説明

水性シーラーの塗装方法及びそれにより得られる塗装物

【課題】含浸シーラー及び防水シーラーをウェットオンウェットで塗装することによって、防水シーラーと基材との間で温水でのハクリを防止し、同時に優れた防水性を付与できる水性シーラーの塗装方法及びそれにより得られる塗装物を提供する。
【解決手段】基材に水性シーラー(a)を塗装する工程(1)、及び、工程(1)を行うことにより得られた基材に水性シーラー(b)を塗装する工程(2)を含んでなる水性シーラーの塗装方法であって、水性シーラー(a)は、組成を特定したスチレンー(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体エマルション樹脂(a1)と、水溶性珪酸塩(a2)とを含有し、水性シーラー(b)は、組成を特定したスチレンー(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体エマルション樹脂(b1)を含有するものであり、工程(1)及び上記工程(2)は、ウェットオンウェットで行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性シーラーの塗装方法及びそれにより得られる塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、珪酸カルシウム板、パルプセメント板、石綿スレート板、スラグ石膏板、炭酸マグネシウム板、石綿パーライト板、木片セメント板、ALC板等の無機質系窯業建材は、軽さ、断熱性及び遮音性等に優れていることから、建築材料の基材として広く用いられている。このような建築材料は屋外に曝され、水が内部に浸透することにより、その材料の劣化を招くことになる。そこで一般的には、その基材表面にシーラー又はプライマーと呼ばれる下塗り塗料が塗布されており、近年、環境への配慮から、このシーラーが溶剤型から水性型へ移行しつつある。
【0003】
このような水性シーラーは、水性化するために親水性が高く、得られた塗膜に水分が付着すると、その水分が塗膜に浸透し、基材に達してしまう。このため、充分な防水性を得ることが困難であり、通常、水性シーラーを2回施すこと等によって防水性を付与している。
【0004】
水性シーラーの塗装を2回行って防水性を付与する場合、通常、1回目の塗装として、含浸シーラーと呼ばれる水性シーラーを、基材表面にほとんど残存しないように調整して塗装し、基材中に含浸シーラーを適当量浸透させ、次いで、2回目の塗装として、防水シーラーと呼ばれる水性シーラーの塗装を行い、防水性を付与している。
【0005】
従来では、このように含浸シーラーの塗装、防水シーラーの塗装を行う場合、各々の塗装後に、乾燥工程を行っていたが、近年、省エネルギーの観点から、工程を短縮する要請があり、含浸シーラーの塗装後の乾燥工程を省略し、含浸シーラー塗装後のウェット塗膜上に、ウェットオンウェットで防水シーラーを塗装することによって充分な防水性を付与することができる水性シーラーの塗装方法の開発が望まれている。
【0006】
しかしながら、従来から使用されている含浸シーラーを塗装し、形成されたウェット塗膜上に、ウェットオンウェットで防水シーラーを塗装すると、含浸シーラーの塗装後における基材の表面上に、含浸シーラー中の珪酸ソーダ等の水溶性珪酸塩が残存している場合に、防水シーラーと基材との密着性が低下してしまう。
【0007】
このような防水シーラーと基材との密着性の低下を防止するためには、含浸シーラー中の水溶性珪酸塩が適切に基材中にしみ込んでいくことが必要であると考えられるが、従来の塗装方法では、優れた防水性を付与しつつ、充分に防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができなかった。
【0008】
特許文献1には、コア部が、特定のコア/シェル型水性エマルションと、水溶性珪酸塩とを、固形分質量比で、10:1〜1:10の配合割合で含む水性塗料組成物が開示されている。しかし、ここで開示されている水性塗料組成物は、保存安定性に優れ、多孔質基材及び上塗り塗料双方との密着性にも優れたものを提供する目的で開発されたものであり、水性下塗り塗料組成物をウェットオンウェットで塗装する場合には、防水シーラーと基材との間の密着性が劣り、防水性を付与することができなくなるという問題点がある。
【0009】
従って、含浸シーラー及び防水シーラーをウェットオンウェットで塗装する場合に、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができ、また、同時に優れた防水性を付与することができる水性シーラーの塗装方法の開発が望まれていた。
【0010】
【特許文献1】特開2000−86935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、含浸シーラー及び防水シーラーをウェットオンウェットで塗装する場合に、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができ、同時に優れた防水性を付与できる水性シーラーの塗装方法及びそれにより得られる塗装物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、基材に水性シーラー(a)を塗装する工程(1)、及び、上記工程(1)を行うことにより得られた基材に水性シーラー(b)を塗装する工程(2)を含んでなる水性シーラーの塗装方法であって、上記水性シーラー(a)は、反応性乳化剤の存在下、スチレンモノマーを20〜70質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを30〜80質量%、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜10質量%、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜5.0質量%及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマーを含有するモノマー混合物(上記モノマー混合物の合計質量は100質量%)を乳化重合して得られた樹脂エマルション(a1)と、下記式(i);
O・xSiO (i)
(式中、Mは、アルカリ金属を表す。xは、2.0〜7.5の値を表す。)
で表される水溶性珪酸塩(a2)とを含有し、上記樹脂エマルション(a1)と上記水溶性珪酸塩(a2)との配合比〔(a1):(a2)〕が、固形分質量比で、90:10〜30:70であり、上記水性シーラー(b)は、反応性乳化剤の存在下、スチレンモノマーを20〜70質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを30〜80質量%、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜10質量%、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜5.0質量%及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマーを含有するモノマー混合物(上記モノマー混合物の合計質量は100質量%)を乳化重合して得られた樹脂エマルション(b1)を含有するものであり、上記工程(1)及び上記工程(2)は、ウェットオンウェットで行われるものであることを特徴とする水性シーラーの塗装方法である。
【0013】
上記水性シーラー(a)は、更に、界面活性剤を含有するものであることが好ましい。
上記界面活性剤は、シリコーン界面活性剤であることが好ましい。
【0014】
上記樹脂エマルション(a1)は、ガラス転移温度が0〜50℃であることが好ましい。
上記樹脂エマルション(a1)の溶解性パラメーターをSPa1、上記樹脂エマルション(b1)の溶解性パラメーターをSPb1とした場合に、|SPa1−SPb1|≦1の関係を満たすことが好ましい。
上記基材は、無機質系基材であることが好ましい。
上記無機質系基材は、無機質系窯業建材であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、上記水性シーラーの塗装方法を行うことにより得られることを特徴とする塗装物でもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の水性シーラーの塗装方法は、無機質系窯業建材等の基材の表面に適用するものである。上記水性シーラーの塗装方法を適用することによって、被塗物に優れた防水性を付与することができ、また、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができる。
【0017】
本発明の水性シーラーの塗装方法は、水性シーラー(a)の塗装と水性シーラー(b)の塗装とをウェットオンウェットで行う方法である。即ち、上記水性シーラーの塗装方法は、従来の塗装方法において通常行われている乾燥工程を省略した方法であるため、省エネルギー化の観点から好ましい方法である。
【0018】
本発明の水性シーラーの塗装方法は、基材に、樹脂エマルション(a1)及び水溶性珪酸塩(a2)を特定の配合比で含有する水性シーラー(a)〔以下、「含浸シーラー」ともいう〕を塗装し、次いで、水性シーラー(a)を塗装した基材に対して、ウェットオンウェットで、樹脂エマルション(b1)を含有する水性シーラー(b)〔以下、「防水シーラー」ともいう〕を塗装する方法である。このため、ウェットオンウェットで塗装する場合であっても、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができ、また、優れた防水性を付与することもできる。
【0019】
本発明の水性シーラーの塗装方法を適用する基材としては特に限定されないが、無機系基材が好ましい。上記無機系基材として、珪酸カルシウム板、パルプセメント板、石綿スレート板、スラグ石膏板、炭酸マグネシウム板、石綿パーライト板、木片セメント板、ALC板等の無機質系窯業建材が好ましい。
【0020】
本発明の水性シーラーの塗装方法は、先ず、基材に水性シーラー(a)を塗装する工程(1)を行い、次いで、上記工程(1)を行うことにより得られた水性シーラー(a)を塗装した基材に、ウェットオンウェットで、水性シーラー(b)を塗装する工程(2)を行うものである。上記工程(1)及び工程(2)をウェットオンウェットで行うものであるため、省エネルギー化の観点から好ましい方法である。
【0021】
上記ウェットオンウェットとは、上記水性シーラー(a)を塗装し、乾燥を行うことなく、ウェット塗膜上に、上記水性シーラー(b)を塗装することである。上記ウェットオンウェットには、上記水性シーラー(a)の塗装後に、プレヒートを行い、次いで、上記水性シーラー(b)の塗装を行うことも含まれる。
【0022】
上記プレヒートは、被塗物の表面温度が5〜100℃で行うことができる。下限未満であると、防水シーラーの成膜不良によって防水性の低い基材との間で密着性が低下してしまうおそれがある。上限を超えると、経済的に不利となるおそれがある。よって、より好ましくは、被塗物の表面温度が50〜90℃によって行うことが好ましい。
【0023】
上記水性シーラー(a)は、反応性乳化剤の存在下、スチレンモノマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマー及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマーを特定割合で含有するモノマー混合物を乳化重合して得られた樹脂エマルション(a1)と、上記式(i)で表される水溶性珪酸塩(a2)とを含有するものである。
【0024】
上記反応性乳化剤は、1分子中にラジカル重合性不飽和基を有する界面活性剤であれば特に限定されず、例えば、エレミノールJS−1、エレミノールJS−2(三洋化成社製)、S−120、S−180A、S−180(花王社製)、アクアロンHS−10(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE−10N、アデカリアソープSE−20N(旭電化社製)、ANTOX MS−60(日本乳化剤社製)等を挙げることができる。なかでも、乳化重合において反応性の高いアクアロンHS−10が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記樹脂エマルション(a1)において、上記反応性乳化剤の使用量は、上記モノマー混合物100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましい。0.1質量部未満であると、良好なエマルション重合安定性を得ることが困難となるおそれがある。5質量部を超えると、エマルション粒子表面の親水性が高くなり、防水性が低下するおそれがある。
【0026】
上記樹脂エマルション(a1)において、上記スチレンモノマーの含有量は、上記モノマー混合物100質量%中に、下限20質量%、上限70質量%である。スチレンモノマーを使用することにより、水性シーラー(a)により形成された塗膜のTgを高め、吸水率を低下させ、その結果、防水性を高めることができる。また、スチレンモノマーを上記範囲で用いることにより、水性シーラーであっても形成される塗膜の表面の溶解性パラメータ(SP)値が適度に低下して、上塗り塗膜のSP値と近似することとなり、その結果、水性シーラー(b)と上塗り塗膜との密着性を向上させることができる。20質量%未満であると、上記効果が得られず、70質量%を超えると、Tgが高くなりすぎて、造膜性が低下して塗膜欠陥の発生につながり、その結果、防水性が低下するおそれがある。上記下限は、30質量%であることが好ましく、上記上限は、50質量%であることがより好ましい。
【0027】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることにより、塗膜に柔軟性と耐水性とを付与することができる。
上記樹脂エマルション(a1)において、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記樹脂エマルション(a1)において、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、上記モノマー混合物100質量%中に、下限30質量%、上限80質量%である。
【0029】
上記樹脂エマルション(a1)において、上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性基とアルコキシシリル基を有するモノマーである。上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーは、1分子中にラジカル重合性基とアルコキシシリル基という2つの官能基を有するものであるため、乳化重合して得られた樹脂エマルション(a1)中で一部内部架橋を形成することができ、又、無機質系窯業建材等の基材との親和性を増すことができる。そのため形成された塗膜は、吸水率を低下させることができ、その結果、より防水性を向上させることができ、かつ優れた密着性を発揮することができる。
【0030】
上記樹脂エマルション(a1)において、上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、デセニルトリメトキシシラン、4−ビニルフェニルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記樹脂エマルション(a1)において、上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーの含有量は、上記モノマー混合物100質量%中に、下限0.1質量%、上限10質量%である。0.1質量%未満であると、内部架橋することができず、無機質基材との親和性が低く、そのため塗膜の防水性・密着性を向上させることができなくなるおそれがある。10質量%を超えると、内部架橋が過剰となり、その結果、架橋密度が高くなりすぎて、造膜性が低下し、かえって防水性が低下するおそれがある。上記下限は、0.5質量%であることが好ましく、上記上限は、3.0質量%であることが好ましい。
【0032】
上記樹脂エマルション(a1)において、上記カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性基とカルボキシル基を有するモノマーである。上記カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを使用するため、得られる樹脂エマルション(a1)をアミン等により、水分散化させることができる。
【0033】
上記カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸等を挙げることができる。これらのモノマーを共重合させると、樹脂エマルションの機械的安定性、貯蔵安定性等の安定性が増大し、無機質基材との密着性が増大する。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記樹脂エマルション(a1)において、上記カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーの含有量は、上記モノマー混合物100質量%中に、下限0.1質量%、上限5.0質量%である。この割合で含有することにより、分散安定性が良好な樹脂エマルション(a1)を得ることができる。0.1質量%未満であると、上記の諸安定性が低下し、無機質基材との密着性も低下するおそれがある。5.0質量%を超えると、耐水性が劣り防水性が低下するおそれがある。上記上限は、3.0質量%であることが好ましい。
【0035】
上記樹脂エマルション(a1)は、上記スチレンモノマー、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル、上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー及び上記カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを必須モノマーとして用いて得られるものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲で、これら以外にその他のラジカル重合性モノマーを更に用いても良い。
【0036】
上記樹脂エマルション(a1)において、上記その他のラジカル重合性モノマーとしては特に限定されず、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記樹脂エマルション(a1)は、通常の乳化重合により得ることができる。その際使用する反応開始剤としては、通常、水溶性開始剤を使用することができる。上記水溶性開始剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の無機過酸化物開始剤、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、テトラリンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルヒドロペルオキシド等の有機過酸化物開始剤、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)のようなアゾ系開始剤等を挙げることができる。
【0038】
上記樹脂エマルション(a1)は、カルボキシル基を含有しているため、中和して水分散化を行うものであるが、その中和剤として、揮発性のアミン類が好ましい。揮発性のアミンは、塗膜が形成されるときには、大気中に揮散して、塗膜中の残存量を少なくすることができる。このことは、塗膜の親水性を低下させることとなり、その結果、防水性を向上させることができる。
【0039】
上記揮発性のアミンとしては、例えば、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ−n−プロピルアミン、ジメチル−n−プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジメタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記樹脂エマルション(a1)は、ガラス転移温度Tgが、下限0℃、上限50℃であることが好ましい。0℃未満であると、基材への含浸力が低下する上に、防水シーラーと基材との間の密着性が低下するおそれがある。50℃を超えると、造膜性が低下して、かえって防水性が低下するおそれがある。
【0041】
本明細書中において、ガラス転移温度Tgは、下記トボルスキ(Tobolsky)の計算式により算出される値である。この式による計算値は、実測値とほぼ一致する値である。なお、本明細書におけるガラス転移温度Tgは、下記トボルスキ(Tobolsky)の計算式により算出される値である。
【0042】
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・・・+W/Tg(式中、Tgは共重合体のガラス転移温度(K)、Tg、Tg、・・・、Tgはそれぞれ単量体1、2、・・・、nのホモポリマーのガラス転移温度(K)、W、W、・・・、Wはそれぞれ単量体1、2、・・・、nの質量分率を示す。)上記樹脂エマルション(a1)は、コア・シェル型の樹脂エマルションであってもよい。
【0043】
上記水性シーラー(a)に含まれる水溶性珪酸塩(a2)は、上記式(i)で表されるものである。上記式(i)中において、Mは、アルカリ金属を表す。上記アルカリ金属Mとしては特に限定されないが、基材への浸透性が優れることと、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができる点から、Li、Na、Kが好ましい。
【0044】
上記式(i)中において、xは、2.0〜7.5の値を表す。2.0未満であると、得られる水性シーラー(a)の耐水性が劣り、7.5を超えると、得られる水性シーラー(a)の基材への密着性が劣る。好ましくは、2.0〜4.5である。
【0045】
上記水溶性珪酸塩(a2)は、完全な水溶液形態であることが好ましい。コロイド状のもの等は、基材への浸透性や密着性が劣るため好ましくない。上記水溶性珪酸塩(a2)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記水性シーラー(a)中において、上記樹脂エマルション(a1)と上記水溶性珪酸塩(a2)との配合比〔(a1):(a2)〕が、固形分質量比で、90:10〜30:70である。樹脂エマルション(a1)の配合量がこの範囲よりも多いと、含浸シーラー及び防水シーラーをウェットオンウェットで塗装する場合に、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができないおそれがある。一方、樹脂エマルション(a1)の配合量がこの範囲よりも少ないと、防水性が低下するおそれがある。樹脂エマルション(a1)の成分によっても異なるが、好ましい配合比は、(a1):(a2)が90:10〜40:60であり、より好ましい配合比は、90:10〜50:50である。
【0047】
上記水性シーラー(a)は、上記樹脂エマルション(a1)及び上記水溶性珪酸塩(a2)のほかに、界面活性剤を含有するものであることが好ましい。これにより、より表面張力が下がるため、塗装した含浸シーラー中の水溶性珪酸塩(a2)が基材中により充分にしみ込ませることができ、その結果、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができる。
【0048】
上記界面活性剤としては特に限定されず、従来公知のものを使用することができるが、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができる観点から、シリコーン界面活性剤であることが好ましい。
上記シリコーン界面活性剤としては、界面活性作用を有するシリコーン化合物であれば特に限定されず、例えば、分子内にポリオキシアルキレン基(ポリエーテル基)を有するポリエーテル変性シリコーン等を挙げることができる。上記ポリオキシアルキレン基としては、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン基等を挙げることができる。
【0049】
上記シリコーン界面活性剤は、ポリオキシアルキレン基等の親水性基の位置によって、ペンダント型(側鎖変性シリコーン)、末端変性型(末端変性シリコーン)、末端側鎖変性型(末端側鎖変性シリコーン)、ABN型(オルガノシロキサン部位と親水性部位とが交互に結合しているもの)等に分類される。
【0050】
上記シリコーン界面活性剤のなかでも、下記式(ii)、(iii)、(iv)で表される変性シリコーンが好ましい。下記式(ii)で表される変性シリコーンは、ペンダント型、下記式(iii)で表される変性シリコーンは末端変性型、下記式(iv)で表される変性シリコーンはABN型に該当するものである。
【0051】
【化1】

【0052】
(式(ii)中、Rは、水素原子又はアルキル基を表す。k及びlは、同一又は異なって、正の整数を表す。a及びbは、同一又は異なって、0〜100の整数を表す。)
【0053】
上記式(ii)中、上記Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル基等の炭素数1〜20のアルキル基等を挙げることができる。なかでも、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。上記k及び上記lは、1〜100の整数であることが好ましい。上記a及び上記bは、0〜50の整数であることが好ましい。
【0054】
【化2】

【0055】
(式(iii)中、Rは、水素原子又はアルキル基を表す。sは、同一又は異なって、正の整数を表す。c及びdは、同一又は異なって、0〜100の整数を表す。)
【0056】
上記式(iii)中、上記Rで表されるアルキル基は、上記Rと同様のものを挙げることができる。なかでも、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。上記sは、1〜100の整数であることが好ましい。上記c及び上記dは、0〜50の整数であることが好ましい。
【0057】
【化3】

【0058】
(式(iv)中、Rは、ヒドロキシル基又はアルコキシ基を表す。Rは、水素原子又はアルキル基を表す。A及びAは、同一若しくは異なって、−C−基又は−C−基を表す。t及びuは、同一又は異なって、正の整数を表す。e、f、g及びhは、同一又は異なって、0〜100の整数を表す。)
【0059】
上記式(iv)中、上記Rで表されるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ、s−ブチルオキシ、t−ブチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基等を挙げることができる。なかでも、ヒドロキシル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基であることが好ましい。上記Rで表されるアルキル基は、上記Rと同様のものを挙げることができる。なかでも、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。上記t及び上記uは、1〜100の整数であることが好ましい。上記e、上記f、上記g、上記hは、0〜50の整数であることが好ましい。
【0060】
上記界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記水性シーラー(a)は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記以外の他の成分を含有するものであってもよい。
【0061】
上記水性シーラー(a)の製造方法としては、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、反応性乳化剤の存在下で、スチレンモノマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマー及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマーを仕込み、常法により乳化重合を行い、樹脂エマルション(a1)を製造する。次に、上記で製造した樹脂エマルション(a1)及び水溶性珪酸塩(a2)を混合し、上記水性シーラー(a)を製造することができる。上述のようにして得られた水性シーラー(a)は、上記水性シーラーの塗装方法に適用することによって、無機質系窯業建材用の含浸シーラーとして好適に使用することができる。
【0062】
上記水性シーラー(b)は、反応性乳化剤の存在下、スチレンモノマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマー及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマーを特定割合で含有するモノマー混合物を乳化重合して得られた樹脂エマルション(b1)を含有するものである。
【0063】
上記樹脂エマルション(b1)の製造に使用する反応性乳化剤としては、例えば、上述した樹脂エマルション(a1)の製造に使用する反応性乳化剤と同様のものを使用することができ、同様の使用量で製造することができる。
【0064】
上記樹脂エマルション(b1)において、上記スチレンモノマーの含有量は、上記モノマー混合物100質量%中に、下限20質量%、上限70質量%である。スチレンモノマーを使用することにより、水性シーラー(b)により形成された塗膜のTgを高め、吸水率を低下させ、その結果、防水性を高めることができる。また、スチレンモノマーを用いることにより、水性シーラーであっても形成される塗膜の表面の溶解性パラメータ(SP)値が低下して、上塗り塗膜のSP値と近似することとなり、その結果、上塗り塗膜との密着性を向上させることができる。20質量%未満であると、上記効果が得られず、70質量%を超えると、Tgが高くなりすぎて、造膜性が低下して塗膜欠陥の発生につながり、その結果、防水性が低下するおそれがある。上記下限は、30質量%であることが好ましく、上記上限は、50質量%であることがより好ましい。
【0065】
上記樹脂エマルション(b1)の製造に使用する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、上述した樹脂エマルション(a1)の製造に使用する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと同様のものを使用することができる。
【0066】
上記樹脂エマルション(b1)において、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、上記モノマー混合物100質量%中に、下限30質量%、上限80質量%である。
【0067】
上記樹脂エマルション(b1)の製造に使用するアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性基とアルコキシシリル基を有するモノマーであり、上述した樹脂エマルション(a1)の製造に使用するアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーと同様のものを使用することができる。
【0068】
上記樹脂エマルション(b1)において、上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーの含有量は、上記モノマー混合物100質量%中に、下限0.1質量%、上限10質量%である。0.1質量%未満であると、内部架橋することができず、そのため塗膜の防水性を向上させることができなくなるおそれがある。10質量%を超えると、内部架橋が過剰となり、その結果、架橋密度が高くなりすぎて、造膜性が低下し、かえって防水性が低下するおそれがある。上記下限は、0.5質量%であることが好ましく、上記上限は、3.0質量%であることが好ましい。
【0069】
上記樹脂エマルション(b1)の製造に使用するカルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性基とカルボキシル基を有するモノマーであり、上述した樹脂エマルション(a1)の製造に使用するカルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーと同様のものを使用することができる。
【0070】
上記樹脂エマルション(b1)において、上記カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーの含有量は、上記モノマー混合物100質量%中に、下限0.1質量%、上限5.0質量%である。この割合で含有することにより、分散安定性が良好な樹脂エマルション(b1)を得ることができる。0.1質量%未満であると、分散安定性が低下するおそれがある。5.0質量%を超えると、かえって防水性が低下するおそれがある。上記上限は、3.0質量%であることが好ましい。
【0071】
上記樹脂エマルション(b1)は、上記スチレンモノマー、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル、上記アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー及び上記カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを必須モノマーとして用いて得られるものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲で、これら以外にその他のラジカル重合性モノマーを更に用いても良い。上記樹脂エマルション(b1)の製造におけるその他のラジカル重合性モノマーは、上述した樹脂エマルション(a1)の製造に使用するものと同様のものを使用することができる。
【0072】
上記樹脂エマルション(b1)は、例えば、上述した樹脂エマルション(a1)と同様の製造方法により製造することができる。上記樹脂エマルション(b1)は、上記樹脂エマルション(a1)と同じ樹脂であっても、異なる樹脂であってもよい。
【0073】
上記樹脂エマルション(a1)の溶解性パラメーターをSPa1、上記樹脂エマルション(b1)の溶解性パラメーターをSPb1とした場合に、|SPa1−SPb1|≦1の関係を満たすことが好ましい。これにより、水性シーラー(a)と(b)との間の親和性を向上させることができる。ΔSP(|SPa1−SPb1|)が1を超えると、水性シーラー(a)と(b)との間の親和性が低下し、界面でハクリが生じるおそれがある。ここで、溶解性パラメーター(SP)とは、上記溶解性パラメーターとは、当該業者等の間で一般にSP(ソルビリティ・パラメーター)とも呼ばれるものであって、樹脂の親水性又は疎水性の度合いを示す尺度であり、また樹脂間の相溶性を判断する上でも重要な尺度である。例えば下記のような濁度測定法をもとに数値定量化されるものである(参考文献:K.W.Suh.D.H.Clarke J.Polymer.Sci.,A1..1671(1967).)。これにより、水性シーラー(a)及び水性シーラー(b)をウェットオンウェットで塗装する際に、防水シーラーと基材との間により優れた密着性を付与することができ、また、より優れた防水性を付与することができる。
【0074】
上記水性シーラー(b)は、顔料を含有するものであってもよい。
上記顔料としては、扁平な形状を有する顔料があり、例えば、雲母(マイカ)、クレー、アルミニウム粉末、タルク、ケイ酸アルミニウム等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
上記扁平な形状を有する顔料以外に、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム等の体質顔料や、二酸化チタン、酸化鉄、水酸化鉄、カーボンブラック、黄鉛等の無機着色顔料や、アゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジコ系顔料、ベリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料等の各種有機着色顔料を、上記水性シーラー(b)に含有させて用いることができる。
【0076】
上記水性シーラー(b)には、上記以外の成分として、顔料分散剤、消泡剤、湿潤剤が適宜添加される。上記顔料分散剤としては、例えば、SMA1440H(ARCO Chemical社製)、オロタン731(ローム&ハース社製)、BYK140、BYK191(BYKジャパン社製)等を挙げることができる。上記消泡剤としては、例えば、ノプコ8034(サンノプコ社製)、SNデフォーマー154(サンノプコ社製)等を挙げることができる。また、上記湿潤剤は、顔料を分散させるために用いるものであり、例えば、ヨネリン(米山化学社製)、ポイズ530(花王社製)、エマルゲン930(花王社製)等を挙げることができる。
【0077】
上記水性シーラー(b)の製造方法としては、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、反応性乳化剤の存在下で、スチレンモノマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマー、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマー及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマーを仕込み、常法により乳化重合を行い、樹脂エマルション(b1)を製造する。これとは別に、顔料、顔料分散剤及び必要に応じ湿潤剤、消泡剤等を仕込み、その混合物をサンドミル等で分散し、顔料分散ペーストを製造する。次に、上記で製造した樹脂エマルション(b1)及び分散ペーストを混合し、上記水性シーラー(b)を製造することができる。上述のようにして得られた水性シーラー(b)は、上記水性シーラーの塗装方法に適用することによって、無機質系窯業建材用の防水シーラーとして好適に使用することができる。
【0078】
本発明の水性シーラーの塗装方法においては、上記工程(1)による塗装と、上記工程(2)による塗装をウェットオンウェットにより行う。
即ち、上記水性シーラーの塗装方法において、通常、無機質系窯業建材等の基材表面に、上記水性シーラー(a)を塗布し、次いで、ウェットオンウェットにより、上記水性シーラー(b)を塗布し、乾燥した後、その上に上塗り塗料を塗布、乾燥することになる。このような塗装方法の場合において、水性シーラー(b)の塗布後の乾燥は、例えば、80〜150℃の雰囲気下で2〜10分間乾燥させることによって行うことができる。
【0079】
上記水性シーラー(a)、(b)の塗布方法は、公知の塗装機、例えば、エアースプレー、エアレススプレー、ロールコーター、フローコーター又はシャワーアンドエアナイフ等を用いて行われる。上記水性シーラー(a)の塗布は、基材表面に充分浸透させ、表面に残さない観点から、エアースプレー、エアレススプレー若しくはロールコーターにて、又は、その組合せで塗布量を調整することが好ましい。上記水性シーラー(b)の塗布は、均一な塗装外観を得る観点から、上記塗装方法のうち基材に合わせて、1つ又は2つの組合せで行うことが好ましい。
【0080】
上記水性シーラー(a)の塗布量は、乾燥塗膜で、10〜150g/mが好ましく、その膜厚は10μm以上が好ましく、10〜150μmが更に好ましい。下限未満であると、基材浸透時の塗膜密度が不足して密着性が低下するおそれがある。上限を超えると、基材表面に水性シーラー(a)が残存し、防水シーラーと基材との間の密着性が低下するおそれがある。
【0081】
上記水性シーラー(b)の塗布量は、乾燥塗膜で、20〜500g/mが好ましく、その膜厚は20μm以上が好ましく、20〜150μmが更に好ましい。下限未満であると、塗膜の防水性が充分に得られないおそれがある。上限を超えると、乾燥工程でワキ、チヂミ等の外観不良を生じるおそれがあるため好ましくない。
【0082】
上記水性シーラー(a)、上記水性シーラー(b)の塗装後に、色彩、凹凸又は模様等の意匠性を付与するために上塗り塗料を塗装することができるが、上記上塗り塗料としては特に限定されず、従来公知のもの、例えば、アクリルエマルション塗料(商品名 オーデタイト339、日本ペイント社製)、シリコンアクリルエマルション塗料(商品名 オーデパワー340、日本ペイント社製)を使用することができる。
【0083】
上記水性シーラーの塗装方法を基材に対して適用することによって塗装物を得ることができる。このようにして得られた塗装物は、無機質系窯業建材として、好適に使用することができる。このような塗装物もまた、本発明の1つである。
【0084】
本発明の水性シーラーの塗装方法は、基材に、樹脂エマルション(a1)と水溶性珪酸塩(a2)とを特定配合比で含有する水性シーラー(a)を塗装する工程(1)、及び、上記工程(1)を行うことにより得られた基材に、ウェットオンウェットで、樹脂エマルション(b1)を含有する水性シーラー(b)を塗装する工程(2)を含んでなるものである。本発明は、ウェットオンウェットで行うものであるため、省エネルギー化に寄与する方法である。また、ウェットオンウェットで行う方法であるにもかかわらず、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができる。また、防水シーラー塗装後の塗膜外観の不良を防止することができる。更に、同時に優れた防水性を付与することもできる。従って、上記水性シーラーの塗装方法は、無機質系窯業建材に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0085】
本発明の水性シーラーの塗装方法は、上述した構成よりなるものであるため、省エネルギー化に寄与する方法である。また、防水シーラーと基材との間に優れた密着性を付与することができ、優れた防水性を付与することができる方法である。
【実施例】
【0086】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0087】
製造例1 樹脂エマルション1の調製
ビーカーに脱イオン水45gとアクアロンHS−10(反応性乳化剤、第一工業製薬社製)2g、スチレン50g、メチルメタクリレート2g、2−エチルヘキシルアクリレート40g、アクリル酸3g及びγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5gを入れ攪拌し乳化物を得た。これとは別に、攪拌機、冷却管、滴下ロート及び温度計を備えた反応容器に、脱イオン水60gを仕込み、80℃に昇温後、上記乳化物を5時間かけて滴下し、これと同時に10%過硫酸アンモニウム水溶液2gを滴下した。滴下終了後、2時間80℃に保持した後、室温まで冷却し、その後25%アンモニア水を添加してpHを8に調整した。次いで100メッシュの金網で濾過して樹脂エマルション1を調製した。
【0088】
製造例2〜7樹脂エマルション2〜7の調製
上記乳化物の各モノマー配合量を表1に示したように変更した以外は、上記製造例1と同様にして樹脂エマルション2〜7を調製した。
【0089】
【表1】

【0090】
製造例8 含浸シーラーの調製
上記で得られた樹脂エマルション1の分散液13質量部に、珪酸ソーダ水溶液〔式(i)におけるx=4、濃度30質量%、商品名「珪酸ソーダ4号」、トクヤマ社製〕35質量部を混合し、水52質量部で希釈して、目的の水性シーラー(a)(含浸シーラー1)を得た。樹脂エマルション1と珪酸ソーダの比率(固形分質量比)は、前者/後者=0.43である。得られた含浸シーラー1は、固形分濃度15.1質量%、pH11.2であった。
【0091】
製造例9〜13 含浸シーラーの調製
樹脂エマルション、珪酸ソーダ、ポリフローKL260(シリコーン界面活性剤、共栄社化学社製)の配合量を表2に示したように変更した以外は、上記製造例8と同様にして含浸シーラー2〜6を調製した。
【0092】
【表2】

【0093】
製造例14 顔料分散ペーストの調製
ヨネリン(湿潤剤、10%水溶液、米山化学社製)2.45g、SMA1440H(顔料分散剤、ARCOケミカル社製)4.90g、B940(消泡剤、旭電化工業社製)0.54g、CR97(チタン、石原産業社製)7.45g、タルクPK(タルク、富士タルク工業社製)20.45g、クレー1号(クレー、ネオライト興産社製)20.45g及び水道水43.75gを仕込み、ガラスビーズGB503(東芝バロティーニ社製)と共に、その混合物をサンドミルで分散し、顔料分散ペースト1を得た。
【0094】
製造例15 防水シーラーの調製
製造例14で調製した顔料分散ペースト30部に、製造例6で調製した樹脂エマルション6 70部を混合してディスパーにて1000rpmで5分間攪拌した。その後ブチルセロソルブ10部を攪拌しながら添加し、次いで増粘剤を加えて粘度がiwataNK′2カップを使用して28±5秒となるように調製して、水性シーラー(b)(防水シーラー1)を得た。
【0095】
製造例16 防水シーラーの調製
製造例6で調製した樹脂エマルション6の代わりに、製造例7で調製した樹脂エマルション7を使用した以外は、上記製造例15と同様にして防水シーラー2を調製した。
【0096】
【表3】

【0097】
実施例1 試験板の作成
上記で得られた含浸シーラー1をスレート板にスプレーにて塗布量が70g/mとなるように塗装し、更に、ウェットオンウェットで、上記で得られた防水シーラー1をスプレーにて塗布量が70g/mとなるように塗装し、100℃5分間乾燥させた。塗布量が140g/mで、膜厚が50μmとなるように下塗り塗膜を形成した。
【0098】
次に、形成された下塗り塗膜上に、シリコンアクリル樹脂エマルション塗料(オーデパワー350、日本ペイント社製)をスプレーにて塗布量が100g/mとなるように塗装して、100℃で5分間乾燥させることによって試験板1を作成した。
【0099】
実施例2〜4及び比較例1〜3
含浸シーラー及び防水シーラーを表4で示したものに変更した以外は、実施例1と同様にして試験板を作成した。
【0100】
<密着性の評価>
実施例、比較例で得られたそれぞれの試験板を、10cm角にカットして、沸騰水に4時間浸漬した。浸漬後、水分を拭き取り、試験板にカッターナイフにて4mm角で25マスの切り込みを入れた。市販の粘着テープを用いて剥離試験を行った。25マス目中の残りマス数を以下の基準で評価した。
◎;25マス
○;22〜24マス
△;20〜21マス
×;20マス未満マス
【0101】
<透水性の評価>
実施例、比較例において、下塗り塗膜を形成したサンプルの透水性をJIS−A−6910に記載されている方法により透水管を立て、脱イオン水を基材表面から250mmの高さになるまで入れ、初期透水高さとした。その後、24時間経過後、水の高さを測定し、初期からの減水量を透水量として、以下の基準で評価した。
◎;0.2ml未満/24時間
○;0.2〜0.5ml/24時間
△;0.5〜1.0ml/24時間
×;1.0ml以上/24時間
【0102】
【表4】

【0103】
実施例で得られた試験板は、沸騰水4時間浸漬後2次密着性に優れるものであり、防水性に優れているものであった。また、外観にも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の水性シーラーの塗装方法は、珪酸カルシウム板、パルプセメント板、石綿スレート板、スラグ石膏板、炭酸マグネシウム板、石綿パーライト板、木片セメント板、ALC板等の無機質系窯業建材等に好適に適用することができる方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に水性シーラー(a)を塗装する工程(1)、及び、前記工程(1)を行うことにより得られた基材に水性シーラー(b)を塗装する工程(2)を含んでなる水性シーラーの塗装方法であって、
前記水性シーラー(a)は、反応性乳化剤の存在下、スチレンモノマーを20〜70質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを30〜80質量%、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜10質量%、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜5.0質量%及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマーを含有するモノマー混合物(前記モノマー混合物の合計質量は100質量%)を乳化重合して得られた樹脂エマルション(a1)と、下記式(i);
O・xSiO (i)
(式中、Mは、アルカリ金属を表す。xは、2.0〜7.5の値を表す。)
で表される水溶性珪酸塩(a2)とを含有し、
前記樹脂エマルション(a1)と前記水溶性珪酸塩(a2)との配合比〔(a1):(a2)〕が、固形分質量比で、90:10〜30:70であり、
前記水性シーラー(b)は、反応性乳化剤の存在下、スチレンモノマーを20〜70質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを30〜80質量%、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜10質量%、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを0.1〜5.0質量%及び必要に応じてその他のラジカル重合性モノマーを含有するモノマー混合物(前記モノマー混合物の合計質量は100質量%)を乳化重合して得られた樹脂エマルション(b1)を含有するものであり、
前記工程(1)及び前記工程(2)は、ウェットオンウェットで行われるものである
ことを特徴とする水性シーラーの塗装方法。
【請求項2】
水性シーラー(a)は、更に、界面活性剤を含有するものである請求項1記載の水性シーラーの塗装方法。
【請求項3】
前記界面活性剤は、シリコーン界面活性剤である請求項2記載の水性シーラーの塗装方法。
【請求項4】
樹脂エマルション(a1)は、ガラス転移温度が0〜50℃である請求項1、2又は3記載の水性シーラーの塗装方法。
【請求項5】
樹脂エマルション(a1)の溶解性パラメーターをSPa1、樹脂エマルション(b1)の溶解性パラメーターをSPb1とした場合に、
|SPa1−SPb1|≦1の関係を満たす請求項1、2、3又は4記載の水性シーラーの塗装方法。
【請求項6】
基材は、無機質系基材である請求項1、2、3、4又は5記載の水性シーラーの塗装方法。
【請求項7】
無機質系基材は、無機質系窯業建材である請求項6記載の水性シーラーの塗装方法。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の水性シーラーの塗装方法を行うことにより得られることを特徴とする塗装物。

【公開番号】特開2006−116450(P2006−116450A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307791(P2004−307791)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】