説明

水性塗料及び塗膜形成方法

【課題】 揮発性有機化合物の発生を低減し、かつ仕上り性、防食性に優れた塗膜を得ること。
【解決手段】 亜鉛(a)と導電性フィラー(a)をリン酸基含有分散用樹脂(a)を用いて分散してなる亜鉛分散ペースト(A)、基体樹脂(B)及び架橋剤(C)を含有する水性塗料であって、基体樹脂(B)と架橋剤(C)の固形分合計100重量部に対して、亜鉛(a)を10〜500重量部及び導電性フィラー(a)を0.1〜100重量部の範囲で配合してなる水性塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛末及び導電性フィラーを含有した水性塗料に関するもので、揮発性有機化合物を低減し、かつ仕上り性及び防食性に優れた塗膜が得られる。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般に多量の亜鉛末を含有した塗料は、亜鉛の犠牲防食の効果を利用し、仕上り性、付着性、高防食性に優れる塗膜を得る。
しかし従来は、有機溶剤を用いた塗料であったことから、常に火災の危険がつきまとい、さらに使用者の健康への影響、また最近になって特に環境への影響が懸念されている。さらに有機溶剤は、低VOC規制(揮発性有機化合物、volatile organic compounds)やHAPs(有害性大気汚染物質、Hazardous Air Pollutants)規制によって使用が制限されてきた。このような背景から塗料の水性化が求められてきた。
【0003】
しかし水性塗料において、高防食塗膜を得る目的で多量の亜鉛末を配合すると、亜鉛が卑な金属である為に水素ガスが発生して塗料安定性を損う、塗装面の垂直部ではタレの発生、水平部では仕上り性が低下する等の問題点があった。
【0004】
従来、樹脂成分100重量部に対して、亜鉛末50〜86重量部及び導電性カーボンブラック1〜10重量部を配合してなる黒色亜鉛末塗料組成物、が知られている[特許文献1]。
上記の[特許文献1]の発明は、溶媒として有機溶剤を用いた塗料で、実施例にもメチルエチルケトンやキシレンが多量に使用されており、揮発性有機化合物の低減を達成できるものでない。
他に、珪素系無機結合剤、亜鉛末および潤滑剤を主成分として配合してなる防錆塗料組成物に関する発明がある[特許文献2]。
上記の[特許文献2]の発明は、溶媒として有機溶剤を用いることを前提としており、揮発性有機化合物の低減を目的とした水性塗料ではなく、多量の亜鉛を水性塗料に適用する対策の記述もない。
【0005】
他に、亜鉛末及びエポキシ樹脂のリン酸エステル及び水酸基含有樹脂のリン酸エステルからなる群から選ばれた少なくとも1種のリン酸エステル樹脂を含有する亜鉛末含有水系組成物がある[特許文献3]。
上記の[特許文献3]の発明は、多量の亜鉛末を塗膜中に含有させる必要があり、高防食性の塗膜を得るには、仕上り性や塗料安定性が問題点となった。
【0006】
他に、電着塗料の基体樹脂と硬化剤の固形分合計100重量部に対して、りん酸基
含有分散用樹脂で分散した亜鉛粉末を1〜100重量部含有する電着塗料に関する発明がある[特許文献4]。
上記の[特許文献4]の発明は、水性塗料である電着塗料に亜鉛粉末を適用した発明であるが、防食性が不十分であり、さらに高防食性を得るためには、多量の亜鉛粉末を配合する必要があるため塗料安定性や仕上り性を大幅に低下させた。
【0007】
【特許文献1】特開平6−49393号公報
【特許文献2】特開平8−73777号公報
【特許文献3】特開平11−124520号公報
【特許文献4】特開2004−51686号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、揮発性有機化合物の低減(低VOC化)を図り、かつ仕上り性に優れ、高防食性で耐候性に優れる塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、亜鉛末と導電性フィラーをリン酸基含有分散用樹脂で分散してなる顔料分散ペーストを含有する水性塗料によって、揮発性有機化合物の低減(低VOC化)を図り、仕上り性、及び高防食性に優れる塗膜を見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性塗料を使用することにより、塗料安定性に優れ、かつ揮発性有機化合物の低減(低VOC化)、仕上り性、防食性、耐候性に優れる金属部材を得ることができる。
従来、亜鉛末は防食性に効果があるとされてきたが、多量に添加すると塗料安定性や仕上り性を損なっていた。しかし、本発明の水性塗料は、導電性フィラーを含有させることによって、少ない亜鉛末の添加によって防食効果が得られる為、添加量を少なくでき、塗料安定性や仕上り性を確保することができた。理由としては、導電性フィラーの添加によって亜鉛末同志が通電し、塗膜中や塗膜と鋼板の界面で腐食抑制効果を有効に発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、亜鉛(a)と導電性フィラー(a)をリン酸基含有分散用樹脂(a)を用いて分散してなる亜鉛分散ペースト(A)、基体樹脂(B)及び架橋剤(C)を含有する水性塗料であって、基体樹脂(B)と架橋剤(C)の固形分合計100重量部に対して、亜鉛(a)を10〜500重量部及び導電性フィラー(a)を0.1〜100重量部の範囲で配合してなる水性塗料である。以下、詳細に説明する。
亜鉛分散ペースト(A):
亜鉛(a)は、金属亜鉛を原料として、具体的には、亜鉛末、亜鉛粉末(JIS K 8031)、亜鉛粉、ジンクダスト等が使用でき、あらかじめ表面処理(例えば、シリカ処理、りん酸処理、クロム酸処理、脂肪酸処理、ポリマー処理)を施してよい。市販品として、亜鉛末MCS、亜鉛末#F(以上、堺化学工業社製)、亜鉛末LS−2、亜鉛末LS−5、亜鉛末LS−30(以上、三井金属化学工業社製)が挙げられる。
【0012】
導電性フィラー(a):導電性フィラー(a)は、亜鉛(a)とともにりん酸基含有分散用樹脂(a)を用いて分散してなる亜鉛分散ペースト(A)中に含有する。
導電性フィラー(a)としては、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素系粉末、ニッケル、銀などの金属粉末、酸化ニッケル、酸化チタンなどの酸化金属粉末、珪化ジルコニウム、珪化チタンなどの珪化金属、窒化ジルコニウム、窒化チタンなどの窒化金属、硼素化ジルコニウム、硼素化チタン、硼素化タングステンなどの硼化金属、炭化ジルコニウム、炭化チタン(平均粒子径1〜10μm)、炭化タングステン(平均粒子径1〜10μm)などの炭化金属、チタン酸カリウムなどのアルカリ金属などの粉末が挙げられる。
【0013】
炭素系粉末の具体例としては、ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックEC600JD(以上、ライオン株式会社製、商品名、ケッチェンブラック)、バルカンXC−72、バルカンXC−605(以上、キャボット社製、商品名、ファーネスブラック)、RPシリーズ及びAGBシリーズ(以上、伊藤黒鉛工業社製、商品名、黒鉛)、黒鉛粉SP−10、SP−20、HAG−15、HAG−150、HAG−300(以上、日本黒鉛社製、商品名、黒鉛)、人造黒鉛POG−2、POG−10、POG−20(以上、住友化学社製、商品名、黒鉛)等を挙げることができる。
【0014】
炭素系粉末以外には、デントールBK−400(大塚化学社製、商品名、チタン酸カリウム、導電性ウィスカー)、ET−500W(球状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、ET−600W(球状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、ET−300W(球状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、FT−1000(針状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、FT−2000(針状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、FT−3000(針状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆)、(以上、石原産業社製、商品名)、ナノテック酸化アルミニウム、ナノテック酸化亜鉛、ナノテック酸化セリウム、ナノテック酸化チタン(以上、シーアイ化成社製、商品名)、ニッケル微粉末 タイプ110、ニッケル微粉末 タイプ210、ニッケル微粉末 タイプ210H、フィラメント状ニッケルパウダー タイプ255、フィラメント状ニッケルパウダー タイプ287、ニッケル被覆カーボンファイバー、ニッケル被覆グラファイト(以上、インコ・リミテッド社製、商品名)、アルブリッド AG035FN(銀被覆フレーム状粉末)、アルブリッド AG016SN(銀被覆球状粉末)、ニッケルフレークNI−100、ニッケルフレークNI−A、ニッケルフレークNI−400、カッパフレーク(以上、東洋アルミニウム社製、商品名)、23−K(白水テック社製、商品名、導電性酸化亜鉛)などが挙げられる。
導電性フィラー(a)の効果としては、塗膜中の亜鉛(a)同志を導通し、亜鉛(a)の防食性の効果を高め、特に、素材と塗膜界面の腐食抑制に寄与する。このことから水性塗料に配合する亜鉛(a)の配合量を減らすことができ、仕上り性や塗料安定性に寄与する。
【0015】
次に、りん酸基含有分散用樹脂(a)は、−OPO(OR)(OH)・・式(式中、Rは水素原子又は炭素数4〜10の炭化水素基である)で示されるりん酸基を含有する樹脂である。この分散用樹脂はさらにカルボキシル基などのアニオン性基あるいは4級アンモニウム塩基や3級スルホニウム塩基などのカチオン性基を含有することが好ましい。
【0016】
上記、りん酸基含有分散用樹脂(a)は、例えば、−OPO(OR)(OH)で
示されるりん酸基を含有する重合性モノマ−、及びその他の重合性モノマーを共重合
して得られる。
【0017】
りん酸基含有重合性モノマーは、1分子中に、−OPO(OR)(OH)・・式
(式中、Rは水素原子又は炭素数4〜10の炭化水素基である)で示されるりん酸基と重合性二重結合をそれぞれ1個以上有する、例えば、モノブチルホスフェ−ト(HO)PO(OC)やモノイソデシルホスフェート(HO)PO(OC1021)などのホスフェートに含まれる酸性ヒドロキシル基1個に、グリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有重合性モノマーを反応することによって得ることができる。
【0018】
また、(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキプロピル)アシッドホスフェートなども使用できる。
【0019】
その他の重合性モノマーとしては、(1).アクリルエステル系モノマー:(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸と炭素数1〜24のモノアルコールとのエステル化物。(2).水酸基含有モノマー:(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸と炭素数2〜10のグリコールとのモノエステル化物。(3).カルボキシル基含有モノマー:アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸など。(4).オニウム塩基含有モノマー:(メタ)アクリル酸グリシジルと3級アミンまたは2級スルフィドとモノカルボン酸との反応物など。(5).その他のモノマー:スチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、ビニルトルエン、酢酸ビニルなどが挙げられる。本樹脂は、上記の重合性モノマーをそれ自体既知の溶液重合法などにより、重合開始剤の存在下で重合せしめることにより調製することができる。
【0020】
重合反応におけるこれらの重合性モノマーの構成比率は目的に応じて任意に選択でき、特に制限されないが、例えば、りん酸基含有重合性モノマーおよびその他のモノマーの合計量を基準に、りん酸基含有重合性モノマーは1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、その他の重合性モノマーは70〜99重量%、好ましくは80〜95重量%の範囲内が適している。
【0021】
その数平均分子量(注1)は3000〜100,000、好ましくは5,000〜50,000、特に好ましくは5,000〜30,000の範囲内であり、りん酸基に基づく酸価は20〜140mgKOH/g、特に40〜120mgKOH/g、カルボキシル基に基づく酸価は100mgKOH/g以下、水酸基価は120mgKOH/g以下、特に15〜100mgKOH/gの範囲内がそれぞれ適している。
(注1)数平均分子量:JIS K 0124−83に準じて行ない、分離カラム
にTSK GEL4000HXL+G3000HXL+G2500HXL+G2000HXL(東ソー社製)を用いて40℃で流速1.0ml/分、溶離液にGPC用テトラヒドロフランを用いて、RI屈折計で得られたクロマトグラムとポリスチレンの検量線から計算により求めた。
【0022】
りん酸基含有分散用樹脂(a)としては他に、エポキシ樹脂とモノブチルホスフェートやオルトりん酸との反応生成物、グリシジル基含有アクリル樹脂とモノブチルホスフェートやオルトりん酸との反応生成物、スチレンとアリルアルコールとの重合体とオルトりん酸との反応生成物、ポリカプロラクトンのりん酸エステルなども使用できる。
【0023】
エポキシ樹脂とモノブチルホスフェートやオルトりん酸との反応によりりん酸基含有エポキシ樹脂が得られる。出発材料として用いられるエポキシ樹脂としては、塗膜の防食性等の観点から、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が好適である。エポキシ樹脂の数平均分子量としては1,000〜10,000、さらには2,000〜5,000が好ましい。かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からエピコート828EL、同左1002、同左1004、同左1007なる商品名で販売されているものが挙げられる。上記エポキシ樹脂はそのまま使用しても構わないが、勿論、可塑化変性されたエポキシ樹脂を使用しても良い。
【0024】
亜鉛(a)の配合量は、後述する基体樹脂(B)と架橋剤(C)の固形分合計100重量部に対して、亜鉛(a)を10〜500重量部、好ましくは20〜300重量部、さらに好ましくは50〜150重量部となるように配合する。配合量が10重量部未満では、防食性の向上に効果がなく、500重量部を超えると塗料安定性を損なうので好ましくない。
【0025】
導電性フィラー(a)の配合量は、基体樹脂(B)と架橋剤(C)の固形分合計100重量部に対して、導電性フィラー(a)を0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、さらに好ましくは5〜30重量部となるように配合する。
配合量が0.1重量部未満では、防食性の向上に効果がなく、100重量部を超えると塗料安定性を損なうので好ましくない。
【0026】
さらに[亜鉛(a)と導電性フィラー(a)]/[りん酸基含有分散用樹脂(a)]の重量割合として、[亜鉛(a)と導電性フィラー(a)]/[りん酸基含有分散用樹脂(a)]=0.3〜2の範囲であることが分散性を確保する上で好ましい。
亜鉛分散ペースト(A)の製造は、りん酸基含有樹脂化合物(a)を水希釈し、亜鉛(a)と導電性フィラー(a)とを加え、場合によっては、その他の顔料(例えば、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料;リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、酸化ビスマス水和物、酸化アンチモン等の防錆顔料;クレー、マイカ、バリタ、炭酸カルシウム、シリカなどの体質顔料)、さらに必要に応じて硬化触媒、界面活性剤、表面調整剤、沈降防止剤などを加えて前練り混合を行い、ボールミル、サンドミルなどで分散し、粒径0.1〜15μm、好ましくは0.5〜10μmに分散して得ることができる。
【0027】
基体樹脂(B):
基体樹脂(B)としては、樹脂を水溶性化もしくは水分散化する親水性基、(例えば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、メチロール基など)及び架橋剤(C)と架橋反応しうる官能基(例えば、水酸基)を有する、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの樹脂が挙げられるが、中でも、防食性や塗料安定性の面からオニウム塩を含有したカチオン型のエポキシ樹脂、又はカルボキシル基を含有したアニオン型のポリエステル樹脂やアクリル樹脂がよい。
【0028】
オニウム塩を含有したカチオン型のエポキシ樹脂に用いるエポキシ樹脂は、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリン、例えば、エピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が好適である。該エポキシ樹脂の形成のために用い得るポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0029】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式
【0030】
【化1】

【0031】
(ここでn=0〜8で示されるものが好適である。)
エポキシ樹脂は、一般に180〜2,500、好ましくは200〜2,000であり、さらに好ましくは400〜1,500の範囲内のエポキシ当量を有することができ、また、一般に少なくとも200、特に400〜4,000、さらに特に800〜2,500の範囲内の数平均分子量を有するものが適している。かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からエピコート828EL、同左1002、同左1004、同左1007なる商品名で販売されているものが挙げられる。
またカチオン性のエポキシ樹脂は、可塑化変性されていても良く、可塑化変性剤としてはエポキシ樹脂との相溶性があり、かつ疎水性のものが好ましい。可塑変性量としては、エポキシ樹脂100重量部に対し3〜200重量部、さらには10〜100重量部が好ましい。
【0032】
エポキシ樹脂に付加するカチオン性基含有化合物は、例えば、アミノ基、アンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ホスホニウム塩基などのオニウム塩を含有する化合物であるが、この中でも水分散性を考慮した場合、アミノ基が好適であり、このアミノ基含有化合物をエポキシ樹脂、又はアクリル系変性エポキシ樹脂に付加してエポキシ樹脂に導入することができる。
【0033】
アミノ基含有化合物は、エポキシ樹脂基体にアミノ基を導入して、該エポキシ樹脂をカチオン化するためのカチオン性付与成分であり、エポキシ基と反応する活性水素を少なくとも1個含有するものが用いられる。
【0034】
そのような目的で使用されるアミノ基含有化合物としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミンなどのモノ−、もしくはジ−アルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、トリ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノールなどのアルカノールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのアルキレンポリアミン及びこれらのポリアミンのケチミン化物;エチレンイミン、プロピレンイミンなどのアルキレンイミン;ピペラジン、モルホリン、ピラジンなどの環状アミンなどが挙げられる。
エポキシ樹脂に対する、カチオン性基含有化合物の各反応成分の割合は、厳密に制限されるものではなく、水性塗料の用途に応じて適宜変えることができるが、エポキシ樹脂、カチオン性基含有化合物の固形分合計を基準にして、エポキシ樹脂が60〜95重量%、好ましくは65〜90重量%、カチオン性基含有化合物が5〜40重量%、好ましくは10〜35重量%の範囲がよい。
【0035】
上記の付加反応は、通常、適当な溶媒中で、約80〜約170℃、好ましくは約90〜約150℃の温度で1〜6時間程度、好ましくは1〜5時間程度行うことができる。上記の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノールなどのアルコール系;あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0036】
また基体樹脂(B)が、カルボキシル基を含有したアニオン型の樹脂である場合は、
該樹脂が有するカルボキシル基を、アンモニア;ジエチルアミン、エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、エチルアミノエチルアミン、ヒドキシエチルアミン、ジエチレントリアミンなどの有機アミン;カセイソーダ、カセイカリなどのアルカリ金属水酸化物などの塩基性化合物で中和することにより水溶化又は水分散化することができる。
【0037】
カルボキシル基を有するポリエステル樹脂アクリル樹脂としては、1分子中に2個以上の水酸基を有しており、多塩基酸と多価アルコールとのエステル化反応により調製することができる。多塩基酸は1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸及びその無水物;ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸などの脂環族ジカルボン酸及びその無水物;アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、ドデカン二酸、ピメリン酸、アゼライン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸及びその無水物;これらのジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル;トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメット酸、トリメシン酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、テトラクロロヘキセントリカルボン酸及びその無水物などの3価以上の多塩基酸などが挙げられる。
【0038】
多価アルコールは、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3−メチル−4,3−ペンタンジオール、3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピヴァリン酸ネオペンチルグリコールエステルなどの2価アルコール;これらの2価アルコールにε−カプロラクトンなどのラクトン類を付加したポリラクトンジオール;ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレートなどのエステルジオール類;ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリエーテルジオール類;。
【0039】
プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドなどのα−オレフィンエポキシド、カージュラE10[シェル化学社製、商品名、合成高分岐飽和脂肪酸のグリシジルエステル]などのモノエポキシ化合物;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジグリセリン、トリグリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニットなどの3価以上のアルコール;これらの3価以上のアルコールにε−カプロラクトンなどのラクトン類を付加させたポリラクトンポリオール類;1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールA及び水添ビスフェノールFなど脂環族多価アルコールなどが挙げられる。
【0040】
カルボキシル基を有するアクリル樹脂としては、例えば、カルボキシル基含有不飽和単量体、水酸基含有アクリル系単量体、さらに必要に応じてその他の重合性単量体を用い、これらの単量体をラジカル重合させてなる共重合体が使用できる。これらの単量体としては、下記のものをあげることができる。
【0041】
カルボキシル基含有不飽和単量体:1分子中にカルボキシル基と重合性不飽和結合をそれぞれ少なくとも1個有する化合物であり、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、カプロラクトン変性カルボキシル基含有(メタ)アクリル系単量体(ダイセル化学社製、商品名、プラクセルFM1A、プラクセルFM4A、プラクセルFM10A)などがあげられる。
【0042】
水酸基含有アクリル系単量体:1分子中に水酸基と重合性不飽和結合をそれぞれ少なくとも1個有する化合物であり、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;これらの水酸基含有アクリル系単量体と、β−プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン、ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、γ−ラウリロラクトン、ε−カプロラクトン、δ−カプロラクトンなどのラクトン類化合物との反応物などがあげられ、市販品としては、プラクセルFM1(ダイセル化学社製、商品名、カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステル類)、プラクセルFM2(同左)、プラクセルFM3(同左)、プラクセルFA1(同左)、プラクセルFA2(同左)、プラクセルFA3(同左)などがあげられる。
【0043】
その他の重合性単量体:上記のカルボキシル基含有不飽和単量体及び水酸基含有アクリル系単量体以外であって、1分子中に重合性不飽和結合を少なくとも1個有する化合物であり、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸のC〜C18のアルキル又はシクロアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族重合性単量体;(メタ)アクリル酸アミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリアミド、N−メチロール(メタ)アクリアミドなどの(メタ)アクリルアミド及びその誘導体;(メタ)アクリロニトリル化合物類;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基含有重合性単量体などがあげられる。
【0044】
これらの単量体の配合割合において、カルボキシル基含有不飽和単量体は、共重合体の酸価が10〜200mgKOH/g、特に20〜100mgKOH/gの範囲内に入るようにすることが好ましく、単量体の合計重量に基づき、カルボキシル基含有不飽和単量体は約3〜約30重量%、特に約4〜約20重量%の範囲内で用いることが好ましい。また、水酸基含有不飽和単量体は、共重合体の水酸基価が30〜300mgKOH/g、特に50〜200mgKOH/gの範囲内に入るような量で使用することが好ましく、単量体の合計重量に基づき、水酸基含有不飽和単量体の使用量は約3〜約40重量%、特に約5〜約30重量%の範囲内であることが好ましい。
【0045】
その他の単量体として、(メタ)アクリル酸のC〜C18のアルキル又はシクロ
アルキルエステル及びスチレンなどの芳香族単量体を使用することが好ましく、その他の単量体の使用量は、単量体の合計重量に基づき、約37〜約95重量%、特に約60〜約91重量%の範囲内とすることが好ましい。これらの単量体をラジカル共重合反応させる方法は従来から既知の溶液重合方法などを採用することができる。かくして得られるアクリル樹脂は、一般に10000以下、特に4000〜8000の範囲内の数平均分子量(注1参照)を有することが適している。
【0046】
架橋剤(C):基体樹脂(B)における架橋剤として、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂などが用いられる。
【0047】
ブロック化ポリイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上の遊離のイソシアネート基を有するポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック剤でブロックして得られる。
【0048】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート類;及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;
イソホロンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(又は1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類;及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;
キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4′−トルイジンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、(m−又はp−)フェニレンジイソシアネート、4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート化合物;及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;
トリフェニルメタン−4,4′,4″−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4′−ジメチルジフェニルメタン−2,2′,5,5′−テトライソシアネートなどの1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート類;及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;
エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;及びこれらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;等が挙げられる。上記ブロック剤は、遊離のイソシアネート基を封鎖するものであり、例えば100℃以上、好ましくは130℃以上に加熱すると、水酸基と容易に反応することができる。
【0049】
ブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、ブチルフェノール、イソプロピルフェノール、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチルなどのフェノール系;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタムなどのラクタム系;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ラウリルアルコールなどの脂肪族アルコール系;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノールなどのエーテル系;ベンジルアルコール;グリコール酸;グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチルなどのグリコール酸エステル;乳酸、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル;メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのアルコール系;
ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系;
マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系;ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系;アセトアニリド、アセトアニシジド、アセトトルイド、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸アミド、ステアリン酸アミド、ベンズアミドなどの酸アミド系;コハク酸イミド、フタル酸イミド、マレイン酸イミドなどのイミド系;ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N−フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミンなどアミン系;イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール系;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、ジフェニル尿素などの尿素系;N−フェニルカルバミン酸フェニルなどのカルバミン酸エステル系;エチレンイミン、プロピレンイミンなどのイミン系;重亜硫酸ソーダ、重亜硫酸カリなどの亜硫酸塩系などが挙げられる。
【0050】
他に、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール、4−ニトロ−3,5−ジメチルピラゾールおよび4−ブロモ−3,5−ジメチルピラゾールを例示できる。この中でも好ましいブロック剤は、3,5−ジメチルピラゾールである。
【0051】
また架橋剤(C)において、ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロックするブロック剤として、1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸、例えば、ヒドロキシピバリン酸、ジメチロールプロピオン酸などが挙げられる。ここでヒドロキシカルボン酸類のカルボキシル基を中和することによって水分散性を付与したブロック化ポリイソシアネート化合物も使用することができる。
メラミン樹脂は、トリアジン核1個あたりメチロール基が平均3個以上メチルエーテル化されたメラミン樹脂や、そのメトキシ基の一部を炭素数2個以上のモノアルコールで置換したメラミン樹脂であって、さらにイミノ基を有した親水性メラミンが好適に使用できる。
【0052】
メチロール化アミノ樹脂は、メラミンとアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂があげられる。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等がある。また、このメチロール化アミノ樹脂のメチロール基の一部又は全部をモノアルコールによってエーテル化したものも使用できる。エーテル化に用いられるモノアルコールとしてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノールなどが挙げられる。
【0053】
市販品として、例えば、このような条件を満たすメラミン樹脂は、サイメル20
2,サイメル232,サイメル235,サイメル238,サイメル254,サイメル266,サイメル267,サイメル272,サイメル285,サイメル301,サイメル303,サイメル325,サイメル327,サイメル350,サイメル370,サイメル701,サイメル703,サイメル736,サイメル738,サイメル771,サイメル1141,サイメル1156,サイメル1158など(以上、日本サイテック社製)、ユーバン120,20HS,2021,2028,2061(以上、三井化学社製)の商品名で市販されている。
【0054】
本発明の水性塗料を製造するに当り、基体樹脂(B)及び架橋剤(C)がカチオン型である場合には、中和剤として有機酸、例えば、酢酸、ギ酸、乳酸等を加え、一方、基体樹脂(B)がアニオン型である場合には、中和剤として塩基性化合物、例えば、トリエチルアミン、ジエチレントリアミン、ジメチルアミノエタノール等を加え、さらに脱イオン水で固形分5〜65重量%、好ましくは10〜45重量%になるように滴下し、水溶化又は水分散化することによってエマルションとすることができる。
【0055】
水性塗料は、上記のエマルションに亜鉛分散ペースト(A)を配合し、必要に応じて、有機溶剤、界面活性剤、表面調整剤、はじき防止剤などの添加物を配合して、固形分濃度が5〜25重量%の範囲内となるように脱イオン水で希釈して得ることができる。
水性塗料の塗装は、従来から知られている方法、例えば、刷け塗り、スプレー、静電塗装、電着塗装などにより塗装することができ、それらを任意に組み合わせても良い。
例えば、静電塗装は、塗装ブース温度15〜40℃、塗装ブース湿度60〜90%の条件にて、静電塗装機(例えば、ABBカートリッジメタベル)を用いて、ベル回転数20,000〜40,000rpm、好ましくは25,000〜35,000rpmの範囲、かつ吐出量200〜400ml/分(詳しくは、水平部250〜350ml/分、垂直部300〜400ml/分)の範囲で塗装する。静電塗装時の印加電圧としては、−90kV〜−60kVの範囲、吐出圧(SA)は1.0〜2.0kg/cmの範囲がよい。
その膜厚は硬化塗膜で3〜100μm、特に5〜60μmの範囲内が好ましく、その塗膜は100〜200℃、特に130〜180℃で、10〜50分間加熱することにより架橋硬化させることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこ
れによって限定されるものではない。尚、「部」及び「%」は「重量部」及び「重
量%」を示す。
【0057】
製造例1 分散用樹脂No.1の製造(カチオン型水性塗料用)
エポキシ当量約700のビスフェノール型エポキシ樹脂700部をエチレングリコールモノブチルエーテル993部に90℃で加熱溶解し、ノニルフェノール 110部、チオジエチレングリコール61部および乳酸45部を加え、90℃で酸価2mgKOH/g以下になるまで反応させたのち70℃に冷却し、モノブチルホスフェ−ト77部を加え同温度で1時間熟成して、りん酸基による酸価56.5mgKOH/g、固形分50%の分散用樹脂No.1を得た。
【0058】
製造例2 分散用樹脂No.2の製造(アニオン型塗料用)
攪拌器、温度調整器及び冷却器を備えた反応容器にメトキシプロパノール27.
5部及びイソブタノール27.5部の混合溶剤を入れ、110℃に加熱し同温度に保
持してから、スチレン25部、2−エチルヘキシルメタクリレート27.5部、2−
ヒドロキシエチルメタアクリレート20部、4−ヒドロキシブチルアクリレート7.
5部、50%りん酸基含有重合性モノマー(注2)15部、2−メタクリロイルオキ
シエチルアシッドホスフェート12.5部、イソブタノール10部、及びt−ブチル
パーオキシオクタノエート4部からなる混合物121.5部を、4時間を要して上記
の混合溶剤に滴下し、さらにt−ブチルパーオキシオクタノエート0.5部とイソプ
ロパノール20部とからなる混合物を、1時間を要して滴下した。その後、1時間加
熱攪拌して熟成し、りん酸基による酸価は83mgKOH/g、重量平均分子量は1
0000である固形分50%の分散用樹脂No.2を得た。
(注2)りん酸基含有重合性モノマー:攪拌器、温度調整器及び冷却器を備えた反応
容器にモノブチルリン酸57.55部及びイソブタノール41.1部を仕込み110
℃に保持し、空気通気下でグリシジルメタクリレート 42.45部を2時間要して
滴下した後、さらに同温度で1時間攪拌熟成した。その後、イソプロパノール59部
を加えて希釈して、りん酸基による酸価は285mgKOH/gのりん酸基含有重合
性モノマー溶液を得た。
【0059】
製造例3 顔料分散ペーストNo.1の製造(カチオン型塗料用)
製造例1で得た分散用樹脂No.1 10部(固形分5部)、チタン白 15部、
亜鉛末#3(注3)100部、ケッチェンブラックEC(注6)10部、ジブチル錫オキサイド 1部、脱イオン水26部を配合し、20時間ボールミルにて分散を行って固形分50%の顔料分散ペーストNo.1を得た。
(注3)亜鉛末#3:堺化学社製、商品名、亜鉛末
(注4)亜鉛末LS−30:三井金属化学工業社製、商品名、亜鉛末、
(注5)亜鉛末MCS:三井金属化学工業社製、商品名、亜鉛末
(注6)ケッチェンブラックEC:ライオン株式会社製、商品名、ケッチェンブラック
(注7)ET−500W:石原産業社製、商品名、球状酸化チタン表面に酸化錫、アンチモン層を被覆
(注8)23−K:白水テック社製、商品名、導電性酸化亜鉛。
【0060】
製造例4〜8 顔料分散ペーストNo.2〜No.6の製造(カチオン型塗料用)
表1の配合内容とする以外は、製造例3と同様にして、顔料分散ペーストNo.2〜No.6の配合内容を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
製造例9 顔料分散ペーストNo.7の製造(アニオン型塗料用)
製造例2で得た分散用樹脂No.2 10部(固形分5部)、チタン白 15部
亜鉛末#3(注3)100部、ケッチェンブラックEC(注6)30部、ジブチル錫オキサイド 1部、脱イオン水146部を配合し、20時間ボールミルにて分散を行って固形分50%の顔料分散ペーストNo.7を得た。
【0063】
製造例10〜12 顔料分散ペーストNo.8〜No.10の製造
表2の配合内容とする以外は、製造例9と同様にして、顔料分散ペーストNo.8〜No.10を得た。表2に配合内容を示す。
【0064】
【表2】

【0065】
製造例13 基体樹脂No.1の製造(カチオン型水性塗料用)
エピコート828EL(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名、エポキシ樹脂)1010部に、ビスフェノールA 390部、ポリカプロラクトンジオール(数平均分子量約1200)240部、及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量約1090になるまで反応させた。
次に、チオジエチレングリコール183部及び酢酸90部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテルを加え、固形分71%の基体樹脂No.1を得た。
【0066】
製造例14 硬化剤の製造例(カチオン型水性塗料用)
反応容器中にコスモネートM−200(三井化学社製、商品名、クルードMDI) 270部及びメチルイソブチルケトン25部を加え70℃に昇温した。その中に2,2−ジメチロールブタン酸15部を徐々に添加し、ついでエチレングリコールモノブチルエーテル118部を滴下して加え、70℃で1時間反応させた後、60℃に冷却し、プロピレングリコール152部を添加した。
この温度を保ちながら、経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分90%の硬化剤を得た。
【0067】
製造例15 エマルションNo.1の製造(カチオン型水性塗料用)
製造例13で得た71%基体樹脂No.1 98.6部(固形分70部)、製造例9で得た硬化剤 33.3部(固形分30部)を配合し均一に撹拌した後、10%酢酸15部、脱イオン水147部を強く撹拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のエマルションNo.1を得た。
【0068】
製造例16 ポリエステル樹脂溶液の製造(アニオン型水性塗料用)
加熱装置、攪拌装置、温度計、還流冷却器、水分離機を備えた4つ口フラスコに、1,3−シクロヘキサンカルボン酸 61.9部、アジピン酸70.1部、トリメチロールプロパン62.8部、ネオペンチルグリコール24.2部、1,4−シクロヘキサンジメタノール44.6部、内容物を160℃から230℃まで3時間かけて昇温させた後、230℃で1時間保持し生成した縮合水を精留塔を用いて留去させた。
次に、生成物に無水トリメリット酸15.0部を付加した後、脱溶剤を行い、ジメチルエタノールアミンで中和してから、水に混合して固形分40%のポリエステル樹脂溶液を得た。ポリエステル樹脂の水酸基価は150mgKOH/g、酸価は35mgKOH/g、数平均分子量は2,000であった。
【0069】
製造例17 エマルションNo.2の製造(アニオン型水性塗料用)
製造例16で得たポリエステル樹脂溶液150部(固形分60部)、デスモジュールTP LS2310(注9)100部(固形分40部)を水に混合して、固形分34%のエマルションNo.2を得た。
(注9)デスモジュールTP LS2310:住化バイエルウレタン社製、商品名、ブロック化ポリイソシアネート。
【0070】
実施例1
エマルションNo.1 294部(固形分100部)に、顔料分散ペーストをNo.1 62部(固形分31部)、脱イオン水299部を加え、均一に混合して20%の水性塗料No.1を得た。
【0071】
実施例2及び3
実施例1と同様の操作にて、表3のような配合内容にて水性塗料No.2及びNo.3を得た。
【0072】
比較例1〜3
実施例1と同様の操作にて、表3のような配合内容にて水性塗料No.4〜No.6を得た。
【0073】
【表3】

【0074】

実施例4 アニオン型水性塗料
製造例18で得たエマルションNo.2 294部(固形分100部)に、顔料分散ペーストをNo.7 62部(固形分31部)、脱イオン水299部を加え、均一に混合して20%の水性塗料No.7を得た。
【0075】
実施例5 アニオン型水性塗料
実施例4と同様の操作にて、表4のような配合内容にて水性塗料No.8を得た。
【0076】
比較例4及び5 アニオン型水性塗料
実施例4と同様の操作にて、表4のような配合内容にて水性塗料No.4及び水性塗料No.5を得た。
【0077】
【表4】

【0078】
試験板(1)の作成(カチオン型水性塗料)
パルボンド#3020(日本パーカライジング株式会社製、商品名、りん酸亜鉛
処理)を施した冷延鋼板(厚さ0.8mm)及び亜鉛メッキ鋼板(厚さ0.8mm)を用いて、水性塗料No.1〜水性塗料No.6をスプレーにて塗装し、150℃−20分で焼付け乾燥して、乾燥膜厚20μmの試験板を得た。
【0079】
試験板(2)の作成(アニオン型水性塗料)
パルボンド#3020(日本パーカライジング株式会社製、商品名、りん酸亜鉛
処理)を施した冷延鋼板(厚さ0.8mm)、及び亜鉛メッキ鋼板(厚さ0.8mm)を用いて、水性塗料No.7〜水性塗料No.10を以下の条件(*)にて静電塗装し、150℃−20分で焼付け乾燥して、乾燥膜厚20μmの試験板を得た。
条件(*):塗装ブース温度は18℃、塗装ブース湿度は65%、静電塗装機のベル回転数 は30,000rpm、吐出量 は350ml/分
上記の試験板を用いて、以下の試験に供したカチオン型水性塗料の結果を表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
アニオン型水性塗料の結果を表6に示す。
【0082】
【表6】

【0083】
(注10)防食性A:冷延鋼板、及び亜鉛メッキ鋼板の電着塗板に、素地に達するように電着塗膜にナイフでクロスカット傷を入れ、海浜(鹿児島県 沖永良部)曝露を1年間行い錆、フクレを評価した。
◎:錆、フクレの最大幅がカット部より2.5mm未満(片側)
○:錆、フクレの最大幅がカット部より2.5mm以上で、かつ3.0mm未満(片側)
△:錆、フクレの最大幅がカット部より3.0mm以上で、かつ4.0mm未満(片側)
×:錆、フクレの最大幅がカット部より4.0mm以上(片側)。
【0084】
(注11)防食性B:素地に達するように電着塗膜にナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて480時間耐塩水噴霧試験を行い、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。
◎:錆、フクレの最大幅がカット部より2.5mm未満
○:錆、フクレの最大幅がカット部より2.5mm以上、かつ3mm未満(片側)
△:錆、フクレの最大幅がカット部より3mm以上、かつ4mm未満(片側)でかつ塗面の一部にブリスターの発生がみられる、
×:錆、フクレの最大幅がカット部より4mm以上。
【0085】
(注12)塗料安定性:各塗料を30℃にて攪拌し、4週間後に塗料を400メッシュ金網で濾過して、塗料残さ物の凝集状態を評価した。
○:濾過残渣が10mg/L未満
△:濾過残渣が10mg/L以上で、かつ20mg/L以下
×:濾過残渣が20mg/Lを越える。
【0086】
(注13)密着性:各試験板に、TP−65−2中塗り塗料を35μm塗装し、140℃−20分間焼付けた。次にネオアミラック6000(白)を35μm塗装し、140℃−20分間焼付けることによって複層の試験板を得た。
上記、複層の試験板を40℃の温水に10日間浸漬して、表面に2mm角のゴバン目のカットを10×10(個)入れ粘着テープにて剥がれの評価を行った。
○:異常なし
△:剥がれはないが、フチ掛けがある
×:剥がれあり。
【0087】
(注14)仕上り性:
○:良好な仕上り性で問題なし
△:ハジキ、ヘコミ、ラウンド感、チリ肌感、凹凸など塗膜欠陥がみられる。
×:ハジキ、ヘコミ、ラウンド感、チリ肌感、凹凸など塗膜欠陥が著しい。





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛(a)と導電性フィラー(a)をリン酸基含有分散用樹脂(a)を用いて分散してなる亜鉛分散ペースト(A)、基体樹脂(B)及び架橋剤(C)を含有する水性塗料であって、基体樹脂(B)と架橋剤(C)の固形分合計100重量部に対して、亜鉛(a)を10〜500重量部及び導電性フィラー(a)を0.1〜100重量部の範囲で配合してなる水性塗料。
【請求項2】
導電性フィラー(a)が、炭素系粉末である請求項1に記載の水性塗料。
【請求項3】
基体樹脂(B)が、オニウム塩を含有したカチオン型の樹脂である請求項1に記載の水性塗料。
【請求項4】
基体樹脂(B)が、カルボキシル基を含有したアニオン型の樹脂である請求項1に記載の水性塗料。
【請求項5】
りん酸基含有分散樹脂(a)が式(1)
−OPO(OR)(OH)・・・・式(1)
(式(1)中のRは、水素原子又は炭素数4〜10の炭化水素基である)
で示されるりん酸基を含有する重合性モノマーと他の重合性モノマーを共重合して得られた樹脂である請求項1に記載の水性塗料。
【請求項6】
被塗物に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性塗料をスプレー又は静電塗装によって塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項7】
請求項6の塗膜形成方法によって塗装された塗装物品。

















【公開番号】特開2006−143809(P2006−143809A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333238(P2004−333238)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】