説明

水性塗布組成物、親水性塗布ポリエステルフィルム及びその製造方法

【課題】優れた防曇性を有し、水洗しても洗い流されることなく、親水性に優れ、二軸延伸ポリエステルフィルムのインライン工程において好適に形成出来る塗布層を形成するための水性塗布組成物を提供する。
【解決手段】水、ポリビニルピロリドン及び界面活性剤から成る水性塗布組成物、および、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が形成されている親水性塗布ポリエステルフィルムであって、塗布層が上記水性塗布組成物を塗布し、乾燥することによって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性塗布組成物に関し、詳しくは、優れた防曇性を有し、水洗しても洗い流されることなく、親水性に優れ、二軸延伸ポリエステルフィルムのインライン工程において好適に形成出来る塗布層を形成するための水性塗布組成物に関する。本発明は、更に、上記塗布層を有するポリエステルフィルム及びその製造方法ならびにその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
包装用材料業界において、二軸延伸ポリエステルフィルムに対して高度な性能が要求されている。新鮮で腐敗しやすい食品をポリエステルフィルムで包装する際、特に冷蔵食品の場合、外気の湿気がフィルムに結露して水滴となり、フィルムが曇って透明性が悪化し、内容物の視認が出来なくなる。このような外気中の湿気による曇りを防ぎ、透明性を向上させるために、フィルム表面に親水性の防曇塗布層を設ける。
【0003】
また、医療診断業界においても、フィルム表面の親水性化が要求されることがある。例えば、ポリエステルフィルムから成る診断用ロッドの場合、血液などの液体を塗布した際、その表面に均一に速やかに広がらなければならない。そのため、フィルム表面に親水性塗布層を設ける。
【0004】
プラスチック表面の防曇性を高めるためには、次の異なる2つの方法がある。第1の方法としてはポリマー中に添加剤を配合する方法であり、第2の方法としては、ポリマー成型品表面に防曇塗布層を設ける方法である。ポリマー中に添加剤を配合する方法としては、ポリオレフィンから成る成型品、特にフィルムの場合に効果的である(例えば、特許文献1参照)。添加剤としては、両親媒性分子構造を有する化合物が使用され、ポリマー中に配合された添加剤が表面に滲出すことにより防曇効果が得られる。すなわち、両親媒性分子の極性基が成型品表面に滲出し、防曇層を形成する。しかしながら、この様な極性基を有する添加剤の滲出しは、ポリオレフィンにおいて可能であるが、ポリエステルにおいては、それ自身高い極性を有するため、添加剤の滲出し効果は難しい。
【0005】
また、水溶性ポリマーを主成分とする塗布層を形成することも知られている。しかしながら、この種の水性ポリマー塗布層は洗い流されやすい。そのため、水溶性ポリマーの架橋を行う様な添加剤が含有される。さらに、界面活性剤を添加し、水との表面張力を低減させることが好ましい。しかしながら、この種の塗布層は、すでに成型品となっているフィルム(ポリエステルフィルム)に対して塗布・乾燥して形成するものである。すなわち、塗布層を形成するためには、フィルムを成形する工程と塗布層を形成する工程の2工程を要する。従って、このような塗布層は、ポリエステルフィルムの製造中、いわゆるインライン工程によって形成されるのが好ましいと考えられるが、未だに行われていない。
【0006】
さらに、a)ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド又はα−オレフィンとポリビニルピロリドンとの共重合体、b)ポリイソシアネートプレポリマー、c)界面活性剤およびd)有機溶媒から成る防曇用塗布組成物も知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この塗布組成物は有機溶媒を使用しているため、特にインライン工程で塗布を行う際に、有機溶媒の蒸発除去が問題となる。さらに、この塗布層を有するフィルムを食品包装用として使用した場合、上記塗布組成物はイソシアナートを使用しているために、発ガン性の1級アミンが形成され、問題となる。
【0007】
また、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メラミン(架橋剤)および鉱酸または強有機酸から成る親水性塗布組成物も知られている(例えば、特許文献3参照)。この塗布組成物は鎖延長剤、消泡剤、界面活性剤などの添加剤を含有してもよい。上記塗布組成物の固形分含有量は5〜50%である。硬く透明な塗布層を得るために、架橋温度が75℃以上である必要があり、例えば、130〜150℃の温度で架橋反応を行う。しかしながら、このような塗布組成物は、ポリエステルに適応することは難し。すなわち、塗布を行った後の早い段階で乾燥および架橋反応が起り、延伸の工程中に塗布層によるフィルムの引裂きが生じたりする。また、この種の塗布層は硬過ぎて、可撓性フィルムには使用できない。
【0008】
【特許文献1】国際公開第2002/074535号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4467073号明細書
【特許文献3】米国特許第5262475号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた防曇性を有し、水洗しても洗い流されることなく、親水性に優れ、二軸延伸ポリエステルフィルムのインライン工程において好適に形成出来る塗布層を形成するための水性塗布組成物を提供することである。本発明は、更に、上記塗布層を有するポリエステルフィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の組成を有する水性塗布組成物により上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の要旨は、水、ポリビニルピロリドン及び界面活性剤から成る水性塗布組成物に存する。
【0012】
本発明の第2の要旨は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が形成されている親水性塗布ポリエステルフィルムであって、塗布層が上記第1の要旨に記載の水性塗布組成物を塗布し、乾燥することによって形成されることを特徴とする親水性塗布ポリエステルフィルムに存する。
【0013】
本発明の第3の要旨は、押出機内でポリエステルチップを溶融させる溶融工程と、スロットダイを介して溶融ポリエステルを押出す押出工程と、冷却ロールを使用して押出された溶融体を冷却固化して非晶シートを得る冷却工程と、非晶シートを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、延伸フィルムを熱固定する熱固定工程と、熱固定した延伸フィルムを巻取る巻取り工程とから成る延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、冷却工程と熱固定工程との間に、上記第1の要旨に記載の水性塗布組成物を塗布することを特徴とする延伸ポリエステルフィルムの製造方法に存する。
【0014】
本発明の第4の要旨は、上記第1の要旨に記載の水性塗布組成物を塗布・乾燥することにより形成される塗布層を有するポリマー成型品に存する。
【0015】
本発明の第5の要旨は、上記第1の要旨に記載の水性塗布組成物を塗布・乾燥することにより形成される塗布層を有する眼鏡用ガラスに存する。
【0016】
本発明の第6の要旨は、上記第2の要旨に記載のポリエステルフィルムから成る食品包装フィルムに存する。
【0017】
本発明の第7の要旨は、上記第2の要旨に記載のポリエステルフィルムから成る医療用診断器具に存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水性塗布組成物は、優れた防曇性を有し、水洗しても洗い流されることなく、親水性に優れ、二軸延伸ポリエステルフィルムのインライン工程において好適に形成出来る塗布層を形成するために好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の水性塗布組成物は、水、ポリビニルピロリドン及び界面活性剤から成る。水性塗布組成物は、水溶性または水分散性の形態を有する。ポリビニルピロリドンとしては、分子量が通常20〜2500kダルトン、好ましくは40〜1500kダルトンのものを使用する。分子量が小さ過ぎると、耐水洗性が悪化し、分子量が大き過ぎると、水性塗布組成物の粘度が高過ぎて塗布に問題が生じる。水性塗布組成物中のポリビニルピロリドンの含有量は、通常0.3〜4.0重量%、好ましくは0.5〜3.5重量%である。
【0020】
界面活性剤としては、親水性部分と疎水性部分を合わせ持つ両親媒性分子から成る化合物であり、好ましくはイオン性界面活性剤が挙げられる。具体的には、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸エステルから成る群より選択される陰イオン性界面活性剤が挙げられる。水性塗布組成物中の界面活性剤の含有量は、通常0.1〜2.5重量%、好ましくは0.3〜2.0重量%である。
【0021】
本発明の水性塗布組成物は、塗布層を形成するポリエステルフィルム等のフィルム表面との接着性を高めるため、塗布表面にポリビニルピロリドンを接着させるための接着促進性ポリマーをさらに含有することが好ましい。接着促進性ポリマーとしては、アクリレート、親水性ポリエステル、ポリウレタン、ブタジエンとアクリロニトリル又はメチルメタクリレートとの共重合体、メタクリル酸またはそのエステルから選択される1種以上が挙げられる。
【0022】
接着促進性ポリマーとしては、例えば、国際公開公報94/13476号公報に開示されているアクリレート;欧州特許0144878号公開公報、米国特許4252885号公報または欧州特許0296620号公開公報に開示されている親水性ポリエステル(5−Na−スルホイソフタル酸含有PET/IPAポリエステル、水酸基またはカルボン酸基を末端に有する分岐状ポリエステル);ポリウレタン;アクリロニトリル、メチルメタクリレート、メタクリル酸またはそのエステルとブタジエンとの共重合体などが挙げられる。
【0023】
上記アクリレートとしては、好ましくはメタクリル酸エステル、特に好ましくはメタクリル酸アルキルエステルである。上記アルキルエステルとしては、炭素数10までのアルキル基が好ましく、具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル及びn−オクチル基が例示される。C1−C4の低級アルキルアクリレートから誘導されるアクリル系共重合体、特にエチルアクリレートを低級アルキルメタクリレートと共に使用する場合、ポリエステルフィルムとの接着性が特に良好である。また、架橋性コモノマーを使用することが好ましく、架橋性コモノマーとしては、N−メチロールアミド、N−メチロールアクリルアミド及びそれらのエーテル化物;クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等のカルボキシ基を含有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;アリルアルコール、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイミド等のアミドが例示される。これらのコモノマーを共重合体成分とすることにより、ポリエステルとポリビニルピロリドンとの間の接着性を高めることが出来る。
【0024】
水性塗布組成物中の接着促進性ポリマーの含有量は、通常0.3〜4.0重量%、好ましくは0.5〜3.5重量%である。
【0025】
水性塗布組成物中のポリビニルピロリドン、界面活性剤および接着促進性ポリマーの含有量の総計は、通常1〜8重量%である。
【0026】
本発明の水性塗布組成物は、耐ブロッキング剤を含有することが好ましい。耐ブロッキング剤としては、無機粒子および/または有機粒子が挙げられる。無機および/または有機粒子としては、炭酸カルシウム、非晶シリカ、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リチウムホスフェート、カルシウムホスフェート、マグネシウムホスフェート、アルミナ、フッ化リチウム、二酸化チタン、カオリン、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメチルメタクリレート粒子などが例示される。中でも、フィルム上への水の分散性を高めて水性塗布組成物が均一にフィルム上に分散できること及び形成された塗布層の表面の親水性を高める観点から、極性シリカ(非晶シリカ)が好ましい。
【0027】
本発明の水性塗布組成物は、必須成分である水、ポリビニルピロリドン及び界面活性剤、および任意成分である接着促進性ポリマー、耐ブロッキング剤から主として成り、これらの割合は通常90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上である。
【0028】
次に、本発明の第2の要旨であるポリエステルフィルムについて説明する。本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が形成されている親水性塗布ポリエステルフィルムであり、塗布層が上記の水性塗布組成物を塗布し、乾燥することによって形成される。
【0029】
ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、例えば、「Handbook of Thermoplastic Polyesters」(S.Fakirov校訂、Wiley−VCH社版、2002年)に記載されている公知のポリエステルが使用できる。具体的には、エチレングリコール単位とテレフタル酸単位とから成るポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレングリコール単位と2,6−ナフタレンジカルボン酸単位とから成るポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン単位とテレフタル酸単位とから成るポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCDT)が挙げられる。
【0030】
ポリエステルフィルムとしては、単層構造であっても2層以上の多層構造であってもよい。多層構造としては、ベース層Bと外層Cとから成るBC構造、ベース層Bと中間層Zと外層Cとから成るBZC構造、ベース層Bと2つの外層Aから成るABA構造、ベース層Bと外層A及びCとから成るABC構造などが例示され、さらに中間層Zを有していてもよい。例えば、少なくとも1つの外層が、シール性、剥離性などを有してもよい。この様な特性を付与するには、低いガラス転移温度を有するポリエステルを使用したり、他のシール性ポリマーを使用したりする。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムの総厚みは、通常5〜500μm、好ましくは10〜350μmである。塗布層の厚みは、通常5〜500nm、好ましくは30〜200nmである。本発明のポリエステルフィルムは二軸延伸されていることが好ましい。
【0032】
また、本発明のポリエステルフィルムは、透明であっても、不透明であっても、光沢性であっても、艶消性であっても構わない。炭酸カルシウム、非晶シリカ、二酸化チタン等の添加剤を異なる添加量で添加することにより異なる光学的特性を有するポリエステルフィルムを得ることが出来る。これらの添加剤は、ベース層B、外層A及びCの何れに添加してもよく、これらの2層以上に添加してもよい。
【0033】
次に、本発明の第3の要旨である延伸ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。本発明の製造方法は、押出機内でポリエステルチップを溶融させる溶融工程と、スロットダイを介して溶融ポリエステルを押出す押出工程と、冷却ロールを使用して押出された溶融体を冷却固化して非晶シートを得る冷却工程と、非晶シートを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、延伸フィルムを熱固定する熱固定工程と、熱固定した延伸フィルムを巻取る巻取り工程とから成る。そして、冷却工程と熱固定工程との間に、上記の水性塗布組成物を塗布する。
【0034】
延伸ポリエステルフィルムの製造方法については、例えば、「Handbook of Thermoplastic Polyesters」(S.Fakirov校訂、Wiley−VCH社版、2002年)に記載されている公知の製造方法を採用することが出来る。具体的には、押出機内でポリエステルチップ及び任意成分である添加剤を溶融混合させた後(溶融工程)、スロットダイを介して溶融ポリエステルを押出し(押出工程)、冷却ロールを使用して押出された溶融体を冷却固化して実質的に非晶な非晶シートを得る(冷却工程)。得られた非晶シートを再加熱し、長手方向と横方向の少なくとも1方向に延伸して延伸フィルムを得る(延伸工程)。好ましくは、長手方向と横方向、横方向と長手方向、長手方向と横方向に延伸後に再度長手方向および/または横方向に延伸を行う。
【0035】
延伸温度は、ポリマーのガラス転移温度をTgとした場合、通常、Tg+10〜Tg+60℃で行う。長手方向の延伸比は、通常2.0〜6.0倍、好ましくは3.0〜4.5倍で、横方向の延伸比は、通常2.0〜5.0、好ましくは3.0〜4.5である。再度長手方向または横方向に延伸した場合の延伸比は、通常1.1〜5.0倍である。なお、長手方向と横方向の延伸を同時に行ってもよい(同時延伸法)。
【0036】
得られた延伸フィルムは、通常180〜260℃、好ましくは220〜250℃で、通常0.1〜10秒間熱固定が行われる(熱固定工程)。熱固定した延伸フィルムは冷却され、巻取られる(巻取り工程)。
【0037】
本発明の製造方法において、冷却工程と熱固定工程との間に、上記の水性塗布組成物を塗布する。すなわち、フィルムの製造工程中にインライン法によって塗布を行う。好ましくは、長手方向および/または横方向の延伸前に塗布を行う。ポリエステルフィルムへの濡れ性を向上し、水性塗布組成物が均一に塗布されるように、塗布を行う前に、ポリエステルフィルムの表面をコロナ処理することが好ましい。塗布は、スロットキャスター法や、スプレー法などの公知の方法によって行うことが出来る。特に、一つ以上のリヴァースグラヴュアロールを使用して塗布を行うことにより、塗布量が1.0〜3.0g/mの範囲において、極めて均一な塗布を行うことが出来るので好ましい。また、塗布厚みが大きい場合はメイヤーロッド法により塗布を行うことが好ましい。
【0038】
塗布された水性塗布組成物は、延伸中に乾燥し、特に熱固定中(240℃までの温度下)に、水性塗布組成物の化合物が反応する。この様にして形成された塗布層は、基本的には、ポリビニルピロリドン及び界面活性剤、それに任意成分として接着促進性ポリマー及び耐ブロッキング剤から成り、優れた防曇性を有し、耐水洗性が良好である。さらに本発明のポリエステルフィルムの塗布層を有する側の表面張力は、通常70mN/mを超えるほどの高い親水性を有する。そのため、接触角法では接触角を計測できず、水滴は極めて平らに広がる。
【0039】
本発明の水性塗布組成物は、ポリマー成型品の表面に塗布することが出来る。代表的にはポリマーフィルムの表面に塗布することが好ましいが、それ以外の成型品においても適宜塗布を行うことが出来る。また、得られた塗布層は、優れた防曇性、耐水洗性および親水性を有するため、眼鏡用ガラスに塗布を行うことも好適である。さらに、本発明のポリエステルフィルムは、上記の塗布層の優れた特性に加えて安全性が高いため、食品包装フィルムや医療用診断器具に好適に使用できる。
【0040】
本発明の水性塗布組成物の好ましい範囲について以下の表1に記載する。
【0041】
【表1】

【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。評価方法を以下に示す。
【0043】
(1)防曇性:
ポリエステルフィルムの防曇性は以下の方法で評価した。実験室内を23℃、相対湿度50%に調節する。食品トレー(長さ17cm、幅12cm、深さ3cm、非晶ポリエチレンテレフタレート製)に50mlの水を入れ、試料フィルムをその上から覆って密着させる。4℃に調節した冷蔵庫にこのトレーを入れ、10分、30分、4時間、8時間、24時間後にそれぞれ取出し、23℃、相対湿度50%の実験室中で、微細水滴が認められるかをテストした。防曇性が高い場合、フィルム表面に結露しても、フィルムは透明である。一方、防曇性が無い場合、微細水滴による曇りが発生し、フィルムの透明性が悪化する。最も悪い場合、内容物が視認できなくなる。
【0044】
さらに、高温での防曇性のテストも行った。250mlビーカーに水を入れ、ビーカーの上部にフィルムを配置する。ビーカーを水浴で70℃に加熱し(周囲の温度は23℃)、上記と同じテストを行う。このテストでは、絶えず水滴がフィルム表面に発生し、塗布層を洗いながらビーカー中に落ちるということが繰り返される。このテストにより、防曇性の持続性、耐水洗性が評価できる。すなわち、水溶性基質が水洗され、防曇性が悪化するかが判定できる。
【0045】
(2)フィルムの透明性および不透明性:
フィルムの透明性および不透明性は、BYK Gardner社製「Hazegard Hazemeter XL−211」を使用し、ASTM−D 1033−77及びASTM−D 1003−61にそれぞれ従って測定した。
【0046】
実施例1:
ポリエチレンテレフタレートの溶融体をスロットダイを介して押出し、20℃の冷却ロール上で冷却・固化し、未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを長手方向に115℃で3.8倍に延伸した後、フィルムの表面をコロナ処理した。コロナ処理を行った表面にリヴァースグラヴィアコーティング法により塗布液を塗布した。塗布液の組成は、ポリビニルピロリドン(BASF AG社製「Luvitec(登録商標) K30」、Mw=50kダルトン)2.0重量%およびジエチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(BASF AG社製「Lutensit(登録商標) A−BO」)1.0重量%を含有する水性塗布液であった。
【0047】
次いで、100℃に加熱し、横方向に3.8倍に延伸し、230℃で熱固定を行って二軸延伸フィルムを得た。フィルムの厚さは25μmで、塗布量は0.04g/mであった。得られたフィルムは防曇性に優れ、フィルム表面上に微細な水滴の付着は認められなかった。また、塗布層の耐水洗性は良好で、フィルムの透明性/不透明性は、防曇テスト前後で変化なかった。
【0048】
実施例2:
実施例1の塗布層の組成において、さらに、メチルメタクリレート60重量%とエチルアクリレート35重量%とN−メチロールアクリルアミド5重量%から成るアクリレート共重合体1.0重量%を追加し、フィルムの厚さを50μmに変更した以外は、実施例1と同様の操作でフィルムを作成した。塗布量は0.04g/mであった。実施例1と同様の操作でフィルムを作成した。得られたフィルムは防曇性に優れ、フィルム表面上に微細な水滴の付着は認められなかった。特に実施例1と比較して塗布層の耐水性が更に向上し、スチームで数時間処理しても防曇性は維持された。フィルムの透明性/不透明性は、防曇テスト前後で変化なかった。
【0049】
実施例3:
実施例1において、塗布液として、ポリビニルピロリドン(BASF AG社製「Luvitec(登録商標) K60」、Mw=450kダルトン)1.5重量%、アクリル酸−マレイン酸共重合体(Aldrich社製、Mw=3kダルトン)1.0重量%及びラウリル硫酸ナトリウム1.0重量%を含有する水性塗布液を使用し、フィルムの厚さを12μmに、塗布量を0.06g/mに変更した以外は、実施例1と同様の操作でフィルムを作成した。得られたフィルムは防曇性に優れ、フィルム表面上に微細な水滴の付着は認められなかった。また、塗布層の耐水洗性は極めて良好で、フィルムの透明性/不透明性は、防曇テスト前後で変化なかった。
【0050】
比較例1:
実施例1において、塗布層を設けなかった以外は実施例1と同様の操作でフィルムを作成した。微細水滴が多量に付着し、フィルムの防曇性は不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、ポリビニルピロリドン及び界面活性剤から成る水性塗布組成物。
【請求項2】
界面活性剤がイオン性界面活性剤である請求項1に記載の水性塗布組成物。
【請求項3】
界面活性剤が、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸エステルから成る群より選択される陰イオン性界面活性剤である請求項1又は2に記載の水性塗布組成物。
【請求項4】
塗布面を構成するポリマーにポリビニルピロリドンを接着させる接着促進性ポリマーをさらに含有する請求項1〜3の何れかに記載の水性塗布組成物。
【請求項5】
接着促進性ポリマーが、アクリレート、親水性ポリエステル、ポリウレタン、ブタジエンとアクリロニトリル又はメチルメタクリレートとの共重合体、メタクリル酸またはそのエステルから選択される1種以上である請求項4に記載の水性塗布組成物。
【請求項6】
さらに、耐ブロッキング剤を含有する請求項1〜5の何れかに記載の水性塗布組成物。
【請求項7】
耐ブロッキング剤が、無機粒子および/または有機粒子である請求項6に記載の水性塗布組成物。
【請求項8】
ポリビニルピロリドンの分子量が20〜2500kダルトンである請求項1〜7の何れかに記載の水性塗布組成物。
【請求項9】
水性塗布組成物中のポリビニルピロリドンの含有量が0.3〜4.0重量%である請求項1〜8の何れかに記載の水性塗布組成物。
【請求項10】
水性塗布組成物中の界面活性剤の含有量が0.1〜2.5重量%である請求項1〜9の何れかに記載の水性塗布組成物。
【請求項11】
水性塗布組成物中の接着促進性ポリマーの含有量が0.3〜4.0重量%である請求項4〜10の何れかに記載の水性塗布組成物。
【請求項12】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が形成されている親水性塗布ポリエステルフィルムであって、塗布層が請求項1〜11の何れかに記載の水性塗布組成物を塗布し、乾燥することによって形成されることを特徴とする親水性塗布ポリエステルフィルム。
【請求項13】
ポリエステルフィルムが単層構造を有する請求項12に記載の親水性塗布ポリエステルフィルム。
【請求項14】
ポリエステルフィルムが2層以上の多層構造を有する請求項12に記載の親水性塗布ポリエステルフィルム。
【請求項15】
総厚みが5〜500μmである請求項12〜14の何れかに記載の親水性塗布ポリエステルフィルム。
【請求項16】
塗布層の厚みが5〜500nmである請求項12〜15の何れかに記載の親水性塗布ポリエステルフィルム。
【請求項17】
二軸延伸されている請求項12〜16の何れかに記載の親水性塗布ポリエステルフィルム。
【請求項18】
押出機内でポリエステルチップを溶融させる溶融工程と、スロットダイを介して溶融ポリエステルを押出す押出工程と、冷却ロールを使用して押出された溶融体を冷却固化して非晶シートを得る冷却工程と、非晶シートを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、延伸フィルムを熱固定する熱固定工程と、熱固定した延伸フィルムを巻取る巻取り工程とから成る延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、冷却工程と熱固定工程との間に、請求項1〜11の何れかに記載の水性塗布組成物を塗布することを特徴とする延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項19】
水性塗布組成物の塗布を行う前に、フィルムにコロナ処理を施す請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
一つ以上のリヴァースグラヴュアロールを使用して水性塗布組成物の塗布を行う請求項18又は19に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜11の何れかに記載の水性塗布組成物を塗布・乾燥することにより形成される塗布層を有するポリマー成型品。
【請求項22】
請求項1〜11の何れかに記載の水性塗布組成物を塗布・乾燥することにより形成される塗布層を有する眼鏡用ガラス。
【請求項23】
請求項12〜17の何れかに記載のポリエステルフィルムから成る食品包装フィルム。
【請求項24】
請求項12〜17の何れかに記載のポリエステルフィルムから成る医療用診断器具。

【公開番号】特開2006−131901(P2006−131901A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296100(P2005−296100)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(596099734)ミツビシ ポリエステル フィルム ジーエムビーエイチ (29)
【Fターム(参考)】