説明

歯付回転体の偏心度測定装置

【課題】 一度セッティングするだけで全ての歯についての偏心度を測定できるようにし、測定精度を向上させるとともに、測定作業を容易にし、測定時間を大幅に短縮して、測定効率の向上を図る。
【解決手段】 外周2に基本中心軸を中心にして複数の歯3を加工し、基本中心軸が中心となるように孔4を加工してなる歯付回転体1の基本中心軸に対する孔4の孔中心軸の偏心度を測定する歯付回転体の偏心度測定方法において、歯付回転体1を、孔中心軸を中心に回転させ、回転する歯付回転体1の直径方向外側に設けられた光源21から歯3に向けて光を照射するとともに歯3からの反射光を受光して光源21と歯3の外周との距離を計測し、各歯3毎の距離の最短値である個別ピーク値を検出するとともに、検出された全ての歯3の個別ピーク値のうちの最大値と最小値との差を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車や歯付プーリ等の歯付回転体の偏心度を測定する歯付回転体の偏心度測定方法及び歯付回転体の偏心度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、図14に示すように、歯車や歯付プーリ等の歯付回転体100においては、外周に基本中心軸Pを中心にして複数の歯101を加工し、基本中心軸Pが中心となるように孔102を加工することを行なう。孔102を後加工する場合、歯付回転体100の基本中心軸Pに対する孔102の孔中心軸Qが偏心することがあり、そのため、基本中心軸Pと孔中心軸Qとの偏心度を測定し、歯付回転体100の良否を判定している。
従来、このような歯付回転体100の偏心度を測定する方法としては、例えば、歯付回転体100を水平方向に軸を有する固定軸に回転可能に支持し、ダイヤルゲージを用いて、手作業で、例えば、90°ずつ位相をずらして歯の接地面からの高さを計測し、その計測値の差をとって偏心度を測定していた。
また、従来、このような歯付回転体100の偏心度を測定する方法及び装置として、例えば、特許文献1(特開平9−304043号公報)に記載されたものが知られている。
これは、図14に示すように、計算機数値制御式歯車測定機を用いて歯付回転体100の偏心度を測定するものである。先ず、歯付回転体100を孔中心軸Qを中心に回転させるようにし、歯付回転体100の歯溝に検出器110の測定子111を挿入し、測定子111の先端をピッチ円上にセットする。そして、歯付回転体100を回転させ、設定された所定の圧力を差動トランス112で検知したら、歯付回転体100の回転を停止させるとともに、そのときの回転角をロータリエンコーダ113で読み取る。1つの歯を測定したら、検出器110の測定子111を歯付回転体100の歯溝から後退させ、歯付回転体100を所定角度回転させて、次歯の歯溝の同一位置にセットし、上記と同様の方法で回転角を読み取る。このような手順を繰り返して全ての歯溝の測定を行なう。
【0003】
ロータリエンコーダ113により読み取られた歯付回転体100の回転角は、それぞれ計算機数値制御式歯車測定機が具備するパーソナルコンピュータに取り込まれて演算処理され、歯の偏心量が求められる。
【0004】
【特許文献1】特開平9−304043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従来の歯付回転体の偏心度測定方法において、前者の方法では、逐一、手作業で、ダイヤルゲージにより各歯の高さを計測しているので、測定作業が煩雑になっており、測定に多くの時間を必要とし、測定効率が悪いという問題があった。また、測定時間を短縮するため、90°ずつ位相をずらして歯の高さを測定しているので、全ての歯の高さを計測しておらず、それだけ、測定精度に劣るという問題もあった。
また、後者の歯付回転体の偏心度測定方法及び装置においては、歯付回転体の歯溝に検出器の測定子を挿入してセットしているため、検出に係る歯毎に検出器の測定子を歯付回転体の歯溝から後退させてセットし直さなければならず、セッティングが煩雑になり、この測定装置においても、測定作業が煩雑になっており、測定に多くの時間を必要とし、測定効率が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、一度セッティングするだけで全ての歯についての偏心度を測定できるようにし、測定精度を向上させるとともに、測定作業を容易にし、測定時間を大幅に短縮して、測定効率の向上を図った歯付回転体の偏心度測定方法及び歯付回転体の偏心度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するため、本発明の歯付回転体の偏心度測定方法は、外周に基本中心軸を中心にして複数の歯を加工し、上記基本中心軸が中心となるように孔を加工してなる歯付回転体の上記基本中心軸に対する上記孔の孔中心軸の偏心度を測定する歯付回転体の偏心度測定方法において、上記歯付回転体を、上記孔中心軸を中心に回転させ、該回転する歯付回転体の直径方向外側に設けられた光源から歯に向けて光を照射するとともに歯からの反射光を受光して光源と歯の外周との距離を計測し、各歯毎の距離の最短値である個別ピーク値を検出するとともに上記検出された全ての歯の個別ピーク値のうちの最大値と最小値との差を求める構成としている。照射する光としては、レーザ光が望ましい。
【0008】
これにより、歯付回転体の偏心度を測定するときは、歯付回転体を、孔中心軸を中心に回転させるようにセットし、光源から発せられる光を最初に測定する歯の歯先に向けて照射させる。この状態で歯付回転体を回転させると、各歯において、光源と歯の外周との距離を計測でき、そのため、個別ピーク値を確実に検出することができる。この場合、歯付回転体を一周させるだけで全ての歯に対して計測を行なうことができるので、手作業のダイヤルゲージを用いた測定方法と比較して、測定精度を向上させることができる。また、レーザ光測定の場合、どのような大きさの歯付回転体であっても、測定精度を損なうことがない。更に、一度セッティングをするだけで良く、従来のように逐一セッティングをし直さなくても良いので、測定作業を容易にすることができる。更にまた、歯付回転体を一周させるだけで全ての歯に対して、光の照射及び反射光の受光による同様の計測を行なうことができるので、それだけ、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0009】
このようにして、歯付回転体に加工された各歯は、光源から発せられる光によって光源と歯の外周との距離が計測され、各歯毎の個別ピーク値が検出される。そして、全ての歯の個別ピーク値のうちの最大値と最小値との差を求める。歯付回転体の基本中心軸と孔中心軸とが一致していると、各歯毎の個別ピーク値は略同じ値となるが、歯付回転体の基本中心軸と孔中心軸とがズレている場合は、各歯毎の個別ピーク値に差が出る。そのため、全ての歯の個別ピーク値のうちの最大値と最小値との差を求めることにより、歯付回転体の偏心度を測定することができる。尚、ここでいう偏心度とは、孔中心軸を中心とした歯付回転体の歯先までの半径の最大値と最小値との差であるので、基本中心軸に対する孔中心軸のズレを示す偏心量の2倍の値となる。
【0010】
そして、必要に応じ、上記各歯毎の個別ピーク値の検出は、検出に係る歯における歯先から所定長さ分回転後位側の歯元側に至る歯面の点を始点とし、当該検出に係る歯における歯先から所定長さ分回転前位側の歯元側に至る歯面の点を終点とし、当該始点から終点までの計測値から特定して行なう構成としている。回転する歯付回転体において、全ての歯を順次計測するので、検出に係る歯を特定しなければならないが、上記のように始点及び終点を定めることにより、検出に係る一つの歯の特定を容易に行なうことができるようになる。
【0011】
また、上記目的を達成するため、本発明の歯付回転体の偏心度測定装置は、外周に基本中心軸を中心にして複数の歯を加工し、上記基本中心軸が中心となるように孔を加工してなる歯付回転体の上記基本中心軸に対する上記孔の孔中心軸の偏心度を測定する歯付回転体の偏心度測定装置において、上記歯付回転体を上記孔中心軸を中心に回転させる回転手段と、該回転手段によって回転させられる歯付回転体の直径方向外側に設けられ歯に向けて光を照射する光源及び歯からの反射光を受光する受光部を備えた光照受手段と、該光照受手段によって上記光源と歯の外周との距離を計測して各歯毎の距離の最短値である個別ピーク値を検出するとともに上記検出された全ての歯の個別ピーク値のうちの最大値と最小値との差を求める検出処理手段とを備えた構成としている。
【0012】
これにより、歯付回転体の偏心度を測定するときは、先ず、歯付回転体を、孔中心軸を中心に回転させるようにセットする。次に、歯付回転体の直径方向外側に設けられた光源により光を最初に計測する歯に向けて照射させる。光源から照射された光は、歯によって反射される。この反射光を受光部が受光すると、計測値が検出される。そして、回転手段により歯付回転体を回転させると、光源と歯先との距離が計測されるようになる。計測された値は、検出処理手段によって処理され、個別ピーク値が検出される。一つの歯の計測が終了したら、次の歯を計測する。このとき、歯付回転体を回転させるだけで次の歯を計測することができるので、歯付回転体を一周させるだけで全ての歯に対して同様の計測を行なうことができる。このようにして、全ての歯に対して計測を行ない、全ての歯の個別ピーク値を検出する。この場合、歯付回転体を一周させるだけで全ての歯に対して計測を行なうことができるので、手作業のダイヤルゲージを用いた測定方法と比較して、測定精度を向上させることができる。また、一度セッティングをするだけで全ての歯を計測することができ、従来のように逐一セッティングをし直さなくても良いので、測定作業を容易にすることができる。更に、歯付回転体を一周させるだけで全ての歯に対して光の照射及び反射光の受光による同様の計測を行なうことができるので、それだけ、測定時間を大幅に短縮することができる。全ての歯の個別ピーク値を検出したら、各個別ピーク値の最大値と最小値とを特定し、その差を求めることにより、歯付回転体の偏心度を測定することができる。
【0013】
そして、必要に応じ、上記回転手段を、上記歯付回転体の孔が挿通され該歯付回転体を回転可能に支持する固定軸部材と、該固定軸部材に支持された歯付回転体の歯に当接し走行されて該歯付回転体を回転させる可撓性のエンドレスベルトと、該エンドレスベルトが掛け渡される複数のプーリと、少なくともいずれか1つのプーリを回転駆動するモータとを備えた構成としている。これにより、歯付回転体を回転させるときは、固定軸部材に歯付回転体の孔を挿通させる。そして、エンドレスベルトを歯付回転体の歯に当接させて、モータを駆動させ、少なくともいずれか1つのプーリを回転駆動させる。このプーリの回転によりエンドレスベルトが走行させられる。エンドレスベルトは歯付回転体に当接しているので、エンドレスベルトの走行による動力が、摩擦抵抗によって歯付回転体に伝動するようになる。これによって、歯付回転体は、孔中心軸を中心に回転させられるようになる。また、エンドレスベルトは可撓性なので、エンドレスベルトから歯へ動力を確実に伝動することができる。
【0014】
また、必要に応じ、上記複数のプーリのうち隣り合う一対のプーリを、上記エンドレスベルトの上記歯付回転体の歯と当接する当接部の前後に設け、該一対のプーリをその間隔を拡開可能に夫々揺動可能な一対の支持アームに支持し、該一対のプーリを互いに近接方向に付勢するスプリングを設けた構成としている。一対の支持アームが一対のプーリを拡開可能に夫々揺動するので、歯付回転体の大きさに対応して一対のプーリ間が拡開するようになる。これにより、エンドレスベルトの当接部の長さが可変可能になるので、どのような大きさの歯付回転体に対しても対応できるとともに、エンドレスベルトの当接部の張力を適正な強さとすることができ、歯付回転体の回転を確実に行なうことができる。
【0015】
更に、必要に応じ、上記検出処理手段を、上記光源と歯の外周との距離を計測して各歯毎の距離の最短値である個別ピーク値を検出する個別ピーク値検出手段と、該個別ピーク値検出手段によって検出された各個別ピーク値のうちの最大値と最小値との差を求める算出手段とを備えた構成としている。これにより、歯付回転体の偏心度を求める場合は、光源により発せられる光を検出に係る歯に照射させ、この歯から反射された光を受光することにより、光源と検出に係る歯の外周との距離を計測する。個別ピーク値検出手段により、計測された計測値のうち最も計測値の小さい値が検出され、検出にかかる歯の個別ピーク値が検出される。この個別ピーク値検出手段は、全ての歯において行なわれ、全ての歯の個別ピーク値が検出される。次に、算出手段により、個別ピーク値検出手段によって検出された全ての歯の個別ピーク値が比較され、全ての個別ピーク値から最大値と最小値とが検出される。検出された最大値と最小値との差を演算することにより、歯付回転体の偏心度が求められる。
【0016】
更にまた、必要に応じ、上記個別ピーク値検出手段を、上記光源と上記計測に係る歯の外周との距離の計測値のうち最小の値を一時的に記憶する個別ピーク値メモリと、該個別ピーク値メモリ内に記憶されている最小の値よりも小さな値の計測値を計測したとき当該小さな値の計測値を該個別ピーク値メモリに更新して記憶させる更新手段と、上記個別ピーク値メモリに記憶された最小の値より所定長さ分大きな値を計測したとき当該最小の値を個別ピーク値として特定する個別ピーク値特定手段と、該個別ピーク値特定手段で特定された個別ピーク値を計測される歯の順に上記算出手段に送出するデータ送出手段とを備えた構成としている。
上記の方法で計測された光源と計測に係る歯の外周との距離の計測値は、個別ピーク値メモリに順次入力されて記憶される。このとき、更新手段により、個別ピーク値メモリに記憶されている計測値と、入力された計測値とを比較して、入力された計測値の方が小さな値であるときは、入力された計測値を既に記憶されている計測値に対して上書きして更新する。これにより、個別ピーク値メモリには、常に最小の値が記憶されるので、個別ピーク値を確実に検出することができる。
そして、個別ピーク値特定手段により、個別ピーク値メモリに記憶されている計測値より所定長さ分大きな値が入力されたとき、その時点で個別ピーク値メモリに記憶されている計測値を個別ピーク値として特定する。所定長さ分大きな値とは、計測の終点となる値であり、次の検出に係る歯を測定するときの始点となる値である。始点及び終点を定めることにより、計測に係る一つの歯の特定が容易になるとともに、確実に検出に係る歯の個別ピーク値を検出することができる。
そして、データ送出手段により、個別ピーク値特定手段で特定された個別ピーク値を計測される歯の順に算出手段に送出する。個別ピーク値を算出手段に送信した後、個別ピーク値メモリ内は計測値が記憶されていない状態にクリアされる。これにより、検出に係る歯の計測値のみが個別ピーク値メモリ内に記憶されるようになるので、確実に個別ピーク値を検出することができる。
【0017】
そしてまた、必要に応じ、上記算出手段を、上記データ送出手段によって送出された個別ピーク値のうち他と比較して小さい方を格納する第一メモリと、上記データ送出手段によって送出された個別ピーク値のうち他と比較して大きい方を格納する第二メモリと、上記第一メモリ及び第二メモリに先に格納された個別ピーク値と上記データ送出手段から新たに送出された個別ピーク値とを比較して当該新たに送出された個別ピーク値が上記第一メモリに格納されている値より小さいとき若しくは上記第二メモリに格納されている値より大きいときは対応する第一メモリ若しくは第二メモリにおいて当該新たに送出された個別ピーク値に更新して格納する更新手段と、上記第一メモリに格納されている個別ピーク値と上記第二メモリに格納されている個別ピーク値との差を演算する演算手段とを備えた構成としている。
【0018】
データ送出手段によって送出された個別ピーク値は、第一メモリ及び第二メモリの2つのメモリに夫々格納される。個別ピーク値は、歯付回転体の歯の数だけ検出され、計測される歯の順に第一メモリ及び第二メモリに夫々順次入力される。
そして、第一メモリにおいては、更新手段により、第一メモリに格納されている個別ピーク値と、順次入力されてくる新たに送出された個別ピーク値とを比較して、新たに入力された個別ピーク値が小さい値であるときは、その値を既に格納されている個別ピーク値に対して上書きして更新する。また、第二メモリにおいては、更新手段により、第二メモリに格納されている個別ピーク値と、順次入力されてくる新たに送出された個別ピーク値とを比較して、新たに入力された個別ピーク値が大きい値であるときは、その値を既に格納されている個別ピーク値に対して上書きして更新する。これにより、第一メモリ内には、常に個別ピーク値のうち最も小さい値が格納され、第二メモリ内には、常に個別ピーク値のうち最も大きい値が格納されるようになるので、全ての個別ピーク値のうちの最大値と最小値とが確実に検出されるようになる。
そして、演算手段により、第一メモリに格納されている個別ピーク値と、第二メモリに格納されている個別ピーク値との差を演算する。これにより、歯付回転体の偏心度が求められる。この偏心度は、孔中心軸を中心とした歯付回転体の歯先までの半径の最大値と最小値との差であるので、基本中心軸に対する孔中心軸のズレを示す偏心量の2倍の値となる。即ち、求められた偏心度の1/2が偏心量となるので、この値を基に、歯付回転体の良否を判断することができる。
【0019】
また、必要に応じ、上記回転手段と上記光照受手段とをこれらの相対位置が可変になるように近接離間移動可能にし、該回転手段と該光照受手段とを近接離間移動させる移動機構を備えた構成としている。これにより、歯付回転体の大きさに対応して、回転手段と光照受手段とを適正位置に位置決めすることができる。
【0020】
更に、必要に応じ、上記移動機構を、上記回転手段と上記光照受手段との近接離間方向に沿って走行可能に一対のプーリ間に掛け渡され、互いに走行方向を逆にする一方側ベルト部及び他方側ベルト部を構成するエンドレスのベルトを備え、上記回転手段側を上記ベルトの一方側ベルト部に連結し、上記光照受手段側を他方側ベルト部に連結し、該ベルトを走行させる駆動部を備えた構成としている。これにより、回転手段と光照受手段とを位置決めするときは、駆動部を駆動させ、エンドレスのベルトを走行させる。回転手段と光照受手段とは、ベルトの一方側と他方側とに夫々連結されているので、一対のプーリ間をベルトの走行方向に沿って移動して近接離間させられるようになる。このことから、歯付回転体の大きさを変えても、光照受手段と歯付回転体との距離が一定となり、そのため、光の照射距離が一定となる。また、光照受手段と歯付回転体とが衝突することを防止できる。更に、例えば、光照受手段をレーザ変位計で構成した場合、レーザ変位計は測定範囲が設定されており、レーザ変位計によって測定範囲は異なるが、光の照射距離を一定とすることにより、どのようなレーザ変位計を用いても歯付回転体の偏心度を測定することができる。即ち、どのような大きさの歯付回転体であっても歯付回転体と光照受手段との距離が一定になるように構成したことにより、光照受手段及び検出処理手段を調整することなく、同じ設定で測定を行なうことができる。
【0021】
更にまた、必要に応じ、上記検出処理手段によって検出された最大値と最小値との差を表示する表示手段を設けた構成としている。これにより、求められた歯付回転体の偏心度が表示されるので、表示された値が許容範囲内か否かを作業者が判断することができる。
【0022】
そして、また、必要に応じ、上記検出処理手段によって検出された最大値と最小値との差の値が予め定めた設定値を超えたとき設定範囲外であることを知らせる警告手段を設けた構成としている。警告手段としては、例えば、点灯するランプ、鳴動するアラーム等が挙げられる。警告手段をランプで構成した場合、許容範囲を予め設定しておくと、求められた歯付回転体の偏心度が設定範囲外であるときランプが点灯する。これにより、作業者が設定範囲か否かを一目で判断できるようになるため、作業効率が向上する。また、警告手段をアラームで構成した場合、許容範囲を予め設定しておくと、求められた歯付回転体の偏心度が設定範囲外であるときアラームが鳴る。音により作業者が設定範囲か否かを判断できるようになるため、作業効率が向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の歯付回転体の偏心度測定方法及び歯付回転体の偏心度測定装置によれば、歯付回転体を、孔中心軸を中心に回転させ、光源から発せられる光を計測する歯の歯先に向けて照射する。この光によって、光源と歯の外周との距離を計測する。この場合、歯付回転体を一周させるだけで全ての歯に対して計測を行なうことができるので、手作業のダイヤルゲージを用いた測定方法と比較して、測定精度を向上させることができる。また、レーザ光測定の場合、どのような大きさの歯付回転体であっても、測定精度を損なうことがない。更に、一度セッティングをするだけで良く、従来のように逐一セッティングをし直さなくても良いので、測定作業を容易にすることができる。更にまた、歯付回転体を一周させるだけで全ての歯に対して、光の照射及び反射光の受光による同様の測定を行なうことができるので、それだけ、測定時間を大幅に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定方法及び歯付回転体の偏心度測定装置を説明する。本発明の実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定方法は、本発明の歯付回転体の偏心度測定装置によって実現されるので、本発明の歯付回転体の偏心度測定装置の作用において説明する。
【0025】
図1乃至図13には、本発明の実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定装置Sを示している。本装置Sは、回転手段10と、光照受手段20と、検出処理手段30と、表示手段60と、警告手段70と、移動機構80とを備えてなる。
本実施の形態において、偏心度を測定する歯付回転体1は、図2に示すように、外周2に基本中心軸Pを中心にして複数の歯3を加工し、基本中心軸Pが中心となるように孔4を加工してなる円形に形成された歯付プーリである。この歯付回転体1の基本中心軸Pに対する孔4の孔中心軸Qの偏心度を測定するものである。
【0026】
回転手段は、図1,図3乃至図5及び図7乃至図10に示すように、歯付回転体1を孔中心軸Qを中心に回転させるもので、歯付回転体1の孔4が挿通され歯付回転体1を回転可能に支持する固定軸部材11と、この固定軸部材11に支持された歯付回転体1の歯3に当接し走行されて歯付回転体1を回転させる可撓性のエンドレスベルト12と、エンドレスベルト12が掛け渡される複数のプーリ13と、少なくともいずれか1つのプーリ13を回転駆動するモータ14とを備えてなる。また、固定軸部材11以外の回転手段10は、垂直に上下動する回転手段積載台15に載置されている。
【0027】
固定軸部材11は、図1,図3乃至図5及び図7乃至図9に示すように、不動に設置された設置台16に設けられ、三方向に設けられた三爪チャック17によって軸垂直に固定されている。
プーリ13は、図1,図3乃至図5,図7及び図10に示すように、エンドレスベルト12の歯付回転体1の歯3と当接する当接部18の前後に設けられる一対の従動プーリ13aと、モータ14によって回転駆動させられる1つの駆動プーリ13bとの3つ設けられている。従動プーリ13aは、一対の従動プーリ13aの間隔を拡開可能に夫々揺動可能な一対の支持アーム19に支持され、軸間には、一対の従動プーリ13aを互いに近接方向に付勢するスプリング19aが設けられている。この支持アーム19には、一対の従動プーリ13aの衝突を防止するストッパ19bが設けられている。
【0028】
光照受手段20は、図1,図3,図4,図6及び図7に示すように、回転手段10によって回転させられる歯付回転体1の直径方向外側に設けられ歯に向けて光としてのレーザ光を照射する光源21と、歯3からの反射光を受光する受光部22とを備えてなる。受光部22で受光したレーザ光の変位によって光源21と歯3の外周との距離を計測している。実施の形態では、レーザ変位計を用いて構成している。この光照受手段20は、回転手段10との相対位置が可変になるように近接離間移動可能に設けられている。また、この光照受手段20は、垂直に上下動する光照受手段積載台23に載置されている。
【0029】
検出処理手段30は、図11乃至図13に示すように、光照受手段20によって光源21と歯3の外周との距離を計測して各歯3毎の距離の最短値である個別ピーク値31を検出する個別ピーク値検出手段40と、検出された全ての歯3の個別ピーク値31のうちの最大値と最小値との差を求める算出手段50とを備えてなる。この検出処理手段30は、制御部34によって作動させられる。
【0030】
個別ピーク値検出手段40は、図11乃至図13に示すように、個別ピーク値メモリ41と、更新手段42と、個別ピーク値特定手段43と、データ送出手段44とを備えてなる。
個別ピーク値メモリ41は、図11及び図12に示すように、制御部34内に設けられ、光源21と計測に係る歯3の外周との距離の計測値が入力される。入力された計測値を一時的に記憶し、順次入力されてくる計測値のうち最小の値を記憶する。また、この個別ピーク値メモリ41は、1つの歯3の測定が終了したとき、メモリ41内は計測値が記憶されていない状態にクリアされる。
更新手段42は、図11及び図12に示すように、個別ピーク値メモリ41内に記憶されている最小の値よりも小さな値の計測値を計測したとき、入力される小さな値の計測値を、既に記憶されている最小の値に対して上書きして更新し、個別ピーク値メモリ41に記憶させる。
【0031】
個別ピーク値特定手段43は、図11乃至図13に示すように、個別ピーク値メモリ41に記憶された最小の値より所定長さ分大きな値を計測したとき、最小の値を個別ピーク値31として特定する。所定長さ分大きな値とは、計測の終点Eとなる値であり、次の検出に係る歯3を計測するときの始点Bとなる値である。実施の形態では、所定長さを0.3mmとしている。計測の終点Eとなる値を計測したとき、計測終了を知らせるタイミング信号が発せられる。このタイミング信号が発信している状態では計測は行なわれない。次に終点Eと同じ値が計測されたとき、タイミング信号は発信されなくなり、新たに検出に係る歯3を計測する始点Bとする。
データ送出手段44は、図11及び図12に示すように、個別ピーク値特定手段43で特定された個別ピーク値31を、計測される歯の順に算出手段50に送出する。個別ピーク値31を送出した後、メモリ内41は計測値が記憶されていない状態にクリアされる。
【0032】
算出手段50は、図11及び図12に示すように、第一メモリ51と、第二メモリ52と、更新手段53と、演算手段54とを備えてなる。
第一メモリ51は、図11及び図12に示すように、制御部34内に設けられ、データ送出手段44によって送出された個別ピーク値31のうち、他と比較して小さい方を格納する。
第二メモリ52は、図11及び図12に示すように、制御部34内に設けられ、データ送出手段44によって送出された個別ピーク値31のうち、他と比較して大きい方を格納する。
【0033】
更新手段53は、図11及び図12に示すように、第一メモリ51において、先に格納された個別ピーク値31と、データ送出手段44から新たに送出された個別ピーク値31とを比較して、新たに送出された個別ピーク値31が既に格納されている値より小さいときは、第一メモリ51内を、新たに送出された個別ピーク値31に更新して格納する。また、第二メモリ52において、先に格納された個別ピーク値31と、データ送出手段44から新たに送出された個別ピーク値31とを比較して、新たに送出された個別ピーク値31が既に格納されている値より大きいときは、第二メモリ52内を、新たに送出された個別ピーク値31に更新して格納する。
演算手段54は、図11及び図12に示すように、第一メモリ51に格納されている個別ピーク値31と第二メモリ52に格納されている個別ピーク値31との差を演算して求める。歯付回転体1が一周したとき、作業者が測定終了釦55を押釦し、全ての歯3の測定が終了したことを知らせる信号を発信させる。この信号を検知すると、演算を開始する。
【0034】
表示手段60は、図1,図11及び図12に示すように、検出処理手段30によって検出された最大値と最小値との差を表示するもので、制御部34に設けられた表示部61に表示する。
【0035】
警告手段70は、図11及び図12に示すように、検出処理手段30によって検出された最大値と最小値との差の値が予め定めた設定値を超えたとき、設定範囲外であることを知らせるもので、ランプで構成され、制御部34に設けられている。実施の形態では、設定値を0.13mmとしている。
【0036】
移動機構80は、図1及び図3乃至図7に示すように、回転手段10と光照受手段20とを近接離間移動させるもので、エンドレスのベルト81と、一対のプーリ82と、連結部材83と、スライダ84と、駆動部85とを備えてなる。
【0037】
ベルト81は、図1,図3,図4及び図7に示すように、回転手段10と光照受手段20との近接離間方向に沿って走行可能に一対のプーリ82間に掛け渡され、互いに走行方向を逆にする一方側ベルト部81a及び他方側ベルト81b部を構成している。一方側ベルト部81aには、回転手段10側が連結され、他方側ベルト部81bには、光照受手段20側が連結されている。このベルト81の内側には、等間隔に歯81cが形成されている。
プーリ82は、図1,図3,図4及び図7に示すように、一対設けられ、夫々円形に形成されている。このプーリの外周には、ベルト81の歯81cと噛合する歯82aが形成されている。また、1つのプーリ82には、その中心部に孔86が形成されている。
【0038】
連結部材83は、図1及び図3に示すように、ベルト81に、回転手段10及び光照受手段20を連結させるもので、板状に形成されている。この連結部材83は一対用いられ、ベルト81を挾持して互いがネジ87で固定されている。また、連結部材83は、2組用いられ、連結部材の一側部88は、回転手段10及び光照受手段20に夫々固定されている。
スライダ84は、図1及び図3乃至図7に示すように、回転手段10及び光照受手段20を移動可能に固定するもので、基台89に設けられている。このスライダ84は、ベルト81の走行方向に沿って延びて設けられ、回転手段10側に設けられる一方側スライダ84aと、光照受手段20側に設けられる他方側スライダ84bとの2つ設けられている。
【0039】
駆動部85は、図1及び図3に示すように、ベルト81を走行させるもので、ハンドル91と、棒状体92とを備えてなる。
ハンドル91は、図1及び図3に示すように、一方向に回転させると、回転手段10と光照受手段20とを近接させ、他方向に回転させると、回転手段10と光照受手段20とを離間させる。
棒状体92は、図1及び図3に示すように、ハンドル91と中心部に孔86が形成されたプーリ82とを接続するもので、一端92aがプーリ82の孔86に嵌合され、他端92bがハンドル91に固定されている。
【0040】
従って、この実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定装置Sを用いて、歯付回転体1の偏心度を測定するときは、以下のようにする。
先ず、回転手段10と光照受手段20とを、少なくとも測定する歯付回転体1の大きさ以上の距離を保って離間させた状態で、測定する歯付回転体1を固定軸部材11に取付ける。固定軸部材11を三爪チャック17によって設置台16に対して軸垂直に固定し、歯付回転体1に形成された孔4に固定軸部材11を挿通させる。
【0041】
次に、移動機構80により回転手段10と光照受手段20とを近接移動させる。詳しくは、ハンドル91を一方向に回転させる。これにより、ハンドル91に固定されている棒状体92がハンドル91と同方向に回転させられる。棒状体92の一端92aは、一対のプーリ82の1つに設けられた孔86に嵌合されているので、このプーリ82は、ハンドル91及び棒状体92と同方向に回転させられる。プーリ82に形成された歯82aと、ベルト81の歯81cは噛合しているので、プーリ82の回転に伴って、ベルト81は回転手段10と光照受手段20との近接方向に走行させられる。即ち、ベルト81に連結部材83によって連結された回転手段10と光照受手段20とは、スライダ84上を移動して近接移動させられる。
【0042】
そして、ハンドル91を、回転手段10を構成するエンドレスベルト12が、歯付回転体1の歯3と当接するまで回転させる。歯付回転体1は不動に設置された設置台16に回転可能に固定されており、回転手段10と光照受手段20とは相対移動するので、どのような大きさの歯付回転体1に対しても、光照受手段20と歯付回転体1との距離が一定となり、そのため、光の照射距離が一定となる。実施の形態では、光の照射距離を85mmとしている。これにより、回転手段10と光照受手段20とを適正位置に位置決めでき、光照受手段20と歯付回転体1とが衝突することを防止できる。また、例えば、光照受手段20をレーザ変位計で構成した場合、レーザ変位計は測定範囲が設定されており、レーザ変位計によって測定範囲は異なるが、光の照射距離を一定とすることにより、どのようなレーザ変位計を用いても歯付回転体1の偏心度を測定することができる。更に、光の照射距離を一定とすることにより、測定する歯付回転体1の大きさを変えても、光照受手段20及び検出処理手段30の設定を変更する必要がなく、そのため、測定作業を容易にすることができる。
【0043】
また、回転手段10を歯付回転体1の歯3と当接させると、歯付回転体1の大きさに対応して、エンドレスベルト12の歯付回転体1と当接する当接部18の長さが可変する。詳しくは、移動機構80により歯付回転体1の歯3に当接された回転手段10は、その押圧力により一対の従動プーリ13aが拡開される。これにより、歯付回転体1の大きさに対応してエンドレスベルト12の当接部18の長さが可変する。一対の従動プーリ13a間を拡開させて当接部18の長さを可変させることにより、どのような大きさの歯付回転体1に対しても対応できるとともに、エンドレスベルト12の当接部18の張力が適正な強さとなり、歯付回転体1が回転させられる際に生じる振動を吸収するので、光源21と歯付回転体1の歯3との距離を正確に測定することができる。また、エンドレスベルト12は可撓性であり、回転手段10の押圧力によっても光の照射距離は微小変動する。光の照射距離の許容範囲は、所定距離の15mm前後が望ましい。エンドレスベルト12の当接部18の長さを可変可能にすることにより、光の照射距離を許容範囲内にすることができるので、光源21と歯付回転体1の歯3との距離を正確に測定することができる。
【0044】
そして、歯付回転体1を先ず、手動で回転させ、何れか1つの歯3に光源21からレーザ光を照射する。詳しくは、光照受手段20に設けられた光源21から、歯付回転体1の最初に測定する何れか1つの歯3に向けてレーザ光を照射させる。このとき、レーザ光が測定に係る歯3の歯先3aに照射されるように、手動で歯付回転体1を僅かに回転させて調整するとともに、回転手段積載台15及び光照受手段積載台23を上下動させて調整する。また、レーザ光が照射されている歯3に、例えば、マジック等で印を付け、測定開始場所を明確にする。光源21から照射されたレーザ光は、歯3によって反射され、この反射光を受光部22が受光することにより、光源21と歯付回転体1の歯3の外周との距離が計測される。
【0045】
この状態で、回転手段10により、歯付回転体1を回転させる。詳しくは、図示外の測定開始釦を押釦してモータ14を駆動させ、駆動プーリ13bを回転させる。この駆動プーリ13bの回転により、エンドレスベルト12が走行させられる。エンドレスベルト12は歯付回転体1に当接しているので、エンドレスベルト12の走行による動力が、摩擦抵抗によって歯付回転体1に伝動するようになる。これによって、歯付回転体1は、孔中心軸Qを中心に回転させられるようになる。
【0046】
歯付回転体1を回転させながら、光源21と歯3の外周との距離を計測していく。計測された計測値は、制御部34によって処理され、歯付回転体1の偏心度が求められる。詳しくは、図12に示すように、歯付回転体1を回転させると、光源21から発せられるレーザ光によって、光源21と歯3の外周との距離が計測される(S−1)。
【0047】
計測された計測値は、個別ピーク値メモリ41に入力されて、一時的に記憶される(S−2)。検出に係る歯3を順次計測していくので、個別ピーク値メモリ41には、計測された計測値が順次入力される。このとき、更新手段42により、個別ピーク値メモリ41に記憶されている計測値と、入力された計測値とを比較して(S−3)、入力された計測値の方が小さな値であるときは(S−3YES)、入力された計測値を既に記憶されている計測値に対して上書きして更新する(S−4)。また、個別ピーク値メモリ41に記憶されている計測値と、入力された計測値とを比較して(S−3)、入力された計測値の方が大きな値であるときは(S−3NO)、入力された計測値は更新されず削除される。これにより、個別ピーク値メモリ41には、常に最小の値が記憶されるので、個別ピーク値31を確実に検出することができる。
【0048】
そして、個別ピーク値特定手段43により、個別ピーク値メモリ41に記憶されている計測値より所定長さ分大きな値が入力されたとき(S−5YES)、その時点で個別ピーク値メモリ41に記憶されている計測値を個別ピーク値31として特定する(S−6)。尚、個別ピーク値メモリ41に記憶されている計測値より大きな値が入力されても、その値が所定長さに満たないときは(S−5NO)、所定長さ分大きな値が入力されるまで継続して計測を行なう。実施の形態では、所定長さを0.3mmとしているので、個別ピーク値メモリ41に記憶されている計測値よりも0.3mm大きな値が入力されると、その時点での計測値を個別ピーク値31として特定する。このとき、図13に示すように、1つの歯3の計測終了を知らせるタイミング信号が発せられる。このタイミング信号が発信している状態では計測は行なわれない。これにより、計測に係る歯を計測するときの始点B及び終点Eが定められるので、計測に係る1つの歯3の特定が容易になるとともに、確実に検出に係る歯3の個別ピーク値31を検出することができる。
【0049】
そして、データ送出手段44により、個別ピーク値特定手段43で特定された個別ピーク値31を計測される歯3の順に第一メモリ51及び第二メモリ52に夫々送出する(S−7)。個別ピーク値31を第一メモリ51及び第二メモリ52に送信した後、個別ピーク値メモリ41内は計測値が記憶されていない状態にクリアされる(S−8)。これにより、検出に係る歯3の計測値のみが個別ピーク値メモリ41内に記憶されるようになるので、確実に個別ピーク値31を検出することができる。
【0050】
このように、1つの歯3の測定が終了したら、次に測定する回転前位の歯3を計測する(S−1)。このとき、図13に示すように、光は、回転後位の歯3の計測の終点Eとなったところより歯3の歯元3bに向けて照射されていく。このときは、タイミング信号が発信している状態なので、計測は行なわれない。そして、歯元3bから歯先3aに向かって光が照射されていき、回転後位の歯3で特定された個別ピーク値31より0.3mm大きい値、即ち、回転後位の歯3の計測の終点Eとなった値と同じ値を検出したとき、タイミング信号は発信されなくなり、新たに検出に係る歯3を計測する始点Bとする。
そして、上記と同様に検出に係る歯3の計測を行ない、個別ピーク値31を特定して、第一メモリ51及び第二メモリ52に夫々送出する。これを繰り返して、全ての歯3に対して計測を行なう。
【0051】
このように測定を行なうと、歯先3aから歯元3bまたは歯元3bから歯先3aに至るまで光を照射させることができ、そのため、歯付回転体1を一周させるだけで全ての歯3に対して同様の計測を行なうことができる。即ち、一度セッティングをするだけで全ての歯3を計測することができ、従来のように逐一セッティングをし直さなくても良いので、測定作業を容易にすることができる。また、歯付回転体1を一周させるだけで全ての歯3に対して同様の測定を行なうことができるので、それだけ、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0052】
そして、データ送出手段44によって送出された個別ピーク値31は、第一メモリ51及び第二メモリ52の2つのメモリに夫々格納され(S−9,S−10)、計測された歯3の順に第一メモリ51及び第二メモリ52に夫々順次入力される。
ここで、第一メモリ51においては、更新手段53により、第一メモリ51に格納されている個別ピーク値31と、順次入力されてくる新たに送出された個別ピーク値31とを比較して(S−11)、新たに入力された個別ピーク値31が小さい値であるときは(S−11YES)、その値を既に格納されている個別ピーク値31に対して上書きして更新する(S−12)。また、第一メモリ51に格納されている個別ピーク値31と、順次入力されてくる新たに送出された個別ピーク値31とを比較して(S−11)、新たに入力された個別ピーク値31が大きい値であるときは(S−11NO)、入力された個別ピーク値31は更新されず削除される。
また、第二メモリ52においては、更新手段53により、第二メモリ52に格納されている個別ピーク値31と、順次入力されてくる新たに送出された個別ピーク値31とを比較して(S−13)、新たに入力された個別ピーク値31が大きい値であるときは(S−13YES)、その値を既に格納されている個別ピーク値31に対して上書きして更新する(S−14)。また、第二メモリ52に格納されている個別ピーク値31と、順次入力されてくる新たに送出された個別ピーク値31とを比較して(S−13)、新たに入力された個別ピーク値31が小さい値であるときは(S−13NO)、入力された個別ピーク値31は更新されず削除される。
【0053】
これにより、第一メモリ51内には、常に個別ピーク値31のうち最も小さい値が格納され、第二メモリ52内には、常に個別ピーク値31のうち最も大きい値が格納されるようになるので、全ての個別ピーク値31のうちの最大値と最小値とが確実に検出されるようになる。
【0054】
そして、歯付回転体1が一周したとき、作業者が測定終了釦55を押釦し、全ての歯3の計測が終了したことを知らせる信号を発信させる。作業者は、セッティング時に付けた測定開始の印の付いた歯3に、再び光が照射されたか否かを目視で確認し、歯付回転体1が一周したか否かを判断する。尚、二周以上回転させた場合でも、個別ピーク値31の最大値及び最小値は変化しないので、歯付回転体1の回転数は必ずしも一周に限定されず、歯付回転体1を少なくとも一周回転させれば良い。
【0055】
測定終了釦55からの信号を検知すると(S−15)、演算手段54により、演算を行なう(S−16)。第一メモリ51に格納されている個別ピーク値31と、第二メモリ52に格納されている個別ピーク値31との差を演算する。これにより、歯付回転体1の偏心度が求められる。
【0056】
そして、演算手段54により演算された値は、表示手段60により、制御部34に設けられた表示部61に表示される(S−17)。求められた歯付回転体1の偏心度が表示されるので、表示された値が許容範囲内か否かを作業者が判断することができる。
【0057】
また、演算手段54により演算された値が、予め定めた設定値を超えていたときは(S−18NO)、警告手段70によりランプが点灯する(S−19)。これにより、作業者が設定範囲か否かを一目で判断できるようになるため、作業効率が向上する。この警告手段70を機能させるためには、予め設定値を制御部34に入力しておく必要がある。実施の形態では、設定値を0.13mmとしている。
【0058】
このようにして、歯付回転体1の偏心度が求められる。この偏心度は、孔中心軸Qを中心とした歯付回転体1の歯先3aまでの半径の最大値と最小値との差であるので、基本中心軸Pに対する孔中心軸Qのズレを示す偏心量の2倍の値となる。即ち、求められた偏心度の1/2が偏心量となるので、この値を基に、歯付回転体1の良否を判断することができる。
【0059】
そして、歯付回転体1の測定が終了したら、移動機構80により、回転手段10と光照受手段20とを離間移動させ、歯付回転体1を次に測定する歯付回転体1に交換して、上記と同様に測定を行なう。このとき、歯付回転体1の孔4の大きさが異なる歯付回転体1を測定するときは、固定軸部材11を、歯付回転体1の孔4の大きさに対応したものに交換することで、上記と同様の測定を行なうことができる。
【0060】
尚、上記実施の形態において、回転手段10をプーリ13を3つ用いて構成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、幾つ用いても良く、適宜変更して差支えない。
また、上記実施の形態において、光照受手段20をレーザ変位計で構成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、どのような装置でも良く、適宜変更して差支えない。
更に、上記実施の形態において、移動機構80に係る光の照射距離を85mmとしたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、何mmでも良く、適宜変更して差支えない。
更にまた、上記実施の形態において、個別ピーク値特定手段43に係る所定長さを0.3mmとしたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、何mmでも良く、適宜変更して差支えない。
【0061】
尚また、上記実施の形態において、偏心度の許容範囲の設定値を0.13mmとしたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、何mmでも良く、適宜変更して差支えない。
また、上記実施の形態において、個別ピーク値メモリ41内に入力された値を更新して記憶させたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、入力された値を全て記憶し、その後、最小の値である個別ピーク値を特定しても良く、適宜変更して差支えない。
更に、上記実施の形態において、第一メモリ51内に入力された値を更新して記憶させたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、入力された値を全て記憶し、その後、最小の値である最小値を特定しても良く、適宜変更して差支えない。
更にまた、上記実施の形態において、第二メモリ52内に入力された値を更新して記憶させたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、入力された値を全て記憶し、その後、最大の値である最大値を特定しても良く、適宜変更して差支えない。
【0062】
また、上記実施の形態において、セッティング時に手動で歯付回転体1を僅かに回転させて調整してレーザ光を測定に係る歯3の歯先3aに照射させたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、レーザ光の照射調整を自動的に行なうようにしても良く、適宜変更して差支えない。
更に、上記実施の形態において、測定の終了を作業者が目視により歯付回転体1が一周したことを確認して測定終了釦55を押釦することにより行なったが、必ずしもこれに限定されるものではなく、測定の終了を自動的に検知できるようにしても良く、適宜変更して差支えない。測定は、歯付回転体1を少なくとも一周させれば良いので、測定の終了を自動的に検知するためには、例えば、歯付回転体1の回転角を読み取るようにして歯付回転体1が一周以上したことを検知できるようにしたり、タイマー等を設けて歯付回転体1が一周以上する制限時間を定めるようにしても良い。
更にまた、本装置は、歯付回転体の歯数を数える歯数カウンタ機能を備えるようにしても良い。この場合、歯数は、タイミング信号の発信される回数と同じ数になるので、タイミング信号が発信される回数をカウントすることにより、歯付回転体の歯数を数えることができる。更に、本装置の原理は、歯数測定装置に応用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の歯付回転体の偏心度測定方法及び歯付回転体の偏心度測定装置Sによれば、偏心度を測定する被測定物として、例えば、歯付プーリや歯車等の歯付回転体1に限定されず、丸プーリやローラ等の外周が平滑な回転体にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る歯付回転体を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定装置を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定装置を示す側面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定装置を示すA−A断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定装置を示すB−B断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る歯付回転体の偏心度測定装置を示すC−C断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る歯付回転体と固定軸部材とを示す一部拡大図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る固定軸部材と三爪チャックとを示す一部拡大図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る回転手段を示し、(A)は平面図,(B)は支持アームの一部拡大斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る制御部を示すブロック図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る制御方法を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態に係る個別ピーク値特定手段の方法を示す図である。
【図14】従来の歯付回転体の偏心度測定装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
S 歯付回転体の偏心度測定装置
P 基本中心軸
Q 孔中心軸
B 始点
E 終点
1 歯付回転体
2 外周
3 歯
3a 歯先
3b 歯元
4 孔
10 回転手段
11 固定軸部材
12 エンドレスベルト
13 プーリ
13a 従動プーリ
13b 駆動プーリ
14 モータ
15 回転手段積載台
16 設置台
17 三爪チャック
18 当接部
19 支持アーム
19a スプリング
19b ストッパ
20 光照受手段
21 光源
22 受光部
23 光照受手段積載台
30 検出処理手段
31 個別ピーク値
34 制御部
40 個別ピーク値検出手段
41 個別ピーク値メモリ
42 更新手段
43 個別ピーク値特定手段
44 データ送出手段
50 算出手段
51 第一メモリ
52 第二メモリ
53 更新手段
54 演算手段
55 測定終了釦
60 表示手段
61 表示部
70 警告手段
80 移動機構
81 ベルト
81a 一方側ベルト部
81b 他方側ベルト部
81c 歯
82 プーリ
82a 歯
83 連結部材
84 スライダ
84a 一方側スライダ
84b 他方側スライダ
85 駆動部
86 孔
87 ネジ
88 一側部
89 基台
91 ハンドル
92 棒状体
92a 一端
92b 他端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に基本中心軸を中心にして複数の歯を加工し、上記基本中心軸が中心となるように孔を加工してなる歯付回転体の上記基本中心軸に対する上記孔の孔中心軸の偏心度を測定する歯付回転体の偏心度測定方法において、
上記歯付回転体を、上記孔中心軸を中心に回転させ、該回転する歯付回転体の直径方向外側に設けられた光源から歯に向けて光を照射するとともに歯からの反射光を受光して光源と歯の外周との距離を計測し、各歯毎の距離の最短値である個別ピーク値を検出するとともに上記検出された全ての歯の個別ピーク値のうちの最大値と最小値との差を求めることを特徴とする歯付回転体の偏心度測定方法。
【請求項2】
上記各歯毎の個別ピーク値の検出は、検出に係る歯における歯先から所定長さ分回転後位側の歯元側に至る歯面の点を始点とし、当該検出に係る歯における歯先から所定長さ分回転前位側の歯元側に至る歯面の点を終点とし、当該始点から終点までの計測値から特定して行なうことを特徴とする請求項1記載の歯付回転体の偏心度測定方法。
【請求項3】
外周に基本中心軸を中心にして複数の歯を加工し、上記基本中心軸が中心となるように孔を加工してなる歯付回転体の上記基本中心軸に対する上記孔の孔中心軸の偏心度を測定する歯付回転体の偏心度測定装置において、
上記歯付回転体を上記孔中心軸を中心に回転させる回転手段と、該回転手段によって回転させられる歯付回転体の直径方向外側に設けられ歯に向けて光を照射する光源及び歯からの反射光を受光する受光部を備えた光照受手段と、該光照受手段によって上記光源と歯の外周との距離を計測して各歯毎の距離の最短値である個別ピーク値を検出するとともに上記検出された全ての歯の個別ピーク値のうちの最大値と最小値との差を求める検出処理手段とを備えたことを特徴とする歯付回転体の偏心度測定装置。
【請求項4】
上記回転手段を、上記歯付回転体の孔が挿通され該歯付回転体を回転可能に支持する固定軸部材と、該固定軸部材に支持された歯付回転体の歯に当接し走行されて該歯付回転体を回転させる可撓性のエンドレスベルトと、該エンドレスベルトが掛け渡される複数のプーリと、少なくともいずれか1つのプーリを回転駆動するモータとを備えて構成したことを特徴とする請求項3記載の歯付回転体の偏心度測定装置。
【請求項5】
上記複数のプーリのうち隣り合う一対のプーリを、上記エンドレスベルトの上記歯付回転体の歯と当接する当接部の前後に設け、該一対のプーリをその間隔を拡開可能に夫々揺動可能な一対の支持アームに支持し、該一対のプーリを互いに近接方向に付勢するスプリングを設けたことを特徴とする請求項4記載の歯付回転体の偏心度測定装置。
【請求項6】
上記検出処理手段を、上記光源と歯の外周との距離を計測して各歯毎の距離の最短値である個別ピーク値を検出する個別ピーク値検出手段と、該個別ピーク値検出手段によって検出された各個別ピーク値のうちの最大値と最小値との差を求める算出手段とを備えて構成したことを特徴とする請求項3乃至5何れかに記載の歯付回転体の偏心度測定装置。
【請求項7】
上記個別ピーク値検出手段を、上記光源と上記計測に係る歯の外周との距離の計測値のうち最小の値を一時的に記憶する個別ピーク値メモリと、該個別ピーク値メモリ内に記憶されている最小の値よりも小さな値の計測値を計測したとき当該小さな値の計測値を該個別ピーク値メモリに更新して記憶させる更新手段と、上記個別ピーク値メモリに記憶された最小の値より所定長さ分大きな値を計測したとき当該最小の値を個別ピーク値として特定する個別ピーク値特定手段と、該個別ピーク値特定手段で特定された個別ピーク値を計測される歯の順に上記算出手段に送出するデータ送出手段とを備えて構成したことを特徴とする請求項6記載の歯付回転体の偏心度測定装置。
【請求項8】
上記算出手段を、上記データ送出手段によって送出された個別ピーク値のうち他と比較して小さい方を格納する第一メモリと、上記データ送出手段によって送出された個別ピーク値のうち他と比較して大きい方を格納する第二メモリと、上記第一メモリ及び第二メモリに先に格納された個別ピーク値と上記データ送出手段から新たに送出された個別ピーク値とを比較して当該新たに送出された個別ピーク値が上記第一メモリに格納されている値より小さいとき若しくは上記第二メモリに格納されている値より大きいときは対応する第一メモリ若しくは第二メモリにおいて当該新たに送出された個別ピーク値に更新して格納する更新手段と、上記第一メモリに格納されている個別ピーク値と上記第二メモリに格納されている個別ピーク値との差を演算する演算手段とを備えて構成したことを特徴とする請求項6または7記載の歯付回転体の偏心度測定装置。
【請求項9】
上記回転手段と上記光照受手段とをこれらの相対位置が可変になるように近接離間移動可能にし、該回転手段と該光照受手段とを近接離間移動させる移動機構を備えたことを特徴とする請求項3乃至8何れかに記載の歯付回転体の偏心度測定装置。
【請求項10】
上記移動機構を、上記回転手段と上記光照受手段との近接離間方向に沿って走行可能に一対のプーリ間に掛け渡され、互いに走行方向を逆にする一方側ベルト部及び他方側ベルト部を構成するエンドレスのベルトを備え、上記回転手段側を上記ベルトの一方側ベルト部に連結し、上記光照受手段側を他方側ベルト部に連結し、該ベルトを走行させる駆動部を備えて構成したことを特徴とする請求項9記載の歯付回転体の偏心度測定装置。
【請求項11】
上記検出処理手段によって検出された最大値と最小値との差を表示する表示手段を設けたことを特徴とする請求項3乃至10何れかに記載の歯付回転体の偏心度測定装置。
【請求項12】
上記検出処理手段によって検出された最大値と最小値との差の値が予め定めた設定値を超えたとき設定範囲外であることを知らせる警告手段を設けたことを特徴とする請求項3乃至11何れかに記載の歯付回転体の偏心度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−156770(P2009−156770A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337020(P2007−337020)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【特許番号】特許第4205146号(P4205146)
【特許公報発行日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(501162627)株式会社アイオー精密 (1)
【Fターム(参考)】