板を加工してなる小型の時計部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密小型機械、とりわけ時計を構成する機械構造部品やそれらを組み合わせた構造物は、目的に応じた機械的強度、仕上がり精度、加工性の容易さ、耐腐食性が要求される。また、機械構造部品のうち、特に稼動する部分の部品は、供給エネルギーのロスを抑えるため、先に述べた要求項目に加え、軽量化も望まれる。
【0003】
時計構成部品としては、歯車や、指針などが代表的な例である。近年、時刻の報知を文字を液晶ディスプレイに表示するデジタル表示式時計が広く普及しているが、昨今では、指針を駆動させて時刻を報知するアナログ表示式機械時計またはアナログ表示式電子時計が、その視認性の良さから改めて注目されている。
【0004】
このような時計を構成する機械構造部品は、従来、金属やプラスチックなどを加工して部品化していたが、近年では、LSI製造技術を応用し、シリコンなどの半導体基板を加工して部品化する技術が用いられるようになってきた。
【0005】
LSI製造で一般に基板として使用される材料は、シリコンである。シリコン基板は、その表面に電子デバイスを形成するという用途から、単結晶で純度が高い。
シリコンを材料とし、LSI製造技術を応用して形成した機械構造部品は、微細で精度が高く、製造再現性に優れており、製造ばらつきの少ない部品を安定して製造することができるため、多くの提案がなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
まず、特許文献1に示した従来技術を説明する。
当該技術は、シリコンよりなる歯車を用いて歯車装置を構成している。その様子を図13を用いて説明する。図13は、金属製である回転軸と、回転軸に取り付けられた回転中心を貫通した構造を有するシリコン製の歯車を模式的に示した断面図であり、その構造を説明するためにその主旨を逸脱しない範囲で書き直した概略図である。
図13において、701は歯車、702は回転軸である。703は歯車701と回転軸702との接続部である。歯車701はシリコン、回転軸702と接続部703とは金属で作られている。
【0007】
特許文献1に示した従来技術は、歯車701をシリコン、力が加わり磨耗寿命の低下が懸念される回転軸702と接続部503とを金属とした構造であり、シリコンと金属との接続部は割れ防止のため、加熱処理によりシリコンと金属との合金(共晶)としている。力の加わる部分をシリコンで形成してもよいのだが、十分な強度を得るために厚いシリコン基板を用いることによるコストアップが発生するのを避けている。なお、歯車701は、精度と加工作業性を考慮し、既知の半導体装置製造技術を用いて形成している。
【0008】
一方で、シリコン基板の厚さを抑制しながらシリコン基板の強度を高める方策として、複数のシリコン基板を積層して複合基板とする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
一般に、シリコン基板は、結晶構造を決定する面方位に従い加工され、市場に供給されているが、シリコン結晶は硬度が高いものの、その結晶性により面方位に従い割れやすい
という特徴を有している。特許文献2に示した従来技術は、シリコン基板の強度を高めるために結晶方位の異なるシリコン基板同士を張り合わせた構造である。
【0010】
図14を用いて説明する。
図14は、単結晶シリコン基板を積層した状態を示す模式図である。801は第1の単結晶シリコン基板、802は第2の単結晶シリコン基板、811は第1の単結晶シリコン基板801の主平面、812は第2の単結晶シリコン基板802の主平面である。
【0011】
第1の単結晶基板801の主平面811の面方位(111)に対し、第2の単結晶シリコン基板802の主平面812は、(100)の面方位を有しており、それぞれ、へき開する方位が異なる。そのため、双方の単結晶基板が互いに外力に弱い結晶方位の強度を補うため、強度が向上するのである。
【0012】
また、第1のシリコン単結晶基板801と、第2のシリコン単結晶基板802とを、シリコン酸化膜(図示せず)を介して張り合わせることで、更に張り合わせ強度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−276771号公報(第5頁、第5図)
【特許文献2】特開平7−335511号公報(第5頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に示した従来技術では、歯車701は、回転軸702との接続部703をシリコンと金属との合金として強化したものであり、特定の部位のみ、強度を増しただけで、歯車701の歯先や、他の形状を有する部品の全ての強度が満たされるものではない。
機械構造部品は、歯車701のように円形で、加えられる加重が回転力であるようなものだけではなく、様々な形状があり、加わる力の方向もさまざまである。また、そのような部品を組み合わせて構造体を製造する際に機械構造部品自体の強度が確保されていないと、組み立て途中での破壊が発生し、製品としての歩留まりを低下させてしまう。
【0015】
したがって構造体を形成しても、硬いが脆い性質を有しており、機械構造部品としての用途は非常に限られるという問題があった。
【0016】
また、シリコンの強度を高めるために、特許文献2に示した従来技術を用いた場合、単にシリコンを張り合わせただけでは、応力による部品のたわみが発生した場合に、張り合わせ面からの剥がれが発生してしまうという問題があった。
【0017】
また、シリコンの張り合わせ強度を高めるために、張り合わせ面にシリコン酸化膜を用いた場合、LSI製造技術を応用したドライエッチング加工では、シリコンをエッチングする条件とシリコン酸化膜をエッチングする条件が大きく異なるため、連続して加工することができず、結果的に加工精度が低下するという問題がある。
【0018】
特許文献2に示した従来技術は、半導体装置の機械的強度を高めるために考案された技術であるため、機械構造部品の部材として加工することを想定していないためである。
【0019】
以上説明したように、特許文献1に示した従来技術のような歯車装置に代表される機械構造部品で使用されるシリコン部品の機械的強度の向上が強く望まれていた。
【0020】
本発明は、そのような課題を解決するためになされたものであって、機械的強度の高いシリコン部品の構造およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明のシリコン時計部品は、以下の構造を採用するものである。
【0022】
他の機械構造部品と接触しながら相対運動する接触面を有する機械構造部品であって、
機械構造部品は、シリコン材料と合金材料との積層構造の複合材料で、接触面が少なくともシリコン材料であることを特徴とする。
【0023】
このような構造とすることによって、加工精度の高いシリコン部品同士が接触するため、磨耗が少なく、軽量かつ、強度の高い部品とすることができる。
【0024】
シリコン材料は、面方位が異なる2つの単結晶シリコン基板を貼り合せてもよい。
【0025】
異なる面方位の単結晶シリコン基板と合金材料を組み合わせることで、単結晶基板が互いに外力に弱い結晶方位の強度を補い、さらに合金材料が剛性を高めるため、たわみに対する強度が向上する。
【0026】
面方位が異なる2つの単結晶シリコン基板の一方は、その貼り合せの主平面を(100)面とし、他方は、その貼り合せの主平面を(111)面とするようにしてもよい。
【0027】
このような構成とする事によって、更に強靭な複合基板とすることができるのである。
【0028】
面方位が異なる2つの単結晶シリコン基板の間に合金材料を有するようにしてもよい。
【0029】
このような構成とする事によって、複合基板の接合強度を高めることができる。
【0030】
合金材料は、高融点金属シリサイドであってもよい。
【0031】
高融点金属シリサイドは、シリコンをドライエッチングする条件で、容易に加工することができるから、連続して加工ができて便利である。
【0032】
高融点金属シリサイドは、タングステン、チタン、モリブデン、コバルト、タンタルのいずれか1つと、シリコンとの化合物であってもよい。
【0033】
これら高融点金属は、シリコンと化合して高融点シリサイド化合物となるのである。
【0034】
高融点金属シリサイドは、第1の高融点金属シリサイド膜と、これと含有する高融点金属が異なる第2の高融点金属シリサイド膜と、を積層してなるようにしてもよい。
【0035】
このように異なる金属シリサイド膜を積層する構造にすると、機械構造部品の反り方向を制御することができる。
【0036】
第1の高融点金属シリサイド膜と第2の高融点金属シリサイド膜との間に高融点金属膜を備えるようにしてもよい。
【0037】
このような構造とすることにより、更に強靭な機械構造部品とすることができる。
【0038】
高融点金属膜は、タングステン、チタン、モリブデン、コバルト、タンタルのいずれかであってもよい。
【0039】
機械構造部品は、時計用歯車又は時計用指針であるようにしてもよい。
【0040】
こうした積層構造を有する機械構造部品は、単結晶シリコンで構成する機械構造部品に比べ、強度が高いため、さまざまな方向から外力が加わる、時計用歯車などにに対して有効である。
【0041】
上記目的を達成するために、本発明のシリコン時計部品は、以下の製造方法を採用するものである。
【0042】
単結晶シリコン基板上に高融点金属シリサイドを形成して複合基板を形成する複合基板形成工程と、複合基板上に、所定の形状のフォトレジストを形成する工程と、フォトレジストをマスクとして、SF6を含むエッチングガスを用いたドライエッチングにより、複合基板を所定の形状に形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0043】
このような製造方法とすることにより、機械構造部品に対応した高強度のシリコン複合基板とすると共に、半導体加工技術であるドライエッチングによる高精度な加工ができる。
【0044】
第1の単結晶シリコン基板上に高融点金属シリサイドを形成し、この高融点金属シリサイドを介して第1の単結晶シリコン基板と第2の単結晶シリコン基板とを、貼り合わせ主面が異なる面方位となるように張り合わせて複合基板を形成する複合基板形成工程と、複合基板上に、所定の形状のフォトレジストを形成する工程と、フォトレジストをマスクとして、SF6を含むエッチングガスを用いたドライエッチングにより、複合基板を前記所定の形状に形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0045】
このような製造方法とすることにより、機械構造部品に対応した、更に高強度の単結晶シリコン複合基板とすることができると共に、半導体加工技術であるドライエッチングによる高精度な加工ができるのである。
【0046】
第1の単結晶シリコン基板上に第1の高融点金属シリサイド膜を形成し、つづいてこの第1の高融点金属シリサイド膜上に、これと含有する高融点金属が異なる第2の高融点金属シリサイド膜を積層することで、高融点金属シリサイド膜を形成するようにしてもよい。
【0047】
このような製造方法とすることにより、製造工程ならびに完成後の複合基板の反りを制御することができる。
【0048】
第1の単結晶シリコン基板上に高融点金属膜を形成し、この高融点金属膜を介して第1の単結晶シリコン基板と第2の単結晶シリコン基板とを、貼り合わせ主面が異なる面方位となるように張り合わせて複合基板を形成する複合基板形成工程と、複合基板を加熱して、高融点金属膜と第1の単結晶シリコン基板及び第2の単結晶シリコン基板とを反応させ、高融点金属シリサイドを形成する工程と、複合基板上に、所定の形状のフォトレジストを形成する工程と、フォトレジストをマスクとして、SF6を含むエッチングガスを用いたドライエッチングにより、複合基板を所定の形状に形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0049】
高融点金属材料とシリコン基板の張り合わせ面を加熱して高融点金属シリサイド膜を形成するため、高融点金属シリサイド膜の組成比が傾斜的になり、接合強度が増すのである。
【0050】
第1の単結晶シリコン基板上に第1の高融点金属シリサイド膜を形成し、この第1の高融点金属シリサイド膜上に高融点金属膜を形成し、この高融点金属膜上に第2の高融点金属シリサイド膜を形成し、高融点金属シリサイドを形成して、この高融点金属シリサイドを介して第1の単結晶シリコン基板と第2の単結晶シリコン基板とを、貼り合わせ主面が異なる面方位となるように貼り合わせて複合基板を形成する複合基板形成工程と、複合基板上に、所定の形状のフォトレジストを形成する工程と、フォトレジストをマスクとして、SF6を含むエッチングガスを用いたドライエッチングにより、複合基板を前記所定の形状に形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0051】
このような製造方法とすることにより、それぞれの膜の厚さを自由に設定することができるため、機械構造部品の反り方向を制御することができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の機械構造部品は、異なる面方位の単結晶シリコン基板を積層した複合基板を用いているため、さまざまな方向からかかる外力に対して機械強度が高いという、単結晶シリコン基板単体には無い特徴を有している。また、単結晶シリコン基板の接合面に、高融点金属シリサイド膜を用いて接合するため、接合強度が高いという特徴も有している。さらに、高融点金属シリサイド膜はシリコン基板と同様のドライエッチング条件で加工することができるため、加工精度が高いのである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施形態における機械構造部品の構造を説明する平面図および断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態における機械構造部品の構造を説明する平面図および断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態における機械構造部品の構造を説明する平面図および断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態における機械構造部品の構造を説明する断面図である。
【図5】本発明の第5の実施形態における機械構造部品の構造を説明する断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における機械構造部品の製造方法を説明する断面図であって、複合基板を形成する過程を説明する断面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態における機械構造部品の製造方法を説明する平面図および断面図であって、複合基板をドライエッチングにより加工する過程を説明する平面図および断面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態における機械構造部品の製造方法を説明する断面図であって、機械構造部品が完成した状態を説明する断面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態における機械構造部品の製造方法を説明する断面図であって、複合基板の構造を説明する断面図である。
【図10】本発明の第5の実施形態における機械構造部品の製造方法を説明する断面図であって、複合基板を形成する過程を説明する断面図である。
【図11】本発明の第5の実施形態における機械構造部品の製造方法を説明する断面図であって、完成した複合基板の構造を説明する断面図である。
【図12】本発明の第5の実施形態における機械構造部品の製造方法を説明する断面図であって、シリコン酸化膜によるエッチングマスクを形成する過程を説明する断面図である。
【図13】特許文献1に示した従来技術である、シリコン製歯車の構造を示す断面図である。
【図14】特許文献2に示した従来技術である、単結晶シリコン基板の張り合わせ方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明の機械構造部品は、単結晶シリコン基板と高融点金属シリサイドからなる複合基板の積層構造を有し、単結晶シリコン基板の上面、若しくは結晶シリコン基板の間に高融点金属シリサイド膜を有してなる構造である。
こうした複合基板の構造とすることにより、シリコン材料の特徴的な高精度加工性はそのままに、機械強度を強化している。また、異なる結晶方位を有する単結晶シリコン基板同士が互いに補完してさらに機械的強度を高めている。
【0055】
異なる面方位の主平面を持つ単結晶シリコン基板の一方の主平面に、金属シリサイド膜を、スパッタリング、蒸着法などの方法により形成し、単結晶シリコン基板の主平面同士を、面方位が重ならないように張り合わせて、高温にて加熱すると単結晶シリコン基板の表面で金属シリサイドに含まれる金属の拡散が生じ、基板同士が接着される。
【0056】
このとき用いる金属シリサイド膜は、チタン、タングステン、モリブデン、コバルト、タンタルなどのシリコン化合物である。こうした高融点金属シリサイド膜は、SF6などのフロン系ガスを用いてドライエッチングすることができ、シリコンのドライエッチング条件で、一括して加工することができる。このような加工であるから、加工精度を高くすることができる。
【0057】
また、これらの元素は、金属単体でも、金属シリサイドの形態でも、塩素系のガスによるドライエッチングで容易に加工することができる。塩素系のガスによるエッチングはシリコンにも適用することができるため、シリコンと高融点シリサイド膜、あるいは高融点金属との複合基板を、連続的に加工することができる。
【0058】
以下、本発明の機械構造部品の実施形態を図面を用いて詳述する。
これから説明する実施形態にあっては、シリコン材料を単結晶シリコン基板とし、その上に合金材料として高融点シリサイド膜を形成して、複合材料とする。シリコン材料が基板であるため、以下、複合材料は複合基板と称する。
【0059】
また、単結晶シリコン基板を、面方位が異なる2つの基板を張り合わせてなる構成とするとき、面方位(100)の主平面の基板を、互いに45度ずらして張り合わせる。このようにした複合基板を、半導体製造技術で知られるドライエッチング法を用いて加工し、機械構造部品を形成する。
【0060】
または、面方位(111)の主平面を有する単結晶シリコン基板と、面方位(100)の主平面を有する単結晶シリコン基板を張り合わせてもよい。すなわち、へき開する方向が互いに異なっていれば、複合基板としたときの強度を高く保つことができるのである。
【0061】
また、説明に使用する図においては、発明を説明するために必要な部分のみを示しており、本発明の機能に影響を与えない構成については省略している。例えば、歯車の歯先などは省略して図示している。
【0062】
なお、実施形態の説明は、まず第1〜第5の実施形態ごとに構成を説明し、その後に製造方法を説明する。
【実施例1】
【0063】
[第1の実施形態の構造の説明:図1]
機械構造部品の第1の実施形態について図1を用いて詳細に説明する。図1は歯車の外観を説明する図である。図1(a)は、歯車を上面から見た平面図である。図1(b)は、図1(a)に示すA−A´断面における断面図である。
【0064】
図1において、100aは機械構造部品、101は単結晶シリコン基板、104は高融点金属シリサイド膜である。201は面方位(100)を持つ第1の単結晶シリコン基板101の主平面である。
機械構造部品100aは、特に限定しないが、時計を構成する所定の回転軸を有する歯車として用いることができる。
【0065】
機械構造部品100aは、単結晶シリコン基板と、高融点金属シリサイド膜からなる複合基板となっているため、全体を単結晶シリコン単体で構成するよりも、機械強度が高い。このため、単結晶シリコンで構成するよりもその厚さを薄くすることができ、小体積とすることができる。
本実施形態の製造方法については後述する。
【実施例2】
【0066】
[第2の実施形態の構造の説明:図2]
機械構造部品の第2の実施形態について図2を用いて詳細に説明する。図2は歯車の外観を説明する図である。図2(a)は、歯車を上面から見た平面図である。図2(b)は、図2(a)に示すB−B´断面における断面図である。
【0067】
図2において、100bは機械構造部品、102は第1の単結晶シリコン基板、103は第2の単結晶シリコン基板、104は高融点金属シリサイド膜、201は面方位(100)を持つ第1の単結晶シリコン基板102の主平面、202は面方位(111)を持つ第2の単結晶シリコン基板103の主平面である。
【0068】
それぞれの単結晶シリコン基板の主平面の面方位は、すでに説明したように、互いの面方位が持つへき開方向が異なっていれば良く、さまざまな面方位の基板を用いることができる。
【0069】
機械構造部品100bは、互いに面方位が異なる単結晶シリコン基板と、金属シリサイド膜からなる複合基板となっているため、第1の実施形態よりも、さらに機械強度が高い。このため、高いモーメントが加わる部位に用いる歯車に好適である。
【実施例3】
【0070】
[第3の実施形態の構造の説明:図3]
機械構造部品の第3の実施形態について図3を用いて詳細に説明する。図3は歯車の外観を説明する図である。図3(a)は、歯車を上面から見た平面図である。図3(b)は、図2(a)に示すC−C´断面における断面図である。
【0071】
図3において、100cは機械構造部品、102は第1の単結晶シリコン基板、103は第2の単結晶シリコン基板、104は高融点金属シリサイド膜、201は面方位(100)を持つ第1の単結晶シリコン基板102の主平面、202は面方位(111)を持つ第2の単結晶シリコン基板103の主平面である。
【0072】
機械構造部品100cは、互いに面方位が異なる単結晶シリコン基板を、金属シリサイ
ド膜を介して貼り合わせた複合基板となっているため、第2の実施形態よりも、貼り合わせ面の接着強度が高いのである。
本実施形態の製造方法については後述する。
【実施例4】
【0073】
[第4の実施形態の構造の説明:図4]
次に、機械構造部品の第4の実施形態について、図4を用いて詳細に説明する。図4は機械構造部品の断面における断面図である。すでに説明した第1〜第3の実施形態の断面図と同一の方向から見た図である。
図4において、100dは機械構造部品、301は第1の高融点金属シリサイド膜、302は第2の高融点金属シリサイド膜である。なお、すでに説明した構成と同一の構成には同一の番号を付与している。
【0074】
第4の実施形態の特徴は、単結晶シリコン基板の間に挟む高融点金属シリサイド膜が、互いに異なる金属シリサイド同士の二層構造となっている点である。
【0075】
機械構造部品100dは、このような構成を有しているため、例えば、歯車部品の輪列構造において、熱膨張係数が異なる金属シリサイド同士を組み合わせることで、温度変化によって生ずる膨張による反りを制御することができ、隣り合う歯車同士の接触を防ぐことができる。
【実施例5】
【0076】
[第5の実施形態の説明:図5]
次に、機械構造部品の第5の実施形態について、図5を用いて詳細に説明する。図5は機械構造部品の断面における断面図である。第4の実施形態の断面図と同様に、すでに説明した断面図と同一の方向から見た図である。
図5において、100eは機械構造部品、301は第1の高融点金属シリサイド膜、302は第2の高融点金属シリサイド膜である。さらに401は高融点金属膜である。なお、すでに説明した構成と同一の構成には同一の番号を付与している。
【0077】
第5の実施形態の特徴は、単結晶シリコン基板の間に挟む高融点金属シリサイド膜が、外側から順に金属シリサイド、高融点金属、金属シリサイドの3層構造となっている点である。
【0078】
機械構造部品100eは、このような構成を有しているため、単結晶シリコン基板からなる複合基板が、さらに強靭な構造となるのである。
また、これら複合基板を構成する材料は、塩素系のガスを用いたドライエッチングにより、連続して加工することができ、上述のような複雑な膜構成であっても加工精度を高く維持できるという特徴も持っている。
本実施形態の製造方法については後述する。
【0079】
[製造方法の説明1:図1、図6〜図8]
次に、機械構造部品の第1の実施形態の製造方法について、図1、図6〜図8を用いて詳細に説明する。
【0080】
図6に示すように、まず、単結晶シリコン基板101の主平面201上に、スパッタリング法により高融点金属シリサイド膜103、例えばチタンシリサイド膜を設け、複合基板500を形成する。
【0081】
つづいて図7(a)の平面図および断面図(b)に示すように、複合基板500上に、
歯車の形状を有するフォトレジストパターン600を、知られたフォトリソグラフィを用いて形成する。図7(a)に示す例では、1つの複合基板から2つの歯車を加工して切り出す場合である。
【0082】
その後、図8に示すように、フォトレジスト600をマスクとして、シリコンを対象とする既知のドライエッチング法により、SF6とCHF3とのガスを交互に真空チャンバに導入しながら、複合基板500を貫通するまでドライエッチングを実施する。
【0083】
次に、マスクとして用いたフォトレジスト600は、上述のドライエッチング後に、O2ガスによるアッシングにより除去する(図示せず)。
【0084】
図8を用いて説明したように、ドライエッチングにて複合基板500は貫通しているため、機械構造部品は2つに分離され、図1に示すような機械構造部品100aが完成する。
【0085】
以上、説明した製造方法は、あくまでも一例であって、さまざまに変更することができる。例えば、高融点金属シリサイド膜の形成には蒸着法を用いてもよい。また、高融点金属膜を形成した後に熱処理を施すことにより、高融点金属シリサイドを形成してもよい。このようにすれば、張り合わせる単結晶シリコン基板の主平面自体がシリサイド化するため、組成が表面から深さ方向に傾斜的になり、張り合わせ強度が強靭になる効果がある。
【0086】
[製造方法の説明2:図3、図9]
次に、機械構造部品の第3の実施形態の製造方法について、図3及び図9を用いて詳細に説明する。
【0087】
まず、図9(a)に示すように、第1の単結晶シリコン基板102の主平面201上に、スパッタリング法により高融点金属シリサイド膜104、例えばチタンシリサイド膜を設ける。
そして、図9(b)に示すように、高融点金属シリサイド膜104上に、第2の単結晶シリコン基板103を、その主平面202を向けて、互いの結晶方位が異なるように張り合わせる。 さらに、張り合わせた基板を500℃で30分間、不活性ガス雰囲気中で加熱処理することで、第2の単結晶シリコン基板103と、高融点金属シリサイド膜104を結合させる。
【0088】
その後、第1の実施形態の製造方法の説明と同様に、複合基板501上に、歯車の形状を有するフォトレジストパターンを、知られたフォトリソグラフィを用いて形成し、知られたドライエッチング法により複合基板501をエッチングすると、図3に示すような機械構造部品100cが完成する。
【0089】
[製造方法の説明3:図4]
次に、機械構造部品の第4の実施形態の製造方法について説明する。説明にあっては、製造工程を示す図面はないが、図4を参照していただきたい。
【0090】
まず、第1の単結晶シリコン基板102の主平面201上に、スパッタリング法により第1の高融点金属シリサイド膜301、例えばチタンシリサイド膜を設ける。
さらに、第1の高融点金属シリサイド膜301上に、第2の高融点金属シリサイド膜302、例えばタングステンシリサイド膜をスパッタリング法により設ける。
【0091】
つづいて、第2の単結晶シリコン基板103を、その主平面202を向けて、互いの結晶方位が異なるように張り合わせる。
【0092】
さらに、張り合わせた基板を500℃で30分間、不活性ガス雰囲気中で加熱処理する。
【0093】
その後、すでに説明した製造方法と同様に、複合基板上に、歯車の形状を有するフォトレジストパターンを、知られたフォトリソグラフィを用いて形成し、知られたドライエッチング法によりエッチングして、図4に示すような機械構造部品100dが完成する。
【0094】
[製造方法の説明4:図5、図10〜図12]
次に、機械構造部品の第5の実施形態の製造方法について、図5、図10〜図12を用いて詳細に説明する。
【0095】
まず、図10(a)に示すように、第1の単結晶シリコン基板102の主平面201上に、スパッタリング法により高融点金属膜401、例えばチタン膜を800nmの厚さで設ける。そして、図10(b)に示すように、高融点金属膜401上に、第2の単結晶シリコン基板103を、その主平面202を向けて、互いの結晶方位が異なるように張り合わせる。
さらに、図11に示すように、張り合わせた基板を500℃で20分間、不活性ガス雰囲気中で加熱処理することで、第1の単結晶シリコン基板102及び第2の単結晶シリコン基板103と高融点金属膜401とを反応させ、高融点金属膜401と単結晶シリコン基板との間に高融点金属シリサイド膜301、302を形成し、複合基板502ができる。
【0096】
つづいて図12に示すように、複合基板502上にCVD法を用いてシリコン酸化膜601を、例えば、1μmの厚さで形成し、さらにシリコン酸化膜601上に、歯車形状のパターンを有するフォトレジスト600を形成する。
さらにその後、CF4ガスを用いて、シリコン酸化膜601をドライエッチングにより加工し、シリコン酸化膜600からなる歯車形状のパターンを形成する。このシリコン酸化膜601が、複合基板502をドライエッチングする際のマスクとなる。
【0097】
ここで、複合基板502を加工する際に、シリコン酸化膜601を用いる理由について詳しく説明する。
第5の実施形態の構造を高精度にエッチング加工するためには、第1の実施形態におけるエッチング法であるシリコンを対象とするドライエッチング法を用いることができない。なぜならば、複合基板502に用いる高融点金属膜、例えばチタン膜は、SF6ガスによってエッチングすることができないからである。
そのため塩素系ガス、例えばBCl3ガスを用いて、連続的にエッチングするのである。しかしながら塩素系ガスによるエッチングでは、フォトレジストとの選択比を高く保つことができない。そこでシリコン酸化膜601をマスクとするのである。
【0098】
その後、複合基板502を貫通して加工するため、シリコン酸化膜601をマスクとして、知られた塩素系ガスを用いるドライエッチング法によりエッチングする。つづいてCF4ガスを用いて、シリコン酸化膜601を除去し、図5に示すような機械構造部品100eが完成する。
【0099】
なお、またマスクとして使用したシリコン酸化膜601はそのまま残しても、知られているエッチング技術により除去してもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の機械構造部品は、軽量かつ機強度が高い。そして、その製造方法によれば、こ
うした機械構造部品を高精度に再現性よく、効率的に製造することができる。このため、腕時計用部品などの小型軽量かつ生産性が要求される部品に好適である。
【符号の説明】
【0101】
100 機械構造部品
101 単結晶シリコン基板
102 第1の単結晶シリコン基板
103 第2の単結晶シリコン基板
104 高融点金属シリサイド膜
201 第1の単結晶シリコン基板の主平面
202 第2の単結晶シリコン基板の主平面
301 第1の高融点金属シリサイド膜
302 第2の高融点金属シリサイド膜
401 高融点金属膜
500 単結晶シリコン基板上に高融点金属シリサイド膜を有する複合基板
501 単結晶シリコン基板の間に高融点金属シリサイド膜を有する複合基板
502 単結晶シリコン基板の間に高融点金属シリサイド膜と、高融点金属膜とを有する複合基板
600 フォトレジスト
601 シリコン酸化膜
701 歯車
702 接合部
703 回転軸
801 第1の単結晶シリコン基板
802 第2の単結晶シリコン基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の機械構造部品と接触しながら相対運動する接触面を有する機械構造部品であって、
前記機械構造部品は、シリコン材料と合金材料との積層構造の複合材料で、前記接触面が少なくとも前記シリコン材料であることを特徴とする機械構造部品。
【請求項2】
前記シリコン材料は、面方位が異なる2つの単結晶シリコン基板を貼り合せてなることを特徴とする請求項1に記載の機械構造部品。
【請求項3】
面方位が異なる2つの前記単結晶シリコン基板の一方は、その貼り合せの主平面を(100)面とし、他方は、その貼り合せの主平面を(111)面とすることを特徴とする請求項2に記載の機械構造部品。
【請求項4】
面方位が異なる2つの前記単結晶シリコン基板の間に前記合金材料を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の機械構造部品。
【請求項5】
前記合金材料は、高融点金属シリサイドであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の機械構造部品。
【請求項6】
前記高融点金属シリサイドは、タングステン、チタン、モリブデン、コバルト、タンタルのいずれか1つと、シリコンとの化合物であることを特徴とする請求項5に記載の機械構造部品。
【請求項7】
前記高融点金属シリサイドは、第1の高融点金属シリサイド膜と、これと含有する高融点金属が異なる第2の高融点金属シリサイド膜と、を積層してなることを特徴とする請求項5又は6に記載の機械構造部品。
【請求項8】
前記第1の高融点金属シリサイド膜と前記第2の高融点金属シリサイド膜との間に高融点金属膜を備えることを特徴とする請求項7に記載の機械構造部品。
【請求項9】
前記高融点金属膜は、タングステン、チタン、モリブデン、コバルト、タンタルのいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の機械構造部品。
【請求項10】
前記機械構造部品は、時計用歯車又は時計用指針であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の機械構造部品。
【請求項11】
単結晶シリコン基板上に高融点金属シリサイドを形成して複合基板を形成する複合基板形成工程と、
前記複合基板上に、所定の形状のフォトレジストを形成する工程と、
前記フォトレジストをマスクとして、SF6を含むエッチングガスを用いたドライエッチングにより、前記複合基板を前記所定の形状に形成する工程と、
を有することを特徴とする機械構造部品の製造方法。
【請求項12】
第1の単結晶シリコン基板上に高融点金属シリサイドを形成し、該高融点金属シリサイドを介して前記第1の単結晶シリコン基板と第2の単結晶シリコン基板とを、貼り合わせ主面が異なる面方位となるように張り合わせて複合基板を形成する複合基板形成工程と、
前記複合基板上に、所定の形状のフォトレジストを形成する工程と、
前記フォトレジストをマスクとして、SF6を含むエッチングガスを用いたドライエッチングにより、前記複合基板を前記所定の形状に形成する工程と、
を有することを特徴とする機械構造部品の製造方法。
【請求項13】
第1の単結晶シリコン基板上に第1の高融点金属シリサイド膜を形成し、つづいて該第1の高融点金属シリサイド膜上に、これと含有する高融点金属が異なる第2の高融点金属シリサイド膜を積層することで、前記高融点金属シリサイド膜を形成することを特徴とする請求項11に記載の機械構造部品の製造方法。
【請求項14】
第1の単結晶シリコン基板上に高融点金属膜を形成し、該高融点金属膜を介して前記第1の単結晶シリコン基板と第2の単結晶シリコン基板とを、貼り合わせ主面が異なる面方位となるように張り合わせて複合基板を形成する複合基板形成工程と、
前記複合基板を加熱して、前記高融点金属膜と前記第1の単結晶シリコン基板及び前記第2の単結晶シリコン基板とを反応させ、高融点金属シリサイドを形成する工程と、
前記複合基板上に、所定の形状のフォトレジストを形成する工程と、
前記フォトレジストをマスクとして、SF6を含むエッチングガスを用いたドライエッチングにより、前記複合基板を前記所定の形状に形成する工程と、
を有することを特徴とする機械構造部品の製造方法。
【請求項15】
第1の単結晶シリコン基板上に第1の高融点金属シリサイド膜を形成し、該第1の高融点金属シリサイド膜上に高融点金属膜を形成し、該高融点金属膜上に第2の高融点金属シリサイド膜を形成し、高融点金属シリサイドを形成して、該高融点金属シリサイドを介して前記第1の単結晶シリコン基板と前記第2の単結晶シリコン基板とを、貼り合わせ主面が異なる面方位となるように貼り合わせて複合基板を形成する複合基板形成工程と、
前記複合基板上に、所定の形状のフォトレジストを形成する工程と、
前記フォトレジストをマスクとして、SF6を含むエッチングガスを用いたドライエッチングにより、前記複合基板を前記所定の形状に形成する工程と、
を有することを特徴とする機械構造部品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−68136(P2012−68136A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213556(P2010−213556)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】