説明

歯科用セラミックブランクを機械加工する時間を短縮する方法

【課題】歯科用セラミックブランクを機械加工する時間を短縮する方法を得る。
【解決手段】歯科用セラミックブランクの破壊じん性(KIC)と曲げ強度(δ)が既知であり、下記の式を用いて、該歯科用セラミックの最大表面臨界傷寸法の推定値(c)と、最大臨界ボリューム傷寸法の推定値(2c)を算出する工程と、c=(KIC/δ一連のダイヤモンドツールを用いて機械加工法を行う工程で、該ダイヤモンドツールが、埋め込まれたダイヤモンドを備える工程とを含み、該機械加工法が、粗い機械加工工程と、中間の機械加工工程と、精巧な機械加工工程とを含み、この各工程が、ツール経路と機械加工パラメーターを含み、該ツール経路及び機械加工パラメーターが、該一連のダイヤモンドツールの少なくとも1つによって実行され、該埋め込まれたダイヤモンドの粒度が、c前後よりも大きく、2c前後よりも小さい方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用セラミックブランク、詳細には、請求項1の冒頭部分に従って、機械加工してから強度の高い成形品に変換することによって簡単に成形できるケイ酸リチウム材を機械加工する時間を短縮する方法と、請求項8の冒頭部分に従って、歯科用セラミックブランクを歯科用物品に機械加工するための機械加工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューター制御型ミリングマシンによって、クラウン、インレー、及びブリッジのような歯科用修復製品に加工できる材料への需要が高まっている。このようなCAD/CAM法は、患者に所望の修復物を素早く提供できるようにするので、非常に魅力的である。このため、歯科医にとっては、いわゆる診療台治療が可能である。
【0003】
しかし、コンピューター支援設計/コンピューター支援機械加工(CAD/CAM)法によって加工するのに適した材料は、非常に厳密な特性プロファイルを満たす必要がある。
【0004】
第1に、これらの材料は、最終調製状態の修復物において、本物の歯の外観を模する魅力的な光学特性(半透明性及びシェードなど)を有する必要がある。これらの材料はさらに、口腔中の流体(本質的に酸性であるなど、攻撃的である場合さえもある)と永久的に接触したまま、本物の歯の材料の機能を受け継ぎ、それらの特性を十分な期間にわたって維持できるように、高い強度及び化学的耐久性を示す必要がある。
【0005】
第2に、そして非常に重要なことに、これらの材料は、簡単な方式で、ツールが過度に磨耗することなく、短時間で、所望の形状に機械加工できなければならない。この特性には、比較的低強度の材料が必要になるので、この特性は、最終修復物に関する上記の所望の特性とは対照的である。
【0006】
材料を加工する段階における低強度特性と、最終修復物の高強度特性とを組み合わせることの難しさは、CAD/CAM加工用の既知の材料に、特に、機械加工性のしやすさが不十分である点に反映されている。
【0007】
独国特許出願公開第19750794号明細書には、溶融材料を粘性状態でプレスするホットプレスプロセスによって所望の幾何形状に成形するように主に意図されている二ケイ酸リチウムガラスセラミックが開示されている。これらの材料は、コンピューター支援型ミリングプロセスによって成形することも可能である。しかし、これらの材料を機械加工すると、ツールがかなりひどく磨耗すると共に、加工時間が非常に長くなることが示されている。これらの欠点の原因は、主に二ケイ酸リチウムの結晶相によってこれらの材料に付与される高い強度とじん性である。さらに、機械加工した修復物が、低いエッジ強度しか示さないことも示されている。「エッジ強度」という用語は、わずか1/10mmの範囲の薄い厚みしか有さない修復物部分の強度を指す。
【0008】
最終修復物の高い強度と共に、機械加工のしやすさを実現するためのさらなるアプローチもとられている。欧州特許第774993号明細書及び欧州特許第817597号明細書には、Al又はZrOをベースとするセラミック材料が記載されており、これらの材料は、非焼結状態(「グリーン状態」とも呼ばれる)で機械加工する。次いで、このグリーン体を焼結して、強度を向上させる。しかし、これらのセラミック材は、最後の焼結工程中に、最大で50体積%という大きい収縮(又は、線収縮としては最大で30%)を示すという難点を有する。これによって、所望どおりの寸法を正確に有する修復物を調製するのが困難になる。マルチスパンブリッジのような複雑な修復物を製造する場合には、大きく収縮することによって、特定の問題が生じる。
【0009】
S.D.Stookey:”Chemical Machining of Photosensitive Glass”,Ind.Eng.Chem.,45,115−118(1993)、及び米国特許第2684911号明細書(S.D.Stookey:”Photosensitivity Opacifiable Glass”(1954))から、ケイ酸リチウムガラスセラミックでは、準安定相を最初に形成できることも知られている。例えば、感光性ガラスセラミック(Fotoform(登録商標)、FotoCeram(登録商標))では、紫外光を用いてAg粒子を形成する。これらのAg粒子は、メタケイ酸リチウム相において、結晶化剤として働く。
【0010】
次の工程で、露光した領域を希HFによって洗浄する。メタケイ酸リチウム相のHF中での溶解度は、親ガラスの溶解度よりもはるかに高いので、この手順が可能である。この可溶化プロセスの後に残ったガラス部分(Fotoform(登録商標))は、追加の熱処理によって、二ケイ酸リチウムガラスセラミック(FotoCeram(登録商標))に変換することができる。
【0011】
Boromの研究、例えば、M.P.Borom,A.M.Turkalo,R.H.Doremus:”Strength and Microstructure In Lithium Disilicate Glass−Ceramics”,J.Am.Ceream.Soc.,58,No.9−10,385−391(1975)、及び独国特許出願公開第2451121号明細書(M.P. Borom,A.M.Turkalo,R.H.Doremus:”Verfahren zum Herstellen von Glaskeramiken”(1974))には、第1の事例において、二ケイ素リチウムガラスセラミックが、準安定性のメタケイ酸リチウム相として種々の量で結晶化できることが示されている。しかし、最初から二ケイ酸相の形態で結晶化し、メタケイ酸相が全く存在しない組成物もある。この趣旨に関する系統的な研究は、公知になっていない。また、Boromの研究から、主要相としてメタケイ酸リチウムを含むガラスセラミックは、二ケイ酸リチウム相しか含まないガラスセラミックの1つよりも強度が低いことも知られている。このように、従来技術の材料にはいくつかの短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】独国特許出願公開第19750794号明細書
【特許文献2】欧州特許第774993号明細書
【特許文献3】欧州特許第817597号明細書
【特許文献4】米国特許第2684911号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第2451121号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S.D.Stookey:”Chemical Machining of Photosensitive Glass”,Ind.Eng.Chem.,45,115−118(1993)
【非特許文献2】M.P.Borom,A.M.Turkalo,R.H.Doremus:”Strength and Microstructure In Lithium Disilicate Glass−Ceramics”,J.Am.Ceream.Soc.,58,No.9−10,385−391(1975)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、請求項1の冒頭部分に従って、歯科用ブランクの機械加工時間を短縮する方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、請求項8の冒頭部分に従って、歯科用セラミックブランクを歯科用物品に機械加工するための機械加工法を提供することであり、この方法では、コンピューター支援型のミリング及びトリミングプロセスによって、歯科用ブランクを簡単に成形することができ、その後、化学的耐久性が高く、光学特性に優れ、上記の最終的な変換作業中の収縮度が大きく低下した高強度の歯科用製品に変換することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項1で請求されているような方法によって、さらには、本発明の請求項8で請求されているような機械加工法によって達成される。
【0016】
また、本発明は、二ケイ酸リチウム材、二ケイ酸リチウムを含む歯科用物品、二ケイ酸リチウムに変換可能なケイ酸リチウムインゴット及びブランクを製造するプロセス、並びに、熱(ホット)プレス及びCAD/CAMを用いて歯科用修復物を製作する目的で、これらのプロセスを用いること、ケイ酸リチウムガラス及びその使用、ケイ酸リチウム製の歯科用物品及び歯科用修復物を製造する方法にも関する。
【0017】
具体的には、本発明は、ケイ酸リチウムブランクと、少なくとも4軸又は5軸以上のCNCマシンを用いて、歯科用修復物を大量生産する方法に関する。さらに具体的には、本発明は、ロボットによる自動ローディング機構を備える5軸以上のCNCマシンを用いてケイ酸リチウムブランクを機械加工するのに特に有用なミリング法に関する。
【0018】
本発明のように、準安定性ガラスセラミックを機械加工することと、その後に熱処理することを組み合わせると、驚くべきことに、非常に優れた表面性状の歯科用修復物と共に、寸法精度が大きく向上した歯科用最終製品を得ることができる。
【0019】
本発明の実施形態のさらなる態様は、歯科用セラミックブランクを機械加工する時間を短縮する方法であって、歯科用セラミック材の破壊じん性(KIc)及び曲げ強度(δ)が既知であり、下記の式を用いて、歯科用セラミックの最大表面臨界傷寸法の推定値と、最大ボリューム臨界傷寸法の推定値を算出することを含む方法に関する。
【0020】
c=(KIc/δ
(式中、cは最大表面臨界傷寸法であり、2cが最大ボリューム臨界傷寸法である。)
【0021】
本発明のさらなる態様は、一連のダイヤモンドツールを用いて機械加工法を実行することを含み、このダイヤモンドツールは、埋め込まれたダイヤモンドを備え、上記の機械加工法は、粗い機械加工工程と、中間の機械加工工程と、精巧な機械加工工程を含み、この各工程は、ツール経路と機械加工パラメーターを含み、このツール経路と機械加工パラメーターは、一連のダイヤモンドツールの少なくとも1つによって実行され、埋め込まれたダイヤモンドの粒度は、表面臨界傷の最大寸法推定値前後よりも大きく、ボリューム臨界傷の最大寸法推定値前後よりも小さい。
【0022】
所与の材料特性と本発明の方法によって、驚くべきことに、ツール磨耗性、表面性状、又は寸法精度の点で妥協しなくても、機械加工時間を大きく節約することができる。つまり、強度とじん性の低いメタケイ酸リチウムガラスセラミックのおかげで、さらに速い送り速度のダイヤモンド機械加工ツールで、さらに複雑な歯科用修復物の形状に簡単に機械加工することができる。歯科用ブランクの粗い機械加工工程(速い送り速度)、中間の機械加工工程(中度の送り速度)、及び精巧な機械加工工程(遅い送り速度)で異なるダイヤモンドルールを用いることによって、最適な加工処理を実現することができ、機械加工時間も短縮され、精度も向上する。このような機械加工の後、機械加工したガラスセラミックブランクは、熱処理によって、卓越した機械的特性、優れた光学特性、及び非常に良好な化学安定性を有し、これらによって収縮が非常に限られている二ケイ酸リチウムガラスセラミック製品に変換することができる。
【0023】
本発明のさらなる実施形態によれば、歯科用セラミックブランクを歯科用物品に機械加工する機械加工法であって、歯科用セラミック材の破壊じん性(KIc)と曲げ強度(δ)が既知であり、下記の式を用いて歯科用セラミックの最大表面臨界傷寸法の推定値と、最大ボリューム臨界傷寸法の推定値を算出することを含む機械加工法を提供する。
【0024】
c=(KIc/δ
(式中、cは最大表面臨界傷寸法であり、2cが最大ボリューム臨界傷寸法である。)
【0025】
この方法のさらなる態様は、対応するCADファイルと、選択したブランクの幾何形状及び材料特性とを比較し、ミリングパラメーターを定義し、各機械加工工程のツール経路をコンピューターで計算することによって、歯科用セラミックブランクを歯科用物品にミリングするのに必要な機械加工工程の数を割り出すことを含む。歯科用物品をミリングするのに必要なすべての機械加工工程のツール経路と機械加工パラメーターは、ファイル(以下ではCAMファイルと呼ぶ)として格納される。CAMファイルは、すべての必要な機械加工工程を実行するための、所与のCNCマシン用の特有のコマンドとGOコードと、歯科用物品をミリングするための関連ツール経路とを含む。好ましい実施形態の1つでは、これは、ミリングする形状(すなわちCADファイル)を、選択したブランク上にマッピングして、除去する体積を定め、続いて、異なる精度と表面粗さを要する領域に上記の体積を分けるプロセスによって行われる。これらの領域を、粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程の1つ以上に割り当てる。次いで、割り当てた機械加工工程のそれぞれに対して、特有のツール経路を算出し、CNCコントロールユニット(コントローラー)用の一連のコマンド(GOコード)として変換する。各機械加工工程は、ツール経路、機械加工パラメーター、及びツール選択を含み、各機械加工工程用の一連のダイヤモンドツールの少なくとも1つを用いて実行される。このダイヤモンドツールは、埋め込まれたダイヤモンドを備え、その埋め込まれたダイヤモンドの粒度は、表面臨界傷の最大寸法推定値前後よりも大きく、ボリューム臨界傷の最大寸法推定値前後よりも小さい。機械加工パラメーターは、CNCマシン(CAD/CAMシステムのミリングユニット)の動作とツール経路の算出にとって重要なCNCマシン設定、例えば、RPM(毎分回転数)、送り速度(mm/分)、ツールの幾何形状、すなわち長さ及び寸法(mm)、ダイヤモンドツールの粒度、すなわちグリット(マイクロメートル)、切り込み深さ、すなわち横方向ライニング、1回転当たりの送り量(マイクロメートル)を含む。切り込み深さは通常、埋め込まれたダイヤモンドの粒度よりも小さく設定する。切り込み深さは、精巧な機械加工では、最大表面臨界傷寸法の推定値よりも小さくなるように選択する一方で、粗い機械加工では、切り込み深さは、最大表面臨界傷寸法とほぼ同じか、又はこれよりもやや大きいという原則は、本発明のミリング法独自のものであると共に、本発明のミリング法にとって不可欠なものである。1回転当たりの送り量はほぼ常に(修復物の辺縁部を細かく調節するための特殊な精巧仕上げ工程である「Prep_fini」の場合を除く)、切り込み深さよりも小さくして、ツール上の接触応力を最小限に抑える。この応力としては、ワークピース境界面、埋め込まれたダイヤモンド上の剪断(引き抜き)応力、及びツールの磨耗が挙げられる。それぞれの所与の材料に特有の最適な機械加工パラメーターとツール経路を選択及び算出するソフトウェア命令として実行される上記のミリングの方法、原理、及びアプローチは、以下ではテンプレート、例えば、ケイ酸リチウムテンプレート、又は白榴石ガラスセラミックテンプレートと呼ぶ。
【0026】
ダイヤモンドツールによるミリング(グラインディング)は、溝付きツールによるミリング(カッティング)とはかなり異なる。ダイヤモンドツールは、ツールの厚み全体にわたって分散された形でダイヤモンドが埋め込まれたコーティング、又は、ツールの厚み全体にわたって分散された形でダイヤモンドが埋め込まれたマトリクスのいずれかを備える。いずれのケースでも、埋め込まれたダイヤモンドは、粒度分布、粒度範囲、グリットサイズ、及び/又は平均粒度によって特徴付けられる。埋め込まれたダイヤモンドは、ダイヤモンドグリットと呼ばれる場合が非常に多い。機械加工中には、ワークピースとツールとの境界面上に、高い接触応力が発生する。すべてが等しい場合、これらの応力のレベルを最小限に抑える一方で、材料除去速度を最大限に高めるのが有益である。ミリングする表面のうち、ダイヤモンドツールと直接接する表面の上の局部応力条件は非常に複雑であり、9個のすべての成分が時間変動する応力テンソルによって特徴付けられる。前進しているダイヤモンドによって材料チップを剥ぎ取ると、ひずみエネルギーが解放され、ミリングした表面に、次のダイヤモンドが当たると、再び応力が向上し始める。これらの応力テンソル成分の多くは寄生性であり、材料チップを剥ぎ取ることによる効果的な機械加工プロセスには寄与しないが、ダイヤモンドを引いて動かすことによるツールの磨耗には寄与することに留意されたい。除去する材料の体積は、ブランク形状の体積から、ミリングする歯科用物品の正味形状の体積を減じることによって求め、それぞれ異なる材料除去速度、精度、及び表面粗さを要する領域に、その値を分ける。これらの領域は、粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程の1つ以上に、特定のツール経路と共に割り当てる。このツール経路は、割り当てた各機械加工工程に対して算出する。粗い機械加工工程の目的は、最小限の時間で、正味形状に大体近づけることである(精度及び表面粗さは重要ではない)。中間の機械加工は、正味形状にさらに近づける目的で利用するものであり、表面粗さ及び精度があまり重要でない場合には、中間の機械加工で十分である(例えば、コーピング又はクラウンの横方向内面の場合など。このような内面は最終的には、セメント又は接着剤によってふさがれる)。精巧な機械加工は、高い精度及び精巧な表面仕上げ(修復物の底面の縁辺部の仕上げなど。この部分は、グローバルローディングの大半を有することになる)のために必要となる。同時5軸ミリングと、丸い先端を有する円錐ダイヤモンドツールの使用には相乗作用があり、危険で強度を制限する傷が発生しないようにする最適な「迎え角」を可能にすると共に、より積極的なグラインディングが可能になることが明らかになった。その結果、強度の点であまり妥協しなくても、送り速度と材料除去速度が最大になる。粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程はさらに、歯科用セラミックブランクと、歯科用物品の機械加工済み正味形状との体積差に左右され、さらに、機械加工済みの正味形状の最終的な粗さと精度に左右される。
【0027】
さらなる態様では、歯科用物品は、内面、外面、及びプレパレーションラインを含んでよく、機械加工工程は、セラミックブランクの内面をドリリングすること、セラミックブランクの内面をミリングすること、セラミックブランク内側のプレパレーションラインをミリングすること、セラミックブランク外側のプレパレーションラインをミリングすること、セラミックブランクの外面をドリリングすること、及び、セラミックブランクの外面をミリングすることのうちの1つ以上を含んでよい。機械加工としては、ドリリング、ミリング、カッティング、グラインディング、又はこれらの組み合わせを挙げてよい。
【0028】
別の態様では、本発明で用いるツールの寸法は、約0.5mm〜約3.0mmの範囲であってよい。このツールに埋め込まれたダイヤモンドの粒度は、約60マイクロメートル〜約150マイクロメートル、又は約90マイクロメートル〜約130マイクロメートルの範囲であってよい。
【0029】
さらなる態様では、機械加工パラメーターは、ツールの仕様、毎分回転数、線速度、送り速度(mm/分)、1回転当たりの送り量(マイクロメートル)、切り込み深さ(マイクロメートル)、及び材料除去速度を含んでよい。毎分回転数(RPM)の考え得る範囲は、毎分30,000〜100,000回転、好ましくは毎分30,000〜60,000回転である。送り速度の考え得る範囲としては、約500mm/分〜約5000mm/分が挙げられる。切り込み深さは、約10マイクロメートル〜約150マイクロメートル、好ましくは約10マイクロメートル〜約130マイクロメートルの範囲であってよい。切り込み深さは、組み込まれたダイヤモンドの粒度よりも小さく、かつ、1回転当たりの送り量は、切り込み深さよりも小さいのが好ましい。切り込み深さは、精巧な機械加工の際の表面臨界傷寸法の最大値の推定値よりも小さく、かつ、粗い機械加工の際の表面臨界傷寸法の最大値の推定値よりも大きいのがさらに好ましい。一連のツールとしては、丸い先端を有すると共に、様々なサイズのダイヤモンド粒子でコーティングされた円錐ダイヤモンドツールを挙げてよい。この円錐形態によって、振動に対する剛性が一層向上したグラインディングデバイスが得られる。機械加工法と、一連のダイヤモンドツールを組み合わせると、強度、精度、及び辺縁完全性を保った状態で、機械加工時間が短縮される。特定のタイプの機械加工可能なセラミック材では、カーバイドツールも用いてよい。
【0030】
さらなる態様では、機械加工プロセスは、コンピューターファイルの使用を含み、この場合の第1のコンピューターファイルは、機械加工する歯科用物品の仕様を含み、この第1のコンピューターファイル内の仕様から、機械加工ツール経路が割り出される。歯科用セラミックブランクは、幾何形状と材料特性を含み、第1のコンピューターファイルの仕様を、歯科用セラミックブランクの幾何形状及び材料特性と比較する。機械加工プロセスはさらに、第1のコンピューターファイルの仕様を歯科用セラミックブランクの上にマッピングして、除去する材料の体積を割り出すこと、さまざまな程度の精度と表面粗さを含む領域に、除去する材料の体積を分けることを含む。粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び/又は精巧な機械加工工程によって、これらの領域を機械加工する。粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程のそれぞれは、少なくとも1つのツール経路、機械加工パラメーター、及びツール選択を含む。ツール経路を算出し、第2のコンピューターファイル内の一連のコマンドに変換する。第2のコンピューターファイル、機械加工パラメーター、及びツール選択をミリングマシンに供給する。
【0031】
さらなる態様では、歯科用セラミックブランクは、強度が約80〜約180MPaの範囲であると共に、破壊じん性が約0.7〜約1.3MPa.m0.5の範囲であるケイ酸リチウムを含んでよい。さらなる強度範囲としては、約90〜約150MPaが挙げられる。曲げ強度は、ISO6872による曲げ強度、3点曲げ強度、4点曲げ強度、2軸曲げ強度(2軸強度としても知られている)から選択してよい。
【0032】
本発明の方法の有益な実施形態によれば、機械加工は、5軸以上のコンピューター数値制御(CNC)マシンで行い、この際のCNCマシンは、コンピューター(CPU)、CNCコントロールユニット、記憶装置、及び/又はソフトウェアパッケージを備え、機械加工は、グラインディング、ドリリング、ミリング、又はこれらの組み合わせを含む。
【0033】
本発明の方法の有益な実施形態によれば、歯科用セラミックブランクは、強度が約80〜約180MPaの範囲であると共に、破壊じん性が約0.7〜約1.3MPa.m0.5の範囲であるケイ酸リチウムを含み、埋め込まれたダイヤモンドの粒度が約60〜約150マイクロメートル、好ましくは約90〜約130マイクロメートルの範囲であることを特徴とする。
【0034】
本発明の方法の有益な実施形態によれば、機械加工パラメーターは、ツールの仕様、毎分回転数、線速度、送り速度、1回転当たりの送り量、切り込み深さ、及び材料除去速度を含み、切り込み深さは、埋め込まれたダイヤモンドの粒度よりも小さく、1回転当たりの送り量は、切り込み深さよりも小さく、切り込み深さは、精巧な機械加工の際の表面臨界傷寸法の最大値の推定値よりも小さく、かつ、粗い機械加工の際の表面臨界傷寸法の最大値の推定値よりも大きい。
【0035】
本発明の方法の有益な実施形態によれば、一連のツールは、さまざまな大きさのダイヤモンド粒子を有する、丸い先端の円錐ダイヤモンドツールを含む。
【0036】
本発明の方法の有益な実施形態によれば、粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程は、埋め込まれたダイヤモンドの粒度に左右され、歯科用セラミックブランクは、正味形状を有する歯科用物品に機械加工され、粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程はさらに、歯科用セラミックブランクと、歯科用物品の機械加工済み正味形状の体積差に左右され、さらに、機械加工済みの正味形状の最終的な粗さと精度に左右される。
【0037】
本発明の方法の有益な実施形態によれば、一連のダイヤモンドツールの選択と、機械加工工程によって、強度、精度、及び辺縁完全性を保った状態で、機械加工時間が短縮される。この際、機械加工は、コンピューター数値制御(CNC)マシンで行い、機械加工後に、CNCマシンを用いて精度を測定し、その精度は25マイクロメートル以内である。
【0038】
本発明の機械加工法の有益な実施形態によれば、歯科用物品は、内面、外面、及びプレパレーションラインを含み、機械加工工程は、セラミックブランクの内側をドリリングすること、セラミックブランクの内側をミリングすること、セラミックブランクの内側のプレパレーションラインをミリングすること、セラミックブランクの外側のプレパレーションラインをミリングすること、セラミックブランクの外側をドリリングすること、セラミックブランクの外側をミリングすることのうちの1つ以上を含み、ツールの直径は約0.5mm〜約3.0mmの範囲であり、埋め込まれたダイヤモンドの粒度は、約60マイクロメートル〜約150マイクロメートル、好ましくは約90マイクロメートル〜約130マイクロメートルの範囲である。
【0039】
本発明の機械加工法の有益な実施形態によれば、機械加工パラメーターは、ツールの仕様、毎分回転数、線速度、送り速度、1回転当たりの送り量、切り込み深さ、及び材料除去速度を含み、この送り速度は約500mm/分〜約5000mm/分の範囲であり、切り込み深さは約10マイクロメートル〜約130マイクロメートルの範囲である。
【0040】
本発明の機械加工法の有益な実施形態によれば、歯科用セラミックブランクは、強度が約80〜約180MPaであると共に、破壊じん性が約0.7〜約1.3MPa.m0.5の範囲であるケイ酸リチウムを含み、この強度は約90〜約150MPaの範囲である。
【0041】
本発明の機械加工法の有益な実施形態によれば、第1のコンピューターファイルは、歯科用物品の仕様を含み、ツール経路を第1のコンピューターファイル内の仕様から割り出し、歯科用物品は、インレー、アンレー、オーバーレイ、ブリッジ、アバットメント、前装、ベニア、ファセット、クラウン、部分クラウン、フレームワーク、又はコーピングを含み、歯科用セラミックブランクは、幾何形状と材料特性を含み、第1のコンピューターファイルの仕様を、歯科用セラミックブランクの幾何形状及び材料特性と比較する。
【0042】
本発明の機械加工法の有益な実施形態によれば、第1のコンピューターファイルの仕様を歯科用セラミックブランク上にマッピングして、除去する材料の体積を割り出すこと、さまざまな程度の精度と表面粗さを含む領域に、除去する材料の体積を分けることを更に含み、粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び/又は精巧な機械加工工程によって、この領域を機械加工し、粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程のそれぞれは、少なくとも1つのツール経路、機械加工パラメーター、及びツール選択を含み、このツール経路を算出して、第2のコンピューターファイル内の一連のコマンドに変換し、第2のコンピューターファイル、機械加工パラメーター、及びツール選択をミリングマシンに供給する。
【0043】
本発明の機械加工法の有益な実施形態によれば、歯科用セラミックブランクは、強度及び/又は破壊じん性が向上するように機械加工後に熱処理できるセラミックを含み、この向上した強度は約250MPa以上であり、向上した破壊じん性は約1.5MPa.m0.5以上である。
【0044】
本発明の機械加工法の有益な実施形態によれば、歯科用セラミックブランクは、SiO、LiO、及びPを含み、この歯科用セラミックブランクはさらに、KO、Al、ZnO、NaO、ZrO、MeIIO、及び有色/蛍光金属酸化物のうちの1つ以上を含み、このMeIIOは、CaO、BaO、SrO、MgO、又はこれらの混合物を含み、有色/蛍光金属酸化物は、Ta、Tb、Y、La、Er、Pr、Ce、Ti、V、Fe、Mnの酸化物、又はこれらの混合物を含む。
【0045】
さらなる利点、特長、及び詳細は、下記の図面を参照して、本発明のいくつかの実施形態に関する下記の説明から見て取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】溶融体から出発して、メタケイ酸リチウムを介して二ケイ酸リチウムになるまでの、本発明によるプロセスの主な温度プロファイルを示している。
【図2】実施例13によるケイ酸リチウム材のDSCプロットを示している。
【図3】バルクガラスサンプルの形態である、実施例13によるケイ酸リチウム材の高温XRDを示している。
【図4】核生成及び1回目の結晶化後の、実施例13によるケイ酸リチウム材のXRDによる相分析を示している。
【図5】核生成及び1回目の結晶化後の、実施例13によるケイ酸リチウム材のSEMによる後方散乱電子像を示している。
【図6】核生成、1回目の結晶化、及び2回目の結晶化を経た、実施例13によるケイ酸リチウム材のXRDによる相分析を示している。
【図7】核生成、1回目の結晶化、及び2回目の結晶化を経たと共に、エッチングされた表面を有している、実施例13によるケイ酸リチウム材のSEMによる後方散乱電子像を示している。
【図8】本発明の実施形態のミリング作業中の材料ブロックの概略図を示している。
【図9】本発明のミリング法の実施形態で用いるグラインディングツールのSEM写真を示している。
【図10】本発明のミリング法の実施形態で用いるグラインディングツールのSEM写真を示している。
【図11】本発明のミリング法の実施形態で用いるグラインディングツールのSEM写真を示している。
【図12】シロナのCERECシステムで用いられる円筒型グラインディングツールのSEM写真を示している。
【図13】シロナのCERECシステムで用いられるステップグラインディングツールのSEM写真を示している。
【図14A】図9のグラインディングツールの斜視図を示している。
【図14B】図14Aのグラインディングツールのグラインディングチップの断面図を示している。
【図14C】図14Aのグラインディングツールの断面図を示している。
【図15A】図10のグラインディングツールの斜視図を示している。
【図15B】図15Aのグラインディングツールのグラインディングチップの断面図を示している。
【図15C】図15Aのグラインディングツールの断面図を示している。
【図16A】図11のグラインディングツールの斜視図を示している。
【図16B】図16Aのグラインディングツールのグラインディングチップの断面図を示している。
【図16C】図16Aのグラインディングツールの断面図を示している。
【図17】テイパーツールによる5軸ドリリングを含む機械加工工程のツール経路を示している。
【図18】テイパーツールによる5軸ミリングを含む機械加工工程のツール経路を示している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本明細書で引用されているあらゆる参考文献は、特許、特許出願、及び公開論文を含め、参照することによりその全体が組み込まれることに言及しておく必要がある。本明細書において複数形で用いられている用語はいずれも、その用語の単数形も含む場合があり、本明細書において単数形で用いられている用語はいずれも、その用語の複数形も含む場合がある。
【0048】
驚くべきことに、非常に独特な組成の出発ガラスと、特定のプロセスを使用することによって、主な結晶相として、二ケイ酸リチウム(LiSi)ではなく、準安定性のメタケイ酸リチウム(LiSiO)を有する、本発明によるガラスセラミックを提供できることが示されている。このメタケイ酸リチウムガラスセラミックは、強度とじん性が低いので、非常に複雑な歯科用修復物の形状に簡単に機械加工できるが、このような機械加工の後に、熱処理によって、二ケイ酸リチウムガラスセラミック製品に変換することができ、この二ケイ酸リチウムガラスセラミック製品は、卓越した機械的特性、優れた光学特性、及び非常に良好な化学安定性を有し、これらの特性によって、非常に限定された収縮しか生じない。
【0049】
本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミック材は、下記の成分を含むと共に、主な結晶相としてメタケイ酸リチウムを含む。
【0050】
【表1】

【0051】
本発明の別の好ましい実施形態は、上記のように、ケイ酸ガラスセラミック材によって形成され、この材料は、メタケイ酸リチウムを主な結晶層として生成させる工程を包むプロセスで形成される。
【0052】
本発明のケイ酸リチウム材は、相互に独立した下記の追加成分をさらに含むのが好ましい。
【0053】
【表2】

【0054】
上記のMeIIOは、CaO、BaO、SrO、及びMgOからなる群から選択した1つ以上の要素である。
【0055】
相互に独立した下記の成分を下記の量で含むケイ酸リチウム材が特に好ましい。
【0056】
【表3】

【0057】
上記のMeIIOは、CaO、BaO、SrO、及びMgOからなる群から選択した1つ以上の要素であり、1つ以上の有色及び蛍光金属酸化物の金属は、Ta、Tb、Y、La、Er、Pr、Ce、Ti、V、Fe、及びMnからなる群から選択するのが好ましい。
【0058】
「相互に独立した」という用語は、好ましい量の少なくとも1つが選択されており、そのために、必ずしもすべての成分が好ましい量で存在する必要がないことを意味する。
【0059】
有色成分又は蛍光成分(例えば、f元素の酸化物)を用いてよいので、上に示されている金属のリストは、最終的なものとしてみなすべきではない。有色又は蛍光成分は、最終的な歯科用製品の色が、対象患者の本物の歯の物質の色と一致するようにする。
【0060】
上記の組成物では、Pは、メタケイ酸リチウム結晶の核生成剤として働き、必要な核生成のためには、少なくとも2重量%の濃度を必要とする。Pの代わりに、他の核生成剤、例えば、元素Pt、Ag、Cu、及びWの化合物も可能である。
【0061】
上記の成分に加えて、ガラスセラミックは、ガラスの技術上の加工性を高めるための追加成分をさらに含んでよい。したがって、このような追加成分は具体的には、一般的に合計で0〜5.0重量%になる化合物(B及びFなど)であってよい。
【0062】
67.0〜70.0重量%のSiOを含む上記のようなケイ酸リチウム材が特に好ましい。
【0063】
驚くべきことに、優れた加工特性を実現するためには、特定の体積部のケイ酸リチウム金属が存在しなければならないことが示されている。したがって、メタケイ酸リチウム結晶相が、ケイ酸リチウム材の20〜50体積%、特には30〜40体積%を形成するのがさらに好ましい。このような体積部によって、相互からかなり離れて存在する結晶が得られるので、過度に高い強度のケイ酸リチウム材が回避される。
【0064】
メタケイ酸リチウム結晶は、層状又は平板上形態のものであるのが好ましい。これによって、高エネルギーを用いることも、無制御に壊れることもなく、ケイ酸リチウム材の非常に良好な機械加工性が得られる。無制御な破壊という後者の態様は、例えば、機械加工に一般的に適さないガラスから既知である。メタケイ酸リチウム結晶の好ましいモルホロジーも、製品の驚くほど高いエッジ強度に関与していると想定されており、例えば、本発明によるケイ酸リチウム材から、複雑な歯科用修復物を作製することができる。
【0065】
本発明によるケイ酸リチウム材は、ブランクの形態であるのが好ましい。こブランクは通常、小さな円柱又は矩形ブロックの形態をとる。正確な形態は、ブランクを所望に応じてコンピューターの支援によって機械加工するのに用いる特定の装置に左右される。
【0066】
本発明によるケイ酸リチウム材は、機械加工の後、インレー、アンレー、ブリッジ、アバットメント、前装、ベニア、ファセット、クラウン、部分クラウン、フレームワーク、又はコーピングのような歯科用修復物の形状をしているのが好ましい。
【0067】
主に結晶性メタケイ酸リチウムを含む相を作製してから、このメタケイ酸リチウムを二ケイ酸リチウムに変換する工程を含むプロセスで形成された二ケイ酸リチウム材が、本発明の好ましい実施形態を形成する。
【0068】
二ケイ酸リチウムから作られた歯科用製品であって、この二ケイ酸リチウムが、主に結晶性メタケイ酸リチウムを含む相を作製してから、このメタケイ酸リチウムを二ケイ酸リチウムに変換する工程を含むプロセスで形成された歯科用製品が、本発明の別の好ましい実施形態を形成する。
【0069】
本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミック材ブランクは、
(a)主成分として初期成分SiO、LiO、KO、Al、及びPを含む出発ガラスの溶解物を生成する工程と、
(b)この出発ガラスの溶解物をモールドに注入して、出発ガラスブランクを形成し、このガラスブランクを室温まで冷却する工程と、
(c)この出発ガラスブランクに対して、第1の温度にて1回目の熱処理を施して、メタケイ酸リチウム結晶を形成するのに適した核を含むガラス生成物を得る工程と、
(d)工程(c)のガラス生成物に対して、第1の温度よりも高い第2の温度にて2回目の熱処理を施して、主な結晶相としてメタケイ酸リチウム結晶を有するケイ酸リチウムブランクを得る工程と、
を含むプロセスによって調製するのが好ましい。
【0070】
上記のプロセスのうち、工程(a)の出発ガラスが、ZnO、NaO、MeIIO、ZrO、並びに、有色及び蛍光金属酸化物をさらに含み、このMeIIOが、CaO、BaO、SrO、及びMgOからなる群から選択した1つ以上の要素であるプロセスが好ましい。
【0071】
上記のプロセスのうち、工程(a)の出発ガラスが、相互に独立して下記の初期成分を下記の量で含み、下記のMeIIOが、CaO、BaO、SrO、及びMgOからなる群から選択した1つ以上の要素であり、下記の有色及び蛍光金属酸化物の1つ以上の金属が好ましくは、Ta、Tb、Y、La、Er、Pr、Ce、Ti、V、Fe、及びMnからなる群から選択したものであるプロセスがさらに好ましい。
【0072】
【表4】

【0073】
工程(a)では、ガラスセラミックの成分を含む出発ガラスの溶解物を生成する。この目的のために、炭酸塩、酸化物、及びリン酸塩のような好適な出発材料の対応する混合物を調製し、具体的には1300〜1600℃の温度まで、2〜10時間加熱する。特に高い均質度を得る目的で、得られたガラス溶解物を水中に注いでガラス顆粒を形成してよく、得られたガラス顆粒を再度溶解させる。
【0074】
工程(b)では、出発ガラスの溶解物を、対応するモールド、例えばスチールモールドに注入し、室温まで冷却して、ガラス生成物を得る。
【0075】
この冷却作業は、制御した形で行って、ガラスの緩和を可能にし、急激な温度変化に付随する構造内応力を防ぐようにするのが好ましい。このため、通例は、溶解物は、例えば約400℃に予熱したモールドに注入する。その後、その生成物を炉内で室温までゆっくり冷却することができる。
【0076】
工程(c)では、出発ガラス生成物に対して、第1の温度にて1回目の熱処理を施して、メタケイ酸リチウム結晶のための核を形成させる。好ましくは、この1回目の熱処理は、450〜550℃の第1の温度で、5分〜1時間、ガラス生成物を加熱することを含む。一部のケースでは、1回の熱処理で、ガラス物品を緩和すると共に、メタケイ酸リチウム結晶を核生成させる目的で、工程(b)と工程(c)を組み合わせるのが好都合なので、上記のプロセスのうち、冷却プロセス中に、約450〜550℃の温度を約5分〜50分間保って、工程(b)の最中に、メタケイ酸リチウム結晶の形成に適した核を含むガラス生成物を生成するように工程(b)を修正することによって、工程(c)が置き換えられているプロセスが、本発明の好ましい実施形態を形成する。
【0077】
上記のプロセスのうち、工程(c)で、1回目の熱処理が、出発ガラスブランクを、約5分〜1時間、約450〜550℃の温度まで加熱することを含むプロセスが、本発明の別の好ましい実施形態を形成する。
【0078】
続いて、所望の核を含むガラス生成物を室温まで冷却する。
【0079】
その後の工程(d)では、LiSiOの所望の核を有するガラス生成物に対して、第1の温度よりも高い第2の温度にて2回目の熱処理を施す。この2回目の熱処理によって、結晶相のみの場合と同程度に優勢でありかつ好ましいメタケイ酸リチウム結晶が所望どおり形成され、この結果、本発明によるメタケイ酸リチウムガラスセラミックが得られる。工程(d)のこの2回目の熱処理は、ケイ酸リチウム結晶の形成に適した核を含むガラス生成物を、約10〜30分間、約600〜700℃の第2の温度まで加熱することを含むのが好ましい。
【0080】
このようなプロセスの主な温度プロファイルが、図1に例示されている。温度は、すでに溶解物(すなわち、工程(a)の最後)から出発しており(1)、500〜450℃の温度範囲で生成物を緩和するために低下する(2)。続いて、温度は、工程(b)で室温にしてから、約450〜550℃にすることもできるし(実線)、450〜500℃の温度範囲に保つこともできる(点線)。(3)と書かれた領域(工程(c))では、核生成が450〜550℃の温度で起こり、この核生成は、Pの影響を受ける。続いて、ガラス材を600〜700℃の範囲の温度まで直接加熱し、メタケイ酸リチウムが形成される間、この温度を保つことができる(4)(工程(d))。その後、グラインディング、ミリング、又はCAD−CAM処理のために、この材料を例えば室温前後まで冷却でき(実線)、この後、約700〜950℃の温度にすることもできるし、あるいは、700〜950℃に直接することもできる(点線)。この温度(5)では、2回目の結晶化が起こり、二ケイ酸リチウムが形成され、さらなる熱処理又はホットプレスを行うことができる。
【0081】
選択した出発ガラスの特有の組成に応じて、当業者は、示差走査熱量測定法(DSC)及びX線回析分析法を用いて、工程(c)及び(d)における好適な条件を割り出し、所望のモルホロジーとサイズのメタケイ酸リチウム結晶を有する材料をもたらすことができる。このプロセスをさらに例示するために、図2〜5と、実施例部分の表I及びIIには、上記の測定法を用いて、実施例13に関する関連データをどのように得たか示されているので、これらの関連データは、概して入手可能である。さらに、これらの分析は、望ましくない他の結晶相、例えば、高強度の二ケイ酸リチウム、又はクリストバライト及びリン酸リチウムの形成を回避又は制限する条件の同定も可能にする。
【0082】
工程(d)の後に、得られたガラスセラミックを成形するのが好ましい。この成形は、工程(e)によって行うのが好ましく、工程(e)では、メタケイ酸リチウムガラスセラミックを所望の形状のガラスセラミック製品、特には歯科用修復物の形状に機械加工する。この機械加工は、トリミング又はミリングによって行うのが好ましい。機械加工は、コンピューターによって、特にはCAD/CAMベースのミリングデバイスを用いて制御するのがさらに好ましい。これによって、歯科医は、患者をいわゆる診療台治療することができるようになる。
【0083】
本発明によるガラスセラミックの特別な利点は、強靭で高強度な従来技術の材料で観察されるツールの過度な摩耗なしに、機械加工によって成形できる点である。このことは特に、本発明によるガラスセラミックを簡単に研磨及びトリミングできることによって示されている。したがって、このような研磨及びトリミングプロセスでは、非常に複雑な歯科用修復物の形態を有する許容可能な製品を調製するのに必要なエネルギーと時間が軽減される。
【0084】
二ケイ酸リチウムの歯科用修復物は、多種多様な方法で作製することができる。歯科技工士によって広く用いられているのは、CAD/CAM法とホットプレス法である。歯科医は、CAD/CAM法(Cerec 2(登録商標)、Cerec 3(登録商標))を使用して、診療台の横で、すべてのセラミック二ケイ酸リチウム修復物を作製することができる。最終的に得られるのは常に、主な結晶相として二ケイ酸リチウムを有する歯科用修復物である。この目的のために、ブランクは、本発明によるメタケイ酸リチウムガラスセラミックであることができる。したがって、本発明によるガラスセラミックは、CAD/CAM、又はホットプレスのいずれの方法でも加工することができ、ユーザーにとって非常に有益である。
【0085】
これらの目的のために、メタケイ酸リチウム結晶の形成に適した核を含む対応するケイ酸リチウムガラスを使用することもできる。このガラスは、本発明のメタケイ酸リチウムガラスセラミックの前駆体である。本発明は、このようなガラスにも関する。このガラスは、工程(c)の上記プロセスによって得ることができるものである。
【0086】
ホットプレス法によって歯科用修復物を製造する際には、メタケイ酸リチウムのための核を有するケイ酸リチウムガラスインゴットに対して、約700〜1200℃の熱処理を施して、粘性状態に変換する。この熱処理は、特殊な炉(EP 500(登録商標)、EP 600(登録商標)、イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト)の中で行う。このインゴットを特殊な埋没材に埋め込む。熱処理中に、インゴットが結晶化される。このため、主な結晶相は二ケイ酸リチウムである。この粘性のガラスセラミックを1〜4MPaの圧力下で埋没材の空洞に流し込み、所望の形状の歯科用修復物を得る。埋没モールドを室温まで冷却した後、この二ケイ酸リチウム修復物をサンドブラストによって研磨することができる。このフレームワークは、焼結又はホットプレス法によって、ガラス又はガラスセラミックでさらにコーティングして、自然な審美的外観を有する最終的な歯科用修復物を得ることができる。
【0087】
本発明よるケイ酸リチウムガラスセラミックを含むインゴットに対して、約700〜1200℃の熱処理を施して、粘性状態に変換する。この熱処理は、特殊な炉(EP 500(登録商標)、EP 600(登録商標)、イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト)の中で行う。このガラスセラミックインゴットを特殊な埋没材に埋め込む。熱処理中に、このガラスセラミックインゴットがさらに結晶化される。このため、主な結晶相は二ケイ酸リチウムである。この粘性のガラスセラミックを1〜4MPaの圧力下で埋没材の空洞に流し込み、所望の形状の歯科用修復物を得る。埋没モールドを室温まで冷却した後、この二ケイ酸リチウム修復物をサンドブラストによって研磨することができる。このフレームワークは、焼結又はホットプレス法によって、ガラス又はガラスセラミックでさらにコーティングして、自然な審美的外観を有する最終的な歯科用修復物を得ることができる。
【0088】
CAD/CAM法によって歯科用修復物を製造する際には、強度が約80〜150MPaである可能な限り微量の結晶相として二ケイ酸リチウムを有するケイ酸リチウム又はメタケイ酸リチウムブロックを、Cerec 2(登録商標)又はCerec 3(登録商標)(ドイツのシロナ)のようなCAMユニット内で簡単に機械加工することができる。DCS precimill(登録商標)(スイスのDCS)のようなさらに大型のミリングマシンも好適である。したがって、このブロックは、固定されたホルダー又は一体化されたホルダーによって、グラインディングチャンバー内に配置する。CADによる歯科用修復物の構築は、スキャニングプロセス又は光学カメラをソフトウェアツールと組み合せることによって行う。ミリングプロセスは、1ユニットにつき10〜15分を要する。Celay(登録商標)(スイスのセレイ)のようなコピーミリングユニットも、これらのブロックを機械加工するのに適している。まず、所望の修復物の1:1のコピーをハードワックスで製作する。続いて、このワックスモデルを機械でスキャニングし、1:1で、グラインディングツールに機械で伝送する。このため、このグラインディングプロセスはコンピューターによって制御されない。高い強度と歯のような色を有する所望の二ケイ酸リチウムガラスセラミックを得るためには、ミリングした歯科用修復物に対して熱処理を施す必要がある。この熱処理は、700〜900℃の範囲で約5〜30分間行う。続いて、このフレームワークを焼結又はホットプレス法によって、ガラス又はガラスセラミックでさらにコーティングして、自然な審美的外観を有する最終的な歯科用修復物を得ることができる。
【0089】
主な結晶相として二ケイ酸リチウムを有するブロックは、ガラスセラミックの高い強度とじん性が原因で、DCS Precimill(登録商標)(スイスのDCS)のような大型ミリングマシンでグラインディングするしかない。したがって、このブロックは、固定された金属ホルダーによって、グラインディングチャンバー内に配置する。CADによる歯科用修復物の構築は、スキャニングプロセスをソフトウェアツールと組み合せることによって行う。グラインディングプロセスによって生じた表面傷を閉じる目的で、700〜900℃の範囲の追加の熱処理を施すことができる。このフレームワークを焼結又はホットプレス法によって、ガラス又はガラスセラミックでさらにコーティングして、自然な審美的外観を有する最終的な歯科用修復物を得ることができる。
【0090】
本発明による簡単に機械加工可能なメタケイ酸リチウムガラスセラミックは、さらなる熱処理によって、二ケイ酸リチウムガラスセラミック製品に変換できることが、さらに示されている。得られた二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、高い強度のような優れた機械的特性を有するのみならず、歯科用修復物用の材料に必要な他の特性をも示す。
【0091】
したがって、本発明は、二ケイ酸リチウムガラスセラミック製品を調製するためのプロセスにも関し、このプロセスは、(f)本発明によるメタケイ酸リチウムガラスセラミックに対して3回目の熱処理を施して、メタケイ酸リチウム結晶を二ケイ酸リチウム結晶に変換する工程を含む。
【0092】
この工程(f)では、準安定性のメタケイ酸リチウム結晶の二ケイ酸リチウム結晶への変換が行われる。この3回目の熱処理は、二ケイ酸リチウム結晶に完全に変換することを含むのが好ましく、この変換は、700〜950℃で5〜30分間、加熱することによって実施するのが好ましい。所与のガラスセラミックに適した条件は、さまざまな温度でXRD分析を行なうことによって確認することができる。
【0093】
二ケイ酸リチウムガラスセラミックへの変換は、わずか約0.2〜0.3%という非常に小さい線収縮しか伴わないことも分かった。この収縮は、セラミックを焼結した場合の最大で30%という線収縮と比較すると、ほとんど無視できるものである。
【0094】
上記のようなプロセスのうち、ケイ酸リチウムブランクの二軸強度が少なくとも90MPaであり、破壊じん性が少なくとも0.8MPa.m0.5であるプロセスが好ましい。
【0095】
上記のようなプロセスのうち、工程(b)の出発ガラスブランク、工程(c)のメタケイ酸リチウムを形成するのに適した核を含むガラス生成物、又は工程(d)の主な結晶相としてメタケイ酸リチウムを有するケイ酸リチウムブランクを機械加工又はホットプレスによって、所望の幾何形状に成形して、成形ケイ酸リチウム製品を形成するプロセスも好ましい。
【0096】
このようなプロセスのうち、成形ケイ酸リチウムブランクが歯科用修復物であるプロセスがより好ましく、その歯科用修復物が、インレー、オンレー、ブリッジ、アバットメント、前装、ベニア、ファセット、クラウン、部分クラウン、フレームワーク、又はコーピングであるプロセスがさらに好ましい。
【0097】
上記のようなプロセスのうち、機械加工をグラインディング又はミリングによって行うプロセスは、本発明の好ましい実施形態を形成し、これにより、機械加工をコンピューターによって制御するプロセスが、さらに好ましい。
【0098】
上記のようなプロセスであるが、成形ケイ酸リチウム製品に対して、約5〜30分間、約700〜950℃の第3の温度で3回目の熱処理を施す工程をさらに含むプロセスは、本発明の別の態様であり、このプロセスは、3回目の熱処理が行われるケイ酸リチウム製品が、主な結晶相としてメタケイ酸リチウムを含む場合に特に好ましく、この際、3回目の熱処理は、メタケイ酸リチウム結晶を、歯科用修復物の主な結晶相としての二ケイ酸リチウム結晶に変換する。
【0099】
上記のようなプロセスのうち、3回目の熱処理が行われるケイ酸リチウム製品が、メタケイ酸リチウム結晶を形成するのに適した核を含むガラス生成物を含み、メタケイ酸リチウム結晶を形成するのに適した核から、二ケイ酸リチウム結晶を直接結晶化するプロセスも好ましい。
【0100】
本発明の別の好ましい実施形態は、上記のようなプロセスのうち、3回目の熱処理中に生じる収縮が0.5体積%未満、好ましくは0.3体積%未満であるプロセスである。
【0101】
上記のようなプロセスのうち、ケイ酸リチウム材をホットプレスによって所望の幾何形状に成形して、歯科用修復物を作製する工程を含むプロセスも本発明の目的であり、上記のように歯科用修復物を製造するためのプロセスのうち、ホットプレスが、ケイ酸リチウム材に対して約500℃〜1200℃の温度で熱処理を施して、ケイ酸リチウム材を粘性状態に変換する工程と、粘性のケイ酸リチウム材を約1〜4MPaの圧力下でモールド又はダイの中に押し入れて、所望の幾何形状を有する歯科用修復物を得る工程を含むプロセスが好ましい。
【0102】
上記のようなプロセスのうち、熱処理とプレス加工を施されるケイ酸リチウム材が、メタケイ酸リチウム結晶を含み、この結晶が、熱処理及びプレス加工中に二ケイ酸リチウム結晶に変換されるプロセスが、より好ましい。
【0103】
本発明のさらに好ましい実施形態は、上記のようなプロセスのうち、ケイ酸リチウム材の強度及び破壊じん性を向上させる工程を含むプロセスによって形成される。
【0104】
上記のように歯科用修復物を製造するためのプロセスのうち、歯科用修復物の二軸強度が少なくとも250MPaであり、破壊じん性が少なくとも1.5MPa.m0.5であるプロセスが好ましい。
【0105】
上記のように歯科用修復物を製造するためのプロセスのうち、自然な外観が得られるように、歯科用修復物に仕上げを施す工程をさらに含むプロセスが好ましい。
【0106】
上記のようなプロセスのうち、仕上げ工程が、粉末材を層化することによって、又は、未仕上げの歯科用修復物の上にコーティング材をホットプレスすることによって、歯科用修復物にコーティングを施す工程を含むプロセスも同様に当てはまる。
【0107】
上記のようなプロセスのうち、層化材を焼成中、又は未仕上げの歯科用修復物上へコーティング材をホットプレス中に3回目の熱処理を行うプロセスがさらに好ましい。
【0108】
したがって、二ケイ酸リチウムセラミックを歯科用修復物材用として魅力的なものにする有益な機械的特性、光学特性、及び安定特性をすべて有する生成物が最終的に得られる。ただし、これらの特性は、CAD/CAMベースのプロセスを用いて成形を行う場合の従来の材料の欠点、具体的には、ミリング及びトリミングツールの過度な摩耗なしに実現される。
【0109】
このため、本発明は、上記の調製プロセスによって得ることができると共に、主な結晶相として二ケイ酸リチウムを有する二ケイ酸リチウムガラスセラミック製品にも関する。本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミック製品は、歯科用修復物の形態であるのが好ましい。
【0110】
二ケイ酸リチウムガラスセラミック内に、二ケイ酸リチウム結晶が、ガラスセラミックの60〜80体積%形成されるのがさらに好ましい。
【0111】
本発明に従ってメタケイ酸リチウムガラスセラミックを二ケイ酸リチウムガラスセラミック製品に変換すると、強度が、最大で約4倍という驚くほどの向上を見せる。典型的には、本発明のメタケイ酸リチウムガラスセラミックの強度は約100MPaであり、変換によって、強度が400MPa超(2軸強度として測定した場合)である二ケイ酸リチウムガラスセラミックが得られる。
【0112】
本発明はまた、上記のようなケイ酸リチウムブランクに関し、このブランクは、ミリングマシンに適合するホルダー、心棒、若しくは保持装置と組み合わせるか、ミリングマシンに適合するアダプターと組み合わせる。
【0113】
上記のようなケイ酸リチウムブランクのうち、ホルダーが、ブランクと異なる材料で作られているものが本発明の1つの実施形態を形成する。
【0114】
上記のようなケイ酸リチウム材ブランクのうち、ホルダーが、合金、金属、ガラスセラミック、又はセラミックで作られているものが本発明の1つの実施形態を形成する。
【0115】
上記のようなケイ酸リチウムブランクのうち、ホルダーがブランクと同じ材料で作られており、ブランクと一体的であるものが本発明の別の実施形態である。
【0116】
上記のようなケイ酸リチウムブランクのうち、ブランクに情報がラベリングされているものが別の好ましい実施形態である。
【0117】
上記のようなケイ酸リチウムブランクのうち、ブランク上の情報が、材料、サイズ、及び、ブランクから機械加工できる形状の種類を含むものも同様に当てはまる。
【0118】
本発明の別の態様は、ケイ酸リチウム修復物を製造する方法であって、上記のようなケイ酸リチウムのインゴット又はブランクを調製してから、フレームワーク材を覆うように、熱(ホット)プレスによって、ケイ酸リチウムブランクで歯科用修復物をオーバーレイするか、又はこの代わりに、必要な咬合及び頸部の細部をすべて有するように、ブランクからオーバーレイの形状を機械加工(グラインディング若しくはミリング)して、機械加工したケイ酸リチウムオーバーレイをフレームワーク材にボンディングする工程を含む方法に関する。
【0119】
上記のような、歯科用修復物を製造する方法のうち、ケイ酸リチウムブランクを歯科用フレームワークの上にホットプレスすることによって、歯科用フレームワークをコーティングする方法が、好ましい実施形態の1つである。他の好ましい方法は、Schweigerらの国際公開第2007/028787号パンフレット、さらにはPfeifferの米国特許出願公開第2006/0257823号明細書及び米国特許出願公開第2006/0257824号明細書(これらはすべて、参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているようにオーバーレイを従来のように層化又は熱プレスするのではなく、オーバーレイをミリング、ステイン付け/グレージング、及びボンディングすることを含む。
【0120】
上記のような、歯科用修復物を製造する方法のうち、歯科用フレームワークが、クラウン、部分クラウン、ブリッジ、コーピング、ベニア、前装、又はアバットメントである方法がより好ましく、このような方法のうち、歯科用フレームワークが、金属、合金、セラミック、又はガラスセラミックで作られている方法がさらに好ましい。
【0121】
上記のような、歯科用修復物を製造する方法のうち、フレームワークのセラミックが、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム混合物、酸化アルミニウム混合物、アルミナ強化ジルコニア、ジルコニア強化アルミナ、又はこれらの組み合わせを含む方法が、本発明の特に好ましい実施形態を形成する。
【0122】
上記のような、歯科用修復物を製造する方法のうち、フレームワーク上にコーティングされるケイ酸リチウムがメタケイ酸リチウム結晶を含み、この結晶が二ケイ酸リチウム結晶に変換されるか、又は、ケイ酸リチウムブランクが、メタケイ酸リチウム結晶を形成するのに適した核を含み、ケイ酸リチウムブランクを歯科用フレームワーク上にホットプレスしている最中に、二ケイ酸リチウム結晶として結晶化される方法が、本発明の別の好ましい目的である。
【0123】
下記の非限定的実施例に基づいて、以下で、本発明についてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0124】
実施例1〜18(本発明)、19〜20(比較例)、及び21〜23(本発明)
上記プロセスの工程(a)〜(d)を行うことによって、合わせて18種類の本発明によるメタケイ酸リチウムガラスセラミック製品と、表IIIに示されている化学組成を有する2種類の比較用セラミックを調製し、最後に、上記のプロセスの工程(e)によって、二ケイ酸リチウムガラスセラミック製品に変換した。
【0125】
この目的のために、対応する出発ガラスのサンプルを、白金−ロジウムの入ったルツボ内で、1500℃の温度で3時間かけて融解させた(a)。
【0126】
続いて、300℃に予熱したスチールモールドに、得られたガラス溶解物を注入した。1分後、このガラスブランクを、450〜550℃の温度に予熱した炉に移した。各サンプルの正確な値(KB T[℃]及びKB t[分])は、表IIIに示されている。この緩和及び核生成プロセス(b及びc)の後に、ブランクを室温まで冷却した。核生成されたサンプルは、均一かつ透明であった。
【0127】
続いて、結晶化のための核を含むこれらのガラスブランクに対して、工程(d)、すなわち、2回目の熱処理を施して、メタケイ酸リチウムを結晶化させた。この処理は、ガラスブランクを約650℃の温度に約20分間にわたって曝露することを意味する(実施例3は除く。実施例3では、600℃で結晶化させた)。
【0128】
DSC測定によって結晶化の経過を調べ、得られた結晶相をXRDによって分析して、この熱処理のための理想的な条件を同定した。本発明の意味における「理想的な条件」とは、メタケイ酸相及び二ケイ酸相の2つの結晶化ピークがそれぞれ、製造プロセスにおいて明確に区別できるような程度に異なっている場合に存在する。すなわち、サンプルを第一の結晶化温度まで加熱した場合、サンプルの内部で所望の温度に達した際に、サンプルの外側の領域の温度が第二の結晶化温度に達しないようにしなければならない。すなわち、第一の結晶化温度と第二の結晶化温度との差が大きいほど、サンプル質量は大きくなり得る。
【0129】
このプロセスをさらに例示する目的で、図2に、焼入れして粉末化したガラスサンプルである実施例の1つ(実施例13)を10K/分の加熱速度で加熱したもののDSCプロットが示されている。このDSCプロットから、メタケイ酸リチウムの結晶化(1)、二ケイ酸リチウムの結晶化(2)、並びに、1回目の結晶化のためのガラス転移温度(3)及び温度範囲(4)がはっきりと見て取れる。
【0130】
同じ実施例13から、高温XRDによって相の発生を分析したものの例も示されている。すなわち、図3は、2K/分の一定の加熱速度でのバルクガラスサンプルの測定結果を示している。この測定結果から、このケースでは、メタケイ酸リチウムの結晶化(1)が510℃の温度で起こることと、このケースでは、メタケイ酸リチウムの分解と二ケイ酸リチウムの結晶化(2)が730℃の温度で起こることを認識することができる。
【0131】
図4は、500℃での7分間の核形成と、650℃での20分間の1回目の結晶化の後、実施例13をXRDによって相分析した結果を表している。
【0132】
対応するデータは、表Iにまとめられている。
【0133】
【表5】

【0134】
図5は、同じ熱履歴を有する同じ実施例で、表面を1%HFで8秒間エッチングした実施例のSEMによる後方散乱電子像を示している。以前のメタケイ酸リチウム結晶を示す穴がはっきりと見える。
【0135】
得られたブロックは、工程(e)を行える状態であった。この工程(e)は、のこぎりでカッティングするか、又はCAD−CAMミリングマシン(すなわち、CEREC 3(登録商標))でミリングするかのいずれかによって、メタケイ酸リチウムガラスセラミックを所望の形状に成形することを意味する。得られたメタケイ酸リチウムガラスセラミックブランクの機械加工性とエッジ強度について分析した。二軸強度の測定のために、直径12mmのロッドから10枚のディスクを切り取った。これらの分析の結果は、表IVに示されている。さらに10枚のディスクを用意し、3回目の熱処理(f)を施した。
【0136】
ブランクが有色及び蛍光性酸化物を含むケースでは、メタケイ酸塩の状態のブロックは、赤味がかった色又は青味がかった色を有するようである。この効果は、二ケイ酸相が形成されると消え、ブランクは、所望の色に変化する。
【0137】
最後に、メタケイ酸リチウムガラスセラミックブランクに対して、3回目の結晶化(工程(f))を850℃で10分間行った(実施例3は除く。実施例3は、830℃で結晶化させた)。すなわち、一般には、700〜950℃、好ましくは820℃〜880℃の温度で5〜30分間、好ましくは5〜20分間、3回目の熱処理を行って、メタケイ酸リチウムを二ケイ酸リチウムに変換した。
【0138】
得られた生成物の結晶相について分析した。さらに手順を例示するために、500℃で7分間、核生成し、1回目の結晶化を650℃で20分間行い、2回目の結晶化を850℃で10分間行った実施例13の相分析結果が、図6に示されている。対応するデータは、表IIにまとめられている。
【0139】
【表6】

【0140】
図7は、同じ熱履歴を有する同じ実施例で、表面を3%HFで30秒間エッチングして、ガラス相をエッチングで除去し、二ケイ酸リチウム結晶が残った実施例のSEMによる後方散乱電子像を示している。
【0141】
これらのサンプルに対しては、結晶相に関する分析に加えて、二軸強度と化学的耐久性についても分析した。さらに、半透明性も評価した。これらの結果も、表IVに示されている。
【0142】
表IVでは、検出された結晶相は、以下のように表示されている。
LS−メタケイ酸リチウム
LS2−二ケイ酸リチウム
LP−リン酸リチウム
主要相は太字で示されている。
【0143】
機械加工性に関する情報を得るために、Cerec(登録商標)3で試験を行い、試験ごとに新しいツールを使用した。この試験を行ったすべての組成物から、かつ、イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフトのProCAD(登録商標)という名称の白榴石強化ガラスセラミックからミリングしなければならないモデルとして、「Lego(登録商標)−Minicube」を用いた。作業手順は以下の通りであった。まず、ProCAD(登録商標)のブランクをミリングしてから、試験対象のセラミックブランクをミリングし、その後、再びProCAD(登録商標)ブランクをミリングした。試験対象のセラミックブランクをミリングするのに要した時間が、ProCAD(登録商標)ブランクをミリングするのに要した時間の95%未満であった場合に、機械加工性を「非常に良好」とした。セラミックにおける時間が、ProCAD(登録商標)における時間の95〜105%であった場合には、機械加工性を「良好」とし、105〜115%の場合には「許容可能」とし、115%超の場合には「不良」とした。ミリングプロセスに要した時間の中央値は14.0分であった。
【0144】
試験サンプルの機械加工性を別のガラスセラミックと比較するために、独国特許出願公開第19750794号明細書に開示されている組成に従って作製したブランクを用意し、上記の試験を行った。15分経過後に、ミリングすべき体積の約10%しかミリングされておらず、ミリングに用いたツールが既に磨耗していたので、試験を中断した。このようなことは、いずれの試験サンプルにおいても起こらなかった。
【0145】
エッジ強度は、以下のように割り出した。
【0146】
ミリングユニット(CEREC 3(登録商標))を用いて、ブランクをミリングし、Lego−minicubeを得た。1.6mmの円筒型ダイヤモンドカッターを用いて、止まり穴をミリングした。この止まり穴の品質は、破断したエッジの面積をレファレンス(ProCAD(登録商標))のものと比較することによって割り出した。破断したエッジの面積の止まり穴の面積に対する関係性が、エッジ強度の割り当て基準である。
【0147】
この面積の関係性がレファレンスのものより小さい場合、エッジ強度は「非常に良好」とみなし、この関係性がほぼ同じである場合には「良好」とみなし、上記の面積の関係性が、レファレンスの110%超である場合には「許容可能」とみなす。
【0148】
化学的耐久性は、ISO6872に従って、すなわち、80℃にて4%の酢酸中で16時間後経過した後の質量の喪失量として割り出した。
【0149】
「良好」とは、この方法による溶解度が100pg/cm未満であることを意味する。
【0150】
強度は、ISO6872による2軸強度として、又は、EN843−1による3点曲げ強度として測定した。
【0151】
直径12mmの棒を鋳造して、1回結晶化した。これらの棒から、それぞれ厚さが1.2mmである20枚のディスクをのこぎりで切った。続いて、これらのディスクのうちの10枚をスムージングし、粒子サイズが1000番のSiCペーパーを用いて、ディスクの表面を研磨した。ISO6872に開示されているように、2軸強度を測定した。残りの10枚のディスクに対して、800〜900℃で2回目の結晶化を行って、二ケイ酸リチウム相を得た。これらの凝固したサンプルの両側をスムージングし、粒子サイズが1000番のSiCペーパーを用いて、これらの表面を研磨した。続いて、ISO6872に従って2軸強度を測定した。
【0152】
これに対して、曲げ強度は、メタケイ酸リチウムガラスセラミックのブロックから切り出した寸法25×3.5×3.0mmの棒で測定した。これらの棒をスムージングして、寸法が25×2.5×2.0mmの棒を得た後、粒子サイズが1000番のSiCペーパーを用いて、これらを研磨した。また、これらのエッジに、粒子サイズが1000番のSiCペーパーを用いてベベルを付けた。スパンは20mmであった。これらの結果は、2軸強度の結果に相当する。
【0153】
これに加えて、研磨した表面上にビッカース圧子を取り付け、エッジからの傷の寸法を測定すること(押し込み力法(IF))によって、破壊じん性を割り出した。この方法は比較法として有用であるが、絶対値をもたらさない。比較のために、測定は、切り欠き曲げサンプル上で実施した(SENB、SEVNB)。二ケイ酸リチウムガラスセラミックでは、2MPa.m0.5を超える破壊じん性値を得た。
【0154】
表IIには、二ケイ酸相を有するサンプル、すなわち、2回結晶化させたサンプルの2軸強度と破壊じん性の値が示されている。これに加えて、二ケイ酸系の2軸強度のメタケイ酸系の2軸強度に対する比率(2軸凝固係数、すなわち強度向上係数)、又は、二ケイ酸系の破壊じん性のメタケイ酸系の破壊じん性に対する比率(凝固係数KIC、すなわち、破壊じん性向上係数)を示す値が示されている。
【0155】
2回目の結晶化の後に半透明性を割り出した。直径16mm、厚さ2mmの試験片を用意し、その両側を研磨した。BS5612(英国規格)に従って、分光測色機(Minolta CM−3700d)を使用して、コントラスト値(CR)を割り出した。コントラスト値を割り出す作業は、2つの単一の測定から構成されていた。すなわち、反射率が4%以下の黒色セラミック体の前に、分析する試験片を置いて測色機で測定すると共に、反射率が86%以上の白色セラミック体の前に試験片を置いて測色機で測定した。透明性の高い試験片を用いると、反射/吸収は、主にセラミックのバックグラウンドによって起こり、その一方で、不透明な材料を用いた場合には、反射は試験片によって起こる。黒いバックグラウンド上で反射された光の白いバックグラウンド上で反射された光に対する比率が、コントラスト値の量子化値であり、完全に半透明性だとコントラスト値は0になり、完全に不透明だとコントラスト値は1になる。サンプルは、以下のように格付けした。
優: CR<0.4
非常に良好: 0.4<CR<0.5
良好: 0.5<CR<0.6
許容可能: 0.6<CR<0.8
不透明: 0.8<CR
【0156】
【表7−1】

【0157】
【表7−2】

【0158】
【表8−1】

【0159】
【表8−2】

【0160】
表IIのデータによって、メタケイ酸リチウムガラスセラミックは、非常に良好な機械加工性と高いエッジ強度を兼ね備えており、単純な熱処理によって、曲げ強度が高く、化学的耐久性に優れ、半透明性も良好な二ケイ酸リチウムガラスセラミックに簡単に変換することができ、二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、これらのすべての特性によって、歯科用修復物の製造に有用な材料として非常に魅力的なものになることが示されている。
【0161】
下記では、いくつかの実施例についてさらに詳細に説明する。
【0162】
実施例1
当該ガラスを1500℃の温度で3時間融解させてから、300℃に予熱したスチールモールドに注入した。1分後、このガラス棒を冷却炉に移し、500℃で10分間焼き戻してから、室温まで冷却した。
【0163】
このガラスは均質かつ透明であった。
【0164】
続いて、このガラス棒に対して、1回目の結晶化を650℃で20分間行った。
【0165】
このようにセラミック化した棒から、ディスクを丸いバーから切り出し、2軸強度を測定した。XRD(X線回折)によって、相の内容を分析した。メタケイ酸リチウムが、検出された唯一の相であった。2軸強度は119+/−25MPaであった。
【0166】
試験体のミリング時間も測定した。試験体のミリング時間は、レファレンスとして用いたProCAD(登録商標)よりも1分短かった。
【0167】
エッジ強度は良好であった。
【0168】
さらに10個のディスクに対して、2回目の結晶化を850℃で10分間行い、2軸強度と破壊じん性を測定した。
【0169】
二軸強度は、359+/−117MPaであった。この値は、3.0という強度向上係数と相関している。
【0170】
破壊じん性(IF)は1.6MPa.m0.5であった。
【0171】
半透明性は非常に良好であった。
【0172】
ISO6872(4%酢酸、80℃、16時間)による化学的安定性は、37pg/cmであった。
【0173】
実施例6
実施例1に従ってガラス棒を作製した。この場合も、ガラスは均質かつ透明であった。
【0174】
1回目の結晶化を650℃で20分間行った。
【0175】
メタケイ酸リチウムが主要相であることと共に、微量の二ケイ酸リチウムが存在することが明らかになった。2軸強度は135+/−24MPaであった。
【0176】
実施例6でも試験体のミリング時間を測定した。試験体のミリング時間は、レファレンスとして用いたProCAD(登録商標)(参照として使用した)よりも1分短かった。
【0177】
エッジ強度は良好であった。
【0178】
実施例1に従って2回目の結晶化を行った後の2軸強度は472+/−85MPaであった。この値は、3.5という強度向上係数と相関している。
【0179】
破壊じん性(IF)は2.3MPa.m0.5であった。
【0180】
半透明性は優であった。
【0181】
実施例9
実施例1に従ってガラス棒を作製した。この場合もガラスは均質かつ透明であった。
【0182】
1回目の結晶化を650℃で20分間行った。
【0183】
メタケイ酸リチウムが唯一の相であることが明らかになった。2軸強度は112+/−13MPaであった。
【0184】
実施例9でも試験体のミリング時間を測定した。試験体のミリング時間は、レファレンスとして用いたProCAD(登録商標)よりも1分短かった。
【0185】
エッジ強度は良好であった。
【0186】
実施例1に従って2回目の結晶化を行った後の2軸強度は356+/−96MPaであった。この値は、3.16という強度向上係数と相関している。
【0187】
破壊じん性(IF)は1.9MPa.m0.5であった。
【0188】
半透明性は許容可能であった。
【0189】
実施例20(比較例)
実施例1に従ってガラス棒を作製した。この場合もガラスは均質かつ透明であった。
【0190】
1回目の結晶化を650℃で20分間行った。
【0191】
二ケイ酸リチウムが主要相であることが明らかになったと共に、メタケイ酸リチウムがほんのわずかに存在していた。2軸強度は194+/−35MPaであった。
【0192】
実施例20でも試験体のミリング時間を測定した。試験体のミリング時間は、レファレンスとして用いたProCAD(登録商標)よりも4分長かった。
【0193】
エッジ強度は不良であった。
【0194】
実施例1に従って2回目の結晶化を行った後の2軸強度は405+/−80MPaであった。この値は、2.09という強度向上係数と相関している。
【0195】
破壊じん性(IF)は1.88MPa.m0.5であった。
【0196】
半透明性は非常に良好であった。
【0197】
この実施例によって、本発明によるガラスセラミック材料と比べて、従来技術の材料は、その機械加工性に関わる不利益な特性のせいで、上記のような用途での使用に不向きであることがさらに明らかになる。
【0198】
下記の実施例21〜23には、メタケイ酸リチウムの形成、及びその後の二ケイ酸リチウムガラスセラミックの形成に適した核を含む本発明によるケイ酸リチウムガラスの有用性が示されている。
【0199】
実施例21
実施例14による組成を有するガラス溶解物を白金の入ったルツボ内で、1500℃の温度で3時間かけて融解させた。このガラスは、スチールモールドには注入せずに、水で焼入れした。
【0200】
この結果、ガラス顆粒物が形成され、この顆粒物を乾燥してから、500℃まで30分間加熱し、メタケイ酸リチウム結晶の形成に適した核を生成させた。得られたガラスを粒度45pm未満までミリングした。
【0201】
得られた粉末を、95%超の水と、成形性を改善するための添加剤とからなるモデリング液と混合し、緻密に焼結した酸化ジルコニウム、例えばDCS−ジルコンのクラウンキャップ上に層化した。
【0202】
このクラウンキャップを歯科用の炉内で、900℃の温度にて2分間の保持時間で焼成した。この手順によって、結晶化のための核を含む塗布用ガラス粉末を同時に結晶化させ、緻密に焼結して、二ケイ酸リチウムガラスセラミックの象牙質コアが得られるようにした。このコア上に、好適な膨張係数を有する好適な切縁塊を塗布した。
【0203】
この最終的な前歯部修復物は、最大で160℃の急速な温度変化に対する耐性が良好であった。これは、二ケイ酸リチウムガラスセラミックの象牙質層と高強度の酸化ジルコニウムのフレームワークとの間の結合が良好なことを立証している。
【0204】
実施例22
実施例14による組成を有するガラスの棒を、実施例1と同様の方式で作製した。このガラス棒は均質かつ透明であり、淡い黄色をしていた。緻密に焼結した酸化ジルコニウムのクラウンキャップを環状に縮径させた。続いて、象牙質コアを歯科用ワックスと共に層化し、クラウンマージンを残根上にモデリングした。この修復物にキャストオンチャネルを取り付けた。このクラウンキャップをマッフルベース上に塗布し、埋没材(Empress Speed、イボクラール)に埋め込んだ。必要なバインディング時間の経過後に、マッフルを850℃に予熱し、それによってワックスを除去した。90分後、メタケイ酸リチウムを形成するための核を有する上記ケイ酸リチウムガラスのブランクをマッフルの中に入れ、900℃での既知のEmpress−ホットプレスプロセスに従って、酸化ジルコニウムのキャップの上にプレスした。この結果、ガラスブランクが結晶化して二ケイ酸リチウムガラスセラミックが得られた。
【0205】
研磨後、最終生成物は、二ケイ酸リチウムガラスセラミックの象牙質層を有する酸化ジルコニウムキャップであった。この歯科用修復物は、モデル上の環状縁部に非常によくフィットした。さらに、このように調製した象牙質層には穴がなかった。
【0206】
実施例23
膨張係数が12.8×10−6 1/Kで、凝固温度が11000℃の合金の金属カップを鋳造プロセスで調製し、サンドブラストし、さらなる加工のために、酸化・焼成工程によって調製した。
【0207】
実施例22と同様の方式で、モデリングワックスを使用して、象牙質コアをキャップ上に塗布した。金属キャップを埋め込み、炉内で燃成することによってワックスを除去した。実施例22と同様に、好適な核を有するケイ酸リチウムガラスブランクを900℃で金属キャップ上にホットプレスした。
【0208】
このように調製した歯科用修復物では、金属フレームワークと二ケイ酸リチウムガラスセラミックとの間の結合が良好であったと共に、160℃超の急激な温度変化に対する耐性も高かった。
【0209】
本発明の更なる実施形態は、ケイ酸リチウムブランクと、少なくとも4軸又は5軸以上のCNCマシンを用いて、頑丈かつ審美的な歯科用修復物を大量生産する方法を提供することである。さらに具体的には、この実施形態は、ロボットによる自動ローディング機構を備える5軸以上のコンピューター数値制御(CNC)マシンを用いて、ケイ酸リチウムブランクを機械加工するのに特に有用なミリング法に関する。このCNCマシンは、コンピューター(CPU)、CNCコントロールユニット、記憶装置、及び/又はソフトウェアパッケージを備えることができる。
【0210】
上記の実施例では、CEREC(ドイツのシロナ)及びDCS Precimill(スイスのDCS)というCAD/CAMシステムを用いて、本発明のケイ酸リチウムブランクを機械加工することについて説明されている。シロナのCEREC inLabは、機械加工可能なさまざまなセラミック及び他の適度に脆弱かつ柔らかい材料をミリングできるコンパクトな卓上型歯科用CAD/CAMシステムの代表格であるが、DCS PrecimillはCERECよりも大型かつ高価なマシンである。DCS Precimillマシンは、チタン合金及びフルデンスジルコニアのように、CERECよりも強度が高く硬度も高い材料をミリングすることができる。いずれのマシンも、歯科分野の実験環境に合った歯科用CAD/CAMシステムとして特別に開発されてきたものであり、それぞれ独自のミリング法とツール経路が採用されているが、これらには、二ケイ酸リチウムブランクをミリングする目的で使用するには、多くの欠点がある。
【0211】
所与のCAD/CAMシステムにおける単位当たりの合計製作時間が、少なくともミリング時間と設定時間(すなわち、新たなブロックをインストールし、新たなケース/ファイルをローディングすることを含め、新しいケースごとにマシンとソフトウェアのコンフィギュレーションを設定する時間)からなることを認識するのが重要である。CEREC inLabは、2つのグラインディングツール(ダイヤモンドバー)を同時に利用するので、1つのブロックを1度にミリングするのに非常に効率的なシステムである。歯科用修復物の内面を段付きの円筒型ダイヤモンドバー又は円錐状(テーパー)ダイヤモンドバーで機械加工するのと同時に、外面を丸い先端の円筒型ダイヤモンドバーで機械加工する。この結果、標準的なフルカントゥア大臼歯(イボクラール・ビバデントのモデル番号594148の30番の歯のように、一般的なデザインの平均サイズのフルカントゥア大臼歯クラウンとして定義してよい)をミリングするのにかかる時間は25分であり、又は、新しいCEREC MC XLというマシンでは、これよりもさらに短く約20分である。しかしその一方で、手動によるブランクの取り付けとソフトウェアの用意の工程に、少なくとも数分を要し、単位当たりの合計製作時間が約25〜30分まで著しく延長する。シロナのシステムでは、グリットサイズ又は粒度が60マイクロメートル未満である非常に小さいダイヤモンドバーが使われていることに留意することも重要である。得られる2軸強度は300MPa超である。DCSのシステムは、これよりも大型のマシンであり、ケイ酸リチウムブランクに最適なミリング法とツール経路が欠けていると共に、ロボットによる自動ローディング機構も備えていないので、ケイ酸リチウム修復物をミリングするのに使用した場合には、不都合なことに、単位当たりの時間が長くなる。この結果、単位当たり製作時間の短縮と自動化のためのシステム容量を必要とするミリングセンター及びセントラル加工施設環境にとっては、いずれのマシンも最適なものではない。
【0212】
グラインディングツールは、特定の粒度(グリットサイズ)の単結晶又は多結晶ダイヤモンドを含むダイヤモンドコーティングを備えてもよい。グラインディングツールは、特定のグリットサイズのダイヤモンドコーティングを備えてもよい。グラインディングツールの仕事率(すなわち、所与の負荷力及び切り込み深さにおける材料除去速度)は、ダイヤモンドコーティングの粒度から、ダイヤモンド粒子がボンディング層に埋め込まれている深さを差し引いた値に比例する。これは、Dmitri Wiebe、lsabella Maria Zyllaによる”Assessment of the Grinding Power and Service Life of Galvanically Diamond Coated Grinding Tools”.Journal of Applied Research,Vol.7,No.1.,March 2007,pp138−145.という論文で論じられており、この論文は参照することにより本明細書に組み込まれる。切り込み深さ(横方向ライニングと呼ばれる場合もある)は、ツールが1回の通過でワークピースに入り込む距離であり、ツールのダイヤモンド粒度分布に左右される場合が多く、この分布は、ダイヤモンドのグリットサイズ(単位:マイクロメートル)によって特徴付けられる場合がある。また、埋め込まれたダイヤモンド粒子の粗さが大きく、サイズが一様で、かつ、コーティングでの分布が均一なほど、切り込み深さが増大し、かつデブリを除去しやすくできる場合もある。
【0213】
グラインディング/ミリングツールのダイヤモンドのグリットサイズが粗いほど、送り速度の向上と切り込み深さの増大が可能になり、その結果、材料除去速度が向上し、ミリング時間が短縮する。残念なことに、表面ダメージ、すなわち表面傷の寸法も増大し、この結果、強度が低下する。したがって、ミリング時間と、臨床的適応に基づく、材料の最低限許容できる目標強度(すなわち、ミリングしたケイ酸リチウム製歯科用物品を熱処理することによって製作した二ケイ酸リチウム修復物(固定性補綴物)で、ISO6872:2008によるタイプIIクラス3及び4の歯科用セラミックに属する修復物では300MPa以上)との間で妥協する必要がある。このジレンマは、従来技術のミリング法とツール経路を用いる既存の歯科用CAD/CAMを採用しているミリングセンターの生産性を大きく制限する。
【0214】
本発明の実施形態では、ミリングしたケイ酸リチウム材の最終強度を弱める必要性なしに、粗いダイヤモンドミリングツールを使用できるようにするミリング法、すなわち、ミリング時間を短縮できるミリング法が教示されている。歯科用セラミックブランクをミリングするのに使用できるダイヤモンドグリットの許容サイズを割り出すためには、機械加工する材料の許容表面臨界傷及び許容ボリューム臨界傷の寸法を割り出さなければならない。
【0215】
本明細書の方法を用いて歯科用物品をミリングするのに好ましい材料の一例は、ケイ酸リチウムである。表IVに示されている最終的な曲げ強度と破壊じん性、及び、それぞれの強度係数とじん性係数を用いて、1回目の結晶化の後(後の熱処理又は結晶化工程前のミリング又は機械加工用ケイ酸リチウム材の「機械加工可能状態」ともいう)の実施例1〜20のケイ酸リチウム材の強度と破壊じん性を算出した。表Vに、「機械加工可能状態」の実施例1〜20のケイ酸リチウム材の曲げ強度と破壊じん性の算出値が示されており、これらは、表IVに示されている、最終的な強度と破壊じん性(2回目の結晶化後)、及び、強度/破壊じん性向上係数に関するデータに対応している。
【0216】
【表9】

【0217】
続いて、機械加工可能状態(すなわち、2回目の結晶化工程前)のケイ酸リチウム材の曲げ強度と破壊じん性を用いて、グリフィス−アーウィンの方程式(下記の方程式1)によって表面臨界傷寸法とボリューム臨界傷寸法を算出した。
【0218】
IC=Yδ1/2{方程式1}
又は
C=(KIC/Yδ{方程式2}
又は
δ=KIC/(Yc1/2){方程式3}
式中、Cは、表面割れ(表面破損の原因)の臨界傷寸法の長さである。
2Cは、ボリューム割れ(ボリューム破損の原因)の臨界傷寸法の長さである。
ICは、破壊じん性、すなわち臨界応力拡大係数である。
δは、破壊時の応力、すなわち曲げ強度である。
Yは、幾何学的係数、すなわち、臨界傷の種類、すなわち、臨界傷の位置、配向、及び幾何形状と、負荷形状に左右される定数であり、Yは、純モードI破壊(平面的ひずみの負荷形状)では1に、半円的な形状の場合には1.24に、浅い割れの場合には1.94にほぼ等しいと考えられる。Y=1が最大臨界傷寸法である。
【0219】
グリフィス−アーウィンの方程式は、Alvaro Della Bona、John J.Mecholsky Jr.、Kenneth J.Anusaviceによる“Fracture behavior of lithia disilicate− and leucite−based ceramics” Dental Materials(2004)20,pp956−962という論文で論じられており、この論文は参照することにより本明細書に組み込まれる。Della Bonaらによる上記の論文に示されている幾何学的係数によって、曲げ強度の値を用いて、既知の破壊じん性値に基づき、さまざまな割れ形状の臨界傷寸法を算出できるようになる。上記の方程式3によれば、幾何学的係数(Y)が大きいほど、この特定の傷/負荷形状の危険性が大きくなり、強度も制限され、その結果、最終的な曲げ強度値が低下し、又はさらには、ミリング中に当該部分が破損する。
【0220】
表VIには、表Vの曲げ強度と破壊じん性の値、及び、幾何学的係数(Y)から、上記の方程式(方程式1)を用いて算出した表面臨界傷寸法とボリューム臨界傷寸法が示されている。
【0221】
【表10】

【0222】
図8を参照すると、ダイヤモンドグラインディングツール82によるミリングプロセスを行っている最中である材料80のブロックが示されている。ダイヤモンドツール82は、ツール82に埋め込まれた複数のダイヤモンド粒子86を有する。図8は、最適な切り込み深さと、ひっかき傷/表面傷寸法に対する、ダイヤモンド粒度又はダイヤモンドグリットと、ダイヤモンド粒子がボンディング層に埋め込まれている深さの関係性を示している。ブロック80は、1層ずつミリングされており、切り込み深さ84(横方向ライニングとしても知られる)は、除去された層の厚み、及び/又は、ツールが、ブロック80からデブリ87を除去するために通過するたびに、ブロックに入り込む距離である。除去する層の厚みには制限はないが、1回の通過時に除去される層の厚み(横方向ライニング)、すなわち切り込み深さは、約10〜約130マイクロメートルの範囲、好ましくは約20〜約100マイクロメートルの範囲のダイヤモンド粒度(グリットサイズ)よりも小さいのが好ましい。ブロック80には、傷89が示されている。ツール82によるミリングに起因する、ブロック上の傷又はひっかき傷80は、ツール82のボンディング層のダイヤモンド粒子の分布、サイズ、形状、配向、又は、埋め込み深さの可変性と相関している場合がある。グラインディングツールによって、機械加工済みの表面上に残ったひっかき傷、溝、及びその他の傷は、ダイヤモンドグリットサイズ、又は、ツール82に埋め込まれたダイヤモンド粒子86のサイズと共に進行する可能性がある。すなわち、ミリング又は製作後の作業中に、潜在的に歯科用物品の破損をもたらし得る最も深い傷の寸法(すなわち臨界傷)は、ダイヤモンドのグリットサイズ(単位:マイクロメートル)の少なくとも数分の1であり、あるいは、最悪のケースでは、ダイヤモンドのグリットサイズとほぼ等しいこともある。
【0223】
従来の見識では、上で参照したWiebeらによっても論じされているように、テイパーツールのグラインディング力は一般に、円筒型ツールよりも小さいことが教示されている。また、従来の見識では、ダイヤモンドのグリットサイズ(図8及び上記の論議を参照)は、最大臨界表面傷寸法の推定値を上回ってはならないことも教示されている。ケイ酸リチウムにおいては、表VIのデータに基づくと、この値は、ケイ酸リチウムにおいては約60マイクロメートルとなり、Y=1のときの臨界表面傷寸法に関して表VIに示されている値の平均である。上記のシロナのCERECマシン用のダイヤモンドツールの選択は、この従来の見識に基づいているようである。
【0224】
驚くべきことに、好ましくは5軸以上のミリングマシンと共に使用するように設計された特定のミリング法と、特定の形状のテイパーダイヤモンドツールを組み合わせると、もっと粗い(1.5〜2.5倍)ダイヤモンドグリットを使用できるようになることを本発明者は発見した。本発明のミリング法とプロセスでは、ダイヤモンドツール上のダイヤモンド粒子のサイズ(グリットサイズ)は、最大臨界表面傷寸法の推定値と、最大臨界ボリューム傷寸法の推定値との間の範囲であってよい。これによって、強度に関して大きな妥協をしなくても、ミリングプロセスが劇的に速まる。表VIを参照すると、ケイ酸リチウムセラミックの最大臨界表面傷寸法の推定値は約60マイクロメートルであり(表VIの6列目。Y=1)、最大臨界ボリューム傷寸法の推定値は約130である(表VIの9列目。Y=1)。したがって、ダイヤモンド粒子のサイズは、ケイ酸リチウムセラミックブロック用のダイヤモンドグラインディングツールに関しては約40〜約175マイクロメートルの範囲、好ましくは約60〜約150マイクロメートルの範囲、最も好ましくは約90〜約130マイクロメートルの範囲であってよい。本明細書に記載されている方法は、いかなる場合も、ケイ酸リチウム材には限定されず、あらゆるタイプのセラミック材、好ましくは医療用セラミック材、最も好ましくは歯科用セラミック材に適用してよい。
【0225】
図9、10、及び11に示されているように、ダイヤモンドバーの形状は円錐状で、先端が丸い(テーパー付きの丸型)のが好ましい。これに対して、CERECシステムで用いられるシロナのツールは、図12及び13に示されている。本発明で用いられるツール(図9、10、及び11)をシロナのCERECシステムで用いられるツール(図12及び13)を比較すると、本発明で用いられるツールのダイヤモンドグリットの方がかなり大きく、実質的に等軸であることを見ることができる。例えば、図9では、ダイヤモンド粒子100はほぼ完全な六角形である。
【0226】
図14A、B、及びC、図15A、B、及びC、並びに図16A、B及びCは、本発明で用いられるツールの具体的な構成と寸法の例を示している。本発明の実施形態は、本明細書に示されているサイズと形状に限らない。図14A、B、及びCは、当該物品の内部又は内側をミリングするのに有用なツール140の例を示している。ツール140のダイヤモンドグリット(粒度)は、約126マイクロメートルである。図15A、B、及びCは、当該物品の外部又は外側をミリングするのに有用なツール150を示している。ツール150のダイヤモンドグリット(粒度)は、約91マイクロメートルである。図16A、B、及びCは、当該物品のミリングを仕上げるのに有用なツール160を示している。ツール160のダイヤモンドグリットは直径約91マイクロメートルである。さらに、ツール160の先端は、図14に示されているツール(先端は約1.3mm)及び図15に示されているツール(先端は約1.2mm)よりも鋭く、その先端は直径約0.5mmである。これらのツールは、ミリングプロセス中に当該物品の精度と辺縁完全性を保つのに有用である。
【0227】
ツールのサイズとダイヤモンドグリットのサイズに加えて、ミリング法は、精巧な機械加工工程と、中間の機械加工工程と、粗い機械加工工程を含む。粗いミリングと、中間のミリングと、精巧なミリングは、さまざまな要因に左右される場合があり、この要因としては、ツールの仕様、毎分回転数、線速度、送り速度(mm/分)、1回転当たりの送り量(マイクロメートル)、切り込み深さ、及び材料除去速度が挙げられるが、これらに限らない。
【0228】
本明細書で論じられているミリング法は、重工業用CNCマシンのロボット機構(「6軸」)と組み合わせて、このような生産性の高い(かつ高価な)工業用CNCマシンを費用効率の高い形で使用できるようにしてよい。これらのマシンには、ロボットによる自動ローディング機構が備わっており、このような機構は、これまでは歯科用としてはコスト的に手が出せないものであった。
【0229】
本発明の実施形態のミリング法とミリングパラメーターの具体的な実例は、Roeders(Roeders)という5軸CNCマシン(ドイツのレーダース社)を用いて実施した下記の非限定例に示されている。42,000RPMのRXP 500 DSと、50,000RPMのRXD5という2つのRoedersモデルを用いた。これらのRoeders5軸CNCマシンは、最高で40,000mm/分の送り速度が可能な超高速コントロールユニットと、自動化のための高い容量を特徴とする。ミリングプロセスの実際の送り速度は、マシン、ツーリング、及びミリングする材料に左右される点に言及しておく必要がある。通常、5軸ミリングでは、CNCコントロールユニットは、一定速度のためのxyz点を算出できない。表面が非常に複雑な場合(完全な解剖的クラウン)には、マシンは常に、定められた速度を維持できるとは限らない。Roedersは、超高速CNCコントロールユニットを有するが、それでも常に速度が一定であるわけではない。コントロールユニットとモーターは、精度とミリング時間に大きな相違をもたらす。コンピューター、CNCコントロールユニット、記憶装置、及びソフトウェアパッケージに加えて、下記の表VIIに、追加のシステム特性の一覧を示す。
【0230】
【表11】

【0231】
下記の実施例では、歯科用修復物の自動製作のための歯科用CADシステムと統合されたCNCマシン(歯科用CAD/CAMシステムとして知られている)を用いて、ケイ酸リチウムブランクをミリングすることに関する本発明の実施形態が例示されている。
【0232】
実施例24及び25
ミリングする形状をブランクの上にマッピングして、除去する体積を定め、異なる精度及び表面粗さを要する領域にその体積を分けた。粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程のうちの1つ以上に、これらの領域を割り当てた。割り当てた機械加工工程のそれぞれに対して、具体的なツール経路を算出した。デルキャム(英国バーミンガム)のDentMILL−3−5 Axis Dental CAMというソフトウェアを用いて、CAMファイルを作成した。このソフトウェアには、ジルコニア、チタン、及び非貴合金をミリングするのに利用可能なテンプレートがいくつかあるが、ケイ酸リチウム又はその他のいずれかのガラスセラミック用のテンプレートはない。このため、上記の原則に基づいて、カスタムテンプレートをコンフィギュレーションした。これらの実施例で用いたマシンは、42,000RPMが可能なRoeders RXP500 DSというモデルと、50,000RPMが可能なRoeders RXD5というモデルであった。実施例24でミリングした歯科用物品はセントラルクラウンで、ミリングには、9個の機械加工工程が含まれていた。実施例25は大臼歯クラウンで、ミリングには、8個の機械加工工程が含まれていた。下記の表VIII及びIXには、機械加工工程とそれらの必須の特徴が示されている。
【0233】
【表12】

【0234】
【表13】

【0235】
示した実施例では、プレパレーションラインの辺縁の目標精度が非常に高く、25マイクロメートル以内であった。したがって、第6及び第7の2つの機械加工工程を内部で行って、プレパレーションラインにおいてさらに高い精度をもたらした。切り込み深さ(横方向ライニング)は、上記の2つの実施例においては、約0.022mm(22マイクロメートル)〜約0.10mm(100マイクロメートル)の範囲であった。精度を定量化するために、ミリングした部分を、精度が3マイクロメートルのRenishaw Cyclon Scannerでスキャンし、Geomagic(登録商標)QUALIFYというソフトウェアを用いて、スキャン結果を、STL形式の対応するCADファイルと比較した。精度(標準偏差)の測定結果は0.022mm(22マイクロメートル)であった。
【0236】
実施例26
実施例26では、「6軸」CNCマシン、又は、5軸CNCマシンに取り付けられたローディングロボットを用いることが例示されている。材料の種類、シェード、強度、及び材料に関する有用なその他の情報といったミルブロックに関する情報を提供するための高周波識別(RFID)タグのようなトランスポンダーを有するパレットに、ブランク又はブロックホルダー22を取り付ける。ミリングマシン上のセンサーが、RFIDタグを読み取り、ミリング作業前にパレット上の材料を割り出す。ミリングマシンにリンクされているデータベースが、特定のCAMファイルを材料ブロックに関連付け、マシンは、そのCAMファイルに従ってブロックをミリングする。ミルブロックを有するパレットが、自動ローディングシステムのシェルフ上に配置され、関連付けられたCAMファイルが、実行のためにジョブキュー内に現れると、このシェルフから、パレットがCNCマシンのハウジングに自動的に移される。このような自動ローディングシステムは、百弱から数百、さらには数千のユニットを有することができる。このロボット機構は「6軸」と呼ばれる場合がある。
【0237】
ホルダーとパレットに新たなブロックを追加したら、その材料ブロックの特性に関する情報をオペレーターが、バーコードタイプスキャナーを用いて入力してもよい。RFIDタグをスキャンし、コントロールパネルをプログラミングして、以前の材料ブロックに関連付けられた以前の情報を消去する。続いて、新たな材料情報をコントロールパネルに入力する。データベースは、パレット上の材料ブロックに関する情報を格納する。新たなケースをミリングする準備ができたら、パレット上のブロックに関連付けられたCAMファイルを用いて、適宜にブロックをミリングする。このような自動ローディング/ロボットシステムは、大規模な工業用CNCマシンのみで利用可能であるが、単位当たりの製作時間を大幅に短縮する。
【0238】
本発明について、本発明の好ましい実施形態と関連させて説明してきたが、添付の特許請求の範囲に定義されているような本発明の趣旨及び範囲から逸脱しなければ、具体的に記載されていない追加、削除、修正、及び置換を行ってよいことは当業者には明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用セラミックブランクを機械加工する時間を短縮する方法であって、その歯科用セラミック材の破壊じん性(KIC)と曲げ強度(δ)が既知であり、
− 下記の式を用いて、該歯科用セラミックの最大表面臨界傷寸法の推定値と、最大臨界ボリューム傷寸法の推定値を算出する工程と、
c=(KIC/δ
(式中、cは最大表面臨界傷寸法であり、2cが最大ボリューム臨界傷寸法である)
− 一連のダイヤモンドツールを用いて機械加工法を行う工程で、該ダイヤモンドツールが、埋め込まれたダイヤモンドを備える工程と、
を含み、
− 該機械加工法が、粗い機械加工工程と、中間の機械加工工程と、精巧な機械加工工程とを含み、
− この各工程が、ツール経路と機械加工パラメーターを含み、
− 該ツール経路及び機械加工パラメーターが、該一連のダイヤモンドツールの少なくとも1つによって実行され、
− 該埋め込まれたダイヤモンドの粒度が、表面臨界傷の最大寸法推定値前後よりも大きく、ボリューム臨界傷の最大寸法推定値前後よりも小さい方法。
【請求項2】
5軸以上のコンピューター数値制御(CNC)マシンで前記機械加工を行うことを特徴とし、該CNCマシンが、コンピューター(CPU)、CNCコントロールユニット、記憶装置、及び/又はソフトウェアパッケージを備え、前記機械加工が、グラインディング、ドリリング、ミリング、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
強度が約80〜約180MPaの範囲であると共に、破壊じん性が約0.7〜約1.3MPa.m0.5であるケイ酸リチウムを前記歯科用セラミックブランクが含むことと、前記埋め込まれたダイヤモンドの粒度が約60〜約150マイクロメートル、好ましくは約90〜約130マイクロメートルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記機械加工パラメーターが、ツールの仕様、毎分回転数、線速度、送り速度、1回転当たりの送り量、切り込み深さ、及び材料除去速度を含むことを特徴とし、該切り込み深さが、前記埋め込まれたダイヤモンドの粒度よりも小さく、該1回転当たりの送り量が、該切り込み深さよりも小さく、該切り込み深さが、前記精巧な機械加工における表面臨界傷寸法の推定最大値よりも小さく、前記粗い機械加工における表面臨界傷寸法の推定最大値よりも大きい、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記一連のツールが、異なるサイズのダイヤモンド粒子を有する、先端の丸い円錐ダイヤモンドツールを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記の粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程が、前記埋め込まれたダイヤモンドの粒度に左右され、前記歯科用セラミックブランクを機械加工して、ある正味形状を有する歯科用物品にし、前記の粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程が、前記歯科用セラミックブランクと、該歯科用物品の機械加工済みの正味形状との体積差にさらに左右されると共に、該機械加工済みの正味形状の最終的な粗さと精度によってさらに決まることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
強度、精度、及び辺縁完全性を保ったままで、前記一連のダイヤモンドの選択と、前記機械加工工程によって、機械加工時間を短縮し、前記機械加工をコンピューター数値制御(CNC)マシンで行い、機械加工後に、該CNCマシンを用いて精度を測定し、該精度が25マイクロメートル以内であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
歯科用セラミックブランクを歯科用物品に機械加工するための機械加工法であって、その歯科用セラミック材の破壊じん性(KIC)と曲げ強度(δ)が既知であり、
− 下記の式を用いて、該歯科用セラミックの最大表面臨界傷寸法の推定値と、最大臨界ボリューム傷寸法の推定値を算出する工程と、
c=(KIC/δ
(式中、cは最大表面臨界傷寸法であり、2cが最大ボリューム臨界傷寸法である)
− 該歯科用セラミックブランクを歯科用物品にミリングするのに必要な機械加工工程の数を割り出す工程で、各機械加工工程が、粗い機械加工、中間の機械加工、及び/又は精巧な機械加工、少なくとも1つのツール経路、並びに、機械加工パラメーターを含む工程と、
− 各機械加工のために、一連のダイヤモンドツールの少なくとも1つを用いる工程で、該ダイヤモンドツールが、埋め込まれたダイヤモンドを備える工程と、
を含み、
− 該埋め込まれたダイヤモンドの粒度が、表面臨界傷の最大寸法推定値前後よりも大きく、ボリューム臨界傷の最大寸法推定値前後よりも小さい方法。
【請求項9】
前記歯科用物品が、内面、外面、及びプレパレーションラインを含むことを特徴とし、前記機械加工工程が、セラミックブランクの内側をドリリングすること、セラミックブランクの内側をミリングすること、セラミックブランクの内側のプレパレーションラインをミリングすること、セラミックブランクの外側のプレパレーションラインをミリングすること、セラミックブランクの外側をドリリングすること、及びセラミックブランクの外側をミリングすることのうちの1つ以上を含み、前記ツールの直径が約0.5mm〜約3.0mmの範囲であり、前記埋め込まれたダイヤモンドの粒度が約60マイクロメートル〜約150マイクロメートル、好ましくは約90マイクロメートル〜約130マイクロメートルの範囲である、請求項8に記載の機械加工法。
【請求項10】
前記機械加工パラメーターが、ツールの仕様、毎分回転数、線速度、送り速度、1回転当たりの送り量、切り込み深さ、及び材料除去速度を含むことを特徴とし、該送り速度が、約500mm/分〜約5000mm/分の範囲であり、該切り込み深さが、約10マイクロメートル〜約130マイクロメートルの範囲である、請求項8に記載の機械加工法。
【請求項11】
強度が約80〜約180MPaの範囲であると共に、破壊じん性が約0.7〜約1.3MPa.m0.5の範囲であるケイ酸リチウムを前記歯科用セラミックブランクが含むことを特徴とし、該強度が、約90〜約150MPaの範囲である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の機械加工法。
【請求項12】
第1のコンピューターファイルが、前記歯科用物品の仕様を含むことを特徴とし、該第1のコンピューターファイル内の該仕様から、前記ツール経路を割り出し、前記歯科用物品が、インレー、アンレー、オーバーレイ、ブリッジ、アバットメント、前装、ベニア、ファセット、クラウン、部分クラウン、フレームワーク、又はコーピングを含み、前記歯科用セラミックブランクが、幾何形状と材料特性を含み、該第1のコンピューターファイルの該仕様を、前記歯科用セラミックブランクの該幾何形状及び材料特性と比較する、請求項8〜11のいずれか一項に記載の機械加工法。
【請求項13】
前記第1のコンピューターファイルの前記仕様を前記歯科用セラミックブランク上にマッピングして、除去する材料の体積を割り出し、さまざまな程度の精度及び表面粗さを含む領域に、該除去する材料の体積を分けることをさらに含むことを特徴とし、粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び/又は精巧な機械加工工程によって該領域を機械加工し、該粗い機械加工工程、中間の機械加工工程、及び精巧な機械加工工程のそれぞれが、少なくとも1つのツール経路、機械加工パラメーター、及びツール選択を含み、該ツール経路を算出して、第2のコンピューターファイル内の一連のコマンドに変換し、該第2のコンピューターファイル、機械加工パラメーター、及びツール選択をミリングマシンに供給する、請求項12に記載の機械加工法。
【請求項14】
強度及び/又は破壊じん性を向上させる目的で、機械加工後に熱処理できるセラミックを前記セラミックブランクが含むことを特徴とし、その向上した強度が約250MPa以上であり、その向上した破壊じん性が約1.5MPa.m0.5以上である、請求項8〜13のいずれか一項に記載の機械加工法。
【請求項15】
前記歯科用セラミックブランクが、SiO、LiO、及びPを含むことを特徴とし、前記歯科用セラミックブランクが、KO、Al、ZnO、NaO、ZrO、MeIIO、及び有色/蛍光金属酸化物のうちの1つ以上をさらに含み、該MeIIOが、CaO、BaO、SrO、MgO、又はこれらの混合物を含み、該有色/蛍光金属酸化物が、Ta、Tb、Y、La、Er、Pr、Ce、Ti、V、Fe、Mnの酸化物、又はこれらの混合物を含む、請求項8〜14のいずれか一項に記載の機械加工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−62526(P2011−62526A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210271(P2010−210271)
【出願日】平成22年9月18日(2010.9.18)
【出願人】(596032878)イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト (63)
【Fターム(参考)】