説明

水晶発振回路

【課題】 ディレイ回路を設けたり、バイアス決定回路のバイアス点と波形整形回路のスレッショルドとを異ならせたりすることなく、消費電流を低減し、自励発振や異常発振を防ぐことができる水晶発振回路を提供する。
【解決手段】 水晶振動子21および水晶振動子21の出力を増幅し、電源電圧より低い定電圧源LDO1により駆動される発振増幅器22を有する水晶発振部2の出力に、電源電圧レベルにレベルシフトする結合コンデンサ3が接続され、その結合コンデンサ3の出力に、ソースがVddに、ゲートがVssに接続されたPチャネルMOSトランジスタ41およびソースがVssに、ゲートがVddに接続されたNチャネルMOSトランジスタ42のそれぞれのドレインが接続されたバイアス決定回路4が接続され、そのバイアス決定回路4の出力に振幅検知回路5、および波形整形回路6が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子を用いた水晶発振回路に関する。さらに詳しくは、水晶振動子の増幅器を電源電圧よりも低い定電圧源により駆動して消費電流を減らしながら、発振開始時の動作を安定にすることができる水晶発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水晶振動子を用いた発振回路で、動作時の消費電流を減らす回路として図4に示されるような回路が知られている(特許文献1参照)。すなわち、図4において、水晶振動子21とその水晶振動子21と並列に接続され、水晶振動子21の発振を増幅する発振増幅器22と、その発振を安定化させる抵抗素子23およびコンデンサ素子24、25とにより水晶発振部2が構成されており、この発振増幅器22は、電源電圧Vddよりも低い電圧の定電圧源LDO1により駆動されている。定電圧源LDO1は、発振回路を低電圧で動作させることにより、消費電流を減らすと共に、電源電圧の変動による周波数変動を少なくしている。この水晶発振部2の出力側に結合コンデンサ3が接続され、結合コンデンサ3は、電源電圧より低い電圧の振幅で発振している波形を電源電圧まで引き上げるレベルシフタとして動作している。この結合コンデンサ3の出力に、バイアス点を定めるインバータ回路71と抵抗素子72とで構成されるバイアス決定回路7が接続されている。このバイアス決定回路7は、抵抗素子72とインバータ回路71での自己バイアスにより、結合コンデンサ3から出力される波形のバイアス点を決定する。そして、このバイアス決定回路7の出力に波形整形回路6が接続され、波形を方形波に整形し、電源電圧の全体で振幅させ、出力している。
【0003】
図4に示される水晶発振回路は、正常な発振をする場合には、図6(a)に示されるように、水晶発振部2の出力点であるA点および結合コンデンサ3を通った後の点であるB点での振幅は、電源投入後に徐々に大きくなり、最終的に波形整形回路6から正常な波形で出力される。しかし、バイアス決定回路7と波形整形回路6のスレッショルドを同じ電圧に設定すると、図6(b)に示されるように、自励発振を起す場合がある。すなわち、電源ラインの小さいノイズは、発振増幅器22の出力では図6(b)のA点の動作として示されるように、発振増幅器22のバイアス点付近での振幅が小さい状態となり、結合コンデンサ3を通った後のB点でも、バイアス決定回路7で決定されるバイアス点付近での小さな振幅であるが、この小さな振幅でも、波形整形回路6を動作させるだけの振幅電圧が発生すると回路全体が動作してしまい、この回路全体の動作により、図6(b)のC点の動作に示されるように、電源電圧のスイッチングノイズによる電源ノイズに基づき、不安定な発振が生じる。この繰り返しにより、正常な発振を行うことができず、自励発振を起したり、異常な発振を起したりするようになる。自励発振を防止するためには、バイアス決定回路7で決定されるバイアス点の電圧とバイアス決定回路7の出力に接続されている波形整形回路6のスレッショルド電圧を変える必要があるが、この波形整形回路6のスレッショルド電圧を変えると、出力対称性を悪化させるという問題がある。さらに、波形整形回路6のスレッショルド電圧をずらし、出力対称性が悪化すると、水晶発振部2の後段で出力対称性を調整するチューニングが必要になるという問題もある。
【0004】
また、自励発振や異常発振を防ぐ方法として、発振が充分大きくなり、発振が安定してから出力させる方法も知られている。この方法は、図5に示されるように、抵抗素子81とコンデンサ素子82とからなるディレイ回路8を用いて、発振の出力を遅らせる方法である。しかしながら、この方法では、水晶発振部2の発振開始時間が数百μsから数msであるため、ディレイ回路8の抵抗素子81の抵抗値またはコンデンサ素子82の容量値を大きくする必要があり、結果としてチップの面積が大きくなるという問題がある。なお、図5において、91はNAND回路である。
【特許文献1】特開平01−300605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、水晶発振部2を低電圧で駆動して、結合コンデンサ3でレベルシフトさせる回路では、バイアス決定回路7のバイアス点と波形整形回路6のスレッショルドとを同じ電圧に設定すると、振幅電圧が小さい場合でも、波形整形回路6を動作させるだけの振幅電圧がある場合に、回路全体が動作するため、電源ノイズにより不安定な発振が起り、自励発振をするという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決し、ディレイ回路を設けることにより、回路の面積を大きくすることなく、また、バイアス決定回路のバイアス点と波形整形回路のスレッショルドとを異ならせることにより、出力の対称性を悪化させることなく、消費電流を低減し、自励発振や異常発振を防ぐことができる水晶発振回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による水晶発振回路は、水晶振動子、および該水晶振動子の出力を増幅し、電源電圧より低い定電圧源により駆動される発振増幅器を有する水晶発振部と、該水晶発振部の出力に接続され、電源電圧レベルにレベルシフトする結合コンデンサと、ソースが第1の電源電位に、ゲートが第2の電源電位に接続されたPチャネルMOSトランジスタおよびソースが前記第2の電源電位に、ゲートが前記第1の電源電位に接続されたNチャネルMOSトランジスタのそれぞれのドレインが接続され、該接続されたドレインが前記結合コンデンサの出力側に接続されるバイアス決定回路と、該バイアス決定回路の出力に直列に接続される第1の抵抗素子、および該第1の抵抗素子と直列に接続されるインバータ回路と第2の抵抗素子との並列回路からなる振幅検知回路と、該振幅検知回路により所定の振幅以上の出力のみが入力される波形整形回路とを具備している。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水晶発振回路によれば、水晶発振部から出力される信号は、結合コンデンサによりレベルシフトされて、バイアス決定回路により決定されるバイアス点(電圧)を中心に振幅するが、電源投入時で振幅が小さく、振幅検知回路により発振波形の振幅が設定した一定の電圧以上になっていない場合には、振幅検知回路以降の回路が動作しないで、振幅検知回路により発振波形の振幅が一定の電圧以上になった場合にのみ動作するようになっている。その結果、電源ノイズ程度の振幅や、電源投入直後の小さい振幅の状態では、全回路が動作することはなく、波形整形回路から発振波形が出力されないため、自励発振も生じない。そのため、バイアス決定回路のバイアス点と波形整形回路のスレッショルドとを異ならせる必要もないので、出力対称性を得るために特別な回路によるチューニングを必要とせず、また、ディレイ回路を設ける必要もないので、小形化を達成することができ、かつ、安定した発振出力を得ることが可能になり、さらに、水晶発振部の低電圧化により、消費電流を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、図面を参照しながら本発明の水晶発振回路について説明する。本発明による水晶発振回路は、図1にその一実施形態のブロック図が示されるように、水晶振動子21および水晶振動子21の出力を増幅し、電源電圧より低い定電圧源LDO1により駆動される発振増幅器22を有する水晶発振部2の出力に、電源電圧レベルにレベルシフトする結合コンデンサ3が接続され、その結合コンデンサ3の出力に、ソースがVdd(電源電圧の高電位)に、ゲートがVss(電源電圧の低電位)に接続されたPチャネルMOSトランジスタ41およびソースがVssに、ゲートがVddに接続されたNチャネルMOSトランジスタ42のそれぞれのドレインが接続されたバイアス決定回路4が接続され、そのバイアス決定回路4の出力に振幅検知回路5、および波形整形回路6が接続されている。
【0010】
水晶発振部2およびその発振増幅器22を駆動する定電圧源LDO1の構成は、従来例で説明したものと同様の構成になっている。すなわち、水晶振動子21の発振を発振増幅器22により増幅して出力するが、本発明では、この発振増幅器22を電源電圧より低い電圧で定電圧の定電圧源LDO1により駆動する構成になっている。このような低電圧で駆動することにより、消費電流を減らすことができる。また、定電圧源とすることにより、電源電圧の変動による周波数変動を少なくすることができる。
【0011】
結合コンデンサ3は、このような電源電圧よりも低い電圧で振幅している発振波形を電源電圧まで引き上げるレベルシフタとして動作している。そして、この出力にバイアス決定回路4が接続され、そのバイアス決定回路4により設定されたバイアス点で発振波形が振幅するようになっている。
【0012】
バイアス決定回路4は、図1に示される例では、PチャネルMOSトランジスタ41とNチャネルMOSトランジスタ42のそれぞれのドレインが接続され、Pチャネルトランジスタ41のソースがVdd(電源電圧の高電位)に接続されると共に、ゲートがVss(電源電圧の低電位)に接続され、NチャネルMOSトランジスタ42のソースがVssに接続されると共に、ゲートがVddに接続され、ドレインの接続点が結合コンデンサ3の出力および次段の振幅検知回路5に接続される構成になっている。バイアス決定回路4は、図4に示す構成にすることもできる。
【0013】
振幅検知回路5は、図1に示される例では、第1の抵抗素子51と、インバータ回路52、53の2段の直列接続およびこの2段のインバータ回路52、53と第2の抵抗素子54の並列接続されたものとが、直列に接続されることにより構成されている。このような構成にすることにより、図1のD点とF点の間にスイッチング時に電位差が発生したとき、第1の抵抗素子51および第2の抵抗素子54は、それぞれその電位差を分圧し、その分圧電圧とインバータ回路52のスレッショルド電圧で決まる電圧が、振幅の高い側の検知電圧(以下、H側検知電圧という)と、振幅の低い側の検知電圧(以下、L側検知電圧という)となり、発振波形の高い側および低い側の振幅が、それぞれH側検知電圧およびL側検知電圧を超えたときに、波形整形回路6側に出力され、発振波形の振幅がH側およびL側の検知電圧に至らないうちは出力されない。そのため、発振波形の振幅が小さい場合には波形整形回路6が動作せず、電源ノイズによる自励発振を阻止することができる。
【0014】
この発振波形の振幅と、振幅検知回路5による動作との関係で、図1におけるバイアス決定回路4の出力点(D点)および振幅検知回路5の出力点(F点)での発振波形の変化が図2に示されている。すなわち、図2のD点での動作波形に示されるように、電源の投入時で充分に電源電圧が立ち上がっておらず、その振幅が小さく、所定の検知電圧(H側検知電圧およびL側検知電圧)に達していないうちは、前述のように出力されないため、F点の動作に示されるように、電源投入時から振幅が所定の電圧に達するまではF点では発振波形が出力されず、D点の振幅がH側およびL側の検知電圧に達したときに初めて振幅検知回路5で増幅され、電源電圧の全体(VddとVssの間)を振幅とする発振波形が出力される。なお、H側およびL側の出力するか否かを定める検知電圧は、D点の電圧に対してインバータ回路53までが動作していない状態において、その振幅電圧と振幅検知回路5の出力電圧を基にして、第1の抵抗素子51および第2の抵抗素子54の分圧電圧により決定することができる。そのため、この検知電圧は自由に設定することができ、発振の振幅電圧が小さい場合でも、振幅検知電圧の設定を変えることにより、発振波形を出力させることができ、水晶発振部2の更なる低電圧化にも対応することができ、水晶発振部2での消費電流をさらに減少させることができる。
【0015】
波形整形回路6は、従来の波形整形回路と同じであり、前述の振幅検知回路5のH側振幅検知電圧以上の振幅のときはVddで、L側振幅検知電圧以下のときは、Vssの方形波に整形される。この様子を図3に示す。すなわち、図3で上段の図は、図1のD点での発振波形を示しており、下段の図が波形整形回路6の出力点(G点)での波形を示している。下段の図で、電源投入から遅れて発振が開始しているのは、前述のように、電源投入時の振幅が小さくて、振幅検知回路5の設定電圧に達していない場合には発振波形が出力されないことによるものである。
【0016】
以上のように、本発明によれば、第1の抵抗素子51と、2段のインバータ回路52、53および第2の抵抗素子54の並列回路との直列接続された振幅検知回路5を用いて、振幅のH側レベルと、L側レベルを超えているか否かを検出し、検知レベルを超えている場合に出力をする構成になっているので、発振開始時の振幅が小さいときに、安定した発振が得られ、他の構成の振幅検知回路にくらべて、回路面積を小さくできるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による水晶発振回路の一実施形態のブロック図である。
【図2】図1の構成のD点およびF点での発振波形を示す図である。
【図3】図1の構成のD点とG点の発振波形の関係を示す図である。
【図4】従来の水晶発振回路の一例を示すブロック図である。
【図5】従来の水晶発振回路の他の例を示すブロック図である。
【図6】図4に示される回路での発振波形が正常な場合と異常の場合を説明する図である。
【符号の説明】
【0018】
1 定電圧源LDO
2 水晶発振部
21 水晶振動子
22 発振増幅器
3 結合コンデンサ
4 バイアス決定回路
41 PチャネルMOSトランジスタ
42 NチャネルMOSトランジスタ
5 振幅検知回路
51 第1の抵抗素子
52 インバータ回路
53 インバータ回路
54 第2の抵抗素子
6 波形整形回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子、および該水晶振動子の出力を増幅し、電源電圧より低い定電圧源により駆動される発振増幅器を有する水晶発振部と、該水晶発振部の出力に接続され、電源電圧レベルにレベルシフトする結合コンデンサと、ソースが第1の電源電位に、ゲートが第2の電源電位に接続されたPチャネルMOSトランジスタおよびソースが前記第2の電源電位に、ゲートが前記第1の電源電位に接続されたNチャネルMOSトランジスタのそれぞれのドレインが接続され、該接続されたドレインが前記結合コンデンサの出力側に接続されるバイアス決定回路と、該バイアス決定回路の出力に直列に接続される第1の抵抗素子、および該第1の抵抗素子と直列に接続されるインバータ回路と第2の抵抗素子との並列回路からなる振幅検知回路と、該振幅検知回路により所定の振幅以上の出力のみが入力される波形整形回路とを具備することを特徴とする水晶発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−294904(P2008−294904A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140221(P2007−140221)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】