説明

歯車状部材に樹脂成形部を成形した樹脂成形品の製造方法

【課題】バリによる成形不良の発生を抑制することができ、生産性の向上を図ることが可能となる歯車状部材に樹脂成形部を成形した樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】歯車状部材に樹脂成形部を成形する樹脂成形品の製造方法であって、
歯車状部材が連結部を介して基材に穿設された金属シートを、可動金型と固定金型に形成されたキャビティに合わせて金型の分割面に略平行に配置する工程と、
可動金型と前記固定金型を型締めしてキャビティに樹脂を充填し、歯車状部材の一部が樹脂で埋設するように射出成形して、歯車状部材と樹脂が一体化した射出成形部を有する成形品を成形する工程と、
金型を開いて該金型から金属シートを取り出す際に、
可動駒に嵌合挿入されたエジェクタピンによって樹脂が一体化した射出成形部と接触することなく、歯車状部材と基材とを同時に加圧して金属シートを突き出す工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車状部材に樹脂成形部を成形した樹脂成形品の製造方法に関する。特に、パソコン用のプリンタにおける用紙の送りとして用いられる歯車状部材に樹脂成形部を成形した歯車状物品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯車状部材に樹脂成形部を成形した歯車状物品は、パソコン用プリンタの用紙の送りに用いられ、あるいは種々の機械の歯車軸として用いられている。
従来において、このような歯車状物品製造方法として、特許文献1には、歯車状部材が穿設された金属シートを形成し、このような金属シートに形成された歯車状部材に、樹脂による軸部材を射出成形により成形する歯車状物品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−104074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1には、金型を開いて歯車状部材に樹脂成形部を成形した樹脂成形品を取り出す際の具体的な樹脂成形品取り出し方法について、何も説明されていない。
また、このような樹脂成形品取り出し方法を特許文献1の図面等に開示された構成から読み取ってみても、従来例による手法以外のものを読み取ることはできない。
そして、従来例では金型を開いて歯車状部材に樹脂による軸部材を成形した成形品を取り出す際、樹脂で成形された軸部材を可動駒に嵌合挿入されたエジェクタピンで突き出すことにより、金型から上記成形品を取り出す手法が採られている。
しかしながら、このように樹脂で成形された軸部材をエジェクタピンで突き出し金型から成形品を取り出す従来例のものでは、つぎのような課題を生じる。
【0005】
以下に、図12を用いて上記従来例のものにおける課題について説明する。
図12(a)は従来例における成形品と金型の断面図であり、図12(b)は従来例における成形品の突き出し方法を説明する図である。
図12において、102は軸部材、115は可動駒、116はエジェクタピン、122はセンターピン、aはバリ発生箇所を示す。
従来例では、軸部材102の一部をエジェクタピン116で樹脂成形し(図12(a))、このように樹脂成形された軸部材102を可動駒115に嵌合挿入されたエジェクタピン116で突き出すように構成されている(図12(b))。その際、エジェクタピン116を、樹脂で成形された軸部材102を突き出すために摺動させなければならない。
このようにエジェクタピン116を摺動させなければならないことから、エジェクタピン116と、センターピン122及び可動駒115との間における、図12に示すaの箇所にクリアランスを設けることが必要となる。
そして、このようなクリアランスがaの箇所に10μ程度でもあった場合、金型内で樹脂を充填した際にそこから樹脂が漏れて成形品にバリが発生する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、バリによる成形不良の発生を抑制することができ、生産性の向上を図ることが可能となる歯車状部材に樹脂成形部を成形した樹脂成形品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂成形品の製造方法は、歯車状部材に樹脂成形部を成形する樹脂成形品の製造方法であって、
前記歯車状部材が連結部を介して基材に穿設された金属シートを、可動金型と固定金型に形成されたキャビティに合わせて金型の分割面に略平行に配置する第1の工程と、
第1の工程の後、前記可動金型と前記固定金型を型締めして前記キャビティに樹脂を充填し、前記歯車状部材の一部が樹脂で埋設するように射出成形して、前記歯車状部材と前記樹脂が一体化した射出成形部を有する成形品を成形する第2の工程と、
第2の工程の後、前記金型を開いて該金型から前記金属シートを取り出す際に、
前記可動駒に嵌合挿入されたエジェクタピンによって前記樹脂が一体化した射出成形部と接触することなく、前記歯車状部材と前記基材とを同時に加圧して前記金属シートを突き出す第3の工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バリによる成形不良の発生を抑制することができ、生産性の向上を図ることが可能となる歯車状部材に樹脂成形部を成形した樹脂成形品の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法を説明するための歯車状物品の正面図である。
【図2】本発明の実施例を説明する図1のX−X線における歯車状物品の断面図である。
【図3】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法を説明するための金属シートの正面図である。
【図4】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法を説明するための歯車状部材の拡大図である。
【図5】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法に用いられる金型の型開き状態を説明する図である。
【図6】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法に用いられる金型の型締め状態を説明する図である。
【図7】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法に用いられる金型のエジェクタピンで金属シートを突き出した状態を説明する図である。
【図8】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法に用いられる可動駒に金属シートを配置した状態を説明する図である。
【図9】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法を説明するための金型の断面図である。
【図10】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法による成形品の突き出し方法を説明する図である。
【図11】本発明の実施例における樹脂成形品の製造方法のエジェクタピンの配置方法を説明する図である。
【図12】(a)は従来例における成形品と金型の断面図、(b)は従来例における成形品の突き出し方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0011】
本発明の実施例における歯車状部材に樹脂成形部を成形した樹脂成形品の製造方法として、特にパソコン用プリンタにおける用紙の送りとして用いられる歯車状物品の製造方法について、図を用いて説明する。
まず、本実施例における歯車状物品Aについて、図1、図2を用いて説明する。図1は、歯車状物品Aの正面図であり、1は歯車状部材、2は軸部材、3は中心穴、4は突起、4aは接合部であり、5は突起先端を示す。
歯車状物品Aは、金属製の歯車状部材1とこの歯車状部材1を埋設状態に保持する軸部材2とから構成される。
中心穴3は直径1.5mmの穴である。パソコン用プリンタの用紙送りとして使用する場合は、この中心穴3にバネ状の軸を挿入して使用する。
放射状に延びる突起先端5は、直径7.0mmの外接円内に配置されている。
【0012】
図2は、図1のX―X線における歯車状物品Aの断面図である。
本実施例で用いる歯車状部材1は、例えばSUS304などステンレス鋼を用いることが望ましい。
また、ニッケルクロム鋼等の構造用鋼、その他の金属材料を用いることができるが、本実施例では、歯車状部材1として、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)を用いた。
パソコン用プリンタの用紙の送りローラに用いる歯車状部材1は、放射状に延びる突起4の先端5を鋭利に尖らせて、プリント済の用紙を送る時に用紙と送りローラとが擦られることを防止する。
軸部材2は、前記歯車状部材1を埋設状態で射出成形されるものであり、耐疲労性や耐磨耗性、引張り強さや曲げ強度等の機械的性質が優れており、かつ、摺動抵抗が少なく自己潤滑性が良いポリアセタール樹脂(POM)を用いることが望ましい。
しかし、軸部材2は、前記POMに限られず、POM以外のエンジニアリングプラスチックを用いることも可能である。
さらに、必要に応じて前記POMをガラス繊維で強化することでいっそう機械的性質を向上させることができる。
本実施例にかかる軸部材2は、ポリアセタール樹脂(POM)を、前記歯車状部材1と一体になるよう射出成形されて、歯車状物品Aを構成した。
【0013】
つぎに、本実施例における歯車状部材が連結部を介して基材に穿設されて構成されている金属シートBについて、図3、図4を用いて説明する。
図3は、金属シートBの正面図であり、6は基材、6aは可動駒15と金属シートBの位置決め穴を示す。
図4は、本実施例で用いられる歯車状部材1の正面図である。
この歯車状部材1は合計28本の突起を有しており、9本または10本の突起4ごとに金属シートBから接合部4aに延びる3個の連結部7を介して基材6と連結している。
本実施例では、厚さ0.127mm、大きさ55mm×55mm、歯車状部材1を7個穿設した金属シートBが用いられる。
金属シートBには、位置決めピン20を貫入する位置決め穴6aが2個形成されている。この位置決め穴6aに位置決めピン20が貫入され、金型内で金属シートBの位置がずれることなく、位置を正確に保つことが可能となる。
また、図4に拡大して示すような歯車状部材1は、金属シートBにエッチングにより7個穿設される。
この穿設方法は、エッチング加工に限られず、打ち抜き加工であっても良い。
【0014】
つぎに、本実施例の歯車状部材に樹脂成形部を成形した樹脂成形品の製造方法である歯車状物品Aの製造方法について、図5から図11を用いて説明する。
図5は、本実施例で用いられた金型を開いた状態を説明する図である。
図5において、Cは金型全体を示す。8は固定側取付板、9はスプルーブッシュ、10はサポートピン、11は固定側金型、12はプラーボルト、13は固定駒、14は可動側金型、15は可動駒である。
また、16は可動駒に嵌合挿入されたエジェクタピン、17はエジェクタプレート、18は可動側取付板、19はエジェクタロッドである。
図6は、金型が閉じた状態を説明する図である。
図7は、エジェクタピン16で金属シートBを突き出した状態を説明する図である。図中Dはランナーを示す。
図8は、金属シートBを可動駒15に設置した状態を説明する図である。図中20は可動駒と金属シートの位置を正確に保つための位置決めピンを示す。
図9は、キャビティ内に樹脂の充填が完了した状態を説明する図である。
図10は、本実施例におけるエジェクタピンの突き出し方法を説明する図である。
図11は、本実施例におけるエジェクタピン16の配置方法の説明図である。
【0015】
本実施例の樹脂成形品の製造方法によって、歯車状物品Aがつぎのようにして製造される。
まず、第1の工程において、不図示の射出成形機に、歯車状物品Aの製造に用いる金型Cを設置する。
本実施例で用いられる金型Cは、右側に位置する固定金型と左側に位置する可動金型とが相対向して配設されて構成されている。
具体的には、図5に示すように、射出成形機上で可動金型を後退させて、金型Cの型開きを行う。
可動側金型14の可動駒15の分割面には、金属シートBを設置する凹部が設けられており、金属シートBを可動駒15の分割面に略平行に配置する。
この時、金属シートBは、可動駒に設置されている2本の位置決めピン20により、正確に配置することができる。
次に、第2の工程において、可動側金型14を前進させ、図6に示すように型を閉じて型締めする。このとき、固定側金型11と可動側金型14の分割面は、樹脂が漏れないようしっかりと型締めされる。
次に、射出成形機(図示せず)より、樹脂射出孔を通じて、キャビティの内部に成形材料である溶解ポリアセタール樹脂を充填する。
樹脂の注入が終了すると、金型内に設置した水管により、金型全体を十分に冷却する。
その結果、金属シートBにおける歯車状部材1の一部(軸部材)が樹脂で埋設するように射出成形され、歯車状部材と前記樹脂が一体化した射出成形部を有する歯車状物品Aが形成される。
次に、第3の工程において、金型の冷却が終了した後、図7に示すように、可動側金型14を後退させ金型を開いた後、エジェクタロッド19によりエジェクタプレート17とエジェクタピン16を前進させる。
その際、エジェクタピン16により、歯車状部材1と基材6とを同時に加圧し、樹脂で成形された軸部材2以外の歯車状部材が穿設された金属シートBを突き出すことによって、歯車状物品A及び金属シートBを金型から取り出す。
【0016】
以上の本実施例の樹脂成形品の製造方法によれば、図9および図10に示すように、樹脂で成形された軸部材2をエジェクタピンで突き出さない構造のため、樹脂で成形された軸部材2はエジェクタピン16に接触することがない。
また、エジェクタピン16は、樹脂で成形された軸部材2を突き出すために摺動する必要がないことから、エジェクタピン16と、センターピン22及び可動駒15との間における、前述した従来例の図12に示すaの箇所にクリアランスを設けることが不要となる。
そのため、従来例のようなクリアランスによるバリの発生を抑制することができる。
また、本実施例で用いられたエジェクタピン16の配置パターンは、図11に示すように構成することにより、エジェクタピンを効率的に配置することができる。
すなわち、歯車状部材が連結部を介して基材に複数穿設された金属シートBにおける、該複数穿設された歯車状部材の隣接間のそれぞれに、該複数の歯車状部材に跨がって1本のエジェクタピンを配置する。
その際、それぞれのエジェクタピンを樹脂で成形された軸部材と接触することなく、該複数の歯車状部材と該歯車状部材と連結部を介して連結されている基材とを同時に加圧することが可能となる位置に配置する。
これにより、1本のエジェクタピンで複数の歯車状物品Aを同時に突き出すように構成することができる。
そして、本実施例の製造方法によれば、成形品を金型から取り出した後、必要に応じ金属シートBから歯車状物品Aを破断して取り出すことにより、バリによる成形不良のない歯車状物品Aを製造することが可能となる。
これにより、特にパソコン用のプリンタにおける用紙の送りとして用いられる歯車状物品を効率的に得ることができる。
【符号の説明】
【0017】
1:歯車状部材
2:軸部材
3:中心穴
4:突起
4a:接合部
5:突起先端
6:基材
6a:位置決め穴
7:連結部
8:固定側取付板
9:スプルーブッシュ
10:サポートピン
11:固定側金型
12:プラ−ボルト
13:固定駒
14:可動側金型
15:可動駒
16:エジェクタピン
17:エジェクタプレート
18:可動側取付板
19:エジェクタロッド
20:位置決めピン
22:センターピン
A:歯車状物品
B:金属シート
C:金型
D:ランナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車状部材に樹脂成形部を成形する樹脂成形品の製造方法であって、
前記歯車状部材が連結部を介して基材に穿設された金属シートを、可動金型と固定金型に形成されたキャビティに合わせて金型の分割面に略平行に配置する第1の工程と、
第1の工程の後、前記可動金型と前記固定金型を型締めして前記キャビティに樹脂を充填し、前記歯車状部材の一部が樹脂で埋設するように射出成形して、前記歯車状部材と前記樹脂が一体化した射出成形部を有する成形品を成形する第2の工程と、
第2の工程の後、前記金型を開いて該金型から前記金属シートを取り出す際に、
前記可動駒に嵌合挿入されたエジェクタピンによって前記樹脂が一体化した射出成形部と接触することなく、前記歯車状部材と前記基材とを同時に加圧して前記金属シートを突き出す第3の工程と、
を有することを特徴とする歯車状部材に樹脂成形部を成形する樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
第2の工程は、前記歯車状部材として、中心穴から放射状に延びる複数の突起を有する歯車状部材を用い、
前記成形品として、前記歯車状部材と、該歯車状部材の一部を樹脂で埋設するように射出成形された軸部材と、により構成された歯車状物品を成形する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の歯車状部材に樹脂成形部を成形する樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
第3の工程は、前記金属シートとして、前記基材に連結部を介して前記歯車状部材が複数穿設された金属シートを用い、
前記複数穿設された歯車状部材の隣接間のそれぞれに、該複数の歯車状部材に跨がって配置された1本の前記エジェクタピンによって、
前記樹脂が一体化した射出成形部と接触することなく、前記複数の歯車状部材と該歯車状部材と前記連結部を介して連結されている前記基材とを同時に加圧し、
前記金属シートを突き出す工程を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歯車状部材に樹脂成形部を成形する樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−240354(P2012−240354A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114510(P2011−114510)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】