説明

歯車潤滑剤の循環機構

【課題】歯車を、長期間にわたって、振動を生じさせず、ムラがなく安定して回転させる。
【解決手段】歯車1に複数の貫通孔12を形成し、歯車1の一方面に、貫通孔12から歯車1の半径方向外方に向かって第1溝部14を形成する。第1溝部14の第1側壁14aは、歯車1の中心と貫通孔12の中心とを結ぶ直線Lに対して回転方向下流方向に角度α傾斜している。また、歯車1の他方面に、貫通孔12から歯車1の半径方向外方に向かって第2溝部15を形成する。第2溝部15の第2側壁15aは、歯車1の中心と貫通孔12の中心とを結ぶ直線Lに対して回転方向上流方向に角度β傾斜している。歯車1が回転すると、不図示の潤滑剤が、第1溝部14の第1側壁14aに沿って歯部13へ移動し、さらに歯部13から第2溝部15の第2側壁15aに沿って貫通孔12に移動し、貫通孔12を通って第1溝部14へ移動して循環する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯車潤滑剤の循環機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ファクシミリやプリンタ、複写機などの画像形成装置では、原稿画像を読み取るスキャナの移動機構をはじめ、現像装置や感光体等を回転させる機構、用紙を搬送する機構などにおいて、モータの回転力を歯車伝達機構を用いて被駆動部に伝達している。
【0003】
歯車伝達機構には、通常、装置駆動時の運転騒音低下や耐久性向上が求められる。加えて、画像形成装置では、高画質を得る観点から、回転速度にムラがなく安定して回転し、しかも振動の生じないことが求められる。このため、一般に、歯車伝達機構の回転部にはグリスなどの潤滑剤が塗布されている。しかし、潤滑剤は、装置の使用が進むにつれて次第に減少するという課題がある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、歯車の側面に一対の円周リブを形成すると共に、この一対の円周リブ間に溝部を形成し、溝部に潤滑剤を保有させて、歯車の側面と他の歯車の側面とが接触する摺動部に常に潤滑剤を存在させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-228660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の提案技術でも、装置を長期間使用すると次第に潤滑剤が減少し、歯車の摩耗や振動が生じるものと考えられる。特に回転負荷の大きい歯車では、潤滑剤が枯渇しやすく、長期間にわたって振動を生じさせず、ムラがなく安定して回転させることが依然として課題であった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、歯車伝達機構において、歯車を、長期間にわたって、振動を生じさせず、ムラがなく安定して回転させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、歯車の厚み方向の両側面間で潤滑剤を循環させればよいとの知見を得、本発明をなすに至った。すなわち、本発明に係る歯車潤滑剤の循環機構は、円盤状の歯車に形成された複数の貫通孔と、前記歯車の一方面に、貫通孔から歯車の半径方向外方に向かって形成された第1溝部と、前記歯車の他方面に、貫通孔から歯車の半径方向外方に向かって形成された第2溝部と、第1溝部の回転方向下流側の第1側壁が、歯車の中心と貫通孔の中心とを結ぶ直線に対して回転方向下流方向に傾斜し、第2溝部の回転方向下流側の第2側壁が、歯車の中心と貫通孔の中心とを結ぶ直線に対して回転方向上流方向に傾斜し、第1溝部及び第2溝部、貫通孔の少なくとも一部に潤滑剤が充填され、歯車が回転することによって、前記潤滑剤が、第1溝部の第1側壁に沿って歯車の外周に形成された歯部へ移動し、さらに歯部から第2溝部の第2側壁に沿って貫通孔に移動し、貫通孔を通って第1溝部へ移動して循環することを特徴とする。
【0009】
ここで、潤滑剤をより効率的に循環させる観点からは、第1溝部及び第2溝部の形状を、貫通孔から歯車の半径方向外方に向かって周方向の幅が広がる形状とするのが好ましい。
【0010】
また、前記貫通孔の第1溝部に面した開口を、第2溝部に面した開口よりも回転方向下流側に位置させ、前記貫通孔が回転軸に対して傾斜させるのが好ましい。
【0011】
本発明に係る画像形成装置は、回転駆動力を複数の歯車によって被駆動部に伝達する画像形成装置であって、前記歯車に塗布された潤滑剤を、前記請求項1〜3のいずれかの歯車潤滑剤の循環機構を用いて循環させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る歯車潤滑剤の循環機構では、歯車が回転することによって、第1溝部、第2溝部、貫通孔を潤滑剤が流動し循環するので、歯車は、長期間にわたって、振動を生じさせず、ムラがなく安定して回転するようになる。これにより、本発明に係る画像形成装置では、高画質の画像が長期間安定して得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る歯車潤滑剤の循環機構が適用される画像形成装置の一例を示す概説図。
【図2】本発明に係る歯車潤滑剤の循環機構の一例を示す断面図。
【図3】図2に示す歯車の一方の側面図。
【図4】図2に示す歯車の他方の側面図。
【図5】本発明に係る歯車潤滑剤の循環機構の他の例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る歯車潤滑剤の循環機構について図に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0015】
図1に、本発明に係る画像形成装置100の一例を示す概説図を示す。この図の画像形成装置100は、主に原稿画像を読み取るイメージリーダー部110と、読み取った画像を印刷するプリンタ部120とから構成される。イメージリーダー部110は、図示していない原稿ガラス板の上に載置された原稿の画像を、スキャナを移動して読み取る公知のものである。カラー仕様の機種では、赤、緑、青の三色に色分解されて、不図示のCCDイメージセンサにより色別に電気信号に変換され、プリンタ部120に内蔵されている制御部121へ送られる。
【0016】
制御部121では、前記画像データは各種処理をなされた後、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各再現色の画像データに変換されて制御部121の画像メモリに記憶される。そして、単位走査ラインごとに読み出されて、作像部122の発光ダイオードの駆動信号となる。なお、図で符号は一色分にのみ付与したが、4色それぞれに対応した作像部122を有している。
【0017】
プリンタ部120では、画像データに対応した静電潜像が感光体表面に形成され、この静電潜像をトナーで現像する工程が各色毎に行われる。これらのトナー像を転写ベルト123上に転写する。なお、作像部122や転写ベルト123は、符号を付与していない駆動機構によって回転駆動されている。転写ベルト123上にそれぞれ転写され、重ね合わされたトナー画像は、2次転写ローラ124によって記録シートに2次転写される。
【0018】
記録シートは、給紙トレイ125から給紙ローラ126によって一枚づつ引き出され、経路Aを通って、転写ベルト123と2次転写ローラ124との間(2次転写部)に搬送される。2次転写部を通過した記録シートは、定着部127によって加熱・加圧される。これにより、トナー像が記録シートに溶融定着される。こうして印刷が完了した記録シートは装置外部へ排出される。
【0019】
このような構造の画像形成装置100において、高精細度な画像を得るためには、作像部122や転写ベルト123、記録シートの搬送部、定着部127などの回転駆動系において、振動を生じさせることなく、ムラなく安定して回転させることが重要である。
【0020】
図2に、画像形成装置100に好適に用いられる歯車伝達機構の一例を示す。図2の歯車伝達機構では、基板21と基板22との間に軸3と軸4が固定され、これらの軸3と軸4とに歯車1と歯車5とがそれぞれ回転自在に支持されている。歯車5は2段歯車であって、小径歯車5aが歯車1と歯合し、大径歯車5bは不図示の歯車と歯合している。
【0021】
歯車1を図1の左側から見た図を図3に、右側から見た図を図4にそれぞれ示す。図3から理解されるように、歯車1の中心に、軸3が挿通する回転軸孔11が形成されている。そして、歯車1の外周には歯部13が形成されている。歯部13の種類に特に限定はなく、平歯、斜歯、やま歯等いずれであってもよい。なお、歯車1の最外の実線が歯先円、一点鎖線がピッチ円、実線が歯底円である。
【0022】
また、歯車1には、同一円周上に8つの貫通孔12が円周方向に等間隔で形成されている。そして、それぞれの貫通孔12から歯車1の半径方向外方に向かって第1溝部14が形成されている。この第1溝部14は、歯車1の半径方向外方に向かうにしたがって周方向の幅が広くなる、いわゆる扇状となっている。ここで重要なことは、第1溝部14の、歯車回転方向下流側の第1側壁14aが、回転軸孔11の中心と貫通孔12の中心とを結ぶ直線Lに対して、歯車の回転方向下流側に角度α傾斜していることにある。なお、図3において、歯車1は時計回りに回転する。第1溝部14のもう一方の側壁の形成角度に特に限定はないが、隣り合う第1溝部14の第1側壁14aと、歯車1の円周部において接続するようにするのが好ましい。これにより、後述するように、潤滑剤の循環が歯部13の全体にわたって円滑に行われるようになる。
【0023】
一方、図4に示す歯車1の右側面には、それぞれの貫通孔12から歯車1の半径方向外方に向かって第2溝部15が形成されている。第2溝部15の形状も、第1溝部14と同様に、歯車1の半径方向外方に向かうにしたがって周方向の幅が広くなる、いわゆる扇状となっている。第1溝部14と異なって、第2溝部15の、歯車1の回転方向下流側の第2側壁15aは、回転軸孔11の中心と貫通孔12の中心とを結ぶ直線Lに対して、回転方向上流側に角度β傾斜している。傾斜角度βに特に限定はないが鋭角であるのが好ましい。なお、図4において歯車1は反時計回りに回転する。第2溝部15のもう一方の側壁の形成角度に特に限定はないが、潤滑剤の循環が歯部の全体にわたって円滑に行う観点からは、隣り合う第2溝部15の第2側壁15aと、歯車1の円周部において接続するようにするのが好ましい。
【0024】
このような構造の歯車1において、グリスなどの潤滑剤(不図示)が、第1溝部14、第2溝部15、貫通孔12に充填される。そして、歯車1が回転し始めると、図3に示す歯車1の左側面では、潤滑剤は、潤滑剤自体の慣性力で、第1溝部14の回転方向下流側の第1側壁14aに押しつけられる。第1側壁14aは、前述のように、回転軸孔11の中心と貫通孔12の中心とを結ぶ直線Lに対して、回転方向下流側に角度α傾斜しているので、潤滑剤は歯車1の半径方向外方へ向かい、歯部13へと移動する。
【0025】
一方、図4に示す歯車1の右側面では、歯車1が回転し始めると、潤滑剤は、潤滑剤自体の慣性力で、第2溝部15の回転方向下流側の第2側壁15aに押しつけられる。第2側壁15aは、前述のように、回転軸孔11の中心と貫通孔12の中心とを結ぶ直線Lに対して、回転方向上流側に角度β傾斜しているので、潤滑剤は歯車1の半径方向内方へ向かい、貫通孔12へと移動する。こうして、潤滑剤は、第1溝部14から歯部13へ、歯部13から第2溝部15へ、第2溝部15から貫通孔12へ、貫通孔12から第1溝部14へというように循環する。これにより、歯部13において潤滑剤が枯渇するおそれがなくなり、歯車1は、長期間にわたって、振動を生じさせず、ムラがなく安定して回転するようになる。
【0026】
なお、歯車1が斜歯歯車である場合には、歯面の第1溝側が、第2溝側よりも歯車の回転方向上流側となるように、斜歯を形成するのが望ましい。
【0027】
図5に、本発明に係る循環機構に用いる歯車の他の実施例を示す。なお、図2に示した歯車と同じ部分及び部材には同じ符号を付している。この図の歯車1aが、図2の歯車1と異なる点は、貫通孔12の、第1溝部14に面した開口12aが、第2溝部15に面した開口12bよりも歯車1aの回転方向下流側に位置し、貫通孔11が回転軸に対して傾斜している点にある。これにより、歯車1aが回転し始めた際、貫通孔12内の潤滑剤は、その慣性力で第2溝側から第1溝側に移動し、潤滑剤が一層円滑に循環するようになる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る歯車潤滑剤の循環機構では、歯車が回転することによって、第1溝部、第2溝部、貫通孔を潤滑剤が流動し循環するので、歯車は、長期間にわたって、振動を生じさせず、ムラがなく安定して回転するようになり有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 歯車
11 回転軸孔
12 貫通孔
12a 開口
12b 開口
13 歯部
14 第1溝部
14a 第1側壁
15 第2溝部
15a 第2側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の歯車に形成された複数の貫通孔と、前記歯車の一方面に、貫通孔から歯車の半径方向外方に向かって形成された第1溝部と、前記歯車の他方面に、貫通孔から歯車の半径方向外方に向かって形成された第2溝部と、第1溝部の回転方向下流側の第1側壁が、歯車の中心と貫通孔の中心とを結ぶ直線に対して回転方向下流方向に傾斜し、第2溝部の回転方向下流側の第2側壁が、歯車の中心と貫通孔の中心とを結ぶ直線に対して回転方向上流方向に傾斜し、
第1溝部及び第2溝部、貫通孔の少なくとも一部に潤滑剤が充填され、
歯車が回転することによって、前記潤滑剤が、第1溝部の第1側壁に沿って歯車の外周に形成された歯部へ移動し、さらに歯部から第2溝部の第2側壁に沿って貫通孔に移動し、貫通孔を通って第1溝部へ移動して循環することを特徴とする歯車潤滑剤の循環機構。
【請求項2】
第1溝部及び第2溝部の形状が、貫通孔から歯車の半径方向外方に向かって周方向の幅が広がる形状である請求項1記載の歯車潤滑剤の循環機構。
【請求項3】
前記貫通孔の第1溝部に面した開口が、第2溝部に面した開口よりも回転方向下流側に位置し、前記貫通孔が回転軸に対して傾斜している請求項1又は2記載の歯車潤滑剤の循環機構。
【請求項4】
回転駆動力を複数の歯車によって被駆動部に伝達する画像形成装置において、前記歯車に塗布された潤滑剤を、前記請求項1〜3のいずれかの歯車潤滑剤の循環機構を用いて循環させることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−190831(P2011−190831A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55497(P2010−55497)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】