説明

機能性材料およびその製造方法

【課題】化学的に安定で光活性の高い結晶面に配向した一次元構造のペロブスカイト型酸化物が基板に対して垂直方向に配向している機能性材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、該基材の表面に形成される被膜からなる機能性材料であって、前記被膜にペロブスカイト型酸化物の柱状物質を含み、前記柱状物質の長手方向がペロブスカイト型結晶の(110)方向に配向している機能性材料。
前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質が単結晶であり、また前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質の長手方向が基材に対して垂直方向に配向している機能性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な機能を有するペロブスカイト型酸化物の柱状物質を表面に形成した機能性材料およびその製造方法に関するものであり、具体的には光触媒性部材等、様々な分野に応用可能な機能性材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型酸化物は強誘電特性を持ち、光触媒活性等の様々な機能をもつ安定な酸化物として知られている。強誘電特性を利用したメモリ、フィルター、高誘電率ゲート絶縁膜、アクチュエーター等、様々な商品に応用されている。ペロブスカイト型の結晶構造の一般式は、ABO3で表され、Aサイト、Bサイトの金属イオンの組み合わせによって多様な物性がコントロールできる。
【0003】
一方で、ナノ構造の制御によって特性の大幅な改善や新しい機能の発現が期待され、特にナノチューブやナノロッド等の一次元のナノ構造はその先鋭形状に由来するキャリアの高移動度、触媒材料などの特性の大幅な向上が期待できる。こうしたデバイスへの応用には、一次元のナノ構造材料の薄膜化技術が必須で、特に、一次元ナノ構造を基板に対して垂直方向に立てて並べる技術や、結晶方向の制御が重要となる。
【0004】
ペロブスカイト型酸化物の一次元構造の薄膜の従来技術として、非特許文献1に示すように、パルスレーザー法による(La,Sr)MnO3のナノロッドの成膜が開示されている。このナノロッドの長手方向は基板に対して垂直に並び、この方向が(001)の結晶方向に高度に配向している。しかしながら、非特許文献1に開示されている方法は基板としてLaAlO3単結晶を用いているため汎用性が無く、真空中でのプロセスのため、大面積へのコーティングが困難である。
【0005】
一方で、湿式法による粉末状のペロブスカイト型酸化物の一次元構造も報告されている。例えば、非特許文献2に示すように、金属アルコキシドを出発原料とし、過酸化水素、オレイン酸共存下で水熱処理することで、単結晶状で柱状のチタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムの粒子が合成できることが報告されている。この角柱状粒子の長手方向がペロブスカイト型酸化物の(100)方向に配向している。しかしながら、非特許文献2に開示されている技術は粉末の合成に関わるもので、これらの粒子を基板に対して垂直方向に配向させることは困難である。
【0006】
酸化物の結晶配向を制御する場合、とりわけ表面の結晶面の制御が重要である。非特許文献3に示されるように、ペロブスカイト型酸化物の(110)面は、熱力学的に安定で、ABO面とO2面からなり、バルクの末端(表面)はO2面で終端されている。特に光触媒性材料として使用する場合、表面の酸素が活性点になり、酸素で終端されている結晶面の光触媒活性が高いことが非特許文献4に開示されている。また、(110)面は酸素で終端されているので、大気や水を含む環境での熱的、化学的安定性も高い。こうした(110)面を有するペロブスカイト型酸化物の一次元ナノ構造材料の合成が望まれているが、(110)面に配向した一次元ナノ構造材料を薄膜化した事例は無い。
【0007】
一方、以前、本発明者は特許文献1と非特許文献5に開示されている通り、チタネート構造のナノチューブの薄膜を報告している。特許文献1にはペロブスカイト型酸化物のナノロッドについては示唆されているが、単結晶の配向膜を示唆しているものではなく、(110)面の結晶配向について全く議論されていなかった。また、特許文献1ないし非特許文献5で得られる膜の結晶性は低く、多結晶体であり、キャリアの移動は低く、電子移動を利用するデバイスへの応用は期待できない。
【0008】
【特許文献1】特開2006-272315号公報
【非特許文献1】J. Jiang et al. Nano Lett., 4, 741 (2004)
【非特許文献2】J. J. Urban et al. J. Am. Chem. Soc. 124, 1186 (2002)
【非特許文献3】F. Bottin et al. Phys. Rev. B, 68, 035418 (2003)
【非特許文献4】R. Wang et al. J. Phys. Chem. B, 103, 2188 (1999)
【非特許文献5】Miyauchi et al. J. Mater. Chem., 17, 2095 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、化学的に安定で光活性の高い結晶面に配向した一次元構造のペロブスカイト型酸化物が基板に対して垂直方向に配向している機能性材料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉
基材と、該基材の表面に形成される被膜からなる機能性材料であって、前記被膜にペロブスカイト型酸化物の柱状物質を含み、前記柱状物質の長手方向がペロブスカイト型結晶の(110)方向に配向していることを特徴とする機能性材料
〈2〉
前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質が単結晶であることを特徴とする〈1〉に記載の機能性材料。
〈3〉
前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質の長手方向が基材に対して垂直方向に配向していることを特徴とする〈1〉又は〈2〉に機能性材料。
〈4〉
前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質の太さが5〜50nmであることを特徴とする〈1〉〜〈3〉のいずれかに記載の機能性材料。
〈5〉
前記基材の表面に形成される被膜の表面積比が2.0倍以上であることを特徴とする〈1〉〜〈4〉のいずれかに記載の機能性材料。
〈6〉
前記被膜の厚さが、10nm〜10μmであることを特徴とする〈1〉〜〈5〉のいずれかに記載の機能性材料。
〈7〉
前記ペロブスカイト型酸化物のBサイトがチタンイオンであることを特徴とする〈1〉〜〈6〉のいずれかに記載の機能性材料。
〈8〉
前記ペロブスカイト型酸化物のAサイトがアルカリ土類金属イオンであることを特徴とする〈1〉〜〈7〉のいずれかに記載の機能性材料。
〈9〉
前記ペロブスカイト型酸化物がチタン酸ストロンチウムまたはチタン酸バリウムであることを特徴とする〈1〉〜〈8〉のいずれかに記載の機能性材料。
〈10〉
前記被膜の波長500nmでの透過率が80%以上であることを特徴とする〈1〉〜〈9〉のいずれかに記載の機能性材料
〈11〉
清浄な暗所に保管した場合の、前記被膜の表面の水との接触角が5°以下であることを特徴とする〈1〉〜〈10〉のいずれかに記載の機能性材料。
〈12〉
〈1〉〜〈11〉のいずれかに記載の機能性材料を製造する方法であって、チタネートナノチューブを含む被膜を金属塩が含まれる水溶液中に含浸させた後、熱処理することを特徴とする製造方法。
〈13〉
前記金属塩が含まれる水溶液中に含浸させる前に、チタネートナノチューブを含む被膜を酸性水溶液に浸漬させる工程を含むことを特徴とする〈12〉に記載の製造方法。
〈14〉
前記金属塩が酢酸塩であることを特徴とする〈12〉又は〈13〉に記載の製造方法。
〈15〉
前記熱処理温度が350℃以上であることを特徴とする〈12〉〜〈14〉のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能性材料は、熱的、化学的に安定で、光活性が高く、電荷移動媒体としても良好に機能する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の機能性材料は、基材と、該基材の表面に形成される被膜からなり、前記被膜にはペロブスカイト型酸化物の柱状物質を含み、前記柱状物質の長手方向がペロブスカイト型結晶の(110)方向に配向していることを特徴としている。
ペロブスカイト型構造は一般式として、ABO3で表される。ペロブスカイト型構造の(110)面はその切り出し面によって、ABO面ないしO2面で構成され、最表面は化学的安定性が高く光触媒活性の高いO2面で構成されている。ペロブスカイト型構造は立方晶で、(110)面の等価な面は12面存在する。
本発明の柱状物質の長手方向がペロブスカイト型結晶の(110)方向に配向しているということは、すなわち、(110)面が長手方向と垂直関係にある柱状構造の側面にも等価な(110)が存在している。
本発明における「(110)方向に配向している」とは、(110)方向が基板と必ずしも柱状物質の長手方向と完全に一致していなくても構わない。結晶方向がランダムな多結晶構造体と比較して、一定の方向性を有していれば良い。
柱状物質の長手方向がペロブスカイト型結晶の(110)方向に配向しているかどうかは、透過型電子顕微鏡による格子縞の観察や、電子線回折によって測定することができる。また、X線回折装置を用い、基板と垂直な結晶軸のみ観察できるOut of plane法を用いて被膜の結晶配向性を評価することができる。具体的には、Out of plane法で得られた(110)面の回折強度と、(110)面と垂直関係にある面の強度の比を、粉末X線回折で得られる強度比と比較することで配向性を調べることができる。例えば、粉末X線回折においては、(110)面の回折強度は垂直関係にある(200)面の回折強度の2倍である。本発明の機能性材料において、(110)面の回折強度が(200)よりも2倍以上の優位な回折強度を示していれば、(110)方向の結晶軸が基板に対して垂直に配向していると言える。
【0013】
前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質に粒界が存在していても構わないが、好ましくは単結晶である。粒界は電子やホール等のキャリアの移動を阻害するため、高度の光触媒活性を発現させるためには、本発明に係るペロブスカイト型酸化物の柱状物質は単結晶であることが好ましい。単結晶であるかどうかは、透過型電子顕微鏡により粒界の有無を観察することができる。
【0014】
本発明の機能性材料の被膜に含まれる前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質は、その長手方向が基材に対して概ね垂直方向に配向している。長手方向が基材に対して垂直に配向していると表面積が大きくなり、高い触媒活性が期待できる。
【0015】
本発明に係るペロブスカイト型酸化物の柱状物質の太さは5〜50nmである。これよりもサイズが大きいと表面積が小さくなり、光触媒に応用した際の反応活性点が少なくなる。また、太さが5nmよりも小さいと結晶性が悪くなる。本発明に係る柱状物質の形状測定は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。
【0016】
本発明に係る被膜の表面積比は、平坦な場合の表面積と比較して2.0倍以上である。表面積比を2.0倍以上とすることで、高い表面積を実現することができ、光触媒活性に優れる。なお、本発明でいう表面積比とは、平坦な表面に対して何倍に相当するかという値で、原子間力顕微鏡(AFM)やレーザー顕微鏡を用いて観察した表面構造の画像解析によって測定することができる。
【0017】
本発明に係る被膜の厚さは、10nm〜10μmの範囲であることが好ましい。本発明の機能性材料の透明性と高機能を兼ね備えるための、より好ましい被膜の厚さは、50nm〜1μmである。
【0018】
本発明に係るペロブスカイト型酸化物の好ましい組成は、Aサイトがアルカリ土類金属イオン、Bサイトがチタンイオンである。チタンは熱的、化学的に安定で、地球資源も豊富で安全、安価である。このようなペロブスカイト型酸化物として、例えば、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム、チタン酸セシウム、チタン酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一つが選択される。単独の組成であっても複数のペロブスカイト型酸化物が固溶した組成であっても構わない。
本発明のより好ましい態様においては、ペロブスカイト型酸化物として、チタン酸ストロンチウム、ないし、チタン酸バリウムの少なくともいずれか一項を用いる。チタン酸ストロンチウムは高度な光触媒活性を有し、チタン酸バリウムは高度な誘電特性を持つ。また、Aサイトが鉛イオンであるチタン酸鉛やその固溶体を用いても構わない。また、本発明に係るペロブスカイト型酸化物は化学量論組成でなくても構わない。すなわち、結晶格子内に不純物や酸素欠陥が存在していても構わない。ただし、光触媒として応用する場合、本発明のより好ましい態様においては、不純物となるアルカリ金属であるナトリウムやカリウムイオンは、結晶内での濃度が1%以下であることが好ましい。アルカリ金属イオンは電子正孔対の再結合センターとなるため、光触媒として応用する場合、濃度が低いことが好ましい。前記アルカリ金属イオンの結晶内での濃度は、好ましくは、0.1%以下、より好ましくは0.01%以下である。
【0019】
本発明に係るペロブスカイト型酸化物には、機能を高めるため、カチオンやアニオンをドープしても構わない。例えば、本発明の機能性材料を光触媒材料として使用する場合、可視光での反応活性を持たせるため、本発明に係るペロブスカイト型酸化物に窒素、リン、硫黄、炭素、ホウ素、フッ素からなる群より選択される少なくとも一つのアニオンをドープしても構わない。また、結晶の電気的中性を保つため、アニオンとカチオンを同時にドープしても構わない。
【0020】
本発明の好ましい態様において、前期被膜の波長500nmでの透過率が80%以上であるのが好ましい。これにより高い透明性を確保することができ、機能性材料のより広い範囲の用途に応用可能となる。被膜の透過率の測定は、分光光度計を用いて測定することができる。被膜の透過率は基材の吸収や反射を差し引いた値を用いることができる。
【0021】
本発明に用いる基材は、本発明の機能性材料が使用される用途等に応じて適宜選択されることができ、特に限定されない。基材として、例えば、ガラス、セラミックス等の無機多結晶体や単結晶基板、金属などの導電性基板、プラスチック、フィルムやそれらの組み合わせ、ないし、それらの積層体などが利用できる。また、電極として使用する場合、インジウム−スズ酸化物(ITO)やフッ素ドープした酸化スズ(FTO)等をコートしたガラス基材を好適に使用する。本発明の機能性材料を好適に製造するための基材として、金属チタンが含んでなることが好ましい。製造方法の詳細を後で述べるが、本発明の機能性材料に含まれるペロブスカイト型酸化物の柱状物質は、好適な態様においてはチタネートナノチューブを経由して製造される。チタネートナノチューブは金属チタンの水熱反応から好適に成長させることができ、本発明に係るペロブスカイト型酸化物の柱状物質を生成させるための基材として、金属チタンが含まれることが好ましい。金属チタンは基材の中に練りこんであっても、基材の表面に形成させてもよい。
【0022】
本発明の機能性材料の表面は高度な親水性を有している。本発明の機能性材料を清浄な暗所に保管した場合の、被膜の表面の水との接触角が5°以下である。ここで言う清浄な暗所とは、有機物の付着を避けるためのデシケーターの中等の環境である。本発明の機能性材料の表面は高い親水性を有するため、防曇やセルフクリーニング部材へ応用することが可能である。
また、本発明の機能性材料は光触媒活性を有するので、ペロブスカイト型酸化物のバンドギャップエネルギーよりも高いエネルギーの光を照射した場合、表面に付着した汚れや有機物を分解することができる。また、水浄化や空気浄化部材としても応用することができる。
【0023】
本発明の機能性材料の製造方法は特に限定されるものではないが、チタネートナノチューブを含む被膜を金属塩が含まれる水溶液中に含浸させた後、熱処理することによって、好適に製造することができる。チタネートナノチューブはアニオン性のシート状酸化チタンがスクロールした構造で、カチオンの交換能に優れる。
【0024】
前記チタネートナノチューブを含む被膜は、金属チタンを含んでなる基材をアルカリ性水溶液に接触させて反応させることにより簡便に製造することができる。使用可能なアルカリ性水溶液の好ましい例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、アンモニア、4級アンモニウム水酸化物等の強アルカリの水溶液が挙げられ、より好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。例えば、金属チタン板や、金属チタンをコーティングしたガラス基材を、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬、あるいは水酸化ナトリウム水溶液を入れた水熱反応容器中で加熱することにより、チタネートナノチューブを含む被膜を製造することができる。水熱反応の際の加熱温度は60℃〜300℃とするのが好ましく、より好ましくは100℃〜200℃とする。また、水熱反応の際の好ましい反応時間は、30分〜48時間であり、より好ましくは1時間〜3時間である。このような工程を経て、チタネートナノチューブを含む被膜を合成することができる。こうして得られたチタネートナノチューブの長手方向は概ね基材と垂直方向に配向している。
【0025】
本発明の機能性材料は前記チタネートナノチューブを含む被膜を金属塩が含まれる水溶液に浸漬し、イオン交換した後に加熱処理をおこなう。金属塩はペロブスカイト型酸化物のAサイトに相当する金属となる。金属の種類は所望のペロブスカイト型酸化物の組成にあわせて、適宜選択することができる。また、より好ましい製造方法では、前記金属塩が含まれる水溶液に浸漬する工程の前に、前記チタネートナノチューブを含む被膜を酸性水溶液に浸漬する。これにより、水酸化ナトリウム水溶液のような強アルカリ性水溶液を用いた水熱反応の際にチタネートナノチューブの構造内に取り込まれるナトリウムイオン等の不純物、特にアルカリ金属およびアルカリ土類金属イオンを低減することができる。このような不純物はキャリアの散乱や再結合センターとして働き、光触媒反応等を阻害することから、このような不純物の低減により、より高度な機能を発現させることができる。前記酸性水溶液の濃度は、0.001M〜2Mである。この様な濃度に設定することによって、チタネートナノチューブの構造を破壊することなく、効率的にイオン交換が進む。浸漬する時間は好ましくは、1分〜120時間であり、室温であっても、加熱しても構わない。
【0026】
本発明の更に好ましい製造方法の態様において、前記金属塩として酢酸塩を用いることができる。酢酸塩は水への溶解度が高く、水熱反応条件下で分解するため、ペロブスカイト型酸化物へ無機イオンとしての混入を防ぐことができる。また、前記金属塩として酢酸塩を用いた場合、その後の熱処理によるペロブスカイト型酸化物の結晶成長が促進される。好適な金属塩の濃度は、0.1M以上で、より好ましくは、1M以上である。このような濃度に設定することで、収率良くペロブスカイト型酸化物を生成させることができる。前記金属塩を含む水溶液への浸漬時間は、好ましくは、1分〜120時間であり、室温であっても、加熱しても構わない。
【0027】
本発明の好ましい製造方法の態様において、チタネートナノチューブを含む被膜を金属塩が含まれる水溶液中に含浸させた後、熱処理する温度は350℃以上であることが好ましい。350℃以上の加熱処理によって、長手方向が(110)面に配向したペロブスカイト型酸化物の柱状物質からなる被膜を製造することができる。前記加熱処理のより好ましい加熱処理は400℃以上、更に好ましくは550℃以上である。高温の熱処理工程によって更に結晶性を高めることができ、光触媒活性等の特性を向上させることができる。加熱処理は、大気中や酸素中であっても、不活性ガス雰囲気やアンモニアや硫化水素等の反応性ガス中であってもかまわない。
【0028】
また、本発明の構造体は光触媒性部材等、広範な用途へ応用することが可能である。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例になんら制限されるものではない。
【0030】
1.チタン酸ストロンチウムからなる機能性材料の製造
基材としてサファイア板(インターオプテック社製、C面、厚さ0.43mm)を用意した。このサファイア基板上に膜厚200nmの金属チタンをスパッタ法によって成膜した。得られたサンプルをテフロン製の水熱反応容器(100ml)に10MのNaOHを30g(Ti基板が浸る程度)を入れ、テフロン容器をステンレス容器で密閉し、120℃で2時間、NaOHと反応させ、チタネートナノチューブを含む被膜を合成した。反応後、上記ステンレス容器を水中で冷却した後にサンプルを取り出し、純水で洗浄した。その後、サンプルを0.1M硝酸中に室温で30分間浸漬して酸処理を行った後、純水で洗浄した。さらに、これらのサンプルを1Mの酢酸ストロンチウム水溶液に室温で4時間浸漬し、乾燥後、大気中で加熱処理をおこなった。加熱処理が550℃×2時間のサンプルを#1試料、650℃×2時間のサンプルを#2試料とした。加熱処理後、炭酸塩を除去するために、0.1Mの硝酸水溶液に浸漬後、純水で洗浄し、乾燥した。
【0031】
2.機能性材料の構造解析
#1試料、#2試料に対し、X線回折装置(XRD:リガク、Rint-UltimaX)によって結晶構造を分析した。X線源としてはCu Kα線を用い、斜入射計測法(入射角:0.4°)にて、2θをスキャンした。その結果は、図1に示される通りであった。比較としてサファイア基板に金属チタンを実施例1と同様にコーティングしたもの(Ti)、そして、前記金属チタンがコーティングされた基板を水熱処理したサンプルの結果も示す(TNT)。この結果、金属チタンが水熱処理によってチタネート構造に変化し、更に、金属塩に含浸、焼成することでペロブスカイト型構造のチタン酸ストロンチウムに相転移することがわかった。加熱処理温度が高いほど、すなわち、#2試料のほうが#1試料よりも回折強度が強く、結晶性が高かった。
次に、#1試料、#2試料の表面および断面の構造を走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所(株)、S-4800)で観察した結果を図2、図3に示す。図3の結果から、いずれも柱状の物質が基板に対して概ね垂直方向に成長している様子が観察できた。
前記柱状物質の結晶配向性や太さの計測をおこなうため、#2試料を透過型電子顕微鏡(TEM:日立製作所(株)、H-9000NAR)で観察し、結果を図4に示す。観察は#2試料に含まれる2個の柱状物質に対して行った(aとb)。また、(c)、(d)はそれぞれ(a)、(b)図内の四角で示したに場所に対応する制限視野像の拡大図である。また、(e)は(b)の視野の電子線回折像である。いずれのTEM像でも柱状物質の中には粒界が観察されず、単結晶であることが明らかになった。電子線回折の結果、柱状物質の長手方向がペロブスカイト型構造の(110)方向に相当した。また、(d)の制限視野の拡大図に観察された格子縞からも(110)面が配向していることがわかった。(c)には(110)面の格子縞が長手方向と平行に観察されたが、(110)面の等価な面は12面あり、長手方向に対して垂直方向にも(110)面が存在する。
表面粗さを調べるため、原子間力顕微鏡(AFM:Digital Instruments社、Nanoscope 3a)を用い、#1、#2試料の表面形状を測定した。結果を図5に示したが、#1、#2とも凹凸のある表面が観測できた。画像解析によって算出した表面積比は#1が2.5倍、#2が2.6倍と高い値を示した。
【0032】
3.機能性材料の透明性の測定
#1、#2試料の透過率を分光光度計(島津製作所、UV-2100)で測定し、結果を基材として用いたサファイア基板の結果とともに図6に示す。#1試料、#2試料とも可視光の領域で透明性を示し、いずれも波長500nmでの透過率は67%であった。サファイア基材の反射による透過率の減少分(14%)も含まれるため、この値をキャンセルした場合、#1、#2試料はいずれも透過率は81%と高い透明性を示した。波長400nm以下の紫外線の領域での透過率の減少は、チタン酸ストロンチウムのバンド間遷移に伴う光吸収で、紫外線を照射することで光触媒活性が発現することが示唆された。
【0033】
4.機能性材料表面の水との接触角
#1、#2試料を清浄な暗所(デシケータ内)に保管した場合の表面の水との接触角を測定した。接触角の測定は、接触角計(協和界面科学社製、CA−X)を用いた。結果を図7に示すが、本発明の被膜は表面粗さが大きいため、水との濡れ性が高く、2ヶ月以上の長期間の間、接触角5度以下の超親水性状態を維持した。
【0034】
5.機能性材料の光触媒活性の評価
#1、#2試料の表面をオレイン酸で汚染し表面の接触角を上昇させた後、紫外線を照射した場合の水接触角変化を測定した。オレイン酸は濃度2%でエタノールに溶解し、スピンコート法(回転数2000rpm)によって、試料表面にコートした。紫外線の照射は10Wのブラックライト(東芝製)を用い、紫外線照度は紫外線照度計(トプコン製、UVR-2)による計測値で、2.0mW/cm2となるように設定した。接触角の変化を図8に示す。オレイン酸で汚染する前は水との接触角が5度以下であったが、オレイン酸で汚染後、いずれもサンプルの接触角も140度と撥水的になった。その後紫外線を照射することによって、水接触角が徐々に低下した。図8の中に、水滴の写真を示したが、撥水的表面であったものが紫外線の照射によって高度に親水化する様子が観察できた。これは、チタン酸ストロンチウムの光触媒作用によるもので、オレイン酸が光触媒作用によって分解し、最終的には水との接触角が5度以下の超親水的な状態とすることができた。
【0035】
6.製造工程で用いる金属塩の検証
粉末状のチタネートナノチューブを用い、ペロブスカイト型酸化物へ相転移する際の金属イオンの種類の影響を調べた。
粉末状のチタネートナノチューブの合成方法を以下に記載する。酸化チタン粉末(Degussa社、P-25)1.0gを10M水酸化ナトリウム水溶液108gに投入し、耐圧反応容器内で120℃×40時間の反応させた。反応終了後、上澄み液をまずスポイトにて除去し、残った白色沈殿物に0.1Mの硝酸水溶液を少量ずつ添加し、攪拌後、遠心分離によって上澄み液を除去した。前記硝酸水溶液の添加と遠心分離の工程を上澄み液のpHが7になるまで繰り返した。この沈殿物を0.5Mの濃度の硝酸水溶液へ15時間浸漬した後、遠心分離で沈殿物を回収した。沈殿物は更に表2に示すような各種ストロンチウム塩水溶液に室温で6時間浸漬後、再度遠心分離で回収し、60℃で乾燥して粉末を得た。これらの粉末に対し大気中で400℃×1時間の加熱処理を行った。前記硝酸水溶液への酸処理をおこなわないものについても合成した。また、金属塩のうち、水酸化ストロンチウムは完全に水に溶解しなかったため、室温での飽和水溶液濃度にて実験を行った。各種合成条件を表1に示す。
【表1】

得られたサンプルを粉末X線回折(XRD:リガク社製、Rint Ultima-X)で解析した結果を図9に示す。#6試料、すなわち、酸水溶液処理をおこない、金属塩として酢酸ストロンチウムを用いた場合に、2θの角度として32°付近のペロブスカイト型構造のピークが観測された。#6試料のイオン交換の条件によって、比較的低温である400℃でもペロブスカイト型構造へ相転移することが明らかになった。
【0036】
7.チタン酸バリウムからなる機能性材料の合成
実施例1と同様にタネートナノチューブを含む被膜を合成し、サンプルを0.1M硝酸中に室温で30分間浸漬して酸処理を行った後、純水で洗浄した。さらに、これらのサンプルを30wt%の酢酸バリウム水溶液に室温で4時間浸漬し、乾燥後、大気中で650℃×2時間の加熱処理をおこなった。加熱処理後、炭酸塩を除去するために、0.1Mの硝酸水溶液に浸漬後、純水で洗浄し、乾燥した。
得られたサンプルに対し、X線回折装置(XRD:リガク社製、Rint Ultima-X)を用い、Out of Plane法による結晶構造の解析をおこなった。結果を図10に示したが、2θ角が40°付近にサファイア基板のピークが観測されたものの、ペロブスカイト型構造であるチタン酸バリウムの結晶が確認できた。(110)面の回折強度は1473cps、(200)面の回折強度は457cpsであった。粉末XRDで観測される文献値では、(110)面の回折強度は(200)面の2倍である。本実施例で得られた(110)の回折強度は(200)面の3.2倍となり、被膜が(110)面に配向していることが明らかとなった。
また、チタン酸バリウムからなる被膜の構造を、走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所(株)、S-4800)で観察した結果を図11(表面)、図12(断面)に示す。断面の観察から、柱状物質が基板に対して概ね垂直方向に配向していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、(110)面に配向したペロブスカイト型酸化物の柱状物質が、基材に対して概ね垂直方向に配向した被膜からなる機能性材料を提供することができる。(110)面は酸素イオンで終端され、熱的、化学的安定性が高く、光触媒活性も高い。本発明の機能性材料は、光触媒性部材等、様々な用途へ応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の機能性材料のXRDパターン
【図2】本発明の機能性材料のSEM像(表面)
【図3】本発明の機能性材料のSEM像(断面)
【図4】本発明の機能性材料のTEM像
【図5】本発明の機能性材料のAFM像
【図6】本発明の機能性材料の透過率
【図7】本発明の機能性材料の表面の水との接触角の変化を示す図
【図8】本発明の機能性材料の表面の水との接触角の変化を示す図
【図9】本発明の機能性材料に係る粉末のXRDパターン
【図10】本発明の機能性材料のXRDパターン(Out of plane法)
【図11】本発明の機能性材料のSEM像(表面)
【図12】本発明の機能性材料のSEM像(断面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面に形成される被膜からなる機能性材料であって、前記被膜にペロブスカイト型酸化物の柱状物質を含み、前記柱状物質の長手方向がペロブスカイト型結晶の(110)方向に配向していることを特徴とする機能性材料
【請求項2】
前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質が単結晶であることを特徴とする請求項1に記載の機能性材料。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質の長手方向が基材に対して垂直方向に配向していることを特徴とする請求項1又は2に機能性材料。
【請求項4】
前記ペロブスカイト型酸化物の柱状物質の太さが5〜50nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の機能性材料。
【請求項5】
前記基材の表面に形成される被膜の表面積比が2.0倍以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の機能性材料。
【請求項6】
前記被膜の厚さが、10nm〜10μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性材料。
【請求項7】
前記ペロブスカイト型酸化物のBサイトがチタンイオンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の機能性材料。
【請求項8】
前記ペロブスカイト型酸化物のAサイトがアルカリ土類金属イオンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の機能性材料。
【請求項9】
前記ペロブスカイト型酸化物がチタン酸ストロンチウムまたはチタン酸バリウムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の機能性材料。
【請求項10】
前記被膜の波長500nmでの透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の機能性材料
【請求項11】
清浄な暗所に保管した場合の、前記被膜の表面の水との接触角が5°以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の機能性材料。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の機能性材料を製造する方法であって、チタネートナノチューブを含む被膜を金属塩が含まれる水溶液中に含浸させた後、熱処理することを特徴とする製造方法。
【請求項13】
前記金属塩が含まれる水溶液中に含浸させる前に、チタネートナノチューブを含む被膜を酸性水溶液に浸漬させる工程を含むことを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記金属塩が酢酸塩であることを特徴とする請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理温度が350℃以上であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−1445(P2009−1445A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163165(P2007−163165)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】