説明

水性分散液の調製方法および塗布液

【課題】 粒径が小さく、しかもシャープな粒径分布で無機層状化合物を均一に分散できる水性分散液を簡便にかつ効率よく調製する方法を提供する。
【解決手段】 無機層状化合物が分散した水性分散液を調製する方法において、(i)前記無機層状化合物を水性溶媒に予備分散する予備分散工程と、(ii)予備分散により得られた予備分散液(a)を熟成させる熟成工程と、(iii)熟成により得られた熟成分散液(b)を高圧分散処理する高圧分散工程とで水性分散液を調製する。熟成では、予備分散液(a)を室温下で5時間以上放置して熟成させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いガスバリア性を示し、印刷適性に優れたコーティング層(又はフィルム)を形成するために有用な水性分散液の調製方法、この水性分散液を含む塗布液(コーティング液)、およびこの塗布液により得られるフィルム(積層フィルム)に関する。
【背景技術】
【0002】
バリア性フィルムとして、基材フィルムに、ビニルアルコール系重合体を含むバリア層を形成した積層フィルムが提案されている。例えば、特開平6−93133号公報(特許文献1)には、粒径5μm以下、アスペクト比50〜5000の無機層状化合物(マイカ、モンモリロナイトなどの膨潤性粘土鉱物など)と、樹脂(ポリビニルアルコールなどの高水素結合性樹脂)とを含む樹脂組成物又はこの組成物を用いたフィルムが開示されている。この文献には、無機層状化合物および樹脂を含む組成物の調製方法として、(i)樹脂を溶解させた液と無機層状化合物を予め膨潤・へき開させた分散液とを混合後、溶媒を除く方法、(ii)無機層状化合物を膨潤・へき開させた分散液を樹脂に添加し、溶媒を除く方法、(iii)樹脂と無機層状化合物を熱混練する方法が記載されている。しかし、このような方法では、無機層状化合物の粒径に大きなバラつきが生じ、フィルムの表面平滑性を低下させる虞がある。
【0003】
また、特開2003−136645号公報(特許文献2)には、基材フィルムの片面に、無機層状化合物と水溶性高分子化合物とを混合したバリアコート剤が塗布されたバリアコートフィルムであって、前記バリアコート剤の粒度又は粒径において、98%以上がメジアン径1.8μm(レーザー回折式粒度分析計による測定)及び/又はメジアン径0.20μm以下(遠心沈降式粒度分析計による測定)であるガスバリアコートフィルムが開示されている。この文献には、水と少量の低級アルコールを含む溶媒に溶解した水溶性高分子に、粒状の無機層状化合物を分散させ、ボールミルなどで混練することによりバリアコート剤を調製することが記載されている。しかし、このような方法では、バリアコート剤のメジアン径を比較的小さくできても、粒度分布が大きくなり、バリアコートフィルムの表面平滑性を低下させる虞がある。また、この方法では、分散液のゲル化を防ぐための低級アルコールが必要であり、バリアコート剤を水単独で調製できない。
【0004】
さらに、特開平11−309818号公報(特許文献3)には、基材フィルム上に、イソシアネート化合物と活性水素化合物とから調製されたアンカー層と、無機層状化合物を有する樹脂で構成されたガスバリア層とが順次積層され、前記ガスバリア層が界面活性剤を含むフィルム積層体が開示されている。この文献には、無機層状化合物と樹脂とを混合する方法として、樹脂を溶媒に溶解させた液と、無機層状化合物を分散媒により予め膨潤・へき開させた分散液とを混合後、溶媒および分散媒を除く方法(方法1)、無機層状化合物を分散媒により膨潤・へき開させた分散液と樹脂とを混合して、上記樹脂を分散媒中に溶解させた後、分散媒を除く方法(方法2)、樹脂を溶媒に溶解させた液に無機層状化合物を加え、上記溶媒を分散媒として上記無機層状化合物を膨潤・へき開させて分散液とし、上記溶媒を除く方法(方法3)、樹脂と無機層状化合物を熱混練する方法などを利用できることが記載されている。さらに、前3者の方法において、高圧分散装置を用いて高圧分散処理することが好ましいことも記載されており、実施例(塗工液2)では、イオン交換水にポリビニルアルコールを溶解したのち、1−ブタノールを添加した液(C)を調製し、この液(C)に粉末のモンモリロナイトを添加して攪拌して樹脂組成物混合液(D)を調製し、この混合液(D)を高圧分散装置(超高圧ホモジナイザー)に通し、1750kgf/cm2で1回処理することにより分散液(E)を調製している。しかし、このような方法でも、無機層状化合物の粒径をコントロールすることが困難である。特に、高圧分散処理する方法では、粒径を比較的小さくできても、無機層状化合物および樹脂を含む多量の液を高圧分散するため、処理量が低下し、分散液の調製効率又は処理効率が低下する。また、この方法でも、分散液のゲル化を防ぐための溶媒(低級アルコールなど)が必要であり、分散液を水単独で調製できない。
【特許文献1】特開平6−93133号公報(特許請求の範囲、段落番号[0021])
【特許文献2】特開2003−136645号公報(特許請求の範囲、段落番号[0022][0024])
【特許文献3】特開平11−309818号公報(特許請求の範囲、段落番号[0079][0107][0108])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、粒径(平均粒径)が小さく、しかもシャープな粒径分布で無機層状化合物が均一に分散した分散液(水性分散液)を簡便にかつ効率よく調製する方法、この分散液を含む塗布液、およびこの塗布液により形成されたフィルムを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、高い表面平滑性を有し、印刷適性に優れたコーティング層を形成するために有用な分散液(水性分散液)を調製する方法、この分散液を含む塗布液、およびこの塗布液により形成されたフィルムを提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、水を単独の溶媒としても、簡便にかつ効率よく調製できる塗布液、およびこの塗布液により形成されたフィルムを提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、シャープな粒径分布を有し、ガスバリア性(又は防湿性)および表面平滑性に優れたコーティング層を形成するための塗布液(水性分散液)を簡便にかつ効率よく調製する方法、およびこの塗布液により形成されたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、無機層状化合物および水溶性高分子化合物を含む塗布液の調製において、(i)水性溶媒(特に水)に無機層状化合物を予備分散した分散液を熟成したのち高圧分散処理すると、無機層状化合物を微細かつシャープな粒径分布で分散できること、(ii)この分散液と水溶性高分子化合物とを混合することにより、粒子の凝集を防止しつつ、均一な分散液又は塗布液(特に水分散液)を簡便にかつ効率よく得ることができることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の調製方法は、無機層状化合物が分散した水性分散液の調製方法であって、(i)前記無機層状化合物を水性溶媒に予備分散する予備分散工程と、(ii)予備分散により得られた予備分散液(a)を熟成させる熟成工程と、(iii)熟成により得られた熟成分散液(b)を高圧分散処理する高圧分散工程とで構成されている。
【0011】
前記熟成工程(ii)において、熟成は予備分散液(a)の放置により行ってもよく、例えば、予備分散液(a)を室温下で5時間以上放置して熟成させてもよい。熟成工程(ii)では、粘度又は粘度特性を指標又は目安として熟成させてもよい。例えば、前記調製方法は、熟成工程(ii)で、無機層状化合物の濃度が所定の濃度(例えば、1〜5重量%程度)の予備分散液(a)を熟成させる方法であって、無機層状化合物の濃度が3重量%であるとき、温度11〜12℃で、熟成分散液(b)の粘度が800cps以上(例えば、800〜5000cps程度)となる条件で予備分散液(a)を熟成させてもよい。また、前記調製方法は、熟成工程(ii)で、無機層状化合物の濃度が所定の濃度(例えば、1〜5重量%程度)の予備分散液(a)を熟成させる方法であって、無機層状化合物の濃度が3重量%であるとき、温度11〜12℃で、熟成分散液(b)の粘度が、予備分散液(a)の粘度に対して3倍以上(例えば、3〜20倍程度)となる条件で予備分散液(a)を熟成させる調製方法であってもよい。熟成工程では、上記2つの条件を充足していてもよく、例えば、前記調製方法は、熟成工程(ii)で、無機層状化合物の濃度が所定の濃度(例えば、1〜5重量%程度)の予備分散液(a)を熟成させる方法であって、無機層状化合物の濃度が3重量%であるとき、温度11〜12℃で、熟成分散液(b)の粘度が1000cps以上[例えば、1200cps以上(例えば、1200〜5000cps程度)]となり、かつ熟成分散液(b)の粘度が、予備分散液(a)の粘度に対して3倍以上[例えば、4倍以上(例えば、4〜10倍程度)]となる条件で予備分散液(a)を熟成させる調製方法であってもよい。
【0012】
前記高圧分散工程(iii)では、例えば、圧力300〜1500kgf/cm2(約2.94×104〜14.1×104MPa)程度で少なくとも2回高圧分散処理してもよい。このような高圧分散により得られる高圧分散液(c)では、無機層状化合物が微細かつシャープな粒径分布で分散しており、例えば、無機層状化合物のメジアン径は1μm以下(特に、0.3〜0.8μm程度)であってもよく、無機層状化合物の粒径分布に関する標準偏差は0.29以下(特に、0.1〜0.25程度)であってもよい。
【0013】
上記のような調製方法により得られる水性分散液は、塗布液(コーティング液)を形成するための分散液として有用である。このような塗布液は、例えば、前記水性分散液と、水溶性高分子化合物とで構成されていてもよい。前記塗布液において、塗布液の溶媒成分[少なくとも前記水性分散液の溶媒成分(すなわち、少なくとも前記水性溶媒)]は、水性溶媒(特に水単独)で構成されていてもよい。代表的な塗布液では、水性分散液の溶媒成分[例えば、水性分散液の溶媒成分(前記水性溶媒)]が水単独で構成され、かつ水溶性高分子化合物がビニルアルコール系重合体で構成されており、無機層状化合物および水溶性高分子化合物の総量の割合が、固形分換算で、水100重量部に対して、1〜10重量部程度であり、無機層状化合物の割合が、固形分換算で、ビニルアルコール系重合体100重量部に対して、5〜30重量部程度である塗布液などが含まれる。
【0014】
前記塗布液は、前記水性分散液と、水溶性高分子化合物とを混合することにより調製できる。このような塗布液の調製方法では、水性分散液(又は高圧分散液(c))と粉粒状の水溶性高分子化合物とを混合してもよい。代表的な方法では、水に粉粒状の水溶性高分子化合物を添加し、前記水溶性高分子化合物の形態が粉粒状に保持された状態で、水性分散液(又は高圧分散液(c))を混合する調製方法などが含まれる。このような方法では、分散液(塗布液)の凝集を効率よく防止しつつ混合できる。
【0015】
本発明は、基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたコーティング層とで構成された積層フィルムであって、前記コーティング層が前記塗布液で構成されている積層フィルムを含む。
【0016】
なお、本明細書において、予備分散液(a)、熟成分散液(b)、高圧分散液(c)を単に「分散液」ということがある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の調製方法では、無機層状化合物の水性(又は水系)予備分散液を熟成させたのち高圧分散し、この高圧分散液と水溶性高分子化合物とを混合するので、簡便にかつ効率よく、粒径(平均粒径)が小さく、しかもシャープな粒径分布で無機層状化合物を均一に分散できる。そのため、このような調製方法により得られる分散液(水性分散液)は、水溶性高分子化合物(ビニルアルコール系重合体など)などと組みあわせることにより、高い表面平滑性を有し、印刷適性に優れたコーティング層を形成するために有用である。また、本発明では、水を単独の溶媒としても、塗布液(水分散液)を簡便にかつ効率よく調製できるため、工業的に有利な条件で調製できる。さらに、本発明では、シャープな粒径分布を有し、ガスバリア性(又は防湿性)および表面平滑性に優れたコーティング層を形成するための塗布液(水性塗布液)を簡便にかつ効率よく調製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の調製方法は、無機層状化合物が分散した水性分散液の調製方法であって、(i)前記無機層状化合物を水性溶媒に予備分散する予備分散工程と、(ii)予備分散により得られた予備分散液(a)を熟成させる熟成工程と、(iii)熟成により得られた熟成分散液(b)を高圧分散処理する高圧分散工程とで構成されている。このような工程を経て得られる分散液(水性分散液)は、後述するように、水溶性高分子化合物を組みあわせて、塗布液(コーティング液)を形成するために有用である。
【0019】
[水性分散液の調製方法]
(i)予備分散工程
予備分散工程(又は一次分散工程)において、予備分散は、無機層状化合物を水性溶媒(特に水)に分散できれば特に限定されないが、例えば、水性溶媒(特に水)と無機層状化合物とを含む混合液を攪拌(又は混合)することにより行うことができ、通常、水性溶媒に攪拌しながら無機層状化合物(無機層状粒子)を添加(又は投入)することにより行うことができる。なお、予備分散において、水に加えて、水溶性有機溶媒を添加してもよいが、通常、無機層状化合物は、水のみに分散させる場合が多い。
【0020】
なお、予備分散工程では、前記混合液において、無機層状化合物(無機層状粒子)を、だま(又は継粉)を生じることなく分散させることができればよい。例えば、攪拌しながら水性溶媒に無機層状化合物(無機層状粒子)を添加する際に生じただまが、存在しなくなる(詳細には、目視により、だまが存在しないことを確認できる)程度に無機層状粒子を分散できればよい。
【0021】
予備分散に用いる水性溶媒(又は水性媒体)は、水単独であってもよく、水と水溶性有機溶媒(例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、メチルセロソルブなどのセロソルブ類、カルビトール類、アセトンなどのケトン類など)とで構成してもよい。水溶性有機溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。水溶性有機溶媒の使用量は、できるだけ少ないのが好ましく、例えば、水性溶媒全体に対して、例えば、0〜5重量%、好ましくは0〜3重量%、さらに好ましくは0〜2重量%程度であってもよい。好ましい態様では、水性溶媒を水単独で構成する。本発明では、水単独で水性溶媒を構成しても、効率よく予備分散(さらには塗布液を調製)できるため、工業的に有利であるとともに、環境に対する負荷を低減できる。
【0022】
また、無機層状化合物は、単位結晶層が積層した構造を有し、層間に溶媒(特に水)を配位又は吸収することにより膨潤又はへき開する性質を示す。このような無機層状化合物としては、膨潤性の含水ケイ酸塩、例えば、スメクタイト群粘土鉱物(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイトなど)、バーミキュライト群粘土鉱物(バーミキュライトなど)、カオリン型鉱物(ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイトなど)、フィロケイ酸塩(タルク、パイロフィライト、マイカ、マーガライト、白雲母、金雲母、テトラシリリックマイカ、テニオライトなど)、ジャモン石群鉱物(アンチゴライトなど)、緑泥石群鉱物(クロライト、クックアイト、ナンタイトなど)などが例示できる。これらの無機層状化合物は、天然物であってもよく合成物であってもよい。これらの無機層状化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの無機層状化合物のうち、スメクタイト群粘土鉱物、特にモンモリロナイトが好ましい。
【0023】
無機層状化合物は、通常、粒子(微粒子)の形態で使用される(すなわち、予備分散される)。粒子状無機層状化合物(無機層状粒子)は、通常、板状又は扁平状であり、平面形状は特に制限されず、無定形状などであってもよい。無機層状化合物の粒子の平均粒子径(平面形状の平均粒子径)は、例えば、0.01〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.2〜2μm(例えば、0.5〜2μm)程度であってもよい。
【0024】
予備分散において、攪拌時間は、攪拌速度(又は回転速度)にもよるが、例えば、30秒〜3時間、好ましくは1分〜2.5時間、さらに好ましくは5分〜2時間程度であってもよい。また、攪拌速度(又は攪拌羽根の回転速度)は、例えば、100〜10000rpm、好ましくは300〜8000rpm、さらに好ましくは400〜5000rpm程度であってもよい。なお、攪拌は、回転可能な攪拌羽根を有する慣用の攪拌機を用いて行うことができる。
【0025】
予備分散において、無機層状化合物の割合(又は濃度)は、予備分散液(a)に対して、例えば、0.1〜5重量%(例えば、0.5〜4.5重量%)、好ましくは1〜5重量%(例えば、1〜4重量%)、さらに好ましくは1.2〜3.5重量%程度であってもよい。
【0026】
また、予備分散液(a)の粘度は、後の熟成工程を効率よく行うことができる範囲で適宜調整できる。例えば、予備分散液(a)の粘度は、(i)無機層状化合物の濃度2重量%の基準では、温度11〜12℃で10〜150cps程度(好ましくは20〜100cps、さらに好ましくは30〜80cps程度)、温度32〜33℃で20〜200cps程度(好ましくは30〜150cps、さらに好ましくは40〜100cps程度)を指標又は目安として予備分散してもよく、(ii)無機層状化合物の濃度3重量%の基準では、温度11〜12℃で100〜600cps程度(例えば、150〜500cps、好ましくは200〜400cps、さらに好ましくは250〜350cps程度)、温度32〜33℃で400〜1000cps程度(好ましくは500〜800cps、さらに好ましくは550〜750cps程度)を指標又は目安として予備分散してもよい。なお、予備分散液(a)の粘度は、後述する方法により測定できる。なお、本明細書において、単位「cps」は、粘度の単位「センチポアズ」を意味し、単位「mPa・s」に等しい(すなわち、1cps=1mPa・sである)。
【0027】
(ii)熟成工程
熟成工程では、予備分散液(a)を熟成(又は熟成処理)することにより、シャープな粒径分布を有する分散液を得ることができ、分散効率(高圧分散効率)を向上できる。
【0028】
予備分散液(a)の熟成は、無機層状化合物の膨潤又はへき開を促進できれば特に限定されず、例えば、必要により攪拌下、予備分散液(a)を放置する方法などにより行うことができる。
【0029】
熟成時間(放置時間)は、温度(又は予備分散液(a)の温度)や予備分散液(a)の粘度などに応じて適宜調整できる。例えば、熟成工程において、1時間以上(例えば、1.5〜48時間程度)の範囲から選択でき、例えば、2時間以上(例えば、3〜36時間程度)、好ましくは3時間以上(例えば、4〜30時間程度)、さらに好ましくは5時間以上(例えば、5〜25時間程度)、特に6時間以上(例えば、6〜24時間程度)の熟成時間(放置時間)で熟成させてもよい。
【0030】
熟成は、常温(例えば、15〜25℃程度)下で行ってもよく、加温下[例えば、30〜100℃、好ましくは35〜90℃、さらに好ましくは40〜80℃(例えば、50〜70℃)程度]で行ってもよい。加温下で放置(又は熟成)すると、無機層状化合物の膨潤を効率よく促進できる。
【0031】
熟成は、分散液の粘度を指標(又は目安)として行うことができる。すなわち、分散液は、膨潤に伴って粘度上昇するので、分散液の粘度(又は粘度の変化)を指標として、十分に無機層状化合物が膨潤したか否か(すなわち、熟成が完了したか否か)を判断することができる。
【0032】
具体的には、(1)無機層状化合物の濃度が所定の濃度(前記例示の予備分散液(a)に対する無機層状化合物の濃度、例えば、1〜5重量%)の予備分散液(a)を熟成させる熟成工程(ii)において、無機層状化合物の濃度が3重量%であるとき、温度11〜12℃で、熟成分散液(b)の粘度が1000cps以上(例えば、1000〜8000cps程度)、好ましくは1200cps以上(例えば、1200〜5000cps程度)、さらに好ましくは1500cps以上(1500〜3000cps程度)、特に2000cps以上(例えば、2000〜2500cps程度)となる条件で予備分散液(a)を熟成させてもよい。
【0033】
また、(2)無機層状化合物の濃度が所定の濃度(前記例示の予備分散液(a)に対する無機層状化合物の濃度、例えば、1〜5重量%)の予備分散液(a)を熟成させる熟成工程(ii)において、無機層状化合物の濃度が3重量%であるとき、温度11〜12℃で、熟成分散液(b)の粘度が、予備分散液(a)の粘度に対して3倍以上(例えば、3〜20倍)、好ましくは4倍以上(例えば、4〜10倍)、さらに好ましくは5倍以上(例えば、5〜8倍)となる条件で予備分散液(a)を熟成させてもよい。
【0034】
熟成条件は、上記条件を単独で又は組み合わせて充足してもよい。熟成条件は、通常、上記条件(1)を少なくとも充足している場合が多い。
【0035】
なお、上記基準において、粘度は、温度(分散液の温度)11〜12℃で、分散液(無機層状化合物を3重量%の割合で含む分散液)200gを添加した250mLのポリエチレン製広口瓶(アズワン(株)製)、およびB型粘度計((株)東京計器製、No.2ローター)を使用し、B型粘度計の回転速度12rpmで30秒間回転したときの粘度を測定する。また、上記条件(2)は、熟成する前の予備分散液(a)と、熟成後の分散液(熟成分散液(b))の粘度をそれぞれ測定し、これらの比を算出することにより求めることができる。
【0036】
上記のような条件を指標として熟成することにより、確実に無機層状化合物の膨潤状態を確認できる。すなわち、上記条件を満たす熟成条件で熟成させたとき又は上記条件を充足していたとき、熟成工程を終了したものとみなしてもよい。
【0037】
なお、上記の条件は、濃度3重量%(および温度11〜12℃)での指標であるが、前記のように、無機層状化合物が、他の濃度[例えば、1〜5重量%(3重量%を除く)]で分散した分散液であっても簡便に適用できる。このような他の濃度の分散液(無機層状化合物が同じである分散液)に適用する方法としては、例えば、(i)無機層状化合物の濃度が3重量%の分散液を用いて上記条件を満たす熟成条件(例えば、前記熟成時間、熟成温度など)を予め決定し、決定した熟成条件で他の濃度の分散液を熟成する方法、(ii)分散液(の一部)に対して、水を添加することにより分散液中の無機層状化合物の濃度を3重量%に調整し(さらに温度11〜12℃に調整し)たのち、この調整した3重量%の分散液の粘度を測定して上記条件を充足するか否かを確認する方法などが挙げられる。
【0038】
(iii)高圧分散工程
高圧分散工程では、前記熟成により得られた熟成分散液(b)を高圧分散処理する。前記のようにして得られた熟成分散液(b)は、熟成により、無機層状化合物が充分に膨潤しているため、高圧分散により、確実にかつ効率よく、比較的小さい粒径(又は粒度)でかつシャープな粒径分布(又は粒度分布)で無機層状化合物を分散できる。また、高圧分散工程では、無機層状化合物のみを高圧分散させるので、水溶性高分子化合物および無機層状化合物を溶媒(特に水)に分散させる場合に比べて、著しく処理効率を高めることができる。
【0039】
高圧分散処理において、熟成分散液(b)に作用させる圧力は、例えば、300kgf/cm2以上(例えば、300〜2000kgf/cm2)、好ましくは400kgf/cm2以上(例えば、400〜1500kgf/cm2)、さらに好ましくは500〜1000kgf/cm2(例えば、500〜700kgf/cm2)程度であってもよく、通常、300〜1500kgf/cm2程度(例えば、500〜1500kgf/cm2程度)であってもよい。なお、本明細書において、単位「kgf/cm2」は圧力の単位であり、1kgf/cm2は、約0.098MPa(約0.1MPa)である。
【0040】
また、高圧分散処理において、高圧分散の処理回数[詳細には、高圧分散機に熟成分散液(b)を通過させる回数(パス回数)]は、1回以上であればよく、好ましくは少なくとも2回(例えば、2〜4回、特に2回)であってもよい。少なくとも2回の処理回数で高圧分散すると、分散効率を高めることができ、より一層粒度が小さくかつ粒度分布が狭い分散液を調製できる。
【0041】
なお、高圧分散処理において、高圧分散機としては、慣用の分散機、例えば、マントンゴーリン型高圧分散機、超高圧ホモジナイザー[マイクロフルイタイザー(みずほ工業(マイクロルイディックス社総代理店)製マイクロフルイタイザー)]などを使用できる。本発明では、マントンゴーリン型高圧分散機を使用するのが好ましい。このようなマントンゴーリン型高圧分散機を使用すると、大容量での処理が可能である。
【0042】
なお、高圧分散機の機構(分散機構)としては、高圧で液を2つに分け、高圧下で衝突させることにより分散させる方法と、加圧された液が狭い間隙を通過する際に発生するキャビテーション(空洞)の崩壊により生じる高い圧力差を利用して分散させる方法とに大別され、本発明では、後者の方法が好ましい。
【0043】
このような高圧分散処理して得られた高圧分散液(c)は、高レベルで無機層状化合物の粒径がコントロールされており、前記のように、小粒径でかつ粒径分布が狭い無機層状化合物が分散している。例えば、高圧分散液(c)において、無機層状化合物(無機層状粒子)のメジアン径は、例えば、1.5μm以下(例えば、0.1〜1.5μm程度)、好ましくは1μm以下(例えば、0.2〜1μm程度)、さらに好ましくは0.8μm以下(例えば、0.3〜0.8μm程度)、特に0.75μm以下(例えば、0.3〜0.75μm程度)であってもよい。
【0044】
また、高圧分散液(c)において、無機層状化合物(無機層状粒子)の粒径分布に関する標準偏差は、0.3以下(例えば、0.1〜0.3程度)、好ましくは0.29以下(例えば、0.12〜0.26程度)、さらに好ましくは0.25以下(例えば、0.15〜0.25程度)であってもよい。
【0045】
[塗布液]
上記のような調製方法により得られる水性分散液は、塗布液(コーティング液)を形成するための分散液として有用である。このような塗布液は、例えば、前記水性分散液(又は高圧分散液(c))と、水溶性高分子化合物とで構成できる。
【0046】
(水溶性高分子化合物)
塗布液の調製に用いる水溶性高分子化合物としては、ビニルアルコール系重合体(ビニルアルコール系樹脂)、アクリル系樹脂(ポリアクリル酸など)、セルロース系樹脂[アルキルセルロース(メチルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルセルロース(ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなど)、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル類など]、多糖類又はその誘導体(デンプン、アミロース、アミロペクチン、プルラン、カードラン、ザンタン、キチン、キトサンなど)などが例示できる。水溶性高分子化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらのうち、好ましい水溶性高分子化合物は、ビニルアルコール系重合体である。
【0047】
ビニルアルコール系重合体としては、脂肪酸ビニルエステルの単独又は共重合体のケン化物、脂肪酸ビニルエステルと共重合性単量体との共重合体のケン化物などが例示できる
。脂肪酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどが例示でき、通常、酢酸ビニルが使用される。共重合性単量体としては、C2-4オレフィン(エチレン、プロピレン、ブテンなど)、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アルキルビニルエーテル類、ビニルピロリドンなどが例示できる。共重合性単量体としては、少なくともエチレンを含む単量体、特にエチレンが使用される。なお、ビニルアルコール系重合体は、変性(アセタール化、リン酸エステル化、アセチル化など)されていてもよい。
【0048】
代表的なビニルアルコール系重合体としては、ポリビニルアルコール、脂肪酸ビニルエステルと共重合性単量体との共重合体のケン化物(エチレン−ビニルアルコール共重合体など)が例示できる。特に、ガスバリア性の点から、ポリビニルアルコール及びエチレン−ビニルアルコール共重合体から選択された少なくとも一種の重合体を好適に使用できる。好ましいビニルアルコール系重合体はエチレン−ビニルアルコール共重合体である。エチレン−ビニルアルコール共重合体において、エチレン含有量は、比較的少量、例えば、1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%、さらに好ましくは2〜5重量%程度であってもよい。ビニルアルコール系重合体のケン化度は、通常、80モル%以上であり、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0049】
ビニルアルコール系重合体の重合度は、例えば、200以上(例えば、200〜5000)、好ましくは250〜3000、さらに好ましくは300〜1000程度である。重合度が低すぎると成膜が困難となり、重合度が高すぎると、塗布液の粘度が高くなり塗布することが困難である。
【0050】
なお、ビニルアルコール系重合体は、カルボニル基を有するビニルアルコール系重合体であってもよい。このようなビニルアルコール系重合体は、後述する架橋剤と組み合わせると、耐水性、ガスバリア性、基材フィルムに対する密着性などを向上できる。カルボニル基を有するビニルアルコール系重合体としては、脂肪酸ビニルエステルとカルボニル基を有する単量体との共重合体のケン化物、脂肪酸ビニルエステルと共重合性単量体とカルボニル基を有する単量体との共重合体のケン化物が例示できる。このようなカルボニル基を有するビニルアルコール系重合体において、脂肪酸ビニルエステルおよび共重合性単量体は、前記と同様の化合物を使用できる。また、このようなカルボニル基を有するビニルアルコール系重合体のケン化度や重合度、エチレン含量も前記と同様である。
【0051】
カルボニル基を有するビニルアルコール系重合体において、カルボニル基としては、種々のカルボニル基、例えば、ビニルケトン類などのカルボニル基、アセチルアセトナト基などのジケト基、ジアセトンアクリルアミド基などのジアセトン基などに由来してもよい。カルボニル基に隣接して活性メチレン基を有していてもよい。すなわち、カルボニル基は、活性メチレン基に隣接するカルボニル基であってもよい。なお、カルボニル基は、カルボニル基を有する重合性単量体の共重合により導入してもよく、ビニルアルコール系重合体を変性(アセトアセチル化などによるカルボニル化)して導入してもよい。カルボニル基を有するビニルアルコール系重合体は、工業的には、ジアセトンアクリルアミド単位を含む場合が多い。
【0052】
カルボニル基を有するビニルアルコール系重合体において、カルボニル基の濃度は、例えば、0.01〜25モル%(例えば、0.05〜25モル%)、好ましくは0.05〜20モル%(例えば、0.1〜20モル%)、さらに好ましくは0.05〜10モル%(例えば、0.1〜10モル%)程度であってもよく、通常、1〜10モル%程度である。なお、上記カルボニル基の濃度は、単量体換算での割合を意味し、例えば、2つのカルボニル基で構成されたジアセトン基であっても、2つのカルボニル基とはみなさず、ジアセトンアクリルアミド換算の使用割合を示す。
【0053】
ビニルアルコール系重合体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。例えば、カルボニル基を含まないビニルアルコール系重合体と、カルボニル基(例えば、活性メチレン基に隣接するカルボニル基)を有するビニルアルコール系共重合体とを組み合わせてもよく、両者の割合は、前者/後者(重量比)=0/100〜90/10、好ましくは0/100〜75/25、さらに好ましくは0/100〜60/40程度であってもよい。
【0054】
塗布液には、溶媒(又は溶媒成分)が含まれている。このような溶媒は、少なくとも前記水性分散液を構成する水性溶媒(前記水性分散液の溶媒成分、すなわち、前記水性溶媒)で構成されており、このような水性分散液由来の水性溶媒と、後述するように、さらに塗布液の調製において使用する水性溶媒とで構成されていてもよい。本発明では、いずれの場合であっても、このような溶媒成分[例えば、前記水性分散液の溶媒成分(及び塗布液の調製において使用する水性溶媒)]を、水単独で構成しても、効率よく塗布液を調製できるため、工業的に有利であるとともに、環境に対する負荷を低減できる。
【0055】
(各成分の割合)
塗布液において、無機層状化合物の割合は、固形分換算で、溶媒成分(特に水)100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜10重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部程度であってもよい。また、水溶性高分子化合物の割合は、固形分換算で、溶媒成分(特に水)100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜8重量部程度であってもよい。さらに、無機層状化合物および水溶性高分子化合物の総量の割合は、固形分換算で、水性溶媒(特に水)100重量部に対して、0.2〜30重量部、好ましくは0.5〜20重量部、さらに好ましくは1〜10重量部程度であってもよい。
【0056】
また、塗布液において、無機層状化合物の割合は、固形分換算で、水溶性高分子化合物(ビニルアルコール系重合体など)100重量部に対して、5〜50重量部、好ましくは10〜40重量部、さらに好ましくは10〜35重量部(例えば、20〜35重量部)程度であってもよく、通常、5〜30重量部程度であってもよい。
【0057】
本発明の塗布液は、前記方法により得られた水性分散液を使用する(及び後述する方法で調製する)ため、無機層状化合物が、水溶性高分子化合物を含む水性溶媒(特に水)中に、微細かつ狭い粒径分布で均一に分散している。
【0058】
例えば、塗布液において、分散粒子[又は無機層状化合物(無機層状粒子)]のメジアン径は、例えば、1.2μm以下(例えば、0.1〜1.0μm程度)、好ましくは1μm以下(例えば、0.1〜0.8μm程度)、さらに好ましくは0.8μm以下(例えば、0.2〜0.8μm程度)、特に0.7μm以下(例えば、0.2〜0.7μm程度)であってもよい。
【0059】
また、塗布液において、分散粒子[無機層状化合物(無機層状粒子)]の粒径分布に関する標準偏差は、0.25以下(例えば、0.1〜0.25程度)、好ましくは0.2以下(例えば、0.1〜0.2程度)、さらに好ましくは0.18以下(例えば、0.12〜0.18程度)であってもよい。
【0060】
(塗布液の調製方法)
前記塗布液は、前記水性分散液(又は高圧分散液(c))と、水溶性高分子化合物とを混合する混合工程(iv)を経ることにより調製できる。
【0061】
(iv)混合工程
混合工程では、前記水性分散液(詳細には、高圧分散処理して得られた高圧分散液(c))と、水溶性高分子化合物とを混合して塗布液(分散液)を得る。このような混合では、無機層状化合物が高度に微細化され、かつ粒径分布が狭い高圧分散液(c)を使用するので、凝集を防止しつつ、微細でかつ狭い粒径分布で無機層状化合物が分散した塗布液を効率よく得ることができる。
【0062】
混合において、水溶性高分子化合物は、粉粒状(又は粒子状)で混合してもよく、水性媒体(特に水)に溶解した溶液状で混合してもよく、好ましい混合方法では、粉粒状の水溶性の高分子化合物を使用する。粉粒状の水溶性高分子化合物を使用すると、前記水性分散液由来の高い分散性を維持しつつ効率よく塗布液を得ることができる。
【0063】
粉粒状で使用する場合、水溶性高分子化合物(粉粒状の水溶性高分子化合物)の平均粒径は、例えば、10μm〜1mm、好ましくは20〜800μm、さらに好ましくは30〜500μm程度であってもよい。なお、粒子径が小さすぎると、混合の際に水溶性高分子化合物が、継子状になりやすいため、粒子径は通常、小さすぎるよりも大きい(又は粗い)方が好ましいが、粒子径が大きすぎると溶解しにくくなる。そのため、水溶性高分子化合物(粉粒状の水溶性高分子化合物)の最大粒径は、例えば、1〜10mm、好ましくは1.5〜9mm、さらに好ましくは2〜8mm程度であってもよい。
【0064】
なお、粉粒状の水溶性高分子化合物の形状(断面形状)は、円状であってもよいが、通常、歪な形状(長円形など)である場合が多い。
【0065】
また、混合において、必要に応じて、粘度調整などのため、水性溶媒(特に水)を使用(又は添加)してもよい。水性溶媒は、水単独で構成してもよく、水と水溶性有機溶媒(例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、メチルセロソルブなどのセロソルブ類、カルビトール類、アセトンなどのケトン類など)とで構成してもよい。水溶性有機溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。水溶性有機溶媒の使用量は、できるだけ少ないのが好ましく、例えば、水性溶媒全体に対して、例えば、0〜5重量%、好ましくは0〜3重量%、さらに好ましくは0〜2重量%程度であってもよい。好ましい態様では、水性溶媒を水単独で構成する。本発明では、水単独で水性媒体を構成しても、効率よく塗布液を調製できるため、工業的に有利であるとともに、環境に対する負荷を低減できる。なお、水性溶媒(特に水)の使用量は、最終物としての塗布液の粘度や濃度などに応じて適宜調整できる。
【0066】
好ましい混合方法では、前記水性分散液(高圧分散液(c))と粉粒状の水溶性高分子化合物を混合する。特に、粉粒状の水溶性高分子化合物と水性溶媒(特に水)とを混合し、水性分散液(高圧分散液(c))を混合(添加および混合)してもよい。具体的な方法では、水性溶媒(特に水)に粉粒状の水溶性高分子化合物を混合(添加)し、この混合液に、さらに水性分散液を混合(添加)してもよい。なお、このような水性溶媒を使用する場合、前記水溶性高分子化合物(粉粒状の水溶性高分子化合物)の形態が粉粒状の状態で(又は粉粒状の水溶性高分子化合物が残存している状態で)、水性分散液を混合する。このような粉粒状の水溶性高分子化合物を用いると、分散液(塗布液)の凝集(又はゲル化)を効率よく防止(又は抑制)しつつ混合(および分散)できる。また、このような方法では、水性溶媒(高圧分散液中の水性溶媒、混合において添加する水性溶媒)を水単独で構成しても、分散液の凝集を効率よく防止できるため、工業的に有利に塗布液を調製できる。
【0067】
混合は、水性分散液(高圧分散液(c))と水溶性高分子化合物とを混合および分散できれば特に限定されないが、通常、攪拌下で行うことができる。好ましい方法では、水性溶媒(特に水)を使用(添加)する場合、水性溶媒(特に水)に粉粒状の水溶性高分子化合物を攪拌下で添加(混合)し、前記水溶性高分子化合物の形態が粉粒状に保持された状態で、さらに、水性分散液(高圧分散液(c))を添加して攪拌することにより混合してもよい。
【0068】
攪拌条件は、適宜調整でき、例えば、攪拌時間は30秒〜5時間(好ましくは1分〜3時間)程度、攪拌速度(又は回転速度)は50〜3000rpm(好ましくは100〜1000rpm)程度であってもよい。なお、攪拌は、慣用の攪拌機を用いて行うことができる。混合(又は攪拌)は、常温下で行う場合が多く、水溶性高分子化合物の溶解を促進するため、混合後、加温する(例えば、40〜120℃、好ましくは60〜100℃程度)のが好ましい。
【0069】
このような一連の工程(前記水性分散液の調製、および前記混合工程)により得られる塗布液(分散液)では、無機層状化合物が、水溶性高分子化合物を含む水性溶媒(特に水)中に、微細かつ狭い粒径分布で均一に分散している。
【0070】
本発明の塗布液は、基材(基材フィルム)などにコーティング層(又はバリア層)を形成するのに有用である。本発明の塗布液により形成されるバリア層(ガスバリア層)は、前記のように、無機層状化合物が、微細にかつ狭い粒径分布で分散しているので、表面平滑性が高く、印刷適性に優れるとともに、ガスバリア性(又は防湿性)も高い。
【0071】
なお、塗布液は、必要に応じて、水溶性高分子化合物を架橋させるための架橋剤を含んでいてもよい。このような架橋剤としては、水溶性高分子化合物の種類に応じて、例えば、シランカップリング剤、ポリイソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、ジルコニウム化合物、ヒドラジン系架橋剤などが例示できる。架橋剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの架橋剤のうち、特に、ヒドラジン系架橋剤は、前記カルボニル基を有するビニルアルコール系重合体と組み合わせると、基材に対するバリア層の密着性や防湿性を向上できる。
【0072】
ヒドラジン系架橋剤としては、複数のヒドラジノ基を有する化合物、例えば、ヒドラジン、ヒドラジンヒドラート、カルボヒドラジド、多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物、ポリ(メタ)アクリル酸ヒドラジド、これらのヒドラジン化合物にケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)を反応させた誘導体が例示できる。多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物としては、二塩基酸ジヒドラジド(シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、ヘキサデカン酸ジヒドラジドなどのC2-20アルカンジカルボン酸ジヒドラジド;シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジドなどのC4-10シクロアルカンジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ナフトエ酸ジヒドラジドなどのC8-16アレーンジカルボン酸ジヒドラジド;ピリジンジカルボン酸ジヒドラジドなどの複素環式ジカルボン酸ジヒドラジド;リンゴ酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジドなどの二塩基オキシ酸ジヒドラジド;イミノジ酢酸ジヒドラジドなど)、多価カルボン酸ポリヒドラジド(シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、ベンゼントリカルボン酸トリヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド、クエン酸などの多塩基オキシ酸ヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジドなど)などが例示できる。これらの架橋剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0073】
これらの架橋剤(ヒドラジン系架橋剤)のうち水溶性又は水分散性化合物、例えば、C2-7アルカンジカルボン酸ジヒドラジド、特にC4-7アルカンジカルボン酸ジヒドラジド(アジピン酸ジヒドラジドなど)を用いる場合が多い。
【0074】
架橋剤の使用量は、バリア層の耐水性、基材フィルムに対する密着性を高めるため、水溶性高分子化合物100重量部に対して、例えば、1〜20重量部、好ましくは2〜17重量部、さらに好ましくは3〜15重量部程度であってもよい。また、高湿度下でのバリア性、基材フィルムに対する密着性とともに、耐水性をさらに向上させるため、無機層状化合物(又は無機層状粒子)100重量部に対する架橋剤の割合は、1〜80重量部、好ましくは3〜70重量部、さらに好ましくは5〜60重量部(例えば、5〜55重量部)程度であってもよい。
【0075】
また、塗布液は、安定性を高めるため、アンモニア、アミン類(例えば、トリエチルアミンなどのアルキルアミン類、エタノールアミン、プロパノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどのアルカノールアミン類など)、ケトン類(アセトンなど)を添加してもよい。これらの化合物は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0076】
なお、塗布液は、必要に応じて、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、可塑剤、耐衝撃改良剤、補強剤、着色剤、分散剤、帯電防止剤、発泡剤、抗菌剤、消泡剤、粘度調整剤、防腐剤などの添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0077】
なお、これらの架橋剤や添加剤は、前記調製方法の一連の工程内において添加してもよいが、通常、前記混合工程を終えた後の分散液に添加(および混合)する場合が多い。
【0078】
[積層フィルム]
本発明の塗布液は、通常、基材フィルムにコーティング層(バリア層)を形成した積層フィルムを構成できる。すなわち、本発明の積層フィルムは、基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたコーティング層(バリア層)とで構成される。この積層フィルムにおいて、前記コーティング層(バリア層)は、前記塗布液で構成でき、基材フィルムの少なくとも一方の面に形成すればよく、基材フィルムの両面に形成してもよい。
【0079】
(基材フィルム)
基材フィルムの種類は特に制限されず、例えば、紙類、金属箔、プラスチックフィルム類が例示できる。フィルム類を構成するプラスチックとしては、例えば、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのホモ又はコポリアルキレンアリレート、液晶性ポリエステルなど)、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12など)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体など)、塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニルなど)、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロースエステル系樹脂などが例示できる。基材フィルムは単一の基材フィルムであってもよく、複数の層で構成された複合基材フィルム(例えば、紙とプラスチックとのラミネート紙、プラスチックフィルムとアルミニウム箔との積層体、プラスチック同士の積層体など)であってもよい。これらの基材フィルムのうち、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリC2-4アルキレンアリレート又はコポリエステルなどの芳香族ポリエステル系樹脂)、ポリアミド系樹脂、特にオレフィン系樹脂で構成された基材フィルム(又は非極性フィルム)が好ましい。基材フィルムは、通常、熱可塑性樹脂で構成される。
【0080】
オレフィン系樹脂としては、オレフィンの単独又は共重合体が挙げられる。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどのα−C2-16オレフィンなどが挙げられる。これらのオレフィンは単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。これらのオレフィンのうち、α−C2-8オレフィン、好ましくはα−C2-4オレフィン(エチレン、プロピレンなど)、さらに好ましくは少なくともプロピレンを含むのが好ましい。
【0081】
オレフィン系樹脂は、オレフィンと共重合性モノマーとの共重合体であってもよい。共重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル[例えば、(メタ)アクリル酸C1-6アルキルエステル];ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニルなど);環状オレフィン類(ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロペンタジエンなど);ジエン類などが例示できる。共重合性モノマーは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。共重合性モノマーの使用量は、オレフィン100重量部に対して、0〜100重量部、好ましくは0〜50重量部、さらに好ましくは0〜25重量部程度の範囲から選択できる。
【0082】
オレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン系樹脂[例えば、低、中又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−(4−メチルペンテン−1)共重合体など]、プロピレン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体などのプロピレン含有量80重量%以上のプロピレン系樹脂など)、ポリ(メチルペンテン−1)樹脂などが挙げられる。共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体又はそのアイオノマー、エチレン−アクリル酸エチル共重合体などのエチレン−(メタ)アクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフトポリプロピレンなどが例示できる。前記共重合体(オレフィン同士の共重合体及びオレフィンと共重合性モノマーとの共重合体)には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体が含まれる。
【0083】
これらのオレフィン系樹脂のうち、耐熱性、耐油性、強度や剛性などの点から、プロピレン系樹脂が好ましい。プロピレン系樹脂は、プロピレンホモポリマー又はプロピレン−α−オレフィン共重合体を含み、共重合体においてプロピレンとα−オレフィンとの割合(重量比)は、プロピレン/α−オレフィン=60/40〜100/0、好ましくは70/30〜100/0、さらに好ましくは80/20〜100/0(特に90/10〜100/0)程度である。
【0084】
プロピレン系樹脂は、アタクチック構造であってもよいが、アイソタクチック、シンジオタクチック、メタロセン触媒により生成するメタロセン構造などの立体規則性を有していてもよい。経済性などの点から、アイソタクチック構造を有するプロピレン系樹脂が好ましい。
【0085】
基材フィルムのベース樹脂(特に、プロピレン系樹脂などのオレフィン系樹脂)は、防湿性又は水蒸気バリア性を高めるため、テルペン系樹脂及び石油樹脂から選択された少なくとも一種の樹脂を含有していてもよい。テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン類(ピネン、カレン、ミルセン、オシメン、リモネン、テルピノレン、テルピネン、サビネン、トリシクレン、ピサポレン、ジンギペレン、サンタレン、カンホレン、ミレン、トタレンなど)の重合体又はこれらの水添物(例えば、80%以上の水添率で水素添加した樹脂)などが挙げられる。これらのテルペン系樹脂は極性基を含まないのが好ましい。
【0086】
石油樹脂としては、例えば、C5-9留分(高級オレフィン系炭化水素)を主成分とする脂肪族系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、ビニルトルエンやインデンなどの芳香族炭化水素を主成分とする石油樹脂、これらの水添物(例えば、80%以上の水添率で水素添加した樹脂)などが挙げられる。これらの石油樹脂は極性基を含まないのが好ましい。このような石油樹脂としては、具体的に、例えば、荒川化学(株)製の商品名「アルコンP−125」、トーネックス社製の「エスコレッツ5320HC」などが挙げられる。
【0087】
テルペン系樹脂及び/又は石油樹脂の含有量は、ベース樹脂100重量部に対して1〜15重量部(例えば、1〜10重量部)、好ましくは2〜10重量部程度であってもよい。
【0088】
なお、テルペン系樹脂及び/又は石油樹脂を含み、かつ防湿性などが付与されたプロピレン系樹脂をベース樹脂とする基材フィルムは、通常、密着性が低い。しかし、本発明では、このような基材フィルムに対しても、高い密着力でバリア層を形成できる。そのため、有機溶媒を含むアンカーコート剤を用いることなく、基材フィルムにバリア層を直接形成でき、環境に対する負荷も軽減できる。
【0089】
基材フィルムには、必要に応じて、前記塗布液と同様の添加剤を添加してもよい。
【0090】
基材フィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、通常、延伸(一軸又は二軸)されている。通常、二軸延伸フィルムを用いる場合が多い。また、基材フィルムの表面には、接着性を向上させるため、コロナ放電やグロー放電などの放電処理、酸処理、焔処理などの表面処理を施してもよい。
【0091】
さらに、基材フィルムとしては、金属(アルミニウムなど)又は金属酸化物(シリカ、アルミナなど)を蒸着した蒸着フィルムも使用できる。
【0092】
なお、必要であれば、基材フィルムとバリア層との間には、接着剤層(又はアンカーコート層)を形成してもよい。接着剤層を構成する接着成分(例えば、接着性樹脂)としては、例えば、ウレタン系樹脂(イソシアネート基含有ポリマーなど)、イミノ基含有ポリマー(ポリエチレンイミンなどのポリアルキレンイミンなど)、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂(エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体などの変性ポリオレフィンなど)、ゴム系接着剤、カップリング剤[チタンカップリング剤、シランカップリング剤]などが挙げられる。これらの接着成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。接着剤層の厚みは、0.01〜3μm、好ましくは0.01〜2μm、さらに好ましくは0.01〜1μm程度であってもよい。
【0093】
基材フィルムの厚みは、例えば、5〜100μm、好ましくは10〜70μm、さらに好ましくは15〜50μm程度であってもよい。また、バリア層の厚みは、0.2〜5μm程度の範囲から選択でき、例えば、0.2〜4μm、好ましくは0.3〜3μm、さらに好ましくは0.5〜2μm程度である。また、積層フィルム全体の厚みは、例えば、5〜200μm、好ましくは10〜100μm(例えば、15〜50μm)程度であってもよい。
【0094】
積層フィルム(ガスバリア性積層フィルム)は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、前記バリア層を形成することにより製造できる。前記バリア層は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、前記塗布液を塗布することにより形成できる。塗布液は、慣用の方法、例えば、グラビアコーティング、リバースコーティング、ドクターコーティング、バーコーティング、ディップコーティングなどを利用して塗布できる。
【0095】
前記基材フィルムに前記塗布液を塗布した後、適当な温度(例えば、80〜120℃程度)で乾燥することによりバリア層を形成できる。バリア層は、所定の温度(例えば、40〜60℃程度)で所定時間(例えば、1日以上)に亘りエージング処理してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の調製方法により得られる水性分散液(および塗布液)は、表面平滑性が高く、防湿性に優れたフィルム(バリア層)を形成するのに有用である。特に、前記塗布液により形成されたバリア層は、無機層状化合物が、微細かつ狭い粒径分布で均一に分散しているので、水性又は油性印刷インキによる印刷適性に優れており、半調(ハーフトーン)印刷などの高度な印刷であっても、印刷むらなどを生じることなく印刷可能である。そのため、食品、医薬品、化学品、電子部品又は精密部品などの包装材料に好適に利用できる。なお、印刷方法は、特に制限されず、フレキソ印刷、グラビア印刷などであってもよい。
【実施例】
【0097】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0098】
なお、以下の合成例および実施例においてメジアン径および標準偏差は、得られた分散液を、水で20倍希釈し、レーザ回折式粒度分布計(島津製作所(株)製、「SALD−2000」)を用いて測定した。
【0099】
また、以下の合成例において、特に断りのない限り、分散液(予備分散液、熟成分散液)の粘度は、分散液の温度11〜12℃で、モンモリロナイト3重量%の分散液260gを添加した250mLのポリエチレン製広口瓶(アズワン(株)製)、およびB型粘度計(東京計器(株)製、No.2ローター)を使用し、B型粘度計の回転速度12rpmで30秒間回転したときの粘度を測定した。
【0100】
(合成例1)
MH−50型(浅田鉄工(株)製)に、水38.8Kgを入れ、室温において3100rpmで高速攪拌しながら、モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、「クニピアG」)1.2Kg(すなわち、濃度3重量%)を除々に加えて90分室温にて攪拌した。投入時のダマがなくなった事を確認し、得られた予備分散液を5時間室温にて放置(熟成)し、熟成分散液を得た。得られた予備分散液と熟成分散液の粘度を測定した。また、得られた熟成分散液をマントンゴーリン型高圧分散機(NIRO SOAVI社製MODEL PA2K型)に圧力550kgf/cm2で2回通過させて高圧分散し、分散液1を得た。得られた分散液1において、モンモリロナイト粒子のメジアン径は0.671μm、標準偏差は0.190であった。また、予備分散液の粘度は325cps、熟成分散液の粘度は1288cpsであった。
【0101】
(合成例2)
熟成時間(放置時間)を24時間とした以外は合成例1と同様にして分散液2を得た。得られた分散液1において、モンモリロナイト粒子のメジアン径は0.651μm、標準偏差は0.195であった。また、予備分散液の粘度は325cps、熟成分散液の粘度は2088cpsであった。
【0102】
(合成例3)
MH−50型(浅田鉄工(株)製)に、水38.8Kgを入れ、室温において3100rpmで高速攪拌しながら、モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、「クニピアG」)1.2Kg(すなわち、濃度3重量%)を除々に加えて90分室温にて攪拌した。投入時のダマがなくなった事を確認し、得られた予備分散液を5時間室温にて放置(熟成)し、熟成分散液を得た。この熟成分散液を分散液3とした。得られた分散液3において、モンモリロナイト粒子のメジアン径は2.080μm、標準偏差は0.302であった。また、得られた予備分散液と熟成分散液の粘度を測定したところ、予備分散液の粘度は340cps、熟成分散液(分散液3)の粘度は1450cpsであった。
【0103】
(合成例4)
MH−50型(浅田鉄工(株)製)に、水38.8Kgを入れ、室温において3100rpmで高速攪拌しながら、モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、「クニピアG」)1.2Kg(すなわち、濃度3重量%)を除々に加えて90分室温にて攪拌した。投入時のダマがなくなった事を確認し、得られた予備分散液を熟成させることなくマントンゴーリン型高圧分散機(NIRO SOAVI社製MODEL PA2K型)に圧力550kgf/cm2で2回通過させて高圧分散し、分散液4を得た。得られた分散液4において、モンモリロナイト粒子のメジアン径は0.862μm、標準偏差は0.302であった。また、得られた予備分散液の粘度を測定したところ、予備分散液の粘度は345cpsであった。
【0104】
(合成例5)
MH−50型(浅田鉄工(株)製)に、水38.4Kgを入れ、室温において3100rpmで高速攪拌しながら、モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、「クニピアG」)1.6Kg(すなわち、濃度4重量%)を除々に加えて90分室温にて攪拌した。投入時のダマがなくなった事を確認し、得られた予備分散液を5時間室温にて放置(熟成)し、熟成分散液を得た。また、得られた熟成分散液をマントンゴーリン型高圧分散機(NIRO SOAVI社製MODEL PA2K型)に圧力550kgf/cm2で2回通過させて高圧分散し、分散液5を得た。得られた分散液5において、モンモリロナイト粒子のメジアン径は0.645μm、標準偏差は0.188であった。また、予備分散液と熟成分散液の粘度を、モンモリロナイト4重量%の分散液とする以外は、前記と同様の方法により測定したところ、予備分散液の粘度は3250cps、熟成分散液の粘度は5500cpsであった。
【0105】
なお、前記と同様の予備分散液を準備し、この予備分散液のモンモリロナイトの固形分率が3重量%となるように水を所定量入れて均一になるよう希釈攪拌し、粘度測定用予備分散液を得た。またこの粘度測定用予備分散液を5時間放置(熟成)し、粘度測定用熟成分散液を得た。得られた粘度測定用予備分散液と粘度測定用熟成分散液の粘度を測定したところ、粘度測定用分散液の粘度は340cps、粘度測定用熟成分散液の粘度は1450cpsであった。
【0106】
(合成例6)
MH−50型(浅田鉄工(株)製)に、水38.4Kgを入れ、室温において3100rpmで高速攪拌しながら、モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、「クニピアG」)1.6Kg(すなわち、濃度4重量%)を除々に加えて90分室温にて攪拌した。投入時のダマがなくなった事を確認し、得られた予備分散液を熟成させることなくマントンゴーリン型高圧分散機(NIRO SOAVI社製MODEL PA2K型)に圧力550kgf/cm2で2回通過させて高圧分散し、分散液6を得た。得られた分散液6において、モンモリロナイト粒子のメジアン径は0.921μm、標準偏差は0.332であった。また、予備分散液の粘度を、モンモリロナイト4重量%の分散液とする以外は、前記と同様の方法により測定したところ、予備分散液の粘度は、3450cpsであった。
【0107】
(合成例7)
MH−50型(浅田鉄工(株)製)に、水39.2Kgを入れ、室温において3100rpmで高速攪拌しながら、モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、「クニピアG」)0.8Kg(すなわち、濃度2重量%)を除々に加えて90分室温にて攪拌した。投入時のダマがなくなった事を確認し、得られた予備分散液を5時間室温にて放置(熟成)し、熟成分散液を得た。得られた予備分散液と熟成分散液の粘度を測定した。また、得られた熟成分散液をマントンゴーリン型高圧分散機(NIRO SOAVI社製MODEL PA2K型)に圧力550kgf/cm2で2回通過させて高圧分散し、分散液7を得た。得られた分散液7において、モンモリロナイト粒子のメジアン径は0.635μm、標準偏差は0.170であった。また、予備分散液と熟成分散液の粘度を、モンモリロナイト2重量%の分散液とする以外は、前記と同様の方法により測定したところ、予備分散液の粘度は、50cps、熟成分散液の粘度は200cpsであった。
【0108】
(実施例1)
MH−50型(浅田鉄工製(株)製)に、水34Kgを投入し、ついで攪拌しながらポリビニルアルコール(クラレ(株)製 105)1.31kgを投入し、最後に合成例1で得られた分散液1を1.47Kg入れて100rpmで攪拌した後、95℃まで加温して1時間攪拌溶解し塗布液1を得た。得られた塗布液1において、分散粒子(モンモリロナイト粒子)のメジアン径は0.645μm、標準偏差は0.166であり、分散粒子は微細且つシャープな粒径分布で均一に分散していた。
【0109】
(実施例2)
実施例1の分散液1を合成例2の分散液2に代える以外は実施例1と同様に塗布液2を調製した。塗布液2の分散粒子のメジアン径は0.651μm、標準偏差は0.195であり、分散粒子は微細且つシャープな粒径分布で均一に分散していた。
【0110】
(比較例1)
実施例1の分散液1を合成例3の分散液3に代える以外は実施例1と同様に塗布液3を調製した。塗布液3の分散粒子のメジアン径は2.010μm、標準偏差は0.305であった。
【0111】
(比較例2)
実施例1の分散液1を合成例4の分散液4に代える以外は実施例1と同様に塗布液4を調製した。塗布液4の分散粒子のメジアン径は0.868μm、標準偏差は0.312であった。
【0112】
(実施例3)
MH−50型(浅田鉄工製(株)製)に、水37.7Kgを投入し、ついで攪拌しながらポリビニルアルコール(クラレ(株)製 105)1.31kgを投入し、最後に合成例5で得られた分散液5を11Kg入れ100rpmで攪拌した後、95℃まで加温して1時間攪拌溶解し塗布液5を得た。得られた塗布液5において、分散粒子(モンモリロナイト粒子)のメジアン径は0.645μm、標準偏差は0.188であり、分散粒子は微細且つシャープな粒径分布で均一に分散していた。
【0113】
(比較例3)
実施例3の分散液5を合成例6の分散液6に代える以外は実施例3と同様に塗布液6を調製した。塗布液6の分散粒子のメジアン径は0.920μm、標準偏差は0.330であった。
【0114】
(実施例4)
MH−50型(浅田鉄工製(株)製)に、水26.7Kgを投入し、ついで攪拌しながらポリビニルアルコール(クラレ(株)製 105)1.31kgを投入し、最後に合成例7で得られた分散液7を22Kg入れ100rpmで攪拌した後、95℃まで加温して1時間攪拌溶解し塗布液7を得た。得られた塗布液7において、分散粒子(モンモリロナイト粒子)のメジアン径は0.624μm、標準偏差は0.174であり、分散粒子は微細且つシャープな粒径分布で均一に分散していた。
【0115】
(実施例5)
コロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレンフィルム(ダイセル化学工業(株)製、「グレードG1」、厚み20μm、表面張力 39 dyne/cm)のコロナ処理面に市販のアンカーコート剤((株)日本触媒製、「エポミンP1000」)を酢酸エチルにて希釈した液を塗布量0.1g/m2となる様にリバースロールコーターを用いて塗布し、アンカーコート層を形成した。このアンカーコート層に実施例1で得られた塗布液1を乾燥後の塗布量が0.5g/m2となる様に塗布し、積層フィルムを得た。このフィルムのコート層上に5〜100%の階調のグラビア版を用いてグラビア印刷を行った。
【0116】
グラビアインキは東洋インキ製「LPファィン」の黒色を用いた。そのグラビア印刷における階調40%〜5%以下の印刷抜けの個数を測定し、測定面積で割った値(個/cm2)を算出し、グラビア印刷及び印刷抜けの個数の評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(実施例6)
実施例5の塗布液1を実施例2で調製した塗布液2に変更する以外は実施例5と同様にフィルムの作製、グラビア印刷及び印刷抜けの個数の評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
(比較例4)
実施例5の塗布液1を比較例1で調製した塗布液4に変更する以外は実施例5と同様にフィルムの作製、グラビア印刷及び印刷抜けの個数の評価を行った。結果を表1に示す。
【0119】
(比較例5)
実施例5の塗布液1を比較例2で調製した塗布液5に変更する以外は実施例5と同様にフィルムの作製、グラビア印刷及び印刷抜けの個数の評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
(実施例7)
実施例5の塗布液1を実施例3で調製した塗布液6に変更する以外は実施例5と同様にフィルムの作製、グラビア印刷及び印刷抜けの個数の評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(比較例6)
実施例5の塗布液1を比較例3で調製した塗布液7に変更する以外は実施例5と同様にフィルムの作製、グラビア印刷及び印刷抜けの個数の評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例8)
実施例5の塗布液1を実施例4で調製した塗布液8に変更する以外は実施例5と同様にフィルムの作製、グラビア印刷及び印刷抜けの個数の評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機層状化合物が分散した水性分散液の調製方法であって、(i)前記無機層状化合物を水性溶媒に予備分散する予備分散工程と、(ii)予備分散により得られた予備分散液(a)を熟成させる熟成工程と、(iii)熟成により得られた熟成分散液(b)を高圧分散処理する高圧分散工程とで構成されている水性分散液の調製方法。
【請求項2】
熟成工程(ii)において、予備分散液(a)を、室温下で5時間以上放置して熟成させる請求項1記載の調製方法。
【請求項3】
熟成工程(ii)で、無機層状化合物の濃度が1〜5重量%の予備分散液(a)を熟成させる方法であって、無機層状化合物の濃度が3重量%であるとき、温度11〜12℃で、熟成分散液(b)の粘度が800cps以上となる条件で予備分散液(a)を熟成させる請求項1記載の調製方法。
【請求項4】
熟成工程(ii)で、無機層状化合物の濃度が1〜5重量%の予備分散液(a)を熟成させる方法であって、無機層状化合物の濃度が3重量%であるとき、温度11〜12℃で、熟成分散液(b)の粘度が、予備分散液(a)の粘度に対して3倍以上となる条件で予備分散液(a)を熟成させる請求項1記載の調製方法。
【請求項5】
熟成工程(ii)で、無機層状化合物の濃度が1〜5重量%の予備分散液(a)を熟成させる方法であって、無機層状化合物の濃度が3重量%であるとき、温度11〜12℃で、熟成分散液(b)の粘度が1200cps以上となり、かつ熟成分散液(b)の粘度が、予備分散液(a)の粘度に対して4倍以上となる条件で予備分散液(a)を熟成させる請求項1記載の調製方法。
【請求項6】
高圧分散工程(iii)において、圧力300〜1500kgf/cm2で少なくとも2回高圧分散処理する請求項1記載の調製方法。
【請求項7】
高圧分散工程(iii)により得られた高圧分散液(c)において、無機層状化合物のメジアン径が1μm以下であり、かつ無機層状化合物の粒径分布に関する標準偏差が0.29以下である請求項1記載の調製方法。
【請求項8】
高圧分散工程(iii)により得られた高圧分散液(c)において、無機層状化合物のメジアン径が0.3〜0.8μmであり、かつ無機層状化合物の粒径分布に関する標準偏差が0.1〜0.25である請求項1記載の調製方法。
【請求項9】
請求項1記載の調製方法により得られる水性分散液と、水溶性高分子化合物とで構成された塗布液。
【請求項10】
水性分散液の溶媒成分が、水単独で構成されている請求項9記載の塗布液。
【請求項11】
水性分散液の溶媒成分が水単独で構成され、かつ水溶性高分子化合物がビニルアルコール系重合体で構成されており、無機層状化合物および水溶性高分子化合物の総量の割合が、固形分換算で、水100重量部に対して、1〜10重量部であり、無機層状化合物の割合が、固形分換算で、ビニルアルコール系重合体100重量部に対して、5〜30重量部である請求項9記載の塗布液。
【請求項12】
請求項1記載の調製方法により得られる水性分散液と、水溶性高分子化合物とを混合する請求項9記載の塗布液の調製方法。
【請求項13】
水性分散液と粉粒状の水溶性高分子化合物とを混合する請求項12記載の調製方法。
【請求項14】
水に粉粒状の水溶性高分子化合物を添加し、前記水溶性高分子化合物の形態が粉粒状に保持された状態で、水性分散液を混合する請求項12記載の調製方法。
【請求項15】
基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたコーティング層とで構成された積層フィルムであって、前記コーティング層が請求項9記載の塗布液で構成されている積層フィルム。

【公開番号】特開2006−26486(P2006−26486A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206572(P2004−206572)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】