説明

機能性ICカードおよびそれに用いるラミネート電池

【課題】機能性ICカードに電池を搭載した場合に発生する通信用電磁界の損失を低減し、ICに入力される電圧低下を防ぐ。
【解決手段】アンテナコイルと、ラミネート電池とを有する機能性ICカードであって、前記ラミネート電池は、前記機能性ICカードの上面方向から見て、前記アンテナコイルが配置された領域で囲まれた領域に配置されており、前記ラミネート電池の少なくとも一方の表面が、比透磁率10以上の磁性体フィルムで覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示、センサー、メモリ、通信等の機能を持つ機能素子とICとを有し、かつそれらを駆動する電池を備えた機能性ICカード、およびそれに好適に用いられるラミネート電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ICモジュールを搭載したICカードは、磁気カードに比較して格段に高いセキュリティーを実現できることから、近年急速に普及してきた。
【0003】
ICカードには、ICモジュールが接点として露出した接触型ICカードと、電波を介した電磁誘導等によるデータ伝送を行う非接触型ICカードとがある。接触型ICカードは、これまで銀行のATMカード等に使用されてきた。ただし、接点となる部分の埃等の影響を受けやすく、また情報のやり取りが機械的な接点をとることにより律速される。一方、非接触型ICカードとしては、現在、Suica(登録商標)、PASMO(登録商標)、FeliCa(登録商標)等が知られている。非接触型ICカードは接点を持たないため、埃等の汚れの影響を受けにくい。また、ICチップがむき出しになっていないため、高速の読み出し書込みが可能である。
【0004】
また、ICカードに、表示、センサー、メモリ、通信等の機能を付与するという要望が広がっている。これらの機能を実現させるためには、ICカードに電池を搭載する必要がある。特許文献1には、ICカード本体部の少なくとも一方のカード面に、シート状のポリマー二次電池が配置されているICカードが開示されている。特許文献2には、表面に充電のための複数の接触端子を有するICカードが開示されている。これらのICカードは接触型であり、電池の充電も接触端子から行う。
【特許文献1】特開平5−166019号公報
【特許文献2】特開平9−326021号公報
【特許文献3】特開2004−103248号公報
【特許文献4】特開2004−227046号公報
【特許文献5】特開2006−5836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非接触型ICカードに電池を搭載する場合には、情報の読み書きを電波を介した電磁誘導で行うため、電池内部の金属による影響が懸念される。すなわち、リーダ/ライタからの通信用電磁界が電池の金属材料で損失する。その結果、通常のリーダ/ライタを用いた場合、非接触型ICカードのICに入力される通信信号の電圧が低下してしまい、通信距離が短くなるだけでなく、誤動作や動作不能の原因ともなる。
【0006】
さらに、非接触型ICカードに二次電池を搭載し、その充電を非接触で行う場合、リーダ/ライタからの充電用電磁界が電池の金属材料で損失する。その結果、通常のリーダ/ライタを用いた場合、非接触型ICカードの二次電池に入力される充電電流が低下し、充電時間が長くかかる。
【0007】
特許文献3には、電池本体から外部で露出する接続配線から輻射される電磁気ノイズをシールド膜でシールドする技術が開示されている。しかし、特許文献3に記載された電池をICカードに搭載しても、接続配線以外の金属による影響は未だ残ってしまい、効果的に電磁界の損失を低減することができない。
【0008】
特許文献4には、アンテナコイルと電池との間に磁性体シートを設けた携帯情報端末が開示されている。特許文献5には、アンテナモジュールとバッテリーパックを隣接して配置し、バッテリーパックのアンテナモジュールの通信面に臨む表面領域を磁性シートで覆った携帯情報端末が開示されている。特許文献4および5に記載されたように、非接触型ICカードに磁性体シートを配置すると、ICカードの通信面または充電面が一方に限られてしまう。非接触型ICカードは一般に表裏の区別なく使用されるものであり、電池を搭載した場合の充電面についても表裏の区別がないことが好ましい。
【0009】
そこで、本発明は、機能性ICカードに電池を搭載した場合に発生する電磁界の損失を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アンテナコイルと、ラミネート電池とを有する機能性ICカードであって、前記ラミネート電池は、前記機能性ICカードの上面方向から見て、前記アンテナコイルが配置された領域で囲まれた領域に配置されており、前記ラミネート電池の少なくとも一方の表面が、比透磁率10以上の磁性体フィルムで覆われていることを特徴とする機能性ICカードである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機能性ICカードに電池を搭載した場合に発生する電磁界の損失を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る機能性ICカードの内部構成、およびその機能性ICカードのリーダ/ライタを示す模式的斜視図である。
【0014】
本実施形態に係る機能性ICカード30は、アンテナコイル31と、ラミネート電池32とを有しており、その他に機能素子34、IC35、整流器36等を有している。機能素子34としては、センサー、表示、メモリ、通信等の機能を発揮する素子が挙げられる。
【0015】
図1に示す機能性ICカード30は非接触型である。すなわち、リーダ/ライタ40の発信機42からの信号によりアンテナコイル41に電流が流れて磁界が発生し、その磁界により機能性ICカード30のデータの伝送をする。ただし、本実施形態の機能性ICカードは、接触型でもよい。
【0016】
機能性ICカードは、携帯性を考慮すると、薄型であることが好ましい。具体的には、機能性ICカードの厚さは、1.2mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましい。機能性ICカードの厚さは、JIS規格で定められている0.76mmが最も望ましい。
【0017】
本実施形態に係る機能性ICカード30において、ラミネート電池32は、アンテナコイル31が配置された領域で囲まれた領域に配置されている。なお、この位置関係は、機能性ICカード30の上面方向から見た平面的な位置関係を意味している。すなわち、ラミネート電池32が配置されている領域とアンテナコイル31が配置されている領域とが、機能性ICカード30の上面方向から見て重ならないようになっている。このように配置することで、機能性ICカードは表裏の区別なく使用できる。また、機能性ICカードに二次電池を搭載した場合の充電面についても表裏の区別がなくなる。
【0018】
また、本実施形態に係る機能性ICカード30において、ラミネート電池32の少なくとも一方の表面が、比透磁率10以上の磁性体フィルム33で覆われている。ラミネート電池の少なくとも一方の表面を比透磁率10以上の磁性体フィルムで覆うことで、その覆われた面からの通信・充電の際の電磁界の損失を低減することができる。また、ラミネート電池の両方の表面を比透磁率10以上の磁性体フィルムで覆うことで、機能性ICカードの表裏の区別なく通信・充電の際の電磁界の損失を低減することができる。
【0019】
図1に示す実施形態では、ラミネート電池32の両方の表面上に、ラミネート電池とは別に用意された比透磁率10以上の磁性体フィルム33が配置されている。他の実施形態としては、ラミネート電池を構成する外装体の一部として、比透磁率10以上の磁性体フィルムを有する構成としてもよい。この場合は、ラミネート電池とは別に比透磁率10以上の磁性体フィルムを配置する必要がない。このような外装体の構成としては、例えば、基材と、比透磁率10以上の磁性体フィルムと、接着性フィルムとを積層したものが挙げられる。
【0020】
磁性体フィルムは、例えば、図7に示すようにエラストマー55中に磁性粉末56を分散させたフィルムを用いることができる。
【0021】
ここで、強さHの磁界を与えたときに磁性体が磁化して生じた磁束密度をBとしたとき、磁性体の透磁率はμ=B/Hで定義される。そして、この透磁率と、真空中の透磁率μ0との比μ/μ0が比透磁率である。比透磁率は、試料振動型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)により測定できる。なお、本発明に言う比透磁率は、RF領域(13.56MHz)で測定する。
【0022】
磁性体フィルムの比透磁率は、10以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましい。また、磁性体フィルムの比透磁率はいくら大きくても構わないが、通常は200以下である。
【0023】
磁性体フィルムの厚さは、機能性ICカードに収めることを考慮すると、0.5mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。また、磁性体フィルムはいくら薄くても構わないが、通常0.05mm以上である。
【0024】
ラミネート電池32は、一次電池でもよく、二次電池でもよい。電圧が3〜3.5Vと高く、高エネルギー容量密度を達成できることから、Liを用いた電池が好ましい。Liを用いた一次電池としては、MnO2を正極、Liを負極とする電池等が挙げられる。Liを用いた二次電池としては、Li酸化物を正極とするリチウムイオン二次電池、有機ラジカル材料を正極とする有機ラジカル二次電池等が挙げられる。リチウムイオン二次電池の負極としては、グラファイト、カーボン、V25等が用いられる。有機ラジカル二次電池の負極としては、金属Li、グラファイト等が用いられる。
【0025】
ラミネート電池は、機能性ICカードに収めることを考慮すると、薄型であることが好ましい。具体的には、ラミネート電池の厚さは0.7mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。また、ラミネート電池はいくら薄くても構わないが、通常0.2mm以上である。
【0026】
本実施形態で使用可能なラミネート電池の構成を図4および図5を用いて説明する。図4はラミネート電池の内部構成を示す模式的斜視図であり、図5はラミネート電池の外観を示す模式的斜視図である。
【0027】
図4および図5に示すラミネート電池では、正極集電体11上に形成された正極1と、負極集電体12上に形成された負極2とが、セパレータ3を介して対峙するように配置されている。そして、これらは、電解質とともに外装体4のシール部5により密封されている。なお、正極集電体11に接続された正極リード21、および負極集電体12に接続された負極リード22により、外装体4の外側に取り出された端子を形成している。
【0028】
以下、有機ラジカル二次電池を例にとって、その構成を詳細に説明する。
【0029】
〔正極〕
正極における正極活物質としては、安定ラジカル化合物である有機ラジカル材料を用いる。例えば、還元状態において式(II)で表わされるニトロキシドラジカル、酸化状態において式(I)で表わされるオキソアンモニウム(ニトロキシドカチオン)となる部分構造を分子中に有するニトロキシドラジカルポリマーを用いることができる。
【0030】
【化1】

ニトロキシドラジカルポリマーの数平均分子量は、500以上であることが好ましく、5000以上であることがより好ましい。これは、ニトロキシドラジカルポリマーの数平均分子量が500以上になると電解液に溶解しにくくなり、さらに数平均分子量5000以上になると電解液にほぼ不溶となるからである。ニトロキシドラジカルポリマーは、鎖状、分岐状、網目状のいずれでもよい。また、架橋剤で架橋したような構造でもよい。
【0031】
正極活物質としての有機ラジカル化合物は、1種でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、有機ラジカル材料以外の他の正極活物質を併用することもできる。他の正極活物質としては、例えば、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素材料;LiMnO2、LiCoO2、LiNiO2、Lix25(0<x<2)等の金属酸化物;ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;ジスルフィド化合物等が挙げられる。有機ラジカル材料と組み合わせる他の正極活物質は、1種でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0032】
また、ニトロキシドラジカルポリマー等の有機ラジカル材料を用いて正極を形成する際に、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助剤を混合することもできる。導電付与剤としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子などが挙げられる。導電補助剤は、1種でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0033】
また、ニトロキシドラジカルポリマー等の有機ラジカル材料と導電付与剤との結びつきを強めるために、結着剤を用いることもできる。このような結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、各種ポリウレタン等の樹脂バインダーが挙げられる。結着剤は、1種でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0034】
正極は、正極集電体上に形成することができる。正極集電体としては、ニッケル、アルミニウム、銅、金、銀、アルミニウム合金、ステンレス、炭素等からなる箔または平板を用いることができる。正極リードは、正極集電体と同様の材料とすることができる。
【0035】
〔負極〕
負極における負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金、グラファイト等を用いることができる。これらの形状としては特に限定されるものではなく、例えば、薄膜状のもの、粉末を固めたもの、繊維状のもの、フレーク状のものを用いることができる。負極活物質は、1種でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
負極は、負極集電体上に形成することができる。負極集電体としては、ニッケル、アルミニウム、銅、金、銀、アルミニウム合金、ステンレス、炭素等からなる箔または平板を用いることができる。負極リードは、負極集電体と同様の材料とすることができる。
【0037】
〔電解質〕
電解質は、負極と正極と間の荷電担体輸送を行うものであり、一般には20℃で10-5〜10-1S/cmのイオン伝導性を有していることが好ましい。電解質としては、例えば電解質塩を溶剤に溶解した電解液を利用することができる。電解質として、固体電解質を用いることもできる。
【0038】
電解質塩としては、例えばLiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、Li(C25SO22N、Li(CF3SO23C、Li(C25SO23C等を用いることができる。電解質塩は、1種でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0039】
溶剤としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒を用いることができる。溶剤は、1種でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0040】
固体電解質としては、例えば上記の電解質塩を含有させた高分子材料を用いることができる。高分子材料としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体;アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体等のアクリルニトリル系重合体;ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。これらの高分子材料は、電解液を含有させたゲル状のものでも、電解質塩を含有させた高分子材料のみでもよい。固体電解質としては、CaF2、AgI、LiF、βアルミナ、ガラス素材等の無機固体電解質を用いることもできる。
【0041】
〔セパレータ〕
セパレータは、正極と負極とが接触しないようにする機能を有する。セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質フィルム、セルロース膜、または不織布を用いることができる。なお、固体電解質を用いた場合など、正極と負極が接触しない構成の場合、セパレータを用いなくても構わない。
【0042】
〔外装体〕
上述した正極、負極、電解質、セパレータなどは、外装体により封止され、ラミネート型の電池を形成する。Liが大気中の水分と容易に反応することから、外装体としては、水蒸気透過性が低いフィルムを用いることが好ましい。例えば、アルミニウム箔などの金属箔と合成樹脂フィルムとを積層したラミネートフィルムを用いることができる。
【0043】
さらに、前述のように、比透磁率10以上の磁性体フィルムを有する外装体を用いることもできる。図6は磁性体フィルムを有する外装体の構成を示す模式的断面図である。図6に示す外装体は、基材51と、磁性体フィルム33と、接着性フィルム52とを積層した構成を有している。このような外装体を用いることで、ラミネート電池が比透磁率10以上の磁性体フィルムで覆われていることとなるので、このラミネート電池を機能性ICカードに配置するにあたり、さらに比透磁率10以上の磁性体フィルムを配置する必要はなくなる。
【実施例】
【0044】
(有機ラジカル二次電池の製造例)
微粉化した下記式(1)で表されるポリラジカル化合物(数平均分子量:5000)1.68g、炭素粉末0.6g、カルボキシメチルセルロース(CMC)96mgおよびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)24mgを水7.2mLに添加し、ホモジナイザーにて攪拌して均一なスラリーを得た。電極作製用コーターを用いて、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ20μm)上にスラリーを塗布し、さらに80℃で3分間乾燥して、厚さ50μmの正極を作製した。
【0045】
【化2】

次に、得られた正極および正極集電体を20×20mmの正方形に打ち抜いた。そして、アルミニウム箔面に長さ3cm、幅3mmのアルミニウム製の正極リードを溶接した。一方で、負極および負極集電体となる金属リチウム張り合わせ銅箔(リチウム厚30μm)を20×20mmの正方形に打ち抜き、銅箔面に長さ3cm、幅3mmのニッケルリードを溶接した。そして、正極および正極集電体、多孔質ポリプロピレン製のセパレータ(25×25mmの正方形)、負極および負極集電体の順に、正極と負極とが対峙するように重ね合わせ、リード付電極対とした。
【0046】
また、2枚の熱融着可能なアルミニウム製のラミネートフィルム(縦35mm×横32mm)の三方を熱融着することにより袋状のケースとした。そして、上記のリード付電極対を入れた。さらに、電解液[1.0mol/LのLiPF6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)]をケースの中に0.5cc入れ、リード付電極対の正極および負極リードの端が1cm外に出た状態で、ケースの未溶着の一辺を熱融着した。これにより、電極と電解液をケース中に密閉したラミネート型の有機ラジカル二次電池が得られた。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、図1に示す構成の機能性ICカードを作製した。できあがりの機能性ICカードの外形寸法は86mmx54mmとし、厚さは0.76mmとした。ラミネート電池としては、MnO2を正極、Liを負極とする一次電池を用いた。この電池の外形寸法は35mmx32mm、厚さは0.3mmであり、容量は20mAhであった。磁性体フィルムは、エラストマーの媒質に扁平な磁性粉末を分散した状態のフィルムを用いた。この磁性体フィルムの厚さは0.15mmであり、RF(13.56MHz)領域での比透磁率は60である。磁性体フィルムは、ラミネート電池の外形寸法より一回り大きい37mmx34mmに切断し、ラミネート電池の表面および裏面に配置して、機能素子、アンテナコイル、ICとともに基板に実装した。
【0048】
(比較例1)
比較例1では、磁性体フィルムを用いないこと以外は実施例1と同様の方法で、機能性ICカードを作製した。
【0049】
〔評価〕
実施例1および比較例1で作製した機能性ICカードをリーダ/ライタにかざした際のRFコイル間電圧を表1に示す。比較のために、電池を搭載していない機能性ICカード(参考)のRFコイル間電圧も併せて表1に示す。磁性体フィルムを用いなかった比較例1の機能性ICカードに比べ、磁性体フィルムを用いた実施例1の機能性ICカードのRFコイル間電圧は1.19倍となった。この実施例1の機能性ICカードのRFコイル間電圧は、電池を搭載しない機能性ICカードと同等であった。
【0050】
【表1】

この理由を、図3を用いて説明する。図3は機能性ICカードへの磁束の進入を示す模式的断面図である。磁性体フィルムを用いていない比較例1では、磁束の変化に対応してうず電流がラミネート電池で発生し、それによりエネルギーが損失する(図3(a))。その結果として、RFコイル間電圧が低下してしまう。それに対し、磁性体フィルムを用いた実施例1では、磁束は磁性体フィルムに集中するため、ラミネート電池自体に到達する磁束が減少し、うず電流発生によるエネルギーの損失を防止できる(図3(b))。その結果として、RFコイル間電圧が比較例1より高くなる。
【0051】
JIS規格に従った機能性ICカードにおけるコイルのターン数やICの起電力は、電池を搭載しない設計になっている。そのため、磁性体フィルムを用いずに電池搭載した場合、ICを駆動する電圧が低下してしまい、ICの誤動作を引き起こす原因となり、ICが動作しなくなる場合もある。それに対し、磁性体フィルムを用いることで、RFコイル間電圧の低下を防止することができるため、JIS規格に従った機能性ICカードに電池を搭載しても、ICの誤動作や動作不能が起きにくくなる。
【0052】
なお、実施例1では、ラミネート電池の表面および裏面に磁性体フィルムを配置したが、ラミネート電池の一方の表面に磁性体フィルムを配置し、その磁性体フィルムを配置した側をリーダ/ライタにかざした場合も、同等な効果が確認された。
【0053】
(実施例2)
実施例1では、図2に示す構成の機能性ICカードを作製した。この機能性ICカード30には、外装体の一部として磁性体フィルムを用いたラミネート電池32が搭載されており、別途の磁性体フィルムは用いていない。その他の構成は、図1に示す機能性ICカードと同じである。
【0054】
なお、ラミネート電池32は、正極としてMnO2、負極としてLi、集電体としてAl箔またはCu箔を用いた一次電池である。外装体は、図6に示す3層構造の積層フィルムを用いた。基材51は、延伸ポリエステルまたはナイロンである。磁性体フィルム33は、エラストマーの媒質に扁平な磁性粉末を分散した状態のフィルムを用いたが、薄い金属箔に磁性膜をめっき等で成膜した複合膜でもよい。なお、負極としてLiを用いているため、電池内部への水分の侵入を防ぐように、基材および磁性体フィルムの製造方法や厚みの最適化を行った。この外装体の厚さは0.12mm程度である。なお、ラミネート電池の外形寸法は35mmx32mm、厚さは0.4mmであり、容量は30mAhであった。
【0055】
ここで、実施例1におけるラミネート電池および磁性体フィルムの合計の厚さは、電池本体(正極、負極、セパレータ、集電体)+外装体(片側0.1mm)+磁性体フィルム(片側0.1mm)となる。一方、実施例2におけるラミネート電池(磁性体フィルムは外装体に含まれる)の厚さは、電池本体(正極、負極、セパレータ、集電体)+外装体(片側0.12mm)となる。すなわち、ラミネート電池および磁性体フィルムの合計の厚さを同じとした場合、実施例2のラミネート電池では正極および負極の厚さを厚くすることができ、ラミネート電池の容量を増加させることができる。
【0056】
〔評価〕
実施例2で作製した機能性ICカードをリーダ/ライタにかざした際のRFコイル間電圧を測定したところ、電池を搭載しない機能性ICカードと同等であった。この結果より、ラミネート電池の外装体の一部として使用した磁性体フィルムに磁束が集中し、うず電流発生によるエネルギーの損失を防止できることが分かる。
【0057】
したがって、実施例2で作製した機能性ICカードは、誤動作や動作不能が起きにくいものとなる。さらに、実施例1で作製した機能性ICカードに比べ、電池容量を増やすことができ、機能性ICカードとしての使用時間を長くすることができる。
【0058】
(実施例3)
実施例3では、図1に示す構成の機能性ICカードを作製した。ラミネート電池としては、正極をLiCoO3、負極をグラファイトとするリチウムイオン二次電池を用いた。この電池の外形寸法は35mmx32mm、厚さは0.3mmであり、容量は20mAhであった。ラミネート電池以外は、実施例1と同じとした。
【0059】
(比較例2)
比較例2では、磁性体フィルムを用いないこと以外は実施例3と同様の方法で、機能性ICカードを作製した。
【0060】
〔評価〕
実施例3および比較例2で作製した機能性ICカードをリーダ/ライタにかざした際の充電電流を表2に示す。磁性体フィルムを用いなかった比較例2の機能性ICカードに比べ、磁性体フィルムを用いた実施例3の機能性ICカードの充電電流は1.25倍となった。この充電電流の増加は、実施例1でRFコイル間電圧が増加したのと同様に、ラミネート電池自体に到達する磁束が減少し、うず電流発生によるエネルギーの損失を防止できたためと考えられる。
【0061】
【表2】

また、実施例3で作製した機能性ICカードをリーダ/ライタにかざした際のRFコイル間電圧を測定したところ、電池を搭載しない機能性ICカードと同等であった。一方、比較例2で作製した機能性ICカードのRFコイル間電圧は、電池を搭載しない機能性ICカードよりも低下した。
【0062】
したがって、実施例3で作製した機能性ICカードは、RFコイル間電圧の低下を防止することができるため、JIS規格に従った機能性ICカードに電池を搭載しても、ICの誤動作や動作不能が起きにくくなる。
【0063】
なお、実施例3では、ラミネート電池の表面および裏面に磁性体フィルムを配置したが、ラミネート電池の一方の表面に磁性体フィルムを配置し、その磁性体フィルムを配置した側をリーダ/ライタにかざした場合も、電池を搭載しない機能性ICカードに比べて充電電流およびRFコイル間電圧の増加が確認された。
【0064】
また、ラミネート電池の表面および裏面に磁性体フィルムを配置する代わりに、実施例2のようにラミネート電池の外装体の一部に磁性体フィルムを用い、別途の磁性体フィルムは用いていない機能性ICカードにおいても、電池を搭載しない機能性ICカードに比べて充電電流およびRFコイル間電圧の増加が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態に係る機能性ICカードの内部構成、およびその機能性ICカードのリーダ/ライタを示す模式的斜視図である。
【図2】本実施形態に係る機能性ICカードの内部構成を示す模式的斜視図である。
【図3】機能性ICカードへの磁束の進入を示す模式的断面図であり、(a)は磁性体フィルムを用いていない機能性ICカードの場合、(b)は磁性体フィルムを用いた機能性ICカードの場合である。
【図4】ラミネート電池の内部構成を示す模式的斜視図である。
【図5】ラミネート電池の外観を示す模式的斜視図である。
【図6】磁性体フィルムを有する外装体の構成を示す模式的断面図である。
【図7】磁性体フィルムの構成材料の状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0066】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 外装体
5 シール部
11 正極集電体
12 負極集電体
21 正極リード
22 負極リード
30 機能性ICカード
31 アンテナコイル
32 ラミネート電池
33 磁性体フィルム
34 機能素子
35 IC
36 整流器
40 リーダ/ライタ
41 アンテナコイル
42 発信機
51 基材
52 接着性フィルム
55 エラストマー
56 磁性粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナコイルと、ラミネート電池とを有する機能性ICカードであって、
前記ラミネート電池は、前記機能性ICカードの上面方向から見て、前記アンテナコイルが配置された領域で囲まれた領域に配置されており、
前記ラミネート電池の少なくとも一方の表面が、比透磁率10以上の磁性体フィルムで覆われていることを特徴とする機能性ICカード。
【請求項2】
前記ラミネート電池の両方の表面が、比透磁率10以上の磁性体フィルムで覆われていることを特徴とする請求項1に記載の機能性ICカード。
【請求項3】
前記ラミネート電池を構成する外装体の一部として、前記磁性体フィルムを有することを特徴とする請求項1または2に記載の機能性ICカード。
【請求項4】
前記外装体が、基材と、前記磁性体フィルムと、接着性フィルムとを積層した構成を有することを特徴とする請求項3に記載の機能性ICカード。
【請求項5】
前記ラミネート電池とは別に、前記磁性体フィルムを有することを特徴とする請求項1または2に記載の機能性ICカード。
【請求項6】
前記ラミネート電池が、MnO2を正極、Liを負極とする一次電池であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性ICカード。
【請求項7】
前記ラミネート電池が、Li酸化物を正極とするリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性ICカード。
【請求項8】
前記ラミネート電池が、有機ラジカル材料を正極とする有機ラジカル二次電池であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性ICカード。
【請求項9】
前記磁性体フィルムの厚さが、0.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の機能性ICカード。
【請求項10】
前記ラミネート電池の厚さが、0.7mm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の機能性ICカード。
【請求項11】
前記機能性ICカードの厚さが、1.2mm以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の機能性ICカード。
【請求項12】
非接触型の機能性ICカードであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の機能性ICカード。
【請求項13】
正極と、前記正極に対峙する負極とが、前記正極側および前記負極側に配置された外装体により密封されているラミネート電池であって、前記正極側および前記負極側に配置された外装体の少なくとも一方が、比透磁率10以上の磁性体フィルムを有することを特徴とするラミネート電池。
【請求項14】
前記外装体が、基材と、前記磁性体フィルムと、接着性フィルムとを積層した構成を有することを特徴とする請求項13に記載のラミネート電池。
【請求項15】
前記正極側および前記負極側に配置される外装体の両方が、比透磁率10以上の磁性体フィルムを有することを特徴とする請求項13または14に記載のラミネート電池。
【請求項16】
MnO2を正極、Liを負極とする一次電池であることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載のラミネート電池。
【請求項17】
Li酸化物を正極とするリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載のラミネート電池。
【請求項18】
有機ラジカル材料を正極とする有機ラジカル二次電池であることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載のラミネート電池。
【請求項19】
前記磁性体フィルムの厚さが、0.5mm以下であることを特徴とする請求項13〜18のいずれかに記載のラミネート電池。
【請求項20】
前記ラミネート電池の厚さが、0.7mm以下であることを特徴とする請求項13〜19のいずれかに記載のラミネート電池。
【請求項21】
機能性ICカードの電池として用いることを特徴とする請求項13〜20のいずれかに記載のラミネート電池。
【請求項22】
非接触型の機能性ICカードの電池として用いることを特徴とする請求項21に記載のラミネート電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−104374(P2009−104374A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275007(P2007−275007)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】