説明

歯車支持構造

【課題】伝達ケースに収容される歯車伝達機構の一部を構成する歯車の軸方向一端面を摺接させる接触端面を先端部に有して伝達ケースに設けられる支持ボスが、伝達ケースの内面に突設され、歯車が固定される歯車軸の一端部が支持ボスで回転可能に支承される歯車支持構造において、歯車軸を回転自在に支承するにあたって、充分な潤滑を確保しつつ耐衝撃性が得られるようにする。
【解決手段】支持ボス35に、接触端面34から凹むオイル溝36が当該支持ボス35の内外間にわたって設けられるとともに、歯車軸32を回転可能に嵌合させる内周を有する嵌合孔部37aと、該嵌合孔部37aよりも拡径されて接触端面34に開口するとともにオイル溝36の内端を内周に開口させる拡径孔部37bとから成る支持孔37が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝達ケースに収容される歯車伝達機構の一部を構成する歯車の軸方向一端面を摺接させる接触端面を先端部に有して前記伝達ケースに設けられる支持ボスが、前記伝達ケースの内面に突設され、前記歯車が固定される歯車軸の一端部が前記支持ボスで回転可能に支承される歯車支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スタータモータから歯車伝達機構およびワンウエイクラッチを介してクランクシャフトに始動用動力を伝達するようにした自動二輪車用エンジンが、たとえば特許文献1で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−175252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1で開示されるような自動二輪車用エンジンでは、起動時にエンジンの圧縮圧力を超えることができずにクランクシャフトが逆転する現象、所謂ケッチンが生じる場合があり、その場合、歯車伝達機構にも衝撃が加わることになるので、歯車伝達機構の一部を構成する歯車が固着される歯車軸も、特に歯車軸および支持ボス間に潤滑用のオイルを供給するオイル溝を支持ボスの端面に形成する場合には、前記衝撃によってオイル溝の支持孔内周への懐古歌に歯車軸が強く当たり、開口端まわりの応力値が高まることがあり、そうした衝撃に耐えることを可能としつつ充分な潤滑を確保し得る支持構造で支持することが求められている。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、歯車伝達機構の一部を構成する歯車が固着される歯車軸を回転自在に支承するにあたって、充分な潤滑を確保しつつ耐衝撃性が得られるようにした歯車支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、伝達ケースに収容される歯車伝達機構の一部を構成する歯車の軸方向一端面を摺接させる接触端面を先端部に有して前記伝達ケースに設けられる支持ボスが、前記伝達ケースの内面に突設され、前記歯車が固定される歯車軸の一端部が前記支持ボスで回転可能に支承される歯車支持構造において、前記支持ボスに、前記接触端面から凹むオイル溝が当該支持ボスの内外間にわたって設けられるとともに、前記歯車軸を回転可能に嵌合させる内周を有する嵌合孔部と、該嵌合孔部よりも拡径されて前記接触端面に開口するとともに前記オイル溝の内端を内周に開口させる拡径孔部とから成る支持孔が設けられることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、エンジンのクランクケースで回転自在に支承されるクランクシャフトならびに前記クランクケースに取付けられるスタータモータ間に設けられる前記歯車伝達機構を収容する伝達ケースが、前記クランクケースならびに該クランクケースに結合されるクランクケースカバーから成り、前記クランクケースおよび前記クランクケースカバーの少なくとも一方に前記支持ボスが設けられることを第2の特徴とする。
【0008】
本発明は、第2の特徴の構成に加えて、前記拡径孔部が前記接触端面側に向かうにつれて次第に大径となるテーパ状に形成されることを第3の特徴とする。
【0009】
本発明は、第2または第3の特徴の構成に加えて、前記歯車軸に、小径の歯車および大径の歯車が一体に回転するようにして固設され、前記オイル溝が、小径の前記歯車が摺接される接触端面を有する前記支持ボスに設けられることを第4の特徴とする。
【0010】
さらに本発明は、第2〜第4の特徴の構成のいずれかに加えて、前記オイル溝が、前記クランクシャフトの回転に伴って飛散するオイルを受ける方向で前記支持ボスの外周面に開口するようにして、該支持ボスに設けられることを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば、支持ボスおよび歯車軸間に潤滑用のオイルを導くオイル溝が、歯車の一端面を摺接させるようにして支持ボスの先端部に形成される接触端面から凹むようにして支持ボスに設けられ、歯車軸を回転可能に嵌合せしめるべく支持ボスに設けられる支持孔が、歯車軸を回転可能に嵌合させる内周を有する嵌合孔部と、該嵌合孔部よりも拡径されて接触端面に開口するとともに前記オイル溝の内端を内周に開口させる拡径孔部とから成るので、歯車軸および支持ボス間に潤滑用のオイルを供給することを可能としつつ、歯車軸にそれを倒す方向で衝撃が加わったとしてもオイル溝の支持孔内周への開口端に歯車軸が強く当たることはなく、オイル溝に加わる応力を効果的に低減することができる。
【0012】
また本発明の第2の特徴によれば、歯車伝達機構が、クランクシャフトおよびスタータモータ間に設けられるものであり、その歯車伝達機構を収容する伝達ケースが、クランクケースおよびクランクケースカバーから成るものであるので、起動時にクランクシャフトの逆転現象が生じても、その逆転現象による衝撃に耐える歯車支持構造を得ることができる。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば、拡径孔部が接触端面側に向かうにつれて次第に大径となるテーパ状であるので、嵌合孔部および拡径孔部の連設部で内径が大きく変化することがないようにして、耐衝撃性を高めることができるとともに、嵌合孔部および歯車軸間へのオイルの供給を円滑化することができる。
【0014】
本発明の第4の特徴によれば、歯車軸に固設される小径の歯車および大径の歯車のうち小径の歯車が摺接される接触端面を有する支持ボスにオイル溝が設けられるので、伝達ケース内を飛散しているオイルをオイル溝に導き易くし、給油量を確保し易くすることができる。
【0015】
さらに本発明の第5の特徴によれば、クランクシャフトの回転に伴って飛散するオイルを受ける方向でオイル溝が支持ボスの外周面に開口するので、より多くのオイルをオイル溝で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エンジンの側面図である。
【図2】図1の2−2線拡大断面図である。
【図3】クランクケースの下部ケース半体を図1と同一方向から見た側面図である。
【図4】図2の4矢示部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について添付の図1〜図4を参照しながら説明すると、先ず図1において、たとえば自動二輪車に搭載されるエンジンEは、たとえば水冷式4気筒のV型であり、そのエンジン本体11は、自動二輪車への搭載状態で前方に位置する前部バンクBFと、該前部バンクBFよりも後方に位置する後部バンクBRとを有し、両バンクBF,BRに共通なクランクケース13に、自動二輪車の左右方向に沿う軸線を有するクランクシャフト12が回転自在に支承される。
【0018】
クランクケース13は、上部ケース半体13aおよび下部ケース半体13bが結合されて成るものであり、V字形をなすようにして前部および後部バンクBF,BRが上部ケース半体13aに一体に形成され、前記クランクシャフト12の軸線は前記上部ケース半体13aおよび前記下部ケース半体13bの結合面上に配置される。
【0019】
前部バンクBFは、クランクケース13の上部ケース半体13aに一体に連なる前部シリンダブロック14Fと、前部シリンダブロック14Fに結合される前部シリンダヘッド15Fと、前部シリンダヘッド15Fに結合される前部ヘッドカバー16Fとで構成され、後部バンクBRは、クランクケース13の上部ケース半体13aに一体に連なる後部シリンダブロック14Rと、後部シリンダブロック14Rに結合される後部シリンダヘッド15Rと、後部シリンダヘッド15Rに結合される後部ヘッドカバー16Rとで構成され、前記クランクケース13の下部にはオイルパン17が結合される。
【0020】
図2を併せて参照して、前記クランクケース13の左側壁にはクランクケースカバー18が結合されるものであり、前記クランクケース13の左側壁を回転自在に貫通する前記クランクシャフト12の一端部に固定されるロータ19と、該ロータ19で囲繞されるようにして前記クランクケースカバー18に固定されるステータ20とで発電機21が構成される。
【0021】
ところで前記クランクケース13における下部ケース半体13Bの前部には、前記クランクシャフト12と平行な回転軸線を有するスタータモータ22が取付けられており、前記クランクケース13および前記クランクケース13で構成される伝達ケース23内に、前記スタータモータ22の回転動力を前記クランクシャフト12側に伝達する歯車伝達機構24と、前記クランクシャフト12に固定される前記ロータ19および前記歯車伝達機構24間に介設されるワンウエイクラッチ25とが収容される。
【0022】
前記歯車伝達機構24は、前記スタータモータ22が備えるモータ軸26に設けられる駆動歯車27と、該駆動ピニオン27に噛合する第1アイドル歯車28と、第1アイドル歯車28とともに回転する第2アイドル歯車29と、第2アイドル歯車29に噛合するようにして前記クランクシャフト12に相対回転可能に支承される被動歯車30とを備え、歯車伝達機構24の前記被動歯車30および前記ロータ19間に前記ワンウエイクラッチ25が設けられる、
前記歯車伝達機構24の一部を構成する小径の歯車である第2アイドル歯車29は、円筒状の支持筒31の一端側に一体に設けられており、その支持筒31の他端部には、第2アイドル歯車29よりも大径の歯車である第1アイドル歯車28が固定される。しかも前記支持筒31は、該支持筒31を貫通する円筒状の歯車軸32に固着されるものであり、支持筒31の両端部から突出した前記歯車軸32の両端部が前記伝達ケース23で回転自在に支承される。
【0023】
前記伝達ケース23を相互に構成する前記クランクケース13および前記クランクケースカバー18の少なくとも一方の内面に、前記歯車伝達機構24の一部を構成する歯車である第2アイドル歯車29の軸方向一端面を摺接させる接触端面34を先端部に有する支持ボス35が、前記歯車軸32の一端部を回転可能に支承すべく突設されるものであり、この実施の形態では、クランクケース13における下部ケース半体13bに前記支持ボス35が一体に突設される。
【0024】
図3および図4を併せて参照して、前記支持ボス35には、前記接触端面34から凹むオイル溝36が当該支持ボス35の内外間にわたって設けられるとともに、前記歯車軸32を回転可能に嵌合させる内周を有する嵌合孔部37aと、該嵌合孔部37aよりも拡径されて前記接触端面34に開口するとともに前記オイル溝36の内端を内周に開口させる拡径孔部37bとから成る有底の支持孔37が設けられ、前記拡径孔部37bは、前記接触端面36側に向かうにつれて次第に大径となるテーパ状に形成される。
【0025】
しかも前記オイル溝36は、図3で示すように、矢印38で示す方向に回転する前記クランクシャフト12の回転に伴って飛散するオイルを受ける方向で前記支持ボス35の外周面に開口するようにして、該支持ボス35に設けられる。
【0026】
また前記歯車軸32の他端部を回転可能に支承する支持ボス40が、図2で示すように、支持筒31の他端を先端部に摺接させるようにして前記クランクケースカバー18の内面に突設されており、この支持ボス40および前記歯車軸32間には、歯車軸32が円筒状であることによって前記クランクケース13側の支持ボス35側からオイルが導かれる。
【0027】
次にこの実施の形態の作用について説明すると、歯車伝達機構24の一部を構成する第1および第2アイドル歯車28,29が固着される歯車軸32の一端部を回転可能に支承する支持ボス35と、歯車軸32との間に潤滑用のオイルを導くオイル溝36が、第2アイドル歯車29の一端面を摺接させるようにして支持ボス35の先端部に形成される接触端面34から凹むようにして支持ボス35に設けられ、歯車軸32を回転可能に嵌合せしめるべく支持ボス35に設けられる支持孔37が、歯車軸32を回転可能に嵌合させる内周を有する嵌合孔部37aと、該嵌合孔部37aよりも拡径されて接触端面34に開口するとともに前記オイル溝36の内端を内周に開口させる拡径孔部37bとから成るので、歯車軸32および支持ボス35間に潤滑用のオイルを供給することを可能としつつ、歯車軸32にそれを倒す方向で衝撃が加わったとしてもオイル溝36の支持孔37内周への開口端に歯車軸32が強く当たることはなく、オイル溝36に加わる応力を効果的に低減することができる。
【0028】
また歯車伝達機構24が、クランクシャフト12およびスタータモータ22間に設けられるものであり、その歯車伝達機構24を収容する伝達ケース23が、クランクケース13およびクランクケースカバー18から成るものであるので、エンジンの起動時にクランクシャフト12の逆転現象が生じても、その逆転現象による衝撃に耐える歯車支持構造を得ることができる。
【0029】
まや前記支持孔37の拡径孔部37bが接触端面34側に向かうにつれて次第に大径となるテーパ状であるので、嵌合孔部37aおよび拡径孔部37bの連設部で内径が大きく変化することがないようにして、耐衝撃性を高めることができるとともに、嵌合孔部37aおよび歯車軸32間へのオイルの供給を円滑化することができる。W
また歯車軸32に固設される小径の第2アイドル歯車29および大径の第1アイドル歯車28のうち小径の第2アイドル歯車29が摺接される接触端面34を有する支持ボス35にオイル溝36が設けられるので、伝達ケース23内を飛散しているオイルをオイル溝36に導き易くし、給油量を確保し易くすることができる。
【0030】
さらにクランクシャフト12の回転に伴って飛散するオイルを受ける方向でオイル溝36が支持ボス35の外周面に開口するので、より多くのオイルをオイル溝36で回収することができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0032】
12・・・クランクシャフト
13・・・クランクケース
18・・・クランクケースカバー
22・・・スタータモータ
23・・・伝達ケース
24・・・歯車伝達機構
28,29・・・歯車
32・・・歯車軸
34・・・接触端面
35・・・支持ボス
36・・・オイル溝
37・・・支持孔
37a・・・嵌合孔部
37b・・・拡径孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝達ケース(23)に収容される歯車伝達機構(24)の一部を構成する歯車(29)の軸方向一端面を摺接させる接触端面(34)を先端部に有して前記伝達ケース(23)に設けられる支持ボス(35)が、前記歯車伝達機構(24)を収容する伝達ケース(23)の内面に突設され、前記歯車(29)が固定される歯車軸(32)の一端部が前記支持ボス(35)で回転可能に支承される歯車支持構造において、前記支持ボス(35)に、前記接触端面(34)から凹むオイル溝(36)が当該支持ボス(35)の内外間にわたって設けられるとともに、前記歯車軸(32)を回転可能に嵌合させる内周を有する嵌合孔部(37a)と、該嵌合孔部(37a)よりも拡径されて前記接触端面(34)に開口するとともに前記オイル溝(36)の内端を内周に開口させる拡径孔部(37b)とから成る支持孔(37)が設けられることを特徴とする歯車支持構造。
【請求項2】
エンジンのクランクケース(13)で回転自在に支承されるクランクシャフト(12)ならびに前記クランクケース(13)に取付けられるスタータモータ(22)間に設けられる前記歯車伝達機構(24)を収容する伝達ケース(23)が、前記クランクケース(13)ならびに該クランクケース(13)に結合されるクランクケースカバー(18)から成り、前記クランクケース(13)および前記クランクケースカバー(18)の少なくとも一方に前記支持ボス(35)が設けられることを特徴とする請求項1記載の歯車支持構造。
【請求項3】
前記拡径孔部(37b)が前記接触端面(34)側に向かうにつれて次第に大径となるテーパ状に形成されることを特徴とする請求項2記載の歯車支持構造。
【請求項4】
前記歯車軸(32)に、小径の歯車(29)および大径の歯車(28)が一体に回転するようにして固設され、前記オイル溝(36)が、小径の前記歯車(28)が摺接される接触端面(34)を有する前記支持ボス(35)に設けられることを特徴とする請求項2または3記載の歯車支持構造。
【請求項5】
前記オイル溝(36)が、前記クランクシャフト(12)の回転に伴って飛散するオイルを受ける方向で前記支持ボス(35)の外周面に開口するようにして、該支持ボス(35)に設けられることを特徴とする請求項2〜3のいずれかに記載の歯車支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−207706(P2012−207706A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72795(P2011−72795)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】