説明

水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法

【課題】本発明の目的は、水が接合予定の部材間に介在していてもレーザー溶接することができ、たとえ部材が薄いプラスチック部材であったとしても溶接部の熱変形を抑制しながら部材同士を接合することができるレーザー溶接法を提供することである。
【解決手段】本発明に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法は、接合予定の部材1,2を1組用意する準備工程と、部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間7に水5を満たす接面工程と、部材の少なくとも一方にレーザー光線4を照射して発熱させ、部材同士を融着させる融着工程と、を有する。部材がレーザー光線を吸収しない場合は、薄層6若しくは成形物を部材間の内側に配置し、薄層若しくは成形物にレーザー光線を吸収させることで発熱させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチック部材をレーザー溶接によって接合する方法に関し、特にプラスチック部材同士の隙間に水を介在させるレーザー溶接方法に関する。例えば、少なくとも蓋がプラスチック製からなる飲料容器の本体と蓋をレーザー溶接によって接合し密封する際に溶接箇所の形状変化が少なく均一な溶融を可能とする。
【背景技術】
【0002】
少なくとも蓋がプラスチック部材である容器において、容器本体と蓋との間の密封若しくは固定をプラスチック部材である蓋の熱溶融によって行なう方法が、飲料・食品をはじめとする産業分野において広く用いられている。
【0003】
これらの産業分野においては、溶融面に水を含む内容物(例えば中身)が介在することがあり、これが原因で熱融着を用いる密封作業において密封不良を起こすという問題が認識されている。
【0004】
熱融着を行なう手段の一つであるレーザー溶接法は、容器の蓋と本体におけるプラスチック部材間の接合に使用可能なことが知られている(例えば特許文献1又は2を参照。)。
【0005】
そして、基材に光熱変換材料を含む液状体材料を塗布し、レーザー光線を照射して光熱変換材料から生じる熱によって基材同士を接合させる技術がある(例えば特許文献3を参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2007‐39115号公報
【特許文献2】特開2007‐39116号公報
【特許文献3】特開2005‐81771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載の技術は、光熱変換材料を含む液状体材料を塗布するが、これは基材の表面上に光熱変換材料が付着した状態とするためである。そして、特許文献3の段落0010には、『・・・前記光の照射は、前記第1基材と前記第2基材との間に配置された前記液状体材料が乾燥したもので、焦点が位置するように行なうことが好ましい。』及び段落0027『・・・その液状体材料4は、第1基材1に塗布され、その後、完全に乾燥させる。これは、塗布された液状体材料4に溶剤や水が少しでも残っていると、後述のレーザー光5によりその液状体材料4が加熱されたときに気化し発泡が生じ、第1基材1と第2基材との密着性を落としてしまうからである。そして、光熱変換材料にレーザー光5が照射されその光熱変換材料が発熱すると、液状体材料4(完全に乾燥したもの)のなかの樹脂材料が溶解するとともに、その液状体材料4に接する第1基材1及び第2基材2の一部も溶解する。』の記載がある。これらの記載によれば、液状体材料の溶媒を、完全に気化させた後にレーザー光線を照射する必要があることがわかる。したがってこの記載は、水が介在すると熱融着を行なう密封作業において密封不良をおこすという問題と同種の問題を指摘している。
【0008】
ところで、レーザー光線によって、特に100μm厚以下の薄いプラスチック部材を加熱すると、その部材が容易に熱変形し、又、穴開きが生じるなど溶接不良に陥りやすいことがわかった。薄いプラスチック部材をレーザー溶接によって接合するためには熱変形や孔開きの抑制手段を講じる必要がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、水が接合予定の部材間に介在していてもレーザー溶接することができ、たとえ部材が薄いプラスチック部材であったとしても溶接部の熱変形を抑制しながら部材同士を接合することができるレーザー溶接法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、溶接面に意図的に水を介在させた上でレーザー溶接を行い、かつ、このとき水を介在させた後、部材間を圧迫し、部材間の隙間空間に水が毛細管現象で行き渡る程度に薄くかつ均一に広げることによって、薄いプラスチック部材であったとしても溶接部の熱変形を抑制しながら部材同士を接合することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法は、接合予定の部材を1組用意する準備工程と、前記部材同士を接面させ、かつ、前記部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす接面工程と、前記部材の少なくとも一方にレーザー光線を照射し、前記部材同士を融着させる融着工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法では、前記準備工程は、プラスチック製の部材を2つ用意するか、或いは、プラスチック製の部材と金属、ガラス又はセラミックスからなる非プラスチック製の部材をそれぞれ用意する工程であり、前記準備工程の後に、さらに前記部材の少なくとも一つの表面にレーザー光線を吸収する薄層を形成するか、或いは、レーザー光線を吸収する成形物を挿入する工程を設け、前記接面工程では、前記薄層若しくは前記成形物が内側に配置されるように前記部材同士を接面させ、前記融着工程では、前記レーザー光線を前記薄層若しくは前記成形物に吸収させ発熱させて、前記部材同士を融着させる形態が含まれる。
【0012】
また、本発明に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法では、前記準備工程は、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材を2つ用意するか、或いは、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材とレーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材をそれぞれ用意するか、或いは、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材と金属、ガラス又はセラミックスからなる非プラスチック製の部材をそれぞれ用意する工程であり、 前記融着工程では、前記レーザー光線を前記吸収体に吸収させ発熱させて、前記部材同士を融着させる形態が含まれる。
【0013】
また、本発明に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法では、前記準備工程は、レーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材と金属、ガラス又はセラミックスからなり、かつ、レーザー光線を吸収する非プラスチック製の部材をそれぞれ用意する工程であり、前記融着工程では、前記レーザー光線を、前記非プラスチック製の部材に吸収させ発熱させて、前記部材同士を融着させる形態が含まれる。
【0014】
本発明に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法では、前記プラスチック製の部材が、100μm以下の厚さを有する部材である場合がある。100μm以下の厚さの薄いプラスチック部材であったとしても溶接部の熱変形を抑制しながら部材同士を接合することができる。
【0015】
本発明に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法では、前記部材の一方が容器の蓋であり、他方が容器本体であり、かつ、前記蓋はプラスチック製である形態がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、水が接合予定の部材間に介在していてもレーザー溶接することができ、たとえ部材が薄いプラスチック部材であったとしても溶接部の熱変形を抑制しながら部材同士を接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0018】
図1は、本実施形態に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法を説明するための概略断面図である。本実施形態に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法は、(1)接合予定の部材1,2を1組用意する準備工程、(2)部材1,2同士を接面させ、かつ、部材1,2同士を押し付けて(押し付ける力を符号3で示した)接面させたときに生ずる隙間空間7に水5を満たす接面工程、(3)部材1,2の少なくとも一方にレーザー光線4を照射し、水5を介して部材1,2同士を融着させる融着工程、を有する。以下、各工程を説明する。また、本実施形態は、接合する部材の組み合わせによって変形例があるため、実施形態ごとに説明する。
【0019】
(第1実施形態)
第1実施形態に係るレーザー溶接方法は、図1に示すように、プラスチック製の部材1,2を2つ用意する準備工程と、プラスチック製の部材1,2の少なくとも一つの表面にレーザー光線4を吸収する薄層6を形成する薄層形成工程と、薄層6が内側に配置されるように部材1,2同士を接面させ、かつ、部材1,2同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間7に水5を満たす接面工程と、部材1,2の少なくとも一方にレーザー光線4を照射して薄層6を発熱させ、水5を介して部材1,2同士を融着させる融着工程と、を有する。
【0020】
準備工程で準備するプラスチック製の部材1,2は、例えば一方が容器の蓋で、他方が容器の本体である場合がある。また、シート同士、すなわち上面フィルム及び下面フィルムであってもよい。レーザー溶接を行なうために少なくとも一方が熱可塑性を有している必要がある。第1実施形態では、レーザー光線4に対して光透過性の、例えば光透過率が60%以上の樹脂を使用する。部材1,2を形成するプラスチック樹脂は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリスチレン樹脂(PS)、シクロオレフィンコポリマ樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマ樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂である。この中で、PE、PP、PS又はPETが特に好ましい。プラスチック製の部材1,2は、隙間空間7に水を行き渡らせるために親水性を有することが好ましく、親水性処理を行なってもよい。
【0021】
なお、蓋は、プラスチック樹脂とガラス、セラミックス或いは金属との複合材料であってもよい。プラスチック樹脂で形成された部分が部材1,2となる。
【0022】
薄層形成工程では、プラスチック製の部材1,2の少なくとも一つの表面にレーザー光線4を吸収する薄層6を形成する。薄層6は、プラスチックの基材と一体的に形成されたもの、例えばインク(染料系・顔料系)による塗膜層、ブラスト処理による粗面層、薄膜又は蒸着膜である。薄層6は、0.1〜100μmの厚さがある。薄層6の吸収波長は、使用するレーザー光線4の発振波長によって適宜変更する。薄層6は、レーザー光線4を20%以上、好ましくは50%以上を吸収することが好ましい。
【0023】
薄層6を形成する場所は、プラスチック製の部材1,2の一方の部材のさらにその表裏面のうち一方の面である。また、プラスチック製の部材1,2の両方に薄層を形成してもよい。
【0024】
薄層6の代わりに、プラスチック製の部材1,2の少なくとも一つの表面にレーザー光線を吸収する成形物を挿入してもよい。成形物は基材とは別体である点で、薄層6と異なる。成形物は、例えば、カーボンブラックを含有したプラスチックフィルムである。なお、成形物を挿入する場合においても便宜上「薄層形成工程」ということとする。
【0025】
薄層6(若しくは成形物)は、少なくとも融着予定箇所に形成されていること必要であり、融着予定箇所よりも広い領域で形成していてもよい。
【0026】
接面工程では、薄層6(若しくは成形物)が内側に配置されるように部材1,2同士を接面させる。薄層6(若しくは成形物)を内側に配置することによって、接合面に効率的に熱を伝えることができる。そして、部材1,2は、成形精度の問題から部材1,2同士を押し付けて接面させたとしても隙間空間7が生ずる。この隙間空間7に水5を満たす。水5は最終的に隙間空間7を満たせば、その供給方法はいかなる方法であっても良く、例えば部材1,2の内側に配置される表面の少なくとも一方に水を吹き付け若しくは垂らすか、或いは、部材1,2自体を水に浸漬させるなどの供給方法がある。部材1,2を接面する前に水を付着させる供給方法と部材1,2を接面した後に水を付着させる供給方法のいずれでもよい。ここで、押し付けるため、隙間空間7の高さ(図1のh)が小さくなる。したがって、部材1,2間の隙間空間7に水5が毛細管現象で行き渡り、薄くかつ均一に拡がる。
【0027】
ここで、水5は、純水のみならず工業水、水道水又は天然水であってもよい。したがって水5には工業水、水道水又は天然水由来のミネラル成分や塩素成分その他の成分が含まれていてもよい。
【0028】
融着工程では、部材1,2の少なくとも一方にレーザー光線4を照射する。第1実施形態では、レーザー光線4に対して、光透過性の樹脂を使用するため、図1に示すように、部材1に照射されたレーザー光線4は部材1中を透過し、薄層6(若しくは成形物)を照射する。或いは、部材2にレーザー光線4を照射してもよく、この場合にはレーザー光線は部材2中を透過し、薄層6(若しくは成形物)を照射する。部材1,2の両方にレーザー光線を照射してもよい。いずれの場合においても、レーザー光線4の照射を受けた薄層6(若しくは成形物)は発熱する。これによって、水5は伝熱を受け、さらに伝熱を受けた部材1,2同士が融着される。
【0029】
隙間空間7に水が存在することで、隙間空間7がうまる。水(熱伝導率:0.6W/mK)は、空気(熱伝導率:0.02W/mK)よりも熱伝導度が高いので、薄層6(若しくは成形物)で発生した熱を水5は効率的に近傍の部材1,2の表面に伝える。このため、薄層6(若しくは成形物)のみが局所的に昇温してしまうことがない。さらに部材1,2間を押し付け力3で圧迫し、部材間の隙間空間7に水が毛細管現象で行き渡る程度に水が薄くかつ均一に拡がるため、水によって伝わった熱が部材表面を広くかつ均一に昇温させる。このため、部材1,2のいずれかが厚さ100μm以下、例えば10〜30μm厚であったとしても、熱変形若しくは穴開きが生じることがない。さらに、隙間空間7にある水5(屈折率n=1.30)があると、部材1,2(例えば屈折率n=1.56)と空気(屈折率n=1)の屈折率差よりも、部材1,2と水の屈折率差の方が小さいため、部材1,2の表面におけるレーザー光線4の乱反射が少なくなる。例えばフィルム間の反射が10%から2%まで低減される。このため、レーザー光線4を効率的に薄層6(若しくは成形物)に照射することができる。また、水は衛生的であるため、接合対象物が衛生性を要求される場合特に好適である。例えば、飲料・食品容器であり、部材1,2の一方が容器の蓋であり、他方が容器本体であり、かつ、蓋がプラスチック製の場合である。そして、レーザー光線4が照射されかつ水5を介した箇所において、部材1,2同士が融着する。水は溶質を含んでいないので、蒸発後に残渣が残ることがない。なお、部材1,2間の隙間から気化した水蒸気が排出される。
【0030】
レーザー光線4のレーザー発振素子は、半導体レーザー、炭酸ガスレーザー等のガスレーザー、YAGレーザーが例示され、レーザー溶接を行なう容器本体及び蓋の材質、レーザー照射移動速度、照射スポット形状等の各種パラメーターによって適宜選択する。レーザー光の波長は、例えば800〜1000nmである。プラスチック容器本体とそのプラスチック蓋やボトル形状の缶胴体とそのプラスチック蓋をレーザー溶接する場合には、半導体レーザーが好ましい。
【0031】
半導体レーザーの波長は、プラスチック製の部材1,2を透過する波長であればよいが、特に920〜1100nm、好ましくは940〜980nmにすると、水の吸収波長域と合致するため、水も直接に加熱されるため、より効率の高いレーザー溶接を行なうことができる。
【0032】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るレーザー溶接方法は、プラスチック製の部材と金属、ガラス又はセラミックスからなる非プラスチック製の部材をそれぞれ用意する準備工程と、部材の少なくとも一つの表面にレーザー光線を吸収する薄層を形成するか、或いは、レーザー光線を吸収する成形物を挿入する薄層形成工程と、薄層若しくは成形物が内側に配置されるように部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす接面工程と、部材の少なくとも一方にレーザー光線を照射して薄層若しくは成形物を発熱させ、部材同士を融着させる融着工程と、を有する。第1実施形態に係るレーザー溶接方法との相違は、接合対象物の一方が、金属、ガラス又はセラミックスからなる非プラスチック製の部材であることである。これによる工程の相違点について、図1を用いて説明する。
【0033】
(準備工程)
部材1が金属製で、部材2がプラスチック製の例としては、容器本体が金属缶本体若しくはボトル缶本体であり、蓋がプラスチック蓋である場合である。部材1がガラス製で、部材2がプラスチック製の例としては、容器本体がガラス壜であり、蓋がプラスチック蓋の場合である。部材1がセラミック製で、部材2がプラスチック製の例としては、容器本体が陶磁器製の容器本体であり、蓋がプラスチック蓋である場合である。
【0034】
(薄層形成工程)
薄層6は、部材1と部材2のいずれの表面に形成してもよい。成形物は、部材1と部材2のいずれの表面に付着させてもよい。これらの工程は第1実施形態に係るレーザー溶接方法と同様である。
【0035】
(接面工程)
薄層6(若しくは成形物)を設けた面が内側に配置されるように部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間7に水を満たす。これらの工程は第1実施形態の場合と同様である。
【0036】
(融着工程)
部材1,2にレーザー光線4を照射する場合には、薄層6(若しくは成形物)にレーザー光線4を照射する必要があるため、レーザー光線4を透過する部材側に照射する。すなわち、プラスチック製の部材にレーザー光線4を照射することが好ましい。それ以外は第1実施形態と同様である。なお、部材の一方が非プラスチック製の場合、非プラスチック製の部材自体は溶融しないため、プラスチック製の部材との密着性を高めるために、非プラスチック製の部材の溶接予定の表面を予め粗面にしておいてもよい。
【0037】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るレーザー溶接方法は、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材を2つ用意する準備工程と、部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす接面工程と、部材の少なくとも一方にレーザー光線を照射して吸収体を発熱させ、部材同士を融着させる融着工程と、を有する。第1実施形態に係るレーザー溶接方法との相違は、接合対象の部材が2つともレーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製であることである。これによる工程の相違点について、図1を用いて説明する。
【0038】
(準備工程)
プラスチック製の部材1,2が2つともレーザー光線を吸収する吸収体を含有している。吸収体としては顔料や染料であり、例えば部材を成形する際にこれらの吸収体を混合する。プラスチック製の部材がレーザー光線4を吸収するため、第1実施形態における薄層形成工程、すなわち、薄層6(若しくは成形体)の形成を省略することができる。
【0039】
(接面工程)
接面工程においては、薄層6(若しくは成形体)を形成しないため、いずれの面を内側にするかという管理が不要となる。それ以外は第1実施形態の接面工程と同じであり、部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす。
【0040】
(融着工程)
部材1,2にレーザー光線4を照射する場合には、いずれの部材に照射してもよい。部材に含有された吸収体がレーザー光線4によって発熱し、部材同士の融着と接合が進む。水5が隙間空間7にあるため、レーザー光線4を照射しない部材まで熱が効率的に伝導し、レーザー溶接が効率的に進む。レーザー光線4を照射する部材の吸収体の含有量を他方の部材と比較して低量としておいてもよい。
【0041】
(第4実施形態)
第4実施形態に係るレーザー溶接方法は、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材とレーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材をそれぞれ用意する準備工程と、部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす接面工程と、部材の少なくとも一方にレーザー光線を照射して吸収体を発熱させ、部材同士を融着させる融着工程と、を有する。第3実施形態に係るレーザー溶接方法との相違は、接合対象の部材の一方がレーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材であり、他方がレーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材であることである。これによる工程の相違点について、図1を用いて説明する。
【0042】
(準備工程)
レーザー光線を吸収する吸収体を含有しているプラスチック製の部材は第3実施形態で用いた部材と同様であり、レーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材は第1実施形態で用いた部材と同様である。レーザー光線を吸収する吸収体を含有しているプラスチック製の部材がレーザー光線4を吸収するため、第1実施形態における薄層形成工程、すなわち、薄層6(若しくは成形体)の形成を第3実施形態の場合と同様に省略することができる。
【0043】
(接面工程)
接面工程においては、薄層6(若しくは成形体)を形成しないため、いずれの面を内側にするかという管理が不要であり、第3実施形態の場合と同様の工程となる。
【0044】
(融着工程)
部材にレーザー光線4を照射する場合には、いずれの部材に照射してもよいが、レーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材にレーザー光線4を照射し、当該部材中にレーザー光線を透過させ、その透過したレーザー光線を、当該レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材に照射することが好ましい。部材の接面している箇所で発熱量を多くすることができ、効率的にレーザー溶接を進めることができる。部材同士の融着と接合を進めるのは第3実施形態の融着工程と同様である。
【0045】
(第5実施形態)
第5実施形態に係るレーザー溶接方法は、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材と金属、ガラス又はセラミックスからなる非プラスチック製の部材をそれぞれ用意する準備工程と、部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす接面工程と、部材の少なくとも一方にレーザー光線を照射して吸収体を発熱させ、部材同士を融着させる融着工程と、を有する。第3実施形態に係るレーザー溶接方法との相違は、接合対象の部材の一方がレーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材であり、他方が金属、ガラス又はセラミックスからなる非プラスチック製の部材であることである。これによる工程の相違点について、図1を用いて説明する。
【0046】
(準備工程)
レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材は第3実施形態で用いたプラスチック製の部材と同様である。金属、ガラス又はセラミックスからなる非プラスチック製の部材は、第2実施形態で用いた非プラスチック製の部材と同様である。プラスチック製の部材が例えば容器の蓋である。プラスチック製の部材に含まれている吸収体がレーザー光線4を吸収するため、第3実施形態の場合と同様に薄層6(若しくは成形体)の形成を省略することができる。また、非プラスチック製の部材は、例えば容器本体であり、レーザー光線4を吸収しなくてもよい。
【0047】
(接面工程)
接面工程においては、第3実施形態と同様に、薄層6(若しくは成形体)を形成しないため、いずれの面を内側にするかという管理が不要となる。第3実施形態の接面工程と同じであり、部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす。
【0048】
(融着工程)
レーザー光線4を照射する場合には、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材に照射する。ここで、非プラスチック製の部材がレーザー光線4を透過する場合、レーザー光線4を直接プラスチック製の部材に照射するか、或いは、非プラスチック製の部材中にレーザー光線4を透過させた後、プラスチック製の部材に照射するかのいずれでもよい。非プラスチック製の部材が、レーザー光線4を透過せず、反射する場合では、レーザー光線4を直接プラスチック製の部材に照射する。そして、部材に含有された吸収体がレーザー光線4によって発熱し、部材同士の融着と接合が進む。水5が隙間空間7にあるため、レーザー光線4を照射しない部材まで熱が効率的に伝わり、レーザー溶接が効率的に進む。
【0049】
(第6実施形態)
第6実施形態に係るレーザー溶接方法は、レーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材と金属、ガラス又はセラミックスからなり、かつ、レーザー光線を吸収する非プラスチック製の部材をそれぞれ用意する準備工程と、部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす接面工程と、部材の少なくとも一方にレーザー光線を照射してレーザー光線を吸収する非プラスチック製の部材を発熱させ、部材同士を融着させる融着工程と、を有する。第5実施形態に係るレーザー溶接方法との相違は、接合対象の部材の一方がレーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材であり、他方が金属、ガラス又はセラミックスからなり、かつ、レーザー光線を吸収する非プラスチック製の部材であることである。これによる工程の相違点について、図1を用いて説明する。
【0050】
(準備工程)
非プラスチック製の部材がレーザー光線を吸収する。例えば、着色イオンや着色コロイドを含有させたガラスである。具体的には非プラスチック製の部材は着色壜等の容器本体である。また非プラスチック製の部材はレーザー光線を吸収する有色のセラミックスである。具体的には陶磁器等の容器本体である。非プラスチック製の部材がレーザー光線4を吸収するため、第5実施形態の場合と同様に薄層6(若しくは成形体)の形成を省略することができる。また、レーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材が例えば容器の蓋である。
【0051】
(接面工程)
接面工程においては、第5実施形態と同様に、薄層6(若しくは成形体)を形成しないため、いずれの面を内側にするかという管理が不要となる。第5実施形態の接面工程と同じであり、部材同士を接面させ、かつ、部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす。
【0052】
(融着工程)
レーザー光線4を照射する場合には、レーザー光線を吸収する非プラスチック製の部材に照射する。ここで、プラスチック製の部材がレーザー光線4を透過するので、プラスチック製の部材と非プラスチック製の部材のいずれに照射してもよいが、レーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材にレーザー光線4を照射し、当該部材中にレーザー光線を透過させ、その透過したレーザー光線を、非プラスチック製の部材に照射することが好ましい。部材の接面している箇所で発熱量を多くすることができ、効率的にレーザー溶接を進めることができる。部材同士の融着と接合を進める工程は第5実施形態と同様である。
【0053】
第1〜第6の実施形態に係るレーザー溶接方法においては、部材は、隙間空間7を形成するために、部材1,2同士が接面しあう面(溶接予定面)を有していることが好ましい。例えば、容器本体の口部外面と蓋の内面とが接面し合えば、接面箇所を溶接することで容器を密封することができる。隙間空間7の高さhは、接面予定箇所において必ずしも一定である必要はなく、例えば0〜100μmの範囲、つまり最大高さを例えば100μmとすることが好ましい。これによって水5の偏在を抑制することができる。隙間空間7の幅(図1の紙面法線方向の長さ)は、少なくともレーザー光線4の照射幅より大きいことが好ましく、例えば、500〜5000μmである。ただし、レーザー光線4を平行して複数回照射する場合、隙間空間の幅はレーザー光線の走査回数に応じて大きくしてもよい。溶接箇所の幅が大きくなれば接合強度を高めることができる。
【実施例】
【0054】
(実施例)
ポリスチレンフィルム(厚さ17μm)を2枚準備し、水を1〜2滴フィルム表面にたらした後、フィルム面を合わせて密着させた。次に波長940nmで100W出力のCWファイバレーザーを用いて、フィルムが接面し合っている箇所にレーザー光線を直線状に照射した。レーザー光線を走査した箇所では、水は瞬時に昇温すると共に、レーザー融着していることが確認できた。
【0055】
(比較例)
ポリスチレンフィルム(厚さ17μm)を2枚準備し、そのままフィルム面を合わせて密着させた。次に波長940nmで100W出力のCWファイバレーザーを用いて、フィルムが接面し合っている箇所にレーザー光線を直線状に照射した。レーザー光線を走査した上面フィルムのみが溶断し、レーザー融着できなかったことが確認できた。フィルムの合わせ面において空気断熱層が生じ、上面フィルムのみに熱が蓄積してレーザー溶接をするには至らなかったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施形態に係る水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法を説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1,2 部材
3 押し付け力
4 レーザー光線
5 水
6 薄層(若しくは成形物)
7 隙間空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合予定の部材を1組用意する準備工程と、
前記部材同士を接面させ、かつ、前記部材同士を押し付けて接面させたときに生ずる隙間空間に水を満たす接面工程と、
前記部材の少なくとも一方にレーザー光線を照射し、前記部材同士を融着させる融着工程と、
を有することを特徴とする水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法。
【請求項2】
前記準備工程は、プラスチック製の部材を2つ用意するか、或いは、プラスチック製の部材と金属、ガラス又はセラミックスからなる非プラスチック製の部材をそれぞれ用意する工程であり、
前記準備工程の後に、さらに前記部材の少なくとも一つの表面にレーザー光線を吸収する薄層を形成するか、或いは、レーザー光線を吸収する成形物を挿入する工程を設け、
前記接面工程では、前記薄層若しくは前記成形物が内側に配置されるように前記部材同士を接面させ、
前記融着工程では、前記レーザー光線を前記薄層若しくは前記成形物に吸収させ発熱させて、前記部材同士を融着させることを特徴とする請求項1に記載の水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法。
【請求項3】
前記準備工程は、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材を2つ用意するか、或いは、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材とレーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材をそれぞれ用意するか、或いは、レーザー光線を吸収する吸収体を含有させたプラスチック製の部材と金属、ガラス又はセラミックスからなる非プラスチック製の部材をそれぞれ用意する工程であり、
前記融着工程では、前記レーザー光線を前記吸収体に吸収させ発熱させて、前記部材同士を融着させることを特徴とする請求項1に記載の水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法。
【請求項4】
前記準備工程は、レーザー光線を吸収する吸収体を含有しないプラスチック製の部材と金属、ガラス又はセラミックスからなり、かつ、レーザー光線を吸収する非プラスチック製の部材をそれぞれ用意する工程であり、
前記融着工程では、前記レーザー光線を、前記非プラスチック製の部材に吸収させ発熱させて、前記部材同士を融着させることを特徴とする請求項1に記載の水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法。
【請求項5】
前記プラスチック製の部材が、100μm以下の厚さを有する部材であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法。
【請求項6】
前記部材の一方が容器の蓋であり、他方が容器本体であり、かつ、前記蓋はプラスチック製であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5に記載の水を介在させたプラスチック部材のレーザー溶接方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−66820(P2009−66820A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235887(P2007−235887)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】