説明

水溶性の揮発性炭化水素を含む大量且つ高湿度の排ガス浄化方法

【課題】RHが50%を越すような多湿で且つ毎時一万m3を越すような大量の排ガス中に数百乃至数千ppmの希薄な水溶性VOCを含む場合の処理方法を提供すること。
【解決手段】吸着剤としてゼオライト製ハニカム乃至はゼオラム製ハニカム、通称モレキュラーシーブ吸着剤を充填した層からなり、吸着と脱着を交互に行う吸着装置の前段に約3Åの孔径を有するゼオライト乃至はゼオラムから成形したハニカム層及び/又は疎水性シリカゲルからな成るハニカム層を、後段には粒状のメソ孔活性炭及び/又は疎水性シリカゲルを充填した上下連通した該吸着装置を用いて、希薄な水溶性炭化水素を含み、且つ水分を多量に含有する排ガスの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内に充満する多湿空気や、臭気を含む高湿度の雰囲気ガス、及び/又は水溶性で且つ希薄な揮発性炭化水素を含む大量で且つ多湿な排ガスの浄化方法に関し、特に、大気中に放散される臭気を伴う極く希薄な水溶性VOCを含む大量且つ高湿度の排ガスを処理して生活空間を快適な状態に保つ一方で、含まれている水溶性のVOCを濃縮して、そのまま回収する場合に用いられる装置であって、従来から用いられている「デシカントローター」のように、脱着操作に200〜300℃の温度を必要とし、それを徒らに燃焼させて温暖化ガスとして問題視されている炭酸ガス(CO2)として大気中に放散させるのではなく、地球温暖化防止の観点及び公害防止の観点から、上記排ガス中の水分をほぼゼロPPMにまで落として臭気成分を別けて回収し、生活空間を浄化する目的に加え、該排ガスから、臭気成分の一つである水溶性VOCを効率よく分離し、再利用するための吸着方式に係る、希薄なVOCを含む大量かつ高湿度の排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、VOCを含む排ガスを処理する方法は、多数提案されている。則ち、公害防止の観点から、法的に義務づけられたVOC排出濃度の規制値を満足すべく排ガス中のVOCを除去する手段としては、燃焼法、吸着法、吸収法、膜法等々が知られている。
【0003】
然し乍ら、上記の方法は、処理する排ガスの量が毎時数百乃至は数千m3で、かつ、含まれているVOCの濃度が%オーダーの比較的濃い場合に限られていた。このうち、PPMオーダーの希薄な、しかも水溶性のVOCを含む大量の排ガスの処理方法としては、吸着剤としてハイシリカゼオライトを用い、吸着、脱着を交互に繰り返し回転するハニカム式ローターによって、この希薄なVOCを数千PPMの濃度にまで濃縮して触媒燃焼させるか、直接燃焼法によるかは別として、唯一汎用されてきた燃焼法は、昨今の温暖化ガス(炭酸ガス)の排出規制の強化によって、適用が著しく困難な状況に立ち至った。
【0004】
このような状況を踏まえて、吸着法、吸収法、膜分離法、或いは繊維状活性炭法が、燃やさずにVOCを回収できる適用技術として注目を集めており、既に、吸着したVOCがガソリンベーパーのように水分と親和性がない場合は、吸脱着する際にスチームを使わずに乾式のままで効率よく回収出来る技術が開発されている。例えば吸着法について言えば、下記特許文献1、下記特許文献2、下記特許文献3、下記特許文献4、下記特許文献5等々枚挙に遑がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9 − 47635号公報
【特許文献2】特開平9 − 57060号公報
【特許文献3】特開平9 −215908号公報
【特許文献4】特開平11 − 71584号公報
【特許文献5】特開平11 − 77495号公報
【特許文献6】特開2002−293754号公報
【特許文献7】特開2003−154027号公報
【特許文献8】特開2007− 38201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
然し乍ら、含まれるVOCがメタノールやエタノールのように、水溶性の場合には、湿度の高い空気中に含まれる水分とを効率的に別けることが難しく、例えば上記特許文献7に開示されているように、種々の金属を坦持させた活性炭を用いて、水溶性のVOC、例えばメタノールを吸着と同時に触媒作用で分解して仕舞う、所謂、防毒マスクへの適用例があるが、この場合は用いた活性炭は再使用出来ず使い棄てになる。しかも前述したように適用事例は、RHが小さく、しかも濃厚なVOCを含む毎時数百乃至、高々、数千m3の排ガス処理に限られている。
【0007】
その問題を解決すべく本発明者は、上記特許文献6に提案したように、多量の水分を含むVOC混合ガス中の水分を、3Aゼオラム(東ソー(株)の商品名で出荷当時は微粒状)を用いて予め吸着させて除去した後、孔径の異なる吸着剤を多段に積んだ層を通過させる事によって、排ガス中に含有されている水溶性のVOC、即ち、酢酸エチル、エタノール、ブタノール、エタノール類をほぼ100%に近い純度で回収する事に成功した。然し乍ら、微粒状のゼオラム3Aを用いる多層充填方式は、吸着剤層を通過する排ガスの上昇速度が速すぎると(秒速約30cmが限度)、小さな粒径の吸着剤が浮き上がってフラッデイング現象を起こす為に、その限度の秒速で処理するとなると、処理する排ガスの量が毎時千m3以上の場合には、装置の大きさが莫大になり、経済的に成立しないからである。加えて、繊維状活性炭を用いる吸着法の場合にも見られるように、秒速1mを超す速度で吸着はできても、脱着には必ずスチームを必要とするので、脱着したVOCに同伴する水分(液体)をそのまま棄てる訳にはいかず、水処理設備に多大な費用がかかる。
【0008】
前記に引用したように、上記特許文献8に開示されている方法、及び更なる改良方法として本出願人等がその後に出願した方法(特願2008−2635号)においては、前段にはメソ孔活性炭からなるハニカム状吸着剤及び/又は疎水性シリカゲルからなるコルゲート層を充填し、後段には粒状のメソポア(孔)活性炭及び/又は粒状の疎水性シリカゲル層を充填し、それぞれを上下に連通した吸着塔を用いる事によって、前段で吸着された未だに希薄なVOCを後段に引き込んで溜め込む事により、更に濃縮させる場合の手段として、後段の下部に設けた真空ポンプを用いて、前段の吸着段階で水分を飛ばしたあとに残されたVOCを、後段、即ち下段の処理装置に一氣に通貫させて移動して、後段で更なる濃縮を行う操作方法が、高湿度の排ガス中に存在するVOCが水溶性の揮発性炭化水素、例えばメタノールやエタノール、或いは酢酸エチルなどを含む場合のガスを処理する場合に限り、必ずしも最良の装置構成ではない事が実験によって確かめられた。
【0009】
その主たる原因は、前述した方法は、上段のハニカム吸着剤は原料ガス中の水分を素通りさせて、水に不溶な揮発性炭化水素のみを吸着せしめる剤、即ち、メソ孔活性炭や疎水性シリカゲルを用いている為である。
【0010】
そこで、本発明者等は、上記のフラッデイング現象を起こさない吸着剤として、且つ水分だけを吸着する吸着剤として著名な3Aゼオラムを、粒状のままではなく、これをハニカム状にするべく、特定のバインダーを加えて成形したハニカム状の吸着剤を前段濃縮に適用して水分のみを吸着せしめ、前段で吸着されなかった水溶性のVOCはその塔頂から取り出して、後段の底部に繰り返し供給して濃縮せしめ、ここで濃縮されたVOCは、本発明者等による公知の技術で回収するという方法を提案したものである。
【0011】
即ち、前段回収、後段濃縮という方法であって、RHが50%を越すような多湿で且つ毎時一万m3を越すような大量の排ガス中に数百乃至数千ppmの希薄な水溶性VOCを含む場合の処理方法を提供することである。更にまた本発明の目的は、生活空間の除湿目的としても好適に適用出来る方法として提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の排ガス浄化方法は、水に溶け、且つ水と共沸現象を示すメタノールやエタノールのような希薄なVOCを含み、しかも大量で且つ、高湿度の排ガスの浄化方法を好適に適用する方法であり、吸着剤として 、先に本発明者等が提案した方法とは逆に、前記吸着装置の前段には3Åの孔径を有するゼオライト乃至はゼオラムから成形したハニカム層及び/又は疎水性シリカゲルからなるハニカム層を、後段には粒状若しくはハニカム状のメソ孔活性炭及び/又は疎水性シリカゲルを充填した上下層を連通した該吸着装置を用いることを特徴する、大量且つ高湿度の水分を含む排ガスの処理方法である。
【0013】
また、本発明に係る希薄なVOCを含む大量の排ガス浄化方法は、前記の吸脱着装置の脱着時手段は、上記の吸着装置の頂部から常温に近い少量の温風乃至は窒素を用い、及び/又は真空ポンプを併用して吸脱着の切り替え時間を1〜30分とし、得られた水分を系外に放出すると共に、吸着時に前段から放出される水分を含まない水溶性のVOCを吸着装置(後段)に戻して繰り返し濃縮させ、ある程度(破過寸前まで)濃縮された後、該装置の下部から真空ポンプを用いて吸引し、及び/又は頂部から少量の空気乃至は窒素を併用し、吸脱着の切り替え時間を1〜30分とし、かつ、得られた水分はそのまま屋外に放出する除湿装置を兼ねた、多湿な空気中に存在する水溶性のVOCの回収方法である。
【0014】
この際、冷却してもなおかつ未凝縮のVOCガスは後段の吸着装置の底部に戻すことを特徴とし、上段をハニカムによる精製部、下段を粒状若しくはハニカム状のメソポア(孔)活性炭及び/又は粒状の疎水性シリカゲルによる濃縮部とする一体化した装置にすることによって、前段ハニカム層を通過する処理ガス速度を秒速1〜2mにまで高めて、前段を素通りする水溶性の希薄なVOCをここで5〜10培程度に濃縮させる一方、脱着時、真空ポンプによって、この濃縮ガスを吸引して冷却し、その際の未凝縮ガスを再び後段の濃縮層の底部に戻すことによって、更に濃厚なVOCにする。
【0015】
このように、吸脱着の際のこの繰り返しによって、上段と連通した下段の粒径吸着剤に平衡吸着量に相当するVOCを溜め込む、所謂、カスケード式アダプター(脱着毎に未凝縮のVOCを原料にリターンさせずにこの塔に集めて濃縮し溜め混む吸着塔)の役割を果たすことが可能になる。かかる装置構成と操作方法によって、多湿な空気中に含まれるメタノールやエタノールのような水溶性のVOCを容易に常温程度でも液化させて液体として回収が可能になる。よって、大気に排出するガス中のVOC濃度をほぼゼロppmにすることが出来る。しかも除湿の効果も期待できる画期的な方法である。なおカスケード式アダプター方式については本発明者等による特許第2766793号(特開平9−57060号)に詳しい。
【0016】
更に本発明に係る希薄な水溶性VOCを含む大量で且つ、多湿な排ガスの浄化方法は、前段に用いるハニカムの原料であるゼオライト乃至はゼオラム(いずれも出荷時は粒状乃至は粉末状)をハニカム状に成形する際に不可欠なバインダーがセピオライトと無機繊維及び/又はコロイダルシリカを有機結合剤と混合したのち焼成してなる材である事を特徴としている。この理由は通常、モレキュラーシーブに吸着された水分は、前記したように、脱着に200〜300℃の加熱媒体が必要であるが、この操作によって脱着条件を大幅に変更出来るからである。
【0017】
即ち、常温付近の温風乃至は窒素ガスをパージガスとして使用する事が可能になる。かくして請求項4に記載したように、前記の方法で処理した多湿な排ガス中に含まれる水溶性のVOC濃度がほぼ100%で回収することが可能になった。なお付記すれば、本発明で使用するゼオライト乃至はゼオラムは、(株)東ソーのゼオラム3A(商品名)乃至はユニオン昭和(株)の3A乃至は4A(商品名)であるが、相当品であれば品名は問わない。
【0018】
本発明の場合は、上段に用いる3Å孔径のゼオライトハニカム層は、理論的に孔径2.8Åの水分のみが吸着される筈であって、除湿手段としての適用例は多いが、その場合、吸着した水分の脱着手段は300〜400℃の熱風が必要になる。それを避けるためには、使用するモレキュラーシーブゼオライトを用いてハニカムに成形する際のバインダーがノーハウの対象になる。その場合でも脱着に300℃前後の熱風を使うのを避ける手段としては、常温に近いパージガスと併用する脱着手段として必ず真空ポンプが必要になる。然し乍ら、吸着時、水分以外に吸着されずに大気中に排出される水溶性のVOCの濃度がそのままでは希薄過ぎて、回収することが不能になる恐れがあると同時に、大気汚染物質として飛散する。もつともこの希薄な水溶性炭化水素を別途に設けた塔に導いて吸収液で洗う方法もあるが、経済的ではない。
【0019】
その理由としてハニカムを採用する最大のメリツトが、秒速1mを越えるスピードで吸着剤層を通過せしめ、かつ、剤との接触時間が1〜2秒で吸着完了する利点とは裏腹に、吸着剤(スケスケの状態のハニカムでは嵩比重が0.1程度)の破過が早いということである。因みに、従来使用されている粒状活性炭の嵩比重は0.5前後であってハニカムに比べて4〜5培の吸着容量を持つ。然し乍ら、粒状の活性炭層がフラッデイング(浮き上がり現象)を起こすガスの上昇速度は秒速0.3mである。従って、ハニカムの濃縮割合、即ち吸着量は、使用するハニカムの組成と充填量にも依るが、同じ容量のメソ孔活性炭を主材とする場合の約1/5程度であるものの、吸着剤層を通過する上昇速度で相殺されることになる。よって、吸着剤を粒状とするかハニカム状とするかの選択は、処理するガスの量による。
【0020】
従って、PPMのオーダーの濃度であっても、上記特許文献7による後段回収装置でほぼ100%、VOCの回収は可能であるが、排ガス中に含まれるVOCが数百ppmと更に希薄になり、しかも水溶性であり、かつ、水分を多量に含む毎時数千乃至数万m3のガスを処理する場合を考えると、前段で水分を吸着させたのち、続けて後段で水溶性の揮発性炭化水素を回収する装置構成の是非が問われる。理由の一つは吸着した水分の脱着が容易ではないことである。
【0021】
従来から公知にように、ハニカム層から成る塔を二つ設けて、交互に吸脱着操作を行い、脱着の際に用いる真空ポンプで吸引して得た排ガス(この場合は水分と微量の水溶性VOC)を冷却したあと、未凝縮ガスを、片方のハニカムに繰り返し戻す方法は、ハニカムの吸着容量が少ないが為に装置の容量が非常に大きくなる。要するに破過が早い為に操作後に大気中に放散される空気中のVOCの回収率が80%にも満たないことは前述した通りである。装置構成上前段回収のための、真空ポンプとは別個に、後段回収にも脱着手段として、前段同様に真空ポンプが必要になり、加えて、シーケンス操作もそれぞれが独立するために経済性が著しく損なわれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施例に係る装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態は、希薄でかつ水溶性のVOC、例えば、メタノールやエタノール、酢酸エチル等を含む大量で且つ、RHが50%以上もある水分含有排ガスの処理に際して、吸着剤層と濃縮剤層とを上下に分けて一体化した装置であって、含まれている水分は上段に設けられたモレキュラーシーブ効果を目的とするハニカム層に吸着させ、その際に塔頂から排出される希薄な水溶性VOCを下段に設けたメソ孔活性炭(粒状)に導いて、ここで5〜10培程度に濃縮する”濃縮剤層”とを連結させた形で含む。この”ハニカム層”は、上記VOCを含む多湿な排ガスで予めプレコートしておくが、その理由は以下の通り。
【0024】
即ち、ゼオラム3Aを例にとって、この層にメタノールを少量含むRHが80程度の多湿な空気を流すとした場合、最初はメタノールが吸着され、そのうちにこのメタノールは水分の吸着が進むにつれて水分と置き換わって、吸着塔出口には濃縮されたメタノールが大気に排出される。その後、水分が飽和吸着されるに従って、メタノールは吸着されなくなり、原料ガス中のメタノール濃度(入口)と大気放散ガス中のメタノール濃度(出口)が等しくなる現象からして、上記のプレコート操作が必要になる訳である。参考に、水の分子径は約2.7Å メタノールの分子径は約3.8Åであって、用いたハニカムの分子径は約3Åである。この現象は3Åゼオライトハニカム中に混入するセピオライトの効果によると推定される。
【0025】
以上の操作を続けて上段の”ハニカム層”に吸着された水分は、出来るだけ早く脱着させねばならないが(1〜30分以内 できれば10分程度)脱着手段は少量のパージガス及び/又は真空ポンプによる。この脱着時間の増減は真空ポンプの吸引能力(真空度)と併用するパージガスの量、即ちパージ係数(α)の如何によって短くすることも可能である。
【0026】
次にハニカム層を通過した水溶性の希薄なVOCは、後段に設けられた濃縮層、つまり粒状のメソ孔活性炭を充填した吸着塔に連続して導かれる。この層で5〜10培程度に濃縮されたVOCは、本発明者等が従来から慣用している方法にて真空ポンプで系外に取り出されるが、この濃縮層は、吸着孔径が1〜10ナノの、プレコートした粒径のメソポア(孔)活性炭を充填した吸着剤層、及び/又は、平均の吸着孔径が、4乃至6ナノに特化した粒径の疎水性シリカゲルをプレコートして用いており、ハニカムに比べて数倍の吸着容量を持つ為に、後段吸着剤層の底部に溜まったVOC、即ち、前段のハニカム操作によって吸着されなかったVOCがこの層に戻され、既に溜まっていた水溶性炭化水素と合体して、更に濃縮されたVOCとして下部に存在する。
【0027】
このVOCを5分程度の切り替えスイングで真空ポンプによって外に取り出す、この繰り返し操作によって、上段を素通りした水溶性のVOCの濃度が著しく濃くなり、冷却温度をそれ程下げずに多量のVOCを液体として回収できるメリツトがある。このように前段と後段を上下に連通した吸着塔を用いて処理するが故に、大量かつ多湿な空気中に含まれる希薄で水に溶けるVOCを含む雰囲気空気中の水分を除湿できるという効果も期待出来るようになる。即ち、長期の保存を必要とする食料の貯蔵倉庫や、居住空間の快適化に資する効果は多大なものがあり、コスト如何によっては従来から汎用されているフレオン空調やデシカント空調と競合出来る可能性を秘めている。
【0028】
本装置に於ける操作方法は、吸脱着操作の切り替え時間が1〜30分であって、望ましくは5〜10分程度、パージ操作には真空ポンプ及び/又は常温の空気乃至窒素、及び/又は真空ポンプを併用する。この際、水分を吸着した残りの排ガス、即ち希薄な水溶性のVOCは後段に設けた固体吸着剤にリターンさせ、取り出し易いように濃縮させて系外に取り出し、含まれているVOCを液体として回収すると共に、冷却し得なかった未凝縮ガスは前記濃縮装置の底部にリターンさせる。この方法で用いる真空ポンプの型式は問わないが、液封式の回転ポンプが望ましく、到達真空度は3.5Kpaあれば充分である。併用するパージガスは水分の少ない窒素ガスが適当であろう。
【0029】
[本発明で対象とする排ガス]
本発明で対象とするガスは、塗装工場や半導体工場、化学製品を取り扱う製造工程などから排出される毎時数千乃至は数万m3以上の大量の排ガスであって、多量の水分を含み、且つ希薄な水溶性のVOC(例えばメタノールやエタノール、酢酸エチルのような水溶性でしかもアゼオトロピック現象を生じるようなアルコール類、ベンゼンやトルエンのような芳香族炭化水素類、ブタジエンやヘキセン、スチレンのようなジエン類重合物質、トリクレン、塩化メチレンや酢酸エチルのように公害防止条例で規制されている有害物質)を含むものである。しかも、好ましくは含有濃度が数百、数千PPMのオーダーであって、且つ水分を多量に含む毎時数千m3以上の排ガスを対象とするが、それ以外に、食料品の貯蔵倉庫や湿気を嫌う生活空間も対象になる。
【実施例1】
【0030】
本実施例に係る希薄な水溶性VOCを含む大量の水分含有ガス(空気)の浄化方法において使用しうる装置の一例を図1により説明する。本例は図1に示すように送風機による原料排ガス供給ライン1、及び異なる吸着剤を上下に充填した吸着塔1A、1B、真空ポンプ4、気液を分離するための冷却器5、未凝縮ガス戻しライン7、回収液取り出しライン6、1A(1B)の頂部から排出されて下部の吸着剤層に導入されるVOCガスのライン9、パージガス供給ライン9Aからなる本装置を用いて、希薄なVOCを含む大量の排ガス(湿度の高い空気)を処理する例である。なお、10A、10B、11A、11B、12A、12B、13A、13B、14A、14B、15A、15Bは、いずれも電磁弁である。なお、以下においては、図示する前段の吸着塔を含む構成部分をA系といい、下段の吸着塔を含む構成部分をB系と称する。
【0031】
本例において、A系に充填される吸着剤は、3Åの孔径からなるゼオライト製のハニカム及び/又は疎水性シリカゲルからなるハニカムであり、B系に充填される吸着剤は、粒状若しくはハニカム状のメソ孔活性炭及び/または疎水性シリカゲルをプレコートした状態にして充填するか、本装置を稼働する前にプレコート操作を終えたものを使用する。具体的には、A系のハニカム層は(株)トーソのゼオラム3Aであり、B系の濃縮層は、日の丸産業(株)のHPZ−11W(メソ孔活性炭)及び/又は富士シリシア化学社の粒状疎水性シリカゲル(商品名 S−4、S−6)である。
【0032】
本例では、原料ガス供給ライン1から”5000PPMの酢酸エチルを含む、相対湿度(RH)80%の空気”を、毎分100ccの割合でA系の底部から送気した。その前に吸着剤層を予め該ガスでプレコートする。また原料ガスライン1を通過する空気の送気速度は、剤との接触時間は約1秒、また切り替え時間は約20分であった。
【0033】
検証された成果として、ゼオラム3Aハニカム層には酢酸エチルは吸着されずに水分だけが吸着されている事を確認した。次に、同様な条件で酢酸エチルに代えてメタノール蒸気を混合した場合の実験については以下の通りで、メタノールの分子径は3.8Åとされているが、この結果においては、A系に流入直後からメタノールが吸着されている現象を示した。然し乍ら、水分の吸着と共に吸着塔出口のメタノール濃度はC/C=1.0以上となり、濃縮されて脱着されたような現象を示した。その後、水分が飽和吸着されるとメタノールは吸着されなくなり、入り口濃度と出口濃度が等しくなった。
【0034】
つまり、メタノールはA系のハニカム層を単に素通りしていると思われる現象が見られた。即ち、メタノール吸着量とメタノール脱着量がほぼ等しい事実からして、メタノールと水分とは交換吸着が行われたと推定できる。この事実は既にメソ孔活性炭のメーカーであるノリツト社(オランダ)の資料(ノリツト社テクニカルレポート TB 33/08−95:NORIT活性炭の濾過材とその装置)でも確かめられている。また、脱着については、実験の結果、窒素ガスを流すだけでも吸着水分量の半数以上の水分が脱着されることが判明した。
【0035】
そこで比較例として、窒素ではなく、約60℃の温風ガスをハニカム層との接触時間約2秒で流すことによって、吸着水分量のほぼ全量が脱着されることが明らかになった。恐らく真空ポンプを温風と併用すれば、常温での脱着も可能になると推定される。次に、A系の頂部から放出される、前記の酢酸エチル、若しくはメタノールは「課題を解決するための手段」の項で説明したように、B系の吸着層の低部に繰り返し戻して濃縮させた後、本発明者等が有する数々の特許に開示された方法で処理するので、詳細は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
このように、水溶性で希薄なVOCを含む、大量かつ高湿度の排ガスを上記の手段で、しかも、経済的にすぐれた新規な方法で処理することにより、上記ガスをゼロエミツションにまで浄化できることは、応用例が希薄な酢酸エチルやメタノールに限らず、従来、蒸留法か透過膜法でしか分離出来なかったバイオエタノールの濃縮分離にも適用が可能になり、しかも、多湿な食料倉庫、生活空間の除湿効果もが期待出来る。衆知のように平成14年4月(2002年4月)以降に実施されることが決まっている「特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善に関する法律」、いわゆる“PRTR法”に於いては、従来から慣行されてきた排出濃度の規制ではなく、工場全体の排出総量規制であって、前記したように、曝気の際に大量の空気に薄めて排出することができなくなる云々という法令を引き合いに出すまでもなく、かかる状況に鑑み、本発明者等は、VOCを含む排ガスを、従前とは異った新規な吸着剤を用いて処理し、排ガス中に混在するアルコール類や芳香族、等々に適用出来るため、地球温暖化ガスの防止技術としては画期的な発明でもあり、社会的ニーズに充分応えることが出来る。
【符号の説明】
【0037】
1…原料排ガス供給ライン
1A、1B…吸着塔
4…真空ポンプ
5…冷却器
6…回収液取り出しライン
7…未凝縮ガス戻しライン
9A…パージガス供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤としてゼオライトハニカム、通称モレキュラーシーブ吸着剤を充填した層からなり、吸着と脱着を交互に行う吸着装置を用い、一方の吸着装置に水溶性の揮発性炭化水素を含む高濃度の水分含有排ガスを通過せしめ、該吸着装置内の吸着剤層に水分を吸着させ、水溶性の揮発性炭化水素を吸着装置の出口から放出し、その間に、他方の吸着装置を脱着に切り換えて、先に吸着された水分を系外に取り出して屋外に放出する事から成る処理方法において、
前記吸着装置の前段に3Åの孔径を有するゼオライトから成形したハニカム層及び/又は疎水性シリカゲルのハニカム層を、後段には粒状若しくはハニカム状のメソ孔活性炭及び/又は疎水性シリカゲルを充填した前段と後段とを連通した該吸着装置を用いて、希薄な水溶性炭化水素を含み、且つ水分を多量に含有する排ガスの処理方法。
【請求項2】
前記の吸脱着装置の脱着時手段は、上記の吸着装置(前段)の頂部から常温程度の温風乃至は窒素を吹き込み、及び/又は真空ポンプを用いて吸引し、吸・脱着の切り替え時間を1〜30分とし、得られた水分を系外に放出するとともに、吸着時に前段から放出される水分を含まない水溶性の揮発性炭化水素を、後段の吸着装置に戻して濃縮させる、請求項1に記載の大量且つ高湿度の水分を含む排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記の方法に於いて前段で使用するハニカムが、粒状乃至は粉状の原料(孔径が3Åのゼオライト)から所望の形に成形する際の手段として、セピオライトと無機繊維、及び/又はコロイダルシリカを有機結合剤と混合したのち、焼成して成る材であることを特徴とする請求項1及び2のいずれかに記載の大量且つ高湿度の水分を含む排ガスの処理方法。
【請求項4】
前記の方法で処理したのち回収した排ガス中の水溶性揮発性炭化水素濃度がほぼ100%である、請求項1及び2、3のいずれかに記載の希薄な揮発性炭化水素を含む大量且つ高湿度の水分を含む排ガス浄化方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−25219(P2011−25219A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213426(P2009−213426)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(509259437)
【出願人】(505417367)株式会社エプシロン (10)
【Fターム(参考)】