説明

機械部品の液相拡散接合方法

【課題】内部に複雑かつ精密な流体搬送用、重量軽減用の管路を有する機械部品を液相拡散接合で接合する。
【解決手段】(i-1)接合面を室温から加熱し、液相拡散接合温度の1100〜1300℃に到達した時、2MPa以上の負荷応力を90〜120秒負荷し、続いて、負荷応力を2MPa未満に減じて5分間保持し、その後、(i-2)無拡散変態温度以上の温度まで5℃/sec以上で急冷し、変態が終了するまで放冷した後、1℃/sec以上で室温まで急冷して、(ii)液相拡散接合用合金と被接合材料の融合によって生成した接合金属と、該接合金属の両側に存在し、液相拡散接合用合金から被接合材中への固相拡散で生じた“NiまたはSiが1%以上含まれる拡散領域”を合せた部分の幅が、接合金属の中心から、片側50μm以内であり、かつ、組織の一部又は全部が、ベイナイト組織またはマルテンサイト組織で、最終的に、被接合材料と同等の強度を備える接合部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散接合技術を用いて各種機械部品を製造する方法に関し、特に、従来、素材から切削、削りだし、穿孔、型抜き等の機械加工、或いは直接溶融金属から鋳造、または鍛造等で環状ないし中空形状を有する機械部品の加工に代わる液相拡散接合により機械部品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、環状或いは中空形状を有し、特に、耐磨耗性、耐食性、耐疲労性の諸特性を個々に、或いは、同時に、かつ、長時間にわたって要求される機械部品、例えば、回転部品の軸受け、ベアリング、シリンダーの摺動管などは、要求品質を満足するために、比較的合金比率が高い、例えば、JIS−SUJに代表される軸受け鋼では、C:1%、Cr:1%に加え、更に、Mn、Moを含有した鋼材を使用しているが、部品同士を溶接等により組み立てることは困難である場合が多い。
【0003】
そのために、複雑な形状を有する機械部品については、塊状の鋼塊から削りだし、或いは、熱間鍛造や穿孔によって概略成形し、更に、仕上げ加工を施した後、要求仕様に応じて球状化処理、浸炭処理を行なって製造している。従って、原材料の鋼塊価格よりも、寧ろ製造工程における各種加工工程コストが、製品価格の大半を占めている。
【0004】
一方で、自動車をはじめとする信頼性の要求される精密機械部品では、同時に長時間の耐久性が要求され、長期間での仕様コスト低減を指向している。従って、例え高価であっても、塊状金属から、従来の製造方法で製造したこれら精密機械部品が多用され、多くの部品価格、牽いては最終製品価格の上昇を引き起こしている。
【0005】
また、通常金属材料を加工して任意の形状とする方法のうち、最も量産性が高く、低コストの方法として、熱間圧延、プレス成型が採用されているが、これらの技術は、単一の形状、多くの場合は、板などの簡単な形状を有しており、大量生産に好適であるも、中空形状の機械部品、環状部品を上述の圧延やプレス成型で歩留まりよく直接製造することは、その形状の制約から難しく、現在では、全く工業化されていない実情にある。
【0006】
従って、環状或いは中空形状を有する複雑な精密機械部品を効率よく大量生産する技術は、工業的に確立されている状況になく、一方、コスト低減の観点からも、従来とは全く異なる製造プロセスの開発が切望されている。
【0007】
一方、最近においては、液相拡散接合の技術が脚光を浴びている。この液相拡散接合技術は、接合しようとする材料の接合面、即ち、開先間に、被接合材料に比較して低い融点を有する合金、例えば、結晶構造の50%以上が実質的に非晶質であり、かつ、拡散律速の等温凝固過程を経て継ぎ手を形成能を有する元素、例えば、B、P、Ni、Feなどの多元合金を介在させ、継ぎ手を挿入した低融点合金の融点以上の温度に加熱保持し、等温凝固過程で継ぎ手を形成する技術である。
【0008】
この液相拡散接合技術は、通常の溶接技術と異なり、溶接残留応力が殆どないこと、或いは、溶接のような余盛りを発生しない平滑かつ精密な継ぎ手を形成できるなどの特徴を有している。しかも、この技術は面接合であるため、接合面の面積によらず、接合時間が一定で、かつ、比較的短時間で接合が完了する利点を有し、従来の溶接とは全く異なる接合技術である。
【0009】
従って、開先さえ挿入して低融点金属以上の温度に所定時間保持できれば、開先形状を選ばず、面同士の接合を実現できる。また、一方では、従来の非酸化性雰囲気でのみ実現可能な液相拡散接合について、酸化性雰囲気下でも適用可能な液相拡散接合用合金箔が知られている(特許文献1〜3、参照)。しかしながら、現状では、この液相拡散接合技術は、接合面の面積が比較的大きい部材の接合にのみ適用され、精密機械部品等の接合には用いられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第1891618号公報
【特許文献2】特許第1891619号公報
【特許文献3】特許第1837572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、環状或いは中空形状を有する耐磨耗性、耐食性、耐疲労性の諸特性を同時に満足する複雑な精密機械部品を、高効率で、かつ、低コストで大量生産可能な液相拡散接合で接合する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その要旨は次のとおりである。
【0013】
(1)2つ以上の部品から、Ni基の液相拡散接合用合金を用いて、液相拡散接合により機械部品を組み立て、接合する接合方法において、
(i-1)接合面を、室温から加熱し、液相拡散接合温度の1100〜1300℃に到達した時、接合面に、2MPa以上の負荷応力を、90〜120秒負荷し、続いて、負荷応力を2MPa未満に減じて、低応力ないし無負荷状態で5分間保持し、その後、
(i-2)被接合材料の組織のマルテンサイト変態またはベイナイト変態などの無拡散変態温度以上の温度まで、焼き割れを防止するため、5℃/sec以上の冷却速度で急冷し、続いて、変態が終了するまで放冷を継続した後、1℃/sec以上の冷却速度で、室温まで急冷することにより、
(ii)Ni基の液相拡散接合用合金と被接合材料の融合によって生成した接合金属と、該接合金属の両側に存在し、液相拡散接合用合金から被接合材中へのNiの固相拡散で生じた、Niが1%以上含まれるNi拡散領域とを合せた部分の幅が、接合面に垂直な方向で、該接合金属の中心から、片側50μm以内であり、かつ、組織の一部又は全部が、ベイナイト組織またはマルテンサイト組織で、最終的に、被接合材料と同等の強度を備える接合部を形成する、
ことを特徴とする機械部品の液相拡散接合方法。
【0014】
(2)2つ以上の部品から、低融点維持または実質的に50%以上が非晶質となる構造維持に必要なSiを含有するFe基の液相拡散接合用合金を用いて、液相拡散接合により機械部品を組み立て、接合する接合方法において、
(i-1)接合面を、室温から加熱し、液相拡散接合温度の1100〜1300℃に到達した時、接合面に、2MPa以上の負荷応力を、90〜120秒負荷し、続いて、負荷応力を2MPa未満に減じて、低応力ないし無負荷状態で5分間保持し、その後、
(i-2)被接合材料の組織のマルテンサイト変態またはベイナイト変態などの無拡散変態温度以上の温度まで、焼き割れを防止するため、5℃/sec以上の冷却速度で急冷し、続いて、変態が終了するまで放冷を継続した後、1℃/sec以上の冷却速度で、室温まで急冷することにより、
(ii)Fe基の液相拡散接合用合金と被接合材料の融合によって生成した接合金属と、該接合金属の両側に存在し、液相拡散接合用合金から被接合材中へのSiの固相拡散で生じた、Siが1%以上含まれるSi拡散領域とを合せた部分の幅が、接合面に垂直な方向で、該接合金属中心から、片側50μm以内であり、かつ、組織の一部または全部が、ベイナイト組織またはマルテンサイト組織で、最終的に、被接合材料と同等の強度を備える接合部を形成する、
ことを特徴とする液相拡散接合方法。
【0015】
(3)前記液相拡散接合が酸化性雰囲気中で行われることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の機械部品の液相拡散接合方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、元来一体成型によって製造する、内部に複雑かつ精密な管路を有する自動車用燃料噴射弁のような精密機械部品を、簡易に製造可能な分割部品を液相拡散接合技術によって接合して製造するので、金属製精密機械部品を、安価かつ効率的に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一体成型によって製造する機械部品を、その内部に有する管路を通過する面で分割した場合の分割部品形状を示す図で、特に、流体噴射弁の例を示す図である。
【図2】液相拡散接合における接合時の押力と、接合金属を含む、Ni含有量1%以上の領域幅の、接合金属の中心からの距離との関係を示す図である。
【図3】1Cr−0.5Mo鋼接合継手の引張強度と、接合金属を含む、Ni含有量1%以上の領域幅の、接合金属の中心からの距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するに当たり、対象とする機械部品の材質は、特に限定しない。液相拡散接合ができると考えられる金属材料は、全て、本発明の技術を適用することができる。例えば、通常の炭素鋼、高炭素鋼、低炭素鋼など、通常の溶接が適用困難な材質であっても、液相拡散接合は、接合継ぎ手を実現可能である。
【0019】
Cr或いはNiを種々の割合で含有するステンレス鋼、高耐食合金鋼、Niを基材とするNi基合金や、その他の合金、および、非鉄材料であるAl、Ti、Znおよびその他の実用金属なども、それらに適した接合用合金を用いれば、全て、液相拡散接合が可能となる。
【0020】
また、液相拡散接合を実現する非晶質合金組成としても、特段の制限がなく、米国特許第4,144,058号明細書に記載の合金を始め、特開昭49−91014号公報に記載のP、B、C等を拡散原子として含有する液相拡散接合用合金を使用することができる。
【0021】
本発明では、上述したような被接合材料と液相拡散接合用合金を用いて、内部に流体搬送用、重量軽減用、或いは、摺動部品通過のため等の目的を有する管路を備えた、元来一体成型で製造していた精密機械部品を、最初に管路を含む面で複数に分割した部品毎に、例えば、プレス成形或いは圧延、研削、研磨など従来の一体成型と機械加工の組み合わせに対して安価な製造工程を経て製造し、それらを液相拡散接合用合金を介して組み立て、液相拡散接合によって一体化する工程を経ることが必要である。
【0022】
このときの分割すべき部品は、最終形状との対比で、内部に存在する管路を通過する面で分割してあることが必要で、これによって、各部品をプレス成形などの安価でかつ簡便な方法で製造可能ならしめる。また、この分割は、2以上であれば幾つでも可能であって、製造が簡易化し、かつ、製造工程が煩雑或いは多数となる結果、従来製造工程に対して高価とならない範囲で適宜選択すればよい。
【0023】
また、分割面は、平面でも曲面でも、連続或いは不連続の多面ないしは曲面であってもよく、その形状は、分割することで各部品の製造が容易になるように適宜選択すればよい。なお、最終形状の部品が内部に有する管路は連続した一つの経路でも、複数の独立した経路でもよく、管路自体の形状は自由で、単に、組み立て時に接合する面が対応すればよく、特に制限はない。
【0024】
管路は、外表面に対して開口していても、いなくても組み立ては可能である。なお、被接合材料と液相拡散接合用合金の組み合わせで、接合部の特性は種々に変化する。
【0025】
本発明においては、上述したような内部に管路を有する複数に分割された精密機械部品、例えば、図1に示すような、Cr:1.0%、Mo:0.5%を含有する高炭素鋼からなる自動車燃料噴射弁の管路に平行な面で2分割した分割面にNi基の液相拡散接合用合金を介して組み立て、固相線以上の温度に加熱し、1000〜1300℃の温度で、加熱開始から90〜120秒の間、接合面に2MPa以上の応力を負荷し続け、その後、負荷応力を減じて、低応力ないし無負荷として1分以上保持する液相拡散接合する方法が採用される。
【0026】
この液相拡散接合により、上記Ni基の液相拡散接合用合金と被接合材料の融合によって生成した接合金属と、Niの被接合材中への拡散で生じたNiが1%以上含まれる領域の幅が、接合面に垂直な方向の長さで、片側50μm以内に拡散させることが可能であれば、強固な接合面が得られることになる。
【0027】
一方、液相拡散接合用合金にFe基の液相拡散接合用合金を用いた場合には、液相拡散接合用合金の液相拡散接合を可能とするために必要な低融点維持、または、実質的に50%以上が非晶質となる構造維持に必要なSiを含有するFe基の液相拡散接合用合金を用いて、液相拡散接合によって組み立ておよび接合する場合、その接合部において、該Fe基の液相拡散接合用合金と被接合材料の融合によって生成した接合金属と、液相拡散接合用合金から被接合材中へのSiの固相拡散で生じた、Siが1%以上含まれるSi拡散領域の幅を、接合面に垂直な方向で、該接合金属中心から、片側50μm以内にすることが可能であれば、強固な接合面が得られることになる。
【0028】
上記液相拡散接合の条件において、加熱温度および加熱時間は、通常、液相拡散接合において用いられる条件であるが、本発明においては、精密機械部品に必要な接合強度を得るために、加熱下において、接合面、即ち、被接合材料に、外部から接合に必要な押力を付与しながら接合することが重要である。
【0029】
この押力は、加熱開始から液相拡散接合用合金中に含有されるNi或いはSiが被接合材料中に拡散しうる温度、即ち、1000〜1300℃間で液相拡散が開始する条件下で、押力の付与を行う必要があり、この押力は、接合面に2MPa以上の応力を付加する。
【0030】
次いで、徐々に負荷応力を減じて低応力ないし無負荷として5分以上保持することが必要条件となる。仮に、上記液相拡散接合が無負荷の状態で行われた場合には、液相拡散接合用の合金の溶融があったとしても、等温凝固が完了しないなどの原因で健全な継手が得られないため、必要な接合強度が得られない。なお、被接合部材に付与される応力負荷の位置は、部材サイズによって異なるが、1箇所であってもよいし、複数箇所であっても差し支えない。
【0031】
なお、本発明における液相拡散接合は、酸素0.01質量%以上を含む酸化性雰囲気中、好ましくは大気中で、N2或いはArを被接合材料の内外面表面に吹きつけて接合作業を行うことが好ましい。
【0032】
また、接合部でNi含有量が1%以上である、接合金属と、液相拡散接合用合金から被接合材中へのNiの固相拡散で生じたNi拡散領域の幅を、該接合金属の中心から、50μm以内に制限した理由は、これ以上の幅になる場合は、必然的に十分な押力が得られないか、或いは、接合面同士の突合せに不備があった結果であり、実験的および経験的に、接合部は健全でないことが判明したためである。
【0033】
一方、前述の拡散接合の幅が余りにも小さい場合には、拡散接合に必要な接合金属が十分に接合面に供給されなかった場合などの結果であるため、拡散相幅の好ましい範囲は、2〜50μmである。
【0034】
以上の接合部でNi含有量が1%以上である、接合金属と、液相拡散接合用合金から被接合材中へのNiの固相拡散で生じたNi拡散領域の幅と、押力の関係は、以下の詳細な実験結果に基づいて決定した。
【0035】
図2は、構造用炭素鋼、機械構造用鋼、低合金鋼などの市販鋼材を液相拡散接合にて接合した場合の、接合時、接合面に垂直な方向に負荷した押力と、その結果形成された接合継手における、上記Ni含有量1%以上の領域幅、即ち、接合金属及びNiの拡散層(Ni含有量が1質量%以上である領域)を含めた合金の領域との関係を示した図である。
【0036】
接合時の押力が増加すると、接合時に溶融した元非晶質金属と、被接合材料の溶融によって生じた合金は接合界面から外部に押し出され、接合継ぎ手で計測できる接合金属の幅、及び、接合金属中から被接合材料に拡散したNiが、接合後に1質量%以上に達した領域を含める合金の幅は、結果的に減少する。
【0037】
押力が2MPaの場合、上記Ni含有量1%以上の領域幅は、50μmに達する場合があることがわかる。なお、接合面の凹凸は、接合前において最大100μmに達している継ぎ手の接合結果を含んでいる。
【0038】
また、上記Ni含有量1%以上の領域幅は、接合後の継ぎ手断面を、元素定量分析可能な走査型電子顕微鏡にて線分析或いは面分析した結果をもとに、組織との対応で測定し、決定した。即ち、接合時の押力と上記Ni含有量1%以上の領域幅には密接な関係が存在している。
【0039】
図3は、同様にして計測した上記Ni含有量1%以上の領域幅と接合継ぎ手の垂直方向の引張強さの関係を示している。接合試験および引張試験に供した材料は、0.3%C−1%Cr−0.5%Moの組成を有する低合金鋼であり、接合後の継ぎ手は1℃/分の速度で冷却し、ここから、6mm直径の円形断面を有する引張試験片を採取し、室温で引張強さを測定した。
【0040】
また、当該材料が、実使用時に接合部に負荷される応力は最大180MPaであることが判明しているため、ここでは、継ぎ手に必要な目標強さを180MPaと仮定し、その値を図中に示してある。上記Ni含有量1%以上の領域幅が増加すると、継手強さは低下し、上記Ni含有量1%以上の領域幅が50μmを超えると、目標強度は達成できないことが明白である。
【0041】
以上の傾向は、液相拡散接合用合金として、代わりに、鉄基接合金属箔を用いた場合には、接合金属と同箔中に含まれるSiの拡散層を考慮した場合でも、全く同様であった。
【0042】
また、接合温度は、1000〜1300℃の範囲で、ほぼ同様な傾向を示し、接合温度依存性は強く顕れなかった。さらに、この温度範囲では、通常の鋼材は、ほぼ同様な強度特性を有することから、鋼材間での差異もまた明確ではなかった。
【0043】
なお、接合に用いた接合金属の化学成分は、Ni基については、Si=3%、B=3.5%、V=3%であり、Fe基については、Si=4.5%、B=3.0%、V=5.0%であった。質量%で同等なPをBの代わりに含有する箔を用いた場合も同様であった。
【0044】
上述した液相拡散接合処理により得られた被接合材料の組織が、低温変態生成組織に分類されるマルテンサイト或いはベイナイトであり、かつ、接合金属内に、前記接合金属と被接合材料金属との融合によって生成された合金化により、被接合材料と同一の低温変態生成組織を一部または全部に有する組織が得られれば、組織の均質化によって、強度的にも均質な接合部が得られることになる。
【0045】
また、上述した液相拡散接合処理後においては、被接合材料の組織がベイナイト変態開始温度以上の温度まで、焼き割れを防止するために、5℃/sec以上の冷却速度で急冷し、続いて放冷して、変態が終了するまで、この放冷を維持した後、室温まで1℃/sec以上の冷却速度で急冷する条件を採用することで目的とする接合組織および接合強度が得られる。
【0046】
本発明においては、適用する機械部品の仕様によって接合面の特性を自由に変えることができ、接合継ぎ手としての特性は特に制限がない。継ぎ手効率は1である必要はなく、かつ、組織的にも完全に均質化している必要もない。勿論、継ぎ手効率が1で完全均質体であることは、機械部品の特性上好ましいが、部品の製造コストに応じて決定することができる。
【0047】
組み立て終了後に機械部品に対して種々の熱処理、化成処理、加工を施すことが可能であり、例えば、鋼材であれば焼き入れ、焼き戻し、焼準、焼鈍などの熱処理工程を単独で、或いは複合で、場合によっては繰り返し施すことも、部品としての特性を向上させるのに有効であって、本発明の効果を何ら妨げない。
【0048】
また、浸炭処理、窒化処理、メッキ、或いは塗装、粉末などの吹きつけ処理、ショットブラストなどの表面加工も有効である。
【実施例】
【0049】
<実施例1>
本発明においては、内部に燃料供給用管路を有す自動車燃料噴射弁の製造について述べる。この自動車燃料噴射弁は、図1に示すようなCr:1.0%、Mo:0.5%を含有する高炭素鋼からなる鍛造にて管路に平行な面で2分割した半割り部品の分割面1、2の間に厚さ30μmのB、Pを少量含むNi基の非晶質合金からなる液相拡散接合用合金を挟み、前記部品を突合せ、前記部品を外部上下面から押さえ治具で押さえ、次いで、部品全体を、高周波誘導加熱コイルを有する雰囲気制御可能な高周波誘導加熱炉中で室温から加熱を開始し、液相拡散接合温度である1100℃から1300℃の範囲に到達した時点で、90〜120秒の間、接合面に押さえ治具で2MPa以上の負荷応力を負荷し続け、その後、負荷応力を減じて低応力ないし無負荷として5分保持し、その後、被接合材料の組織がマルテンサイト変態或いはベイナイト変態などの無拡散変態温度以上の温度まで、焼き割れを防止するために、5℃/sec以上の冷却速度で急冷し、続いて放冷して、変態が終了するまで、この放冷を維持した後、室温まで、1℃/sec 以上の冷却速度で急冷した。
【0050】
このような処理を行うことによって、被接合材料の組織が低温変態生成組織に分類される、マルテンサイト或いはベイナイトであり、かつ、接合金属においては、被接合材料と同一の低温変態生成組織を一部または全部に有していた。
【0051】
そして、Ni含有量が1%以上である、接合金属と、液相拡散接合用合金から被接合材中へのNiの固相拡散で生じた、Ni拡散領域の幅が、接合面に垂直な方向の長さで、該接合金属中心から、片側40μmであった。このようにして得た拡散接合面の強度は、被接合材料強度と同等もしくはそれ以上の強度を有していた。
【0052】
その後、最終の外形に仕上げて自動車用燃料噴射弁の製品とした。これを実際の自動車部品と組み込んで部品特性を評価したところ、従来の機械加工した自動車用燃料噴射弁と同一の使用性能が得られ、高温耐酸化特性、耐磨耗性、流体圧力に対する接合面強度において何ら遜色のない値が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
前述したように、本発明は、元来一体成型によって製造する、内部に複雑かつ精密な管路を有する自動車用燃料噴射弁のような精密機械部品を、簡易に製造可能な分割部品を液相拡散接合技術によって接合して製造するので、金属製精密機械部品を、安価かつ効率的に製造することが可能である。よって、本発明は、精密機械部品製造産業において利用可能性が大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の部品から、Ni基の液相拡散接合用合金を用いて、液相拡散接合により機械部品を組み立て、接合する接合方法において、
(i-1)接合面を、室温から加熱し、液相拡散接合温度の1100〜1300℃に到達した時、接合面に、2MPa以上の負荷応力を、90〜120秒負荷し、続いて、負荷応力を2MPa未満に減じて、低応力ないし無負荷状態で5分間保持し、その後、
(i-2)被接合材料の組織のマルテンサイト変態またはベイナイト変態などの無拡散変態温度以上の温度まで、焼き割れを防止するため、5℃/sec以上の冷却速度で急冷し、続いて、変態が終了するまで放冷を継続した後、1℃/sec以上の冷却速度で、室温まで急冷することにより、
(ii)Ni基の液相拡散接合用合金と被接合材料の融合によって生成した接合金属と、該接合金属の両側に存在し、液相拡散接合用合金から被接合材中へのNiの固相拡散で生じた、Niが1%以上含まれるNi拡散領域とを合せた部分の幅が、接合面に垂直な方向で、該接合金属の中心から、片側50μm以内であり、かつ、組織の一部又は全部が、ベイナイト組織またはマルテンサイト組織で、最終的に、被接合材料と同等の強度を備える接合部を形成する、
ことを特徴とする機械部品の液相拡散接合方法。
【請求項2】
2つ以上の部品から、低融点維持または実質的に50%以上が非晶質となる構造維持に必要なSiを含有するFe基の液相拡散接合用合金を用いて、液相拡散接合により機械部品を組み立て、接合する接合方法において、
(i-1)接合面を、室温から加熱し、液相拡散接合温度の1100〜1300℃に到達した時、接合面に、2MPa以上の負荷応力を、90〜120秒負荷し、続いて、負荷応力を2MPa未満に減じて、低応力ないし無負荷状態で5分間保持し、その後、
(i-2)被接合材料の組織のマルテンサイト変態またはベイナイト変態などの無拡散変態温度以上の温度まで、焼き割れを防止するため、5℃/sec以上の冷却速度で急冷し、続いて、変態が終了するまで放冷を継続した後、1℃/sec以上の冷却速度で、室温まで急冷することにより、
(ii)Fe基の液相拡散接合用合金と被接合材料の融合によって生成した接合金属と、該接合金属の両側に存在し、液相拡散接合用合金から被接合材中へのSiの固相拡散で生じた、Siが1%以上含まれるSi拡散領域とを合せた部分の幅が、接合面に垂直な方向で、該接合金属中心から、片側50μm以内であり、かつ、組織の一部または全部が、ベイナイト組織またはマルテンサイト組織で、最終的に、被接合材料と同等の強度を備える接合部を形成する、
ことを特徴とする液相拡散接合方法。
【請求項3】
前記液相拡散接合が酸化性雰囲気中で行われることを特徴とする請求項1または2に記載の機械部品の液相拡散接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−131904(P2009−131904A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55618(P2009−55618)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【分割の表示】特願2001−65557(P2001−65557)の分割
【原出願日】平成13年3月8日(2001.3.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(593107672)福寿工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】